説明

塗布方法、光学フィルム及び反射防止フィルム

【課題】薄層の塗布を行った場合でも、幅方向の膜厚を均一にでき、塗布液圧の変動によるスジ状ムラ等の発生を抑え、安定した塗布を維持する。
【解決手段】支持体Wの走行方向上流側より減圧チャンバ40とスロットダイ13とを隣接して設けるとともに、スロットダイに対向させてバックアップローラ11を設け、減圧チャンバにより張力を与えバックアップローラに巻き掛けて連続走行させる支持体上に、スロットダイを使用して塗布液14を塗布する塗布方法。ηが塗布液粘度であり、Vが塗布速度であり、hが湿潤状態の塗布膜厚であり、Lがスロット長さであり、Dがスロット幅である場合であって、A=η×V×h×L×1/D3 のときに、2N/m2 ≦A≦700N/m2 で塗布液を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布方法、光学フィルム及び反射防止フィルムに係り、特に、薄い塗布膜を均一に形成するのに好適な塗布方法、及びこの塗布方法を使用して製造する光学フィルム、特に反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムとしての反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような様々な画像表示装置に使用されている。また、眼鏡やカメラのレンズにも、反射防止フィルムが使用されている。
【0003】
このような反射防止フィルム等の光学フィルムの製造方法としては、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、物理蒸着法の一種である真空蒸着法やスパッタリング法等が使用できるが、生産性が低く大量生産には適していない。
【0004】
一方、無機微粒子の塗布により反射防止フィルム等の光学フィルムを製造する方法は、生産性が高く大量生産には適している。このような塗布方法としては、ディップコート法、マイクログラビア法、リバースロールコート法等が挙げられるが、ディップコート法は、段状のムラが発生しやく、リバースロールコート法、マイクログラビア法は、ロールの偏芯やたわみにより段状のムラが発生しやすく、また、これらの塗布方式は後計量方式であるため、安定した膜厚の確保が比較的困難である。
【0005】
これに対し、ダイコート法は、前計量塗布方式であるため、膜厚の安定性が高い利点があり、ポケットの形状を規定したりリップの形状を規定したりする内容の提案が各種なされている(特許文献1、2等)。
【0006】
このうち、特許文献1は、2以上の塗布液供給口よりマニホールドに塗布液を供給し、塗布幅方向の塗布膜厚分布を均一にする内容の提案である。特許文献2は、ポケット内部の塗布液圧を大気圧よりも大きくなるように設定し、気泡の発生を防いで塗布スジの発生を抑制する内容の提案である。特許文献3は、塗布液の液物性や塗布条件に合わせた最適な塗布状態を得るべく、スロット長さやスロット幅を設定する内容の提案である。
【特許文献1】特開平11−128805号公報
【特許文献2】特開2003−236451号公報
【特許文献3】特開2003−10762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に示されるダイコート法で薄層(たとえば、ウェット膜厚で100μm以下)の塗布を行った場合、幅方向の膜厚が不均一になったり、塗布液圧が変動することによりスジ状ムラを発生させたりし、安定した塗布を維持することが難しいという問題がある。特に、塗布液の粘度が低く、塗布液の供給量が少ない薄層塗布の場合、スロットからの塗出が不安定になり、この傾向は顕著である。
【0008】
また、特許文献3に示されるダイコート法は、高い粘度の塗布液を対称とした提案であり、塗布液の粘度が低く、塗布液の供給量が少ない薄層塗布の場合に適用できる技術とは相違する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、薄層(たとえば、ウェット膜厚で100μm以下)の塗布を行った場合であっても、幅方向の膜厚を均一にでき、塗布液圧の変動によるスジ状ムラ等の発生を抑え、安定した塗布を維持できる塗布方法、及びこの塗布方法を使用して製造する光学フィルム、特に反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、支持体の走行方向上流側より減圧チャンバとスロットダイとを隣接して設けるとともに、前記スロットダイに対向させてバックアップローラを設け、前記減圧チャンバにより張力を与えるとともに、前記バックアップローラに巻き掛けて連続走行させる前記支持体上に、前記スロットダイを使用して塗布液を塗布する塗布方法において、ηが塗布液粘度であり、Vが塗布速度であり、hが湿潤状態の塗布膜厚であり、Lがスロット長さであり、Dがスロット幅で、
A=η×V×h×L×1/D3 のときに、2N/m2 ≦A≦700N/m2 で前記塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、スロットダイ内部の支持体の幅方向の圧損差や塗布液の動圧の影響が少なくなるように、スロット長さLやスロット幅D等を規定した状態で塗布を行うので、幅方向の膜厚を均一にでき、塗布液圧の変動によるスジ状ムラ等の発生を抑え、安定した塗布状態を維持できる。
【0012】
すなわち、光学フイルム等の製造においては、塗布液を支持体(ウェブ)に塗布するまでの吐出精度が極めて重要となる。また光学フイルムは、精度が要求される品質上の点より、非常に薄層で塗布される。そのために、リップクリアランスを100μm以下にして塗布するケースが一般的である。
【0013】
その際、リップ部の減圧に対してスロット内の圧損を大きくすることが極めて効果的であることが解った。したがって、減圧チャンバによるサクション減圧が、0.1〜1.5kPaの間であれば、上記の式(1)に規定されるように、スロット長さLやスロット幅D等を最適化することにより、ウェブ幅方向の塗布厚分布が良好な面性状を得られることが解った。
【0014】
なお、このような塗布方式では、減圧チャンバによるサクション減圧により、スロットからの塗出が低粘度側では不安定になる。すなわち、塗布液が低粘度では減圧によりポケット内より引張られることになる。したがって、A値が2N/m2 未満では、圧損が小さく、塗布液がポケット内より引張られて塗出不良となる。
【0015】
一方、A値が700N/m2 超では、圧損が大きく、塗布液がスロットからの塗出される際に、塗布液が流れ易い部分と流れにくい部分を生じ、塗出が不安定になり易い。特にこの傾向は、減圧系で顕著である。
【0016】
以上の点より、2N/m2 ≦A≦700N/m2 の条件で塗布液を塗布することが重要である。
【0017】
基本的には塗布液粘度η、塗布速度V、及び湿潤状態の塗布膜厚h(ウェット膜厚)は所与のものであるため、上記の式(1)におけるスロット長さLとスロット幅Dとを最適化することが一般に採用できる。
【0018】
本発明において、前記スロットダイのポケット内部における前記支持体幅方向の前記塗布液の流速を30mm/秒以下に設定することが好ましい。このような設定を行えば、スロットダイ内部の支持体の幅方向の圧損差や塗布液の動圧の影響が少なくなるので、本発明の効果が一層発揮できる。
【0019】
また、係る本発明は、前記の塗布方法によって得られる塗布層を少なくとも1層有することを特徴とする光学フィルム及び反射防止フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、幅方向の膜厚を均一にでき、塗布液圧の変動によるスジ状ムラ等の発生を抑え、安定した塗布状態を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面に従って本発明に係る塗布方法、光学フィルム及び反射防止フィルムの好ましい実施の形態について詳説する。
【0022】
図1は、本発明に係る塗布方法に使用されるコーター(塗布装置)10のスロットダイ13及びその周辺を示す斜視図である。図2は、スロットダイ13の周辺部を示すコーター10の部分断面図である。図3は、スロットダイ13とウェブWとの関係を示す斜視図であり、スロットダイ13の一部を切り欠いて内部が見えるようにした図である。なお、図2及び図3では、減圧チャンバー40の図示を省略してある。
【0023】
コーター10はバックアップローラ11に支持されて連続走行するウェブWに対して、スロットダイ13から塗布液14をビード14aにして塗布することにより、ウェブW上に塗膜14bを形成する塗布装置である。
【0024】
スロットダイ13の内部にはポケット15、スロット16が形成されている。ポケット15は、その断面が曲線及び直線で構成されており、たとえば、図2に示されるような略円形でもよいし、又は半円形でもよい。ポケット15は、スロットダイ13の幅方向にその断面形状をもって延長された塗布液の液溜め空間で、その有効延長の長さは、塗布幅と同等か若干長めにするのが一般的である。
【0025】
ポケット15への塗布液14の供給は、図3のように、スロットダイ13の側面の供給管13aから、又はスロット開口部16aとは反対側の面の中央から行う。また、供給管13aの反対側のポケット15の端部には、塗布液14が漏れ出ることを防止する栓13bが設けられている。
【0026】
スロット16は、ポケット15からウェブWへの塗布液14の流路であり、ポケット15と同様にスロットダイ13の幅方向にその断面形状をもち、ウェブ側に位置する幅Dの開口部16aは、一般に、図示しない幅規制板のようなものを用いて、概ね塗布幅と同じ長さLになるように調整する。このスロット16のスロット先端における、バックアップローラ11のウェブ走行方向の接線とのなす角は、30°以上90°以下が好ましい。
【0027】
スロット16の開口部16aが位置するスロットダイ13の先端リップ17は、先細り状に形成されており、その先端はランドと呼ばれる平坦部18とされている。このランド18であって、スロット16に対してウェブWの走行方向の上流側を上流側リップランド18a、下流側を下流側リップランド18bと称する。上流側リップランド18aと下流側リップランド18bのウェブWとの距離は等しくなっている。
【0028】
上流側リップランド18aのランド長さIUPは特に限定はされないが、500μm〜1mmの範囲が好ましく採用される。下流側リップランド18bのランド長さILOは30μm以上100μm以下であり、好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0029】
下流側リップのランド長さILOが30μmよりも短い場合は、先端リップ17のエッジ又はランドが欠けやすく、塗膜にスジが発生しやすくなり、結果的には塗布が不可能になる。また、下流側の濡れ線位置の設定が困難になり、塗布液が下流側で広がりやすくなるという問題も発生する。この下流側での塗布液の濡れ広がりは、濡れ線の不均一化を意味し、塗布面上にスジなどの不良形状を招くという問題につながることが従来より知られている。
【0030】
一方、下流側リップのランド長さILOが100μmよりも長い場合は、減圧を大きくする必要が生じ、ビードが不安定になるため、薄層塗布を行うことは極めて難しい。
【0031】
スロットダイ13の先端部分である上流側リップランド18a及び下流側リップランド18bは、超硬部材で形成されている。スロットダイ13の先端部分にステンレス鋼等のような材質を用いると、ダイ加工の段階でだれてしまい、先端リップの加工精度を満足できない場合が多い。したがって、高い加工精度を維持するためには、特許第2817053号公報に記載されているような超硬材質のものを用いることが好ましい。
【0032】
具体的には、スロットダイ13の少なくとも先端リップを、平均粒径5μm以下の炭化物結晶を結合してなる超硬合金にすることが好ましい。超硬合金としては、タングステンカーバイド(以下、WCと称す)等の炭化物結晶粒子をCo(コバルト)等の結合金属によって結合したものなどがあり、結合金属としては他にTi(チタン)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ) 及びこれらの混合金属を用いることもできる。WC結晶の平均粒径としては、粒径3μm以下が更に好ましい。
【0033】
また、スロットダイ13の先端において、上流側リップランド18a及び下流側リップランド18bの先端エッジの曲率半径を10μm以下とすることが好ましい。また、スロットダイ13の先端部分(上流側リップランド18a及び下流側リップランド18b)の表面粗さRaを0.4μm以下とすることが好ましい。このようなスロットダイ13の先端部分とすることにより、ビードの形状を一定に保つことが容易にできる。
【0034】
図1において、スロットダイ13に対し、ウェブWの走行方向側とは反対側に、ビード14aに対して充分な減圧調整を行えるよう、接触しない位置に減圧チャンバー40が設置されている。減圧チャンバー40は、その作動効率を保持するためのバックプレート40aとサイドプレート40bを備えており、バックプレート40aとウェブWの間、サイドプレート40bとウェブWの間にはそれぞれ隙間GB、GSが設けられている。
【0035】
本発明の塗布方法においては、公知の各種溶媒を用いた塗布液を使用することができる。たとえば、水、各種ハロゲン化炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、ケトンなどを単独又は複数混合して使用することができる。
【0036】
ウェブWとしては、公知の各種ウェブを用いることができる。一般的にはポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等の公知の各種プラスチックフィルム、紙、紙にポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布またはラミネートした各種積層紙、アルミニウム、銅、スズ等の金属箔等、あるいは帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたものが含まれる。
【0037】
本発明の塗布方法に用いる塗布液として、光学補償シート塗布液、反射防止フィルム塗布液、防眩性付与液磁性塗布液、写真感光性塗布液、磁性塗布液、視野角拡大塗布液、表面保護液、帯電防止液、滑性用塗布液、カラーフィルター用顔料液等が使用できるが、これらに限定される訳ではない。
【0038】
また、湿潤膜厚が100μm以下の薄層を塗布する系に有効であるが、特に20μm以下の精密塗布を行う系が好ましく、単層の1回塗布のみならず、重層逐次塗布に対しても、特に各層の湿潤膜厚が20μm以下の高精度の薄膜塗布の場合に有効である。塗布液の粘度としては0.5〜100mPa・s、特に20mPa・s以上のときに顕著な効果が得られる。また表面張力としては20〜70mN/mの範囲が好ましく、20〜35mN/mの範囲がより好ましい。
【0039】
塗布速度は概ね100m/分程度までの領域で適用可能である。また、一般に塗布するのが困難といわれる領域や湿潤膜厚がより薄い塗布系、粘度が高い領域で、より効果を発揮する。
【0040】
次に、上記の塗布装置を使用した塗布方法について説明する。
【0041】
バックアップローラ11にウェブWを巻き掛けるとともに、減圧チャンバ40を減圧状態に維持することによりウェブWに張力を与え、バックアップローラ11を回転させてウェブWを連続走行させる。そして、ウェブWの表面にスロットダイ13を使用して塗布液14を塗布して、ウェブW上に塗膜14bを形成する。
【0042】
その際、下記の式1で算出したA値が、2N/m2 以上、700N/m2 以下の範囲になるように設定する。
【0043】
A=η×V×h×L×1/D3 (式1)
(ただし、式1中、ηは塗布液粘度(単位:N・s/m2 )であり、Vは塗布速度(単位:m/s)であり、hは湿潤状態の塗布膜厚(単位:m)であり、Lはスロット長さ(単位:m)であり、Dはスロット幅(単位:m)である。)
このA値は、2N/m2 以上、500N/m2 以下の範囲になるように設定することが、より好ましく、2N/m2 以上、300N/m2 以下の範囲になるように設定することが更に好ましい。
【0044】
また、均一な塗膜14bを得るために、塗布液粘度ηが0.01N・s/m2 以下であり、塗布量が15ml/m2 以下とすることが、より好ましく、ポケット15内部のウェブWの幅方向の塗布液14の流速を14mm/s以下とすることが、より好ましい。
【0045】
これにより、ウェブ幅方向の膜厚を均一にでき、塗布液圧の変動によるスジ状ムラ等の発生を抑え、安定した塗布状態を維持できる。
【0046】
以上、本発明に係る塗布方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0047】
たとえば、本実施形態では、スロットダイ13の上流側リップランド18aと下流側リップランド18bのウェブWとの距離は等しくなっているが、下流側リップランド18bと上流側リップランド18aのウェブWとの距離に差を設ける、いわゆる、オーバーバイト形状のスロットダイを採用することもでき、これによっても、本発明と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
光学フィルムである防眩フィルム用の塗布液を、以下のように調整した。
【0049】
先ず、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)75g、粒径約30nmの酸化ジルコニウム超微粒子分散物含有ハードコート塗布液(デソライトZ−7401、JSR(株)製)240gを、104gのメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=54/46重量%の混合溶媒に溶解した。
【0050】
得られた溶液に、光重合開始剤(イルガキュア907、チバファインケミカルズ(株)製)10gを加え、攪拌溶解した後に、20重量%の含フッ素オリゴマーのメチルエチルケトン溶液からなるフッ素界面活性剤(メガファックF−176PF、大日本インキ(株)製)0.93gを添加した(なお、この溶液を塗布、紫外線硬化させて得られた塗布膜の屈折率は1.65であった。)。
【0051】
更に、この溶液に個数平均粒径2.0μm、屈折率1.61の架橋ポリスチレン粒子(SX−200HS、綜研化学(株)製)20gを、160gのメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=54/46重量%の混合溶媒に高速ディスパにて5000rpmで1時間攪拌分散し、孔径10μm、3μm、1μmのポリプロピレン製フィルタ(それぞれPPE−10、PPE−03、PPE−01、いずれも富士写真フイルム(株)製)にて濾過して得られた分散液29gを添加、攪拌した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して防眩層用の塗布母液として調製した。
【0052】
更にこの溶液に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と略す)を960g添加して、以下の濃度の液を作成した。
【0053】
この塗布液の粘度は0.004N・s/m2 であり、表面張力は0.029N/mであり、固形分と溶媒の質量比は17/83であった。これを調整A液とする。
【0054】
前記の防眩層用の塗布母液のそのままの粘度は0.007N・s/m2 であり、表面張力は0.033N/mであり、固形分と溶媒の質量比は50/50であった。これを調整B液とする
ウエブWとして、厚さ80μmで幅が1300mmのトリアセチルセルロースフィルム(以下、「TAC」と略す)を使用した。
【0055】
ウエブWを走行させながら、本発明のダイコータにより、上記の調整A液の液量をウエブの面積1m2 当り15ml/m2 になるように塗布した。
【0056】
この際、減圧度は0.3kPasで実施した。ダイコータの先端部は、ステンレス鋼製のものを用いた。なお、乾燥時に塗膜面に直接風が当たらないように、塗布直後の塗布膜の10cm上方に囲いを設け、サイドも囲って乾燥した。
【0057】
同様の条件で、TAC製のウエブWを走行させながら、本発明のダイコータにより、上記の調整B液の液量をウエブの面積1m2 当り5ml/m2 になるように塗布した。
【0058】
光学フィルムである反射防止フィルム用の塗布液を、以下のように調整した。
【0059】
屈折率が1.42であり、熱架橋性含フッ素ポリマーの6重量%のメチルエチルケトン溶液(JN−7228、JSR(株)製)93gに、MEK−ST(平均粒径10nm〜20nm、固形分濃度30重量%のSiO2 ゾルのメチルエチルケトン分散物、日産化学(株)製)8g、メチルエチルケトン94g及びシクロヘキサノン6gを添加、攪拌の後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルタ(PPE−01)で濾過して、低屈折率層用塗布液を調製した。この塗布液の粘度は0.001N.s/m2 であり、表面張力は0.024N/mであった。これを調整C液とする。
【0060】
ウエブとして、上記の防眩層が形成されたものを長尺で塗布し、これを送り出し機のローラに巻回して、再度繰り出して走行させた。ウエブの走行速度を10m/分とし、塗布時の膜厚が4μm(塗布量が4ml/m2 )になるようにして、ダイコータにより塗布した。
【0061】
以上の調整A液、調整B液及び調整C液を使用し、塗布速度Vを10〜30m/minに、湿潤状態の塗布膜厚h(塗布量)を4〜15ml/m2 に、スロット長さLを30〜100mmに、スロット幅Dを60〜500μmに、それぞれ変化させて塗布した。
【0062】
また、それぞれの塗布条件において、既述の式1のA値を算出した。
【0063】
塗布結果の評価は、スジの発生状態とウェブの幅方向の分布を目視評価により行った。この目視評価は、塗布後のウェブWを蛍光灯をバックにして行う官能検査である。
【0064】
以上の条件及び結果を図4の表に纏める。
【0065】
図4の表において、A値が1以下である例15〜例18は、スジが発生するなど面状不良を引き起こしており、ウェブの幅方向の分布も△であり、いずれも不良であった。
【0066】
また、A値が大きい(875〜4050)例11〜例14は、吐出不良によるスジが発生するなど面状不良を引き起こしており、ウェブの幅方向の分布も△又は×であり、いずれも不良であった。
【0067】
これに対し、A値が2〜700のものは、スジの発生がなく、ウェブの幅方向の分布も良好であり、総合評価としても良好であった。
〔実施例2〕
ウエブWは、実施例1と同一のもの(TAC)を使用し、塗布液は、実施例1の調整A液を使用した。
【0068】
スロットダイ13の内部のポケット15のサイズが異なるものを3種準備して、ポケット内流速が変化できるようにした。
【0069】
湿潤状態の塗布膜厚h(塗布量)を15ml/m2 に、スロット幅Dを500μmに固定し、塗布速度Vを10m/minに、スロット長さLを50mmに、固定して塗布した。この際のポケット内流速は、1.4〜5.5cm/sであった。
【0070】
それぞれの塗布条件において、既述の式1のA値は、全て4となるように各値を調整した。
【0071】
塗布結果の評価は、ウェブの幅方向の分布を目視評価により行った。この目視評価は、実施例1と同一の官能検査である。
【0072】
以上の条件及び結果を図5の表に纏める。
【0073】
図5の表において、ポケット内の流速が30mm/sを超える55mm/sである例1は、ウェブの幅方向の分布が×であり不良であった。この原因は、ポケット内の流速が高く、動圧の影響で吐出不良となり、分布の悪化となったものと考えられる。
【0074】
これに対し、ポケット内の流速が30mm/s以下の例2及び例3は、ウェブの幅方向の分布が良好であった。この原因は、ポケット内の流速が低く、動圧の影響を受けにくかったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る塗布方法に使用される塗布装置のスロットダイ及び周辺を示す斜視図
【図2】スロットダイの周辺部を示す塗布装置の部分断面図
【図3】スロットダイとウェブとの関係を示す斜視図
【図4】実施例1の条件及び結果を示す表
【図5】実施例2の条件及び結果を示す表
【符号の説明】
【0076】
10…コーター、11…バックアップローラ、13…スロットダイ、14…塗布液、14a…ビード、14b…塗膜、15…ポケット、16…スロット、17…先端リップ、18…ランド、18a…上流側リップランド、18b…下流側リップランド、W…ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の走行方向上流側より減圧チャンバとスロットダイとを隣接して設けるとともに、前記スロットダイに対向させてバックアップローラを設け、前記減圧チャンバにより張力を与えるとともに、前記バックアップローラに巻き掛けて連続走行させる前記支持体上に、前記スロットダイを使用して塗布液を塗布する塗布方法において、
ηが塗布液粘度であり、Vが塗布速度であり、hが湿潤状態の塗布膜厚であり、Lがスロット長さであり、Dがスロット幅で、
A=η×V×h×L×1/D3 のときに、
2N/m2 ≦A≦700N/m2
で前記塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
前記スロットダイのポケット内部における前記支持体幅方向の前記塗布液の流速を30mm/秒以下に設定することを特徴とする請求項1に記載の塗布方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の塗布方法によって得られる塗布層を少なくとも1層有することを特徴とする光学フィルム。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の塗布方法によって得られる塗布層を少なくとも1層有することを特徴とする反射防止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−95491(P2006−95491A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287792(P2004−287792)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】