説明

増殖因子イソ型

【課題】高レベルのVEGF(血管内皮増殖因子)の発現が存在する腎臓に血管形成がない理由を解明する。
【解決手段】エキソン9に差別的にスプライスされる腎臓細胞におけるVEGFの新規のイソ型を同定した。該VEGFイソ型は、抗血管形成、抗血管拡張、抗透過性および抗増殖活性を示すことが判明。更に抗血管形成剤、抗血管拡張剤、抗透過性剤および抗増殖剤としてのそれらの使用、ならびにそれらの過度の発現が疾患状態に関連している可能性がある状態におけるそのようなイソ型の阻害。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のVEGFイソ型、ならびに抗血管形成、抗血管拡張、抗透過性および抗増殖剤としてのそれらの使用、ならびにそれらの過度の発現が疾患状態に関連している可能性がある状態におけるそのようなイソ型の阻害に関する。
【背景技術】
【0002】
組織が増殖するためには、周囲の血管系からの活発かつ高度に効率的な血液供給を発生させ、維持することが必要である。この過程(血管形成)は、腫瘍の進行と生存、慢性関節リウマチ、乾癬、増殖性眼疾患の発生および他の病的状態の宿主に必要である。この新規の血管系またはそれを発生させる増殖因子を標的とする多くの新たな抗腫瘍療法が開発されつつある。これは、癌研究において特に興味深いものである。癌療法に対するこの新規のアプローチは、細胞増殖を標的とする伝統的な化学療法と異なっている。このアプローチの利点は、血管形成は正常な生理の本質的な構成要素ではなく(閉経前女性における黄体、子宮内膜および胎盤の発生の場合を除く)、したがって、抗血管形成は、毛成長、正常な胃腸の生理、表皮および生理の他の多くの正常な側面にも影響を及ぼす抗増殖療法ほど有毒でないという特徴にある。したがって、抗血管形成薬の治療量は、抗増殖薬と異なり、最大耐量より十分に低いと予測される。腫瘍は、多くが過去数年のうちに分離された内皮細胞特異的増殖因子を分泌することにより、それらの新たな血液供給路を発生させ、維持する。これらの増殖因子の1つは、in vivoで血管形成、血管拡張および血管透過性の増大を刺激する、自然に分泌されるタンパク質である血管内皮増殖因子(VEGF)である。
【0003】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管拡張、血管透過性の増大および内皮細胞有糸分裂を媒介する32〜42kDaの2量体糖タンパク質である。VEGF遺伝子の差次エキソンスプライシングにより、3種の分泌イソ型(添え字はアミノ酸の数を示す)、すなわちVEGF189、VEGF165およびVEGF121をコードする3種の主要なmRNA種が得られる。多数の副次的なスプライス変異型(VEGF206、VEGF183、VEGF145およびVEGF148)が記載されたが、それらの重要性は不明のままである(図1)。各イソ型は異なった特性および発現のパターンを有する(Ferrara et al(1997)Endocr.Rev.18、4〜25頁、Houck et al(1991)Mol.Endocrinol.5、1806〜1814頁、Poltorak et al(1997)J.Biol.Chem.272、7151〜7158頁、Simon et al(1995)Am.J.Physiol.268、240〜250頁、Brown et al(1992)Kidney Int.42、1457〜1461頁、Park et al(1993)Mol.Biol.Cell 4、1317〜1326頁、Kevt et al(1996)J.Biol.Chem.271、7788〜7795頁、Jingling et al(1999)Invest Opthalmol Vis Sci 40(3):752〜9頁、Plouet et al(1997)J.Biol.Chem 272、13390〜13396頁、およびWhittle C et al、Clin Sci(1999)97、303〜312頁)。様々な分子型のVEGFは、110アミノ酸からなる共通のアミノ末端を共有しているが、カルボキシル末端部分の長さが異なっており、最後の6アミノ酸残基(エキソン8によりコードされている)がVEGF148を除く前述のすべてのイソ型で同じである。
【0004】
VEGFは、腫瘍増殖および転移、慢性関節リウマチ、アテローム動脈硬化症および動脈硬化症(Celleti et al Nature 2001、7、425〜9頁、Lemstrom et al 2002、105、2524〜2530頁)、新内膜過形成、糖尿病性網膜症および糖尿病の他の合併症、トラコーマ、水晶体後線維増殖症、血管新生緑内障、加齢黄斑変性、トラコーマ血管腫、移植角膜組織の免疫拒絶、眼損傷または感染に伴う角膜血管形成、乾癬、歯肉過形成ならびに血管形成および/または慢性炎症に関連することが知られている他の状態を含む様々な病的状態の重要な構成要素である血管内皮細胞増殖および血管形成を促進することが知られている。眼損傷または感染に伴う角膜血管形成は、例えば、ヘルペスもしくは他のウイルスまたは細菌感染により引き起こされることがある。
【0005】
さらに、VEGF発現および血管形成は、動物モデルにおける脂肪沈着時に増加し(Fredriksson et al(2000)、J.Bio.Chem.275(18):13802〜11頁、Asano et al(1999)J.Vet.Med.Sci.61(4):403〜9、Tonello et al(1999)FEBS Lett 442(2-3):167〜72頁、Asano et al(1997)Biochem.J.328(Pt.1):179〜83)、したがって、抗血管形成薬は、脂肪沈着の低減および脂肪の減少のために用いることができる。
【0006】
VEGFは、子癇前症も媒介することがある(Brockelsby et al 1999、Lab Invest 79:1101〜11頁)。子癇前症は、高血圧、手、足、くるぶしおよび時として顔面の持続性の過度の腫脹ならびに尿蛋白を特徴とする妊娠の状態である。速やかに診断し、治療しなければ、血圧の急激な上昇および発作の重大なリスクならびに未出生児の極度の窮迫を伴う子癇につながり得る。血管収縮/血管拡張の調節不全は、子癇前症の重要な構成要素であることが知られている。VEGFは子癇前症に関連づけられているにもかかわらず、1つのパラドクスはまだ説明されていない。すなわち、子癇前症は高血圧および血管収縮を伴うが、VEGF165はよく知られている血管拡張因子である。
【0007】
VEGFはまた、血管形成関連浮腫(すなわち、腫瘍における)、敗血症性/内毒素血症性ショック、ネフローゼ症候群、リンパ浮腫、熱傷ならびに成人呼吸促迫症候群(ARDS)および上のような子癇前症を含む様々な状態の重要な構成要素である内皮の透過性を増大させる。
【0008】
VEGFの内皮増殖活性は、2種の高親和性膜結合チロシンキナーゼ受容体、すなわち、VEGF受容体1(VEGFR1、flt-1(fms様チロシンキナーゼ-1)およびVEGF受容体2(VEGFR2、flk(胎児肝キナーゼ)、KDR(キナーゼドメイン含有受容体))により媒介される。これらの受容体は、血管内皮細胞により発現される。通常VEGF受容体の両方が、受容体分子のホモ2量体と相互作用するVEGF単量体のホモ2量体により刺激されると考えられている。様々な疾患におけるVEGF媒介性受容体刺激の暗黙のうちに示された役割を考慮すると、VEGFとその受容体との相互作用を妨げる、または調節するような阻害薬の開発にかなりの関心が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4946778号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ferrara et al(1997)Endocr.Rev.18、4〜25頁
【非特許文献2】Houck et al(1991)Mol.Endocrinol.5、1806〜1814頁
【非特許文献3】Poltorak et al(1997)J.Biol.Chem.272、7151〜7158頁
【非特許文献4】Simon et al(1995)Am.J.Physiol.268、240〜250頁
【非特許文献5】Brown et al(1992)Kidney Int.42、1457〜1461頁
【非特許文献6】Park et al(1993)Mol.Biol.Cell 4、1317〜1326頁
【非特許文献7】Kevt et al(1996)J.Biol.Chem.271、7788〜7795頁
【非特許文献8】Jingling et al(1999)Invest Opthalmol Vis Sci 40(3):752〜9頁
【非特許文献9】Plouet et al(1997)J.Biol.Chem 272、13390〜13396頁
【非特許文献10】Whittle C et al、Clin Sci(1999)97、303〜312頁
【非特許文献11】Celleti et al Nature 2001、7、425〜9頁
【非特許文献12】Lemstrom et al 2002、105、2524〜2530頁
【非特許文献13】Fredriksson et al(2000)、J.Bio.Chem.275(18):13802〜11頁
【非特許文献14】Asano et al(1999)J.Vet.Med.Sci.61(4):403〜9頁
【非特許文献15】Tonello et al(1999)FEBS Lett 442(2-3):167〜72頁
【非特許文献16】Asano et al(1997)Biochem.J.328(Pt.1):179〜83頁
【非特許文献17】Brockelsby et al 1999、Lab Invest 79:1101〜11頁
【非特許文献18】M.L.IruelaArispe and H.F.Dvorak、(1997)Thrombosis and Haemostasis(78):672〜677頁
【非特許文献19】L.F.Brown,et al.、(1992)Kidney Int.(42):1457〜61頁
【非特許文献20】E.Bailey 1999 J Clin Pathol 52、735〜738頁
【非特許文献21】B.Klanke,et al.、(1998)Nephrol Dial Transplant、(13):875〜850頁
【非特許文献22】C.Whittle,et al.、(1999)Clin Sci(Colch).(97):303〜12頁
【非特許文献23】Schulz et al.(Principles of Protein Structure、Springer-Verlag、1978
【非特許文献24】Chou and Fasman、Biochemistry 13:211頁、1974
【非特許文献25】Chou and Fasman、Adv.Enzymol.、47:45〜149頁、1978
【非特許文献26】Eisenberg et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:140〜144頁、1984
【非特許文献27】Kyte & Doolittle(J.Molec.Biol.157:105〜132頁、1981
【非特許文献28】Goldman et al.(Ann.Rev.Biophys.Chem.15:321〜353頁、1986
【非特許文献29】PROTEINS-STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES、2nd Ed.、T.E.Creighton、W.H.Freema and Company、New York(1993)
【非特許文献30】Wold F.、Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects、pgs 1〜12 in POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS、B.C.Johnson Ed.、Academic Press、New York(1983)
【非特許文献31】Seifter et al.、Meth.Enzymol.182:626〜646頁(1990)
【非特許文献32】Rattan et al.、Protein Synthesis:posttranslational Modifications and Aging、Ann.N.Y.Acad.Sci.663:48〜62頁(1992)
【非特許文献33】Computational Molecular Biology、Lesk,A.M.、ed.、Oxford University Press、New York、1988
【非特許文献34】Biocomputing:Informatics and genome Projects、Smith,D.W.、ed.、Academic Press、New York、1993
【非特許文献35】Computer Analysis of sequence Data、Part I、Griffin,A.M.and Griffin,H.G.、eds.、Humana Press.New Jersey、1994
【非特許文献36】sequence Analysis in Molecular Biology、von Heinje,G.、Academic Press、1987
【非特許文献37】sequence Analysis Primer、Gribskov,M.and Devereux,J.、eds.、M Stockton Press、New York、1991
【非特許文献38】Carillo,H.,and Lipman,D.,SIAM J.Applied Math.、48:1073頁(1998)
【非特許文献39】Devereux,J.,et al.、Nucleic Acids Research 12(1):387頁(1984)
【非特許文献40】Altschul,S.F.et al.、J.Molec.Biol.215:403〜410頁(1990)
【非特許文献41】BLAST Manual、Altschul,S.,et al.、NCBI NLM NUH Bethesda、MD 20894
【非特許文献42】Altschul,S.,et al.、J.Mil Biol.215:403〜410頁(1990)
【非特許文献43】Needleman and Wunsch、J.Mol Biol.48:443〜453頁(1970)
【非特許文献44】Hentikoff & Hentikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:10915〜10919頁(1992)
【非特許文献45】Sambrook,et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Third Edition、Cold Spring Harbour、N.Y.、(1989)
【非特許文献46】Davis et al.、BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY、(1986)
【非特許文献47】Angiogenesis protcols-Ed.J.Clifford Murray;Humana Press、Totowa、New Jersey;ISBN 0-89603-698-7
【非特許文献48】Yano et al.、J Clin Invest(2001)、107:409〜17頁
【非特許文献49】Kohler,G.and Milstein,C.、Nature 256:495〜497頁(1975)
【非特許文献50】Kozbor et al.、Immunology Today 4:72頁(1983)、Cole et al.、77〜96頁
【非特許文献51】Cole et al.、77〜96頁、in MONOCOLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY、Alan R.Liss,Inc.(1985)
【非特許文献52】McCafferty,et al.、(1990)、Nature 348、552〜554頁
【非特許文献53】Marks,et al.、(1992)、Biotechnology 10、779〜783頁
【非特許文献54】Clackson et al.、(1991)、Nature 352:628頁
【非特許文献55】Brockelsby et al.、Lab Invest 1999;79:1101〜11頁
【非特許文献56】Doughty,J.M.et al.(1999)Am J Phusiol 276、1107〜12頁
【非特許文献57】Ferrara N et al.、Biophys.Res.Comm.1989;161:851〜8頁
【非特許文献58】Nagashima M et al.、1995;J Rheumatol 22:1624〜30頁
【非特許文献59】Oliver S et al.、Cell Immunol 1999、157:291〜9頁
【非特許文献60】Oliver S et al.、Cell Immunol 1995、166:196〜206頁
【非特許文献61】Miolta J et al、Lab Invest 2000;80:1195〜205頁
【非特許文献62】Sone H et al、Biochem Biophys Res Commun 2001;281:562〜8頁
【非特許文献63】Krafft A E I et al.(1997);2(3);217〜230頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、腫瘍学および他の専門分野における新規の抗血管形成薬の開発の主要な障害は、許容できる半減期、溶解性、特異性および免疫寛容を有する血管形成特異的阻害薬を得ることの困難さであった。
【0012】
組織は通常、血管形成平衡にある。すなわち、新たな血管の増殖を刺激する増殖因子が血管の増殖を抑制する他の因子と均衡している(M.L.IruelaArispe and H.F.Dvorak、(1997)Thrombosis and Haemostasis(78):672〜677頁)。VEGFが通常高度に発現する組織の1つは腎臓糸球体に存在する(L.F.Brown,et al.、(1992)Kidney Int.(42):1457〜61頁、E.Bailey 1999 J Clin Pathol 52、735〜738頁)。この組織は、高レベルのVEGFを発現し、非常に高い内皮透過性(VEGFの作用)を有するが、低レベルの血管形成を有する。腎臓におけるVEGFの発現レベルが高い理由は不明であるが、内皮の高い透過性と高い糸球体ろ過率は、VEGFに依存するように思われる(B.Klanke,et al.、(1998)Nephrol Dial Transplant、(13):875〜850頁)(C.Whittle,et al.、(1999)Clin Sci(Colch).(97):303〜12頁)。そのような高レベルのVEGFの発現が存在する腎臓に血管形成がない理由は理解されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、以前に記載されなかったエキソンであるエキソン9に差別的にスプライスされる腎臓細胞におけるVEGFの新規のイソ型を同定した。この新規のイソ型は、VEGF165bと称した。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、抗血管形成活性を有し、配列番号1のアミノ酸配列またはその変異型を含む分離VEGFポリペプチドを提供する。
【0015】
本発明の第1の態様のポリペプチドのこの予期しない抗血管形成特性は、催血管形成性であるすべての以前に記載されたVEGFイソ型の特性と完全に異なっている。
【0016】
本明細書で用いているように、「分離された」という用語は、その自然の状態から変化したこと、すなわち、それが自然に存在する場合、それが変化したか、またはその元の環境から除去されたか、もしくは両方であることを意味する。例えば、生存している生物に自然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「分離」されていないが、その自然の状態の共存する物質から分離されている同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、この用語が本明細書で用いられているように、「分離」されている。さらに、形質転換、遺伝子操作または他の組換え法により生物に導入されるポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、前記生物(生存または非生存であり得る)に依然として存在しているとしても「分離」されている。
【0017】
本明細書で用いているように、「変異型」という用語は、対照標準ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとそれぞれ異なっているが、本質的な特性を保持しているポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。ポリヌクレオチドの一般的な変異型は、他の対照標準ポリヌクレオチドとヌクレオチド配列が異なっている。変異型のヌクレオチド配列の変化は、対照標準ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変化させることがあれば、変化させないこともある。ヌクレオチドの変化は、下記のように、対照標準ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドにおけるアミノ酸置換、付加、欠失、融合および/または切断をもたらすことがある。ポリペプチドの一般的な変異型は、他の対照標準ポリペプチドとアミノ酸配列が異なっている。一般的に、差は、対照標準ポリペプチドと変異型の配列が全般的に極めて類似し、多くの領域において同一であるように、限定されている。変異型と対照標準ポリペプチドは、アミノ酸配列が、なんらかの組合せにおける1つまたは複数の置換、付加および/または欠失の点で異なっている。置換または挿入されたアミノ酸残基は、遺伝コードによりコードされるものもあれば、そうでないものもある。本発明はまた、本発明のポリペプチドのそれぞれの変異型、すなわち、残基が同様な特性を有する他の残基で置換されるアミノ酸同類置換により対照標準と異なっているポリペプチドを含む。一般的なアミノ酸同類置換は、Ala、ValおよびLeuの間、酸性残基AspおよびGluの間、AsnおよびGluの間、塩基性残基LysおよびArgの間または芳香族残基PheおよびTyrの間で起こる。そのような保守的突然変異には、以下の群のうちの1つの群内で1つのアミノ酸を他のものに転換する突然変異が含まれる。
1.小さい非極性またはわずかに極性のある脂肪族残基:Ala、Ser、Thr、ProおよびGly、
2.負に荷電した極性残基およびそれらのアミド:Asp、Asn、GluおよびGln、
3.正に荷電した極性残基:His、ArgおよびLys、
4.大きい非極性脂肪族残基:Met、Leu、Ile、ValおよびCys、
5.芳香族残基:Phe、TyrおよびTrp。
そのような保守的変異はさらに以下のものを含むことができる。
【0018】
【表1】

【0019】
選択される変異の種類は、Schulz et al.(Principles of Protein Structure、Springer-Verlag、1978)により開発された異なる種の相同タンパク質間のアミノ酸変異の頻度の解析、Chou and Fasman(Biochemistry 13:211頁、1974およびAdv.Enzymol.、47:45〜149頁、1978)により開発された構造形成潜在能力(structure-forming potentials)の解析、また、Eisenberg et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:140〜144頁、1984)、Kyte & Doolittle(J.Molec.Biol.157:105〜132頁、1981)およびGoldman et al.(Ann.Rev.Biophys.Chem.15:321〜353頁、1986)により開発されたタンパク質における疎水性パターンの解析を基礎とすることができる。いくつかの、例えば、5〜10、1〜5、1〜3、1〜2または1個のアミノ酸がある組合せで置換、欠失または付加されている変異型が特に好ましい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変異型は、対立遺伝子変異型のような天然に存在するものであってよく、あるいは、天然に存在することが知られていない変異型であってよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの天然に存在しない変異型は、突然変異誘発技術により、直接合成により、および当業者に知られている他の組換え法により造ることができる。
【0020】
本明細書で用いているように、「ヌクレオチド」という用語は、非修飾RNAまたはDNAもしくは修飾RNAまたはDNAであってよい、あらゆるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを一般的に指す。ポリヌクレオチドは、限定なしに、1本および2本鎖DNA、1本および2本鎖領域もしくは1本および3本鎖領域の混合物であるDNA、1本および2本鎖RNAならびに1本および2本鎖領域の混合物であるRNA、1本鎖、もしくはより一般的に2本鎖または3本鎖領域、もしくは1本および2本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を含む。本明細書で用いているように、「ポリヌクレオチド」という用語も、1つまたは複数の修飾塩基を含む上記のようなDNAsまたはRNAsを含む。したがって、安定性のため、もしくは他の理由のために修飾されている骨格を有するDNAsまたはRNAsは、この用語が本明細書で意図されているように、「ポリヌクレオチド」である。さらに、イノシンのような異常な塩基または2つの例を挙げるトロチル化塩基のような修飾塩基を含むDNAsまたはRNAsは、この用語を本明細書で用いるようにポリヌクレオチドである。当業者に知られている多くの有用な目的に役立つDNAおよびRNAに多様な修飾が行われていることは認識されるであろう。本明細書で用いているように「ポリヌクレオチド」という用語は、化学的、酵素的または代謝的に修飾された形態のポリヌクレオチド、ならびに例えば、単純および複雑な細胞を含むウイルスおよび細胞に特有な化学的形態のDNAおよびRNAを含む。「ポリヌクレオチド」は、しばしばオリゴヌクレオチドと称される短いポリヌクレオチドも含む。
【0021】
本明細書で用いているように「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合により互いに結合した2つまたは複数のアミノ酸を含むペプチドまたはタンパク質を指す。「ポリペプチド」は、一般的にペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーと称されている短い鎖と、一般的にタンパク質と称されているより長い鎖を指す。ポリペプチドは、遺伝子にコードされた20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含んでいてよい。「ポリペプチド」は、プロセシングおよび他の翻訳後修飾のような自然過程によるだけでなく、化学修飾法によっても修飾されたものを含む。そのような修飾は、研究文献に十分に記載されており、また、当業者によく知られている。同じ種類の修飾が所与のポリペプチドにおけるいくつかの部位において同じまたは異なる程度で存在し得ることは認識されるであろう。また、所与のポリペプチドは多くの種類の修飾を含み得る。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシル末端を含む、ポリペプチドのあらゆる場所で起こり得る。修飾としては、例えば、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合付着、ヘム部分の共有結合付着、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合付着、脂質または脂質誘導体の共有結合付着、ホスホチジルイノシトールの共有結合付着、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸塩の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、γ-カルボキシル化またはグルタミン酸残基、ヒドロキシル化およびADPリボシル化、セレノイル化、硫酸化、アルギニン化およびユビキチン化のようなタンパク質へのアミノ酸の転移RNA媒介付加などがある。例えば、PROTEINS-STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES、2nd Ed.、T.E.Creighton、W.H.Freema and Company、New York(1993)、Wold F.、Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects、pgs 1〜12 in POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS、B.C.Johnson Ed.、Academic Press、New York(1983)、Seifter et al.、Meth.Enzymol.182:626〜646頁(1990)、Rattan et al.、Protein Synthesis:posttranslational Modifications and Aging、Ann.N.Y.Acad.Sci.663:48〜62頁(1992)を参照のこと。ポリペプチドは、分枝状、もしくは分枝を有する、または有さない環状であってよい。環状、分枝状および非分枝状ポリペプチドは、翻訳後自然修飾によって発生することがあり、また、完全な合成法によっても調製することができる。
【0022】
ポリペプチドの少なくとも1部は配列番号1に示す配列と少なくとも66%の同一性を含むことが好ましい。ポリペプチドの少なくとも1部は配列番号1に示す配列と少なくとも83%の同一性を含むことがより好ましい。
【0023】
同一性は、本明細書で用いているように、配列を比較することにより決定される、2つまたは複数のポリペプチド配列もしくは2つまたは複数のポリヌクレオチド配列の間の関係である。当技術分野では、「同一性」は、場合により、そのような配列間の一致により決定される、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列間の配列相関性の程度も意味する。「同一性」および「類似性」は、(Computational Molecular Biology、Lesk,A.M.、ed.、Oxford University Press、New York、1988;Biocomputing:Informatics and genome Projects、Smith,D.W.、ed.、Academic Press、New York、1993;Computer Analysis of sequence Data、Part I、Griffin,A.M.and Griffin,H.G.、eds.、Humana Press.New Jersey、1994;sequence Analysis in Molecular Biology、von Heinje,G.、Academic Press、1987;およびsequence Analysis Primer、Gribskov,M.and Devereux,J.、eds.、M Stockton Press、New York、1991、およびCarillo,H.,and Lipman,D.,SIAM J.Applied Math.、48:1073頁(1998))に記載されているものを含むが、これらに限定されない既知の方法により容易に計算することができる。同一性を決定する方法は、試験する配列間の最大の一致が得られるように設計されている。さらに、同一性を決定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムにコーディングされている。2配列間の同一性を決定するコンピュータプログラムによる方法は、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.,et al.、Nucleic Acids Research 12(1):387頁(1984))、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschul,S.F.et al.、J.Molec.Biol.215:403〜410頁(1990))を含むが、これらに限定されない。BLAST Xプログラムは、NCBIおよび他の情報源(BLAST Manual、Altschul,S.,et al.、NCBI NLM NUH Bethesda、MD 20894;Altschul,S.,et al.、J.Mil Biol.215:403〜410頁(1990))から公的に入手可能である。
【0024】
ポリペプチド配列の比較におけるパラメーターとしては、以下のものがある。
アルゴリズム:Needleman and Wunsch、J.Mol Biol.48:443〜453頁(1970)
比較マトリックス:Hentikoff & Hentikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:10915〜10919頁(1992)からのBLOSSUM62
ギャップペナルティ:12
ギャップ長ペナルティ:4
【0025】
これらのパラメーターを含む有用なプログラムは、Genetics Computer Group、Madison WIから公的に入手可能である。前述のパラメーターは、ペプチドの比較のためのデフォルトパラメーター(末端ギャップに関するペナルティなしに加えて)である。必ずしも上記の最大化アライメントをもたらすとは限らないコンピュータプログラムを用いて同一性の尺度を決定するすべての場合に、デフォルトパラメーターが好ましい。ポリヌクレオチドの比較におけるパラメーターとしては、以下のものがある。アルゴリズム:Needleman and Wunsch、J.Mol Biol.48:443〜453頁(1970)
比較マトリックス:一致=+10、不一致=0
ギャップペナルティ:50
ギャップ長ペナルティ:3
配列番号1に示す配列またはその変異型がポリペプチドのC末端に発生することが好ましい。
【0026】
ポリペプチドがエキソン8を欠くことが好ましい。これにより、エキソン8を含むポリペプチドと比較して有糸分裂シグナル伝達を欠く、もしくはその変化を有するポリペプチドとなる。
【0027】
本発明のさらなる態様は、抗血管形成活性を有し、配列番号3に示す配列を含む分離ポリペプチドおよびその変異型を提供する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、本発明の第1または第2の態様によるポリペプチドをコードすることができるヌクレオチド配列を提供する。
【0029】
本発明のさらなる態様は、抗血管形成活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2に示すヌクレオチド配列またはその変異型を含む分離ヌクレオチド配列を提供する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、抗血管形成活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号4に示すヌクレオチド配列またはその変異型を含む分離ヌクレオチド配列を提供する。
【0031】
本発明のさらなる態様は、特に厳密条件下で配列番号2に示すヌクレオチド配列のようなVEGF165bとハイブリッド形成するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0032】
本明細書で用いているように「厳密条件」という用語は、配列間に少なくとも83%の同一性が存在する場合にのみ起こるハイブリッド形成を意味する。ハイブリッド形成の厳密条件の特定の例は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート溶液、10%硫酸デキストランおよび20μg/mlの変性し、せん断したサケ精子DNAを含む溶液中42℃での一夜インキュベーションの後、約65℃での0.1×SSCによるハイブリッド形成支持体の洗浄である。ハイブリッド形成および洗浄条件は、よく知られており、Sambrook,et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Third Edition、Cold Spring Harbour、N.Y.、(1989)、特に第II章に例示されている。本発明により提供されるポリヌクレオチドを含む溶液ハイブリッド形成も用いることができる。
【0033】
本発明によるヌクレオチド配列は、VEGF165bをコードする全長cDNAsおよびゲノムクローンを分離し、VEGF165b遺伝子と高い同一性、特に高い配列同一性を有する他の遺伝子のcDNAおよびゲノムクローンを分離するために、RNA、cDNAおよびゲノムDNAのハイブリッド形成プローブとして用いることができる。そのようなプローブは、一般的に少なくとも15ヌクレオチド残基または塩基対を含むものであり、少なくとも18ヌクレオチド残基または塩基対を有することができる。
【0034】
好ましくは、本発明のポリペプチドおよびヌクレオチド配列は、霊長類、げっ歯類、ウシまたはブタ配列のような哺乳動物配列である。より好ましくは、配列はヒト配列に由来するものである。ヌクレオチド配列としては、例えば、非プロセシングRNAs、リボザイムRNAs、干渉RNAsとして使用するためのヘアピンRNAs、短分子干渉RNAs(siRNAs)、mRNAs、cDNAs、ゲノムDNAs、B-DNAs、E-DNAsおよびZ-DNAsなどがある。
【0035】
本発明のポリペプチドの組換え生産のために、宿主細胞を遺伝子工学により処理して、本発明の発現システムまたはその一部またはポリヌクレオチドを組み込むことができる。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾道導入および感染のような、Davis et al.、BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY、(1986)およびSambrook,et al.、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、2nd Ed.、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、N.Y.(1989)のような多くの標準実験マニュアルに記載されている方法により行うことができる。
【0036】
適切な宿主の代表的な例としては、連鎖球菌、ブドウ球菌属、腸球菌大腸菌(E.coli)、ストレプトミセス属、藍細菌門、枯れ草(Bacillus subtilis)のような細菌細胞、酵母クルベロミセス(Kluveromyces)、サッカロミセス(Saccharomyces)、担子菌類、カンジダアルビカンス(Candida albicans)およびアスペルギルス属(Aspergillus)のような真菌細胞、キイロショウジョウバエS2およびハスモンヨトウSf9のような昆虫細胞、CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、293、CV-1およびBowes黒色腫のような動物細胞、ならびに植物細胞などがある。
【0037】
本発明のポリペプチドを生産するために多種の発現システムを用いることができる。そのようなベクターとしては、とりわけ、染色体、エピソームおよびウイルス由来のベクター、例えば、プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入要素由来、酵母染色体要素由来、バキュロウイルス、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ピコナウイルスおよびレトロウイルスのようなウイルス由来のベクター、ならびにコスミドおよびファゲミドのようなプラスミドおよびバクテリオファージ遺伝要素由来のベクターのようなそれらの組合せ由来のベクターなどがある。発現システム構成体は、発現を調節ならびにもたらす制御領域を含み得る。一般的に、宿主におけるポリヌクレオチドを維持、増殖、または発現、もしくはポリペプチドを発現させるのに適したあらゆるシステムまたはベクターは、この点に関して発現に用いることができる。適切なDNA配列を発現システムに、例えば、Sambrook,et al.、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(前出)に記載されているような様々なよく知られている常用の技術のいずれかにより挿入することができる。
【0038】
翻訳済みタンパク質の小胞体内腔、細胞周辺腔または細胞外環境への分泌のために、適切な分泌シグナルを発現ポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは、ポリペプチドにとって内因性であってよく、あるいは異種シグナルであってよい。
【0039】
本発明のポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿法、酸抽出のような抽出法、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、調製的電気泳動、FPLC(Pharmacia、Uppsala、Sweden)、HPLC(例えば、ゲルろ過、逆相または軽度疎水性カラムを用いる)などのよく知られている方法により、組換え細胞培養から回収および精製することができる。高性能液体クロマトグラフィーを精製に用いることが最も好ましい。タンパク質を再生するためのよく知られている技術は、分離および/または精製時にポリペプチドの変性後の活性コンフォーメーションを再生するのに用いることができる。本発明によるポリペプチドのin vitro活性アッセイとしては、チロシンキナーゼ受容体活性化アッセイ、内皮細胞増殖(例えば、チミジン取り込み、細胞数またはBrDU取り込み)、細胞移動アッセイ(スクラッチアッセイを含む)、チューブ形成、ゲル侵入アッセイまたは圧力またはワイヤーミオグラフアッセイなどがある。in vivoアッセイとしては、ウサギの眼の角膜ポケットを用いる血管形成アッセイ、ニワトリ漿膜アッセイ、背部皮下脂肪チャンバーアッセイ、機能血管密度、血流、血管数、腫瘍移植アッセイ(同系または異種)、腫瘍増殖または血管密度アッセイ、ハムスター頬袋、ラット、マウスまたはハムスター腸間膜における増殖因子誘導アッセイまたはスポンジインプラントアッセイなどがある(Angiogenesis protcols-Ed.J.Clifford Murray;Humana Press、Totowa、New Jersey;ISBN 0-89603-698-7(Methods in Molecular Medicine seriesの一部))。
【0040】
本発明によるポリペプチドまたはヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは同一物を発現する細胞は、それぞれそのようなポリペプチドまたはヌクレオチド配列に対する免疫特異的抗体を生産するための免疫原として用いることができる。
【0041】
本発明のさらなる態様は、活性薬剤物質として用いるための、本発明の前述の態様による分離VEGFポリペプチドまたは分離ポリヌクレオチド配列を提供する。
【0042】
活性薬剤物質は、上に詳述したような血管形成または透過性または血管拡張依存性疾患状態の治療に用いることが好ましい。好ましくは、血管形成依存性疾患状態は、腫瘍増殖および転移、慢性関節リウマチ、アテローム動脈硬化症、新内膜過形成、糖尿病性網膜症および糖尿病の他の合併症、トラコーマ、水晶体後線維増殖症、血管新生緑内障、加齢黄斑変性、トラコーマ、血管腫、移植角膜組織の免疫拒絶、眼損傷または感染に伴う角膜血管形成、血管疾患、肥満、乾癬、関節炎および歯肉炎および子癇前症などである。
【0043】
本発明のさらなる態様は、前述のような血管形成依存性疾患状態の治療用の薬剤組成物の調製のための、本発明の前述の態様による分離VEGFポリペプチドまたは分離ポリヌクレオチド配列の使用を提供する。
【0044】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの配列を含むポリペプチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者における血管形成を治療または予防する方法を提供する。
【0045】
好ましくは、本発明の前述の態様による分離VEGFポリペプチドは、内因性VEGFとヘテロ二量体を形成することができ、それにより、もしくは内因性VEGFに対するリガンドを通常受容体に直接結合させることにより、VEGF媒介性細胞増殖を予防または低減する。
【0046】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者における血管形成を治療または予防する方法を提供する。
【0047】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様による分離VEGFポリペプチドの配列を含むポリペプチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者におけるVEGF媒介性細胞増殖を予防または低減する方法を提供する。
【0048】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様による分離ヌクレオチド配列の配列を含むポリヌクレオチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者におけるVEGF媒介性細胞増殖を予防または低減する方法を提供する。
【0049】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの配列を含むポリペプチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者におけるVEGF165媒介性血管拡張を予防または低減する方法を提供する。
【0050】
本発明のさらなる態様は、VEGF165媒介性血管拡張の治療における使用のための本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの配列を含むポリペプチドを提供する。
【0051】
本発明のさらなる態様は、VEGF165媒介性血管拡張の治療用の薬剤組成物の調製のための、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの配列を含むポリペプチドの使用を提供する。
【0052】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様による分離ヌクレオチドの配列を含むポリヌクレオチドを患者に供給することを含む、哺乳動物患者におけるVEGF165媒介性血管拡張を予防または低減する方法を提供する。
【0053】
本発明のさらなる態様は、VEGF165媒介性血管拡張の治療における使用のための本発明の前述の態様によるヌクレオチドの配列を含むポリヌクレオチドを提供する。VEGF165媒介性血管拡張が観察される状態は、例えば、癌、乾癬、関節炎などである。
【0054】
本発明のさらなる態様は、本発明のさらなる態様は、VEGF165媒介性血管拡張の治療用の薬剤組成物の調製における、本発明の前述の態様によるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの使用を提供する。
【0055】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの配列および製薬上許容できる希釈剤を含む薬剤組成物を提供する。
【0056】
好ましくは、血管拡張および/または血管形成は、例えば、多毛症において認められるように、毛成長を伴う。血管拡張および/または血管形成の低減は、毛髪脱落をもたらすと思われる(Yano et al.、J Clin Invest(2001)、107:409〜17頁)。
【0057】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドおよび製薬上許容できる希釈剤を含む薬剤組成物を提供する。
【0058】
本発明のさらなる態様は、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドまたはヌクレオチド配列に対して産生させた抗体を提供する。
【0059】
本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して発生した抗体は、常用のプロトコールを用いて、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、いずれか、または両方のエピトープを有するフラグメント、いずれか、または両方の類似体、もしくは、いずれか、または両方を発現する細胞を動物、好ましくはヒト以外の動物に投与することによって得ることができる。モノクローナル抗体の調製のために、連続細胞系培養により生産される抗体が得られる、当技術分野で知られている技術を用いることができる。例としては、Kohler,G.and Milstein,C.、Nature 256:495〜497頁(1975);Kozbor et al.、Immunology Today 4:72頁(1983);Cole et al.、77〜96頁、in MONOCOLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY、Alan R.Liss,Inc.(1985)に記載のような様々な技術がある。
【0060】
単鎖抗体の生産の技術(米国特許第4946778号)を適応して、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対する抗体を生産することができる。また、トランスジェニックマウスまたは他の哺乳動物のような他の生物を用いて、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して免疫特異的なヒト化抗体を発現させることができる。
【0061】
あるいは、ファージ表示技術を用いて、本発明のポリペプチドに対する結合活性を有する抗体遺伝子を、抗VEGF165bの保有についてスクリーニングしたヒトのリンパ球のPCR増幅V遺伝子群のレパートリーから、またはライブラリーから選択することができる(McCafferty,et al.、(1990)、Nature 348、552〜554頁;Marks,et al.、(1992)、Biotechnology 10、779〜783頁)。これらの抗体の親和力も、例えば、チェインシャフリングにより改善することができる(Clackson et al.、(1991)、Nature 352:628頁)。
【0062】
上記の抗体は、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを発現するクローンを分離または同定して、例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを例えば、アフィニティークロマトグラフィーにより精製するために用いることができる。
【0063】
本発明のポリペプチドに結合または相互作用するポリヌクレオチド、ポリペプチドおよび抗体は、細胞におけるmRNAおよびポリペプチドの産生に対する添加化合物の影響を検出するスクリーニング方法を設計するのに用いることもできる。例えば、当技術分野で知られている標準的方法により、モノクローナルおよびポリクローナル抗体を用いて分泌または細胞結合レベルを測定するために、ELISAアッセイを構築することができる。これは、適切に操作された細胞または組織からのポリペプチドの産生を阻害または促進することができる薬剤(それぞれアンタゴニストまたはアゴニストとも呼ばれている)を発見するのに用いることができる。
【0064】
本発明はまた、VEGF165bポリペプチドまたはポリヌクレオチドの抗血管形成作用を促進(アゴニスト)または阻害(アンタゴニスト)する化合物をスクリーニングして、同定する方法を提供する。スクリーニング方法は、高処理能力の技術を含めることが可能である。例えば、アゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングするために、合成反応混合物、膜、細胞包膜または細胞壁のような細胞区画、もしくは、VEGF165bポリペプチドおよびそのようなポリペプチドの標識基質またはリガンドを含むその調製物をVEGF165bアゴニストまたはアンタゴニストであり得る候補分子の非存在下または存在下でインキュベートする。VEGF165bポリペプチドを作動または拮抗する候補分子の能力は、標識リガンドの結合の低下またはそのような基質からの生成物の生産の低下に反映されている。見返りなしに、すなわち、VEGF165bポリペプチドの抗血管形成作用を誘発させずに結合する分子は、良好なアンタゴニストである可能性が最も高い。よく結合し、VEGF165bの抗血管形成作用を増大させる分子は、アゴニストである。抗血管形成作用の増大の検出は、リポーター系を用いることにより向上させることができる。この点に関して有用であり得るリポーター系は、生成物に変換された比色標識基質、VEGF165bポリヌクレオチドまたはポリペプチド活性に応答するリポーター遺伝子および当技術分野で知られている結合アッセイを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本発明はさらに、血管収縮の治療における使用のための、本発明の前述の態様によるVEGFポリペプチドの阻害薬を提供する。
【0066】
子癇前症は胎盤侵入の不良、すなわち、血管形成の不全に起因しており、VEGF抗体は子癇前症における高血圧の原因を阻止することが示された(Brockelsby et al.、Lab Invest 1999;79:1101〜11頁)ことから、これは、本願発明者らにより、過剰の新規変異型VEGF165bにより引き起こされる可能性があるとみなされ、したがって、この新規変異型VEGF165bの阻害が子癇前症の治療の手段となると予想される。
【0067】
インヒビターは内因性VEGF165bに結合し、それにより、VEGF165b媒介性血管収縮を予防または低減することができると現在のところ考えられている。ここで、血管収縮は、子癇前症を伴い、したがって、過度のVEGF165b発現に起因すると思われる。
【0068】
インヒビターは、本発明の前述の態様による抗体を含んでいてよい。例えば、インヒビターはエキソン9特異中和抗体であってよい。
【0069】
あるいは、インヒビターは、本発明の前述の態様による分離ポリヌクレオチドの配列に対する相補的配列を有するポリヌクレオチドであってよい。
【0070】
インヒビターまたはVEGF165bは、候補化合物をVEGF165bを阻害するその能力についてスクリーニングする、適切なスクリーニングにおいて特定することができる。そのようなスクリーニングは、例えば、化合物ライブラリーからの複数の化合物について行うことができる。
【0071】
そのようなスクリーニングを用いて特定されたインヒビターは、合成し、使用のための薬剤組成物に製剤化することができる。
【0072】
本発明はまた、本発明の前述の態様によるインヒビターを患者に供給することを含む、哺乳動物患者における血管収縮を予防または低減する方法を提供する。
【0073】
本発明はまた、血管収縮の治療用の薬剤組成物を調製するための、本発明の前述の態様によるインヒビターの使用を提供する。
【0074】
本発明はまた、少なくとも59℃のアニーリング温度と次のプライマー配列、
エキソン4(順行プライマー):GAGATGAGCTTCCTACAGCAC
9H(逆行プライマー):TTAAGCTTTCAGTCTTTCCTGGTGAGAGATCTGCA
またはVEGF165bヌクレオチド配列に関して上のプライマーと同じアニーリング特性を保持しているその変異型を用いてサンプルの少なくとも一部についてポリメラーゼ連鎖反応を行うことを含む、サンプル中のVEGF165bの特異的検出のためのアッセイを提供する。
【0075】
この方法は、サンプルにVEGF165bとVEGF165が含まれている場合でさも、サンプル中のVEGF165bの特異的検出を可能にするものである。
【0076】
60℃のアニーリング温度を用いることが好ましい。
【0077】
この方法は、サンプル中のVEGF165bの濃度よりも最大100倍大きい、好ましくは、最大500倍大きい、より好ましくは、1000倍大きい濃度のVEGF165を含むサンプル中のVEGF165bを検出することができることが好ましい。
【0078】
本発明のさらなる態様は、定量的実時間PCRによるVEGFイソ型を含むエキソン9の検出用の本発明による分離VEGFヌクレオチド配列を提供する。多くの技術が利用可能であり、当業者に知られている。これらの技術は、Taqman、Scorpion、Molecular Beacon(FRET)を含むが、これらに限定されない。
【0079】
本発明の前述の態様において、VEGF165bまたはそのインヒビターを注射により患者に供給することが好ましい。VEGFを患者に動脈内、静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下注射により患者に供給することが好ましい。しかし、局所適用が必要な場合、局所注射が好ましく、これは疾患過程の部位から、例えば、関節内または眼窩内注射と推断することができる。あるいは、VEGF165bまたはそのインヒビターは、経口または局所適用することができる。例えば、歯肉炎の治療では、VEGF165bは、VEGF165bを含むねり歯磨きまたは洗口剤の形態で経口適用することができよう。乾癬の場合にはVEGF165bは皮膚軟化薬クリーム剤に含めることができ、ヘルペス眼感染では点眼剤またはクリーム剤の形態で、肺病変では噴霧化エアゾールの形態で適用できよう。
【0080】
VEGF165bと他の1つまたは複数の薬剤の特性に照らして同時投与が有用であると思われる臨床状況では、前述の経路のいずれかにより、哺乳動物患者に同時投与のためにVEGF165bと他の薬剤を組み合わせる。VEGF165bと他の1つまたは複数の薬剤の特定の組合せは、当業者には関係する特定の臨床状況から明らかであろう。例えば、そのような組合せは、眼ヘルペス感染およびそれに伴う角膜血管形成の同時治療のための、VEGF165bとアシクロビルまたはそのような類似薬剤のクリーム剤または点眼剤としての同時投与であろう。そのような他の例は、リウマチ様疾患における関節内注射によるVEGF165bと抗炎症薬との同時投与である。そのような他の例は、患者における腫瘍状態に対するVEGF165bと化学または免疫療法薬との同時投与である。本発明のさらなる態様は、前記発明において記載した配列から以前に記載された配列へのスプライシングの切り替えを阻害することができる分離された化学的または生物学的因子を提供する。例えば、そのような阻害因子は、エキソン9を除外する配列のスプライシングを妨げるのに用いることができよう。例えば、VEGF165b(エキソン8でなくて、エキソン9を含む)ではなく、VEGF165(エキソン9でなくて、エキソン8を含む)を生ずるmRNAのスプライシングが妨げられるであろう。これは、VEGF165bからVEGF165へのスプライシングの切り替えを阻害する薬剤を患者に供給することによるVEGF165媒介性状態の治療を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】mRNAスプライシングおよびVEGF前mRNAの構造ならびに関連するPCRプライマーEx7a、Ex7b、3'UTR、V165KおよびV165Xの位置を示す図である。
【図2】図2aはプライマーとして7bおよび3'UTRを用いたPCR産物に対応するバンドを含むアガロースゲルの写真である。図2bはプライマーとして7aおよび3'UTRを用いたPCR産物に対応するバンドを含むアガロースゲルの写真である。
【図3】図3aはエキソン7aプライマーおよび3'UTRプライマーを用いて得られたPCR産物ならびに4つのヒト腎摘出標本の対極から得られたmRNA鋳型を示すアガロースゲルの写真である。図3bは良性および悪性組織におけるVEGF165bに対応するバンドを有する(黒色)またはVEGF165bを含まない(点描)組織サンプルの数の棒グラフである。
【図4】図4aはVEGF165およびVEGF165b cDNAのヌクレオチド配列である。エキソン7の下流66bpがVEGF165bから欠落している。図4bはVEGF165およびVEGF165bのC末端のエキソン構造である。エキソン8の3'UTR配列は、エキソン9の共通イントロン配列、CTに富む領域およびスプライス部位の直前のCAGを含む。ヌクレオチド配列は、別個の6アミノ酸C末端をもたらす。大文字は読み取り枠であり、小文字はイントロンまたは3'UTR(イタリックVEGF165、肉太VEGF165b)である。図4cはVEGF165bと比較して示したVEGF165の予測アミノ酸配列である。6つの別個のアミノ酸が、受容体活性化に影響を及ぼすが、受容体結合および二量体化に影響を及ぼさない可能性があるVEGFのC末端構造の差異をもたらす。CysがSerにより置換され、C末端アミノ酸は、2つの酸性部分の代わりに塩基性(下線)および酸性(イタリック)部分となっている。したがって、分子のこの末端における正味の電荷は変化する。
【図5】図5aはV165KおよびV165Xの約700bpのPCR産物を示すアガロースゲルを示す写真である。図5bは切除バンドを鋳型とし、エキソン7および3'UTRをプライマー対として用いたネストPCRの産物を示すSDSゲルを示す写真である。
【図6a】VEGF165刺激HUVEC増殖に対するVEGF165bの影響を示すグラフである。
【図6b】上記の影響の用量反応試験を示すグラフである。
【図6c】VEGF165およびFGF刺激HUVECにおける3H-チミジン取り込みに対するVEGF165bの影響を示すグラフである。
【図6d】VEGF165bとVEGF165とのモル比の対数に対して比較した細胞増殖の抑制の用量反応曲線である。
【図7】図7aはフェニレフリンで前収縮させたラット腸間膜動脈の直径に対するVEGF165およびVEGF165bの影響を示す図である。図7bはフェニレフリンで前収縮させたラット腸間膜動脈の直径に対するVEGF165およびVEGF165bの影響を示すグラフである。
【図8】エキソン9特異プライマー、VEGF165およびVEGF165b鋳型、58℃および60℃のアニーリング温度ならびに一連のMgCl2濃度を用いて得られたPCR産物を示すアガロースゲルの写真である。
【図9】図9aはPCR競合アッセイにおけるVEGF165およびVEGF165b鋳型ならびに60℃のアニーリング温度を用いて得られたPCR産物を示すアガロースゲルの写真である。レーン2および6は、VEGF165がVEGF165bの1000倍の濃度で存在したときに、プライマーがVEGF165よりもVEGF165bを検出反応を示している。図9bはトランスフェクトしたHEK293細胞により産生されたVEGF165b、VEGF165の発現および市販のVEGF(Peprotech、NJ、USA)を示すウエスタンブロットの写真である。
【図10】図10aはエキソン8およびエキソン9を含むイソ型を検出するプライマーを用いた組織スクリーニングのPCR産物を含むアガロースゲルの写真である。図10bはエキソン9特異的イソ型を検出するプライマーを用いた組織スクリーニングのPCR産物を含むアガロースゲルの写真である。
【図11】VEGF165媒介HUVEC移動に対するVEGF165bの影響を示すグラフである。
【図12】図12aは種々の種におけるエキソン9の配列同一性およびエキソン9の下流の配列を示す図である。図12bは種々の種におけるエキソン9の配列同一性を示すグラフである。
【図13】図13aは正常、骨関節症およびリウマチ滑膜におけるVEGF165b mRNA発現を示すエキソン9プライマーを用いたPCR産物を示す写真である。図13bは正常、骨関節症およびリウマチ滑膜におけるVEGF165b mRNA発現を示すエキソン8特異プライマーを用いたPCR産物を示す写真である。図13cは正常、骨関節症およびリウマチ滑膜におけるVEGF165b mRNAの相対的発現を示すグラフである。
【図14】図14aは個々のヒト膵島におけるVEGFイソ型を含むエキソン8の発現を示す写真である。図14bは個々のヒト膵島におけるVEGFイソ型を含むエキソン9の発現を示す写真である。
【図15】図15aは良性前立腺掻爬の経尿道切除物におけるVEGF165b発現を示す写真である。図15bは悪性前立腺掻爬の経尿道切除物におけるVEGF165b発現を示す写真である。図15cは悪性組織におけるβ-ミクログロブリン発現を示す写真である。図15dはVEGF165b発現を示すグラフである。
【図16】図16aは保存記録用根治的前立腺切除サンプルのPCR産物を示すゲルの写真である。図16bは保存記録用根治的前立腺切除サンプルのPCR産物を示すグラフである。
【図17】2μgのVEGF165b cDNA(発現ベクターpcDNA3中)単独またはエキソン7〜エキソン9にわたって誘導した漸増量の2本鎖siRNAとをトランスフェクトしたヒト胚腎臓細胞(HEK293)から採取した培地中のVEGF濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0082】
ここで、本発明の実施形態を実施例のみにより、また、以下の図を参照して記述することとする。
【実施例1】
【0083】
腎切除術の直後に、肉眼的ヒト腎腫瘍の末梢および腎の対側の極の良性皮質組織から立方体の組織を収集した。100〜200mgの組織をトリゾール試薬中でホモジナイズし、クロロホルムを加えて、mRNAを分離した。組織を遠心分離し、水層をイソプロパノールに除去した。mRNAをペレットとし、20μlのDEPC処理水に再懸濁した。4μlのRNAをMMLV RTおよびpolydTをプライマーとして逆転写した。次いで、cDNAを1μMの3'UTRプライマー(ATGGATCCGTATCAGTCTTTCCT)およびエキソン7a(GTAAGCTTGTACAAGATCCGCAGACG)またはエキソン7b(GGCAGCTTGAGTTAAACGAACG)用のプライマー、その緩衝液中1.2mM MgCl2、2mM dNTPsおよび1単位のTaqポリメラーゼ(Abgene)を用いて増幅した。反応を35回サイクル繰り返し、96℃で30秒間変性し、55℃で30秒間アニールし、72℃で60秒間伸長した。VEGFイソ型に対して用いたプライマーのアニーリングの位置を図1に示す。
【0084】
PCR産物を0.5μg/mlの臭化エチジウムを含む3%アガロースゲル上にのせ、UVライトボックス下で可視化した。エキソン7aおよび3'UTRプライマーは、164bpのVEGF148と一致した産物ならびに199bpのVEGF165183189および206と一致した産物をもたらす(図2A)。エキソン7bおよび3'UTRプライマーは、130bpのVEGF165183189および206と一致した産物をもたらすが、VEGF148に対応する産物はもたらさない(図2B)。UVライトボックス下で164bpにおけるバンドをゲルから切除し、Qiaex(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。次いで、DNAをBamH1およびHinDIIIで消化し、pBluescriptKSII(Stratagene)に連結した。連結反応物をsupercompetent XL-1 Blue大腸菌(Stratagene)に移入して形質転換させ、アンピシリン耐性LB寒天プレート上で増殖させた。コロニーを増幅し、Qiagenカラムを用いてプラスミドDNAを精製した。次いで、蛍光ジデオキシ終末配列決定(ABI370)により、T7およびT3配列決定用プライマーを用いてDNAの配列を決定した。配列を自動蛍光クロマトグラフィーにより分析し、配列を目視によりクロマトグラフに対してチェックした。
【0085】
得られた配列は、配列番号4に示す。4つのサンプルにおいて、正常組織は約200bpの産物よりも有意に多い約150bpの産物を有していた。これらのサンプルの1つを用いて、新規のイソ型の全長を確認した。Xba1部位について工学的に処理した最初の3'UTRプライマー(V165X、AAT CTA GAC CTC TTC CTT CAT TTC AGG)およびKpn1部位について工学的に処理したVEGFの他のイソ型の翻訳開始部位に対して相補的なプライマー(V165K、CCG GTA CCC CAT GAA CTT TCT GC)ならびに前述したPCR条件を用いて、RT-PCRにより産物の全長を増幅した。
【0086】
PCRは、エキソン7bおよび3'UTRプライマーまたはエキソン7aおよび3'UTRプライマーを用い、4つのヒト腎臓の対側の極から精製したmRNAを鋳型RNAとして選択して、行った。腎臓の対側の極を用いることにより、悪性組織(1側の極)および良性組織(多側の極)サンプルが試験した4つのヒト腎臓のそれぞれから得られた。PCRでは先に記載したのと同じ反応条件を用いた。
【0087】
結果の見本を図3に示す。18腎臓のうち、17は良性組織におけるVEGF148と一致したVEGFイソ型の検出可能なレベルの発現を有していたのに対して、18腎臓サンプルのうちの4サンプルのみ(p<0.001、Fisherの直接確率法)が悪性組織における検出可能なレベルの発現を有していた。このVEGFイソ型のその後の配列決定により、予期しない3&apos;配列が明らかになった(図4)。この配列は、mRNAがエキソン7の3&apos;末端から、エキソン8の末端から+44bpのVEGF165 mRNAの3&apos;非翻訳領域にスプライスされたことを示していた。このスプライス部位は、エキソン8と同じ最初の2つのヌクレオチドを有するが、エキソン9と称した3&apos;配列が異なっている(図4Aを参照)。エキソン7とエキソン9の間のイントロン領域は、5&apos;GT...CAG3&apos;のイントロン共通配列と、エキソン9の5&apos;末端の前の6〜24bpの高CTに富む領域とを有する。V165KおよびV165Xプライマーを用いた全長産物のPCRにより、約670bpにおける1つの強いバンドが得られた。さらに、上記の3&apos;UTRおよび7aプライマーを用いたネストPCRにより、133bpにおける強いバンドが得られ、全長がVEGF165bであったことが確認された。この配列の全長のクローニングとクローンの1つ(クローン1)を用いた後続の配列分析により、191アミノ酸長のペプチドをコードする単一読み取り枠を含む663ヌクレオチド配列が明らかになった。このペプチドは、VEGF165と同じN末端185アミノ酸(すなわち、26アミノ酸シグナル配列に続く、エキソン1、2、3、4、5および7に対応する159アミノ酸)からなっていた。しかし、C末端の6アミノ酸はエキソン8と同じではなかった(図4Bを参照)。この新規のエキソンがコードする6アミノ酸はSer-Leu-Thr-Arg-Lys-Aspであり、これに終止コドンTGAが後続する。このスプライス変異型は、VEGF165と96.4%の同一性を有する成熟165アミノ酸ポリペプチド(シグナル配列の切断後)をコードすると思われたので、このイソ型はVEGF165bと称した。
【0088】
VEGF165bにおけるスプライスにより除去されたエキソン7とエキソン9の間の領域は、VEGF165のエキソン8および3&apos;UTRの最初の44bpを構成する66bpを含む。したがって、VEGF165bおよびエキソン7+3&apos;UTRプライマーから得られたPCR産物は、VEGF165よりも66bp短く、したがって、新規のイソ型に対応するより低いバンドが図3aにおけるゲルに認められる。
【0089】
VEGF148は、エキソン7の35ヌクレオチドを欠いているが、エキソン8ヌクレオチド配列(フレームシフトに起因した終止コドンの導入のため非翻訳のままである)ならびにエキソン8と9の間の非翻訳領域およびUTR 3&apos;からエキソン9までは保持している。したがって、VEGF148およびエキソン7+3&apos;UTRプライマーのPCR産物は、同じプライマーを用いたVEGF165bのPCR産物よりも31bp短いにすぎないので、最初の所見は、ゲル上のより低いバンドはVEGF148と一致しているというものである。しかし、より低いバンドは、実際には、新規のイソ型VEGF165bに対応している。
【0090】
エキソン8および9は、6アミノ酸および終止コドンをコードする。これらのアミノ酸配列は、完全に異なっている。エキソン8はCDKPRRをコードする。システインは、エキソン7におけるCys146とジスルヒド結合を形成する。これにより、VEGF165のカルボキシ末端がVEGFの3次元構造におけるエキソン3における受容体結合ドメインの近くに保持される。さらに、プロリンは分子のアミノ酸骨格にキンク(kink)を挿入して、受容体結合ドメインにおける最後の3アミノ酸をさらに並置する。最後に、2つの末端アミノ酸は高度に正に荷電したアルギニン残基である。これらの荷電した残基は、受容体結合の非常に近くに保持され、受容体リガンド複合体の結晶構造中で受容体と相互作用する位置にあると思われる。これは、これらのアミノ酸が受容体刺激に必要であることを示している。他方でエキソン9は、SLTRKDをコードし、システイン残基を失っており、したがって、カルボキシ末端は受容体結合部位に保持されていない可能性がある。さらに、プロリンキンクは存在せず、したがって、末端の2つのアミノ酸は受容体と相互作用することができないと思われる。したがって、VEGF165bはVEGF受容体に結合するが、それを活性化しない可能性があると思われる。この理論は、VEGF165bがi)エキソン3(21)における効率的な二量体化B Cys2およびCys4、ii)エキソン3におけるVEGFR1 Asp63、Glu64、Glu67、エキソン4におけるVEGFR2 Arg82、Lys84、His86、およびエキソン7におけるニューロフィリン-1 Cys136〜Cys158に対する受容体結合Bに必要なすべての要素を含んでいることから、立てられる。このイソ型は、エキソン8をエキソン9に置換し、したがって、通常エキソン7におけるCys146に結合し、したがって、VEGF分子の折りたたみおよび3次構造に影響を及ぼす可能性のあるCys159を有さない。
【0091】
このイソ型が腎臓に特異的に認められるという事実は、腎臓、特に糸球体は高レベルのVEGFを産生することが示されたことから、特に興味深い。これは、常にVEGF165であると推定された。その理由は、これがVEGF165に対する抗体、VEGF165に対するプローブを用いたin situハイブリッド形成、VEGF165に特異的なプライマーを用いたPCR等により検出されるためである。しかし、これらのほぼすべての場合に、用いた検出技術はVEGF165とVEGF165bとを区別することができないと思われる。今回VEGF165bが検出された唯一の理由は、この組織におけるVEGF148の発現を検討する試みがなされたことである。高レベルのVEGFが糸球体の有足突起により産生されるにもかかわらず、VEGF受容体を発現する糸球体内皮細胞が血管形成表現型でないということは興味深い。糸球体における内皮細胞の代謝回転は体内の他の部位と同様に低く、明らかな血管形成は起こらない。この明らかなパラドックス(高VEGF発現、低血管形成)は、VEGF165bにより説明できる。腎腫瘍はVEGFが正常な条件下で高度に発現する環境では増殖するはずであるが、血管形成は妨げられる。したがって、腫瘍は、増殖するためには、内因性抗血管過程を克服する必要がある。VEGF165bが抑制性であるならば、腫瘍がこの組織における血管形成のスイッチを入れるためには、ここで示すように、腫瘍によるVEGF165bのダウンレギュレーションが必要である。さらに、糸球体による高産生のVEGFは実際にVEGF165ではなく、VEGF165bであり、したがって、このことが、血管形成が認められない理由の説明となるものと思われる。
【0092】
全長PCR産物(プライマーV165KおよびV165Xを用いて得られた)を含む別のクローン(クローン2)を選択し、配列決定を行った。驚くべきことに、この配列はクローン1と同じのC末端6アミノ酸を含んでいた(エキソン9の存在を示す)が、クローン配列の全長はクローン1の配列の全長より長い、すなわち、670bpよりも長く、したがって、VEGF165bと一致していなかった。実際、配列の長さは700bpよりわずかに長いことが認められ、これはVEGF183bと一致の度合いが高い(図5参照)。図5に、切除した約700bpのバンドを鋳型とし、エキソン7および3&apos;UTRをプライマー対として用いたネストPCRの産物を示す。
【0093】
したがって、エキソン8の代わりにエキソン9を有するVEGFイソ型のファミリーが存在すると思われる。VEGF165bの存在は本明細書に示した実施例で実証され、VEGF183bの証拠は示されている。しかし、VEGF121b、VEGF145 b、VEGF189bおよびVEGF206bと称されるVEGF121、VEGF145 、VEGF189およびVEGF206に対応する同様なイソ型が存在する可能性がある。エキソン8を欠くこれらのイソ型はすべて、抗血管形成活性を示すと予想される。
【0094】
表1.VEGFの種々のスプライス変異型のV165KおよびV165Xプライマーに対する予想されるPCR産物のサイズ
アミノ酸の数 121 145 148 165 183 189 206
VEGFxxxの数 597 669 694 729 783 801 852
ヌクレオチドVEGFxxxb 531 603 628 663 717 735 786
S3&apos;
【実施例2】
【0095】
別のトランスフェクションにおいて、全長VEGF165b cDNAおよび全長VEGF165 cDNAを標準的方法によりpcDNA3にクローンし、次いで、HEK293細胞にトランスフェクトし、Geneticin選択を用いて安定細胞系を発生させた。集密的細胞を血清およびGeneticinを含まない基礎M200内皮細胞培地中で48時間インキュベートし、ならし培地をpan VEGF ELISA(R & D System)を用いてVEGF濃度について分析した。対照(偽の)ならし培地(pcDNA3-CM)を、pcDNA3のみをトランスフェクトしたHEK293細胞から同じ方法で収集した。
【0096】
0.1%血清M200中で一夜インキュベートした新たに分離したHUVECsをpcDNA3-CM、VEGF165-CM(pcDNA3-CMで100ng/ml VEGF165に調整)、VEGF165b-CM(pcDNA3-CMで100ng/ml VEGF165bに調整)またはVEGF165b-CMとVEGF165-CMの混合物(pcDNA3-CMで100ng/ml VEGF165bおよび100ng/ml VEGF165に調整)とともにインキュベートし、次いで、37kBqの3H-チミジン(Amersham Pharmacia)を加えた。4時間後に、細胞を洗浄し、トリプシン処理し、細胞数を血球計で計数し、放射能をベータカウンター(LKB-1217)で測定した。導入量を細胞1個当たりのカウント数で計算した。VEGF165bをpcDNA3-CMで希釈し、50ng/ml VEGF165(Peprotech、NJ)を希釈したことを除いて、同様な方法で用量反応曲線を実施した。増殖指数は、VEGF165で処理しなかった細胞への平均取り込みと比較した、VEGF165で処理した細胞の3H-チミジン取り込みとして計算した。
【0097】
VEGF165bの機能的効果を測定するために、我々は、トランスフェクトした細胞のならし培地とともにインキュベートしたときの細胞当たりの3H-チミジンの取り込み量を測定して、内皮細胞増殖を測定した(図6)。PCRにより得られた全長cDNAを、全長VEGF165の場合(pcDNA3-VEGF165)と同様に、発現ベクターにクローンし(pcDNA3-VEGF165b)、それぞれをHEK292細胞にトランスフェクトした。pan VEGF抗体を用いたELISAにより測定した細胞ならし培地(VEGF165b-CM)のVEGF濃度は、80〜400ng/ml VEGFであった。VEGF165をトランスフェクトした細胞のならし培地(VEGF165-CM)は、100〜260ng/mlであった。pcDNA3のみをトランスフェクトした細胞のならし培地(pcDNA3-CM)は、<62.5pg/ml VEGF(ELISAの最小検出限界)を含んでいた。HUVECsを100ng/mlに調整した(pcDNA3-CMで)VEGF165-CM中でインキュベートしたところ、pcDNA3のみと比べて内皮細胞当たりのチミジンの取り込み量の有意な283±43%の増加がもたらされた(P<0.01、ANOVA、図6a)。100ng/mlのVEGF165bを含むVEGF165b-CMは、HUVECの増殖を刺激しなかった(pcDNA3-CMの165±27%、有意な増加はなかったが、VEGF165-CMよりも有意に少なかった、p<0.05)。さらに、細胞を各VEGFイソ型を100ng/ml含むVEGF165b-CMとVEGF165-CMの混合物中でインキュベートしたとき、内皮細胞増殖の増加はなかった(pcDNA3-CMの150±18%、pcDNA3-CMとの有意な差はなかったが、VEGF165-CMよりも有意に低かった、p<0.05)。したがって、VEGF165bはHUVECの増殖を刺激せず、さらに、、VEGF165により刺激された増殖を有意に抑制した。さらに、内皮細胞を漸増濃度のVEGF165bを含むCM中でインキュベートしたとき、市販のVEGF165により刺激された3H-チミジンの取り込みの用量依存的阻害が認められ(図6b)、モル比IC50は0.94であった(図6d)(すなわち、当モル阻害)。さらに、VEGF165b-CMはFGF媒介増殖に影響を及ぼさなかった(図6c)。
【実施例3】
【0098】
VEGF165媒介性血管拡張に対するVEGF165bの影響を以下に詳述するように検討した。
【0099】
第3次上腸間膜動脈を200〜300gの雄Wistarラット(気絶および頚椎脱臼により屠殺した)から切り離し、漏れのない部分を動脈造影装置に80mmHgで装着し、M200培地中で10mmのアセチルコリン(Ach)で最大限に拡張したすべての動脈をこのサンプルに用いたところ、完全な内皮の存在が示された。
【0100】
ラット腸間膜動脈を、注ぎかけ液中に加えた0.6〜1μmフェニルエフリン(PE)で前収縮させた(図7A参照)。次いで、Ach、CMおよびVEGFイソ型(すべてを、3500MW透析チューブを用いてラット用リンガー液に対して透析した)を、Doughty,J.M.et al.(1999)Am J Phusiol 276、1107〜12頁に記載されているHalpern加圧筋運動記録法を適応させた変法を用いて動脈の内腔に加えた。透析後のCM中のVEGFの濃度は、ELISAにより測定した。すべてのデータを4回の実験の平均値±s.e.平均として表した。統計的有意性は、ANOVAおよびStudent Newmann Keuls事後検定を用いて検定した。
【0101】
我々は、VEGF165bが完全な血管に対するVEGF165の作用を阻害するかどうかを検討するために、血管拡張に対するVEGF165bの影響を測定した。pc-DNA3-CMによるin vitroでの単離加圧ラット腸間膜動脈の内腔灌流は、血管径の変化をもたらさなかった(図7)。透析済みVEGF165b-CM(40ng/ml)による同じ動脈の灌流は、動脈の直径に影響を及ぼさなかった。20ng/mlのVEGF165を含む透析済みCMによる灌流により、有意な血管拡張がもたらされたが、VEGF165b-CMおよびVEGF165(40ng/ml VEGF165b、20ng/ml VEGF165)で灌流した場合には、この血管拡張は完全に消失した。したがって、VEGF165bは血管拡張を刺激せず、また、VEGF165媒介性血管拡張を抑制することもできる。
【実施例4】
【0102】
前記のように、腎臓、特に糸球体は、高レベルのVEGFを産生することが示された。これがVEGF165に対する抗体、VEGF165に対するプローブを用いたin situハイブリッド形成、あるいはVEGF165に特異的なプライマーを用いたPCRにより検出されるため、これは常にVEGF165であると推定された。
【0103】
しかし、これらのほぼすべての場合に、用いた検出技術はVEGF165とVEGF165bとを区別することができないと思われる。
【0104】
VEGF165 mRNAと別個にVEGF165b mRNAを検出する方法を開発したので、以下に詳述する(図8および9A)。
【0105】
それぞれVEGF165とVEGF165bを含むベクターと次のプライマーを用いてPCRを行った。
順行(forward)プライマー
エキソン4 GAGATGAGCTTCCTACAGCAC
逆行(reverse)プライマー
9H TTAAGCTTTCAGTCTTTCCTGGTGAGAGATCTGCA
【0106】
アニーリングおよび変性ステップを30秒間行い、変性を94℃で行った。1分間の伸長を72℃で行った。
【0107】
図8からわかるように、アニーリング温度として58℃を用いる場合、VEGF165とVEGF165bの両方に対応するPCR産物が得られる。しかし、アニーリング温度として60℃を用いる場合、交差反応性は存在せず、VEGF165に対応するPCR産物は得られない。
【0108】
上記のPCRプライマーおよび条件を用いて競合的PCR試験を行い、アニーリングステップは60℃で行った。用いたサンプルは、図9aに示すように、様々な相対濃度のVEGF165とVEGF165bを含んでいた。図9aは、VEGF165がVEGF165bが存在する濃度の1000倍の濃度でサンプル中に存在するときでさえも、得られる唯一のPCR産物はVEGF165bの増幅に対応しており、VEGF165に対応するものではないことを示している。
【0109】
したがって、上のプライマーを用いてサンプル中のVEGF165とVEGF165bを検出することができる。さらに、PCRアニーリングステップを行う温度を変化させることにより、同じプライマーを用いて、VEGF165とVEGF165bの両方を含むサンプル中のVEGF165bの存在を特異的に検出することができる。
【実施例5】
【0110】
全長VEGF165またはVEGF165b(組織からPCRにより得られた)を標準的方法を用いて発現ベクターpcDNA3にクローンし、次いで、HEK293細胞にトランスフェクトし、Geneticin選択を用いて安定な細胞を得た。集密的細胞を血清もGeneticinも含まない基礎M200内皮細胞培地中で48時間インキュベートし、ならし培地をpan VEGF ELISA(R & D)を用いてVEGF濃度について分析した。対照ならし培地(pcDNA3-CM)を、pcDNA3を安定にトランスフェクトしたHEK293細胞から同じ方法で収集した。図9bにVEGF165bトランスフェクト細胞(VEGF165b-CM)およびVEGF165トランスフェクト細胞(VEGF165-CM)のならし培地のウエスタンブロットを示す。VEGF165bはVEGF165と同じ分子量であり、両イソ型は以前に公表されたVEGF165の分子量(Ferrara N et al.、Biophys.Res.Comm.1989;161:851〜8頁)と一致している。ブロットから、HEK細胞中で産生されたVEGF165およびVEGF165bのほとんどは、市販のVEGF165よりもわずかに大きい分子量を有していた(23kDa対18kDa)ことも確認された。これは、おそらく市販のVEGF165はグリコシル化されていないことに起因していると思われる。ならし培地中に脱グリコシル化されていると思われるVEGF165およびVEGF165bが一部存在していたが、これは全VEGFのうちのわずかな割合を占めるものであった。
【実施例6】
【0111】
16種の組織からのmRNAをエキソン7および3&apos;UTRプライマーを用いて逆転写した。エキソン9を含むイソ型の発現と一致した長さのPCR産物が臍帯、大脳、大動脈、前立腺、下垂体、肺、骨格筋および胎盤組織ならびに腎臓に明らかに検出された(図10A)。より弱いバンドも結腸、皮膚、膀胱および脊髄に認められた。視床下部、下大静脈(IVC)または肝臓には有意なエキソン9含有イソ型は検出されなかった。エキソン9特異的プライマーを用いたその後のPCRで、種々の組織中の発現の分布が確認された(図10B)が、この場合、発現が肝臓に検出され、下垂体における発現はわずかであった。興味深いことに、大動脈、前立腺および臍帯においてはわずかに長いバンドが認められた。これらがVEGF183bおよび/またはVEGF189bのような別のエキソン9含有イソ型であるかどうかは明らかではない。
【実施例7】
【0112】
内皮細胞移動に対するVEGF165bの機能特性を評価するために、移動アッセイをコラーゲン被覆ポリカーボネートフィルターインサート(孔径8μm、Millipore)を含む修正24ウエルボイデンチャンバー中で実施した。フィルターを、ウエル当たり0.5mlの1)33ng/ml VEGF165を含むVEGF165-CM、2)33ng/ml VEGF165bを含むVEGF165b-CM、3)VEGF165-CMおよびVEGF165b-CM(33ng/mlの各イソ型を含む)または4)pcDNA3-CMを含む24ウエルプレートに入れた。HUVECsを血清不含有培地に懸濁し、25000個の細胞を各ウエルの上側チャンバーに加えた。移動させるためにプレートを6時間インキュベートし、培地を除去し、両チャンバーをPBS(×2)で洗浄した。次いで、培地中0.2mg/mlチアゾリルブルー(MTT)を両チャンバーに加え、37℃で3時間インキュベートした。培地を除去し、両チャンバーをPBS(×2)で洗浄した。上側のチャンバー中の非移動細胞結晶(青色に染色)を綿棒で除去し、これを1mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に入れて、MTT産物を溶解した。移動性細胞結晶(インサートの下側における)もMTTに溶解した。サンプルを一夜放置して、産物の完全な溶液とした。可溶性MTTの吸光度を分光光度計を用いて570nmの波長で測定した。移動率を下側のウエルの強度から両ウエルの総強度のパーセントとして計算した。アッセイは6回行った。
【0113】
HUVECsをVEGF165-CM(33ng/ml VEGF165)中でインキュベートしたところ、これによりpcDNA3-CM単独と比較して内皮細胞の移動の有意な24±3%の増加がもたらされた(P<0.01、ANOVA)(図11)。33ng/mlのVEGF165bを含むVEGF165b-CMは移動を刺激しなかった(pcDNA3-CMと比較して-3±2.6%であったが、有意でなかった)。さらに、細胞を33ng/mlの各イソ型を含むVEGF165-CMとVEGF165b-CMの両方の混合物中でインキュベートしたとき、移動の増加はなかった(pcDNA3-CMと比較して9.9±5.8%)。したがって、VEGF165bは移動を刺激せず、再びVEGF165刺激性移動を有意に阻害した(P<0.001、ANOVA)。
【実施例8】
【0114】
ヌクレオチドデータベースの検索により、3&apos;非翻訳領域(3&apos;UTR)の保存に関する興味深い情報が得られる。エキソン8の末端の全3&apos;UTRは、ヒトとマカークザルとの間で100%保存されている。他の哺乳動物種では、エキソン8に対する推定される3&apos;UTRの比較的に良好な保存が存在する(図12)。実際、ウシではmRNAがエキソン8の終止コドンに対する66塩基3&apos;の95%以上の同一性を有し、エキソン9は90%以上同一である。しかし、この同一性はエキソン9の終止コドンの直後にくずれている(図12参照)。この終止コドンの後の22塩基における同一性(53%)はエキソン9(91%)よりも有意に小さい。このパターンはマウスにおいても認められ、エキソン9を含む配列はヒトと86%同じであるが、エキソン9の終止コドンの直後の22塩基対は23%同一であるにすぎない(図12参照)。興味深いことに、マウス配列は配列PLTGKTDの7アミノ酸のエキソン9を予測するのに対して、ヒトおよびマカークザルではSLTRKD、ウシではRLTRKDである。したがって、6アミノ酸のうちの4アミノ酸が保存されている[XLTXK(X)D]が、これは、2重突然変異、すなわち、ヒトにおけるヌクレオチド10(マウス)におけるアデノシンの挿入と終止コドンを救うヌクレオチド19(マウス)におけるシトシンのチミジンへの突然変異によりもたらされたと思われる(図12参照)。これは、スプライス部位の機能的関連性の間接的な証拠である。興味深いことに、それは哺乳動物においてのみ保存されており、トリや魚ではそうではない。
【実施例9】
【0115】
VEGFは、関節炎において、特に、滑膜線維芽細胞、マクロファージおよび滑膜裏層細胞において著しくアップレギュレートされていることが示された(Nagashima M et al.、1995;J Rheumatol 22:1624〜30頁)。さらに、薬理学的抗血管形成薬による非特異的(Oliver S et al.、Cell Immunol 1994、157:291〜9頁、Oliver S et al.、Cell Immunol 1995、166:196〜206頁)および抗VEGF薬による特異的な血管形成の阻害が関節炎の十分に特徴づけられている動物モデルにおける関節病変を改善する(Miolta J et al、Lab Invest 2000;80:1195〜205頁、Sone H et al、Biochem Biophys Res Commun 2001;281:562〜8頁)という顕著な機能的証拠が現在存在する。実施例6に記載したRT-PCRプロトコールを用いて、ヒト滑膜(骨粗鬆症に二次的の大腿骨頚部骨折に罹患した患者から手術時に採取した)におけるVEGF165bの発現を確認した。VEGF165bの発現は、ブリストル大学解剖学科(Bristol University Anatomy Department)から収集した正常ヒト滑膜に存在することが示された。正常および関節炎組織におけるVEGF165b mRNAの発現に関する予備的データを得るために、以前に得られた骨関節症組織の2つのサンプルと2つのリューマチ組織のサンプルについてRT-PCRを行った(図13参照)。興味深いことに、VEGF165bがこれらの4つのサンプルのうちの3つで認められたが、VEGF165よりも低いレベルであった。これは、VEGF165と少なくとも同様な量のVEGF165bを有していた正常組織と明確に異なっていた。したがって、滑膜におけるVEGF165bとVEGF165とのmRNAの比は、慢性関節リウマチ組織のほうが骨関節症組織よりも低く、骨関節症のほうが正常組織よりも低かった。このことから、関節炎においてはVEGF165bの抗血管形成特性も低下していることが示唆される。
【実施例10】
【0116】
ヒト膵島(islet)移植は、糖尿病の代謝および血管続発症の管理における特有の治療選択肢を提供する。しかし、動物モデルおよび臨床経験から、移植した膵島の機能は個々の被移植者において予測可能でないことが示唆されている。移植した膵島の初期の機能は、それらが微小血管形成の刺激により被移植者の血管系に入る能力に依存することが示唆された。
【0117】
ヒト膵島をコラゲナーゼ消化(Liberase HI、Roche Diagnostics)およびCobe 2991細胞分離器を用いた連続密度勾配遠心分離により精製した。次いで、個々の膵島を分離管に入れた20μlのジエチルピロカーボネート(depc)H2O中に収集した。各サンプルをトリアゾール試薬中でホモジナイズし、mRNAを製造業者の指示に従って抽出した。プライマーとしてのポリd(T)およびExpandRT(Roche)を用いてmRNAを逆転写した。11の膵島におけるエキソン8およびエキソン9を含むVEGFイソ型を試験した。両VEGFファミリーの発現の異質性が確認された(図14)。移植した膵島による催および抗血管形成性VEGFイソ型の発現のバランスが個々の膵島の生存とひいては移植片の全般的効率を決定すると考えられる。したがって、抗血管形成性VEGF165bの活性の阻害が移植片の生存と機能を向上させると思われる。
【実施例11】
【0118】
VEGF165b発現が腎臓癌以外の癌において変化しているかどうかを評価するために、前立腺におけるVEGF165b発現を試験した。
【0119】
経尿道前立腺切除術掻爬物におけるVEGF165b発現を実施例6で記載したPCRプトコール(エキソン特異的プライマー)を用いて試験した。VEGF165bは、良性サンプルと比べて悪性サンプル中に有意に有意に少ない量で存在していた(図15)。
【0120】
さらに、我々は、前立腺癌の初期、すなわち前立腺上皮内腫瘍形成(PIN)におけるVEGF165bの発現を検討するためにアーカイバル根治的前立腺切除サンプルにおけるVEGF165bの発現を試験した(図16参照)。VEGF165b mRNAの有意なダウンレギュレーションがPINに認められ、前立腺癌における血管形成スイッチが催VEGFイソ型と抗VEGFイソ型との不均衡に起因するという仮説に信頼性を加えるものである。鋳型mRNAは、標準的プロトコール(Krafft A E I et al.(1997);2(3);217〜230頁)を用いてアーカイバル組織から得た。
【実施例12】
【0121】
VEGF165bイソ型を特異的に阻害する可能性を評価するために、エキソン7-エキソン9境界に対する短分子干渉RNAsを開発した。
【0122】
siRNAプローブは、例えば、以下の配列のプライマーから当該技術により調製することができる。
T7siRNA165bsR
5&apos; AGAGATCTGCAAGTACGTTCTATAGTGAGTCGTATTA 3&apos;
T7siRNA165basR
5&apos; ACGAACGTACTTGCAGATCTCTATAGTGAGTCGTATTA 3&apos;
siRNA165bF
5&apos; TAATACGACTCACTATAG 3&apos;
【0123】
これらは、それぞれVEGF165bセンス逆行プライマーのT7短分子干渉RNA、VEGF165bアンチセンス逆行プライマーのT7短分子干渉RNAおよびVEGF165b順行プライマーの短分子干渉RNAである。
【0124】
T7siRNA165bsRとT7siRNA165bFとからの2本鎖DNA二重らせんの生産によりセンスRNAの鋳型が得られ、T7siRNA165basRとsiRNA165bFとからの2本鎖DNA二重らせんの生産によりアンチセンスRNAの鋳型が得られる。
【0125】
これらの2つのRNAsのアニーリングにより以下の配列が突出部を有する2本鎖siRNA二重らせんが得られる。
【0126】
【化1】

【0127】
この2本鎖siRNA二重らせんは、細胞にトランスフェクトしたとき、図17に示すように、VEGF165bの産生を減少させる。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗血管形成活性を有し、配列番号15のアミノ酸配列を含む分離VEGFポリペプチド。

【図4】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−100626(P2010−100626A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264253(P2009−264253)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【分割の表示】特願2003−517279(P2003−517279)の分割
【原出願日】平成14年7月12日(2002.7.12)
【出願人】(503021135)ユニバーシティ オブ ブリストル (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF BRISTOL
【Fターム(参考)】