説明

塗料組成物、塗装仕上げ方法及び塗装物品

【課題】 耐擦り傷性、耐候性が良好であり、特に耐水しみ性に優れた塗膜が得られるクリヤー塗料組成物、および塗装物品を提供する。
【解決手段】
樹脂分子中にε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)と、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)とを有しており、ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有割合が15質量%以上であり、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率である(A)/(B)が1/1〜1/0.5の範囲であるアクリル樹脂及びイソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、該クリヤー塗料組成物から得られる硬化塗膜の20℃における破断伸び率が20〜40%であり、架橋間分子量が300〜400g/molの範囲であることを特徴とするクリヤー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦り傷性、耐候性が良好であり、特に耐水しみ性に優れた塗膜が要求される分野で用いられる塗料組成物及びその塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車塗装分野において、特にクリヤー塗料は、塗膜の耐候性、耐酸性雨性、耐洗車傷性が要求されている。近年、洗車機による擦り傷発生を防止・抑制し、さらに天然曝露における耐水しみ性に優れることが要求されている。
【0003】
耐洗車機傷性、耐泥汚れ性、耐候性に優れた塗膜が得られる塗料組成物として、(A)ε−カプロラクトンの構成単位を樹脂固形分中に35〜50質量%含み、水酸基価が200〜340mgKOH/g、重量平均分子量が5,000〜15,000であるアクリル共重合体と、(B)非黄変型ポリイソシアネート化合物とを含有する塗料組成物であって、(A)成分の水酸基1当量に対して(B)成分のイソシアネート基を0.5〜2当量の割合で含有し、該塗料組成物から得られる硬化塗膜のヤング率が1.5Pa以下、架橋間分子量(Mc)が350g/mol以下であり、かつ硬化塗膜のガラス転移温度(Tg)が65℃以上であるクリヤー塗料組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この塗料組成物では、樹脂固形分中の多量のε−カプロラクトンの構成単位を含有するため、耐酸性雨性が劣るという問題があった。
【0004】
また、耐擦り傷性、耐酸性、耐久性、耐汚染性に優れた塗膜が得られる塗料組成物として、基体樹脂が、(A)水酸基価が50〜400mgKOH/gであり、ラクトン化合物に基づく構成単位を20〜70質量%含有する水酸基含有ラクトン変性樹脂と、(B)水酸基価が50〜150mgKOH/gであり、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位を10〜80質量%含有する水酸基及び環構造含有アクリル樹脂とからなり、架橋用樹脂がイソシアネート化合物である熱硬化性塗料組成物であって、(A)/(B)の樹脂固形分質量比が95/5〜20/80である熱硬化性塗料組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、この塗料組成物では、優れた耐擦り傷性及び耐酸性雨性を有することができるが、異なる2つの樹脂を製造することによるコストアップと生産性の低下並びにさらなる高品質を追求するにあたり、組み合わせという障害による設計上の困難さが問題となっていた。
【0006】
また、耐擦り傷性、耐酸性、耐汚染性、仕上がり性及び優れた塗膜が得られる塗料組成物として、特定比率の(a)炭素原子数3〜20の脂環式炭化水素基含有重合性不飽和単量体、(b)スチレン、(c)水酸基含有重合性不飽和単量体、(d)炭素原子数8〜22の分岐構造を有する炭化水素基含有重合性不飽和単量体及び(e)その他の重合性不飽和単量体からなる単量体混合物を共重合して得られる、重量平均分子量が1,500〜30,000であり、且つその水酸基価が120〜180mgKOH/gである塗料用の水酸基含有樹脂、並びに該塗料用樹脂(A)及び特定の脂肪族系ポリイソシアネート化合物(B)を含有することを特徴とする塗料組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この塗料組成物では、特定の脂肪族系ポリイソシアネート化合物を使用するため汎用性において、不充分である。

【0007】
また、高い耐擦傷性を有する塗料組成物として、短側鎖ヒドロキシ基(a1)と長側鎖ヒドロキシ基(a2)とを含有するアクリル樹脂(A)とポリイソシアネートプレポリマー(C)を必須とし、必要に応じてポリラクトンポリオール(B)をも含み、短側鎖ヒドロキシ基(a1)と長側鎖ヒドロキシ基(a2)の含有比率、短側鎖ヒドロキシ基(a1)と長側鎖ヒドロキシ基(a2)の合計ヒドロキシル価、アクリル樹脂(A)とポリラクトンポリオール(B)の固形分割合、ポリイソシアネートプレポリマー(C)の配合量がそれぞれ特定範囲であることを特徴とする塗料組成物が知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、この塗料組成物では、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位を含まないため、耐水しみ性に劣るという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−023069号公報
【特許文献2】特開2006−348172号公報
【特許文献3】再公表WO2006/028130号公報
【特許文献4】特開2007−31690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐擦り傷性、耐候性が良好であり、特に耐水しみ性に優れた塗膜が得られるクリヤー塗料組成物及びその塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意研究をすすめた結果、樹脂分子中に特定量のε−カプロラクトンに基づく構成単位(A)と環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位とを特定の質量比率の範囲で有するアクリル樹脂と、イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物を用い、該クリヤー塗料組成物から得られる硬化塗膜の20℃における破断伸び率を20〜40%にし、架橋間分子量を300〜400g/molの範囲にすることにより、その目的を達成出来ることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、樹脂分子中にε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)と、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)とを有しており、ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有割合が15質量%以上であり、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率である(A)/(B)が1/1〜1/0.5の範囲であるアクリル樹脂及びイソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、該クリヤー塗料組成物から得られる硬化塗膜の20℃における破断伸び率が20〜40%であり、架橋間分子量が300〜400g/molの範囲であることを特徴とするクリヤー塗料組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記塗料組成物において、環構造を有するラジカル重合性単量体が、スチレン、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルアクリレート及びtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる1種以上のモノマーである塗料組成物を提供する。
さらに、本発明は、上記の塗料組成物を上塗り塗料として塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法、及びその塗装仕上げ方法によって得られる塗装物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクリヤー塗料組成物は、耐擦り傷性、耐候性が良好であり、特に耐水しみ性に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において使用されるアクリル樹脂は、樹脂分子中にε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)を有する。該構成単位(A)としては、例えば、水酸基含有ラジカル重合性単量体に開環付加したε−カプロラクトンに基づく構成単位などが挙げられる。ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)は、通常、開環付加したε-カプロラクトンの先端部は、水酸基を有している。
【0015】
ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)とは、ε−カプロラクトンが開環付加したラジカル重合性単量体の構成単位の全体を示すのではなく、開環付加したε-カプロラクトンのみを示すものである。
該構成単位(A)の具体例としては、下記水酸基含有ラジカル重合性単量体に開環付加したε−カプロラクトンに基づく構成単位などが挙げられる。
【0016】
水酸基含有ラジカル重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。水酸基含有ラジカル重合性単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)は、上記水酸基含有ラジカル重合性単量体にε−カプロラクトンを開環付加したカプロラクトン変性ラジカル重合性単量体などのε−カプロラクトンを開環付加したカプロラクトン変性ラジカル重合性単量体を共重合させることにより、アクリル樹脂分子中に構成単位として含有させることができる。
【0017】
ε−カプロラクトンを開環付加したカプロラクトン変性ラジカル重合性単量体の市販品としては、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルに、ε−カプロラクトンを開環付加させたラジカル重合性単量体である市販品が挙げられる。この市販品の具体例としては、プラクセルFA−1(商品名、ダイセル化学工業(株)製、2−ヒドロキシエチルアクリレート1モルにε−カプロラクトン1モルを開環付加した単量体)、プラクセルFM−1D、プラクセルFM−2D、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4(いずれも商品名、ダイセル化学工業(株)製、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1モルにε−カプロラクトンをそれぞれ1モル、2モル、3モル、4モルをそれぞれ開環付加した単量体)などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0018】
ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)は、アクリル樹脂分子中に15質量%以上含有する。ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有量が15質量%未満の場合には、塗膜の伸び率が小さく、耐擦り傷性に劣る。ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有量は、より好ましくはアクリル樹脂分子中に15〜30質量%である。30質量%を超える場合、耐酸性雨性に劣る。ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有量は、特に好ましくはアクリル樹脂分子中に18〜27質量%である。
【0019】
本発明において使用されるアクリル樹脂は、樹脂分子中に環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)を有する。
構成単位(B)は、環構造を有するラジカル重合性単量体を共重合させることにより、アクリル樹脂分子中に構成単位として含有させることができる。

環構造を有するラジカル重合性単量体としては、スチレン、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルアクリレート及びtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートなどが好ましく挙げられ、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。特に好ましいのは、スチレン、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートである。
【0020】
本発明において使用されるアクリル樹脂は、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率である(A)/(B)が1/1〜1/0.5の範囲である。アクリル樹脂における(A)/(B)の質量比率が、1/0.5より大きい場合、すなわち、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)が少ない場合、耐水しみ性と耐酸性雨性とに劣る。アクリル樹脂における(A)/(B)の質量比率が、1/1より小さい場合、すなわち、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)が多い場合、塗膜の伸び率が小さく、耐擦り傷性に劣る。
【0021】
本発明において使用されるアクリル樹脂は、樹脂分子中にその他のラジカル重合性単量体に基づく構成単位を有していてもよい。
その他のラジカル重合性単量体に基づく構成単位の含有割合は、樹脂分子中40〜77.5質量%が好ましく、45〜75質量%がより好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。
その他のラジカル重合性単量体としては、ε−カプロラクトンを開環付加させていない水酸基含有ラジカル重合性単量体、共重合可能な他のビニル系単量体等が挙げられる。
【0022】
ε−カプロラクトンを開環付加させていない水酸基含有ラジカル重合性単量体としては、上記した水酸基含有ラジカル重合性単量体と同様なものが挙げられる。水酸基含有ラジカル重合性単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
ε−カプロラクトンを開環付加させていない水酸基含有ラジカル重合性単量体に基づく構成単位の含有割合は、樹脂分子中1〜15質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましく、3〜9質量%がさらに好ましい。
【0023】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びそのアルキル置換体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基酸のエステル;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、及び塩化ビニル等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸及びそのアルキル置換体、並びにアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。共重合可能な他のビニル系単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0024】
(メタ)アクリル酸及びそのアルキル置換体に基づく構成単位の含有割合は、樹脂分子中0.1〜3質量%が好ましく、0.2〜2.5質量%がより好ましく、0.3〜2質量%がさらに好ましい。また、アルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位の含有割合は、樹脂分子中5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、12〜35質量%がさらに好ましい。
【0025】
本発明に使用されるアクリル樹脂の製造方法としては、(1)水酸基含有ラジカル重合性単量体にε−カプロラクトンを開環付加させたカプロラクトン変性ラジカル重合性単量体と、環構造を有するラジカル重合性単量体、および必要に応じて他のビニル系単量体を共重合する方法、また、(2)水酸基含有ラジカル重合性単量体と、環構造を有するラジカル重合性単量体、および必要に応じて他のビニル系単量体を共重合する際に、共重合反応中もしくは反応後に、ε−カプロラクトンを開環付加する方法などが挙げられる。なお、上記方法において、水酸基含有ラジカル重合性単量体の水酸基は、全てε−カプロラクトンを開環付加させる必要はなく、例えば、(1)の方法において、ε−カプロラクトンを開環付加させていない水酸基含有ラジカル重合性単量体を共重合させてもよいし、また、(2)の方法において、ε−カプロラクトンを開環付加させていない水酸基含有ラジカル重合性単量体に基づく構成単位を存在させてもよい。
【0026】
アクリル樹脂を製造する際には、通常、重合開始剤が用いられる。重合開始剤としては、有機過酸化物系重合開始剤、アゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤の使用量は、特に制限ないが、通常単量体の総量に対して0.5〜15質量%が好ましい。
また、本発明に使用するアクリル樹脂の製造において用いられる有機溶剤の適当な例としては、例えばシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸3−メトキシブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)等のエステル系溶剤、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等のエーテル系溶剤、アセトニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等の含窒素系溶剤が挙げられる。有機溶剤は1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。この際、水酸基含有樹脂の固形分濃度は樹脂の分散安定性を損なわない範囲において任意に選ぶことができるが、通常固形分濃度で10〜70質量%である。
【0027】
本発明のクリヤー塗料組成物において用いるイソシアネート化合物としては、脂肪族及び脂環式のポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートと多価アルコール及び/又は低分子量のポリエステルポリオールとの反応物、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネートの重合体であるイソシアヌレート体や、ウレタン結合にさらに反応して得られるビューレット体などが挙げられる。
【0028】
また、これらの重合体におけるイソシアネート基が水酸基を有する化合物などでマスクされたブロックイソシアネートも好ましく用いられる。また、上記以外のジイソシアネート化合物の重合体などの種々の非黄変型ポリイソシアネート化合物も使用できる。イソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
本発明におけるアクリル共重合体とイソシアネート化合物との含有割合は、アクリル共重合体の水酸基1当量に対してイソシアネート化合物成分のイソシアネート基が0.2〜2当量であり、好ましくは0.5〜1.5当量であり、特に好ましくは0.6〜1.2当量である割合である。アクリル共重合体の水酸基1当量に対してイソシアネート化合物のイソシアネート基が0.5当量未満では硬化性が不十分となり、2当量を超えると、耐擦り傷性が低下する。
【0030】
本発明のクリヤー塗料組成物は、上記成分を含有させ、あるいは必要に応じて、有機溶剤、各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、表面調整剤、硬化反応触媒、帯電防止剤、香料、脱水剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などを添加して使用することができる。

【0031】
本発明のクリヤー塗料組成物は、該クリヤー塗料組成物から得られる硬化塗膜の20℃における破断伸び率が20〜40%、好ましくは20〜35%、特に好ましくは20〜30%であり、架橋間分子量が300〜400g/mol、好ましくは330〜380g/molである範囲になるように、前記成分が調整される。硬化塗膜の破断伸び率が20%未満の場合は、耐擦り傷性に劣る。また、硬化塗膜の破断伸び率が40%を超える場合は、耐候性・耐水しみ性に劣る。硬化塗膜の架橋間分子量が300未満である場合は、耐擦り傷性に劣り、また、硬化塗膜の架橋間分子量が400を超える場合は耐候性・耐酸性雨性に劣る。
【0032】
本発明における破断伸び率の測定方法は、単離塗膜を、引っ張り試験機(東洋ボールドウィン(株)製、商品名「テンシロン/UTM−III−200」)にて、20℃で、毎分サンプル長の10%の引張り速度にて試験し、塗膜が破断される時の伸び率を算出したものである。
本発明における硬化塗膜の架橋間分子量(Mc)は、単離塗膜を強制伸縮振動型粘弾性測定装置(東洋ボールドウィン(株)製、商品名「レオバイブロンDDV−II−EA」)を用いて、周波数110ヘルツ、昇温速度2℃/分において測定したゴム領域における動的剛性率から得られる値であり、下記の式にて表される。
【0033】
Mc=293×ρ/(log10G’−7)
ここで、Mcは架橋間分子量(g/mol)であり、ρは塗膜密度(g/cm)であり、G’はゴム領域における動的剛性率(E’/3(10−9N/m2))であり、E’はゴム領域における動的弾性率(10−9N/m2)である。
【0034】
本発明の塗装仕上げ方法は、上記本発明のクリヤー塗料組成物を上塗り塗料として塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法である。
本発明の塗装仕上げ方法の具体例としては、例えば、基材上に着色ベースコート塗料を塗装し、未架橋のままクリヤー塗料として該クリヤー塗料組成物を塗装する2コート1ベーク塗装仕上げ方法、または、基材上に着色ベースコート塗料を塗装し、未架橋のままクリヤー塗料を塗装し、同時に焼き付けた後に、オーバーコートクリヤー塗料として該クリヤー塗料組成物を塗装し焼き付けるオーバーコート塗装仕上げ方法などが挙げられる。また、上記オーバーコート塗装仕上げ方法において、下地クリヤーコート塗膜との密着性確保のために、透明プライマー塗料を塗装し、未架橋のままオーバーコートクリヤー塗料として該クリヤー塗料組成物を塗装する塗装仕上げ方法等も挙げることができる。
【0035】
本発明のクリヤー塗料組成物を塗装する基材としては、木、ガラス、金属、布、プラスチック、発泡体、弾性体、紙、セラミック、コンクリート、石膏ボード等の有機素材及び無機素材などが挙げられる。これらの基材は、予め表面処理されたものでもよいし、予め表面に塗膜が形成されたものでもよい。
表面処理としては、リン酸亜鉛処理などの化成処理などが挙げられる。予め表面に形成された塗膜としては、カチオン電着塗料を塗装して得られる塗膜、中塗り塗料を塗装して得られる塗膜、又はカチオン電着塗料を塗装して得られる塗膜の上に、中塗り塗料を塗装して得られる塗膜などが挙げられる。
【0036】
本発明に用いられるカチオン電着塗料、中塗り塗料は、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の塗料を用いることができる。
本発明に用いられる着色ベースコート塗料は、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の塗料を用いることができる。
本発明に用いられる着色ベースコート塗料の樹脂成分として、基体樹脂及び硬化剤を含有することができる。その基体樹脂としては、特に制限がなく、公知の水系または溶剤系の樹脂成分を用いることができる。例えば、樹脂成分の基体樹脂の具体例としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などの樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
硬化剤としては、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
着色ベースコート塗料には、無機顔料、有機顔料、アルミ顔料、パール顔料、体質顔料などの各種顔料の1種以上を含有させる。また、着色ベースコート塗料には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などなどの1種以上を含有させてもよい。
【0038】
着色ベースコート塗膜の乾燥膜厚は、8〜25μmが好ましく、より好ましくは、10〜20μmである。
前記着色ベースコート塗料、クリヤー塗料、オーバーコートクリヤー塗料、及び透明プライマー塗料は、必要に応じて加温したり、有機溶剤又は反応性希釈剤を添加することにより所望の粘度に調整した後、エアースプレー、静電エアースプレー、ロールコーター、フローコーター、ディッピング形式による塗装機等の通常使用される塗装機、又は刷毛、バーコーター、アプリケーターなどを用いて塗装が行われる。これらのうちスプレー塗装が好ましい。
【0039】
本発明のクリヤー塗料組成物を塗布して得られる塗膜の厚みは、特に制限ないが、通常乾燥後の膜厚が10〜150μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
クリヤーコート塗膜層の焼付け温度は、通常120〜180℃の範囲で適宜選定すればよく、焼付け時間は、通常10〜60分間の範囲で適宜選定すればよい。
着色ベース塗膜層は、クリヤー塗膜層と同じ条件で焼付けてもよいが、通常は、焼付け硬化をせず、ウェットオンウェットにて、クリヤー塗膜と同時に焼付けることが多い。
以上、具体例を示したが、本発明のクリヤー塗料組成物の塗装仕上げ方法は、これらにより何ら制限されるものではない。
【0040】
本発明のクリヤー塗料組成物を塗装して得られる塗装物品としては、例えば、構造物、木製品、金属製品、プラスチック製品、ゴム製品、加工紙、セラミック製品、ガラス製品などが挙げられる。より具体的には、自動車、自動車用部品(例えば、ボディー、バンパー、スポイラー、ミラー、ホイール、内装材等の部品であって、各種材質のもの)、鋼板等の金属板、二輪車、二輪車用部品、道路用資材(例えば、ガードレール、交通標識、防音壁等)、トンネル用資材(例えば、側壁板等)、船舶、鉄道車両、航空機、家具、楽器、家電製品、建築材料、容器、事務用品、スポーツ用品、玩具などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例および比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。本発明の塗料組成物により得られる塗膜の性能は次のようにして評価した。なお、破断伸び率、架橋間分子量は、本願明細書の段落[0032]に記載されている方法により測定した。
(1)耐擦り傷性
塗膜試験片のクリヤー膜の表面の明度を変角色差計( スガ試験機社製)で測定し、L0を求めた。明度の測定は、光の入射をクリヤー膜測定面に垂直とし、その反射光の受光角を光入射から10度ずれたところとした。各試験片のクリヤー膜側にそれぞれ試験用ダスト水(JIS Z8901規定の20%水溶液)0.5ccをピペットを用いて落し、次に、刷毛を用いて該ダスト水を試験片のクリヤー膜全面に広げた(ダスト水塗布)。そして、ミニ洗車機(BASFコーティングスジャパン(株)製)の水平台上に、ダスト水塗布後の各試験片を、クリヤー膜を上にして置き、ミニ洗車機に水を4リットル/分の量速で流し、ミニ洗車機の回転速度を150rpmに設定してミニ洗車機を10秒間運転して、各試験片の表面(クリヤー塗膜表面)を洗った。試験用ダスト水塗布とミニ洗車機での洗浄を1サイクルとし、5回のサイクルを行った後、イソプロピルアルコールを含ませた脱脂綿で試験片表面を軽く拭き取った。そして、1時間放置後にL0測定に用いたのと同じ色差計で、クリヤー膜表面の明度(L1)を測定し、上記試験前のL0との明度色差(
△L1= L0−L1)を求めて、下記の基準で評価した。
○ : △ L1 = 5 以下
× : △ L1 = 6 以上
【0042】
(2)耐候性(耐水しみ性)
沖縄に設置されたブラックボックス曝露台(南面向き、角度30°)に試験板を取り付け、曝露期間1年後の塗膜の外観・水しみ発生を観察により、次の基準に従い評価した。
○:塗膜に水しみ発生がない。
×:塗膜に水しみ発生が著しい。
【0043】
(3)耐酸性雨性
40質量%硫酸2mlを試験板上にスポット状に乗せ、60℃で30分間放置後、塗膜の異常を目視で判定した。
○;塗膜に異常なし
△;光沢低下あり
×;著しくツヤビケあり
【0044】
(製造例1〜10)
<アクリル共重合樹脂A−1〜10の製造>
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、表1及び表2に記載した数量のキシレン/メチルアミルケトン=18部/7部の反応溶剤を仕込み、140℃に昇温した。続いて、滴下成分として記載した単量体および重合開始剤の混合物を滴下ロートより2時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間還流温度を保ち内容物を100℃まで冷却した。100℃まで冷却後、追加触媒を滴下した。その後100℃の温度で3時間保ったところで重合反応を終了し、シンニング溶剤を加え、樹脂A−1〜10の溶液を得た。
なお、表中の「プラクセルFM−1」は、ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基にε−カプロラクタム1モルが付加した単量体であり、「プラクセルFM−2」は、ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基にε−カプロラクタム2モルが付加した単量体であり、共にダイセル化学工業(株)から市販されている。
【0045】








【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
(製造例11〜20)
<クリヤー塗料CC―1〜10の製造>
表3に記載した原料を順次混合して均一になるように撹拌し、クリヤー塗料CC―1 〜10を作成した。
【0048】
【表3】

【0049】
≪表の注記≫
1)デスモジュールN3300:商品名、住化バイエルウレタン(株)製、液状ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプ樹脂(不揮発分100質量%、NCO含有率21.8質量%)
2)チヌビン900:商品名、チバスペシャルティケミカルス社製、紫外線吸収剤溶液、20質量%キシレン溶液
3)チヌビン292:商品名、チバスペシャルティケミカルス社製、光安定剤溶液、20質量%キシレン溶液
4)BYK−300:商品名、ビックケミー社製、表面調整剤溶液、10質量%キシレン溶液
5)ソルベッソ100:商品名、エッソ社製、芳香族石油ナフサ
【0050】
(実施例1〜4)
試験片の作成及び塗膜性能の検討
リン酸亜鉛処理軟鋼板にカチオン電着塗料カソガードNo.300(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚20μmとなるよう電着塗装して175℃で25分間焼き付け、さらに中塗り塗料アクアGXシーラー(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製)を乾燥膜厚30μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けた。次に、水系着色ベースコート塗料であるアクアBC−3黒(商品名、BASFコーティングスジャパン(株)製、塗色:黒)を乾燥膜厚12μmとなるようエアスプレー塗装し80℃で3分間フラッシュした後、クリヤー塗料をソルベッソ100(商品名、エッソ(株)製、芳香族石油ナフサ)で塗装粘度(フォードカップNo.4、20℃で25秒)に希釈したものをウェット・オン・ウェット方式でそれぞれ乾燥膜厚40μmとなるようエアスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて試験片を作成した。
実施例の塗膜性能を表4に示すが、いずれの場合も、優れた耐洗車傷性、耐酸性雨性、耐水しみ性を示した。
【0051】
【表4】

【0052】
(比較例1〜6)
クリヤー塗料をCC−5〜10とした以外は、実施例と同様にして、試験片を作成した。塗膜性能を表5に示す。
比較例1は環構造を有するラジカル重合性単量体(B)を含まないため、耐水しみ性と耐酸性雨性とが不十分だった。比較例2はε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有量が少ないため、塗膜の伸び率が小さく、耐擦り傷性が不十分だった。さらに、比較例3は比較例1と同様に環構造を有するラジカル重合性単量体(B)を含まないため、耐水しみ性と耐酸性雨性とが不十分だった。比較例4は環構造を有するラジカル重合性単量体(B)の含有量が、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率((A)/(B))の1/1〜1/0.5の範囲より、少ないため、耐水しみ性と耐酸性雨性とが不十分だった。
【0053】
比較例5は環構造を有するラジカル重合性単量体(B)の含有量が環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率((A)/(B))の1/1〜1/0.5の範囲より、多いため、塗膜の伸び率が小さく、耐擦り傷性が不十分だった。さらに比較例6は、ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)をアクリル樹脂固形分中に15質量%以上有し、かつ環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)を有していて、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率((A)/(B))の1/1〜1/0.5の範囲であるが、硬化塗膜における架橋間分子量が450g/molであり、架橋密度が疎であるため、耐擦り傷性・耐水しみ性と耐酸性雨性共に不十分だった。
【0054】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂分子中にε‐カプロラクトンに基づく構成単位(A)と、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)とを有しており、ε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の含有割合が15質量%以上であり、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(B)に対するε-カプロラクトンに基づく構成単位(A)の質量比率である(A)/(B)が1/1〜1/0.5の範囲であるアクリル樹脂及びイソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、該クリヤー塗料組成物から得られる硬化塗膜の20℃における破断伸び率が20〜40%であり、架橋間分子量が300〜400g/molの範囲であることを特徴とするクリヤー塗料組成物。
【請求項2】
環構造を有するラジカル重合性単量体が、スチレン、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、tert−ブチルシクロヘキシルアクリレート及びtert−ブチルシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる1種以上のモノマーである請求項1記載のクリヤー塗料組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のクリヤー塗料組成物を上塗り塗料として塗装することを特徴とする塗装仕上げ方法。
【請求項4】
請求項3に記載の塗装仕上げ方法により得られる塗装物品。


【公開番号】特開2010−106203(P2010−106203A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281953(P2008−281953)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(599076424)BASFコーティングスジャパン株式会社 (59)
【Fターム(参考)】