説明

変性ポリテトラフルオロエチレンファインパウダー及び変性ポリテトラフルオロエチレン成形体

【課題】 ペレット、シート、その他の成形物等の形状の如何を問わずに原材料にすることができ、高密度で流動性が良く、粉体塗料に好適に用いられるフッ素系重合体粉末を得ることができる製造方法であって、フッ素系重合体を用いた成形品等のリサイクルに適用することができるものを提供する。
【解決手段】 導電性付与材からなる微粒子又は顔料からなる微粒子と、フッ素系重合体からなるマトリックスとから構成される粒子を含むフッ素系重合体粉末であって、前記微粒子は、前記マトリックス中に存在するものであるフッ素系重合体粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗装に用いることができるフッ素系重合体粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系重合体は、耐薬品性、耐熱性等に優れた特性を有することから、化学・医療用器具、半導体製造設備等の耐食ライニングをはじめとする様々な用途に用いられている。フッ素系重合体は、耐薬品性等を利用して耐食ライニング等に用いる場合、耐薬品性等の特性を発揮するに足る充分な量を被施工物の様々な形状に合わせて施工することができるとともに、施工時に廃棄分が少なく、取り扱いが容易である等の点から、粉体塗料として好適に用いられている。
【0003】
フッ素系粉体塗料は、一般的に、フッ素系重合体の特性を生かすように構成されており、用途に応じて、更に顔料、導電性付与材等のその他の成分を含有させて、着色、導電性等の特性を追加することができる。
【0004】
フッ素系重合体を主要成分とする粉体塗料は、その他の成分を含有させる場合、フッ素系重合体からなる粒子と、その他の成分からなる粒子とを乾式で混合するドライブレンドにより製造されるのが通常である。しかしながら、このようなドライブレンドによる方法では、その他の成分は、フッ素系重合体からなる粒子の内部には入り込まずに外部に別の粒子として存在しているので、得られる粉体塗料を静電塗装等により塗装しても、その他の成分の影響で塗装性、均一塗装性(静電付着性が違うためのむら)が悪くなり、着色、導電性等の特性が充分に得られないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、フッ素系重合体を主要成分とする粉体塗料の製造方法として、フッ素系重合体及びその他の成分を溶融混練した後、粉砕し分級する方法がある。しかしながら、この方法では、フッ素系重合体のガラス転移温度が比較的低いので、粉砕により得られる粒子は表面にヒゲ様の繊維状突出部ができてしまうこととなり、高密度で流動性の良い粉末を得ることが困難であった。そこで、溶融混練後の粉砕を低温下で行う方法が考えられるが、このようにすると、液体窒素等による極低温が必要であり、エネルギー効率等でコスト的な点から問題があった。
【0006】
特許文献1には、高密度で流動性の良い粉体塗料を提供することを目的として、テトラフルオロエチレン系共重合体のディスパージョンを凝集させ、次いで融点以上の雰囲気の中にスプレーにより分散させて凝結させる方法が開示されている。しかしながら、この技術は、膨大な設備と多大な設備費用とを要し、また、粒子同士の融着が起こるので高い収率が得られないという問題があった。
【0007】
特許文献2には、粉体塗装等に利用することができるテトラフルオロエチレン系共重合体粉末を提供することを目的として、テトラフルオロエチレン系共重合体をロールでシート化し、次いで粉砕する方法が開示されている。しかしながら、この技術では、フッ素系重合体以外のその他の成分が均一に分散されないので、粉体塗料として着色、導電性等の特性を均一に付与することができない等の問題があった。
【0008】
また、近年、フッ素系重合体を用いた成形品について、省資源、廃棄量削減等の環境上の観点から、使用済みのものや、成形過程において生じる不良品等をリサイクルすることが要望されてきており、これに対応する簡便で効率的なリサイクル方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭53−11296号公報
【特許文献2】特開昭63−270740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の現状に鑑み、ペレット、シート、その他の成形物等の形状の如何を問わずに原材料にすることができ、高密度で流動性が良く、粉体塗料に好適に用いられるフッ素系重合体粉末を得ることができる製造方法であって、フッ素系重合体を用いた成形品等のリサイクルに適用することができるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フッ素系重合体含有物を一定の温度範囲において粉砕することによりフッ素系重合体粉末を製造するフッ素系重合体粉末製造方法であって、上記一定の温度範囲は、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度より100℃低い温度以上、かつ、上記フッ素系重合体含有物の融点以下であることを特徴とするフッ素系重合体粉末製造方法である。
【0012】
上記フッ素系重合体粉末製造方法は、更に、上記フッ素系重合体含有物を一定の温度範囲において粉砕することにより得られる粉砕物に対し、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度より50℃低い温度以上であって、上記フッ素系重合体含有物の融点以下である温度において熱処理を行うものであることが好ましい。
【0013】
上記フッ素系重合体含有物は、溶融されたものであることが好ましい。上記粉砕は、せん断又は切断を用いる方法により行うものであることが好ましい。上記フッ素系重合体粉末は、見掛け密度ρ(g/ml)及び平均粒子径P(μm)が、式
ρ>0.23lnP−0.45
を満たすものであることが好ましい。
【0014】
上記フッ素系重合体粉末は、平均粒子径が10〜1000μmであることが好ましい。上記フッ素系重合体粉末は、導電性付与材からなる微粒子又は顔料からなる微粒子と、フッ素系重合体からなるマトリックスとから構成される粒子を含むものであって、上記微粒子は、上記マトリックス中に存在するものであることが好ましい。本発明はまた、導電性付与材からなる微粒子又は顔料からなる微粒子と、フッ素系重合体からなるマトリックスとから構成される粒子を含むフッ素系重合体粉末であって、上記微粒子は、上記マトリックス中に存在するものであるフッ素系重合体粉末である。上記フッ素系重合体粉末は、見掛け密度ρ(g/ml)及び平均粒子径P(μm)が、式
ρ>0.23lnP−0.45
を満たすものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、上述の構成を有することから、得られるフッ素系重合体粉末は、粒子表面にヒゲ様の繊維状突出部が殆ど発生しないので、高密度で流動性が良好であり、粉体塗料に好適に用いられる。本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、原材料としてペレット、シート、成形物等の形状の如何を問わないので、フッ素系重合体を用いた成形品等のリサイクルに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1により得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
【図2】実施例2により得られた粉末の走査型電子顕微鏡写真(倍率50倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、フッ素系重合体含有物を一定の温度範囲において粉砕することによりフッ素系重合体粉末を製造するものである。本明細書において、上記フッ素系重合体含有物とは、フッ素系重合体を含有する物質を意味する。上記フッ素系重合体含有物は、フッ素系重合体そのもののみにより構成されていてもよいし、所望により、上記フッ素系重合体以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0018】
本明細書において、上記フッ素系重合体粉末とは、フッ素系重合体を含有する粉末を意味する。上記フッ素系重合体粉末は、フッ素系重合体そのもののみにより構成されていてもよいし、所望により、上記フッ素系重合体以外のその他の成分及び/又は配合成分を含有していてもよい。上記フッ素系重合体粉末において、フッ素系重合体及び上記フッ素系重合体以外のその他の成分は、通常、原材料となる上記フッ素系重合体含有物に由来するものである。上記配合成分は、上記フッ素系重合体粉末を製造する工程において、上記フッ素系重合体含有物とは別に所望により配合された成分である。
【0019】
上記フッ素系重合体粉末は、ニーズに応じて様々な用途に用いることができるが、本発明のフッ素系重合体粉末製造方法により高密度で流動性の高い粉末として得ることができるので、そのまま又は必要に応じ添加剤等を適宜混合させて、粉体塗料に好適に用いることができる。
【0020】
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、フッ素系重合体含有物を粉砕することにより行うものであるが、必要に応じ、原材料となるフッ素系重合体含有物の洗浄、熱処理、乾燥、粗粉砕等の前処理、上記粉砕後の粒度調整等の工程を含むものであってよい。
【0021】
上記フッ素系重合体としては分子中にフッ素原子を含有する重合体であれば特に限定されないが、熱可塑性のものが好ましい。上記熱可塑性のフッ素系重合体としては、例えば、単量体成分として、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の含フッ素ビニル系単量体成分、及び、必要に応じ、エチレン、プロピレン等のその他のビニル系単量体成分を用いて重合することにより得られるものが挙げられ、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0022】
上記熱可塑性のフッ素系重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のフッ素系溶融加工性重合体が挙げられる。これらのうち、得られるフッ素系重合体粉末を粉体塗料に用いる場合における耐食性等の点から、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のテトラフルオロエチレン系共重合体が好ましい。
【0023】
上記フッ素系重合体含有物に含有されていてもよいフッ素系重合体以外のその他の成分としては特に限定されず、例えば、塗膜に対する性質付与又は塗膜の性能向上を目的として粉体塗料に一般的に用いられる成分等が挙げられ、例えば、顔料、塗膜補強材、導電性付与材等の充填剤(フィラー)等が挙げられる。
【0024】
上記顔料は、主として着色を目的として用いられるものであり、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、コバルト、酸化クロム等が挙げられる。上記塗膜補強材は、得られる塗膜の補強を目的として用いられるものであり、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク等が挙げられる。上記導電性付与材は、得られる塗膜に導電性を付与するために用いられるものであり、例えば、導電性カーボン、チタン酸カリウイスカー、酸化錫等が挙げられる。
【0025】
上記フッ素系重合体以外のその他の成分の含有量としては特に限定されないが、質量基準で上記フッ素系重合体の0〜60%であることが好ましい。60%を超えると、得られるフッ素系重合体粉末は、上記フッ素系重合体の含有率が低くなりすぎ、粉体塗料に用いる場合に、造膜時のレベリングが悪化し、塗膜に割れ、ピンホール等の欠陥が起き、耐食用塗膜としては不充分なものになるので好ましくない。より好ましくは、0〜40%である。
【0026】
上記フッ素系重合体含有物は、溶融されたものである場合、本発明のフッ素系重合体粉末製造方法を好適に用いることができる。上記フッ素系重合体含有物は、特に上記フッ素系重合体以外のその他の成分を含有するものである場合、上記その他の成分が内部に均一に分散した状態にすることができるので、溶融されたものであることが好ましい。上記フッ素系重合体含有物は、溶融され、更に混練されたものであることがより好ましい。上記溶融・混練としては、通常、上記フッ素系重合体及び必要に応じて上記その他の成分を予め混合機で混合し、次いで、ニーダー、溶融押出し機等で溶融・混練することにより行われる。
【0027】
上記フッ素系重合体含有物は、その形状の如何を問わず用いることができる。上記フッ素系重合体含有物としては、例えば、上記フッ素系重合体及び必要に応じ上記その他の成分をブレンドし、ペレット化したものが挙げられる。上記ペレットとしては、例えば、所望により上述の溶融混練を行った後、押出しペレット化したもの等が挙げられる。
【0028】
上記フッ素系重合体含有物としては、また、成形品;各種射出成形物及びシート、フィルム、電線被覆等の押出成形品;パイプ、チューブ等の成形品あるいはこれらは成形加工時に発生した不良品、使用後に回収したもの等であってもよい。上記使用後に回収したものとしては、通常、回収後必要に応じて水洗、熱処理、乾燥等を施したものが用いられる。上記フッ素系重合体含有物としては、更に、成形加工の余剰原料、成形加工装置への付着分等であってもよい。このようなフッ素系重合体を用いた成形品、成形加工の余剰原料、装置付着分等は、従来、適切なリサイクル方法がなかったが、本発明のフッ素系重合体粉末製造方法によれば、リサイクルが可能となる。
【0029】
上記フッ素系重合体含有物の粉砕は、一定の温度範囲において行うものである。上記一定の温度範囲は、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度より100℃低い温度以上、かつ、上記フッ素系重合体含有物の融点以下である。上記一定の温度範囲内であると、上記フッ素系重合体の強度や伸びが低下するので、粉砕において、粒子表面に繊維状突出部が発生することが少なく、粒子の形状変形を抑えることができる。従来は液体窒素等により冷却して粉砕する必要があったが、本発明のフッ素系重合体粉末製造方法によれば、上記一定の温度範囲に設定することにより、比較的容易に粉砕を行うことができる。
【0030】
上記フッ素系重合体含有物の粉砕を行う一定の温度範囲の下限が上記溶融開始温度より100℃低い温度未満であると、得られる粒子表面に繊維状突出部が生じて、高密度で流動性の良い粉末が得られず、上限が上記融点を超えると、被粉砕物の流動性が高まり、粉砕が困難となる。上記一定の温度範囲は、好ましくは、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度より50℃低い温度以上、かつ、上記フッ素系重合体含有物の融点以下の温度である。
【0031】
本明細書において、上記溶融開始温度は、上記フッ素系重合体含有物を示差熱量式試験機(DSC)を用いて10℃/分で昇温させた場合における溶融熱発生開始点の温度であり、上記融点は、このように昇温させた場合におけるピーク点の温度である。
【0032】
上記粉砕は、せん断又は切断を用いる方法により行うものであることが好ましい。上記せん断を用いる方法は、通常、フッ素系重合体に圧力をかけ、せん断力を加えることにより粉砕する方法である。上記切断を用いる方法は、通常、ナイフ等の切断具による切断を用いて粉砕する方法である。
【0033】
上記粉砕は、粉砕機を用いて行うことができ、上記粉砕機としてはターボカッター、クロスビターミル、ロータービターミル、カッティングミル等が挙げられる。なお、一般的な粉砕方法として遠心力による衝撃を用いる方法があるが、本発明においては、比較的弾力性のあるフッ素系重合体含有物を被粉砕物とするので、得られる粒子の形状変形が大きい点から、好ましくない。
【0034】
上記フッ素系重合体含有物の粉砕により得られる粉砕物に対し、必要に応じて熱処理を行ってもよい。上記熱処理は、行わない場合においても上記フッ素系重合体粉末を得ることができるが、上記熱処理を行うことにより、粉砕により粒子表面に生じ得る少量の繊維状突出部を収縮させてなくすことができ、より高密度で流動性が向上されたフッ素系重合体粉末を得ることができる。
【0035】
上記熱処理は、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度より50℃低い温度以上であって、上記フッ素系重合体含有物の融点以下である温度において行うものである。上記融解開始温度より50℃低い温度未満であると、上記繊維状突出部の収縮が不充分となって、上記熱処理による高密度化及び流動性の向上という効果が現れず、上記フッ素系重合体含有物の融点を超えると、粉砕により得られた粒子の融着が起こる。好ましくは、上記フッ素系重合体含有物の融解開始温度以上であって、上記フッ素系重合体含有物の融点以下である温度において行う。上記熱処理は、数分〜数10時間行うことが好ましい。
【0036】
上記により得られるフッ素系重合体粉末は、上述のようにフッ素系重合体含有物を一定の温度範囲において粉砕することにより得られる粉砕物、又は、上記粉砕物に上述のように熱処理を施すことにより得られる熱処理物であり、所望により、更に配合成分を含むものであってもよい。上記粉砕物及び上記熱処理物は、粒子の集合体である。
【0037】
上記フッ素系重合体粉末は、上述のフッ素系重合体含有物として上記フッ素系重合体以外のその他の成分を含有するものを用いて得られたものである場合、通常、フッ素系重合体からなるマトリックスと、顔料、塗膜補強材、導電性付与材等のその他の成分からなる微粒子とから構成される粒子を含むものであって、上記微粒子は、少なくとも一部が上記マトリックス中に存在するものである。
【0038】
上記微粒子とマトリックスとから構成される粒子は、上述の粉砕物を構成する粒子又は熱処理物を構成する粒子である。従って、上記その他の成分からなる微粒子及び上記フッ素系重合体からなるマトリックスは、上記フッ素系重合体含有物に由来するものである。
【0039】
上記フッ素系重合体粉末は、上述のように上記微粒子が上記マトリックス中に存在している構造を有する粒子からなるので、粉体塗料に用いて静電塗装等により塗装する場合に上記その他の成分の塗着が充分に行われ、用途に応じて着色、塗膜補強、導電性付与等の期待される性質を有する塗膜を得ることができる。
【0040】
上記フッ素系重合体粉末に所望により含まれる配合成分は、本発明のフッ素系重合体粉末製造方法の何れかの段階において、上記フッ素系重合体含有物とは別に配合したものであり、上述の粉砕時に上記フッ素系重合体含有物と併存させて配合したものであってもよいし、上記粉砕後又は上記熱処理後に配合したものであってもよい。上記配合成分としては特に限定されず、例えば、粉体塗料に通常用いられるレベリング剤等の添加剤等であってもよいし、上記その他の成分として既に説明したものと同様の成分であってもよい。
【0041】
上記フッ素系重合体粉末は、見掛け密度が0.4g/ml以上であることが好ましい。0.4g/ml未満であると、得られるフッ素系重合体粉末を粉体塗料に用いる場合に、塗装時の発泡を起こしたり、塗装回数の増加を招く場合がある。本発明のフッ素系重合体粉末製造方法によれば、上述のように、一定の温度範囲において粉砕し、必要に応じて熱処理を行うことから、表面に繊維状突出部が殆どない粒子を得ることができるので、上記範囲のような高い見掛け密度を有するフッ素系重合体粉末を容易に得ることができる。本明細書において、上記見掛け密度(g/ml)は、JIS K 6891に準拠した測定により得られる値である。
【0042】
上記フッ素系重合体粉末は、平均粒子径が10〜1000μmであることが好ましい。10μm未満であると、粉体塗料に用いてライニング用途等に塗装する場合において静電反発を生じやすくなるので、厚膜化が困難となる傾向にあり、1000μmを超えると、得られる塗膜のレベリング性等が悪化する。上述の粉砕の条件により及び必要に応じて分級することにより、上記フッ素系重合体粉末が上記範囲内の平均粒子径を有するように粒度調整することができる。好ましくは、20〜500μmである。本明細書において、上記平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定機を用いて得られる値である。
【0043】
上記フッ素系重合体粉末は、上記見掛け密度をρ(g/ml)で表し、上記平均粒子径をP(μm)で表す場合に、ρ及びPが、式
ρ>0.23lnP−0.45
を満たすものであることが好ましい。上記フッ素系重合体粉末が上記式を満たすものであると、塗装作業性、厚膜化等の点から好ましい粉体塗料が得られやすい。上記式を満たすフッ素系重合体粉末は、主として、上述の粉砕の条件や熱処理の条件を調整することにより、得ることができる。
【0044】
上記フッ素系重合体粉末は、粉体塗料に用いることができる。上記フッ素系重合体粉末は、粉体塗料に用いる場合、上記フッ素系重合体粉末製造方法により得られるものをそのまま粉体塗料として用いることができ、必要に応じ添加剤等を適宜混合させて粉体塗料を調製してもよい。上記添加剤等としては特に限定されず、例えば、粉体塗料に通常用いられる添加剤等が挙げられ、上述のフッ素系重合体以外のその他の成分や配合成分について既に説明したものと同様のものであってもよい。
【0045】
上記粉体塗料は、通常、被塗装物に塗装した後、加熱焼成により造膜することにより施工される。上記被塗装物としては特に限定されず、例えば、耐食ライニング用途として、タンク、ベッセル、塔、バルブ、ポンプ、継手、その他の配管材料等で化学プラント、医薬、農薬製造装置、半導体製造装置等に幅広く使用される。上記被塗装物は、必要に応じ、洗浄、表面処理やプライマー塗装を行ったものであってよい。
【0046】
上記粉体塗料の塗装の方法としては特に限定されず、例えば、静電塗装方法、ロトライニング方法等が挙げられる。上記加熱焼成の温度としては、例えば250〜350℃等が挙げられる。
【0047】
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、上述のように、一定の温度範囲においてフッ素重合体含有物を粉砕することにより行うものであることから、粉砕により得られる粒子は表面にヒゲ様の繊維状突出部を殆ど生じないので、高密度で流動性の良いフッ素系重合体粉末を得ることができ、このようなフッ素系重合体粉末は粉体塗料に好適に用いられる。
【0048】
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、また、上記フッ素系重合体含有物が顔料、塗膜補強材、導電性付与材等の上記フッ素系重合体以外のその他の成分を含有するものであってもよいことから、得られるフッ素系重合体粉末は、粒子内部に上記その他の成分を含有するので、粉体塗料に用いて塗装されることにより上記その他の成分が被塗装物の表面に充分に塗着し、着色、塗膜補強、導電性付与等のニーズに応じた特性を有する塗膜を得ることができる。
【0049】
本発明のフッ素系重合体粉末製造方法は、上記フッ素重合体含有物としてペレットのみならず成形品を用いてもよいので、使用後に回収した成形品、成形加工時に発生した不良品等のフッ素系重合体を用いた成形品等のリサイクルに用いることができる。リサイクルが望まれる成形品等は、顔料、導電性付与剤、炭素繊維等のフッ素系重合体以外のものを含有する場合が多いが、このようなものであっても、上記フッ素系重合体粉末製造方法によれば、使用することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
実施例1
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)ペレット(溶融開始温度285℃、融点305℃、ダイキン工業社製)を剪断式粉砕機としてRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数1800rpm、スクリーン径3mmφ、温度280℃の条件で粉砕した。
【0052】
比較例1
PFAペレット(溶融開始温度285℃、融点305℃、ダイキン工業社製)をRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数1800rpm、スクリーン径3mmφ、温度120℃の条件で粉砕した。
【0053】
実施例2
テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)ペレット(溶融開始温度240℃、融点270℃、ダイキン工業社製)をRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数1500rpm、スクリーン径3mmφ、温度265℃の条件で粉砕した。
【0054】
比較例2
FEPペレット(溶融開始温度240℃、融点270℃、ダイキン工業社製)をRapidR−1528型(カワタ社製)を使用して回転数1500rpm、スクリーン径3mmφ、温度120℃の条件で粉砕した。
【0055】
実施例3
エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)ペレット(溶融開始温度240℃、融点260℃、ダイキン工業社製)をRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数1500rpm、スクリーン径3mmφ、温度255℃の条件で粉砕した。
【0056】
実施例4
使用済みPFA製ウエハーキャリア(溶融開始温度285℃、融点305℃)を150℃で1時間熱処理したのち純水煮沸洗浄を行い乾燥した。RapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数270rpm、スクリーン径5mmφ、温度280℃の条件でペレット状粗粉砕品を得た。
【0057】
実施例5
導電性付与材としてカーボンブラックをPFAの20質量%添加し溶融混練して得られたPFA導電性ペレット(溶融開始温度290℃、融点310℃、ダイキン工業社製)を実施例1と同様にRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用し回転数1800rpm、スクリーン径0.7mmφ、温度280℃の条件で粉砕を行った後、厚み70mmのトレイに10kg仕込みの箱型乾燥機を使用して300℃で4時間熱処理を行った。冷却後、振動篩い機(250μm目開き)で分級した。
【0058】
比較例3
PFA粉体塗料としてAC−5539(商品名;溶融開始温度290℃、融点310℃、ダイキン工業社製)に、カーボンブラックをAC−5539の20質量%となるように添加し、攪拌機としてスピードニーダー(昭和エンジニアリング社製)を使用して1500rpmで20分間混合し、導電性粉体塗料を得た。
【0059】
実施例6
白色顔料として酸化チタンをFEPの5質量%添加し溶融混練して得られたFEP白色カラーペレット(溶融開始温度240℃、融点270℃、ダイキン工業社製)を実施例2と同様にRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用し回転数1500rpm、スクリーン径0.7mmφ、温度260℃の条件で粉砕した後、厚み70mmのトレイに10kg仕込みの箱型乾燥機を使用して250℃で4時間熱処理を行った。冷却後、振動篩い機(250μm目開き)で分級した。
【0060】
比較例4
FEP粉体塗料としてNC1500(商品名;溶融開始温度240℃、融点270℃、ダイキン工業社製)に、酸化チタンとしてタイペークCR93(商品名;石原産業社製)をNC1500の5質量%となるように添加し、攪拌機としてスピードニーダー(昭和エンジニアリング社製)を使用して1500rpmで30分間混合した。
【0061】
実施例7
PFA原末をロールにより圧縮しシート化して衝撃式粉砕機で90μm以下に粉砕したPFA粉末と、PFA粉末の40質量%のカーボンブラックとを攪拌機としてスピードニーダー(昭和エンジニアリング社製)を使用して1500rpmで30分間混合し、更に、この混合物と質量比で1:1の割合になるように定量供給機でPFAペレット(溶融開始温度285℃、融点305℃、ダイキン工業社製)を供給し、溶融押出し機で押出してペレット化し、実施例1と同様にRapidR−1528型(商品名;カワタ社製)を使用して回転数1500rpm、スクリーン径0.7mmφ、温度280℃の条件で粉砕を行った後、厚み70mmのトレイに10kg仕込みの箱型乾燥機を用いて300℃で4時間熱処理を行った。冷却後、振動篩い機(250μm目開き)で分級した。
【0062】
(評価方法)
上記により得られた粉末を下記方法により評価した。
1.平均粒子径の測定方法
レーザー回析式粒度分布測定機としてMicrotracX−100型(商品名;日機装社製)を使用し、分散剤としてチャーミー(商品名;ライオン社製)1質量%水溶液で分散させて測定した。結果を表1に示す。
【0063】
2.見掛け密度の測定方法
JIS K 6891に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0064】
3.盛置きテスト
サンドブラスト処理した鉄板に載置した10cm×10cmの長方形の型枠内に、上記により得た粉末を粉体塗料として、焼付け後の膜厚が約2000μmとなるように充填した。型枠を静かに取り外したのち、PFA及びFEPは350℃で60分間、ETFEは290℃で60分間の各条件でそれぞれ電気炉中において焼成し、焼成後の塗膜の発泡状態を目視で観察し、次の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:発泡が全く認められなかった。
○:発泡が殆ど認められなかった。
×:全面に発泡が認められた。
【0065】
4.静電塗装性テスト
アルミニウム板(100mm×100mm×1.5mm)に、静電塗装機としてGX3300(商品名;小野田セメント社製)を用いて印加電圧40kVにて、上記により得た粉末を粉体塗料として、焼付け後の膜厚が約100μmとなるように静電塗装した。塗装後、PFA及びFEPは350℃で60分間、ETFEは290℃で60分間の各条件でそれぞれ電気炉中において焼成した。焼成後の塗膜の発泡状態を目視で観察し、次の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:発泡が全く認められなかった。
○:発泡が殆ど認められなかった。
×:全面に発泡が認められた。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から、本発明の範囲内にない温度で粉砕した比較例1〜2及びドライブレンドによる比較例3〜4では、焼成後の塗膜の全面に発泡が認められ、上述のρ及びPに関する式ρ>0.23lnP−0.45を満たさない場合があるのに対し、本発明の範囲内の温度で粉砕した実施例1〜7では、焼成後の塗膜に発泡は認められず、上記式を満たすことがわかった。表1から、また、フッ素系重合体以外のその他の成分を含有する場合について、ドライブレンドによる比較例3〜4と異なり、溶融混練物を粉砕する実施例5〜7では、焼成後の塗膜に発泡が認められないことがわかった。
【0068】
5.電子顕微鏡による観察
実施例1により得られた粉末及び実施例2により得られた粉末を、走査型電子顕微鏡で観察した。図1及び図2に走査型電子顕微鏡写真(倍率50倍)を示す。これらの写真から、得られる粉末はヒゲ様の繊維状突出部がなく、比較的滑らかな表面を有することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性付与材からなる微粒子又は顔料からなる微粒子と、フッ素系重合体からなるマトリックスとから構成される粒子を含むフッ素系重合体粉末であって、前記微粒子は、前記マトリックス中に存在するものであるフッ素系重合体粉末。
【請求項2】
見掛け密度ρ(g/ml)及び平均粒子径P(μm)が下記式
ρ>0.23lnP−0.45
を満たすものである請求項1記載のフッ素系重合体粉末。
【請求項3】
平均粒子径が10〜1000μmである請求項1又は2記載のフッ素系重合体粉末。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252172(P2011−252172A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196938(P2011−196938)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2001−183915(P2001−183915)の分割
【原出願日】平成13年6月18日(2001.6.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】