説明

塗料組成物及び膜形成方法

【課題】 分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル構造を有するポリシロキサン、該フッ素原子含有ポリマー、及び該フッ素原子含有ポリマーの架橋剤が、より安定に分散、溶解している塗料組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】 分子内にエーテル基を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンと、該フッ素ゴムポリマーの架橋剤と、ケトン系またはエステル系の溶媒と、アルコールとを含んでいることを特徴とする塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが微分散された膜を得るための塗料組成物及びそれを用いた膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムからなる膜は、優れた柔軟性に加えて、耐熱性及び機械的強度に優れていることから、様々な分野の物品の外装被覆の用途に採用されている。
フッ素ゴムは、架橋前の状態であっても極めて粘性が高いため、成膜のためには、当該架橋前のフッ素ゴムを溶媒に溶解した塗料を調製する必要がある。ここで、当該溶媒としては、ケトン系またはエステル系の溶媒が知られている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「フッ素樹脂ハンドブック」 日刊工業社、p.591(1.4.7 コーティング加工)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、上記したフッ素ゴムからなる膜の表面特性の改良をはかるべく種々の検討を重ねた。その結果、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンを微分散させることにより、フッ素ゴム本来の柔軟性を維持しつつ、表面にワックス等の油状物質を均一に保持することのできる表面性を備えた膜の開発に成功した。
【0004】
かかる膜は、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンと、該フッ素原子含有ポリマーの架橋剤とを含む塗料の塗膜を架橋させることによって得られる。こうして得られた膜は、エーテル結合を有するフッ素ゴムのマトリクス中にポリエーテル構造を有するポリシロキサンが微細な島状に均一に分散した構造を有する。かかる膜は、フッ素ゴムマトリクス中に微細に分散した、油状物質との親和性が高いポリシロキサンにより、表面への油状物質の付着性が均一となる。またフッ素ゴムを含むことにより、優れた柔軟性をも備えている。かかる膜は、例えば防錆用の膜や、防汚性に優れた外装材用の膜などに適用し得るものと考えられる。
【0005】
本発明者等は、上記した、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンと、該フッ素原子含有ポリマーとを含む塗料を調製する際の溶媒として、上記非特許文献1に基づき、メチルイソブチルケトンを用いた。
【0006】
このような溶媒を用いて得られる塗料の塗膜を基材上にスプレー塗工法によって形成し、該塗膜を架橋させることで、エーテル結合を有するフッ素ゴムのマトリクス中にポリエーテル構造を有するポリシロキサンが微細な島状に均一に分散した構造の膜を得られる。しかし、塗工方法として、浸漬法等の方法を採用した場合、必ずしもポリシロキサンがフッ素ゴムマトリクス中に微細に分散してなる構造の膜を得られないことがあった。これは、塗膜の乾燥がスプレー法による塗膜と比較して遅い浸漬法を採用したことにより、当該塗料の各成分の溶解状態または分散状態の不安定性が顕在化したものと推察した。
【0007】
そこで、スプレー塗工法に比較して塗料の利用効率の高い浸漬法等を採用した場合にも、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが微細な島状に均一に分散した構造の膜を得ることができるような安定性に優れた塗料組成物を得る必要があるとの認識を得るに至った。
【0008】
そこで、本発明の目的は、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル構造を有するポリシロキサン、該フッ素原子含有ポリマー、及び該フッ素原子含有ポリマーの架橋剤が、より安定に分散、溶解している塗料組成物を得る点にある。
【0009】
また本発明の他の目的は、塗工方法によらず、エーテル結合を有するフッ素ゴムのマトリクス中にポリエーテル構造を有するポリシロキサンが微細な島状に均一に分散した構造の膜を形成することのできる膜形成方法を得る点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる塗料組成物は、
(1)分子内にエーテル基を有するフッ素原子含有ポリマーと、
(2)ポリエーテル構造を有するポリシロキサンと、
(3)該フッ素ゴムポリマーの架橋剤と、
(4)ケトン系またはエステル系の溶媒と、
(5)アルコールと、を含んでいることを特徴とする。
【0011】
また本発明にかかる、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが島状に分散している膜の形成方法膜形成方法は、基材表面に、上記塗料組成物の塗膜を形成する工程と、該塗膜中のフッ素ゴムポリマーを架橋させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜の構成成分である上記(1)乃至(3)の分散、溶解状態が安定し、長時間の放置などによっても上記(1)乃至(3)の各成分が相分離し難い塗料組成物を得ることができる。
【0013】
本発明によって、このような効果が得られる詳細なメカニズムは未だ解明中であるが、フッ素原子含有ポリマーのエーテル部位と、ポリシロキサンのエーテル部位と、アルコールの水酸基の相互作用により、相分離しにくい塗料組成物が得られるものと考えられる。例えば、水酸基を持たないケトン系やエステル系の溶媒のみでは、これらの成分は相分離してしまうからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが島状に分散している膜について>
本発明にかかる膜は、エーテル結合を有するフッ素ゴムとポリエーテル構造を有するポリシロキサンとを含んでいる。
【0015】
フッ素ゴムからなる膜は、ワックス等の油状物質とは一般に親和性が低い。このような膜表面の油状物質との親和性を向上させる手段として、フッ素ゴム中に、油状物質との親和性が相対的に高いポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等)を分散させる方法が考えられる。
【0016】
しかし、フッ素ゴムとポリシロキサンとは親和性が低い為、これらの分散状態が不均一となり易い。この場合、当該膜表面への油状物質の付着性も不均一となり易い。
【0017】
一方、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーと、ポリエーテル結合を有するポリシロキサンとを含む塗料の塗膜を架橋せしめることにより、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが微細に分散した構成の表層を得ることができる。即ち、フッ素ゴムの原料として、架橋し得る、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーを用いる。それと共に、ポリシロキサンとして、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンを用いる。これらを本発明の塗料中に共存させた場合、フッ素原子含有ポリマーとポリシロキサンとは親和性に優れ、フッ素原子含有ポリマー中にポリシロキサンを微細に分散させることができる。
【0018】
このような塗料の塗膜を架橋させると、エーテル結合を有するフッ素ゴムをマトリクスとし、エーテル構造を有するポリシロキサンが該マトリクス中に島状に均一に微分散してなる構造を有する膜を得ることができる。
【0019】
このような膜の表面には、油状物質を均一に付着させることができる。
【0020】
ここで、表層中の、ポリシロキサンからなる島部分の個数基準の平均粒径は0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。油状物質を表層の表面に均一に且つ確実に保持させることができるからである。
【0021】
なお、本発明において、島部分の平均粒径の測定は、電子顕微鏡やビデオマイクロスコープによって行なうことができる。無作為に20箇所の島部分を選択し、その島部分の長径を測定する。測定された値のうち、最も大きい側値及び最も小さい側から各々3つの値を除いた14の測定値の平均値をもって島部分の平均粒径と定義する。
【0022】
<塗料組成物について>
次に、上記したような膜を与える、本発明にかかる塗料組成物について説明する。
本発明にかかる塗料組成物は、下記(1)乃至(5)を含んでいる。
(1)分子内にエーテル基を有するフッ素原子含有ポリマー;、
(2)ポリエーテル構造を有するポリシロキサン;
(3)該フッ素ゴムポリマーの架橋剤;
(4)ケトン系またはエステル系の溶媒;及び、
(5)アルコール。
【0023】
以下に上記(1)乃至(5)の材料について順次説明する。
(1)フッ素原子含有ポリマー;
上記した表層を構成するフッ素ゴムの原料の例として、架橋し得る、分子内にエーテル結合を有するフッ素原子含有ポリマーが挙げられる。具体例としては、エーテル基を有するビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロアルキルビニルエーテルとの三元共重合体等が挙げられる。
【0024】
このような三元共重合体は、例えば、分子内にヨウ素または臭素を含有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとを用いて公知の方法で合成できる。当該公知の方法の例としては、共重合体の成分であるフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテルと、架橋部位であるヨウ素または臭素を有する単量体を塊状、溶液、懸濁、乳化重合等公知の方法で重合させる方法がある。
【0025】
また、このような三元共重合体は、市販されている。例えば、ダイキン工業(株)社からは、商品名「ダイエル LT−302」として上市されている。また、デュポン ダウエラストマー ジャパン(株)からは、商品名「バイトン GLT」、「バイトンGLT−305」、「バイトンGLT−505」、「バイトンGFLT」、「バイトンGFLT−300」、「バイトンGFLT−301」、「バイトンGFLT−501」、「バイトンGFLT−600」として上市されている。
【0026】
(2)ポリシロキサン;
ポリシロキサンは、疎水基として、好ましくはジアルキルポリシロキサン構造、より好ましくはジメチルポリシロキサン構造を有するものである。また、親水基として、好ましくはポリエーテル構造、より好ましくはポリオキシアルキレン構造を有する非イオン系の界面活性剤である。
ポリシロキサン界面活性剤は、ジメチルポリシロキサンを例とすると主に3種類の構造に分類することができる。
【0027】
すなわち、
下記式(1)で表されるジメチルポリシロキサン骨格の側鎖にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる側鎖変性型、
下記式(2)で表されるジメチルポリシロキサン骨格の末端にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる末端変性型、および
下記式(3)で表されるジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンが交互に繰り返し結合した構造からなる共重合型である。特に、下記式(3)で表される共重合型は、フッ素ゴムに対する分散性が最も優れている点において、より好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

(上記式(1)〜(3)中、a及びbは0または整数であり、n及びmは整数であり、R及びR´は飽和炭化水素鎖または不飽和炭化水素鎖である)。
【0031】
ポリシロキサンの配合量としては、フッ素ゴム100質量部に対して、20〜60質量部特には、40〜60質量部であることが好ましい。上記の範囲内で使用することにより、親油性の向上効果が十分に得られることに加え、フッ素ゴムの機械的強度を良好な範囲に維持できる。
【0032】
また、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンとしては、特に限定されるものではないが、ジメチルポリシロキサンとポリアルキレンオキサイドの共重合型が好ましい。
【0033】
(3)架橋剤;
前記したフッ素原子含有ポリマー及びポリシロキサンは、フッ素原子含有ポリマーの架橋反応の結果、フッ素ゴムのマトリクス中にポリエーテル構造を有するポリシロキサンが微細に分散された構造を有する。更にはポリシロキサンの少なくとも一部がフッ素ゴムに固定されてなる構造を有するものとなる。
【0034】
ここで、架橋に用いる架橋剤としては、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物で架橋した場合、上記フッ素ゴムとポリエーテル構造を有するポリシロキサン界面活性剤との混合物を有効に架橋できる。
【0035】
即ち、配合したシリコーン系界面活性剤の大部分をフッ素ゴムと反応させ、フッ素ゴムのマトリクス中に固定することができる。そのため、表層のトナー離型性の耐久性をより優れたものとすることができる。
【0036】
このような架橋剤の例は、以下のものを含む:
・ベンゾイルパーオキサイド;
・ビス(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキサイド;
・ジクミルパーオキサイド;
・2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン。
【0037】
特に、室温における蒸発損失が少なく、かつ分解温度が低いベンゾイルパーオキサイドが好ましい。
【0038】
また、上記以外の架橋剤を使用することも何ら排除されるものではない。
フッ素原子含有ポリマーが、分子鎖末端又は側鎖にヨウ素または臭素を有するものである場合、有機過酸化物による架橋は、ヨウ素または臭素原子の引き抜き反応と架橋助剤のアリル基へのラジカル反応等により効率良く行われることとなる。
【0039】
従って、上記有機過酸化物を架橋剤として用いる場合には、架橋助剤として、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどを併用することが好ましい。
特にトリアリルイソシアヌレートが架橋効率の観点から好ましい。
【0040】
また、ポリエーテル構造を有するポリシロキサンが反応基としてビニル基あるいはアリル基を有している場合には、有機過酸化物による架橋は、ビニル基あるいはアリル基へのラジカル反応等により行われる。
【0041】
(4)ケトン系またはエステル系の溶媒;
ケトン系またはエステル系の溶媒としては、上記(1)のフッ素原子含有ポリマー及び(3)のフッ素ゴムポリマーの架橋剤の良溶媒であることが好ましい。具体的には、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
【0042】
(5)アルコール;
アルコールとしては、上記(4)との相溶性に優れ、且つ上記(1)の良溶媒であるアルコールが好適に用いられる。具体的には、例えば、メタノールを挙げることができる。
【0043】
また、上記各成分の好ましい配合割合としては、
上記(1)のフッ素原子含有ポリマー100質量部に対して、
上記(5)のアルコールを100質量部以上300質量部以下、
上記(2)のポリシロキサンを40質量部以上60質量部以下、
上記(4)のケトン系またはエステル系の溶媒を、上記(5)のアルコールに対して質量比(ケトン系またはエステル系溶媒の総量/アルコール)で1/10以上3/10以下とすることが好ましい。
【0044】
これにより、安定性に優れ、且つ塗工に好適な塗料組成物を得ることが出来る。
本発明にかかる塗料組成物の安定性は、フッ素原子含有ポリマーのエーテル部位とポリシロキサン系界面活性剤のエーテル部位と、アルコールの水酸基との相互作用により達成されていると考えられる。
【0045】
そして、上記組成によれば、各成分のバランスが良く、安定化の作用が大きくなると考えられる。
【0046】
<フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが島状に分散している膜の形成方法>
本発明にかかる、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが島状に分散している膜の形成方法としては、基材表面に、上記塗料組成物の塗膜を形成する工程と、該塗膜中のフッ素ゴムポリマーを架橋させる工程と、を含む。
【0047】
そして、基材上への塗膜の形成方法としては、特に限定されず、例えば、スプレーコート、キャストコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ナイフコート、ディップコート、スピンコート等の公知の方法を例示できる。特に、スプレーコートに比べて、キャストコート、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ナイフコート、ディップコート、スピンコート等のコート方法は、塗膜の乾燥が遅い傾向がある。そのため、乾燥工程において、塗膜中で各成分の相分離が生じると、均一な表面特性を有する膜を形成しにくいことがある。しかし、本発明にかかる塗料組成物は、安定性に優れ、長時間の静置によっても各成分の相分離が生じにくい。よって、塗膜の乾燥が遅い塗工法を採用した場合や、厚い塗膜であっても、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが微細に分散した均一性に優れた膜を得ることができる。従って、塗膜の乾燥方法も、特に限定されず。自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等の公知の方法を例示できる。
【0048】
塗膜の厚さは、必要に応じて適宜調整することができるが、通常1μm以上1mm以下である。また、塗膜を乾燥させた後、パーオキサイド架橋反応させる方法としては、公知の手段を用いることが出来るが、窒素パージされたイナートガスオーブン内にて加熱して、架橋反応させる手段が好適である。架橋条件としては、100℃以上200℃以下で、30分以上30時間以下である。
【0049】
更に、上記基材としては、特に限定されないが、例えば、SUS等の金属、プラスチック類、ガラス、コンクリート、木材等を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
下記(1)と下記(5)とを混合し、ミックスロータ(商品名:MR−5;アズワン株式会社製)を用いて混合し、これらの混合物を得た。
(1)フッ素原子含有ポリマー(ビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとの三元共重合体(商品名:ダイエルLT−302 ダイキン工業株式会社製))
:100質量部、
(5)メタノール :100質量部
上記混合物に、下記(2)乃至(4)及び(6)を加え、ミックスロータにて再び混合して塗料組成物を得た。
(2)ジメチルポリシロキサン構造とポリオキシアルキレンを含む構造を有するポリシロキサン系界面活性剤(商品名:FZ2207;東レダウコーニング株式会社製) :40質量部、
(3)ベンゾイルパーオキサイド(25%含水品、キシダ化学株式会社製) :4質量部、
(4)メチルイソブチルケトン :10質量部
(6)トリアリルイソシアヌレート(架橋助剤)(商品名:TAIC;日本化成株式会社製) :4質量部
【0051】
(実施例2〜実施例5)
実施例1にかかる塗料組成物の各構成成分の配合量を下記表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして各実施例にかかる塗料組成物を調製した。
【0052】
(比較例1〜3)
実施例1にかかる塗料組成物の各構成成分の配合量を下記表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして各比較例にかかる塗料組成物を調製した。
【0053】
上記実施例1〜5及び比較例1〜3にかかる各塗料組成物を、室温にて6時間放置し、目視にて、塗料組成物の状態を観察した。その結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
この結果から、実施例1〜5にかかる塗料組成物は十分な安定性を示していることがわかる。一方、比較例1及び比較例2にかかる塗料組成物は、メタノールの配合量が少なすぎ、または多すぎることにより、構成成分の相分離が認められた。
【0056】
比較例3は、メチルイソブチルケトンが配合されていないため、架橋剤が析出してしまい、塗料としての安定性が不十分であった。
【0057】
更に、実施例1〜4の塗料組成物について、24時間放置し、目視にて、塗料組成物の状態を観察した。この結果、24時間後であっても、これら塗料組成物の相分離は確認されなかった。このことから、実施例1〜4に係る塗料組成物は、極めて良好な安定性を有していることが確認された。
【0058】
次に、実施例1にかかる塗料組成物を、スライドガラス上に厚み約500μm程度になるようにキャストコートし、室温にて送風乾燥させた。その後、イナートガスオーブン(商品名:INL−60;光洋サーモシステム株式会社製)内に入れ、窒素ガスを90L/minの流量でパージし、15分後から200℃に加熱し、200℃で1時間保持し、冷却後取り出した。次いで、180℃で24時間、通常の熱風オーブンにて加熱し、フッ素原子含有ポリマーを架橋させた。このコート膜の表面を、ビデオマイクロスコープ(商品名:VH200 株式会社キーエンス社製)を用いて、倍率2000倍にて観察した。その結果、少なくとも1μmより大きな凝集状態は確認されず、フッ素ゴムのマトリクス中に島状に分散しているポリシロキサンの島部分は、1μm以下の平均粒径であることが確認された。
【0059】
一方、比較例1に係る、相分離していない塗料組成物を用いて、上記と同様にして膜を形成した。その結果、10〜100μm程の大きさの凝集状態が確認され、得られた膜中のポリシロキサンからなる島部分の粒径は、大きくばらついていた。これは、当該塗料組成物の塗膜の乾燥工程において、相分離が生じた結果によるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)分子内にエーテル基を有するフッ素原子含有ポリマーと、
(2)ポリエーテル構造を有するポリシロキサンと、
(3)該フッ素ゴムポリマーの架橋剤と、
(4)ケトン系またはエステル系の溶媒と、
(5)アルコールと、を含んでいることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記フッ素原子含有ポリマーが、ビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとの三元共重合体であり、
前記ポリシロキサンが、ジメチルポリシロキサン構造とポリオキシアルキレン構造とを含むものであり、且つ
前記架橋剤が、パーオキサイド架橋反応によりフッ素ゴムポリマーを架橋させるものである請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記架橋剤が、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,4−ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンから選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記アルコールが、メタノールであり、
前記ケトン系またはエステル系の溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル及び酢酸イソブチルから選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記フッ素原子含有ポリマー100質量部に対して、
前記アルコールを100質量部以上300質量部以下、
前記ポリシロキサンを40質量部以上60質量部以下含み、且つ
前記ケトン系またはエステル系の溶媒の総量の、アルコールに対する質量比(ケトン系またはエステル系の溶媒の総量/アルコール)が、1/10以上3/10以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
基材表面に、請求項1乃至5のいずれかに記載の塗料組成物の塗膜を形成する工程と、該塗膜中のフッ素ゴムポリマーを架橋させる工程と、を含むことを特徴とする、フッ素ゴムマトリクス中にポリシロキサンが島状に分散している膜の形成方法。

【公開番号】特開2008−179719(P2008−179719A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15062(P2007−15062)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】