説明

塗布層付延伸フィルムの製造方法

【課題】フィルム中のボイドを変形させることなく、塗布層付きフィルを製造する方法を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が60℃以上の熱可塑性芳香族ポリエステルからなり、該ポリエステル中にボイドを有する延伸フィルムに、未硬化の熱硬化性樹脂の塗液を塗布し乾燥および熱硬化させることにより延伸フィルムのうえに塗布層を形成する塗布層付延伸フィルムの製造方法において、塗液の乾燥および熱硬化を、40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−5℃)以下の温度範囲で、延伸フィルムに100〜200N/mの張力をかけた状態で行うことを特徴とする、塗布層付延伸フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルからなりボイドを有する延伸フィルムに、未硬化の熱硬化性樹脂の塗液を塗布し、乾燥、熱硬化させる塗布層付延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム中に微細なボイドを含有させることで白色を呈するようにした白色フィルムはすでに知られている。この白色フィルムは、フィルム内部のボイドとポリエステルとの界面で、これらの屈折率の差に起因して、光が反射し、高い光反射率を有する。
【0003】
ポリエステルフィルムの一種として、フィルム内部に微細なボイドを含有する白色フィルムが知られており(特許文献1)、フィルム内部のボイドとポリエステルとの界面の屈折率差に起因して光が反射され、その結果、高い光反射率を有することが特徴である。この白色フィルムの用途として、液晶表示装置のバックライトユニットの反射フィルムが挙げられる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−036823号公報
【特許文献2】特開平11−291432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内部にボイドを有するポリエステルフィルムに塗布層を設ける場合、ボイドが変形したり、ボイドが消滅したりしやすく、その場合には、フィルムの反射率が低下する。
本発明は、ボイドを有するポリエステル延伸フィルムに、ボイドを変形させることなく塗布層を設けることができる、塗布層付延伸フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ガラス転移温度が60℃以上の熱可塑性芳香族ポリエステルからなり、該ポリエステル中にボイドを有する延伸フィルムに、未硬化の熱硬化性樹脂の塗液を塗布し乾燥および熱硬化させることにより延伸フィルムのうえに塗布層を形成する塗布層付延伸フィルムの製造方法において、塗液の乾燥および熱硬化を、40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−5℃)以下の温度範囲で、延伸フィルムに100〜200N/mの張力をかけた状態で行うことを特徴とする、塗布層付延伸フィルムの製造方法である。
本発明はまた、上記の製造方法で製造される塗布層付延伸フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ボイドを有しポリエステルからなる延伸フィルムに、ボイドを変形させることなく延伸フィルム表面に塗布層を設けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ボイドを有する延伸フィルム]
ボイドを有する延伸フィルムのポリエステルとしては、ガラス転移温度が60℃以上である熱可塑性芳香族ポリエステルを用いる。この熱可塑性芳香族ポリエステルとして、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを挙げることができる。
【0009】
ポリエステルは、共重合成分が共重合されていてもよい。その場合、ガラス転移温度を60℃以上に維持するために、共重合成分の割合は多すぎてはならず、例えば20モル%以下、好ましくは12モル%以下の割合とする。共重合成分としては、例えばイソフタル酸を用いることができる。
【0010】
ボイドを有する延伸フィルムとしては、ポリエステルにボイド形成物質を配合したポリエステル組成物の未延伸フィルムを延伸し、延伸時にボイド形成物質とポリエステルとの界面での剥離によりフィルム内部に微細なボイドを形成させた延伸フィルムを用いることができる。ボイド形成物質としては、例えば無機粒子、有機粒子、非相溶樹脂粒子を用いることができる。
【0011】
ボイド形成物質として非相溶樹脂を用いる場合、非相溶樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、具体的には例えばポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニル−t−ブタン、1,4−トランス−ポリ−2,3−ジメチルブタジエン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、ポリクロロトリフルオロエチレンを用いることができる。
【0012】
ボイド形成物質として非相溶樹脂を用いる場合、ポリエステルと非相溶樹脂との合計100重量部あたり、例えば5〜30重量部、好ましくは8〜25重量部、さらに好ましくは10〜20重量部の割合で用いる。この範囲で用いることで、延伸時にフィルムを破断させることなく、十分な量のボイドを含む延伸フィルムを得ることができる。
【0013】
ボイド形成物質として、無機粒子を用いる場合、無機粒子としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素の粒子を用いることができる。無機粒子は、板状、球状いずれの形状をとる粒子であってもよい。
ボイド形成物質として、有機粒子を用いる場合、例えば架橋ポリスチレンといった粒子や、非相溶樹脂として例示した樹脂の粒子を用いることができる。
【0014】
ボイド形成物質として無機粒子または有機粒子を用いる場合、粒子の平均粒径は例えば0.3〜3.0μm、好ましくは0.4〜2.5μm、さらに好ましくは0.5〜2.0μmである。この範囲の平均粒径のものを用いることで、粒子の凝集を生じることなく、フィルムの破断なく延伸することができる。
【0015】
ボイド形成物質として無機粒子または有機粒子を用いる場合、ポリエステルと粒子との合計100重量部あたり、例えば31〜60重量部、好ましくは35〜55重量部、さらに好ましくは37〜50重量部の割合で用いる。この範囲で用いることで、フィルムが破れやすくなることなく、白色とするに十分なボイドを得ることができる。
【0016】
ボイドを有する延伸フィルムは、一層から構成される単層フィルムであってもよく、複数の層から構成される多層フィルムであってもよい。多層フィルムである場合、ボイドを有するポリエステルの層が少なくとも一つあればよく、ボイドを有するフィルムは、多層フィルムの表層に配置されていてもよく、芯層に配置されていてもよい。
【0017】
ポリエステル中のボイドは、ボイド形成物質を含有する未延伸フィルムを、少なくとも一軸方向に延伸することで形成することができるが、好ましくは二軸方向に延伸してボイドを形成する。
【0018】
[塗布、乾燥および熱硬化]
本発明では、上述の延伸フィルムに、未硬化の熱硬化性樹脂の塗液を塗布し乾燥および熱硬化させることにより、延伸フィルムのうえに塗布層を形成し、塗布層付延伸フィルムを得る。
【0019】
塗液を塗布する方法として、一般に知られた方法を用いることができ、例えばグラビア、ロール、スピン、リバース、バー、スクリーン、ディッピングなどの塗布方法を用いることができる。
【0020】
本発明においては、塗液の乾燥および熱硬化を、40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−10℃)以下の温度範囲で、延伸フィルムに100〜200N/mの張力をかけた状態で行う。この張力は、フィルムの搬送方向すなわち機械軸方向の張力である。
【0021】
塗液の乾燥および熱硬化の温度は、40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−5℃)以下、好ましくは40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−10℃)である。40℃未満であると塗液が熱硬化しずらく、強固な塗膜を得ることができない。他方、(ポリエステルのガラス転移温度−5℃)より高い温度であると、熱と張力によって延伸フィルムのボイドが変形してしまう。
【0022】
塗液を乾燥および熱硬化するときの延伸フィルムの張力が100N/m未満であると、延伸フィルムの表面に塗布ムラが発生する。他方、200N/mを超えると、フィルムが破断する可能性がある。
【0023】
[熱硬化性樹脂の塗液]
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリアクレート、ポリメタクリレート、ポリイソシアネート、これらの共重合体、またはこれらの2種以上の混合物を用いることができる。熱硬化性樹脂の中でも、比較的低い温度にて熱硬化するものが好ましい。また、速く強固な塗布層を形成する目的で、架橋剤を混合させたものは、熱硬化性樹脂の塗布層のフィルムへの接着性が良くなるため特に好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系、メラミン系、エポキシ系のものを使用することができる。
【0024】
熱硬化性樹脂は、架橋剤を含む場合も含まない場合も、溶媒に溶解または分散して塗液とする。溶媒としては、例えば酢酸ブチル、酢酸エチルを用いることができる。この塗液には、例えば、顔料、色素、フィラーが添加されていてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を詳述する。測定および評価は以下の方法で行った。
なお、実施例および比較例では、ボイドを有する延伸フィルムとしてテイジンテトロンUX02−225(ガラス転移温度72℃の、イソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルム、厚み225μm、帝人デュポンフィルム製)を使用した。
【0026】
(1)延伸フィルムの表面に形成された塗布層の量
塗布層付延伸フィルムを10×10cmの大きさに切り出して重量を測定した。つぎに、酢酸ブチルを浸したガーゼにて塗布層付延伸フィルムの表面を擦って塗布層を除去し、塗布層除去後の延伸フィルムの重量を測定した。塗布層の量を以下の式で算出した。
塗布層の量(g/m
=(塗布層付延伸フィルムの重量(g)− 塗布層除去後の延伸フィルムの重量(g))
÷(0.1(m)×0.1(m))
【0027】
(2)輝度
(2−1)評価用バックライトユニットの作成
評価用に用意した液晶テレビ(SONY社製 Bravia KDL−32F1)から、組み込まれている直下型バックライトユニット(32インチ)を取り出した。バックライトユニットに元々組み込まれていた反射シートを、測定対象のフィルムに取り替え、評価用バックライトユニットを作成した。
(2−2)輝度の測定方法
輝度計(大塚電子製、瞬間マルチ測光システムMCPD−7700)を用いて、受光用オプティカルファイバーの受光部を、バックライトユニットの光学シート面に対し垂直(0°)かつ光学シート面との距離が50cmとなる位置に固定し、視野角を2°視野とし、バックライトを点灯してから1時間後の輝度を測定した。
(2−3)輝度向上率
延伸フィルムに塗布層を設けたことによるバックライトユニットの輝度の向上率を評価するために、下記式で輝度向上率を算出した。
輝度向上率(%)
=(塗布層付延伸フィルムを用いたときの輝度)
/(塗布層を設ける前の延伸フィルムを用いたときの輝度)
×100
【0028】
(3)ガラス転移温度
フィルムサンプルを示差走査熱量測定装置(TA Instruments 2100 DSC)を用い、昇温速度20m/分で測定を行った。
【0029】
[実施例1]
ユーダブルS2740(未硬化の熱硬化性樹脂、日本触媒製、アクリル系)を17重量部、コロネートHL(架橋剤、日本ポリウレタン工業社製、イソシアネート系)を3重量部、酢酸ブチル(有機溶剤、和光純薬工業製)20重量部を混合させて塗液を得た。
150N/mの張力を機械軸方向にかけたテイジンテトロンUX02−225のボイド含有層の上に、この塗液をグラビアロ−ルコ−タ−(線数70)で供給した後、60℃で2分間乾燥、熱硬化して塗布層付延伸フィルムを得た。得られた塗布層付延伸フィルムの評価結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
[実施例2〜6]
塗液の組成を表1に記載のとおりに変更し、乾燥および熱硬化条件を表1に記載のとおりに変更した他は実施例1と同様にして、塗布層付きフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0033】
[比較例1]
150N/mの張力を機械軸方向にかけた延伸フィルムを、60℃で2分間空通しさせた。空通し後の延伸フィルムの評価結果を表2に示す。
【0034】
[比較例2]
150N/mの張力を機械軸方向にかけた延伸フィルムを、100℃で2分間空通しさせた。空通し後の延伸フィルムの評価結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の塗布層付延伸フィルムの製造方法は、内部にボイドを有するポリエステルフィルムに塗布層を設けるために有用である。この方法で得られる塗布層付延伸フィルムは、例えば、表面に塗布層を備える液晶表示装置の反射フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が60℃以上の熱可塑性芳香族ポリエステルからなり、該ポリエステル中にボイドを有する延伸フィルムに、未硬化の熱硬化性樹脂の塗液を塗布し乾燥および熱硬化させることにより延伸フィルムのうえに塗布層を形成する塗布層付延伸フィルムの製造方法において、塗液の乾燥および熱硬化を、40℃以上かつ(ポリエステルのガラス転移温度−5℃)以下の温度範囲で、延伸フィルムに100〜200N/mの張力をかけた状態で行うことを特徴とする、塗布層付延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造された、塗布層付延伸フィルム。

【公開番号】特開2010−264623(P2010−264623A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116483(P2009−116483)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】