説明

塗工層強度の評価方法

【課題】耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度の評価方法と、水濡れ時の耐摩耗性に優れた耐水印刷用紙を提供する。
【解決手段】 評価対象となる耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片としJIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙で研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する粒度P1000のものを直径10mmの円形に切り取り250gfの加重を掛けた状態で試験片の表面にセットし、試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させJIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し摩耗減量の値に基づいて耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度の評価方法、並びに、同評価方法を用いた耐水印刷用紙の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工印刷用紙のうち、野外や水気の多い場所での使用を想定して製造された、耐水印刷用紙がある。特許第3279961号(特許文献1)では、顔料100重量部に対し樹脂ディスパージョンを60乃至200重量部配合してなる塗料を塗工することによって、塗工面から水が浸透し難くする、耐水バリア性に優れた耐水印刷用紙を得ることが提案されている。また特開2000−80595号(特許文献2)では、原料100重量部当たりアクリル系ディスパージョン50乃至100重量部からなる塗料を塗工することによって耐水バリア性と、再利用する場合の水中離解性を両立させた耐水印刷用紙が提案されている。
【0003】
また、特開2002−69890(特許文献3)、特開2003−27393(特許文献4)は、紙基材の両面に水の浸透を防止するための耐水バリア性に優れた耐水層を設け、その上に印刷適性に優れた顔料塗工層を設けることにより、耐水バリア性と印刷適性を両立させた耐水印刷用紙が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記した耐水印刷用紙は、耐水バリア性には優れているものの濡れ時の塗工層強度が考慮されたものではない。そのため、野外や水回り等の水気が多い場所で使用した際に、水に濡れた塗工層の強度が弱くなり、当て擦れ等の衝撃を受けた場合に塗工層が破損してしまう問題があった。また、水に濡れた耐水印刷用紙に書き込みをする際、塗工層強度が水濡れにより低下した場合、塗工層が筆先に掻き取られ書き込みが困難となる問題があった。また、水濡れ時の塗工層強度を過剰に強いものにした場合、水中離解が困難となり再生回収によるリサイクルをすることが出来ず、その処分が問題となる場合があった。
【0005】
一般に、印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を測定する方法として、ウエットピックによる方法がある。ウエットピックはオフセット印刷を想定し、印刷用紙に湿し水を塗布した直後にテスト印刷機で印刷し、印刷面に発生するムケを評価するものである。塗工印刷用紙のムケには、顔料ピック(塗被層表層部の顔料粒子のムケ)や塗被層ピック、ラプチャーピック(原紙層内部から繊維間結合が破壊され繊維が取られるムケ)等があり、ウエットピックでは左記したムケの状態を官能評価する。しかしながら左記方法は、官能評価のため個人差があり、また同一人物間で実施しても体調の影響に評価が左右される場合があった。
【0006】
一方、塗工紙の塗工層強度を測定する方法として、JIS K 5600−5−8に規定されている塗膜の摩耗減量の測定方法がある。特開2000−64576(特許文献5)は、床面の上塗り塗膜を左記試験方法の摩耗減量が40mg以下となるように規定し、必要な塗膜の硬さを確保している。この方法を上記した耐水印刷用紙に用いれば、耐摩耗性の測定により塗工層強度を数値化することできる。しかしながら、乾燥時の摩耗減量がほぼ同等であっても水濡れ時の表面強度が異なることがしばしばあるため、左記方法では、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を評価することはできなかった。また、耐摩耗性の評価方法としてJASの物性試験に基づく耐摩耗性の試験が化粧板用紙等の評価に用いられているが、やはり水濡れ時の塗工層強度を測定するものではない。
【特許文献1】特許第3279961号
【特許文献2】特開2000−80595号
【特許文献3】特開2002−69890号
【特許文献4】特開2003−27393号
【特許文献5】特開2000−64576号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を数値化する評価方法を提案し、製品の開発や生産管理に役立てることにある。
【0008】
本発明の他の目的とするところは、前記評価方法を耐水印刷用紙の開発や生産管理に用いることにより、水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的とするところは、印刷適性に優れた耐水印刷用紙を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的とするところは、水中離解性を有する耐水印刷用紙を製造し提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を数値化する評価方法を鋭意研究した結果、本発明に到達した。即ち、本発明による耐水印刷用紙の評価方法は、評価対象となる耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、測定された摩耗減量の値に基づいて耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度を評価することを特徴とするものである。
【0013】
この発明によると、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を数値により評価することができ、水濡れ時の塗工層の状態が正確に把握できる。
【0014】
また本発明の耐水印刷用紙は、紙基材の少なくとも一方の面に、耐水層及び印刷層を順次設けてなる耐水印刷用紙であって、前記耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、測定された摩耗減量の値が10乃至20mgである、として評価される塗工層強度を有するものである。
【0015】
このような構成によると、耐水印刷用紙を製造する際に、水濡れ時の塗工層強度と水中での離解が可能な耐水印刷用紙を得ることができる。
【0016】
本発明にかかる耐水印刷用紙は、前記印刷層の組成が、顔料100重量部に対してバインダとして合成ゴム系ラテックスを10乃至20重量部配合したものであってもよい。
【0017】
この発明によると、水濡れ時の塗工層強度と、印刷適性に良好な耐水印刷用紙を得ることができる。
【0018】
また本発明の耐水印刷用紙の製造方法は、紙支持体を抄造する紙支持体抄造ステップと、紙支持体の少なくとも片面に耐水層を設ける耐水層塗工ステップと、耐水層の上に印刷層を設ける印刷層塗工ステップと、熱風にて乾燥させる塗工層乾燥ステップと、耐水層及び印刷層を設けた耐水印刷用紙より試験片を作成する試験片作成ステップと、試験片を用いて湿潤時摩耗試験を行う摩耗試験ステップと、摩耗試験を行った結果として摩耗減量が10乃至20mgであった耐水印刷用紙を良品と判定して通過させる良品判定ステップ、を有し、前記湿潤時摩耗試験は、評価対象となる耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、測定された摩耗減量の値に基づいて耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度を評価するものであることを特徴とする。
【0019】
ここで「湿潤時摩耗試験」とは、JIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて紙面を水に濡らしたものを試験片とし、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙で、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000の耐水研磨紙を直径10mmの円形に切り取り250gfの加重を掛けた状態で左記試験片表面にセットし、テーバ形摩耗試験機を回転数70rpmで20回転させ、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定するという試験の事である。この湿潤時摩耗試験においては、試験を行った結果摩耗減量が10乃至20mgであった耐水印刷用紙を良品と判定する。
【0020】
そして、このような構成によれば、耐水印刷用紙の湿潤時における表面強度が数値で管理可能となり、湿潤時の表面強度が優れている耐水印刷用紙を提供可能となる。
【0021】
本発明の耐水印刷用紙の製造方法においては、湿潤時摩耗試験を行った結果として摩耗減量が10乃至20mgの範囲から外れるときには、印刷層塗工ステップにおいて用いる印刷層用塗料の組成を調整する塗料調整ステップを有するように構成してもよい。
【0022】
このような構成によると、湿潤時摩耗試験によって得られた結果に基づいて印刷層用塗料の組成を適宜調整するため、より湿潤時の性能が優れた耐水印刷用紙を提供可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を数値的に評価することができ、生産管理に用いた際に安定した品質の製品を製造することに大変役立つものである。
【0024】
さらに、本発明の耐水印刷用紙は水濡れ時の塗工層強度に優れているため、水に濡れた状態で当て擦れ等の衝撃を受けた際にも塗工層が破損することがなく、筆記具等による書き込みも問題なく実施でき、加えて水中離解性を有するので再生回収によるリサイクルが可能となる。
【0025】
さらにまた、本発明の耐水印刷用紙は印刷適性に優れるため、高速多色刷りのオフセット印刷においても高精細な印刷画像が得られる。
【0026】
本発明によると、湿潤時の表面強度が数値で精度良く管理されているため、水濡れ時であっても鉛筆やボールペンなどのペン先が先鋭形の筆記具を使用して紙面に書き込みを行うことが可能な耐水印刷用紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下において本発明の好適な実施の形態について述べるが、本発明は以下の記述に限定されるものではない。
【0028】
[評価方法の概要]
本発明の評価方法は、JIS K 5600−5−8に規定する塗膜の耐摩耗性に関する評価方法を、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を測定できるようにしたものである。
【0029】
[試験片の準備]
耐水印刷用紙は、降雨等により水濡れの状態で使用される場合が多く、水濡れ時の塗工層強度を評価するには、紙面を水に濡れた状態で測定する必要がある。よって本発明の評価方法では、耐水印刷用紙をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験の実施にて紙面を水に濡らしたものを試験片とし、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットする。耐水印刷用紙は塗工層の組成により水の吸収量が異なる場合があるが、この方法により各試験片とも塗工層全体に水を行き渡らせることが出来、降雨等で水濡れとなった状態を再現することが出来る。
【0030】
[研磨布紙について]
本発明の評価方法では試験片の塗工層を摩耗する材料として、JIS R 6253に規定する耐水研磨紙を用いる。耐水研磨紙の研磨面の粗さは、JIS R 6010にて研磨布紙用研磨材の粒度によりP12乃至P2500の28種に規定されており、このうちP12〜P220のものを粗粒、P240〜P2500のものを微粉という。本発明の評価方法においては微粉すなわち粒度P240〜P2500の耐水研磨紙を用いることが好ましく、粒度P1000のものがもっとも好ましい。耐水研磨紙の粒度がP240を下回ったものでは研磨面が過剰に粗いため、測定中に試験片を破損してしまう場合がある。また、耐水研磨布の粒度が細かすぎると、研磨面の粗さが不足し試験片による摩耗減量の差が少なくなり、水濡れ時の塗工層強度を評価出来ない場合がある。
【0031】
[加重について]
上記研磨紙は、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機を使用するため、摩耗輪の摩耗幅と同寸法の10mmを直径とする円形に切り取り、摩耗輪の摩耗部分と同位置である中心から50mmの位置にセットする。さらに、JIS K 5600−5−8に規定する前記摩耗輪は測定対象物により250gf、500gf、1000gfの加重のものを適時選択する。本発明の評価方法において、発明者らが左記の各加重を試した結果、250gfの加重が最適であることを見出した。500gf、1000gfの加重のものは、化粧紙等の強固な塗膜の評価に用いることが多く、本発明の測定対象である耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度の評価に用いると、試験片が破損してしまい測定値が得られなくなる場合がある。
【0032】
さらにまた、本発明では、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機を、回転速度70rpmで20回転させたときの摩耗減量を試験片3枚以上について測定し、下記の式によって測定しその平均値を整数に丸める。この評価方法で得られた数値により、耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度を正確に把握することができる。更に製品の開発や生産管理に役立てることが出来る。
W=A−B
ここに、W:規定回転数当たりの摩耗減量(mg)
A:試験前の試験片の質量(mg)
B:試験後の試験片の質量(mg)
【0033】
[水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙の製造方法について]
本発明の発明者らは、本発明による耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度の評価方法を生産管理に用いることにより、安定した品質の耐水印刷用紙を製造できることを見出した。即ち、耐水印刷用紙を製造する際に、本発明による評価方法で得られた数値を参照することにより、水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙を得ることが出来る。
【0034】
また、本発明者らの知見によると、本発明に係る耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度評価方法は、ウェットピック試験と相関性があることがわかっている。ウェットピック試験と、耐水印刷用紙の水濡れ時摩耗減量との相関を示すグラフが図1に示されている。同図より明らかなように、ウェットピック試験と水濡れ時摩耗減量との間には明らかに相関性が認められる。
【0035】
[耐水印刷用紙の製造方法]
本発明で製造される耐水印刷用紙は、各種パルプを任意の比率で混合し、必要に応じて填料、内添サイズ剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等を添加した原料を抄紙機で抄紙し紙基材とし、更に塗工機で紙基材の少なくとも一方の面に、耐水層及び印刷層を塗工し、乾燥したものである。得られた耐水印刷用紙より試験片を作成し湿潤時摩耗試験を行い、摩耗減量が10乃至20mgであった耐水印刷用紙を良品と判定し通過させる。
【0036】
本発明においては、パルプ種類、濾水度、内添填料の種類及び量等の他、抄速、ドライヤ温度、カレンダ圧等の抄紙条件や、顔料あるいは接着剤の種類及び量等、塗工条件、乾燥条件等各種条件を適宜調整する。また得られた耐水印刷用紙より試験片を作成し湿潤時摩耗試験を行い、その結果摩耗減量が10乃至20mgの範囲から外れるときには、印刷層用塗料の組成を調整する。
【0037】
[水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙の選択方法について]
JIS K 5600−5−8に規定されている塗膜の摩耗減量の試験方法は、塗工紙が乾燥した状態で試験が行われる。そのため、JIS K 5600−5−8に規定された試験方法で同等の結果が得られる塗工紙であっても水濡れ時の表面強度はまったく異なる事があり、JIS K 5600−5−8に規定された試験方法では塗工紙が湿潤状態にある場合の表面強度を管理するには不十分であった。本発明者らは、耐水印刷用紙を濡らした状態で摩耗試験を行うことにより、湿潤時の表面強度を数値により管理可能であることを見出した。また、本発明の耐水印刷用紙の水濡れ時の塗工層強度の評価方法を用い、水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙を選択し、製造する方法を見出した。
【0038】
即ち、前記耐水印刷用紙の製造後に、本発明による水濡れ時の塗工層強度を測定し、摩耗減量が10乃至20mgの範囲のものを選択することで、水濡れ時の塗工層強度に優れた耐水印刷用紙を得ることができる。水濡れ時の摩耗減量が20mgを上回ると水濡れ時の塗工層強度が不足してしまい、水に濡れた状態で当て擦れ等の衝撃を受けた際に破損してしまう場合がある。また、水濡れ時の摩耗減量が10mgを下回ると塗工層が過剰に強固なものとなり、水中離解の際に塗工層の小片を完全に離解することが困難で、再生原料として利用が出来なくなる場合がある。
【0039】
さらに本発明者らは、耐水印刷用紙を紙基材の少なくとも一方の面に、耐水層及び印刷層を順次設けてなる構成とし、印刷層が上記製造方法を満たすものであれば、水濡れ時の塗工層強度と印刷適性に優れた耐水印刷用紙を得ることができることを見出した。
【0040】
本発明の耐水印刷用紙の印刷層に用いるバインダは、乾燥被膜の形成後に水に濡れた状態にあっても接着力が低下しない組成にする必要がある。即ち、バインダとして疎水性の合成ゴム系ラテックスや合成樹脂エマルジョンを用いることで、塗工層が水に濡れた際の強度低下が防止できる。特に本発明においては、接着力や摩耗強度等を考慮し、水濡れ時の塗工層強度に優れた塗工層を得ることができる合成ゴム系ラテックスを用いることが好ましい。
【0041】
[印刷適性について]
本発明の耐水印刷用紙の印刷層は顔料と上記した合成ゴム系ラテックスからなることが好ましく、印刷層内部に存在する無数の微細な空隙がインキ受理性やインクセット性の発現に寄与する。この際、印刷用紙の塗工層の顔料に対する合成ゴム系ラテックスの配合比が大きくなりすぎると、顔料塗工層中の空隙が失われ、インキ受理性やインクセット性が悪化する。また、合成ゴム系ラテックスの配合比が小さくなりすぎると水濡れ時の塗工層強度は低下してしまう。本発明の耐水印刷用紙は、印刷層として、顔料100重量部に対して合成ゴム系ラテックスを10乃至20重量部配合した構成とすることで、水濡れ時の塗工層強度と印刷適性に優れたものとなる。塗工層中の合成ゴム系ラテックスの配合比率が10重量部を下回ると、塗工層中の顔料や紙基材との接着に要する量が不足となり、本発明による水濡れ時の摩耗減量が20mgを上回り、塗工層強度が悪化してしまう虞がある。また、塗工層中の合成ゴム系ラテックスの比率が20重量部を上回ると、印刷時にインキ受理性やインクセット性が悪化し、鮮明な印刷画像が得られない場合がある。
【0042】
[合成ゴム系ラテックスについて]
本発明の印刷層に当る最表層に使用する疎水性バインダとしての合成ゴム系ラテックスの成分は、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、2−ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン等を用いることが好ましい。
【0043】
[基材について]
本発明による、耐水印刷用紙の紙基材の原料は、特に限定されるものではなく、パルプに木材チップを原料とするクラフトパルプ、サルファイトパルプ、ソーダパルプ等の化学パルプ、セミケミカルパルプ、ケミメカニカルパルプ等の半化学パルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ等の機械パルプ、あるいはケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプ等を用い、これらの少なくとも1種、あるいは2種以上が適宜混合して使用される。これらのパルプを原料として、公知の抄紙機で抄紙されて得られる紙シートを利用する。紙シート中には、用途に合わせて紙力増強剤、サイズ剤、填料、歩留まり向上剤等の補助薬品が含まれる。また、サイズプレス、ロールコータ、ブレードコータ等で予備塗工した原紙も使用可能である。
【0044】
[耐水層について]
本発明による耐水印刷用紙は、紙基材に最も近い層を耐水層とし、紙基材の水濡れを防ぐものである。このため、耐水層に用いるバインダとして耐水バリア性に優れたものを選択し、顔料と適量配合し塗工する。耐水層の耐水バリア性は、JIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験が5.0g/m2以下とすることが望ましい。
【0045】
[耐水層のバインダについて]
耐水バリア性に優れたバインダの成分としては、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、2−ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられ、必要に応じて2種以上を混合配合しても良い。
【0046】
[顔料について]
本発明による耐水印刷用紙の塗工層に配合する顔料としては、印刷用紙に通常使用される顔料が何れも使用可能である。例えば、クレー、カオリン、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、焼成カオリン、ホワイトカーボン等の無機顔料、各種の有機顔料を1種又は2種以上使用することができる。
【0047】
[塗工量について]
本発明による耐水印刷用紙への塗工量は、耐水層は5乃至15g/m2、印刷層は10乃至30g/m2程度の範囲とするのが望ましい。
【0048】
[塗工方法について]
本発明による、耐水印刷用紙の塗工層の塗工方法としては、一般に塗工紙の製造に用いられている塗工装置、例えばブレードコータ、エヤーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、バーコータ、カーテンコータ、サイズプレスコータ等の塗工装置を設けたオンマシンあるいはオフマシンコータによって、基紙上の少なくとも一方の面に塗工される。
【0049】
[カレンダについて]
本発明による、耐水印刷用紙は、塗工層表面をカレンダ仕上げすることでより優れた印刷適性を得ることが出来る。カレンダ仕上げ方法としては、例えばスーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ等の金属ロールまたはドラムと弾性ロールより成る各種カレンダがオンマシンやオフマシンで適宜用いられる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、その範囲に限定される物ではない。
【0051】
<実施例1>
耐水バリア層として、重質炭酸カルシウム(ソフトン#2200 備北粉化工業(株))100重量部をポリカルボン酸系分散液と消泡剤を加えた水中に分散し、アンモニアでpHを9乃至10とした後、バインダとしてスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))50重量部とスチレン−アクリルエマルジョン(サイビノールUC−404 サイデン化学(株))を混合した塗料を、上質紙100g/m2の片面に、ブレードコータを用いて、塗工量が片面当たり15g/m2となるように塗工した。次に印刷層として、重質炭酸カルシウム(ソフトン#2200 備北粉化工業(株))100重量部をポリカルボン酸系分散液と消泡剤を加えた水中に分散し、アンモニアでpHを9乃至10とした後、バインダとしてスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))15重量部と混合した塗料を、上質紙100g/m2の片面に、ブレードコータを用いて、塗工量が片面当たり15g/m2となるように塗工し、乾燥し、本発明の評価方法による摩耗減量が15.8mgの耐水印刷用紙を得た。その後、ウエットピック、実機印刷試験による評価、水中離解試験を実施した。
【0052】
1)ウエットピック:RI印刷適性試験機(石川島産業機械(株)製)を用い、タックインキ(タック値30)の印刷にて紙剥け状態を目視にて評価し、下記の判定基準にて評価した。「非常に良い」:5点、「良い」:4点、「普通」:3点、「悪い」:2点、「非常に悪い」:1点として評価し、4点以上を持って良好とした。
5点:塗工層の剥がれが、全く見られない。
4点:塗工層の剥がれが、1乃至2カ所程度に見られる。
3点:塗工層の剥がれが、3カ所以上見られる。
2点:塗工層の剥がれが、3カ所乃至10カ所見られる。
1点:塗工層の剥がれが、10カ所以上見られる。
【0053】
2)耐水印刷用紙の印刷評価:ローランド−704(ディックマンローランド(株)製)にてオフセット印刷し、印刷状態を目視にて評価し、下記の判定基準にて評価した。
[印刷条件]
印刷 速度:8000枚/時間
印刷 枚数:8000枚
インキ:DIC VALUES−G Nタイプ(高級プロセスインキ)
湿し水:FST−212(1.5%)+IPA(3%)
[印刷評価]
8000枚印刷後の印刷状態を下記の評価基準で評価し、○以上をもって良好とした。
◎:全ての枚数において、精細な印刷画像が得られた。
○:実用上問題ない程度ではあるが、やや印刷画像に劣るものが数十枚程度あった。
△:印字ズレやインク着肉不良による実用不可の程度の印刷不良、100枚以上あった。
×:印字ズレやインク着肉不良による実用不可の程度の印刷不良、1000枚以上あった。
【0054】
3)水中離解性:水道水約1リットルに、約5cm角に手裂きした試料20g(乾燥量)を離解機(ナショナルMX−V−100、スライダック(特殊機化工業(株)製)を使用して目盛り8で運転)で10分間離解し、離解パルプ液を目視確認し、下記の判定基準にてリサイクル性を評価した。
○:結束繊維や塗工層の未離解片が見られない。
×:結束繊維や未離解片、及び塗工層片が多く見られる。
【0055】
<実施例2>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))11重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が18.9mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0056】
<実施例3>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))13重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が17.5mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0057】
<実施例4>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))18重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が12.5mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0058】
<実施例5>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))20重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が10.7mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0059】
<比較例1>
塗工層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))5重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が35.6mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0060】
<比較例2>
塗工層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))9重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が21.1mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0061】
<比較例3>
塗工層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))21重量部とし、本発明の評価方法による水濡れ時の摩耗減量が8.9mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0062】
<比較例4>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))25重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が6.8mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0063】
<比較例5>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))30重量部とし、本発明の評価方法による摩耗減量が5.2mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0064】
<比較例6>
印刷層のバインダをスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス(RL−500 旭化成(株))10重量部とスチレン−アクリルエマルジョン(サイビノールEK−81 サイデン化学(株))10重量部の混合とし、本発明の評価方法による摩耗減量が27.5mgとなった以外は、実施例1と同様とした。
【0065】
本発明の評価方法による摩耗減量の測定値と、ウエットピック評価値との相関を取ると図1に示す結果を得た。この式の相関係数Rは、−0.9581と高い相関を示した。従って、本発明における耐水印刷用紙の水濡れ時の耐摩耗性評価方法は、評価に際して、価値ある評価式であることを知見した。
【0066】
本発明の実施例1〜5の組成表・物性表及び評価結果を表1に、比較例1〜6の組成表・物性表及び評価結果を表2に、それぞれまとめた。
【表1】


【表2】

【0067】
実施例1乃至実施例5の耐水印刷用紙は、本発明の評価方法による水濡れ時の摩耗減量の測定値が10乃至20mgの範囲となり、水濡れ時の塗工層強度に優れ、再生回収によるリサイクル性を有していた。
【0068】
比較例1、比較例2、比較例6の耐水印刷用紙は、本発明の評価方法による水濡れ時の摩耗減量が20mgを上回っており、水濡れ時の塗工層強度が弱く、ウエットピックも弱い。
【0069】
比較例3、比較例4、比較例5の耐水印刷用紙は、本発明の評価方法による水濡れ時の摩耗減量が10mgを下回っており、水濡れ時の塗工層強度が過剰に強固となっているため、水中離解性に劣るものになった。
【0070】
比較例3、比較例4、比較例5の耐水印刷用紙は、印刷層の疎水性バインダ比が顔料100重量部に対して20重量部を上回っているため、鮮明な印刷画像が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の耐水印刷用紙の評価方法は、水濡れ時の塗工層強度を数値評価することができるため、耐水印刷用紙の生産管理に大変に役立つものである。また、本発明の耐水印刷用紙の評価方法を用いることで、水濡れ時の塗工層強度と印刷適性に優れ、水中離解の可能な耐水印刷用紙を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の評価結果とウェットピック官能評価との相関関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象となる耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、
前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、
JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、
前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、
前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、
測定された摩耗減量の値に基づいて耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度を評価する、ことを特徴とする耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度の評価方法。
【請求項2】
紙基材の少なくとも一方の面に、耐水層及び印刷層を順次設けてなる耐水印刷用紙であって、
前記耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、
前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、
JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、
前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、
前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、
測定された摩耗減量の値が10乃至20mgである、として評価される塗工層強度を有する、ことを特徴とする耐水印刷用紙。
【請求項3】
前記印刷層の組成が、顔料100重量部に対してバインダとして合成ゴム系ラテックスを10乃至20重量部配合したものである、ことを特徴とする請求項2に記載の耐水印刷用紙。
【請求項4】
紙支持体を抄造する紙支持体抄造ステップと、紙支持体の少なくとも片面に耐水層を設ける耐水層塗工ステップと、耐水層の上に印刷層を設ける印刷層塗工ステップと、熱風にて乾燥させる塗工層乾燥ステップと、耐水層及び印刷層を設けた耐水印刷用紙より試験片を作成する試験片作成ステップと、試験片を用いて湿潤時摩耗試験を行う摩耗試験ステップと、摩耗試験を行った結果として摩耗減量が10乃至20mgであった耐水印刷用紙を良品と判定して通過させる良品判定ステップ、を有し、
前記湿潤時摩耗試験は、
評価対象となる耐水印刷用紙の紙面をJIS P 8140に規定するコッブ吸水度試験にて水に濡らしたものを試験片として用意し、
前記試験片を、JIS K 5600−5−8に規定するテーバ型摩耗試験機にセットし、
JIS R 6253に規定する耐水研磨紙であって、研磨面の粗さがJIS R 6010に規定する研磨布紙用研磨材の粒度に規定する粒度P1000のものを、直径10mmの円形に切り取り、250gfの加重を掛けた状態で前記試験片の表面にセットし、
前記試験片及び研磨紙がセットされたテーバ型摩耗試験機を回転速度70rpmで20回転させ、
前記20回転の終了後、JIS K 5600−5−8に規定する摩耗減量を測定し、
測定された摩耗減量の値に基づいて耐水印刷用紙の濡れ時の塗工層強度を評価する、
ものである、ことを特徴とする耐水印刷用紙の製造方法。
【請求項5】
湿潤時摩耗試験を行った結果として摩耗減量が10乃至20mgの範囲から外れるときには、印刷層塗工ステップにおいて用いる印刷層用塗料の組成を調整する塗料調整ステップを有する、ことを特徴とする請求項4に記載の耐水印刷用紙の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−300636(P2006−300636A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120844(P2005−120844)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)
【Fターム(参考)】