説明

塩基配列解析用プローブ及び塩基配列解析用固相化担体、並びに塩基配列解析方法

【課題】 核酸の塩基配列を同一プローブスポット内で定量的に検出可能とし、しかも低コストで生産可能な塩基配列解析用プローブ、このプローブを固相化した担体、及びこれを用いた塩基配列解析方法の提供。
【解決手段】 試料中の核酸の塩基配列を解析するための、担体に固相化される塩基配列解析用プローブであって、それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1つに、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を生じ得る第一蛍光物質が結合されていることを特徴とする塩基配列解析用プローブ。該プローブを固相化した塩基配列解析用固相化担体。第一蛍光物質との間でFRETを生じる第二蛍光物質で標識した核酸をいずれかのプローブ領域に結合させ、波長の異なる蛍光強度を測定して核酸の塩基配列を解析する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基配列解析用プローブ及び核酸検出用固相化担体、並びに核酸検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ等を利用して試料中の核酸を検出・解析する技術が用いられている。マイクロアレイは、通常、1〜数十センチ四方程度のスライドガラスやシリコンなどからなる基板表面に、核酸を検出するためのプローブ(例えば、既知のDNA断片など)を、例えば数千〜数十万種配列し、固相化したものである。
これらプローブに、例えば核酸鎖の相補性等による特異性を利用して、未知のDNAなどの核酸を結合させる。
【0003】
あらかじめこのターゲットに標識をつけ、ターゲットがどのプローブと結合したかを調べることによって、ターゲットが何であるか等の核酸の情報を解析することができる。このようなマイクロアレイを用いて、特許文献1に開示されているように、プローブを野生型の塩基配列と、一部の塩基配列を別の塩基に置換した変異型の塩基配列とし、蛍光標識したサンプルの核酸をハイブリダイズさせて、それぞれの蛍光強度より核酸の種類を決定して、核酸の塩基配列を解析し、変異の有無やタイピングを多数の遺伝子に対して同時に調べることができる。
【0004】
一方、特許文献2には、1つのプローブ分子に複数箇所のプローブ配列が設けられた核酸プローブが記載されている。
このプローブは、複数のプローブ用1本鎖核酸を、1本鎖部分を有する主幹鎖核酸の1本鎖である部分に、各々部分的にハイブリダイズさせることで作製された樹状プローブである。
【特許文献1】特開平10−272000号公報
【特許文献2】特開2003−294742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、核酸の塩基配列解析の信頼度を上げる為に、更に高精度の定量性が求められている。しかし、特許文献2に記載の方法など従来法では、野生型の核酸の塩基配列のプローブをスポットしたもの、および、その一部を別の塩基に置換した変異型のプローブをスポットしたものをそれぞれ独立して設けていたため、ターゲット核酸の解析を目的として、これらプローブスポット(スポット)の検出結果を単純に比較できない要因が存在した。
【0006】
例えばマイクロアレイの場合、これらの固相化されたプローブスポットが別個であることで、スポットを作る操作に由来する誤差を生じる可能性があった。例えばスポットあたりのプローブ固相化量、スポットの大きさ、スポットの形状などの違いが、信号強度等に影響を与える誤差要因となる。また、プローブスポットが違うことで、検出系に由来する誤差要因が存在する。
【0007】
理想的な光学系であれば、マイクロアレイの場所によらず、均一な照明と均一なデータ取得が可能である。しかし、実際の光学系では、照明は必ずしも均一ではなく、レンズ系も周辺部には周辺減光が見られる。
【0008】
したがって、マイクロアレイのスポット全体に渡っての正確な補正は困難であった。特に、検出器にCCDを用いてマイクロアレイのスポット全体の信号を取得する場合に、正確な補正はいっそう困難であった。
【0009】
これに対し、遺伝子解析の際に、特許文献2に記載されたようなプローブ分子を、ターゲット遺伝子に相補的なプローブ領域(野生型)およびこの一部を置換したプローブ領域(変異型)を有するように設計すれば、各プローブの固相化されたスポットが別個であることによる誤差要因を解消できる可能性がある。
【0010】
しかし、前述のような樹状プローブは、1本の主幹鎖核酸につき、プローブ用1本鎖核酸および複数の2本鎖形成部分の配列を存在させる必要があるため、設計上の制限が多い。
すなわち、設計通りの構造を有する樹状プローブを形成させるには、プローブ用1本鎖核酸部分のみならず、プローブ全体を、プローブ作製時に非特異的なハイブリダイゼーションを起こさないように設計する必要がある。さらに、このようなプローブの設計においては、複数のプローブ領域の配列やその組み合わせに応じて、プローブ領域の配列だけでなく2本鎖となる部分を含めたプローブ全体の配列が反応に最適となるよう設計に制限があり、プローブ領域の配列変更など、プローブの構成を変更する度に、毎回設計し直さなければならない。このように複雑なプローブは作製に非常に手間がかかり、コスト高となる問題がある。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、核酸の塩基配列を同一プローブスポット内で定量的に解析可能とし、しかも低コストで生産可能な塩基配列解析用プローブ、このプローブを固相化した担体、及びこれを用いた塩基配列解析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、試料中の核酸の塩基配列を解析するための、担体に固相化される塩基配列解析用プローブであって、それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1つに、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されていることを特徴とする塩基配列解析用プローブを提供する。
【0013】
本発明の塩基配列解析用プローブは、それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1つ以上のリンカーの同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことが好ましい。
【0015】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1つが、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域は、同一の核酸のセンス鎖とアンチセンス鎖を捕捉するプローブであってよい。
【0017】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域は、各々1本鎖核酸からなり、前記担体に固相化される側に3´末端が位置している第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の塩基配列を有し、かつ該固相化される側に5´末端が位置している第二プローブ領域とを有する構成としてもよい。
【0018】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域は、野生型の核酸と特異的に結合可能なプローブ領域と、該野生型の核酸の塩基配列の一部が変異した変異型の核酸と特異的に結合可能なプローブ領域とを含む構成とすることが好ましい。
【0019】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移により異なる波長の蛍光を発する複数種の蛍光物質が結合されている構成とすることもできる。
【0020】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域は、リンカーの一端側に分岐した状態で結合されており、かつ、それぞれのプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移によりそれぞれ異なる波長の蛍光を発する蛍光物質が結合された構成とすることが好ましい。
【0021】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域が、リンカーの一端側に順次直線状に結合されており、かつ、それぞれのプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移によりそれぞれ異なる波長の蛍光を発する蛍光物質が結合されている構成とすることもできる。
【0022】
本発明の塩基配列解析用プローブにおいて、前記複数のプローブ領域は、試料中の解析対象核酸について、その変異の有無、塩基のタイピング、および/または配列、変異の比率を解析可能なプローブ領域を組み合わせてなることが好ましい。
【0023】
また本発明は、前述した本発明に係る塩基配列解析用プローブが担体に固相化されていることを特徴とする塩基配列解析用固相化担体を提供する。
【0024】
また本発明は、前述した本発明に係る塩基配列解析用プローブを用いて、試料中の核酸の塩基配列を解析する方法であって、
試料中の核酸に、前記プローブ領域に結合した第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、
前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、
前記標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と核酸との特異的結合反応を行い、該プローブと核酸からなる複合体を形成させる第三ステップ、
前記複合体に、前記試料に標識した蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、
並びに、前記標識試料に標識した第二蛍光物質と前記複数のプローブ領域に結合した第一蛍光物質との間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号および/または前記標識試料に標識した第二蛍光物質の発光信号を検出して前記試料中の核酸の塩基配列を解析する第五ステップ、
を有することを特徴とする塩基配列解析方法を提供する。
【0025】
本発明の塩基配列解析方法において、試料に標識する蛍光物質が単一であり、かつ、1つの励起波長に対して複数の波長の蛍光を発光する蛍光物質であることが好ましい。
【0026】
本発明の塩基配列解析方法において、試料に標識する蛍光物質を複数とすることもできる。
【0027】
本発明の塩基配列解析方法において、前記第五ステップによって、特定の塩基配列を持つ核酸と比較して試料中の核酸の変異の有無、塩基のタイピング、および/または配列、変異の比率を解析することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、試料中の核酸の塩基配列を解析し、特定の塩基配列を持つ核酸と比較して試料中の核酸の変異の有無、タイピング、変異の割合等を解析可能とし、しかも低コストで生産可能な塩基配列解析用プローブ、これを用いた塩基配列解析方法、及び塩基配列解析用固相化担体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<塩基配列解析用プローブ>
本発明の塩基配列解析用プローブ(以下、「プローブ」という。)は、試料中の核酸の塩基配列を解析するための、担体に固相化されるプローブであって、それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1つに、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されていることを特徴とする。
【0030】
図1は、本発明のプローブの一実施形態を示す構成図である。本実施形態のプローブ10は、リンカー11の一端側に、符号12〜15を付した4つのプローブ領域A、B,C,Dが分岐した状態で結合され、さらにそれぞれのプローブ領域A,B,C,Dには、第一蛍光物質として符号16〜19を付した4種類のそれぞれ異なる蛍光物質a,b,c,dが結合された構造になっている。リンカー11の他端は、図示していない担体に固相化されている。
【0031】
図2は、本発明のプローブの他の実施形態を示す構成図である。本実施形態のプローブ20は、リンカー21の一端側に、符号22〜25を付した4つのプローブ領域A、B,C,Dが直線状に順次結合され、さらにそれぞれのプローブ領域A,B,C,Dには、第一蛍光物質として符号26〜29を付した4種類のそれぞれ異なる蛍光物質a,b,c,dが結合された構造になっている。リンカー21の他端は、図示していない担体に固相化されている。
【0032】
図1及び図2に示した各実施形態において、各プローブのプローブ領域には、それぞれ異なった蛍光物質が結合されている。ただし、全てのプローブ領域に蛍光物質が結合されていてもよいが、複数のプローブ領域のうちの1つは蛍光物質が結合していない態様も可能である。これらの蛍光物質a〜dは、検出対象核酸に標識されている蛍光物質(第二蛍光物質)から発する光を励起光としてエネルギー転移が起こり、別の波長の光を発する蛍光物質である。
【0033】
図1及び図2に示した各実施形態において、各プローブのプローブ領域A,B,C,Dは、それぞれ異なる核酸(図1及び図2中(A),(G),(T),(C)で示す。)と特異的に結合可能である。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、各プローブに2つ以上のプローブ領域が存在していればよい。
【0034】
(試料)
本発明のプローブによる核酸の塩基配列解析に供される試料は、核酸を含むものであれば、特に制限されない。例えば、特定の塩基配列を持った野生型の核酸と、その変異型の核酸とが共存している可能性のある試料、例えば、患者から採取された血液試料(血清、血漿成分や血球など)やリンパ球画分などから抽出した核酸試料、患部から採取した細胞や組織片から抽出した核酸試料、唾液や精液などの生体液から抽出した核酸試料、人体の各部から採取され培養された細胞から抽出した核酸試料などが挙げられる。
【0035】
(核酸)
核酸とは、生体から抽出、単離等された物質を意味するが、生体から直接抽出されたものだけでなく、これらを化学処理、化学修飾等したものも含まれる。例えば、cDNA、DNA、mRNA、RNA、人工核酸、その他の核酸などの物質である。
【0036】
本発明のプローブは、当該プローブが、互いに異種の核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含んでいない場合は、塩基の配列や、変異型のタイピングを行うことができる。さらに、当該プローブが、互いに異種の核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含んでいる場合は、それぞれのプローブ領域の比率が既知であるので、各プローブ領域に対応する蛍光強度の比率が、検出対象に含まれている核酸の野生型と変異型(A,T,G,C)の割合と対応するので、検出対象に含まれている核酸の野生型と変異型(A,T,G,C)の割合を検出することができる。ただし、あらかじめ標識したカウンターオリゴDNA等を本発明のプローブにハイブリダイズさせて、データを取得し、このデータに基づいての発光効率等の補正は必要となる。
【0037】
複数のプローブ領域は、互いに直接結合されていてもよいし、他の物質に結合されてプローブ構造全体を成していても構わない。
【0038】
複数のプローブ領域が、既知の比率で含まれるようなプローブを提供するには、例えば各種プローブ領域に相当する分子を個別に作製した後、これらの分子を、直接あるいはリンカーを介して結合してプローブを作製すればよい。例えば、プローブ領域を核酸とする場合、担体に、DNAプローブ断片、リンカー、DNAプローブ断片をこれらの順に順次結合させてプローブを生産することも可能である。ここでは、複数のプローブ領域を有したプローブを作製する場合に、予め、作製した複数のプローブを結合する場合について説明したが、別の複数のプローブ領域を含んだプローブの製造も可能である。例えば、基板上で塩基のモノマーを反応させてプローブを合成する方法によっても作製可能であり、特定のプローブ領域を作製した後に、リンカーを反応させて、次のプローブ領域を作製していけばよい。
【0039】
基板上で塩基のモノマーを反応させてプローブを合成する方法のうちで、本発明に適用できる方法としては、例えば、インクジェット方式により塩基のモノマーをスポットして合成する方法(特開平3−505157号公報参照。)、光フォトリソグラフィーを用いた方法(特開平11−21293号公報参照。)、および、国際公開WO03066212号等に示された方法などが挙げられる。
【0040】
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、2種類の蛍光物質が所定の距離以下に近づいた時に、一方の蛍光物質が発した光エネルギーを、他方の蛍光物質が吸収する現象である。ここで光エネルギーを発する物質はドナー、光エネルギーを吸収する物質はアクセプターと呼ばれる。FRETの検出は、通常ドナーの励起波長の励起光を照射し、ドナーあるいはアクセプターの発光波長の蛍光強度を測定することで行うことができる。
【0041】
例えばドナーの蛍光強度を測定すると、2種類の蛍光物質が近い位置にある場合はドナーの蛍光強度は低くなり、距離が離れると蛍光強度が高くなる。これは、近い位置にある場合に、光エネルギーがアクセプターに吸収されるためである。アクセプターの蛍光強度を測定する場合はその逆で、2種類の蛍光物質の距離が近いとアクセプターの蛍光強度が強くなり、離れると強度が低くなる。
【0042】
本発明のプローブは、プローブ領域のうち全部または、1つを除き、蛍光物質が結合されていることにより、核酸の検出において、複数の核酸の存在に対応する信号を、1プローブ上で各々分離して取得することを可能ならしめる。
【0043】
これにより、後述するように、このプローブに標識された蛍光物質(第一蛍光物質)との間でFRETを起こし得る他の蛍光物質(第二蛍光物質)を、試料中の核酸に標識しておけば、試料に含まれる核酸が、プローブに標識された蛍光物質の結合された特定種のプローブ領域と特異的結合した時に、プローブに標識された蛍光物質と試料中の核酸に標識された蛍光物質との間でFRETが起こり、FRETにより発生した異なる波長の蛍光を検出することで、どのプローブ領域にハイブリダイゼーションが起こったかを測定することが可能となる。これは、試料に含まれる核酸が、蛍光物質が標識された特定種のプローブ領域と特異的結合をしたときにのみ、FRETが起こるためである。
【0044】
ここで、プローブ領域の1つは、必ずしもFRETが起こる蛍光物質を標識しておく必要はなく、試料中の核酸に標識した物質由来の光を検出することで、どのプローブ領域にハイブリダイゼーションが起こったかを検出することが可能となる。
【0045】
ここでの信号検出は複数の塩基配列を解析するためのプローブ領域が1つのプローブスポットにおいて行われるから、照明光や信号の取得が均一でない場合でも、信号の測定値同士の比率は、各種核酸の存在を正確に反映した値となる。更に、複数の塩基配列を解析するためのプローブ領域の比率が既知である場合には、1つのプローブスポットにおいて行われるから、照明光や信号の取得が均一でない場合でも、信号の測定値同士の比率は、各種核酸の存在量比を正確に反映した値となる。
【0046】
(担体、固相化)
本発明のプローブは、核酸の検出に際して、担体に固相化される。
ここで、本発明のプローブは、担体に固相化された後に、試料との反応に供されてもよく、また、試料との反応を経た後に、担体に固相化されてもよい。例えば、プローブが核酸からなる場合は、核酸プローブは担体に固相化された後に、試料とのハイブリダイズ反応に供されてもよく、試料とのハイブリダイズ反応を経た後に、担体に固相化されてもよい。
【0047】
本発明において担体として用いることができるものには、特に制限はなく、板状の担体(基板)や、ビーズ等が例示される。さらに具体的には、ガラス製基板、シリコンウエハ、各種の多孔質基板、ゲル、マイクロタイタープレートやキャピラリー、ビーズ、中空糸等が挙げられる。特に、多孔質基板やビーズは、前記プローブ領域との特異的な結合が起こらなかった核酸を、洗浄によって容易に除去することが可能であるので好ましい。
【0048】
本発明のプローブは、低コストで生産可能であり、複数の核酸に各々特異的な複数箇所のプローブ領域を含み、かつ前述の通り、各プローブ領域に対応する特異的反応体に由来する信号を、同一のプローブにおいて検出可能なものとなる。このことにより、複数の核酸の存在量比データを、装置間や実験回間での解析結果のばらつきの可能性を抑制して、かつ低コストで得ることを可能ならしめる。したがって、従来技術では為し得なかった核酸の解析の信頼度向上や、さらに高精度の定量性の向上に貢献することができる。
【0049】
すなわち、従来法で問題となる、プローブが複数スポットにまたがることに由来する誤差の要因としては、各プローブの固相化量・スポット分量・スポットの形状の差異などがあった。また、検出系の性能に由来する誤差要因としては、検出装置の照明系が不均一であること、信号を取得するための光学系に周辺減光があることなどがあった。これに対し、本発明のプローブによれば、各核酸の塩基配列を解析するためのプローブが複数スポットにまたがることに由来する誤差可能性を排除し、また存在量比の比較において、検出系の性能に由来する誤差可能性を排除しつつ、複数の核酸を区別して検出することができる。検出器としてCCDを用いた核酸の塩基配列解析を行う場合等は、スキャンを行わずに、例えばプローブを固相化した固相化担体の固相化領域全体を一度に照明して信号を取得することが多いので、本発明のプローブを用いると好ましい。
【0050】
本発明のプローブによれば、さらに、核酸の塩基配列解析に際して、効率化を図ることが可能となる。これは、プローブの低コストでの生産は勿論のこと、解析しようとする核酸の種類数に対して必要なプローブ数を最小限とでき、すなわち準備するプローブスポット数を低減してマイクロアレイそのものを小さくすることができるためである。
【0051】
この効率化の点で、本発明のプローブは、塩基配列を解析しようとする核酸(以下、解析対象核酸又はターゲット核酸と記す場合がある。)を捕捉するために最適なプローブ塩基配列が不明である場合や、遺伝子型等を特定しようとする核酸領域(ターゲット核酸領域)にバリエーション(多型)が存在する場合の解析に、特に好適に利用可能である。このことは、本発明のプローブにおいて、あるターゲット核酸を検出するためのプローブ領域を、プローブあたり複数箇所かつ複数種類設けた形態が可能なためである。
【0052】
本発明のプローブにおいては、各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1以上のリンカーの同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことが好ましい。
【0053】
これは例えば、各プローブ領域が各々1本鎖核酸からなる塩基配列解析用プローブであって、該核酸の5´末端及び/又は3´末端と結合したリンカーをさらに有し、かつ核酸2本鎖領域を有さず、該リンカーは、核酸の5´末端及び/又は3´末端と直接又は間接的に反応可能なリンカー物質に由来しているプローブとして実施できる。
【0054】
このようにプローブ領域およびリンカーを有し、核酸2本鎖領域を有さないプローブは、特に、核酸の存在量比較の正確性向上に加えて、プローブ自体のコスト抑制の点で従来になく有利な効果を有する。
【0055】
従来の、主幹鎖核酸への核酸のハイブリダイゼーションを利用して作製されていた樹状プローブは、前述の通り設計の際に制限が多く、コスト高であった。
これに対し、リンカー物質に由来したリンカーを有するこの形態のプローブを生産するには、以下に例示するような方法を採ることができるため、プローブ領域の比率が既知のプローブを、信頼性を良好としつつ生産コストを低減して得ることができる。
【0056】
例えば、まず、プローブ領域を成す1本鎖核酸(プローブ用核酸断片)を複数種類、プローブ領域の種類ごとに準備する。また、核酸の5´末端及び/又は3´末端と、直接又は間接的に反応可能なリンカー物質を準備する。
【0057】
具体的には、核酸の5´末端及び/又は3´末端と直接反応可能な物質や、予め一端又は両端に官能基を付加されたプローブ用核酸断片の当該官能基と反応する官能基を有する物質を、リンカー物質として例示することができる。さらに、プローブ用核酸断片に付加された官能基と反応する化合物を準備し、この化合物と反応する官能基を有する物質を、リンカー物質として用いてもよい。また、リンカー物質における官能基の位置は制限されず、適宜選択すればよい。
【0058】
ついで、これらのプローブ用核酸断片とリンカー物質を、所望の順序で混合する。
このことにより、各種プローブ用核酸断片の一端または両端と結合したリンカーを有するプローブが得られる。
【0059】
このとき、リンカー物質の種類(例えば、官能基の種類、官能基の位置等)、プローブ用核酸断片の種類、及び、リンカー物質と複数のプローブ用核酸断片を混合する順序を制御することで、種々の形態のプローブを得ることが可能である。
【0060】
前記リンカー物質の形状は特に制限されず、例えば、鎖状分子、分岐部を有する分子等を利用することができる。
【0061】
リンカー物質の有する官能基の種類は、プローブ用核酸断片の端部または該端部に付加された官能基との組み合わせ等を鑑みて適宜選択される。好ましいリンカー物質としては、例えば、分子の末端にNHSエステル、マレイミド基、カルボジイミド、ピリジルジチオ基、ヒドラジド基、スルフォNHSエステル、フェニルジアゾ、ビオチン等の反応物質を有している架橋試薬などが挙げられる。さらに好ましいリンカー物質としては、例えばリジン、N‐ヒドロキシサクシンイミド、ビス[2‐(サクシンイミドオキシカルボニルオキシエチル)]スルフォン、N‐(3‐マレイミドプロピオニルオキシ)サクシンイミド、カルボジイミド等の架橋剤として知られている物質や、ペプチド等が挙げられる。
【0062】
例えばリンカー物質としてリジンを用いる場合、予め、複数のプローブ用核酸断片に、アビジンとカルボン酸とをそれぞれ付加させておく。リジンとビオチン化スクシンイミドとを反応させた後、アビジンの付加された1つのプローブ用核酸断片と反応させる。さらに、リジンとカルボジイミドとを反応させた後、カルボン酸の付加された1つのプローブ用核酸断片と反応させる。このことで、分岐状のプローブを作製することができる。これは、リジンがアミノ基を2つ、カルボン酸を1つ有していることによる。
例えば、1つのプローブに対し、2つのプローブ領域を有するプローブを製造する場合は、2官能性のリンカー物質を用いるとよい。
【0063】
予め、1つのプローブ用DNA断片の末端に官能基を付加し、もう1つのプローブ用DNA断片の末端に別の官能基を付加しておく。これと、前記のプローブ用DNA断片にそれぞれ付加された各官能基と反応する官能基を有したリンカーを混合すると、所望の遺伝子型を検出する複数種のプローブ領域を有したプローブを製造することが可能となる。
【0064】
リンカー物質は、両端に官能基を有する構造のものがより入手しやすいので、分岐していないプローブは、特に製造が容易である。
【0065】
本発明のプローブは、前記に例示した通り、例えばリンカー物質と各種プローブ用核酸断片とを混合するのみで得ることができるので、容易に製造可能である。また、プローブ用核酸断片を、順番にリンカー物質でつなげていくだけなので非特異的な結合の心配がなく、正確で効率が良い。
【0066】
また、各種プローブ用核酸断片をリンカー物質でつなげるだけで、各種プローブ領域をプローブ分子中に共存させられるので、各種類のプローブ領域の塩基配列のみを設計すればよく、設計自体が従来よりも非常に簡単で、設計時の時間や手間が短縮できる。さらに、一旦調製した各種類のプローブ用核酸断片を、別のプローブの組み合わせに使用することも可能であるため経済的である。
【0067】
このようなプローブの作製に際して、前記に例示した方法において、例えば、野生型(C)プローブ用核酸断片、変異型(A)プローブ用核酸断片、変異型(T)プローブ用核酸断片、変異型(G)プローブ用核酸断片を1:1:1:1の物質量比で準備し、リンカー物質と順次混合すれば、これら3つに対応するプローブ領域の量比が、プローブあたり必ず1:1:1:1となる。したがって、サンプルに含まれている塩基の割合を正確に検出することが可能となる。
【0068】
このように、本発明のプローブは、野生型プローブ領域、変異型プローブ領域を既知の比率、特に、4種類のタイピングを行う時は1:1:1:1の比率で有する形態において、特に顕著な効果を発揮する。ただし、あらかじめ、野生型(C)プローブ用核酸断片、変異型(A)プローブ用核酸断片、変異型(T)プローブ用核酸断片、変異型(G)プローブ用核酸断片にハイブリダイズする標識を行なった試験用の核酸断片を1:1:1:1の物質量比で準備し、ハイブリダイゼーションを行なって、発光効率を補正することが好ましい。
【0069】
本発明のプローブにおいては、前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1つが、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることが好ましい。
このようなプローブは、2箇所以上に設けられた当該プローブ領域に対応する核酸の塩基配列解析において増感が可能となる。例えば、このプローブを担体に固相化して作製したプローブスポットにおいて、当該ターゲット核酸の検出を行うと、プローブスポットから検出される蛍光強度値が複数倍に向上する。これは、1つのプローブがターゲット核酸を特異的に結合して試料を捕捉する能力が向上するためである。
【0070】
ここで、当該プローブスポット対応の蛍光強度値は、1種類のプローブ領域の、プローブあたり存在数に比例して増加することから、増感の程度を容易に制御することができる。しかも、核酸の塩基配列解析を行う本発明のプローブの生産においては、前記例示の、プローブ用核酸断片とリンカー物質とを順次混合する方法を採ることが可能であり、この方法を採用して、プローブ領域のリンカーへの結合回数を制御することができる。したがって、所定の程度に増感を可能ならしめるプローブを提供することが容易に行える。さらにプローブ自体を低コストに生産できる点で、従来になく有利な効果を奏する。
【0071】
このような、あるプローブ領域が2箇所以上に設けられているプローブは、ターゲット核酸と特異的に結合して捕捉するのに適した塩基が、例えば、センス鎖なのか、アンチセンス鎖かが既知である場合に、特に、増感の効果があるので好ましい。
【0072】
本発明のプローブにおいては、複数のプローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、標的核酸のセンス鎖と相補的な配列を有する第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の標的核酸のアンチセンス鎖と相補的な配列を有する第二プローブ領域とを有することが好ましい。
【0073】
核酸の塩基配列解析を行う場合、核酸とプローブ領域とのハイブリダイズ反応の効率は、プローブ領域の標的とする核酸が同一であり、又、領域の範囲が同一であっても、反応溶液中でとる二次構造が異なる場合がある。また、ハイブリダイズ反応の効率は、ターゲット核酸を断片化するときの長さ、部位にも影響されることから、標的核酸の配列として、センス鎖の配列を採用するかアンチセンス鎖の配列を採用するか、プローブ設計の時点で予測することは困難な場合がある。このような場合に、ハイブリダイズ反応効率が低くなるような方向で核酸プローブ領域を固相化して検出を行うと、強度の小さい信号しか得られなくなる場合がある。
【0074】
これに対し、本発明のこの形態によれば、核酸プローブ領域の担体との位置関係によってプローブ領域と核酸とのハイブリダイズ反応効率が異なる場合であっても、プローブ全体におけるハイブリダイズ反応効率を平均化でき、安定して信号を得ることができる。
【0075】
本発明のプローブが、前記第一プローブ領域および前記第二プローブ領域を有する場合において、配列のみの解析を行う場合は、どのプローブ領域に対応したFRETが検出されるかで判断できるので、該第一プローブ領域と該第二プローブ領域の比率は制限はなく、かならずしも1:1である必要はない。
【0076】
核酸の塩基配列解析を行う場合、核酸とプローブ領域とのハイブリダイズ反応の効率は、プローブ領域の塩基配列が実質的に同一でも、プローブが担体に固相化された際に、プローブ領域のどちらの末端が担体側に位置するかによって異なる場合がある。また、ハイブリダイズ反応の効率は、ターゲット核酸を断片化するときの長さ、部位にも影響されることから、プローブ領域のいずれの末端をプローブ中でどの方向で位置させるべきかを、プローブ設計の時点で予測することは困難な場合がある。このような場合に、ハイブリダイズ反応効率が低くなるような方向で核酸プローブ領域を固相化して検出を行うと、強度の小さい信号しか得られなくなる場合がある。
【0077】
これに対し、本発明のこの態様によれば、核酸プローブ領域の担体との位置関係によってプローブ領域と核酸とのハイブリダイズ反応効率が異なる場合であっても、プローブ全体におけるハイブリダイズ反応効率を平均化でき、安定して信号を得ることができる。
本発明のプローブが、前記第一プローブ領域および前記第二プローブ領域を有する場合において、配列のみの解析を行う場合は、どのプローブ領域に対応したFRETが検出されるかで判断できるので、該第一プローブ領域と該第二プローブ領域の比率は制限されない。
【0078】
核酸プローブ領域の末端で、担体に固相化される側を制御するには、例えば、リンカー物質の所定の一端に、担体へのプローブ固相化に関与する官能基を設け、他端に、前記例示のプローブ用核酸断片の末端に結合された官能基と反応する官能基を設けておく。さらに、プローブ用核酸断片の3´末端または5´末端に選択的に、リンカー物質との反応に関与する官能基を結合させておく。その後、リンカー物質とプローブ用核酸断片を混合すればよい。
インクジェット方式により塩基のモノマーを反応させてプローブを製造する場合や、光フォトリソグラフィーにより塩基のモノマーを反応させてプローブを製造する場合は、図2に示すような直線状のプローブを製造することに、特に好ましく用いることができる。この場合は、所望の塩基配列となるようにプローブを製造し、次に、リンカーを反応させ、更に、次の所望の塩基配列となるようにプローブを製造すればよい。
【0079】
<塩基配列解析用固相化担体>
本発明の塩基配列解析用固相化担体は、前述した本発明に係るプローブが担体に固相化されていることを特徴とする。
前述した通り、本発明のプローブは、担体に固相化した後に、試料との反応に供することが可能である。プローブが担体に固相化されている固相化担体を用いれば、試料中の核酸検出を、少ない工程数で簡便に行うことができる。なお、以下、担体のうち所定のプローブの固相化された領域をプローブスポット(スポット)と称する。
【0080】
図3(a)は、本発明の塩基配列解析固相化担体の一実施形態を示す構成図であり、このプローブ固相化担体31は、本発明のプローブ30を担体32の表面に結合して構成されている。本実施形態において、プローブ30は、リンカー35の一端側にプローブ領域B34、それぞれのプローブ領域をつなぐ中間のリンカー36及びプローブ領域A33を順次直線状に結合して構成されている。リンカー35の他端は担体32の表面に結合されている。このプローブ30の2つのプローブ領域A33、B34のうちの一方(プローブ領域B34)には、第一蛍光物質37が結合されている。担体32表面のうち、前記プローブ30が固相化された領域がプローブスポット38になっている。
【0081】
なお、本実施形態は本発明の塩基配列解析固相化担体の単なる例示であり、プローブの構成、担体の形状などは本例示に限定されない。例えば、2つのプローブ領域を持つ前記プローブ30に代えて、図1に示すプローブ10や図2に示すプローブ20を担体32に結合して本発明の塩基配列解析固相化担体を構成することもできるし、また平板状以外の形状の担体に前記いずれかのプローブを結合させて本発明の塩基配列解析固相化担体を構成することもできる。さらに、プローブ領域に結合させる第一蛍光物質の種類も、プローブ中のプローブ領域の数に応じて2種類以上の蛍光物質を用い、各プローブ領域に結合させることもできる。
【0082】
<塩基配列解析方法>
本発明の塩基配列解析方法は、前述した本発明に係るプローブを用いて、試料中の核酸の塩基配列を解析する方法であって、試料中の核酸に、前記プローブ領域に結合した第一蛍光物質との間でFRETを生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、前記標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と核酸との特異的結合反応を行い、該プローブと核酸からなる複合体を形成させる第三ステップ、前記複合体に、前記試料に標識した蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、並びに、前記標識試料に標識した第二蛍光物質と前記複数のプローブ領域に結合した第一蛍光物質との間のFRETに特異的な波長の発光信号および/または前記標識試料に標識した第二蛍光物質の発光信号を検出して前記試料中の核酸の塩基配列を解析する第五ステップ、を有することを特徴としている。
【0083】
本発明の方法で解析対象となる核酸は、前記「<塩基配列解析用プローブ>」の説明における「(核酸)」の例示と同様である。また、核酸を含む試料は、同様に前記「<塩基配列解析用プローブ>」の説明における「(試料)」の例示と同様である。
【0084】
(第一ステップ)
本発明の方法では、第一ステップとして、試料中の核酸に、前記プローブに標識する蛍光物質(第一蛍光物質)との間で蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を生じ得る蛍光物質(第二蛍光物質)を結合させて標識試料を作製する。
【0085】
これらのプローブに標識する蛍光物質と、試料中の核酸に標識する蛍光物質との組み合わせは、プローブ領域に核酸が結合した時に両者間にFRETが生じ得る組み合わせの中から適宜選択される。
【0086】
解析対象核酸が野生型と変異型が1つの場合、すなわち、2つの型しかない場合、試料中の核酸に標識する蛍光物質は、プローブに標識する蛍光物質との間のFRETにおいて、ドナーとして機能する物質でもアクセプターとして機能する物質でもよい。
例えば、ヒトミトコンドリアDNAの変異において、変異型配列と野生型配列の割合が、疾患と関連づけられており、変異の存在が診断の根拠とされている。
【0087】
疾患の例として、ミトコンドリア脳筋症の1つであるMELAS(Pavlakis et al. Mitochodrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episode: a distinct clinical syndrome. Ann. Neurol. 16: 481-488, 1984参照。)は、80%の例でtRNALeu(UUR)遺伝子の塩基番号3243のA→G変異が、また10%にtRNALeu(UUR)遺伝子の塩基番号3271のT→C変異あるいは欠失が見出されている。したがって、筋肉や白血球のミトコンドリアDNA上のtRNALys変異の有無を解析することが重要になる。
【0088】
更に、ミトコンドリア脳筋症では、野生型のミトコンドリアDNAと変異型ミトコンドリアDNAが種々の割合で混在することが知られている。このとき変異型ミトコンドリアDNAの割合が多くなると発症する確率が高くなる。MELASを例に取ると、筋肉のミトコンドリアDNAに関して、変異型ミトコンドリアDNAが56%以上あるとMELASとしての定型的な症状を示すことから、野生型と変異型の割合を解析することが重要となる。
【0089】
本発明の方法を用いることにより、固相量のバラツキや励起光や取得する光のムラがあっても、検体中の核酸の塩基のタイピング、および、野生型と変異型の割合を検出できる為、より正確に塩基配列を解析できる。
【0090】
このように野生型と変異型の割合を正確に解析する必要がある場合には、FRETによる蛍光(どちらかの型のみによる)とアクセプター本来の蛍光(両方の型が発光する)を検出し、アクセプター本来の蛍光強度に対応する核酸量から、FRETによる蛍光強度に対応する核酸量を引けば、両方の型の良否を解析することが可能である。
【0091】
本発明の方法において使用することができるドナーとアクセプターの組み合わせは、ドナーの蛍光波長とアクセプターの吸光波長に重なりがあれば、特に制限されない。また、ドナー、アクセプターとして機能し得る物質の材質も特に制限されず、種々の蛍光色素、ガラス、セラミックスの粒子等を使用することが可能である。
【0092】
本発明の方法において用いることのできる蛍光色素の組み合わせは、励起波長が490nm付近の蛍光色素(例えば、FITC、ローダミングリーン、Alexa(登録商標)fluor 488、Body P FL等)と励起波長が540nm付近の蛍光色素(例えば、TAMRA、テトラメチルローダミン、Cy3)、または、励起波長が540nm付近の蛍光色素と励起波長が630nm付近の蛍光色素(例えば、Cy5等)の組み合わせが好ましい。
【0093】
前記ドナー又はアクセプターとして機能し得るガラス、セラミックスの例としては、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ディスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム等の希土類元素を含有したガラス粒子や、シリコン、InP、GaN、CdTe、ZnS等の半導体ナノ粒子が挙げられる。これらは、光を照射することにより、元素、または、化合物に特有な波長の蛍光を発光する。公知の表面処理を行うことにより、プローブや検出対象の核酸と結合させることができる。
【0094】
(第二ステップ)
第二ステップとして、前記プローブを担体に固相化する。
使用可能な担体としては、前記「<塩基配列解析用プローブ>」の説明において記載したものと同様のものが例示され、またプローブを担体に固相化するための方法も前述した各種固相化方法の中から適宜選択することができる。
この第二ステップは、第一ステップの後、かつ第四ステップの前のいずれかで実施すればよく、例えば第三ステップより前でも後でもよい。
【0095】
(第三ステップ)
第三ステップとして、第一ステップで作製された標識試料と、前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と核酸との特異的結合反応を行い、該プローブ及び複数の核酸からなる複合体を形成させる。
【0096】
この複合体においては、第二蛍光物質が結合された複数の核酸が、これらと各々特異的に結合可能なプローブ領域に、それぞれ特異的に結合した結合領域が、複数形成されている。これら複数の結合領域は、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域と、これに特異的に結合した、第二蛍光物質が結合された核酸とからなる。この結果、前記結合領域では、第一蛍光物質と第二蛍光物質との間でFRETを生じることになる。
【0097】
(第四、第五ステップ)
第四ステップとして、前記複合体に、前記核酸に標識されている蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する。
これにより、複合体のうち、ハイブリダイゼーション第一蛍光物質の結合されていないプローブ領域と、第二蛍光物質の結合された核酸とからなる結合領域においては、第二蛍光物質が発光する。一方、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域と、第二蛍光物質の結合された核酸とからなる領域では、第一蛍光物質と第二蛍光物質の間のFRETの結果、第一蛍光物質の発光が起こる。
【0098】
第五ステップとして、前記第二蛍光物質の発光信号、及び、該第一及び第二蛍光物質の間のFRETに特異的な波長の発光信号を検出すると、これらの順に各々対応して、第一蛍光物質の結合されていないプローブ領域に特異的な核酸の存在量に対応する信号強度と、第一蛍光物質の結合されたプローブ領域に特異的な核酸の存在量に対応する信号強度とが得られる。これらの信号強度の比は、各核酸の存在量比に正確に対応した値となっている。
【0099】
すなわち、第五ステップにおいて、前記第二蛍光物質固有の発光信号、及び、蛍光共鳴エネルギー転移による波長の発光信号をそれぞれ検出する。一般にFRETのアクセプターとして使用される物質は、物質固有の発光波長と、FRETによって発生する発光波長とが異なることを利用している。
【0100】
このように、本発明の方法によれば、試料中の核酸の塩基配列を同一プローブスポット内で定量的に解析することができる。特に、本発明の方法によれば、特定の塩基配列を持つ核酸と比較して試料中の核酸の変異の有無、タイピング、変異の割合等を迅速かつ正確に解析することができる。
【0101】
なお、本発明の方法においては、前記第三ステップと前記第四ステップとの間に、複合体を形成していない核酸を除去するステップをさらに行うことが好ましい。
【0102】
以下、図3を参照して、本発明の塩基配列解析方法の一実施形態を例示する。本実施形態では、試料中に2種類の核酸(野生型、変異型)の存在が予想される場合を想定しており、試料中の核酸にドナーとして機能する1種類の蛍光物質(第二蛍光物質42)を結合させている。また、プローブ30は、ターゲット核酸(例えば、野生型の核酸)に特異的に結合可能な野生型プローブ領域A33と、変異型プローブ領域B34とを、1:1の比率で含み、プローブ領域B34に、第二蛍光物質42との間でFRETを生じるアクセプターとしての第一蛍光物質37が結合されており、かつ、プローブ領域A33に、FRETが起こる蛍光物質が結合されていない構成(試料への1色蛍光標識、プローブへの1色蛍光標識)になっている。
【0103】
まず、図3(a)に示すように、前記プローブ30を担体32表面に固相化し、プローブスポット38を有するプローブ固相化担体31(塩基配列解析用担体)を作製する。
【0104】
次に、核酸40,41を含む試料を準備し、この試料に対して、アクセプターとして機能する第一蛍光物質37との間でFRETを生じる、ドナーとして機能する第二蛍光物質42を核酸40,41にハイブリダイズさせる。
【0105】
ドナー標識試料中に、野生型の核酸41が含まれると、図3(b)に示すように、野生型の核酸41とプローブ領域A33とがハイブリダイズ反応して特異的に結合する。同様に、変異型の核酸40が含まれると、図3(b)に示すように、変異型の核酸40とプローブ領域B34とがハイブリダイズ反応して特異的に結合する。
【0106】
その後、必要があれば溶液の除去及び洗浄操作を行う。洗浄後、図3(c)に示すように、ドナー標識核酸のうち、いずれのプローブ領域とも結合しなかった核酸43は除去される。
【0107】
そして、ドナーの蛍光標識を励起することができる光を照射したときに、ドナーとアクセプターの間で起こったFRETによるアクセプター(第一蛍光物質37)の蛍光が検出されれば、変異型の核酸40であることがわかり、ドナー(第二蛍光物質42)固有の蛍光が検出されれば、野生型の核酸41であることが分かる。
【0108】
本実施形態では、FRETの発生に由来する、アクセプターの発光波長における蛍光強度が、変異型のみ核酸の量に対応し、ドナーの発光波長における蛍光強度が、野生型と変異型核酸の両方の量に対応する。したがって、ドナーの発光波長における蛍光強度に対応する核酸量から、FRETの発生に由来する、アクセプターの発光波長における蛍光強度に対応する核酸量を減じれば、野生型と変異型の割合を知ることができる。これらは、あらかじめ、野生型プローブ用核酸断片と変異型プローブ用核酸断片にハイブリダイズする標識を行なった試験用の核酸断片を既知の割合、例えば、1:1の物質量比で準備し、ハイブリダイゼーションを行なって、発光効率を補正すれば、蛍光強度の比を算出することで、正確な補正を行うことができる。
【0109】
また、野生型と変異型の両方のプローブ領域にアクセプターとなるそれぞれ異なる蛍光物質を標識した構成(試料への1色蛍光標識、プローブへの2色蛍光標識)とすることもできる。この場合には、野生型に対応したFRETと変異型に対応したFRETを検出することにより野生型か変異型かを判別可能であり、前述したように、比率も検出可能である。両方をFRETで検出する場合は、必ずしも、検体溶液の除去工程は必要ではない。
【0110】
本発明の方法における別の実施形態として、未知の核酸の塩基のタイピングを行う場合について説明する。
【0111】
a)核酸の多色標識:
未知の核酸試料に4種類の異なった蛍光標識をそれぞれ行い、それらを等量混合して試料溶液とする。その結果、解析対象核酸に4種類の蛍光物質が標識された試料溶液が調製される。
【0112】
一方、解析対象核酸の野生型と、その3種類の変異型にそれぞれ対応するプローブ領域を有し、さらに試料に標識した蛍光物質に対応してFRETが起こる蛍光物質を、それぞれの変異(A,T,G,C)に対応してプローブ領域に標識することによって、図1又は図2に示す構造のプローブを作製し、さらに該プローブを担体の表面に固相化したプローブ固相化担体を作製する。
【0113】
次に、前記プローブ固相化担体のプローブスポットに前記試料溶液を供給し、ハイブリダイゼーションを行う。
【0114】
次に、プローブスポットに励起光を照射し、各プローブ領域への核酸のハイブリダイゼーションの有無を検出することによって、試料中の核酸の塩基配列を解析する。本例において、試料中の核酸には4種類の蛍光物質が標識されているので、各プローブ領域への核酸のハイブリダイゼーションを検出するためには、核酸に標識されている4種類の蛍光物質に対応した励起光を照射し、各プローブ領域に対応したFRETを検出することにより行う。ハイブリダイゼーションが起こったプローブ領域には、4種類の蛍光物質が存在しているので、必ずFRETが起こり検出される。一方、ハイブリダイゼーションが起こらないプローブ領域ではFRETが起こらないので、未知の核酸試料のタイピングが可能である。
【0115】
なお、本例においても、図3に示したプローブ構造と同様に、4つのプローブ領域のうちの1つのプローブ領域にはFRETが起こる蛍光物質を標識しない構造とすることができる。この蛍光物質を標識していないプローブ領域におけるハイブリダイズの確認は、該プローブ領域にハイブリダイズした核酸に標識された蛍光を直接検出することにより行うことができる。この場合は、検体溶液を除去した後に検出を行うことが望ましい。
【0116】
b)核酸の1色標識:
更に別の実施形態として、未知の核酸試料に、1つの励起光で複数の波長の蛍光を発光する第二蛍光物質(ドナー)を標識する。一方、この第二蛍光物質から発せられる複数の波長の蛍光に対応したFRETが起こる第一蛍光物質(アクセプター)を各プローブ領域に標識しておく。この第二蛍光物質(ドナー)として用いることができる物質としては、例えば、Tb(III)配位子N,N,N1,N1−[2,6−ビス(3´−アミノメチル−1´−ピラゾリル)−4−フェニルピリジン]テトラキス酢酸(BPTA)が挙げられる。このBPTAは、分子内に活性エステル基を有しており、アミノ基を有する生体分子を直接に標識することが可能である。このBPTAの蛍光は、490nm付近、550nm付近、590nm付近、625nm付近、650nm付近に見られる。希土類元素を含有した物質、例えば、キレート化合物やガラス等では、350〜400nmの励起光を照射すると、元素の種類により発光波長は異なるが、4つ程度の波長が異なる発光が観察される。(例えば、Analytical Chemistry, 73, [8], (2002) 1869.を参照。)
【0117】
そこで、BPTA等の希土類元素を含有した物質を、塩基配列を解析したい解析対象核酸に標識し、これを図1又は図2に示す構造のプローブにハイブリダイズさせる。該プローブは、前述した通り、それぞれの変異(A,T,G,C)に対応して4種類のプローブ領域を有し、さらに試料に標識した蛍光物質に対応してFRETが起こる蛍光物質を、それぞれの変異(A,T,G,C)に対応してプローブ領域に標識した構成になっている。
【0118】
解析対象核酸の塩基配列を解析する場合や変異部位の塩基が何であるかを解析する場合には、例えば、核酸の所望部位の塩基をA,T,G,Cに置換した配列のプローブ領域に、それぞれ、アクセプターの蛍光物質a,b,c,dを修飾しておく。試料中の核酸に標識されている第二蛍光物質(ドナー)からは、4つの異なる波長の蛍光が発する。それぞれのプローブ領域に核酸がハイブリダイズされると、試料中の核酸に標識された第二蛍光物質と、対応したプローブ領域に標識されているそれぞれの第一蛍光物質が近接し、FRETが起こり、異なる波長の蛍光を発するので、どのプローブ領域に核酸がハイブリダイズしたかを判定でき、核酸の塩基配列や変異した塩基が何であるかを迅速にかつ正確に解析することが可能となる。
【0119】
このように本発明の塩基配列解析方法を適用すると、たとえ理想的な検出器を用いなくても、各スポット間におけるプローブ固相化量等の差異に影響を受けることなく、より正確な塩基配列の解析が可能となり、解析結果の信頼度及び解析速度が向上する。
【0120】
以上、本発明に係るプローブ、それを用いた塩基配列解析用固相化担体及び塩基配列解析方法の実施形態を説明したが、前述した各実施形態(及び後述する実施例)の記載は、本発明の例示に過ぎず、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、種々の変更や修正が可能である。
例えば、本発明は種々の形態の基板にプローブを固相化したマイクロアレイを用いた核酸の解析等の用途に好適に用いることができる。
また、塩基配列解析用固相化担体には、複数種のプローブを既知の領域に区画して固相化し、又はランダムに固相化することもできる。
【実施例】
【0121】
[実施例1]
本発明の系を実証するために、K−rasガン遺伝子のコドン12における変異の有無の決定を行う方法を以下に示す。
【0122】
K−rasコドン12の20量体の野生型K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号1)にテトラメチルローダミンを標識し、さらにアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解し、リンカーのN−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合した。次に変異型K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号2)にアミノ基を3´端と5´端の両方に付加したものを緩衝液に溶解して混合し、2つのDNAプローブ断片をリンカーで一列につないだプローブAを作製した。また、前記2種類の20量体の野生型K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片をそれぞれ緩衝液に溶解し、プローブBとプローブCを作製した。この3種類のプローブをアルミニウム陽極酸化膜基板上にスポットし、三次元マイクロアレイを作製した。
【0123】
これらのマイクロアレイの各プローブと、解析対象核酸である、FITCで標識済K−rasガン遺伝子(K−rasコドン12を増幅するプライマーを利用してPCRによって増幅しておいたもの)との間で、ハイブリダイゼーションさせ、ハイブリッドから発せられる蛍光の強度をオリンパス光学社製BX−52TRFに冷却CCDカメラを接続した実験システムで測定した。
【0124】
前記に概略が示された実験は、蛍光標識試料の調製、マイクロアレイの作製、試料のマイクロアレイに対するハイブリダイゼーション、データの解析の主として4つのステップから構成されるものであるが、以下には、各ステップの詳細を説明する。
【0125】
解析対象となる遺伝子セットの増幅と標識を行う。対象遺伝子の採取源としては、例えば人体の一部などを挙げることができるが、より具体的にはガン化した組織などから採取した組織切片や、マイクロダイセクション法等によって得られた細胞片や、培養細胞などが挙げられる。本実施例においては、ヒトK−rasガン遺伝子テンプレートセット(宝酒造社製、Cat#7242)を使用した。Gly(野生型)、Arg(変異)の2種類のテンプレートそれぞれに対して、同じくK−rasガン遺伝子のコドン12の部分を増幅できるPCRキット(宝酒造社製、Cat#7112)を用いて遺伝子増幅した。増幅時には、5´末端にFITCの蛍光標識が入れられたプライマーを使用した。PCR終了後、3%NuSieve(FMC)で作製したアガロース電気泳動を行い、増幅産物を確認した。
【0126】
PCR後のヒトK−rasガン遺伝子Gly(野生型)の増幅試料と、Arg(変異型)増幅試料とを、それぞれの量比で4:1に混合した溶液 40μlに、ハイブリダイゼーション用溶液として、10μlの1.25XSSPE(リン酸ナトリウム緩衝液、参考資料:DNAマイクロアレイと最新PCR法、細胞工学別冊ゲノムサイエンスシリーズ1、秀潤社)を添加して、ハイブリダイゼーション試料を作製した。
【0127】
このハイブリダイゼーション試料を、前述したプローブA,プローブB及びプローブCを固相化した三次元マイクロアレイの各プローブスポットに均等に供給し、50℃で30分間試料溶液を駆動することによって、核酸とプローブ領域のハイブリダイゼーションを行った。このハイブリダイゼーション後、各プローブスポットをバッファーにより洗浄した。
【0128】
ハイブリダイゼーションの分析は、オリンパス光学社製のBX−52TRFに冷却CCDカメラを接続した実験システムによって行った。この実験システムは、反応フィルタの周りの溶液駆動と、温度制御、及び蛍光スポットの画像の記録を自動的に行うことが出来るように設計されている。直径6mmのマイクロアレイが設置された専用チャンバーの反応部分に、50μlの反応溶液を加え、温度を72℃の下で溶液駆動を行い、蛍光画像を撮像した。U−MWIBA2ミラーユニット(オリンパス社製)とU−MWIG2ミラーユニット(オリンパス社製)を使用して蛍光画像を取得した。このとき、励起光としてそれぞれ、460〜490nm、520〜550nmの波長の光をマイクロアレイに照射し、プローブA,プローブB及びプローブCの各プローブスポットに対応するFITC及びテトラメチルローダミンの蛍光強度をそれぞれ測定した。
【0129】
野生株に対応するDNAプローブ断片(配列番号1)と、変異株に対応するDNAプローブ断片(配列番号2)とをリンカーで一列につなぎ、かつ野生株に対応するDNAプローブ断片に第一蛍光物質としてテトラメチルローダミンを結合した、本発明に係るプローブAでは、図3に示すように、前記ハイブリダイゼーションによって試料中の野生型の遺伝子が野生株に対応するDNAプローブ断片(配列番号1)に特異的に結合し、また変異株の遺伝子が変異株に対応するDNAプローブ断片(配列番号2)に特異的に結合する。
【0130】
そして、ハイブリダイゼーション後に、このプローブAに第二蛍光物質であるFITC用の励起光を照射すると、両方のDNAプローブ断片に結合した遺伝子(野生型、変異型)に修飾されているFITCから蛍光が発せられる。野生株に対応するDNAプローブ断片では、第一蛍光物質であるテトラメチルローダミンがFRETによって異なる波長の蛍光が発せられる。一方、変異株に対応するDNAプローブ断片はテトラメチルローダミンを修飾していないので、FITCからの蛍光のみが発せられる。
【0131】
従って、プローブAでは、FITC用の励起光を照射し、FRETによって生じるFITCの蛍光とは異なる波長の蛍光(野生株に対応する蛍光)の強度と、FITCの蛍光強度(変異株に対応する蛍光)の強度をそれぞれ測定し、比較することによって、野生株と変異株の存在、及びそれらの比率を解析することができる。すなわち、このプローブAでは、テトラメチルローダミンの蛍光強度が野生型のサンプル量に対応し、FITCの蛍光強度が変異型のサンプル量に対応する。
【0132】
一方、プローブB及びプローブCは、1遺伝子と1プローブ同士を結合させる従来法を想定している。この従来法において、プローブBが野生株に対応し、プローブCが変異型に対応している。これらのプローブB及びプローブCに対して、前記ハイブリダイゼーションを行うと、プローブBには野生型の遺伝子が結合し、プローブCには変異型の遺伝子が結合し、前記プローブAの場合と同様に、FITC用の励起光を照射し、FRETによって生じるFITCの蛍光とは異なる波長の蛍光(野生株に対応する蛍光)の強度と、FITCの蛍光強度(変異株に対応する蛍光)の強度をそれぞれ測定し、比較することによって、野生株と変異株の存在、及びそれらの比率を解析する。従来法においても、テトラメチルローダミンの蛍光強度が野生型のサンプル量に対応し、FITCの蛍光強度が変異型のサンプル量に対応する。
【0133】
従来法により解析した野生株と変異株の割合を図4のグラフに示し、本発明の方法により解析した野生株と変異株の割合を図5のグラフに示す。
【0134】
本実験では、本来、どのスポットにおいても野生型と変異型の蛍光強度の割合(すなわち、試料中のそれぞれの遺伝子の存在比を表す)は、既知の値(4/1=4)と一致するはずである。しかし、図4の従来法によるプローブの解析では、データにばらつきが見られ、野生型と変異型の割合も、既知の値と一致しなかった。これは、各スポットの固相化量や固相化密度に違いがあり、ハイブリダイズした量がスポットにより異なってしまうためであると考えられる。
【0135】
一方、本発明による解析では、図5に示すようにデータにばらつきは見られず、野生型と変異型の割合が、既知の割合と一致した。
【0136】
このように同一のプローブ上に、検出対象となる複数のプローブ配列を配すると、必ず、複数のハイブリダイズした遺伝子間の量の比率が一定となるので、スポット間の固相化量に差があった場合でも、正確な存在量を検出することが可能となる。
【0137】
[実施例2]
未知サンプルとして、ヒト培養細胞より抽出したDNAを用いた以外は、実施例1と同様にして実験を行った。プローブAからはテトラメチルローダミンのみの蛍光が検出され、未知サンプル中のDNAは野生型であることが分かった。
【0138】
[実施例3]
核酸に多色標識した場合の確認実験を行った。
実施例1と同様のK−rasコドン12の配列の20量体の野生型K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号1)にテトラメチルローダミンを標識し、さらにアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解し、リンカーのN−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合した。次に変異型K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号2)にCy5を標識し、さらに、アミノ基を3´端と5´端の両方に付加したものを緩衝液に溶解して混合し、これら2つのDNAプローブ断片をリンカーで一列につないで、図3(a)に示したようなプローブを作製した。このプローブをアルミニウム陽極酸化膜基板上にスポットし、三次元マイクロアレイを作製した。
【0139】
実施例1と同様のヒトK−rasガン遺伝子テンプレートセットの既知の野生型の核酸断片を鋳型とした増幅産物にFITCを標識したものを溶液1とし、テトラメチルローダミンを標識したものを溶液2とした。これらを混合し、サンプルAとして前記マイクロアレイ上のプローブにハイブリダイズした。ハイブリダイズ条件は実施例1と同じとした。
【0140】
また、別のマイクロアレイに実施例1と同様のヒトK−rasガン遺伝子テンプレートセットの既知の変異型の核酸断片を鋳型とした増幅産物FITCを標識したものを溶液3とし、テトラメチルローダミンを標識したものを溶液4とした。これらを混合し、サンプルBとして、マイクロアレイ上のプローブにハイブリダイズした。ハイブリダイズ条件は実施例1と同じとした。
【0141】
これらのマイクロアレイに490nm付近の励起光を照射し、野生型のサンプル量に対応する540nm付近の発光強度を測定した。また、540nm付近の励起光を照射し、変異型のサンプル量に対応する670nm付近の発光強度を測定した。
【0142】
サンプルA(野生型)では、540nm付近の発光しか認められず、サンプルB(変異型)では670nm付近の発光しか認められなかった。この結果、本発明の方法によって、既知サンプルにおけるタイピングが実施可能であることを確認した。
したがって、本発明の方法によれば、未知サンプルであっても野生型か変異型かの判定が可能である。
【0143】
[実施例4]
未知サンプルを用い、この核酸におけるタイピングの解析を実施した。
K−rasコドン12の配列に野生型と突然変異をそれぞれ導入した4種類の20量体のK−rasガン遺伝子プローブ断片(配列番号56-59)のうち、K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号1)にFITC標識し、更にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合した。次に、K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号2)にCy3標識し、更にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合した。次に、K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号3)にAlexaFluor(登録商標)594標識し、更にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解し、N−ヒドロキシスクシンイミド溶液を混合した。次に、K−rasガン遺伝子のDNAプローブ断片(配列番号4)にBODIPY630/650−X標識し、更にアミノ基を付加したものを緩衝液に溶解した。これらの溶液を混合して4つのDNAプローブ断片をリンカーで一列につないだ図2に示す構造のプローブを作製し、それをアルミニウム陽極酸化膜基板上にスポットし、三次元マイクロアレイを作製した。
【0144】
本実施例においては、ヒトK−rasガン遺伝子テンプレートセット(宝酒造社製、Cat#7242)を使用した。Gly(野生型),Arg,Cys,Serの4種類のテンプレートに対して、同じくK−rasガン遺伝子のコドン12の部分を増幅できるPCRキット(宝酒造社製、Cat#7112)を用いて遺伝子増幅した。増幅時には、5´末端にTb(III)配位子N,N,N1,N1−[2,6−ビス(3´−アミノメチル−1´−ピラゾリル)−4−フェニルピリジン]テトラキス酢酸(BPTA)の蛍光標識が入れられたプライマーを使用した。PCR終了後、3%NuSieve(FMC)で作製したアガロース電気泳動を行い、増幅産物を確認した。この蛍光色素は、希土類元素のTbを含有しており、350〜400nm付近の励起光に対して、490nm付近、550nm付近、590nm付近、671nm付近の蛍光が発光する。4つのプローブ領域は、4種類の蛍光色素が標識されており、ハイブリダイズが起こったプローブ領域のみにFRETが起こる。したがって、FRETによる発光波長を検出すると、塩基のタイピングができる。
【0145】
これらのGly(野生型),Arg,Cys,Serの4種類の標識済み核酸増幅産物を、それぞれサンプルA,B,C,Dとした。これらのサンプルを前述の三次元マイクロアレイ上にスポットされた4つのDNAプローブ断片をリンカーで一列につないだプローブとハイブリダイゼーションを行った。
【0146】
ハイブリダイゼーションは実施例1と同様に行い、励起光に350〜400nm付近の励起光を照射し、発光する蛍光(波長520nm,波長565nm,波長617nm,波長640nm)の強度を測定した。
【0147】
測定の結果、サンプルAでは、波長520nmのみ、サンプルBでは波長565nmのみ、サンプルCでは波長617nmのみ、サンプルDでは波長640nmのみで蛍光が検出された。これは、1つの野生型と3つの変異型のサンプルに対応しており、既知サンプルにおいてタイピングを実施可能であることを確認することができた。
このように、本発明の方法によれば、未知サンプルであっても野生型かどの変異型かの判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明に係るプローブの一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係るプローブの別な実施形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係る固相化担体の一実施形態、およびこれを用いた塩基配列解析方法の一実施形態を示す構成図である。
【図4】実施例1において、従来法によるハイブリダイゼーション画像解析結果を示すグラフである。
【図5】実施例1において、本発明方法によるハイブリダイゼーション画像解析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0149】
10,20,30 プローブ(塩基配列解析用プローブ)
11,21,35,36 リンカー
12,22,33 プローブ領域A
13,23,34 プローブ領域B
14,24 プローブ領域C
15,25 プローブ領域D
16,26 蛍光物質a
17,27 蛍光物質b
18,28 蛍光物質c
19,29 蛍光物質d
31 プローブ固相化担体
32 担体
37 第一蛍光物質
38 プローブスポット
40,41,43 核酸
42 第二蛍光物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の核酸の塩基配列を解析するための、担体に固相化される塩基配列解析用プローブであって、
それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を含み、該複数のプローブ領域のうち少なくとも1つに、他の蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第一蛍光物質が結合されていることを特徴とする塩基配列解析用プローブ。
【請求項2】
それぞれ異なる核酸と特異的に結合可能な複数のプローブ領域を既知の比率で含んでいることを特徴とする請求項1に記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項3】
前記複数のプローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、該プローブ領域は1つ以上のリンカーの同一位置または異なる位置に結合しており、当該プローブは核酸2本鎖領域を有さないことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項4】
前記複数のプローブ領域のうち少なくとも1つが、当該プローブあたり2箇所以上に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項5】
前記複数のプローブ領域が同一の核酸のセンス鎖とアンチセンス鎖を捕捉するプローブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項6】
前記複数のプローブ領域が各々1本鎖核酸からなり、前記担体に固相化される側に3´末端が位置している第一プローブ領域と、該第一プローブ領域と同一の塩基配列を有し、かつ該固相化される側に5´末端が位置している第二プローブ領域とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項7】
前記複数のプローブ領域が野生型の核酸と特異的に結合可能なプローブ領域と、該野生型の核酸の塩基配列の一部が変異した変異型の核酸と特異的に結合可能なプローブ領域とを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項8】
前記複数のプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移により異なる波長の蛍光を発する複数種の蛍光物質が結合されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項9】
前記複数のプローブ領域が、リンカーの一端側に分岐した状態で結合されており、かつ、それぞれのプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移によりそれぞれ異なる波長の蛍光を発する蛍光物質が結合されていることを特徴とする請求項8に記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項10】
前記複数のプローブ領域が、リンカーの一端側に順次直線状に結合されており、かつ、それぞれのプローブ領域に、蛍光共鳴エネルギー転移によりそれぞれ異なる波長の蛍光を発する蛍光物質が結合されていることを特徴とする請求項8に記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項11】
前記複数のプローブ領域が、試料中の解析対象核酸について、その変異の有無、塩基のタイピング、および/または配列、変異の比率を解析可能なプローブ領域を組み合わせてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブが担体に固相化されていることを特徴とする塩基配列解析用固相化担体。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の塩基配列解析用プローブを用いて、試料中の核酸の塩基配列を解析する方法であって、
試料中の核酸に、前記プローブ領域に結合した第一蛍光物質との間で蛍光共鳴エネルギー転移を生じ得る第二蛍光物質を結合させて標識試料を作製する第一ステップ、
前記プローブを担体に固相化する第二ステップ、
前記標識試料と前記プローブとを接触させ、前記プローブ領域と核酸との特異的結合反応を行い、該プローブと核酸からなる複合体を形成させる第三ステップ、
前記複合体に、前記試料に標識した蛍光物質の励起波長を有する励起光を照射する第四ステップ、
並びに、前記標識試料に標識した第二蛍光物質と前記複数のプローブ領域に結合した第一蛍光物質との間の蛍光共鳴エネルギー転移に特異的な波長の発光信号および/または前記標識試料に標識した第二蛍光物質の発光信号を検出して前記試料中の核酸の塩基配列を解析する第五ステップ、
を有することを特徴とする塩基配列解析方法。
【請求項14】
試料に標識する蛍光物質が単一であり、かつ、1つの励起波長に対して複数の波長の蛍光を発光する蛍光物質であることを特徴とする請求項13に記載の塩基配列解析方法。
【請求項15】
試料に標識する蛍光物質が複数であることを特徴とする請求項13に記載の塩基配列解析方法。
【請求項16】
前記第五ステップによって、特定の塩基配列を持つ核酸と比較して試料中の核酸の変異の有無、塩基のタイピング、および/または配列、変異の比率を解析することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の塩基配列解析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−166808(P2006−166808A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364521(P2004−364521)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】