説明

塩化ビニル系樹脂用可塑剤、それを用いた塩化ビニル系樹脂組成物及び食品包装用ストレッチフィルム

【課題】n−ヘプタン抽出蒸発残留物試験法で測定した値が従来の塩化ビニル系樹脂用可塑剤より低減することができ、可塑剤として要求される物性も満足した塩化ビニル系樹脂用可塑剤、それを用いた塩化ビニル系樹脂組成物及び食品包装用ストレッチフィルムを提供する。
【解決手段】アジピン酸(A)を必須成分とする脂肪族系ジカルボン酸成分と、1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)を必須成分とする脂肪族系ジオール成分と、ラウリン酸(D)を必須成分とする末端封止成分とを原料として製造されたエステル化合物であって、該エステル化合物の数平均分子量が3,000〜4,000であるエステル化合物からなる塩化ビニル系樹脂用可塑剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂用可塑剤、それを用いた塩化ビニル系樹脂組成物及び食品包装用ストレッチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂に可塑剤を配合して可塑化した包装用フィルムは、加工食品、青果物、水産物、精肉等の食品の食品包装用ストレッチフィルムや家庭用として広く利用されている。塩化ビニル系樹脂を可塑化するために、従来は主にエポキシ化大豆油系可塑剤やアジピン酸ジイソノニル(以下、「DINA」と略記する。)を可塑剤として使用してフィルム加工してきた。しかしながら、低分子化合物であるDINAは食用油や有機溶剤に対し、容易に溶出する傾向があるため、DINAを含有する塩化ビニル系樹脂組成物を食品包装用ストレッチフィルムに用いた場合、食品等への移行が懸念され、近年の健康志向の高まりの中では、決して好ましい材料と言えなかった。
【0003】
食品包装用ストレッチフィルム中の可塑剤の食品等への移行性については、昭和57年厚生省告示20号によりn−ヘプタン抽出蒸発残留物試験法で測定した値が150ppm以下であることとする規格が存在するが、近年ではn−ヘプタンでの抽出量をさらに低減したものが要求されている。
【0004】
上記以外の塩化ビニル系樹脂に用いる可塑剤としては、例えば、アジピン酸及び1,3−ブタンジオールを原料としたエステル系可塑剤(例えば、特許文献1及び2参照。)、アジピン酸、1,2−プロパンジオール及びラウリン酸の縮合物からなるエステル系可塑剤(例えば、特許文献3参照。)が知られている。しかしながら、これらのエステル系可塑剤は、n−ヘプタン抽出蒸発残留物試験法で測定した値が十分に低減できず、近年の要求を満たすものではなかった。
【0005】
そこで、n−ヘプタンでの抽出量をより低減しつつ、可塑剤として要求される物性も満足した塩化ビニル系樹脂用可塑剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−243145号公報
【特許文献2】特開平10−158450号公報
【特許文献3】特開平10−158452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、n−ヘプタン抽出蒸発残留物試験法で測定した値が従来の塩化ビニル系樹脂用可塑剤より低減することができ、可塑剤として要求される物性も満足した塩化ビニル系樹脂用可塑剤、それを用いた塩化ビニル系樹脂組成物及び食品包装用ストレッチフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、アジピン酸と、1,2−プロパンジオール及び炭素原子数4〜6のジオールと、ラウリン酸とを原料として製造された化合物のうち、前記1,2−プロパンジオールと前記炭素原子数4〜6のジオールとのモル比率を特定の範囲であり、特定の範囲の数平均分子量を有するエステル化合物を塩化ビニル系樹脂用可塑剤として用いることにより、課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、アジピン酸(A)を必須成分とする脂肪族系ジカルボン酸成分と、1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)を必須成分とする脂肪族系ジオール成分と、ラウリン酸(D)を必須成分とする末端封止成分とを原料として製造されたエステル化合物であって、前記1,2−プロパンジオール(B)と前記炭素原子数4〜6のジオール(C)とのモル比率[(B)/(C)]が8/2〜2/8の範囲であり、前記炭素原子数4〜6のジオール(C)中の1,4−ブタンジオールの比率が60モル%以上であり、該エステル化合物の数平均分子量が3,000〜4,000であるエステル化合物からなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤、それを用いた塩化ビニル系樹脂組成物及び食品包装用ストレッチフィルムに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、その中に含有する可塑剤が食用油や有機溶剤によって容易に溶出されないため、食品包装用ストレッチフィルムに用いた場合、食品等へ可塑剤が移行するのを抑制することができる。また、塩化ビニル系樹脂組成物を溶融混練して製造する際、事前に塩化ビニル系樹脂粒子と可塑剤とを混合してドライアップ(可塑剤が塩化ビニル系樹脂粒子に吸収されて、混合物がさらさらになった状態をいう。)するが、このドライアップに要する時間も比較的粘度が高い割には短いため、生産性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤は、アジピン酸(A)を必須成分とする脂肪族系ジカルボン酸成分と、1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)を必須成分とする脂肪族系ジオール成分と、ラウリン酸(D)を必須成分とする末端封止成分とを原料として製造されたエステル化合物である。
【0012】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料である脂肪族系ジカルボン酸成分は、アジピン酸(A)を必須とするが、他のジカルボン酸成分として、炭素原子数2〜10の脂肪族系ジカルボン酸を併用しても構わない。この炭素原子数2〜10の脂肪族系ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。また、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料として用いる脂肪族系ジカルボン酸成分中のアジピン酸の含有量は、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好なことから、50〜100質量%の範囲が好ましく、80〜100質量%の範囲がより好ましい。
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料である脂肪族系ジオール成分は、1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)を必須とする。また、1,2−プロパンジオール(B)と炭素原子数4〜6のジオール(C)とのモル比率[(B)/(C)]は、8/2〜2/8の範囲であるが、n−ヘプタン抽出量が少なくなること及び塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好なことから、7/3〜3/7の範囲が好ましく、6/4〜4/6の範囲がより好ましい。
【0014】
前記ジオール(C)としては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0015】
前記ジオール(C)は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできるが、1,4−ブタンジオールを必須とする。また、前記ジオール(C)中の1,4−ブタンジオールのモル比率は60モル%以上とするが、塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好で、かつ粘度を低く抑えることができるため、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料である脂肪族系ジオール成分として、前記1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)以外のジオールとして、炭素原子数2〜12の脂肪族系ジオールを併用しても構わない。この炭素原子数2〜12の脂肪族系ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖状ジオール;ネオペンチルグリコール、3,3−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,3−プロパンジオール等の分岐状ジオールなどが挙げられる。前記1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)に加え、他の脂肪族系ジオールを併用する場合、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料として用いる脂肪族系ジオール成分中の前記1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)の合計の含有量は、n−ヘプタン抽出量が少なくなること及び塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好なことから、80〜100質量%の範囲が好ましく、90〜100質量%の範囲がより好ましい。
【0017】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料である末端封止成分としては、ラウリン酸を必須とするが、他の末端封止成分として、炭素原子数2〜18の脂肪族系モノカルボン酸を併用しても構わない。この炭素原子数2〜18の脂肪族系モノカルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等が挙げられる。また、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の原料として用いる末端封止成分中のラウリン酸の含有量は、可塑化効率及び塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好なことから、50〜100質量%の範囲が好ましく、70〜100質量%の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を製造する際に用いる原料である脂肪族系ジカルボン酸成分、脂肪族系ジオール成分及び末端封止成分のそれぞれの使用量は、目的とする分子量によって適宜決められる。例えば、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の理想的な構造は、下記一般式(I)で表されるものであるため、脂肪族系ジカルボン酸成分の使用量はnモルとなり、脂肪族ジオール成分の使用量は(n+1)モルとなり、末端封止成分の使用量は2モルとなる。ここで、nは目的とする分子量より算出することができる。さらに、反応を促進し、可塑剤の水酸基価を調整するため、脂肪族系ジオール成分中の水酸基のモル当量が、脂肪族系ジカルボン酸成分及び末端封止成分中のカルボキシル基のモル当量に対して1.15〜1.25倍となるように使用するのが好ましい。
【0019】
【化1】

(上記一般式(I)中、Rは末端封止成分であるモノカルボン酸のカルボキシル基を除いたアルキル基を表し、Aは脂肪族系ジカルボン酸成分の2つのカルボキシル基を除いた残基を表し、Gは脂肪族系ジオール成分の2つの水酸基を除いた残基を表す。また、nは繰り返し単位を表し、1以上の整数である。)
【0020】
なお、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤には、上記一般式(I)で表されるエステル化合物の他、下記一般式(II)〜(IV)で表されるエステル化合物等も含有していても構わない。
【0021】
【化2】

(上記一般式(II)〜(IV)中、Rは末端封止成分であるモノカルボン酸のカルボキシル基を除いたアルキル基を表し、Aは脂肪族系ジカルボン酸成分の2つのカルボキシル基を除いた残基を表し、Gは脂肪族系ジオール成分の2つの水酸基を除いた残基を表す。また、nは繰り返し単位を表し、1以上の整数である。)
【0022】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤は、前記ジカルボン酸成分、前記ジオール成分及び前記末端封止成分を反応器に仕込み、通常のエステル化反応させることにより製造することができる。また、このエステル化反応を促進する目的で、エステル化触媒を用いることが好ましい。
【0023】
前記エステル化触媒としては、周期律表2族、4族、12族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属や有機金属化合物が挙げられる。より具体的には、例えば、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、ハフニウム、ゲルマニウム等の金属;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート、オクタン酸スズ、2−エチルヘキサンスズ、アセチルアセトナート亜鉛、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウムテトラヒドロフラン錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウムテトラヒドロフラン錯体、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム等の金属化合物などが挙げられる。これらの中でも、反応性、取扱いやすさ、エステル化反応により得られたエステル化合物の保存安定性が良好であるチタンアルコキサイド類、具体的にはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート等を用いることが好ましい。
【0024】
また、前記エステル化触媒の使用量は、エステル化反応を制御でき、かつ得られるエステル化合物の着色を抑制できる範囲の量であればよく、前記ジカルボン酸成分、前記ジオール成分及び前記末端封止成分の合計量に対し、10〜500ppmの範囲が好ましく、20〜300ppmの範囲がより好ましく、30〜100ppmの範囲が特に好ましい。
【0025】
前記エステル化合物を製造する際、前記エステル化触媒を添加する時期は、前記ジカルボン酸成分、前記ジオール成分及び前記末端封止成分を反応器に仕込むのと同時に添加してもよく、昇温途中に添加してもよく、エステル化触媒を分割して添加してもよい。
【0026】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を製造する際の反応温度は、原料となる前記ジカルボン酸成分、前記ジオール成分及び前記末端封止成分が蒸発や昇華することを抑制しつつ反応を促進し、反応により生成するエステル化合物の熱分解、着色を抑制できることから、140℃〜250℃の範囲が好ましく、180℃〜230℃の範囲がより好ましい。
【0027】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の酸価は、耐加水分解性が良好であることから、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0028】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の水酸基価は、n−ヘプタンでの抽出量をより低減でき、かつ塩化ビニル系樹脂との相溶性をより向上できることから、10〜30の範囲が好ましく、10〜25の範囲がより好ましい。
【0029】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の粘度は、ドライアップ時間を短縮できることから、1,000〜10,000mPa・sの範囲が好ましく、3,000〜8,000mPa・sの範囲がより好ましい。なお、前記エステル化合物の粘度は、B型回転粘度計(No.4ロータ、60rpm)を用いて25℃で測定したものである。また、ドライアップ時間とは、塩化ビニル系樹脂粒子と可塑剤とを混合して乾点(可塑剤が塩化ビニル系樹脂粒子に吸収されて、混合物がさらさらになった状態)に至るまでに要する時間をいう。
【0030】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤の数平均分子量は、加熱による揮発を効果的に抑制できること、及びn−ヘプタンに抽出されにくくなることから、3,000〜4,000の範囲である。
【0031】
なお、前記エステル化合物の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用して、ゲルパーミュエ−ションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定したもので、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。測定条件は、下記の通りである。
【0032】
[数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0033】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0034】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物で用いる塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリテン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニリトル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体等が挙げられる。これらの塩化ビニル系樹脂の中でも、後述するエステル化合物との相溶性が良好なこと、及び機械的特性が優れることから、ポリ塩化ビニルが好ましい。また、これらの塩化ビニル系樹脂は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。
上記の塩化ビニル系樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などのいずれの重合方法で得られたものでもよい。
【0035】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物中の前記エステル化合物の配合量は、可塑剤としての効果を十分なものとするために、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、20〜80質量部の範囲が好ましく、30〜70質量部の範囲がより好ましく、35〜65質量部の範囲がさらに好ましい。
【0036】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、前記エステル化合物を可塑剤として用いるほか、加工時の熱安定性を高めるため、安定剤としての効果を主目的としてエポキシ化植物油を配合することが好ましい。なお、このエポキシ化植物油は、可塑剤としての働きもある。このエポキシ化植物油としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化サフラワー油等が挙げられる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂との相溶性に優れるためエポキシ化大豆油を使用することが好ましい。このエポキシ化大豆油を併用する際のその配合量は、熱安定性を付与でき、かつ塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好なことから、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1〜30質量部の範囲が好ましく、5〜20質量部の範囲がより好ましく、10〜15質量部の範囲がさらに好ましい。
【0037】
さらに、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、前記エポキシ化植物油のほか、安定剤として、2−エチルへキシル酸、炭素原子数8〜22の高級脂肪酸、安息香酸、イソデカン酸、ネオデカン酸等のカルボン酸金属塩を配合することがより好ましい。これらのカルボン酸金属塩のカルボン酸としてはステアリン酸が好ましく、金属種としてはカルシウム及び亜鉛が好ましい。また、カルボン酸カルシウム塩の少なくとも1種以上とカルボン酸亜鉛塩の少なくとも1種以上を併用することがさらに好ましい。これら2種以上のカルボン酸金属塩を併用する場合、カルボン酸カルシウム塩の合計量とカルボン酸亜鉛塩との質量比は、70:30〜30:70の範囲が好ましい。これらの安定剤の配合量は、安定剤としての効果及び成形加工時の滑性付与の点で、それぞれ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲が好ましく、0.1〜5質量部の範囲がより好ましく、0.2〜1質量部の範囲がさらに好ましい。
【0038】
また、この他に使用できる安定剤としては、トリスノニルフォスファイトなどの有機フォスファイト類、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。
【0039】
さらに、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、上記で挙げた各成分以外に、防曇剤、抗菌剤、老化防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、滑剤等の添加剤を配合することもできる。
【0040】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂、前記エステル化合物を含む可塑剤及びその他の添加剤を同時に配合し、この配合物をミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、等の混練機を用いて混練することにより得ることができる。また、混練温度は、活性塩素の脱離の防止、混練時の粘度低下による加工性の低下防止の観点から、150〜180℃が好ましく、160〜170℃がより好ましい。
【0041】
また、本発明の食品包装用ストレッチフィルムは、従来公知の方法、例えばTダイ法、インフレーション法等の成形方法によって製造できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、下記で合成したエステル化合物の粘度、数平均分子量、酸価及び水酸基価は、下記の条件により測定した。
【0043】
[粘度の測定条件]
測定装置:B型粘度計(東京計器株式会社社製「DVM−B型」)
測定条件:温度25℃、No.4ロータ、60rpm
【0044】
[数平均分子量の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0045】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0046】
[酸価及び水酸基価の測定条件]
JIS K 0070−1992に準じて測定した。
【0047】
(実施例1)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2−プロパンジオール(以下、「1,2PG」と略記する。)657g(8.6モル)、1,4−ブタンジオール(以下、「1,4BG」と略記する。)778g(8.6モル)、アジピン酸(以下、「AA」と略記する。)1,971g(13.5モル)、ラウリン酸(以下、「LA」と略記する。)360g(1.8モル)及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート(以下、「TiPT」と略記する。)0.188gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計16時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(1)2,960gを得た。このエステル化合物(1)の粘度は3,840mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,470、酸価は0.1、水酸基価は17であった。
【0048】
(実施例2)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 670g(8.8モル)、1,4BG 794g(8.8モル)、AA 2,044g(14.0モル)、LA 280g(1.4モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.189gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計23時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(2)2,930gを得た。このエステル化合物(2)の粘度は7,670mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,620、酸価は0.2、水酸基価は20であった。
【0049】
(実施例3)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 788g(10.4モル)、1,4BG 612g(6.8モル)、AA 1,971g(13.5モル)、LA 360g(1.8モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.188gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計18時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(3)2,900gを得た。このエステル化合物(3)の粘度は4,230mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,450、酸価は0.3、水酸基価は21であった。
【0050】
(実施例4)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 517g(6.8モル)、1,4BG 933g(10.4モル)、AA 1,971g(13.5モル)、LA 360g(1.8モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.188gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(4)2,960gを得た。このエステル化合物(4)の粘度は3,880mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,550、酸価は0.2、水酸基価は20であった。
【0051】
(実施例5)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 919g(12.1モル)、1,4BG 467g(5.2モル)、AA 1,971g(13.5モル)、LA 360g(1.8モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.188gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計20時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(5)2,870gを得た。このエステル化合物(5)の粘度は5,100mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,510、酸価は0.3、水酸基価は18であった。
【0052】
(実施例6)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 394g(5.2モル)、1,4BG 1089g(12.1モル)、AA 1,971g(13.5モル)、LA 380g(1.9モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.192gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計16時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(6)3020gを得た。このエステル化合物(6)の粘度は4,410mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,490、酸価は0.1、水酸基価は22であった。
【0053】
(実施例7)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 207g(2.3モル)、1,3−ブタンジオール(以下、「1,3BG」と略記する。)52g(0.6モル)、AA 650g(4.5モル)、LA 128g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.063gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計14時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,4BG及び1,3BGを減圧留去することによって、エステル化合物(7)960gを得た。このエステル化合物(7)の粘度は3,340mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,110、酸価は0.3、水酸基価は11であった。
【0054】
(実施例8)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 207g(2.3モル)、1,3BG 52g(0.6モル)、AA 657g(4.5モル)、LA 120g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.063gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計17時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,4BG及び1,3BGを減圧留去することによって、エステル化合物(8)950gを得た。このエステル化合物(8)の粘度は5,770mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,260、酸価は0.1、水酸基価は16であった。
【0055】
(実施例9)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 207g(2.3モル)、1,6−ヘキサンジオール(以下、「1,6HG」と略記する。)68g(0.6モル)、AA 657g(4.5モル)、LA 120g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.063gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計18時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,4BG及び1,6HGを減圧留去することによって、エステル化合物(9)965gを得た。このエステル化合物(9)の粘度は3,560mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,340、酸価は0.2、水酸基価は15であった。
【0056】
(比較例1)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、AA 292g(2.0モル)、イソノニルアルコール(以下、「INA」と略記する。)691g(4.8モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.049gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計6時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のINAを減圧留去することによって、エステル化合物(10)788gを得た。このエステル化合物(10)の粘度は20mPa・s、酸価は0.01、水酸基価は0.01であった。なお、このエステル化合物(10)については、数平均分子量を測定していない。
【0057】
(比較例2)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 251g(3.3モル)、1,4BG 297g(3.3モル)、AA 934g(6.4モル)、n−オクタノール(以下、「NOA」と略記する。)104g(0.8モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.081gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計17時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,4BG及びNOAを減圧留去することによって、エステル化合物(11)1280gを得た。このエステル化合物(11)の粘度は7,020mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,520、酸価は0.2、水酸基価は23であった。
【0058】
(比較例3)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 259g(2.9モル)、AA 657g(4.5モル)、2−エチルヘキサノール(以下、「2EH」と略記する。)78g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.061gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計18時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,4BG及び2EHを減圧留去することによって、エステル化合物(12)910gを得た。このエステル化合物(12)の粘度は4,670mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,050、酸価は0.1、水酸基価は16であった。
【0059】
(比較例4)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積5リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 657g(8.6モル)、1,3BG 194g(2.2モル)、AA 1,168g(8.0モル)、ヤシ油脂肪酸(以下、「CoCoA」と略記する。)408g(2.0モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.121gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計19時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG、1,3BG及びCoCoAを減圧留去することによって、エステル化合物(13)1910gを得た。このエステル化合物(13)の粘度は2,500mPa・s、数平均分子量(Mn)は2,120、酸価は0.2、水酸基価は15であった。
【0060】
(比較例5)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 259g(2.9モル)、AA 650g(4.5モル)、LA 128g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.063gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(14)940gを得た。このエステル化合物(14)の粘度は4,300mPa・s、数平均分子量(Mn)は3,180、酸価は0.4、水酸基価は18であった。
【0061】
(比較例6)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 219g(2.9モル)、1,4BG 259g(2.9モル)、AA 657g(4.5モル)、LA 128g(0.6モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.063gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計14時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(15)980gを得た。このエステル化合物(15)は25℃で固体であり、数平均分子量(Mn)は3,370、酸価は0.5、水酸基価は22であった。
【0062】
(比較例7)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積2リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 228g(3.0モル)、1,4BG 270g(3.0モル)、AA 657g(4.5モル)、LA 200g(1.0モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.068gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計14時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(16)1040gを得た。このエステル化合物(16)の粘度は3,110mPa・s、数平均分子量(Mn)は2,800、酸価は0.3、水酸基価は22であった。
【0063】
(比較例8)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた内容積3リットルの4つ口フラスコに、1,2PG 237g(3.1モル)、1,4BG 280g(3.1モル)、AA 730g(5.0モル)、LA 80g(0.4モル)及びエステル化触媒としてTiPT 0.066gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃まで段階的に昇温し、その後230℃で反応させ、合計20時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2PG及び1,4BGを減圧留去することによって、エステル化合物(17)1,005gを得た。このエステル化合物(17)の粘度は9,650mPa・s、数平均分子量(Mn)は4,320、酸価は0.4、水酸基価は13であった。
【0064】
上記の実施例1〜9及び比較例1〜8で得られたエステル化合物(1)〜(17)の原料及び特性値を表1及び2にまとめた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られたエステル化合物(1)〜(17)について、下記の評価を行った。
【0068】
[ドライアップ時間の測定]
塩化ビニル系樹脂(新第一塩ビ株式会社製「ZEST1300Z」;平均重合度1,300)を400gと、実施例1〜9及び比較例1〜8で得られたエステル化合物(1)〜(17)をそれぞれ100gとをプラネタリーミキサーに投入し、温度120℃、撹拌回転数60rpmで撹拌した際の乾点(混合物がさらさらになった時点)までの時間を測定した。得られたドライアップ時間から、下記の基準にしたがってドライアップ性を評価した。
○:ドライアップ時間が130秒以下である。
×:ドライアップ時間が130秒を超える。
【0069】
[塩化ビニル系樹脂組成物の調製]
塩化ビニル系樹脂(新第一塩ビ株式会社製「ZEST1300Z」;平均重合度1,300の塩化ビニルのホモポリマー)100質量部、ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製「マグセラー1」)3.3質量部及び安定剤(日油株式会社製「ジンクステアレートG」:ステアリン酸亜鉛;以下、「Zn−St」と略記する。)0.7質量部を高速流動式混合混練機(株式会社カワタ製「スーパーミキサー」)に投入した。次いで、表3及び4に示した配合量で実施例1〜9及び比較例1〜8で得られたエステル化合物(1)〜(17)を投入し、110℃で1時間撹拌してドライアップを行った。
【0070】
[100%モジュラスの測定]
上記で得られたドライアップした組成物を2本ロールにて170℃で5分間混練し、厚さ0.2mmのフィルムを作製した。下記条件にて引張試験を実施し、100%モジュラス(伸び100%時の引張応力)を測定した。。
測定機器:株式会社オリエンテック社製「テンシロン万能材料試験機」
サンプル形状:ダンベル状3号型
チャック間距離:20mm
引張速度:200mm/分
測定雰囲気:温度23℃、湿度50%
【0071】
[耐ブリード性の評価]
上記の100%モジュラスの測定で用いた厚さ0.2mmのフィルムを3cm×3cmの大きさに裁断し、70℃で相対湿度95%の条件下で7日間放置した後、フィルムの表面を目視で観察して、可塑剤のしみ出しの有無を確認し、下記の基準にしたがって耐ブリード性を評価した。
○:可塑剤のしみ出し無し。
×:可塑剤のしみ出し有り。
【0072】
[臭気の評価]
上記の100%モジュラスの測定で用いた厚さ0.2mmのフィルムを3cm×3cmの大きさに裁断し、蓋付きの100mlガラス瓶にいれ、25℃で24時間放置した後、蓋を開け臭気の有無を確認し、臭気についての評価を下記の基準にしたがって行った。
○:臭気有り。
×:臭気無し。
【0073】
[n−ヘプタン抽出量の測定用サンプルの作製]
上記で得られたドライアップした組成物を、スクリュー外径40mmの単軸押出機(L/D=25)にて先端温度170℃で押出成形して、得られたストランドをペレタイザー(東洋精機株式会社製)でペレット化し、塩化ビニル系樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは、真空乾燥機を用いて50℃で2時間乾燥させた。
【0074】
次いで、上記で得られたペレットを、Tダイ(東洋精機株式会社製、幅150mm、ギャップ0.5mm)を装着したスクリュー外径40mmの単軸押出機(L/D=25)にて先端温度200〜220℃で押出成形して、厚さ0.01mmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、n−ヘプタン抽出量の測定の測定及び食品衛生性の評価を行った。
【0075】
[n−ヘプタン抽出量の測定及び食品衛生性の評価]
上記で得られた厚さ0.01mmのフィルムを45mm×85mmの大きさに裁断したものを2枚用意して、昭和57年厚生省告示20号に定める蒸発残留物試験法でn−ヘプタン抽出量を測定した。得られたn−ヘプタン抽出量から、下記の基準にしたがって食品衛生性を評価した。
○:n−ヘプタン抽出量が30ppm未満である。
×:n−ヘプタン抽出量が30ppm以上である。
【0076】
上記の測定及び評価の結果を表3及び4に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3に示した結果から、実施例1〜9の本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物(1)〜(9)は、ドライアップ時間が130秒以下であり生産性(ドライアップ性)が良好であることが分かった。また、実施例1〜9の本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、食品用ストレッチフィルムに必要な物性を備えるために100%モジュラスを調整した後、すなわち実際に使用される組成における耐ブリード性に優れ、n−ヘプタン抽出量も28ppm以下と、現行の規格である150ppmを大幅に下回り、食品衛生的に優れた材料であることが分かった。
【0080】
比較例1は、ジオールを用いず、ジカルボン酸とモノアルコールのみから得られたエステル化合物(10)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(10)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、臭気が発生する問題があり、n−ヘプタン抽出量が79ppmであるため、食品衛生的に懸念がある材料であることが分かった。
【0081】
比較例2は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の末端封止成分として必須成分であるラウリン酸をn−オクタノールに代えたエステル化合物(11)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(11)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、臭気が発生する問題があることが分かった。
【0082】
比較例3は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の末端封止成分として必須成分であるラウリン酸を2−エチルヘキサノールに代えたエステル化合物(12)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(12)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、臭気が発生する問題があることが分かった。
【0083】
比較例4は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の末端封止成分として必須成分であるラウリン酸をヤシ油脂肪酸に代えたエステル化合物(13)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(13)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、ブリードを発生しやすい問題があり、n−ヘプタン抽出量が42ppmであり食品衛生的に懸念がある材料であることが分かった。
【0084】
比較例5は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物のジオール成分である1,2−プロパンジオール(B)と炭素原子数4〜6のジオール(C)である1,4−ブタンジオールとのモル比率[(B)/(C)]が8/2〜2/8の範囲から外れて9/1であるエステル化合物(14)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(14)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、ブリードが発生しやすい問題があることが分かった。
【0085】
比較例6は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物のジオール成分である1,2−プロパンジオール(B)と炭素原子数4〜6のジオール(C)である1,4−ブタンジオールとのモル比率[(B)/(C)]が8/2〜2/8の範囲から外れて1/9であるエステル化合物(15)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(15)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、n−ヘプタン抽出量が33ppmとやや高く、食品衛生的に懸念がある材料であることが分かった。
【0086】
比較例7は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の数平均分子量の範囲である3,000〜4,000の範囲を外れて2,800であるエステル化合物(16)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物(16)を用いた塩化ビニル系樹脂組成物は、n−ヘプタン抽出量が32ppmとやや高く、食品衛生的に懸念がある材料であることが分かった。
【0087】
比較例8は、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤であるエステル化合物の数平均分子量の範囲である3,000〜4,000の範囲を外れて4,320であるエステル化合物(17)を可塑剤に用いた例である。このエステル化合物を用いた塩化ビニル系樹脂組成物(17)は、ドライアップ時間が148秒と長く、塩化ビニル系樹脂組成物の生産性に問題があることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジピン酸(A)を必須成分とする脂肪族系ジカルボン酸成分と、1,2−プロパンジオール(B)及び炭素原子数4〜6のジオール(C)を必須成分とする脂肪族系ジオール成分と、ラウリン酸(D)を必須成分とする末端封止成分とを原料として製造されたエステル化合物であって、前記1,2−プロパンジオール(B)と前記炭素原子数4〜6のジオール(C)とのモル比率[(B)/(C)]が8/2〜2/8の範囲であり、前記炭素原子数4〜6のジオール(C)中の1,4−ブタンジオールの比率が60モル%以上であり、該エステル化合物の数平均分子量が3,000〜4,000であるエステル化合物からなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、請求項1記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を20〜80質量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなることを特徴とする食品包装用ストレッチフィルム。

【公開番号】特開2012−25851(P2012−25851A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165814(P2010−165814)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】