説明

塗装物質

本発明は、塗装壁、建築物の正面等に用いる物質に関する。本発明の物質は、380nmと500nmの間の吸収波長、特に400nmと450nmの間の吸収波長において、0.8未満の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))、特に0.5未満の吸光度を有する少なくとも一つのバインダーと、0.005を超える吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))、0.01を超える吸光度、最も好ましくは上記波長において0.2以上の吸光度を有する少なくとも一つの光触媒作用を果たす活性剤とを含有している。そのような物質の使用とともにそのような物質の製造方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装壁、建築物の正面等に用いる物質に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような物質は、例えば、インテリア用途およびエクステリア用途における塗料および漆喰のような被覆システムの製造のために使用されている。そのような物質の特別の適用領域は、断熱複合システムの製造である。これらの用途において、そのような物質は、特に、断熱複合システムの頂部塗装の形成のために使用することができる。このとき、ある場合には、断熱複合システムが完成すると、頂部塗装に藻類および菌類がはびこることがある。特に、建築物の北側にそれら藻類および菌類がはびこりやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当業界におけるこれらの問題点に鑑みて、本発明の目的は、上記種類の物質を提供することに伴う問題を解決することにあり、そのような藻類および菌類の成長を効率的に阻止することが可能な物質と、そのような物質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に従って、この問題は、公知の物質をさらに改良することによって解決される。本発明の物質は、380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長において相当量の光を吸収する光触媒作用を果たす活性剤を含有することを特徴としている。
【0005】
本発明は、光触媒作用を果たす活性剤が、ドイツ国特許出願公開第10064317号明細書に記載されているように、汚染物質の分解だけでなく、藻類および菌類の細胞の成長を阻止するために使用することができるという洞察力に基づいている。このプロセスにおいて、本発明に従って使用される光触媒作用を果たす活性剤は、通常の太陽光線を利用して、反射および分散を経て建築物の内部および北側においてもその特別の機能を発揮する一方、同時に光触媒作用を果たす活性剤における光触媒作用は、上記特性を備えたバインダーを使用することによって確実に達成される。その結果、藻類および菌類の成長を阻止するために一般的に利用されている殺菌剤を使用することなく、藻類および菌類の成長を効率的に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
特に、本発明の好ましい実施形態において、バインダーの吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))に対する光触媒作用を果たす活性剤の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))の比は、380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長において、6.25×10-3より大きく、好ましくは、1×10-2より大きい。この物質において、もし、光触媒作用を果たす活性剤が同じ測定条件下における吸収波長において、0.005超の吸光度、特に、0.01超の吸光度、特に好ましくは、0.02以上の吸光度を示せば、バインダーは、380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長、特に、400nmから450nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長において、0.8未満の吸光度、特に、0.5未満の吸光度を示す。
【0007】
本発明で使用されるバインダーは、無機成分および/又は有機成分を含有することができる。場合によるが、無機成分のみを含有するバインダーを使用すると、バインダーが光触媒作用によって分解することを防ぐことができるということに関して好都合である。
【0008】
本発明の特に好ましい実施形態において、バインダーは少なくとも一つの有機成分および少なくとも一つの無機成分である。注意深くバインダーを選択することによって、光触媒作用を果たす物質によって生成するラジカルによるバインダーの分解と壁や建築物の塗装の表面のチョーキングが起こらないようにすることができる。
【0009】
本発明の特に好ましい実施形態において、光触媒作用を果たす活性剤は、半導体、特に二酸化チタンである。半導体について、光触媒作用は、光を入射させることによって電子空孔対が生成することによって起こる。その結果、物質の表面に高反応性のフリーラジカルが生成し、細胞の成長を阻止することができる。二酸化チタンは、そのような半導体である。二酸化チタンを使用することによって、例えば、S、Nおよび/又はCのような異物と混合すると、特に、例えば、S、Nおよび/又はCのような異物がドーピングされると、400nmから450nmの波長範囲内において光触媒作用を達成することができるようになる。
【0010】
本発明によって、光触媒作用を果たす活性剤としての二酸化チタンの硫黄および/又は炭素の含有量が0.05重量%から4重量%で、好ましくは、0.05重量%から2重量%で、特に好ましくは、0.4重量から1.5重量%であれば、400nmから450nmの波長範囲における好ましい光触媒作用という点から特に有利であることが分かった。硫黄および/又は炭素と混合される二酸化チタンがアナタース形であれば、好ましい効果が特に顕著に示されることが分かった。さらに、本発明に係る物質の二酸化チタン粒子の表面層にのみ硫黄および/又は炭素が存在するならば、有利であることが分かった。
【0011】
もし、光触媒作用を果たす活性剤が、BETに従って100m2/gから250m2/gの比表面積を有し、好ましくは、130m2/gから170m2/gの比表面積を有し、および/又は光触媒作用を果たす活性剤が、X線光電子スペクトルまたは赤外線スペクトルのいずれにおいても炭酸塩のバンドを示さなければ、光触媒作用を果たす活性剤は特に好ましい作用を奏する。400nmから450nmの波長範囲における光触媒作用を果たす活性剤の特に高い吸光度を考慮して、もし、好ましくは、溶媒に溶解したチタン含有化合物を有機炭素化合物と混合し、500℃以下、好ましくは400℃以下、特に好ましくは350℃以下であって、150℃超、特に200℃以上の温度で上記混合物を熱処理することによって、光触媒作用を果たす活性剤が少なくとも部分的に調製されるならば、有利であることが分かった。
【0012】
このようにして得られる光触媒作用を果たす活性剤は、530eVにおけるO1sバンドに関するX線光電子スペクトル(XPS)における285.6eVの結合エネルギーにおいて特に強い吸収バンドを示す。
【0013】
細胞の成長を特に効率的に抑制する物質を得るために、できる限り硫酸塩プロセスから得られたチタン水和物であるチタン含有化合物とともに、アモルファス酸化チタン、部分的に結晶である酸化チタン、結晶酸化チタン、含水酸化チタン、チタン水和物またはチタン酸水和物を使用して、光触媒作用を果たす活性剤を製造することが好都合であることが分かった。
【0014】
乾燥後の固体のSO3含有量が1重量%未満となるように、チタン水和物を前もって中和し、洗浄することができる。
【0015】
本発明の物質で使用される光触媒作用を果たす活性剤の製造のために使用される炭素化合物は、最大400℃の分解温度、好ましくは、350℃以下の分解温度、特に好ましくは、300℃以下の分解温度を有している。本発明において、炭素化合物は、少なくとも一つの官能基、例えば、OH−基、CHO−基、COOH−基、NHX基および/又はSHX基のような官能基を含有することができる。エチレングリコール、グリセリン、炭水化物、水酸化アンモニウム又はそれらの混合物を使用すると、特に好都合であることが分かった。付加的にまたは代替えとして、カーボンブラックまたは活性炭を炭素化合物として使用することができる。
【0016】
本発明の物質において使用される光触媒作用を果たす活性剤を製造する場合、連続的に作動するカ焼炉、好ましくは回転炉において熱処理を施すことができる。それによって、
粉末状またはスラッジ状の市販の二酸化チタンを溶媒に溶解して、懸濁液を調製するために使用し、少量の二硫化炭素化合物をこの懸濁液に添加して混合し、溶媒を除去した後、残渣を乾燥温度で乾燥し、それから、カ焼温度でカ焼する。例えば、水を溶媒として使用
することができる。
【0017】
特に強い光触媒作用を果たすことを考慮すると、乾燥残渣を閉じた容器内で300℃まで1時間以内で加熱し、それから、300℃でさらに3時間保持することが有利であることが分かった。加熱による粉末残渣のカ焼は、白色から暗褐色への色の変化に続いて、さ
らに、別の色の変化が起こるまで行われることが好都合である。
【0018】
少なくとも一つのバインダーと光触媒作用を果たす活性剤に加えて、本発明の物質は、例えば、ポリリン酸ナトリウム、ポリアクリレートの溶液、および/又はナトリウム塩のような分散剤と、例えば、変性メチル−ヒドロキシ−エチル−セルロース、疎水性ポリウレタン、セルロースエーテル、および/又はポリサッカライドのような増粘剤と、例えば、パラフィン油、乳化剤を伴う疎水性のケイ酸、および/又は水中において乳化させた疎水性のケイ酸を伴うポリシロキサン共重合体の混合物のような消泡剤と、例えば、二酸化チタンのような少なくとも一つの顔料と、例えば、ケイ酸塩、カオリンのような少なくとも一つの充填剤と、例えば、カリウム−メチル−ケイ酸塩水溶液のような少なくとも一つの疎水化剤と、および/又は、例えば、イソチアゾリノン(isothiazolinone)のような少なくとも一つの殺菌剤もしくは缶入り防腐剤とを含有することができる。本発明の物質で得られる被覆は、6mmまでの大きさの粒径から構成される。それらの薬剤に加えて、または代替えとして、本発明の物質は、活性炭、ケイ酸およびマイクロシリカのような吸着剤を含有することができる。この場合、吸着剤で吸着された物質は、光触媒作用を果たす活性剤を使用して効率的に分解することができる。
【0019】
本発明の物質は、固体の完全な湿潤が起こらないような固相が液相またはバインダー相に転化される超臨界組成物であれば、特に好都合であることが分かった。この場合、多孔質被覆が形成され、除去すべき汚染物質と光触媒作用を果たす活性剤との間に信頼性の高い接触が確保される。
【0020】
本発明の物質は、活性炭、ケイ酸、マイクロシリカ、シリカゲル、ゼオライト、ベントナイト、珪藻土、泡ガラスなどのような吸着剤を含有することが好ましい。
【0021】
本発明において使用される光触媒作用を果たす活性剤は、特に、硫黄および/又は炭素含有二酸化チタンをベースとして、400nm超の波長範囲において、純粋二酸化チタンに比べて相当多い光吸収量である電子スピン共鳴スペクトルを示す(vlp−TiO2)。5Kの温度で測定すると、1.97から2.05のg値の範囲内においてのみ相当量の信号を表示することが分かった。
【0022】
本発明の物質を製造する場合において、第一工程において、無機バインダー中に光触媒作用を果たす活性剤を分散させることによって中間製品が製造され、第二工程において、その中間製品を有機バインダーと混合することが、特に好都合であることが分かった。この工程の中で、光触媒作用を果たす活性剤および光触媒作用を果たす活性剤とともに製造されるラジカルに関して不活性である無機バインダーから第一工程において凝固体が製造される。この凝固体は、第二工程において、有機バインダーを介して互いに結合することができる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態は、以下の表に記載されている。数字は、それぞれの成分の重量%を表す。
《実施形態1−インテリア用途のためのシリコーン樹脂塗料》
【0024】
【表1】

【0025】
《実施形態2−インテリア用途のためのケイ酸塩塗料》
【0026】
【表2】

【0027】
《実施形態3−インテリア用途のためのケイ酸塩/シリコーン塗料》
【0028】
【表3】

【0029】
《実施形態4−インテリア用途のためのシリコーン漆喰》
【0030】
【表4】

【0031】
《実施形態5−インテリア用途のためのケイ酸塩漆喰》
【0032】
【表5】

【0033】
《実施形態6−エクステリア用途のためのシリコーン樹脂塗料》
【0034】
【表6】

【0035】
《実施形態7−エクステリア用途のためのケイ酸塩塗料》
【0036】
【表7】

【0037】
《実施形態8−エクステリア用途のためのケイ酸塩/シリコーン塗料》
【0038】
【表8】

【0039】
《実施形態9−エクステリア用途のためのシリコーン漆喰》
【0040】
【表9】

【0041】
《実施形態10−エクステリア用途のためのケイ酸塩漆喰》
【0042】
【表10】

【0043】
《実施形態11−エクステリア用途のための分散ニス》
【0044】
【表11】

【0045】
《実施形態12−エクステリア用途のための凝固釉薬》
【0046】
【表12】

【0047】
《実施形態13−エクステリア用途のための石灰漆喰》
【0048】
【表13】

【0049】
《実施形態14−インテリア用途のための石灰漆喰》
【0050】
【表14】

【0051】
《実施形態15−エクステリア用途のためのセメント漆喰》
【0052】
【表15】

【0053】
《実施形態16−エクステリア用途のためのセメント漆喰》
【0054】
【表16】

【0055】
《実施形態17−インテリア用途のための石膏漆喰》
【0056】
【表17】

【0057】
《実施形態18−インテリア用途のための石膏/石灰漆喰》
【0058】
【表18】

【0059】
本発明の物質は、例えば、塗料、漆喰、ニスおよび釉薬のようなすべての被覆の分野において使用することができる。例えば、石造建築、漆喰表面、塗装面、木材と金属とガラスとセラミック表面の壁紙、断熱複合システムおよび/又は建築物における正面要素等のようなインテリア用途およびエクステリア用途として、新旧の建造物の表面下で使用することができる。
【0060】
以下において、本発明の物質の製造において、光触媒用途に好適で、特に好都合である光触媒作用を果たす活性剤であるvlp−TiO2について詳細に説明する。
【0061】
本発明において使用する上において好適であって、特に好都合であるvlp−TiO2は、当業者に知られているものより高い光触媒効果を有している。455nm以上の波長を有する光に対して特定量のvlp−TiO2を120分間晒すことによる4−クロロフェノールの分解は、光触媒効果(以下、光活性という)の尺度として使用することができる。その測定法は以下に詳細に記載されている。その測定条件の下において、本発明のvlp−TiO2の光活性は、少なくとも20%であり、好ましくは、少なくとも40%であり、特に好ましくは、少なくとも50%である。
【0062】
硫黄および/又は炭素含有量は、二酸化チタンの含有量に対して0.05重量%ないし4重量%であり、好ましくは、0.05重量%ないし2.0重量%であり、特に好ましくは、0.3重量%ないし1.5重量%である。最適効果は、0.4重量%ないし0.8重量%の炭素含有量のときに得られる。
【0063】
二酸化チタン粒子は、表面層にのみ炭素を含有する。それゆえ、サクチベルとキッシュ(Sakthivel & Kisch)(2003)によって調製された二酸化チタンに対して、以下には、炭素変性二酸化チタンと呼称する。本発明によるvlp−TiO2(vlp−二酸化チタン)の炭素または炭素化合物は、二酸化チタン表面の酸素と主として共有結合していると思われ、アルカリによって溶出させることができる。
【0064】
光触媒剤は、付加的または代替えとして 、窒素および/又は硫黄を含有することができる。
【0065】
非変性二酸化チタンに対して、本発明の物質を製造するために使用するのに好適なvlp−二酸化チタンは、400nm以上の波長を有する可視光線を吸収する。吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)は、500nmにおける数値の約50%であり、400nmにおける数値の約20%である。
【0066】
5Kの温度で測定した本発明において使用するに好適なvlp−二酸化チタンの電子スピン共鳴(ESR)スペクトルは、2.002から2.004のg値、特に2.003のg値において強い信号を発することが特徴である。1.97から2.05のg値範囲において、さらに信号は観察されない。g=約2.003における信号の強度は、暗闇で測定したのとは対照的に、380nm以上の波長を有する光(紫外線のない100ワットのハロゲンランプ、冷光フィルターKG5)に晒すことによって増加する。
【0067】
本発明によるvlp−二酸化チタンのX線光電子スペクトル(XPS)は、530eVにおけるO1sバンドに関する285.6eVの結合エネルギーにおいて強い吸収バンドを示すことが特徴である。
【0068】
サクチベルとキッシュ(Sakthivel & Kisch)(2003)による光触媒とは対照的に、vlp−二酸化チタンは、X線光電子スペクトル(XPS)または赤外線スペクトルのいずれにおいても炭酸塩のバンドを示さないことが、さらに特徴である。
【0069】
可視光線に晒されると、vlp−二酸化チタンは約8゜の水接触角度を示す。他方、非変性二酸化チタンは約21゜の接触角度を示す。
【0070】
本発明において使用するに好適な光触媒は、人工可視光線によって汚染物質の分解ができるだけでなく、インテリア空間における散乱光によっても汚染物質を分解することができる。本発明の物質と接触する空気中の汚染物質を分解することができる。
【0071】
光触媒は、石造建築、漆喰表面、塗装面、木材と金属とガラスとセラミック表面の壁紙、断熱複合システムおよび/又は建築物における正面要素のような建築構成部分に適用した場合の塗料、漆喰、ニスおよび釉薬のようなインテリア用途およびエクステリア用途における被覆として使用することができ、道路の舗装においても使用することができ、プラスチックやプラスチック箔や繊維や紙としても使用することができる。
【0072】
光触媒は、さらに、予備製造されたコンクリート部分、コンクリートで舗装された敷石、屋根タイル、セラミック、タイル、壁紙、繊維、天井および壁用のパネルおよび表面仕上げ要素におけるインテリア用品およびエクステリア用品の製造において使用することができる。
【0073】
建築産業におけるさらなる用途は、二酸化チタン表面の親水性領域に導入される光を増加することによって生まれる。
[実施例]
【0074】
本発明について、図1から図12を参照しながら以下により詳細に説明する。
【0075】
図1は、非変性二酸化チタンとは対照的に、vlp−二酸化チタンが可視スペクトル領域において吸収する波長および暴露の関数として、非変性二酸化チタンに対する吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)(任意の単位)と、炭素で変性された二酸化チタン(vlp−二酸化チタン)に対する吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)(任意の単位)を示す。500nmにおけるF(R∞)は、400nmにおける F(R∞)の約50%であり、 600nmにおけるF(R∞)は、400nmにおける F(R00)の約20%である。
【0076】
図2は、温度5Kで暗闇において捕捉された、本発明において使用するに好適なvlp−二酸化チタンの電子スピン共鳴スペクトル(ESR、スペクトルA)と、サクチベルとキッシュによって製造された二酸化チタンの電子スピン共鳴スペクトル(ESR、スペクトルB)を示す。スペクトルAは、2.003のg値においてのみ強い信号を示す。スペクトルBは、約2.003のg値における主信号に付加して、1.97から2.05のg値の範囲において、さらに3つの信号を示す。
【0077】
図3は、本発明のvlp−二酸化チタンのX線光電子スペクトル(XPS、スペクトルA)とサクチベルとキッシュによる水酸化テトラブチルアンモニウムと四塩化チタンの化合物から析出した公知の二酸化チタンのX線光電子スペクトル(XPS、スペクトルB)を示す。vlp−二酸化チタンのスペクトルAは、530eVにおけるO1sバンドに関する285.6eVの結合エネルギーにおいて顕著なC1s信号を示す。その信号は炭素元素の存在を示すものである。他方、スペクトルBは、284.5eVの結合エネルギーにおいて炭素元素の存在を示唆するC1s信号を示している。さらに、289.4eVと294.8eVの結合エネルギーにおける信号を示しているが、その信号は炭酸塩の存在を示唆するものである。各IRスペクトルは、また、1738cm-1、1096cm-1および798cm-1において、代表的な炭酸塩のバンドを示している。
【0078】
図4は、人工可視光線(455nm以上の波長)による4−クロロフェノール(2.5×10-4モルの水溶液)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。同図は、最初の有機炭素の値(TOC0)に対して溶液中の有機炭素の全量(TOCt)が減少することを示している。vlp−二酸化チタンについては、完全な分解は3時間後に起こる。
【0079】
図5は、インテリア空間の散乱光による4−クロロフェノール(2.5×10-4モルの水溶液)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。同図は、最初の有機炭素の値(TOC0)に対して溶液中の有機炭素の全量(TOCt)が減少することを示している。低強度の散乱光(400nmから1200nmの波長範囲における7W/m2から10W/m2の強度)においても、vlp−二酸化チタンは6時間以内に80%の分解をもたらす。非常に低い強度の散乱光(1.6W/m2から1W/m2未満)においても、vlp−二酸化チタンは、市販の二酸化チタン光触媒(Degussa P25, Kemira UV Titan[チタン], Sachtleben Hombikat, Tayca MT-100SA)に対してかなり大きい光活性を示す。2.5×10-4モルの4−クロロフェノール溶液の分解率の測定は、下記のように実行された。
【0080】
【表19】

【0081】
図6は、インテリア空間の散乱光によるベンゼン(5容積%)、アセトアルデヒド(2容積%)および一酸化炭素(5容積%)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。反応容器は1リットルの丸底のフラスコで、12mgの二酸化チタンを被覆された紙製の丸いフィルターを備えている(直径d=15cm)。最初の有機炭素の値(TOC0)に対して雰囲気中の有機炭素の全量(TOCt)が減少することを示している。図6中の曲線は、非変性二酸化チタンによるアセトアルデヒドの分解とともに、本発明のvlp−二酸化チタンによるベンゼン、アセトアルデヒドまたは一酸化炭素の分解を示している。
【0082】
図7は、vlp−二酸化チタンのX線回折図形を示す。同図形はアナタース形の反射波形を示している。シェラー法に従って計算された結晶粒径は10nmである。
【0083】
図8は、結晶の格子線について、高解像度の透過電子顕微鏡(HTEM)によって形成したイメージを示す。結晶粒径は10nm程度と評価することができる。
【0084】
図9は、Vlp−二酸化チタンの炭素の深さ方向のプロフィルをC/Ti比で表したものである。それは、イオン衝撃(Ar+)とESCA分析手法を使用して決定された。5×103秒の衝撃時間は約5nmの深さに相当する。
【0085】
図12は、光触媒作用を果たす活性剤をクベルカ−ムンク関数で比べた場合について、異なるバインダーを有する本発明の物質のクベルカ−ムンク関数を示す。
【0086】
本発明において使用するに好適な光触媒作用を果たす活性剤の製造方法は、アモルファスのチタン酸化物、部分的に結晶であるチタン酸化物、結晶のチタン酸化物、含水チタン酸化物、チタン水和物および/又はチタン酸水和物の形態であるチタン化合物をベースとし、最初のチタン化合物が以下のような物質であるチタン化合物をベースとしている。
【0087】
二酸化チタンの製造において、最初のチタン化合物は、例えば、硫酸塩法または塩化物法を使用して製造することができる。チタン水和物、チタン酸水和物またはメタチタン酸は、例えば、硫酸チタンまたは塩化チタンの加水分解において析出する。
【0088】
最初のチタン化合物としては、BET法に従って少なくとも50g/m2である固体の比表面積、好ましくは、BET法に従って150g/m2から350g/m2である固体の比表面積、特に好ましくは、BET法に従って150g/m2から250g/m2である固体の比表面積を備えた、微細に粉砕された固体または少なくとも15重量%の固体分を有する懸濁液が利用できる。
【0089】
製造を工業的に実行するために、硫酸塩プロセスによるチタン水和物が経済的な理由で最初のチタン化合物として好ましい。中和法および洗浄法を使用して、チタン水和物からまず粘着性硫酸(adhering sulfuric acid)が除去されるのが好都合である。そこで、固体の硫酸塩分は、乾燥後において、SO3として1重量%未満となる。
【0090】
本発明に従って使用することができる光触媒作用を果たす活性剤の製造において使用するために特に好適な炭素含有物質は、最大で400℃の分解温度、好ましくは300℃未満の分解温度を有している。例えば、木材、カーボンブラックまたは活性炭のような炭素含有物質および特に、少なくとも一つの官能基を有する炭化水素のような有機炭素化合物は、適切であることが分かった。そのような官能基としては、OH、CHO、COOH、NHX、SHX、COORを挙げることができ、Rはアルキルまたはアリール残基である。例えば、琥珀酸、グリセリンまたはエチレングリコールが使用できる。有機水酸化アンモニウム、特に、テトラアルキル−アンモニウム並びに砂糖および他の炭水化物も、また使用することができる。上記化合物の混合物でもよい。約0.7から1.5の炭素/酸素の比率、好ましくは約1の炭素/酸素の比率を有する水溶性ポリアルコール、特に、ペンタイリスライト(pentaerythrite)が使用できる。炭素化合物は、固体、溶液または懸濁物として使用できる。
【0091】
有機炭素化合物は、近接結合を形成できるように、最初のチタン化合物の表面に対して最大限の親和力を有するべきである。
【0092】
最初のチタン化合物は、その表面に炭素化合物の被覆が形成されるように、有機炭素化合物と密接に結合するように混合される。有機炭素化合物は、最初のチタン化合物の表面に物理吸着または化学吸着されて存在することができる。最初のチタン化合物の表面の被覆は、最初のチタン化合物の懸濁液中の炭素化合物の溶解または最初のチタン化合物の懸濁液と炭素化合物の懸濁液との混合によってもたらされる。
【0093】
予め乾燥された粉末状の最初のチタン化合物と炭素化合物を強烈に混合することもできる。また、チタン水和物が使用される場合、炭素化合物は、チタン水和物の製造工程においてできる限り早く加水分解されるように、溶液に混合することができる。最初のチタン化合物と炭素化合物の最終混合物において、最初のチタン化合物に対する炭素化合物の量は、固体として1重量%から40重量%である。
【0094】
最終混合物が懸濁液として利用されるならば、さらなる処理を施す前に、粉末にするために乾燥することができる。この目的のために、スプレー乾燥または流動層乾燥のような公知のプロセスが使用できる。
【0095】
場合にもよるが、仕上げられ、予備乾燥された混合物は最大400℃で熱処理される。熱処理は、酸化雰囲気で実行され、好ましくは空気または酸素−空気混合雰囲気下で実行される。このプロセスにおいて、有機炭素化合物が最初のチタン化合物の表面において分解され、H2O、CO2およびCOが生成する。熱処理は不連続のバッチモード、例えば、市販の試験炉で行うことができるけれども、明確に温度プロフィルを操作できる連続プロセスが経済的な理由で好ましい。各温度プロフィルと必要な保持時間を実行可能なすべてのプロセスは連続プロセスとすることができる。間接的および直接的に加熱された回転炉は、特に好ましい設備である。しかし、連続的に作動する流動層炉、流動層乾燥装置および加熱されたプラウシェア(ploughshare) ミキサーを使用することができる。直前の3つの設備(流動層炉、流動層乾燥装置およびプラウシェアミキサー)は連続モードで作動させることができる。
【0096】
熱処理は、0.05重量%から4.0重量%の炭素含有量、好ましくは、0.05重量%から2.0重量%の炭素含有量、特に好ましくは、0.3重量%から1.5重量%の炭素含有量、および一層好ましくは、0.4重量%から0.8重量%の炭素含有量である製品(Vlp−TiO2)が得られるように実行されるのが好ましい。熱処理工程において、白色から茶色へ、最終的にベージュ色への色の変化が起こる。最終製品は、ベージュ色に僅かに黄色っぽさとともに茶色っぽさが加わった色合いが特徴である。炭素は、表面自身において検出されるとともに、表面層の表面のアモルファス領域または多結晶領域において検出されるのが特徴である。製品は可視光線に対して光活性である。
【0097】
熱処理に引き続いて、製品は、例えば、ピンミル、ジェットミルまたはカウンタージェットミルにおける公知のプロセスを使用して脱凝集化される。紛状で予備乾燥された混合物の場合、大部分に対する熱処理によって、さらに粉砕を必要としない凝集物のない製品を得ることができる。得られる粉体の微細度は、最初のチタン化合物の粒径に依存している。粉体の微細度または製品の比表面積は分離物より僅かに小さいが、分離物と同じ程度の大きさである。光触媒の粉体の好ましい微細度は、光触媒の使用分野に依存している。光触媒の粉体は、二酸化チタン顔料と同じ程度の大きさであるが、光触媒の粉体は二酸化チタン顔料より大きくすることもできるし、小さくすることもできる。BET法による比表面積は、100m2/gから250m2/g、好ましくは、130m2/gから200m2/g、特に好ましくは、130m2/gから170m2/gである。
【0098】
本発明で使用するに好適な光触媒作用を果たす活性剤について、以下の実施例に従ってより詳細に説明する。実施例は本発明の技術的範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0099】
硫酸塩法を使用して調製されたチタン酸水和物ペースト(固体分が35重量%)が、懸濁液を得られるように、室温で蒸留水によって希釈された。その固体分は20%から25%であった。6.0から7.0の範囲のpH値が得られるまで、十分な量のNaOH溶液(36重量%)が添加された。それから、乾燥残渣について測定されたSO3含有量が1重量%未満になるまで、その懸濁液は濾過され、蒸留水によって洗浄された。
【0100】
このようにして中和して洗浄されたチタン酸水和物は、懸濁液(固体分が25%)を得るために再び蒸留水によって希釈された。それから12重量%のコハク酸が添加された。コハク酸は固体として懸濁液に添加され、そのコハク酸が完全に溶解するまで懸濁液は撹拌された。その懸濁液はコハク酸の溶解性を改善するために、約60℃まで加熱された。
【0101】
このようにして調製された懸濁液は、ペースト状になるまで、撹拌しながら表面蒸発器(IR輻射器)によって乾燥された。固体分が98%を超えるまで、ペースト状物質は試験乾燥キャビネット内で150℃で乾燥された。
【0102】
チタン酸水和物とコハク酸の300gの乾燥混合物は、(乳鉢ですりつぶすか又は篩いにかけることによって)、微細に粉砕された。このようにして得られた粉末はカバーをかけた石英皿に載せて、290℃の試験炉内に置かれた。1時間から2時間ごとに、石英皿は取り出されて、粉末が混合された。このようにして試験炉内に石英皿を13時間から15時間置いた後、粉末の色は最初の黄色みがかった色からグレーブラックへ、さらには黄色みがかった茶色へと変化した。炭素含有量が最初の5重量%ないし5.5重量%から0.65重量%ないし0.80重量%に減少すると、vlp−TiO2における熱処理は完了する。
【0103】
引き続いて、光触媒は脱凝集化され、炭素含有量と光学特性とBET表面積と光活性が調べられた。
【実施例2】
【0104】
12重量%のペンタイリスライトが固体としてチタン酸水和物の懸濁液に添加されたことが異なる点を除けば、実施例1と同様の方法が実施された。
【実施例3】
【0105】
5重量%のペンタイリスライトが固体としてチタン酸水和物の懸濁液に添加されたことが異なる点を除けば、実施例2と同様の方法が実施された。
【実施例4】
【0106】
実施例1に記載したようにして、5重量%のペンタイリスライトを使用して、チタン酸水和物とペンタイリスライトの懸濁液が調製された。実施例1の変形例として、このようにして得られた懸濁液の熱処理は、連続的に作動する回転炉を使用して以下のように実行された。
【0107】
回転炉は逆流モードで作動し、ガスバーナーにより直接的に加熱された。ガスバーナーの炎は炎管によって保護され、炎が製品(vlp−TiO2)と直接接触するのが防止された。加熱される炉の長さは7mで、直径は0.3mであった。懸濁液は炉のフィーダー内へ細かく噴霧された。懸濁液の供給量は40kg/hであった。炉のフィーダーのチェーン固定装置がかき混ぜ動作を改善し、混合物を速やかに乾燥して乾燥混合物を破砕しやすくした。連続的に作動する回転炉における処理時間は1時間であった。炉の排出側の温度が260℃になるように、バーナーのガス量が制御された。炉の排出側において、vlp−TiO2は黄色みがかった茶色の微粉であった。それから、vlp−TiO2は、試験ミキサー(Braun, MX 2050)内で脱凝集化が図られ、炭素含有量と光学特性とBET表面積と光活性が調べられた。
【実施例5】
【0108】
炉の排出側の温度が280℃になるように、バーナーのガス量が制御されたことが異なる点を除けば、実施例4と同様の方法が実施された。
【実施例6】
【0109】
実施例1に記載したようにして、5重量%のペンタイリスライトを使用して、チタン酸水和物とペンタイリスライトの懸濁液が調製された。実施例1の変形例として、残渣の水分含有量が22%である粉末状の固体を得るように、その懸濁液は電気加熱炉で予備乾燥された。予備乾燥された粉末状の材料の熱処理は、連続的に作動する間接的に加熱された回転炉を使用して以下のように実行された。
【0110】
回転炉は並行流モードで作動し、電力により3ゾーンにおいて加熱された。加熱される炉の長さは2700mmで、直径は390mmであった。粉末状の固体は、スクリューフィーダーにより炉のフィーダーに供給された。
【0111】
回転シリンダの全長にわたるチェーン固定装置が炉内の分布を均一にし、炉壁に塊が付着するのを防止した。供給量としては、1時間あたり25kgの固体が供給された。連続的に作動する回転炉における処理時間0.5時間であった。炉の3ゾーンの温度は、電力により制御された。3つの各加熱ゾーンの温度は個別に制御することができた。炉の排出側において、vlp−TiO2はベージュ色の微粉であった。それから、vlp−TiO2は、試験ミキサー(Braun, MX 2050)内で脱凝集化が図られ、炭素含有量と光学特性とBET表面積と光活性が調べられた。
《比較例》
実施例2において、約10m2/gのBET表面積の二酸化チタン顔料(アナタース形、市販品、Kronos 1000)が12重量%のペンタイリスライトとともに混合されて、熱処理された。
【0112】
【表20】

【0113】
表20は、本発明において使用するに好適のvlp−TiO2の分析と光活性を示す。
【0114】
チタン水和物から調製されたvlp−TiO2は、可視スペクトル範囲内において良好な光学的数値の優れた光触媒効果(PLV試験による)を示す。チタン水和物の代わりにアナタース形の顔料を使用すると、十分に評価できる程度の光活性のない製品(比較例)となる。
【実施例7】
【0115】
5gの二酸化チタン(市販製品TRONOX Titanhydrat-0(チタン水和物):Kerr-McGee Pigments Gmbh社製)が室温下で20ミリリットルの蒸留水中において懸濁された。5ミリリットルのエチレン−グリコール(FULKA AG社製)が上記懸濁液に添加された。その懸濁液は、超音波浴(ヘ゛ルリンのBandelin Electronic社製のSonorex Super RK 106:35kHZ、効率120W、高周波出力)で処理された。引き続いて、一晩中磁力で撹拌され、溶媒が真空下で除去され、残渣は100℃から200℃、好ましくは約200℃で少なくとも12時間乾燥された。引き続いて、それは密閉容器内で1時間以内に300℃に加熱された。それから、さらに3時間、300℃に保持された。このプロセスにおいて、白色から暗褐色へ、さらにベージュ色への粉末の色の変化が観察された。より長く加熱すると、着色されない不活性の粉末が得られた。製品の元素分析をすると、2.58重量%の炭素と、0.02重量%の窒素と、0.40重量%の水素が検出された。不変性TiO2からは、0.07重量%の炭素と、0.0重量%の窒素と、0.0重量%の水素が検出された。
【実施例8】
【0116】
表面炭素化合物を除去するために、5gのvlp−TiO2が、2モルの水酸化ナトリウム(pH12)の100ミリリットルの溶液中において一晩中撹拌された。遠心分離すると、茶−黄色の抽出物と、僅かに白色を帯びた残渣が得られた。残渣は100℃で乾燥された。このようにして得られた粉末は、可視光線における4−クロロフェノールの分解中において活性を示さなかった。粉末を抽出物と再び混合して僅かに加熱すると、好ましくは200℃まで加熱すると、分解反応における非処理(非濾過)vlp−TiO2と同じ活性を示した。
【実施例9】
【0117】
プラスチックの箔を被覆するために、実施例6に示すようにして調製された粉末がメタノールまたはエタノールのような液体の超音波浴において懸濁された。得られた懸濁液は、スプレー瓶を使用してできる限る薄くシート状にされた。引きつづいて343Kの温度で乾燥して、好ましい厚さの層が得られるまで、その被覆処理は繰り返すことができる。
【0118】
プラスチックの箔の代わりに、紙(図6の実験参照)またはアルミニウム(下記の試験法h参照、浸漬被覆)のようなキャリヤーを使用することができる。
《測定法》
a)光学値の測定(PLV試験)
vlP−TiO2の明るさL*、着色a*および着色b*に対する光学値を決定するために、以下の方法が役立つ。フランクフルトのMATRA社の小さい油圧プレスを使用して特定条件下で試験するために、vlP−TiO2から圧縮粉末が調製された。それから、圧縮粉末の許容値(remission value)がHUNTERLAB三刺激比色計を使用して決定された。
【0119】
vlP−TiO2は圧縮粉末が調製される前に粉砕された。粉砕するために、得られた100gのvlP−TiO2は、市販のミキサー(製造者:ブラウン、形式:MX 2050)内に投入され、5秒間で12回混合された。各粉砕工程の間にミキサーは開かれ、粉体は再び混合された。両側につや消し面を有する白色の薄い紙が円形の凹部を有する基板に配置された。それから金属リング(高さが4cmで、直径が2.4cmのもの)がプレス機を使用して凹部内に圧入された。約25gのvlP−TiO2粉末が、軽くゆり動かしつつ、たたきながら金属リング内に供給された。2−3kNの圧力下で、粉末が圧縮された。
【0120】
圧縮工程は、作動圧力が15kNに達するまで2回繰り返された。注意深く回転させながら引っ張ることによって、金属リングは基板から引き離された。基板とリングの間の紙が除去された。圧密体は金属リング内にあり、HUNTERLAB三刺激比色計を使用して数値が測定された。測定された数値L*、a*およびb*は比色計から直接読み取ることができる。
b)光活性の測定(汚染物の分解)
人工可視光線:
15mgのvlP−TiO2が、4−クロロフェノールの2.5×10-4モル溶液の15ミリリットルの超音波浴内で10分間分散され、それから水冷された丸いキュベット内の光学台上において光に晒された。光活性を測定するための光に対する露出は、焦点集中ランプケース(AMKO Mod. A1020, 焦点長さ:30cm)内に設置されたOsram XBO 150 W キセノン短アークランプを使用して実行された。このランプのスペクトルは図10に示されている。反応は、15ミリリットルの容量で、内径が30mmで、厚みが20mmの水冷された丸いキュベット内で実行された。懸濁は、キュベット容器の側面に付着された撹拌モータおよび撹拌磁石を使用して実行された。丸いキュベット容器は図11に示されている。キュベット容器はランプの焦点に保持された。光はキュベット容器の反応空間が露出するように焦点が合わされた。すべての部品は光学台上にしっかりと固定された。紫外線を排除するために、λが455以上である透過率のカントフィルター(Fa. Schott)が光線の経路に導入された。光に晒されることによって反応空間が加熱されることをできる限り防ぐために、IRフィルターが光線の経路に付加的に設置された。このフィルターは水が満たされたシリンダー(直径が6cmで、長さが10cmのもの)である。
【0121】
4−クロロフェノールの濃度の減少の測定は、UV分光器(λ=224)を使用して監視するか、又は有機炭素の全量(TOC値)に対する分解量(酸素)を測定するという方法が実行された。
インテリア空間の分散光:
50mgのvlP−TiO2が、4−クロロフェノールの2.5×10-4モル溶液の50ミリリットルの超音波浴内で10分間分散され、それからエリアンメイヤー(Erienmeyer)フラスコ(100ミリリットル)内の内部空間の自然光に撹拌しつつ晒された。
【0122】
アセトアルデヒドガス、ベンゼン蒸気および一酸化炭素の分解:
空気で飽和されたアセトアルデヒドガス(2容積%)またはベンゼン蒸気(5容積%)または一酸化炭素で満たされた丸いフラスコ(1リットル)内に、vlP−TiO2が両側に被覆された2つの丸いフィルター(紙製で、直径dが15cmで、1枚のフィルター当たり2mgの触媒)が導入された。それからそのフラスコは自然光に晒され、汚染物の減少と一酸化炭素の形成がIR分光器を使用して測定された。
c)炭素含有量の測定
その測定は、LECO C-200炭素検出器を使用して全有機炭素量(TOC)を測定するという条件で実行された。その測定は、酸素ガスによって誘導炉内のvlP−TiO2に含まれる有機物質の燃焼量と、IR検出器を使用して形成された二酸化炭素の生成量を測定するものである。重量で表示すると、約0.4gであった。
d)BET(Brunauer-Emmett-Teller)による比表面積の測定
BET表面積が、静的容量法に基づくマイクトロメリティクス社(Mictromeritics)のトリスター(Tristar)3000を使用して測定された。
e)XPSの測定
Phi 5600 ESCA 分光器(23.5eVの通過エネルギー;アルミニウムの標準;300.0W;45.0℃)が結合エネルギーを測定するために使用された。
f)ESRの測定
電子スピン共鳴スペクトルを測定するために、Bruker Elexys 580 分光器のX−バンド(9.5GHz)が使用された。試料は、10-5トールまで減圧された後、10-2トールまでヘリウムが充填され、それから溶解された。測定は以下の条件で行われた。
【0123】
100Hzに調整された磁場、RF出力:0.0002−1mW、場:3340−3500G、掃引幅:100−500G、転換時間:81.92ms、時定数:40.96ms、変調振幅:0.2−13G、温度:5K、g値はホールプローブを使用して測定された。
g)乱反射スペクトルの測定(クベルカ−ムンク関数)
粉体の乱反射スペクトルが、Shimadzu UV 2401PC UV/Vis 分光器を使用して測定された。その分光器には、ウルブリヒト球体が備えられていた。硫酸バリウムが白色の標準として使用され、測定の前に乳鉢内で粉末を得るために粉砕された。クベルカームンク関数は吸光度に比例している。
h)超親水性
水とvlP−TiO2または非変性TiO2の接触角を測定するために、それぞれ蒸留水中において懸濁され、浸漬被覆法を使用して5cm×5cmのアルミニウム板に付着され、400℃で1時間焼成された。引きつづいて、自然光の中で保管した後、非変性TiO2の接触角を測定すると21゜であり、vlP−TiO2の接触角を測定すると8゜であった。被覆されていないアルミニウム板の接触角は91゜であった。
【0124】
図12は、本発明の物質のクベルカ−ムンク関数と、本発明の物質の製造のために使用された光触媒作用を果たす活性剤のクベルカ−ムンク関数とを比較して示す。同図において、a)は光触媒作用を果たす活性剤のクベルカ−ムンク関数を示し、b)はバインダーとしてスチレン−アクリレート(Alberdingk AS 6002)を有する物質のクベルカ−ムンク関数を示し、c)はバインダーとしてシリコーン樹脂を有する本発明の物質のクベルカ−ムンク関数を示し、d)はバインダーとして酢酸ビニルエチレン(Mowilith LDM 1871)を有する本発明の物質のクベルカ−ムンク関数を示し、e)はバインダーとしてスチレン/ブチル−アクリレートの共重合体(Dilexo AS 151)を有する物質のクベルカ−ムンク関数を示す。
【0125】
本発明の物質のバインダーの比率は2重量%から60重量%であり、好ましくは、3重量%から50重量%であり、特に好ましくは、9重量%から35重量%である。物質中の光触媒作用を果たす活性剤の比率は2重量%から40重量%が適正で、好ましくは、2重量%から20重量%であり、特に好ましくは、4重量%から15重量%であり、一層好ましくは、5重量%から10重量%である。光触媒作用を果たす活性剤が5重量%以上であれば、目標とする光触媒効果として特に満足のいくものが得られることが分かった。光触媒作用を果たす活性剤が10重量%以下であれば、本発明の物質の他の特性に及ぼす光触媒作用を果たす活性剤の効果は、実質的に無視しうることが分かった。
【0126】
本発明は、図面を参照しながら説明した実施例に限定されるべきでない。その代わりに、異なる種類のバインダーを有する物質を使用しうることが分かる。さらに、炭素をドーピングされた光触媒作用を果たす活性剤以外のものも本発明で使用できる。硫黄をドーピングされた光触媒作用を果たす活性剤を使用することは、同様に特に好都合であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、非変性二酸化チタンに対する吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)(任意の単位)と、炭素で変性された二酸化チタン(vlp−二酸化チタン)に対する吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)(任意の単位)を示す。
【図2】図2は、本発明において使用するに好適なvlp−二酸化チタンの電子スピン共鳴スペクトル(ESR、スペクトルA)と、サクチベルとキッシュによって製造された二酸化チタンの電子スピン共鳴スペクトル(ESR、スペクトルB)を示す。
【図3】図3は、本発明のvlp−二酸化チタンのX線光電子スペクトル(XPS、スペクトルA)とサクチベルとキッシュによる水酸化テトラブチルアンモニウムと四塩化チタンの化合物から析出した公知の二酸化チタンのX線光電子スペクトル(XPS、スペクトルB)を示す。
【図4】図4は、人工可視光線(455nm以上の波長)による4−クロロフェノール(2.5×10-4モルの水溶液)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。
【図5】図5は、インテリア空間の散乱光による4−クロロフェノール(2.5×10-4モルの水溶液)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。
【図6】図6は、インテリア空間の散乱光によるベンゼン(5容積%)、アセトアルデヒド(2容積%)および一酸化炭素(5容積%)の分解における非変性二酸化チタンに対するvlp−二酸化チタンの光触媒効果を示す。
【図7】図7は、vlp−二酸化チタンのX線回折図形を示す。
【図8】図8は、結晶の格子線について、高解像度の透過電子顕微鏡(HTEM)によって形成したイメージを示す。
【図9】図9は、Vlp−二酸化チタンの炭素の深さ方向のプロフィルをC/Ti比で表したものである。
【図10】図10は、キセノン短アークランプのスペクトルを示す。
【図11】図11は、キュベット容器の概略図である。
【図12】図12は、本発明の物質のクベルカ−ムンク関数と、本発明の物質の製造のために使用された光触媒作用を果たす活性剤のクベルカ−ムンク関数とを比較して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのバインダーを含有する塗装壁、建築物の正面等に用いる物質であって、380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長において相当量の光を吸収する少なくとも一つの光触媒作用を果たす活性剤を含有することを特徴とする物質。
【請求項2】
380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長における光触媒作用を果たす活性剤の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))のバインダーの吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))に対する比は、6.25×10-3より大きく、好ましくは、1×10-2より大きいことを特徴とする請求項1記載の物質。
【請求項3】
もし、光触媒作用を果たす活性剤が同じ測定条件下における吸収波長において、0.005超の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))、特に、0.01超の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))、特に好ましくは、0.02以上の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))を示せば、バインダーは、380nmから500nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長、特に、400nmから450nmの範囲内にある少なくとも一つの吸収波長において、0.8未満の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))、特に、0.5未満の吸光度(クベルカ−ムンク関数F(R∞))を示すことを特徴とする請求項1または2記載の物質。
【請求項4】
バインダーは、少なくとも一つの有機成分および/又は少なくとも一つの無機成分であることを特徴とする少なくとも一つのバインダーと、少なくとも一つの光触媒作用を果たす活性剤とを含有する、塗装壁用物質、建築物の正面用物質、特に請求項1記載の物質。
【請求項5】
光触媒作用を果たす活性剤は、半導体、特に、二酸化チタンであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の物質。
【請求項6】
半導体は、例えば、S、Nおよび/又はCのような異物と少なくとも部分的に混合され、特に、S、Nおよび/又はCのような異物が少なくとも部分的にドーピングされることを特徴とする請求項5記載の物質。
【請求項7】
二酸化チタンは、本質的に、アナタース形であることを特徴とする請求項5または6記載の物質。
【請求項8】
光触媒作用を果たす活性剤の硫黄および/又は炭素の含有量は、0.05重量%から4重量%で、好ましくは、0.05重量%から2重量%で、特に好ましくは、0.4重量から1.5重量%であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の物質。
【請求項9】
好ましくは、例えば、水のような溶媒に溶解したチタン含有化合物を有機炭素化合物と混合し、500℃以下、好ましくは、400℃以下、特に好ましくは、300℃以下であって、150℃超、特に、200℃以上の温度で上記混合物を熱処理することによって、光触媒作用を果たす活性剤が少なくとも部分的に調製されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の物質。
【請求項10】
光触媒作用を果たす活性剤は、530eVにおけるO1sバンドに関するX線光電子スペクトル(XPS)における285.6eVの結合エネルギーにおいて強い吸収バンドを示すことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の物質。
【請求項11】
少なくとも一つの分散剤、少なくとも一つの増粘剤、少なくとも一つの消泡剤、少なくとも一つの顔料、少なくとも一つの充填剤、少なくとも一つの疎水剤、および/又は少なくとも一つの殺菌剤を含有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の物質。
【請求項12】
固体の完全な湿潤が起こらないような固相が液相に転化される超臨界組成物であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の物質。
【請求項13】
例えば、活性炭、ケイ酸、マイクロシリカ、シリカゲル、ゼオライト、ベントナイト、珪藻土、泡ガラスなどのような少なくとも一つの吸着剤を含有することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の物質。
【請求項14】
光触媒作用を果たす活性剤は、1.97から2.05のg値の範囲内において唯一の相当量の信号を表示する、5Kの温度において測定された電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを示すことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の物質。
【請求項15】
光触媒作用を果たす活性剤は、2.002から2.004のg値においてESRスペクトルの少なくとも一つの信号を表示することを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の物質。
【請求項16】
500nmにおいて光触媒作用を果たす活性剤の吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)は400nmにおけるクベルカ−ムンク関数の約50%であり、600nmにおいて光触媒作用を果たす活性剤の吸光度に比例するクベルカ−ムンク関数F(R∞)は400nmにおけるクベルカ−ムンク関数の約20%であることを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1項に記載の物質。
【請求項17】
少なくとも20%の光活性、好ましくは、少なくとも40%の光活性、特に好ましくは、少なくとも50%の光活性を有することを特徴とする請求項1ないし16のいずれか1項に記載の物質。
【請求項18】
光触媒作用を果たす活性剤の硫黄および/又は炭素の含有量は、0.4重量%から0.8重量%の範囲であることを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1項に記載の物質。
【請求項19】
光触媒作用を果たす活性剤の硫黄および/又は炭素の最大部分は、二酸化チタン粒子の表面層にのみ集積していることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1項に記載の物質。
【請求項20】
光触媒作用を果たす活性剤は、X線光電子スペクトル(XPS)または赤外線スペクトルのいずれにおいても、炭酸塩のバンドを示さないことを特徴とする請求項1ないし19のいずれか1項に記載の物質。
【請求項21】
BETに従って光触媒作用を果たす活性剤の比表面積は、100m2/gから250m2/g、好ましくは、130m2/gから200m2/g、および特に好ましくは、130m2/gから170m2/gであることを特徴とする請求項1ないし20のいずれか1項に記載の物質。
【請求項22】
第一工程において、無機バインダー中に光触媒作用を果たす活性剤を分散させることによって中間製品が製造され、
第二工程において、その中間製品を有機バインダーと混合することを特徴とする請求項1ないし21のいずれか1項に記載の物質を製造する方法。
【請求項23】
インテリア用途および/又はエクステリア用途として、石造建築、漆喰表面、塗装面、木材と金属とガラスとセラミック表面の壁紙、断熱複合システムおよび/又は建築物における正面要素に適用した場合の塗料、漆喰、ニスおよび/又は釉薬としての請求項1ないし21のいずれか1項に記載の物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−501491(P2008−501491A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513710(P2007−513710)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003622
【国際公開番号】WO2005/118726
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506340840)エステーオー アクチエンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】