説明

変性金属錯体及びその用途

【課題】金属を集積することで、耐酸性や熱安定性にも優れる変性金属錯体を提供する。また、触媒として好適な金属錯体を変性処理することで、より安定化した金属錯体化合物を提供する。さらに上記の変性金属錯体からなるカーボン化合物を用いた安定性に優れた触媒を提供する。
【解決手段】分子内に含窒素芳香族複素環を1つと、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を4つ以上有する有機化合物を配位子とする金属錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸や加熱に対する安定性の高い変性金属錯体に関する。さらに本発明は、該変性金属錯体を用いた触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒(レドックス触媒)として作用し、有機化合物又は高分子化合物の製造に使用されている。さらに、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途にも使用されている。
特に、該金属錯体の中でも、金属錯体が集積されることにより、特異な反応空間が提供され、レドックス反応の反応速度を高めたり、反応選択性を制御することができることが知られている(非特許文献1)。
金属錯体の中でも、遷移金属原子を中心金属として有する場合、過酸化水素分解触媒や酸化カップリング触媒として優れた反応活性を有することが知られている(非特許文献2および非特許文献3参照)。
しかしながら、非特許文献2や非特許文献3で開示されているような金属錯体は、安定性が不十分であり、とりわけ酸の存在下で反応を行う場合や加熱下で反応を行う場合、この触媒を使用するには問題があった。このように金属錯体を触媒として適用するためには、酸または加熱に対する安定性を向上させることが切望されていた。
【非特許文献1】SusumuKitagawa,Ryo Kitaura,Shin−ichiro Noro,AngewandteChemie International Edition,43,2334(2004).
【非特許文献2】Bulletin of Chemical Society of Japan,68,1105(1995).
【非特許文献3】Angewandte Chemie International Edition,42,6008(2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、安定性に優れた変性金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、下記の(1)〜(16)に示す触媒として好適な、変性金属錯体、グラフェン化合物および触媒を提供する。
(1)分子内に含窒素芳香族複素環を1つと、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を4つ以上有する有機化合物を配位子とする金属錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
(2)分子内にフェノール環を2つ以上と、含窒素芳香族複素環を3つ以上有する有機化合物を配位子とする金属錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
(3)前記金属錯体が、周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属原子を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の変性金属錯体。
(4)前記金属錯体に含まれる金属原子の個数が1〜10であることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の変性金属錯体。
(5)前記配位子が、下記一般式(I)で示される配位子であることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載の変性金属錯体。
【0006】
【化2】

【0007】
(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣合う2つの原子に結合している2つのR1は、互いに連結していてもよく、複数あるR1は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Q1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、T1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する1価の有機基であり、2つのT1は、同一でも異なっていてもよい。なお、電荷は省略してある。)
(6)前記一般式(I)で表される配位子の残基を有するポリマーであることを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載の変性金属錯体。
(7)前記一般式(I)で表される配位子の残基を繰り返し単位として有するポリマーであることを特徴とする(6)に記載の変性金属錯体。
(8)前記金属錯体が、窒素原子、酸素原子を配位原子とすることを特徴とする(1)〜(7)の何れかに記載の変性金属錯体。
(9)前記の金属錯体を250℃以上1200℃以下で加熱処理することを特徴とする(1)〜(8)の何れかに記載の変性金属錯体。
(10)励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルにおいて、1500〜1600cm-1の範囲に吸収極大を有することを特徴とする(1)〜(9)の何れかに記載の変性金属錯体。
(11)前記の(1)又は(2)で規定した処理前の金属錯体と、カーボン担体、沸点もしくは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物から選ばれる少なくとも1種の有機化合物と、からなる混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理より、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
(12)前記の(1)又は(2)で規定した処理前の金属錯体と、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を加熱処理、放射照射処理もしくは放電処理してなる変性金属錯体。
(13)(1)〜(12)の何れかに記載の変性金属錯体を用いた触媒。
(14)ヘテロ原子を配位原子とする金属錯体であり、中心金属の広域X線吸収微細構造(EXAFS)動径分布関数において、1.0Å以上2.5Å以下の範囲に観測される第一近接原子由来のピークから0.58Å以内に別ピークを1つ以上有するカーボン化合物。
(15)励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルにおいて、1500〜1600cm-1の範囲に吸収極大を有することを特徴とする(14)に記載のカーボン化合物。
(16)(14)又は(15)に記載のカーボン化合物を用いた触媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明の変性金属錯体は、安定性(例えば、耐酸性、熱安定性)に優れた変性金属錯体であり、通常、優れた触媒活性を示す。本発明の変性金属錯体は、溶液中で優れた金属保持性を示す錯体化合物である。また、含窒素芳香族複素環、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環の何れかにより、金属原子が集積されており、触媒反応に適した反応空間が提供され、かつ、変性処理により、集積化された金属錯体間で新たな結合が形成されることで、安定性が高められるばかりでなく反応選択性にも優れた触媒となることが期待される。
【0009】
本発明によれば、過酸化物分解反応、酸化物分解反応、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、電極反応等の電子移動を伴うレドックス反応の触媒として、酸の存在下や加熱下であっても高反応活性を有する触媒が得られ、該触媒は、有機化合物、高分子化合物の合成用途や、添加剤、改質剤、センサーの材料用途に好適に用いることができ、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に適用する金属錯体の配位子は、含窒素芳香族複素環を1つと、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環、および含窒素芳香族複素環、のいずれかの構造を4つ以上有する有機化合物である。該有機化合物の具体的な構造を、下記式(a)〜(e)に例示する。なお、電荷は省略してある。
【0011】
【化3】

【0012】
ここで含窒素芳香族複素環とは、少なくとも1つの窒素原子を環内に含む芳香族複素環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基である。該環系を構成する原子としては、炭素と窒素の他に、酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。含窒素芳香族複素環の具体例としては、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、ピロール、トリアゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、フェナントロリン、カルバゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジンなどを基本骨格とする基を挙げることができる。なお、フェナントロリンは、含窒素芳香族複素環を2つ有していると数える。
【0013】
また、フェノール環とは、少なくとも1つのヒドロキシ基(OH)が結合したベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基であり、チオフェノール環とは、少なくとも1つのスルフヒドリル基(SH)が結合したベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基であり、アニリン環とは、少なくとも1つのアミノ基が結合したベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基である。また、ヒドロキシ基(OH)、スルフヒドリル基(SH)及びアミノ基からプロトンを1つ以上放出していてもよい。
【0014】
ベンゼン環骨格を有するという条件を最低限満たす化合物構造としての芳香族基として具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、インデン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ペンタセン、テトラフェニレン、ヘキサセン、コロネン等の芳香族炭化水素、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、キサンテン等の酸素、硫黄元素を含む縮合複素環化合物を基本骨格とする基が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素の基であり、より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、インデン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレンより得られる基である。また、ヒドロキシ基(OH)、スルフヒドリル基(SH)及びアミノ基からプロトンを一つ以上放出していてもよい。
【0015】
さらに前記の配位子としての有機化合物が、フェノール環を2つ以上と、含窒素芳香族複素環を3つ以上と、フェノール環を2つ以上有するとより好ましい。前記構造を有した配位子を用いることで、安定性が高まる。好ましい含窒素芳香族複素環の数は3〜8であり、より好ましくは、3〜5であり、特に好ましくは3または4である。また、フェノール環の数として好ましくは、2〜6であり、より好ましくは2〜4であり、特に好ましくは2である。
【0016】
本発明に用いられる変性処理前の金属錯体の配位子としては、より好ましくは、下記一般式(I)で表される有機化合物を挙げることができる。
【0017】
【化4】

(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣合う2つの原子に結合している2つのR1は、互いに連結していてもよく、複数あるR1は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Q1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、T1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する1価の有機基であり、2つのT1は、同一でも異なっていてもよい。なお、電荷は省略してある。)
【0018】
前記一般式(I)中のR1が置換基のときは、該置換基としては、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロシキスルホニル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基(置換されていてもよい炭化水素オキシ基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノ基)、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基(置換されていてもよい炭化水素メルカプト基)、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素カルボニル基)、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素オキシカルボニル基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノカルボニル基)、又は置換されていてもよいヒドロカルビルオキシスルホニル基(置換されていてもよい炭化水素スルホニル基)であり、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基が好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基がより好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基がさらに好ましい。これらの基において、水素原子の結合した窒素原子は、1価の炭化水素基で置換されていることが好ましい。また、R1で表される基が複数の置換基を有する場合には、2個の置換基が連結して環を形成してもよい。
【0019】
上記R1で表される1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素数1〜50の、好ましくは1〜20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜50の、好ましくは3〜20の環状飽和炭化水素基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素数2〜50の、好ましくは2〜20のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜50の、好ましくは6〜20のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、3−フェニル−1−プロピル基、4−フェニル−1−ブチル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基等の炭素数7〜50の、好ましくは7〜20のアラルキル基が挙げられる。
【0020】
1で表される1価の炭化水素基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、炭素数1〜12のものがより好ましく、炭素数2〜12のものがさらに好ましく、炭素数1〜10のものがさらに好ましく、炭素数3〜10のものが特に好ましい。
【0021】
1で表されるヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基は、それぞれ、オキシ基、メルカプト基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルホニル基に、前記の1価の炭化水素基が1個結合してなる基である。
【0022】
1で表される"非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基"、"非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基"は、それぞれ、アミノ基、アミノカルボニル基(即ち、−C(=O)−NH2)中の2個の水素原子が前記の1価の炭化水素基に置換された基である。これらに含まれる1価の炭化水素基の具体例及び好ましい例は、前記のR1で表される1価の炭化水素基と同じである。
【0023】
1で表される1価の炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基は、これらの基に含まれる水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルスルホニル基等で置換されていてもよい。
【0024】
前記R1の中でも、特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基である。
【0025】
一般式(I)のQ1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、具体的な例としては、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピリダジレン基、ピロリレン基、チアゾリレン基、イミダゾリレン基、オキサゾリレン基、トリアゾリレン基、インドリレン基、ベンゾイミダゾリレン基、ベンゾフリレン基、ベンゾチエニレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、シンノリレン基、フタラジレン基、キナゾリレン基、キノキサリレン基、ベンゾジアジレン基、1,10-フェナントロリレン基、2,2´−ビピリジレン基、2,2´−ビチオフェニレン基、2,2´−ビピローレン基、2,2´−ビチアゾリレン基、2,2´−ビフリレン基、2,2´−ビピリミジレン基、2,2´−ビピリダジレン基、2,2´−ビイミダゾリレン基が挙げられ、好ましくは、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピリダジレン基、ピロリレン基、1,10-フェナントロリレン基、2,2´−ビピリジレン基、2,2´−ビチオフェニレン基、2,2´−ビピローレン基、2,2´−ビチアゾリレン基、2,2´−ビフリレン基、2,2´−ビピリミジレン基、2,2´−ビピリダジレン基、2,2´−ビイミダゾリレン基であり、さらに好ましくは、1,10-フェナントロリレン基、2,2´−ビピリジレン基、2,2´−ビピローレン基、2,2´−ビチアゾリレン基、2,2´−ビイミダゾリレン基である。
また、これらの基は、さらに前記R1で置換されてもよい。
【0026】
1は、置換されてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。含窒素芳香族複素環基とは、具体的な例としては、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピロリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、トリアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、フタラジル基、キナゾリル基、キノキサリル基、ベンゾジアジル基、などが挙げられる。
好ましくは、ピリジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピリダジル基、チアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基であり、さらに好ましくは、ピリジル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピリダジル基、チアゾリル基である。
また、これらの基は、さらに前記R1における置換基で置換されてもよい。
【0027】
前記一般式(I)に示される配位子は、下記式(II)の構造を有する配位子であると好ましい。
【0028】
【化5】

(式中、R2は、一般式(II)のR1と同義であり、隣合う2つの原子に結合している2つのR2は、互いに連結していてもよく、複数あるR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)Y1及びY2は、
【0029】
【化6】

(R3は水素原子または炭素数が1〜4の炭化水素基である。)
を表す。P1は、Y1とY1の隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、P2は、Y2とY2の隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、P1とP2が互いにさらに結合して環を形成しても良い。T2は、一般式(I)のT1と同義である。なお、電荷は省略してある。)
【0030】
前記式(II)中のY1及びY2は、
【0031】
【化7】

(R3は、水素原子または炭素数が1〜4の炭化水素基である。)
を表し、P1は、Y1とY1の隣接位の2つの炭素原子と一体となって含窒素芳香族複素環を形成するために必要な原子群であり、P2は、Y2とY2の隣接位の2つの炭素原子と一体となって含窒素芳香族複素環を形成するために必要な原子群であり、P1とP2が互いにさらに結合して環を形成しても良い。含窒素芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソキノリン、キナゾリンが挙げられ、これらは前記R1で置換されてもよい。好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、であり、さらに好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、イミダゾールである。これらの基は、さらに前記R1における置換基で置換されてもよい。N−アルキピロールのアルキル基は、メチル基、エチル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0032】
また、P1とP2骨格が互いに結合して新たに環を形成しても良く、以下のような(III―1)〜(III―6)の構造をもつものが好ましい。さらに好ましくは、(III―1)〜(III―3)の構造をもつ。
【0033】
【化8】

(式中のR4は、一般式(I)のR1と同義であり、複数あるR4は、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。R5は水素原子または炭素数が1〜30で表される炭化水素基を表し、複数あるR5は、それぞれ同じでも、異なっていてもよい。
【0034】
上記R5は好ましくは、水素原子または炭素数1〜8で表される炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、オクチル基が挙げられる。
【0035】
前記金属錯体における配位子としては、金属原子と配位結合で結合しうる配位原子を5〜15個有すると好ましい。ここで配位原子とは、久保亮五他編「岩波 理化学辞典 第4版」(1991年1月10日発行、岩波書店)966頁に記載の通り、該金属原子の空軌道に電子を供与する非共有電子対を有し、金属原子と配位結合で結合する原子を示す。
該配位子中の配位原子の総数は、好ましくは5〜12個であり、より好ましくは6〜10個であり、特に好ましくは6〜8個である。また、該配位原子は電気的に中性であっても、荷電したイオンであってもよい。
【0036】
該配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子から選ばれ、複数ある配位原子は互いに同一でも異なっていてもよい。より好ましくは窒素原子、酸素原子、硫黄原子であり、特に好ましくは窒素原子および酸素原子である。
【0037】
ここで前記式(II)の構造を有する配位子の具体的な構造を下記式(IV―1)〜(IV―18)に例示する。このうち、好ましくは、式(IV―1)〜(IV―12)であり、特に好ましくは、式(IV―1)〜(IV―6)である。なお、電荷は省略してある。
【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
また、本発明の前記の金属錯体において配位子原子が配位結合する金属原子は、無電荷でも、荷電しているイオンであってもよい。
【0045】
前記の金属原子としては、元素の周期表の第4周期〜第6周期に属する遷移金属原子であると好ましい。
具体的には、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金からなる群から選ばれる金属原子が例示される。
これらの中で好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる金属原子であり、さらに好ましくはスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル及びタングステンからなる群から選ばれる金属原子である。
これらの中でも、とりわけ、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群から選ばれる金属原子であると好ましく、特に好ましくは、前記で例示した金属原子マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群から選ばれる金属原子である。
【0046】
また、本発明に用いられる金属錯体は、1〜10個の金属原子を有していると好ましく、より好ましくは1〜5個であり、さらに好ましくは1〜4個であり、特に好ましくは1または2個である。
【0047】
本発明に用いられる金属錯体は、分子内に含窒素芳香族複素環を1つと、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を4つ以上有する有機化合物を配位子とすることを必須とするが、前記配位子に加え、他の配位子を有していてもよい。他の配位子としてはイオン性でも電気的に中性の化合物でもよく、このような他の配位子を複数有する場合、これらの他の配位子は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0048】
前記他の配位子における電気的に中性の化合物としては、アンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、チアゾール、イソチアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノールなどの窒素原子含有化合物;水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、2−メトキシエタノール、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトール等の酸素含有化合物;ジメチルスルホキシド、尿素等の硫黄含有化合物;1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−フェニレンビス(ジメチルホスフィン)等のリン含有化合物等が例示される。
好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノール、水、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールであり、 より好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノール、カテコール、サリチル酸、フタル酸、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールが挙げられる。
これらの中でも、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、インドール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、フェニレンジアミン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノールがさらに好ましい。
【0049】
また、アニオン性を有する配位子としては、水酸化物イオン、ペルオキシド、スーパーオキシド、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオンなどのテトラアリールボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、金属酸化物イオン、メトキサイドイオン、エトキサイドイオン、2−エチルヘキサン酸イオン等が挙げられる。
好ましくは、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが例示され、これらの中でも、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオンがより好ましい。
【0050】
さらに、前記アニオン性を有する配位子として例示したイオンは、本発明の金属錯体自体を電気的に中和する対イオンとして有していてもよい。
【0051】
また、本発明に用いられる金属錯体は、電気的中性を保たせるようなカチオン性を有する対イオンとして持つ場合がある。カチオン性を有する対イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンなどのテトラアリールホスホニウムイオン等が例示され、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンが挙げられる。
これらの中でも、カチオン性を有する対イオンとして、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンが好ましい。
【0052】
次に本発明に適用する金属錯体の合成法について説明する。本発明の金属錯体は、配位子を有機化学的に合成し、前記の金属原子を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と呼ぶ)と混合することにより得ることができる。金属付与剤としては、前記例示した金属の酢酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩などを用いることができる。
【0053】
配位子の合成は、非特許文献Tetrahedron.,1999,55,8377.に記載されているように、有機金属反応剤の複素環式化合物への付加反応及び酸化をおこない、ハロゲン化反応、次いで遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応によって合成することができる。また、複素環のハロゲン化物を用いて、段階的にクロスカップリング反応で合成することも可能である。
【0054】
前記のとおり、本発明の金属錯体は、配位子及び金属付与剤を適当な反応溶媒の存在下で混合させることで得ることができる。具体的には、反応溶媒としては、水、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジンが挙げられ、これらを2種以上混合してなる反応溶媒を用いてもよいが、配位子及び金属付与剤が溶解し得るものが好ましい。反応温度としては通常−10〜200℃、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは0〜100℃、反応時間としては通常1分〜1週間、好ましくは5分〜24時間、特に好ましくは1時間〜12時間で実施することができる。なお、反応温度および反応時間についても、配位子及び金属付与剤の種類によって適宜設定できる。
反応後の反応溶液から、生成した金属錯体を単離精製する手段としては、公知の再結晶法、再沈殿法あるいはクロマトグラフィー法から適宜最適な手段を選択して用いることができ、これらの手段を組合わせてもよい。
なお、前記反応溶媒の種類によっては、生成した金属錯体が析出する場合があり、析出した金属錯体を濾別等で分離し、必要に応じて洗浄操作や乾燥操作を行うことでも、金属錯体を単離精製することもできる。
本発明に用いる金属錯体としての好ましい配位形態としては、第4周期に属する遷移金属から選ばれる遷移金属と前記式(IV−1)〜(IV−12)に記載の配位子のいずれかを反応させて得られる金属錯体であり、さらに好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる遷移金属と前記式(IV−1)〜(IV−7)に記載の配位子のいずれかを反応させて得られる金属錯体である。
【0055】
前記式(I)で表される金属錯体の残基を有するポリマーとは、前記式(I)で表される金属錯体における水素原子の一部又は全部(通常、1個)を取り除いてなる原子団からなる基を有するポリマーを意味しており、この場合に用いられるポリマーとして、特に制限はないが、導電性高分子、デンドリマー、天然高分子、固体高分子電解質、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン等を例示することができる。その中でも、導電性高分子、固体高分子電解質が特に好ましい。導電性高分子とは金属的または半金属的な導電性を示す高分子物質の総称である(岩波理化学辞典第5版:1988年発行)。導電性高分子としては、「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)や「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されているような、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリカルバゾール及びその誘導体、ポリインドール及びその誘導体、ならびに前記導電性高分子の共重合体などを挙げることができる。
固体高分子電解質としては、パーフルオロスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンエーテルスルホンをスルホン化した高分子などを挙げることができる。
【0056】
前記式(I)で表される金属錯体の残基を繰り返し単位として有するポリマーとは、前記式(I)で表される金属錯体における水素原子の一部又は全部(通常、2個)を取り除いてなる原子団からなる基を繰り返し単位として有するポリマーを意味しており、例えば、大環状配位子を含む二官能性モノマーを重合することにより生成するものである。
なお、分子鎖の長さによるものではない。
【0057】
次に、本発明における、金属錯体の安定化処理(変性処理)の条件について詳述する。
変性処理に用いる金属錯体は、1種の金属錯体のみを用いてもよく、2種以上の金属錯体を用いることもできる。
該金属錯体は、変性処理を施す前処理として、15℃以上200℃以下の温度、10Torr以下の減圧下において6時間以上乾燥させておくと特に好ましい。該前処理としては、真空乾燥機等を用いることができる。
【0058】
金属錯体の変性処理を行う際に用いる雰囲気としては、水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、アセトニトリル、並びにこれらの混合ガスの存在下であることが好ましい。
好ましくは水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン、並びにこれらの混合ガスの存在下であり、より好ましくは水素、窒素、アンモニア、アルゴン、並びにこれらの混合ガスの存在下である。
また、変性処理に係る圧力は、選択する変性処理において適宜変更することができる。 該金属錯体を加熱処理する際の温度は、該加熱処理の前後において、質量減少率が1質量%以上90質量%以下となり、且つ加熱処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上となる温度であれば、特に限定されない。
該加熱処理の処理温度としては、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上、特に好ましくは500℃以上である。また、焼成処理にかかる温度の上限も、処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上にできるものであれば、特に限定されないが、好ましくは1200℃以下であり、より好ましくは1000℃以下である。
【0059】
多核錯体の加熱処理を行う際に用いる雰囲気は、水素、一酸化炭素などの還元雰囲気、酸素、炭酸ガス、水蒸気などの酸化雰囲気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス雰囲気、アンモニア、アセトニトリルなどの含窒素化合物のガスまたは蒸気、並びにこれらの混合ガスの存在下であることが好ましい。より好ましくは、還元雰囲気であれば、水素、および水素と前記不活性ガスとの混合雰囲気、酸化雰囲気であれば、酸素、および酸素と前記不活性ガスとの混合雰囲気、また、不活性ガス雰囲気であれば、窒素、ネオン、アルゴン、並びにこれらのガスの混合雰囲気である。
また、加熱処理に係る圧力は、特に限定されるものではないが、0.5〜1.5気圧程度の常圧付近であると好ましい。
【0060】
加熱処理にかかる処理時間は、前記の使用ガスや温度等により適宜設定できるが、上記ガスの密閉あるいは通気させた状態において、室温から徐々に温度を上昇させ目的温度到達後、すぐに降温してもよい。中でも、目的温度に到達後、温度を維持することで、徐々に金属錯体を加熱することが、耐久性をより向上させることができるため好ましい。目的とする温度到達後の保持時間は、好ましくは1〜100時間であり、より好ましくは1〜40時間であり、さらに好ましくは2時間〜10時間であり、特に好ましくは2〜5時間である。
【0061】
加熱処理を行う装置も、特に限定されるものではなく、管状炉、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等が例示される。本発明の変性金属錯体は、前記のような加熱処理による、低分子脱離を伴って質量減少を生じ、配位子同士が反応することで、金属錯体が縮合体を形成し、その縮合体の中で配位構造が安定するものと考えられる。該加熱処理に代わる、他の変性処理においても、質量減少率を前記の範囲にできる処理において、同等の効果が得られる。
【0062】
加熱処理に代わる変性処理としては、α線、β線、中性子線、電子線、γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、電波、レーザー等の電磁波又は粒子線等から選ばれる何れかの放射線照射処理、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理(低温プラズマ処理を含む)等の放電処理から選択することができる。
これらの中でも、好ましい変性処理としては、X線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波及びレーザーから選ばれる放射線照射処理又は低温プラズマ処理が挙げられる。より好ましくは、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波、レーザーから選ばれる放射線を照射する方法である。
これらの方法は、通常高分子フィルムの表面改質処理に用いられる機器、処理方法に準じて行うことが可能であり、例えば文献(日本接着学会編、「表面解析・改質の化学」、日刊工業新聞社、2003年12月19日発行)等に記載された方法を用いることができる。
【0063】
ここで、前記の加熱処理、放射線照射処理又は放電処理を行う際に、該金属錯体が、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下になり、且つ処理後の変性物の炭素含有率が5質量%以上にできるよう、変成できる条件を任意に設定することができるが、好ましい処理時間としては10時間以内、より好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内、特に好ましくは30分以内である。
【0064】
前記のようにして加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理を施し、質量減少率が1質量%以上、好ましくは2質量%以上変性処理を行って本発明の変性金属錯体が得られる。

【0065】
さらに、本発明の変性金属錯体は元素分析における炭素含有率が5質量%以上である。
該炭素含有率が10質量%以上であると好ましく、20質量%以上であるとより好ましく、30質量%以上であるとさらに好ましく、40質量%以上98質量%以下であると特に好ましい。処理物の炭素含有率が高いほど錯体構造がより安定化し、該変性金属錯体における金属原子の集積度が向上しやすいため好ましい。本発明の変性金属錯体は、前記記載の処理により得ることができるが、該処理後において、未反応の金属錯体や、金属錯体が分解することで生成した金属微粒子や金属酸化物を含んでいる場合がある。このような場合、酸処理等により、金属微粒子や金属酸化物を取り除いたものが変性金属錯体であるが、変性金属錯体としての機能を妨げない限りにおいて、そのまま触媒として使用することができる。
本発明において「変性金属錯体」とは、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、とりわけ好ましくは60質量%以下となるまで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上である金属錯体をいい、好ましくはカーボン化合物を形成する場合であり、更に好ましくは、グラフェン化合物を形成する場合である。なお、カーボン化合物とは、炭素含有率が5質量%以上である化合物をいう。変性処理前の金属錯体と同様の触媒活性を安定化し、一層高めることができる。具体的には該質量減少は、主に金属錯体からの低分子脱離に起因するものであり、このような低分子の脱離は、変性処理にて生成するガス成分を質量分析装置などを用いて確認することができる。また、金属錯体構造は、X線吸収微細構造(EXAFS)分析法、赤外分光法、ラマン分光法などにより、金属原子と配位原子との結合に帰属されるスペクトルから確認することができる。
【0066】
本発明の変性金属錯体は、前記に示したように、変性処理に伴って配位子同士の反応、すなわち配位子同士が低分子離脱を伴って縮合し、配位子が縮合して生じた配位子変性体の中に、金属原子が変性前の金属錯体とほぼ同等の空間的配置を維持してなるものと推定される。ここで、配位子の変性体はグラフェン状構造で縮合・連結された状態であると、より酸に対する安定性、熱安定性が高まるので好ましい。また、「グラフェン状構造」とは、炭素原子がsp2混成軌道によって化学結合し二次元に広がった炭素六角網面構造を意味し、グラフェン状構造を構成する炭素原子の一部は、窒素などのヘテロ原子に置き換えられてもよい。また、前述のグラフェン状構造が積層したグラファイト状構造を取ってもよい。
また、本発明の変性金属錯体がグラフェン状構造である場合、導電性も向上するという効果もある。かかる場合のグラフェン状構造の存在は、励起波長532nmのレーザーラマン分光分析により得られるスペクトルにおいて、グラフェン状構造の存在を表す1550〜1600cm-1のピーク(極大)の存在により確認される。該ピーク(極大)の観測される下限値としては、好ましくは1560cm-1であり、より好ましくは1570cm-1である。また、該ピーク(極大)の観測される上限値としては、好ましくは1595cm-1であり、より好ましくは1590cm-1である。
次に、本発明の変性金属錯体における別の実施形態について説明する。
前記に記載したような(a)金属錯体と、(b)カーボン担体、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物とを、含む金属錯体混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理を施し、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率が5質量%以上として変性金属錯体組成物である。ここで、質量減少率は、金属錯体混合物におけると、(a)と(b)の合計質量に対して求める。
【0067】
該金属錯体混合物における(a)と(b)の混合比率は、(a)と(b)の合計質量に対し、(a)の含有量が、1〜70質量%になるように設定することが好ましい。前記卑金属錯体の含有量が2〜60質量%であると、より好ましく、3〜50質量%であると、特に好ましい。
【0068】
前記カーボン担体の例としては、ノーリット(NORIT社製)、ケッチェンブラック(Lion社製)、バルカン(Cabot社製)、ブラックパール(Cabot社製)、アセチレンブラック(Chevron社製)(いずれも商品名)等のカーボン粒子、C60やC70等のフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維等が挙げられる。
【0069】
沸点あるいは融点が250℃以上である有機化合物の例としては、ペリレン―3,4,9,10―テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10―ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、1,4,5,8―ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8―ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、1,4,5,8―ナフタレンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、二無水ピロメリット酸などの芳香族系化合物カルボン酸誘導体などが挙げられる。ここで、沸点又は融点は、公知の方法を用いて測定することが可能であり、測定された値から選択することが可能であるが、文献等に記載されている値を用いて選択されることもできる。
また、計算機シミュレーション等で求められた計算値でもよく、例えば、Chemical
Abstract Serviceから提供されるソフトウェアであるSciFinderに登録されている沸点あるいは融点の計算値を用いても選んでも良い。下記に示す化合物において沸点(b.p.)にある「calc」の表記は、前記SciFinderに登録されている計算値である。
【0070】
【化15】

【0071】
また、250℃以下で熱重合を開始する化合物は、芳香族環の他に二重結合または三重結合を有する有機化合物であり、例えばアセナフチレンやビニルナフタレンなどの有機化合物が例示される。下記に示す化合物に記載の数値は、各有機化合物の重合開始温度である。なお、該数値は「炭素化工学の基礎」(第1版第2刷、昭和57年、オーム社)に記載されている。
【0072】
【化16】

【0073】
この実施形態は上記のように(a)成分に加えて(b)成分として用いる以外、その変性処理方法、処理条件、変性処理(安定化処理)による質量減少率、処理後の金属錯体の炭素含有率等については、第1の実施形態と同様である。
本発明の第2の実施形態として、前記記載の金属錯体を、カーボン担体、沸点あるいは融点が250℃以上の有機化合物、および熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物と共に前記処理する方法が挙げられるが、該処理後において、金属錯体が分解することで生成する金属微粒子や金属酸化物を含んでいる場合がある。このような場合、金属微粒子や金属酸化物を取り除いたものが第2の実施形態の変性金属錯体である。一方、第2の実施形態において、前記カーボン担体、前記有機化合物の未反応成分、前記有機化合物の分解成分が混ざっている場合がある。このような場合、溶媒による洗浄、カラム分離、溶媒抽出操作等により、未反応成分や分解成分を取り除くことが好ましいが、変性金属錯体としての機能を妨げない限りにおいては、そのまま触媒として使用することができる。
また、本発明の第3の実施形態として、前記記載の金属錯体を、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を用いる以外、処理条件、変性処理(安定化処理)による質量減少率、処理後の金属錯体の炭素含有率等については、第1の実施形態と同様の処理を行うことで、変性金属錯体が得られる。該カーボン担体としては、前記例示したカーボン担体を用いることができる。また、導電性高分子としては、「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)や「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されているような、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリカルバゾール及びその誘導体、ポリインドール及びその誘導体、ならびに前記導電性高分子の共重合体などを挙げることができる。
【0074】
とりわけ、ヘテロ原子を配位原子とする金属錯体に上記の処理を施した場合、中心金属とヘテロ原子との結合の他に新たな結合が形成され、安定性が一層高まる。ここでいうヘテロ原子とは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、セレン原子、ヒ素原子、ハロゲン原子であり、より好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、さらに好ましくは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、特に好ましくは酸素原子、窒素原子である。
また、該金属錯体に含まれる金属原子としては、前記の金属原子と同義である。中心金属への新たな結合の形成は、広域X線吸収微細構造(EXAFS)分析法を用いて確認することができる。中心金属のEXAFS動径分布関数において、中心金属に配位したヘテロ原子は、第一近接原子由来にピークとして観測され、通常、1.0Å以上2.5Å以下の範囲に観測される。第一近接原子由来のピークが観測される範囲の下限値として、より好ましくは1.1Å以上であり、さらに好ましくは1.2Å以上である。また、その上限値として、より好ましくは2.2Å以下であり、さらに好ましくは1.8Å以下であり、特に好ましくは1.6Å以下である。上記の新たな結合の形成は、第一近接原子由来のピークよりも中心金属からより離れた位置に別ピークとして観測される。該ピークの位置は、第一近接原子由来のピークよりも0.58Å以内であり、より好ましくは、0.57Å以内、さらに好ましくは、0.56Å以内であり、特に好ましくは0.55Å以内である。
別ピークの数は、1以上であれば特に限定されないが、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2、特に好ましくは1である。また、該ピークの強度は、第一近接原子由来のピーク強度に対して、2/5以上の強度を持つものが好ましく、より好ましくは、1/2以上の強度、特に好ましくは2/3以上の強度であり、とりわけ好ましくは、3/4以上の強度である。
【0075】
本発明の変性金属錯体は、種々の用途に応じて、種々の担体、添加剤等を併用することや、その形状を加工することができる。本発明の処理金属錯体は錯体構造が安定化して、金属原子の集積度が高いので用途として、過酸化水素分解触媒、バッテリーの電極材料、電子デバイスのメモリ材料、燃料電池用の膜劣化防止剤、芳香族化合物の酸化カップリング触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーなどに特に好適である。
【0076】
また、本発明の変性金属錯体は、触媒として使用する際に、カーボン担体及び/又は導電性高分子とを含む組成物として用いることもできる。このようにすると、より変性金属錯体の安定性がより増したり、触媒活性がより向上したりする等の観点から有用である。
なお、導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等を挙げることができる。また、カーボン担体の具体例は前記と同等である。また、このような組成物としては、本発明の変性金属錯体を複数混合して使用することもできるし、カーボン担体又は導電性高分子を複数使用することもできるし、カーボン担体と導電性高分子を組合わせて使用することもできる。
【0077】
以下に、本発明の変性金属錯体の、好ましい用途について説明する。
本発明の変性金属錯体は、好ましくはカーボン化合物を形成する場合であり、更に好ましくはグラフェン化合物を形成する場合である。変性処理前の金属錯体と同様の触媒活性を安定化し、一層高めることができる。具体的には過酸化物の分解触媒、特に過酸化水素の分解触媒に用いることがより好ましい。過酸化水素の分解触媒に用いる場合、ヒドロキシルラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解できるという特徴を有する。具体的には、固体高分子電解質型燃料電池用や水電気分解用のイオン伝導膜の劣化防止剤や、医農薬や食品の抗酸化剤等の用途が挙げられる。
また、芳香族化合物の酸化カップリング触媒としても好適であり、この用途である場合、例えば、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートなどのポリマー製造に関わる触媒として使用することができる。使用形態としては、前記変性物を反応溶液に直接添加する方法や、該変性物をゼオライトやシリカ等に担持させる方法が挙げられる。
【0078】
本発明の変性金属錯体は、各種工場や自動車からの排ガス中に含有されている硫黄酸化物や窒素酸化物を硫酸やアンモニアへ転換するための脱硫・脱硝触媒としても使用できる。工場からの排ガスが通気する塔に充填する方法や、自動車のマフラーに充填する方法などが挙げられる。
【0079】
さらに、本発明の変性金属錯体は、改質水素中のCOを変成させる触媒として使用することもできる。改質水素中にはCOなどが含まれており、改質水素を燃料電池として使用する場合、燃料極がCOの被毒を受けることが問題であり、COの濃度を極力低減することが望まれる。具体的な使用形態については、例えば、Chemical
Communication,3385(2005)に記載の方法等が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的にさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
合成例1
金属錯体(A)を以下の反応式に従って合成した。
【0081】
【化17】

【0082】
なお、錯体の原料となる上記配位子はTetrahedron,55,8377(1999)に記載の方法により合成した。窒素雰囲気下において、1.388gの配位子と1.245gの酢酸コバルト4水和物を含んだ2−メトキシエタノール200ml溶液を500mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら2時間攪拌し、褐色固体が生成した。この固体を濾取し、さらに2−メトキシエタノール20mlで洗浄、乾燥することで金属錯体(A)を得た(収量1.532g:収率74%)。元素分析値(%):C4950Co248として;計算値C,62.56;H,5.36;N,5.96;Co, 12.53.実測値:C,62.12;H,5.07;N,6.03;Co,
12.74.また、金属錯体(A)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J(商品名)、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(A)を調製した。
【0083】
合成例2
金属錯体(B)を以下の反応式に従って合成した。
【0084】
【化18】

【0085】
なお、錯体の原料となる上記配位子は、実施例1で合成した配位子を用いた。0.315gの該配位子と0.124gの酢酸コバルト4水和物を含んだ50mlのエタノールを100mlのナスフラスコに入れ、80℃にて1時間攪拌した。生成した褐色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(B)を得た(収量0.270g:収率81%)。元素分析値(%):C4240CoN44として;計算値C,69.70;H,5.57; N, 7.74; 実測値:C,70.01;H,5.80;N,7.56.また、金属錯体(B)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(B)を調製した。
【0086】
合成例3
下記反応式に示される金属錯体(C)をAustralian Journal of Chemistry,23,2225(1970)に記載の方法に従い合成した。
【0087】
【化19】

【0088】
窒素雰囲気下において1.9gの塩化コバルト6水和物と1.31gの4―メチル−2,6−ジホルミルフェノールを含んだ50mlメタノール溶液を100mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.59gの1,3−プロパンジアミンを20mlのメタノールに溶解した溶液を徐々に添加した。上記混合物を3時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(C)を得た(収量1.75g:収率74%)。なお、上記反応式において、「Cl2」とは、2当量の塩素イオンが対イオンとしてあることを示し、「2MeOH」とは、2当量のメタノールが含まれていることを示す。元素分析値(%):C2634Cl2Co244として;計算値C,47.65;H,5.23;N,8.55.実測値:C,46.64;H,5.02;N,8.58.また、金属錯体(C)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(C)を調製した。
【0089】
合成例4
金属錯体(D)を以下の反応式に従って合成した。
【0090】
【化20】

【0091】
なお、錯体の原料となる上記配位子は、合成例1で合成した配位子を用いた。窒素雰囲気下において、0.126gの配位子を含んだエタノール10ml溶液と0.078gの酢酸鉄を含んだメタノール5ml溶液を50mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら3時間攪拌したところ、褐色固体が析出した。この、固体を濾取し、さらにメタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(D)を得た(収量0.075g:収率41%)。なお、上記反応式において、「(OAc)2」とは、2当量の酢酸イオンが対イオンとしてあることを示し、「MeOH」とは、2当量のメタノール分子が含まれていることを示している。元素分析値(%):C4850Fe248として;計算値:C,62.49;H,5.46;N,6.07、実測値:C,59.93;H,5.29;N,5.70.また、金属錯体(D)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(D)を調製した。
【0092】
合成例5
金属錯体(E)を以下の反応式に従って合成した。
【0093】
【化21】

【0094】
なお、錯体の原料となる上記配位子は、合成例1で合成した配位子を用いた。窒素雰囲気下において、0.126gの配位子を含んだクロロホルム2ml溶液と0.089gの塩化マンガン4水和物を含んだエタノール6ml溶液を25mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら3時間攪拌したところ、黄色固体が析出した。この、固体を濾取し、さらにクロロホルムとエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(E)を得た(収量0.092g)。なお、上記反応式において、「Cl2」とは、2当量の塩化物イオンが対イオンとしてあることを示し、「2H2O」とは、2当量の水分子が含まれていることを示している。元素分析値(%):C4240Mn244として;計算値:C,59.66;H,4.77;N,6.63、実測値:C,58.26;H,4.58;N,6.33.また、金属錯体(E)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(E)を調製した。
【0095】
合成例6
金属錯体(F)を以下の反応式に従って、配位子と2−エチルヘキサン酸コバルトを含んだクロロホルム溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0096】
【化22】

【0097】
窒素雰囲気下において、0.077gの配位子と0.239gの2−エチルヘキサン酸コバルト(65wt%ミネラルオイル溶液)を含んだクロロホルム5mlを25mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら9時間攪拌した。この溶液を、ジエチルエーテル50mlの三角フラスコに滴下した。析出した固体を濾取し、さらにジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(F)を得た(収量0.146g)。ESI−MS[M+・]:1032.2。
元素分析値(%):計算値(C58H66Co2N4O6として);C,67.43;H,6.44;N,5.42.実測値:C,66.97;H,6.21;N,5.27であった。また、金属錯体(F)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(F)を調製した。
【0098】
合成例7
金属錯体(G)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸ニッケル4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0099】
【化23】

【0100】
窒素雰囲気下において、0.250gの配位子と0.100gの酢酸ニッケル4水和物を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した橙色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(G)を得た(収量0.242g)。元素分析値(%):Calcd for C42364NiO2;C,73.38;H,5.28;N,8.15.Found:C,72.42;H,5.27;N,7.96.ESI−MS[M+・]:687.1. また、金属錯体(G)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(G)を調製した。
【0101】
合成例8
金属錯体(H)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸銅1水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0102】
【化24】

【0103】
窒素雰囲気下において、0.315gの配位子と0.100gの酢酸銅1水和物を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した黄土色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(H)を得た(収量0.250g)。元素分析値(%):Calcd for C4236CuN42;C,72.87;H,5.24;N,8.09.Found:C,72.22;H,5.37;N,7.77.ESI−MS[M+・]:692.1. また、金属錯体(H)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(H)を調製した。
【0104】
合成例9
金属錯体(I)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸鉄を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0105】
【化25】

【0106】
窒素雰囲気下において、0.440gの配位子と0.120gの酢酸鉄を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した橙色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(I)を得た(収量0.380g)。元素分析値(%):Calcd for C4236FeN42;C,73.68;H,5.30;N,8.18.Found:C,72.20;H,5.42;N,7.85.ESI−MS[M+・]:684.0. また、金属錯体(I)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(I)を調製した。
【0107】
合成例10
金属錯体(J)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸ニッケルを含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0108】
【化26】

【0109】
窒素雰囲気下において、0.200gの配位子と0.250gの酢酸ニッケル4水和物を含んだエタノール30ml溶液を50mLのナスフラスコに100℃に加熱しながら2時間攪拌したところ、橙色固体が析出した。この固体を濾取し、エタノールとジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(J)を得た(収量0.276g)。元素分析値(%):C4642Niとして、計算値:C,63.93;H,4.90;N,6.07.実測値:C,63.22;H,5.02;N,6.43.また、金属錯体(J)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(J)を調製した。
【0110】
合成例11
金属錯体(K)を以下の反応式に従って、配位子を含んだクロロホルム溶液と硝酸コバルト6水和物を含んだメタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0111】
【化27】

【0112】
窒素雰囲気下において、0.096gの配位子と0.082gの硝酸コバルト6水和物を含んだクロロホルム2mlとメタノール5mlの混合溶液を100mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら7時間攪拌し、黄色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにメタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(K)を得た(収量0.036g)。ESI−MS[M-NO3] +:808.0。また、金属錯体(K)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(K)を調製した。
【0113】
合成例12
金属錯体(L)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0114】
【化28】

【0115】
窒素雰囲気下において、0.303gの配位子と0.125gの酢酸コバルト4水和物を100mlの二口フラスコに入れ、50mlのエタノールを加えた。この溶液を3時間還流することにより、黄土色固体が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(L)を得た(収量0.242g)。ESI−MS[M+H]+ :664.2。また、金属錯体(L)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(L)を調製した。
【0116】
合成例13
金属錯体(M)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0117】
【化29】

【0118】
窒素雰囲気下において、0.303gの配位子と0.324gの酢酸コバルト4水和物を100mlの二口フラスコに入れ、20mlのエタノールと20mlのクロロホルム混合溶液を加えた。この溶液を3時間還流することにより、黄土色固体が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(M)を得た(収量0.133g)。ESI−MS[M-OAc]+ :781.0。また、金属錯体(M)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(M)を調製した。
【0119】
金属錯体(P)を以下の反応式に従い、化合物(N)、配位子(O)を経由して合成した。
【0120】
合成例14[化合物(N)の合成]
【0121】
【化30】

【0122】
アルゴン雰囲気下で、3.945gの2,9-ジ(3’-ブロモ-5’-tert-ブチル-2’-メトキシフェニル)-1,10-フェナントロリン、3.165gの1-N-Boc-ピロール-2-ボロン酸、0.138gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0.247gの2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル、5.527gのリン酸カリウムを200mLのジオキサンと20mLの水の混合溶媒に溶解し、60℃にて6時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製し、化合物(N)を得た。1H-NMR(300MHz, CDCl3)δ1.34(s, 18H), 1.37(s, 18H), 3.30(s, 6H), 6.21(m, 2H), 6.27(m, 2H), 7.37(m, 2H), 7.41(s, 2H), 7.82(s, 2H), 8.00(s, 2H), 8.19(d, J=8.6Hz, 2H), 8.27(d, J=8.6Hz, 2H).
【0123】
合成例15[配位子(O)の合成]
【0124】
【化31】

【0125】
窒素雰囲気下で0.904gの化合物(N)を10mLの無水ジクロロメタンに溶解させる。ジクロロメタン溶液を-78℃に冷却しながら、8.8mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌させた後、室温まで攪拌させながら放置した。3時間後、反応溶液を0℃まで冷却させ、飽和NaHCO3水溶液を加えたのち、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮した。得られた褐色の残渣を、シリカゲルカラムで精製し、配位子(O)を得た。1H-NMR(300MHz, CDCl3)δ1.40(s, 18H), 6.25(m, 2H), 6.44(m, 2H), 6.74(m, 2H), 7.84(s, 2H), 7.89(s, 2H), 7.92(s, 2H), 8.35(d, J=8.4Hz, 2H), 8.46(d, J=8.4Hz, 2H), 10.61(s, 2H), 15.88(s, 2H).
【0126】
合成例16[金属錯体(P)の合成]
【0127】
【化32】

【0128】
窒素雰囲気下において、0.100gの配位子(O)と0.040gの酢酸コバルト4水和物を含んだ20mlのArで脱気したアセトニトリル溶液を、100mlの二口フラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液にトリエチルアミンを45μl滴下し、3時間還流した。この溶液を濃縮し、冷却した後、メンブレンフィルターで濾取し、乾燥することで金属錯体(P)を得た(収量0.098g)。ESI−MS[M+・] :663.1。また、金属錯体(P)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(P)を調製した。
【0129】
金属錯体(S)を以下の反応式に従い、化合物(Q)、配位子(R)を経由して合成した。
【0130】
合成例17[化合物(Q)の合成]
【0131】
【化33】

【0132】
アルゴン雰囲気下で、0.132gの2,9-ジ(3’-ブロモ-5’-tert-ブチル-2’-メトキシフェニル)-1,10-フェナントロリン、0.061gの3-ピリジルボロン酸、0.046gのテトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム、0.111gの炭酸カリウムを5mLのジオキサンと0.5mLの水の混合溶媒に溶解し、100℃にて9時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製し化合物(Q)を得た。
【0133】
合成例18[配位子(R)の合成]
【0134】
【化34】

【0135】
窒素雰囲気下で0.110gの化合物(Q)を3mLの無水ジクロロメタンに溶解させた。ジクロロメタン溶液をドライアイス/アセトンバスで-78℃に冷却しながら、1.3mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌させた後、ドライアイス/アセトンバスを取り除き、室温まで攪拌させながら放置した。4時間後、飽和NaHCO3水溶液を加えて中和し、クロロホルムを加えて3回抽出した。得られた有機層を濃縮して、得られた残渣を精製し、配位子(R)を得た。1H-NMR(300MHz, CDCl3)δ1.47(s, 18H), 7.44(t,J=6.2Hz,2H), 7.55(s, 2H), 7.95(s, 2H), 8.16(s, 2H), 8.40(d, J=8.3Hz, 2H), 8.53(d, J=8.3Hz, 2H), 8.67(d, J=7.5Hz, 2H), 9.47(s, 2H), 9.79(d, J=2.8Hz, 2H), 15.36(s, 2H).
【0136】
合成例19[金属錯体(S)の合成]
【0137】
【化35】

【0138】
窒素雰囲気下において、0.096gの配位子(R)と0.037gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム10mlとエタノール4mlの混合溶液を100mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら6時間攪拌し、褐色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(S)を得た(収量0.040g)。ESI−MS[M+・]:687.1。また、金属錯体(S)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(S)を調製した。
【0139】
金属錯体(V)を以下の反応式に従い、化合物(T)、配位子(U)を経由して合成した。
【0140】
合成例20[化合物(T)の合成]
【0141】
【化36】

【0142】
アルゴン雰囲気下で、0.662gの2,9-ジ(3'-ブロモ-5'-tert-ブチル-2'-メトキシフェニル)-1,10-フェナントロリン、0.520gの2-tert-ブチル-5-メトキシフェニルボロン酸、0.090gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0.160gの2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル、0.920gのリン酸カリウムを30mLのジオキサンと10mLの水の混合溶媒に溶解し、60℃にて31時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製し化合物(T)を得た。1H-NMR(300MHz, CDCl3)δ1.34(s, 18H), 1.39(s, 18H), 3.33(s, 6H), 3.76(s, 6H), 6.91(s, 2H), 6.94(s, 2H), 7.36(m, 6H), 7.83(s, 2H), 7.95(d, J=2.6Hz, 2H), 8.16(d, J=8.2Hz, 2H), 8.26(d, J=8.2Hz, 2H).
【0143】
合成例21[配位子(U)の合成]
【0144】
【化37】

【0145】
窒素雰囲気下で0.281gの化合物(T)を5mLの酢酸に溶解させる。48%臭化水素酸0.573gを滴下し、110℃で攪拌させた。20時間後、反応溶液を0℃まで冷却させ、水を加えたのち、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムで精製し、配位子(U)を得た。1H-NMR(300MHz, CDCl3) δ1.40(s, 18H), 1.44(s, 18H), 6.59(s, 2H), 6.62(s, 2H), 7.35(m, 6H), 7.53(s, 2H), 7.89(s, 2H), 8.01(s, 2H), 8.38(d, J=9.0Hz, 2H), 8.47(d, J=9.0Hz, 2H) , 16.12(s, 2H).
【0146】
合成例22[金属錯体(V)の合成]
【0147】
【化38】

【0148】
窒素雰囲気下において、0.077gの配位子(U)と0.050gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム10mlとエタノール2mlの混合溶液を25mlのナスフラスコに入れ、70℃に加熱しながら9時間攪拌した。この溶液を、ジエチルエーテル50mlの三角フラスコに滴下した。析出した固体を濾取し、さらにジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(V)を得た(収量0.018g)。ESI−MS[M+・]:829.3。また、金属錯体(V)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(V)を調製した。
【0149】
参考例1
熱質量/示差熱分析装置(セイコーインスツルEXSTAR-6300、以下熱分析装置と呼ぶ)を用いて、金属錯体(A)、金属錯体(B)、金属錯体(D)、および金属錯体(E)の熱処理時における重量変化(TGA)を測定した。測定条件は窒素雰囲気下(昇温速度10℃/min)であり、熱処理にはアルミナ皿を使用した。分析結果(分析チャート)を、図1〜図4に示す。
【0150】
実施例1〜21
上記、熱質量分析結果から得られた知見を元に、熱処理時の質量減少率が1質量%以上となるように熱処理を行った。すなわち、金属錯体あるいは金属錯体混合物を管状炉を用いて、窒素雰囲気下において目的温度で2時間熱処理を行った。
熱処理に用いた管状炉および熱処理条件を以下に示す。
管状炉:プログラム制御開閉式管状炉EPKRO−14R、いすゞ製作所
熱処理雰囲気:窒素ガスフロー(200ml/min)
昇温速度および降温速度:200℃/h
表1に使用した金属錯体あるいは金属錯体混合物、熱処理により得られた変性金属錯体名、熱処理温度を示し、処理後の質量減少率を示す。また、熱処理後の炭素含有量(元素分析値)を併記する。
【0151】
【表1】

【0152】
参考例2[変性金属錯体の金属保持能力の評価試験]
変性金属錯体(A−2)、変性金属錯体(B−1)、変性金属錯体(B−2)及び変性金属錯体(E−1)をそれぞれ0.1mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、室温にて15分間超音波処理を行った。試料に含まれる金属量を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)法により定量し、金属保持率を下記算出式を用いて算出した。
金属保持率(%)=100−(溶液側へ溶出した金属量)/(変性物に含まれていた金属量)×100
【0153】
比較例1
また、比較参考例として、合成例3で調製した金属錯体混合物(C)を実施例1〜21に記載の方法に従い、500℃にて熱処理を行うことで金属錯体組成物(C)を得た。
得られた金属錯体組成物(C)の金属保持率を上記方法に従い算出した。含窒素芳香族複素環を有していない金属錯体組成物(C)は、変性金属錯体(A−2)、変性金属錯体(B−1)、変性金属錯体(B−2)及び変性金属錯体(E−1)と比較して、金属保持能力に劣るものであった。
【0154】
【表2】

【0155】
実施例22〜26[変性金属錯体のレーザーラマンスペクトルの測定]
図5に、変性金属錯体(A−1)のレーザーラマンスペクトルを示す。測定は、下記の条件で行った。
使用装置 :顕微レーザーラマン分光装置NSR1000(日本分光)
励起波長 :532nm
対物レンズ :50倍
測定範囲 :200〜3900cm-1
図5から、変性金属錯体(A−1)は、1580cm-1に極大ピークを有していることが分かる。このことから、変性処理により得られた変性金属錯体においてグラフェン状炭素が生成していることが示される。
同様にして、変性金属錯体(B−1)、変性金属錯体(E−1)、変性金属錯体(G−1)、及び変性金属錯体(L)についてラマン分光測定をおこない、レーザーラマンスペクトルをそれぞれ図6、図7、図8及び図9に示す。いずれのチャートも、それぞれ、1588cm-1、1587cm-1、1579cm-1、1592cm-1に極大ピークを有し、グラフェン状炭素が生成していることが示される。
【0156】
実施例27、28及び29[広域X線吸収微細構造の測定]
前述の変性金属錯体(A−2)、変性金属錯体(B−2)及び変性金属錯体(P−2)を塩酸溶液中にて超音波処理し、真空乾燥することでカーボン化合物(A−2)、カーボン化合物(B−2)及びカーボン化合物(P−2)を得た。これらの広域X線吸収微細構造(Extended X-ray Absorption Fine Structure,EXAFS)の測定を行った。EXAFSの測定には、高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設のビームライン(BL−9A,12C)を用いた。直径10mmのペレット化した試料を20Kの温度に冷却し、透過法にて測定を行った。測定によって得られたX線吸収スペクトルをフーリエ変換することで動径分布関数を求めた。図10および図11に、カーボン化合物(A−2)およびカーボン化合物(B−2)の動径分布関数を示す。カーボン化合物(A−2)およびカーボン化合物(B−2)は、第一近接原子[ここでいう第一近接原子とは、EXAFS分析において測定対象となる中心金属に最も接近している原子(群)のことであり、例えば、中心金属から1.0Å以上2.5Å以下の範囲に位置する酸素原子や窒素原子などのヘテロ原子がこれに相当する。]由来のピークからそれぞれ0.50Åおよび0.53Åにピークを有することが分かる。なお、同ビームラインにてコバルト金属箔のEXAFSを室温にて測定し、得られた動径分布関数において、コバルト金属に由来するピークは2.19Åに観測された。ここでいうピークとは、最大強度値の1/2以上のものを指す。カーボン化合物(P−2)について、同様の測定を行い、得られた動径分布関数において、第一近接原子由来のピークが1.35Åに観測され、そのピークから0.49Åにピークを有することが分かった。
【0157】
比較例2[広域X線吸収微細構造の測定]
また、比較例として5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン コバルト(II)(Aldrich社製)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J、ライオン社製)を1:4の重量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて1.5Torrの減圧下で12時間乾燥することで、金属錯体混合物(W)を調製した。この金属錯体混合物を前述と同様の方法で600℃で熱処理をおこない、変性金属錯体(W)を調製した。(質量減少率1.67%,炭素含有率92.95%)
変性金属錯体(W)を塩酸溶液中にて超音波処理し、真空乾燥することでカーボン化合物(W)を得た。前述と同様の方法で、広域X線吸収微細構造(Extended X-ray Absorption Fine Structure,EXAFS)の測定を行い、動径分布関数を求めた。その結果、コバルトとの第一近接原子由来のピークは1.44Åに観測されたが、他にはピークが観測されなかった。
【0158】
参考例3[変性金属錯体(E−1)の過酸化水素分解試験]
変性金属錯体(E−1)3.6mg(約8μmol(1金属原子当り))を2口フラスコに量り取り、ここに溶媒として酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0))とエチレングリコール(1.00ml)を加え攪拌した。これを触媒混合溶液として用いた。
【0159】
この触媒混合溶液の入った2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.20ml(2.28mmol))をシリンジで加え、80℃下20分間、過酸化水素分解反応を行った。発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。
分解された過酸化水素量は、該過酸化水素分解試験で発生する酸素を含む気体体積から求めた。下式により、実測の発生気体体積値vは水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の気体体積Vに換算した。
結果を図12に示す。本発明の変性金属錯体(E−1)は、後述のブランク試験と比較して、発生気体体積量が高く、過酸化水素分解に係る触媒効果を確認した。
【0160】
【数1】

【0161】
(式中、P:大気圧(mmHg)、p:水の蒸気圧(mmHg)、t:温度(℃)、v:実測の発生気体体積(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の気体体積(ml)を示す。)
【0162】
[ブランク試験]
2口フラスコに溶媒として酒石酸水溶液/酒石酸ナトリウム緩衝溶液1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)とエチレングリコール1.00mlを加えた。この2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.200ml(2.28mmol))を加え、80℃下20分間、発生する気体をガスビュレットにより定量した。
本ブランク試験は、溶液中に溶存している空気等が主に検出されるものと考えられる。
【0163】
比較例3[金属錯体(E)の過酸化水素分解試験]
参考例3の変性金属錯体(E−1)を金属錯体(E)に変更した以外は、参考例3と同等の試験を行った。結果を図12に、参考例3と併せて示す。
これらの結果より、変性処理により得られる変性金属錯体は、錯体より酸性条件下で高い酸素還元能を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】金属錯体(A)の熱重量分析チャートを示す。
【図2】金属錯体(B)の熱重量分析チャートを示す。
【図3】金属錯体(D)の熱重量分析チャートを示す。
【図4】金属錯体(E)の熱重量分析チャートを示す。
【図5】変性金属錯体(A−1)のレーザーラマンスペクトルを示す。
【図6】変性金属錯体(B−1)のレーザーラマンスペクトルを示す。
【図7】変性金属錯体(E−1)のレーザーラマンスペクトルを示す。
【図8】変性金属錯体(G−1)のレーザーラマンスペクトルを示す。
【図9】変性金属錯体(L)のレーザーラマンスペクトルを示す。
【図10】変性金属錯体(A−2)の広域X線吸収微細構造から得られた動径分布関数
【図11】変性金属錯体(B−2)の広域X線吸収微細構造から得られた動径分布関数
【図12】変性金属錯体(E−1)及び金属錯体(E)の過酸化水素分解試験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に含窒素芳香族複素環を1つと、フェノール環、チオフェノール環、アニリン環、および含窒素芳香族複素環からなる群から選ばれた構造を4つ以上有する有機化合物を配位子とする金属錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの処理により、処理前後の質量減少率を1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項2】
分子内にフェノール環を2つ以上と、含窒素芳香族複素環を3つ以上有する有機化合物を配位子とする金属錯体を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの処理により、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下となるまで処理し、処理後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項3】
前記金属錯体が、周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属原子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の変性金属錯体。
【請求項4】
前記金属錯体に含まれる金属原子の個数が1〜10であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項5】
前記配位子が、下記一般式(I)で示される配位子であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の変性金属錯体。
【化1】

(式中、R1は、水素原子または置換基であり、隣合う2つの原子に結合している2つのR1は、互いに連結していてもよく、複数あるR1は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Q1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する2価の有機基であり、T1は、少なくとも1つの含窒素芳香族複素環を有する1価の有機基であり、2つのT1は、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記一般式(I)で表される配位子の残基を有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項7】
前記一般式(I)で表される配位子の残基を繰り返し単位として有するポリマーであることを特徴とする請求項6に記載の変性金属錯体。
【請求項8】
前記金属錯体が、窒素原子及び酸素原子を配位原子とすることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項9】
前記の金属錯体を250℃以上1200℃以下で加熱処理することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項10】
励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルにおいて、1500〜1600cm-1の範囲に吸収極大を有することを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の変性金属錯体。
【請求項11】
請求項1又は2で規定した処理前の金属錯体と、カーボン担体、沸点もしくは融点が250℃以上の有機化合物、又は熱重合開始温度が250℃以下である有機化合物から選ばれる少なくとも1種の有機化合物と、からなる混合物を、加熱処理、放射線照射処理又は放電処理の何れかの変性処理より、処理前後の質量減少率が1質量%以上90質量%以下まで変性し、変性後の炭素含有率を5質量%以上とした変性金属錯体。
【請求項12】
請求項1又は2で規定した処理前の金属錯体と、カーボン担体及び/または導電性高分子とを含む組成物を加熱処理、放射照射処理もしくは放電処理してなる変性金属錯体。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載の変性金属錯体を用いた触媒。
【請求項14】
ヘテロ原子を配位原子とする金属錯体であり、中心金属の広域X線吸収微細構造(EXAFS)動径分布関数において、1.0Å以上2.5Å以下の範囲に観測される第一近接原子由来のピークから0.58Å以内に別ピークを1つ以上有するカーボン化合物。
【請求項15】
励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルにおいて、1500〜1600cm-1の範囲に吸収極大を有することを特徴とする請求項14に記載のカーボン化合物。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のカーボン化合物を用いた触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−57362(P2009−57362A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58582(P2008−58582)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】