説明

塗料組成物及び融着部材

【課題】耐用年数を向上させ、より機械的に堅牢な塗膜を形成することができる塗料組成物を提供する。
【解決手段】塗料組成物には、フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブであって、このカーボンナノチューブは実質的に凝集しておらず、フルオロポリマ中に実質的に均一に分散しているカーボンナノチューブと、カップリング剤とが含まれうる。カップリング剤には、第1の官能基、第2の官能基、および連結基が含まれうる。第1の官能基はカーボンナノチューブと結合されていてよい。第2の官能基はフルオロポリマと結合されていてよい。連結基は第1の官能基と第2の官能基とを結合してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に塗料の分野に関する。特に、本開示は印刷およびコピー運転に用いられる融着ロールの最上層の塗膜を塗布するために有用でありうる塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な静電写真印刷装置では、コピーされる原本の光像(light image)を感光部材の上に静電潜像の形で記録し、その後、一般にトナーと呼ばれる検電性の熱可塑性樹脂粒子を適用することによりその潜像を可視化する。可視トナー像はその時、遊離した粉末の形態であって、容易に妨害または破壊できる。トナー像は通常、支持体の上に定着(fix)または融着(fuse)され、支持体は感光部材自体であっても、普通紙などのその他の支持シートであってもよい。
【0003】
トナー像を支持部材上に定着させるために熱エネルギを使用することはよく知られている。支持体表面上に検電性のトナー材料を熱で永久に融着するためには、トナー材料の温度をトナー材料の構成物質が融合して粘着性となるポイントまで高くする必要がある。この加熱により、トナーは支持部材の繊維または孔の中へある程度流動する。その後、トナー材料が冷却される時に、トナー材料の固化によりトナー材料は支持体と堅く結合される。
【0004】
一般に、熱可塑性の樹脂粒子は、約90℃〜約160℃の間の温度、またはトナーに用いられる特定の樹脂の軟化領域に応じてそれより高い温度まで加熱することにより基体に融着される。しかし、基体の温度を実質的に約200℃よりも高く上昇させることは、特に基体が紙である場合には、そのような高温では基体が変色する傾向があるために望ましくない。
【0005】
融着ロール(fuser roll)および定着ロール(fixer roll)は、適した基体に1種類以上の層を塗布することにより調製することができる。円筒型の融着ロールおよび定着ロールは、例えば、エラストマまたはフルオロエラストマをアルミニウムシリンダへ塗布することにより調製することができる。被覆されたロールを加熱してエラストマを硬化させる。そのような処理は、例えば、米国特許第5,501,881号;5,512,409号;および5,729,813号に開示されており、その各々の開示は参照により本明細書にその全体が組み込まれる。
【0006】
架橋されたフルオロポリマは、化学的に安定であり優れた剥離特性を示すエラストマ、すなわちフルオロエラストマを形成する。それらはまた、比較的柔軟であり、弾性特性を示す。増量剤(filler)は、ポリマ配合物の硬度および耐摩耗性を改善するための補強粒子としてポリマ配合物中に用いられる場合が多い。融着器(fuser)または定着器(fixer)は適切に熱を伝導してトナー粒子を融合するために軟化させなければならないので、融着系の熱伝導率も重要である。融着部材または定着部材の熱伝導率を高めるために、熱伝導性の粒子、例えば金属酸化物粒子が増量剤として用いられている。高い熱伝導率をもたらすためには、増量剤の添加を多くしなければならない。しかし、多すぎる増量剤の添加は、過度に硬く、脆く、より摩耗しやすい塗料をもたらす。従来の金属酸化物、例えばアルミニウム、鉄、銅、錫および酸化亜鉛の増量剤の添加は、米国特許第6,395,444号;6,159,588号;6,114,041号;6,090,491号;6,007,657号;5,998,033号;5,935,712号;5,679,463号;および5,729,813号に開示されており、その各々は参照により本明細書に組み込まれる。約60重量%までの添加量の金属酸化物増量剤は、約0.2〜約1.0Wm−1−1の熱伝導率をもたらす。しかし、添加量の増加は融着器の摩耗および耐用年数に悪影響を及ぼす。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,501,881号明細書
【特許文献2】米国特許第5,512,409号明細書
【特許文献3】米国特許第5,729,813号明細書
【特許文献4】米国特許第6,395,444号明細書
【特許文献5】米国特許第6,159,588号明細書
【特許文献6】米国特許第6,114,041号明細書
【特許文献7】米国特許第6,090,491号明細書
【特許文献8】米国特許第6,007,657号明細書
【特許文献9】米国特許第5,998,033号明細書
【特許文献10】米国特許第5,935,712号明細書
【特許文献11】米国特許第5,679,463号明細書
【特許文献12】米国特許第5,729,813号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐用年数を向上させ、エッジの摩耗によるロールの不具合の発生を減らすために、より機械的に堅牢な塗膜が新世代の融着系に必要とされている。最上層の高い熱伝導率は融着中の表面の熱の保持を改善し、導電率は静電荷の蓄積を消散させるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
塗膜または塗料組成物には、フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブであって、このカーボンナノチューブは実質的に凝集しておらず、フルオロポリマ中に実質的に均一に分散しているカーボンナノチューブと、カップリング剤とが含まれうる。カップリング剤には、第1の官能基、第2の官能基、および連結基が含まれうる。第1の官能基はカーボンナノチューブと結合されうる。第2の官能基はフルオロポリマと結合されうる。連結基は第1の官能基と第2の官能基とを結合しうる。
【0010】
他の実施形態では、第1の官能基はカーボンナノチューブと化学的に結合されていてよく、第2の官能基はフルオロポリマと化学的に結合されていてよく、さらに、連結基は第1の官能基と第2の官能基とを化学的に結合しうる。
【0011】
一部の実施形態では、フルオロポリマには、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位が含まれうる。
【0012】
さらなる実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。なおさらなる実施形態では、カーボンナノチューブの直径は100ナノメートル未満でありうる。例示的な実施形態としては、カーボンナノチューブが塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在しうるものが挙げられる。
【0013】
塗膜または塗料組成物の一部の実施形態では、第1の官能基は、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0014】
さらなる実施形態では、第2の官能基は、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0015】
なおさらなる実施形態では、連結基は、約6〜約60個の炭素を有する直鎖芳香族炭化水素基、約6〜約60個の炭素を有する分枝鎖芳香族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する直鎖脂肪族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する分枝鎖脂肪族炭化水素基、ヘテロ原子、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0016】
一層さらなる実施形態では、塗料組成物には効果的なフルオロポリマ架橋剤が含まれ得る。
【0017】
本明細書中の実施形態には被覆された融着部材または融着器が含まれる。被覆された融着部材には、融着部材基体、および基体の最外部の塗膜層としてフルオロポリマもしくはフルオロエラストマ塗膜が含まれうる。フルオロポリマ塗膜には、フルオロポリマと、複数のカーボンナノチューブであって、このカーボンナノチューブは実質的に凝集しておらず、フルオロポリマ中に実質的に均一に分散しているカーボンナノチューブと、カップリング剤とが含まれうる。被覆された融着部材のカップリング剤には、第1の官能基、第2の官能基、および連結基が含まれうる。被覆された融着器の第1の官能基はカーボンナノチューブと化学的に結合されていてよい。第2の官能基はフルオロポリマと化学的に結合されていてよい。実施形態では、連結基は第1の官能基と第2の官能基とを化学的に結合してよい。
【0018】
被覆された融着部材の一部の実施形態では、フルオロエラストマには、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位が含まれうる。さらに他の実施形態では、被覆された融着部材は、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびそれらの混合物からなる群より選択される別のモノマとフッ化ビニリデンとの共重合体が含まれうるフルオロポリマを有しうる。被覆された融着部材の一部の実施形態では、フルオロポリマは60%を越えるフッ素含量を有しうる。
【0019】
例示的な実施形態では、被覆された融着部材には、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、およびそれらの混合物からなる群より選択されるカーボンナノチューブが含まれうる。被覆された融着部材の一部の実施形態では、カーボンナノチューブの直径は100ナノメートル未満でありうる。被覆された融着部材のさらなる実施形態では、カーボンナノチューブは、塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在しうる。さらに他の実施形態では、被覆された融着部材には、塗料組成物の約1〜約10重量%の量で存在するカーボンナノチューブが含まれうる。
【0020】
融着部材の例示的な実施形態としては、第1の官能基が、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうるものが含まれる。
【0021】
融着部材のさらなる例示的な実施形態では、第2の官能基は、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0022】
融着部材の一層さらなる例示的な実施形態では、連結基は、約6〜約60個の炭素を有する直鎖芳香族炭化水素基、約6〜約60個の炭素を有する分枝鎖芳香族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する直鎖脂肪族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する分枝鎖脂肪族炭化水素基、ヘテロ原子、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。さらに他の実施形態では、被覆された融着部材には、シロキサン基を含有する炭化水素基である連結基が含まれうる。
【0023】
実施形態では、被覆された融着部材には、効果的なフルオロポリマ架橋剤が含まれ、実施形態では、フルオロポリマ塗膜は架橋されたフルオロエラストマであってよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本明細書において「含む(comprising)」という語は、「含む(including)がそれに限定されない」ことを意味することを意図する。
【0025】
本明細書の実施形態は、優れた化学的安定性および熱安定性と低い表面エネルギを示すフルオロポリマの複合組成物を開示し、主張する。架橋されたフルオロポリマは比較的柔軟で弾性特性を示すエラストマを形成する。融着ロールの被覆に用いられるフルオロポリマは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VF2)、および臭素化過酸化物硬化部位を含むViton−GF(登録商標)(E.I.du Pont de Nemours,Inc.)であってよい。
【0026】
増量剤は、硬度および耐摩耗性を改善するための補強粒子としてポリマ配合物中に用いられる場合が多い。増量剤の例としては、球形粒子、例えば金属酸化物またはカーボンブラック、カーボンファイバ、およびカーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブ(CNT)は大きさがナノスケールであり、アスペクト比が高い。そのため、より大きな球形粒子、例えばカーボンブラックの組み込みに対して、有意に改善された機械的特性を得るために添加量を減らしてもよい。また、カーボンナノチューブは導電性でも熱伝導性でもあり、これらの特性を複合材料に付与することができる。
【0027】
本明細書の実施形態は、1)任意のフルオロポリマ、2)単層または多層カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバ、および3)フルオロポリマ鎖およびカーボンナノチューブの両方と直接結合する、適した多官能性リンカ(linker)基またはカップリング剤を含む複合塗料組成物を開示し、主張する。
【0028】
図1を参照すると、基体上の塗膜10の塗料組成物の実施形態の透過型電子顕微鏡写真が示される。実施形態では、基体上の塗膜10はフルオロポリママトリックス20を含む。塗膜10は複数のカーボンナノチューブ(CNT)30をさらに含んでよい。カーボンナノチューブ30は、実質的に凝集しておらず、フルオロポリマ中に実質的に均一に分散している。例示的な実施形態では、塗膜10はカップリング剤をさらに含む(図1には示さていない)。カップリング剤は、第1の官能基、第2の官能基、および連結基を含んでよく、その第1の官能基はカーボンナノチューブ30と結合されており、その第2の官能基はフルオロポリマ20と結合されており、そして、その連結基は第1の官能基と第2の官能基とを結合している。
【0029】
塗膜10のもう1つの実施形態では、第1の官能基はカーボンナノチューブと化学的に結合されていてよく、第2の官能基はフルオロポリマと化学的に結合されていてよく、連結基は第1の官能基と第2の官能基とを化学的に結合してよい。カップリング剤および官能基の詳細は下に示されている。
【0030】
実施形態では、塗膜10は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位を有するフルオロポリマを含んでよい。もう1つの実施形態では、フルオロポリマは、ポリ(フッ化ビニリデン)、またはフッ化ビニリデンと別のモノマとの共重合体からなる。例えば、フルオロポリマは、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびそれらの混合物からなる群より選択される別のモノマとフッ化ビニリデンの共重合体である。
【0031】
本明細書のフルオロポリマの実施形態には、E.I.du Pont de Nemours,Inc製のViton(登録商標)フルオロポリマが含まれうる。Viton(登録商標)フルオロポリマには、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)とフッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)の共重合体である、Viton(登録商標)−A、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)の三元共重合体であるViton(登録商標)−B、ならびにTFE、VF2、HFP、および少量の硬化部位モノマからなる四元共重合体である、Viton(登録商標)−GFが含まれる。
【0032】
フルオロポリマ中に分散したCNTは固体−固体分散の例である。分散は、1つの相が、バルク物質中に分布した、コロイドの粒径範囲の微粉化された粒子からなる2相系であり、粒子は分散しているか内部相であり、バルク物質は連続相である。
【0033】
実施形態では、複合塗膜は、約0.1%〜約40%(w/w)のCNTをフルオロポリマ中に含みうる。他の実施形態は、約0.5%〜約20%(w/w)のCNTをフルオロポリマ中に使用する。好ましい実施形態は約1%〜約10%(w/w)を使用する。
【0034】
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素の同素体である。それらは円筒形の炭素分子の形をとり、それらをナノテクノロジー、電子工学、光学および材料科学のその他の分野での幅広い種類の適用に役立つものにする、新規な特性を有する。カーボンナノチューブは並外れた強度と独特の電気特性を示し、熱の効率的な伝導体である。カーボンナノファイバは、寸法の点でカーボンナノチューブに類似し、円筒構造であるが、CNTのように完全な円筒ではない。カーボンナノファイバは本明細書の実施形態の範囲内にある。
【0035】
ナノチューブは、バッキーボールもそれに含まれるフラーレン構造のファミリーメンバーである。バッキーボールが円形の形状であるのに対して、ナノチューブは円筒形である。ナノチューブの直径は約数ナノメートルであるが、長さは最大数ミリメートルまででありうる。ナノチューブには主に2種類ある。単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)であり、その両方が本明細書の実施形態に包含される。塗膜の実施形態では、カーボンナノチューブは、単層ナノチューブ(SWNT)、多層ナノチューブ(MWNT)、カーボンナノファイバ、およびそれらの混合物から選択されうる。実施形態では、カーボンナノチューブの直径は100ナノメートル未満でありうる。実施形態では、カーボンナノチューブは、塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在しうる。
【0036】
本明細書の実施形態のカップリング剤は、カップリング剤上の複数の官能基が複数のCNTおよびフルオロポリママトリックスと結合している多官能性カップリング剤でありうる。カップリング剤の例示的な実施形態は、化学的カップリング剤上の複数の官能基が複数のCNTおよびフルオロポリママトリックスと化学結合を形成する、化学的カップリング剤を包含しうる。
【0037】
本明細書の実施形態のカップリング剤の限定されない例を図2に示す。図2のカップリング剤50は、第1の官能基60を含み、この第1の官能基はCNT表面と相互作用するかまたは結合するように選択されている。カップリング剤は、さらに第2の官能基70を含み、この第2の官能基は、フルオロポリマ架橋剤と特定のフルオロポリマ鎖との反応に類似の方法でフルオロポリマ鎖と相互作用するかまたは結合するように選択されうる。本明細書の実施形態のカップリング剤には、さらに連結基80が含まれうる。連結基80は、カップリング剤50の第1の官能基60と第2の官能基70とを接続する。
【0038】
図2の例示的なカップリング剤50には、多官能性の化学的カップリング剤が考えられうる。図2のカップリング剤50の第1の官能基60は、アゾメチンイリドの例であり、アゾメチンイリドはカーボンナノチューブの外側のグラフェン表面の環との化学反応が可能である。図2に表される第2の官能基70はビスフェノール基を含み、ビスフェノール基は特定のフルオロポリマに存在する不飽和モノマとの化学反応が可能である。「R」の文字で表される連結基80は、第1の官能基60と第2の官能基70とを化学的に結びつける安定な化学結合を含む。化学的カップリング剤のこれらの基の各々の例および実施形態のさらなる詳細は下に示されている。
【0039】
一般に、強い化学結合は、関与している原子間の電子の共有または移動に関係する。一般に、共有結合およびイオン結合は強いとされているのに対して、水素結合およびファンデルワールス結合は弱いとされている。しかし、カップリング剤、CNTおよびフルオロポリマの間での化学結合形成が例示されているとはいえ、本明細書の実施形態は共有およびイオン結合形成に限定されないことは留意されるべきである。CNT、カップリング剤、およびフルオロポリマを一緒に結合または連結する際に効果的なその他の安定な結合機構(限定されるものではないが、水素結合など)および分散力は、本発明の実施形態の範囲内にある。
【0040】
ここで、図2および3を参照すると、塗膜のその他の実施形態は、アジリジン環62、イリド64、およびジアゾニウム化合物66等の第1の官能基60を含みうる。もう1つの実施形態では、第1の官能基60は、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0041】
ここで、図2および4を参照すると、塗膜のさらなるその他の実施形態では、第2の官能基70は、フェノール72およびアミン74からなる群より選択されうる。さらに別の実施形態では、第2の官能基は、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物を含む群から選択されうる。
【0042】
なおさらなる実施形態では、連結基80は、実質的に凝集しておらず、フルオロポリママトリックス中で実質的に均一に分散している条件においてCNTの維持に効果的な任意の鎖長の有機鎖でありうる。連結基80の鎖長を変えることは、特定の使用のための塗膜10の機械的特性および電気特性を変更する効果的な方法でありうる。
【0043】
連結基は、芳香族基、飽和および不飽和基、直鎖基、分枝基、ヘテロ原子基、およびそれらの混合物を含んでよい。ヘテロ原子基は、炭素以外の原子、例えば酸素、窒素、ケイ素、ハロゲン、またはその他の原子、およびそれらの混合物を含みうる連結基80の部分である。実施形態では、連結基は、約6〜約60個の炭素を有する直鎖芳香族炭化水素基、約6〜約60個の炭素を有する分枝鎖芳香族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する直鎖脂肪族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する分枝鎖脂肪族炭化水素基、ヘテロ原子、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。本明細書の実施形態のための連結基は有機基に限定されない。例えば、限定するものではないが、連結基は、シロキサンおよびホスファゼンなどの無機鎖を含みうる。
【0044】
塗膜の実施形態は、さらに、効果的なフルオロポリマ架橋剤、結合剤、硬化剤、または架橋剤を含みうる。例示的な架橋剤はビスフェノール化合物である。例示的なビスフェノール架橋剤は、E.I.du Pont de Nemours,Incから入手可能なViton(登録商標)Curative No.50(VC−50)を含みうる。VC−50は、CNTとフルオロポリマの溶媒懸濁液に可溶性であり、架橋の反応部位で容易に利用できる。硬化剤VC−50は、ビスフェノール−AFを架橋剤として、さらに塩化ジフェニルベンジルホスホニウムを促進剤として含む。ビスフェノール−AFは、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノールとしても公知である。効果的なフルオロポリマ架橋剤には、フルオロポリマと反応および架橋することのできる任意の化合物が含まれる。
【0045】
特定の反応機構または理論に縛られることを望むものではないが、本明細書の塗料のためのカップリング剤反応の実施形態の模式図を図5および6に説明のために示す。図5には、フルオロポリマ/CNT/カップリング剤系の反応性構成要素100が示される。本明細書の塗膜の実施形態には複数のカーボンナノチューブ110が含まれる。カーボンナノチューブ110は、通常、ナノメートルの大きさの円筒または管に巻き上げられた、グラフェンシートと呼ばれる、原子1個分の厚さのグラファイトの層と考えられている。完全なグラフェンは六角形のセル120のみからなり、五角形および七角形のセルは欠陥を構成する。グラフェンおよびカーボンナノチューブの六角形、五角形、および七角形のセルは、全て本明細書の実施形態の可能性ある反応部位である。
【0046】
例示的なカップリング剤50も図5に表されており、例えばそれにはアゾメチンイリド64の第1の官能基60が含まれる。この実施形態では、フェノール72の第2の官能基70が例として示され、さらに、この限定されない具体的な実施形態では、ビスフェノールの第2の官能基70が表されている。
【0047】
図5には、フルオロポリマ鎖130の描写も示されている。実施形態では、脱フッ酸化剤(dehydrofluorinating agents)または酸受容体140(この例の場合では塩基性塩のMgOおよびCa(OH))も表されている。これらの物質または塩基性塩は、ビスフェノールの第2の官能基70のフルオロポリマ鎖130との反応に役立ちうる。
【0048】
CNTとフルオロポリマ鎖を化学的に結合するカップリング剤の実施形態の反応生成物150が図6に表される。図5および6の両方を参照すると、実施形態では、アゾメチンイリド64の第1の官能基60は、CNT110の六角形の環120の一部と反応して、CNT/カップリング剤結合160を形成しうる。図6の実施形態では、第1の官能基60の反応生成物は、結果的にCNT110をカップリング剤50と化学的に結合するピロリジン型の環の結合160をもたらす。
【0049】
図5および6の実施形態では、第2の官能基70のフェノール部分72は、フルオロポリマ鎖130と反応しうる。塩基性塩140は水素原子をVF2モノマから取り除き、第2の官能基70のフェノール部分72がそれに付加されてカップリング剤/フルオロポリマ結合170を形成する不飽和部位、さらに具体的に言えば、図6の実施形態では、カップリング剤50とフルオロポリマ鎖130を化学的に結合させるアルコキシベンゼン型の結合170がもたらされる。
【0050】
図5および6の描写を用いて詳述される方法では、CNTとフルオロポリママトリックスとを化学的に結合または連結させる実施形態が開示される。強調される点は、図5および6に示される反応は本明細書の実施形態の例であり、いかなる点においても限定すると解釈されないことである。当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となる、CNTとフルオロポリマを効果的に結合(bond)、結合(couple)または連結(link)する任意のカップリング剤50またはリンカは、本明細書の実施形態の範囲内にある。
【0051】
実施形態の例示的なカップリング剤またはリンカのための化学合成経路200が図7に示される。ビス(ヒドロキシフェニル)吉草酸210を、LiAlH220の存在下でアミンと反応させると、還元されてアミン230となりうるアミド(図示せず)が形成されうる。アミン230は、2,3−ジブロモプロピオン酸エチル240と反応して、カーボンナノチューブと結合するカルボエトキシアジリジン官能基250をもたらす。この結果として生じるカップリング剤260も、硬化プロセス中にフェノール基270によりフルオロポリマ鎖を架橋する能力を有し、CNTとの結合を介してエラストマ材料をさらに強化する。
【0052】
塗膜の実施形態は、基体が融着部材、例えば、限定されるものではないが、ベルト、プレート、および円筒形のドラムを含む場合に用いられうる。融着部材または定着部材は、アルミニウムシリンダまたはアルミニウム融着ロールを含みうる。融着部材は、本明細書において、当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となる、融着能力において効果的に役目を果たす任意の材料および構成を含みうる。
【0053】
本明細書の方法の実施形態では、複数のカーボンナノチューブ、少なくとも1種類のフルオロポリマ、および化学的カップリング剤を含む組合せが効果的な溶媒中に分散されて安定な懸濁液を形成する。分散の間、上記に開示および説明されるように、CNT、カップリング剤、およびフルオロポリマ鎖間の反応が生じる。効果的な溶媒としては、限定されるものではないが、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、およびそれらの混合物が挙げられる。本明細書に記載される、安定な懸濁液を形成するその他の溶媒は、本明細書の実施形態の範囲内にあり、当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となる溶媒が含まれる。
【0054】
懸濁液は、カップリング剤と反応する可溶化ポリマを含む。可溶化ポリマは、順にCNTと反応し、その結果として実質的に凝集していないCNTの実質的に均一に分散した懸濁液を生じる。懸濁液は、実質的に均一に分散した状態で1日を超える間比較的安定していることが見出されている。
【0055】
懸濁液は、非常に小さな粒子(固体、半固体、または液体)が、液状またはガス状の媒質中に、程度の差はあるが均一に分散している系である。もし粒子が濾過膜を通過するのに十分小さい場合、その系はコロイド懸濁液である。用語コロイドとは、1以上のその大きさ(dimension)が1ミリミクロン(ナノメートル)〜1ミクロン(マイクロメートル)の間の範囲内にある場合の物質をさす。
【0056】
本明細書の実施形態では、CNT/化学的カップリング剤/フルオロポリマの組合せが効果的な溶媒中に分散している時、懸濁液が形成される。本明細書の懸濁液の実施形態は、それらが濾過膜を通過することができることから、コロイド懸濁液と見なされうる。さらに、液体コロイド懸濁液中の固体は、コロイド分散と同義的に称され得る(または大まかに溶液と呼ばれる)。
【0057】
本明細書の実施形態の懸濁液の安定性は、CNT/フルオロポリマ懸濁液を形成するその他の方法と比較して増大している。懸濁液の安定性は、粒子が溶媒中に懸濁されたままで容器の底部に沈降しない傾向である。先行技術の塗料中にCNTを用いるための主な障害は、それらの凝集傾向であった。既に示したように、カーボンナノチューブは通常、ナノメートルの大きさの円筒または管に巻き上げられたグラフェンシートと呼ばれる、原子1個分の厚さのグラファイトの層と考えられている。CNTは、個々のナノチューブのグラフェンシート間の強い分散相互作用に少なくとも一部起因して、束またはロープに詰め込まれる傾向がある。CNTの束は、溶媒と混合されると個々のCNTへと容易には分散しない。溶媒中のCNTの束は、個々に分散したCNTよりも速く沈降する。さらに、基体を被覆するためにフルオロポリマとともに束になったCNTの懸濁液を用いる場合、不均質な塗膜が表面に生じる。束になったCNTを含む不均質な塗膜は、CNTが実質的に凝集しておらず、実質的に均一に分散している塗膜と比較して、塗膜の機械的強度の低下ならびに塗膜の熱伝導率および導電率の低下をもたらす。
【0058】
カーボンナノチューブ、カップリング剤またはリンカ、および少なくとも1種類のフルオロポリマの組合せを分散した結果生じる懸濁液は比較的安定している。カップリング剤とCNTの表面との反応はCNTの凝集化を阻害しうる。
【0059】
別の実施形態では、CNT、カップリング剤、およびフルオロポリマの組合せを効果的な溶媒へ分散させる前に、カップリング剤をカーボンナノチューブと反応させてグラフトされたカーボンナノチューブを形成することができる。
【0060】
さらに別の実施形態では、その組合せを効果的な溶媒へ分散させる前に、カップリング剤をフルオロポリマと反応させてグラフトされたフルオロポリマを形成することができる。
【0061】
さらに別の実施形態では、効果的な溶媒へ分散させる前に、その組合せを押出して複合材料を形成することができる。この方法には、カーボンナノチューブ(CNT)、カップリング剤、およびフルオロポリマの混合物を押出して複合材料を形成する工程が含まれうる。実施形態では、押出は2軸押出機を用いて達成されうる。例示的なプロセスは、CNT/フルオロポリマ材料の商業的に調製されたマスターバッチの使用を含んでよく、その後、そのマスターバッチをそのままのフルオロポリマと場合によりカップリング剤と同時に押出して、CNTがカップリング剤と反応し、カップリング剤が順にフルオロポリマと反応するレットダウン押出プロセス(letdown extrusion process)によりCNTの濃度を低下させ、結果として、その中でCNTが実質的に凝集しておらず、フルオロポリママトリックス中に実質的に均一に分散している、押出された複合材料が得られる。
【0062】
本明細書において「凝集していない(non−agglomerated)」という語句は、ナノチューブまたはナノ粒子が実質的に単独でマトリックス内に分散している、つまり、実質的に1つのナノチューブまたはナノ粒子も別のナノチューブまたはナノ粒子と束になっていない状態である。本明細書において「実質的に均一に分散している」という語句は、ナノチューブまたはナノ粒子の濃度がマトリックス全体にわたって実質的に同じである状態である。
【0063】
実施形態では、グラフトされたカーボンナノチューブ、つまり、カップリング剤と反応したCNTは、その組合せを効果的な溶媒中に分散する前にフルオロポリマとともに押出されうる。
【0064】
実施形態では、グラフトされたフルオロポリマ、つまり、カップリング剤と反応したフルオロポリマは、その組合せを効果的な溶媒中に分散する前にCNTとともに押出されうる。
【0065】
方法の実施形態では、フルオロポリマは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位を含みうる。もう1つの実施形態では、フルオロポリマは、ポリ(フッ化ビニリデン)、またはフッ化ビニリデンと別のモノマの共重合体を含む。例えば、フルオロポリマは、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびそれらの混合物からなる群より選択される別のモノマとフッ化ビニリデンの共重合体である。
【0066】
さらに別の方法の実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0067】
一部の実施形態では、化学的カップリング剤は、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも2種類の効果的な官能基、ならびに、効果的な官能基を化学的に結合するための連結基を含みうる。カップリング剤上の効果的な官能基とは、CNTとフルオロポリマとを結合(couple)、結合(bond)または連結(link)する官能基である。
【0068】
実施形態では、懸濁液は基体または融着部材基体上に塗布されて塗膜を形成することができる。ギャップコーディングが平らな基体、例えばベルトまたはプレートを塗布するために用いられ得るのに対して、フローコーティングは円筒形の基体、例えばドラムまたは融着ロールまたは定着部材の基体を塗布するために用いられ得る。基体を塗布する種々の手段は当業者によく知られているので、本明細書において詳しく述べる必要はない。
【0069】
実施形態の融着部材には、金属基体が含まれてよく、さらにアルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、およびそれらの混合物の基体が含まれうる。当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となるその他の基体融着部材材料は本明細書の実施形態の範囲内にある。融着部材基体は、中空の円柱、ベルト、またはシートを含みうる。
【0070】
塗布後、溶媒は少なくとも一部蒸発しうる。例示的な実施形態では、溶媒を約2時間以上室温にて蒸発させた。その他の蒸発時間および温度は本明細書の実施形態の範囲内にある。
【0071】
蒸発の後、塗膜が硬化されうる。例示的な硬化プロセスは段階的な硬化である。例えば、被覆された基体を、約149℃の対流式オーブンに約2時間入れ、温度を約177℃まで上昇させて約2時間さらなる硬化を行わせ、温度を約204℃まで上昇させて塗膜をその温度で約2時間さらに硬化させ、最後に、オーブン温度を約232℃まで上昇させて塗膜をさらに6時間硬化させてよい。その他の硬化スケジュールも可能である。当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となる硬化スケジュールは本明細書の実施形態の範囲内にある。
【0072】
実施形態では、塗布(coating)または流延(casting)の前に、架橋剤を上記組合せと一緒に添加してよい。架橋剤を含有する懸濁液は、溶液中の架橋が急速に起こるので短時間混合されうる。懸濁液を架橋させる実施形態では、塩基性酸化物、例えば、限定されるものではないが、MgOおよびCa(OH)を架橋剤とともに懸濁液に添加してよい。
【0073】
硬化後の複合塗膜の厚さは約5μm〜約100μmであってよい。他の実施形態では、約20μm〜約50μmの複合塗膜厚が生成されている。
【0074】
本明細書の実施形態はまた、被覆された融着部材も含む。実施形態の被覆された融着部材には金属基体が含まれてよく、さらにアルミニウム、陽極酸化アルミニウム、鋼、ニッケル、銅、およびそれらの混合物の基体が含まれうる。当業者に現在公知であるかまたは下記で公知となるその他の基体融着部材材料は本明細書の実施形態の範囲内にある。融着部材基体は中空の円柱、ベルト、またはシートを含みうる。
【0075】
また、融着部材にはフルオロポリマ塗膜が融着部材基体の最外塗膜層として含まれうる。フルオロポリマには、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位が含まれうる。他の実施形態では、フルオロポリマには、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、およびそれらの混合物からなる群より選択される別のモノマとフッ化ビニリデンとの共重合体が含まれうる。被覆された融着部材には、60重量%を超えるフッ素含量を含むフルオロポリマが含まれうる。
【0076】
フルオロポリマ塗膜は複数のカーボンナノチューブを含みうる。カーボンナノチューブは、実質的に凝集しておらず、フルオロポリマ中に実質的に均一に分散していてよい。被覆された融着部材の実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。被覆された融着部材の一部の実施形態では、カーボンナノチューブの直径は100ナノメートル未満でありうる。一部の実施形態では、カーボンナノチューブは塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在する。被覆された融着部材の他の実施形態では、カーボンナノチューブは塗料組成物の約1〜約10重量%の量で存在する。
【0077】
第1の官能基、第2の官能基、および連結基を含むカップリング剤は、融着部材の例示的な実施形態において存在しうる。カップリング剤の第1の官能基はカーボンナノチューブと化学的に結合されていてよく、その第2の官能基はフルオロポリマと化学的に結合されていてよく、そしてその連結基は第1の官能基と第2の官能基とを化学的に結合してよい。被覆された融着器の実施形態では、第1の官能基は、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。被覆された融着器の一部の実施形態では、第2の官能基は、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。被覆された融着部材の例示的な実施形態には、連結基が、約6〜約60個の炭素を有する直鎖芳香族炭化水素基、約6〜約60個の炭素を有する分枝鎖芳香族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する直鎖脂肪族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する分枝鎖脂肪族炭化水素基、ヘテロ原子、およびそれらの混合物からなる群より選択されるものが含まれうる。被覆された融着部材の実施形態には、シロキサン基を含有する炭化水素基である連結基が含まれうる。
【0078】
実施形態では、被覆された融着部材には、効果的なフルオロポリマ架橋剤が含まれ、一部の実施形態では、フルオロポリマ塗膜は架橋されていてよい。
【実施例】
【0079】
フルオロポリマ複合材料を以下の通り調製した。28.83グラムのCNTマスターバッチ(Hyperion Catalysis Internationalから購入した、Viton A中に12重量%の多層CNTを含む)および29.17グラムのViton GF(E.I.du Pont de Nemours,Incから入手可能)を約170℃まで加熱し、2軸押出機を用いて1分間あたりの回転数20(rpm)の回転子速度で20分間押出し、5重量パーセントのカーボンナノチューブを含有するポリマ複合材料約50グラムを形成した。
【0080】
融着器塗膜を形成するため、41gのポリマ複合材料を200gのメチルイソブチルケトンと18時間混合した。生じた混合物を15分間超音波処理して懸濁溶液を形成した。0.12グラムの3−(ジエトキシメチルシリル)−プロピルアミンおよび0.16グラムのN−(3−ジエトキシメチルシリル)プロピル2−カルボエトキシアジリジンを懸濁液に添加した。塗布する前に、メチルイソブチルケトン中でプレミックスされた、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、およびVC−50(E.I.du Pont de Nemours,Incから入手可能なViton(登録商標)Curative No.50)から構成される硬化剤混合物の指定量(例えば、約0.5pph〜約pphの範囲)を塗料溶液に添加した。次に、生じた分散物をフローコーティング法により、適した融着ロール基体の上に塗布した。塗膜を放置して溶媒の大部分を蒸発させ、続いて約170℃で2時間、さらに約200℃で6時間硬化させた。複合塗膜の厚さは硬化後約25ミクロンであった。カップリング剤がインサイチュー(in situ)で3−(ジエトキシメチルシリル)−プロピルアミンおよびN−(3−ジエトキシメチルシリル)プロピル2−カルボエトキシアジリジンの加水分解縮合から形成され、結果としてフルオロポリマと反応する能力のあるアミン基を有するシロキサン誘導体、およびカーボンナノチューブと反応する能力のあるカルボエトキシアジリジン基が生じることが推測された。複合塗膜の分散の特性を図1に示されるTEM画像で確認した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実質的に凝集しておらず、実質的に均一に分散したカーボンナノチューブを、フルオロポリマとナノチューブとを結合しているカップリング剤とともに含有するフルオロポリマ塗膜の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】本明細書のカップリング剤またはリンカの実施形態の化学構造を示す図である。
【図3】本明細書のカップリング剤の実施形態の実例となる第1の官能基の化学構造を示す図である。
【図4】本明細書のカップリング剤の実施形態の実例となる第2の官能基の化学構造を示す図である。
【図5】例示的なカーボンナノチューブ/カップリング剤/フルオロポリマ系における反応物質を表す図である。
【図6】例示的なカーボンナノチューブ/カップリング剤/フルオロポリマ系における反応生成物を表す図である。
【図7】本明細書の実施形態の例示的なカップリング剤を調製するための例示的な化学合成経路を表す図である。
【符号の説明】
【0082】
10 塗膜、20 フルオロポリママトリックス(フルオロポリマ)、30,110 カーボンナノチューブ(CNT)、50,260 カップリング剤、60 第1の官能基、62 アジリジン環、64 イリド(アゾメチンイリド)、66 ジアゾニウム化合物、70 第2の官能基、72 フェノール(フェノール部分)、74,230 アミン、80 連結基、100 反応性構成要素、120 セル(環)、130 フルオロポリマ鎖、140 脱フッ酸化剤または酸受容体(塩基性塩)、150 反応生成物、160 CNT/カップリング剤結合、170 カップリング剤/フルオロポリマ結合、200 化学合成経路、210 ビス(ヒドロキシフェニル)吉草酸、220 LiAlH、240 2,3−ジブロモプロピオン酸エチル、250 カルボエトキシアジリジン官能基、270 フェノール基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマと、
複数のカーボンナノチューブであって、前記カーボンナノチューブは実質的に凝集しておらず、前記フルオロポリマ中に実質的に均一に分散しているカーボンナノチューブと、
第1の官能基、第2の官能基、および連結基を含む、カップリング剤と、
を含み、
前記第1の官能基が前記カーボンナノチューブと結合されており、
前記第2の官能基が前記フルオロポリマと結合されており、さらに、
前記連結基が前記第1の官能基と前記第2の官能基とを結合している、塗料組成物。
【請求項2】
前記フルオロポリマが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマ反復単位を含み、
前記カーボンナノチューブの直径が100ナノメートル未満であり、かつ、
前記カーボンナノチューブが塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在する、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記第1の官能基が、カルベン、フリーラジカル、ナイトレン、アジリジン、アゾメチンイリド、アリールジアゾニウム陽イオン、オキサゾリジノン、およびそれらの混合物からなる群より選択され、
前記第2の官能基が、フェノール、アミン、オレフィン、およびそれらの混合物からなる群より選択され、かつ、
前記連結基が、約6〜約60個の炭素を有する直鎖芳香族炭化水素基、約6〜約60個の炭素を有する分枝鎖芳香族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する直鎖脂肪族炭化水素基、約1〜約30個の炭素を有する分枝鎖脂肪族炭化水素基、ヘテロ原子、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
融着部材基体と、
前記融着部材基体の最外部の塗膜層としてのフルオロポリマ塗膜と、
を含み、
前記フルオロポリマ塗膜が、
フルオロポリマと、
複数のカーボンナノチューブであって、前記カーボンナノチューブは実質的に凝集しておらず、前記フルオロポリマ中に実質的に均一に分散しているカーボンナノチューブと、
第1の官能基、第2の官能基、および連結基を含む、カップリング剤と、
を含み、
前記第1の官能基が前記カーボンナノチューブと化学的に結合されており、
前記第2の官能基が前記フルオロポリマと化学的に結合されており、さらに、
前記連結基が前記第1の官能基と前記第2の官能基とを化学的に結合し、
前記カーボンナノチューブの直径が100ナノメートル未満であり、かつ、
前記カーボンナノチューブが塗料組成物の約0.5〜約20重量%の量で存在する、被覆された融着部材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−156646(P2008−156646A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329415(P2007−329415)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】