説明

塩素化芳香族化合物の製造方法

【課題】 芳香族化合物と塩素から塩素化芳香族化合物を製造する方法であって、ダイオキシン類の発生を伴うことなく、副生する塩化水素ガスを有効にリサイクル利用することができるという優れた特徴を有する塩素化芳香族化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の工程を含む塩素化芳香族化合物の製造方法。芳香族化合物としてベンゼンを用い、塩素化芳香族化合物であるモノクロルベンゼン又はジクロルベンゼンを得る方法が産業上の観点から特に重要である。
塩素化工程:芳香族化合物と塩素を反応させ、塩素化芳香族化合物と塩化水素を得る工程
酸化工程:塩素化工程で得た塩化水素を酸素と反応させて塩素を得、該塩素の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルする工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化芳香族化合物の製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、芳香族化合物と塩素から塩素化芳香族化合物を製造する方法であって、ダイオキシン類の発生を伴うことなく、副生する塩化水素ガスを有効にリサイクル利用することができるという優れた特徴を有する塩素化芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばベンゼンのような芳香族化合物と塩素からモノクロルベンゼンのような塩素化芳香族化合物を製造する方法は公知である(たとえば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
ところで、芳香族化合物と塩素の反応に伴い塩化水素ガスが副生する。この副生塩化水素ガスは、水に吸収させて塩酸水溶液として他用途に利用されるか、中和処理をして廃棄されるのが一般であった。
【0004】
一方、副生する塩化水素ガスの利用方法としては、塩化水素と酸素と芳香族化合物をオキシクロリネーションに付す方法が知られている(たとえば、特許文献3参照。)。しかしながら、この方法は、塩化水素と酸素と芳香族化合物を200℃以上という高温下で共存させるため、ダイオキシン類の発生が懸念される。また、オキシクロリネーションを200℃以下の低温で実施する方法も開示されているが、高価な貴金属触媒が必要であること、ダイオキシン類の発生がやはり懸念されることより、有効な製法とは言い難い。(たとえば、特許文献4、特許文献5参照。)
【特許文献1】米国特許第3128240号明細書
【特許文献2】特公昭50−34010号公報
【特許文献3】特開昭53−9723号公報
【特許文献4】特公昭45−28366号公報
【特許文献5】特公昭50−34011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、芳香族化合物と塩素から塩素化芳香族化合物を製造する方法であって、ダイオキシン類の発生を伴うことなく、副生する塩化水素ガスを有効にリサイクル利用することができるという優れた特徴を有する塩素化芳香族化合物の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、下記の工程を含む塩素化芳香族化合物の製造方法に係るものである。
塩素化工程:芳香族化合物と塩素を反応させ、塩素化芳香族化合物と塩化水素を得る工程
酸化工程:塩素化工程で得た塩化水素を酸素と反応させて塩素を得、該塩素の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルする工程
【発明の効果】
【0007】
本発明により、芳香族化合物と塩素から塩素化芳香族化合物を製造する方法であって、ダイオキシン類の発生を伴うことなく、副生する塩化水素ガスを有効にリサイクル利用することができるという優れた特徴を有する塩素化芳香族化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の塩素化工程は、芳香族化合物と塩素を反応させ、塩素化芳香族化合物と塩化水素を得る工程である。
【0009】
塩素化芳香族化合物としては、モノクロルベンゼン、1,2−、1,3−又は1,4−ジクロルベンゼン、1,2,3−、1,2,4−又は1,3,5−トリクロルベンゼン、テトラー、ペンター又はヘキサクロルベンゼン、モノ又はポリクロロトルエン、モノ又はポリクロロキシレン等をあげることができる。また、それらの化合物の芳香環がニトロ基、アミノ基、アルキル基(メチル基を除く。)等の置換基で置換されていてもよい。更に、上記の単環式芳香族化合物の他に、ナフタレン環、アントラセン環等の多環式芳香族化合物であってもよい。また、芳香環に直接塩素が置換された化合物のみならず、塩化ベンジル、クミルクロライドのように芳香環の置換基が塩素化されたものであってもよい。
【0010】
芳香族化合物としてベンゼンを用い、塩素化芳香族化合物であるモノクロルベンゼン又はジクロルベンゼンを得る方法が産業上の観点から特に重要である。
【0011】
芳香族化合物と塩素を反応させる方法については、特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。具体的な方法の例を示すと、次のとおりである。反応は、液相、気相いずれによっても実施される。塩素と芳香族化合物のモル比(塩素/芳香族化合物)は3以下であり、反応温度は25〜80℃であり、反応圧力は減圧、常圧、加圧いずれでもよいが、通常は常圧である。反応には触媒として鉄粉、塩化第二鉄、ヨウ素、塩化アルミニウム、五塩化アンチモン、各種金属塩化物などのルイス酸、ゼオライト、シリカアルミナ等の固体酸を用いることができる。
【0012】
本発明の酸化工程は、塩素化工程で得た塩化水素を酸素と反応させて塩素を得、該塩素の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルする工程である。
【0013】
塩化水素と酸素を反応させる方法については、特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。具体的な方法の例を示すと、次のとおりである。塩化水素と酸素のモル比(塩化水素/酸素)は0.5〜2であり、反応温度は200〜500℃、好ましくは200〜380℃であり、反応圧力は0.1〜5MPaであり、空塔速度は0.7〜10m/sである。反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器を用いることができる。反応には触媒として酸化クロム触媒、酸化ルテニウム触媒を用いることができる。
【0014】
本発明においては、下記の塩素化芳香族化合物精製工程を用いることが好ましい。
塩素化芳香族化合物精製工程:塩素化工程で得られた塩素化芳香族化合物を精製する工程
【0015】
塩素化工程で得られた塩素化芳香族化合物は塩素化工程での原料であった芳香族化合物や少量の副生物を含んでいる。かかる混合物より精製された塩素化芳香族化合物を分離回収することができる。一方、本工程で用いられた芳香族化合物は分離回収され、その少なくとも一部は塩素化工程へリサイクルされる。
【0016】
塩素化芳香族化合物精製工程を実施するには、たとえば蒸留、抽出蒸留、吸着分離等を用いればよい。特に、沸点の異なる未反応芳香族化合物と、塩素化芳香族化合物の場合は蒸留にて、塩素化芳香族化合物でも沸点の近い異性体間の分離には、抽出蒸留、吸着分離等が用いられる。
【0017】
本発明においては、下記の塩化水素精製工程を用いることが好ましい。
塩化水素精製工程:塩素化工程で得た塩化水素を含む混合物から塩化水素を主として含む部分と芳香族化合物を主として含む部分に各々分離し、塩化水素を主として含む部分を酸化工程へ送り、芳香族化合物を主として含む部分を直接又は間接に塩素化工程へ送る工程
【0018】
本工程としては、たとえば蒸留を用いればよい。ここで分離回収された芳香族化合物は、直接又は間接に塩素化工程へ送られる。間接に塩素化工程へ送る場合とは、分離回収された芳香族化合物を他の工程(たとえば、後記の塩素化芳香族化合物精製工程)を経由した後、塩素化工程へ送ることを意味する。
【0019】
本発明においては、下記の塩素分離回収工程を用いることが好ましい。
塩素分離回収工程:酸化工程の反応混合物を、塩素を主とする部分、塩化水素を主とする部分、酸素を主とする部分及び水を主とする部分に分離し、塩素を主とする部分の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルし、塩化水素を主とする部分の少なくとも一部及び酸素を主とする部分の少なくとも一部を酸化工程へリサイクルする工程
【0020】
酸化工程の反応混合物は、塩素、塩化水素、水及び酸素を含んでいる。これらの各成分を本工程で各々分離し、塩素、塩化水素、酸素は回収するのである。
【0021】
塩素分離回収工程を実施するには、たとえば吸収、凝縮、蒸留を用いればよい。塩化水素、水については、凝縮または、溶媒に吸収させた後、塩化水素は放散、または蒸留により回収し酸化工程へリサイクルすることができる。なお、塩化水素、水を吸収する溶媒としては、水または塩酸水溶液であってもよい。塩素、酸素は蒸留により分離することができる。分離された酸素は酸化工程にリサイクルすることができる。分離された塩素は、塩素化工程にリサイクルすることができる。
【実施例】
【0022】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
本発明は、芳香族化合物としてベンゼンを用い、塩素化芳香族化合物としてモノクロルベンゼンを得る場合に、たとえば図1のフローと表1の物質収支により最適に実施することができる。















【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を実施するフローの例である。
【符号の説明】
【0025】
A 塩素化工程
B 酸化工程
C 塩素化芳香族化合物精製工程
D 塩化水素精製工程
E 塩素分離回収工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む塩素化芳香族化合物の製造方法。
塩素化工程:芳香族化合物と塩素を反応させ、塩素化芳香族化合物と塩化水素を得る工程
酸化工程:塩素化工程で得た塩化水素を酸素と反応させて塩素を得、該塩素の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルする工程
【請求項2】
下記の塩素化芳香族化合物精製工程を含む請求項1記載の製造方法。
塩素化芳香族化合物精製工程:塩素化工程で得られた塩素化芳香族化合物を精製する工程
【請求項3】
下記の塩化水素精製工程を含む請求項1記載の製造方法。
塩化水素精製工程:塩素化工程で得た塩化水素を含む混合物から塩化水素を主として含む部分と芳香族化合物を主として含む部分に各々分離し、塩化水素を主として含む部分を酸化工程へ送り、芳香族化合物を主として含む部分を直接又は間接に塩素化工程へ送る工程
【請求項4】
下記の塩素分離回収工程を含む請求項1記載の製造方法。
塩素分離回収工程:酸化工程の反応混合物を、塩素を主とする部分、塩化水素を主とする部分、酸素を主とする部分及び水を主とする部分に分離し、塩素を主とする部分の少なくとも一部を塩素化工程へリサイクルし、塩化水素を主とする部分の少なくとも一部及び酸素を主とする部分の少なくとも一部を酸化工程へリサイクルする工程
【請求項5】
芳香族化合物がベンゼンであり、塩素化芳香族化合物がモノクロルベンゼンである請求項1記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−83096(P2006−83096A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269414(P2004−269414)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】