説明

塗料温度の調整方法、およびこの方法に用いられる塗料温度調整装置

【課題】塗料温度の調整を低エネルギーに実施し得る塗料温度の調整方法および塗料温度調整装置を提供する。
【解決手段】チラー10にて冷却された水7を、塗料タンク1内に配設した熱交換器11へと送る。そして熱交換器11を通過する水7で塗料2との熱交換を行う。熱交換器11での熱交換を終えた水7を保水タンク6へと送り、保水タンク6の内壁面と塗料タンク1の外壁面との間を通過させる際、塗料タンク1内の塗料2との間で、塗料タンク1の側壁もしくは底壁を介して熱交換を連続的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料温度の調整方法、およびこの方法に用いられる塗料温度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品などの塗装作業を行うに際し、塗装設備に供給される塗料温度の上昇を防ぐべく、塗料タンク内に満たされた塗料を冷却する設備が知られている。
【0003】
例えば、特開平6−210232号公報(特許文献1)には、塗料缶内に温度調整水用の蛇管が配設され、この蛇管内に、温度調整装置により適当な温度に調整された温度調整水を通過させることにより、塗料缶内の塗料温度を適正な温度に調整する装置が提案されている。
【0004】
また、特開2004−89833号公報(特許文献2)には、液体を温調水で加熱または冷却する液体温度の管理システムとして、ヒータと、チラーと、ヒータで加温した温水とチラーで冷却した冷水とを混合して温調水とする温冷水混合手段とを有するものが開示されている。そして、ヒータで加温した温水とチラーで冷却した冷水とを温冷水混合手段で混合して温調水とし、この温調水を液体タンクの内容器と外容器との間に形成された流路に流して温調対象とする液体を加熱または冷却することで、液体の温度管理を図っている。
【特許文献1】特開平6−210232号公報
【特許文献2】特開2004−89833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、塗料材料の変更等に伴い、塗料温度の許容範囲が狭まるなど、塗料温度の調整に対する要求が厳しくなる一方で、かかる作業工程における省エネルギー化が重要な命題となっている。言い換えると、環境への負担を極力小さくしつつ、最大のエネルギー効率を発揮し得る生産方法もしくは設備の構築が求められている。
【0006】
例えば、塗装設備内で高温とされた塗料を特許文献1に記載の温調装置を用いて冷却する場合、塗料中に配設される温度調整水用の蛇管の表面のみで熱交換が行われる。そのため、かかる方法で塗料を急速に冷却するには、温度調整水をかなりの低温まで冷却する必要があり、冷却に多大なエネルギーを要する。
【0007】
同様に、特許文献2に記載の温調装置を用いた場合、塗料との熱交換は、塗料タンクの内容器と外容器との間に形成された流路を通過する温調水との間でなされるに過ぎない。そのため、特許文献1と同様、温調水の冷却、ひいては塗料の冷却に多大なエネルギーが必要となる。かかる問題は、低温環境下で適正温度範囲を下回った塗料を加温調整する場合にも同様に生じ得る。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明では、塗料温度の調整を低エネルギーに実施し得る塗料温度の調整方法および塗料温度調整装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、塗料タンク内を満たし塗装設備に供給すべき塗料と熱交換媒体との間で熱交換を行うことにより、塗料の温度調整を行う塗料温度の調整方法であって、熱交換媒体を加熱もしくは冷却する工程と、加熱もしくは冷却された熱交換媒体を、塗料タンク内に配設した熱交換器に送ることで塗料との熱交換を行う第1熱交換工程と、塗料タンクと、塗料タンクを収容する媒体用タンクとの間に第1熱交換工程で熱交換を行った熱交換媒体を送ることで塗料との熱交換を行う第2熱交換工程とを含むことを特徴とする塗料温度の調整方法を提供する。
【0010】
このように、本発明では、第1熱交換工程において、塗料タンク内に配設した熱交換器に熱交換媒体を送ることで、塗料との熱交換を図るようにしたので、かかる熱交換は、塗料タンク内を満たした塗料に熱交換器を浸漬させた状態で行われる。そのため、浸漬した熱交換器の外表面全てを熱交換に用いることができ、言い換えると、塗料と熱交換媒体との熱交換面積を増加させることができ、熱交換効率を従来の構成に比して格段に高めることができる。また、第2熱交換工程では、熱交換器で使用した熱交換媒体をその下流側で再度熱交換に使用することで、熱交換媒体の有する熱交換能を余すことなく有効に利用して、熱交換効率を更に高めることができる。また、塗料の内側と外側の双方から熱交換を行うことで、塗料内に生じる温度差を極力小さくして熱交換を実施することができる。
【0011】
加えて、本発明では、塗料タンクを収容する媒体用タンクを設け、このタンクと塗料タンクとの間に熱交換媒体を送ることで塗料との熱交換を行うようにしたので、塗料タンクの周囲を覆う形で多量の熱交換媒体が保持される。そのため、上述の熱交換作用に加え、塗料タンクの周囲に保持した多量の熱交換媒体により高い断熱・保温作用を得ることができる。従い、塗料の温度調整に総合的に要するエネルギーを低減することができる。また、塗料タンク内における塗料温度の変化や偏りを減じて、塗料の品質を安定化させることができる点でも好ましい。
【0012】
また、第2熱交換工程で熱交換に使用した熱交換媒体を再び加熱・冷却工程へと送り、当該熱交換媒体の熱交換に係る循環系を構成するようにすれば、加熱・冷却を要する熱交換媒体の循環系が1つで済むため、当該媒体の温度調整に要するエネルギーを低減することができ、更なる省エネルギー化を図ることができる。
【0013】
上述の温度調整方法は、例えば以下に示す塗料温度調整装置、すなわち、塗料タンク内を満たし塗装設備に供給すべき塗料との間で熱交換を行う熱交換媒体と、熱交換媒体の加熱もしくは冷却を行う媒体温調装置とを備えたものであって、塗料タンク内に配設される熱交換器と、塗料タンクを収容し、かつ、塗料タンクとの間に熱交換媒体の流通空間を有する媒体用タンクと、媒体温調装置で加熱もしくは冷却された熱交換媒体を、熱交換器を介して流通空間へと送るための駆動部とを備えたことを特徴とする塗料温度調整装置を用いることで実施可能である。
【0014】
上述の発明によれば、媒体温調装置で加熱もしくは冷却された熱交換媒体を塗料タンク内に配設した熱交換器に送ることで、温度調整がなされた熱交換媒体と塗料との間で熱交換が行われる。そして、熱交換器内を通過した熱交換媒体が、塗料タンクと媒体用タンクとの間に形成される流通空間に送られることで、当該熱交換媒体と塗料との間で塗料タンクを介した二次的な熱交換が行われ、塗料の加温もしくは冷却が継続して実施される。加えて、塗料タンクを収容する媒体用タンクの内側に流通空間が形成されることで、例えば駆動部の停止時においても、多量の熱交換媒体が塗料タンクの周囲を覆う形で保持され、当該熱交換媒体により高い断熱・保温作用を得ることができる。以上より、熱交換効率の向上を低エネルギー下で達成し得る。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る塗料温度の調整方法もしくは塗料温度調整装置によれば、塗料温度の調整を低エネルギーに実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る塗料温度の調整方法の一実施形態を図1に基づき説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗料温度調整装置の全体構成図を示している。同図に示すように、この塗料温度調整装置は、塗装設備3に供給すべき塗料2で満たされた塗料タンク1に対して配設されており、塗料タンク1を収容する保水タンク6と、保水タンク6中に満たされる熱交換媒体としての水7と、水7の冷却に用いるチラー10と、塗料タンク1内に配設される熱交換器11と、チラー10で冷却された水7を熱交換器11を介して保水タンク6へと送るためのポンプ9とを備える。この図示例では、ポンプ9は、保水タンク6とチラー10との間の流路8a上に配設されている。
【0018】
熱交換器11には例えばプレート式の熱交換器が用いられ、図示の如く、塗料タンク1内の塗料2に浸漬させた状態で並列に配設されている。また、この図示例では、各熱交換器11は、並列分岐した流路8bを介して熱交換器11の上流側に位置するチラー10に接続されており、かつ、同じく並列分岐した流路8cを介して集束し、その下流側に位置する保水タンク6に接続されている。
【0019】
保水タンク6の内壁面と、保水タンク6に収容される塗料タンク1の外壁面との間は、熱交換媒体としての水7で満たされている。また、この図示例に係る構成の場合、熱交換器11と接続される流路8cの下流端から保水タンク6に流れ込んだ水7は、保水タンク6の内壁面と塗料タンク1の外壁面との間を通過して、保水タンク6の底部に設けた流路8aの開口部(上流端)から流出するようになっている。このようにして、保水タンク6からチラー10、熱交換器11、そしてまた保水タンク6へと至る熱交換媒体としての水7の循環系が構成される。
【0020】
なお、この実施形態では、塗料タンク1は流路4aを介して塗装設備3に接続されており、流路4a上に配設されたポンプ5の作用により、塗料タンク1内の塗料2が塗装設備3へと供給される。また、塗装設備3内で塗装作業に供された塗料2の一部が回収され、流路4bを介して塗料タンク1へと戻るようになっている。このようにして、塗料2の循環系が構成される。また、塗料タンク1には、塗料タンク1内に満たされる塗料2を攪拌するための攪拌装置が設けられおり、上記循環系の作用と相まって、塗料タンク1中の塗料2を均質に保っている。
【0021】
以下、上記構成の塗料温度調整装置を使用した場合の、塗料温度の調整方法の一例を説明する。ここでは、高温状態の塗料2を熱交換媒体としての水7で所定の温度まで冷却する場合を説明する。
【0022】
(1)熱交換媒体冷却工程
まず、ポンプ9を駆動させて、保水タンク6内を満たす水7を流路8aを介してチラー10へと送り出す。そして、チラー10内部で熱交換を受けた水7が、所定の温度にまで冷却される。ここで、チラー10の種類、冷却方式は問わず、空冷式の他、水冷式など種々の冷却方式を採用することが可能である。
【0023】
(2)第1熱交換工程
チラー10にて冷却された水7は、流路8bを介して塗料タンク1内に配設される熱交換器11へと送られる。そして、熱交換器11内に形成された流路(図示は省略)を通過するに伴い、熱交換器11の外表面と接する塗料2との間で熱交換が連続的に実施され、これにより塗料2が冷却される。
【0024】
(3)第2熱交換工程
熱交換器11内の流路を通過した水7は、流路8cを介して保水タンク6へと流れ込む。そして、保水タンク6の内壁面と塗料タンク1の外壁面との間を通過して、保水タンク6底部に設けた開口部から流路8aへと流出する。この際、塗料タンク1の外壁面近傍を通過する水7と塗料タンク1内の塗料2との間で、塗料タンク1の側壁もしくは底壁を介して熱交換が連続的になされる。これにより、塗料2がさらに冷却される。
【0025】
そして、熱交換器11内および保水タンク6内にて塗料2との熱交換を行った水7は、流路8aを介して再びチラー10へと送り出される。このようにして、水7の循環に伴い、上述の工程(1)〜工程(3)を連続的に繰り返すことで、塗料2が連続的に冷却される。そして、塗料タンク1内に配設された温度センサ等により計測した塗料2の温度が所定値以下になった時点で、チラー10の運転を停止すると共に、ポンプ9の駆動を停止しする。
【0026】
このように、チラー10にて冷却され、塗料タンク1内に配設した熱交換器11を通過する水7で塗料2との熱交換を行うことで、塗料2と水7との熱交換面積を大きくとることができ、高い熱交換効率を得ることができる。加えて、熱交換器11で使用した熱交換媒体としての水7をその下流側に位置する保水タンク6内で再度熱交換に使用することで、チラー10にて冷却された水7に残存する熱交換エネルギーを有効に利用して、更に高い熱交換効率を得ることができる。また、この実施形態では、プレート式の熱交換器11を使用し、複数の熱交換器11を塗料2中に浸漬配置したので、塗料2の内側と外側の双方から熱交換を行うことができる。そのため、塗料全体にわたって万遍なく熱交換を行うことが可能となる。
【0027】
また、熱交換器11内および保水タンク6内で熱交換に使用した水7を再びチラー10へと送り、水7の熱交換に係る循環系を構成したので、例えば熱交換媒体としての水7を冷却するためだけに用いる媒体の循環系を別途設ける必要がない。そのため、塗料温度調整装置全体としてのスペースを小さくすることができる。併せて、冷却を要する熱交換媒体の循環系が1つで済むため、冷却に要するエネルギーを低減して、更なる省エネルギー化を図ることができる。また、この場合、保冷タンク6内にて冷却に用いた水7がチラー10に至るまでに相当量のエネルギー(例えば雰囲気との温度差に準じた熱エネルギー)を失うのであれば、熱交換器11で熱交換に用いた水7をその下流側に位置する保水タンク6内で再度熱交換に使用することで、循環時に失う熱エネルギーを熱交換に利用できることとなり、熱効率の点で非常に好ましい。
【0028】
さらには、塗料タンク1を収容する保水タンク6を設け、この保水タンク6の内壁面と塗料タンク1の外壁面との間に熱交換媒体としての水7の流通空間を形成するようにしたので、ポンプ9の駆動停止時であっても、実質的に多量の水7を保水タンク6内に保持することができる。これにより、チラー10による水7の冷却が行われていない状態においても、塗料タンク1の周囲に保持した水7が塗料タンク1内の塗料2に対して断熱・保温機能を有することになり、塗料タンク1内の塗料2の昇温速度を緩和することができる。従い、塗装設備3への供給を継続実施する間の、塗料2の温度調整に要するエネルギーの総量を低減して、かかる作業工程における省エネルギー化を図ることができる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係る塗料温度の調整方法およびこの方法に用いられる温度調整装置は、上記例示に限られることなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能である。
【0030】
例えば、上記実施形態では、塗料タンク1に設けられた温度センサにより、塗料2の温度が所定値以下である場合には、チラー10の運転を停止し、かつ、塗料2の温度が所定の値を超えた場合に、チラー10による冷却およびポンプ9による水7の駆動循環を行うようにして、熱交換の実施もしくは停止を切換えるようにしたが、塗料2の温度の下限値についても制御することは可能である。具体的には、冷却装置としてのチラー10と加温装置としてのヒータとを併設し、水7の流路を塗料2温度に応じてチラー10とヒータとに適宜切換えることで、各熱交換部(熱交換器11および保水タンク6内)における塗料2との熱交換の正負を入れ替えることも可能である。あるいは、同様に図示は省略するが、保水タンク6内に適当なヒータを配設し、低温時にはこれを稼動させることにより水7を介して塗料2を加温するようにしても構わない。もちろん、加温調整のみを目的とするのであれば、図1におけるチラー10をヒータに置換した構成を採るだけでもよい。
【0031】
また、以上の説明では、塗料2との熱交換媒体として水7を用いた場合を説明したが、特にこれに限る必要はい。液体、気体などの他の流体を熱交換媒体として使用するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗料温度調整装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 塗料タンク
2 塗料
3 塗装設備
4a、4b 流路
5 ポンプ
6 保水タンク
7 水
8a、8b、8c 流路
9 ポンプ
10 チラー
11 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料タンク内を満たし塗装設備に供給すべき塗料と熱交換媒体との間で熱交換を行うことにより、前記塗料の温度調整を行う塗料温度の調整方法であって、
前記熱交換媒体を加熱もしくは冷却する工程と、
加熱もしくは冷却された前記熱交換媒体を、前記塗料タンク内に配設した熱交換器に送ることで前記塗料との熱交換を行う第1熱交換工程と、
前記塗料タンクと、前記塗料タンクを収容する媒体用タンクとの間に前記第1熱交換工程で熱交換を行った前記熱交換媒体を送ることで前記塗料との熱交換を行う第2熱交換工程とを含むことを特徴とする塗料温度の調整方法。
【請求項2】
塗料タンク内を満たし塗装設備に供給すべき塗料との間で熱交換を行う熱交換媒体と、該熱交換媒体の加熱もしくは冷却を行う媒体温調装置とを備えたものであって、
前記塗料タンク内に配設される熱交換器と、
前記塗料タンクを収容し、かつ、前記塗料タンクとの間に前記熱交換媒体の流通空間を有する媒体用タンクと、
前記媒体温調装置で加熱もしくは冷却された前記熱交換媒体を、前記熱交換器を介して前記流通空間へと送るための駆動部とを備えたことを特徴とする塗料温度調整装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−28630(P2009−28630A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194628(P2007−194628)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】