説明

塗装膜厚シミュレーション方法

【課題】被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、被塗装物の膜厚分布値を取得する塗装膜厚シミュレーションにおいて、精度を従来のものと同等に保ちながら、計算量を削減する。
【解決手段】一定時間間隔で塗装ガンの位置及び被塗装物の位置を読み込み(S120,S130)、この塗装ガン位置における膜厚値分布値を、読み込んだ基準塗装パターンに基づいて取得する(S100,S180)。つまり、断続的なポイント毎に膜厚分布値を取得するのである。そして、これら塗装ガン位置における膜厚分布値を積算して被塗装物の膜厚分布値を取得する(S190)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の塗装作業に先立ってなされる、コンピュータシステムを利用した塗装膜厚シミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディ等のワークを塗装する場合、トンネル形に構成された塗装ブースで行われるのが一般的である。塗装ブースには、塗装機が配設され、コンベアにより移送可能にされたワークに対し、塗装機の塗料出口(塗装ガン)より、塗料が噴射される。このとき、塗装機は、通常、所定のプログラムにより、塗装ブース内を移動しながらワークに対して塗料を噴射する。
【0003】
このようなワークの塗装は所定の制御プログラムなどに基づいてなされるが、塗装機の移動、塗料の噴射量、塗料出口の形などによって、ワークに付着する塗装膜厚は、異なってくる。そのため、塗装作業にあたり所望の塗装膜厚を得るために、実際のワークに対する塗装に先立って、コンピュータシステムを利用した塗装膜厚シミュレーションが行われている。
【0004】
塗装膜厚シミュレーションでは、最初に、シミュレーション用の基準塗装パターンを獲得する手法が知られている。このシミュレーション用の基準塗装パターンは、塗装機を固定した状態で、ワークとしての平板に対し所定時間だけ塗料を噴射した場合のパターンであり、平板上に形成される膜厚を計測し、数学的に処理されて獲得される。
【0005】
そして、この基準塗装パターンが獲得されると、この基準塗装パターンを用い、塗装機の軌道やワークの形状を考慮して、塗装膜厚シミュレーションがコンピュータシステムにて実行され、ワーク各部の塗装膜厚である膜厚分布値が計算によって獲得されることになる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−323244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の塗装膜厚シミュレーションでは、塗装機(塗装ガン)の移動を忠実に再現して精度を上げようとしているため、上述した基準塗装パターンを連続的に移動させて膜厚分布値を計算していた。例えば、微少時間ごとの塗装機の軌道やワーク形状などを考慮して膜厚分布値を補正しながら積算していくという具合である。その結果、計算量が膨大なものとなってしまっている。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、その精度を同等に保ちながら、塗装膜厚シミュレーションの計算量を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的等を解決するのに適した各手段につき項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果等を付記する。
【0009】
手段1.塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される基準塗装パターンを用い、前記塗装機が軌道上を移動しながら前記被塗装物に対し連続的に塗料を噴射してなされる前記被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、前記被塗装物の膜厚分布値を取得する塗装膜厚シミュレーション方法において、
前記塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなし、前記ポイント毎に前記基準塗装パターンに基づき膜厚分布値を積算して、前記被塗装物の膜厚分布値を取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0010】
手段1に記載の塗装膜厚シミュレーション方法は、基準塗装パターンを用い、塗装機が軌道上を移動しながら被塗装物に対し連続的に塗料を噴射してなされる被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、被塗装物の膜厚分布値を取得するものである。ここで基準塗装パターンは、塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される。
【0011】
そして、本発明では特に、塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなし、断続的なポイント毎に基準塗装パターンに基づき膜厚分布値を積算して、被塗装物の膜厚分布値を取得する。なお、ポイントにおける膜厚分布値とは、当該ポイントを中心とする基準塗装パターンの領域各部の膜厚値をいうものとする(以下でも同様)。
【0012】
従来、塗装機による連続的な塗料の噴射を忠実にシミュレーションするのが一般的であった。例えば、獲得された基準塗装パターンを微少時間毎に移動させて膜厚分布値を積算するという具合である。しかし、その場合、計算量が膨大になってしまうという問題があった。
【0013】
これに対し本発明は、塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなす点に特徴がある。このようにしてよいのは、基準塗装パターンの移動距離が微少なものであれば、基準塗装パターンを移動させず同一位置で塗料を噴射したものとして膜厚値を算出しても、算出される膜厚値の精度にそれほど変わりがないためである。つまり、実際には塗膜は微少時間毎に重ね塗りされていくため、ある瞬間における塗膜の膜厚は従来の手法を用いることで精度よく取得されるのであるが、比較的長い時間で見ると、同一位置で噴射したものとして膜厚を取得しても精度にそれほど大きな違いがないのである。
【0014】
そして、このように断続的なポイント毎に膜厚分布値を積算すれば、積算処理が大幅に削減される。また、適当な間隔でポイントをとれば、上述したように精度は従来と同等に保たれる。したがって、その精度を同等に保ちながら、塗装膜厚シミュレーションの計算量を削減することができる。
【0015】
手段2.手段1に記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機の位置情報が時刻情報に対応付けられており、前記ポイントは、所定時刻における前記塗装機の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0016】
手段2では、塗装機の位置情報が時刻情報に対応付けられていることを前提とし、ポイントが所定時刻における塗装機の位置情報として把握される。このようにすれば、上述したポイントが時刻によって管理できることになり、すなわち、一次元情報として管理できるため、シミュレーションのプログラムが簡単になる。
【0017】
手段3.手段2に記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の位置情報が時刻情報に対応付けられており、前記ポイントは、所定時刻における前記塗装機及び前記被塗装物の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0018】
手段3では、さらに、被塗装物の位置情報が時刻情報に対応付けられていることを前提とし、ポイントが所定時刻における塗装機及び被塗装物の位置情報として把握される。このようにすれば、上記構成と同様、ポイントが時刻によって管理できることになり、すなわち、一次元情報として管理できるため、シミュレーションのプログラムが簡単になる。また、この場合、被塗装物の位置情報が把握されるため、塗装機だけでなく被塗装物が移動するような塗装過程のシミュレーションが可能となる。
【0019】
手段4.手段1乃至3のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機と前記被塗装物との距離を異ならせて、複数の基準塗装パターンを獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記複数の基準塗装パターンに基づく補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0020】
塗装機と被塗装物との距離が大きくなると、塗料の付着効率は低下する。そこで、手段4では、塗装機と被塗装物との距離を異ならせることにより、複数の基準塗装パターンを獲得しておき、各ポイントにおける塗装機と被塗装物との距離から、複数の基準塗装パターンに基づく補間計算を行い、各ポイントにおける膜厚分布値を取得する。
【0021】
このようにすれば、塗装機と被塗装物との距離が変化しても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、複数の基準塗装パターンを用いた補間計算を行っているため、1つの基準塗装パターンから得られる膜厚分布値を補正するのと比べて、より正確な膜厚分布値を取得できる。また、このような距離を考慮した膜厚分布値の取得も断続的なポイント毎に行われるため、従来と比較して、計算量は大幅に削減されることになる。
【0022】
手段5.手段4に記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機と前記被塗装物との最小距離及び最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記2つの基準塗装パターンに基づく内挿補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0023】
具体的には、手段5に示すように、塗装機と被塗装物との最小距離及び最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを獲得しておき、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離から、2つの基準塗装パターンに基づく内挿補間計算によって取得することが考えられる。
【0024】
ここで最小距離とは実際に塗装する上で許容される最小の距離をいい、最大距離とは実際に塗装する上で許容される最大の距離をいう(以下の手段でも同様)。このような最小・最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを獲得することによって、各ポイントにおける膜厚分布値は、内挿補間計算できることになる。また、この場合、2つの基準塗装パターンを用いるため、すなわち一次式として内挿補間されるため、計算量を削減するという目的にも適ったものとなる。
【0025】
手段6.手段1乃至5のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面の法線方向に塗料を噴射した場合を基準とし、前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向のなす角度による塗料の付着率を角度係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向との角度に対応する角度係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0026】
塗装機の塗料噴射方向が塗装面の法線方向に一致している場合、塗料の付着率が最も高くなる。ここで塗料噴射方向とは、塗装機(塗装ガン)の中心軸の方向である。
【0027】
手段6では、被塗装物の塗装面の法線方向に塗料を噴射した場合を基準とし、法線方向と塗装機の塗料噴射方向のなす角度による塗料の付着率を角度係数として獲得しておく。例えば、実際の塗装実験から経験的に獲得するという具合である。そして、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される法線方向と塗装機の塗料噴射方向との角度に対応する角度係数を用いて補正する。
【0028】
このようにすれば、塗装機と被塗装物の塗装面との角度が変化しても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め角度係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような角度を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0029】
手段7.手段1乃至6のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面と前記基準塗装パターンとの重なり部分が当該基準塗装パターンに一致する場合を基準とし、前記重なり部分が前記基準塗装パターンの面積を下回ったときの面積比率による塗料の付着率を比率係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記重なり部分と前記基準塗装パターンとの面積比率に対応する比率係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0030】
基準塗装パターンは、例えばベル型の塗装機(塗装ガン)であれば、略円形のパターンとなる。そして、被塗装物の塗装面とこのパターンとの重なり部分がパターンよりも小さくなると、例えば自動車ボディで言えばピラーなどが塗装面となると、気流の乱れが小さくなるため、塗料の付着率が高くなることが知られている。
【0031】
そこで、手段7では、被塗装物の塗装面と基準塗装パターンとの重なり部分が当該基準塗装パターンに一致する場合を基準とし、重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回ったときの面積比率による塗料の付着率を比率係数として獲得しておく。例えば、実際の塗装実験から経験的に獲得するという具合である。そして、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される重なり部分と基準塗装パターンとの面積比率に対応する比率係数を用いて補正する。
【0032】
このようにすれば、重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回ったとしても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め比率係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。特に、形状認識処理などを行う場合と比べて、処理時間が大幅に短縮される。また、このような塗装面の面積を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0033】
手段8.手段1乃至7のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面を所定の領域に細分化して捉え、ある領域に着目したときに当該領域の塗装面と当該領域に隣接する周辺領域の塗装面とが角度をなしていない場合を基準とし、前記領域の塗装面と前記周辺領域の塗装面との角度による塗料の付着率を付着係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、前記領域の塗装面が前記周辺領域の塗装面となす角度に対応する付着係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【0034】
塗装面に凹凸がある場合、気流の影響によって、塗料の付着率が変化することが知られている。例えば、塗装面の凹部では付着率が下がるが、凸部では付着率が上がるという具合である。
【0035】
そこで、手段8では、被塗装物の塗装面を所定の領域に細分化して捉える。例えば、三角形領域に細分化することも考えられるし、あるいは、四角形領域に細分化することも考えられる。次に、ある領域に着目したときに当該領域の塗装面と当該領域に隣接する周辺領域の塗装面とが角度をなしていない場合を基準とし、領域の塗装面と周辺領域の塗装面との角度による塗料の付着率を付着係数として獲得しておく。例えば、実際の塗装実験から経験的に獲得するという具合である。なお、角度をなしていない場合とは、塗装面の法線が平行になっている場合をいうものとする。そして、各ポイントにおける膜厚分布値を、領域の塗装面が周辺領域の塗装面となす角度に対応する付着係数を用いて補正する。
【0036】
このようにすれば、被塗装物の塗装面に凹凸があったとしても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め付着係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような塗装面の凹凸を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0037】
以上は、塗装膜厚シミュレーション方法の発明として説明してきたが、本発明は、このようなシミュレーションを実行可能な装置として実現することもできる。
【0038】
手段9.塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される基準塗装パターンを読み込むパターン読込手段と、
前記被塗装物の形状情報を読み込む形状情報読込手段と、
前記塗装機が軌道上を移動しながら前記被塗装物に対し連続的に塗料を噴射してなされる前記被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、前記被塗装物の膜厚分布値を取得する膜厚取得処理を実行する処理実行手段と
を備えた塗装膜厚シミュレーション装置において、
前記膜厚取得処理は、前記塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなし、前記ポイント毎に前記基準塗装パターンに基づき膜厚分布値を積算して、前記被塗装物の膜厚分布値を取得する処理であることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0039】
手段9に記載の塗装膜厚シミュレーション装置は、パターン読込手段が、基準塗装パターンを読み込み、形状情報読込手段が、被塗装物の形状情報を読み込む。基準塗装パターンは、塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される。また、被塗装物の形状情報は、例えば3次元のCADデータとして獲得されていることが考えられる。そして、処理実行手段が、塗装機が軌道上を移動しながら被塗装物に対し連続的に塗料を噴射してなされる被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、被塗装物の膜厚分布値を取得する膜厚取得処理を実行する。
【0040】
そして本発明では、膜厚取得処理が、塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなし、断続的なポイント毎に基準塗装パターンに基づき膜厚分布値を積算して、被塗装物の膜厚分布値を取得する処理となっている。
【0041】
このようにすれば、断続的なポイント毎に膜厚分布値を積算するため、積算処理が大幅に削減される。また、適当な間隔でポイントをとれば、精度は従来と同等に保たれる。したがって、その精度を同等に保ちながら、塗装膜厚シミュレーションの計算量を削減することができる。
【0042】
手段10.手段9に記載のシミュレーション装置において、
時刻情報に対応付けられた前記塗装機の位置情報を読み込む塗装機位置読込手段を備えており、
前記膜厚取得処理では、前記ポイントが、所定時刻における塗装機の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0043】
手段10によれば、塗装機位置読込手段が時刻情報に対応付けられた塗装機の位置情報を読み込み、膜厚取得処理において、ポイントが、所定時刻における塗装機の位置情報として把握される。
【0044】
このようにすれば、上述したポイントが時刻によって管理できることになり、すなわち、一次元情報として管理できるため、膜厚取得処理が簡単になる。
【0045】
手段11.手段10に記載のシミュレーション装置において、
時刻情報に対応付けられた前記被塗装物の位置情報を読み込む被塗装物位置読込手段を備えており、
前記膜厚取得処理では、前記ポイントが、所定時刻における塗装機及び被塗装物の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0046】
手段11によれば、さらに、被塗装物位置読込手段が時刻情報に対応付けられた被塗装物の位置情報を読み込み、膜厚取得処理において、ポイントが、所定時刻における塗装機及び被塗装物の位置情報として把握される。
【0047】
このようにすれば、上記構成と同様、ポイントが時刻によって管理できることになり、すなわち、一次元情報として管理できるため、膜厚取得処理が簡単になる。また、この場合、被塗装物の位置情報が把握されるため、塗装機だけでなく被塗装物が移動するような塗装過程のシミュレーションが可能となる。
【0048】
手段12.手段9乃至11のいずれかに記載のシミュレーション装置において、
前記パターン読込手段は、前記塗装機と前記被塗装物との距離が異なる複数の基準塗装パターンを読み込むよう構成されており、
前記膜厚取得処理では、前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記複数の基準塗装パターンに基づく補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0049】
手段12によれば、パターン読込手段が塗装機と被塗装物との距離が異なる複数の基準塗装パターンを読み込み、膜厚取得処理において、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離から、複数の基準塗装パターンに基づく補間計算によって取得する。
【0050】
このようにすれば、塗装機と被塗装物との距離が変化しても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、複数の基準塗装パターンを用いた補間計算を行っているため、1つの基準塗装パターンから得られる膜厚分布値を補正するのと比べて、より正確な膜厚分布値を取得できる。また、このような距離を考慮した膜厚分布値の取得も断続的なポイント毎に行われるため、従来と比較して、計算量は大幅に削減されることになる。
【0051】
手段13.手段12に記載のシミュレーション装置において、
前記パターン読込手段は、前記塗装機と前記被塗装物との最小距離及び最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを読み込むよう構成されており、
前記膜厚取得処理では、前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記2つの基準塗装パターンに基づく内挿補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0052】
手段13によれば、パターン読込手段が塗装機と被塗装物との最小距離及び最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを読み込み、膜厚取得処理において、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離から、2つの基準塗装パターンに基づく内挿補間計算によって取得する。
【0053】
この場合、最小・最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを獲得することによって、各ポイントにおける膜厚分布値は、内挿補間計算できることになる。また、この場合、2つの基準塗装パターンを用いるため、すなわち一次式として内挿補間されるため、計算量を削減するという目的にも適ったものとなる。
【0054】
手段14.手段9乃至13のいずれかに記載のシミュレーション装置において、
前記被塗装物の塗装面の法線方向に塗料を噴射した場合を基準とした付着率であって、前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向のなす角度による塗料の付着率を角度係数として記憶する角度係数記憶手段を備え、
前記膜厚取得処理では、前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向との角度に対応する前記角度係数記憶手段に記憶された角度係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0055】
手段14によれば、角度係数記憶手段が、塗装面の法線方向と塗装機の塗料噴射方向のなす角度による塗料の付着率を角度係数として記憶する。この付着率は、被塗装物の塗装面の法線方向に塗料を噴射した場合を基準としたものとなっている。そして、膜厚取得処理では、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される法線方向と塗装機の塗料噴射方向との角度に対応する角度係数を用いて補正する。
【0056】
このようにすれば、塗装機と被塗装物の塗装面との角度が変化しても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め角度係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような角度を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0057】
手段15.手段9乃至14のいずれかに記載のシミュレーション装置において、
前記被塗装物の塗装面と前記基準塗装パターンとの重なり部分が当該基準塗装パターンに一致する場合を基準した付着率であって、前記重なり部分の面積が前記基準塗装パターンの面積を下回ったときの面積比率による塗料の付着率を比率係数として記憶する比率係数記憶手段を備え、
前記膜厚取得処理では、前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記重なり部分と前記基準塗装パターンとの面積比率に対応する前記比率係数記憶手段に記憶された比率係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0058】
手段15によれば、比率係数記憶手段が、被塗装物の塗装面と基準塗装パターンとの重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回ったときの面積比率による塗料の付着率を比率係数として記憶する。この付着率は、重なり部分が基準塗装パターンに一致する場合を基準としたものとなっている。そして、膜厚取得処理において、各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される重なり部分と基準塗装パターンとの面積比率に対応する比率係数を用いて補正する。
【0059】
このようにすれば、重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回ったとしても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め比率係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。特に、形状認識処理などを行う場合と比べて、処理時間が大幅に短縮される。また、このような塗装面の面積を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0060】
手段16.手段9乃至15のいずれかに記載のシミュレーション装置において、
前記被塗装物の塗装面を所定の領域に細分化して捉えることを前提として、ある領域に着目したときに当該領域の塗装面と当該領域に隣接する周辺領域の塗装面とが角度をなしていない場合を基準とした付着率であって、前記領域の塗装面と前記周辺領域の塗装面との角度による前記領域の塗装面への塗料の付着率を付着係数として記憶する付着係数記憶手段を備え、
前記膜厚取得処理では、前記各ポイントにおける膜厚分布値を、前記領域の塗装面が前記周辺領域の塗装面となす角度に対応する前記付着係数記憶手段に記憶された付着係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション装置。
【0061】
手段16によれば、付着係数記憶手段が、ある領域の塗装面とその周辺領域の塗装面との角度による塗料の付着率を付着係数として記憶する。ここでは被塗装物の塗装面を所定の領域に細分化して捉えることを前提とし、付着率は、ある領域に着目したときに当該領域の塗装面と当該領域に隣接する周辺領域の塗装面とが角度をなしていない場合を基準としたものとなっている。そして、膜厚取得処理において、各ポイントにおける膜厚分布値を、領域の塗装面が周辺領域の塗装面となす角度に対応する付着係数を用いて補正する。
【0062】
このようにすれば、被塗装物の塗装面に凹凸があったとしても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め付着係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような塗装面の凹凸を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0063】
なお、本発明は、コンピュータシステムを機能させるプログラムの発明として捉えることも可能である。また、当該プログラムを記録した記録媒体の発明として捉えることもできる。次に示す如くである。
【0064】
手段17.手段1乃至8のいずれかに記載の塗装膜厚シミュレーション方法を、あるいは、手段9乃至16に記載の塗装膜厚シミュレーション装置における膜厚取得処理をコンピュータシステムで実現させるための塗装膜厚シミュレーションプログラム。
【0065】
手段18.手段17に記載の塗装膜厚シミュレーションプログラムを記録した、コンピュータシステムによる読取可能な記録媒体。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
以下、図面を参照しつつ、本発明を具現化した一実施形態としての塗装膜厚シミュレーションについて説明する。
【0067】
本実施形態の塗装膜厚シミュレーションは、コンピュータシステムにて実行される。したがって、コンピュータシステムが塗装膜厚シミュレーション装置に相当する。コンピュータシステムの構成は、処理を実行するためのCPU、ROM、RAMからなる中央装置やHDDなどの記憶装置などを備える一般的なものであり、当業者によく知られているため、詳しい説明は割愛する。
【0068】
図1は、上述のコンピュータシステムにて実行される膜厚計算処理を示すフローチャートである。
【0069】
まず最初のステップ(以下、ステップを単に記号Sで示す)100において、基準塗装パターンデータを読み込む。基準塗装パターンは、塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される。この基準塗装パターンデータは、例えば、任意の座標における膜厚値を導出可能な膜厚関数で表現される。なお、本実施形態では、塗装機と被塗装物との距離を変えることによって獲得された2つの基準塗装パターンを読み込む。
【0070】
続くS110では、被塗装物の3D形状データを読み込む。被塗装物は、例えば自動車のボディであることが考えられる。このような被塗装物の3D形状データは、例えばCADデータとして用意しておくことが考えられる。
【0071】
次のS120では、一定時間間隔後の塗装ガンの位置を読み込む。塗装ガンの位置は時刻情報に対応付けられており、この処理は、ある時刻の塗装ガンの位置を読み込むものである。そして、この処理が実行される度に、一定時間間隔で塗装ガンの位置が読み込まれる。すなわち、一定時間間隔の時刻t1,t2,t3,・・・における塗装ガン位置が読み込まれる。
【0072】
続くS130では、一定時間間隔後の被塗装物の位置を読み込む。被塗装物の位置も時刻情報に対応付けられており、この処理は、ある時刻の被塗装物の位置を読み込むものである。そして、この処理が実行される度に、一定時間間隔で被塗装物の位置が読み込まれる。すなわち、一定時間間隔の時刻t1,t2,t3,・・・における被塗装物の位置が読み込まれる。
【0073】
次のS140では、被塗装物と塗装ガンとの距離を算出する。この処理は、S110にて読み込んだ3D形状データ、S120にて読み込んだ塗装ガンの位置、さらに、S130にて読み込んだ被塗装物の位置に基づき、被塗装物の塗装面と塗装ガンとの距離を算出するものである。
【0074】
続くS150では、被塗装物と塗装ガンとの角度を算出する。この処理は、S110にて読み込んだ3D形状データ、S120にて読み込んだ塗装ガンの位置、さらに、S130にて読み込んだ被塗装物の位置に基づき、被塗装物の塗装面の法線と、塗装ガンの中心軸(塗料噴射方向)とがなす角度を算出するものである。
【0075】
次のS160では、基準塗装パターンと被塗装物との面積比を算出する。この処理は、S110にて読み込んだ3D形状データ、S120にて読み込んだ塗装ガンの位置、さらに、S130にて読み込んだ被塗装物の位置に基づき、被塗装物と基準塗装パターンとの重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回っている場合の面積比率を算出するものである。
【0076】
続くS170では、被塗装物の凹凸角度を算出する。この処理は、S110にて読み込んだ3D形状データ、S120にて読み込んだ塗装ガンの位置、さらに、S130にて読み込んだ被塗装物の位置に基づき、被塗装物の塗装面の凹凸角度を算出するものである。具体的には、塗装面を細分化した領域として捉え、ある領域の凹凸角度は、その領域とその領域の周辺領域とのなす角度として算出される。
【0077】
そして、次のS180にて、ある時刻の塗装ガン位置における被塗装物の膜厚を算出する。すなわち、あるポイントにおける膜厚分布値を取得する。
【0078】
この処理ではまず、S140にて算出された距離を用い、S100にて読み込まれた2つの基準塗装パターンに基づいて内挿補間計算を行い、ある時刻の塗装ガン位置における膜厚分布値を取得する。これについて図2を用いて説明する。
【0079】
S100にて読み込まれる2つの基準塗装パターンは、塗装機10から図2(a)に示すような距離d1,d2に塗装面があるときのパターンである。塗装機10から塗装面までの距離(塗装距離)が大きくなれば、塗料の付着率は小さくなる。ここで塗装距離d1は、塗料の付着率などを考慮した場合の許容される最小距離であり、塗装距離d2は、許容される最大距離である。
【0080】
このような2つの基準塗装パターンに基づき、S140にて算出された距離d3における膜厚分布値を取得する。これは図2(a)に示すように塗装ガン位置x0において、周辺各部の膜厚値を取得することに相当する。
【0081】
例えば、位置x1における膜厚値は、塗装距離d1の基準塗装パターンでAとなり、塗装距離d2の基準塗装パターンでBとなっていることから、内挿補間計算によって取得できる。つまり、図2(b)に示すような関数f1を導出することにより、塗装距離d3における膜厚値がEとして取得される。
【0082】
また例えば、位置x2における膜厚値は、塗装距離d1の基準塗装パターンでCとなり、塗装距離d2の基準塗装パターンでDとなっていることから、内挿補間計算によって取得できる。つまり、図2(b)に示すような関数f2を導出することにより、塗装距離d3における膜厚値がFとして取得される。
【0083】
S180の処理では次に、S150にて算出された角度を用い、膜厚分布値を補正する。これについて図3を用いて説明する。
【0084】
図3(a)は、塗装機10の塗料噴射方向、すなわち塗装機10の中心軸方向(記号Fで示した方向)と、塗装面の法線方向(記号Hで示した方向)とが一致している場合を示している。このような場合、塗料の付着率はもっとも大きくなる。そして、塗料噴射方向と塗装面の法線方向との角度が大きくなるほど、塗料の付着率は低下する。図3(b)は、塗料噴射方向が塗装面の法線方向に対し30度の角度をなしている場合を示している。したがって、本実施形態では、上述したコンピュータシステムに、塗料噴射方向と塗装面の法線方向とが角度をなしている場合の塗料の付着率を角度に対応する角度係数として記憶している。この付着率は、塗料噴射方向と塗装面の法線方向とが一致している場合を基準とするものであり、実際の塗装実験によって予め獲得される。例えば、角度を変えながら膜厚を測定することにより、図3(c)に示すような関数gとして獲得されるという具合である。したがって、S180では、角度から導出される角度係数を各位置の膜厚値に乗じて、膜厚分布値を補正する。
【0085】
S180の処理では続けて、S160にて算出された面積比率を用い、膜厚分布値を補正する。これについて図4を用いて説明する。
【0086】
図4(a)及び(b)は、基準塗装パターンの面積Pと塗装面の面積Qとの重なり部分(ハッチングを施した部分)を示したものである。図4(a)では、重なり部分が基準塗装パターンに一致しており、その重なり部分の面積はPとなる。一方、図4(b)に示すように、例えば塗装面Qが縦長になると、重なり部分の面積は、基準塗装パターンの面積Pよりも小さくなる。
【0087】
このように、重なり部分の面積が基準塗装パターンPの面積よりも小さくなると、気流の乱れが少なくなることから、塗料の付着率は大きくなる。したがって、本実施形態では、上述したコンピュータシステムに、重なり部分の面積と基準塗装パターンの面積Pとの面積比率に対応する付着率を比率係数として記憶している。この付着率は、重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積Pに一致する場合を基準とするものであり、実際の塗装実験によって予め獲得される。例えば、重なり部分の面積を変えながら膜厚を測定することにより、図4(c)に示すような関数hとして獲得されるという具合である。したがって、S180では、面積比率から導出される比率係数を各位置の膜厚値に乗じて、膜厚分布値を補正する。
【0088】
S180の処理では次に、S170にて算出された凹凸角度を用い、膜厚分布値を補正する。これについて図5を用いて説明する。
【0089】
図5(a)は被塗装物としての立法体を示している。ここでは、塗装面が四角形形状の細分化された領域に分けられている。ここで、ある領域M1に着目し、領域M1の凹凸角度を具体的に算出する。ここで領域M1の周辺領域を、領域M1と辺を共有する領域S1、S2、S3、S4と定義する。そして、各周辺領域S1〜S4と領域M1とのなす角度を算出して平均をとる。ここでは、塗装面が同一面上にあって塗装面と塗装面との開き具合が180度の場合、すなわち塗装面の法線が一致する場合を0度(角度をなしていない)とする。塗装面と塗装面との開き具合が180度よりも大きくなった場合をプラス角度、一方、塗装面と塗装面との開き具合が180度よりも小さくなった場合をマイナス角度として算出する。
【0090】
例えば領域M1について見ると、周辺領域S1,S3,S4との角度は0度となる。これに対し、周辺領域S2とは90度の角度をなすことになる。したがって、領域M1の凹凸角度は、22.5度と算出される。また例えば、領域M2について見ると、各周辺領域S3,S4,S5,S6との角度が0度となる。したがって、領域M2の凹凸角度は0度と算出される。
【0091】
凹凸角度は大きくなるほど、塗料の付着率は大きくなる。一方、凹凸角度は小さくなるほど、塗料の付着率は小さくなる。したがって、本実施形態では、上述したコンピュータシステムに、凹凸角度に対応する付着率を付着係数として記憶している。この付着率は、領域と周辺領域とが角度をなしていない場合、すなわち0度の場合を基準とするものであり、実際の塗装実験によって予め獲得される。例えば、周辺領域の角度を変えながら膜厚を測定することにより、図5(b)に示すような関数iとして獲得されるという具合である。したがって、S180では、凹凸角度から導出される付着係数を各領域の膜厚値に乗じて、膜厚分布値を補正する。
【0092】
図1の説明に戻り、S190では、被塗装物の各部位の膜厚と、算出した時刻の膜厚とを積算する。
【0093】
そして、次のS200では、塗装ガン位置は最終終了位置か否かを判断する。ここで塗装ガン位置が最終終了位置であると判断された場合(S200:YES)、S210へ移行する。一方、塗装ガン位置が最終終了位置でないと判断された場合(S200:NO)、S120からの処理を繰り返す。
【0094】
S210では被塗装物の最終膜厚積算結果を保存し、その後、本膜厚計算処理を終了する。
【0095】
なお、本実施形態におけるコンピュータシステムの中央装置が「パターン読込手段」、「形状情報読込手段」、「処理実行手段」、「塗装機位置読込手段」及び「被塗装物位置読込手段」に相当し、記憶装置が「角度係数記憶手段」、「比率係数記憶手段」及び「付着係数記憶手段」に相当する。また、図1中のS100の処理がパターン読込手段としての処理に相当し、S110の処理が形状情報読込手段としての処理に相当し、S120が塗装機位置読込手段としての処理に相当し、S130の処理が被塗装物位置読込手段としての処理に相当し、S140〜S190の処理が、処理実行手段の実行する膜厚取得処理に相当する。
【0096】
以上詳述したように、本実施形態では、一定時間間隔で塗装ガンの位置及び被塗装物の位置を読み込む(図1中のS120,S130)。すなわち、一定時間間隔の時刻t1,t2,t3,・・・における塗装ガン位置及び被塗装物の位置が読み込まれることになる。そして、この塗装ガン位置における膜厚値分布値を取得する(S180)。つまり、断続的なポイント毎に膜厚分布値を取得するのである。そして、これら時刻t1,t2,t3,・・・における膜厚分布値を積算して、被塗装物の膜厚分布値を取得する(S190)。
【0097】
すなわち、実際には塗装機10は連続的に塗料を噴射しながら移動するのであるが、本実施形態では、断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなして被塗装物の膜厚分布値を取得する。このようにしてよいのは、基準塗装パターンの移動距離が微少なものであれば、基準塗装パターンを移動させず同一位置で塗料を噴射したものとして膜厚値を算出しても、算出される膜厚値の精度にそれほど変わりがないためである。つまり、実際には塗膜は微少時間毎に重ね塗りされていくため、ある瞬間における塗膜の膜厚は従来のような連続的な計算手法を用いることで精度よく取得されるのであるが、比較的長い時間で見ると、同一位置で噴射したものとして膜厚を取得しても精度にそれほど大きな違いがないのである。
【0098】
これによって、S120〜S190のループ回数は比較的少なくなり、従来と比較して、積算処理(S190)が削減される。また、適当な間隔で時刻t1,t2,t3,・・・をとれば、上述したように精度は従来と同等に保たれる。したがって、その精度を同等に保ちながら、塗装膜厚シミュレーション、すなわち膜厚計算処理における計算量を削減することができる。
【0099】
また、本実施形態では、時刻情報と、塗装ガンの位置情報及び被塗装物の位置情報とが対応づけられている。そのため、一定時間間隔の時刻t1,t2,t3,・・・を指定して、塗装ガン位置及び被塗装物の位置を読み込む。つまり、塗装ガン位置及び被塗装物の位置が時刻という一次元情報によって管理されるのである。これによって、膜厚計算処理が簡単になる。また、塗装ガンの位置だけでなく、被塗装物の位置を把握する構成であるため、塗装機10だけでなく被塗装物が移動するような塗装過程のシミュレーションが可能となる。
【0100】
さらにまた、本実施形態では、膜厚値の取得にあたり、図1中のS140にて算出された距離を用い、S100にて読み込まれた2つの基準塗装パターンに基づいて内挿補間計算を行い、ある時刻の塗装ガン位置における膜厚分布値を取得する(S180)。
【0101】
これによって、塗装機10と被塗装物との距離が変化しても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、2つの基準塗装パターンを用いた補間計算を行っているため、1つの基準塗装パターンから得られる膜厚分布値を補正するのと比べて、より正確な膜厚分布値を取得できる。また、このような距離を考慮した膜厚分布値の取得も断続的なポイント毎に、すなわち一定時間間隔の時刻における塗装ガン位置毎に行われるため、従来と比較して、計算量は大幅に削減されることになる。また、S100にて読み込まれる基準塗装パターンは、許容される最小・最大距離に対応するものであるため、各ポイントにおける膜厚分布値は、内挿補間計算できることになる(図2参照)。また、この場合、2つの基準塗装パターンを用いるため、例えば図2(b)に示すような一次関数f1,f2として内挿補間されるため、計算量を削減するという目的にも適ったものとなる。
【0102】
また、本実施形態では、被塗装物と塗装ガンとの角度を算出し(図1中のS150)、角度係数を用いて膜厚分布値を補正する(S180)。具体的には、コンピュータシステムに、塗料噴射方向と塗装面の法線方向とが角度をなしている場合の塗料の付着率を角度に対応する角度係数として記憶している。そして、角度から導出される角度係数を各位置の膜厚値に乗じて、膜厚分布値を補正する。
【0103】
これによって、塗装機と被塗装物の塗装面との角度が変化しても、各時刻における膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め角度係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような角度を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に、すなわち一定時間間隔の時刻における塗装ガン位置毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0104】
さらにまた、本実施形態では、基準塗装パターンと被塗装物との面積比率を算出し(図1中のS160)、膜厚分布値を補正する(S180)。具体的には、被塗装物の塗装面と基準塗装パターンとの重なり部分に着目し、コンピュータシステムに、この重なり部分と基準塗装パターンとの面積比率に対応する付着率を比率係数として記憶している。そして、面積比率から導出される比率係数を各位置の膜厚値に乗じて膜厚分布値を補正する。
【0105】
これによって、重なり部分の面積が基準塗装パターンの面積を下回ったとしても、各時刻における膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め比率係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。特に、形状認識処理などを行う場合と比べて、処理時間が大幅に短縮される。また、このような塗装面の面積を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に、すなわち一定時間間隔の時刻における塗装ガン位置毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0106】
また、本実施形態では、被塗装物の凹凸角度を算出し(図1中のS170)、膜厚分布値を補正する(S180)。具体的には、コンピュータシステムに、凹凸角度に対応する付着率を付着係数として記憶している。そして、凹凸角度から導出される付着係数を各領域の膜厚値に乗じて、膜厚分布値を補正する。
【0107】
これによって、被塗装物の塗装面に凹凸があったとしても、各ポイントにおける膜厚分布値を的確に取得することができる。しかも、予め付着係数を獲得しておくことによって、補正計算が簡単なものとなる。また、このような塗装面の凹凸を考慮した膜厚分布値の補正も断続的なポイント毎に、すなわち一定時間間隔の時刻における塗装ガン位置毎に行われるため、計算量は大幅に削減されることになる。
【0108】
なお、本発明は、上記実施の形態には何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の形態で実施できることは言うまでもない。
【0109】
(a)上記実施形態では2つの基準塗装パターンを読み込み(図1中のS100)、図2(b)に示すような一次関数f1,f2により内挿補間していたが、3つ以上の基準パターンを読み込んで、図2(c)に示すような二次以上の関数f3,f4により補間計算を行うことも考えられる。また、許容される最小・最大距離に対応する基準塗装パターンを用いて内挿補間計算を行っているが、任意の塗装距離に対応する2以上の基準塗装パターンを読み込んで、場合によっては外挿補間を行う構成としてもよい。
【0110】
(b)上記実施形態では、基準塗装パターン、被塗装物の3D形状データ、塗装ガン位置、被塗装物位置という順序でシミュレーションデータを読み込んでいた(図1中のS100〜130)。しかしながら、このような4つのデータはどのような順序で読み込んでもよい。また、被塗装物が移動しないようなシミュレーションでは、被塗装物位置を読み込まない構成とすることも考えられる。
【0111】
(c)上記実施形態では距離、角度、面積比率、凹凸角度という順序で膜厚値取得のためのデータを算出していたが(図1中のS140〜S170)、これらの4つのデータの算出順序も特に限定されない。そして、これらのデータを用いた膜厚値の取得・補正の順序も特に限定されない。例えば、角度係数、比率係数、付着係数を最初に導出し、その後、距離から膜厚値を算出して掛け合わせるようにしてもよい。
【0112】
(d)上記実施形態では、算出された各時刻の膜厚分布値を、その都度、被塗装物の膜厚分布値に積算していた(図1中のS180,S190)。これに対し、算出した各時刻の膜厚分布値を一旦バッファなどに保存し、最後に積算するようにしてもよい。すなわち、図1中のS190の処理がS200にて肯定判断された場合に実行される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】膜厚取得処理を含む膜厚計算処理を示すフローチャートである。
【図2】塗装機と基準塗装パターンとの距離による補間計算を示す説明図である。
【図3】塗装機と塗装面との角度に基づく補正手法を示す説明図である。
【図4】塗装面と基準塗装パターンとの重なり部分の面積に基づく補正手法を示す説明図である。
【図5】塗装面の凹凸角度に基づく補正手法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0114】
10…塗装機(塗装ガン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装機を固定した状態で被塗装物に対し所定時間だけ塗料を噴射することによって被塗装物上に形成される塗膜の膜厚を計測して獲得される基準塗装パターンを用い、前記塗装機が軌道上を移動しながら前記被塗装物に対し連続的に塗料を噴射してなされる前記被塗装物の塗装過程をコンピュータシステムによってシミュレーションし、前記被塗装物の膜厚分布値を取得する塗装膜厚シミュレーション方法において、
前記塗装機による軌道上の連続的な塗料の噴射を、当該軌道上の断続的なポイントにおける塗料の噴射とみなし、前記ポイント毎に前記基準塗装パターンに基づき膜厚分布値を積算して、前記被塗装物の膜厚分布値を取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機の位置情報が時刻情報に対応付けられており、前記ポイントは、所定時刻における前記塗装機の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の位置情報が時刻情報に対応付けられており、前記ポイントは、所定時刻における前記塗装機及び前記被塗装物の位置情報として把握されることを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機と前記被塗装物との距離を異ならせて、複数の基準塗装パターンを獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記複数の基準塗装パターンに基づく補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項5】
請求項4に記載のシミュレーション方法において、
前記塗装機と前記被塗装物との最小距離及び最大距離に対応する2つの基準塗装パターンを獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される塗装機と被塗装物との距離を用いた前記2つの基準塗装パターンに基づく内挿補間計算によって取得することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面の法線方向に塗料を噴射した場合を基準とし、前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向のなす角度による塗料の付着率を角度係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記法線方向と前記塗装機の塗料噴射方向との角度に対応する角度係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面と前記基準塗装パターンとの重なり部分が当該基準塗装パターンに一致する場合を基準とし、前記重なり部分が前記基準塗装パターンの面積を下回ったときの面積比率による塗料の付着率を比率係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、当該各ポイントにおいて取得される前記重なり部分と前記基準塗装パターンとの面積比率に対応する比率係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のシミュレーション方法において、
前記被塗装物の塗装面を所定の領域に細分化して捉え、ある領域に着目したときに当該領域の塗装面と当該領域に隣接する周辺領域の塗装面とが角度をなしていない場合を基準とし、前記領域の塗装面と前記周辺領域の塗装面との角度による塗料の付着率を付着係数として獲得しておき、
前記各ポイントにおける膜厚分布値を、前記領域の塗装面が前記周辺領域の塗装面となす角度に対応する付着係数を用いて補正することを特徴とする塗装膜厚シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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