説明

塗工用樹脂液の塗布方法及び塗布装置

【課題】高粘度の樹脂を用いた場合に、塗布時間の経過に伴うグラビアロールの溝部に目詰りを防止することができ、グラビアロールからシート基材への塗工液の転写を長時間円滑に行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明方法は、容器2内に収容された塗工用樹脂液を、外周部に溝部を有するグラビアロール7を塗工用樹脂液に接触させた状態で回転させてシート基材12上に塗布する樹脂液の塗布方法である。容器2内に設けたクリーニング部8を、溝部7aに入り込むようにグラビアロール7の外周部に接触させながらグラビアロール7を回転させる工程を有する。クリーニング部7としては、スポンジ状の樹脂材料からなるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺のシート基材上に粘性の樹脂液を塗布する技術に関し、特にグラビアロールを用いて高粘性の樹脂液を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺のシート基材上に粘性樹脂を塗布して樹脂フィルムを作成する場合には、例えば、図4に示すような塗布装置を用いている。
この塗布装置101においては、容器102内に溜められた塗工用樹脂液103にグラビアロール104を部分的に浸し、このグラビアロール104に対してドクターブレード105を接触させながら回転させる。
その一方、搬送ロール106、107によってグラビアロール104と反対方向に搬送される一連のシート基材108をグラビアロール104に接触させる。
【0003】
このグラビアロール104には、らせん状の溝部(図示せず)が形成されており、この溝部を介して一定の厚さの塗工用樹脂液103がシート基材108上に転写して塗布される。
しかし、このような従来技術では、特に高粘度の塗工用樹脂液を用いた場合に、塗布時間の経過に伴い、グラビアロール104の溝部に目詰りが生じ、グラビアロール104からシート基材108に塗工用樹脂液103の転写ができなくなることがある。
そこで、このような課題の改善が要望されている。
【0004】
なお、本発明に関する先行技術としては、例えば、以下のようなものが知られている。
【特許文献1】実開平3−79864号公報
【特許文献2】特開平9−47704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高粘度の樹脂を用いた場合であっても、塗布時間の経過に伴うグラビアロールの溝部に目詰りを防止することができ、グラビアロールからシート基材への塗工液の転写を長時間円滑に行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するためになされた本発明は、容器内に収容された塗工用樹脂液を、外周部に溝部を有するグラビアロールを前記塗工用樹脂液に接触させた状態で回転させてシート基材上に塗布する樹脂液の塗布方法であって、前記容器内に設けたクリーニング部を、前記溝部に入り込むように前記グラビアロールの外周部に接触させながら当該グラビアロールを回転させる工程を有するものである。
本発明では、前記クリーニング部として、スポンジ状の樹脂材料からなるものを用いることもできる。
本発明では、前記クリーニング部を、当該容器内に収容された塗工用樹脂液の液面から当該クリーニング部の表面が露出しない位置に位置決め固定することもできる。
本発明では、前記塗工用樹脂液の粘度が、5cps以上100cps以下である場合により効果的である。
一方、本発明は、塗工用樹脂液を収容するための容器と、前記容器内において回転可能に設けられ、塗工液転写用の溝部を外周部に有するグラビアロールと、前記容器内において前記グラビアロールの溝部に入り込むように設けられたクリーニング部とを備えた塗布装置である。
【0007】
本発明では、前記グラビアロールの溝部が、回転中心軸線に対して斜め方向に設けられていることも効果的である。
本発明の場合、容器内に設けたクリーニング部を、溝部に入り込むようにグラビアロールの外周部に接触させながら当該グラビアロールを回転させるようにしたことから、高粘度の樹脂を用いた場合であっても、塗布時間の経過に伴うグラビアロールの溝部に目詰りを防止することができ、グラビアロールからシート基材に塗工液への転写を円滑に行うことができる。
また、本発明によれば、グラビアロールからシート基材に高粘度塗工用樹脂液の転写を円滑に行うことができる小型の塗布装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高粘度の樹脂を用いて、グラビアロールからシート基材に塗工用樹脂液の転写を長時間円滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に用いる塗布装置の全体を示す概略構成図、図2は、同塗布装置の要部の内部構成を示す部分断面図である。
【0010】
図1に示すように、この塗布装置1は、塗工用樹脂液9を収容するための容器2を有している。
この塗布装置1は、樹脂液供給源20からポンプ21及びフィルター22を介して塗工用樹脂液9が容器2に供給されるように構成されている。
この容器2は、例えばステンレス等の金属材料からなり、水平に置かれた状態において上側部分が開放した形状に形成されている。
【0011】
本実施の形態の場合、容器2の内側の部分は仕切り部材4によって、二つの領域(液溜め領域5、液排出領域6)に仕切られている。
ここで、容器2の液溜め領域5には、シート基材12へ塗工用樹脂液9を転写するためのグラビアロール7が配設されており、この液溜め領域5の後述するドクターブレード10の近傍に塗工用樹脂液9が供給され溜められるようになっている。
【0012】
この場合、グラビアロール7の中心軸線より下側の部分が塗工用樹脂液9に浸されるように液面の高さが調整される。
本実施の形態のグラビアロール7は、例えばステンレス等の金属材料を用いて円柱形状に形成され、水平方向の回転中心軸を中心として所定方向(ここでは時計回り方向)に回転するように構成されている。このグラビアロール7の外周部には、従来技術と同様の溝部7a(図2参照)が形成されている。
【0013】
一方、容器2の液排出領域6は、液溜め領域5から溢れた塗工用樹脂液9を配管23を介して樹脂液供給源20に戻すように構成されている。
一方、容器2の液排出領域6には、ドクターブレード10を保持するための保持機構11が設けられている。この保持機構11は水平方向の回転中心軸を中心として回動自在に構成され、これによりグラビアロール7側の先端部に装着されたドクターブレード10をグラビアロール7の外周表面に密着させるように構成されている。
【0014】
容器2の液溜め領域5の底部には、クリーニング部8が配設されている。このクリーニング部8としては、スポンジ状、多孔質状、又は編み目状の弾性樹脂材料からなるものを好適に用いることができる。
【0015】
本発明の場合、特に限定されることはないが、グラビアロールのクリーニングの容易さの観点からは、クリーニング部8の材料として、メラミン樹脂からなるものを好適に用いることができる。
【0016】
ここで、クリーニング部8は、グラビアロール7の幅と同等の長さ(少なくとも溝部7aが形成されている部分の長さ)を有し、かつ、グラビアロール7の下端部と液溜め領域5の底部との間隔より厚さが大きい例えば長方体形状のものを用いることが好ましい。
【0017】
そして、クリーニング部8は、容器2の液溜め領域5の底部においてグラビアロール7と平行に配置される。さらに、クリーニング部8の上側の長辺側の角部分がグラビアロール7に当接して凹み、その弾性力によってグラビアロール7の幅方向の外周部を押圧して先端部が溝部7a内に入り込むように構成することが好ましい。
【0018】
本発明の場合、特に限定されることはないが、クリーニング効果をより向上させる観点からは、クリーニング部8のグラビアロール7側の先端部8aが、グラビアロール7の回転中心軸を含む鉛直軸Mを挟んでドクターブレード10と反対側端部側(矢印P方向)に配置固定することが好ましい。
【0019】
また、本発明では、例えば、グラビアロール7としては、直径20〜60mm、溝部7aの幅0.01〜0.1mm、溝部7aの深さ0.01〜0.1mmのものを用い、クリーニング部8として、メラミン樹脂からなるスポンジ状のものを用いた場合において、グラビアロール7とクリーニング部8との重なり部分の長さ(高さ)は5〜15mmとすることが好ましい。
【0020】
グラビアロール7とクリーニング部8との重なり部分の長さが5mmより小さいと、塗工用樹脂液9の残渣を十分に除去することができず、15mmより大きいと、サージング(グラビアロールの回転むらに起因する横縞模様)が発生する。
【0021】
なお、本実施の形態では、図2に示すように、クリーニング部8に対して上方から埋設して固定する第1の押え冶具13と、クリーニング部8の側端部の側面に対し当接して固定する第2の押え冶具14によって、クリーニング部8が容器2の液溜め領域5の底部に位置決め固定されている。
【0022】
このような構成を有する本実施の形態においては、図3(a)に示すように、まず容器2の液溜め領域5に塗工用樹脂液9を満たした状態にする。
この場合、クリーニング効果をより向上させる観点からは、クリーニング部8の上側の表面が塗工用樹脂液9の液面より下方に位置して全体的に塗工用樹脂液9に浸されるように設定することが好ましい。
【0023】
そして、一連のシート基材12をグラビアロール7の上部に接触させながら塗布膜形成方向(矢印方向)に搬送させる一方で、グラビアロール7をシート基材12と摺動する方向(ここでは時計回り方向)へ回転させる。
これにより、容器2の液溜め領域5内における塗布膜形成方向下流側の塗工用樹脂液9がグラビアロール7の溝部7aを介してシート基材12側に搬送され、ドクターブレードによって溝部7aに充填されて、塗工用樹脂液9がシート基材12上に転写され一定の厚さの樹脂膜が塗布形成される。
【0024】
その後、グラビアロール7の回転を繰り返すと、塗工用樹脂液9の転写が終了した部分の溝部7aにおいて塗工用樹脂液9の残渣9aが発生する場合がある。
しかし、本実施の形態では、グラビアロール7の残渣9aの発生部分がクリーニング部8を通過する際に、図2に示すように、クリーニング部8の先端部がグラビアロール7の溝部7aに入り込み、塗工用樹脂液9の残渣9aがグラビアロール7の溝部7aから掻き出される。
【0025】
そして、グラビアロール7を更に同方向へ回転させることにより、図3(b)に示すように、残渣がない状態で塗工用樹脂液9をグラビアロール7からシート基材12に転写して一定の厚さの樹脂膜が塗布形成される。
【0026】
以上述べたように本実施の形態にあっては、容器2内に設けたクリーニング部8を、溝部7aに入り込むようにグラビアロール7の外周部に接触させながら当該グラビアロール7を回転させるようにしたことから、高粘度の樹脂(5cps以上100cps以下)を用いた場合であっても、塗布時間の経過に伴うグラビアロール7の溝部7aに目詰りを防止することができ、グラビアロール7からシート基材12に塗工用樹脂液9の転写を長時間円滑に行うことができる。
【0027】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、クリーニング部8のグラビアロール7側の先端部8aが、グラビアロール7の回転中心軸を含む鉛直軸Mを挟んでドクターブレード10と反対側端部側に配置固定したが、クリーニング部8が塗工用樹脂液9に浸される位置であれば装置構成に応じて適宜変更することができる。
【0028】
ただし、残渣をより少なくしクリーニング効果をより向上させる観点からは、クリーニング後においてできるだけ長時間、グラビアロール7の溝部7aを塗工用樹脂液9に浸すようにすることが好ましい。
【0029】
また、上述の実施の形態では、一体的な一つのクリーニング部8を用いたが、本発明はこれに限られず、例えば分割された複数のクリーニング部を用いることも可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例とともに詳細に説明する。
[塗工用樹脂液の調製]
フェノキシ樹脂(東都化成社製 YP−50)20重量部、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 EP828)50重量部、エポキシ硬化剤(旭化成社製 HX3941HP)30重量部を、溶剤として(PMA(PGMAc):プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を用いてミキサーで溶解混合させ、ペースト状の塗工用樹脂液を調製した。
この塗工用樹脂液を、溶剤で希釈して1cps、3cps、5cps、10cps、50cps、100cps、200cpsの粘度とした。
【0031】
<実施例1>
図1に示す塗布装置を用い、シート基材上に上記塗工用樹脂液を転写してPETフィルム上に樹脂膜を形成した。
この場合、グラビアロールとしては、直径60mm、溝部の幅0.05mm、溝部の深さ0.06mmのものを用いた。
【0032】
一方、クリーニング部としては、メラミン樹脂からなるスポンジ状のものを用いた。この場合、グラビアロールとの重なり部分の高さは8mmとした。
なお、環境条件は、温度21℃、湿度60%、塗工用樹脂液の温度は20℃とした。
【0033】
[評価]
各樹脂膜の厚さむらを、光学系膜厚計で観察することによってグラビアロールにおける溝部の樹脂残渣を評価した。その結果を表1に示す。
ここでは、適正膜厚を確保できるものを「○」、適正膜厚を確保できないものを「×」とした。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の参考例1、2から理解されるように、塗工用樹脂液の粘度が低い(1cps、3cps)場合には、クリーニング部の有無にかかわらず、塗布外観は良好な結果が得られた。
一方、塗工用樹脂液の粘度が5cps以上100以下では、クリーニング部の有無によって塗布外観に大きな差が生じた。
なお、塗工用樹脂液の粘度が200cpsの場合は、クリーニング部を設けた場合であっても、塗布外観に問題が生じた。
【0036】
以上の結果より、本発明によれば、100cps程度の高粘度の塗工用樹脂液について、シート基材への転写塗布を良好に行うことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に用いる塗布装置の全体を示す概略構成図である。
【図2】同塗布装置の要部の内部構成を示す部分断面図である。
【図3】(a)(b):同塗布装置の動作を示す概略図である。
【図4】従来の要部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1…塗布装置
2…容器
5…液溜め領域
7…グラビアロール
7a…溝部
8…クリーニング部
9…塗工用樹脂液
10…ドクターブレード
12…シート基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容された塗工用樹脂液を、外周部に溝部を有するグラビアロールを前記塗工用樹脂液に接触させた状態で回転させてシート基材上に塗布する樹脂液の塗布方法であって、
前記容器内に設けたクリーニング部を、前記溝部に入り込むように前記グラビアロールの外周部に接触させながら当該グラビアロールを回転させる工程を有する樹脂液の塗布方法。
【請求項2】
前記クリーニング部として、スポンジ状の樹脂材料からなるものを用いる請求項1記載の樹脂液の塗布方法。
【請求項3】
前記クリーニング部を、当該容器内に収容された塗工用樹脂液の液面から当該クリーニング部の表面が露出しない位置に位置決め固定する請求項1又は2のいずれか1項記載の樹脂液の塗布方法。
【請求項4】
前記塗工用樹脂液の粘度が、5cps以上100cps以下である請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗工用樹脂液の塗布方法。
【請求項5】
塗工用樹脂液を収容するための容器と、
前記容器内において回転可能に設けられ、塗工液転写用の溝部を外周部に有するグラビアロールと、
前記容器内において前記グラビアロールの溝部に入り込むように設けられたクリーニング部とを備えた塗布装置。
【請求項6】
前記グラビアロールの溝部が、回転中心軸線に対して斜め方向に設けられている請求項5記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89015(P2010−89015A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261703(P2008−261703)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】