説明

塗被組成物及び塗被紙

【課題】 白色度、不透明度、白紙光沢、透気度に優れ、さらには嵩高性に富む印刷用塗被紙を与える、流動性の良い塗被組成物を提供すること。
【解決手段】 平均粒子径0.1〜0.9μmの炭酸カルシウムを50〜100重量%含有する無機顔料、中空有機微粒子、バインダ及び水を含有してなり、
前記中空有機微粒子の空隙率が10〜75%である、塗被紙表面層のための塗被組成物が、好ましくは前記無機顔料100重量部に対して前記中空有機微粒子を1〜30重量部含有する上記塗被組成物が上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗被紙表面層のための塗被組成物及び該塗被組成物を塗被してなる塗被紙に関し、さらに詳しくは、白紙光沢、白色度、不透明度及び透気度に優れ、嵩高性に富んで印刷に適した塗被紙を与える、流動性の良い塗被組成物及びそれを塗被してなる塗被紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、書籍、雑誌などの出版物やチラシ、パンフレット、ポスターなどの商業用印刷物など印刷用途が急速に拡大するに伴い、塗被紙にはますます多くの品質が要求されるようになってきた。広範な用途で単色印刷および多色印刷に適するために、塗被紙には白色度、白紙光沢、不透明度、透気度に優れ、かつ、嵩高であることが求められている。
【0003】
従来、白色度および不透明度の高い印刷用塗被紙を製造する方法として、小粒径の顔料を含有する塗被組成物が使用されてきた。
例えば特許文献1には、下塗り層と上塗り層とからなる印刷用塗被紙であって、下塗り層として、平均粒子径が1.1〜2.5μmの重質炭酸カルシウムを下塗り層用全顔料の50〜95重量%、及び、平均粒子径が0.5μm以下の顔料を下塗り層用全顔料の5〜50重量%含有させ、上塗り層として、平均粒子径が0.5〜1.2μmで、かつ、その粒度分布曲線の75重量%に該当する粒子径と、25重量%に該当する粒子径との比が1.5〜3.3である重質炭酸カルシウムを上塗り層用全顔料に対して10〜90重量%含有させた印刷用塗被紙が開示されている。しかしながら、このような塗被紙は不透明度が不十分で、透気度が低く、白紙光沢も低いという問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、0.2〜0.7μmの範囲にある中空状の有機顔料を20重量%以上含有する顔料と、ガラス転移温度が−40〜35℃にある共重合体ラテックスおよび/または水溶性バインダのバインダ成分を50〜300重量部含有する塗被組成物を、坪量50g/m以下の原紙に特定量塗被した軽量塗被紙が開示されている。しかしながら、このような軽量塗被紙は、不透明度および白紙光沢は比較的優れるものの、白色度が不十分であり、また、塗被組成物の流動性が低かった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−3057号公報
【特許文献2】特許第2643351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、白色度、不透明度、白紙光沢、透気度に優れ、さらには嵩高性に富む塗被紙を与える、流動性の良い塗被組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定粒子径を有する微細な炭酸カルシウムを特定量以上含有する無機顔料と、特定の空隙率を有する中空有機微粒子とを含有する塗被組成物が流動性に優れ、白色度、不透明度、白紙光沢、さらには透気度に優れ、かつ嵩高の塗被紙を与えることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、以下の1〜6の発明が提供される。
1. 平均粒子径0.1〜0.9μmの炭酸カルシウムを50〜100重量%含有する無機顔料、中空有機微粒子、バインダ及び水を含有してなり、
前記中空有機微粒子の空隙率が10〜75%である、塗被紙表面層のための塗被組成物。
2. 前記無機顔料100重量部に対して前記中空有機微粒子を1〜30重量部含有してなる上記1記載の塗被組成物。
3. 前記炭酸カルシウムの粒子径分布が下記(a)、(b)及び(c)を満たすことを特徴とする上記1又は2に記載の塗被組成物。
(a)2μm以下 : 90〜99重量%
(b)1μm以下 : 60〜99重量%
(c)0.2μm以下 : 5〜50重量%
4. 前記炭酸カルシウムのBET比表面積が1〜25m/gである上記1〜3のいずれかに記載の塗被組成物。
5. 上記1〜4のいずれかに記載の塗被組成物を塗被してなる塗被紙。
6. 水銀圧入法によって測定した塗被紙の細孔径分布曲線において、0.02〜0.4μmの範囲に2個以上のピークが存在する上記5記載の塗被紙。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、白色度、不透明度、白紙光沢、透気度に優れ、さらには嵩高性に富む印刷用塗被紙を与える、流動性の良い塗被組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塗被組成物は、平均粒子径0.1〜0.9μmの炭酸カルシウムを50〜100重量%含有する無機顔料、中空有機微粒子、バインダ及び水を含有してなり、前記中空有機微粒子の空隙率が10〜75%であることを特徴とする。
【0011】
本発明組成物で用いる炭酸カルシウムの種類は、特に限定されるものではなく、重質炭酸カルシウムおよび軽質炭酸カルシウムをそれぞれ単独であるいは任意の割合で混合して用いることができる。前記炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.1〜0.9μm、好ましくは0.2〜0.7μm、より好ましくは0.3〜0.6μmである。平均粒子径が大きすぎると得られる塗被紙の白紙光沢及び平滑性が劣る傾向にあり、逆に小さすぎると、塗被組成物の流動性が劣る傾向にあるとともに、塗被紙は無機顔料の表面積が多くなるため表面強度が低下する傾向にある。
尚、炭酸カルシウムの平均粒子径は、沈降式(X線)粒度分布測定装置を用い、粒度分布測定曲線の50累積重量%に該当する粒子径とする。
【0012】
また、本発明組成物で用いる炭酸カルシウムの好ましい粒径分布は、(a)2μm以下の粒子が好ましくは90〜99重量%、より好ましくは94〜99重量%であり、(b)1μm以下の粒子が好ましくは60〜99重量%、より好ましくは65〜95重量%であり、(c)0.2μm以下の粒子が好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。各粒子径が前記範囲を超えて、粒子径の大きな炭酸カルシウムを多く含むと、白紙光沢が低下する傾向にある。
【0013】
本発明組成物で用いる炭酸カルシウムのBET比表面積は、好ましくは1〜25m/g、より好ましくは5〜23m/g、特に好ましくは10〜21m/gである。該比表面積が小さすぎると塗被紙の白紙光沢が低下する傾向があり、逆に、大きすぎると塗被組成物の流動性が低下する可能性がある。
【0014】
本発明の塗被組成物における前記炭酸カルシウムの含有量は、無機顔料に対して50〜100重量%、好ましくは65〜100重量%、特に好ましくは80〜100重量%である。この割合が少なすぎると塗被組成物の流動性が低下し、得られる塗被紙の白色度が低下する傾向がある。
【0015】
本発明組成物で用いる無機顔料は、前記炭酸カルシウムのほか、クレイ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、サチンホワイト、水酸化アルミニウム、シリカ、雲母などから1種もしくは2種以上を0〜50重量%含有してもよい。
【0016】
本発明組成物で用いる中空有機微粒子は、中空層を内包する有機ポリマー微粒子である。中空有機微粒子は、無機顔料、非中空有機顔料に比して比重が小さいので塗被組成物の被覆性を向上させ、不透明度の高い嵩高の塗被紙を得るのに有効である。また、中空粒子は易変形性に富むため塗被表面は小さな加圧で平滑化されるので容易に高い白紙光沢を得ることが可能である。
【0017】
前記中空有機微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察による200個の粒径測定による個数平均粒子径が、好ましくは0.2〜2.0μm、より好ましくは0.3〜1.8μm、特に好ましくは0.3〜1.5μmである。中空有機微粒子の平均粒子径が小さすぎると得られる塗被紙の透気度、白紙光沢、不透明度および嵩高性が低下する傾向にあり、逆に、大きすぎると塗被組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0018】
前記中空有機微粒子の空隙率は、10〜75%、好ましくは20〜65%、特に好ましくは25〜60%である。ここで中空有機微粒子の空隙率は、中空部が充填されていると仮定した場合の中空有機微粒子の体積に対する、中空有機微粒子内部に存在する空隙部容積の比率である。空隙率は、透過型電子顕微鏡を用いて、中空有機微粒子200個について、各粒子における最大粒子径と最大空隙径とを測定し、その数値から以下のように計算して求められる個別空隙率を算術平均して得ることができる。空隙率が小さすぎると塗被紙の不透明度、白紙光沢、透気度および嵩高性に劣る傾向にあり、逆に、大きすぎると塗被組成物の流動性が低下する傾向にある。
個別空隙率(%)=(最大空隙径)/(最大粒子径)×100
【0019】
中空有機微粒子のポリマー組成は限定されないが、ガラス転移温度(Tg)が25℃以上のポリマーが好ましい。中空有機微粒子の好ましいポリマー組成は、芳香族ビニル化合物および/またはアルキル(メタ)アクリレート(アルキルメタクリレートまたはアルキルアクリレートの意)を必須成分とし、必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を共重合させたものである。
【0020】
前記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレンなどが挙げられ、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましい。また、前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、なかでもメチルメタクリレートが好ましい。
【0021】
上記必要に応じて使用される共重合可能な他の単量体としては、シアン化ビニル化合物、エチレン性不飽和カルボン酸、共役ジエン系単量体、架橋性単量体、酢酸ビニルおよびアルキル(メタ)アクリルアミド(メタクリルアミドまたはアクリルアミドの意)系単量体等から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸としてはイタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレンなどが挙げられ、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0022】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートなどのジビニル系単量体あるいはトリビニル系単量体を例示することができ、特にジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0023】
かかる中空有機微粒子の製造方法に限定はなく、例えば特開昭64−1704号公報、特開昭63−213509号公報、特開平5−279409号公報、特開平6−248012号公報、特開平10−110018号公報、特開平10−182761号公報等に記載された方法を含む、次の(1)〜(7)の方法が例示される。
(1)ポリマー粒子中に発泡剤を含有させておき、後にこの発泡剤を発泡させる方法、(2)ポリマー粒子にブタン等の揮発性物質を封入しておき、後にこの揮発性物質をガス化膨脹させる方法、(3)ポリマー粒子を溶融させ、これに空気等の気体ジェットを吹付け、気泡を封入する方法、(4)ポリマー粒子の内部に芯重合体としてアルカリ膨潤性の物質を含有させておき、このポリマー粒子にアルカリ性液体を浸透させてアルカリ膨潤性の物質を膨脹させる方法、(5)ポリメチルメタクリレートの微粒子を種粒子として用い、この種粒子の存在下にスチレンを乳化重合する方法、(6)重合性モノマー成分を水中に微分散させて水中油滴型エマルジョンを作成し、重合を行なう方法、(7)架橋性モノマーと親水性モノマーを含む重合性モノマーを、このモノマー組成とは異なるモノマーから重合された異種ポリマーの微粒子存在下に水性重合する方法。
これらの中でも(4)(特開平10−182761号報参照)の方法が好ましい。
【0024】
本発明の塗被組成物における中空有機微粒子の含有量は、無機顔料100重量部に対し、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは2〜23重量部、特に好ましくは3〜18重量部配合される。中空有機微粒子の配合量が少なすぎると、得られる塗被紙の白紙光沢、白色度、不透明度および嵩高性が低下する傾向にあり、逆に多すぎると塗被組成物の流動性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明組成物で用いるバインダとしては、一般に紙に塗被するための塗被組成物に含有されるバインダと同様のものが使用でき、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル系共重合体ラテックス;エチレン−酢酸ビニル共重合体などのα−オレフィン系共重合体ラテックス;これらの共重合体を酸モノマーで変性した変性共重合体ラテックス;などの共重合体ラテックスが好ましく挙げられる。また、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂接着剤;澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉、酸化澱粉などの澱粉類;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白類;カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースなどのセルロース誘導体;などの水溶性接着剤も使用可能である。本発明においては、これらのバインダを一種単独で又は二種以上併せて使用することができる。なかでもスチレン−ブタジエン−酸モノマー変性共重合体ラテックスが好ましい。
【0026】
バインダとしての前記共重合体ラテックスの製造方法に限定はなく、例えば、スチレン−ブタジエン−酸モノマー変性共重合体ラテックスの製造方法としては特開2004−27034号公報、特開2002−53602号公報などに記載の方法が好ましく例示される。
【0027】
バインダとして共重合体ラテックスを使用する場合は、ラテックス粒子のレーザ回折散乱法粒度分布測定装置で測定した重量平均粒子径が、好ましくは30〜200nm、より好ましくは50〜150nmである。この粒子径が小さすぎると塗被紙はインクセット性に劣る傾向があり、逆に、大きすぎると表面強度に劣る傾向がある。
【0028】
バインダの共重合体ラテックスを構成する共重合体のガラス転移温度は、好ましくは−50℃〜30℃、より好ましくは−40〜25℃である。ガラス転移温度が低すぎると塗被紙は耐ブロッキング性およびインクセット性に劣る傾向があり、逆に、高すぎると表面強度に劣る傾向がある。
【0029】
バインダの使用量は、全顔料100重量部に対する固形分換算で、好ましくは3〜20重量部、より好ましくは4〜15重量部である。この使用量が少なすぎると塗被紙は表面強度に劣る傾向があり、逆に、多すぎると耐ブロッキング性およびインクセット性に劣る傾向がある。
【0030】
本発明の塗被組成物は水系分散液である。通常、水は前記の中空有機微粒子やバインダの分散媒がそのまま利用され、必要に応じて蒸留水、脱イオン水などが追加される。
塗被組成物の固形分濃度は、好ましくは40〜75重量%、より好ましくは50〜70重量%である。塗被組成物の固形分濃度が小さすぎると得られる塗被紙の透気度および表面強度が低下する傾向があり、逆に、大きすぎると塗被組成物の流動性が低下して塗被紙の生産性を損なう傾向がある。
【0031】
本発明の塗被組成物には、必要に応じて、pH調整剤、分散剤、耐水化剤、消泡剤、染料、滑剤、増粘剤、保水剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、導電処理剤、紫外線吸収剤、撥水剤などの任意配合剤を適宜配合することができる。
【0032】
本発明の塗被組成物の調製方法は限定されないが、例えば、攪拌機を備えた容器内で炭酸カルシウムを50〜100重量%含有する無機顔料、中空有機微粒子やバインダの分散液、任意配合剤などを混合する方法が採られる。
【0033】
本発明の塗被紙は、上記の塗被組成物を原紙に塗被して表面塗被層を形成させたものである。該表面塗被層は原紙に直に接する単層であってもよいし、他の下塗り層の上の最上層であってもよい。
原紙としては、特に限定されず、機械パルプ、化学パルプ、古紙パルプ等のパルプからなる原紙を用いることができる。また、原紙の坪量は特に限定されず、通常、40〜220g/mである。
【0034】
本発明において、塗被層の形成には、通常の塗被方式を用いればよく、例えば、ブレードコーター、ロール転写コーター、エアナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、ショートドゥエルコーター、カーテンコーター、ビルブレードコーター、ダイコーター等、従来公知の塗被手段を用いて原紙上に塗工することができる。これらの内、ブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、ビルブレードコーター等の高速塗被に適した塗工方式を用いることが好ましい。塗被量は、塗被組成物が固形分換算で片面あたり、好ましくは3〜30g/m、より好ましくは5〜25g/mになる範囲である。
【0035】
本発明の塗被紙の製造においては、塗被層形成後、これを乾燥する。複数の塗被層を形成する場合、通常は、各塗被層の形成後、当該塗被層を乾燥してから、次の塗被層を形成する。乾燥方法としては、特に限定されず、蒸気乾燥、熱風乾燥、電気ヒーター乾燥等の方法を適宜採用することができる。乾燥温度、乾燥時間は、塗工速度等によって異なるが、通常、80〜180℃で、0.03〜10秒程度である。
前記方法によって得られた塗被紙は、必要に応じてカレンダー処理を経て仕上げられることにより、白紙光沢をより高くすることができる。カレンダー処理をする際の装置は特に限定されるものではなく、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の各種カレンダー装置により処理される。カレンダーの条件は、特に限定されず、通常、30〜200℃、線圧50〜200kg/cmである。
【0036】
本発明の塗被紙は、不透明度、透気度および嵩高性に優れる点で、水銀圧入法によって測定した塗被紙の細孔径分布曲線において、0.02〜0.4μmの範囲に2個以上のピークが存在するものが好ましい。このことは、塗被紙の塗被層中に存在する細孔群が2以上の群に分けられ、同一群内では細孔径サイズがほぼ同じであるが、それぞれの群の平均細孔径サイズがいずれも0.02〜0.4μmの範囲であり、異なるサイズであるということを意味する。これは塗被層中の、無機顔料と中空有機微粒子との間に存在する空間に由来する細孔群の平均径サイズと、中空有機微粒子内の空隙に由来する細孔群の平均サイズとが異なり、これらが別々のピークとして検出されることに起因する。
水銀圧入法によって測定した塗被紙の細孔径分布曲線は、水銀の圧力に応じて塗被紙内に侵入した水銀の体積変化率を測定することにより得られる曲線であり、水銀ポロシメータを用いて得ることができる。
【0037】
本発明の塗被紙は、白色度、不透明度、白紙光沢、透気度、さらには嵩高性に優れるので、書籍、雑誌などの出版物やチラシ、パンフレット、ポスターなどの商業用印刷物用に好適である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。以下において「部」は特に断りのない限り重量基準である。各特性の試験、評価は、下記のようにして行った。
【0039】
(炭酸カルシウムの平均粒子径および粒子径分布)
炭酸カルシウムの粒子径分布は沈降式(X線)粒度分布測定装置(セディグラフ5100、島津製作所社製)を用いて粒子径累積曲線を求めた。平均粒子径は、その累積50重量%に該当する粒子径とした。
(中空有機微粒子の数平均粒子径)
透過型電子顕微鏡を用いて中空重合体粒子200個につき各々の最大粒子径を測定し、それらを算術平均して数平均粒子径を求めた。
【0040】
(中空有機微粒子の空隙率)
透過型電子顕微鏡を用いて中空有機微粒子200個につき個別粒子における最大粒子径と最大空隙径とを測定し、それらの数値から以下のように計算して求められる個別空隙率(%)を単純平均して得た。
個別空隙率(%)=(最大空隙径)/(最大粒子径)×100
【0041】
(白色度)
JIS P8148−1993規定の方法により、分光色彩白色度計(PF10:日本電色工業社製)を用いてISO白色度を測定した(単位:%)。数値が大きい方が白色度に優れている。
【0042】
(不透明度)
JIS P8138−1976規定の方法で、分光色彩白色度計(PF10:日本電色工業社製)を用いて測定した(単位:%)。数値が大きい程不透明度に優れている。
【0043】
(白紙光沢)
塗被紙について、グロスメーター(GM−26D、村上色彩社製)を用いて、入射角75度、反射角75度の条件で塗被紙の光の反射率(単位:%)を測定した。数値が大きい程白紙光沢に優れている。
【0044】
(透気度)
JIS P 8117規定の方法で、ガーレーハイプレッシャー・デンソメーターを用いて塗被紙の透気度を測定した。通過した空気の量は10mlとした。この値が低いほど透気度が高い。
【0045】
(嵩高性)
JIS P 8118規定の方法で、塗被紙の緊度を測定した。緊度の値が小さいほど嵩高性は高く、値が大きいほど嵩高性は低い。
【0046】
(塗被組成物の流動性)
固形分濃度60重量%の塗被組成物のハイシア粘度を、ハイシア回転粘度計(PM−9000HV:ボブF、エスエムテー社製)を用いて回転数4400rpmで測定した。この値が小さいほど流動性に優れる。
【0047】
(細孔径分布(0.02〜0.4μm)のピーク数)
水銀圧入法細孔径分布測定装置である水銀ポロシメータ(AUTOSCAN−33、QUNTA CHROME社製)を用いて塗被紙の細孔径分布を測定した。ここで得られた細孔径分布曲線の、0.02〜0.4μmの細孔径範囲にあるピークの数を求めた。測定は熱による影響を排除するため、すべて室温で行った。
【0048】
(製造例1)
攪拌装置を備えた耐圧容器に、メタクリル酸メチル(MMA)50部、アクリル酸ブチル(BA)10部、メタクリル酸(MAA)40部、界面活性剤Iとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(アルキル基C1235、エチレンオキサイド付加数18)0.9部、トリポリリン酸ナトリウム0.15部およびイオン交換水80部を攪拌して、芯重合体形成用の単量体混合物(a)の乳化物を調製した。
【0049】
攪拌装置を備えた耐圧反応器に、イオン交換水40部およびシードラテックス(体積平均粒径82nmのメタクリル酸メチル重合体粒子)0.28部を添加し、85℃に昇温した。
次いで、過硫酸カリウム3重量%水溶液1.63部を添加し、上記の乳化物の7重量%を、3時間に亘り、反応器に連続的に添加した後、さらに1時間反応させた。
【0050】
その後、イオン交換水250部および過硫酸カリウム3重量%水溶液18.6部を添加し、反応温度を85℃に維持しながら、上記の乳化物の残部を、3時間に亘り、反応器に連続的に添加した。単量体乳化物の連続添加を完了した後、さらに2時間反応を継続して芯重合体を得た。重合転化率は99%であった。
【0051】
攪拌装置を備えた耐圧容器に、MMA7.8部、BA1.6部、MAA0.6部、t-ドデシルメルカプタン(TDM)0.03部、界面活性剤Iを0.02部およびイオン交換水16部を入れ、攪拌、混合して単量体混合物(b)の乳化物を調製した。別に、スチレン(ST)79.44部、MAA0.56部、界面活性剤Iを0.4部およびイオン交換水130部を攪拌、混合して単量体混合物(c)の乳化物を調製した。
【0052】
攪拌装置を備えた耐圧反応器に、イオン交換水130部および上記の芯重合体5部を含有する水性分散液を添加し、85℃に昇温した。
次いで、4重量%過硫酸カリウム水溶液10部を添加し、上記の単量体混合物(b)の乳化物を20分間に亘り、反応器に連続的に添加した。その後、上記単量体混合物(c)の乳化物を120分間に亘り反応器に連続的に添加した。
【0053】
単量体混合物(c)の乳化物の連続添加を完了した直後、5重量%アンモニア水25部を添加し、反応温度を90℃に上昇させた。1時間塩基処理した後、4重量%過硫酸カリウム水溶液10部を添加し、さらに2時間反応を継続した。重合転化率は99%であった。
重合系を室温まで冷却して、中空重合体粒子Aを含有する水性分散液を得た。
得られた中空有機微粒子Aの数平均粒子径は1.0μm、空隙率は40%、中空有機微粒子Aラテックスの固形分濃度は30重量%であった。
【0054】
(製造例2)
製造例1において、芯重合体の添加量5部を7部に変更した以外は、製造例1と同様に重合して、空隙率50%の中空有機微粒子Bを得た。
【0055】
(製造例3)
製造例1において、芯重合体の添加量5部を10部に変更した以外は製造例1と同様に重合して、空隙率55%の中空有機微粒子Cを得た。
【0056】
(比較製造例1)
製造例1において、単量体混合物(a)の単量体BA、MAAの全量を、MMAに変更して重合した以外は製造例1と同様に重合して、空隙率5%の中空有機微粒子Dを製造した。
【0057】
(比較製造例2)
製造例1において、芯重合体の添加量5部を15部に変更した以外は製造例1と同様に重合して、空隙率80%の中空有機微粒子Eを得た。
【0058】
(実施例1)
炭酸カルシウム(セタカーブHG、備北粉化工業社製;平均粒子径0.3μm;2μm以下の粒径が99重量%、1μm以下の粒径が90重量%、0.2μm以下の粒径が29重量%;BET比表面積20m/g)80部とクレイ(アストラグレーズ、イメリスミネラルズ・ジャパン)20部とからなる無機顔料100部、滑剤としてステアリン酸カルシウム(ノプコートC−104HS、サンノプコ社製)0.5部、燐酸エステル化澱粉(MS−4600、日本食品化工社製)2部、カルボキシ変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(ニポールLX407F、日本ゼオン社製、粒度分布測定装置(LS230、ベックマン・コールター社製)で測定した重量平均粒子径:100nm、ガラス転移温度:0℃、ゲル含有量:80重量%)9部、製造例1で得た中空有機微粒子Aラテックス10部およびイオン交換水を加え、混合、攪拌して固形分濃度60重量%の塗被組成物を得た。
次に、得られた塗被組成物を坪量65g/m原紙上に、片面7g/mにて両面塗布し、乾燥して塗被紙を得た。塗被組成物の流動性、塗被紙の白色度、不透明度、白紙光沢、透気度、嵩高性および細孔径分布を試験、評価した結果を表1に記載する。
【0059】
(実施例2及び3、比較例1及び2)
製造例1で得られた中空有機微粒子Aに代えて、製造例2、製造例3、比較製造例1及び比較製造例2で得られた中空有機微粒子B、C,DおよびEをそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様に塗被組成物及び塗被紙を製造し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に記載する。
【0060】
(比較例3)
実施例2において、炭酸カルシウム(セタカーブHG)80部を20部に、また、クレイ(アストラグレーズ)20部を80部にそれぞれ変更した以外は実施例2と同様に塗被組成物及び塗被紙を製造し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に記載する。
【0061】
【表1】

【0062】
表1が示すように、空隙率が本発明規定範囲に満たない中空有機微粒子を使用した塗被組成物を用いて得られた塗被紙は、不透明度、白紙光沢及び嵩高性に劣っていた(比較例1)。空隙率が本発明規定範囲を超える中空有機微粒子を使用した塗被組成物を用いた場合、得られた塗被紙の特性には優れるものの、該組成物の流動性が劣り、その結果塗被紙の生産性が低下した(比較例2)。無機顔料中の炭酸カルシウムの配合割合が本発明規定範囲に満たない塗被組成物の流動性は低く、得られた塗被紙の白色度および透気度は劣っていた(比較例3)。
これに対し、中空有機微粒子の空隙率が本発明規定範囲にある塗被組成物は、流動性に優れ、それを用いて得られた塗被紙は、白色度、不透明度、白紙光沢、透気度に優れ、さらには嵩高性に富むものであった(実施例1〜3)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径0.1〜0.9μmの炭酸カルシウムを50〜100重量%含有する無機顔料、中空有機微粒子、バインダ及び水を含有してなり、
前記中空有機微粒子の空隙率が10〜75%である、塗被紙表面層のための塗被組成物。
【請求項2】
前記無機顔料100重量部に対して前記中空有機微粒子を1〜30重量部含有してなる請求項1記載の塗被組成物。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムの粒子径分布が下記(a)、(b)及び(c)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗被組成物。
(a)2μm以下 : 90〜99重量%
(b)1μm以下 : 60〜99重量%
(c)0.2μm以下 : 5〜50重量%
【請求項4】
前記炭酸カルシウムのBET比表面積が1〜25m/gである請求項1〜3のいずれかに記載の塗被組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の塗被組成物を塗被してなる塗被紙。
【請求項6】
水銀圧入法によって測定した塗被紙の細孔径分布曲線において、0.02〜0.4μmの範囲に2個以上のピークが存在する請求項5記載の塗被紙。



【公開番号】特開2006−111980(P2006−111980A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297602(P2004−297602)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】