説明

塗装機用汚れ防止カバー

【課題】汚れ防止カバー全体に対する霧化塗粒の付着を抑えることによりカバーの交換回数を減らし、生産性の向上を図る。
【解決手段】誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材21と、該第1のシート材21より誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材22と該第2のシート材22より誘電率の低い絶縁性のある第3のシート材23とを積層した3層構造の複合シート24を素材として形成し、第2のシート材21は、第1および第3のシート材21、23と共に、その一端を塗装機の静電高電圧部10に近接して配置すると共に、その他端を塗装機のアース部11から離して配置して電気的に絶縁する。第1および第2のシート材21、22により塗装機本体5の表面の電位分布の乱れの影響を緩和し、第3のシート材23の表面の電位分布を一様として、該表面に対する霧化塗粒の付着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装用塗装機の表面を覆う汚れ防止カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装は、塗装機の回転霧化頭に高電圧を印加して霧化塗粒を負に帯電させ、被塗物側を陽極として静電力により被塗物に塗粒を吸着させる塗装方法であり、塗着効率に優れていることから、自動車ボデー等の塗装に多用されている。
【0003】
ところで、この種の静電塗装では、周辺に飛散した霧化塗粒の一部が塗装機の表面に付着し、そのまま放置すると、塗装途中で塗装機から垂れ落ち、塗装品質を悪化させる原因になる。このため、一定時間ごとに塗装機の汚れを落とす清掃作業が必要になるが、塗装機の清掃を行うには、稼動を停止させる必要があり、また、場合によって塗装ロボットから塗装機を取り外さなければならず、その間、塗装が中断されて、生産性が犠牲になってしまう。
【0004】
そこで、従来一般には、塗装機にカバーを被せ、カバーの交換だけで塗装機の汚れに対処するようにしていた。この場合、カバーの素材としては、霧化塗粒の付着をできるだけ抑えることを意図して、絶縁性の高い樹脂が多く用いられているが、一部では、半導電性樹脂の使用も試みられている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−74555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塗装機に上記したカバーを被せた場合、部位によってはカバーに対する霧化塗粒の付着が進む現象が起き、かなりの頻度でカバーを交換しなければならず、期待するほど生産性が上がらない、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、汚れ防止カバー全体に対する霧化塗粒の付着を抑えることによりカバーの交換回数を減らし、もって生産性の向上に大きく寄与する塗装機用汚れ防止カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記カバーに対する霧化塗粒の部分的な付着現象について鋭意検討する中、塗装機表面の電位分布の乱れがカバーに影響し、カバー表面の電位差が不均一になっていることが原因している、との結論に至った。すなわち、塗装機の本体は絶縁性の樹脂からなっており、塗装機本体の表面には、回転霧化頭側を最高電位とし、塗装ロボットとの連結側(アース側)を最低電位とする電位が分布している。しかるに、塗装機の内部には、回転霧化頭を回転させるためのモータ(エアモータ、電動モータ)および回転霧化頭に印加する高電圧を発生する高電圧発生器が内蔵されるほか、エア通路や塗料通路などが設けられている。このため、塗装中における塗装機表面の電位分布は複雑で、電位差の高い部分と電位差の低い部分とが混在し、その影響がカバーに及んで霧化塗粒の部分的な付着が進むものと推定される。
【0008】
本発明は、上記した知見に基いてなされたもので、誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材と、該第1のシート材より誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材と該第2のシート材より誘電率の低い絶縁性のある第3のシート材とを積層した複合シートを素材して形成されていることを特徴とする。このように3層構造とすることで、塗装機表面の電位分布に乱れがあっても、下層の第1のシート材と中層の第2のシート材とによってその乱れの影響が緩和され、上層の第3のシート材の表面の電位分布は一様となり、これによってカバーに対する霧化塗粒の部分的な付着現象が抑えられる。
以下に、本発明の態様をいくつか例示し、それらについて項分けして説明する。
【0009】
(1)静電塗装用塗装機の表面を覆う汚れ防止カバーであって、誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材と、該第1のシート材より誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材と該第2のシート材より誘電率の低い絶縁性の第3のシート材とを積層した複合シートを素材として、前記第1のシート材が内側となる配置で形成され、前記第2のシート材は、その一端が前記塗装機の静電高電圧部に近接してまたは接続して配置されると共に、その他端が該塗装機のアース部から離して配置されることを特徴とする塗装機用汚れ防止カバー。
【0010】
本(1)項記載の汚れ防止カバーにおいては、塗装機側に誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材を配置することで、塗装機表面の電位分布に乱れがあっても、その影響が第1のシート材によってある程度緩和される。また、第1のシート材の上に誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材を積層して、これをアース部から離して電気的に絶縁しているので、該第2のシート材の表面に高い電位が分布し、電位分布の乱れの影響が大きく緩和される。また、この第2のシート材の上に誘電率の低い絶縁性のある第3のシート材を積層しているので、該第3のシート材の表面における電位分布は一様(電位差が均一)となり、この結果、汚れ防止カバーの全体に対する霧化塗粒の付着が抑制される。
【0011】
(2)第2のシート材の他端部を切り欠いて、第1および第2のシート材の端面より後退させることにより、該第2のシート材の他端をアース部から離すことを特徴とする(1)項に記載の塗装機用汚れ防止カバー。
【0012】
本(2)項記載の汚れ防止カバーにおいては、第2のシート材の他端部を切り欠いて後退させることにより、該第2のシート材の他端をアース部から簡単に離すことができる。
【0013】
(3)第1および第3のシート材がポリ4ふっ化エチレンからなり、第2のシート材がポリウレタンからなることを特徴とする(1)または(2)項に記載の塗装機用汚れ防止カバー。
【0014】
本発明において、各シート材の材種は任意であるが、(3)項に記載の発明のように第1および第3のシート材としてポリ4ふっ化エチレンを、第2のシート材としてポリウレタンをそれぞれ選択する場合は、材料入手が容易で製作が簡単となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る塗装機用汚れ防止カバーによれば、カバー全体に対する霧化塗粒の付着を抑えることができるので、カバーの交換回数を減らすことが可能になり、生産性の向上に大きく寄与するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて説明する。
【0017】
図1〜3は、本発明に係る汚れ防止カバーの一つの実施形態を示したものである。これらの図において、1は静電塗装用塗装機、20は、該塗装機1を覆う本発明に係る汚れ防止カバーである。塗装機1は、回転霧化頭2と、回転霧化頭2を回転駆動するエアモータ3および回転霧化頭2に印加する高電圧を発生する高電圧発生器4を内蔵する塗装機本体5と回転霧化頭2に供給する塗料の供給源である塗料カートリッジ6とから概略構成されており、汚れ防止カバー20は、塗装機本体5の全体を覆っている。なお、塗装機としては、回転霧化頭2の回転駆動に電動モータを用いたものもあり、本発明は、このような塗装機にも適用できる。
【0018】
塗装機本体5は、ここでは、エアモータ3を収めた動力部5Aとこの動力部5Aに対して交差して配置され、前記高電圧発生器4を収めた高電圧発生部5Bとを備えており、その全体は、絶縁性樹脂により形成されている。回転霧化頭2は、エアモータ3から延ばした中空回転軸7の先端部に取付けられており、この回転霧化頭2内には、塗料カートリッジ6から前記中空回転軸7を挿通して延ばしたフィードチューブ8の先端部が導入されている。塗料カートリッジ6は、その一部が塗装機本体5の動力部5Aの後端部に形成した凹部5a内に収められており、この状態で凹部5aの底に導入した負圧を利用して塗装機本体5に着脱されるようになっている。塗料カートリッジ6は、流体圧により作動するピストンを内蔵しており、塗料カートリッジ6内の塗料は前記ピストンの作動に応じてフィードチューブ8を経て回転霧化頭2に供給される。
【0019】
上記エアモータ3のケーシング3aは金属からなっており、このケーシング3aには、前記高電圧発生器4から内部ケーブル9を経て静電高電圧(一例として、−90kV)が供給されるようになっている。このエアモータ3のケーシング3aと前記回転霧化頭2とは前記金属製の中空回転軸7を介して接続されており、このケーシング3aに供給された静電高電圧は、そのまま回転霧化頭2に印加される。また、塗装機本体5の動力部5Aの先端には、回転霧化頭2の周囲にシェーピングエアを吐出するためのシェーピングエア吐出用リング10が配設されている。このリング10は、ここでは金属からなっており、エアモータ3のケーシング3aに連接して設けられている。これによりリング10にも、エアモータ3のケーシング3aを介して静電高電圧が印加され、したがって、このシェーピングエア吐出用リング10は塗装機1における静電高電圧部となっている。
【0020】
一方、塗装機本体5の高電圧発生部5Bの端部は、図4に示す塗装ロボットRの手首部Raに対する連結部11となっている。より詳しくは、高電圧発生部5Bの端部と塗装ロボットRの手首部Raとは、金属製のエンドプレート12を介して突き合され、この状態で、高電圧発生部5Bの端部フランジ部13に係止されたナット14を手首部Raに螺合させることにより、塗装機1が塗装ロボットRの手首部Raに連結されるようになっている。エンドプレート12には、エアモータ3にエアを送るためのエア通路に通じる接続口をはじめ、高電圧発生器4に電力を供給するための接続口、塗料カートリッジ6にピストン駆動用流体を送るための接続口、塗料カートリッジ6を収めた凹部5a内に負圧を送るための負圧通路に通じる接続口等が設けられており、前記手首部Raに対する塗装機1の連結に応じて前記各接続口に対して、対応する配管類が接続される。塗装ロボットRの機体は接地されており、これによって前記エンドプレート12および手首部Raを含む連結部11はアース部となっている。
【0021】
本発明に係る汚れ防止カバー20は、図3に示されるように、誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材21(1012〜1020Ω・cm)と、この第1のシート材21より誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材22(109〜1011Ω・cm)とこの第2のシート材22より誘電率の低い絶縁性のある第3のシート材23(1012〜1020Ω・cm)とを積層した3層構造の複合シート24を素材として形成されている。各シート21〜23は相互に接着材を介して接合されており、汚れ防止カバー20は、第1のシート材21が内側となる配置で形成されている。本実施形態において、前記第1および第3のシート材21、23としてはポリ4ふっ化エチレン(1018Ω・cm)が、第2のシート材22としてポリウレタン(1011Ω・cm)がそれぞれ選択されている。また、各シート21〜23は、0.1〜1.0mmの範囲で任意の板厚となっている。この場合、各シート21〜23の板厚は同一であっても、異っていてもよい。
【0022】
本汚れ防止カバー20(以下、単にカバー20という)は、図2に示されるように、三角帽子状に成形された本体部20aと該本体部20aの開口を塞ぐ可撓性のドア部20bとからなっている。本体部20aの開口部の外面とドア部20bの内面には、相互に係脱可能な複数のホック25が設けられており、該ホック25を利用してドア部20bを閉じることで、本カバー20は全体として三角形の袋状となる。なお、前記ホック25は、面ファスナー等の他の係脱手段に代えてもよいことはもちろんである。
【0023】
本カバー20を構成する本体部20aの頂部には、回転霧化頭2およびシェーピングエア吐出用リング10を含む塗装機1の先端部が挿通可能な孔26が形成されている。カバー20を塗装機1に装着するには、ドア部20bを開いた状態で塗装機1に被せて、前記孔26から塗装機1の先端部を突出させるようにし、その後、前記ホック25を利用してドア部20bを閉じる。これにより塗装機本体5の全体がカバー20により覆われ、図1および3に示されるように、カバー20を形成する複合シート24の一端(孔26の開口縁)が静電高電圧部であるシェーピングエア吐出用リング10に隣接して配置されると共に、その他端がアース部である連結部11に隣接して配置される。
【0024】
一方、アース部である連結部11に隣接して配置される複合シート25の他端側では、図3に示されるように、中間層の第2のシート材22が所定の幅Sだけ切り欠かれている。すなわち、第2のシート材22の他端は、アース部である連結部11から離して配置されており、これにより第2のシート材22は電気的に絶縁されている。なお、前記幅Sは、一例として2cm程度の大きさとなっている。
【0025】
上記塗装機1を用いて静電塗装を行う場合は、エアモータ3のケーシング3aを介して回転霧化頭2に高電圧発生器4で発生した静電高電圧を印加しながら、エアモータ3により回転霧化頭2を高速で回転させ、この回転霧化頭2に塗料カートリッジ6から塗料を送る。すると、回転霧化頭2により塗料が霧化されると共に、霧化塗料が負に帯電され、霧化塗料は、陽極に設定された被塗物に向けて飛行して静電力により該被塗物に付着する。
【0026】
上記静電塗装中、塗装機本体5の表面には、静電高電圧部であるシェーピングエア吐出用リング10側(回転霧化頭2側)を最高電位とし、アース部である塗装ロボットRとの連結部11側を最低電位とする電位が分布しているが、その電位分布は、エアモータ3や高電圧発生器4の内蔵などの影響で一様とならず、前記したように単に絶縁性または半導電性のカバーを被せただけでは、部位によってはカバーに対する霧化塗粒の付着が進み、かなりの頻度でカバーの交換を行わなければならないことになる。
【0027】
しかし、本実施形態においては、電気特性の異なる3枚のシート材21〜23を積層した複合シート24を素材としてカバー20を形成しているので、塗装機本体5の表面の電位分布の乱れの影響が緩和され、上層の第3のシート材23の表面の電位分布は一様となり、これによってカバー20に対する霧化塗粒の部分的な付着現象が抑えられる。より詳しくは、塗装機本体5側に誘電率の低い絶縁性の第1のシート材21を配置することで、塗装機表面の電位分布に乱れがあっても、その影響が第1のシート材21によってある程度緩和される。また、第1のシート材21の上に誘電率の高い半導電性の第2のシート材22を積層して、これをアース部である塗装ロボットRとの連結部11から離して電気的に絶縁しているので、該第2のシート材22の表面に高い電位が分布し、電位分布の乱れの影響がさらに緩和される。また、この第2のシート材22の上に誘電率の低い絶縁性の第3のシート材23を積層しているので、該第3のシート材23の表面における電位分布は一様(電位差が均一)となる。これによりカバー20の全体に対する霧化塗粒の付着が抑制され、結果としてカバー20の交換回数が減じ、その分、生産性が向上する。
【実施例1】
【0028】
図4に示すように自動車ボデーWの塗装ラインに設置された塗装ロボットRに、本汚れ防止カバー20を被せた塗装機1を持たせ、ライン上を流れる自動車ボデーWを対象に、回転霧化頭2の回転数25000rpm、塗料吐出量250〜300ml/minの条件でメタリック塗装(静電塗装)を行い、カバー20の交換が必要になるまでの塗装時間を求めた。また、比較のため、ポリ4ふっ化エチレンのシート材(板厚1.0mm)から形成したカバー(比較カバー)を塗装機1に被せ、前記同様にメタリック塗装を行った。この結果、本汚れ防止カバー20の場合は、8時間まで交換を必要としなかったが、比較カバーの場合は、2時間で交換を必要とし、本カバーが、塗装機の汚れ防止に大きな効果を発揮することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る汚れ防止カバーの塗装機に対する装着状態と塗装機の構造とを示す断面図である。
【図2】本汚れ防止カバーの全体的構造と塗装機に対する装着状態を示す斜視図である。
【図3】本汚れ防止カバーを構成するシート材の積層構造を示す模式図である。
【図4】自動車ボデーを対象に行った本発明の実施例の実施状況を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 塗装機
2 回転霧化頭
3 エアモータ
4 高電圧発生器
5 塗装機本体
6 塗料カートリッジ
10 シェーピングエア吐出リング(静電高電圧部)
11 ロボットに対する塗装機の連結部(アース部)
20 汚れ防止カバー
21 第1のシート材
22 第2のシート材
23 第3のシート材
24 複合シート
Ra ロボットの手首部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電塗装用塗装機の表面を覆う汚れ防止カバーであって、誘電率の低い絶縁性のある第1のシート材と、該第1のシート材より誘電率の高いもしくは半導電性の第2のシート材と該第2のシート材より誘電率の低い絶縁性のある第3のシート材とを積層した複合シートを素材として、前記第1のシート材が内側となる配置で形成され、前記第2のシート材は、その一端が前記塗装機の静電高電圧部に近接してまたは接続して配置されると共に、その他端が該塗装機のアース部から離して配置されることを特徴とする塗装機用汚れ防止カバー。
【請求項2】
第2のシート材の他端部を切り欠いて、第1および第2のシート材の端面より後退させることにより、該第2のシート材の他端をアース部から離すことを特徴とする請求項1に記載の塗装機用汚れ防止カバー。
【請求項3】
第1および第3のシート材がポリ4ふっ化エチレンからなり、第2のシート材がポリウレタンからなることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装機用汚れ防止カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−284475(P2008−284475A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132865(P2007−132865)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591274059)ランズバーグ・インダストリー株式会社 (38)
【Fターム(参考)】