説明

塗装表面の鏡面仕上げ方法

【課題】深いキズのついた塗装面を研磨1工程で鏡面仕上げでき、研磨ツールであるポリッシャの操作が容易で、かつ研磨時の塗装表面の温度上昇を抑制できる塗装面の鏡面仕上げ方法を提供することである。
【解決手段】ポリッシャの研磨力で粉砕されて微粒子化しやすくモース硬度が2〜6の研磨砥粒を含む研磨剤を使用し、長さを10〜30mmに設定した羊毛を密集させて円板状の基板に植設したウールバフを、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物を密集させて円板状の基板に植設した細線形状物植設バフをバフ貼着ベース部に貼着させたダブルアクションポリッシャにより、塗装表面を研磨して鏡面を形成する研磨工程を含む工程からなることを特徴とする塗装表面の鏡面仕上げ方法をすることによって課題を解決できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建物などの塗装された塗装表面の仕上げ方法に関し、特にキズなどが生じた塗装表面を鏡面に仕上げる塗装表面の鏡面仕上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの塗装表面に生じたキズなどを修復し鏡面仕上げする方法として、例えば、塗装表面に対して、研磨粒子とフッ素樹脂粒子とシリコーンオイルとを含有するコーティング剤を塗布する第1塗布工程と、該第1塗布工程で塗布したコーティング剤を、ウールバフを用いて塗装表面上に伸ばしながら塗装表面を研磨し、鏡面下地形成工程と、該鏡面下地形成工程が完了した塗装表面に対して、上記第1塗布工程で使用したコーティング剤と同質のコーティング剤を塗布する第2塗布工程と、該第2塗布工程で塗布したコーティング剤をスポンジバフを用いて塗装表面上に伸ばしながら、コーティング剤中のフッ素樹脂粒子をコーティング層内に擦り込んで鏡面を形成する鏡面形成工程とを有する塗装表面の処理方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、一般的に塗装面のキズの修復及び鏡面仕上げで実施されている作業は、第1工程として、平均粒径10〜20μmの研磨砥粒を含有した研磨剤を塗装面に塗布し長さ3〜5mmの羊毛を植設したウールバフを貼設したシングルアクションポリッシャで研磨する荒目研磨工程と、第2工程として、平均粒径5〜10μmの研磨砥粒を含有した研磨剤を塗装面に塗布し荒目のスポンジバフを貼設したシングルアクションポリッシャで研磨する中目研磨工程と、第3工程として、平均粒径0.3〜5μmの研磨砥粒を含有した研磨剤を塗装面に塗布し細目のスポンジバフを貼設したシングルアクションポリッシャで研磨する細目研磨工程との3工程からなる研磨工程を実施して塗装面のキズを補修し鏡面仕上げを実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−342577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の塗装表面の処理方法は、研磨粒子、フッ素樹脂粒子及びシリコーンオイルを含んだコーティング剤であるため、塗装表面に対するコーティング力を有しているが研磨力が弱いので、塗装表面のキズの深さが2〜3μmの浅いキズの深さまでは塗膜を研磨で削り取り塗装表面からキズをなくすことができるが、キズの深さが5〜10μmの深いキズは研磨で削り取ることはできずに残存するという問題があった、
【0006】
また、残存した深いキズに対しては、コーティング剤を擦り込んで平滑な塗装表面を形成するが、太陽光や雨などにより塗装表面が酸化や劣化して、深いキズに擦り込んで埋めたコーティング剤が剥離して、塗装表面にキズが顕在化するという問題があった。
【0007】
また、特許文献1にはポリッシャの記載はあるが、シングルアクションポリッシャかダブルアクションポリッシャかの記載が見られない。一般的には回転力があり研磨力が高いシングルアクションポリッシャが使用されるが、このシングルアクションポリッシャの操作には力を要し、シングルアクションポリッシャの操作を誤ると塗装面に新たなキズをつけるので操作しにくいという問題があった。
【0008】
キズの深さが5〜10μmの深いキズをなくす研磨方法としては、一般的な塗装表面のキズの修復及び鏡面仕上げの方法として、研磨工程が荒目研磨工程、中目研磨工程及び細目研磨工程の3工程からなるキズの修復及び鏡面仕上げ方法が実施されている。
【0009】
研磨工程が荒目研磨工程、中目研磨工程及び細目研磨工程の3工程からなるキズの修復及び鏡面仕上げ方法の場合には、例えば自動車の同一塗装面を3回も研磨作業を実施しなければならないため、作業のムダがあり作業効率が極めて悪いという問題があった。
【0010】
また、深いキズをなくし鏡面仕上げをするために、キズの深さ以上に塗膜を研磨によって削り取らなければならないという問題があった。
【0011】
また、3つの研磨工程で使用する研磨剤及びバフがそれぞれ工程ごとに異なるため、3種類の研磨剤及び3種類のバフを使用しなければならない。このため、材料などの仕掛が3種類分要し、研磨工程ごとに取替え作業が発生するなど作業が煩雑になることから、キズの修復及び鏡面仕上げの作業コストが高くなるという問題があった。
【0012】
また、3つの研磨工程ではすべてシングルアクションポリッシャで研磨するが、高回転するシングルアクションポリッシャの操作には力を要するため、シングルアクションポリッシャの操作を誤ると塗装面に新たなキズをつけるので操作しにくいという問題があり、熟練作業者しか操作することができないという問題があった。
【0013】
シングルアクションポリッシャで塗装表面に対して押圧させて研磨するので、塗装表面には摩擦熱が発生する。この摩擦熱によって塗装表面が高温になり、この高温によって塗装表面の塗膜が軟化して、塗装表面にキズがつきやすくいなるという問題があった。
【0014】
さらに、研磨工程数が3工程あると、研磨作業時に誤って塗装表面に研磨キズをつけるリスクが高まるという問題があった。
【0015】
したがって、本発明の目的は、深いキズのついた塗装面を研磨1工程で鏡面仕上げでき、研磨ツールであるポリッシャの操作が容易で、かつ研磨時の塗装表面の温度上昇を抑制できる塗装面の鏡面仕上げ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
「発明が解決しようとする課題」に記載した課題を解決するために、請求項1に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法の発明は、ポリッシャの研磨力で粉砕されて微粒子化しやすくモース硬度が2〜6の研磨砥粒40を含む研磨剤8を使用し、長さを10〜30mmに設定した羊毛4を密集させて円板状の基板5に植設したウールバフ3を、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物64を密集させて円板状の基板に植設した細線形状物植設バフ63をバフ貼着ベース部10に貼着させたダブルアクションポリッシャ15により、塗装表面20、21、22、23を研磨して鏡面を形成する研磨工程2を含む工程からなることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法の発明は、請求項1において、前記研磨砥粒40が、砥粒の製造過程で昇降温を繰り返して結晶構造を破壊されやすくした砥粒で、研磨砥粒40として使用するとポリッシャの研磨力で粉砕されやすく、モース硬度が2〜6の砥粒で、前記砥粒が平均粒径0.3〜20μmの砥粒であることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法の発明は、請求項1又は2において、前記研磨砥粒40が、酸化ジルコニウムであることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記研磨剤8が、研磨砥粒40を10〜25重量%、石油系溶剤を15〜30重量%、界面活性剤を1〜5重量%、多価アルコールを1〜5重量%、増粘剤を1〜5重量%、メタケイ酸ナトリウムを5〜10重量%及び水を30〜50重量%を含有する研磨剤からなることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、ポリッシャの構成部品である略円盤形状を有するバフ貼着用ベース10が、中央部に設けられたポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部11と、円盤形状の外縁部に形成した外周縁フランジ部12との間の環形状部13を垂直断面で凹形状にくり抜いて板圧2〜3mmの薄肉化、及び前記薄肉化した環形状部13に直径10〜15mmの重量軽減孔14を6〜12個所設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明は、研磨剤8が1種類で、使用するバフが1種類で、ポリッシャの型が1種類で、研磨工程2が1工程で塗装表面の10μmレベルの深いキズを修復し鏡面仕上げを実現させるという効果を奏する。
【0022】
研磨剤8の研磨砥粒40が研磨開始時の大きさから粉砕され微細化していくので、1種類の研磨砥粒40によって、研磨開始時は大きな砥粒で深いキズの周辺の塗装表面を削り取り、終盤では微細な大きさの研磨砥粒42で塗装表面を鏡面仕上げすることができるという効果を奏する。
【0023】
モース硬度を2〜6の研磨砥粒40を使用するので、塗膜のモース硬度と略同一であることから、塗装表面20、21、22,23に研磨キズがつきにくいという効果を奏する。
【0024】
羊毛3の長さが10〜30mmと長い羊毛4のウールバフ3を使用するので、長い毛に研磨砥粒40、41、42を含有した研磨剤8が絡んで付着しやすいため、高回転するシングルアクションポリッシャでなくても、上下・左右・回転などの複雑な作動をするダブルアクションポリッシャ15でも充分な研磨力を有することができるという効果を奏する。
【0025】
長い羊毛4の1本1本がダブルアクションポリッシャ15の上下・左右・回転などの複雑な作動で塗装表面20、21に存するキズの空間部6に次々と侵入しキズの内壁24や塗装表面のキズ外周部の角形状部25に衝突して前記キズの空間部6から抜けていくので、キズの内壁24の塗膜7や塗装表面20、21のキズ外周部の角形状部25の塗膜7を削り取るという効果を奏する。
【0026】
したがって、キズの垂直方向断面形状を、キズ底部26に鋭角な空間を有し塗装表面20との接点部形状が角形の略V字形から、キズ底部26に広角な空間を有し塗装表面23との接点部形状が大きな略円弧形状の略水平形状にするので、キズの底部26まで塗膜7を削り取らなくても、光を照射したときに塗装表面23にはキズ跡による影が生じないようになりキズが見えにくくなるという効果を奏する。
【0027】
一方、5〜6mm以下の短い羊毛の場合には、短い毛が密集して植設されているため羊毛がまっすぐに縦立している。このため羊毛の先が塗装表面20に対してほぼ同一の高さで当接するので、研磨によって削り取られた後の塗装表面高さがほぼ同一の高さになりながら塗膜7が徐々に削り取られる。したがって、塗膜7の削り取り深さがキズの深さ以上にならないと、塗装表面20、51、52のキズが消滅しないし塗装表面を鏡面仕上げすることができない。
【0028】
5〜6mm以下の短い羊毛の場合には縦立した羊毛の毛先で塗装表面20、51、52、53を研磨するので塗装表面に研磨キズがつきやすいが、本発明のように羊毛4の毛が長い場合には羊毛4が密集していてもフワフワ感があるので塗装表面20、55、56、57に研磨キズがつきにくいという効果を奏する。
【0029】
また、研磨時に塗装表面20との抵抗が大きいシングルアクションポリッシャを使用せず、研磨時に塗装表面20との抵抗が小さいダブルアクションポリッシャ15の使用でキズの修復と鏡面仕上げが可能となるので、研磨作業時の作業者にかかる体力的な負荷が軽減され、誤って塗装表面20、21、22、23に作業ミスによるダメージを生じさせることがなくなるという効果を奏する。
【0030】
請求項2乃至4のいずれかに記載の発明は、請求項1に記載の発明と同じ効果を奏する。
【0031】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかの発明と同じ効果を奏する。さらに、ポリッシャ本体とバフ貼設用ベース10との間の隙間を拡大させたことにより、研磨による摩擦熱の大気中への放熱効果を高める効果を奏する。
【0032】
放熱効果を高めたことにより、摩擦熱による塗装表面20、21、22、23における温度上昇がほとんど生じない効果とともに、塗装表面20、21、22、23の塗膜7の軟化を防止でき、研磨キズなどのキズを生じにくくするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明である塗装表面の鏡面仕上げ方法の概要工程図である。
【図2】ウールバフの正面概要図である。
【図3】ウールバフの正面概要図の一部拡大図である。
【図4】バフ貼着用ベースの平面概要図である。
【図5】バフ貼着用ベースの正面概要図である。
【図6】シングルアクションポリッシャを使用して研磨した場合のサーモグラフィ概要図である。
【図7】ダブルアクションポリッシャを使用して研磨した場合のサーモグラフィ概要図である。
【図8】本発明の塗装表面の鏡面仕上げ方法の研磨開始直後のキズ部付近の断面概要図である。
【図9】本発明の塗装表面の鏡面仕上げ方法の研磨開始から少し経過したときのキズ部付近の断面概要図である。
【図10】本発明の塗装表面の鏡面仕上げ方法の鏡面仕上げのときのキズがあった付近の断面概要図である。
【図11】本発明の塗装表面の鏡面仕上げ方法の鏡面が形成されたときのキズがあった付近の断面概要図である。
【図12】シングルアクションポリッシャを使用したとき筋力負担のサーモグラフィであって、(a)は手の尺側手根屈筋の図である。(b)は腕の上腕三頭筋の図である。(c)は胸の大胸筋の図である。
【図13】ダブルアクションポリッシャを使用したとき筋力負担のサーモグラフィであって、(a)は手の尺側手根屈筋の図である。(b)は腕の上腕三頭筋の図である。(c)は胸の大胸筋の図である。
【図14】深いV字型キズの従来の一般的なキズ修復及び鏡面仕上げの場合の塗装表面の変化の概要模式図である。
【図15】深いV字型キズの従来の本発明のキズ修復及び鏡面仕上げの場合の塗装表面の変化の概要模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の塗装表面の鏡面仕上げ方法の工程1は、図1に示すように、準備作業9を実施した後、ポリッシャの研磨力で粉砕されて微粒子化しやすくモース硬度が2〜6の研磨砥粒40を含む研磨剤8を使用し、長さを10〜30mmに設定した羊毛4を密集させて円板状の基板5に植設したウールバフ3を、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物64を密集させて円板状の基板5に植設した細線形状物植設バフ63をバフ貼着ベース部10に貼着させたダブルアクションポリッシャ15により、塗装表面20、21、22、23を研磨して鏡面を形成する1つの研磨工程2からなる。
【0035】
使用する研磨剤8の成分構成は、研磨砥粒40を10〜25重量%、石油系溶剤を15〜30重量%、界面活性剤を1〜5重量%、多価アルコールを1〜5重量%、増粘剤を1〜5重量%、メタケイ酸ナトリウムを5〜10重量%及び水を30〜50重量%を含有する研磨剤8である。
【0036】
まず、本発明に使用する研磨砥粒40について説明する。研磨砥粒40は、砥粒の製造過程で昇降温を繰り返して相転移させ体積変化を生じさせて結晶構造を破壊されやすくした砥粒であって、その砥粒を研磨砥粒として使用するとポリッシャの上下、左右及び回転力で粉砕されやすくなっており、モース硬度が2〜6で、平均粒径0.3〜20μmの砥粒である。
【0037】
前記の要件を具備する研磨砥粒40としては、例えば酸化ジルコニウムがある。
【0038】
研磨砥粒40として酸化ジルコニウムを使用した場合には、研磨開始時には酸化ジルコニウムの粒径が平均粒径0.3〜20μm、好ましくは平均粒径1〜10μmであったものがポリッシャによる研磨の過程で粉砕され平均粒径0.1〜2μmまで微細化する。このように、酸化ジルコニウムを研磨砥粒40としたときに酸化ジルコニウムの粒子の大きさが研磨開始時は粒径が大きく、研磨の過程で結晶が粉砕され微粒子化する。
【0039】
研磨開始時は図8に示すように塗装表面20に形成されたキズの周囲を研磨砥粒40の粗い粒子を含有した研磨剤8で塗膜7を削り取り、研磨の過程で結晶が粉砕され微粒子化が拡がっていくと図9に示すように中程度の大きさの研磨砥粒41を含有した研磨剤8で塗膜7が削られ、さらに微粒子化が拡がっていくと図10に示すように微粒子化された研磨砥粒42を含有した研磨剤8で塗装表面22に対する鏡面仕上げが実施され、この結果図11に示すような鏡面仕上げされた塗装表面23が形成される。
【0040】
次に、本発明に使用するバフについて、正面概要図である図2及び正面概要図の一部拡大図である図3で説明する。使用するバフの型としては、長さを10〜30mmに設定した羊毛4を密集させて円板状の基板5に植設したウールバフ3、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物64を密集させて円板状の基板5に植設した細線形状物植設バフ63がよい。
【0041】
バフに植設した細線形状のものの長さが長いほど、図8に示すように、羊毛4又はポリエステルからなる細線形状物64が深いキズの空間部6に入り込やすくなり、羊毛4又はポリエステルからなる細線形状物64に研磨砥粒40を含有した研磨剤8が絡んで付着しやすくなり、前記空間部6に入った羊毛4又はポリエステルからなる細線形状物64で前記キズの内壁24の塗膜7や塗装表面部との角形状部25の塗膜7を削り取りやすくなる。
【0042】
次に、ポリッシャについて説明する。上下、左右及び回転運動をするダブルアクションポリッシャ15を研磨作業に使用すると、1方向の回転運動のみのシングルアクションポリッシャを研磨作業に使用した場合よりも作業者の手、腕又は胸にかかる負荷を低減できるので、研磨作業が極めて楽に容易にできるという効果が生じる。
【0043】
ダブルアクションポリッシャ15は、上下、左右及び回転運動をするので、羊毛4又はポリエステルからなる細線形状物64が、塗装表面20についたキズの略V字型の空間部6に入り込みやすく、かつ入り込んだ羊毛4又はポリエステルからなる細線形状物64が上下、左右及び回転運動をするので、キズの内壁24の塗膜7や塗装表面部との角形状部25の塗膜7を削り取りやすくなる。
【0044】
ダブルアクションポリッシャ15に取り付けるバフ貼着用ベース10の形状を平面概要図である図4及び正面概要図である図5で説明する。バフ貼着用ベース10の中央部に設けられたポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部11と、円盤形状の外縁部に形成した外周縁フランジ部12との間の環形状部13を垂直断面で凹形状にくり抜いて板圧2〜3mmの薄肉化、及び前記薄肉化した環形状部13に直径10〜15mmの重量軽減孔14を6〜12個所設けた。
【0045】
これにより、バフ貼着用ベース10の軽減化とともに、研磨時に塗装表面20、21、22、23に生じる摩擦熱の熱量の放熱効果を高まることができ、放熱効果が高まることにより、研磨作業で生じる摩擦熱による塗装表面20、21、22、23の温度上昇を抑制することができ、塗膜7の軟化を抑制でき塗装表面に研磨キズを発生しにくくすることができる。
【0046】
ポリッシャを使用するときには、ポリッシャを握るときに使う筋肉として手の尺側手根屈筋を使用し、ポリッシャを押しつけるときに使う筋肉として腕の上腕三頭斤筋と胸の大胸筋を使用する。そこで、従来のシングルアクションポリッシャを使用した場合と、本発明のバフ貼着用ベース10を付け替えたダブルアクションポリッシャ15を使用した場合との手の尺側手根屈筋、腕の上腕三頭斤筋及び胸の大胸筋の筋電位を測定し比較した。
【0047】
従来のシングルアクションポリッシャを使用した場合を図12(a)乃至図12(c)に示すように筋電位測定値は平均値で略0.5mV、最大値で略1mVを示しており、本発明のバフ貼着用ベース10を付け替えたダブルアクションポリッシャ15を使用した場合を図13(a)乃至図13(c)に示すように筋電位測定値は平均値で略0.1mVを示していて、本発明の場合が作業者の負担は1/5〜1/10に軽減されることが示されている。
【0048】
また、塗装表面20を従来のシングルアクションポリッシャを使用して研磨した場合と、本発明のバフ貼着用ベース10を付け替えたダブルアクションポリッシャ15を使用して研磨した場合との塗装表面20の温度をサーモグラフィで測定し比較した。
【0049】
室温が20℃で、塗装表面20のA点の温度が20℃のときにおいて、従来のシングルアクションポリッシャを使用して研磨した場合を図6のサーモグラフ略図30に示しているように塗装表面20の温度の最高値はB点で90.3℃であり、本発明のバフ貼着用ベース10を付け替えたダブルアクションポリッシャ15を使用して研磨した場合を図7のサーモグラフ略図31に示しているようにC点で22.5℃であった。
【0050】
サーモグラフィ30、31の温度測定結果の比較から、本発明のバフ貼着用ベース10を固設したダブルアクションポリッシャ15を使用して研磨した場合には摩擦熱の発生がほとんど認められなかった。
【0051】
次に、1回の研磨作業で塗装表面にできた深いキズを修復し鏡面を形成させる方法を図1に示す塗装表面の鏡面仕上げ方法の工程1の手順に従って説明する。
【0052】
まず、研磨作業前の準備作業9として、市販されているダブルアクションポリッシャ15のバフ貼着用ベース10を取り外し、中央部に設けられたポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部11と、円盤形状の外縁部に形成した外周縁フランジ部12との間の環形状部13を垂直断面で凹形状にくり抜いて板圧2〜3mmの薄肉化、及び前記薄肉化した環形状部13に直径10〜15mmの重量軽減孔14を6〜12個所設けたバフ貼着用ベース10をダブルアクションポリッシャ15に固設する。
【0053】
このとき、市販のダブルアクションポリッシャ15はいずれの型でよく、それぞれの型に適応させるようにバフ貼着用ベース10のポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部11の形状を変えればよい。
【0054】
次に、バフ貼着用ベース10を取り替えた前記ダブルアクションポリッシャ15に、長さを10〜30mmに設定した羊毛4を密集させて円板状の基板5に植設したウールバフ3を、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物64を密集させて円板状の基板5に植設した細線形状物植設バフ63を貼着する。
【0055】
そして、例えば酸化ジルコニクムが含有された研磨剤8を、キズのある塗装表面20に塗布、又はダブルアクションポリッシャ15のバフ部に塗布する。
【0056】
そして、ダブルアクションポリッシャ15で、キズ修復範囲や鏡面仕上げ対象範囲の塗装表面20を研磨し、塗装表面23に光沢が見られ鏡面が形成されたことを確認したら研磨作業を終了する。このように1回の研磨作業で深いキズのある塗装表面20のキズの修復及び鏡面仕上げをすることができる。
【0057】
深いキズが修復されて鏡面仕上げが完成する過程を図8乃至図11で説明する。研磨開始直後の粗い研磨砥粒40で塗膜7を削り取るときの状態を図8、研磨開始して少し経過後の少し微粒子化が進んだ研磨砥粒41で塗膜7を削り取るときの状態を図8、微粒子となった研磨砥粒42で塗装表面22を鏡面仕上げするときの状態を図10、そして鏡面仕上げが終了し塗装表面23に鏡面が形成された状態を図11に示す。
【0058】
図8に示すように、塗装表面20には断面略V字型のキズが存在している。ダブルアクションポリッシャ15で塗装表面20を研磨し始めたころは、粉砕され微粒子化されやすい平均粒径1〜10μmの大きさの研磨砥粒40を含有した研磨剤8が付着した、ウールバフ3のロングの羊毛4が、キズのV字内の空間部6に入り込み、かつキズの塗装表面との接点部である角形状部25に当接して、ダブルアクションポリッシャ15による上下、左右又は回転の複雑な運動でよって、キズの内壁24の塗膜7及び塗装表面との接点部である角形状部25の塗膜7を前記大きさの研磨砥粒40で多数の方向から削り取る。
【0059】
前記研磨はキズの深さ以上の深さまで塗膜7を削り取るのではなく、キズの内壁24の塗膜7及び塗装表面との接点部である角形状部25の塗膜7を削り取るものである。したがって、キズの垂直方向断面形状を、図8に示すようなキズ底部26に鋭角な空間を有し塗装表面20との接点部形状が角形の略V字形から、図11に示すようなキズ底部26に広角な空間を有し塗装表面23との接点部形状が大きな略円弧形状の略水平形状にするので、キズの深さ以上に塗膜7を削り取らない。
【0060】
研磨が進むと、図9に示すように、当初の塗装表面20の位置から塗装表面の高さが塗装表面21の位置まで下がり、かつ図8に示した研磨砥粒40の平均粒径がだんだん微粒子化し研磨砥粒40より小さい研磨砥粒41になる。微粒子化がやや進んだ研磨砥粒41を含有した研磨剤8で塗装表面21を研磨すると塗膜7が更に削り取られて、かつ研磨砥粒41はさらに図10に示すように0.1〜2μmの粒径にまで微粒子化する。
【0061】
図10に示すように、ほとんどすべての研磨砥粒が微粒子化した研磨砥粒42を含有した研磨剤8で塗装表面22を研磨すると鏡面仕上げがすすみ、図11に示すように塗装表面23に光沢が生じ鏡面が形成される。すると、キズの深さ以上の深さまで塗膜7を研磨で削り取らなくても、光を照射したときに塗装表面23にはキズ底部26による影が生じないようになりキズ底部26が見えにくくなる。
【0062】
ここで、略V字形状のキズに対する、本発明の研磨方法による塗装表面20の形状変化の過程と、従来からの一般的な研磨方法による塗装表面20の形状変化の過程の違いを図14及び図15で説明する。
【0063】
従来からの一般的な研磨方法は、図14に示すように、短い毛が密集して植設されて羊毛がまっすぐに縦立しているため、研磨するにしたがって塗装表面20高さが、研磨前の塗装表面20の高さ位置から徐々に略水平方向で略同じ高さで51、52と下がっていき、最後には塗装表面高さが略V字形状のキズが完全になくなる塗装表面53の位置までキズの深さ以上に下がる。
【0064】
一方、本発明の研磨方法は、図15に示すように、長い羊毛4の1本1本がダブルアクションポリッシャ15の上下・左右・回転などの複雑な作動で塗装表面20、55、56、57に存するキズの空間部6に次々と侵入し、キズの内壁24の塗膜7や、塗装表面のキズ外周部の角形状部25の塗膜7を削り取るので、塗装表面20高さ及び形状は、55、56、57と変化し、キズ底部26に広角な空間を有し塗装表面57との接点部形状が大きな略円弧形状となる略水平形状になるので、キズの深さまで塗膜を削り取らなくても、光を照射したときに塗装表面57にはキズ跡による影が生じないようになりキズが見えにくくなる。
【0065】
以上により、深いキズのある塗装表面20を、1回の研磨でキズを修復し鏡面仕上げをすることができる。
【0066】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は実施例により限定されるものでない。
【実施例1】
【0067】
まず、研磨作業前の準備として、黒色塗りの自動車を準備し、前記自動車のボンネットの塗装表面20状態は、黒色が白っぽくくすんで見え、洗車キズや擦りキズが数多くあった。これらのキズのうち26箇所の深さをマイクロスコープ(型式2054−100EM PEAK社製)で測定するとキズの深さは0.1〜10μmであった。また、モース硬度は2であった。そして、ボンネット部分を中性のシャンプーで洗車し乾いたタオルで水分を拭き取った。
【0068】
市販されているダブルアクションポリッシャ(型式RSE−1250 リョービ製)15のバフ貼着用ベースを取り外し、中央部に設けられたポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部11と、円盤形状の外縁部に形成した外周縁フランジ部12との間の環形状部13を垂直断面で凹形状にくり抜いて板圧3mmの薄肉化、及び前記薄肉化した環形状部13に直径12mmの重量軽減孔14を8個所設けたバフ貼着用ベース10をダブルアクションポリッシャ15にボルト4本で締結することにより固設する。
【0069】
次に、バフ貼着用ベース10を取り替えた前記ダブルアクションポリッシャ15に、長さを10〜20mmに設定した羊毛4を密集させて円板状の基板5に植設した直径130mmのウールバフ3を貼着する。
【0070】
そして、酸化ジルコニクムが含有された研磨剤8略0.5mgを、キズのある塗装表面20に塗布、又はダブルアクションポリッシャ15のウールバフ3に塗布する。
【0071】
そして、ダブルアクションポリッシャ15で、キズ修復範囲や鏡面仕上げ対象範囲の塗装表面20、21、22、23を縦方向又は横方向で研磨し、塗装表面23に光沢が見られ鏡面が形成されたことを確認したら研磨作業を終了し、1回の研磨作業で深いキズのある塗装表面20のキズの修復及び鏡面仕上げができる。
【0072】
研磨作業終了後にマイクロスコープで確認すると、塗装面特有のユズ膚を残したまますべてのキズが消えて鏡面が形成されていた。
【0073】
さらに、モース硬度4の別の自動車のボンネットに対し上記と同様の本発明の塗装表面20の鏡面仕上げ方法を実施すると、キズの深さ10μmが消え鏡面が形成された。
【符号の説明】
【0074】
1 塗装表面の鏡面仕上げ方法の工程
2 研磨工程
3 ウールバフ
4 羊毛
5 基板
6 空間部
7 塗膜
8 研磨剤
9 準備作業
10 バフ貼設用ベース
11 軸受部
12 外周縁フランジ部
13 環形状部
14 重量軽減孔
15 ダブルアクションポリッシャ
20 塗装表面
21 塗装表面
22 塗装表面
23 塗装表面
24 内壁
25 角形状部
26 底部
30 サーモグラフ略図
31 サーモグラフ略図
40 研磨砥粒
41 研磨砥粒
42 研磨砥粒
51 塗装表面
52 塗装表面
53 塗装表面
55 塗装表面
56 塗装表面
57 塗装表面
63 細線形状物植設バフ
64 ポリエステルからなる細線形状物
A 熱発生のない位置
B 最高温度の位置
C 最高温度の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリッシャの研磨力で粉砕されて微粒子化しやすくモース硬度が2〜6の研磨砥粒を含む研磨剤を使用し、長さを10〜30mmに設定した羊毛を密集させて円板状の基板に植設したウールバフを、又は長さを10〜30mmに設定したポリエステルからなる細線形状物を密集させて円板状の基板に植設した細線形状物植設バフをバフ貼着ベース部に貼着させたダブルアクションポリッシャにより、塗装表面を研磨して鏡面を形成する研磨工程を含む工程からなることを特徴とする塗装表面の鏡面仕上げ方法。
【請求項2】
前記研磨砥粒が、砥粒の製造過程で昇降温を繰り返して結晶構造を破壊されやすくした砥粒で、研磨砥粒として使用するとポリッシャの研磨力で粉砕されやすく、モース硬度が2〜6の砥粒で、前記砥粒が平均粒径0.3〜20μmの砥粒であることを特徴とする請求項1に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法。
【請求項3】
前記研磨砥粒が、酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法。
【請求項4】
前記研磨剤が、研磨砥粒を10〜25重量%、石油系溶剤を15〜30重量%、界面活性剤を1〜5重量%、多価アルコールを1〜5重量%、増粘剤を1〜5重量%、メタケイ酸ナトリウムを5〜10重量%及び水を30〜50重量%を含有する研磨剤からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法。
【請求項5】
ポリッシャの構成部品である略円盤形状を有するバフ貼着用ベースが、中央部に設けられたポリッシャの出力軸を嵌入させる軸受部と、円盤形状の外縁部に形成した外周縁フランジ部との間の環形状部を垂直断面で凹形状にくり抜いて板圧2〜3mmの薄肉化、及び前記薄肉化した環形状部に直径10〜15mmの重量軽減孔を6〜12個所設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗装表面の鏡面仕上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−125842(P2012−125842A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276473(P2010−276473)
【出願日】平成22年12月12日(2010.12.12)
【出願人】(510328065)
【出願人】(510328076)
【出願人】(510328087)
【Fターム(参考)】