壁用固定具および該壁用固定具の取り付け方法
【課題】被支持体に荷重が加わった場合に、壁用固定具が壁材を破壊することを避ける。
【解決手段】本発明の壁用固定具100は、弓形に湾曲した形状を呈し壁材W1の背面Bを押圧する板材31、32を含む係止手段3と、係止手段3に連結された状態で壁材W1の前面Fに設けられ、被支持体Hを支持する支持手段4とを有し、係止手段3および支持手段4で壁材W1を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、板材31、32が、板ばねにより形成されていることを特徴とする。
【解決手段】本発明の壁用固定具100は、弓形に湾曲した形状を呈し壁材W1の背面Bを押圧する板材31、32を含む係止手段3と、係止手段3に連結された状態で壁材W1の前面Fに設けられ、被支持体Hを支持する支持手段4とを有し、係止手段3および支持手段4で壁材W1を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、板材31、32が、板ばねにより形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具および該壁用固定具の取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁伝いに設置される手摺が知られている。手摺は、主に、長尺状の手摺本体と、手摺本体の端部に設けられて手摺本体(被支持体)を所定の高さに支持する取り付け具(壁用固定具)とから構成されている。取り付け具は、手摺本体に加わる荷重を壁材に伝達する重要な役割を担っており、壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許登録第2903313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術では、石膏ボード等からなる壁材に対して、桟木などを介さずに、直に取り付け具が取り付けられている場合、手摺本体に荷重が加わった際に、壁材の背面側から受ける荷重によって、壁材が損壊しやすい。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、被支持体に荷重が加わった場合に、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる壁用固定具および該壁用固定具の取り付け方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の壁用固定具は、弓形に湾曲した形状を呈し壁材の背面を押圧する板材を含む係止手段と、該係止手段に連結された状態で前記壁材の前面側に設けられ、被支持体を支持する支持手段とを有し、前記係止手段および前記支持手段で前記壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、前記板材が、板ばねにより形成されていることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、壁材の背面を押圧する弓形に湾曲した形状の板材が、板ばねにより形成されている。被支持体に対して荷重が加わると、支持手段を介して係止手段に力が伝達される。そして、係止手段を構成するばね用ステンレス鋼により形成された板材は、その弾性変形により、取り付け具が受けたエネルギーの一部を吸収する。そして、板材から壁材の背面に伝達される力は減少する。これにより、壁材に繰り返し外力が働いて壁材の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。また、被支持体に対して衝撃などの動的荷重が加わった場合には、ばね用ステンレス鋼により形成された板材を大きく弾性変形させることによって、取り付け具が受けたエネルギーの一部が吸収され、壁材に伝達される荷重を減少させる。言い換えれば、壁材を破壊に至らしめるためには、被支持体に対して従来よりも大きな荷重を加えなければならない。したがって、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる。
【0007】
また、前記板材に、SUS301−CSP1/2HまたはSUS304−CSP1/2Hのオーステナイト系のばね用ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0008】
この発明によれば、規格化されたばね用ステンレス鋼を用いることで、所定の物性をもつ素材を入手するのが容易になる。
【0009】
前記板材の厚さが、1.7〜2.3mmであることが好ましい。
【0010】
この発明によれば、標準厚さより厚めの板材を用いることで、手摺の取り付け具として必要な所定の剛性を確保することができる。
【0011】
また、前記係止手段は、一対の前記板材が中間部で互いに回転可能に連結されて、前記板材の側部に前記一対の板材の開き角度を規制するストッパーが設けられていることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、板材の側部に設けられたストッパーで一対の板材の開き角度を規制するので、板材が回転し過ぎるのを防ぎ、2枚の板材を所定範囲の開き角度に開かせた状態で、板材に壁材の背面を押圧させる。これにより、板材から壁材の背面に伝達される荷重を分散させることができる。
【0013】
本発明の壁用固定具の取り付け方法は、上記のいずれかに記載の壁用固定具の取り付け方法であって、前記係止手段に、前記係止手段が前記壁材の背面側にある状態で前記壁材の前面側から前記係止手段を操作するための操作手段を装着する工程と、前記壁材に形成された孔から、前記操作手段が装着された状態で、前記壁材の背面側に前記係止手段を入れ込む工程と、前記壁材の前記孔を通じて、前記支持手段を、前記壁材の背面側に位置する前記係止手段に連結する工程とを含み、前記支持手段を前記係止手段に連結する際に、前記操作手段を前記支持手段で押し出して、前記壁材の背面側に脱落させることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、壁材の背面側に入れ込まれた係止手段に装着されている操作手段は、支持手段が係止手段に連結されたときに、支持手段によって押し出されて壁材の背面側に脱落するので、壁材の背面側にある操作手段を取り外す手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、被支持体に荷重が加わった場合に、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下で、本実施の形態の手摺の取り付け具および該取り付け具の取り付け方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、壁材W1に固定される手摺の取り付け具(壁用固定具)を説明するための図である。図2は、壁材W1に固定された手摺の取り付け具を説明するための図である。
【0018】
実施の形態1の手摺の取り付け具は、図1に示されるように、壁材W1に形成された設置孔W1aの縁部分に固定される固設手段2と、壁材W1と壁材W2との間の空間に、設置孔W1aから挿入されて、壁材W1の背面Bを押圧する係止手段3と、係止手段3に連結された状態で壁材W1の前面F側に設けられ、手摺本体(被支持体)H(図14、図15、図16参照)を支持する支持手段4とを備えている。
【0019】
壁材W1に取り付け具100が取り付けられる状態では、図1および図2に示されるように、係止手段3は、壁材W1と、壁材W1から所定の間隔を空けて壁材W1に平行に設けられた壁材W2との間の空間、すなわち、壁材W1の背面B側に備えられる。また、壁材W1の前面Fには、支持手段4が備えられ、係止手段3と支持手段4とで壁材W1を挟み込むようにして、取り付け具が据え付けられる。本実施の形態では、取り付け具による損壊が生じやすい石膏ボードなどの壁材W1に対して、貫木などを介さずに、直接、取り付け具が固定される場合について説明する。
【0020】
図3は、固設手段2を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【0021】
固設手段2は、壁材W1に形成された設置孔W1aの周縁部を補強するためのものである。固設手段2は、図3(a)、図3(b)および図3(c)に示されるように、環状を呈した当接部21と、当接部21の内周縁に沿って設けられ、当接部21に対して略垂直に延出した装着部22とを有する。固設手段2が壁材W1の設置孔W1aに設置されると、当接部21は、壁材W1の前面Fに当接し、装着部22は、設置孔W1aの側縁(厚さ方向の面)に接する。
【0022】
係止手段3は、支持部材4を壁材W1前面F側の所定の位置に支持するとともに、手摺本体Hに掛かった荷重を壁材W1の背面Bに伝達するためのものである。係止手段3は、同一形状の2枚の板材(以下、板ばねという)31と、これら板ばね31を保持する保持部33と、板ばね31を所定の位置に位置決めする抜け止め部材34とを備えている。係止手段3は、2枚の板ばね31が中間部で互いに回転可能に連結されたものである。
【0023】
図4は、板ばね31を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は(a)のV−V位置における断面図を示し、(c)は側面図を示し、(d)は背面図を示す。
【0024】
板ばね31は、図4(a)〜図4(d)に示されるように、平面視で帯状を呈した金属製の薄板であり、側面視では弓形に湾曲している。そして、両端部には、板ばね31全体の湾曲方向と反対の方向に反った押圧部31bが形成されている。押圧部31bは、壁材W1に形成された設置孔W1aの周縁部背面Bを押圧し、手摺本体Hに加わった荷重を壁材W1に伝達する部分である。板ばね31の中央部には、保持部33が挿入される、正面視で所定の形状を呈した係合孔31aが形成されている。係合孔31aは、平面視で、略円形状の摺動部31a1と、摺動部31a1の円の中心を挟んで向かい合うように摺動部31a1の縁に凹状に形成された一対の係合部31a2とを含む。また、板ばね31の長手側の側部には、回転止め(ストッパー)31cが1つ形成されている。回転止め31cは、板ばね31の湾曲方向(突出方向)の反対方向に延出している。
【0025】
図5は、壁材W1に固定された手摺の取り付け具を壁材W1の背面B側から見た状態を説明する図であり、(a)は板ばね31を壁材W1の背面B側に挿入した状態を示し、(b)は板ばね31を所定の角度回転させた状態を示す。
【0026】
2枚の板ばね31は、図5(a)および図5(b)に示されるように、壁材W1の背面B側で、2枚の板ばねのうち、一方の板ばね31を回転させて、略十字状に直交するような状態で取り付けられる。
【0027】
2枚の板ばね31は、一方の板ばね31に対して他方の板ばね31が、平面視で180度回転した状態で、かつ、湾曲方向(突出方向)を同一の方向に向けて保持部33に取り付けられる。そして、図5(a)および図5(b)に示されるように、湾曲方向外側に配置された一方の板ばね31の回転止め31cは、一方の板ばね31が他方の板ばね31に対して所定の角度(本実施の形態では、略90度)回転したときに、他方の板ばね31の側部に係合して、一方の板ばね31の回転を停止させ、2枚の板ばね31の開き角度を規制する。このようにして、回転止め31cは、一対の板ばね31の開き角度を規制し、板ばね31が回転し過ぎるのを防ぐ。そして、2枚の板ばね31を所定の開き角度に開かせた状態で、板ばね31の押圧部31bに壁材W1の背面Bを押圧させる。これにより、板ばね31から壁材W1の背面Bに伝達される荷重を分散させる。
【0028】
本実施の形態では、これら板ばね31の材質としては、ばね用ステンレス鋼(JIS G 4313参照)を用いている。ばね用ステンレス鋼としては、たとえば、SUS 301−CSP 1/2H、SUS 301−CSP 3/4H、SUS 301−CSP H、SUS 301−CSP EH、SUS 301−CSP SEH、SUS 304−CSP 1/2H、SUS 304−CSP 3/4H、SUS 304−CSP Hなどのオーステナイト系、SUS 420J2−CSP 0などのマルテンサイト系、SUS 631−CSP 0、SUS 631−CSP 1/2H、SUS 631−CSP 3/4H、SUS 631−CSP H、SUS 632 J1−CSP 1/2H、SUS 632 J1−CSP 3/4Hなどの析出硬化系などがあげられる。板ばね31の材質としては、オーステナイト系のばね用ステンレス鋼が好ましい。本実施の形態では、板ばね31の材質に、SUS 304−CSP 1/2Hを用いている。板ばね31の材質として、所定の硬度を有するSUS 304−CSP 1/2Hを用いることによって、板ばね31の製造に使用する金型を長持ちさせることができ、量産性を上げることができる。また、板ばね31の材質として、規格化されたばね用ステンレス鋼を用いることで、容易に所定の物性をもつ素材を入手することができる。
【0029】
また、板ばね31の厚さとしては、1.7mm以上であることが好ましく、1.8mm以上であることがより好ましい。また、板ばね31の厚さとしては、2.3mm以下であることが好ましく、2.2mm以下であることがより好ましい。板ばね31の厚さが1.7mm未満であると、係止手段3としての剛性を確保するのが困難になる傾向があり、板ばねの厚さが2.3mmを超えると、手摺本体Hに荷重がかかったときに、板ばね31を変形させ難くなるとともに、板ばね31を弓形の形状に加工するのが困難になる傾向がある。
【0030】
図6は、保持部33を説明するための図であり、図6(a)は側面図を示し、図6(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。図7は、保持部33を説明するための図であり、図7(a)は図6(b)のII−II位置における断面図を示し、図7(b)は図6(b)のI−I位置における断面図を示す。
【0031】
保持部33は、係止手段3と支持部材4とを一体にするための筒状の部材である。保持部33は、周面側で2枚の板ばね31および抜け止め部材34を保持するとともに、中心を貫通するように形成された着脱孔33a内で後述の支持手段4を保持する。保持部33は図6(a)および図6(b)に示されるように、2枚の板ばね31が取り付けられる部分である取付部33bと、2枚の板ばね31のうち、一方の板ばね31のみを保持部33の回転とともに回転させるための部分である係合突部33cと、板ばね31の脱落を防ぎつつ、板ばね31に荷重を伝達する部分である伝達部33dとを含む。
【0032】
図7(a)および図7(b)に示されるように、取付部33bの横断面形状は、円形状を呈している。取付部33bの外径は、板ばね31に形成された係合孔31aの摺動部31a1の内径とほぼ等しいか、やや小さい。これにより、取付部33bにのみ取り付けられた板ばね31は、保持部33が着脱孔33aの軸心を中心軸として回転しても、この回転と連動しない。また、図7(a)および図7(b)に示されるように、係合突部33cは、取付部33bの外周面から突出するように、着脱孔33aの中心を挟んで1対形成されている。2枚の板ばね31のうち、係合突部33cが形成されている部分に取り付けられた板ばね31は、係合孔31aの係合部31a2が係合突部33cに係合する。これにより、係合突部33cが形成されている部分に取り付けられた板ばね31は、保持部33が着脱孔33aの軸心を中心軸として回転すると、保持部33の回転とともに連動して回転する。
【0033】
したがって、保持部33に取り付けられた2枚の板ばね31のうち、一方のみを保持部33の回転と連動させて回転させることができる。
【0034】
ここで、板ばね31の係合孔31aの形状は、上述したように複合的な形状を呈している。これによって、2枚の板ばね31に形成される係合孔31aの形状が同じ形状であっても、一方の板ばね31のみを保持部33の係合突部33cに係合させれば、一方の板ばね31のみを保持部33とともに回転させることができる。すなわち、双方の板ばね31に形成される係合孔31aの形状を保持部33の取り付け位置に応じて互いに異ならせる必要がない。したがって、2枚の板ばね31を同一形状にすることができ、板ばね31を量産し易く、板ばね31の保管や管理を容易に行なうことができる。
【0035】
伝達部33dは、図6(a)、図6(b)および図6(c)に示されるように、保持部33の端部に、着脱孔33aの径方向外方に突出するように形成された鍔状の部分である。保持部33が、板ばね31の係合孔31aの周縁部を押圧して、支持手段4を介して手摺本体Hに掛かった荷重を受けると、伝達部33dが、取付部33bおよび係合突部33cに取り付けられた板ばね31に対して力を伝達する。また、伝達部33dは、後述の抜け止め部材34とともに板ばね31が保持部33から脱落するのを防ぐ。
【0036】
抜け止め部材34は、略環状を呈した部材である(図11参照)。抜け止め部材34は、保持部33に形成された周溝33eに嵌め込まれて設置される。抜け止め部材34は、2枚の板ばね31が、保持部33の着脱孔33aの中心軸方向へ移動するのを規制し、保持部33から脱落するのを防ぐ。
【0037】
図8は、支持手段4を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は側面図を示す。図9は、支持手段4を説明するための図であり、図8(a)のX−X位置における断面図を示す。
【0038】
支持手段4は、手摺本体Hの端部を壁材W1の所定の位置に支持するとともに、壁材W1の背面B側に設けられた係止手段3と手摺本体Hとを一体にするためのものである。さらに、支持手段4は、取り付け具100の取り付け時に、係止手段3の2枚の板ばね31のうちの一方の板ばね31を壁材W1の前面F側から操作して回転させる役割をも有する。
【0039】
支持手段4は、図8(a)、図8(b)および図9に示されるように、本体部41と、鍔部42と、連結部43とを含む。本体部41は、手摺本体Hを固定するための略円盤状の部分であり、一方の面に、手摺本体Hを取り付け具に固定するためのねじ孔41bと、手摺本体Hを回転させるための治具を係合させる溝41cとが形成されている。鍔部42は、支持手段4を固設手段2の当接部21に当接させて、2枚の板ばね31とともに壁材W1を挟み込むための部分であり、本体部41の周縁部から外方へ向けて延出するように形成されている。連結部43は、係止手段3を取り付けるための軸状の部分であり、本体部41の他方の面から突出するように形成されている。連結部43は、本体部41の他方の面から突出する対向部43aと、対向部43aの先端からさらに突出するように形成された嵌入軸43bとを含む。嵌入軸43bの直径は、保持部33の着脱孔33aの内径とほぼ同じであり、対向部43aの直径は、嵌入軸43bの直径より大きい。したがって、嵌入軸43bと対向部43aとの間には段差ができている。連結部43は、取り付け時に、保持部33の着脱孔33aに、対向部33aと嵌入軸43aとの境界にできた段差にぶつかるまで挿入される。さらに、支持手段4には、本体部41から連結部43を貫通するように貫通孔41cが形成されている。貫通孔41cは、後述する操作ひも51を挿通させるための孔である。
【0040】
支持手段4は、連結部43が突出する側を壁材W1に形成された設置孔W1aに挿入するように嵌め込まれる。そして、同時に、連結部43の嵌入軸43bは、係止手段3の保持部33に形成された着脱孔33aに装着される。
【0041】
この手摺の取り付け具の取り付け方法について、以下で詳しく説明する。
【0042】
まず、作業者は、壁材W1に設置孔W1aを形成する。そして、固設手段2の装着部22を設置孔W1aの側縁に接するように、また、当接部21を設置孔W1aの周縁部前面Fに当接するように装着する。
【0043】
つぎに、作業者は、係止手段3を壁材W1の背面B側に挿入するための準備をする。係止手段3を壁材W1の背面B側に挿入する際には、作業者の手が届かない壁材W1の背面B側にある係止手段3を適切に操作するための操作手段5を用いる。
【0044】
操作手段5は、操作ひも51(図1参照)と、操作ひも51に加えた力を効率よく係止手段3に伝達するためのキャップ53と、操作ひも51の先端に取り付けられる持ち手52(図1参照)とを含む。
【0045】
図10は、操作手段5のキャップ53を説明するための図であり、図10(a)は斜視図を示し、図10(b)は図10(a)のXI−XI位置における断面図を示す。
【0046】
キャップ53は、図10(a)および図10(b)に示されるように、略円盤状の部材に、2つの挿通孔53aが形成されたものである。この2つの挿通孔53aは、操作ひも51を折り返すための孔である。
【0047】
作業者は、キャップ53を、予め、係止手段3の保持部33の先端部に装着しておく。さらに、作業者は、保持部33の着脱孔33aからキャップ53の2つの挿通孔53aを通過するように操作ひも51を途中で折り返して通しておく。
【0048】
操作手段5の準備を整えると、作業者は、係止手段3を設置孔W1aから壁材W1の背面B側に挿入する。図11〜図13は、壁材W1に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図である。図11は、係止手段3が、操作手段5のキャップ53および操作ひも51を装着した状態で壁材W1の背面B側に挿入される状態を説明する断面図である。図12は、支持手段4を取り付ける状態を説明する断面図である。図13は、取り付け具が壁材W1を挟み込むように固定された状態を説明する断面図である。図14は、壁材W1に固定された手摺本体Hに過度な荷重が加わり、係止手段3の板ばね31が変形して支持手段4が位置ずれした状態を説明する断面図である。
【0049】
具体的には、まず、作業者は、2枚の板ばね31を閉じた状態(2枚の板ばね31の長手方向を同一の方向に向けた状態)で、係止手段3を、図11に示されるように、壁材W1に形成された設置孔W1aを経て、壁材W1の前面F側から背面B側へ入れ込む。このとき、作業者は、操作ひも51の端部および端部に設けられた持ち手52を壁材W1の前面F側から離れる方向に引っ張り、係止手段3を壁材W1の背面B側に吊り下げるようにして支持する。そして、作業者は、係止手段3を、係止手段3の外径より小さな内径の設置孔W1aを通過させる。
【0050】
係止手段3が壁材W1の背面B側に入れ込まれると、作業者は、図12に示されるように、操作ひも51を水平方向に引っ張り、係止手段3を、壁材W1の背面Bの所定の位置、つまり、保持部33を設置孔1aの中心に位置するように配置させる。
【0051】
つぎに、作業者は、操作ひも51を支持手段4の連結部43が形成されている側から貫通孔41aに挿通し、支持手段4を設置孔W1aに嵌め入れる。このとき、作業者は、支持手段4の嵌入軸43bを保持部33の着脱孔33aに装着する。これによって、壁材W1は、2枚の板ばね31と支持手段4とによって、厚さ方向に挟み込まれる。また、このとき、操作手段5のキャップ53および操作ひも51は、連結部43の先端によって押し出され、壁材W1の背面B側に落下する(図13参照)。このように、壁材W1の背面B側に入れ込まれた係止手段3に装着された操作手段5のキャップ53は、支持手段4の連結部43が係止手段3の保持部33の着脱孔33aに連結されたときに、支持手段4によって押し出されて壁材W1の背面B側に脱落するので、壁材W1の背面B側にある操作手段5のキャップ53を取り外す手間を省くことができる。
【0052】
つぎに、作業者は、支持手段4の本体部41に形成された溝41cに治具の先端を係合させて、治具を回転させることにより、支持手段4を回転させる。この支持手段4の回転とともに、保持部33は回転し、2枚の板ばね31のうち、保持部33の係合突部33cに係合している一方の板ばね31は、その回転止め31cが他方の板ばね31に係合するまで連動して回転する。こうして、壁材W1の背面Bに配置された2枚の板ばね31は、図5(a)の状態から図5(b)の状態になるように、壁材W1の前面F側で操作される。そして、各板ばね31の押圧部31bは、壁材W1の背面Bの設置孔W1aの周縁部に当接する。
【0053】
最後に、作業者は、支持手段4に手摺本体Hを固定して、手摺の取り付け具および手摺本体Hの設置を終える。
【0054】
このようにして設置された手摺本体Hに荷重が加わると、支持手段4を介して係止手段3を構成する2枚の板ばね31に荷重が伝達される。板ばね31に荷重が伝達されると、板ばね31は弾性変形して、エネルギーの一部を吸収し、板ばね31から壁材W1に伝達される荷重を減少させる。これにより、壁材W1に繰り返し外力が働いて壁材W1の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。
【0055】
また、図14は、壁材W1に固定された手摺本体Hに衝撃など動的荷重が加わり、係止手段3の板ばね31が変形して支持手段4が位置ずれした状態を説明する断面図である。たとえば、図14に示されるように、手摺本体Hに衝撃などの過度な動的荷重が掛かった場合には、係止手段3の板ばね31が大きく弾性変形して、支持手段4の本体部41が、設置孔W1aから壁材W1の外方(前面F側)へ外れる方向へ位置ずれする。これにより、取り付け具が受けたエネルギーの一部が吸収され、壁材W1に伝達される荷重が減少する。したがって、取り付け具が壁材W1を破壊することを避けることができる。さらに、板ばね31の変形が、弾性変形であれば、板ばね31は、手摺本体Hに加わった荷重が取り除かれると再び元の形状に戻る。したがって、手摺本体Hおよび取り付け具全体もまた、再び元の形状に戻り、手摺を引き続き使用することができる。
【0056】
以上の実施の形態によれば、壁材W1の背面Bを押圧する弓形に湾曲した形状の2枚の板ばね31が、ばね用ステンレス鋼により形成されている。手摺本体Hに対して荷重が加わると、支持手段4を介して係止手段3に力が伝達され、ばね用ステンレス鋼により形成された板ばね31は弾性変形する。これにより、取り付け具が受けたエネルギーの一部は吸収される。そして、板ばね31から壁材W1の背面Bに伝達される力は減少する。これにより、壁材W1に繰り返し外力が働いて壁材W1の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。また、手摺本体Hに対して衝撃などの過剰に大きな動的荷重が加わった場合には、ばね用ステンレス鋼により形成された板ばね31を大きく弾性変形させることによって、支持手段4までをも変位させて、取り付け具100が受けたエネルギーの一部を吸収し、壁材W1に伝達される荷重を減少させる。言い換えれば、壁材W1を破壊に至らしめるためには、手摺本体Hに対して従来よりも大きな荷重を加えなければならない。したがって、手摺の取り付け具100が取り付けられた壁材W1の寿命を延ばすことができるとともに、衝撃などの動的な荷重が加わった場合にも、壁材W1が破壊に至るのを遅らせることができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、壁用固定具として、被支持体である手摺本体Hを壁伝いに固定する手摺の取り付け具について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば、壁用固定具としては、壁に沿って配置されたタンスや棚などに連結されて、それらの転倒を防止するための被支持体を、壁材に固定するタイプのものであってもよい。あるいは、棚そのものを被支持体として壁用固定具に連結するタイプのものであってもよい。
【実施例】
【0058】
以下で、本発明の実施例を示すが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
(引張荷重試験)
引張り圧縮試験機を用いて、図15に示されるように、手摺につぎの条件で引張り荷重を加えた。なお、壁材W1は、下端が鉄鋼製の2つの狭持具Sで狭持されており、試験機の荷重を受けることによる壁材W1および壁材W2の持ち上がりを防いでいる。
【0060】
試験機;(株)今田製作所 SDW1000SL
荷重方向; 鉛直上方
試験温度;28 ℃
試験湿度;29 %
手摺長さ;500 mm(2つの取り付け具の中心間隔)
壁材W1;石膏ボード
壁材W1の厚さ;9.5 mm
圧縮速度;10 mm/min
板ばねの材質;(実施例)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(比較例)SUS 304のステンレス鋼
板ばねの板厚;2.0 mm
板ばねの半径;64.02 mm
板ばねの幅;25 mm
引張荷重試験の試験結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示されるように、板ばねにばね用ステンレス鋼を用いた実施例では、板ばねに通常のステンレス鋼を用いた比較例より、大きな荷重に耐えられた。
【0063】
(繰り返し荷重試験)
図16(a)および図16(b)に示されるように、手摺本体Hの中央部に、ベルトを用いて所定の重さの錘Wをぶら下げ、錘Wが試験機D上に載置された状態(図16(a))から落下させて(図16(b))、手摺に動的な荷重を繰り返し加える。なお、壁材W1は、所定の間隔を空けて設置された2本の支柱Cに固定されている。
【0064】
振動負荷回数;23回/分
試験温度;30 ℃(室温)
壁材W1;石膏ボード
壁材W1の厚さ;9.5 mm
手摺長さ;500 mm(2つの取り付け具の中心の間隔)
板ばねの材質;(実施例1)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(実施例2)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(比較例)SUS 304のステンレス鋼
板ばねの板厚;2.0 mm
板ばねの半径;64.02 mm
板ばねの幅;25 mm
繰り返し荷重試験の試験結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示されるように、板ばねの材質にばね用ステンレス鋼を用いた実施例1および実施例2では、板ばねの材質に通常のステンレス鋼を用いた比較例より良好な耐久性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】壁材に固定される手摺の取り付け具を説明するための図である。
【図2】壁材に固定された手摺の取り付け具を説明するための図である。
【図3】固設手段を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【図4】板ばねを説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は(a)のV−V位置における断面図を示し、(c)は側面図を示し、(d)は背面図を示す。
【図5】壁材に固定された手摺の取り付け具を壁材の背面側から見た状態を説明する図であり、(a)は第1の板ばねおよび第2の板ばねを壁材の背面側に挿入した状態を示し、(b)は第1の板ばねを所定の角度回転させた状態を示す。
【図6】保持部を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【図7】保持部を説明するための図であり、(a)は図6(b)のII−II位置における断面図を示し、(b)は図6(b)のI−I位置における断面図を示す。
【図8】支持手段を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図9】支持手段を説明するための図であり、図8(a)のX−X位置における断面図を示す。
【図10】操作手段のキャップを説明するための図であり、(a)は斜視図を示し、(b)は(a)のXI−XI位置における断面図を示す。
【図11】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、係止手段が、操作手段のキャップおよび操作ひもを付けた状態で壁材の背面側に挿入される状態を説明する断面図である。
【図12】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、支持手段を取り付ける状態を説明する断面図である。
【図13】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、取り付け具が所定の位置に固定された状態を説明する断面図である。
【図14】壁材に固定された手摺に過度な荷重が加わり、係止手段が変形して支持手段が位置ずれした状態を説明する断面図である。
【図15】引張荷重試験を説明するための図である。
【図16】繰り返し荷重試験を説明するための図であり、(a)は試験機上に錘が載置された状態を示し、(b)は試験機が稼働して錘が落下した状態を示す。
【符号の説明】
【0068】
3 係止手段
31 板ばね(板材)
4 支持手段
100 手摺の取り付け具(壁用固定具)
H 手摺本体(被支持体)
W1 壁材
B 壁材の背面
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具および該壁用固定具の取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁伝いに設置される手摺が知られている。手摺は、主に、長尺状の手摺本体と、手摺本体の端部に設けられて手摺本体(被支持体)を所定の高さに支持する取り付け具(壁用固定具)とから構成されている。取り付け具は、手摺本体に加わる荷重を壁材に伝達する重要な役割を担っており、壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許登録第2903313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術では、石膏ボード等からなる壁材に対して、桟木などを介さずに、直に取り付け具が取り付けられている場合、手摺本体に荷重が加わった際に、壁材の背面側から受ける荷重によって、壁材が損壊しやすい。
【0004】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、被支持体に荷重が加わった場合に、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる壁用固定具および該壁用固定具の取り付け方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の壁用固定具は、弓形に湾曲した形状を呈し壁材の背面を押圧する板材を含む係止手段と、該係止手段に連結された状態で前記壁材の前面側に設けられ、被支持体を支持する支持手段とを有し、前記係止手段および前記支持手段で前記壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、前記板材が、板ばねにより形成されていることを特徴とする。
【0006】
この発明によれば、壁材の背面を押圧する弓形に湾曲した形状の板材が、板ばねにより形成されている。被支持体に対して荷重が加わると、支持手段を介して係止手段に力が伝達される。そして、係止手段を構成するばね用ステンレス鋼により形成された板材は、その弾性変形により、取り付け具が受けたエネルギーの一部を吸収する。そして、板材から壁材の背面に伝達される力は減少する。これにより、壁材に繰り返し外力が働いて壁材の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。また、被支持体に対して衝撃などの動的荷重が加わった場合には、ばね用ステンレス鋼により形成された板材を大きく弾性変形させることによって、取り付け具が受けたエネルギーの一部が吸収され、壁材に伝達される荷重を減少させる。言い換えれば、壁材を破壊に至らしめるためには、被支持体に対して従来よりも大きな荷重を加えなければならない。したがって、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる。
【0007】
また、前記板材に、SUS301−CSP1/2HまたはSUS304−CSP1/2Hのオーステナイト系のばね用ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0008】
この発明によれば、規格化されたばね用ステンレス鋼を用いることで、所定の物性をもつ素材を入手するのが容易になる。
【0009】
前記板材の厚さが、1.7〜2.3mmであることが好ましい。
【0010】
この発明によれば、標準厚さより厚めの板材を用いることで、手摺の取り付け具として必要な所定の剛性を確保することができる。
【0011】
また、前記係止手段は、一対の前記板材が中間部で互いに回転可能に連結されて、前記板材の側部に前記一対の板材の開き角度を規制するストッパーが設けられていることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、板材の側部に設けられたストッパーで一対の板材の開き角度を規制するので、板材が回転し過ぎるのを防ぎ、2枚の板材を所定範囲の開き角度に開かせた状態で、板材に壁材の背面を押圧させる。これにより、板材から壁材の背面に伝達される荷重を分散させることができる。
【0013】
本発明の壁用固定具の取り付け方法は、上記のいずれかに記載の壁用固定具の取り付け方法であって、前記係止手段に、前記係止手段が前記壁材の背面側にある状態で前記壁材の前面側から前記係止手段を操作するための操作手段を装着する工程と、前記壁材に形成された孔から、前記操作手段が装着された状態で、前記壁材の背面側に前記係止手段を入れ込む工程と、前記壁材の前記孔を通じて、前記支持手段を、前記壁材の背面側に位置する前記係止手段に連結する工程とを含み、前記支持手段を前記係止手段に連結する際に、前記操作手段を前記支持手段で押し出して、前記壁材の背面側に脱落させることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、壁材の背面側に入れ込まれた係止手段に装着されている操作手段は、支持手段が係止手段に連結されたときに、支持手段によって押し出されて壁材の背面側に脱落するので、壁材の背面側にある操作手段を取り外す手間を省くことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、壁用固定具が取り付けられた壁材の寿命を延ばすことができるとともに、被支持体に荷重が加わった場合に、壁材が破壊に至るのを遅らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下で、本実施の形態の手摺の取り付け具および該取り付け具の取り付け方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、壁材W1に固定される手摺の取り付け具(壁用固定具)を説明するための図である。図2は、壁材W1に固定された手摺の取り付け具を説明するための図である。
【0018】
実施の形態1の手摺の取り付け具は、図1に示されるように、壁材W1に形成された設置孔W1aの縁部分に固定される固設手段2と、壁材W1と壁材W2との間の空間に、設置孔W1aから挿入されて、壁材W1の背面Bを押圧する係止手段3と、係止手段3に連結された状態で壁材W1の前面F側に設けられ、手摺本体(被支持体)H(図14、図15、図16参照)を支持する支持手段4とを備えている。
【0019】
壁材W1に取り付け具100が取り付けられる状態では、図1および図2に示されるように、係止手段3は、壁材W1と、壁材W1から所定の間隔を空けて壁材W1に平行に設けられた壁材W2との間の空間、すなわち、壁材W1の背面B側に備えられる。また、壁材W1の前面Fには、支持手段4が備えられ、係止手段3と支持手段4とで壁材W1を挟み込むようにして、取り付け具が据え付けられる。本実施の形態では、取り付け具による損壊が生じやすい石膏ボードなどの壁材W1に対して、貫木などを介さずに、直接、取り付け具が固定される場合について説明する。
【0020】
図3は、固設手段2を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【0021】
固設手段2は、壁材W1に形成された設置孔W1aの周縁部を補強するためのものである。固設手段2は、図3(a)、図3(b)および図3(c)に示されるように、環状を呈した当接部21と、当接部21の内周縁に沿って設けられ、当接部21に対して略垂直に延出した装着部22とを有する。固設手段2が壁材W1の設置孔W1aに設置されると、当接部21は、壁材W1の前面Fに当接し、装着部22は、設置孔W1aの側縁(厚さ方向の面)に接する。
【0022】
係止手段3は、支持部材4を壁材W1前面F側の所定の位置に支持するとともに、手摺本体Hに掛かった荷重を壁材W1の背面Bに伝達するためのものである。係止手段3は、同一形状の2枚の板材(以下、板ばねという)31と、これら板ばね31を保持する保持部33と、板ばね31を所定の位置に位置決めする抜け止め部材34とを備えている。係止手段3は、2枚の板ばね31が中間部で互いに回転可能に連結されたものである。
【0023】
図4は、板ばね31を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は(a)のV−V位置における断面図を示し、(c)は側面図を示し、(d)は背面図を示す。
【0024】
板ばね31は、図4(a)〜図4(d)に示されるように、平面視で帯状を呈した金属製の薄板であり、側面視では弓形に湾曲している。そして、両端部には、板ばね31全体の湾曲方向と反対の方向に反った押圧部31bが形成されている。押圧部31bは、壁材W1に形成された設置孔W1aの周縁部背面Bを押圧し、手摺本体Hに加わった荷重を壁材W1に伝達する部分である。板ばね31の中央部には、保持部33が挿入される、正面視で所定の形状を呈した係合孔31aが形成されている。係合孔31aは、平面視で、略円形状の摺動部31a1と、摺動部31a1の円の中心を挟んで向かい合うように摺動部31a1の縁に凹状に形成された一対の係合部31a2とを含む。また、板ばね31の長手側の側部には、回転止め(ストッパー)31cが1つ形成されている。回転止め31cは、板ばね31の湾曲方向(突出方向)の反対方向に延出している。
【0025】
図5は、壁材W1に固定された手摺の取り付け具を壁材W1の背面B側から見た状態を説明する図であり、(a)は板ばね31を壁材W1の背面B側に挿入した状態を示し、(b)は板ばね31を所定の角度回転させた状態を示す。
【0026】
2枚の板ばね31は、図5(a)および図5(b)に示されるように、壁材W1の背面B側で、2枚の板ばねのうち、一方の板ばね31を回転させて、略十字状に直交するような状態で取り付けられる。
【0027】
2枚の板ばね31は、一方の板ばね31に対して他方の板ばね31が、平面視で180度回転した状態で、かつ、湾曲方向(突出方向)を同一の方向に向けて保持部33に取り付けられる。そして、図5(a)および図5(b)に示されるように、湾曲方向外側に配置された一方の板ばね31の回転止め31cは、一方の板ばね31が他方の板ばね31に対して所定の角度(本実施の形態では、略90度)回転したときに、他方の板ばね31の側部に係合して、一方の板ばね31の回転を停止させ、2枚の板ばね31の開き角度を規制する。このようにして、回転止め31cは、一対の板ばね31の開き角度を規制し、板ばね31が回転し過ぎるのを防ぐ。そして、2枚の板ばね31を所定の開き角度に開かせた状態で、板ばね31の押圧部31bに壁材W1の背面Bを押圧させる。これにより、板ばね31から壁材W1の背面Bに伝達される荷重を分散させる。
【0028】
本実施の形態では、これら板ばね31の材質としては、ばね用ステンレス鋼(JIS G 4313参照)を用いている。ばね用ステンレス鋼としては、たとえば、SUS 301−CSP 1/2H、SUS 301−CSP 3/4H、SUS 301−CSP H、SUS 301−CSP EH、SUS 301−CSP SEH、SUS 304−CSP 1/2H、SUS 304−CSP 3/4H、SUS 304−CSP Hなどのオーステナイト系、SUS 420J2−CSP 0などのマルテンサイト系、SUS 631−CSP 0、SUS 631−CSP 1/2H、SUS 631−CSP 3/4H、SUS 631−CSP H、SUS 632 J1−CSP 1/2H、SUS 632 J1−CSP 3/4Hなどの析出硬化系などがあげられる。板ばね31の材質としては、オーステナイト系のばね用ステンレス鋼が好ましい。本実施の形態では、板ばね31の材質に、SUS 304−CSP 1/2Hを用いている。板ばね31の材質として、所定の硬度を有するSUS 304−CSP 1/2Hを用いることによって、板ばね31の製造に使用する金型を長持ちさせることができ、量産性を上げることができる。また、板ばね31の材質として、規格化されたばね用ステンレス鋼を用いることで、容易に所定の物性をもつ素材を入手することができる。
【0029】
また、板ばね31の厚さとしては、1.7mm以上であることが好ましく、1.8mm以上であることがより好ましい。また、板ばね31の厚さとしては、2.3mm以下であることが好ましく、2.2mm以下であることがより好ましい。板ばね31の厚さが1.7mm未満であると、係止手段3としての剛性を確保するのが困難になる傾向があり、板ばねの厚さが2.3mmを超えると、手摺本体Hに荷重がかかったときに、板ばね31を変形させ難くなるとともに、板ばね31を弓形の形状に加工するのが困難になる傾向がある。
【0030】
図6は、保持部33を説明するための図であり、図6(a)は側面図を示し、図6(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。図7は、保持部33を説明するための図であり、図7(a)は図6(b)のII−II位置における断面図を示し、図7(b)は図6(b)のI−I位置における断面図を示す。
【0031】
保持部33は、係止手段3と支持部材4とを一体にするための筒状の部材である。保持部33は、周面側で2枚の板ばね31および抜け止め部材34を保持するとともに、中心を貫通するように形成された着脱孔33a内で後述の支持手段4を保持する。保持部33は図6(a)および図6(b)に示されるように、2枚の板ばね31が取り付けられる部分である取付部33bと、2枚の板ばね31のうち、一方の板ばね31のみを保持部33の回転とともに回転させるための部分である係合突部33cと、板ばね31の脱落を防ぎつつ、板ばね31に荷重を伝達する部分である伝達部33dとを含む。
【0032】
図7(a)および図7(b)に示されるように、取付部33bの横断面形状は、円形状を呈している。取付部33bの外径は、板ばね31に形成された係合孔31aの摺動部31a1の内径とほぼ等しいか、やや小さい。これにより、取付部33bにのみ取り付けられた板ばね31は、保持部33が着脱孔33aの軸心を中心軸として回転しても、この回転と連動しない。また、図7(a)および図7(b)に示されるように、係合突部33cは、取付部33bの外周面から突出するように、着脱孔33aの中心を挟んで1対形成されている。2枚の板ばね31のうち、係合突部33cが形成されている部分に取り付けられた板ばね31は、係合孔31aの係合部31a2が係合突部33cに係合する。これにより、係合突部33cが形成されている部分に取り付けられた板ばね31は、保持部33が着脱孔33aの軸心を中心軸として回転すると、保持部33の回転とともに連動して回転する。
【0033】
したがって、保持部33に取り付けられた2枚の板ばね31のうち、一方のみを保持部33の回転と連動させて回転させることができる。
【0034】
ここで、板ばね31の係合孔31aの形状は、上述したように複合的な形状を呈している。これによって、2枚の板ばね31に形成される係合孔31aの形状が同じ形状であっても、一方の板ばね31のみを保持部33の係合突部33cに係合させれば、一方の板ばね31のみを保持部33とともに回転させることができる。すなわち、双方の板ばね31に形成される係合孔31aの形状を保持部33の取り付け位置に応じて互いに異ならせる必要がない。したがって、2枚の板ばね31を同一形状にすることができ、板ばね31を量産し易く、板ばね31の保管や管理を容易に行なうことができる。
【0035】
伝達部33dは、図6(a)、図6(b)および図6(c)に示されるように、保持部33の端部に、着脱孔33aの径方向外方に突出するように形成された鍔状の部分である。保持部33が、板ばね31の係合孔31aの周縁部を押圧して、支持手段4を介して手摺本体Hに掛かった荷重を受けると、伝達部33dが、取付部33bおよび係合突部33cに取り付けられた板ばね31に対して力を伝達する。また、伝達部33dは、後述の抜け止め部材34とともに板ばね31が保持部33から脱落するのを防ぐ。
【0036】
抜け止め部材34は、略環状を呈した部材である(図11参照)。抜け止め部材34は、保持部33に形成された周溝33eに嵌め込まれて設置される。抜け止め部材34は、2枚の板ばね31が、保持部33の着脱孔33aの中心軸方向へ移動するのを規制し、保持部33から脱落するのを防ぐ。
【0037】
図8は、支持手段4を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は側面図を示す。図9は、支持手段4を説明するための図であり、図8(a)のX−X位置における断面図を示す。
【0038】
支持手段4は、手摺本体Hの端部を壁材W1の所定の位置に支持するとともに、壁材W1の背面B側に設けられた係止手段3と手摺本体Hとを一体にするためのものである。さらに、支持手段4は、取り付け具100の取り付け時に、係止手段3の2枚の板ばね31のうちの一方の板ばね31を壁材W1の前面F側から操作して回転させる役割をも有する。
【0039】
支持手段4は、図8(a)、図8(b)および図9に示されるように、本体部41と、鍔部42と、連結部43とを含む。本体部41は、手摺本体Hを固定するための略円盤状の部分であり、一方の面に、手摺本体Hを取り付け具に固定するためのねじ孔41bと、手摺本体Hを回転させるための治具を係合させる溝41cとが形成されている。鍔部42は、支持手段4を固設手段2の当接部21に当接させて、2枚の板ばね31とともに壁材W1を挟み込むための部分であり、本体部41の周縁部から外方へ向けて延出するように形成されている。連結部43は、係止手段3を取り付けるための軸状の部分であり、本体部41の他方の面から突出するように形成されている。連結部43は、本体部41の他方の面から突出する対向部43aと、対向部43aの先端からさらに突出するように形成された嵌入軸43bとを含む。嵌入軸43bの直径は、保持部33の着脱孔33aの内径とほぼ同じであり、対向部43aの直径は、嵌入軸43bの直径より大きい。したがって、嵌入軸43bと対向部43aとの間には段差ができている。連結部43は、取り付け時に、保持部33の着脱孔33aに、対向部33aと嵌入軸43aとの境界にできた段差にぶつかるまで挿入される。さらに、支持手段4には、本体部41から連結部43を貫通するように貫通孔41cが形成されている。貫通孔41cは、後述する操作ひも51を挿通させるための孔である。
【0040】
支持手段4は、連結部43が突出する側を壁材W1に形成された設置孔W1aに挿入するように嵌め込まれる。そして、同時に、連結部43の嵌入軸43bは、係止手段3の保持部33に形成された着脱孔33aに装着される。
【0041】
この手摺の取り付け具の取り付け方法について、以下で詳しく説明する。
【0042】
まず、作業者は、壁材W1に設置孔W1aを形成する。そして、固設手段2の装着部22を設置孔W1aの側縁に接するように、また、当接部21を設置孔W1aの周縁部前面Fに当接するように装着する。
【0043】
つぎに、作業者は、係止手段3を壁材W1の背面B側に挿入するための準備をする。係止手段3を壁材W1の背面B側に挿入する際には、作業者の手が届かない壁材W1の背面B側にある係止手段3を適切に操作するための操作手段5を用いる。
【0044】
操作手段5は、操作ひも51(図1参照)と、操作ひも51に加えた力を効率よく係止手段3に伝達するためのキャップ53と、操作ひも51の先端に取り付けられる持ち手52(図1参照)とを含む。
【0045】
図10は、操作手段5のキャップ53を説明するための図であり、図10(a)は斜視図を示し、図10(b)は図10(a)のXI−XI位置における断面図を示す。
【0046】
キャップ53は、図10(a)および図10(b)に示されるように、略円盤状の部材に、2つの挿通孔53aが形成されたものである。この2つの挿通孔53aは、操作ひも51を折り返すための孔である。
【0047】
作業者は、キャップ53を、予め、係止手段3の保持部33の先端部に装着しておく。さらに、作業者は、保持部33の着脱孔33aからキャップ53の2つの挿通孔53aを通過するように操作ひも51を途中で折り返して通しておく。
【0048】
操作手段5の準備を整えると、作業者は、係止手段3を設置孔W1aから壁材W1の背面B側に挿入する。図11〜図13は、壁材W1に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図である。図11は、係止手段3が、操作手段5のキャップ53および操作ひも51を装着した状態で壁材W1の背面B側に挿入される状態を説明する断面図である。図12は、支持手段4を取り付ける状態を説明する断面図である。図13は、取り付け具が壁材W1を挟み込むように固定された状態を説明する断面図である。図14は、壁材W1に固定された手摺本体Hに過度な荷重が加わり、係止手段3の板ばね31が変形して支持手段4が位置ずれした状態を説明する断面図である。
【0049】
具体的には、まず、作業者は、2枚の板ばね31を閉じた状態(2枚の板ばね31の長手方向を同一の方向に向けた状態)で、係止手段3を、図11に示されるように、壁材W1に形成された設置孔W1aを経て、壁材W1の前面F側から背面B側へ入れ込む。このとき、作業者は、操作ひも51の端部および端部に設けられた持ち手52を壁材W1の前面F側から離れる方向に引っ張り、係止手段3を壁材W1の背面B側に吊り下げるようにして支持する。そして、作業者は、係止手段3を、係止手段3の外径より小さな内径の設置孔W1aを通過させる。
【0050】
係止手段3が壁材W1の背面B側に入れ込まれると、作業者は、図12に示されるように、操作ひも51を水平方向に引っ張り、係止手段3を、壁材W1の背面Bの所定の位置、つまり、保持部33を設置孔1aの中心に位置するように配置させる。
【0051】
つぎに、作業者は、操作ひも51を支持手段4の連結部43が形成されている側から貫通孔41aに挿通し、支持手段4を設置孔W1aに嵌め入れる。このとき、作業者は、支持手段4の嵌入軸43bを保持部33の着脱孔33aに装着する。これによって、壁材W1は、2枚の板ばね31と支持手段4とによって、厚さ方向に挟み込まれる。また、このとき、操作手段5のキャップ53および操作ひも51は、連結部43の先端によって押し出され、壁材W1の背面B側に落下する(図13参照)。このように、壁材W1の背面B側に入れ込まれた係止手段3に装着された操作手段5のキャップ53は、支持手段4の連結部43が係止手段3の保持部33の着脱孔33aに連結されたときに、支持手段4によって押し出されて壁材W1の背面B側に脱落するので、壁材W1の背面B側にある操作手段5のキャップ53を取り外す手間を省くことができる。
【0052】
つぎに、作業者は、支持手段4の本体部41に形成された溝41cに治具の先端を係合させて、治具を回転させることにより、支持手段4を回転させる。この支持手段4の回転とともに、保持部33は回転し、2枚の板ばね31のうち、保持部33の係合突部33cに係合している一方の板ばね31は、その回転止め31cが他方の板ばね31に係合するまで連動して回転する。こうして、壁材W1の背面Bに配置された2枚の板ばね31は、図5(a)の状態から図5(b)の状態になるように、壁材W1の前面F側で操作される。そして、各板ばね31の押圧部31bは、壁材W1の背面Bの設置孔W1aの周縁部に当接する。
【0053】
最後に、作業者は、支持手段4に手摺本体Hを固定して、手摺の取り付け具および手摺本体Hの設置を終える。
【0054】
このようにして設置された手摺本体Hに荷重が加わると、支持手段4を介して係止手段3を構成する2枚の板ばね31に荷重が伝達される。板ばね31に荷重が伝達されると、板ばね31は弾性変形して、エネルギーの一部を吸収し、板ばね31から壁材W1に伝達される荷重を減少させる。これにより、壁材W1に繰り返し外力が働いて壁材W1の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。
【0055】
また、図14は、壁材W1に固定された手摺本体Hに衝撃など動的荷重が加わり、係止手段3の板ばね31が変形して支持手段4が位置ずれした状態を説明する断面図である。たとえば、図14に示されるように、手摺本体Hに衝撃などの過度な動的荷重が掛かった場合には、係止手段3の板ばね31が大きく弾性変形して、支持手段4の本体部41が、設置孔W1aから壁材W1の外方(前面F側)へ外れる方向へ位置ずれする。これにより、取り付け具が受けたエネルギーの一部が吸収され、壁材W1に伝達される荷重が減少する。したがって、取り付け具が壁材W1を破壊することを避けることができる。さらに、板ばね31の変形が、弾性変形であれば、板ばね31は、手摺本体Hに加わった荷重が取り除かれると再び元の形状に戻る。したがって、手摺本体Hおよび取り付け具全体もまた、再び元の形状に戻り、手摺を引き続き使用することができる。
【0056】
以上の実施の形態によれば、壁材W1の背面Bを押圧する弓形に湾曲した形状の2枚の板ばね31が、ばね用ステンレス鋼により形成されている。手摺本体Hに対して荷重が加わると、支持手段4を介して係止手段3に力が伝達され、ばね用ステンレス鋼により形成された板ばね31は弾性変形する。これにより、取り付け具が受けたエネルギーの一部は吸収される。そして、板ばね31から壁材W1の背面Bに伝達される力は減少する。これにより、壁材W1に繰り返し外力が働いて壁材W1の強度が低下する、いわゆる疲労を抑制することができる。また、手摺本体Hに対して衝撃などの過剰に大きな動的荷重が加わった場合には、ばね用ステンレス鋼により形成された板ばね31を大きく弾性変形させることによって、支持手段4までをも変位させて、取り付け具100が受けたエネルギーの一部を吸収し、壁材W1に伝達される荷重を減少させる。言い換えれば、壁材W1を破壊に至らしめるためには、手摺本体Hに対して従来よりも大きな荷重を加えなければならない。したがって、手摺の取り付け具100が取り付けられた壁材W1の寿命を延ばすことができるとともに、衝撃などの動的な荷重が加わった場合にも、壁材W1が破壊に至るのを遅らせることができる。
【0057】
なお、上記実施の形態では、壁用固定具として、被支持体である手摺本体Hを壁伝いに固定する手摺の取り付け具について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば、壁用固定具としては、壁に沿って配置されたタンスや棚などに連結されて、それらの転倒を防止するための被支持体を、壁材に固定するタイプのものであってもよい。あるいは、棚そのものを被支持体として壁用固定具に連結するタイプのものであってもよい。
【実施例】
【0058】
以下で、本発明の実施例を示すが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
(引張荷重試験)
引張り圧縮試験機を用いて、図15に示されるように、手摺につぎの条件で引張り荷重を加えた。なお、壁材W1は、下端が鉄鋼製の2つの狭持具Sで狭持されており、試験機の荷重を受けることによる壁材W1および壁材W2の持ち上がりを防いでいる。
【0060】
試験機;(株)今田製作所 SDW1000SL
荷重方向; 鉛直上方
試験温度;28 ℃
試験湿度;29 %
手摺長さ;500 mm(2つの取り付け具の中心間隔)
壁材W1;石膏ボード
壁材W1の厚さ;9.5 mm
圧縮速度;10 mm/min
板ばねの材質;(実施例)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(比較例)SUS 304のステンレス鋼
板ばねの板厚;2.0 mm
板ばねの半径;64.02 mm
板ばねの幅;25 mm
引張荷重試験の試験結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示されるように、板ばねにばね用ステンレス鋼を用いた実施例では、板ばねに通常のステンレス鋼を用いた比較例より、大きな荷重に耐えられた。
【0063】
(繰り返し荷重試験)
図16(a)および図16(b)に示されるように、手摺本体Hの中央部に、ベルトを用いて所定の重さの錘Wをぶら下げ、錘Wが試験機D上に載置された状態(図16(a))から落下させて(図16(b))、手摺に動的な荷重を繰り返し加える。なお、壁材W1は、所定の間隔を空けて設置された2本の支柱Cに固定されている。
【0064】
振動負荷回数;23回/分
試験温度;30 ℃(室温)
壁材W1;石膏ボード
壁材W1の厚さ;9.5 mm
手摺長さ;500 mm(2つの取り付け具の中心の間隔)
板ばねの材質;(実施例1)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(実施例2)SUS 304−CSP 1/2Hのばね用ステンレス鋼
(比較例)SUS 304のステンレス鋼
板ばねの板厚;2.0 mm
板ばねの半径;64.02 mm
板ばねの幅;25 mm
繰り返し荷重試験の試験結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示されるように、板ばねの材質にばね用ステンレス鋼を用いた実施例1および実施例2では、板ばねの材質に通常のステンレス鋼を用いた比較例より良好な耐久性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】壁材に固定される手摺の取り付け具を説明するための図である。
【図2】壁材に固定された手摺の取り付け具を説明するための図である。
【図3】固設手段を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【図4】板ばねを説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は(a)のV−V位置における断面図を示し、(c)は側面図を示し、(d)は背面図を示す。
【図5】壁材に固定された手摺の取り付け具を壁材の背面側から見た状態を説明する図であり、(a)は第1の板ばねおよび第2の板ばねを壁材の背面側に挿入した状態を示し、(b)は第1の板ばねを所定の角度回転させた状態を示す。
【図6】保持部を説明するための図であり、(a)は側面図を示し、(b)は(c)のIV−IV位置における断面図を示し、(c)は正面図を示す。
【図7】保持部を説明するための図であり、(a)は図6(b)のII−II位置における断面図を示し、(b)は図6(b)のI−I位置における断面図を示す。
【図8】支持手段を説明するための図であり、(a)は正面図を示し、(b)は側面図を示す。
【図9】支持手段を説明するための図であり、図8(a)のX−X位置における断面図を示す。
【図10】操作手段のキャップを説明するための図であり、(a)は斜視図を示し、(b)は(a)のXI−XI位置における断面図を示す。
【図11】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、係止手段が、操作手段のキャップおよび操作ひもを付けた状態で壁材の背面側に挿入される状態を説明する断面図である。
【図12】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、支持手段を取り付ける状態を説明する断面図である。
【図13】壁材に手摺の取り付け具を固定する手順を説明するための図であり、取り付け具が所定の位置に固定された状態を説明する断面図である。
【図14】壁材に固定された手摺に過度な荷重が加わり、係止手段が変形して支持手段が位置ずれした状態を説明する断面図である。
【図15】引張荷重試験を説明するための図である。
【図16】繰り返し荷重試験を説明するための図であり、(a)は試験機上に錘が載置された状態を示し、(b)は試験機が稼働して錘が落下した状態を示す。
【符号の説明】
【0068】
3 係止手段
31 板ばね(板材)
4 支持手段
100 手摺の取り付け具(壁用固定具)
H 手摺本体(被支持体)
W1 壁材
B 壁材の背面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弓形に湾曲した形状を呈し壁材の背面を押圧する板材を含む係止手段と、
該係止手段に連結された状態で前記壁材の前面側に設けられ、被支持体を支持する支持手段とを有し、
前記係止手段および前記支持手段で前記壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、
前記板材が、板ばねにより形成されていることを特徴とする壁用固定具。
【請求項2】
前記板材に、SUS301−CSP1/2HまたはSUS304−CSP1/2Hのオーステナイト系のばね用ステンレス鋼を用いている請求項1記載の壁用固定具。
【請求項3】
前記板材の厚さが、1.7〜2.3mmである請求項2記載の壁用固定具。
【請求項4】
前記係止手段は、一対の前記板材が中間部で互いに回転可能に連結されて、前記板材の側部に前記一対の板材の開き角度を規制するストッパーが設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の壁用固定具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の壁用固定具の取り付け方法であって、
前記係止手段に、前記係止手段が前記壁材の背面側にある状態で前記壁材の前面側から前記係止手段を操作するための操作手段を装着する工程と、
前記壁材に形成された孔から、前記操作手段が装着された状態で、前記壁材の背面側に前記係止手段を入れ込む工程と、
前記壁材の前記孔を通じて、前記支持手段を、前記壁材の背面側に位置する前記係止手段に連結する工程とを含み、
前記支持手段を前記係止手段に連結する際に、前記操作手段を前記支持手段で押し出して、前記壁材の背面側に脱落させることを特徴とする壁用固定具の取り付け方法。
【請求項1】
弓形に湾曲した形状を呈し壁材の背面を押圧する板材を含む係止手段と、
該係止手段に連結された状態で前記壁材の前面側に設けられ、被支持体を支持する支持手段とを有し、
前記係止手段および前記支持手段で前記壁材を厚さ方向に挟み込むようにして固定される壁用固定具であって、
前記板材が、板ばねにより形成されていることを特徴とする壁用固定具。
【請求項2】
前記板材に、SUS301−CSP1/2HまたはSUS304−CSP1/2Hのオーステナイト系のばね用ステンレス鋼を用いている請求項1記載の壁用固定具。
【請求項3】
前記板材の厚さが、1.7〜2.3mmである請求項2記載の壁用固定具。
【請求項4】
前記係止手段は、一対の前記板材が中間部で互いに回転可能に連結されて、前記板材の側部に前記一対の板材の開き角度を規制するストッパーが設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の壁用固定具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の壁用固定具の取り付け方法であって、
前記係止手段に、前記係止手段が前記壁材の背面側にある状態で前記壁材の前面側から前記係止手段を操作するための操作手段を装着する工程と、
前記壁材に形成された孔から、前記操作手段が装着された状態で、前記壁材の背面側に前記係止手段を入れ込む工程と、
前記壁材の前記孔を通じて、前記支持手段を、前記壁材の背面側に位置する前記係止手段に連結する工程とを含み、
前記支持手段を前記係止手段に連結する際に、前記操作手段を前記支持手段で押し出して、前記壁材の背面側に脱落させることを特徴とする壁用固定具の取り付け方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−91086(P2010−91086A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264259(P2008−264259)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(391041822)株式会社内外 (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(391041822)株式会社内外 (30)
【Fターム(参考)】
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