説明

塗料組成物

【目的】一回の塗布のみで基材に耐擦傷性と耐衝撃性を付与することのできる塗料組成物(ハードコート液)を提供すること。
【構成】ハードコート液等に使用する塗料組成物。アルコキシシランと水酸基含有ポリマーとを、両成分を溶解可能で水を実質的に含有しない非水極性有機溶媒中で反応させた溶液反応生成物に、無機微粒子が分散されている。アルコキシシランは、テトラアルコキシシランとγグリシドキシアルキルトリアルコキシシランとの併用系として、γグリシドキシアルキルトリアルコキシシランの含有率が小さいものとする。また、無機微粒子は、テトラアルコキシシラン処理金属酸化物微粒子(コロイド)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子を含有する塗料組成物及びその製造方法に関する。特に、耐擦傷性、耐衝撃性に優れた透明塗膜(ハードコート)をプラスチック光学要素(レンズ、フィルター等)の基材に形成するのに適した塗料組成物に係る発明である。
【0002】
ここでは、眼鏡用レンズ基材に適用するハードコートを例に採り説明するが、他のプラスチック光学要素基材に適用する塗料組成物として、さらには、表面に耐擦傷性とともに耐衝撃性が要求される透明塗膜を形成する場合の塗料組成物の場合にも、本発明は適用できる。
【背景技術】
【0003】
現在、眼鏡用レンズの材質としては、従来の無機ガラスに替わり有機ガラス(プラスチックレンズ)が主流となっている。プラスチックレンズは、軽く、様々な色調に色付けすることが可能で、無機ガラスレンズに比して割れにくいといった長所を有する反面、表面に傷が付きやすいという短所を有する。
【0004】
このため、プラスチックレンズの表面には、耐擦傷性を有する素材が数ミクロンの厚さでコーティング、いわゆる、ハードコートが形成されている。
【0005】
このハードコートの形成材(素材)としては熱硬化型シリコーン系樹脂がほとんどであった。シリコーン系樹脂は硬く優れた耐擦傷性を有する反面、柔軟性に比較的乏しいため耐衝撃性が不足する傾向にある。
【0006】
このため、耐衝撃性の補償を目的として柔軟性を有する樹脂層をさらにレンズ表面に一層コートすることが行われている。(特許文献1〜5等参照)
【0007】
本発明の特許性に影響を与えるものではないが、本発明に関連する先行技術文献として、例えば、特許文献1が存在する。
【0008】
すなわち、プラスチックレンズに耐擦傷性と耐衝撃性能を兼ね備えさせるためには、従来の技術では二層を別々に塗布させる必要があった。したがって、製造上コストがかさみ作業の効率が悪くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2005−234529号公報
【特許文献2】特開2005−55884号公報
【特許文献3】特開2005−10618号公報
【特許文献4】特開2004−13127号公報
【特許文献5】特開2002−131702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題(目的)は、上記にかんがみて、一回の塗布のみで基材に耐擦傷性と耐衝撃性を付与することができる塗料組成物、特にハードコートに適した塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、耐衝撃性に優れた有機高分子物質として合わせガラスなど実用面で広く使用されているポリビニルブチラール(PVB)に着目した。
【0011】
しかし、本発明者らは、ハードコートの素材となるアルコキシシランとPVBとの混合分散系に、無機微粒子(コロイド溶液)を添加した場合、無機微粒子が凝集し易く(分散系に水が多く含まれる場合にその傾向はより顕著となる。)、透明均一な塗膜を得難いことを知見した。
【0012】
そして、鋭意開発に努力をした結果、アルコキシシランとPVBとを、双方が溶解可能な極性有機溶媒中で、予め、反応させておけば、無機微粒子(特に金属酸化物微粒子)を均一に分散させることができることを見出し、本発明の塗料組成物及びその製造方法に想到した。
【0013】
さらに、本発明は、PVB以外の水酸基含有高分子ポリマーにおいて、無機微粒子を分散させる無機微粒子含有コート液にも適用できると考えて、下記構成の塗料組成物に想到した。
【0014】
アルコキシシランと水酸基含有ポリマーとを、該両成分を溶解可能で水を実質的に含有しない非水極性有機溶媒中で反応させた反応生成物中に、無機微粒子が分散されてなることを特徴とする。
【0015】
1)上記アルコキシシランとしては、下記一般式にて示されるものを好適に使用できる。
【0016】
R1aR2bSi(OR3 )4-(a+b)
(但し、R1 は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、フェニル基であり、R2 は炭素数1〜3の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基又はアリール基、R3 は炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、a=0又は1、b=0、1又は2である。)
【0017】
具体的には、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独使用の他に、2種以上を併用することも可能である。
【0018】
特に、プラスチック基材との接着性が要求されるときには、エポキシ基(グリシドキシル基)を導入したものを含有させることが望ましい。該エポキシ基導入アルコキシシラン(三置換以下のアルコキシシラン)を過剰に配合すると、アルコキシシラン中の耐擦傷性付与効果のある四置換のテトラアルコキシシランの配合比率が相対的に低下して、塗膜に耐擦傷性を得難くなる。
【0019】
すなわち、アルコキシシランが、テトラアルコキシシラン及びγ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの併用系であり、塗膜成分中におけるアルコキシシラン合計含有率(SiO2換算;以下同じ)20〜55質量%において、前記γ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの塗膜形成成分中のSiO2換算比率が、6〜11質量%であることが望ましい。
【0020】
すなわち、四置換の前者が、緻密な架橋構造(網目)を形成でき耐擦傷性付与の作用を奏し、他方、エポシキ基導入の後者が密着性付与の作用を奏し、両者のバランスにより、上記γ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの配合比率(塗膜形成成分中のSiO2換算比率)が上記範囲となる。
【0021】
2)上記PVBとしては、市場で入手可能なものから適宜選択して使用することができる。すなわち、水酸基約12〜50mol%(6〜25質量%)、平均分子量(Mn)約7万〜25万を有するものから適宜選択する。水酸基含有量が過少では、反応(アルコシキシド及び無機微粒子との反応性)が遅くて生産性に、水酸基含有量が過多では、反応早すぎて(ポットライフが短い。)塗布作業性に、それぞれ問題が発生し易い。一般的に、水酸基含有量は、生産性・塗布作業性の見地から、約15〜20質量%望ましい。また、平均分子量は、基板に対する均一な塗布性の見地から、約17万以上の高分子量で十分な粘性を有するものが望ましい。
【0022】
PVB以外の水酸基含有ポリマーとしては、他のポリビニルアセタール(下記構造式参照)、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールポリエチレン重合体、ポリ(2−ヒドロキシメチルメタクリレート)等の、通常、親水性を示す有機ポリマーを挙げることができる。
【0023】
【化1】

さらに構造中において水酸基(−OH)を有しなくても、アルコキシシラン(の加水分解物)と反応可能な官能基(例えば、−SH、−NCO、−NH2)を有する、通常、親水性を示す有機ポリマーであれば、触媒を適当に選択してアルコキシシランと同様に反応させることにより、透明かつ均一な無機微粒子複合体を得ることができることが期待できる。
【0024】
3)上記非水極性有機溶媒としては、各組成において必要とされる量の水酸基含有ポリマー及びアルコキシシランの双方を溶解させることのできるものなら特に限定されない。
【0025】
例えばアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、ジメチルスルホキシド等の極性有機溶媒の内から単独または複数の混合液を用いることができる。
【0026】
特にこれらのうちで水と自由に混和し、沸点も100℃前後で毒性も相対的に低いものが望ましい。具体的には、メタノール(BP.64〜66℃)、エタノール(BP.77〜80℃)、1−プロパノール(BP.95〜102℃)、2−プロパノール(IPA)、(BP.79〜82℃)、t−ブチルアルコール(BP.78〜85℃)等の低級アルコール類、ジオキサン(BP.95〜103℃)、テトラヒドロフラン(BP.63〜68℃)等の環状エーテル類を挙げることができる。なお、括弧内の沸点(BP.)は、日本化学会編「第5版化学便覧 応用化学編I」(平7−3−15)丸善、p746〜747から引用した。
【0027】
これらは、PVB等の水酸基含有ポリマーとアルコキシシランの双方に対して良好な溶解性を示し、作業性に優れ、かつ、塗膜とした場合に透明性に優れたものを得やすい。
【0028】
本発明における塗料組成物を、プラスチックレンズのハードコート用とする場合は、プラスチックレンズ基材に塗布、硬化させ、基材と組成物が密着することによりその性能を発揮する。そのため、アルコキシシランの少なくとも1種類に、基材と密着できるエポシキ基(グリシドキシル基)等の有機基を分子中に有する三置換のアルコキシシランであるシランカップリング剤を用いる。
【0029】
また、本発明における塗料組成物において、耐擦傷性向上を目的として添加される無機成分の一つとして金属酸化物微粒子コロイドを使用するが、これは、金属酸化物の微粒子をアルコール(例えば、アルコール名)中に分散させた溶液である。
【0030】
4)上記無機微粒子としては、耐擦傷性の見地からは、金属酸化物を使用する。該金属酸化物としては、SiO2、Al23、TiO2、ZrO2、Sb25等の内から1種又は2種以上を適宜選択して使用する。すなわち、プラスチック基材の屈折率に応じて、用途に従って、適当な組成のものを使用する。また、この金属酸化物微粒子コロイドは、アルコキシシランにより前処理を行っておくことが望ましい。なお、シラン処理とは、アルコキシシランと無機微粒子とを反応させることにより、無機微粒子表面にアルコキシシラン加水分解物を結合させることである。この場合、アルコキシシランの種類を適宜選択することにより、必要な化学反応性を無機微粒子に付与できる。
【0031】
なお、他の機能が要求される場合、例えば導電性や電磁シールドが要求される場合は、金属微粒子も使用可能であり、混合使用も可能である。
【0032】
そして、本発明における、アルコキシシランと金属酸化物微粒子とからなる無機成分と、PVBからなる有機成分との塗膜成分における質量比率は、前者(無機成分)/後者(有機成分)=85/15〜65/35、さらには80/20〜75/25が望ましい。無機成分が過多であると、架橋密度が高くなりすぎて(無機成分がPVBを架橋させるため)、ゲル化し易くなる。
【0033】
また、本発明は塗布性、耐光性、撥水性等の塗膜性質を向上させることを目的として、顔料、染料、界面活性剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤から選ばれた添加剤が混入されている場合も含む。
【0034】
本発明における塗料組成物は、後述の実施例に示す如く、密着性、耐擦傷性、耐衝撃性すべてにおいて良好な性能を有する。よって、本発明のハードコート組成物として使用した場合は、従来、ハードコートに耐衝撃性を付加するために、二層コーティング、さらには、プライマー層を含めて三層コーティングをする必要であったのに対して、一層コーティングのみで耐衝撃性とハードコート機能さらには密着性を実現することが可能となる。
【0035】
次に、上記塗料組成物の製造(調製)方法について説明をする。
【0036】
水溶性有機ポリマーの極性有機溶媒の溶液を攪拌しながら、所定量のアルコキシシラン溶液を滴下し混合、続いて所定量の酸触媒を添加する。
【0037】
ここで、酸触媒としては、通常、反応系非水化の見地から、可及的に水含量の少ない濃塩酸(例えば、市販の無希釈濃塩酸:18N)を使用することが望ましいが、5倍程度まで希釈したものでも反応可能であることを確認している。なお、酸触媒としては、塩酸以外に、硝酸、硫酸、リン酸等の他の無機酸、トリメリト酸、無水トリメリト酸、イタコン酸、ピロメリト酸、無水ピロメリト酸等の有機カルボン酸も使用可能である。
【0038】
なお、酸触媒の添加量は、アルコキシシラン1 molに対し0.02mol以下とする。使用する酸触媒は、反応系内に入る水の量を最小限にするため、市販の濃酸溶液を水で希釈せずそのまま用いる。このとき、初期に用いる水溶性有機ポリマー(水酸基含有ポリマー)の溶液中の濃度は、液の攪拌が十分行える程度以下であることが好ましい。
【0039】
この反応溶液を所定時間攪拌した後、所定量の金属酸化物微粒子コロイド溶液を滴下する。
【0040】
全量滴下後、液が透明になるまで攪拌して反応を完結させる。こうして、アルコキシシラン、有機高分子の反応物、および金属酸化物微粒子を含有する、本発明の塗料組成物(ハードコート用組成物)を得る。
【0041】
このハードコート用組成物は、プラスチック基材等に塗布し、60〜110℃の範囲で8時間以上処理することによりハードコート皮膜を形成させ、基材表面に耐擦傷性および耐衝撃性の機能を付与させることができる。なお、基材への塗布の方法としては、刷毛等を用いた手塗り、ディップコート、スピンコート等、慣用の方法を用いることができる。
【0042】
上記プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET:ポリエステル)、ポリウレタン、脂肪族アリルカーボネート樹脂、芳香族アリルカーボネート樹脂、ポリチオウレタン、エピスルフィド樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリイミド、ポリオレフィン系等を挙げることができる。より具体的には、「CR−39」(PPG CO.社製脂肪族アリルカーボネート樹脂、nD:1.50)、「MR−8」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、nD:1.60)、「MR−7」(三井化学株式会社製ポリチオウレタン、nD:1.67)、「MR−174」(三井化学株式会社製エピスルフィド樹脂、nD:1.74)、等に適用可能である。ここで、基材として、光学特性(外観・干渉縞等)の見地から、ハードコート膜と同程度の屈折率を有するものを使用することが望ましい。例えば、無機微粒子をシリカとした場合、屈折率(nD)1.50前後の、無機微粒子をチタニアとした場合、屈折率(nD)1.70前後の各基材とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明を、実施例に基づいて、比較例とともにさらに詳細に説明する。
【0044】
なお、使用した薬剤の仕様は下記の通りである。「IPA」は「2−プロパノール」の略号である。
【0045】
水溶性有機高分子・・・アルドリッチ社製PVB:平均分子量17万−25万、ブチラール化度80%、水酸基17.5−20%、アセタール化度0−2.5%
酸性触媒・・・HCl(濃度18N)
シリカコロイド溶液・・・シリカコロイド微粒子IPA分散、粒子径20nm、濃度20%、テトラエトキシシラン処理済み
チタニアコロイド溶液(I)・・・チタニアコロイド微粒子メタノール分散、粒子径20nm、濃度20%、テトラエトキシシラン処理済み
チタニアコロイド溶液(II)・・・上記チタニアコロイド微粒子メタノール分散、粒子径20nm、濃度20%、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理済。
【0046】
無処理チタニアコロイド溶液・・・上記チタニアコロイド溶液(I)、(II)において、シラン処理をしていないもの。
A.各実施例・比較例のハードコート液(ハードコート組成物)は、下記の如く調製した(図1のA.参照)
<実施例1>
PVBの5%IPA溶液7.35gを撹拌しながら、そこへアルコキシド混合液(テトラエトキシシラン(TEOS)1.91g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMOS)0.756g)を滴下し添加する。アルコキシド液全量添加後5分間攪拌を続け、そこへ濃塩酸20μLをマイクロピペットにて加える。続いて10分間攪拌を行い、シリカコロイド溶液(I)2.45gを滴下し、全量添加後さらに2時間撹拌して、ハードコート組成物を調製した。なお、ここまでの反応はすべて室温下にて行った(以下、各実施例・比較例同じ)。
【0047】
<実施例2>
PVBの5%IPA溶液4.89g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン0.849g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.504g)、濃塩酸10μL、チタニアコロイド溶液(I)2.04gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0048】
<実施例3>
PVBの5%2−プロパノール溶液 5.25g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン1.00g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.324g)、濃塩酸10μL、チタニアコロイド溶液(I)1.40gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0049】
<実施例4>
PVBの5%IPA溶液7.35g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン0.891g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.454g)、濃塩酸10μL、チタニアコロイド溶液(I)2.45gを用い、実施例1と同様にしてハードコート組成物を調製した。
【0050】
<実施例5>
PVBの5%IPA溶液5.88g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン2.16g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.454g)、濃塩酸10μL、チタニアコロイド溶液(I)1.47gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0051】
<実施例6>
PVBの5%IPA溶液5.87g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン2.04g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.605g)、濃塩酸50μリットル、チタニアコロイド溶液(I)1.47gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0052】
<実施例7>
PVBの5%IPA溶液5.88g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン1.91g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.756g)、濃塩酸10μL、チタニアコロイド溶液(I)1.47gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0053】
<実施例8>
PVBの5%IPA溶液7.35g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン2.07g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.567g)、濃塩酸20μL、チタニアコロイド溶液(I)2.45gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0054】
<実施例9>
PVBの5%IPA溶液7.35g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン1.91g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.756g)、濃塩酸20μL、チタニアコロイド溶液(I)2.45gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0055】
<実施例10>
PVBの5%IPA溶液7.35g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン1.75g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.945g)、濃塩酸20μL、チタニアコロイド溶液(I)2.45gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0056】
<比較例1>
PVBの5%IPA溶液5.88g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン2.29g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.302g)、濃塩酸50μL、チタニアコロイド溶液(I)1.47gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0057】
<比較例2>
PVBの5%IPA溶液4.90g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン2.12g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.504g)、濃塩酸50μL、チタニアコロイド溶液(I)0.816gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0058】
<比較例3>
PVBの5%IPA溶液9.79g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン1.70g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.01g)、濃塩酸50μL、チタニアコロイド溶液(I)4.08gを用い、実施例1と同様にしてハードコート用組成物を調製した。
【0059】
<比較例4>
PVBの5%IPA溶液7.84g、アルコキシド混合液(テトラエトキシシラン0.679g、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.403g)、濃塩酸20μL、チタニアコロイド溶液(I) 0.979gを用い、実施例1と同様にしてハードコート組成物を調製した。なお、このハードコート組成物は、触媒添加後速やかにゲル化してしまい、レンズに塗布不能となった。
【0060】
<比較例5>
実施例5において、チタニアコロイド溶液(I) 0.979gを無処理チタニアコロイド溶液1.47gとした以外は、同様にしてハードコート組成物を調製した。
【0061】
<比較例6>
実施例6において、チタニアコロイド溶液(I)を無処理チタニアコロイド溶液1.47gとした以外は、同様にしてハードコート組成物を調製した。
【0062】
<比較例7>
実施例5において、チタニアコロイド溶液(I)をチタニアコロイド溶液(II)に換えた以外は、同様にしてハードコート組成物を調製した。
【0063】
<比較例8>
実施例6において、チタニアコロイド溶液(I)をチタニアコロイド溶液(II)に換えた以外は、同様にしてハードコート組成物を調製した。
【0064】
B.試験片は、下記の如く調製した(図1のB.参照)
上記各実施例・比較例で調製したハードコート組成物をプラスチックレンズ(ポリチオウレタン製:nD 1.5)に塗布、それをシャーレに入れ、乾燥雰囲気のデシケータ中16h放置して反応を進行させて塗膜を熟成させた。その後、レンズをシャーレに入れたまま50℃で6時間、シャーレから取り出して100℃で2時間乾燥させることにより、レンズ表面にハードコートを形成させた。
【0065】
C.評価試験は、上記のようにしてハードコート処理をした各ハードコートレンズ(試験片)に対して、下記の方法により評価を行った。
【0066】
1)膜状態:透明度、均一度、剥がれ等を目視で確認して評価した。
【0067】
2)密着性:ハードコート表面に対し、カッターナイフにより格子パターン状の刻み線(間隔1mm、縦横11本)を入れ、そこへ幅18mmのセロハンテープを貼り付け、一気に
引き剥がした後、刻み線の状態を観察し、下記判定基準に従って評価した。
【0068】
判定基準:3A 膜の状況:10回以上の試験でも剥がれ発生せず
2A 5〜9回まで剥がれ発生せず
A 1〜4回まで剥がれ発生せず
AB 刻み線上に沿い点状、面状の剥がれ発生(10%以下)
B 刻み線上に沿い面状の剥がれ発生(20%以下)
C 刻み線上に沿い面状剥離(50%以下)
D 刻み線上および異箇所より面状剥離
3)耐擦傷性:幅が6mmの砂消しゴム(LION製 ER502番)をラビングテスター先端にセットし、総荷重が500gとなるよう重しを乗せ、試料面上をストローク30mmで15往復させた。判定は、擦過面(6×30mm)の面に対し膜状態を観察し、それにより下記判定基準に従って評価した。
【0069】
判定基準:3A 膜の状況:キズの面積が0%
2A キズの面積が1%を越え2%未満
A キズの面積が3%を越え10%未満
AB キズの面積が10%を越え30%未満
B キズの面積が30%を越え60%未満
C キズの面積が60%以上
D キズの面積が全面で膜が無いような状態
4)耐衝撃性:米国FDA(Food and Drug Administration:アメリカ厚生教育省食品医薬品局)耐衝撃性試験法で規定されている方法に準拠した落球試験により評価した。
【0070】
質量が5.5g、16.5g(FDA基準値、眼鏡レンズでの実用上の指標となっている)、50g、100g、135gの鋼球を、軽い順から1270mmの高さより試料面へ順次落下させ、試料が破壊や亀裂等したときの鋼球の重量よりも1ランク軽い値を耐衝撃値とした。
【0071】
<試験結果>
各実施例・参考例及び各比較例についての評価試験の結果をそれぞれ表1及び表2に示す。なお、表1・2において、各成分量は反応が完結したと仮定した上での複合体中の重量%で示してある。(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランもすべてシリカ(SiO2)の形に変化したと仮定して換算した。)また、膜状態が良好(透明均一)で無い各比較例は、膜状態以外の密着性等の項目についての評価試験は行わなかった。
【0072】
そして、表1・2から下記のことが分かった。
【0073】
1)膜状態:無機コロイド比率が低いと液がゲル化し易くなる(比較例4)。無機成分比率80%の場合、無機コロイド過多の組成(比較例3)で膜が白濁し、無機コロイドまたはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン低組成領域(比較例2)で膜剥がれが起こる。これに対して、それらの効果がバランスされた中間的領域にある組成の各実施例・比較例においては透明均一剥がれ無しの膜が得られる。
【0074】
2)密着性:全ての実施例・参考例においては極めて良好である(10回の繰り返しでも剥離全く無し。)。
【0075】
3)耐擦傷性:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが11%以下である実施例7・10を除く各実施例は良好である。γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが11%を超えた実施例7・10は、耐擦傷性付与の作用を奏する四置換体であるテトラアルコキシシランの配合比率が相対的に低下して、良好な耐擦傷性を得難い。
【0076】
4)耐衝撃性:透明ハードコートすべての各実施例の試料において135gの落球(FDA基準値7倍以上)でも耐え得る。
【0077】
以上から、各実施例のような適正な組成を選択することにより、緩衝層を設けた複層構成としなくても、すべての特性に優れたハードコートの作製が可能であることが分かった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例におけるハードコート液の調製方法及び該ハードコート液を用いての試験片の調製方法を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシランと水酸基含有ポリマーとを、該両成分を溶解可能で水を実質的に含有しない非水有機極性溶媒中で反応させた溶液反応生成物に、無機微粒子が分散されてなることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシランが、
一般式: R1aR2bSi(OR3 )4-(a+b)
(但し、R1 は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基又はフェニル基であり、R2 は炭素数1〜3の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基又はアリール基、R3 は炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、a=0又は1、b=0、1又は2である。)
で示されるものであることを特徴とする請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランとγ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランとの併用系であり、塗膜成分中におけるアルコキシシラン合計含有率(SiO2換算;以下同じ)20〜55質量%において、γ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの含有率が、6〜11質量%であることを特徴とする請求項2記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記水酸基含有ポリマーがポリビニルブチラール(PVB)であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記無機微粒子が、金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子がテトラアルコキシシラン処理物であることを特徴とする請求項5記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記アルコキシシランおよび前記金属酸化物微粒子からなる無機成分(アルコキシシランはSiO2換算)と、前記PVBからなる有機成分との塗膜成分における質量比率が前者/後者=85/15〜65/35であることを特徴とする請求項5又は6記載の塗料組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の塗料組成物からなることを特徴とするハードコート組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のハードコート組成物で、プラスチック基材上に直接ハードコートが形成されていることを特徴とするプラスチック光学要素。
【請求項10】
下記工程を含むことを特徴とする塗料組成物の製造方法。
1)アルコキシシランと水酸基含有ポリマーとを、該両成分を溶解可能で水を実質的に含有しない非水有機極性溶媒中で反応させて溶液生成物を調製する溶液反応生成物調製工程。
2)該溶液反応生成物中に無機微粒子のコロイド溶液を添加する無機微粒子添加工程。
【請求項11】
前記アルコキシシランが、
一般式: R1aR2bSi(OR3 )4-(a+b)
(但し、R1 は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基又はフェニル基であり、R2 は炭素数1〜3の炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基又はアリール基、R3 は炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシアルキル基である。また、a=0又は1、b=0、1又は2である。)
で示されるものであることを特徴とする請求項10記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項12】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランとγ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの併用系であり、塗膜成分中におけるアルコキシシラン合計含有率(SiO2換算;以下同じ)20〜55質量%において、前記γ−グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの含有率が、6〜11質量%であることを特徴とする請求項11記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記水酸基含有ポリマーがポリビニルブチラール(PVB)であることを特徴とする請求項10、11又は12記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項14】
前記無機微粒子が金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項15】
前記金属酸化物微粒子がテトラアルコキシシラン処理物であることを特徴とする請求項14記載の塗料組成物の製造方法。
【請求項16】
前記アルコキシシランおよび前記金属酸化物微粒子からなる無機成分(アルコキシシランはSiO2換算)と、前記PVBからなる有機成分との塗膜成分における質量比率が前者/後者=85/15〜65/35であることを特徴とする請求項14又は15記載の塗料組成物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−119635(P2007−119635A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314639(P2005−314639)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】