説明

壁付のシングルレバー混合水栓

【課題】使用者による無意識のレバーハンドルの開操作によって湯が無駄に消費されてしまう問題を解決することのできる壁付のシングルレバー混合水栓を提供する。
【解決手段】固定弁体78と、固定弁体78上を摺動する可動弁体とを内蔵した水栓本体が垂直な取付面に対して固定弁体78の摺動面79が略平行をなす状態に取り付けられる壁付のシングルレバー混合水栓10において、固定弁体78の水流入孔94と湯流入孔96との上下の位置を異ならせることで、レバーハンドルが真下向きとなる位置でこれを開操作したときに水が吐水されるようになしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定弁体及び固定弁体上を摺動する可動弁体を備えたシングルレバー混合水栓、特に壁付のシングルレバー混合水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、混合水栓として、水流入孔及び湯流入孔を有する固定弁体と、固定弁体上を摺動する可動弁体とを水栓本体に内蔵し、レバーハンドルの起伏方向の操作により弁開閉を行って吐止水と吐水の流量調節とを行い、起伏方向と直角方向の回動操作により水流入孔と湯流入孔との開度を互いに大小逆の関係で変化させて吐水の温度調節を行うようになしたシングルレバー混合水栓が広く用いられている。
このシングルレバー混合水栓として、水栓本体を縦の取付壁に対して横向きをなす状態に取り付けて成る壁付のシングルレバー混合水栓が公知である。
例えば下記特許文献1にこの種の壁付のシングルレバー混合水栓の一例が開示されている。
【0003】
図11はその具体例を示している。
同図において200は水栓本体で、固定弁体202と可動弁体204とがそこに内蔵されている。
206は縦の取付壁で、水栓本体200はこの縦の取付壁206に対し横向きをなす状態に取り付けられている。
208は、水栓本体200の前部に設けられたレバーハンドルで、上記の可動弁体204はこのレバーハンドル208に対しレバー軸210を介して作動的に連結されている。
【0004】
この種壁付のシングルレバー混合水栓では、レバーハンドル208を前後方向に操作すると、吐止水及び吐水の流量調節が行われ、またこれを紙面と直角方向に回動操作すると吐水の温度調節が行われる。
【0005】
詳しくは、固定弁体202には水流入孔と湯流入孔とが設けられており、レバーハンドル208を前後に操作すると、可動弁体204が図中上下方向に直線上に摺動運動(スライド移動)して、水流入孔及び又は/湯流入孔の開度が増減変化せしめられて吐止水又は吐水の流量調節が行われ、またレバーハンドル208を紙面と直角方向に回動操作すると、可動弁体204が固定弁体202に対し紙面と直角方向に回転摺動して水流入孔,湯流入孔の開度が互いに大小逆の関係で変化せしめられて吐水の温度調節が行われる。
【0006】
壁付の混合水栓では、従来、固定弁体の水流入孔と湯流入孔とが同じ高さ位置で使用者から見て左右に離隔して設けられており、従ってレバーハンドル208が使用者から見て真下向きの状態でこれを開操作すると、湯と水とが等量で混合された混合水が吐水される。
そしてこの状態からレバーハンドル208を右方向に一杯まで一定角度回動操作するとそこで水が吐水され、またレバーハンドル208を真下向きの位置から左方向に上記と同じ角度だけ一杯まで回動操作するとそこで湯が吐水される。
即ちレバーハンドル208における水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置とは、レバーハンドル208の真下向きを基準位置としたとき、その基準位置に対して左右対称の位置となっている。
ここで水吐水領域及び湯吐水領域(レバーハンドル208の操作領域)はそれぞれ左右方向の微小領域に亘っており、そしてそれら水吐水領域,湯吐水領域の間の中間領域が混合水の吐水領域となる。
レバーハンドル208が真下向きとなる位置が丁度その混合水吐水領域の中立位置となる。
【0007】
このようにレバーハンドル208が真下向きとなっている位置は使用者にとって操作し易く、使い勝手の良い位置であり、使用者が水栓を使用するとき通常は無意識でそのままレバーハンドル208を開操作する。
使用者が本来水を使用したいと思っていたときには、その状態からレバーハンドル208を右方向に一杯まで回動操作することとなる。
この場合、実際には使用者が水を出したいと思っていたにも拘らず湯と水とが等量混合した混合水、つまり水と同じだけの量で湯が吐水されてしまい、湯が無駄に使用されてしまう。
このことは省エネルギーの観点から望ましくない。
【0008】
尚、本発明に関連する先行技術として下記特許文献2,特許文献3,特許文献4には使用者の無意識なレバーハンドルの開操作によって湯が無駄に消費されてしまうのを防止することを狙いとしたシングルレバー混合水栓が開示されている。
しかしながらこれら特許文献に記載のものは何れも台付きのシングルレバー混合水栓、即ち水栓本体が水平な取付面から起立する形態のシングルレバー水栓であるのに加えて、そこには本発明の解決手段について開示されておらず、本発明とは別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−150217号公報
【特許文献2】特開2008−89046号公報
【特許文献3】特開2010−185569号公報
【特許文献4】特許第3200540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情を背景とし、使用者による無意識のレバーハンドルの開操作によって湯が無駄に消費されてしまう問題を解決することのできる壁付のシングルレバー混合水栓を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
而して請求項1のものは、水流入孔及び湯流入孔を有する固定弁体と、該固定弁体上を摺動する可動弁体とを内蔵した水栓本体が、垂直な取付面に対して前記固定弁体の摺動面が略平行をなす状態に取り付けられ、レバーハンドルの前後方向の操作により弁開閉を行って吐止水と吐水の流量調節とを行い、左右方向の回動操作により前記水流入孔と湯流入孔との開度を互いに大小逆の関係で変化させて吐水の温度調節を行う壁付のシングルレバー混合水栓において、前記水流入孔と湯流入孔との上下の位置を異ならせることで、前記レバーハンドルが真下向きとなる位置を基準位置として、該レバーハンドルにおける水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置とが前記左右方向において非対称の位置となしてあることを特徴とする。
【0012】
請求項2のものは、請求項1において、前記水吐水の操作位置が前記湯吐水の操作位置よりも下位置であることを特徴とする。
【0013】
請求項3のものは、請求項2において、前記湯流入孔の位置が前記水流入孔の位置よりも高位置となしてあることを特徴とする。
【0014】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記取付面の裏側には前記水栓本体に水,湯をそれぞれ供給する給水管及び給湯管が該水栓本体の軸線と交差する方向に該取付面に沿って配管してあって、該給水管,給湯管が該水栓本体における該取付面の裏側位置の配管接続部の水側接続口,湯側接続口にそれぞれ接続してあり、該配管接続部には、前記取付面の裏側を該取付面に沿って延びた後屈曲して該取付面の側へと向かう水側及び湯側の内部流路が前記水側接続口,湯側接続口に続いて設けてあり、該水側の内部流路の流出開口が前記水流入孔に、前記湯側の内部流路の流出開口が前記湯流入孔に各対応する高さ位置に、それぞれ高さを異ならせて配置してあることを特徴とする。
【0015】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記取付面を有する壁の裏面と前記水栓本体との一方には位置決め用の凸部が、他方には該凸部に凹凸嵌合する、対応した凹部が設けてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、壁付のシングルレバー混合水栓において、固定弁体における水流入孔と湯流入孔との上下の位置を異ならせることで、レバーハンドルが真下向きとなる位置を基準位置として、その基準位置に対しレバーハンドルにおける水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置とを左右方向において非対称の位置となしたものである。
【0017】
本発明では、固定弁体における水流入孔と湯流入孔との上下位置を異ならせるようにしており、これによって上記の水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置とを容易に非対称の位置とすること、つまり水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置との一方を他方に対して下位置となすことができる。
【0018】
特に水栓使用では水を吐水させることを目的としていることが多いことから、水吐水の操作位置を湯吐水の操作位置よりも下位置となしておくことができる(請求項2)。
この場合、使用者にとってより操作がし易く使い勝手の良い、レバーハンドルが下位置にある状態で、使用者が無意識にこれを開操作すると、水吐水若しくは湯の混合量の少ない混合水が吐水される。
この場合使用者の意図に反して湯が多く吐出されてしまい、湯が無駄に消費されてしまうのを防止ないし抑制することができる。
【0019】
特にレバーハンドルが真下向きとなる位置を水吐水の操作位置としたとき、使用者が無意識にこれを開操作すると湯を含まない水のみが吐水され、この場合には湯の無駄な吐水を最も効果高く防ぐことができる。
【0020】
上記請求項2に従って水吐水の操作位置を湯吐水の操作位置よりも下位置となす場合において、固定弁体における湯流入孔の位置を水流入孔の位置よりも高位置となしておくことができる(請求項3)。
このようにすることで容易に水吐水の操作位置を湯吐水の操作位置よりも下位置となすことができる。
【0021】
次に請求項4は、水栓本体に水,湯をそれぞれ供給する給水管,給湯管を、取付面の裏側で水栓本体の軸線と交差する方向に取付面に沿って配管して、それぞれを水栓本体の取付面の裏側位置の配管接続部に接続するとともに、配管接続部には、取付面の裏側を取付面に沿って延びた後屈曲して取付面の側へと向う水側及び湯側の内部流路を設け、且つ水側の内部流路の流出開口を固定弁体における上記の水流入孔に、湯側の内部流路の流出開口を湯流入孔に各対応する高さ位置に、それぞれ高さを異ならせて配置したものである。
【0022】
この請求項4によれば、従来同じ高さ位置となしてあった固定弁体の水流入孔と湯流入孔との高さ位置を異ならせた場合であっても、容易に且つ簡単な構造で水流入孔,湯流入孔に対して水,湯を供給することが可能となる。
【0023】
またその際に給水管,給湯管を無理にねじった状態で配管施工しなくてもよく、それら給水管,給湯管がねじれ状態で配管施工され、そのことが施工不良に繋がるといった問題を回避することができる。
【0024】
次に請求項5は、取付面を有する壁の裏面と水栓本体との一方に位置決用の凸部を、他方にその凸部に凹凸嵌合する、対応した凹部を設けたもので、この請求項5によれば、水栓本体を取付面に対し予め定めた位置に良好に位置決めした状態で取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の壁付のシングルレバー混合水栓を示した図である。
【図2】図1の水栓における配管接続部を給水管及び給湯管とともに示した図である。
【図3】図1における弁カートリッジの構成部材を周辺部材とともに分解して示した図である。
【図4】図1の弁カートリッジにおける固定弁体を示した図である。
【図5】図1における配管接続部及び弁カートリッジの各流路の位置関係を示した図である。
【図6】図1の組付状態の固定弁体を周辺部とともに示した図である。
【図7】図1における配管接続部を示した図である。
【図8】同実施形態の各種吐水状態における固定弁体と可動弁体との位置関係をレバーハンドルの回転操作位置とともに示した図である。
【図9】本発明の他の実施形態の図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態を示した図である。
【図11】従来の壁付のシングルレバー混合水栓示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の壁付のシングルレバー混合水栓(以下単に水栓とする)で、垂直に設けられた縦の取付壁12に対し、詳しくは垂直な取付面13に対し水栓本体14が横向きをなす状態、詳しくはここではその軸線が取付壁12に対し垂直方向を向く状態に取付壁12に取り付けられている。
水栓本体14は、取付壁(以下単に壁とする)12に対し表側に位置する円筒形状の周壁16を備えた主部18と、壁12の裏側に位置する配管接続部20とが軸方向に分割されていて、それらが図中左右方向に組み付けられて構成されている。
【0027】
詳しくは、主部18と配管接続部20とにはねじ結合部22と24とがそれぞれ設けられており、そのねじ結合部22の外周面の雄ねじとねじ結合部24の内周面の雌ねじとのねじ結合によって、主部18と配管接続部20とが結合されている。
配管接続部20側のねじ結合部24にはまた、外周面に雄ねじが形成されており、そこに固定ナット26がねじ込まれている。
そしてこの固定ナット26のねじ込みにより、配管接続部20のフランジ部28と固定ナット26とで壁12を表裏両側から挟み込む状態に、水栓本体14が取付穴32において壁12に固定されている。
【0028】
水栓10は、水栓本体14の前部(図中左部)にレバーハンドル30を備えている。
この実施形態の水栓10では、レバーハンドル30を前後方向(図1中左右方向)に操作することで吐止水及び吐水の流量調節が行われ、また使用者から見て左右方向(紙面と直角方向)にこれを回動操作することで吐水の温度調節がなされる。
【0029】
取付面13の裏側、即ち壁裏位置の配管接続部20には、図2及び図7にも示しているように水側接続口34,湯側接続口36が設けられており、そしてそれぞれに対して、水栓本体14に水,湯を供給する可撓管から成る給水管38,給湯管40の各端部が接続されている。
【0030】
配管接続部20にはまた、水側及び湯側の内部流路42,44がそれぞれ水側接続口34,湯側接続口36に続いて設けられている。
給水管38,給湯管40を通じて送られて来た水,湯は、水側,湯側の内部流路42,44を通じて、配管接続部20の底部52で開口した流出開口54,56(図5参照)から水栓本体14、詳しくはそこに内蔵された弁部へと供給される。
供給された水と湯とはその弁部において混合され、そして混合後の混合水が、配管接続部20に設けられた流入開口106(図5参照)から混合水の内部流路46(図2参照)に流出する。
【0031】
配管接続部20には、この内部流路46の端部に混合水側接続口48が設けられていて、そこに流出管50の端部が接続されている。
内部流路46に流出した混合水はこの流出管50を通じて水栓10の図示しない吐水口へと導かれる。
尚流出管50は、ここでは銅管から成っており、その端部が接続口48に溶接にて接合されている。
【0032】
水栓本体14の内部、詳しくは表側の主部18における周壁16と、配管接続部20の底部52とで構成されるハウジングの内部には弁カートリッジ58が収納されている。
図において60は弁カートリッジ58におけるカートリッジケースで、このカートリッジケース60は、図中左側の前部のケース本体60-1と、図中右側の後部の底蓋60-2との2分割構造とされており、それらが前後に組み合されてカートリッジケース60を構成している。
【0033】
底蓋60-2は、図3にも示しているように後方に突出した一対の筒状部62,64と、脚66とを有しており、図1にも示しているようにそれらの先端(図中右端)をハウジング底部、具体的には配管接続部20の底部52に当接させている。
【0034】
図3に示しているように一方の筒状部62の内部には水側の流入流路68が形成されており、また他方の筒状部64の内部には湯側の流入流路70が形成されている。そして水側の流入流路68,湯側の流入流路70のそれぞれが、配管接続部20に形成された上記の水側の内部流路42,湯側の内部流路44にそれぞれに連通せしめられている。
底蓋60-2にはまた、水側の流入流路68,湯側の流入流路70とは別の位置において、混合水の流出流路72が形成されている。
【0035】
図1において、この流出流路72の後側には、これに連通した水室74が形成されており、流出流路72から流出した混合水が、この水室74を経て配管接続部20の混合水の内部流路46へと流出する。
【0036】
底蓋60-2の前面には、図3にも示しているように一対の流入流路68,70及び流出流路72の各開口をそれぞれ取り巻くようにして、弾性を有する円筒状のシールリング76が保持されており、これらシールリング76によって、底蓋60-2と後述の固定弁体78との間が水密にシールされている。
【0037】
図1に示しているように、カートリッジケース60の内部には固定弁体78と、その上面(前面)の摺動面79を摺動する可動弁体80とが収容されている。
ここで固定弁体78と可動弁体80とは、固定弁体78の摺動面79が取付面13に対して略平行をなす状態に水栓本体14内に収容されている。
尚固定弁体78と可動弁体80とは何れもディスクから成っている。
可動弁体80は、駆動部82を介してレバー軸84に、更にはこのレバー軸84を介してレバーハンドル30に作動的に連結され、レバーハンドル30によって可動弁体80が移動せしめられるようになっている。
【0038】
レバー軸84の後端部は支持ピン86を介して回転体88に一体回転状態に連結されており、更にレバー軸84には図3に示しているように一対のフォーク部90が設けられていて、このフォーク部90が、上記の駆動部82の凹部92内に係入されている。
【0039】
而してレバー軸84はレバーハンドル30と一体に支持ピン86周りに回動運動し、また回転体88の回転軸線周りに回転体88とともに回転運動し、レバーハンドル30の操作を駆動部82を介して可動弁体80に伝えて、可動弁体80を対応する方向に摺動運動させる。
【0040】
具体的には、レバーハンドル30が前後方向(図1中左右方向)に操作されると、可動弁体80が図1中上下方向に直線状に摺動運動し、またレバーハンドル30が使用者から見て左右方向(図1の紙面と直角方向)に回動操作されると、可動弁体80が図1において紙面と直角方向に回転摺動する。
【0041】
図4に示しているように、固定弁体78には水流入孔94と、湯流入孔96と、混合水の流出孔98とが板厚方向に貫通して設けられている。
ここで水流入孔94,湯流入孔96は、可動弁体80側の形状がそれぞれ円弧形状をなしている。また流出孔98は下部が略半円形状で、上部がこれよりも形状の大きな略扇形状をなしている。
一方水流入孔94,湯流入孔96,流出孔98の、可動弁体80とは反対側の形状は、図4(B)に示すように何れも円形状をなしている。
【0042】
ここで固定弁体78は、流出孔98の左右方向の中心と、水流入孔94及び湯流入孔96の間の中心位置とを結ぶ中心線P1を対称軸として、左右対称形状をなしている。
即ち、水流入孔94と湯流入孔96とが中心線P1を対称軸として左右対称形状をなしており、また流出孔98自体が中心線P1を対称軸としてその左右形状が対称形状をなしている。
【0043】
図4に示す固定弁体78は、従来シングルレバー水栓で広く用いられている公知の形状のものである。
この点は図1に示す可動弁体80も同様である。
但しこの実施形態では、図6に示しているように中心線P1が鉛直線に対し、使用者から見た正面視において角度θだけ左方向(時計方向)に傾いた状態で、固定弁体78が取り付けられている。従って湯流入孔96は水流入孔94に対し高位置に位置している。
【0044】
またこれに伴ってカートリッジケース60における上記の底蓋60-2が、固定弁体78の向きに合せて、軸線回りの角度位置が定められている。
【0045】
つまり水側の流入流路68の位置(詳しくは固定弁体78側の開口)が水流入孔94と対峙して位置し、また湯側の流入流路70(詳しくは固定弁体78側の開口)が湯流入孔96に対峙して位置するように、更に混合水の流出流路72(詳しくは固定弁体78側の開口)が固定弁体78における流出孔98に対峙して位置するように、その向きが定められている。
【0046】
更に可動弁体80は、レバーハンドル30が左右の全回動範囲の丁度中央に位置したときに、可動弁体80における左右の中心線P2(図8参照)が、固定弁体78における中心線P1と合致するように、その向きが定められている。
【0047】
図1において、固定弁体78の上面(前面)の摺動面79を摺動する可動弁体80には、図8に示すように固定弁体78における水流入孔94と湯流入孔96との両方又は何れか一方を流出孔98に連通させる連通開口100が、可動弁体80を板厚方向に貫通して設けられている。
【0048】
水流入孔94,湯流入孔96を通じて流入した水と湯とは、図1の駆動部82に形成された混合室102を経由し、混合水となって流出孔98から底蓋60-2に設けられた流出流路72へと流出する。
尚、可動弁体80とその駆動部82との間には、それらの間を水密にシールする弾性を有するシールリング(Oリング)104が設けられている。
ここで可動弁体80の連通開口100は、図8に示しているように部分円形状をなす第1部分100-1と、部分矩形状をなす第2部分100-2とを有する概略鍵穴形状をなしている。
【0049】
図8は水吐水,混合水吐水,湯吐水のときの固定弁体78と可動弁体80との位置関係を、レバーハンドル30の回動操作位置とともに表している。
図8(ロ)(C)は、レバーハンドル30が鉛直方向、つまり使用者から見て真下向きとなっている位置(これを基準位置X(図8(イ)参照)とする)にあるときの状態を表している。
図8(ロ)(C)において、Qはレバーハンドル30の中心線を表しており、このとき可動弁体80の中心線P2(可動弁体80は中心線P2を対称軸として左右対称形状をなしている)もレバーハンドル30の中心線Qと同方向、つまり使用者から見て真下向きとなる位置に位置している。
【0050】
この実施形態では、図8(イ)に示すようにレバーハンドル30が真下向きとなる基準位置Xから左方向に角度α(ここではα=90°)回動可能で、基準位置Xから角度θの範囲が水吐水領域,その水吐水領域から角度θの範囲が混合水吐水領域,更にその混合水吐水領域から角度θの範囲内が湯吐水領域をなしている。
【0051】
ここでは水吐水領域の角度θ,湯吐水領域の角度θがそれぞれ5°に設定してあり、そしてレバーハンドル30の全回動範囲であるα=90°から水吐水領域のθと湯吐水領域のθとを除いた角度θ=80°が混合水吐水領域として設定してある。
【0052】
図8(ロ)(B)は、レバーハンドル30を使用者から見て真下向きとなる基準位置Xからθ=45°左方向に回動させたときの状態を表しており、このときレバーハンドル30は、左右方向の全回動範囲の丁度中央、つまり混合水吐水領域の丁度中央の中立位置に位置した状態にあり、この状態でレバーハンドル30を止水状態から前方向に開操作すると、図8(ロ)(B)の下段に示しているように可動弁体80の連通開口100が、固定弁体78における水流入孔94と湯流入孔96とに対して等しく重なった状態となり、従ってこの状態では水と湯とが等量で連通開口100内に流入して、その混合水が図示を省略する吐水口から吐水される。
【0053】
この状態からレバーハンドル30を混合水吐水領域内で左右方向に回動操作すると、水流入孔94,湯流入孔96におけるそれぞれの開度が互いに大小逆の関係で変化し、これに応じて吐水口から吐水される混合水の温度が変化する。
【0054】
そして混合水吐水領域を超えてレバーハンドル30を右方向に一杯まで回動操作すると、即ちレバーハンドル30が真下向きとなる基準位置Xまで回動操作すると、ここにおいて水流入孔94だけが可動弁体80の連通開口100に連通した状態、詳しくは連通開口100を介して固定弁体78の流出孔98に連通した状態となり、水流入孔94からの水のみが流出孔98から流出し、吐水口から吐水(水吐水)される。
【0055】
逆にレバーハンドル30を、混合水吐水領域を超えて左方向に一杯まで回動操作すると、図8(ロ)(A)に示しているように今度は湯流入孔96だけが可動弁体80の連通開口100に連通した状態、詳しくは連通開口100を介して固定弁体78の流出孔98に連通した状態となり、ここにおいて湯流入孔96からの湯だけが流出孔98を通じて流出し、吐水口から吐水(湯吐水)される。
水流入孔94,湯流入孔96,可動弁体80における連通開口100の形状が予めそのように定められている。
【0056】
この実施形態では、レバーハンドル30を使用者にとって最も使い易い位置である真下向きの基準位置Xに位置させた状態でこれを開操作すると、図8(ロ)(C)に示しているように水流入孔94だけが開かれて吐水口から水吐水される。即ちこのときには湯を含まない水だけが吐水される。
【0057】
この実施形態では、図1及び図2に示しているように給水管38及び給湯管40が、壁12の裏側において壁12に沿って、つまり取付面13に沿って水栓本体14の軸線と交差する方向、具体的にはここでは直交する方向に配管されている。
これに対応して図1,図2及び図7に示しているように、配管接続部20の上記の水側接続口34,湯側接続口36が図中下向きに開口する形態で設けられている。
またこれら水接続口34,湯接続口36に続く水側,湯側の内部流路42,44のそれぞれが、次のような流路構成とされている。
【0058】
具体的には、水側の内部流路42は配管接続部20の内部を図中上向き、即ち水栓本体14の軸線と直交する方向に延びる縦流路42-1と、これから直角に折れ曲って水栓本体14の軸線方向に延び、弁部側に向う横流路42-2とを有する屈曲形状をなしている。
そしてその横流路42-2の先端の流出開口54(図5参照)が、底蓋60-2における水側の流入流路68と対峙し、合致する位置に位置せしめられている。
【0059】
同様に、湯側の接続口36に続く湯側の内部流路44もまた図中上向き、即ち水栓本体14の軸線と直交する方向に延びる縦流路44-1と、これに続いて水栓本体14の軸線方向に延び、弁部側に向う横流路44-2とを有する、直角に屈曲した形の流路をなしており、そしてその先端の流出開口56(図5参照)が、底蓋60-2における湯側の流入流路70に対峙する位置、即ち合致する位置に位置せしめられている。
【0060】
つまりこの実施形態では、水側の内部流路42の流出開口54が、固定弁体78における水流入孔94と同じ高さ位置に、また湯側の内部流路44の流出開口56が、固定弁体78における湯流入孔96と同じ高さ位置に位置せしめられている。即ち湯側の内部流路44の流出開口56が、水側の内部流路42の流出開口54よりも高位置に位置せしめられている。
そしてこれに対応して、湯側の内部流路44における縦流路44-1が、水側の内部流路42における縦流路42-1よりも長く形成してある。
【0061】
本実施形態において配管接続部20は金属製のもので、この配管接続部20は次のようにして容易に製造することができる。
具体的には、金属素材を鍛造成形して先ず配管接続部20の基本形状を構成し、その後に内部流路42,44及び46を切削加工することで、それら内部流路42,44,46を有する配管接続部20を構成することができる。
【0062】
ここで内部流路42,44は、その形状が直角に折れ曲った形状をなしているため、互いに直交する2方向から切削加工を施すことで、容易に内部流路42,44を形成することができる。
内部流路46についても同様で、この内部流路46は、図2に示しているように水栓本体14の軸線と直交する水平方向に延びる横流路46-1と、これから直角に折れ曲って水栓本体14の軸線方向に延び、弁部側に向う横流路46-2とからなる直角に折れ曲った形状をなしており、内部流路42,44と同じく互いに直交する2方向から切削加工を施すことで形成することができる。
そしてこのようにすることで、水栓本体14の軸線即ち固定弁体78の軸線に対し直交する給水管38,給湯管40からの水と湯とを、高さ位置が上下に異なった固定弁体78の水流入孔94と湯流入孔96に対して円滑に供給することができる。
【0063】
因みに前記の特許文献2に開示のシングルレバー混合水栓では、給水管,給湯管の配管の向きが、固定弁体の軸線の向きと同じ向きであるため、固定弁体の水流入孔と湯流入孔の各位置に給水管,給湯管の水栓本体に対する接続位置を合せてしまうと配管がねじれを生じることから、これを防ぐためにこの特許文献2に開示のものでは、各配管の接続口の位置はそのままとして、それら接続口と固定弁体の水流入孔,湯流入孔とを繋ぐ内部流路を複雑に屈曲させている。この場合水栓本体の加工が非常に困難となる。
【0064】
しかるにこの実施形態では、そのような問題を生じることなく水栓本体14、具体的には配管接続部20を容易に製造することができ、しかも内部流路の形状がシンプルな形状をなしているため、給水管38,給湯管40からの水,湯を円滑に固定弁体78における水流入孔94と湯流入孔96とに導くことができる。
【0065】
図1に示しているように、この実施形態では壁12の裏側に位置決用の凸部108が設けられている。
一方配管接続部20には一対の突出部110が設けられていて、それらの間に凹部112が形成され、そしてこの凹部112と凸部108との凹凸嵌合に基づいて配管接続部20、即ち水栓本体14が壁12に対し位置決めされた状態で取り付けられている。
尚、位置決用の凸部を配管接続部20の側に、また対応する凹部を壁12の側に設けて、それらを凹凸嵌合させることにより配管接続部20を壁12に対し位置決めするようになすことも可能である。
【0066】
以上のように本実施形態によれば、使用者にとってより操作がし易く使い勝手の良い、レバーハンドル30が真下位置(真下向きの位置)にある状態で無意識にこれを開操作すると、湯を含まない水のみが吐水され、湯が無駄に消費されるのを防ぐことができる。
【0067】
また本実施形態によれば、従来同じ高さ位置となしてあった固定弁体78の水流入孔94と湯流入孔96との高さ位置を異ならせた場合であっても、容易に且つ簡単な構造で水流入孔94,湯流入孔96に対して水,湯を供給することができる。
【0068】
その際に給水管38,給湯管40を無理にねじった状態で配管施工しなくてもよく、それら給水管38,給湯管40がねじれ状態で配管施工され、そのことが施工不良に繋がるといった問題を回避することができる。
【0069】
また壁12裏面に設けた凸部108と水栓本体14に設けた凹部112とによって、水栓本体14を取付壁12に対し予め定めた位置に良好に位置決めした状態で取り付けることができる。
【0070】
この実施形態の水栓10ではまた、混合水吐水領域が80°の広い領域に亘って確保されているため吐水の温度調節操作が容易であり、また低い温度の混合水を吐水させる際の操作も的確に且つ容易に行い得る利点を有している。
【0071】
図9は本発明の他の実施形態を示している。
上記実施形態では、レバーハンドル30の左右方向の回動範囲が、レバーハンドル30が真下向きとなる基準位置Xを回動右端として、これから90°左方向に回動した位置を回動左端とするように設定してあるが、この図9に示す実施形態では、回動可能な角度範囲αを90°に保ちつつ、回動右端を基準位置Xよりも角度θだけ右方向にシフトした位置に設定してある。ここではθ=θ/2となしてある。
θ,θ,θの角度は上記実施形態と同様であり、従ってθはθ=5°の半分の2.5°である。
このようにレバーハンドル30の回動範囲の右端を、基準位置Xよりも角度θだけ右方向の位置としておくことで以下の利点が得られる。
【0072】
即ち、レバーハンドル30が真下向きとなる基準位置Xから右方向に回動するのが阻止されていると、使用者は水吐水の際の遊びを感じることができないためにストレスを感じる可能性がある。また施工誤差によってレバーハンドル30が真下向きとなる位置まで回転できない状態となってしまうことも生じ得る。
【0073】
しかるにこの実施形態によれば、レバーハンドル30が真下向きとなる位置で水を吐水する際、左右方向に若干の遊び、即ち水吐水領域が基準位置Xを中心として左右に一定角度確保してあるため、使用者が水吐水する際のストレスを和らげることができ、またレバーハンドル30の取付角度に若干の施工誤差が生じたとしても、その施工誤差を吸収してレバーハンドル30を真下向きとなる位置まで持ち来すことができる。
【0074】
図10は本発明の更に他の実施形態を示している。
上記の実施形態では、固定弁体78における湯流入孔96の位置が水流入孔94の位置よりも高位置となしてあるが、この例ではこれとは逆に、水流入孔94の位置が湯流入孔96の位置よりも高位置となしてある。
またこれに対応して可動弁体80における連通開口100が上記実施形態とは上下逆の向きとなしてある。
この場合、レバーハンドル30の開操作と閉操作とを上記実施形態とは逆とすることで、レバーハンドル30が真下向きとなったときに水のみを吐水するようになすことができる。
但しレバーハンドル30と可動弁体80との間に運動変換機構を設けることで、上記実施形態と同様にレバーハンドル30を前方に操作することで開操作を行い、後方に操作することで閉操作をするようになすこともできる。
【0075】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明は、ユニットバスルームのカウンタ内部で給水管と給湯管とをカウンタ前板に沿って横方向に配管して、カウンタ前板を取付壁として固定した水栓本体の配管接続部に対して、それら給水管,給湯管を接続する形態の壁付のシングルレバー混合水栓に対しても適用することが可能である。
また上記実施形態の弁カートリッジ22を脚66を有していない構成とすることができるし、水栓本体を一体構成で構成するといったことも可能である。
更に上記例示した水吐水領域,湯吐水領域,混合水吐水領域はあくまで一例であって、本発明は他の様々な対応でそれら吐水領域を設定することも可能であるし、水吐水する際のレバーハンドルの操作位置,湯吐水する際のレバーハンドルの操作位置を上例とは異なった位置に設定することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 シングルレバー混合水栓
12 取付壁
13 取付面
14 水栓本体
20 配管接続部
30 レバーハンドル
34 水側接続口
36 湯側接続口
38 給水管
40 給湯管
42,44,46 内部流路
54,56 流出開口
78 固定弁体
79 摺動面
80 可動弁体
94 水流入孔
96 湯流入孔
X 基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流入孔及び湯流入孔を有する固定弁体と、該固定弁体上を摺動する可動弁体とを内蔵した水栓本体が、垂直な取付面に対して前記固定弁体の摺動面が略平行をなす状態に取り付けられ、レバーハンドルの前後方向の操作により弁開閉を行って吐止水と吐水の流量調節とを行い、左右方向の回動操作により前記水流入孔と湯流入孔との開度を互いに大小逆の関係で変化させて吐水の温度調節を行う壁付のシングルレバー混合水栓において、
前記水流入孔と湯流入孔との上下の位置を異ならせることで、前記レバーハンドルが真下向きとなる位置を基準位置として、該レバーハンドルにおける水吐水の操作位置と湯吐水の操作位置とが前記左右方向において非対称の位置となしてあることを特徴とする壁付のシングルレバー混合水栓。
【請求項2】
請求項1において、前記水吐水の操作位置が前記湯吐水の操作位置よりも下位置であることを特徴とする壁付のシングルレバー混合水栓。
【請求項3】
請求項2において、前記湯流入孔の位置が前記水流入孔の位置よりも高位置となしてあることを特徴とする壁付のシングルレバー混合水栓。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記取付面の裏側には前記水栓本体に水,湯をそれぞれ供給する給水管及び給湯管が該水栓本体の軸線と交差する方向に該取付面に沿って配管してあって、該給水管,給湯管が該水栓本体における該取付面の裏側位置の配管接続部の水側接続口,湯側接続口にそれぞれ接続してあり、
該配管接続部には、前記取付面の裏側を該取付面に沿って延びた後屈曲して該取付面の側へと向かう水側及び湯側の内部流路が前記水側接続口,湯側接続口に続いて設けてあり、
該水側の内部流路の流出開口が前記水流入孔に、前記湯側の内部流路の流出開口が前記湯流入孔に各対応する高さ位置に、それぞれ高さを異ならせて配置してあることを特徴とする壁付のシングルレバー混合水栓。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記取付面を有する壁の裏面と前記水栓本体との一方には位置決め用の凸部が、他方には該凸部に凹凸嵌合する、対応した凹部が設けてあることを特徴とする壁付のシングルレバー混合水栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−112183(P2012−112183A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262640(P2010−262640)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】