説明

壁パネルの取付構造およびファスナー

【課題】 PC板等の壁パネルを躯体に対してロッキング可能に取り付ける。
【解決手段】 壁パネル(PC板1)の上部内面側に荷重支持片4と連結片5を有するファスナー3を設け、躯体(ブラケット23)に設けたダボピン24に荷重支持片を係合させることにより、壁パネルの荷重を支持しつつ上方への変位を許容し面外方向の変位は拘束する。壁パネルの下部内面に突出せしめたアンカーボルト30を連結片に対して締結して上下の壁パネルどうしを連結し、下段側の壁パネルに対する上段側の壁パネルの上下方向の変位と相対回転を許容しつつ面外方向の変位を拘束する。荷重支持片はダボピンを挿入するダボ穴9を有し、連結片はアンカーボルトの先端部を締結する締結部(締結プレート32)や、上段側の壁パネルを面外方向に押し出して位置決めを行うための押しボルト11を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC板(プレキャストコンクリート板)等の各種の壁パネルを建物の外壁等として躯体に取り付けるための構造、およびそれに用いる壁パネル取付用のファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、建物の外壁としてPC板等の壁パネルを採用する場合には、たとえば特許文献1に示されるようなファスナーを用いて躯体に対して取り付けることが一般的である。
【特許文献1】特開2000−352137号公報
【0003】
この種の壁パネルは万が一にも脱落することのないように躯体に対して確実に取り付ける必要があることは言うまでもないが、それのみならず地震時における建物の層間変形を吸収し得る状態で躯体に取り付ける必要がある。そのための取付構造としては、躯体に対する壁パネルの面内水平変位を許容するスウェー方式や、壁パネルを躯体に対して面内相対回転を許容する状態で取り付けるロッキング方式が従来一般に採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、この種の壁パネルは躯体に対してスウェー可能あるいはロッキング可能に取り付ける必要があることから、そのための取付構造やファスナーも複雑なものとならざるを得ず、従来一般には壁パネルの荷重を支持するためのファスナーと、壁パネルの面内水平変位あるいは面内相対回転を許容しつつ面外変位を拘束するためのファスナーとを併用することが主流となっている。したがって、従来一般のファスナーは多数の部品を組み合わせた複雑な形態のものが多く、必然的に製作コストが嵩んで高価にならざるを得ない。特に、従来においては建物外周部の躯体としての鉄骨梁の上下にそれぞれファスナーを取り付ける形式のものも多く、その場合には室内側から梁下部に対する溶接作業が必要であるので、そのために作業足場を必要とするし、上向き溶接となるので作業効率も良くないものであり、その点での有効な改善策が望まれているのが実情である。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明はPC板等の壁パネルをロッキング方式により躯体に取り付ける場合に適用する有効な取付構造と、そのためのファスナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、壁パネルを躯体に対してロッキング可能に取り付けるための構造であって、壁パネルの上部内面側に荷重支持片と連結片を有するファスナーを設け、躯体に設けたダボピンに前記荷重支持片に設けたダボ穴を係合させることによって、壁パネルの荷重を支持するとともに躯体に対する壁パネルの上方への変位を許容しつつ面外方向の変位を拘束し、その壁パネルの上段側に連続して取り付けられる他の壁パネルの下部内面にはアンカーボルトを突出せしめておいて、該アンカーボルトを前記ファスナーの連結片に対して上下方向の変位と面内相対回転を許容しつつ面外方向の変位を拘束する状態で締結することによって上下の壁パネルどうしを連結することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、壁パネルを躯体に対してロッキング可能に取り付けるためのファスナーであって、壁パネルの上部内面側に突出して設けられて躯体に対して係止されることで壁パネルの荷重を支持可能な荷重支持片と、該荷重支持片の基部より上方に立ち上げられて設けられて上段側に連続して取り付けられる他の壁パネルを連結することで上下の壁パネルどうしを連結可能な連結片とを有してなり、前記荷重支持片は躯体に設けられたダボピンを挿入するダボ穴を有して、それらダボピンとダボ穴との係合により躯体に対する壁パネルの上方への変位が許容されつつ面外方向の変位が拘束可能とされ、前記連結片は上段側の他の壁パネルの下端部内面側に突出しているアンカーボルトの先端部を締結可能な締結部を有して、それらの締結により連結片に対するアンカーボルトの上下方向の変位と面内相対回転を許容しつつ面外方向の変位が拘束可能とされていることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2の発明のファスナーであって、連結片は上段側の壁パネルを面外方向に押し出してその位置決めを行うための押しボルトを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の取付構造によれば、荷重支持片と連結片とが一体化されていてそれ自体で荷重支持機能と面外変位拘束機能を有するファスナーを用いることにより、壁パネルを躯体に対してロッキング可能な状態で確実強固に取り付けることができることはもとより、躯体に対する取り付け作業を極めて容易にかつ安全に行うことができ、施工性を大きく改善することができる。
【0010】
本発明のファスナーは、荷重支持片と連結片とが一体化されていてそれ自体で荷重支持機能と面外変位拘束機能を有するものであるので、施工性を改善できるばかりでなく、従来の各種のファスナーに比較して単純な形態のものであって部品点数も少なく、簡単かつ安価に製作することができ、充分なコストダウンを図ることができる。また、連結片に押しボルトを設けておくことにより、上段側の壁パネルの位置決めを容易に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態を図1〜図3に示す。本実施形態は外壁用の壁パネルとしてのPC板1を建物の外周部の躯体である鉄骨梁2に取り付ける場合の適用例であって、各PC板1を製作する際にその上部に予めファスナー3を設けておき、そのファスナー3によってこれらのPC板1を鉄骨梁2に対してロッキング可能に取り付けるとともに、上下に連続して取り付けられるPC板1どうしをファスナー3によって相互に連結するようにしたものである。
【0012】
図3に示すように、ファスナー3は荷重支持片4と連結片5とを主体とするL状の金具であって、連結片5の背面側に当板6を介して溶接されたアンカープレート7およびアンカー筋8(図2(a)参照)がPC板1に埋設されることで、荷重支持片4がPC板1の内面側(鉄骨梁側)に突出し、かつ連結片5がこのPC板1の上端よりさらに上方に突出する状態でPC板1の上端部に強固に取り付けられているものである。
【0013】
このファスナー3の荷重支持片4は矩形の鋼板からなり、その中心部には後述するダボピン24が挿入可能なダボ穴9が形成されている。また、連結片5はその下端が荷重支持片4の基端部に溶接されてそこから立ち上げられた縦長矩形の鋼板であって、その上端部には後述するアンカーボルト30を挿入するための縦長の連結溝10が切り欠かれて形成され、その直下には上段側のPC板1を位置決めするための押しボルト11がナット12に螺着されて取り付けられている。なお、荷重支持片4と連結片5との連結部には2枚の補強リブ13が溶接されていて、このファスナー3はPC板1を支持するに充分な強度と剛性を有するものとなっている。
【0014】
一方、PC板1を取り付けるべき鉄骨梁2にはファスナー3に対応する位置に取付台20および主補強リブ21、補助補強リブ22からなる鉄骨造のブラケット23が設けられ、取付台20の上面には上方に突出するダボピン24が設けられている。ダボピン24の基端部周囲には補強板25が設けられ、その補強板25上にはPC板1のレベル調整のためのライナープレート26が積層され、その上にファスナー3の荷重支持片4を溶接して固定するための固定プレート27が装着されるようになっている。
【0015】
ライナープレート26は所望厚さのものが所望枚数積層されることで上段側のPC板1のレベルを適正に設定するものであり、それらライナープレート26は取付台20に溶接されたストッパー28によってその位置ずれが防止されるようになっている。
【0016】
固定プレート27にはダボピン24がほぼきっちりと挿通する中心孔が形成されていて、その中心孔にダボピン24を通すことでダボピン24に対する固定プレート27の水平各方向への変位は拘束されるが、固定プレート27の上方へ変位(浮き上がり)は許容されるようになっている。そして、その固定プレート27に対してPC板1に取り付けられているファスナー3の荷重支持片4が溶接されることにより、PC板1はダボピン24によって面外方向への変位が拘束されつつ上方への若干の変位は許容されるようになっており、これによりPC板1はファスナー3およびブラケット23を介して鉄骨梁2から安定に支持されつつ、地震時にはロッキング可能となっていて建物に生じる層間変形を吸収できるものとなっている。なお、ダボピン24からファスナー3が脱落してしまうことのないようにダボピン24の長さを想定される変位量に対して充分に余裕をもって設定すれば良いが、必要であれば脱落防止用の適宜のストッパーを設けるようにしても良い。
【0017】
また、PC板1の下部にはアンカーボルト30が埋設されていてその先端部はPC板1の下端部から内側に突出し、その基部には上記の押しボルト11の先端が当接する位置決めプレート31が取り付けられている。アンカーボルト30の先端部は下段側のPC板1のファスナー3における連結片5の連結溝10内に挿入され、そのアンカーボルト30の先端部には、縦長穴32aを有する締結プレート32、滑り材33、ワッシャー34を介してナット35が螺着されるとともに、上記の締結プレート32が連結片5の上端部に溶接され、その締結プレート32を締結部としてそこにアンカーボルト30が締結されるようになっている。これにより、上下のPC板1どうしが連結片5およびアンカーボルト30を介して連結されてそれらの面外方向の相対変位は拘束されるが、上記のようなPC板1のロッキングが生じた際には連結片5に対する上段側のPC板1の上下方向の相対変位および面内相対回転が締結プレート32の縦長穴32aの範囲内で支障なく許容されるようになっている。
【0018】
上記構造でPC板1を取り付けるには、PC板1の製作時にその上部にファスナー3を取り付けておくとともに、PC板1の下部にはアンカーボルト30を取り付けておく(図示例では各PC板1にファスナー3およびアンカーボルト30を2つずつ取り付けている)。また鉄骨梁2にはファスナー3に対応する位置にブラケット23を取り付けるとともに、ブラケット23の上面にはダボピン24と補強板25とを予め溶接しておく。そして、ブラケット23の周囲のみを残してスラブ40を施工した後、そのスラブ40上からの作業によりPC板1のレベル調整のために所望厚さのライナープレート26を補強板25上に所望枚数積層するとともに、ダボピン24に固定プレート27を装着しておく。
【0019】
しかる後に、クレーン等によりPC板1を吊り上げ、ブラケット23の直上位置からファスナー3を徐々に吊り下ろしていき、ファスナー3の荷重支持片4のダボ穴9にダボピン24を挿入すると同時に、後述するようにこのPC板1の下端部に設けられているアンカーボルト30を下段側に既に取り付けられているPC板1のファスナー3の連結片5における連結溝10に挿入する。そして、荷重支持片4を固定プレート27に溶接して固定するとともに、アンカーボルト30を下段のファスナー3の連結片5に対して締結する。これにより、PC板1はファスナー3およびブラケット23を介して鉄骨梁2から支持された状態でロッキング可能に取り付けられ、かつ下段のPC板1に対してロッキングが許容される状態で連結される。
【0020】
次に、このPC板1の上段側に他のPC板1を取り付ける際には、その上段側のPC板1の下部に設けておいたアンカーボルト30をファスナー3の連結片5の連結溝10に挿入し、その先端部に締結プレート32を装着して連結片5に溶接し、さらに滑り材33、ワッシャー34、ナット35を装着する。そして、PC板1の面外方向の位置決めを押しボルト11により行い、アンカーボルト30を引きボルトとしてナット35により締結プレート32を介して連結片5に対して締結する。これにより、上述のように上下のPC板1どうしが連結片5を介してロッキングが許容される状態で連結される。
【0021】
以上のようにしてPC板1を取り付けた後は、ファスナー3の周囲にロックウールを吹き付けてからコンクリートを充填することにより、鉄骨梁2とPC板1との隙間を塞ぐようにスラブ40の仕上げを行い、必要に応じて鉄骨梁2やブラケット23に耐火被覆41(図2(a)参照)を施す。
【0022】
上記のファスナー3により上記の構造でPC板1を鉄骨梁2に取り付けることにより、PC板1を鉄骨梁2に対してロッキング可能な状態で確実強固に取り付けることができることはもとより、鉄骨梁2に対する取り付け作業はスラブ40上からの作業のみで行うことができるし、従来のように上向き溶接も不要であるから、その作業は足場を必要とすることなく極めて容易にかつ安全に行うことができる。
【0023】
また、上記のファスナー3は荷重支持片4と連結片5とを一体化してそれ自体で荷重支持機能と面外変位拘束機能を有するものであるので、従来の各種のファスナーに比較して単純な形態のものであって部品点数も少なく、したがって簡単かつ安価に製作することができるものであり、上記のように施工性を改善できることと相まって充分なコストダウンを図ることができる。
【0024】
なお、上記実施形態ではPC板1を鉄骨梁2に設けたブラケット23により支持するようにしたが、ブラケット23を省略してPC板1を鉄骨梁2で直接支持することも可能であるし、鉄骨梁2のみならずスラブその他の躯体から支持することも可能であり、たとえばダボピン24をスラブ40上に突出させて設けておくことも考えられる。
【0025】
また、上記実施形態はPC板1を外壁として建物に取り付ける場合の適用例であるが、本発明はPC板1に限らず各種の壁パネルをロッキング方式で建物に取り付ける場合、つまり壁パネルをカーテンウォールとして取り付ける場合に広く適用可能であり、その壁パネルの素材や寸法、重量、それを取り付けるべき躯体の構造や形態に応じて、壁パネルの1枚当たりのファスナー数を増減することをはじめとして、ファスナーの具体的な構成やそれによる取付部の細部構造等は、本発明の主旨を逸脱しない範囲での様々な変更が可能であることは言うまでもない。
【0026】
一例をあげれば、上記実施形態では連結片5の上端部に縦長穴32aを有する締結プレート32を溶接し、その締結プレート32を締結部としてアンカーボルト30を締結して縦長穴32aの範囲内で上下方向の変位と面内相対回転を許容するようにしたが、締結プレート32を省略して、連結溝10に挿入したアンカーボルト30をそのまま連結片5に対して直接締結し、その連結溝10内において上下方向に変位させかつ面内相対回転させるように構成することも可能であり、その場合には連結溝10を形成した連結片5の上端部がそのまま締結部となるのでより簡略な構成となる。なお、連結片5に形成する連結溝10を縦長の長穴に変更することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態である取付構造によりPC板を取り付けた状態を示す図である。
【図2】同、ファスナーおよびそれによる取付構造の詳細を示す図である。
【図3】同、躯体に対するPC板の取付状態を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1 PC板(壁パネル)
2 鉄骨梁(躯体)
3 ファスナー
4 荷重支持片
5 連結片
6 当板
7 アンカープレート
8 アンカー筋
9 ダボ穴
10 連結溝
11 押しボルト
12 ナット
13 補強リブ
20 取付台
21 主補強リブ
22 補助補強リブ
23 ブラケット(躯体)
24 ダボピン
25 補強板
26 ライナープレート
27 固定プレート
28 ストッパー
30 アンカーボルト
31 位置決めプレート
32 締結プレート(締結部)
32a 縦長穴
33 滑り材
34 ワッシャー
35 ナット
40 スラブ
41 耐火被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁パネルを躯体に対してロッキング可能に取り付けるための構造であって、
壁パネルの上部内面側に荷重支持片と連結片を有するファスナーを設け、
躯体に設けたダボピンに前記荷重支持片に設けたダボ穴を係合させることによって、壁パネルの荷重を支持するとともに躯体に対する壁パネルの上方への変位を許容しつつ面外方向の変位を拘束し、
その壁パネルの上段側に連続して取り付けられる他の壁パネルの下部内面にはアンカーボルトを突出せしめておいて、該アンカーボルトを前記ファスナーの連結片に対して上下方向の変位と面内相対回転を許容しつつ面外方向の変位を拘束する状態で締結することによって上下の壁パネルどうしを連結することを特徴とする壁パネルの取付構造。
【請求項2】
壁パネルを躯体に対してロッキング可能に取り付けるためのファスナーであって、
壁パネルの上部内面側に突出して設けられて躯体に対して係止されることで壁パネルの荷重を支持可能な荷重支持片と、該荷重支持片の基部より上方に立ち上げられて設けられて上段側に連続して取り付けられる他の壁パネルを連結することで上下の壁パネルどうしを連結可能な連結片とを有してなり、
前記荷重支持片は躯体に設けられたダボピンを挿入するダボ穴を有して、それらダボピンとダボ穴との係合により躯体に対する壁パネルの上方への変位が許容されつつ面外方向の変位が拘束可能とされ、
前記連結片は上段側の他の壁パネルの下端部内面側に突出しているアンカーボルトの先端部を締結可能な締結部を有して、それらの締結により連結片に対するアンカーボルトの上下方向の変位と面内相対回転を許容しつつ面外方向の変位が拘束可能とされていることを特徴とするファスナー。
【請求項3】
請求項2記載のファスナーであって、
連結片は上段側の壁パネルを面外方向に押し出してその位置決めを行うための押しボルトを有することを特徴とするファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−104735(P2006−104735A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291550(P2004−291550)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(500227978)株式会社エスシー・プレコン (4)
【Fターム(参考)】