説明

塗料配管内の洗浄方法

【課題】コストおよび環境負荷の低減を図ることができる、塗料配管内の洗浄方法を提供する。
【解決手段】塗料配管5内から塗料が排出された後、塗料配管5内を強アルカリ電解水が流通する。これにより、強アルカリ電解水が塗料配管5の内面とその内面に付着している塗料との間に入り込み(浸透作用)、さらに、強アルカリ電解水中のマイナスイオンが塗料を包み込んで、そのマイナスイオンと塗料配管の内面上のマイナスイオンとの間に生じる反発力により、塗料配管5の内面上から塗料が剥離される(剥離作用)。よって、多量の洗浄用シンナーを使用することなく、洗浄用シンナーよりも安価な強アルカリ電解水を使用して、塗料配管5内の洗浄を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料が流通する塗料配管内の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造ラインには、車体を塗装する塗装ラインが含まれる。この塗装ラインには、塗料を車体に吹き付けるためのロボットおよびハンドガンが設けられている。塗料は、塗料タンクに貯留されており、塗料タンクから供給用の塗料配管を通してロボットおよびハンドガンに供給される。ロボットおよびハンドガンに供給された塗料は、一部がロボットおよびハンドガンから噴出され、その残りは、帰還用の塗料配管を通して塗料タンクに戻される。
【0003】
車体の塗装が繰り返されるうちに、塗料配管の内面には、塗料が固着する。そのため、自動車のモデルチェンジなどに伴って、塗装ラインで使用される塗料を変更する場合、塗料タンクおよび塗料配管内から塗料が抜き取られた後、塗料配管内の洗浄が必要である。
【0004】
塗料配管内の洗浄には、従来から、石油溶剤系の洗浄用シンナーが広く用いられている。たとえば、塗料タンクおよび塗料配管内から塗料が抜き取られた後、塗料タンクに洗浄用シンナーが供給される。そして、洗浄用シンナーは、塗料タンクから塗料配管に送り出され、ロボットおよびハンドガンを経由して塗料タンクに戻される。これにより、塗料タンクおよび塗料配管を含む配管系を洗浄用シンナーが循環し、この循環する洗浄用シンナーに塗料配管の内面に固着した塗料が溶解して、塗料配管の内面上から塗料が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−185416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洗浄用シンナーに塗料が溶解するので、洗浄用シンナーの循環が進むにつれて、洗浄用シンナーが汚れ、洗浄用シンナーの洗浄力が低下する。そのため、洗浄用シンナーの循環が適当な時間にわたって続けられると、汚れた洗浄用シンナーと新たな洗浄用シンナーとが全量入れ替えされる。塗料配管の洗浄が完了するまでには、通常、2〜4回程度の洗浄用シンナーの全量入れ替えが必要である。したがって、塗料配管の洗浄には、多量の洗浄用シンナーを使用しなければならず、コストが高くつく。また、多量の洗浄用シンナーの使用は、塗料配管を洗浄する際の作業環境に対する大きな環境負荷となる。
【0007】
本発明の目的は、コストおよび環境負荷の低減を図ることができる、塗料配管内の洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明は、塗料が流通する塗料配管内を洗浄する方法において、前記塗料配管内から塗料を排出する塗料排出工程と、前記塗料排出工程の後に、前記塗料配管内にアルカリ電解水を流通させる電解水洗浄工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
この洗浄方法によれば、塗料配管内から塗料が排出された後、塗料配管内をアルカリ電解水が流通する。これにより、アルカリ電解水が塗料配管の内面とその内面に付着している塗料との間に入り込み(浸透作用)、さらに、アルカリ電解水中のマイナスイオンが塗料を包み込んで、そのマイナスイオンと塗料配管の内面上のマイナスイオンとの間に生じる反発力により、塗料配管の内面上から塗料が剥離される(剥離作用)。
【0010】
よって、多量の洗浄用シンナーを使用することなく、洗浄用シンナーよりも安価なアルカリ電解水を使用して、塗料配管内の洗浄を達成することができる。塗料配管内の洗浄に多量の洗浄用シンナーを使用しなくてすむので、その洗浄に要するコストの低減を図ることができ、また、洗浄作業の環境に対する環境負荷の低減を図ることができる。
【0011】
電解水洗浄工程では、アルカリ電解水中にマイクロバブルを発生させることが好適である。アルカリ電解水中のマイクロバブルが塗料配管の内面とその内面に付着している塗料との間に入り込み、塗料配管の内面上からの塗料の剥離が促進される。その結果、塗料配管内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
【0012】
また、電解水洗浄工程では、塗料配管の内面に付着している塗料に対して物理的作用を付与するための混入物がアルカリ電解水中に混入されていることが好適である。混入物が塗料に対して物理的作用を付与することにより、塗料配管の内面上からの塗料の剥離が促進される。その結果、塗料配管内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
【0013】
なお、マイクロバブルを含まないアルカリ電解水に混入物が混入されてもよいし、マイクロバブルを含むアルカリ電解水に混入物が混入されてもよい。
【0014】
混入物として、樹脂ビーズ(樹脂製の球体)および気泡などを例示することができる。
【0015】
また、塗料排出工程と電解水洗浄工程との間に、塗料排出工程後の塗料配管内に洗浄用シンナーを流通させて、塗料配管内に残存する塗料(主として、塗料配管の内面に固着していない液体の塗料)を洗浄用シンナーで洗い流す(置換する)シンナー洗浄工程が含まれてもよい。
【0016】
また、電解水洗浄工程後に、塗料配管内に親水性溶剤を流通させて、塗料配管内に残存するアルカリ電解水を親水性溶剤に置換する工程が含まれてもよい。アルカリ電解水に混入物が混入され、かつ、アルカリ電解水を親水性溶剤に置換する工程が含まれる場合、混入物は、親水性溶剤に溶解可能な樹脂からなる樹脂ビーズであることが好適である。この場合、アルカリ電解水を親水性溶剤に置換する工程で、樹脂ビーズが親水性溶剤に溶解するので、電解水洗浄工程後に、混入物を回収する手間が不要となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルカリ電解水が有する浸透作用および剥離作用により、多量の洗浄用シンナーを使用することなく、塗料配管内の洗浄を達成することができる。塗料配管内の洗浄に多量の洗浄用シンナーを使用しなくてすむので、その洗浄に要するコストの低減を図ることができ、また、洗浄作業の環境に対する環境負荷の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る塗料配管内の洗浄方法が実施されるペイントサーキュレーションの構成図である。
【図2】図2は、塗料配管内の洗浄時に実行される各工程を順に示す図である。
【図3】図3は、図1に示される塗料配管の断面図であり、電解水洗浄工程時における塗料配管内の様子を図解的に示す。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係る塗料配管内の洗浄方法が実施されるペイントサーキュレーションの構成図である。
【図5】図5は、図4に示される塗料配管の断面図であり、電解水洗浄工程時における塗料配管内の様子を図解的に示す。
【図6】図6は、第1実施形態の変形例に係る洗浄方法により洗浄される塗料配管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る塗料配管内の洗浄方法が実施されるペイントサーキュレーションの構成図である。
【0020】
ペイントサーキュレーション(塗料循環装置)1は、たとえば、自動車の車体を塗装する塗装ラインに組み込まれる。塗装ラインには、塗料を車体に吹き付けるためのロボット(塗装機)2およびハンドガン3が設けられている。ペイントサーキュレーション1は、塗料を貯留するための塗料タンク4を備えており、塗料タンク4からロボット2およびハンドガン3に塗料を供給し、ロボット2およびハンドガン3から塗料タンク4に塗料を帰還させる。
【0021】
この塗料の循環のために、ペイントサーキュレーション1は、塗料配管5を備えている。塗料配管5には、塗料タンク4からロボット2およびハンドガン3に塗料を供給するための塗料供給配管6と、ロボット2およびハンドガン3から塗料タンク4に塗料を帰還させるための塗料帰還配管7とが含まれる。
【0022】
塗料供給配管6は、塗料タンク4の底部に接続され、塗料タンク4から塗装ラインが設置されている塗装ブース8まで延びている。塗料供給配管6における塗装ブース8と対向する部分から、複数の分岐配管9が分岐している。各分岐配管9の先端は、塗装ブース8内でロボット2またはハンドガン3に接続されている。
【0023】
塗料供給配管6の途中部には、ポンプ10、アキュムレータ11およびヒータ12が塗料タンク4側からこの順に介装されている。分岐配管9は、塗料供給配管6におけるヒータ12よりも先端側(塗料の流通方向の下流側)の部分から分岐している。
【0024】
ポンプ10が駆動されると、塗料タンク4から塗料供給配管6に塗料が吸い出され、塗料供給配管6を塗料が流通する。アキュムレータ11において、塗料供給配管6内の塗料の圧力が調整され、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が開放されると、塗料供給配管6からロボット2およびハンドガン3に供給される塗料が各噴射口から勢いよく噴射される。
【0025】
塗料帰還配管7は、塗装ブース8と対向する位置から塗料タンク4に向けて延びている。塗料帰還配管7の先端部(塗料タンク4側の端部)は、塗料タンク4内に挿入されて、塗料タンク4内の上部で下方に向けて延びている。塗料帰還配管7における塗装ブース8と対向する部分から、複数の分岐配管13が分岐している。各分岐配管13の先端は、塗装ブース8内でロボット2またはハンドガン3に接続されている。
【0026】
ロボット2およびハンドガン3に供給される塗料は、その一部がロボット2およびハンドガン3の噴射口から噴射され、その残りは、分岐配管13を含む塗料帰還配管7を通して塗料タンク4に戻される。
【0027】
図2は、塗料配管内の洗浄時に実行される各工程を順に示す図である。
【0028】
自動車のモデルチェンジなどに伴って、塗装ラインで使用される塗料が変更される場合、塗料配管5(ペイントサーキュレーション1)内の洗浄が行われる。
【0029】
塗料配管5内の洗浄時には、まず、塗料タンク4および塗料配管5内から塗料が排出される(塗料排出工程:S1)。
【0030】
次に、空の塗料タンク4内に、洗浄用シンナーが供給される。
【0031】
そして、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が閉じられた状態で、ポンプ10が駆動される。これにより、塗料タンク4から塗料供給配管6に洗浄用シンナーが吸い出され、塗料供給配管6を洗浄用シンナーが流通する。洗浄用シンナーは、分岐配管9を介してロボット2およびハンドガン3に流入し、さらに分岐配管13を介して塗料帰還配管7に流入する。塗料帰還配管7に流入した洗浄用シンナーは、塗料帰還配管7を流通して、塗料帰還配管7から塗料タンク4に流入する。その結果、塗料タンク4および塗料配管5内を洗浄用シンナーが循環し、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた塗料(主として、塗料配管の内面に固着していない液体の塗料)が洗浄用シンナーに混ざる。洗浄用シンナーの循環が所定時間にわたって続けられると、ポンプ10が停止されて、塗料タンク4および塗料配管5内から洗浄用シンナーが抜き取られる。これにより、洗浄用シンナーととともにこれに混ざった塗料が排出され、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた塗料と洗浄用シンナーとの置換が達成される(シンナー洗浄工程:S2)。
その後、空の塗料タンク4内に、純水が供給される。
【0032】
そして、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が閉じられた状態で、ポンプ10が駆動される。これにより、塗料タンク4から塗料供給配管6に純水が吸い出され、塗料供給配管6を純水が流通する。純水は、分岐配管9を介してロボット2およびハンドガン3に流入し、さらに分岐配管13を介して塗料帰還配管7に流入する。塗料帰還配管7に流入した純水は、塗料帰還配管7を流通して、塗料帰還配管7から塗料タンク4に流入する。その結果、塗料タンク4および塗料配管5内を純水が循環し、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた洗浄用シンナーが純水に混ざる。純水の循環が所定時間にわたって続けられると、ポンプ10が停止されて、塗料タンク4および塗料配管5内から純水が抜き取られる。これにより、純水ととともにこれに混ざった洗浄用シンナーが排出され、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた洗浄用シンナーと純水との置換が達成される(純水洗浄工程:S3)。
【0033】
なお、以上の工程では、ヒータ12に通電されていない。
【0034】
純水の排出が完了すると、図1に示されるように、塗料タンク4内の底部に、マイクロバブル発生器14が配置される。マイクロバブル発生器14には、循環配管15の一端が接続されている。循環配管15の他端は、塗料タンク4の底部に接続されている。循環配管15の途中部には、ポンプ16および気液混合器17が塗料タンク4側からこの順に介装されている。
【0035】
また、塗料タンク4内において、塗料帰還配管7の先端に下方から対向する位置に、塗料滓回収網18が配置される。
【0036】
その後、空の塗料タンク4内に、強アルカリ電解水が供給される。強アルカリ電解水は、水を電気分解して作成され、pH13.1の強アルカリ性を有している。たとえば、塗料タンク4の容量が120リットルであり、塗料配管5の内径が30mmであり、塗料配管5の全長が300mである場合、塗料タンク4内には、約300リットルの強アルカリ電解水が供給される。
【0037】
強アルカリ電解水の供給後、ポンプ16が駆動される。これにより、強アルカリ電解水が循環配管15を塗料タンク4からマイクロバブル発生器14に向けて流通する。この途中、気液混合器17で強アルカリ電解水にエアが混合され、この強アルカリ電解水およびエアの混合流体がマイクロバブル発生器14に流入する。そして、マイクロバブル発生器14内において、たとえば、混合流体の強い旋回流が生じ、マイクロバブル発生器14から直径10〜100μm程度の微細な気泡(マイクロバブル)を含む強アルカリ電解水が放出される。その結果、塗料タンク4内の強アルカリ電解水は、マイクロバブルを含む強アルカリ電解水となる。
【0038】
なお、マイクロバブル発生器14としては、旋回流式のものに限らず、その他の方式のものが採用されてもよい。たとえば、マイクロバブル発生器14として、有限会社バブルタンク社製の製品番号BT−50の市販品を採用することができる。
【0039】
一方、ヒータ12への通電が開始される。
【0040】
そして、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が閉じられた状態で、ポンプ10が駆動される。これにより、塗料タンク4から塗料供給配管6にマイクロバブルを含む強アルカリ電解水が吸い出され、塗料供給配管6をその強アルカリ電解水が流通する。強アルカリ電解水は、ヒータ12を通過する際に加温される。ヒータ12は、強アルカリ電解水の温度が45℃で最終的に安定するように制御される。そして、強アルカリ電解水は、分岐配管9を介してロボット2およびハンドガン3に流入し、さらに分岐配管13を介して塗料帰還配管7に流入する。塗料帰還配管7に流入した強アルカリ電解水は、塗料帰還配管7を流通して、塗料帰還配管7から塗料タンク4に流入する。その結果、塗料タンク4および塗料配管5内を強アルカリ電解水が循環する。
【0041】
これにより、図3に示されるように、強アルカリ電解水が塗料配管5の内面とその内面に固着している塗料(塗料の固着物)21との間に入り込む(浸透作用)。さらに、強アルカリ電解水中のマイナスイオンが塗料21を包み込んで、そのマイナスイオンと塗料配管5の内面上のマイナスイオンとの間に生じる反発力により、塗料配管5の内面上から塗料21が剥離される(剥離作用)。また、強アルカリ電解水中のマイクロバブルが塗料配管5の内面と塗料21との間に入り込み、塗料配管5の内面上からの塗料21の剥離が促進される。さらに、強アルカリ電解水が加温されるので、強アルカリ電解水による塗料21の剥離作用がさらに強まり、塗料の剥離が一層促進される。剥離された塗料21は、強アルカリ電解水に流され、塗料配管5(塗料帰還配管7)から塗料タンク4内に戻されるときに、塗料滓回収網18に捕獲されて回収される(電解水洗浄工程:S4)。
【0042】
強アルカリ電解水の循環が所定時間にわたって続けられると、ポンプ10,16が停止されるとともに、ヒータ12への通電が停止される。その後、塗料タンク4および塗料配管5内から強アルカリ電解水が抜き取られる。
【0043】
その後、空の塗料タンク4内に、親水性溶剤が供給される。親水性溶剤としては、エチルアルコールが例示される。
【0044】
そして、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が閉じられた状態で、ポンプ10が駆動される。これにより、塗料タンク4から塗料供給配管6に親水性溶剤が吸い出され、塗料供給配管6を親水性溶剤が流通する。親水性溶剤は、分岐配管9を介してロボット2およびハンドガン3に流入し、さらに分岐配管13を介して塗料帰還配管7に流入する。塗料帰還配管7に流入した親水性溶剤は、塗料帰還配管7を流通して、塗料帰還配管7から塗料タンク4に流入する。その結果、塗料タンク4および塗料配管5内を親水性溶剤が循環し、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた強アルカリ電解水が親水性溶剤に混ざる。親水性溶剤の循環が所定時間にわたって続けられると、ポンプ10が停止されて、塗料タンク4および塗料配管5内から親水性溶剤が抜き取られる。これにより、親水性溶剤ととともにこれに混ざった強アルカリ電解水が排出され、塗料タンク4および塗料配管5内に残存していた強アルカリ電解水と親水性溶剤との置換が達成される(置換工程:S5)。
【0045】
以上で塗料配管5内の洗浄は終了であり、塗料タンク4内に新たな塗料が供給される。
【0046】
なお、ポンプ10,16およびヒータ12などの駆動は、マイクロコンピュータを含む制御部(図示せず)により制御される。
【0047】
この洗浄方法によれば、多量の洗浄用シンナーを使用することなく、洗浄用シンナーよりも安価な強アルカリ電解水を使用して、塗料配管5内の洗浄を達成することができる。塗料配管5内の洗浄に多量の洗浄用シンナーを使用しなくてすむので、その洗浄に要するコストの低減を図ることができ、また、洗浄作業の環境に対する環境負荷の低減を図ることができる。
【0048】
電解水洗浄工程において、強アルカリ電解水中にマイクロバブルが含まれることにより、塗料配管5の内面上からの塗料の剥離が促進される。その結果、塗料配管5内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
【0049】
また、塗料排出工程と電解水洗浄工程との間に、シンナー洗浄工程および純水工程がこの順に行われる。シンナー洗浄工程において、塗料配管5内に残存する塗料(主として、塗料配管の内面に固着していない液体の塗料)を洗浄用シンナーで置換することができる。そして、シンナー洗浄工程後には、純水工程が行われて、塗料配管5内に残存する洗浄用シンナーが純水に置換されるので、その後の電解水洗浄工程において、強アルカリ電解水が加温されても、発火や爆発を生じるおそれがない。
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る塗料配管内の洗浄方法が実施されるペイントサーキュレーションの構成図である。図4において、図1に示される各部に相当する部分には、それらの各部と同一の参照符号が付されている。
【0050】
図4に示されるように、ペイントサーキュレーション1の構成は、図1に示されるものと同一である。この実施形態では、電解水洗浄工程において、マイクロバブル発生器14(図1参照)は用いられず、塗料帰還配管7の先端に下方から対向する位置に塗料滓回収網18が配置されるとともに、塗料タンク4内の強アルカリ電解水中に多数の樹脂ビーズ41が混入される。樹脂ビーズ41は、たとえば、ポリスチレン樹脂からなり、粒径が0.5〜2.0mmの球状をなしている。
【0051】
塗料タンク4内に強アルカリ電解水および樹脂ビーズ41が供給された後、ロボット2およびハンドガン3の噴射口が閉じられた状態で、ポンプ10が駆動される。これにより、塗料タンク4から塗料供給配管6に樹脂ビーズ41を含む強アルカリ電解水が吸い出され、塗料供給配管6をその強アルカリ電解水が流通する。強アルカリ電解水は、ヒータ12を通過する際に加温される。ヒータ12は、強アルカリ電解水の温度が45℃で最終的に安定するように制御される。そして、強アルカリ電解水は、分岐配管9を介してロボット2およびハンドガン3に流入し、さらに分岐配管13を介して塗料帰還配管7に流入する。塗料帰還配管7に流入した強アルカリ電解水は、塗料帰還配管7を流通して、塗料帰還配管7から塗料タンク4に流入する。その結果、塗料タンク4および塗料配管5内を強アルカリ電解水が循環する。
【0052】
これにより、図5に示されるように、強アルカリ電解水が塗料配管5の内面とその内面に固着している塗料(塗料の固着物)21との間に入り込む(浸透作用)。さらに、強アルカリ電解水中のマイナスイオンが塗料21を包み込んで、そのマイナスイオンと塗料配管5の内面上のマイナスイオンとの間に生じる反発力により、塗料配管5の内面上から塗料21が剥離される(剥離作用)。また、強アルカリ電解水中の樹脂ビーズ41が塗料21に衝突し、塗料21に物理的作用を付与することにより、塗料配管5の内面上からの塗料の剥離が促進される。さらに、強アルカリ電解水が加温されるので、強アルカリ電解水による塗料21の剥離作用がさらに強まり、塗料の剥離が一層促進される。剥離された塗料21は、強アルカリ電解水に流され、塗料配管5(塗料帰還配管7)から塗料タンク4内に戻されるときに、塗料滓回収網18に捕獲されて回収される。
【0053】
この電解水洗浄工程においても、多量の洗浄用シンナーを使用することなく、洗浄用シンナーよりも安価な強アルカリ電解水を使用して、塗料配管5内の洗浄を達成することができる。
【0054】
そして、電解水洗浄工程後に、塗料配管内に親水性溶剤を流通させて、塗料配管内に残存するアルカリ電解水を親水性溶剤に置換する工程が行われることにより、この工程で、樹脂ビーズ41を親水性溶剤に溶解させて消失させることができる。その結果、電解水洗浄工程後に、樹脂ビーズ41を回収する手間が不要となる。
<第1変形例>
図6は、第1実施形態の変形例に係る洗浄方法により洗浄される塗料配管の断面図である。
【0055】
図6に示されるように、第1実施形態の電解水洗浄工程において、塗料配管5の外周面に超音波発振器61が取り付けられて、塗料配管5内を流通する強アルカリ電解水に超音波振動が付与されてもよい。
【0056】
超音波振動が付与されることにより、強アルカリ電解水中のマイクロバブルが圧壊され、この圧壊時にフリーラジカルが発生する。このフリーラジカルが塗料配管5の内面に固着している塗料の分解に寄与するので、塗料配管5の内面上からの塗料の剥離が促進され、塗料配管5内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
<第2変形例>
第2実施形態の電解水洗浄工程では、強アルカリ電解水中に樹脂ビーズ41(図4参照)が混入されるが、樹脂ビーズ41に代えて、強アルカリ電解水中にエア(ペイントサーキュレーション1の周囲の空気)が混入されてもよい。エアの混入により、強アルカリ電解水中に気泡が生じ、この気泡が塗料21に物理的作用を付与することにより、塗料配管5の内面上からの塗料の剥離が促進される。よって、塗料配管5内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
<第3変形例>
また、樹脂ビーズ41に代えて、強アルカリ電解水中にIPA(イソプロピルアルコール)が混入されてもよい。この場合、塗料配管5の内面に固着した塗料の表面の皮膜をIPAの化学的作用により破壊することができる。その結果、塗料配管5の内面上からの塗料の剥離が促進されるので、塗料配管5内の洗浄に要する時間を短縮することができる。
<その他の変形例>
前述の第1実施形態、第2実施形態、第1変形例、第2変形例および第3変形例は、適当に選択されて組み合わされてもよい。
【0057】
また、塗料配管5の途中部にヒータ12が介装されず、塗料タンク4の周囲にベルト状のヒータが巻回されて、塗料タンク4内に貯留されている強アルカリ電解水が加温されてもよい。
【0058】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0059】
5 塗料配管
41 樹脂ビーズ(混入物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料が流通する塗料配管内を洗浄する方法であって、
前記塗料配管内から塗料を排出する塗料排出工程と、
前記塗料排出工程の後に、前記塗料配管内にアルカリ電解水を流通させる電解水洗浄工程とを含む、塗料配管内の洗浄方法。
【請求項2】
アルカリ電解水中に、マイクロバブルを発生させる、請求項1に記載の塗料配管内の洗浄方法。
【請求項3】
アルカリ電解水中に、前記塗料配管の内面に付着している塗料に対して物理的作用を付与するための混入物が混入されている、請求項1または2に記載の塗料配管内の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71217(P2012−71217A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215803(P2010−215803)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】