説明

塩基安定性イオン液体

本発明は、新規の塩基安定性イオン液体、及び化学反応、とりわけ塩基触媒された化学反応における溶媒としてのその使用に関しており、該反応は強塩基の使用を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、イオン液体、より具体的には新規な塩基安定性イオン液体、及び化学反応における溶媒としてのその使用に関する。
【0002】
塩基の促進又は触媒を要求するアルドール反応は、米国特許6,552,232に記載されており、ここでは、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩又は1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩が、アルドール反応における溶媒及び/又は触媒として使用される。米国特許6,552,232は、イミダゾリウムの合成及びその使用も記載する。しかしながら、1,2,3−トリアルキルイミダゾリウム塩又は1,3−ジアルキルイミダゾリウム塩は、塩基性条件下において安定でなく、並びにBF4及びPF6アニオンは、酸又は塩基の存在下においてフッ化水素酸又はフッ素化物に分解する。塩基性条件下におけるイミダゾリウムイオン液体のこの分解は、米国特許6,774,240及びACS Symposium Series 856,25ページに記載されている(イミダゾリウム水酸化物の不安定性が実証されている)。
Davis(Chemistry Letters,2004,33,1072−1077)は、該塩基性イオン液体である1−ブチル−3−アミノプロピルテトラフルオロボレートが二酸化炭素と反応すること、及び化学工程において該アミノ基が反応物質に化学的に結合できることを記載する。該開示されたイオン液体は塩基に対して安定性ではなく、それは該液体が塩基に対して不安定なイミダゾール環と同時に塩基に対して不安定なテトラフルオロボレートアニオンを含むからである。
【0003】
Mateus,N.M.M.et.al.in Green Chem. 2003, 347は、いくつかのイミダゾリウムイオン液体が、塩基と同時に使用できることを記載するが、Aggarwal,V.K.et.al.in Chem.Commun.2002,1612−1613は、イミダゾリウムイオン液体が、塩基触媒された反応(特にベイリス−ヒルマン(Baylis−Hillman)反応)に対しては不適切であり、それはイミダゾリウムカチオンが、塩基性条件下において使用される試薬と反応するためであることを我々に教示する。Earle,M.J.at the ACS symposium Washington DC 2001(M.J.Earle,Abstracts of Papers of the American Chemical Society,2001,221,161)も、2−アルキル化されたイミダゾリウムイオン液体が、塩基触媒された反応に対して不適切であり、それは以下に示すように副反応がイミダゾリウムカチオンの修飾をもたらすためであることを実証した。
【0004】
【化1】

塩基の存在下における2−アルキルイミダゾリウムイオン液体の反応。
【0005】
本明細書において使用する用語“イオン液体”は、固形物を溶融することにより生成することが可能であり、かつそのようにして生成された場合には、もっぱらイオンで構成される液体を意味する。イオン液体は、有機塩から誘導されても良い。
イオン液体は、1つのカチオン種及び1つのアニオン種を含む均一の物質から形成されても良く、又は1より多いカチオン及び/又はアニオン種で構成することもできる。従って、イオン液体は、1より多いカチオン種及び1つのアニオン種から構成されても良い。イオン液体は、さらに1つのカチオン種及び1以上のアニオン種から構成されても良い。従って、本発明の混合された塩は、アニオン群及びカチオン群を含む混合された塩を含むことができる。
従って、要約すると、本明細書で使用する用語“イオン液体”は、単一の塩(1つのカチオン種及び1つのアニオン種)からなる均一の組成物を指すことができ、又は該用語は、1より多いカチオン種及び/又は1より多いアニオン種を含む均一な組成物を指すことができる。
【0006】
特別の興味のあるイオン液体の種類は、100℃より低い融点を有する塩組成物のものである。該組成物は、多くの場合、各成分の個々の融点よりも低い温度で液体である成分の混合物である。
用語“塩基”は、酸と反応して塩を形成する(中和する)能力を有するブレンステッド塩基を指す。塩基のpH範囲は、水に溶解又は懸濁された場合、7.0から14.0である。
本発明は、溶媒としての、及び塩基触媒され又は促進された化学的な反応、分離又は工程における塩基安定性イオン液体の新規な使用を記載する。本発明に従って、塩基触媒された化学反応における溶媒としてのイオン液体の使用が提供され、該イオン液体は、少なくとも1つのカチオン種及び少なくとも1つのアニオン種から構成され、及び該イオン液体は塩基安定性であることを特徴とする。
【0007】
イオン液体の該塩基安定性は、25℃で24時間の間、5M NaODのD2O溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義しても良い。
代替的に、塩基安定性は、25℃で24時間の間、1M NaOCD3のDOCD3溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義しても良い。
さらなる代替手段として、塩基安定性は、25℃で24時間の間、PhMgBrのTHF溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義しても良い。
好ましくは、本発明の塩基安定性イオン液体は、25℃で24時間の間、5m NaODのD2O溶液及び25℃で24時間の間、1M NaOCD3のDOCD3溶液との両方の反応を阻止できる。
さらにより好ましくは、本発明の塩基安定性イオン液体は、上で詳述した全ての試薬との反応を阻止できる。
【0008】
本発明のイオン液体は、以下の式により表される。
[Cat+][X-
(式中、Cat+は、アンモニウム、ホスホニウム、ボレート、ピラゾリウム、DBU及びDBNから選択されるカチオン種であり;及び
-は、スルホネート、ホスフィネート又はハロゲン化物アニオン種である。)
一態様において、Cat+は、[NR4+、[BR4+及び[PR4+(式中、Rは同一又は異なり、及び独立にH、直鎖又は分枝C1からC18のアルキル及び直鎖又は分枝C1からC18の置換アルキルから選択され、ここで、該置換基が−OH;=O;−O−;−NR’R’’(式中、R’及びR’’は、同一又は異なり、及び独立に直鎖又は分枝C1からC6アルキルから選択される)から選択され、及び隣接した2つのR基は、一緒になって環を形成しても良い。)から選択される。
【0009】
より好ましくは、Cat+は以下から選択される。
【化2】

(ベタインを形成するための脱プロトン化)
(式中、Rは上で定義したものと同じである。)
好ましくは、Rは、同一又は異なり、及び独立にH、直鎖又は分枝C2からC18アルキル及び直鎖又は分枝C1からC18の置換アルキルから選択され(式中、該置換基は−OH;=O;−O−;=NR’R’’(式中、R’及びR’’は同一又は異なり、及び独立に直鎖又は分枝C1からC6アルキルから選択され)から選択され)、及びここで隣接した2つのR基は、一緒になって環を形成してもよい。
【0010】
さらにより好ましくは、Cat+は以下から選択される。
【化3】

【0011】
さらにより好ましくは、Cat+は以下から選択される。
【化4】

【0012】
Cat+は、1,3,5トリアルキルピラゾリウム、1,2ジアルキルピラゾリウム及び1,2,3,5テトラアルキルピラゾリウム、及び好ましくは以下からも選択して良い。
【化5】

【0013】
よりさらには、Cat+は以下から選択できる。
【化6】

【0014】
さらに本発明に従って、Cat+は以下のものであっても良い。
【化7】

(式中、Rは上で定義したものと同じである。)
【0015】
本発明のイオン液体において、X-は、[NTf2]、[OTf]、[R−SO3]、[R2PO2]、[F]、[Cl]、[Br]及び[I](式中、Rは、C1からC18アルキル、又はC1からC18アリール、好ましくはC1からC6アルキル又はC1からC6アリールである。)から好ましく選択される。
さらにより好ましくは、X-は、[Me−SO3]、[Ph−SO3]及び[Me−Ph−SO3]から選択される。
【0016】
該塩基触媒された化学反応は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、一般的な金属、有機金属化合物、グリニヤール試薬、アルキルリチウム有機金属化合物、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選択される塩基を含んでもよい。
好ましくは、該塩基は、KOH、NaOH、Ca(OH)2、Li(NTF2)、 KF/Al23及びリチウムジイソプロピルアミドから選択される。
本発明に従って、該化学反応は、マンニッヒ反応、ロビンソン環化、マイケル反応、ヘック反応、エポキシ化、水素化、縮合、アルドール、エステル交換、エステル化、加水分解、酸化、還元、水和、脱水、置換、芳香族置換、付加(カルボニル基に対するものを含む)、脱離、重合、解重合、オリゴマー化、二量化、カップリング、電子環状、異性化、カルベン形成、エピマー化、転化、転位、光化学、マイクロ波の補助した、熱、音響化学及び不均化反応から選択しても良い。
Cat+がアンモニウム又はホスホニウムである場合、該化学反応は、マンニッヒ反応、ロビンソン環化、エポキシ化、水素化、縮合、アルドール、加水分解、酸化、還元、水和、脱水、置換、芳香族置換、脱離、重合、解重合、オリゴマー化、二量化、異性化、カルベン形成、エピマー化、転化、転位、光化学、マイクロ波の補助した、熱、音響化学及び不均化反応から好ましく選択される。
【0017】
本発明は、以下の式により表される塩基安定性イオン液体も提供する。
[Cat+][X-
(式中、Cat+は、ボレート、ピラゾリウム、DBU及びDBNから選択されるカチオン種であり;及びX-は、スルホネート又はホスフィネートアニオン種である。)
【0018】
反応媒体(すなわち溶媒)としてのイオン液体の利用により、生成物の単純化した分離又は精製の達成、及び揮発性溶媒の減少又は排除することが可能である。
従来の溶媒系とは異なり、これら液体は、低い蒸気圧、整調可能な極性及び特性、並びに高い熱安定性を示す。イオン断片の選択に起因して、反応環境を設計して、化学工程の触媒及び分離を最も効果的な方法に適合することができる。イオン液体の利点と塩基触媒を組み合わせることにより、既存の触媒系を越えた選択性及びリサイクル性の顕著な利点を示す触媒媒体を調製することが可能である。
該イオン液体は、さらに、1以上のアニオン、又は代替的に1以上のカチオンの混合物を含んでも良い。
該イオン液体は、さらに、カチオン及びアニオンで構成される1以上のイオン液体の混合物を含んでも良い。
【0019】
上で参照した反応は、一般的に、約0.1MPa(1atm)(環境圧力)から約101.3MPa(1000atm)(上昇した圧力)で行ってもよい。該反応は、広い範囲の温度で行うことができ、及び特に制限されない。通常、該反応温度は、約−50℃から400℃の範囲内、より典型的には0℃から250℃、例えば20℃から150℃の範囲内である。
本件におけるアルドール縮合反応は、約0.01から1000時間、好ましくは約0.1から100時間、及び最も好ましくは約1から10時間の間行っても良い。
【0020】
塩基安定性である本発明のイオン性物質の例は以下を含む:
(A)アンモニウムのハロゲン化物、スルホネート、ホスフィネート及びアミド。
(B)ホスホニウムのハロゲン化物、スルホネート、ホスフィネート及びアミド。
(C)ピラゾリウムのハロゲン化物、スルホネート、ホスフィネート及びアミド。
(D)アンモニウム、ホスホニウム、第一族の金属のテトラアルキルボレート。
【0021】
タイプ(A)アンモニウム塩
N,N−ジメチルエタノールアミンイオン液体
【化8】

【0022】
一連のアンモニウム塩を合成し、これらの塩基安定性を調べた。
より具体的には、一連のジメチルエタノールアミン塩及びイオン液体を、ジメチルエタノールアミン及びハロゲン化アルキルから合成し、次いで、ハロゲンイオンを他のアニオンで交換した。これらのイオン液体を選択したが、それは、ジメチルエタノールアミンが安価で、安定であり、及び酸素官能基が同様のテトラアルキルアンモニウム塩と比較して、これらアンモニウム塩の融点を低下させるであろうためである。この材料は、室温でイオン液体であることが見出された。
【0023】
【化9】

図式1.[NC3−OC0DMEA][NTf2]の合成。
【0024】
ジメチルエタノールアミンのアルキル化は、窒素原子上で起こる。少なくとも2モルのアルキル化剤を用いる場合、窒素及び酸素の両方の上でのジ−アルキル化が得られる。注意:塩基も必要とされる。従って、一連のモノ及びジアルキルジメチルエタノールアミン塩を合成し(図式2を参照されたい)及びこれらの融点を決定し、これらの塩が室温のイオン液体に対して最良の候補となり得るものであることを見出した。
【化10】

図式2.ジメチルエタノールアミンイオン液体の一般的な合成。
【0025】
異なるN−アルキル及びO−アルキル基が要求される場合、図式2の第一段階における生成物は、異なるハロゲン化アルキルを用いてアルキル化できる。これを図式3に示す。
【化11】

図式3.異なるN−及びO−アルキル基を有するジメチルエタノールアミンイオン液体の合成。
【0026】
この方法を用いて、2つの異性体のジメチルエタノールアミン塩を合成し、そのうちの1つは2つのヘキシル基を酸素及び窒素原子上に有し、及び他方は、N−オクチル及びO−ブチル基を有する。これら2つの化合物[NC6−OC6DMEA]Br及び[NC8−OC4DMEA]Brは、それぞれ126℃及び138℃の融点を有する。これは、これら塩の融点が、構造により顕著に影響される事を実証する。これら2つの化合物は、100℃より高い融点を有する(融解塩)が、この値は、アニオンを、例えばビス−トリフルイミドに変更することにより低下し、該融点は室温のちょっと上であるる。











【0027】
【化12】

[NC6−OC6DMEA]Br及び[NC8−OC4DMEA]Brの融点。
【0028】
最も低い融点を有するDMEA塩を決定するために、種々のブロミドを、N−アルキルブロミド及びジメチルエタノールアミンから合成した。DSCにより決定したこれらの融点を、図1に示す。この図からわかるように、該融点の最小値は、C6領域におけるものであり、及び[NC3−DMEA]Brに対する該値は、特異であるように見える。この化合物は、DSC追跡において、かなり多形である事を示す。
【0029】
【化13】

[N−アルキルDMEA]ブロミド及び[N,O−ジアルキルDMEA]ブロミドの構造。
【0030】
ジアルキル−ジメチルエタノールアミン塩の融点を、図2及び3に示す。この図からわかるように、ヒドロキシル基のアルキル化の効果は、融点を顕著に増加しない。該塩化物は、臭素化物と同じ方法で合成され、及び同様な融点(90℃)を有することがわかった。
【化14】








【0031】
【表1】

表1.エチル及びプロピルDMEA塩の融点。
エチル及びプロピルDMEAブロミドを、BF4、トリフレート及びビス−トリフルイミド塩に転換し、これらの融点を測定した。
【0032】
DABCOイオン液体
過剰なジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとハロゲン化アルキルの反応は、イオン液体の一連の塩基安定性(及び塩基性)を与える。
【化15】

これらモノアルキルDABCOブロミドは、かなり高い融点を有するが、ヘキシル、オクチル及びデシルDABCOブロミドはイオン液体である(m.p.<100℃)。さらなる注意として、C3化合物の融点は予想されるよりもより低い。分解温度は、DSCにより全て220−250℃の範囲にある。[C6DABCO]ブロミドイオン液体の融点(95℃)は、[C6DABCO][N(SO2CF32](3k)になると25℃まで低下し、この温度でゲルを形成する(図4を参照されたい)。
【0033】
エチルDABCOメタンスルホネート[C2DABCO][OSO2CH3](3l)(m.p.81℃)及びヘキシルDABCOメタンスルホネート(3m)は、DABCO及びエチルメタンスルホネート又はヘキシルメタンスルホネートの反応からも合成された。
【0034】
典型的な実験手順
[CnDABCO][Br]
ジアゾビシクロ−[2,2,0]−オクテン(1.13g、12.5mmol)及びアルキルブロミド(10mmol)を、還流下(又は常により低い150℃)で1から24時間加熱した。冷却すると沈殿物を形成した。これを、C2からC10DABCOブロミドに関しては沸騰した最小限の量の酢酸エチル/イソプロパノール中に、及びC12からC18DABCOブロミドに関しては沸騰した最小限の量のトルエン/酢酸エチル中に溶解した。冷却において形成した結晶を濾取し、80℃、真空(133Pa(1mmHg))下で4時間加熱することにより乾燥した。該化合物を、NMR及びDSCで解析した。収率は典型的には60−80%である。
【0035】
[CnDABCO][OSO2CH3
ジアゾビシクロ−[2,2,0]−オクテン(1.13g、12.5mmol)及びアルキルメタンスルホネート(10mmol)を、100℃で1時間加熱した。冷却すると沈殿物が形成した。これを沸騰した最小限の量の酢酸エチル/イソプロパノール中に溶解した。冷却して形成した結晶を濾取し、80℃、真空(133Pa(1mmHg))下で4時間加熱することにより乾燥した。該化合物をNMR及びDSCで解析した。収率は典型的には70−80%である。
[CnDABCO][N(SO2CF32
[C6DABCO]Br(2.75g、10.0mmol)及びリチウムビストリフルオロメタンスルフィンイミド(3.15g、11mmol)を、それぞれ水(10cm3)中に溶解した。該2つの溶液を混合し、及び濃厚なイオン液体相を形成した。これを、ジクロロメタン(3×10cm3)を用いて抽出し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、及び該溶媒を蒸発させて無色のペーストを得、該ペーストは25℃で液体になった。このペーストを、80℃、真空(133Pa(1mmHg))下で4時間加熱することにより乾燥した。該化合物をNMR及びDSCにより解析した。
【0036】
TMEDA塩
テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)イオン液体を、以下のようにTMEDA及びアルキルブロミドから合成する。該C2、C5、C6、C8、C12及びC18アルキルブロミドを製造し、DABCOイオン液体よりもわずかに低い融点を示した。N=5、6、8、10である[CnTMEDA]Brは、室温のイオン液体である。
【化16】

TMEDAイオン液体の合成。
【0037】
[CnTMEDA]Br
テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(2.32g、20mmol)及びアルキルブロミド(25mmol)を、還流下(又は常により低い130℃)で1時間加熱し、濃厚な相の形成をもたらした。これを室温まで冷却した。[C2TMEDA]Br及び[C4TMEDA]Brに関しては結晶質の固形物が形成し、及び[C18TMEDA]Brに関しては液晶物質が形成した。これら生成物をシクロヘキサンを用いて洗浄し、及び真空(24時間80℃で133Pa(1mmHg))下で乾燥した。収率は典型的には60−80%である。
【0038】
タイプ(C)塩基安定性ピラゾリウムイオン液体
ピラゾール化合物及びアルキルヨージドからのピラゾリウムイオン液体の合成が実行できるが、幾分高価である。直面した主な困難は、ピラゾールが貧求核性であり、及び反応性アルキル化剤とゆっくり反応するのみであることである。さらに、ピラゾールのアルキル化における副反応が、イオン液体の分解をもたらすことを観察した(図式4、5)。この副反応は、ブロミド塩を用いて100℃より低い温度で起こり、及びアルキルクロライドを用いたアルキル化を実行不能にする。最大収率は、ヨージドを用いて約90%、ブロミドを用いて60−80%及びクロライドを用いて<5%である。
【化17】

図式4.1−メチルピラゾリウムイオン液体の合成における副反応
【0039】
【化18】

図式5.ピラゾリウムイオン液体の合成における副反応。
【0040】
これら問題を回避するため、ピラゾリウムイオン液体の新規な合成が発明され、分解の問題を排除した。ここで使用されたアプローチは、ピラゾールとアルキルメタンスルホネート塩の反応を含み、メタンスルホネートイオン液体を得た。このアプローチを用いれば、副反応の排除は、最早重要な問題ではない。該再設計された合成を、以下の図式6に示す。
【化19】

図式6.ピラゾリウムイオン液体の別の合成。
【0041】
この新規の経路は、ハロゲン化アルキルのアプローチよりも、より確かで且つより高い収率である。メタンスルホネートアルキル化反応における収率は、典型的には95%である。この反応の出発材料が純粋でなければならないことを指摘すべきである。これをしないと、さらにより低い収率、及び生成物に対する困難な単離操作をもたらすであろう。副生成物を全く排除しないことは、140℃での6日間の反応時間の後でも、メタンスルホネート経路で観察された。今まで、2−アルキル−1,3,5−トリメチルピラゾリウムメタンスルホネート塩が、合成され及び特徴付けられ、ここでn=2、3、4、5、6、8、10、12、14、16又は18である。
【0042】
【表2】

表2.種々のメタンスルホネート塩の融点(括弧内の数は他の転位温度を表す)
【0043】
アルキル−1,3,5−ピラゾリウムメタンスルホネートの融点を、同等の1−アルキル−3−メチルイミダゾール及び1−アルキル−2,3−ジメチルイミダゾール塩と、DSC解析により比較した(表2)。驚くべき事に、該ピラゾリウム塩は、一般的により低い融点を有する。
メタンスルホネートイオン液体の使用の一つの利点は、該メタンスルホネートアニオンが塩基安定性であり、及び他のカチオンへ変化させることが非常に容易であることである。メタンスルホネートイオン液体は、ほとんど全て親水性である。さらに、メタンスルホネートイオンは、今日イオン液体の通常の使用における他のほとんどのアニオンよりも、より親水性である。従って、水中のピラゾリウムメタンスルホネートの溶液に、所望のアニオンの、酸の形態又はナトリウム塩を添加すると、疎水性イオン液体か、又は有機溶媒、例えばジクロロメタンで抽出できるイオン液体を生成する。これを図式7に示す。種々のアニオンの2−ヘキシル−1,3,5−トリメチルピラゾリウム塩の融点又は転移点を、表3に示し、及びこの手順を用いて、Ewa Bogel−Lusawiにより合成された。
【0044】
【化20】

図式7.メタンスルホネートイオン液体のPF6イオン液体への転換


【0045】
【表3】

表3.種々のアニオンの2−ヘキシル−1,3,5−トリメチルピラゾリウム塩の融点又は転移点。
アルキル−メタンスルホネートは、イオン液体[bmim][ラクテート]の塩素を用いない合成において使用できる。
【0046】
DMAPイオン液体
N,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP)イオン液体が、DMAP及びアルキルメタンスルホネートから以下のように合成される。
【化21】

新規のDMAPイオン液体の合成。
【0047】
ジメチルアミノピリジン(DMAP)(2.443g、20mmol)及びエチルか又はヘキシルブロミド(25mmol)を、還流下(又は常により低い130℃)で1時間加熱した。冷却して沈殿物を形成した。これを、C2からC6DMAPブロミドに関して、沸騰した最小限の量の酢酸エチル/イソプロパノールに溶解した。冷却して形成した結晶を濾取し、及び80℃、真空(133Pa(1mmHg))下で4時間加熱することにより乾燥した。該化合物を、NMR及びDSCにより解析した。収率は典型的には60−80%である。
ジメチルアミノピリジン(DMAP)(2.443g、20mmol)及びエチルか又はヘキシルメタンスルホネート(25mmol)を、100℃で1時間加熱した。冷却すると沈殿物が形成した。これを、C2からC6DMAPメタンスルホネートに関して沸騰した最小限の量の酢酸エチル/イソプロパノール中に溶解した。冷却して形成した結晶を濾取し、80℃の真空(133Pa(1mmHg))下で4時間加熱することにより乾燥した。該化合物をNMR及びDSCにより解析した。収率は典型的には80−85%である。
【0048】
他のイオン液体
水素化ナトリウム(油中の60%懸濁液)(45mmol、1.80g)を、THF(100cm3)中のN,N−ジメチルエタノールアミン(20mmol、1.78g)の溶液に滴下した。結果得られたスラリーを、60℃で1時間加熱して、次いで冷却した。1−(N−モルホリノ)−2−クロロエタンハイドロクロライド(20mmol、3.72g)を滴下し、次いで該スラリーを25℃で18時間攪拌した。エタノール(10cm3)続いて水(100cm3)を添加し、次いで該生成物をジクロロメタン(3×50cm3)を用いて抽出した。該ジクロロメタン抽出液を、Na2SO4を用いて乾燥し、濾過し次いでロータリーエバポレーターで濃縮した。該生成物を、110−120℃、133Pa(1mmHg)でKugelrorh蒸留して、2.3gの無色の油を得た(N−モルホリノエチルジメチルアミノエチルエーテル)。
【0049】
【化22】

【0050】
塩基触媒された反応
例I
マンニッヒ反応は、エノレート又は芳香族化合物と、イミニウム塩の相互作用を伴う。該イミニウム塩は、通常第2級アミン及びホルムアルデヒドから生成する。この反応の例を以下に示し、100℃で1時間後に85%の収率で、対応するマンニッヒ塩基が得られた。水中における同様の反応は、35%の収率を与える。
【化23】

イオン液体を使用して収率及び選択性、並びにアミノメチル化反応(マンニッヒ反応)及び関係する反応における比率を向上できる。塩基安定性又は塩基性イオン液体の使用が好ましい。
【0051】
例えばカーボネート存在下における[bmim][PF6]のように、多くのイオン液体は安定ではないので、向上したイオン液体をこの反応に用いる。この反応は、イオン液体、例えば[(CH3225N−CH2−CH2−OC25][N(SO2CF32]中で行われ、塩基安定性イオン液体、例えば[bmim][NTf2]及び[C2DBU][NTf2]で行うのが好ましい。
【0052】
例II
イオン液体中でのマンニッヒ反応を、トラマドール(鎮痛剤)の合成で用いる。
【化24】

【0053】
例III
他の伝統的な反応が、ロビンソン環化である。これは、ケトンを用いた不飽和ケトンのマイケル反応、次いで内部のアルドール縮合を伴う。該反応は、溶媒、例えばアルコール中で典型的に行われ、いくつかの場合において両極性の非プロトン性溶媒、例えばDMF又はDMSOが必要である。該ロビンソン環化は、2段階の反応であり、中間体のマイケル生成物は、通常単離しない。
【化25】

[C2DBU][NTf2]の構造
【化26】

【0054】
上記ロビンソン環化を、イオン液体[C2DBU][NTf2]中で行った。室温で、マイケル生成物が、5分間で高い収率で得られた。このことは、エタノール中で行われる同様の反応よりも、大幅により迅速であった。該アルドール縮合は、温度が80℃まで上げられた場合に、該イオン液体中でのみ生じた。
【化27】

該反応は、イオン液体、例えば[(CH3225N−CH2−CH2−OC25][N(SO2CF32]中で行われ、塩基安定性イオン液体、例えば[bmim][NTf2]及び[C2DBU][NTf2]で行うのが好ましい。
【0055】
例IV
MVKとシクロヘキサノンの反応は、室温で極端に早く、及びマイケル生成物を与えた。対応する環化は遅く、80℃に加熱することにより起こる。
【化28】

該反応は、イオン液体、例えば[(CH3225N−CH2−CH2−OC25][N(SO2CF32]中で行い、及び塩基安定性イオン液体、例えば[bmim][NTf2]及び[C2DBU][NTf2]で行うのが好ましい。
【0056】
例V
【化29】

プロリンは、MVKと2−メチルシクロヘキサ1,3−ジオンの反応を触媒するものとして知られており、及び35℃のDMSO中において環化した生成物(70%ee)の49%の収率を与えるものとして報告されている。この反応は、[C2DBU][NTf2]As中で、イオン液体中の前の反応を用いて試みられ、マイケル反応が効果的に行われた。
該反応は、イオン液体、例えば[(CH3225N−CH2−CH2−OC25][N(SO2CF32]中で行い、及び塩基安定性の低いイオン液体、例えば[bmim][NTf2]及び[C2DBU][NTf2]で行うのが好ましい。
【0057】
例VI
アセトンのイソホロンに対する縮合を、塩基安定性イオン液体中で以下のように行うことができる。
【化30】

【0058】
例VII
シクロヘキサノンの縮合は、塩基安定性イオン液体に対するより複雑な試験である。
【化31】

【0059】
例VIII
塩素をベースとするイオン液体は、D2O交換実験により、強塩基に対する優れた安定性を示した[M.J.Earle, 未公開の結果]。従ってこれらは、この研究において使用した。イオン液体の疎水性の性質は、反応の促進をさらに高めることができ、これは水が副生成物であるためである。通常の均一系又は不均一系触媒を用いることにより、縮合反応は、中程度から高い収率で所望の生成物を提供する。さらに、NMR分光法により、イオン液体が反応後にそのまま残ることが明らかになった。
【化32】

【0060】
【表4】

【0061】
例IX−イオン液体中における触媒としての第二級アミン
プロリンは、イオン液体中の置換ベンズアルデヒド及びアセトンの間のアルドール反応に対する効果的な試薬として見出された。
【化33】

触媒としてのピロリジンを用いて、該反応は非常に迅速であったが、イオン液体の存在下においては、転換及び選択性の両方が大幅に減少した。L−プロリンは、イオン液体の存在下か又は不存在下で、ほとんど同じ活性を示した。完全に近い転換は、優れた選択性で得ることができる。最も重要なことに、プロリンは、活性又は選択性を低下させることなく、触媒量およそ4%で使用できる。
【0062】
【表5】

ケトン/アルデヒドモル比率=2
MDJ関連商品に対する合わせた選択性(3+4+5)
【0063】
アルドール縮合に対するプロリン触媒の活性
【表6】

イオン液体[C2ODMEA][NTf2
★★MDJ関連商品に対する合わせた選択性(3+4+5)
【0064】
イオン液体の存在下でこの反応を行うと、以下の利点が得られた:
1.イオン液体中におけるプロリンの高い溶解性、従って完全にリサイクル可能な系であること。
2.生成物の除去に蒸留が伴う場合でさえも、プロリンの分解が避けられること。
3.出発材料の完全な転換、従って未反応の材料を全くリサイクルしないこと。
従って、プロリンにより触媒された、イオン液体中におけるジヒドロジャスモンの合成に対する化学的なアルドール経路は、MDJ−1の優れた収率を提供する。触媒的な蒸留を介してMDJ−2を得ることも可能であり、及びワンポット合成として見なすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、アルキル鎖長の関数として、N−アルキルDMEAブロミドの融点を示す。
【図2】図2は、鎖長の関数として、N,O−ジアルキルDMEAブロミドの融点を示す。
【図3】図3は、図1及び図2に開示した融点の間の比較である。
【図4】図4は、アルキル鎖長の増加に伴うN−アルキルDABCOブロミド(3a−j)の融点の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基触媒された化学反応における溶媒としての、以下の式により表されるイオン液体の使用であって、イオン液体が塩基安定性であることを特徴とする該使用。
[Cat+][X-
(式中、Cat+は、アンモニウム、ホスホニウム、ボレート、ピラゾリウム、DBU及びDBNから選択され;及び
-は、スルホネート、ホスフィネート又はハロゲン化物アニオン種である。)
【請求項2】
塩基安定性が、25℃で24時間の間、5M NaODのD2O溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
塩基安定性が、25℃で24時間の間、1M NaOCD3のDOCD3溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義される、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
塩基安定性が、25℃で24時間の間、PhMgBrのTHF溶液との反応を阻止するイオン液体の能力として定義される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
Cat+が、[NR4+、[BR4+及び[PR4](式中、Rは同一又は異なり、及び独立にH、直鎖又は分枝C1からC18アルキル及び直鎖又は分枝C1からC18の置換アルキルから選択され、該置換基が、−OH;=O;−O−;−NR’R’’(式中、R’及びR’’は同一又は異なり、及び独立に直鎖又は分枝C1からC6アルキルから選択される)から選択され、及びここで隣接した2つのR基は、一緒になって環を形成しても良い。)から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
Cat+が以下から選択される、請求項5に記載の使用。
【化1】

(式中、Rは同一又は異なり、及び独立にH、直鎖又は分枝C2からC18アルキル及び直鎖又は分枝C1からC18の置換アルキルから選択され、ここで該置換基は−OH;=O;−O−;−NR’R’’(式中、R’及びR’’は同一又は異なり、及び独立に直鎖又は分枝C1からC6アルキルから選択される)から選択され、及び隣接した2つのR基は、一緒になって環を形成しても良い。)
【請求項7】
Cat+が、以下から選択される、請求項5に記載の使用。
【化2】

【請求項8】
Cat+が以下から選択される、請求項7に記載の使用。
【化3】

【請求項9】
Cat+が、1,3,5トリアルキルピラゾリウム、1,2ジアルキルピラゾリウム、及び1,2,3,5テトラアルキルピラゾリウムから選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
Cat+が以下から選択される、請求項9に記載の使用。
【化4】

【請求項11】
Cat+が以下から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【化5】

【請求項12】
Cat+がテトラアルキルボレートである、請求項5に記載の使用。
【請求項13】
Cat+が以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用。
【化6】

(式中、Rは上で定義したものと同じである。)
【請求項14】
-が、[NTf2]、[OTf]、[R−SO3]、[R2PO2]、[F]、[Cl]、[Br]及び[I](式中、RはC1からC6アルキル又はC1からC6アリールである)から選択される、請求項1から13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
-が、[Me−SO3]、[Ph−SO3]及び[Me−Ph−SO3]から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
反応において使用される塩基が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、一般的な金属、有機金属化合物、グリニヤール試薬、アルキルリチウム有機金属化合物、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物から選択される、請求項1から15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
塩基が、KOH、NaOH、Ca(OH)2、Li(NTF2)、KF/Al23及びリチウムジイソプロピルアミドから選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
化学反応が、マンニッヒ反応、ロビンソン環化、マイケル反応、ヘック反応、エポキシ化、水素化、縮合、アルドール、エステル交換、エステル化、加水分解、酸化、還元、水和、脱水、置換、芳香族置換、付加(カルボニル基に対するものを含む)、脱離、重合、解重合、オリゴマー化、二量化、カップリング、電子環状、異性化、カルベン形成、エピマー化、転化、転位、光化学、マイクロ波の補助した、熱、音響化学及び不均化反応から選択される、請求項1から17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
Cat+がアンモニウム又はホスホニウムであり、かつ化学反応がマンニッヒ反応、ロビンソン環化、エポキシ化、水素化、縮合、アルドール、加水分解、酸化、還元、水和、脱水、置換、芳香族置換、脱離、重合、解重合、オリゴマー化、二量化、異性化、カルベン形成、エピマー化、転化、転位、光化学、マイクロ波の補助した、熱、音響化学及び不均化反応から選択される、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
以下の式により表される、塩基安定性イオン液体。
[Cat+][X-
(式中、Cat+はボレート、ピラゾリウム、DBU及びDBNから選択されるカチオン種であり;及びX-はスルホネート又はホスフィネートアニオン種から選択される。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−526822(P2008−526822A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549949(P2007−549949)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000021
【国際公開番号】WO2006/072785
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507134356)ザ クィーンズ ユニヴァーシティー オブ ベルファスト (4)
【Fターム(参考)】