説明

塗膜形成方法

【課題】
自動車車体外板等の各種工業製品に対して、漆の溜め色を再現し、透明感や彩度感に優れた光塗膜形成方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、L*a*b*表色系におけるL*値が3以下である基材上に、鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料、染料及び/又は着色顔料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が60%以上となる第1カラークリヤー塗料、染料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が40%以上となる第2カラークリヤー塗料を順次塗装することを特徴とする塗膜形成方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然漆の溜め色を表現可能な塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品、外装材や工業製品の塗装には、金属やプラスチック等の素材を長期間保護するために、耐候性、耐水性、耐薬品性等が要求される。さらに近年は、上記各種製品の商品力を高めるために、塗装により新しい質感を提供することが要求されている。高い塗色の質感の一つとして、天然漆の溜め色が挙げられる。そこで、天然漆の質感を工業的に再現できる手法が追求されてきた。
【0003】
特許文献1には、天然漆の如き質感を持ち、耐候性に優れる漆調複層塗膜形成方法として、基材上に、カーボンブラック顔料を塗料中のビヒクル固形分100重量部に対して1〜15重量部含む第1ベース塗料を塗装し、得られた塗膜上に、着色剤として黒色染料を含む第2ベース塗料を塗装し、さらに得られた塗膜上に艶調整剤としてセラミックビーズを塗料中のビヒクル固形分100重量部に対して1〜10重量部含むクリヤー塗料を塗装する方法が開示されている。この方法により、漆の質感をある程度得ることができるが、艶調整剤を含む複層塗膜であり、透明感や彩度感が不十分である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−239519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、漆の溜め色を再現し、透明感や彩度感に優れた塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
1.L*a*b*表色系におけるL*値が3以下である基材上に、鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料、染料及び/又は着色顔料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が60%以上となる第1カラークリヤー塗料、染料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が40%以上となる第2カラークリヤー塗料を順次塗装して得られる塗膜形成方法、
2.前記基材が、黒色ベース塗料を塗装して得られたものである1項に記載の塗膜形成方法、
3.メタリックベース塗料に配合せしめる鱗片状アルミニウム顔料が蒸着アルミニウムフレーク顔料である1項又は2項に記載の塗膜形成方法、
4.第2カラークリヤー塗料に配合せしめる染料が、黒色染料である1〜3項のいずれか1項に記載の塗膜形成方法、
5.第2カラークリヤー塗料を塗装後さらにトップクリヤー塗料を塗装する1〜4項のいずれか1項に記載の塗膜形成方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、L*a*b*表色系におけるL*値が3以下である基材上に、鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料、染料及び/又は着色顔料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が60%以上となる第1カラークリヤー塗料、染料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が60%以上となる第2カラークリヤー塗料を順次塗装することによって、天然漆の溜め色の質感を有する塗膜を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明方法において、鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料をL*値が3以下である基材上に塗装する。L*値とは具体的には、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729に採用されているL*a*b*表色系におけるL*である。
【0009】
基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれら金属の合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等の素材に黒色の下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させた塗膜形成材をを挙げることができる。上記素材に脱脂処理や表面処理を施した処理素材に黒色の下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させたものを基材としてもよい。さらに、黒色顔料や染料が練りこまれたプラスチックの成型物やさらに脱脂処理を施したものを基材としてもよい。
【0010】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、硬化させることによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0011】
また、上記中塗り塗膜とは、素材表面や下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与するために形成されるものであり、素材表面や下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、硬化させることによって得ることができる。この中塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料を含有する有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。特に着色顔料として、黒色顔料であるカーボンブラック顔料を配合したものを使用することが好ましい。
【0012】
本発明方法において、基材として、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成させたものを使用する場合においては、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に後述する次工程の塗料を塗装することができるが、また、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が未硬化の状態で、次工程の塗料を塗装することもでき、本発明方法は、この場合も包含する。
【0013】
本発明方法では、上記基材にさらに黒色ベース塗料を塗装せしめたものを基材としてもよい。黒色ベース塗料は、黒色顔料及びビヒクル形成成分を含む塗料であって、該黒色顔料としては、インク用、塗料用及びプラスチック着色用として従来公知の黒色顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて含有することができる。具体的には、カーボンブラック顔料、複合酸化物系顔料、黒色酸化鉄顔料、アニリンブラック顔料等が挙げられるが、特に限定されるものではない。カーボンブラック顔料を好ましく使用することができるが、求める色調に応じて1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
上記黒色顔料の配合量は、得られる塗膜の色調や仕上がり外観の点から黒色ベース塗料中のビヒクル固形分100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、より好ましくは1〜10質量部、好ましくは2〜7質量部である。
【0015】
黒色ベース塗料のビヒクル成分である樹脂成分としては、熱硬化性樹脂組成物が好ましく、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂を、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤と併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0016】
さらに、第1ベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0017】
黒色ベース塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。通常、塗装に際して、固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、15〜50質量%、好ましくは20〜40質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0018】
黒色ベース塗料は、静電塗装、エアースプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜25μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。第1ベース塗料の塗膜それ自体は約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0019】
本発明において、黒色ベース塗料を塗装せしめる場合においては、塗装後、加熱し、架橋硬化後に後述するメタリックベース塗料を塗装することができるが、または加熱硬化させることなく未架橋硬化の状態で、メタリックベース塗料を塗装することができる。
【0020】
本発明方法では、上記の如き基材にメタリックベース塗料を塗装する。メタリックベース塗料は、下地を隠蔽し、複層塗膜において光輝感を付与する塗料であって、鱗片状アルミニウム顔料を含有することが好ましい。鱗片状アルミニウム顔料は、一般にアルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造され、塗料用としては通常平均粒子径(D50)が1〜50μm程度、特に5〜20μm程度のものが、また厚さは、0.01μm〜10μm、特に0.1μm〜5μmの範囲内のものが、塗料中における安定性や形成される塗膜の仕上がりの点から使用される。上記平均粒子径は、長径を意味する。
【0021】
本発明においては特に、蒸着アルミニウムフレーク顔料を使うことが、複層塗膜における光輝感をより向上せしめる点から好ましい。蒸着アルミニウムフレーク顔料とは、蒸着アルミニウム膜を細断して鱗片状とした顔料である。例えば、配向ポリプロピレン、結晶性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルムをベースフィルムとして用い、その上に剥離剤を塗布し、剥離剤の上にアルミニウム蒸着を行い、アルミニウム蒸着後、蒸着アルミニウム の酸化を防止するため、例えば蒸着面の上にトップコート剤を塗布する。剥離剤及びトップコート剤としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ニトロセルロース、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)樹脂、塩素化PP(ポリプロピレン)樹脂、塩素化EVA樹脂、石油系樹脂等の樹脂を用いることができる。その後に、上記蒸着アルミニウム膜を上記ベースフィルムから剥離し、これを細断することにより鱗片状のアルミニウムとし、さらに分級することにより製造することができる。
【0022】
本発明において、鱗片状アルミニウム顔料として、蒸着アルミニウム顔料を使用しない場合について説明する。
【0023】
本発明のメタリックベース塗料において、上記鱗片状アルミニウム顔料の配合量は、得られる塗膜の光輝感の点から、後述する樹脂組成物の固形分100質量部に対して、0.1〜50質量部の範囲内であることが好ましく、0.5〜40質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
メタリックベース塗料には、鱗片状アルミニウム顔料のほかに、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、熱硬化性樹脂組成物が好ましく、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂を、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤と併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0025】
さらに、メタリックベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0026】
メタリックベース塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。通常、塗装に際して、固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、15〜50質量%、好ましくは20〜40質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0027】
メタリックベース塗料は、静電塗装、エアースプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜25μmの範囲内とするのが、塗膜の平滑性の点から好ましい。メタリックベース塗料の塗膜それ自体は約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0028】
次にメタリックベース塗料に蒸着アルミニウム顔料を配合せしめる場合について説明する。配合量は、得られる塗膜の光輝感の点から、上記樹脂組成物の固形分100質量部に対して、10〜100質量部の範囲内であることが好ましく、30〜60質量部の範囲内であることがより好ましい。塗装に際して、固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、15〜30質量%、好ましくは3〜15質量%に調整しておくことが好ましい。さらに膜厚は硬化塗膜に基づいて0.5〜1μmの範囲内とするのが、後述する第1カラークリヤー塗料による塗膜との付着性の点から好ましい。
【0029】
本発明方法において、メタリックベース塗料は、塗装後、加熱し、架橋硬化後に第1カラークリヤー塗料を塗装することができるが、または加熱硬化させることなく未架橋硬化の状態で、第1カラークリヤー塗料を塗装することができる。
【0030】
本発明方法における第1カラークリヤー塗料は、複層塗膜において深み感を決定する塗料であって、着色材として染料及び/又は着色顔料を含有する。該染料としては、インク用、塗料用及びプラスチック着色用として従来公知の染料を1種あるいは2種以上を組み合わせて含有することができる。該染料の具体例としては、アゾ系染料、トリフェニルメタン系染料を挙げることができる。好ましくは、耐候性の点からアゾ系染料のうち特に金属錯塩系の染料を使用することができるが、限定されるものではなく、求める色調に応じて前記の染料を1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
着色材として染料を配合する場合その配合量は、得られる複層塗膜の色調の点から第1カラークリヤー塗料中のビヒクル固形分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲内である。
【0032】
上記着色顔料としては、インク用、塗料用、プラスチック着色用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。該着色顔料としては、インク用、塗料用、プラスチック着色用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。着色顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等を挙げることができるが、複層塗膜において漆の溜め色を表現するために、ペリレン顔料、キナクリドン顔料やフタロシアニン顔料の中でも透明性が高く、一次粒子径が小さい着色顔料を使用することが好ましい。該着色顔料の一次粒子径としては、3〜200nmのものが透明性、着色力の点から好ましく、特に好ましくは、一次粒子径が5〜100nmのものである。
【0033】
第1カラークリヤー塗料に着色顔料を配合せしめる場合、その好ましい含有量は、塗装して得られる塗膜の仕上がり性から第1カラークリヤー塗料中のビヒクル固形分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲内である。
【0034】
本発明方法における第1カラークリヤー塗料には、上記着色材のほかに、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、メタリックベース塗料において使用できるものと同様のものを使用することができるが、この中でも特に熱硬化性樹脂組成物が好ましい。これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0035】
さらに、第1カラークリヤー塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0036】
第1カラークリヤー塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。通常、塗装に際して、固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、15〜50重量%、好ましくは20〜40重量%に、また、20℃における粘度を15〜25秒/フォ−ドカップ#4に調整しておくことが好ましい。
【0037】
第1カラークリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は、塗膜の仕上がり性の点から、硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。第1カラークリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0038】
本発明方法における第1カラークリヤー塗料による塗膜は、特に硬化塗膜として25μmの膜厚となるように平滑なPTFE板に塗装後、乾燥硬化させたものを剥離した塗膜を分光光度計「MPS−2450」(商品名:島津製作所製)にて測定した可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率が60%以上である。可視光領域の光線透過率とは、可視光光線を透過する割合であって、数値が大きいほど透明度が高いことを意味する。
【0039】
本発明方法において、第1カラークリヤー塗料は、塗装後、加熱し、架橋硬化後に第2カラークリヤー塗料を塗装することができるが、または加熱硬化させることなく未架橋硬化の状態で、第2カラークリヤー塗料を塗装することができる。
【0040】
本発明方法においては、第1カラークリヤー塗料を塗装後にその硬化若しくは未効果の塗膜上に第2カラークリヤー塗料を塗装することができるが、前述のメタリックベース塗料をさらに塗装し、その硬化若しくは未硬化の塗膜上に第1カラークリヤー塗料を塗装して、その後に第1カラークリヤー塗料の硬化若しくは未効果の塗膜上に第2カラークリヤー塗料を塗装してもよい。
【0041】
本発明方法における第2カラークリヤー塗料は、複層塗膜において奥行き感を付与する塗料であって、着色材として染料を含有する。該染料としては、第1カラークリヤー塗料において使用可能なものを同様に使用できるが、特に金属錯塩系の黒色染料を使用することができる。その配合量は、得られる複層塗膜の色調の点から第2カラークリヤー塗料中のビヒクル固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部の範囲内である。
【0042】
本発明方法における第2カラークリヤー塗料には、上記着色材のほかに、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、メタリックベース塗料において使用できるものと同様のものを使用することができるが、この中でも特に熱硬化性樹脂組成物が好ましい。これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0043】
さらに、第2カラークリヤー塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0044】
第2カラークリヤー塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。通常、塗装に際して、固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、15〜50重量%、好ましくは20〜40重量%に、また、20℃における粘度を15〜25秒/フォ−ドカップ#4に調整しておくことが好ましい。
【0045】
第2カラークリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は、塗膜の仕上がり性の点から、硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。第2カラークリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0046】
本発明方法における第2カラークリヤー塗料による塗膜は、第1カラークリヤー塗料による塗膜と同様に、硬化塗膜として25μmの膜厚となるように平滑なPTFE板に塗装後、乾燥硬化させたものを剥離した塗膜を分光光度計「MPS−2450」(商品名:島津製作所製)にて測定した可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率が40%以上である。可視光領域の光線透過率とは、可視光光線を透過する割合であって、数値が大きいほど透明度が高いことを意味する。
【0047】
本発明方法においては、さらに第2カラークリヤー塗料を塗装後、加熱し、架橋硬化後、または加熱硬化させることなく未架橋硬化の状態で、塗膜を保護し。優れた意匠性を継続させることを目的として、トップクリヤー塗料を塗装することができる。
【0048】
本発明の塗膜形成方法におけるトップクリヤー塗料は、樹脂成分および溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色の透明塗膜を形成する液状塗料である。
【0049】
本発明方法におけるトップクリヤー塗料としては、従来公知のものが制限なく使用できる。例えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。基体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノ−ル基、エポキシ基などの架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、前記基体樹脂の官能基と反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、表面調整剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0050】
上記トップクリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。トップクリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
基材の調整
1)脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400×300×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0052】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗り黒」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成して基材1を得た。
2)脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400×300×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0053】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗り黒」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板にさらに黒色ベース塗料「アミラック1000黒」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて基材2を得た。
【0054】
基材1及び基材2を多角度分光光度計(MA−68II、X−Rite社製)を使用して、L*a*b*表色系におけるL*値を測定した。基材1はL*=2.4、基材2はL*=1.7であった(45度から照明光を照射して正反射光に対して45度の角度で受光)。
塗料の調整
1)メタリックベース塗料1
水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100質量部(固形分)あたり、「ALUMINIUM PASTE GX−3100」(商品名、鱗片状アルミニウム顔料、固形分79質量%、旭化成ケミカルズ社製)を固形分として15質量部配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約28%の有機溶剤型塗料を調整し、メタリックベース塗料1を調製した。
2)メタリックベース塗料2
「アクリック1000クリヤー」(商品名:関西ペイント株式会社製、ニトロセルロース変性アクリル系、有機溶剤型)の樹脂成分100質量部(固形分)あたり、「メタシーンスラリー71−0010」(商品名、蒸着アルミニウム顔料、固形分90質量%、東洋アルミ社製)を固形分として40質量部配合して攪拌混合し、希釈して固形分約5%の有機溶剤型塗料を調整し、メタリックベース塗料2を調製した。
3)クリヤー塗料
「ル−ガベ−ククリヤ−」(関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)に着色材や艶調整材を表1に示す比率で配合して攪拌混合して、塗装に適正な粘度となるように希釈して、固形分約35%の有機溶剤型塗料を調整し、クリヤー塗料1〜3を作成した。また、同じ市販のクリヤー塗料を適正な粘度となるように有機溶剤を添加することにより希釈して、トップクリヤー塗料を作成した。
【0055】
クリヤー塗料1及びクリヤー塗料2を各々エアスプレーを用いて、25μmの膜厚となるように平滑なPTFE板に塗装後、乾燥硬化させたものを剥離した塗膜を分光光度計「MPS−2450」(商品名:島津製作所製)にて可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率を測定した。光線透過率はクリヤー塗料1が68%、クリヤー塗料2が44%であった。
【0056】
【表1】

【0057】

試験板の作成
以下の手順にて、表2に示す構成となるようにメタリックベース塗料、クリヤー塗料およびトップクリヤー塗料を塗装して試験板とした。
(メタリックベース塗料1の塗装)
(1)作成した基材に、(2)で作成したメタリックベース1塗料をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、10μmとなるように塗装した。
(メタリックベース塗料2の塗装)
(1)作成した基材に、(2)で作成したメタリックベース2塗料をエアスプレー塗装機を用いて、ブ−ス温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、1μmとなるように塗装した。
(カラークリヤー塗料1及び艶調整クリヤー塗料の塗装)
上記メタリックベース塗料を塗装した室内にて放置し、ついで、その未硬化の塗面に、(2)で作成したカラークリヤー塗料1及び艶調整クリヤー塗料をREAガンを用いて、ブ−ス温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、20μmとなるように塗装した。
(カラークリヤー塗料2の塗装)
上記カラークリヤー塗料1及び艶調整クリヤー塗料を塗装した塗板を室内にて放置し、ついで、その未硬化の塗面に、(2)で作成したカラークリヤー塗料2をREAガンを用いて、ブ−ス温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として、20μmとなるように塗装した。
(クリヤー塗料の塗装)
上記カラークリヤー塗料1及び艶調整クリヤー塗料を塗装した塗板を室温にて15分間放置し、ついで、これらの未硬化塗面に(2)で作成したクリヤー塗料をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度20℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板とした。
(評価試験)
実施例及び比較例で作成した試験板について、目視にて意匠性を評価し、併せて測色を行なって深み感指数を計算した。また、促進耐候性試験を行なった。
【0058】
深み感指数とは、L*C*h*表色系におけるC*/L*であって、高いほど深み感に優れることを意味する。具体的には、多角度分光光度計(MA−68II、X−Rite社製)を使用して、L*及びC*を測定して計算することができる。(45度から照明光を照射して正反射光に対して45度の角度で受光)
促進耐候性試験には、JIS B 7754に規定されたスーパーキセノンウェザオメーター(商品名、スガ試験機社製)を使用し、1時間42分間のキセノンアークランプの照射と18分間の降雨条件における同ランプの照射による2時間を1サイクルとして、500サイクルの繰り返し試験の終了後に、実験室内に保管しておいた控え塗板と比較して評価を行なった。結果を表2に示した。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の塗膜形成方法は、各種工業製品、特に自動車車体の外板に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L*a*b*表色系におけるL*値が3以下である基材上に、鱗片状アルミニウム顔料を含むメタリックベース塗料、染料及び/又は着色顔料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が60%以上となる第1カラークリヤー塗料、染料を含み硬化塗膜として20μmの膜厚となるように塗装して得られる塗膜の波長400nm〜700nmの光線透過率が40%以上となる第2カラークリヤー塗料を順次塗装して得られる塗膜形成方法。
【請求項2】
前記基材が、黒色ベース塗料を塗装して得られたものである請求項1記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
メタリックベース塗料に配合せしめる鱗片状アルミニウム顔料が蒸着アルミニウムフレーク顔料である請求項1又は2に記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
第2カラークリヤー塗料に配合せしめる染料が、黒色染料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
第2カラークリヤー塗料を塗装後さらにトップクリヤー塗料を塗装する請求項1又は2に記載の塗膜形成方法。

【公開番号】特開2008−302286(P2008−302286A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151023(P2007−151023)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】