塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料
【課題】自反射ビーズがその再帰反射性を十分に発揮して夜間走行中の車両などからの視認性に優れる、塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料を、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、提供することの工夫にある。
【解決手段】本発明にかかる塗装方法は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、ことを特徴とし、本発明にかかる再帰反射性塗料は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、前記塗装方法に適用される、ことを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかる塗装方法は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、ことを特徴とし、本発明にかかる再帰反射性塗料は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、前記塗装方法に適用される、ことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間における視認性向上などの目的で利用される再帰反射性を付与するための塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間などにおける標識や防護柵などの視認性を高めるといった目的で、再帰反射性を利用する技術はすでに知られている。ここで、再帰反射性とは、外部から入射した光を入射方向と同じ方向に反射させる特性のことであり、例えば、自動車のヘッドライトを効率良く運転者のほうに反射させて注意を喚起することができる。例えば、金属粉顔料を含有する透明樹脂からなる反射層と、該反射層上に形成された定着層と、一部が反射層および定着層内に埋没・固着しかつ一部が定着層外に露出するように形成されたガラスビーズ層からなる再帰反射塗膜を表面に形成した道路標識柱が知られている(特許文献1参照)。
また、横桟の外側面に光反射剤を含む樹脂塗膜が形成され、その表面に再帰反射性を有するガラスビーズが付着された防護柵も知られている(特許文献2参照)。
【0003】
再帰反射性を利用する特許文献1の技術は、金属粉顔料を含有する透明樹脂からなる反射層が必須の技術であり、反射層が必須である分だけ、塗膜形成工程が煩雑となるという問題があった。特許文献2の技術も、光反射剤を含む樹脂塗膜が必須であるため、上記特許文献1の技術と同様の問題があった。
これらに対して、ガラスまたは樹脂からなるビーズの少なくとも一部の表面に光反射性を有する反射膜が設けられた再帰反射ビーズがその反射膜を底面にして塗膜内に設けられている再帰反射性塗膜も知られている(特許文献3参照)。
特許文献3に記載のこの従来技術においては、特許文献1,2の従来技術のように、光反射剤を含む樹脂塗膜を形成することがないため、この点での工程の煩雑さはない。しかし、再帰反射ビーズが反射膜を底面にして塗膜内に設けられていることを必須条件としており、そのため、第1に、基材表面の真正面から照射される光は十分に反射できるが、道路上を走行する自動車からの光など、基材表面に対して斜めから照射される光は、ビーズの反射膜で反射されることが殆どないという問題があり、第2に、ビーズの反射膜を塗膜の底面に向けるための面倒な塗装工程が必要であると言う問題があった。
【0004】
上記第1の問題点について、さらに詳しく述べると、再帰反射材が、標識や反射体そのものである場合には、基材表面が照射される光の方向に対して垂直となるよう取り付けることができるため、ビーズの底面側に反射膜を設けることで反射輝度をより高くすることができる。これに対し、例えば、防護柵の場合には、通常、走行中の車のヘッドライトは防護柵の基材表面に斜め方向から当たり、自動車との距離によって入射角度は0〜90°の範囲で変化し、むしろ、直線道路では20°以上となってしまうことが多い。このように、入射角度が0〜90°の範囲で変化するような場合には、反射膜は、ビーズの底面側の位置にあるよりは、むしろ、ビーズの側面側の位置にあるなどの方が好ましいのであるが、特許文献3の技術による場合は、反射膜の位置がビーズの底面側にあるため、これを防護柵やその構成部材に適用した場合には、夜間の視認性能はむしろ劣るものとなると言うことである。
【0005】
上記第2の問題点について、さらに詳しく述べると、特許文献3には、再帰反射ビーズがその反射膜を基材側に向けて塗膜中に位置するようにするための手法として、ビーズの反射膜部分には下塗り塗膜と親和性の高い物質を付着させておくとともに、反射膜部分でないビーズ表面には、再帰反射性塗膜の表面層を構成する透光性塗料と親和性の高い物質を付着させておくという手法か、あるいは、ビーズの反射膜を磁性金属で形成し、塗装時および/または塗装後に基材側から磁石を接近させるという手法が記載されている。しかし、前者の手法では、ビーズの反射膜がある部分とない部分とにそれぞれ別の親和性物質を塗り分ける必要があるため、これらの物質の付着に要する時間やコストが大きく、しかも、これらの物質が再帰反射性に与える影響が考慮されておらず、さらに、塗膜が下塗り塗膜と透光性塗膜の2層塗膜であることが必須であるとともに、これらの塗料構成も著しく制約されると言う不利益がある。また、後者の方法では、ビーズの反射膜が磁性金属に限定されるが、磁性金属として一般に知られているもの(鉄、コバルト、酸化クロムなど)は再帰反射性に乏しく、また、基材側から磁石を接近させることによりビーズの配向を調整する必要があるために対象基材(基材自体の磁性や厚みなど)が限定されるとともに、磁石を接近させることによって粘稠な樹脂中にある再帰反射ビーズが磁性材を底面に配向させるような工程を必須とする点で、多大な時間やコストが必要となる。そして、いずれの手法にしても、塗膜が流動性を有する間に適用する必要があり、工程が複雑化する問題があると言うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−160522号公報
【特許文献2】特開2007−92393号公報
【特許文献3】特開2005−288206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、自反射ビーズがその再帰反射性を十分に発揮して夜間走行中の車両などからの視認性に優れる、塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料を、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、提供することの工夫にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
その過程において、本発明者は、透明樹脂により基材表面に固定された状態での各自反射ビーズは、その表面の反射膜の位置決めが無作為となっていることが重要であることを見出した。すなわち、上述のとおり、前記特許文献3の技術のごとく、反射膜の位置決めが自反射ビーズの底面のみに限定されていると、入射角度が20°以下という非常に限られた範囲でしか再帰反射性が期待できないのに対し、反射膜の位置決めが無作為となっていると、いかなる入射角度であっても、いずれかの自反射ビーズで再帰反射が起こるため、結果として、例えば、防護柵の実際の使用場面で起こるように入射角度が0〜90°の範囲で変化しても、常に一定以上の再帰反射性が発揮されることを見出したのである。
【0009】
本発明はこれらの知見とその確認を経て完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる塗装方法は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、ことを特徴とする。
本発明にかかる再帰反射性塗料は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、上記塗装方法に適用される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、自反射ビーズとは別に反射層を設ける必要がなく、ビーズにおける反射膜の位置を基材側に固定するといった煩雑な作業も必要ない。そして、このように煩雑な工程を避けるものでありながら、様々な入射角度からの入光に対しても十分な再帰反射性を発揮させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態において、その表面を撮影した写真である。
【図2】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図3】再帰反射の原理を説明するための自反射ビーズの模式的断面図である。
【図4】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図5】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図6】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図7】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図8】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図9】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図10】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図11】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図12】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図13】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図14】ビーズ面積率を測定する操作2の例を示す図である。
【図15】ビーズ面積率を測定する操作3の例を示す図である。
【図16】ビーズ面積率を測定する操作4の例を示す図である。
【図17】本発明にかかる実施例におけるビーズ面積率と再帰反射輝度係数の関係を示すグラフである。
【図18】本発明にかかる実施例におけるビーズ面積率と明度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料について、適宜、図面を用いて具体的に説明する。
図1の例1と例2は、基材表面上に再帰反射性塗膜を形成し、その表面を、キーエンス社製マイクロスコープを用いてレンズ200(同社の商品名)で観察し、写真撮影したものであり、それぞれ、本発明にかかる塗装方法によって形成される再帰反射性塗膜の構造の一例を表すものである。
【0013】
図1において、白い球状のものが自反射ビーズであり、それらを被覆しているものが透明樹脂である。黒色の部分は、基材表面が露出した部分であるか、あるいは、基材表面が透明樹脂によって非常に薄く被覆されている部分である。
図1に示す例では、基材上において、自反射ビーズが透明樹脂により被覆された状態で、島状に存在していることが分かる。すなわち、一部のビーズは、接近し、時に、隙間のない状態になって島状を呈していることもあるが、多くのビーズ間で、そして、少なくとも島と島の間において、隙間が出来ている。本発明の塗装方法は、再帰反射性に優れる自反射ビーズを用いているので、このような隙間を有する状態となるように塗装しても十分な再帰反射性を発揮させることができるのであり、以下では、このような状態を指して、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態であること」と表現している。
【0014】
ここで、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」とした場合の利点について説明しておく。
上述の特許文献1,2の技術では、反射層が必須に用いられており、この反射層は、基材表面を覆い、基材表面の色調やツヤ(JIS K 5500では「ツヤ」と書く。「艶」を意味する。)を隠蔽するので、基材が本来有する色調やツヤが再帰反射性塗膜表面にまで現れてこず、そのために、基材本来の色調やツヤを生かすことが困難であった。また、反射層が必須である分だけ膜厚も厚くなり、さらに、ガラスビーズの底面が反射層にまで達していなければ、所望の再帰反射性は得られないので、結果として、ガラスビーズの粒径も大きくする必要があり、この点においても、やはり、本来有する色調やツヤの現出を妨げるものであった。
【0015】
これに対し、上述の特許文献3の従来技術は、特許文献1,2の従来技術のように、光反射剤を含む樹脂塗膜を形成することがないため、基材表面色が見えることが期待される。ところが、本発明者の検討したところによると、特許文献3の従来技術においても、基材表面色を十分に生かすことができないことが分かった。すなわち、特許文献3の技術では、ガラスビーズに反射膜を設けた自反射ビーズを用いて、反射膜をビーズ底面側に配置されるようにすることで反射輝度を向上させることのみにとらわれていて、基材表面の本来の色調やツヤを十分に現出させるための何らの工夫もなされていないこと、したがって、環境に配慮した色調やツヤを有する基材に適用した場合、やはり、自反射ビーズによって基材本来の色調やツヤが隠蔽されてしまうことが分かった。ビーズの反射膜を底面に配向させていることも、基材表面の本来の色調やツヤの隠蔽の原因となっていることが分かった。
【0016】
上の検討も含め、本発明者の得た知見によれば、一般には、自反射ビーズの使用量が多いほど再帰反射性が向上するが、それに反して基材本来の色調やツヤが失われてしまうことが分かった。特に、景観に配慮した濃色の場合、淡色に比べ、ビーズに入射した光が反射されるよりむしろ吸収されてしまうことから、ビーズの配合量を多くする必要があると考えられた。しかしながら一方で、ビーズ配合量を多くすると白っぽいツヤのない色調になり、基材本来の色調とツヤを維持することができなくなることも分かった。
そこで、このように再帰反射性と基材本来の色調とツヤの維持という一見して不可能と思われる性能の両立を図るためにさらなる鋭意検討を重ねた結果、従来は、再帰反射性を重視するあまり、必要以上に再帰反射性のビーズを過剰に配合し、ビーズ同士が密着する構造であった結果、基材本来の色調やツヤが、ビーズによって隠蔽されてしまうことが分かった。これに対して、本発明者は、ビーズ表面の一部に反射膜が形成されているビーズである自反射ビーズを用いるようにすれば、ビーズ配合量が十分に多くなければ再帰反射性が得られないという従来の技術常識に反して、意外にも、従来よりも少ないビーズ量、基材に占める少ないビーズ面積率でも効率的に十分な再帰反射性が得られることが分かり(これに対して、ビーズ表面の一部に反射膜が形成されていない場合には、十分な再帰反射性が得られない。このことは、後述の表1の比較例2,3でも明確に示されている。)、そのため、ビーズとビーズの間に基材の塗装面が十分に覗く隙間を有する皮膜構造とすることが可能となり、この構造とすることによって、基材が本来有する色調とツヤ、例えば、基材表面に景観を配慮した濃色の塗装が施されている場合において、この景観色調とツヤが再帰反射性塗膜によって損なわれることを抑止できることも分かった。
【0017】
このように、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」であると、十分な再帰反射性を付与しつつ、基材本来の色調やツヤを生かすことができるという利点があるのである。
なお、本発明は、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、様々な入射角度からの入光に対しても十分な再帰反射性を付与することを目的とするものであるので、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」であることは必須の条件ではない。このような工夫は、環境を配慮して濃色の塗装が施された基材など、基材本来の色調やツヤを生かすことが好ましい場合などに好ましく採用されるものである。
【0018】
図1に写真で示す再帰反射性塗膜の構造の一部断面図を図2に示す。
図2に示す例では、3つの自反射ビーズ30および透明樹脂層20からなる集団と、2つの自反射ビーズ30および透明樹脂層20からなる集団が互いに隙間を空けて存在している。図2は一部断面図であるので、図には表れていないが、例えば、奥行き方向でさらに複数の自反射ビーズと集団を形成している場合もある。
本発明にかかる塗装方法では、所定の自反射ビーズと塗膜形成要素である透明樹脂を必須成分とする塗料が用いられる。そして、本発明に適用されるビーズはその一部に反射膜を有する自反射ビーズであることが必須である。
【0019】
ここで、本発明者が見出したところによれば、上記ビーズとしては、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAおよび/または屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBであることが好ましい。屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAは、屈折率2.1〜2.5である自反射ビーズBと比べて、安価であり、再帰反射性に優れているという利点があるが、自反射ビーズが透明樹脂で被覆されたり雨などによりその表面が水で濡れた状態においては再帰反射性が低下する傾向があり、他方、自反射ビーズBは、自反射ビーズAよりも高価であり、再帰反射性に劣るが、自反射ビーズが透明樹脂で被覆されたり雨などによりその表面が水で濡れた状態であっても再帰反射性の低下が少ないという利点がある。したがって、自反射ビーズAを単独で使用する場合、あるいは、自反射ビーズBとともに自反射ビーズAを併用する場合には、自反射ビーズが、その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている状態にすることが好ましい。また、屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBを単独で用いる場合には、このような配慮の必要性がなく、自反射ビーズの全体を透明樹脂層内に埋没させた状態とすることができ、この場合、表面が平滑で、汚れの付着し難い再帰反射性塗膜を得ることができる。
【0020】
上に述べたことについて、図3〜7を参照しながら、以下に詳しく説明する。図3〜7は、自反射ビーズによる再帰反射の原理を説明するための模式図であり、各図の(a)は屈折率が1.8〜2.0である自反射ビーズAに関する図であり、各図の(b)は屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBに関する図である。これら図3〜7では、自反射ビーズAの屈折率が1.93、自反射ビーズBの屈折率が2.2、透明樹脂層の屈折率が1.5である場合における光の軌跡を正確に示したものである。なお、水の屈折率は1.3である。
まず、自反射ビーズ30に光L1,L2が直接入射する場合、屈折率が1.8〜2.0である自反射ビーズAではビーズ底面で焦点を結び、屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBではビーズ底面よりもやや中心に近い位置で焦点を結ぶ。したがって、このように自反射ビーズ30に光が直接入射する場合における再帰反射性は、図3に示すように、自反射ビーズAのほうが自反射ビーズBよりも優れるのである。
【0021】
次に、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が透明樹脂層20や水膜40などで覆われている状態において、光L1〜L3が入射する場合について、図4〜6を参照しながら説明する。
図4に示す例では、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が、その球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるように、透明樹脂層20で僅かに覆われている。このような場合、透明樹脂層20の屈折率が影響して相対屈折率が変化するため、焦点位置も変化する。したがって、この場合、被覆層がない場合にビーズ底面で焦点を結ぶようになっている自反射ビーズAは、焦点位置がビーズ底面からずれて、より外側に位置することになるが、ビーズ底面に反射膜を付けてあるため、その膜面で反射し、さらに透明樹脂層20を通過して外へ出て行くことになる。この時ビーズ内に入った光は反射膜面では集光しておらず(焦点位置がズレているため。)、光の強さとしては弱い光が再帰反射とは違う方向へ出て行くことになる。従って、再帰反射性は著しく低下することになるが、自反射ビーズBでは、被覆されていない状態での焦点位置がビーズ底面より内部に位置するため、透明樹脂層20の屈折率の影響により、焦点位置はビーズの外側に位置するが、自反射ビーズAの時よりもよりビーズの底面側に近づくこととなり、再帰反射性は自反射ビーズAを使用した場合より有効に確認できるのである。
【0022】
図5に示す例では、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が透明樹脂層20で覆われている点で図4に示す例と共通であるが、この例では、透明樹脂層20の厚みが厚く、透明樹脂層20の表面は平坦になっており、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるようにはなっていない。このような場合、自反射ビーズ30に対して正面から入射する光は特に問題とはならないが、自反射ビーズ30に対して側面から入射する光、例えば、図5における光L2では、空気中から透明樹脂層20への入射角と、透明樹脂層20から自反射ビーズ30への入射角が透明樹脂層20への入射する位置によって大きく乖離することとなるため、透明樹脂層20が自反射ビーズ30の表面を同心円状に僅かに覆う程度である前記図4に示す例よりもさらに条件が悪く、再帰反射性が低下しやすい。したがって、この場合、被覆層がない場合にビーズ底面で焦点を結ぶようになっている自反射ビーズAは、焦点位置がビーズ底面から大きくずれて、特に自反射ビーズ30に対して側面からの入射光において、再帰反射性の低下が著しくなる。これに対して、自反射ビーズBでは自反射ビーズAに比べて樹脂との相対屈折率が大きい分だけ透明樹脂層20を通過して出て行く光の角度が自反射ビーズAよりも大きく曲がらないため、塗装物の存在が確認できる程度の視認性が得られるのである。
【0023】
図6に示す例では、図4に示す例において、さらに、透明樹脂層20に水膜40が僅かに付着している。この例における水膜40も、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるように覆っているので、基本的には、図4に示す例と同様である。
図7に示す例では、図4に示す例において、さらに、透明樹脂層20表面が水膜40で覆われている点で図6に示す例と共通であるが、この例では、水膜40の厚みが厚く、水膜40の表面は平坦になっており、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるようにはなっていない。この場合、図5に示す例と同様に、自反射ビーズAでは焦点位置がビーズ底面から大きくずれて、特に自反射ビーズ30に対して側面からの入射光において、再帰反射性の低下が著しくなる。そして、自反射ビーズBでは上述のように、塗装物の存在が確認できる程度の視認性が得られるのである。
【0024】
このように、自反射ビーズA、Bのいずれを用いるか、透明樹脂層や水などの被覆層が全体として相対屈折率をどの程度変化させるか、また、どのような状態で自反射ビーズを被覆しているか、といった要素が再帰反射性に影響し得る。
上に述べた理由から、自反射ビーズAを用いる場合であっても、自反射ビーズの突出部分の表面が完全に露出している状態や、自反射ビーズの突出部分の表面がその球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状に透明樹脂で薄く覆われている状態のように「その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている状態」であれば、十分な再帰反射性を確保することができる。また、自反射ビーズBを用いる場合は、自反射ビーズの全体を透明樹脂層内に埋没させた状態としても十分な再帰反射性を確保することができる。
【0025】
自反射ビーズの突出部分の表面が、上記のように、透明樹脂で覆われている状態と露出している状態という違いが生じうるのは、例えば、後に詳述するように、塗膜の形成方法の違いによる。すなわち、自反射ビーズを透明樹脂液に分散させ、これを基材上に塗布する場合には、自反射ビーズの突出部分の表面が透明樹脂で薄く覆われている状態となり、透明樹脂液のみを塗布したのち、そこに自反射ビーズを散布する場合には、自反射ビーズの突出部分の表面が完全に露出している状態となる。
自反射ビーズAと自反射ビーズBは、上に述べた点を考慮しながら、使用目的に応じて、例えば、以下のように使い分けることができる。
(a)自反射ビーズAを単独で用いる場合は、非常に優れた再帰反射性が期待できる。ただし、自反射ビーズAは、被覆物質による再帰反射性の低下を招きやすいことに留意すべきである。また、実使用時においても、雨天時などに水が付着した状態や、長期間の使用でゴミ、ホコリ、排気ガスによる塵埃などが付着した状態となった場合には、再帰反射性が低下するので、表面に撥水性や防汚性を付与することが好ましい。これら撥水性や防汚性については、これらの性能を付与するための具体的物質の例示とともに、後述する。
(b)自反射ビーズBを単独で用いる場合は、非常に安定した再帰反射性が期待できる。具体的には、自反射ビーズBは、被覆物質による再帰反射性の低下が自反射ビーズAを使用した場合よりも少なく、また、雨天時など、水が付着した状態であっても、再帰反射性への影響は少ない。また、表面が平滑となって、汚れが付着し難い再帰反射性塗膜を得ることができる。上記(a)と同様、汚染物質の付着防止や除去のために、防汚性を付与するようにしても良い。ただし、被覆物質がない場合には自反射ビーズAよりも再帰反射性が低いことに留意する。したがって、高い再帰反射性は必要ないが、安定した再帰反射性を重視する場合には特に有用である。
(c)自反射ビーズAと自反射ビーズBを併用する場合は、自反射ビーズAに基づく優れた再帰反射性と、自反射ビーズBに基づく安定した再帰反射性の両方が期待できる。例えば、晴天時には、自反射ビーズAに基づく優れた再帰反射性が得られ、雨天時には、自反射ビーズBに基づく安定した再帰反射性が得られるので、全天候型の再帰反射性塗膜を形成することができる。上記(a)と同様、汚染物質の付着防止や除去のために、防汚性を付与するようにしても良い。ただし、自反射ビーズAは、被覆物質による再帰反射性の低下を招きやすいので、再帰反射性塗膜における透明樹脂の乾燥膜厚を、再帰反射性を失わない限度に調整する必要がある。
【0026】
本発明の塗装方法により形成される再帰反射性塗膜の代表的な実施形態を図8〜13に示し、上記(a)〜(c)と関連付けながら説明する。
なお、図8〜13に示す再帰反射性塗膜においては、各自反射ビーズが均等に配置された状態となっているが、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」である場合の実際の構造は、図1,2に示すように、単独のものもあれば複数の自反射ビーズが島状に配置されるものもあるのが通常である。図8〜13は、各態様の比較の簡便化のため、模式的に表したものであるに過ぎず、本発明にかかる塗装方法が、自反射ビーズが均等に配置された再帰反射性塗膜を形成する方法に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0027】
図8に示す形態では、基材10(基材10は予め別の塗料による塗装や防錆処理がなされていても良い)の表面上に、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂層で固定された状態であるが、前記透明樹脂の被覆量が少ないため、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出した状態となっており、自反射ビーズを固定するための透明樹脂層の一部が、自反射ビーズ30の各球状外周面に沿うように凹凸状となって僅かに覆うにとどまっている。図9に示す形態では、自反射ビーズ30が2層の透明樹脂層20A、20Bで被覆された状態である以外は、図8に示す形態と同様である。図10に示す形態では、図9に示す形態よりも、2層目の透明樹脂層20Bの膜厚を厚くしたものであるが、透明樹脂の被覆量が多いため、皮膜表面が前記自反射ビーズの各球状外周面に沿わずにやや平らに近い状態となっている。図11に示す形態では、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂層20で被覆された状態であるが、前記透明樹脂は、その被覆量が多く、皮膜表面が前記自反射ビーズの各球状外周面に沿わずに平らになっている。図12に示す形態は、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出し、かつ、露出した状態である。図13に示す形態は、図12に示す形態と同様に、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20Aから突出し、かつ、露出した状態となるように1層目の透明樹脂層20Aを形成するとともに、さらに、自反射ビーズ30の突出部分を覆うように、2層目の透明樹脂層Bが形成されている。図9や図10と図13の実施形態の違いは、自反射ビーズ30を固定するための一層目の透明樹脂層20Aが自反射ビーズ30を覆っているか否かの違いである。
【0028】
本発明者が見出したところによると、図8に示すように、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂で固定された状態において、前記透明樹脂の被覆量が少なく、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出した状態となっていることで、自反射ビーズ30を固定するための透明樹脂層20の一部が、自反射ビーズ30の各球状外周面に沿うように凹凸状となって僅かに覆うにとどまっている場合、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズA、屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBのいずれを用いても、十分な再帰反射性が得られるのに対して、図11に示すように、自反射ビーズ30の全体が透明樹脂層20の内部に深く埋没し、透明樹脂表面が平らな状態となっている場合、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAを用いた場合、再帰反射性の低下が大きい(屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBは、この場合でも再帰反射性の低下が少ない。)。このように、自反射ビーズ30を固定する透明樹脂の被覆状態によって、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAは、相対屈折率の変化が大きくなり、それに伴い再帰反射性が変化するのである。図9,10,13のように、透明樹脂を2層以上積層する場合においても、やはり、同様のことがいえる。
【0029】
したがって、図8,9,12,13に示す形態は、自反射ビーズAの単独使用、自反射ビーズBの単独使用、これらの併用のいずれを採用しても優れた再帰反射性を得ることができる。図10,11に示す形態は、自反射ビーズAに基づく再帰反射性が低下しやすいので、自反射ビーズAは使用せず、自反射ビーズB単独使用であることが好ましい。
透明樹脂層は、図8,11,12に示す形態のように単層であっても良いし、図9,10,13に示す形態のように複層であっても良い。複層である場合、上層による補強効果などが期待できるとともに、自反射ビーズの脱落防止も可能となる。
本発明で用いる自反射ビーズは、上述のように所定の屈折率を有するものであることが好ましいが、その材料は特に限定されない。例えば、一般的にはガラスビーズが良く知られているが、アクリル樹脂などの透明樹脂ビーズを用いても良い。ビーズの形状は、真球状であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
図8〜13に示すように、自反射ビーズ30は、その表面の一部に反射膜31が形成されていることが必須である。そのため、自反射ビーズ30自体が高輝度反射機能を有しているので、別途、反射層を設ける必要がない。
上述のとおり、自反射ビーズ30表面の反射膜31は、前記ビーズ表面の一部に形成される。上記ビーズ表面の全部に形成したのでは、反射膜31がビーズへの光の入射を妨げ、光がビーズに入射できない。他方、反射膜31を形成する領域が少なすぎると効率的に再帰反射させることができない。したがって、入射、反射の両方が効率的になされるように、反射膜の領域を設定することが好ましく、このような観点から、反射膜を、ビーズ表面の30〜70%の領域に形成することが好ましく、40〜60%の領域に形成することがより好ましく、図8に示すごとく、概ね50%の領域、すなわち、ビーズの半球部分に反射膜31が形成される自反射ビーズ30が特に好ましい。ビーズ表面の半球部分に反射膜31を形成しておけば、50%の確率で再帰反射が起こり、十分な視認性が得られる。反射膜の方向はランダムであることが必要である。様々な入射角度からの光に対しても常に一定以上の再帰反射性を発揮させるためである。
【0031】
ビーズの表面の一部に反射膜31を形成する自反射ビーズの製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよい。例えば、ポリエステルなどのフィルム上にポリエチレンなどによりビーズの半球部分を埋め込むように仮接着し、これを真空の釜に入れて、反射膜31の材料となる金属や金属酸化物を蒸着させたのち、前記フィルムを取り除くことにより、金属や金属酸化物を蒸着させた反射膜を有する自反射ビーズが得られる。
反射膜31の材料となる金属や金属酸化物としては、反射膜としての機能を発現するものであれば特に限定されないが、白色から銀白色の金属や金属酸化物、例えば、アルミニウム、ニッケル、銀、スズ、亜鉛などの金属やこれらの酸化物などが好ましく挙げられ、アルミニウムが特に好ましい。
【0032】
次に、図8〜13に示す如き塗膜を形成する方法について説明する。
図8,11の透明樹脂層20は、従来公知の方法により形成することができる。具体的には、自反射ビーズ30を透明樹脂液に分散させ、これを従来公知の塗装方法(例えばスプレー塗装など)により塗装すればよい。図8,11では、透明樹脂による固定状態が異なっているが、これは、例えば、塗装時の吐出量によって調整することができ、すなわち、吐出量が少なければ図8に示すように皮膜表面がビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となり、吐出量を多くしていくと、図11に示すように自反射ビーズの全体が完全に埋没して塗装面が平らになる。
【0033】
図9,10の透明樹脂層20A、20Bも、同様に、従来公知の方法により形成することができる。すなわち、自反射ビーズ30を透明樹脂液に分散させ、これを従来公知の塗装方法により塗装し、さらに、その塗装面上に、透明樹脂を造膜成分とするクリヤー塗料を従来公知の塗装方法により塗装すればよい。
図12の透明樹脂層20や図13の1層目の透明樹脂層20Aのように、自反射ビーズ30の頂部が透明樹脂層20から突出し、かつ、露出した状態とするためには、例えば、透明樹脂を主成分とする塗料を塗布し、透明樹脂層20表面が固化する前に、自反射ビーズを散布して付着させたのち、透明樹脂層20の固化を行う方法が挙げられる。図13の場合には、自反射ビーズ30の頂部が突出し、かつ、露出した状態の透明樹脂層20Aの上に、別の透明樹脂層20Bを積層し、自反射ビーズ30の表面を保護するようにしている。図13の2層目の透明樹脂層20Bは、1層目の透明樹脂層20Aの塗装面上に、透明樹脂を造膜成分とするクリヤー塗料を従来公知の塗装方法により塗装すればよい。
【0034】
このとき、自反射ビーズを散布して固着させるための透明樹脂を主成分とする塗料としては、造膜性を有するとともに、未固化状態で自反射ビーズに対する付着性を示すものが好ましい。
自反射ビーズ30を散布して固着させる方法としては、単に落下散布するだけでもよいし、静電粉体塗装法による噴射やエアー噴射による散布や攪拌羽根、揺動ノズルなどの機械的散布手段を採用することもできる。
自反射ビーズ30の散布は、透明樹脂層20の表面が固化する前に行う。透明樹脂層20の固化形態は様々であるが、塗工後の一定時間は固化が進行せず、流動性を有していたり、軟化状態であったり、変形容易な状態である。表面には、他の物体を付着させる付着性を有している状態である。少なくとも透明樹脂層20の表面に自反射ビーズ30が付着しても、直ぐには脱落せずに留まることができる状態のときに、自反射ビーズ30を散布する。
【0035】
透明樹脂層20が、経時的に固化して、自反射ビーズ30と一体接合されるものであれば、自反射ビーズ30を散布し、十分に固化するまで放置しておけばよい。
透明樹脂層20の固化を促進させるために、空気を送風したり、温風やヒータで加熱したり、架橋促進剤を加えたりすることができる。
透明樹脂層20を硬化させる場合、加熱硬化処理を行ったり、紫外線照射などによる硬化処理を行ったりすることもできる。
塗装基材の色調やツヤを確保することが求められる場合には、自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態とすることが好ましい。
【0036】
ここでいう「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」とは、自反射ビーズが1個ずつばらばらに隙間を開けて分散した状態、あるいは、自反射ビーズが1個から複数個集まった状態を1集団としてそれら集団がばらばらに隙間を空けて分散した状態である。隙間を空けて分散することにより塗装基材の色調、さらには、ツヤを維持することができ、例えば、昼間の景観に調和した色として指定された色調を維持することができる。
隙間を空けて自反射ビーズを分散させる割合は、自反射ビーズの面積率(以下、単に「ビーズ面積率」という)で85%以下とするのが良く、好ましくはビーズ面積率が70%以下、より好ましくはビーズ面積率が50%以下となるようにし、特に好ましくはビーズ面積率が40%以下が良い。ビーズ面積率が85%を超えてしまうと、自反射ビーズと自反射ビーズの隙間がほとんど無くなり塗装基材の色調やツヤを維持することができなくなるおそれがあり、特にダークブラウン色の場合、色調が明るくなってしまう可能性があるので、この点を重視する場合には、85%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下が良いのである。また、ビーズ面積率が5%よりも低い場合、反射はするが、濃色の場合には自反射ビーズの隙間の塗装部分における反射輝度が著しく劣るため、夜間の視認性を確保するには、通常、5%以上必要であり、好ましくは10%以上である。
【0037】
ビーズ面積率は、塗料の濃度調整、例えば、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を調整することで調整することも出来るが、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を一定にした塗料を吹き付けることで調整することも出来る。
すなわち、ビーズ面積率の調整のため一々自反射ビーズを含む透明樹脂塗料を調合することは管理面、作業面で多大な時間と労力を要し、実用的ではない場合があるため、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を一定にした塗料で、塗装回数、吐出量、基材とガンとの距離、ガンの移動速度などの塗装条件を変更することでビーズ面積率の調整を図ることが望ましい。
【0038】
例えば、透明樹脂としてアクリルウレタン樹脂(固形分47%)を使用し、屈折率1.93の自反射ビーズ(粒径40〜80μm)を使用してビーズ面積率を85%以下とする場合に、このような塗膜が塗装回数を5回とすることで得られるとすれば、ビーズ面積率を70%以下とする場合、塗装回数を4回とし、ビーズ面積率を50%以下とする場合、塗装回数を3回とし、ビーズ面積率を40%以下とする場合には、塗装回数を2回とする、というような調整方法を採用することができる。
なお、本発明において、上記「ビーズ面積率」は、後述の実施例に記載の方法で算出される値をいうこととする。
【0039】
ビーズ面積率は、被塗装面全体において一様である必要はなく、求める反射輝度や色調に応じて、被塗装物表面の一部において、ビーズ面積率を異なったものとすることもできる。
すなわち、塗装面積が大きく、連続して設置される部材に適用するような場合、反射輝度自体が小さくても視認性が得られ、一方、昼間の景観に影響するため色調管理が重要となってくる場合がある。従って、好ましくはビーズ面積率を10%〜40%とするのが良い。
一方、塗装面積が小さく、不連続な部材に適用するような場合には、反射輝度が小さい場合には視認性が劣る反面、昼間の景観への影響は小さいため、ビーズ面積率を高めの60%〜85%としてもよく、その方がむしろ好ましい。
【0040】
次に、塗料組成について、以下に詳しく説明する。
透明樹脂としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の何れも使用できる。湿気硬化型や紫外線硬化型の樹脂も使用できる。水系樹脂、有機溶剤系樹脂、それらの混合溶媒系樹脂も何れもが使用できる。一般的な接着性樹脂材料が使用できる。また、市販の接着用樹脂がそのまま使用できる場合もある。具体的には、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、シリコン系、アルキド系、フッ素系、メラミン系、ポリエステル系などの樹脂やこれらの樹脂の共重合体が挙げられる。
塗料の組成としての透明樹脂としては、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好ましく、特にアクリル系樹脂、例えば、アクリルウレタン樹脂、アクリルエポキシ樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルメラミン樹脂などが好ましい。これらは、架橋剤としてイソシアネートを用いることにより耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐水性、耐塩水性などの耐久性にも優れるため、屋外用途として優れるからである。
【0041】
塗料成分として、自反射ビーズの固着力を高めるシランカップリング剤や、ひび割れ防止剤、粘度調整剤、硬化剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、溶剤、消泡剤、架橋剤、粘性付与剤、安定剤など、一般的な成分を配合してもよい。
上記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、オキサゾール系硬化剤などが挙げられる。
上記溶剤としては、例えば、水、トルエン、キシレン、メチルアルコールなどのアルコール類、メチルエチルケトン類などのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミド、ベンゼンなどが挙げられる。
【0042】
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系の消泡剤などが挙げられる。
上記架橋剤としては、例えば、透明樹脂によっても異なるが、例えば、イソシアネート系、オキサゾリン系の化合物が挙げられる。
上記粘性付与剤としては、例えば、酸化ケイ素系化合物やエチレンオキサイド系の界面活性剤などが挙げられる。
上記安定剤としては、例えば、「アンチゲル」(商品名、BERND SCHWEGMANN社製)などのポリメリックアルコキシレートなどが挙げられる。
上記において、自反射ビーズの配合割合は、樹脂固形分100重量%に対して、100〜600重量%とすることが好ましい。
【0043】
塗料の塗布方法としては、エアスプレー塗装法、エアー霧化静電塗装法、エアレス静電塗装法、刷毛やローラーによる直接塗装法、スクリーン印刷法など、従来公知の方法が採用できる。
透明樹脂層20の厚みとしては、自反射ビーズAを用いる場合(単独使用の場合だけでなく、自反射ビーズBと併用する場合も含む)には、再帰反射性を失わない限度であることが必要である。自反射ビーズBの単独使用である場合には、透明樹脂層20の厚みは特に制限されない。
具体的には、透明樹脂層20の乾燥膜厚が、前記自反射ビーズの粒径の2倍以下であることが好ましい。ここにいう乾燥膜厚とは、後述の実施例に記載の方法で測定される値、すなわち、Kett社製の電磁膜厚計「LZ−300C(同社の商品名)」を用いて測定される値とする。
【0044】
自反射ビーズ30の粒径としては、10〜300μmとすることが好ましい。透明樹脂層の厚みにもよるが、自反射ビーズ30の粒径が大きすぎると塗膜表面が過度にざらついてしまうおそれがあり、自反射ビーズ30の粒径が小さすぎると取り扱いが困難となる。
自反射ビーズ30として、粒径の異なる2種以上の自反射ビーズを用いることもできる。例えば、自反射ビーズA,Bを併用する場合において、自反射ビーズAの粒径を大きくし、自反射ビーズBの粒径を小さくすることができる。このようにすれば、自反射ビーズAは透明樹脂層から突出した状態、そして、自反射ビーズBは透明樹脂層などに被覆された状態となり、それぞれの自反射ビーズが有する特質が十分に発揮される。
【0045】
本発明にかかる塗装方法により、前記自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を塗装した後、該塗膜表面に、撥水性付与または防汚性付与をするようにしてもよい。
前記撥水性は、例えば、フッ素、シリコンやこれらの化合物などの撥水性物質の1種または2種以上を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。
前記防汚性は、表面に親水性を付与したり、汚染物質の分解除去作用を付与したりすることによって発現させることができる。
前記親水性は、例えば、珪素やその化合物である酸化ケイ素などの親水性物質の1種または2種以上を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。その原理を、酸化ケイ素を例に説明すれば、この物質は、ナノサイズの粒径で、基材表面に単分子膜状に結晶が連なった状態で化学結合しており、この皮膜は、非常に水を取り込み易く、表面に汚れが付着し難いとともに、付着しても、その汚れの下に水分子を取り込み、結果として、放水などによる水洗や雨などの自然現象によって汚れを浮かして容易に洗い落とすことができるのである。
【0046】
また、汚染物質の分解除去作用は、酸化チタンなどの光触媒物質を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。その原理を、酸化チタンを例に説明すれば、この物質は、ナノサイズの粒径で、基材表面に単分子膜状に結晶が連なった状態で化学結合しており、この酸化チタン分子が、太陽などから発せられる紫外線によって励起されると、活性酸素が放出され、この活性酸素により基材表面に付着した汚染物質が分解されて低分子化されるのであるが、この低分子化された汚染物質は、基材表面から非常に脱落し易い状態となっているので、放水などによる水洗や雨などの自然現象によって水が表面について濡れが生じると浮き、結果、容易に洗い落とすことができるため、長期にわたって防汚性が発揮されるのである。
【0047】
酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化鉄などの光触媒物質によれば、汚染物質の分解除去作用のほかに、親水性も付与しうることが報告されている。このような光触媒による親水性付与技術としては、例えば、特許第2756474号公報や特許第2865065号公報に記載の技術がある。したがって、これらの光触媒物質を用いれば、汚染物質の分解除去作用と親水性の双方に基づく防汚性の発現が期待される。
上記において、撥水性または防汚性を付与するために前記の如き塗料を塗り重ねる場合、その乾燥膜厚は、5μm以下となるように塗り重ねることが好ましい。塗膜の乾燥膜厚が5μm以下であれば、この塗膜中での屈折は殆ど無視することができ、他方、5μmを超えると、この塗膜中での屈折の影響が大きくなり、再帰反射性を低下させるおそれがある。
【0048】
上述したように、自反射ビーズAの単独使用の場合には、再帰反射性塗膜の表面に水膜ができると、水膜での光の屈折が影響して、再帰反射性が低下するおそれがあるが、上述の撥水性付与をすることでこれを回避することができる。防汚性を付与した場合には、上述の親水性や汚染物質の分解除去作用により、汚染物質の付着による再帰反射性の低下を回避できる。
本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料によれば、所望の被塗装面に優れた再帰反射性を付与することができる。例えば、ガードレール、ガードパイプ、フェンスなどの防護柵や、ボルト、ナット、キャップ、ブラケット、支柱、ベースプレート、ワイヤーケーブル、ビーム、パイプ、スクリーンパネルなどの防護柵の構成部材、道路標識、自動車の外装(バンパーやドア)、列車の外装、航空機の胴体や翼、ヘリのプロペラ、風車の羽、船の外装など、あらゆる用途に適用することができ、特に安全性などを配慮して視認性の求められる用途に好適に用いられる。これらの材質は特に限定されず、プラスチックや金属など、いずれであっても良い。これらの表面に再帰反射性塗膜を形成することで、夜間などの暗闇においても優れた視認性を発揮し、例えば、自動車のヘッドライトで照らした場合には、運転者のほうに確実に光を反射させることができる。このような被塗装物には、あらかじめ、防錆処理を施しておいたり、環境を配慮した景観色調の塗装を施しておいたりしてよい。そのような環境を配慮した塗装色の例としては、明度4未満の塗装色、例えば、ダークブラウンやダークグレーなどが好ましく挙げられる。
【0049】
また、本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料は、従来技術のように、金属粉顔料を含む反射層が必要なく、したがって、自反射ビーズの反射膜以外は透明とすることができ、また、自反射ビーズの再帰反射性を非常に効率的に発揮させるものであるため、前記再帰反射性塗膜における自反射ビーズの含有量を必要最小限に抑えることができるので、ビーズ面積率を抑えて、被塗装物が持つ本来の色調やツヤを生かすことも可能である。具体的には、本発明では、再帰反射性塗膜において、自反射ビーズが、互いに間隔を空けた状態で存在することで、被塗装物が持つ本来の色調やツヤを生かすこともできる。ただし、例えば、部分的に再帰反射性を高めて、視認性を高める場合など、本来の色調やツヤの現出よりも優れた再帰反射性の発現が重視される場合には、被塗装面の一部の領域において、自反射ビーズが、互いに密接しているようにしても良い。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
本発明にかかる塗装方法を用いて、図8に示すごとき再帰反射性塗膜を形成した。
すなわち、板厚2.3mm×幅70mm×150mmのZ27亜鉛めっき鋼板に、リン酸亜鉛処理により化成皮膜を形成させ、続けて、粉体塗装機を用いてダークブラウン粉体塗料を塗装し、175℃の温度で20分間焼付けすることによってダークブラウン塗装材を作成した。このダークブラウン塗装材を基材として、以下のようにして、図8に示すごとく、再帰反射性塗膜を形成し、再帰反射性を付与した。
【0051】
架橋剤を内包しウレタン結合を生成させる反応基を有するアクリル樹脂(重量比では固形分:溶剤(芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤の混合物)=50:50)42重量部、自反射ビーズA1(後述の表2参照)としての屈折率1.93の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径30〜50μm)58重量部、を混合し、ミキサーで均一に分散させることにより、塗料組成物を得た。こののち、上記混合溶剤により粘度調整を行い、粘度を150〜200cps(B型粘度計、ローターNo.2、60rpm、15℃での測定)とした。これを、上記塗装材にスプレー塗装により塗布し、160℃の温度で20分間の焼付けを行い、再帰反射性が付与されてなる塗装材を得た。スプレー塗装は、スプレーのノズルと基材の距離を30cmとし、ノズル径1.5mm、エアー圧2Kg/cm2、ノズルスピード50cm/2secで2往復の条件にて行った。得られた塗装材上の再帰反射性塗膜の乾燥膜厚は約50μmであり、ビーズ面積率は33.8%であった。透明樹脂により固定された状態は、前記自反射ビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となっていた。
【0052】
〔実施例2〜15、比較例1〜3〕
塗料組成や塗装条件(スプレー塗装の往復回数)、塗膜構造を後述の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、再帰反射性塗膜を形成してなる塗装材を得た。
ここで、実施例3,5において、図9に示すごとき積層塗膜を形成する場合には、透明樹脂(架橋剤を内包しウレタン結合を生成させる反応基を有するアクリル樹脂)、重量比では固形分:溶剤(芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤の混合物)=50:50)を粘度調整を行い粘度を200cps(B型粘度計、ローターNo.2、60rpm、15℃での測定)としてなる塗料組成物を、実施例1記載の方法により得られた自反射ビーズを含有する塗膜の上に、スプレー塗装により塗布し、得られた2層塗膜に対し、160℃の温度で20分間の焼付けを行うようにした。スプレー塗装は、スプレーのノズルと基材の距離を30cmとし、ノズル径1.5mm、エアー圧2Kg/cm2、ノズルスピード50cm/2secで4往復の条件にて行った。
【0053】
また、表1における自反射ビーズA2としては、屈折率1.93の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径40〜80μm)を用い、表1における自反射ビーズBとしては、屈折率2.2の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径60〜80μm)を用い、表1における自反射ビーズCとしては、屈折率1.93のガラスビーズ(アルミニウム蒸着がなく、自反射性の付与されていないもの、ユニチカ社製、直径40〜80μm)を用いた(後述の表2参照)。
比較例1は、再帰反射性塗膜の形成されていない、ダークブラウン塗装材そのものである。
【0054】
比較例3は、透明樹脂に反射剤としてマイカを外割で20重量部添加したものである。
透明樹脂により固定された状態は、全ての実施例、比較例で自反射ビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となっていた。
<性能評価>
上記実施例1〜15、比較例1〜3について、下記の評価方法により、性能を評価した。結果を表1に、表1に記載のビーズの詳細を表2に示す。表1では、これらの実施例、比較例について、ビーズ面積率を併記してある。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(再帰反射性の評価)
再帰反射性は、JIS−Z−9117に準じた以下の方法で再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)を測定して評価した。ただし、光源としては250Wハロゲン電球を用い、被測定物からの距離4mの位置に置いて使用した。また、受光器としてはミノルタ社製輝度計「CS−100(同社の商品名)」を用い、被測定物からの距離3.5mの位置において使用した。光の入射角度を30°、反射光の観測角度を2°とした。この時の被測定物における照度は800Luxであった。
得られた再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2、用語の定義については、「JIS−Z−8713」を参照)を以下の基準に基づき、1〜5点で評価した(点が高いほど再帰反射性に優れる)。
【0058】
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.20以上 :5
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.14以上0.20未満:4
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.07以上0.14未満:3
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.03以上0.07未満:2
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.03未満 :1
再帰反射輝度係数が大きいほど、暗闇における視認性が高いものであることを意味する。再帰反射輝度係数は、白色塗装材では普通0.17(cd/Lux・m2)程度(実測値)であり、ダークブラウン塗装材では0.009(cd/Lux・m2)程度である。したがって、実用に供した場合において、再帰反射輝度係数が0.17cd/Lux・m2以上であれば白色塗装材と同等以上の視認性があると言え、本来視認性に乏しいダークブラウン塗装材に対して白色塗装材並みの視認性を付与できていると言えるが、再帰反射輝度係数が0.17cd/Lux・m2未満であっても、再帰反射輝度係数が0.07cd/Lux・m2以上であれば、十分な視認性があると言える。
【0059】
評価の点が高いほど、より視認性が高いと言える。
(色調の評価)
明度はミノルタ社製色彩計「CR−300(同社の商品名)」を用いて景観ガイドラインに示されたマンセル値による測定を行った。
すなわち、基材として用いたダークブラウン塗装材表面の明度を基準として、その上に再帰反射性塗膜を形成した後の明度差によって1〜5点で評価した。
評価 外観色 指定色との明度差
5 指定色と同じ 0.5未満
4 指定色に近い 0.5以上1.0未満
3 やや指定色 1.0以上1.5未満
2 指定色から外れる 1.5以上2.0未満
1 指定色とは言えない 2.0以上
明度差が小さいほど塗装材表面の色調が生かされていることを意味する。一般的な基準では、明度差が1.5未満であれば類似系、明度差が2.0以上であれば対照系と評価する。類似系と評価される明度差1.5未満では、観測者において、塗装材表面に施された本来の色調との差が殆んど感じられず、対照系と評価される明度差2.0以上では、観測者において、塗装材表面に施された本来の色調との差が明確に感じられるものである(やや白っぽく感じられる)。その中間では、僅かに白っぽく感じられるが、塗装材表面に施された本来の色調と比べて、殆んど違和感が感じられないものである。
【0060】
色相、彩度については、明度ほどに色調に影響を与えるものではないが、それぞれ、目視により判断して、再帰反射性塗膜の形成されていない比較例1のダークブラウン塗装材と対比して、差異が感じられないものを○、差異が感じられるものを×と評価した。
(ツヤの評価)
ツヤは、目視判断により、再帰反射性塗膜の形成されていない比較例1のダークブラウン塗装材と対比して、以下のように評価した。
◎:基材本来のツヤが生きている。
○:基材本来のツヤがほとんど生きている。
【0061】
△:基材本来のツヤがかなりなくなっている。
×:基材本来のツヤがなくなっている。
(塗膜性能の評価)
塗膜性能として、(1)碁盤目密着性、(2)沸騰水密着性、(3)耐水密着性、(4)耐候性、(5)耐衝撃性を評価した。
碁盤目密着性、沸騰水密着性、耐水密着性はいずれも、基材であるダークブラウン塗装材と再帰反射塗膜の界面密着性を判定するものである。
(1)碁盤目密着性は、「JIS−K−5600−5−6」に準拠して評価した。
【0062】
具体的には、カッターナイフで塗膜上に2mmの碁盤目100個を作り、その上にセロハン粘着テープを完全に付着させ、テープの一方の端を持ち上げて上方に剥がす。分類表に従って分類0〜2を合格(○)とし、分類3〜5を不合格(×)とした。
(2)沸騰水密着性は、「JIS−K−5400(1990)−8−20」に準拠し、沸騰水に1時間浸漬、2時間放置後、上記の碁盤目密着性試験を行った。
(3)耐水密着性は、「JIS−K−5600−6−1」に準拠して評価した。
具体的には、試料をイオン交換水に500時間浸漬(浸漬温度23℃)、2時間放置後、上記の碁盤目密着性試験を行った。
(4)耐候性は、「JIS−D−0205−5−4」に準拠したサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機を用い、300時間試験後の外観および反射性能の劣化の有無を評価した。
(5)耐衝撃性試験は、「JIS−K−5600−5−36」に準拠して評価した。重りは500g、高さ50cmの条件にて試験し、塗膜の剥離や割れの有無、ならびに、ビーズの脱落の有無で判定した。
【0063】
(ビーズ面積率の測定)
再帰反射性塗膜を形成した試料の表面をキーエンス社製マイクロスコープを用いレンズ200で観察し、写真撮影した(操作1)。写真から自反射ビーズの輪郭を取りだし(操作2、3)、画像解析により自反射ビーズ部を塗りつぶした後に2値化処理(操作4)し、黒色部の面積率を求めてこれをビーズ面積率とした。ビーズ面積率は同一試料で3ヶ所測定し、その平均値とした。
測定方法の理解を助けるため、図1に示した写真を操作1に供するとともに、操作2、3での輪郭の取り出し、操作4での塗りつぶし、の各例を、それぞれ、図14〜16に示した。
【0064】
(乾燥膜厚の測定)
Kett社製の電磁膜厚計「LZ−300C(同社の商品名)」を用いて測定した値を乾燥膜厚とした。
<考察>
実施例4、5以外の実施例では屈折率1.93の自反射ビーズAを用いているため、水の付着により、塗膜表面が被覆されると、再帰反射性が低下すると考えられるが、実施例4、5のように屈折率2.2の自反射ビーズを用いれば、水の付着による再帰反射性への影響が少なく、安定した再帰反射性が得られる。そして、屈折率1.93の自反射ビーズAを用いても、撥水性を付与することで水の付着を防ぎ、再帰反射性の低下を回避できる。また、長期間の使用で、ゴミ、ホコリ、排気ガスによる塵埃などが付着した場合にも再帰反射性が低下することが懸念されるが、防汚性を付与することで、このような再帰反射性の低下を回避できる。
【0065】
実施例6,7は、透明樹脂の種類が他の実施例と異なるものであり、耐水密着性はやや劣るものの、他の実施例と同様に、再帰反射性に不足はない。
特に、実施例1〜14においては、上記のように十分な再帰反射性を有していながら、ビーズ面積率を抑えることで、塗装材本来の色調やツヤを生かすこともできている。したがって、塗装材が本来有する色調やツヤを生かす必要がある場合には、ビーズ面積率を低く設定しておくことが好ましい。
比較例1は、単に、基材にダークブラウンの塗装を施したものであって、再帰反射性を与えるための何らの工夫も施していないため、当然、十分な反射輝度が得られていない。
【0066】
比較例2は、表面に反射膜を有しないガラスビーズを用いているため、十分な反射輝度が得られていない。
比較例3は、比較例2において、透明樹脂にマイカを添加したものであるが、反射輝度が僅かに向上するものの不十分であり、しかも、マイカによって、基材本来の色調が隠蔽されている。
ここで、上記実施例で作製した各塗装材のそれぞれについて、ビーズ面積率を横軸、再帰反射輝度係数を縦軸にとり、各塗装材における測定結果をプロットしたグラフを図17に示し、また、ビーズ面積率を横軸、明度を縦軸にとり、各塗装材における測定結果をプロットしたグラフを図18に示す。
【0067】
図17の結果からは、ビーズ面積率(x)のみを変化させた場合の再帰反射輝度係数(y)の変化は、ほぼ直線状の関係(図17に示す結果では、y=0.0077x+0.0262)となる実験式を得ることができた。
また、同様に、図18の結果からは、ビーズ面積率(x)のみを変化させた場合の明度(y)の変化も、ほぼ直線状の関係(図18に示す結果では、y=0.0281x+1.7591)となる実験式を得ることができた。
上の結果から、ビーズ面積率が再帰反射輝度係数および明度と相関する事実、ならびに、本発明のように再帰反射性に優れた自反射ビーズを用いれば、ビーズ面積率を少なくしても、十分な反射輝度が見込めるという事実が認められる。
【0068】
特に、明度については、図18におけるビーズ面積率(x)と明度(y)の関係を示す「y=0.0281x+1.7591」なる実験式を利用して、ビーズ面積率の変化と上述の明度の評価基準との対応を考察すると、ビーズ面積率が、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましいことが分かった。具体的には、50%以下であれば3点以上、そして、40%以下であれば4点以上となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、自反射ビーズがその再帰反射性を十分に発揮して夜間走行中の車両などからの視認性に優れる、塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料を、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、提供するものであり、再帰反射性が求められるあらゆる用途、例えば、防護柵やその構成部品、道路標識、自動車の外装(バンパーやドア)、列車の外装、航空機の胴体や翼、ヘリのプロペラ、風車の羽、船の外装など、あらゆる用途に好適に利用することができる。その高い反射効率を利用してビーズ面積率を少なくするようにすれば、被塗装物が有する本来の色調やツヤを過度に妨げることなく、十分な再帰反射性によって暗闇における視認性にも優れるので、例えば、近年求められる景観色(ダークブラウンなど)の塗装が施された被塗装物に再帰反射性を付与するための塗装方法および再帰反射性塗料としても、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 基材
20 透明樹脂層
30 自反射ビーズ
31 反射膜
40 水膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間における視認性向上などの目的で利用される再帰反射性を付与するための塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間などにおける標識や防護柵などの視認性を高めるといった目的で、再帰反射性を利用する技術はすでに知られている。ここで、再帰反射性とは、外部から入射した光を入射方向と同じ方向に反射させる特性のことであり、例えば、自動車のヘッドライトを効率良く運転者のほうに反射させて注意を喚起することができる。例えば、金属粉顔料を含有する透明樹脂からなる反射層と、該反射層上に形成された定着層と、一部が反射層および定着層内に埋没・固着しかつ一部が定着層外に露出するように形成されたガラスビーズ層からなる再帰反射塗膜を表面に形成した道路標識柱が知られている(特許文献1参照)。
また、横桟の外側面に光反射剤を含む樹脂塗膜が形成され、その表面に再帰反射性を有するガラスビーズが付着された防護柵も知られている(特許文献2参照)。
【0003】
再帰反射性を利用する特許文献1の技術は、金属粉顔料を含有する透明樹脂からなる反射層が必須の技術であり、反射層が必須である分だけ、塗膜形成工程が煩雑となるという問題があった。特許文献2の技術も、光反射剤を含む樹脂塗膜が必須であるため、上記特許文献1の技術と同様の問題があった。
これらに対して、ガラスまたは樹脂からなるビーズの少なくとも一部の表面に光反射性を有する反射膜が設けられた再帰反射ビーズがその反射膜を底面にして塗膜内に設けられている再帰反射性塗膜も知られている(特許文献3参照)。
特許文献3に記載のこの従来技術においては、特許文献1,2の従来技術のように、光反射剤を含む樹脂塗膜を形成することがないため、この点での工程の煩雑さはない。しかし、再帰反射ビーズが反射膜を底面にして塗膜内に設けられていることを必須条件としており、そのため、第1に、基材表面の真正面から照射される光は十分に反射できるが、道路上を走行する自動車からの光など、基材表面に対して斜めから照射される光は、ビーズの反射膜で反射されることが殆どないという問題があり、第2に、ビーズの反射膜を塗膜の底面に向けるための面倒な塗装工程が必要であると言う問題があった。
【0004】
上記第1の問題点について、さらに詳しく述べると、再帰反射材が、標識や反射体そのものである場合には、基材表面が照射される光の方向に対して垂直となるよう取り付けることができるため、ビーズの底面側に反射膜を設けることで反射輝度をより高くすることができる。これに対し、例えば、防護柵の場合には、通常、走行中の車のヘッドライトは防護柵の基材表面に斜め方向から当たり、自動車との距離によって入射角度は0〜90°の範囲で変化し、むしろ、直線道路では20°以上となってしまうことが多い。このように、入射角度が0〜90°の範囲で変化するような場合には、反射膜は、ビーズの底面側の位置にあるよりは、むしろ、ビーズの側面側の位置にあるなどの方が好ましいのであるが、特許文献3の技術による場合は、反射膜の位置がビーズの底面側にあるため、これを防護柵やその構成部材に適用した場合には、夜間の視認性能はむしろ劣るものとなると言うことである。
【0005】
上記第2の問題点について、さらに詳しく述べると、特許文献3には、再帰反射ビーズがその反射膜を基材側に向けて塗膜中に位置するようにするための手法として、ビーズの反射膜部分には下塗り塗膜と親和性の高い物質を付着させておくとともに、反射膜部分でないビーズ表面には、再帰反射性塗膜の表面層を構成する透光性塗料と親和性の高い物質を付着させておくという手法か、あるいは、ビーズの反射膜を磁性金属で形成し、塗装時および/または塗装後に基材側から磁石を接近させるという手法が記載されている。しかし、前者の手法では、ビーズの反射膜がある部分とない部分とにそれぞれ別の親和性物質を塗り分ける必要があるため、これらの物質の付着に要する時間やコストが大きく、しかも、これらの物質が再帰反射性に与える影響が考慮されておらず、さらに、塗膜が下塗り塗膜と透光性塗膜の2層塗膜であることが必須であるとともに、これらの塗料構成も著しく制約されると言う不利益がある。また、後者の方法では、ビーズの反射膜が磁性金属に限定されるが、磁性金属として一般に知られているもの(鉄、コバルト、酸化クロムなど)は再帰反射性に乏しく、また、基材側から磁石を接近させることによりビーズの配向を調整する必要があるために対象基材(基材自体の磁性や厚みなど)が限定されるとともに、磁石を接近させることによって粘稠な樹脂中にある再帰反射ビーズが磁性材を底面に配向させるような工程を必須とする点で、多大な時間やコストが必要となる。そして、いずれの手法にしても、塗膜が流動性を有する間に適用する必要があり、工程が複雑化する問題があると言うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−160522号公報
【特許文献2】特開2007−92393号公報
【特許文献3】特開2005−288206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、自反射ビーズがその再帰反射性を十分に発揮して夜間走行中の車両などからの視認性に優れる、塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料を、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、提供することの工夫にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
その過程において、本発明者は、透明樹脂により基材表面に固定された状態での各自反射ビーズは、その表面の反射膜の位置決めが無作為となっていることが重要であることを見出した。すなわち、上述のとおり、前記特許文献3の技術のごとく、反射膜の位置決めが自反射ビーズの底面のみに限定されていると、入射角度が20°以下という非常に限られた範囲でしか再帰反射性が期待できないのに対し、反射膜の位置決めが無作為となっていると、いかなる入射角度であっても、いずれかの自反射ビーズで再帰反射が起こるため、結果として、例えば、防護柵の実際の使用場面で起こるように入射角度が0〜90°の範囲で変化しても、常に一定以上の再帰反射性が発揮されることを見出したのである。
【0009】
本発明はこれらの知見とその確認を経て完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる塗装方法は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、ことを特徴とする。
本発明にかかる再帰反射性塗料は、その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、上記塗装方法に適用される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、自反射ビーズとは別に反射層を設ける必要がなく、ビーズにおける反射膜の位置を基材側に固定するといった煩雑な作業も必要ない。そして、このように煩雑な工程を避けるものでありながら、様々な入射角度からの入光に対しても十分な再帰反射性を発揮させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態において、その表面を撮影した写真である。
【図2】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図3】再帰反射の原理を説明するための自反射ビーズの模式的断面図である。
【図4】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図5】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図6】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図7】再帰反射の原理を説明するための塗膜表面の模式的断面図である。
【図8】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図9】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図10】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図11】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図12】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図13】本発明にかかる塗装方法に基づく塗膜の一実施形態を表す断面図である。
【図14】ビーズ面積率を測定する操作2の例を示す図である。
【図15】ビーズ面積率を測定する操作3の例を示す図である。
【図16】ビーズ面積率を測定する操作4の例を示す図である。
【図17】本発明にかかる実施例におけるビーズ面積率と再帰反射輝度係数の関係を示すグラフである。
【図18】本発明にかかる実施例におけるビーズ面積率と明度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料について、適宜、図面を用いて具体的に説明する。
図1の例1と例2は、基材表面上に再帰反射性塗膜を形成し、その表面を、キーエンス社製マイクロスコープを用いてレンズ200(同社の商品名)で観察し、写真撮影したものであり、それぞれ、本発明にかかる塗装方法によって形成される再帰反射性塗膜の構造の一例を表すものである。
【0013】
図1において、白い球状のものが自反射ビーズであり、それらを被覆しているものが透明樹脂である。黒色の部分は、基材表面が露出した部分であるか、あるいは、基材表面が透明樹脂によって非常に薄く被覆されている部分である。
図1に示す例では、基材上において、自反射ビーズが透明樹脂により被覆された状態で、島状に存在していることが分かる。すなわち、一部のビーズは、接近し、時に、隙間のない状態になって島状を呈していることもあるが、多くのビーズ間で、そして、少なくとも島と島の間において、隙間が出来ている。本発明の塗装方法は、再帰反射性に優れる自反射ビーズを用いているので、このような隙間を有する状態となるように塗装しても十分な再帰反射性を発揮させることができるのであり、以下では、このような状態を指して、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態であること」と表現している。
【0014】
ここで、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」とした場合の利点について説明しておく。
上述の特許文献1,2の技術では、反射層が必須に用いられており、この反射層は、基材表面を覆い、基材表面の色調やツヤ(JIS K 5500では「ツヤ」と書く。「艶」を意味する。)を隠蔽するので、基材が本来有する色調やツヤが再帰反射性塗膜表面にまで現れてこず、そのために、基材本来の色調やツヤを生かすことが困難であった。また、反射層が必須である分だけ膜厚も厚くなり、さらに、ガラスビーズの底面が反射層にまで達していなければ、所望の再帰反射性は得られないので、結果として、ガラスビーズの粒径も大きくする必要があり、この点においても、やはり、本来有する色調やツヤの現出を妨げるものであった。
【0015】
これに対し、上述の特許文献3の従来技術は、特許文献1,2の従来技術のように、光反射剤を含む樹脂塗膜を形成することがないため、基材表面色が見えることが期待される。ところが、本発明者の検討したところによると、特許文献3の従来技術においても、基材表面色を十分に生かすことができないことが分かった。すなわち、特許文献3の技術では、ガラスビーズに反射膜を設けた自反射ビーズを用いて、反射膜をビーズ底面側に配置されるようにすることで反射輝度を向上させることのみにとらわれていて、基材表面の本来の色調やツヤを十分に現出させるための何らの工夫もなされていないこと、したがって、環境に配慮した色調やツヤを有する基材に適用した場合、やはり、自反射ビーズによって基材本来の色調やツヤが隠蔽されてしまうことが分かった。ビーズの反射膜を底面に配向させていることも、基材表面の本来の色調やツヤの隠蔽の原因となっていることが分かった。
【0016】
上の検討も含め、本発明者の得た知見によれば、一般には、自反射ビーズの使用量が多いほど再帰反射性が向上するが、それに反して基材本来の色調やツヤが失われてしまうことが分かった。特に、景観に配慮した濃色の場合、淡色に比べ、ビーズに入射した光が反射されるよりむしろ吸収されてしまうことから、ビーズの配合量を多くする必要があると考えられた。しかしながら一方で、ビーズ配合量を多くすると白っぽいツヤのない色調になり、基材本来の色調とツヤを維持することができなくなることも分かった。
そこで、このように再帰反射性と基材本来の色調とツヤの維持という一見して不可能と思われる性能の両立を図るためにさらなる鋭意検討を重ねた結果、従来は、再帰反射性を重視するあまり、必要以上に再帰反射性のビーズを過剰に配合し、ビーズ同士が密着する構造であった結果、基材本来の色調やツヤが、ビーズによって隠蔽されてしまうことが分かった。これに対して、本発明者は、ビーズ表面の一部に反射膜が形成されているビーズである自反射ビーズを用いるようにすれば、ビーズ配合量が十分に多くなければ再帰反射性が得られないという従来の技術常識に反して、意外にも、従来よりも少ないビーズ量、基材に占める少ないビーズ面積率でも効率的に十分な再帰反射性が得られることが分かり(これに対して、ビーズ表面の一部に反射膜が形成されていない場合には、十分な再帰反射性が得られない。このことは、後述の表1の比較例2,3でも明確に示されている。)、そのため、ビーズとビーズの間に基材の塗装面が十分に覗く隙間を有する皮膜構造とすることが可能となり、この構造とすることによって、基材が本来有する色調とツヤ、例えば、基材表面に景観を配慮した濃色の塗装が施されている場合において、この景観色調とツヤが再帰反射性塗膜によって損なわれることを抑止できることも分かった。
【0017】
このように、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」であると、十分な再帰反射性を付与しつつ、基材本来の色調やツヤを生かすことができるという利点があるのである。
なお、本発明は、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、様々な入射角度からの入光に対しても十分な再帰反射性を付与することを目的とするものであるので、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」であることは必須の条件ではない。このような工夫は、環境を配慮して濃色の塗装が施された基材など、基材本来の色調やツヤを生かすことが好ましい場合などに好ましく採用されるものである。
【0018】
図1に写真で示す再帰反射性塗膜の構造の一部断面図を図2に示す。
図2に示す例では、3つの自反射ビーズ30および透明樹脂層20からなる集団と、2つの自反射ビーズ30および透明樹脂層20からなる集団が互いに隙間を空けて存在している。図2は一部断面図であるので、図には表れていないが、例えば、奥行き方向でさらに複数の自反射ビーズと集団を形成している場合もある。
本発明にかかる塗装方法では、所定の自反射ビーズと塗膜形成要素である透明樹脂を必須成分とする塗料が用いられる。そして、本発明に適用されるビーズはその一部に反射膜を有する自反射ビーズであることが必須である。
【0019】
ここで、本発明者が見出したところによれば、上記ビーズとしては、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAおよび/または屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBであることが好ましい。屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAは、屈折率2.1〜2.5である自反射ビーズBと比べて、安価であり、再帰反射性に優れているという利点があるが、自反射ビーズが透明樹脂で被覆されたり雨などによりその表面が水で濡れた状態においては再帰反射性が低下する傾向があり、他方、自反射ビーズBは、自反射ビーズAよりも高価であり、再帰反射性に劣るが、自反射ビーズが透明樹脂で被覆されたり雨などによりその表面が水で濡れた状態であっても再帰反射性の低下が少ないという利点がある。したがって、自反射ビーズAを単独で使用する場合、あるいは、自反射ビーズBとともに自反射ビーズAを併用する場合には、自反射ビーズが、その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている状態にすることが好ましい。また、屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBを単独で用いる場合には、このような配慮の必要性がなく、自反射ビーズの全体を透明樹脂層内に埋没させた状態とすることができ、この場合、表面が平滑で、汚れの付着し難い再帰反射性塗膜を得ることができる。
【0020】
上に述べたことについて、図3〜7を参照しながら、以下に詳しく説明する。図3〜7は、自反射ビーズによる再帰反射の原理を説明するための模式図であり、各図の(a)は屈折率が1.8〜2.0である自反射ビーズAに関する図であり、各図の(b)は屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBに関する図である。これら図3〜7では、自反射ビーズAの屈折率が1.93、自反射ビーズBの屈折率が2.2、透明樹脂層の屈折率が1.5である場合における光の軌跡を正確に示したものである。なお、水の屈折率は1.3である。
まず、自反射ビーズ30に光L1,L2が直接入射する場合、屈折率が1.8〜2.0である自反射ビーズAではビーズ底面で焦点を結び、屈折率が2.1〜2.5である自反射ビーズBではビーズ底面よりもやや中心に近い位置で焦点を結ぶ。したがって、このように自反射ビーズ30に光が直接入射する場合における再帰反射性は、図3に示すように、自反射ビーズAのほうが自反射ビーズBよりも優れるのである。
【0021】
次に、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が透明樹脂層20や水膜40などで覆われている状態において、光L1〜L3が入射する場合について、図4〜6を参照しながら説明する。
図4に示す例では、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が、その球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるように、透明樹脂層20で僅かに覆われている。このような場合、透明樹脂層20の屈折率が影響して相対屈折率が変化するため、焦点位置も変化する。したがって、この場合、被覆層がない場合にビーズ底面で焦点を結ぶようになっている自反射ビーズAは、焦点位置がビーズ底面からずれて、より外側に位置することになるが、ビーズ底面に反射膜を付けてあるため、その膜面で反射し、さらに透明樹脂層20を通過して外へ出て行くことになる。この時ビーズ内に入った光は反射膜面では集光しておらず(焦点位置がズレているため。)、光の強さとしては弱い光が再帰反射とは違う方向へ出て行くことになる。従って、再帰反射性は著しく低下することになるが、自反射ビーズBでは、被覆されていない状態での焦点位置がビーズ底面より内部に位置するため、透明樹脂層20の屈折率の影響により、焦点位置はビーズの外側に位置するが、自反射ビーズAの時よりもよりビーズの底面側に近づくこととなり、再帰反射性は自反射ビーズAを使用した場合より有効に確認できるのである。
【0022】
図5に示す例では、基材10表面に透明樹脂層20で固定された自反射ビーズ30の表面が透明樹脂層20で覆われている点で図4に示す例と共通であるが、この例では、透明樹脂層20の厚みが厚く、透明樹脂層20の表面は平坦になっており、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるようにはなっていない。このような場合、自反射ビーズ30に対して正面から入射する光は特に問題とはならないが、自反射ビーズ30に対して側面から入射する光、例えば、図5における光L2では、空気中から透明樹脂層20への入射角と、透明樹脂層20から自反射ビーズ30への入射角が透明樹脂層20への入射する位置によって大きく乖離することとなるため、透明樹脂層20が自反射ビーズ30の表面を同心円状に僅かに覆う程度である前記図4に示す例よりもさらに条件が悪く、再帰反射性が低下しやすい。したがって、この場合、被覆層がない場合にビーズ底面で焦点を結ぶようになっている自反射ビーズAは、焦点位置がビーズ底面から大きくずれて、特に自反射ビーズ30に対して側面からの入射光において、再帰反射性の低下が著しくなる。これに対して、自反射ビーズBでは自反射ビーズAに比べて樹脂との相対屈折率が大きい分だけ透明樹脂層20を通過して出て行く光の角度が自反射ビーズAよりも大きく曲がらないため、塗装物の存在が確認できる程度の視認性が得られるのである。
【0023】
図6に示す例では、図4に示す例において、さらに、透明樹脂層20に水膜40が僅かに付着している。この例における水膜40も、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるように覆っているので、基本的には、図4に示す例と同様である。
図7に示す例では、図4に示す例において、さらに、透明樹脂層20表面が水膜40で覆われている点で図6に示す例と共通であるが、この例では、水膜40の厚みが厚く、水膜40の表面は平坦になっており、自反射ビーズ30の球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状となるようにはなっていない。この場合、図5に示す例と同様に、自反射ビーズAでは焦点位置がビーズ底面から大きくずれて、特に自反射ビーズ30に対して側面からの入射光において、再帰反射性の低下が著しくなる。そして、自反射ビーズBでは上述のように、塗装物の存在が確認できる程度の視認性が得られるのである。
【0024】
このように、自反射ビーズA、Bのいずれを用いるか、透明樹脂層や水などの被覆層が全体として相対屈折率をどの程度変化させるか、また、どのような状態で自反射ビーズを被覆しているか、といった要素が再帰反射性に影響し得る。
上に述べた理由から、自反射ビーズAを用いる場合であっても、自反射ビーズの突出部分の表面が完全に露出している状態や、自反射ビーズの突出部分の表面がその球状外周面に沿うように、すなわち、断面で見たときに同心円状に透明樹脂で薄く覆われている状態のように「その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている状態」であれば、十分な再帰反射性を確保することができる。また、自反射ビーズBを用いる場合は、自反射ビーズの全体を透明樹脂層内に埋没させた状態としても十分な再帰反射性を確保することができる。
【0025】
自反射ビーズの突出部分の表面が、上記のように、透明樹脂で覆われている状態と露出している状態という違いが生じうるのは、例えば、後に詳述するように、塗膜の形成方法の違いによる。すなわち、自反射ビーズを透明樹脂液に分散させ、これを基材上に塗布する場合には、自反射ビーズの突出部分の表面が透明樹脂で薄く覆われている状態となり、透明樹脂液のみを塗布したのち、そこに自反射ビーズを散布する場合には、自反射ビーズの突出部分の表面が完全に露出している状態となる。
自反射ビーズAと自反射ビーズBは、上に述べた点を考慮しながら、使用目的に応じて、例えば、以下のように使い分けることができる。
(a)自反射ビーズAを単独で用いる場合は、非常に優れた再帰反射性が期待できる。ただし、自反射ビーズAは、被覆物質による再帰反射性の低下を招きやすいことに留意すべきである。また、実使用時においても、雨天時などに水が付着した状態や、長期間の使用でゴミ、ホコリ、排気ガスによる塵埃などが付着した状態となった場合には、再帰反射性が低下するので、表面に撥水性や防汚性を付与することが好ましい。これら撥水性や防汚性については、これらの性能を付与するための具体的物質の例示とともに、後述する。
(b)自反射ビーズBを単独で用いる場合は、非常に安定した再帰反射性が期待できる。具体的には、自反射ビーズBは、被覆物質による再帰反射性の低下が自反射ビーズAを使用した場合よりも少なく、また、雨天時など、水が付着した状態であっても、再帰反射性への影響は少ない。また、表面が平滑となって、汚れが付着し難い再帰反射性塗膜を得ることができる。上記(a)と同様、汚染物質の付着防止や除去のために、防汚性を付与するようにしても良い。ただし、被覆物質がない場合には自反射ビーズAよりも再帰反射性が低いことに留意する。したがって、高い再帰反射性は必要ないが、安定した再帰反射性を重視する場合には特に有用である。
(c)自反射ビーズAと自反射ビーズBを併用する場合は、自反射ビーズAに基づく優れた再帰反射性と、自反射ビーズBに基づく安定した再帰反射性の両方が期待できる。例えば、晴天時には、自反射ビーズAに基づく優れた再帰反射性が得られ、雨天時には、自反射ビーズBに基づく安定した再帰反射性が得られるので、全天候型の再帰反射性塗膜を形成することができる。上記(a)と同様、汚染物質の付着防止や除去のために、防汚性を付与するようにしても良い。ただし、自反射ビーズAは、被覆物質による再帰反射性の低下を招きやすいので、再帰反射性塗膜における透明樹脂の乾燥膜厚を、再帰反射性を失わない限度に調整する必要がある。
【0026】
本発明の塗装方法により形成される再帰反射性塗膜の代表的な実施形態を図8〜13に示し、上記(a)〜(c)と関連付けながら説明する。
なお、図8〜13に示す再帰反射性塗膜においては、各自反射ビーズが均等に配置された状態となっているが、「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」である場合の実際の構造は、図1,2に示すように、単独のものもあれば複数の自反射ビーズが島状に配置されるものもあるのが通常である。図8〜13は、各態様の比較の簡便化のため、模式的に表したものであるに過ぎず、本発明にかかる塗装方法が、自反射ビーズが均等に配置された再帰反射性塗膜を形成する方法に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0027】
図8に示す形態では、基材10(基材10は予め別の塗料による塗装や防錆処理がなされていても良い)の表面上に、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂層で固定された状態であるが、前記透明樹脂の被覆量が少ないため、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出した状態となっており、自反射ビーズを固定するための透明樹脂層の一部が、自反射ビーズ30の各球状外周面に沿うように凹凸状となって僅かに覆うにとどまっている。図9に示す形態では、自反射ビーズ30が2層の透明樹脂層20A、20Bで被覆された状態である以外は、図8に示す形態と同様である。図10に示す形態では、図9に示す形態よりも、2層目の透明樹脂層20Bの膜厚を厚くしたものであるが、透明樹脂の被覆量が多いため、皮膜表面が前記自反射ビーズの各球状外周面に沿わずにやや平らに近い状態となっている。図11に示す形態では、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂層20で被覆された状態であるが、前記透明樹脂は、その被覆量が多く、皮膜表面が前記自反射ビーズの各球状外周面に沿わずに平らになっている。図12に示す形態は、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出し、かつ、露出した状態である。図13に示す形態は、図12に示す形態と同様に、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20Aから突出し、かつ、露出した状態となるように1層目の透明樹脂層20Aを形成するとともに、さらに、自反射ビーズ30の突出部分を覆うように、2層目の透明樹脂層Bが形成されている。図9や図10と図13の実施形態の違いは、自反射ビーズ30を固定するための一層目の透明樹脂層20Aが自反射ビーズ30を覆っているか否かの違いである。
【0028】
本発明者が見出したところによると、図8に示すように、自反射ビーズ30が1層の透明樹脂で固定された状態において、前記透明樹脂の被覆量が少なく、自反射ビーズ30の頂部が周囲の透明樹脂層20から突出した状態となっていることで、自反射ビーズ30を固定するための透明樹脂層20の一部が、自反射ビーズ30の各球状外周面に沿うように凹凸状となって僅かに覆うにとどまっている場合、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズA、屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBのいずれを用いても、十分な再帰反射性が得られるのに対して、図11に示すように、自反射ビーズ30の全体が透明樹脂層20の内部に深く埋没し、透明樹脂表面が平らな状態となっている場合、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAを用いた場合、再帰反射性の低下が大きい(屈折率2.1〜2.5の自反射ビーズBは、この場合でも再帰反射性の低下が少ない。)。このように、自反射ビーズ30を固定する透明樹脂の被覆状態によって、屈折率1.8〜2.0の自反射ビーズAは、相対屈折率の変化が大きくなり、それに伴い再帰反射性が変化するのである。図9,10,13のように、透明樹脂を2層以上積層する場合においても、やはり、同様のことがいえる。
【0029】
したがって、図8,9,12,13に示す形態は、自反射ビーズAの単独使用、自反射ビーズBの単独使用、これらの併用のいずれを採用しても優れた再帰反射性を得ることができる。図10,11に示す形態は、自反射ビーズAに基づく再帰反射性が低下しやすいので、自反射ビーズAは使用せず、自反射ビーズB単独使用であることが好ましい。
透明樹脂層は、図8,11,12に示す形態のように単層であっても良いし、図9,10,13に示す形態のように複層であっても良い。複層である場合、上層による補強効果などが期待できるとともに、自反射ビーズの脱落防止も可能となる。
本発明で用いる自反射ビーズは、上述のように所定の屈折率を有するものであることが好ましいが、その材料は特に限定されない。例えば、一般的にはガラスビーズが良く知られているが、アクリル樹脂などの透明樹脂ビーズを用いても良い。ビーズの形状は、真球状であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
図8〜13に示すように、自反射ビーズ30は、その表面の一部に反射膜31が形成されていることが必須である。そのため、自反射ビーズ30自体が高輝度反射機能を有しているので、別途、反射層を設ける必要がない。
上述のとおり、自反射ビーズ30表面の反射膜31は、前記ビーズ表面の一部に形成される。上記ビーズ表面の全部に形成したのでは、反射膜31がビーズへの光の入射を妨げ、光がビーズに入射できない。他方、反射膜31を形成する領域が少なすぎると効率的に再帰反射させることができない。したがって、入射、反射の両方が効率的になされるように、反射膜の領域を設定することが好ましく、このような観点から、反射膜を、ビーズ表面の30〜70%の領域に形成することが好ましく、40〜60%の領域に形成することがより好ましく、図8に示すごとく、概ね50%の領域、すなわち、ビーズの半球部分に反射膜31が形成される自反射ビーズ30が特に好ましい。ビーズ表面の半球部分に反射膜31を形成しておけば、50%の確率で再帰反射が起こり、十分な視認性が得られる。反射膜の方向はランダムであることが必要である。様々な入射角度からの光に対しても常に一定以上の再帰反射性を発揮させるためである。
【0031】
ビーズの表面の一部に反射膜31を形成する自反射ビーズの製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を採用すればよい。例えば、ポリエステルなどのフィルム上にポリエチレンなどによりビーズの半球部分を埋め込むように仮接着し、これを真空の釜に入れて、反射膜31の材料となる金属や金属酸化物を蒸着させたのち、前記フィルムを取り除くことにより、金属や金属酸化物を蒸着させた反射膜を有する自反射ビーズが得られる。
反射膜31の材料となる金属や金属酸化物としては、反射膜としての機能を発現するものであれば特に限定されないが、白色から銀白色の金属や金属酸化物、例えば、アルミニウム、ニッケル、銀、スズ、亜鉛などの金属やこれらの酸化物などが好ましく挙げられ、アルミニウムが特に好ましい。
【0032】
次に、図8〜13に示す如き塗膜を形成する方法について説明する。
図8,11の透明樹脂層20は、従来公知の方法により形成することができる。具体的には、自反射ビーズ30を透明樹脂液に分散させ、これを従来公知の塗装方法(例えばスプレー塗装など)により塗装すればよい。図8,11では、透明樹脂による固定状態が異なっているが、これは、例えば、塗装時の吐出量によって調整することができ、すなわち、吐出量が少なければ図8に示すように皮膜表面がビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となり、吐出量を多くしていくと、図11に示すように自反射ビーズの全体が完全に埋没して塗装面が平らになる。
【0033】
図9,10の透明樹脂層20A、20Bも、同様に、従来公知の方法により形成することができる。すなわち、自反射ビーズ30を透明樹脂液に分散させ、これを従来公知の塗装方法により塗装し、さらに、その塗装面上に、透明樹脂を造膜成分とするクリヤー塗料を従来公知の塗装方法により塗装すればよい。
図12の透明樹脂層20や図13の1層目の透明樹脂層20Aのように、自反射ビーズ30の頂部が透明樹脂層20から突出し、かつ、露出した状態とするためには、例えば、透明樹脂を主成分とする塗料を塗布し、透明樹脂層20表面が固化する前に、自反射ビーズを散布して付着させたのち、透明樹脂層20の固化を行う方法が挙げられる。図13の場合には、自反射ビーズ30の頂部が突出し、かつ、露出した状態の透明樹脂層20Aの上に、別の透明樹脂層20Bを積層し、自反射ビーズ30の表面を保護するようにしている。図13の2層目の透明樹脂層20Bは、1層目の透明樹脂層20Aの塗装面上に、透明樹脂を造膜成分とするクリヤー塗料を従来公知の塗装方法により塗装すればよい。
【0034】
このとき、自反射ビーズを散布して固着させるための透明樹脂を主成分とする塗料としては、造膜性を有するとともに、未固化状態で自反射ビーズに対する付着性を示すものが好ましい。
自反射ビーズ30を散布して固着させる方法としては、単に落下散布するだけでもよいし、静電粉体塗装法による噴射やエアー噴射による散布や攪拌羽根、揺動ノズルなどの機械的散布手段を採用することもできる。
自反射ビーズ30の散布は、透明樹脂層20の表面が固化する前に行う。透明樹脂層20の固化形態は様々であるが、塗工後の一定時間は固化が進行せず、流動性を有していたり、軟化状態であったり、変形容易な状態である。表面には、他の物体を付着させる付着性を有している状態である。少なくとも透明樹脂層20の表面に自反射ビーズ30が付着しても、直ぐには脱落せずに留まることができる状態のときに、自反射ビーズ30を散布する。
【0035】
透明樹脂層20が、経時的に固化して、自反射ビーズ30と一体接合されるものであれば、自反射ビーズ30を散布し、十分に固化するまで放置しておけばよい。
透明樹脂層20の固化を促進させるために、空気を送風したり、温風やヒータで加熱したり、架橋促進剤を加えたりすることができる。
透明樹脂層20を硬化させる場合、加熱硬化処理を行ったり、紫外線照射などによる硬化処理を行ったりすることもできる。
塗装基材の色調やツヤを確保することが求められる場合には、自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態とすることが好ましい。
【0036】
ここでいう「自反射ビーズが互いの間に隙間を空けた状態」とは、自反射ビーズが1個ずつばらばらに隙間を開けて分散した状態、あるいは、自反射ビーズが1個から複数個集まった状態を1集団としてそれら集団がばらばらに隙間を空けて分散した状態である。隙間を空けて分散することにより塗装基材の色調、さらには、ツヤを維持することができ、例えば、昼間の景観に調和した色として指定された色調を維持することができる。
隙間を空けて自反射ビーズを分散させる割合は、自反射ビーズの面積率(以下、単に「ビーズ面積率」という)で85%以下とするのが良く、好ましくはビーズ面積率が70%以下、より好ましくはビーズ面積率が50%以下となるようにし、特に好ましくはビーズ面積率が40%以下が良い。ビーズ面積率が85%を超えてしまうと、自反射ビーズと自反射ビーズの隙間がほとんど無くなり塗装基材の色調やツヤを維持することができなくなるおそれがあり、特にダークブラウン色の場合、色調が明るくなってしまう可能性があるので、この点を重視する場合には、85%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下が良いのである。また、ビーズ面積率が5%よりも低い場合、反射はするが、濃色の場合には自反射ビーズの隙間の塗装部分における反射輝度が著しく劣るため、夜間の視認性を確保するには、通常、5%以上必要であり、好ましくは10%以上である。
【0037】
ビーズ面積率は、塗料の濃度調整、例えば、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を調整することで調整することも出来るが、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を一定にした塗料を吹き付けることで調整することも出来る。
すなわち、ビーズ面積率の調整のため一々自反射ビーズを含む透明樹脂塗料を調合することは管理面、作業面で多大な時間と労力を要し、実用的ではない場合があるため、透明樹脂と溶剤の合計体積と自反射ビーズの体積との比率を一定にした塗料で、塗装回数、吐出量、基材とガンとの距離、ガンの移動速度などの塗装条件を変更することでビーズ面積率の調整を図ることが望ましい。
【0038】
例えば、透明樹脂としてアクリルウレタン樹脂(固形分47%)を使用し、屈折率1.93の自反射ビーズ(粒径40〜80μm)を使用してビーズ面積率を85%以下とする場合に、このような塗膜が塗装回数を5回とすることで得られるとすれば、ビーズ面積率を70%以下とする場合、塗装回数を4回とし、ビーズ面積率を50%以下とする場合、塗装回数を3回とし、ビーズ面積率を40%以下とする場合には、塗装回数を2回とする、というような調整方法を採用することができる。
なお、本発明において、上記「ビーズ面積率」は、後述の実施例に記載の方法で算出される値をいうこととする。
【0039】
ビーズ面積率は、被塗装面全体において一様である必要はなく、求める反射輝度や色調に応じて、被塗装物表面の一部において、ビーズ面積率を異なったものとすることもできる。
すなわち、塗装面積が大きく、連続して設置される部材に適用するような場合、反射輝度自体が小さくても視認性が得られ、一方、昼間の景観に影響するため色調管理が重要となってくる場合がある。従って、好ましくはビーズ面積率を10%〜40%とするのが良い。
一方、塗装面積が小さく、不連続な部材に適用するような場合には、反射輝度が小さい場合には視認性が劣る反面、昼間の景観への影響は小さいため、ビーズ面積率を高めの60%〜85%としてもよく、その方がむしろ好ましい。
【0040】
次に、塗料組成について、以下に詳しく説明する。
透明樹脂としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の何れも使用できる。湿気硬化型や紫外線硬化型の樹脂も使用できる。水系樹脂、有機溶剤系樹脂、それらの混合溶媒系樹脂も何れもが使用できる。一般的な接着性樹脂材料が使用できる。また、市販の接着用樹脂がそのまま使用できる場合もある。具体的には、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、シリコン系、アルキド系、フッ素系、メラミン系、ポリエステル系などの樹脂やこれらの樹脂の共重合体が挙げられる。
塗料の組成としての透明樹脂としては、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好ましく、特にアクリル系樹脂、例えば、アクリルウレタン樹脂、アクリルエポキシ樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルメラミン樹脂などが好ましい。これらは、架橋剤としてイソシアネートを用いることにより耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐水性、耐塩水性などの耐久性にも優れるため、屋外用途として優れるからである。
【0041】
塗料成分として、自反射ビーズの固着力を高めるシランカップリング剤や、ひび割れ防止剤、粘度調整剤、硬化剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、溶剤、消泡剤、架橋剤、粘性付与剤、安定剤など、一般的な成分を配合してもよい。
上記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、オキサゾール系硬化剤などが挙げられる。
上記溶剤としては、例えば、水、トルエン、キシレン、メチルアルコールなどのアルコール類、メチルエチルケトン類などのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジメチルホルムアミド、ベンゼンなどが挙げられる。
【0042】
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系の消泡剤などが挙げられる。
上記架橋剤としては、例えば、透明樹脂によっても異なるが、例えば、イソシアネート系、オキサゾリン系の化合物が挙げられる。
上記粘性付与剤としては、例えば、酸化ケイ素系化合物やエチレンオキサイド系の界面活性剤などが挙げられる。
上記安定剤としては、例えば、「アンチゲル」(商品名、BERND SCHWEGMANN社製)などのポリメリックアルコキシレートなどが挙げられる。
上記において、自反射ビーズの配合割合は、樹脂固形分100重量%に対して、100〜600重量%とすることが好ましい。
【0043】
塗料の塗布方法としては、エアスプレー塗装法、エアー霧化静電塗装法、エアレス静電塗装法、刷毛やローラーによる直接塗装法、スクリーン印刷法など、従来公知の方法が採用できる。
透明樹脂層20の厚みとしては、自反射ビーズAを用いる場合(単独使用の場合だけでなく、自反射ビーズBと併用する場合も含む)には、再帰反射性を失わない限度であることが必要である。自反射ビーズBの単独使用である場合には、透明樹脂層20の厚みは特に制限されない。
具体的には、透明樹脂層20の乾燥膜厚が、前記自反射ビーズの粒径の2倍以下であることが好ましい。ここにいう乾燥膜厚とは、後述の実施例に記載の方法で測定される値、すなわち、Kett社製の電磁膜厚計「LZ−300C(同社の商品名)」を用いて測定される値とする。
【0044】
自反射ビーズ30の粒径としては、10〜300μmとすることが好ましい。透明樹脂層の厚みにもよるが、自反射ビーズ30の粒径が大きすぎると塗膜表面が過度にざらついてしまうおそれがあり、自反射ビーズ30の粒径が小さすぎると取り扱いが困難となる。
自反射ビーズ30として、粒径の異なる2種以上の自反射ビーズを用いることもできる。例えば、自反射ビーズA,Bを併用する場合において、自反射ビーズAの粒径を大きくし、自反射ビーズBの粒径を小さくすることができる。このようにすれば、自反射ビーズAは透明樹脂層から突出した状態、そして、自反射ビーズBは透明樹脂層などに被覆された状態となり、それぞれの自反射ビーズが有する特質が十分に発揮される。
【0045】
本発明にかかる塗装方法により、前記自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を塗装した後、該塗膜表面に、撥水性付与または防汚性付与をするようにしてもよい。
前記撥水性は、例えば、フッ素、シリコンやこれらの化合物などの撥水性物質の1種または2種以上を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。
前記防汚性は、表面に親水性を付与したり、汚染物質の分解除去作用を付与したりすることによって発現させることができる。
前記親水性は、例えば、珪素やその化合物である酸化ケイ素などの親水性物質の1種または2種以上を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。その原理を、酸化ケイ素を例に説明すれば、この物質は、ナノサイズの粒径で、基材表面に単分子膜状に結晶が連なった状態で化学結合しており、この皮膜は、非常に水を取り込み易く、表面に汚れが付着し難いとともに、付着しても、その汚れの下に水分子を取り込み、結果として、放水などによる水洗や雨などの自然現象によって汚れを浮かして容易に洗い落とすことができるのである。
【0046】
また、汚染物質の分解除去作用は、酸化チタンなどの光触媒物質を主成分とする塗膜を積層することにより付与することができる。その原理を、酸化チタンを例に説明すれば、この物質は、ナノサイズの粒径で、基材表面に単分子膜状に結晶が連なった状態で化学結合しており、この酸化チタン分子が、太陽などから発せられる紫外線によって励起されると、活性酸素が放出され、この活性酸素により基材表面に付着した汚染物質が分解されて低分子化されるのであるが、この低分子化された汚染物質は、基材表面から非常に脱落し易い状態となっているので、放水などによる水洗や雨などの自然現象によって水が表面について濡れが生じると浮き、結果、容易に洗い落とすことができるため、長期にわたって防汚性が発揮されるのである。
【0047】
酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化鉄などの光触媒物質によれば、汚染物質の分解除去作用のほかに、親水性も付与しうることが報告されている。このような光触媒による親水性付与技術としては、例えば、特許第2756474号公報や特許第2865065号公報に記載の技術がある。したがって、これらの光触媒物質を用いれば、汚染物質の分解除去作用と親水性の双方に基づく防汚性の発現が期待される。
上記において、撥水性または防汚性を付与するために前記の如き塗料を塗り重ねる場合、その乾燥膜厚は、5μm以下となるように塗り重ねることが好ましい。塗膜の乾燥膜厚が5μm以下であれば、この塗膜中での屈折は殆ど無視することができ、他方、5μmを超えると、この塗膜中での屈折の影響が大きくなり、再帰反射性を低下させるおそれがある。
【0048】
上述したように、自反射ビーズAの単独使用の場合には、再帰反射性塗膜の表面に水膜ができると、水膜での光の屈折が影響して、再帰反射性が低下するおそれがあるが、上述の撥水性付与をすることでこれを回避することができる。防汚性を付与した場合には、上述の親水性や汚染物質の分解除去作用により、汚染物質の付着による再帰反射性の低下を回避できる。
本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料によれば、所望の被塗装面に優れた再帰反射性を付与することができる。例えば、ガードレール、ガードパイプ、フェンスなどの防護柵や、ボルト、ナット、キャップ、ブラケット、支柱、ベースプレート、ワイヤーケーブル、ビーム、パイプ、スクリーンパネルなどの防護柵の構成部材、道路標識、自動車の外装(バンパーやドア)、列車の外装、航空機の胴体や翼、ヘリのプロペラ、風車の羽、船の外装など、あらゆる用途に適用することができ、特に安全性などを配慮して視認性の求められる用途に好適に用いられる。これらの材質は特に限定されず、プラスチックや金属など、いずれであっても良い。これらの表面に再帰反射性塗膜を形成することで、夜間などの暗闇においても優れた視認性を発揮し、例えば、自動車のヘッドライトで照らした場合には、運転者のほうに確実に光を反射させることができる。このような被塗装物には、あらかじめ、防錆処理を施しておいたり、環境を配慮した景観色調の塗装を施しておいたりしてよい。そのような環境を配慮した塗装色の例としては、明度4未満の塗装色、例えば、ダークブラウンやダークグレーなどが好ましく挙げられる。
【0049】
また、本発明にかかる塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料は、従来技術のように、金属粉顔料を含む反射層が必要なく、したがって、自反射ビーズの反射膜以外は透明とすることができ、また、自反射ビーズの再帰反射性を非常に効率的に発揮させるものであるため、前記再帰反射性塗膜における自反射ビーズの含有量を必要最小限に抑えることができるので、ビーズ面積率を抑えて、被塗装物が持つ本来の色調やツヤを生かすことも可能である。具体的には、本発明では、再帰反射性塗膜において、自反射ビーズが、互いに間隔を空けた状態で存在することで、被塗装物が持つ本来の色調やツヤを生かすこともできる。ただし、例えば、部分的に再帰反射性を高めて、視認性を高める場合など、本来の色調やツヤの現出よりも優れた再帰反射性の発現が重視される場合には、被塗装面の一部の領域において、自反射ビーズが、互いに密接しているようにしても良い。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
本発明にかかる塗装方法を用いて、図8に示すごとき再帰反射性塗膜を形成した。
すなわち、板厚2.3mm×幅70mm×150mmのZ27亜鉛めっき鋼板に、リン酸亜鉛処理により化成皮膜を形成させ、続けて、粉体塗装機を用いてダークブラウン粉体塗料を塗装し、175℃の温度で20分間焼付けすることによってダークブラウン塗装材を作成した。このダークブラウン塗装材を基材として、以下のようにして、図8に示すごとく、再帰反射性塗膜を形成し、再帰反射性を付与した。
【0051】
架橋剤を内包しウレタン結合を生成させる反応基を有するアクリル樹脂(重量比では固形分:溶剤(芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤の混合物)=50:50)42重量部、自反射ビーズA1(後述の表2参照)としての屈折率1.93の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径30〜50μm)58重量部、を混合し、ミキサーで均一に分散させることにより、塗料組成物を得た。こののち、上記混合溶剤により粘度調整を行い、粘度を150〜200cps(B型粘度計、ローターNo.2、60rpm、15℃での測定)とした。これを、上記塗装材にスプレー塗装により塗布し、160℃の温度で20分間の焼付けを行い、再帰反射性が付与されてなる塗装材を得た。スプレー塗装は、スプレーのノズルと基材の距離を30cmとし、ノズル径1.5mm、エアー圧2Kg/cm2、ノズルスピード50cm/2secで2往復の条件にて行った。得られた塗装材上の再帰反射性塗膜の乾燥膜厚は約50μmであり、ビーズ面積率は33.8%であった。透明樹脂により固定された状態は、前記自反射ビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となっていた。
【0052】
〔実施例2〜15、比較例1〜3〕
塗料組成や塗装条件(スプレー塗装の往復回数)、塗膜構造を後述の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、再帰反射性塗膜を形成してなる塗装材を得た。
ここで、実施例3,5において、図9に示すごとき積層塗膜を形成する場合には、透明樹脂(架橋剤を内包しウレタン結合を生成させる反応基を有するアクリル樹脂)、重量比では固形分:溶剤(芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤の混合物)=50:50)を粘度調整を行い粘度を200cps(B型粘度計、ローターNo.2、60rpm、15℃での測定)としてなる塗料組成物を、実施例1記載の方法により得られた自反射ビーズを含有する塗膜の上に、スプレー塗装により塗布し、得られた2層塗膜に対し、160℃の温度で20分間の焼付けを行うようにした。スプレー塗装は、スプレーのノズルと基材の距離を30cmとし、ノズル径1.5mm、エアー圧2Kg/cm2、ノズルスピード50cm/2secで4往復の条件にて行った。
【0053】
また、表1における自反射ビーズA2としては、屈折率1.93の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径40〜80μm)を用い、表1における自反射ビーズBとしては、屈折率2.2の自反射ガラスビーズ(アルミニウム蒸着により自反射性の付与されたもの、ユニチカ社製、直径60〜80μm)を用い、表1における自反射ビーズCとしては、屈折率1.93のガラスビーズ(アルミニウム蒸着がなく、自反射性の付与されていないもの、ユニチカ社製、直径40〜80μm)を用いた(後述の表2参照)。
比較例1は、再帰反射性塗膜の形成されていない、ダークブラウン塗装材そのものである。
【0054】
比較例3は、透明樹脂に反射剤としてマイカを外割で20重量部添加したものである。
透明樹脂により固定された状態は、全ての実施例、比較例で自反射ビーズの各球状外周面に沿うように凹凸状となっていた。
<性能評価>
上記実施例1〜15、比較例1〜3について、下記の評価方法により、性能を評価した。結果を表1に、表1に記載のビーズの詳細を表2に示す。表1では、これらの実施例、比較例について、ビーズ面積率を併記してある。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(再帰反射性の評価)
再帰反射性は、JIS−Z−9117に準じた以下の方法で再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)を測定して評価した。ただし、光源としては250Wハロゲン電球を用い、被測定物からの距離4mの位置に置いて使用した。また、受光器としてはミノルタ社製輝度計「CS−100(同社の商品名)」を用い、被測定物からの距離3.5mの位置において使用した。光の入射角度を30°、反射光の観測角度を2°とした。この時の被測定物における照度は800Luxであった。
得られた再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2、用語の定義については、「JIS−Z−8713」を参照)を以下の基準に基づき、1〜5点で評価した(点が高いほど再帰反射性に優れる)。
【0058】
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.20以上 :5
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.14以上0.20未満:4
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.07以上0.14未満:3
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.03以上0.07未満:2
再帰反射輝度係数(cd/Lux・m2)が0.03未満 :1
再帰反射輝度係数が大きいほど、暗闇における視認性が高いものであることを意味する。再帰反射輝度係数は、白色塗装材では普通0.17(cd/Lux・m2)程度(実測値)であり、ダークブラウン塗装材では0.009(cd/Lux・m2)程度である。したがって、実用に供した場合において、再帰反射輝度係数が0.17cd/Lux・m2以上であれば白色塗装材と同等以上の視認性があると言え、本来視認性に乏しいダークブラウン塗装材に対して白色塗装材並みの視認性を付与できていると言えるが、再帰反射輝度係数が0.17cd/Lux・m2未満であっても、再帰反射輝度係数が0.07cd/Lux・m2以上であれば、十分な視認性があると言える。
【0059】
評価の点が高いほど、より視認性が高いと言える。
(色調の評価)
明度はミノルタ社製色彩計「CR−300(同社の商品名)」を用いて景観ガイドラインに示されたマンセル値による測定を行った。
すなわち、基材として用いたダークブラウン塗装材表面の明度を基準として、その上に再帰反射性塗膜を形成した後の明度差によって1〜5点で評価した。
評価 外観色 指定色との明度差
5 指定色と同じ 0.5未満
4 指定色に近い 0.5以上1.0未満
3 やや指定色 1.0以上1.5未満
2 指定色から外れる 1.5以上2.0未満
1 指定色とは言えない 2.0以上
明度差が小さいほど塗装材表面の色調が生かされていることを意味する。一般的な基準では、明度差が1.5未満であれば類似系、明度差が2.0以上であれば対照系と評価する。類似系と評価される明度差1.5未満では、観測者において、塗装材表面に施された本来の色調との差が殆んど感じられず、対照系と評価される明度差2.0以上では、観測者において、塗装材表面に施された本来の色調との差が明確に感じられるものである(やや白っぽく感じられる)。その中間では、僅かに白っぽく感じられるが、塗装材表面に施された本来の色調と比べて、殆んど違和感が感じられないものである。
【0060】
色相、彩度については、明度ほどに色調に影響を与えるものではないが、それぞれ、目視により判断して、再帰反射性塗膜の形成されていない比較例1のダークブラウン塗装材と対比して、差異が感じられないものを○、差異が感じられるものを×と評価した。
(ツヤの評価)
ツヤは、目視判断により、再帰反射性塗膜の形成されていない比較例1のダークブラウン塗装材と対比して、以下のように評価した。
◎:基材本来のツヤが生きている。
○:基材本来のツヤがほとんど生きている。
【0061】
△:基材本来のツヤがかなりなくなっている。
×:基材本来のツヤがなくなっている。
(塗膜性能の評価)
塗膜性能として、(1)碁盤目密着性、(2)沸騰水密着性、(3)耐水密着性、(4)耐候性、(5)耐衝撃性を評価した。
碁盤目密着性、沸騰水密着性、耐水密着性はいずれも、基材であるダークブラウン塗装材と再帰反射塗膜の界面密着性を判定するものである。
(1)碁盤目密着性は、「JIS−K−5600−5−6」に準拠して評価した。
【0062】
具体的には、カッターナイフで塗膜上に2mmの碁盤目100個を作り、その上にセロハン粘着テープを完全に付着させ、テープの一方の端を持ち上げて上方に剥がす。分類表に従って分類0〜2を合格(○)とし、分類3〜5を不合格(×)とした。
(2)沸騰水密着性は、「JIS−K−5400(1990)−8−20」に準拠し、沸騰水に1時間浸漬、2時間放置後、上記の碁盤目密着性試験を行った。
(3)耐水密着性は、「JIS−K−5600−6−1」に準拠して評価した。
具体的には、試料をイオン交換水に500時間浸漬(浸漬温度23℃)、2時間放置後、上記の碁盤目密着性試験を行った。
(4)耐候性は、「JIS−D−0205−5−4」に準拠したサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機を用い、300時間試験後の外観および反射性能の劣化の有無を評価した。
(5)耐衝撃性試験は、「JIS−K−5600−5−36」に準拠して評価した。重りは500g、高さ50cmの条件にて試験し、塗膜の剥離や割れの有無、ならびに、ビーズの脱落の有無で判定した。
【0063】
(ビーズ面積率の測定)
再帰反射性塗膜を形成した試料の表面をキーエンス社製マイクロスコープを用いレンズ200で観察し、写真撮影した(操作1)。写真から自反射ビーズの輪郭を取りだし(操作2、3)、画像解析により自反射ビーズ部を塗りつぶした後に2値化処理(操作4)し、黒色部の面積率を求めてこれをビーズ面積率とした。ビーズ面積率は同一試料で3ヶ所測定し、その平均値とした。
測定方法の理解を助けるため、図1に示した写真を操作1に供するとともに、操作2、3での輪郭の取り出し、操作4での塗りつぶし、の各例を、それぞれ、図14〜16に示した。
【0064】
(乾燥膜厚の測定)
Kett社製の電磁膜厚計「LZ−300C(同社の商品名)」を用いて測定した値を乾燥膜厚とした。
<考察>
実施例4、5以外の実施例では屈折率1.93の自反射ビーズAを用いているため、水の付着により、塗膜表面が被覆されると、再帰反射性が低下すると考えられるが、実施例4、5のように屈折率2.2の自反射ビーズを用いれば、水の付着による再帰反射性への影響が少なく、安定した再帰反射性が得られる。そして、屈折率1.93の自反射ビーズAを用いても、撥水性を付与することで水の付着を防ぎ、再帰反射性の低下を回避できる。また、長期間の使用で、ゴミ、ホコリ、排気ガスによる塵埃などが付着した場合にも再帰反射性が低下することが懸念されるが、防汚性を付与することで、このような再帰反射性の低下を回避できる。
【0065】
実施例6,7は、透明樹脂の種類が他の実施例と異なるものであり、耐水密着性はやや劣るものの、他の実施例と同様に、再帰反射性に不足はない。
特に、実施例1〜14においては、上記のように十分な再帰反射性を有していながら、ビーズ面積率を抑えることで、塗装材本来の色調やツヤを生かすこともできている。したがって、塗装材が本来有する色調やツヤを生かす必要がある場合には、ビーズ面積率を低く設定しておくことが好ましい。
比較例1は、単に、基材にダークブラウンの塗装を施したものであって、再帰反射性を与えるための何らの工夫も施していないため、当然、十分な反射輝度が得られていない。
【0066】
比較例2は、表面に反射膜を有しないガラスビーズを用いているため、十分な反射輝度が得られていない。
比較例3は、比較例2において、透明樹脂にマイカを添加したものであるが、反射輝度が僅かに向上するものの不十分であり、しかも、マイカによって、基材本来の色調が隠蔽されている。
ここで、上記実施例で作製した各塗装材のそれぞれについて、ビーズ面積率を横軸、再帰反射輝度係数を縦軸にとり、各塗装材における測定結果をプロットしたグラフを図17に示し、また、ビーズ面積率を横軸、明度を縦軸にとり、各塗装材における測定結果をプロットしたグラフを図18に示す。
【0067】
図17の結果からは、ビーズ面積率(x)のみを変化させた場合の再帰反射輝度係数(y)の変化は、ほぼ直線状の関係(図17に示す結果では、y=0.0077x+0.0262)となる実験式を得ることができた。
また、同様に、図18の結果からは、ビーズ面積率(x)のみを変化させた場合の明度(y)の変化も、ほぼ直線状の関係(図18に示す結果では、y=0.0281x+1.7591)となる実験式を得ることができた。
上の結果から、ビーズ面積率が再帰反射輝度係数および明度と相関する事実、ならびに、本発明のように再帰反射性に優れた自反射ビーズを用いれば、ビーズ面積率を少なくしても、十分な反射輝度が見込めるという事実が認められる。
【0068】
特に、明度については、図18におけるビーズ面積率(x)と明度(y)の関係を示す「y=0.0281x+1.7591」なる実験式を利用して、ビーズ面積率の変化と上述の明度の評価基準との対応を考察すると、ビーズ面積率が、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましいことが分かった。具体的には、50%以下であれば3点以上、そして、40%以下であれば4点以上となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、自反射ビーズがその再帰反射性を十分に発揮して夜間走行中の車両などからの視認性に優れる、塗装方法およびこれに用いる再帰反射性塗料を、塗装工程上の煩雑さを避けつつ、提供するものであり、再帰反射性が求められるあらゆる用途、例えば、防護柵やその構成部品、道路標識、自動車の外装(バンパーやドア)、列車の外装、航空機の胴体や翼、ヘリのプロペラ、風車の羽、船の外装など、あらゆる用途に好適に利用することができる。その高い反射効率を利用してビーズ面積率を少なくするようにすれば、被塗装物が有する本来の色調やツヤを過度に妨げることなく、十分な再帰反射性によって暗闇における視認性にも優れるので、例えば、近年求められる景観色(ダークブラウンなど)の塗装が施された被塗装物に再帰反射性を付与するための塗装方法および再帰反射性塗料としても、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 基材
20 透明樹脂層
30 自反射ビーズ
31 反射膜
40 水膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、塗装方法。
【請求項2】
前記自反射ビーズは屈折率が1.8〜2.0の自反射ビーズを含み、その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている、請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記自反射ビーズは屈折率が2.1〜2.5の自反射ビーズを含み、その全体を透明樹脂層内に埋没させている、請求項1または2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記自反射ビーズと透明樹脂を必須とする塗料を塗装した後、該塗膜表面に撥水性および/または防汚性を付与する、請求項1から3までのいずれかに記載の塗装方法。
【請求項5】
その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、請求項1から4までのいずれかに記載の塗装方法に適用される、再帰反射性塗料。
【請求項1】
その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とする塗料を、透明樹脂により基材表面に固定されたときの自反射ビーズの反射膜の位置決めを無作為として塗装することにより、被塗装面に再帰反射性を付与する、塗装方法。
【請求項2】
前記自反射ビーズは屈折率が1.8〜2.0の自反射ビーズを含み、その頂部を周囲の透明樹脂層から突出させている、請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記自反射ビーズは屈折率が2.1〜2.5の自反射ビーズを含み、その全体を透明樹脂層内に埋没させている、請求項1または2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記自反射ビーズと透明樹脂を必須とする塗料を塗装した後、該塗膜表面に撥水性および/または防汚性を付与する、請求項1から3までのいずれかに記載の塗装方法。
【請求項5】
その表面の一部に反射膜が形成されている球形で透明のビーズである自反射ビーズと透明樹脂とを必須とし、請求項1から4までのいずれかに記載の塗装方法に適用される、再帰反射性塗料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−206655(P2011−206655A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75689(P2010−75689)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(599056530)株式会社小松プロセス (18)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(599056530)株式会社小松プロセス (18)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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