説明

塗料貯留システムおよび貯留方法

【課題】塗料貯留タンクの壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留する塗料貯留システムおよび貯留方法を提供することを課題とする。
【解決手段】揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する気密性の構造を有する塗料貯留タンクと、前記有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を貯蔵した気密性の構造を有する有機溶剤貯槽と、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤にバブリングさせたガスを、前記塗料貯留タンクの頂部へ供給するガス供給配管と、を備えることを特徴とする塗料貯留システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留する塗料貯留システムおよび貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性の有機溶剤に溶解された樹脂組成物からなる、溶剤型塗料、粘着剤、接着剤など(以下、塗料と総称する)は、大気中に放置すると有機溶剤が蒸発して乾燥してしまい、硬化被膜を形成する。乾燥が進行した塗料は、塗料の表面(液面)に皮膜が形成されたり、塗料内部の有機溶剤が蒸発して樹脂組成物の濃度が高まって高粘度となっているため、塗料の供給配管や、塗料を塗布するためのノズルを詰まらせることがある。このため、例えば、特許文献1−2に開示されているように、ノズル面に乾燥防止液を供給したり、塗布ヘッドのスロット開口部に溶剤を吹き付けるなど、各種の措置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−69635号公報
【特許文献2】特開平6−339657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗料の乾燥を防止するために、ノズル面に乾燥防止用の有機溶剤を供給すると、塗布される塗料中の樹脂組成物の濃度が変動してしまい、一定の安定した膜厚からなる塗膜が得られないという問題があった。
【0005】
また、密閉された容器内に、揮発性の有機溶剤を含む塗料を保管した場合であっても、気相部が有機溶剤の飽和蒸気圧に達するまでの間、塗料の液面から有機溶剤の蒸発が起こり、それに伴って、塗料の液面部分の乾燥及び硬化被膜の形成が進行する。
【0006】
また、揮発性の有機溶剤を含む塗料が貯留された塗料貯留タンクにおいて、塗料が、塗料貯留タンクから塗料の塗布装置などに供給されて消費されると、塗料の液面が低下する。その結果、塗料貯留タンクの内壁面に付着した塗料の被膜が乾燥して硬化被膜が形成される。何かの拍子に、塗料貯留タンクの内壁面に形成された塗料の硬化被膜が剥がれて、塗料内に混入してしまい、塗料の供給配管を詰らせたり、塗料の塗布面に異物となって付着し、製品を汚損させてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、塗料貯留タンクの内壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留する塗料貯留システムおよび貯留方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する塗料貯留タンクの頂部に、有機溶剤にバブリングさせた空気や不活性ガスなどのガスを供給することにより、塗料液面が低下した場合でも、塗料貯留タンクの内壁面に付着した塗料が乾燥して硬化被膜が形成されるのを防止することを技術思想としている。
【0009】
詳細には、本発明は、揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する塗料貯留システムであっ
て、前記塗料を貯留する気密性の構造を有する塗料貯留タンクと、前記有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を貯蔵した気密性の構造を有する有機溶剤貯槽と、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤にバブリングさせたガスを、前記塗料貯留タンクの頂部へ供給するガス供給配管と、を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、塗料とは、揮発性の有機溶剤に溶解された樹脂組成物からなるものであり、例えば、溶剤型塗料、粘着剤、接着剤などが挙げられる。また、有機溶剤と同じ成分とは、塗料貯留タンクに貯留する塗料に含まれる有機溶剤と同じ揮発性の成分であり、有機溶剤と同等の成分とは、同一の温度において、塗料貯留タンクに貯留する塗料に含まれる有機溶剤と同等の飽和蒸気圧を有するかそれよりも高い飽和蒸気圧を有し、塗料に含まれる樹脂組成物に対して悪影響を及ぼさない揮発性の成分をいう。
【0011】
溶解した空気などのガスが真空引きにより脱気された塗料は、気密性の構造を有する塗料貯留タンク内に、ほぼ大気圧に近い圧力で保持されて、水分やダストなどの不純物が混入しないようにして貯留されている。塗料貯留タンク内に貯留する塗料に含まれる有機溶剤の蒸気圧が、飽和蒸気圧に達していれば、有機溶剤の蒸発が起こらないため、塗料の乾燥は進行しない。そこで、塗料貯留タンク内の塗料に含まれる有機溶剤の蒸気圧を制御し、塗料の乾燥の進行を阻止して硬化被膜の形成を防止することが考えられるが、塗料の飽和蒸気圧は、塗料に含まれる有機溶剤の種類や温度に応じて変化するため、これらを計測して塗料貯留タンク内を常に飽和蒸気圧に保つことは難しい。
【0012】
ところで、塗料貯留タンクに貯留されている塗料からは、気相部が飽和蒸気圧に達するまで有機溶剤が蒸発する。そこで、飽和蒸気圧に達していない空気や不活性ガスなどのガスを、塗料に含まれている有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤に積極的に接触させて、当該有機溶剤の飽和蒸気圧まで含有させた後、塗料貯留タンクに供給すれば、塗料貯留タンクの気相部が飽和蒸気で満たされる。
【0013】
そこで、本発明の塗料貯留システムは、塗料を貯留する塗料貯留タンクとは別に、塗料に含まれている有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を入れた気密性の構造を有する有機溶剤貯槽の、有機溶剤に空気や不活性ガスなどのガスをバブリングさせる。このことにより、塗料貯留タンクに貯留する塗料に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧に達したガスを速やかに生成し、これを、塗料貯留タンクの頂部へ供給している。塗料貯留タンクに貯留する塗料に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧に達したガスを、塗料貯留タンクへ供給すれば、塗料貯留タンクに貯留あるいは、塗料貯留タンクの内壁面に付着して残留する塗料の乾燥が抑制される。よって、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留することが可能である。
【0014】
なお、前記塗料貯留タンクは、複数設けられており、A系列とB系列の2系統から構成され、前記A系列及び前記B系列とが、それぞれ、1つまたは複数の塗料貯留タンクからなり、前記1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクに貯留されている塗料を、他の1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクのうちの何れかの塗料貯留タンクへ移送する塗料供給配管と、前記1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクの気相部のガスを、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤にバブリングさせた後、他の1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れかの塗料貯留タンクの頂部へ移送するガス供給配管と、を備えることを特徴とするものであってもよい。
【0015】
塗料貯留タンクが複数設けられており、これらがA系列とB系列の2系統から構成されており、各系列がそれぞれ、1つまたは複数の塗料貯留タンクからなる場合において、1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクの気相部のガス
を、他の1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れかの塗料貯留タンクへ移送するガス供給配管が設けられていれば、1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクに貯留されている塗料を、他の1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクの何れかの塗料貯留タンクへ、塗料供給配管を使って移送を行う際、液位が上昇する塗料貯留タンクの気相部のガスが、液位が下降する塗料貯留タンクへ流れる。よって、このようなガスの流れを利用してバブリングを行なうことにより、有機溶剤の成分で飽和したガスを生成しながら塗料貯留タンクの気相部を速やかに飽和蒸気圧にすることができる。
【0016】
また、前記塗料貯留システムは、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤の温度が、少なくとも前記塗料貯留タンク内の前記塗料の温度よりも高くなるように、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤を加温する加温手段を更に有することを特徴とするものであってもよい。
【0017】
有機溶剤の飽和蒸気圧は、一般的に、温度に応じて高くなる。このため、有機溶剤貯槽内の有機溶剤の温度を、少なくとも塗料貯留タンク内の塗料の温度よりも高くすれば、塗料に含まれている有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤貯槽内の有機溶剤の飽和蒸気圧は、塗料に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧よりも高くなる。有機溶剤貯槽内の有機溶剤をこのように加温した状態でバブリングを行なうことにより、有機溶剤貯槽において、塗料貯留タンク内の塗料に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧よりも高い濃度のガスが生成され、ガス供給配管によって塗料貯留タンクの頂部へ供給されることになる。この結果、塗料貯留タンクの気相部が、塗料に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧と同等かそれ以上の蒸気圧の補給ガスで満たされることになり、塗料貯留タンクの内壁面に付着した塗料の乾燥がより確実に抑制される。よって、塗料貯留タンクの内壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留することが可能である。
【0018】
なお、本発明は、方法の発明としての側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する塗料貯留方法であって、前記有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を貯蔵した気密性の構造を有する有機溶剤貯槽でバブリングさせたガスを、前記塗料を貯留する気密性の構造を有する塗料貯留タンクの頂部へ供給することを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、塗料貯留タンクの内壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料を、長期間に渡り安定して貯留することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の塗料貯留システムにおける、第一実施形態の概略構成図である。
【図2】本願発明の塗料貯留システムにおける、第一実施形態の使用方法を示した図である。
【図3】本願発明に係わる塗料貯留システムの、第一実施形態における塗料貯留タンクの変形例である。
【図4】本発明の塗料貯留システムにおける、第二実施形態の概略構成図である。
【図5】本発明の塗料貯留システムにおける、第二実施形態の使用方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の例示であり、本発明の技術的範囲をこれらに限定するものではない。
【0022】
<第一実施形態>
図1は、本発明の塗料貯留システム10における、第一実施形態の、概略構成図である。塗料貯留システム10は、図1に示すように、2つの塗料貯留タンク11A,11Bとガス供給配管系統12とを備えている。
【0023】
2つの塗料貯留タンクにおいて、例えば、一方の塗料貯留タンク11Aは、塗料30の調合用タンクとして利用し、他方の塗料貯留タンク11Bは、塗料30の塗布装置に対して払い出すための調整タンクとして利用することを想定して、以下に説明する。
【0024】
塗料30は、揮発性の有機溶剤に溶解された樹脂組成物からなるものであり、例えば、溶剤型塗料、粘着剤、接着剤などが挙げられる。塗料貯留タンク11A,11Bは、気相部が大気開放されない気密性の構造を有する密閉容器であり、塗料30の液位が変動する際に気相部の圧力変動が生じて負圧とならないように、ガス供給配管系統12から空気や不活性ガスなどのガスが補給される。
【0025】
塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30に含まれている有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤31を貯える有機溶剤貯槽13には、除湿及び清浄化した空気や不活性ガスなどのガスが、外部のガス供給装置(図示していない)からガス補給管14をとおして供給される。
【0026】
有機溶剤31を貯えた有機溶剤貯槽13の液相部に、ガス補給管14をとおして供給されるガスを入れてバブリングさせることにより、有機溶剤貯槽13の気相部に、有機溶剤31の成分で飽和したガスが発生する。
【0027】
有機溶剤貯槽13に貯蔵される有機溶剤31は、塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30に含まれている有機溶剤と同じ成分であることが好ましい。有機溶剤が多成分からなり調合に手間が掛かるなど、止む得ない場合には、塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30に含まれている有機溶剤と同等の成分を含有したものとすることが可能である。
【0028】
なお、有機溶剤貯槽13に貯える有機溶剤31が、塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同じ成分とは、塗料貯留タンクに貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同じ化学物質であり、有機溶剤と同等の成分とは、同一の温度において、塗料貯留タンクに貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同等の飽和蒸気圧を有するかそれよりも高い飽和蒸気圧を有し、塗料30に含まれる樹脂組成物に対して悪影響を及ぼさない化学物質をいう。
【0029】
塗料30を溶解するために使用されている一般的な有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。表1に示した、これらの化学物質の物性から、塗料30に含まれる有機溶剤として酢酸エチルを使用している場合には、アセトン、メチルエチルケトンは、同等の有機溶剤として取り扱うことができる。
【表1】

【0030】
また、有機溶剤貯槽13の容量や、有機溶剤貯槽13に貯める有機溶剤31の量は、塗料貯留タンク11A,11Bの大きさや、塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30の量、塗料30の時間当たりの消費量に応じて適宜決定する。
【0031】
塗料貯留タンク11Aの底部には、塗料貯留タンク11Bの底部と繋がる塗料供給配管15が設けられている。また、塗料供給配管15の途中には、塗料30を移送する移送ポンプ16が設けられている。移送ポンプ16は、塗料貯留タンク11A側と塗料貯留タンク11B側の何れの側へも、塗料30を移送可能なポンプである。移送ポンプ16の流れ方向の切り替えは、図示しない配管や弁類を開閉することによって実現してもよいし、正転および逆転が可能なモータおよびポンプによって実現してもよい。
【0032】
なお、移送ポンプ16をプランジャー方式以外のものとする場合、移送ポンプ16が停止中に、塗料30が塗料貯留タンク11Aから流出するのを防ぐ弁を塗料供給配管15に設け、移送ポンプ16の運転状態に応じて開閉させるとよい。また、塗料貯留タンク11A,11Bには、タンクの破壊を防止するための安全弁や、タンクを保守する際に用いるベント弁、ドレン弁等を設けてもよい。また、塗料貯留タンク11Bには、塗料30の塗布装置に対して塗料30を払い出すための配管25が配設されている。
【0033】
塗料貯留タンク11Aの蓋17Aには、塗料貯留タンク11Aの内圧が所定の値よりも上昇した時に、塗料貯留タンク11Aの気相部のガスを有機溶剤貯槽13に流す排気管18A、及び、塗料貯留タンク11A内圧が所定の値よりも下降した時に、有機溶剤貯槽13から塗料貯留タンク11Aへバブリングしたガスを流すガス供給配管19Aが接続されている。排気管18Aの有機溶剤貯槽13側の開口端は、貯蔵されている有機溶剤31の液面よりも下になるように、有機溶剤貯槽13内の下部に位置し、ガス供給配管19Aの有機溶剤貯槽13側の開口端は、貯蔵されている有機溶剤31の液面よりも上になるように、有機溶剤貯槽13の上部に位置している。
【0034】
なお、排気管18Aには、有機溶剤貯槽13側から塗料貯留タンク11A側へ流体が流れるのを防ぐ、逆止弁20Aが設けられている。また、ガス供給配管19Aには、塗料貯留タンク11A側から有機溶剤貯槽13側へ流体が流れるのを防ぐ、逆止弁21Aが設けられている。
【0035】
また、塗料貯留タンク11Aについて、排気管18Aやガス供給配管19A、逆止弁20A,21A等の構成を説明したが、塗料貯留タンク11Bについても、塗料貯留タンク11A側と同様、排気管18Bやガス供給配管19Bが蓋17Bに接続されており、排気管18Bには逆止弁20Bが設けられ、ガス供給配管19Bには逆止弁21Bが設けられている。
【0036】
なお、上記の排気管18A、18Bに配設されている逆止弁20A、20B、及び、ガス供給配管19A、19Bに配設されている逆止弁21A、21Bなどは、同等の機能を有する自動弁などに置き換えることができる。 例えば、塗料貯留タンク11A、11B
に設けた設定器付きの圧力検出器(図示せず)と、空気作動による自動弁とを組み合わせる。仮に、塗料貯留タンク11Aの圧力が、所定の圧力以上となれば、排気管18Aに配設されている空気作動の自動弁(図示せず)を開いて、塗料貯留タンク11Aの気相ガスを有機溶剤貯槽13に移送する。また、仮に、塗料貯留タンク11Aの圧力が、所定の圧力以下となれば、ガス供給配管19Aに配設されている空気作動の自動弁(図示せず)を開いて、有機溶剤貯槽13の有機溶剤の蒸気を塗料貯留タンク11Aの頂部に供給しても良い。
【0037】
<第一実施形態の使用方法>
以上のように構成される、本願発明に係わる塗料貯留システム10は、例えば、次のように使用することができる。塗料貯留システム10の、使用方法の一例を図2に示す。例えば、内圧が何ら調整されていない塗料貯留タンク11Aに、塗料30を調製するための各種の原材料を投入して、所定の配合に調整する(図2(A))。塗料貯留システム10を、以下のように操作することで、塗料貯留タンク11Aと塗料貯留タンク11Bの有機溶剤の蒸気圧を飽和蒸気圧にし、塗料30が乾燥しない状態にすることができる。よって、塗料貯留タンクの内壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料30の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料30を、長期間に渡り安定して貯留することが可能である。
【0038】
まず最初に、移送ポンプ16を運転し、塗料貯留タンク11Aの塗料30を、塗料貯留タンク11Bへ移送する(図2(B))。塗料30を、塗料貯留タンク11Aから塗料貯留タンク11Bへ移送すると、塗料貯留タンク11Bの内圧が所定の値よりも上昇し、塗料貯留タンク11Bの気相部のガスが排気管18Bを流れて有機溶剤貯槽13に導入される。有機溶剤貯槽13に導入された塗料貯留タンク11Bの気相部のガスは、有機溶剤貯槽13の有機溶剤31の中で泡状になって気相部へ上がり、ガス供給配管19Aを経由して、塗料30の移送により内圧が所定の値よりも低下した、塗料貯留タンク11Aへ流れる。塗料貯留タンク11Bの気相部のガスは、有機溶剤貯槽13の有機溶剤31を通る際に、有機溶剤31の成分で飽和する。そして、有機溶剤31の成分で飽和したガスが、ガス供給配管19Aを経由して塗料貯留タンク11Aへ流入するため、塗料貯留タンク11Aの有機溶剤の蒸気圧が、速やかに飽和蒸気圧へ到達する。
【0039】
次に、移送ポンプ16を使い、塗料貯留タンク11Bへ移送した塗料30の一部を再び塗料貯留タンク11Aへ戻す(図2(C))。塗料30を、塗料貯留タンク11Bから塗料貯留タンク11Aへ移送すると、上記と同様な現象により、塗料貯留タンク11Aの気相部のガスが排気管18Aを流れ、有機溶剤貯槽13の有機溶剤31の中で泡状になって気相部へ上がり、ガス供給配管19Bを経由して塗料貯留タンク11Bへ流れる。塗料貯留タンク11Aの気相部のガスは、有機溶剤貯槽13の有機溶剤31を通る際に有機溶剤31の成分で飽和する。この結果、有機溶剤の成分がほとんど混入していなかった塗料貯留タンク11Bの気相部についても、有機溶剤の成分で飽和したガスで置換される。
【0040】
上記のように、塗料貯留システム10を操作すれば、塗料30を貯留する塗料貯留タンク11A,11Bの気相部の有機溶剤の蒸気圧が、速やかに飽和蒸気圧に達する。よって、塗料貯留タンク11A,11Bの内壁面に付着して残留する塗料30の、乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止できる。
【0041】
すなわち、塗料貯留タンク11A,11Bに貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤でバブリングさせたガスを、塗料貯留タンク1
1A,11Bの気相部に供給している。このため、塗料貯留タンク11A,11B内の有機溶剤の蒸気圧が自動的に、安全且つ安価に、溶剤の飽和蒸気圧あるいはこれに近い圧力に調整される。よって、塗料貯留タンク11A,11B内が、速やかに、塗料30に含まれる有機溶剤の飽和蒸気圧に調整されて、塗料30の乾燥を抑制することができる。これにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料30を、長期間に渡り安定して貯留することが可能である。
【0042】
また、塗料30の飽和蒸気圧は、塗料30の温度に応じて変化するため、塗料貯留タンク11A,11B内の温度が、外部の温度変化に影響されて変動しにくいように、塗料貯留タンク11A,11Bの外壁面に保温材を設けることが好ましい。
【0043】
また、本発明に係わる塗料貯留システム10は、各塗料貯留タンク11A,11Bに、ガス濃度計あるいは圧力計を設置し、塗料貯留タンク11A,11B内が、飽和蒸気圧に達しているか否かを確認可能にしてもよい。ガス濃度計の指示値を監視することで、各塗料貯留タンク11A,11Bに貯留している塗料30が、爆発限界の範囲外であることを監視できる。
【0044】
また、本発明に係わる塗料貯留システム10は、有機溶剤貯槽13内の有機溶剤31を加温する加温ヒータを、有機溶剤貯槽13あるいはこれに繋がる配管に設けてもよい。加温ヒータは、例えば、加熱水蒸気を通気する伝熱管であってもよいし、或いは電気ヒータであってもよい。加温ヒータは、有機溶剤貯槽13内の有機溶剤31の温度が、少なくとも塗料貯留タンク11A,11B内の塗料30の温度より高くなるように、有機溶剤31を加温する。有機溶剤貯槽13内の有機溶剤31をこのように加温すれば、有機溶剤貯槽13内の有機溶剤31の飽和蒸気圧は、塗料貯留タンク11A,11B内の塗料30の飽和蒸気圧よりも高くなる。よって、有機溶剤貯槽13内でバブリングすることで生成された高い濃度のガスが、塗料貯留タンク11A,11Bへ供給されることになる。よって、塗料30の乾燥をより確実に抑制することができる。
【0045】
なお、加温ヒータの出力は、塗料貯留タンク11A,11B内の塗料30の温度より高くなるように制御する方法だけでなく、例えば、各塗料貯留タンク11A,11Bに設置したガス濃度計あるいは圧力計を監視し、塗料貯留タンク11A,11Bの有機溶剤の蒸気圧が飽和蒸気圧に達するように制御してもよい。
【0046】
なお、本発明に係わる塗料貯留システム10をこのように操作し、塗料貯留タンク11A,11Bの有機溶剤の蒸気圧を飽和蒸気圧にした後、塗料貯留タンク11Bに貯留した塗料30を、塗布装置へ移送する際は、有機溶剤貯槽13へのガス補充管14のガス供給弁を開いて、ガスを供給しながら移送を開始する。
【0047】
また、内圧が何ら調整されていない塗料貯留タンク11Aに各種の塗料30を調製するための原材料を投入して、所定の配合に調整する前に、塗料貯留タンク11A,11Bの両方に、ガス補充管14から補充されるガスを、有機溶剤貯槽13の有機溶剤31の中でバブリングさせた後、ガス供給配管19Aやガス供給配管19Bを経由して塗料貯留タンク11Aおよび塗料貯留タンク11Bへ導入しても良い。
【0048】
<第一実施形態の変形例>
なお、上記の本発明に係わる塗料貯留システム10の、各塗料貯留タンク11A,11Bは、それぞれ、一基ずつであってもよいが、塗料貯留システム10は必ずしもこのような態様に限定されるものでなく、例えば、図3に示すように、塗料貯留タンク11A及び塗料貯留タンク11Bの何れか、或いは両方が、複数基を設けられており、タンク群を構成するようにしてもよい。
【0049】
<第二実施形態>
図4は、本発明の第二実施形態に係る、塗料30の塗料貯留システム50の概略構成図である。塗料貯留システム50は、図4に示すように、塗料貯留タンク51と、有機溶剤貯槽53と、ガス供給配管系統52とを備えている。
【0050】
塗料貯留タンク51は、塗料30の調合用タンクとして利用し、そのまま、塗料30の塗布装置に対して払い出すための調整タンクとして利用することを想定して、以下に説明する。
【0051】
塗料貯留タンク51は、第一実施形態の塗料貯留タンク11A,11Bと同様、塗料30を入れるタンクであり、気相部を気密にできる密閉可能な容器である。また、塗料貯留タンク51には、塗料30の塗布装置に対して塗料30を払い出すための配管が配設されている。
【0052】
ガス供給配管系統52は、第一実施形態のガス供給配管系統12と同様、塗料貯留タンク51に貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同じあるいは同等の成分の有機溶剤を貯える有機溶剤貯槽53を備えており、塗料貯留タンク51の気相部にあるガス、或いはガス補充管54を介して供給される空気、不活性ガス等の補充ガスを液相部に放出してバブリングさせる系統である。なお、有機溶剤貯槽53に貯える有機溶剤31は、塗料貯留タンク51に貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同じものである必要はなく、例えば、塗料貯留タンク51に貯留する塗料30に含まれる有機溶剤と同等の成分を含有した有機溶剤であれば如何なるものであってもよい。有機溶剤31を貯える有機溶剤貯槽13には、除湿及び清浄化した空気や不活性ガスなどのガスが、外部のガス供給装置(図示していない)からガス補給管14をとおして供給される。
【0053】
塗料貯留タンク51の蓋57には、塗料貯留タンク51の気相部のガスを流す排気管58、及び、塗料貯留タンク51へ送るガスを流すガス供給配管59が接続されている。排気管58とガス供給配管59は、何れも有機溶剤貯槽53に繋がっているが、排気管58の有機溶剤貯槽53側の開口端は有機溶剤貯槽53内の下部に位置し、ガス供給配管59の有機溶剤貯槽53側の開口端は有機溶剤貯槽53の上部に位置している。よって、有機溶剤貯槽53に有機溶剤31が入ると、排気管58の有機溶剤貯槽53側の開口端は液相部分に位置し、ガス供給配管59の有機溶剤貯槽53側の開口端は気相部分に位置することになる。
【0054】
また、排気管58には、有機溶剤貯槽13側から塗料貯留タンク11A側へガスが流れるのを防ぐ逆止弁60、及び塗料貯留タンク51内のガスを有機溶剤貯槽53へ送る循環送風機66が設けられている。また、ガス供給配管59には、塗料貯留タンク51側から有機溶剤貯槽53側へガスが流れるのを防ぐ逆止弁61が設けられている。
【0055】
<第二実施形態の使用方法>
以上のように構成される、本発明に係わる塗料貯留システム50は、例えば、次のように使用する。塗料貯留システム50の、使用方法の一例を図5(A)〜(C)に示す。例えば、図5(A)に示すように、塗料30で満たした塗料貯留タンク51は、塗料貯留システム50を、以下のように操作することで、塗料貯留タンク51の有機溶剤の蒸気圧を飽和蒸気圧にし、塗料貯留タンク51の内壁面に付着した塗料30が、乾燥しない状態にすることができる。
【0056】
すなわち、循環送風機66を運転し、塗料貯留タンク51の気相部のガスを、ガス供給配管58を通して有機溶剤貯槽53へ移送する(図5(B))。塗料貯留タンク51の気
相部のガスは、有機溶剤貯槽53の有機溶剤31の中で泡状になって有機溶剤貯槽53の気相部へ上がり、ガス供給配管59を経由して塗料貯留タンク51の頂部へ移送される。塗料貯留タンク51へ移送されるガスは、有機溶剤貯槽53の有機溶剤31を潜って通る際に、有機溶剤31の成分で飽和する。そして、有機溶剤31の成分で飽和したガスが、ガス供給配管59を経由して、塗料貯留タンク51へ再び流入するため、塗料貯留タンク51の有機溶剤の蒸気圧が、速やかに、飽和蒸気圧へ達する。
【0057】
よって、塗料貯留タンク51の内壁面に付着して残留する塗料30の、乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止できる。
【0058】
なお、上記の本願発明に係わる塗料貯留システム50を、このように操作し、塗料貯留タンク51の有機溶剤の蒸気圧を飽和蒸気圧にした後、塗料貯留タンク51に貯留した塗料30を、塗布装置へ移送する際は、有機溶剤貯槽13へのガス補充管54のガス供給弁を開いて、ガスを供給しながら移送を開始する。(図5(C))。ガス補充管54のガス供給弁を開いてから、塗料30の塗布装置への移送を開始すれば、有機溶剤貯槽内の有機溶剤31にバブリングしたガスが、ガス供給配管59を経由して塗料貯留タンク51へ導入される。このため、有機溶剤の成分で飽和した塗料貯留タンク51内の、ガスの溶剤成分の濃度も低下しないので、塗料貯留タンク51内の有機溶剤の蒸気圧が飽和蒸気圧のままで保たれ、塗料30の乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止できる。このことにより、塗料貯留タンクの内壁面への乾燥皮膜の形成を防いで異物の発生を防止すると共に、塗料30の濃度変動を抑えることにより、揮発性の有機溶剤を含む塗料30を、長期間に渡り安定して貯留することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10,50・・塗料貯留システム
11A,11B,51・・塗料貯留タンク
12,52・・ガス供給配管系統
13,53・・有機溶剤貯槽
14,54・・ガス補充管
15・・塗料供給配管
16・・移送ポンプ
17A,17B,57・・蓋
18A,18B,58・・排気管
19A,19B,59・・ガス供給配管
20A,20B,60,21A,21B,61・・逆止弁
25・・塗料払出し配管
30・・塗料
31・・有機溶剤
32・・有機溶剤の蒸気
66・・循環送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する塗料貯留システムであって、
前記塗料を貯留する気密性の構造を有する塗料貯留タンクと、
前記有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を貯蔵した気密性の構造を有する有機溶剤貯槽と、
前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤にバブリングさせたガスを、前記塗料貯留タンクの頂部へ供給するガス供給配管と、を備えることを特徴とする塗料貯留システム。
【請求項2】
前記塗料貯留タンクは、複数設けられており、A系列とB系列の2系統から構成され、前記A系列及び前記B系列とが、それぞれ、1つまたは複数の塗料貯留タンクからなり、
前記1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクに貯留されている塗料を、他の1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクのうちの何れかの塗料貯留タンクへ移送する塗料供給配管と、
前記1つまたは複数のB系列の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクの気相部のガスを、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤にバブリングさせた後、他の1つまたは複数のA系列の塗料貯留タンクのうち何れかの塗料貯留タンクの頂部へ移送するガス供給配管と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の塗料貯留システム。
【請求項3】
前記塗料貯留システムは、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤の温度が、少なくとも前記塗料貯留タンク内の前記塗料の温度よりも高くなるように、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤を加温する加温手段を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の塗料貯留システム。
【請求項4】
揮発性の有機溶剤を含む塗料を貯留する塗料貯留方法であって、
前記有機溶剤と同じあるいは同等の成分を含有した有機溶剤を貯蔵した気密性の構造を有する有機溶剤貯槽でバブリングさせたガスを、前記塗料を貯留する気密性の構造を有する塗料貯留タンクの頂部へ供給することを特徴とする塗料貯留方法。
【請求項5】
前記塗料貯留タンクは、複数設けられており、
前記複数の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクの気相部のガスを、他の何れかの塗料貯留タンクの頂部へ移送することが可能なガス供給配管を備えており、前記複数の塗料貯留タンクのうち何れか一の塗料貯留タンクの塗料を、他の何れかの塗料貯留タンクへ移送することによって押し出される塗料貯留タンクの気相部のガスを、前記有機溶剤貯槽内の有機溶剤でバブリングさせて、前記複数の塗料貯留タンクのうち少なくとも何れかの塗料貯留タンクの頂部へ供給することを特徴とする請求項4に記載の塗料貯留方法。
【請求項6】
少なくとも前記塗料貯留タンク内の、前記塗料の温度よりも高くなるように加温した前記有機溶剤が貯蔵された気密性の構造を有する前記有機溶剤貯槽でバブリングさせたガスを、前記塗料を貯留する気密性の構造を有する前記塗料貯留タンクの頂部へ供給することを特徴とする請求項4または5に記載の塗料貯留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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