説明

壁用伸縮継手装置

【課題】隣接する2つの建物の各壁体への取付け性を向上し、各壁体の大きな相対変位を許容することができる壁用伸縮継手装置を提供する。
【解決手段】カバー体44を装着した複数のホルダ部材42の中間部に第1のばね係止部46を設け、第2ヒンジ片49に第2のばね係止部51を設け、各ホルダ部材42の一端部を連結部材43に共通に連結し、他端部にヒンジ部材41の第1ヒンジ片48を連結し、第2ヒンジ片49を、他方の壁体32bに固定した吊元縁材39bに共通に連結する。一方の壁体32aには、戸先縁材39aを固定し、復帰ばね52を第1のばね係止部46及び第2のばね係止部51に係止する。戸先縁材39aに第3のばね係止部54を設け、第2ヒンジ片49に第4のばね係止部55を設け、入り込み防止ばね53を第3のばね係止部54及び第4のばね係止部55に係止して、各ホルダ部材42の空隙33内への進入を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する2つの建物の内壁と内壁との間または外壁と外壁との間に水平または略水平な左右方向に空隙を介して対向する各壁体に設置される壁用伸縮継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は、従来の技術の壁用伸縮継手装置1を示す水平断面図であり、この従来技術は特許文献1に記載されている。隣接した2つの建物の各躯体2a,2bにおいて、目地として存在する空隙3を介して対向する各壁体4a,4bには、地震などによる各躯体2a,2bの相対変位を許容し、空隙3内へ雨水およびごみなどの浸入を阻止するために、壁用伸縮継手装置1が設けられる。
【0003】
この壁用伸縮継手装置1は、一方の壁体4aに固定金具5が固定される。この固定金具5には、回動金具6が第1ヒンジ部7によって回動可能に取付けられ、この回動金具6にはカバー体である目地プレート8の基端部が固定される。目地プレート8の遊端部には、他方の壁体4bに固定される支持体9の支持板10とスライド移動可能に当接するように、傾斜面11が形成される。
【0004】
目地プレート8の背面には、目地プレート8の遊端部が支持板10の裏側にまわり込んでしまうことを阻止するために、回動金具6および支持体9間にわたってパンタグラフ状の伸縮リンク12が設けられる。この伸縮リンク12は、一端部が第2ヒンジ部13を介して回動金具6に回動可能に連結され、他端部は第3ヒンジ部14を介して支持体9に回動可能に連結される。伸縮リンク12の内方(図14の下方)には、耐候性の高い合成樹脂または合成ゴムなどの可撓性および弾発性を有する材料からなる止水シート17が各壁体4a,4b間にわたって張架される。
【0005】
回動金具6と一方の壁体4aとの間には、圧縮ばね15が介在され、この圧縮ばね15のばね力によって、回動金具6はその遊端部が一方の壁体4aから離反する方向Aにばね付勢され、目地プレート8の遊端部が支持体9の支持板10を押圧する回動方向Bにばね付勢され、支持板10によって支持された状態に保たれる。
【0006】
このような壁用伸縮継手装置1において、地震によって各壁体4a,4bが相互に近接する方向へ相対変位したときには、目地プレート8の遊端部が支持板10によって他方の壁体4bの外壁面16上へ案内され、各壁体4a,4bの近接方向への相対変位を許容することができる。このとき、目地プレート8は圧縮ばね15によって遊端部が前述したように支持板10を押さえ付ける方向B、すなわち図14では下方へ回動する方向にばね付勢されるので、目地プレート8が支持板10からの反力および空隙3からの風圧などによって外側へ回動して、空隙3が開放状態になることが防がれる。
【0007】
また、各壁体4a,4bが相互に離反する方向へ相対変位したときには、目地プレート8は圧縮ばね15によって遊端部が空隙3内へ向かって回動する方向Bにばね付勢された状態で支持板10から外れ、空隙3内へ回動してしまう。これを阻止するために、前記パンタグラフ状の伸縮リンク12が回動金具5および支持体9間にわたって設けられる。この伸縮リンク12によって、各壁体4a,4bの近接・離反変位に伴う目地プレート8の回動範囲を制限して、目地プレート8の遊端部が支持板10の裏側へまわり込んでしまうことを阻止し、各壁体4a,4b間の相対変位に追従することができるように案内し、空隙3が開放状態になってしまうことを防止している。
【0008】
【特許文献1】特開平9−144144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来の技術では、圧縮ばね15が一方の壁体4a,4bの空隙3に臨む壁面18と回動金具6との間の狭い空間に介在されるので、圧縮ばね15の変形量が小さく、したがって目地プレート8の回動に対して、圧縮ばね15のばね力を目地プレート8に有効に作用させ得る範囲が小さく、各壁体4a,4bが近接方向に大きく相対変位すると、その変位に伴って目地プレート8も大きく回動するが、その回動によって圧縮ばね15が過度に圧縮され、一方の壁体4aの壁面18と回動金具6との間から離脱したり、破壊されてしまうおそれがある。したがって、この従来の技術では、各壁体4a,4bの大きな相対変位を許容することができないという問題がある。
【0010】
また前記従来の技術では、各壁体4a,4b間の空隙3内への目地プレート8の入り込みを防止するため、パンタグラフ状の伸縮リンク12が用いられる。この伸縮リンク12は、複数の金属製リンクをピンによって回動自在に連結した構成であるため、重量が大きく、一人の作業者によって伸縮リンク12を回動金具5および支持体9の所定の取付け位置に位置決めした状態を保ちながら、穿孔作業およびねじ締め作業などを伴う取付け作業を行うことは困難であり、伸縮リンク12を位置決めした位置で支える作業者と、ボルト、ビスまたはリベットなどによって伸縮リンク12を固定する固定作業を行う作業者とを必要とする。また、部材数が多いため、構造が複雑である。したがって、壁用伸縮継手装置1の取付け作業に多くの手間および労力を要するという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、隣接する2つの建物の各壁体への取付け性を向上し、各壁体の大きな相対変位を許容することができる壁用伸縮継手装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、隣接する2つの建物の相互に水平方向に空隙をあけて対向する各壁体のうちの一方に、上下方向に延在して固定される長尺の戸先縁材と、
他方の壁体に、前記上下方向に延在して前記戸先縁材と平行に固定される吊元縁材と、
前記吊元縁材および戸先縁材間にわたって延び、前記上下方向に間隔をあけて平行に配置され、長手方向中間部に第1のばね係止部を有する複数のホルダ部材と、
各ホルダ部材の前記戸先縁材側に配置される各一端部を、前記上下方向に間隔をあけて一直線状に整列した状態で連結する連結部材と、
各ホルダ部材の前記吊元縁材側に配置される各他端部に固定される第1ヒンジ片と、空隙内に突出する第2のばね係止部を有する第2ヒンジ片とが、ヒンジピンに共通な回動中心軸線まわりに回動自在に連結され、ヒンジピンの回動中心軸線が上下方向と平行となるように第2ヒンジ片が吊元縁材に固定されるヒンジ部材と、
各ホルダ部材に一端部が係止され、他端部が第2ヒンジ片の第2のばね係止部に係止される引張ばねと、
各ホルダ部材に前記引張ばねが装着される側とは反対側から固定され、戸先縁材および吊元縁材間にわたって延びるカバー体とを含むことを特徴とする壁用伸縮継手装置である。
【0013】
本発明に従えば、隣接する2つの建物の各壁体間には、目地などの空隙が存在し、この空隙内へ外部から雨水およびごみなどが浸入することを防止するため、急激な地震などによる各壁体の相対変位を許容し、かつ空隙を塞いだ状態に維持することができる壁用伸縮継手装置が設けられる。
【0014】
一方の壁体には戸先縁材が固定され、他方の壁体には吊元縁材が固定される。これらの縁材は、長尺材であって、各壁体に上下方向に延在して固定される。ここに、上下方向とは、各建物の施工誤差などによって各壁体の壁面には鉛直方向に対する誤差が不可避的に生じるため、鉛直方向および実質的に鉛直方向とみなすことができる略鉛直方向を含むものとし、水平方向に関してもまた同様に、水平方向および実質的に水平方向とみなすことができる略水平方向を含むものとする。
【0015】
各ホルダ部材は、前記吊元縁材および戸先縁材間にわたって延び、上下方向に間隔をあけて相互に平行に配置される。これらのホルダ部材の前記戸先縁材側に配置される各一端部は、連結部材に連結され、したがって各ホルダ部材の各一端部は、前記連結部材に沿って前記等間隔をあけて一直線状に整列して配置される。また、各ホルダ部材の前記吊元縁材側に配置される各他端部には、ヒンジ部材の第1ヒンジ片がそれぞれ固定され、各第1ヒンジ片はヒンジピンに回動自在に連結され、ヒンジピンには各第2ヒンジ片が回動自在に連結され、各第2ヒンジ片は吊元縁材に固定され、こうして各ホルダ部材の各他端部がヒンジ部材によって吊元縁材に、上下方向に平行な回動中心軸線まわりに回動自在に連結される。
【0016】
各ホルダ部材の中間部に設けられる第1のばね係止部には、引張ばねの一端部が係止され、この引張ばねの他端部は第2ヒンジ片に設けられる第2のばね係止部に係止され、各ホルダ部材およびヒンジ部材間に引張ばねが装着される。各ホルダ部材にはまた、カバー体が前記引張ばねが装着される側とは反対側から装着される。前記引張ばねは、各ホルダ部材を、ヒンジピンの回動中心軸線を中心にして、各一端部が戸先縁材の外側からその戸先縁材に近接する回動方向にばね付勢する。このような引張ばねのばね力によって、各ホルダ部材およびカバー体の前記回動方向とは逆方向への回動を抑制し、各壁体の相対変位に伴う回動または風圧などによって空隙が開放されてしまうことを防止することができる。
【0017】
このように壁用伸縮継手装置が構成されるので、各ホルダ部材の各一端部が1つの連結部材に連結されるとともに、各他端部にはヒンジ部材がそれぞれ連結され、各ヒンジ部材が吊元縁材に連結される。これらのホルダ部材、連結部材、ヒンジ部材および吊元縁材は、工場または現場において、各ホルダ部材の各一端部を連結部材によって連結し、各他端部にヒンジ部材を連結し、各ヒンジ部材を吊元縁材に連結して、格子状の組立て体として組み立てておき、この組立て体を現場に搬入して、組立て体の吊元縁材を前記他方の壁体に固定するようにしてもよい。これによって部材数を少なくして現場での取付け工数を削減し、取付け作業の手間を低減して、取付け性を向上することができる。
【0018】
また、各ホルダ部材の中間部に第1のばね係止部が設けられ、第2ヒンジ片には第2のばね係止部が設けられるので、各ホルダ部材の各他端部に連結されたヒンジ部材の第2ヒンジ片を吊元縁材に固定することによって同時に、前記引張ばねの他端部を係止する第2のばね係止部を設けることができ、これによって現場での取付け工数が削減され、取付け性が向上される。
【0019】
また本発明は、前記戸先縁材には、空隙内に突出する第3のばね係止部が形成され、前記第2ヒンジ片には、空隙内に突出する第4のばね係止部が形成され、
戸先縁材および第2ヒンジ片には、一端部が前記戸先縁材の第3のばね係止部に係止され、他端部が第2ヒンジ片の第4のばね係止部に係止される入り込み防止ばねが装着されることを特徴とする。
【0020】
本発明に従えば、戸先縁材に一端部が係止され、吊元縁材に他端部が係止される入り込み防止ばねが、各ホルダ部材に前記空隙側から近接して設けられるので、前記従来の技術のように、重量の大きなパンタグラフ状の伸縮リンクを取り付ける場合に比べて、戸先縁材および吊元縁材に入り込み防止ばねを個別に取り付ければよく、入り込み防止ばねの装着を一人の作業者によって容易に行うことができる。これによって現場での前記入り込み防止ばねの装着作業を含む壁用伸縮継手装置の設置作業の手間を少なくして、設置作業に要する労力の削減および時間の短縮を図ることができ、取付け性の向上された壁用伸縮継手装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、他方の壁体にヒンジ部材を介して回動可能に複数のホルダ部材を連結し、各ホルダ部材に第1のばね係止部を設け、第2ヒンジ片に第2のばね係止部が設けられるので、これらの第1および第2のばね係止部に引張ばねの両端部を係止させて容易に張架し、各ホルダ部材にカバー体を装着することによって、各壁体に壁用伸縮継手装置を少ない部品数で容易に構築することができ、取付け性に優れた壁用伸縮継手装置を実現することができる。
【0022】
また本発明によれば、戸先縁材の第3のばね係止部および第2ヒンジ片の第4のばね係止部に両端部が係止される入り込み防止ばねが設けられるので、各壁体が離反する方向に相対変位したとき、前記入り込み防止ばねが伸長し、カバー体の一端部またはホルダ部材の一端部が前記伸長した入り込み防止ばねによって支持され、カバー体およびホルダ部材の空隙内への入り込みを防止することができる。このような入り込み防止ばねは、一端部を戸先縁材の第3のばね係止部に、また他端部を第2ヒンジ片の第4のばね係止部にそれぞれ係止すればよいので、前記従来の技術で用いられる伸縮リンクに比べて、取付け作業が容易であり、取付け性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明の実施の一形態の壁用伸縮継手装置31を示す水平断面図である。隣接する2つの建物の各壁体32a,32b間には、目地として空隙33が存在し、空隙33への屋外34からの雨水などの浸入を防止するために、各壁体32a,32bの地震などによる相対変位を許容しながら空隙33を塞いだ状態に維持する壁用伸縮継手装置31が設けられる。
【0024】
各壁体32a,32bは、相互に第1水平方向(図1の左右方向)Xに空隙33を介して対向し、上下方向(図1の紙面に垂直方向)Zに延びる対向壁面35a,35bと、屋外34に臨んで略鉛直方向に延びる外部壁面36a,36bとを有し、本実施の形態の壁用伸縮継手装置31は、対向壁面35a,35bと外部壁面36a,36bとがほぼ直角に交差する各角隅部37a,37b間にわたって、各外部壁面36a,36b上に略鉛直方向に延在して設置される。各壁体32a,32bは、各建物の外壁の躯体を構成するコンクリート構造体から成る。
【0025】
ここに、上下方向とは、各建物の施工誤差などによって各壁体の壁面には鉛直方向に対する誤差が不可避的に生じるため、鉛直方向および実質的に鉛直方向とみなすことができる略鉛直方向を含むものとし、第1水平方向Xおよびそれに直交する第2水平方向Yに関してもまた同様に、水平方向および実質的に水平方向とみなすことができる略水平方向を含むものとする。
【0026】
一方の壁体32aの外部壁面36aには、アンカー体38aによって戸先縁材39aが固定され、他方の壁体32bの外部壁面36bには、アンカー体38bによって吊元縁材39bが固定される。吊元縁材39bには、複数のヒンジ部材41を介して複数のホルダ部材42の他端部が回動中心軸線Mを中心として矢符F1,F2方向に回動可能に連結される。各ホルダ部材42の一端部は、連結部材43によって連結され、各ホルダ部材42に屋外34側からカバー体44が装着され、複数のビス45によって固定される。
【0027】
各ホルダ部材42の中間部には、中央部よりも他端部寄りの位置に第1のばね係止部46が形成される。また、前記各ヒンジ部材41は、第1ヒンジ片48と、第2ヒンジ片49と、第1および第2ヒンジ片48,49が回動中心軸線Mまわりに回動自在に連結されるヒンジピン50とを有し、第2ヒンジ片49には空隙33内に突出する第2のばね係止部51が形成される。第1のばね係止部46には、復帰ばね52の一端部が係止され、第2のばね係止部51には前記復帰ばね52の他端部が係止される。この復帰ばね52は、引張コイルばねによって実現される。各ホルダ部材42は、構造用鋼材によって実現される。
【0028】
戸先縁材39aおよびヒンジ部材41には、入り込み防止ばね53が装着される。具体的には、前記戸先縁材39aには、空隙33内に突出する第3のばね係止部54が形成され、この第3のばね係止部54に前記入り込み防止ばね46の一端部が係止される。また、前記第2ヒンジ片49には、前記第2のばね係止部51よりも屋外34側(図1では上側)でかつ図1の紙面に平行な水平面上で前記第1水平方向Xに直交する第2水平方向Yに関して前記第3のばね係止部54と対向する位置に、第4のばね係止部55が空隙33内に突出して形成される。この第4のばね係止部55には、前記入り込み防止ばね46の他端部が係止される。このような入り込み防止ばね46は、引張コイルばねによって実現され、各ホルダ部材42と同一の間隔で各縁材39a,39b間に設けられる。
【0029】
各壁体32a,32b間には、前記各ホルダ部材42、復帰ばね52および入り込み防止ばね53よりも第2水平方向Yに関して内側(図1では下側)に、止水シート58が前記内側に凸に湾曲して設けられる。この止水シート58の一端部は、一方の壁体32aの外部壁面36a上に、アンカー体38aの締め付け力によって戸先縁材39aとともに挟着状態で固定される。また止水シート58の他端部は、他方の壁体36bの外部壁面36b上に、アンカー体38bの締め付け力によって吊元縁材39bおよび第2ヒンジ片49とともに挟着状態で固定される。このような止水シート58は、可撓性および弾発性を有する材料、たとえばエチレンプロピレンゴム(略称EPDM)からなる厚さ1mm程度の長尺シートによって実現される。
【0030】
各ホルダ部材42には、屋外34側からカバー体44が固定される。このカバー体44の両端部には、パッキン60a,60bが装着され、各パッキン60a,60bは戸先縁材39aおよび吊元縁材39bよりも屋外34側で各外部壁面36a,36bに弾発的に当接して、各外部壁面36a,36bとカバー体44との間の水密性を達成し、空隙33内への雨水などの水の浸入を防止している。また、戸先縁材39aと外部壁面36aとの間および吊元縁材39bと外部壁面36bとの間には、シール材61a,61bが充填され、カバー体44の開放などによって前記各パッキン60a,60bによる水密性に期待できない場合であっても、各縁材39a,39bと止水シート58の両端部と間および止水シート58の両端部と各外部壁面36a,36bとの間の水密性を確保して、空隙33内への前記水の浸入を防止することができるように構成される。
【0031】
このようなシール材61a,61bを打設するため、各縁材39a,39bの外側部には、断面がL字状のシール受け部62a,62bが形成される。これらの縁材39a,39bは、図1に紙面に垂直な上下方向に延びる長尺のアルミニウム合金の押し出し形材またはステンレス鋼板の折り曲げ加工材によって実現される。
【0032】
図2は、図1の上方から見たホルダ部材42およびその近傍の拡大正面図であり、図3は図2の下方から見た拡大平面図である。前記ヒンジ部材41の具体的構成について説明する。前記第1ヒンジ片48は、ヒンジピン50から離反する方向に延びるアーム部65と、アーム部65の遊端部分に直角に連なる段差部66と、段差部66の遊端部分に直角に連なり前記ヒンジピン50から離反する方向に前記アーム部65と平行に延びる取付け部67とを有する。取付け部67は、ホルダ部材42の他端部に空隙33に臨む表面側、すなわち図3の下側からビス68によって固定される。この状態では、ホルダ部材42の他端部の端面は、前記段差部66に当接し、ホルダ部材42が第1ヒンジ片48に対して回動中心軸線Mに関して長手方向に位置決めされるとともに、回動中心軸線Mに関して直角に位置決めされ、これによって第2ヒンジ片49を吊元縁材39bに固定した際に、各ホルダ部材42が相互に平行になるように位置決めすることができる。
【0033】
前記第2ヒンジ片49は、ヒンジピン50から離反する方向に延びるアーム部69と、アーム部69の遊端部分に直角に連なる段差部70と、段差部70の遊端部分に直角に連なり前記ヒンジピン50から離反する方向に前記アーム部69と平行に延びる第1取付け部71と、第1取付け部71の遊端部分に直角に連なる第2取付け部72と、第2取付け部72の遊端部分に直角に連なる前記第2のばね係止部51とを有する。第2取付け部72には、前記第4のばね係止部55がビス73によって固定される。
【0034】
前記連結部材43は、一直線に延びる帯状のステンレス鋼板から成り、各ホルダ部材42の各一端部にビス74によって等間隔にかつ直角に固定される。したがって連結部材43は、ヒンジピン50の回動中心軸線Mに対して平行であり、かつ各ホルダ部材42に対して直角に設けられる。
【0035】
各ホルダ部材42は、扁平な四角筒状のホルダ本体77と、ホルダ本体77の前記連結部材43が固定されかつ第1ヒンジ片48の取付け部67が固定される表面から突出して一体的に形成される3本の摺動案内片78a,78b,78cと有する。すなわち、各摺動案内片78a,78b,78cは、ホルダ本体77の一側壁と同一平面上に形成される第1摺動案内片78aと、ホルダ本体77の他側壁と同一平面上に形成される第2摺動案内片78bと、第1および第2摺動案内片78a,78b間の中央部に形成される第3摺動案内片78cとによって構成される。これらの摺動案内片78a〜78cには、長手方向一端部で、前記連結部材43に向かうにつれてホルダ本体77に近接する方向に角度θを成して傾斜する案内面79a〜79cが形成される。この角度θは、30°以上60°以下に選ばれ、好ましくは45°に選ばれる。
【0036】
前記復帰ばね52および入り込み防止ばね53は、長期にわたって所要のばね力を発揮することができるようにするため、雨水の付着などに対して高い耐腐食性を有するばね材から成る引張ばねが用いられる。復帰ばね52は、図1および図3に示す設置当初の状態で、カバー体44が装着された各ホルダ部材42の各一端部が空隙33側からの風圧などによって不用意に開放しない程度の適度のばね力を有するものが用いられ、各ホルダ部材42に対して回動中心軸線Mに直角に引張力が作用するように、一端部が中央の第3摺動案内片78cに前記第1のばね係止部46において係止される。この第1のばね係止部46は、第3摺動案内片78cに形成されたばね挿通孔46aの周縁部分によって実現される。
【0037】
また、前記入り込み防止ばね53は、図1および図3に示す設置当初の状態で、自重によって垂れ下がらない程度に適度に緊張された状態で張架され、各壁体32a,32b間の第1水平方向Xおよび第2水平方向Yの相対的変位を許容することができる長さに伸長することができる。この入り込み防止ばね53は、各ホルダ部材42および各復帰ばね52との干渉を回避するため、各ホルダ部材42および各復帰ばね53に対して上下方向、すなわち図1および図3において紙面に垂直にずれた位置で前述のように両端部が係止されている。これによって、各ホルダ部材42の回動中心軸線Mまわりの回動位置にかかわらず復帰ばね52によるばね力を各ホルダ部材42に作用させて確実に復帰させることができるとともに、各壁体32a,32bが離反する方向に相対変位して、各ホルダ部材42の各一端部が戸先縁材39aによって支持し得ない位置、すなわち一方の対向壁面35aが各一端部よりも他方の対向壁面35bから離反する方向に配置された状態になっても、連結部材43が各入り込み防止ばね53によって支持され、したがって各ホルダ部材42およびカバー体44などが空隙33内に入り込んでしまうことが防がれる。
【0038】
さらに、各ホルダ部材42の他端部とカバー体44の他端部との間には、ヒンジピン50が設けられ、ヒンジピン50の回動中心軸線Mから他方の壁体32bの外部壁面36bまでの間隔L1が、ヒンジピン50の回動中心軸線Mからカバー体44の他端部までの距離L2よりも大きく設定される。これによってカバー体44がヒンジ部材41によって前記ヒンジピン50の回動中心軸線Mまわりに回動しても、カバー体44の他端部が他方の壁体32bの外部壁面36bに接触することが防がれ、カバー体44が他方の壁体32bに対して干渉することなしに、各壁体32a,32b間の大きな相対変位を許容することができる。
【0039】
このように各壁体32a,32bが離反する方向に相対変位したとき、カバー体44の一端部に装着されたパッキン60aが入り込み防止ばね53に接触して摺動する場合が考えられるが、パッキン60aがカバー体44の一端部から外れるおそれがあり、各ホルダ部材42およびカバー体44を戸先縁材39a上に案内して確実に復帰させるための部材として期待することができないため、各ホルダ部材42には前述の3つの摺動案内片78a〜78cを設けて、それらの先端部に傾斜した案内面79a〜79cが形成される。これらの摺動案内片78a〜78cの相互の間隔を入り込み防止ばね53の外径よりも小さく、これによって入り込み防止ばね53が各摺動案内片78a〜78c間のすき間に嵌り込んでしまうことを防止し、各摺動案内面79a〜79cが入り込み防止ばね53上を円滑に摺動して、各ホルダ部材42をカバー体44とともに戸先縁材39a上に復帰させることができる。
【0040】
本実施の形態によれば、前記壁用伸縮継手装置31によって、隣接する2つの建物の各壁体32a,32b間に目地などとして存在する空隙33内へ屋外34から雨水およびごみなどが浸入することを防止し、各建物の意匠上の美観を向上するとともに、急激な地震などによる各壁体32a,32bの相対変位を許容して、空隙33を塞いだ状態に維持することができる。
【0041】
前記他方の壁体32bにヒンジ部材41を介して回動可能に複数のホルダ部材42を連結し、各ホルダ部材42に第1のばね係止部46を設け、第2ヒンジ片49に第2のばね係止部51が設けられるので、これらの第1および第2のばね係止部46,51に引張ばね52両端部を係止させて容易に張架し、各ホルダ部材42にカバー体44を装着することによって、各壁体32a,32bに壁用伸縮継手装置31を少ない部品数で容易に構築することができ、取付け性に優れた壁用伸縮継手装置31を実現することができる。また各ホルダ部材42の各一端部が1つの連結部材43に連結されるとともに、各他端部にはヒンジ部材41がそれぞれ連結され、各ヒンジ部材41が吊元縁材39bに連結される。これらのホルダ部材41、連結部材43、ヒンジ部材41および吊元縁材39bは、図4の平面図に示されるように、工場または現場において、各ホルダ部材42の各一端部を連結部材43によって連結し、各他端部にヒンジ部材41を連結し、各ヒンジ部材41を吊元縁材39bに連結して、格子状の組立て体80として組み立てておき、この組立て体80を現場に搬入して、組立て体80の吊元縁材39bを前記他方の壁体32bの外部壁面36bに固定するようにしてもよい。これによって現場での取付け工数を削減して、取付け作業の手間を少なくし、取付け性を向上することができる。
【0042】
また、各ホルダ部材42の中間部に第1のばね係止部46が設けられ、第2ヒンジ片49には第2のばね係止部51が設けられるので、各ホルダ部材42の各他端部に連結されたヒンジ部材41の第2ヒンジ片49を吊元縁材39bに固定することによって同時に、前記復帰ばね52の他端部を係止する第2のばね係止部51を設けることができ、これによって現場での取付け工数が削減され、取付け性を向上することができる。
【0043】
さらに、入り込み防止ばね53が各ホルダ部材42に前記空隙33側から近接して設けられるので、戸先縁材39aおよび吊元縁材39bに入り込み防止ばね53を個別に取り付ければよく、入り込み防止ばね53の装着を一人の作業者によって容易に行うことができ、前記従来の技術のように、重量の大きなパンタグラフ状の伸縮リンクを取り付ける場合に比べて、現場での設置作業の手間を少なくして、設置作業に要する労力の削減および時間の短縮を図ることができ、取付け性の向上された壁用伸縮継手装置を実現することができる。
【0044】
図5は、本発明の実施の他の形態の壁用伸縮継手装置31aを示す水平断面図である。なお、本実施の形態の壁用伸縮継手装置31aは前述の実施の形態の壁用伸縮継手装置31に類似し、対応する部分には同一の参照符を付し、重複する説明は省略する。本実施の形態の壁用伸縮継手装置31aは、他方の壁体32bが一方の壁体32aの外部壁面36aよりも屋外34側に突出し、戸先縁材39aは前述の実施の形態と同様に一方の壁体32aの外部壁面36aに固定されるが、吊元縁材39bは第2水平方向Yに関して前記戸先縁材39aに対向する位置で、他方の壁体32bの対向壁面35bにヒンジ部材41aとともに固定される。
【0045】
図6は、壁用伸縮継手装置31aのホルダ部材41およびその近傍の拡大斜視図であり、図7は図6の下方から見た平面図である。前記ヒンジ部材41aは、第1ヒンジ片48と、第2ヒンジ片49aと、ヒンジピン50とによって構成される。第1ヒンジ片48およびヒンジピン50は、前述の実施の形態のヒンジ部材41と同様であるが、第2ヒンジ片49aは、段差部70に第1取付け部71がアーム部69と同一側(図7では右側)へ直角に連なり、この第1取付け部71に第2取付け部72が直角に連なり、第2取付け部70に第2のばね係止部51が直角に連なり、全体として大略的にS字状に形成される。
【0046】
このような第2ヒンジ片49aを有するヒンジ部材41aによって、各ホルダ部材の他端部が吊元縁材39bとともに、他方の壁体32bの対向壁面35bに回動自在に取り付けられ、前述の実施の形態と同様に、現場での取付け工数を削減して、取付け作業の手間を少なくし、取付け性を向上するという効果を達成することができる。
【0047】
前述の図1〜図7に示される実施の各形態では、各壁体32a,32bの相互に対向する各対向壁面35a,35b間の第1水平方向Xの間隔が500〜600mmの空隙33を覆うために適用される壁用伸縮継手装置31,31aについて述べたが、本発明の実施のさらに他の形態では、250〜350mm程度の比較的小さい間隔の空隙33を覆うために、外部壁面36a,36b間には図8に示される壁用伸縮継手装置31bが、また外部壁面36aおよび対向壁面35b間には図9に示される壁用伸縮継手装置31cが適用される。なお、図8は本発明の実施のさらに他の形態の壁用伸縮継手装置31bを示す水平断面図であり、図9は本発明の実施のさらに他の形態の壁用伸縮継手装置31cを示す水平断面図である。
【0048】
これらの壁用伸縮継手装置31b,31cは、間隔が250〜350mm程度と小さく、カバー体44の一端部から戸先縁材39aの第3のばね係止部54までの第1水平方向Xに沿う距離L3,L4の範囲で伸縮が可能であるため、入り込み防止ばね53が装着されない点で相違するが、その他の構成は前述の各実施の形態と同様であり、対応する部分に同一の参照符を付し、重複を避けて説明は省略する。このような壁用伸縮継手装置31b,31cにおいても前述の実施の各形態の壁用伸縮継手装置31,31aと同様に、第1および第2のばね係止部46,51を各ホルダ部材42および吊元縁材39bの各壁体32a,32bへの設置と同時に配備して、即座に復帰ばね52の装着作業を行うことができ、これによって現場での取付け工数を削減して、取付け作業の手間を少なくし、取付け性を向上するという効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の一形態の壁用伸縮継手装置31を示す水平断面図である。
【図2】図1の上方から見たホルダ部材42およびその近傍の拡大正面図である。
【図3】図2の下方から見た平面図である。
【図4】組立て体80の構成を示す平面図である。
【図5】本発明の実施の他の形態の壁用伸縮継手装置31aを示す水平断面図である。
【図6】図5の上方から見たホルダ部材42およびその近傍の拡大正面図である。
【図7】図6の下方から見た平面図である。
【図8】本発明の実施のさらに他の形態の壁用伸縮継手装置31bを示す水平断面図である。
【図9】本発明の実施さらに他の形態の壁用伸縮継手装置31cを示す水平断面図である。
【図10】従来の技術の壁用伸縮継手装置1を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0050】
31,31a,31b,31c 壁用伸縮継手装置
32a,32b 壁体
33 空隙
34 屋外
35a,35b 対向壁面
36a,36b 外部壁面
38a,38b アンカー体
39a 戸先縁材
30b 吊元縁材
41,41a ヒンジ部材
42 ホルダ部材
43 連結部材
44 カバー体
46 第1のばね係止部
48 第1ヒンジ片
49 第2ヒンジ片
50 ヒンジピン
51 第2のばね係止部
52 復帰ばね
53 入り込み防止ばね
54 第3のばね係止部
55 第4のばね係止部
59 カバー体
80 組立て体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する2つの建物の相互に水平方向に空隙をあけて対向する各壁体のうちの一方に、上下方向に延在して固定される長尺の戸先縁材と、
他方の壁体に、前記上下方向に延在して前記戸先縁材と平行に固定される吊元縁材と、
前記吊元縁材および戸先縁材間にわたって延び、前記上下方向に間隔をあけて平行に配置され、長手方向中間部に第1のばね係止部を有する複数のホルダ部材と、
各ホルダ部材の前記戸先縁材側に配置される各一端部を、前記上下方向に間隔をあけて一直線状に整列した状態で連結する連結部材と、
各ホルダ部材の前記吊元縁材側に配置される各他端部に固定される第1ヒンジ片と、空隙内に突出する第2のばね係止部を有する第2ヒンジ片とが、ヒンジピンに共通な回動中心軸線まわりに回動自在に連結され、ヒンジピンの回動中心軸線が上下方向と平行となるように第2ヒンジ片が吊元縁材に固定されるヒンジ部材と、
各ホルダ部材に一端部が係止され、他端部が第2ヒンジ片の第2のばね係止部に係止される引張ばねと、
各ホルダ部材に前記引張ばねが装着される側とは反対側から固定され、戸先縁材および吊元縁材間にわたって延びるカバー体とを含むことを特徴とする壁用伸縮継手装置。
【請求項2】
前記戸先縁材には、空隙内に突出する第3のばね係止部が形成され、前記第2ヒンジ片には、空隙内に突出する第4のばね係止部が形成され、
戸先縁材および第2ヒンジ片には、一端部が前記戸先縁材の第3のばね係止部に係止され、他端部が第2ヒンジ片の第4のばね係止部に係止される入り込み防止ばねが装着されることを特徴とする請求項1記載の壁用伸縮継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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