説明

塗布型制振材の塗膜形成方法

【課題】制振作用を得るための十分な塗膜厚さの塗布型制振材を低温、短時間の加熱乾燥条件で形成することを可能とする。
【解決手段】エマルション系塗料であり、塗料固形分77.0wt%以上、顔料容積濃度40−50vol%、粒子径40−100μmの大粒径顔料の容積濃度が2−14vol%である塗布型制振材を任意の箇所に塗膜厚さ1〜5mmに塗装し、140℃以下の温度で25分以内の省エネ加熱乾燥によって、制振塗膜に要求される塗膜残存水分量3.0wt%以下とすることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型制振材による制振塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の振動を低減させるために、各種の対策がなされている。自動車は0.8mm厚さ程度の薄い鋼板で主要部が構成されているため、走行時の衝撃によって振動が発生しやすい。これを低減して車内を快適に維持するため、粘弾性状物をサンドイッチした制振鋼板の使用や、アスファルトをバインダー成分として、各種充填材を配合し、シート状に圧延した制振シートが広く使用されている。
【0003】
しかし、制振鋼板の使用は、自動車の重量が増加する割には振動低減効果が低く、また、コストが高くついてしまう。制振シートの場合は、振動低減効果は十分に得られるが、自動車の塗装ラインにおいて装着の自動化が困難、若しくは不可能であるといった製造工程において制約があり人手を介さざるを得ず、生産効率を低下させる。
【0004】
このため、十分な制振効果を有する塗材が開発されている。これは塗布型制振材と呼ばれ、塗布型であることから自動車塗装ラインにおける自動化が容易である。しかし、一般の加熱乾燥硬化型塗料と比較すると、塗布型制振材は制振性能を発揮するために相当の塗膜厚さを必要とするため、加熱乾燥条件に制約があり、最大性能を引き出すにはコストがかかる。
【0005】
だが、現在の趨勢は省エネルギー、省燃費であり、自動車塗装ラインにおいても、低温度、短時間により加熱乾燥する塗膜が求められている。
【特許文献1】特開平7−145331号
【特許文献2】特開2002−375865号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、必要な制振性能を発揮する十分な塗膜厚さに塗料を塗布した後、従来に比較して低温、短時間の加熱乾燥条件であっても制振作用を十分に有する塗膜を形成することが可能となる塗膜形成方法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以上の課題を解決したものであり、エマルション系塗料であり、塗料固形分77.0wt%以上、顔料容積濃度40−50vol%、粒子径40−100μmの大粒径顔料の容積濃度が2−14vol%である塗布型制振材を任意の箇所に塗膜厚さ1〜5mmに塗装し、140℃以下の温度で25分以内の加熱により塗膜を形成するものであり、従来に比較して低温度の加熱で制振塗膜を形成するものであり、省エネルギーの制振塗膜形成方法である。
【0008】
大粒径顔料は、ガラスバルーン、プラスチックバルーン、セラミックバルーン、プラスチックビーズ、ガラスビーズ、炭酸カルシウム等から選ばれる少なくとも1種以上であり、従来のものを使用することが可能である。
【0009】
本発明に使用するエマルション系塗料とは、各種の樹脂エマルションを主成分として、その他充填材、着色顔料、添加剤等を含むものであり、樹脂エマルションとしては、アクリル、アクリル−スチレン、酢酸ビニル、酢酸ビニル−アクリル、エチレン−酢酸ビニル、エポキシ、ウレタンアルキッド等の樹脂エマルションを挙げることができる。これらは単独、又は組み合わせて使用できる。
【0010】
充填材、着色顔料としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、珪藻土、カーボンブラック、酸化チタン等を挙げることができる。これらは単独、又は組み合わせて使用できる。
添加剤としては、消泡剤、分散剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤等が例示できる。これらは単独、又は組み合わせて使用できる。
【0011】
本発明になるエマルション塗料の、塗料固形分は、77.0wt%以上、また、同時に顔料容積濃度は、40−50vol%であることを必須とする。
塗料固形分と顔料容積濃度の両方を満たさなかった場合、塗布型制振材を厚く塗布して本発明と同じ条件で加熱乾燥すると、水分除去が十分なされず、塗膜内の残存水分量が多くなってしまう。ちなみに、塗膜残存水分量としては、3.0wt%以下となることが望ましいとされている。一般的に制振目的で設計されたエマルション塗料における塗膜の残存水分量が多くなると、設計した制振性能が十分に得られない。これは、塗膜に水分が残存していると、制振性能のピーク温度域(制振効果を最も発揮する温度域)が実用温度域から移行してしまい、また、制振効果を示す指標である損失係数が全体的に低くなってしまうためである。
これはエマルション塗料による塗膜が期待されたパフォーマンスを発揮していないことに他ならない。エマルション塗料の塗膜が本発明において必要な制振性能を十分に発揮するためには、塗膜に残存する水分量が3.0wt%以下であることが望ましい。
【0012】
粒子径40−100μmの大粒径顔料が、塗料中における容積濃度において2−14vol%であることを必須とする。2vol%未満であると、加熱乾燥時の水分除去が十分行なわれない虞が大きく、14vol%を超えると塗料粘度が上昇して分散塗料化が困難となる可能性がある他、塗料化が可能となった場合にも、塗膜が脆弱化して強度が低下してしまう虞がある。
【0013】
大粒径顔料の粒子径が40μm未満であると、塗膜乾燥性が向上しない。また、粒子径が100μmを超えると、塗装時の塗装ガンノズルに粒子が詰まるなどの不具合が発生する虞がある。粒子径40−100μmの大粒径顔料としては、ガラスバルーン、プラスチックバルーン、セラミックバルーン、プラスチックビーズ、ガラスビーズを例示することができる。
【0014】
本発明による加熱乾燥による塗膜形成条件としては、140℃以下の温度で、25分以内の乾燥時間により塗膜を形成することを必須とする。140℃を超える温度、あるいは25分より長い乾燥時間とすると従来の塗布型制振材の塗膜形成条件に近くなり、本発明の目的である「省エネルギー」を達成できない。
【0015】
本発明による塗布型制振材の塗布方法は、公知の塗装方法が用いられる。即ち、エアレススプレー、エアスプレー、エアアシストスプレー等である。この他、刷毛塗り、ローラー塗装等も適用可能である。
【0016】
本発明による塗膜形成方法による塗膜は、1〜5mmの塗膜厚さが形成可能である。1mm未満の塗膜厚さでは制振性が低く、塗膜厚さが5mmを超えると、塗膜型制振材の重量が大きくなるので車輌重量の軽量化に反することとなり、好ましくない。
【0017】
本発明の塗膜形成方法は、自動車の塗布型制振材が適用されている任意の場所に用いることができる。即ち、フロア部、ダッシュパネル、ドア、フェンダー、ホイルハウス、ピラー、ルーフ等の各部である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の理解に供するため、以下に実施例を記載する。いうまでもなく、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
アクリル樹脂エマルションに、炭酸カルシウム、45μm径のガラスバルーンを含み、塗料固形分77.7wt%、顔料容積濃度49.0vol%、ガラスバルーン容積濃度13.2vol%のアクリルエマルション塗料1を調製した。
【0019】
実施例2
実施例1と同じ配合物により、塗料固形分77.7wt%、顔料容積濃度47.0vol%、ガラスバルーン容積濃度10.5vol%のアクリルエマルション塗料2を調製した。
【0020】
実施例3
実施例1と同じアクリル樹脂エマルションに、炭酸カルシウム、40μm径のプラスチックバルーンを含み、塗料固形分77.7wt%、顔料容積濃度50.0vol%、プラスチックバルーン容積濃度13.2vol%のアクリルエマルション塗料3を調製した。
【0021】
実施例4
実施例3と同じ配合物により、塗料固形分77.7wt%、顔料容積濃度48.0vol%、プラスチックバルーン容積濃度10.5vol%のアクリルエマルション塗料4を調製した。
【0022】
実施例5
実施例1と同じアクリル樹脂エマルションに、炭酸カルシウム、45μm径のセラミックバルーンを含み、塗料固形分77.7%、顔料容積濃度48.0vol%、セラミックバルーン容積濃度13.2vol%のアクリルエマルション塗料5を調製した。
【0023】
実施例6
実施例5と同じ配合物により、塗料固形分77.7wt%、顔料容積濃度46.0vol%、セラミックバルーン容積濃度10.5vol%のアクリルエマルション塗料6を調製した。
【0024】
比較例1
実施例1と同じアクリル樹脂エマルションに、炭酸カルシウムを配合し、塗料固形分74.5wt%、顔料容積濃度39.0vol%のアクリルエマルション塗料7を調製した。
比較例2
塗料固形分75.5wt%、顔料容積濃度38.0vol%のアクリルエマルション塗料8を調製した。
比較例3
塗料固形分77.1wt%、顔料容積濃度37.0vol%のアクリルエマルション塗料9を調製した。
比較例4
塗料固形分75.6wt%、顔料容積濃度42.6vol%のアクリルエマルション塗料10を調製した。
比較例5
塗料固形分75.7wt%、顔料容積濃度44.0vol%のアクリルエマルション塗料11を調製した。
[試験方法]
【0025】
実施例及び比較例において調製したアクリルエマルション塗料1〜11をエアレススプレー塗装機により塗膜厚さ3mmに塗装し、電気式加熱乾燥器を用いて140℃の温度で25分間加熱乾燥を行なった。
加熱乾燥により形成された塗膜の残存水分量を測定した実施例の結果を表1に、また、比較例については表2に示す。
【0026】
本発明の実施例は、残存水量が2.6〜2.9wt%の範囲であり、好ましい残存水分量の3wt%以下であった。
これに対し、本発明の要件である塗料固形分77wt%以上、顔料容積濃度40−50vol%を満足しない比較例1及び比較例2のアクリルエマルション塗料の残存水分量は、それぞれ13.6wt%と5.2wt%であり、好ましい残存水分量の3wt%を超えていた。
比較例3は本発明の要件である塗料固形分77wt%以上であるが、顔料容積濃度40vol%以上を満足しないものであり、残存水分量は7.5wt%であり、好ましい残存水分量の3wt%を超えていた。
比較例4及び比較例5は、塗料固形分が本発明の要件である77wt%以上を満足しないが、顔料容積濃度は本発明の要件の40−50vol%の範囲内にあるが、残存水分量はそれぞれ8.0wt%、4.9wt%であり、好ましい残存水分量の3wt%を超えていた。
【0027】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の塗膜形成方法によれば、従来の塗料配合を大きく変更することなく、かつ、制振性能の低下などの不具合をきたすことなく、塗膜形成のための加熱温度を低下させることができると共に、加熱時間を短縮することができる。従って、自動車塗装ラインにおける省エネルギー効果は極めて大きいものといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料固形分77.0wt%以上、顔料容積濃度40−50vol%、粒子径40−100μmの大粒径顔料の容積濃度が2−14vol%であるエマルション系塗料を塗膜厚さ1〜5mmに塗装し、140℃以下の温度で25分以内の加熱によって塗膜を形成することを特徴とする、塗布型制振材の塗膜形成方法。
【請求項2】
請求項1において、大粒径顔料が、ガラスバルーン、プラスチックバルーン、セラミックバルーン、プラスチックビーズ、ガラスビーズ、炭酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする塗布型制振材の塗膜形成方法。

【公開番号】特開2010−58070(P2010−58070A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227587(P2008−227587)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】