説明

変異型リパーゼとその応用

【課題】優れた安定性を有する変異型リパーゼを提供すること、およびこの変異型リパーゼを用いた油脂の分解物の製造法、および分解物の利用方法を提供する。
【解決手段】クリプトコッカス属、ジベレラ属、またはウスチラゴ属等の微生物が産生するリパーゼに酵素の安定性が上昇する変異を導入した変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロール等を生成させ、それを炭素源としてL−リジン、L−スレオニン、及びL−トリプトファン等のL−アミノ酸を発酵法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた安定性を有する変異型リパーゼの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、大量に消費されている石油燃料の代表的なものとしてディーゼルオイルがあり、ディーゼル車、船舶、発電機等の産業用のエンジンに使用されている。しかし、近年、化石燃料の需要と供給のバランスが逼迫し、原油の価格が高騰している。更に、国際的な地球環境問題解決の取り組みの一環として、地球温暖化の主な原因とされる化石燃料起源の二酸化炭素の削減が、危急的な目標となっている。そこで、非化石燃料の開発に力が注がれ、特にヨーロッパ諸国では、ディーゼルエンジン用、もしくはガソリンエンジン用に植物油が用いられるようになってきている。植物性油や動物性脂をメタノールと反応させメチルエステル化したものは、バイオディーゼルと呼ばれ、軽油などの代替燃料として使用されている。ヨーロッパ諸国では、主に菜種を中心にバイオディーゼルオイルが製造されている一方、米国では大豆、東南アジアではパーム油などが原料として用いられている。また、廃油やひまわりなども活用されている。
【0003】
バイオディーゼル燃料生産には現在、アルカリ触媒を用いた化学触媒法が利用されている。しかし、副産物であるグリセロールの回収が困難である上、バイオディーゼルに含まれる不純物が多いなど課題を抱えている。そこで、リパーゼを用いた油脂の酵素分解とメチルエステル化によってバイオディーゼルを生成させる試みが行われている。
【0004】
リパーゼとは、脂質を基質としてそのエステル結合を加水分解する酵素である。主に消化液(胃液、膵液)に含まれ脂質の消化を行う消化酵素であり、多くの生物の細胞で脂質の代謝に関与する。リパーゼは多くの生物に存在し、その遺伝子は一部のウイルスにもある。機能も立体構造もさまざまであるが、活性中心にセリン、アスパラギン酸、ヒスチジンを持つものが多い。基質のエステル結合を分解すると同時に逆反応(エステル合成)にも働くことから、人工的なエステル合成・交換反応にも用いられている。
【0005】
前記したように、リパーゼを用いて油脂を処理し、バイオディーゼルとグリセロールを生成させることはすでに報告されているが、アルカリ触媒法に比べ酵素の価格が高く実用化に至っていない。そこで、酵素の価格を抑制するために、酵素を改質し活性や安定性を向上させる研究が行われている。例えば、Phage Display法によるBacillus subtilis lipase Aの改変(非特許文献1、2)、DNA shufflingによる活性と安定性の改善(非特許文献3)、CALB法によC.antactica Lipase Bの改変(非特許文献4、5)、CAST法によるPseudomonas aeruginosa lipaseの改変(非特許文献6)などが挙げられる。また、反応プロセスを改善するために、メタノールを反応液に徐々に滴下することによって酵素の失活を抑制する方法(非特許文献7)や、酵母の細胞表面にリパーゼを提示させる方法(非特許文献7、8)なども開発されている。
【0006】
ところが、このような技術蓄積にも関わらず、酵素を用いたバイオディーゼルの生産コストは未だアルカリ触媒法には及ばず、更なる製法の改善が求められている。このような背景のもと、独立行政法人酒類総合研究所にて新規のリパーゼが報告され、同リパーゼを用いて油脂からバイオディーゼルを生成させることが立証された(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3507860号
【非特許文献1】Droge et al., ChemBioChem, 2006, 7:149-157.
【非特許文献2】Danielsen et al., Gene, 2001, 272:267-274.
【非特許文献3】Suen et al., Protein Eng. Design & Selection, 2004, 17:133-140
【非特許文献4】Qian et al., J. Amer. Chem.Soc., 2005, 127:13466-13467.
【非特許文献5】Zhang et al., Protein Eng., 2003, 16:599-605
【非特許文献6】Reets et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2005, 44:4192-4196.
【非特許文献7】Fukuda et al., J. Biosci. Bioeng., 2001, 92:405-416.
【非特許文献8】Shiraga et al., Appl. Environ. Microbiol., 2005, 71:4335-4338.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、油脂分解に適した安定性の優れたリパーゼを提供すること、およびこの変異型リパーゼを用いた油脂の分解物の製造法、および分解物の利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記新規酵素の改変体を作製し、安定性を向上させることによって、バイオディーゼル生成に要するコストの削減を目指した。また、副生するグリセロールを炭素源としてアミノ酸や核酸の生産へと転用したり、更には油脂を分解したときに生成する脂肪酸をも同時にアミノ酸生産に活用することができれば、植物原料の有効利用となると考えた。そして、鋭意研究を重ねた結果、野生型リパーゼよりも高い安定性を示すリパーゼ改変体を作製することに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0010】
(1)配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、下記(a)〜(q)から選択される変異を含む、変異型リパーゼ。
(a)32位のグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(b)50位のチロシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(c)95位のアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(d)126位のリジンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(e)131位のシステインが他のアミノ酸残基に置換される変異
(f)133位のバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(g)153位のグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(h)164位のロイシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(i)7位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異(j)42位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(k)83位のXがバリンであって、このバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(l)88位のXがグルタミンであって、このグルタミンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(m)154位のXがセリンであって、このセリンが他のアミノ酸残基に置換される変異(n)177位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(o)203位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(p)206位のXがリジンであって、このリジンが他のアミノ酸残基に置換される変異(q)209位のXがグリシンであって、このグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(2)前記(a)〜(q)の変異が、それぞれ下記(A)から(Q)の変異である、前記変異型リパーゼ。
(A)32位のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異
(B)50位のチロシンがアスパラギンに置換される変異
(C)95位のアラニンがアスパラギン酸に置換される変異
(D)126位のリジンがイソロイシンに置換される変異
(E)131位のシステインがセリン、トレオニン、イソロイシン、及びロイシンから選択されるアミノ酸残基に置換される変異
(F)133位のバリンがリジンに置換される変異
(G)153位のグリシンがプロリンに置換される変異
(H)164位のロイシンがグルタミンに置換される変異
(I)7位のアラニンがプロリンに置換される変異
(J)42位のアラニンがグルタミンに置換される変異
(K)83位のバリンがグルタミンに置換される変異
(L)88位のグルタミンがアスパラギンに置換される変異
(M)154位のセリンがイソロイシンに置換される変異
(N)177位のアラニンがプロリンに置換される変異
(O)203位のアラニンがロイシンに置換される変異
(P)206位のリジンがグルタミンに置換される変異
(Q)209位のグリシンがプロリンに置換される変異
(3)前記(a)〜(q)から選択される変異が、前記(d)、(e)、(f)又は(o)の変異である、前記変異型リパーゼ。
(4)前記(d)、(e)、(f)又は(o)の変異が、前記(D)、(E)、(F)又は(O)の変異である、前記変異型リパーゼ。
(5)前記変異を有しないリパーゼが、下記(I)又は(II)のタンパク質である、前記変異型リパーゼ。
(I)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(II)配列表の配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、リパーゼ活性を有するタンパク質。
(6)前記変異型リパーゼをコードするDNA。
(7)下記(i)又は(ii)の塩基配列を有し、かつ、前記アミノ酸配列における変異に相当する変異を有する前記DNA。
(i)配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列。
(ii)配列表の配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列又は該配列から調製され得るプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列。
(8)前記DNAを含む形質転換微生物。
(9)前記形質転換微生物がエシェリヒア・コリである前記微生物。
(10)前記形質転換微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に前記変異型リパーゼを蓄積させることを特徴とする、変異型リパーゼの製造方法。
(11)前記変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロールを生成させることを特徴とする、グリセロールの製造方法。
(12)前記変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロールを生成させ、生成したグリセロールを炭素源として添加した培地で、グリセロール資化能を有し、かつ、目的物質を産生する微生物を培養し、目的物質を培養物中から採取する、目的物質の製造方法。
(13)前記変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロール及び脂肪酸を生成させ、生成したグリセロール及び脂肪酸を炭素源として添加した培地で、グリセロール及び脂肪酸の資化能を有し、かつ、目的物質を産生する微生物を培養し、目的物質を培養物中から採取する、目的物質の製造方法。
(14)前記微生物が、コリネ型細菌、及び腸内細菌科に属する微生物から選択される細菌である前記方法。
(15)前記目的物質がL−アミノ酸である、前記方法。
(16)前記L−アミノ酸が、L−リジン、L−スレオニン、及びL−トリプトファンか
ら選択される前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安定性に優れた変異型リパーゼが提供される。本発明の変異型リパーゼは、油脂の分解物の製造に好適に使用することができる。本発明により得られる油脂の分解物はグリセロール及び脂肪酸を含み、アミノ酸や核酸等の発酵生産における原料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下に挙げる種々の遺伝子工学的な技法については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)、細胞工学ハンドブック、黒木登志夫ら編、羊土社(1992)、新遺伝子工学ハンドブック改訂第3版、村松ら編、羊土社(1999)など、多くの標準的な実験マニュアルがあり、これらの文献を参考にすることにより当業者であれば実施可能である。
【0013】
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、核酸、塩基配列などの略号による表示は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)またはIUBMB(International
Union of Biochemistry and Molecular Biology)による規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、「Standard for
the presentation of nucleotide and amino acid sequence listings in patent applications」(WIPO Standard ST.25)、および当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0014】
1.本発明のリパーゼ
本発明のリパーゼは、クリプトコッカス属由来のリパーゼ、例えCryptococcus sp.S-2が産生するリパーゼ、及びそれと一次構造が類似するリパーゼであって、さらに特定の変異を有する変異型リパーゼである。以下、本発明の変異型のリパーゼと区別して、本発明の変異型リパーゼが持つ変異を有しないリパーゼを、野生型のリパーゼと呼ぶことがある。尚、前記特定の変異以外の変異を有するものであって、特定の変異を有しないリパーゼは、本発明にいう野生型リパーゼである。
【0015】
本発明においてリパーゼとは、油脂分解性を有し、油脂に作用して、グリセロールと脂肪酸に加水分解する酵素であり、トリアシルグリセロール リパーゼ(triacylglycerol lipase)、トリアシルグリセリド リパーゼ(triacylglyceride lipase)とも呼ばれる。油脂は、脂肪酸とグリセロールのエステルであり、トリグリセリドとも呼ばれる。また、リパーゼは、メタノールなどのアルコール存在下では、油脂とアルコールのエステル交換反応を触媒し、脂肪酸エステルを生成する(Jaeger, K. E. and Eggert, T. 2002. Curr. Opin. Biotechnol. 13: 390-397)。ここで、油脂の分解活性とは、前記のようにトリグリセリドに作用して、グリセロールと脂肪酸に加水分解する活性及び、エステル交換反応によって脂肪酸エステルとグリセロールを生成する活性を含む。リパーゼの基質となる油脂を構成する脂肪酸の長さは特に制限されず、その長さに応じて、分解により生成する脂肪酸又は脂肪酸エステルの長さは異なる。
【0016】
本発明の変異型リパーゼは、野生型リパーゼに、前記特定の変異を導入することにより、得ることができる。本発明における野生型リパーゼは、これら上記の反応を触媒するリパーゼであって、前記特定の変異を導入することによって、酵素活性が上昇するものであれば、どのような種由来のリパーゼも用いることが可能である。野生型リパーゼとしてより具体的には、配列番号7に示すアミノ酸配列を有するリパーゼが挙げられる。また、野生型リパーゼは、配列番号7において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、
付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有するリパーゼであってもよい。
【0017】
上記のような野生型リパーゼとしては、特に酵母であるクリプトコッカス属あるいはその近縁種や、Gibberella属、またはUstilago属のリパーゼが好ましい。
例えばクリプトコッカス属としては、以下の微生物が挙げられる。
Cryptococcus neoformans JEC21
Cryptococcus neoformans B-3501A
Cryptococcus sp.S-2 (FERM P-15155) (特許3507860号公報)
Filobasidiella depauperata
Cryptococcus albidus
Cryptococcus terreus
Cryptococcus uniguttulatus
Cryptococcus gastricus
Cryptococcus amylolentus
Cryptococcus bacillisporus
Cryptococcus sp. N6
Cryptococcus neoformans A
Cryptococcus neoformans A/D
Cryptococcus neoformans var. grubii H99
Cryptococcus allantoinivorans
Cryptococcus amylolyticus
Cryptococcus aff. amylolyticus AS 2.2398
Cryptococcus aff. amylolyticus AS 2.2439
Cryptococcus aff. amylolyticus AS 2.2501
Cryptococcus armeniacus
Cryptococcus aureus
Cryptococcus cf. aureus NRRL Y-30213
Cryptococcus cf. aureus NRRL Y-30215
Cryptococcus bestiolae
Cryptococcus carnescens
Cryptococcus cellulolyticus
Cryptococcus cistialbidi
Cryptococcus dejecticola
Cryptococcus dimennae
Cryptococcus fagi
Cryptococcus festucosus
Cryptococcus flavescens
Cryptococcus cf. flavescens CBS 4926
Cryptococcus flavus
Cryptococcus foliicola
Cryptococcus heimaeyensis
Cryptococcus heveanensis
Cryptococcus laurentii
Cryptococcus aff. laurentii A48
Cryptococcus aff. laurentii A57
Cryptococcus aff. laurentii CBS 9007
Cryptococcus aff. laurentii D-072.1a.1
Cryptococcus aff. laurentii SJ008
Cryptococcus luteolus
Cryptococcus cf. luteolus BSR92Y5
Cryptococcus marinus
Cryptococcus nemorosus
Cryptococcus nyarrowii
Cryptococcus paraflavus
Cryptococcus peneaus
Cryptococcus perniciosus
Cryptococcus podzolicus
Cryptococcus rajasthanensis
Cryptococcus skinneri
Cryptococcus statzelliae
Cryptococcus surugaensis
Cryptococcus taibaiensis
Cryptococcus tephrensis
Cryptococcus victoriae
Cryptococcus aff. victoriae CBS 8979
Cryptococcus aff. victoriae CBS 8993
Cryptococcus aff. victoriae CBS 8999
Cryptococcus aff. victoriae CBS 9012
Cryptococcus aff. victoriae CBS 9013
Cryptococcus aff. victoriae CBS 9023
Cryptococcus aff. victoriae CBS 9024
Cryptococcus aff. victoriae CBS 9025
Cryptococcus watticus
Cryptococcus zeae
Cryptococcus sp. 3-12
Cryptococcus sp. Aspoy5E
Cryptococcus sp. AspoyC
Cryptococcus sp. AST-2007a
Cryptococcus sp. BC23
Cryptococcus sp. BC25
Cryptococcus sp. BC28
Cryptococcus sp. BC43
Cryptococcus sp. BI20
Cryptococcus sp. BSR92 Y71
Cryptococcus sp. Car95 Y15
Cryptococcus sp. CBS 10258
Cryptococcus sp. CBS 2993
Cryptococcus sp. CBS 6024
Cryptococcus sp. CBS 6123
Cryptococcus sp. CBS 6578
Cryptococcus sp. CBS 681.93
Cryptococcus sp. CBS 7712
Cryptococcus sp. CBS 7713
Cryptococcus sp. CBS 7743
Cryptococcus sp. CBS 7890
Cryptococcus sp. CBS 8016
Cryptococcus sp. CBS 8024
Cryptococcus sp. CBS 8355
Cryptococcus sp. CBS 8356
Cryptococcus sp. CBS 8358
Cryptococcus sp. CBS 8363
Cryptococcus sp. CBS 8364
Cryptococcus sp. CBS 8365
Cryptococcus sp. CBS 8366
Cryptococcus sp. CBS 8367
Cryptococcus sp. CBS 8368
Cryptococcus sp. CBS 8369
Cryptococcus sp. CBS 8372
Cryptococcus sp. CECT 11955
Cryptococcus sp. CJDX4-Y23
Cryptococcus sp. CJDX4-Y8
Cryptococcus sp. CN2005a
Cryptococcus sp. CRUB 1230
Cryptococcus sp. CSDX3-Y1
Cryptococcus sp. F6
Cryptococcus sp. FYB-2007a
Cryptococcus sp. HB 1222
Cryptococcus sp. HB1042
Cryptococcus sp. HB1048
Cryptococcus sp. HB1052
Cryptococcus sp. HB1104
Cryptococcus sp. HB1122
Cryptococcus sp. HB1134
Cryptococcus sp. HB1144
Cryptococcus sp. HB1155
Cryptococcus sp. HB1160
Cryptococcus sp. HB1163
Cryptococcus sp. HB946
Cryptococcus sp. HB953
Cryptococcus sp. HX-2006a
Cryptococcus sp. HX-2006b
Cryptococcus sp. HX-2006c
Cryptococcus sp. JCM 11356
Cryptococcus sp. KCTC 17061
Cryptococcus sp. KCTC 17062
Cryptococcus sp. KCTC 17063
Cryptococcus sp. KCTC 17064
Cryptococcus sp. KCTC 17065
Cryptococcus sp. KCTC 17066
Cryptococcus sp. KCTC 17067
Cryptococcus sp. KCTC 17068
Cryptococcus sp. KCTC 17069
Cryptococcus sp. KCTC 17070
Cryptococcus sp. KCTC 17071
Cryptococcus sp. KCTC 17072
Cryptococcus sp. KCTC 17073
Cryptococcus sp. KCTC 17074
Cryptococcus sp. KCTC 17075
Cryptococcus sp. KCTC 17076
Cryptococcus sp. KCTC 17077
Cryptococcus sp. KCTC 17078
Cryptococcus sp. KCTC 17079
Cryptococcus sp. LoBar95 Y19
Cryptococcus sp. LoBar95-Y3
Cryptococcus sp. RC93-2B-Y12
Cryptococcus sp. SJ196
Cryptococcus sp. SM13S04
Cryptococcus sp. SS-1727
Cryptococcus sp. SS1
Cryptococcus sp. ST-111
Cryptococcus sp. ST-201
Cryptococcus sp. ST-71
Cryptococcus sp. ST-73
Cryptococcus sp. T-11
Cryptococcus sp. T-26
Cryptococcus sp. YS NB5
Cryptococcus sp. YY1
【0018】
例えばクリプトコッカス属、特にCryptococcus sp.S-2が産生するリパーゼは以下の理化学的性質を有する。
【0019】
(1)作用
油脂分解性を有し、トリグリセリドに作用して、グリセロールと脂肪酸に加水分解する。
【0020】
(2)基質特異性
トリブチリン、トリカプリリン、トリパルミチン、トリオレインをよく分解する。トリアセチン、トリカプリン、トリラウリンは中程度に分解する。トリミリスチン、トリステアリンに対する分解力は弱い。
【0021】
(3)位置特異性
トリオレインに作用せしめると、オレイン酸と少量の1,2(2,3)-ジオレインが生成し、1,3-ジオレインとモノオレインは検出されない。
【0022】
(4)至適pH及び安定pH範囲
至適pH:7.0
安定pH範囲:5〜9
【0023】
(5)反応最適温度及び温度による失活の条件
反応最適温度:37℃
温度による失活の条件:温度上昇による活性の失活は緩やかであり、60℃、30分の熱処理においても活性を維持するが、60℃、20時間の熱処理でより、活性は20%以下に低下する。
【0024】
(6)有機溶媒に対する安定性、活性化
有機溶媒に安定であり、更にジメチルスルホキシド、ジエチルエーテルによってエステル交換活性が上昇する。
【0025】
(7)分子質量
21kDa(Expasy Compute pI/Mw)
【0026】
このような性質を有するクリプトコッカス属のリパーゼあるいはそれと構造が類似するリパーゼは、特許3507860号に記載の方法と同様の方法で取得することが出来るし、下述するリパーゼをコードする遺伝子配列の相同性を利用しても取得することが出来る。
【0027】
クリプトコッカス属由来のリパーゼをコードする遺伝子として、Cryptococcus sp.S-2 (FERM P-15155)のリパーゼ遺伝子CS2遺伝子が知られている(特開2004-73123号公報)。本CS2遺伝子の塩基配列を配列番号1に、本CS2遺伝子がコードするリパーゼの前駆体のアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2に示すアミノ酸配列において、-30〜-1位はシグナルペプチド、1〜250位は成熟タンパク質に相当すると予想される。Cryptococcus sp.S-2は、1995年9月5日付けで工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業
技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM P-15155の受託番号で寄託され、2008年4月25日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され受託番号FERM BP-10961が付与されている。
【0028】
また、本発明においてリパーゼは、上記配列番号1又は2の配列との相同性に基づき、クリプトコッカス属あるいは近縁種の酵母、その他の微生物からクローニングされるリパーゼ遺伝子のホモログであってもよい。アミノ酸配列および塩基配列の相同性は、例えばKarlin および AltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993))やPearsonによるFASTA(MethodsEnzymol., 183, 63 (1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。また、アミノ酸配列および塩基配列の相同性は、CLUSTALW(Thompson J.D., Higgins D.G. and Gibson T.J. Nucleic Acids Res. 1994, 22:4673-4680)によっても計算することができる。例えば、Cryptococcus sp.S-2のCS2遺伝子と相同性の高い遺伝子として、Gibberella zeae (ジベレラ・ゼアエ)PH-1の遺伝子(Genbank Accession No. gi|42549908|gb|EAA72751.1|[42549908] 、塩基配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)、Ustilago maydis(ウスチラゴ・マイジス)521由来の遺伝子(Genbank Accession No.gi|46096123|gb| EAK81356.1|[46096123]、塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)を利用することが出来る。
【0029】
なお、配列番号4においてシグナルペプチドは-19〜-1位、成熟型タンパク質は1〜204位に相当し、配列番号6においてシグナルペプチドは-20〜-1位、成熟型タンパク質は1〜204位に相当すると予想される。
尚、上記各リパーゼにおいて、シグナルペプチド及び成熟タンパク質の位置は、SignalP(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて予測した。
【0030】
リパーゼ遺伝子のホモログとは、他の微生物由来または天然もしくは人工の変異型遺伝子で、クリプトコッカスのCS2遺伝子と構造が高い類似性を示し、リパーゼ活性を示す遺伝子を意味する。リパーゼ遺伝子のホモログは、配列番号2の1〜205位のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有し、かつ、リパーゼの機能を有するタンパク質をコードするものを意味する。なお、リパーゼの機能を有することは、これらの遺伝子を宿主細胞で発現させ、油脂分解能を確認することによって確かめることが出来る。
尚、本明細書において、「相同性」(homology)」は、「同一性」(identity)を指すことがある。
【0031】
また本発明に使用できるリパーゼは、配列番号1、3、又は5の塩基配列に相補的な塩基配列又は該配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、リパーゼとしての機能を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッド
が形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSさらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
【0032】
前記配列番号2、4及び6のアミノ酸配列(成熟タンパク質部分)のアラインメントを、図1に示す。これらの配列の下に、共通配列を示した。共通配列中「X」で示したアミノ酸は、3種のリパーゼで共通していないことを示す。「-」は、その位置にアミノ酸が存在しないことを示す。また、四角形で囲んだアミノ酸は、本発明の変異型リパーゼが持つ変異点を示す。さらに、アスタリスク(*)で示したアミノ酸は、配列番号2に示すCryptococcus sp.S-2のリパーゼに由来する変異型リパーゼの持つ他の変異点を示す。
【0033】
上記のように、3種のリパーゼは高い相同性を有している。また、後述するように、Cryptococcus sp.S-2のリパーゼにおいて、リパーゼ活性が上昇する17箇所の変異のうち8箇所は、3種のリパーゼの間でアミノ酸が共通している。したがって、本発明において野生型リパーゼは、配列番号7に示すアミノ酸配列を有するタンパク質として特定することができる。
尚、各リパーゼ成熟タンパク質間の相同性を表すSCOREをCLUSTALWversion1.83により決定したところ、配列番号2と配列番号4では64、配列番号2と配列番号6では58、配列番号4と配列番号6では59であった。
【0034】
2.本発明の変異型リパーゼ
本発明の変異型リパーゼとは、上記のような野生型リパーゼに変異を導入することにより、野生型リパーゼよりさらに安定性が高くなったリパーゼを意味する。安定性とは、熱安定性を意味する。変異型リパーゼは、60℃で20時間処理した後の残存活性が、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であることが望ましい。
【0035】
変異導入の方法としては、野生型リパーゼ遺伝子のコード領域の配列をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および該遺伝子を保持する微生物、例えばリパーゼ遺伝子を導入したエシェリヒア・コリを、紫外線またはN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法、エラープローンPCR(Cadwell,R.C. PCR Meth. Appl. 2, 28(1992))、DNA shuffling(Stemmer,W.P. Nature 370, 389(1994))、StEP-PCR(Zhao,H. Nature Biotechnol. 16, 258(1998))等によって、遺伝子組換えにより人工的にリパーゼに変異を導入する方法が挙げられる。これらの変異型リパーゼ遺伝子のリパーゼ活性は、例えば、p-ニトロフェニルブチル酸またはp-ニトロフェニルパルミチン酸を基質とした分光光度法によりエステラーゼ活性を測定することによって確認することが出来る。
【0036】
また、変異型リパーゼの活性は、変異型リパーゼ、油脂、アルコールを混合、インキュベートした後に、原料である油脂含量の低下、もしくは脂肪酸エステルまたはグリセロールの生成を測定することによっても評価することができる。あるいは、変異型リパーゼ、油脂、水を混合、インキュベートした後に、原料である油脂含量の低下、もしくは脂肪酸またはグリセロールの生成を測定してもよい。
【0037】
リパーゼの安定性を上昇させる変異として具体的には、以下の(a)から(q)のよう
な変異を挙げることができる。尚、いずれの位置も、配列番号7における位置である。
【0038】
(a)32位のGlyが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Aspに置換されることが最も好ましい。
【0039】
(b)50位のTyrが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Asnに置換されることが最も好ましい。
【0040】
(c)95位のAlaが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Aspに置換されることが最も好ましい。
【0041】
(d)126位のLysが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Ileに置換されることが最も好ましい。
【0042】
(e)131位のCysが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Ser、Thr、Leu、又はIleに置換されることが最も好ましい。
【0043】
(f)133位のValが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Lysに置換されることが最も好ましい。
【0044】
(g)153位のGlyが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Proに置換されることが最も好ましい。
【0045】
(h)164位のLeuが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Glnに置換されることが最も好ましい。
【0046】
(i)7位のXがAlaであって、このAlaが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys,
Glu, Thr, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Pro,
Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Proに置換されることが最も好ましい。
【0047】
(j)42位のXがAlaであって、このAlaが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Glnに置換されることが最も好ましい。
【0048】
(k)83位のXがValであって、このValが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Glnに置換されることが最も好ましい。
【0049】
(l)88位のXがGlnであって、このGlnが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Asnに置換されることが最も好ましい。
【0050】
(m)154位のXがSerであって、このSerが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Ileに置換されることが最も好ましい。
【0051】
(n)177位のXがAlaであって、このAlaが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Proに置換されることが最も好ましい。
【0052】
(o)203位のXがAlaであって、このAlaが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Leuに置換されることが最も好ましい。
【0053】
(p)206位のXがLysであって、このLysが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Glu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Gly, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Glnに置換されることが最も好ましい。
【0054】
(q)209位のXがGlyであって、このGlyが他のアミノ酸残基に置換される変異
ここで他のアミノ酸残基とは天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys, G
lu, Thr, Val, Leu, Ile, Ser, Asp, Asn, Gln, Arg, Cys, Met, Phe, Trp, Tyr, Ala, Pro, Hisから選択されるアミノ酸であればいずれでもよい。なかでも、特に、Proに置換されることが最も好ましい。
【0055】
上記変異の中では、安定性の点からは、(d)、(e)、(f)、及び(o)が好ましい。また、変異型リパーゼの比活性(タンパク質量当りの酵素活性)の点からは、(k)、(e)及び(p)が好ましい。
【0056】
上記(a)〜(q)の7位、32位、42位、50位、83位、88位、95位、126位、131位、133位、153位、154位、164位、177位、203位、206位、209位は、それぞれ、配列番号2のアミノ酸配列においては、1位、26位、36位、44位、77位、82位、89位、120位、125位、127位、147位、148位、158位、171位、197位、200位、203位に相当する。配列番号4及び6における変異の位置は、図1に示すアラインメントにおいて、(a)〜(q)に記載した位置に相当する。
【0057】
本明細書において、変異型リパーゼが持つ変異は、表1に示すようにアミノ酸残基の略号および配列表に示すアミノ酸配列中の部位より特定する。例えば、配列番号2における変異に関し、変異型1の「C125I」とは、配列番号2の配列の第125位のアミノ酸残基システインをイソロイシンに置換したことを示す。すなわち、変異型の表記は、野生型(配列番号2で特定されるアミノ酸)のアミノ酸残基の種類;配列番号2に記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の位置;変異導入後のアミノ酸残基の種類を示す。他の変異型の表記も同様である。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明の変異型リパーゼは、優れた安定性を有する。すなわち、野生型のリパーゼに比べ、熱に対する耐性が高い。より具体的には、本発明の変異型リパーゼはそれぞれ、温度安定性などの特性について、野生型タンパク質よりも性能が向上している。
【0060】
本発明の変異型リパーゼは、安定性に加えて、他の酵素学的性質が改善される変異を有していてもよい。そのような変異としては、例えば、比活性、pH特性、基質特異性等が挙げられる。上記変異型リパーゼが持つ変異の中には、リパーゼの比活性を低下させる変異も存在する。変異型リパーゼがそのような変異を有する場合、さらに比活性を高める変異を導入することによって、安定性及び比活性を両立させることができる。
【0061】
本発明者らは、リパーゼの比活性を高める変異として、下記の変異を見出している。これらの変異は、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7において1若しくは数個のア
ミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有する野生型リパーゼにおける変異である。
【0062】
(i)22位のグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(ii)53位のバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(iii)58位のフェニルアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(iv)131位のシステインが他のアミノ酸残基に置換される変異
(v)160位のバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(vi)173位のバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(vii)187位のロイシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(viii)180位のXがフェニルアラニンであって、このフェニルアラニンがイソロイシンまたはバリンに置換する変異
(ix)185位のXがグルタミンであって、このグルタミンがグルタミン酸またはロイシンに置換する変異
【0063】
上記(i)〜(vii)の変異としてより具体的には、下記変異が挙げられる。
(I)22位のグリシンがアラニンに置換される変異
(II)53位のバリンがロイシン又はアルギニンに置換される変異
(III)58位のフェニルアラニンがイソロイシン、ロイシン、バリン、及びトリプトファンから選択されるアミノ酸残基に置換される変異
(IV)131位のシステインがアラニンに置換される変異
(V)160位のバリンがイソロイシンに置換される変異
(IV)173位のバリンがイソロイシンに置換される変異
(VII)187位のロイシンがフェニルアラニンに置換される変異
上記(I)〜(VII)、又は(viii)もしくは(ix)の変異を有する変異型リパーゼの比活性が野生型リパーゼより高いことは、後述の実施例1〜5と同様の方法により確認されている。
【0064】
2.本発明の変異型リパーゼの製造方法
本発明の変異型リパーゼの製造方法、並びにこれに用いられる組換え体および形質転換体の作製方法について説明する。
上記変異型リパーゼは、野生型リパーゼをコードするDNAに上記変異を導入し、これを適当なベクターにクローニングした後、適切な宿主に導入し、発現させることによって変異型リパーゼを製造することができる。
【0065】
変異型リパーゼを設計、作製するに当っては、配列番号7のアミノ酸配列をコードするDNA、例えば配列番号2、4、6のアミノ酸配列をコードする遺伝子のうち、上記変異に対応するコドンを部位特異的変異法により改変し、得られた改変遺伝子を適当なベクターに組込んだ後宿主に導入し、形質転換体を培養すればよい。目的とする変異型リパーゼは形質転換体の培養菌体より回収することができる。得られた変異型リパーゼは、野生型リパーゼに比べて高い安定性を有することを確認することが好ましい。
【0066】
DNAの目的部位に目的の変異を起こす部位特異的変異法としては、実施例に示したPCRを用いる方法〔R.ヒグチ、DNA操作へのPCRの使用、イン PCR テクノロジー(Higuchi, R., Using PCR to engineer DNA, in PCR technology)、H.A.エーリッヒ(Erlich,H. A.編、ストックトンプレス(Stockton press))、第61頁、(1989))〕;〔P.カーター、メソッズ インエンザイモロジー(Carter, P., Meth. In Enzymol)、第154巻、第382頁(1987)〕以外に、ファージを用いる方法(W.クレーマー、及びH.J.フリッツ(Kramer, W. and Frits, H. J.)、メソッズ イン エンザイモロジー、第154巻、第350頁 (1987); T. Aクンケルほか(Kunkel,T.A.et,al)メソッズ イン エンザイモロジー、第15
4巻、第367頁 (1987)、などがある。
【0067】
なお、変異型リパーゼをコードする遺伝子を組込むベクターとしては、宿主において複製可能なものであれば特に制限はない。宿主としてエシェリヒア・コリを用いる場合には当該細菌で自律複製できるプラスミドを挙げることができる。例えば、pUC19、pET、pGEMEX等が使用可能である。また、好ましい宿主としては、エシェリヒア・コリ菌株が挙げられるが、これ以外にも、構築した組換えDNAの複製起点と変異型リパーゼ遺伝子が機能し、組換えDNAが複製可能でかつ変異型リパーゼ遺伝子の発現が可能な微生物ならば、すべて宿主として利用できる。宿主としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、エンペドバクター属細菌、スフィンゴバクテリウム属細菌、フラボバクテリウム属細菌、及びバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。
【0068】
変異型リパーゼをコードする遺伝子を含むDNA断片とベクターとを連結させてなる組換えDNAを宿主に導入する方法としては特に制限はなく、通常の方法により行うことができる。宿主としてエシェリヒア・コリを用いる場合は、塩化カルシウム法〔ジャーナル
オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol. Biol.)、第53巻、第159頁 (1970)〕、ハナハン(Hanahan)法〔ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー、第166巻、第557頁 (1983)〕、SEM法〔ジーン(Gene)、第96巻、第23頁(1990)〕、チャング(Chung)らの方法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第86巻、第2172頁(1989)〕などの方法を用いることができる。
【0069】
変異型リパーゼをコードする遺伝子を発現させるためのプロモーターは、野生型遺伝子固有のプロモーターが宿主で機能する場合は、固有のプロモーターを使用することができるが、他のプロモーターを使用してもよい。また、固有のプロモーターが宿主で機能しない場合は、その宿主で機能するプロモーターを使用する。例えば、エシェリヒア・コリで機能するプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター等が挙げられる。
【0070】
また、変異型リパーゼは、シグナルペプチドを含む前駆体タンパク質として発現させてもよく、成熟タンパク質を直接発現させてもよい。さらに、宿主に適したシグナルペプチドに変異型リパーゼの前駆体タンパク質又は成熟タンパク質を連結したものを発現させてもよい。例えば、宿主がエシェリヒア・コリの場合は、pelB、ompT等の遺伝子のシグナルペプチドが挙げられる。
【0071】
上記のようにして得られる変異型リパーゼをコードする遺伝子を含む組換えDNAを導入した形質転換体は、炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要ならば有機栄養源を含む適当な培地で培養することにより変異型リパーゼを発現させることができる。
【0072】
3.変異型リパーゼの利用
本発明の変異型リパーゼと油脂と水を反応させることによって、脂肪酸とグリセロールが生成する(加水分解反応)。また、変異型リパーゼ、油脂、アルコールを反応させることによって、脂肪酸エステルとグリセロールが生成する(エステル交換反応)。本発明の変異型リパーゼは、野生型リパーゼに比べて安定性が高いので、油脂を加水分解して得られるグリセロール、脂肪酸を効率よく生成させることができる。
【0073】
リパーゼを作用させる油脂としては、動物(魚類を含む)及び植物由来の油脂の1種ま
たは2種以上がすべて使用可能であり、例えば、パーム油、オリーブ油、菜種油、大豆油、米糠油、クルミ油、ゴマ油、ツバキ油、ピーナッツ油等の植物油、バター、豚脂、牛脂、羊脂、鳥脂、鶏油等の動物油、クジラ油、イワシ油、ニシン油、タラ肝油等の魚油などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、油脂は固形油脂でもよい。さらに、油脂原料は、純粋な油脂であってもよいし、油脂以外の物質を含む混合物であってもよい。例えば、油脂が植物由来のものである場合は、油脂を含む植物抽出物又はその分画物が挙げられる。
【0074】
アルコールとしては、メタノール等の低級アルコールのほか各種のアルコールが使用可能であり、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、S−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、アルミアルコール、ヘキシルアルコール等脂肪族アルコール;アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール;シクロヘキサノール、シクロペンタノール等の脂環式アルコール;ベンジルアルコール、シンナミルアルコール等の芳香族アルコール;その他の各種アルコールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
生成されるグリセロールや脂肪酸は、腸内細菌科に属する細菌を培養するための培地の炭素源として使用することができる。油脂のリパーゼとの反応生成物には、細菌の生育を大きく損なう不純物が含まれておらず、生成される脂肪酸やグリセロールを精製せずに、培養に利用することが可能である。また、油脂の加水分解反応は、油脂と水から、脂肪酸とグリセロールを生成する反応であり、室温付近の温度においては、グリセロールが溶解した水相である下層と、脂肪酸を含む油相である上層に分離しているのが、一般的である。水相に生じるグリセロール、及び、油相に生じる脂肪酸のいずれもが発酵原料として利用可能である。また、
【0076】
油脂の加水分解物としてグリセロール及び脂肪酸を含むものを用いる場合は、油脂の加水分解物を乳化処理することが好ましい。乳化処理としては、乳化促進剤添加、攪拌、ホモジナイズ、超音波処理等が挙げられる。乳化処理によって、細菌がグリセロール及び脂肪酸を資化しやすくなり、L−アミノ酸発酵がより有効になると考えられる。乳化処理は、L−アミノ酸生産能を有する細菌が、脂肪酸とグリセロールの混合物を資化しやすくする処理であれば、どのようなものでも構わない。例えば、乳化方法として、乳化促進剤や界面活性剤を加える等が考えられる。ここで乳化促進剤としては、リン脂質やステロールが挙げられる。また界面活性剤としては、非イオン界面活性剤では、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレイン酸エステル(Tween 80)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、n-オクチルβ-D-グルコシドなどのアルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステルなどのポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタインであるN,N-ジメチル-N-ドデシルグリシンベタインなどが挙げられる。これ以外にも、トライトンX-100(Triton X-100)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij-58)やノニルフェノールエトキシレート(Tergitol NP-40)等の一般的に生物学の分野で用いられる界面活性剤が利用可能である。
【0077】
さらに、脂肪酸のような難溶解性物質の乳化や均一化を促進するための操作も有効である。この操作は、脂肪酸とグリセロールの混合物の乳化や均一化を促進する操作であれば、どのような操作でも構わない。具体的には、攪拌処理、ホモジナイザー処理、ホモミキサー処理、超音波処理、高圧処理、高温処理などが挙げられるが、攪拌処理、ホモジナイザー処理、超音波処理およびこれらの組合せがより好ましい。
【0078】
上記乳化促進剤による処理と、攪拌処理、ホモジナイザー処理及び/または超音波処理
を組み合わせることが特に好ましく、これらの処理は、脂肪酸がより安定なアルカリ条件下で行われることが望ましい。アルカリ条件としては、pH9以上が好ましく、pH10以上がより好ましい。
【0079】
グリセロール又は脂肪酸を炭素源とした発酵生産により出来る目的物質としては、L−アミノ酸(EP1715056、EP1715055、国際公開2007/013695号パンフレット)、有機酸(Dharmadi Y, Murarka A, Gonzalez R. 2006. Biotechnol Bioeng. 94:821-829.)、エタノール(Ito T, Nakashimada Y, Senba K, Matsui T, Nishio N. 2005. J Biosci Bioeng. 100:260-255.、Cheng KK, Liu DH, Sun Y, Liu WB. 2004. Biotechnol Lett. 26:911-915.)、水素(to T, Nakashimada Y, Senba K, Matsui T, Nishio N. 2005. J Biosci Bioeng. 100:260-255)等が挙げられる。尚、目的物質が塩を形成し得る場合は、その塩も目的物質に包含される。
【0080】
L−アミノ酸は、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン及びL−バリン等を含む。特に、L−スレオニン、L−リジン、L−トリプトファン及びL−グルタミン酸が好ましい。
【0081】
有機酸としては、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸等を含むが、特にコハク酸が好ましい。
エタノールとしては、エタノール、プロパノール、1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
発酵生産に使用できる微生物は、腸内細菌科に属する微生物、コリネ型細菌に属する微生物等が挙げられる。
【0082】
腸内細菌科に属する微生物は、エシェリヒア、エンテロバクター、エルビニア、クレブシエラ、パントエア、フォトルハブドゥス、プロビデンシア、サルモネラ、セラチア、シゲラ、モルガネラ、イェルシニア等の属に属する細菌を含む。特に、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌が好ましい。
【0083】
エシェリヒア属に属する細菌とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、エシェリヒア属に分類されていることを意味する。本発明において使用されるエシェリヒア属に属する細菌の例としては、エシェリヒア・コリ(E.coli)が挙げられるが、これに限定されない。
【0084】
本発明において使用することができるエシェリヒア属に属する細菌は、特に制限されないが、例えば、ナイトハルトらの著書(Neidhardt, F. C. Ed. 1996. Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology/Second Edition pp. 2477-2483. Table 1. American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記述されている系統のものが含まれる。具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)等が挙げられる。
これらの菌株は、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所 P.O.
Box 1549 Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャ
ー・コレクションのカタログに記載されている。
【0085】
パントエア属に属する細菌とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、パントエア属に分類されていることを意味する。エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイその他に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol., 43, 162173 (1993))。本発明において、パントエア属に属する細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。
【0086】
コリネ型細菌としては、バージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)第8版599頁(1974)に定義されている一群の微生物であり、好気性,グラム陽性,非抗酸性,胞子形成能を有しない桿菌に分類される微生物が利用できる。なお、コリネ型細菌は、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在はコリネバクテリウム属細菌として統合された細菌(Int.J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1991))、及びコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌及びミクロバテリウム属細菌を含む。
【0087】
このようなコリネ型細菌の例として以下のものが挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム
コリネバクテリウム・アルカノリティカム
コリネバクテリウム・カルナエ
コリネバクテリウム・グルタミカム
コリネバクテリウム・リリウム
コリネバクテリウム・メラセコーラ
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシェンス)
コリネバクテリウム・ハーキュリス
ブレビバクテリウム・ディバリカタム
ブレビバクテリウム・フラバム
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム
ブレビバクテリウム・ロゼウム
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス
ブレビバクテリウム・アルバム
ブレビバクテリウム・セリヌム
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム
【0088】
具体的には、下記のような菌株を例示することができる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806
コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511
コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020, ATCC13032, ATCC13060
コリネバクテリウム・リリウム ATCC15990
コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965
コリネバクテリウム・エッフィシエンス AJ12340(FERM BP-1539)
コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868
ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC14020
ブレビバクテリウム・フラバム ATCC13826, ATCC14067, AJ12418(FERM BP-2205)
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869(コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869)
ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス ATCC6871、ATCC6872
ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111
ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354
【0089】
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより分譲を受けることができる(住所 P.O. Box 1549, Manassas, VA 2010812301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America)。すなわち、菌株毎に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることができる。また、AJ12340株は、1987年10月27日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP-1539の受託番号でブダペスト
条約に基づいて寄託されている。また、AJ12418株は、1989年1月5日付けで通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP-2205の受託番号でブダペスト条約に基づいて寄託されている。
【0090】
本発明に用いる細菌は、グリセロールの資化性を高めるために、glpR遺伝子(EP1715056)の発現が弱化されているか、glpA、glpB、glpC、glpD、glpE、glpF、glpG、glpK、glpQ、glpT、glpX、tpiA、gldA、dhK、dhaL、dhaM、dhaR、fsa及びtalC遺伝子等のグリセロール代謝遺伝子(EP1715055A、国際公開2007/013695号パンフレット)の発現が強化されていてもよい。
【0091】
目的物質を産生する微生物は、グリセロール又は脂肪酸を炭素源として含む培地で培養したときに目的物質を産生するものであれば特に制限されない。例えば、L−アミノ酸を生産する微生物としては、特開2005-261433号公報(米国特許出願公開第20050214911A1号)に記載の微生物及び菌株が挙げられる。尚、L−アミノ酸生産能を付与又は増強する方法も、これらの公報に開示されている。
【0092】
L−アミノ酸生産菌の一例として、L−リジン生産菌について以下に例示する。
エシェリヒア属に属するL−リジン生産菌の例としては、L−リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L−リジンアナログはエシェリヒア属に属する細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L−リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に解除される。L−リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、エシェリヒア属に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L−リジンの生産に有用な細菌株の具体例としては、Escherichia coli AJ11442 (FERM BP-1543, NRRL B-12185; 米国特許第4,346,170号参照)及びEscherichia coli VL611が挙げられる。これらの微生物では、アスパルトキナーゼのL−リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
【0093】
WC196株は、Escherichia coliのL−リジン生産菌として使用できる。この菌株は、Escherichia coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種された。同株
は、Escherichia coli AJ13069と命名され、1994年12月6日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。
【0094】
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L−リジン生合成系酵素の1種又は2種以上の活性が増強されている株も挙げられる。かかる酵素の例としては、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dapA)、アスパルトキナーゼ(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(ddh) (米国特許第6,040,160号)、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(dapE)及びアスパルターゼ(aspA) (EP 1253195 A)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酵素の中では、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、フォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ、及び、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼが特に好ましい。また、親株は、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo) (EP 1170376 A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(pntAB) (米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(WO2005/073390)、または、これらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよい。
【0095】
L−リジン生産菌又はそれを誘導するための親株の例としては、L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。L−リジンの生合成経路から分岐してL−リジン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の例としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(米国特許第5,827,698号)、及び、リンゴ酸酵素(WO2005/010175)が挙げられる。
【0096】
好ましいL−リジン生産菌として、エシェリヒア・コリWC196ΔcadAΔldc/pCABD2が挙げられる(WO2006/078039)。この菌株は、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子が破壊されたWC196株に、米国特許第6040160に記載されたプラスミドpCABD2が導入することにより得られた株である。pCABD2は、L−リジンによるフィードバック阻害が解除された変異を有するエシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異型dapA遺伝子と、L−リジンによるフィードバック阻害が解除された変異を有するエシェリヒア・コリ由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、エシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含んでいる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。
【0098】
〔実施例1〕リパーゼ遺伝子の大腸菌における発現
Cryptococcus sp.S-2 (FERM BP-10961)の分泌シグナルを除いた成熟型リパーゼをコードする遺伝子(CS遺伝子)をpET-22b(+)ベクター(Novagen社製)のcloning/expression region の欄にあるMscI(pelB leader直後付近)とNotI(His・Tagの上流)で切断し、pe
lBleader直下に成熟型リパーゼの遺伝子を挿入した。
CS遺伝子をpET-22b(+)ベクター(Novagen社製)のpelB leader直下へ挿入して、プラスミドpET-22b(+)_CLEを作製した。pelB遺伝子は、T7lacプロモーターによって制御され、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドで発現が誘導される。このpET-22b(+)_CLEを用いて、エシェリヒア・コリ OrigamiB(DE3)を形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に植菌しアンピシリン耐性を指標として目的のプラスミドを有する株を選択した。なお、pET-22b(+)_CLEを保有するエシェリヒア・コリ OrigamiB(DE3)をpET-22b(+)_CLE/OrigamiB(DE3)株とも表す。
【0099】
pET-22b(+)_CLE/OrigamiB(DE3)を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて25℃で18時間振盪培養した。この培養液を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に適量加え、培養液の600nmにおける濁度(OD600)の値が1.0になるまで37℃で振盪培養した後、終濃度が0.5mMとなるようにイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを加え、25℃で18時間振盪培養した。得られた培養液中に含まれる菌体からの粗抽出液のエステラーゼ活性を実施例5の手順に従い測定し、粗抽出液がエステラーゼ活性を有することを確認した。また、pET-22b(+)_CLE/ OrigamiB(DE3)の代わりに、形質転換を行わないエシェリヒア・コリ OrigamiB(DE3)を用いて同様に培養し得られた菌体粗抽出液は、エステラーゼ活性を有しないことを確認した。
【0100】
〔実施例2〕変異型リパーゼの構築
変異型リパーゼを構築するために、pET-22b(+)_CLEプラスミドを部位特異的突然変異誘発法の鋳型として使用した。突然変異誘発は、PCR反応を利用する市販のポリメラーゼ(PrimeSTAR HS Polymerase, TaKaRa Bio,Inc..)を使用し、製造元のプロトコルに従い行った。各標的残基への部位特異的変異の導入には、各標的残基に対応するコドンを中央に含み、その前後に野生型リパーゼ配列に相当する15mer程度ずつを加えたプライマーを用いた。各プライマーの配列を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2中の各プライマーの配列中央部「XXX」は、導入したいアミノ酸残基の種類に応じて、対応するコドンの配列に置き換えて用いた。アミノ酸残基に対応する各コドンを、表3に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
変異導入PCR後、DpnIで処理し鋳型の二本鎖DNA(pET-22b(+)_CLEプラスミド)を消化したPCR産物を用いて、エシェリヒア・コリ JM109株を形質転換し、アンピシリン耐性を指標として、変異型リパーゼ遺伝子を含む目的のプラスミドを有する株を選択した。なお、変異型リパーゼ遺伝子を含む目的のプラスミドを包括的にpET-22b(+)_CLE_Mと命名した。形質転換株からpET-22b(+)_CLE_Mを単離し、エシェリヒア・コリOrigamiB(DE3)を形質転換した。pET-22b(+)_CLE_Mを保有するエシェリヒア・コリ OrigamiB(DE3)pET-22b(+)_CLE_M/OrigamiB(DE3)株とも表す。
【0105】
また、pET-22b(+)_CLE_Mについてその具体的な変異型を示す場合、pET-22b(+)_CLE_L181Fのように、「M」の部分を変異型の内容で置き換えて表示する場合がある。また、2種
以上の変異を含む場合には変異型を「/」で区切り、各々の変異型を列挙する場合がある。例えば、pET-22b(+)_CLE_A50P/I125Sは、pET-22b(+)_CLEに搭載するリパーゼの遺伝子にA50PおよびC125Sの変異が導入されたものである。各プラスミドに目的の変異のみが導入されていることは、塩基配列決定により確認した。
【0106】
〔実施例3〕リパーゼの発現
pET-22b(+)_CLE/OrigamiB(DE3)およびpET-22b(+)_CLE_M/OrigamiB(DE3)を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地にて37℃で16時間振盪培養した。この培養液を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地に適量加え、培養液の600nmにおける濁度(OD600)の値が1.0になるまで37℃で振盪培養した後、終濃度が0.5mMとなるようにイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを加え、25℃で18時間振盪培養した。
【0107】
〔実施例4〕リパーゼ発現菌体からの粗抽出液の調製
1.5mLチューブに実施例3で得られた培養液を1mL取り、14000gで1分間遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿した菌体に400μlの非イオン界面活性剤を含む細胞溶解液(CelLytic B, Sigma)を加え、2分間ボルテックスした。室温で10分間インキュベーションした後、14000gで5分間遠心分離し、上清を粗抽出液として得た。リパーゼが粗抽出液に含まれていることは、SDS-PAGEで対応する分子量のバンドが存在することと、後に述べる方法で粗抽出液がエステラーゼ活性を有することから確認した。なお、エステラーゼ活性の測定を行う際、粗抽出液をPBS(-)あるいは100 mM 酢酸ナトリウム pH5.5で10倍に希釈して用いた。
【0108】
〔実施例5〕リパーゼ発現菌体からの粗抽出液のエステラーゼ活性測定
エステラーゼ活性は、p-ニトロフェニルブチル酸を基質とした分光光度法により測定した。測定に用いる反応溶液として、体積比で4(w/w)% Triton X-100 52.6%、1M 酢酸バッファ(pH 5.5)10.5%、超純水36.9%からなる混合液に、終濃度が5.26mMとなるよう基質を溶かした溶液を調製した。反応液を95μLずつ96穴プレート(Nunc-Immuno Plate, 475094)に分注し、実施例4に記載した方法により得られる粗抽出液5μLを加えた。
【0109】
反応液を37℃、20分間インキュベートし、反応を停止させるために150μLずつアセトンを加えた。上記操作後、吸光度計(Micro plate reader)にて410nmの吸光度を測定した。
100 mM 酢酸ナトリウム pH5.5で10倍希釈した粗抽出液を、60℃で20時間熱処理し、上記と同様にしてエステラーゼ活性を測定した。
【0110】
変異型1から20のリパーゼ粗抽出液の、熱処理前後におけるエステラーゼ活性の残存率を図2に示す。熱処理後、いずれの変異型リパーゼも、p-ニトロフェニルブチル酸を基質として、野生型リパーゼよりも高い割合でエステラーゼ活性を保持した。中でも、変異型11(C125S)は、60℃で20時間加熱処理を行っても高い活性保持率を示した。
【0111】
60℃で20時間加熱処理した後の、野生型、変異型の残存エステラーゼ活性を図2に示す。野生型リパーゼより変異型リパーゼ、特に、C125Sが高い残存エステラーゼ活性を示した。
【0112】
また、これらの変異型リパーゼの、野生型リパーゼに対する相対加水分解活性を図3に示す。
【0113】
野生型リパーゼと変異型リパーゼが何れもエステル分解活性を有することから、以下に示す、野生型リパーゼで実施した油脂分解およびその分解物を用いたL−リジン発酵が、変異型リパーゼを用いた油脂分解物でも可能であると考えられる。
【0114】
〔実施例6〕野生型リパーゼの精製
実施例3で得られたpET-22b(+)_CLE/OrigamiB(DE3)の培養液から遠心機を用いて菌体を回収し、100mM リン酸バッファ(pH 7.0)で菌体を懸濁した後、再び菌体を回収した。回収した菌体を適量の100mM リン酸バッファ(pH 7.0)で懸濁した後、超音波破砕機(INSONATOR 201M、KUBOTA)にて180Wで25分間超音波破砕を行った。得られた液を15000rpmで20分間遠心し、上清を回収後、再び15000rpmで20分間遠心し上清を回収した後、得られた上清を0.22μmのフィルター(MILLEX-GV、MILLIPORE)で濾過した。その後、得られた濾過液を、FPLCシステム(Akta explorer 10S、GE Healthcare Bio-Sciences)を用いた疎水相互作用クロマトグラフィーにて精製した。その具体的な手順を以下に示す。
【0115】
カラムには疎水相互作用カラム(HiLoad 16/10 Phenyl Sepharose High Performance、GE Healthcare Bio-Sciences)を用い、溶出液としてA液(100mM リン酸バッファ(pH
7.0))およびB液(エチレングリコール 80%、100mM リン酸バッファ(pH 7.0) 20%)を用いた。A液75%、B液25%の組成で溶出液を20.1ml流してカラムを平衡化した後、前記の濾過液をFPLCシステムへインジェクトし、さらにA液75%、B液25%の組成で溶出液を90.5ml流した。続けて、溶出液を265.5ml流す間に溶出液の組成がA液75%、B液25%からA液42%、B液58%へと直線的に変化するように溶出液を流した後、さらに溶出液を20.1ml流す間に溶出液の組成がA液42%、B液58%からA液0%、B液100%へと直線的に変化するように溶出液を流し、続けてB液100%の組成で溶出液を36.2ml流した。得られた各画分をSDS−PAGEにて分析し、目的のリパーゼのみ存在が確認された画分を回収し、実施例5の手順に従いエステラーゼ活性を有することを確認した。
【0116】
〔実施例7〕オリーブ油の加水分解反応物の調製
実施例6で得られた精製酵素液の溶媒を、分画分子量10,000Daの遠心式濃縮フィルターユニット(Amicon Ultra-15 10k、MILLIPORE)を用いて100mM NaClを含む10mM 酢酸バッファ(pH 5.5)に置換し、0.37mMの酵素溶液を調製した。この酵素溶液11mlとオリーブ油(Sigma-Aldrich)120mlと超純水120mlを1L三角フラスコに張り込み、30℃、180rpmの条件にて168時間振盪した。
【0117】
〔実施例8〕オリーブ油のエステル交換反応物の調製
実施例7と同じ酵素溶液11mlとオリーブ油(Sigma-Aldrich)120mlとメタノール(純正化学株式会社、特級試薬)1.64mlを1L三角フラスコに張り込み、30℃、180rpmの条件にて10時間振盪した。その後、メタノール1.64mlを添加し同条件で24時間振盪後、さらにメタノール1.64mlを添加し同条件で134時間振盪した。
【0118】
〔実施例10〕油脂分解物を炭素源に用いたL-リジン生産培養
L−リジン生産菌として国際公開第2006/078039号パンフレット記載のエシェリヒア・コリWC196ΔcadAΔldc/pCABD2 (以降、「WC196LC/pCABD2」と記載)を用いた。WC196LC/pCABD2を、ストレプトマイシン硫酸塩20mg/Lを含有するLB寒天培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L、寒天15g/L)にて37℃で24時間培養した。寒天培地上の細胞を掻き取り、本培養培地20mlを張り込んだ500ml容坂口フラスコに植菌し、37℃で48時間培養を行った。本培養培地には、野生型のリパーゼを用いて、実施例7のオリーブ油の加水分解反応物、もしくは実施例8のオリーブ油のエステル交換反応物、またはグリセロール(ナカライテスク社 試薬特級)を炭素源として用いた。
前記オリーブ油の加水分解反応物及びエステル交換反応物中のグリセロールは、いずれも固定化酵素電極法バイオセンサ(BF-5、王子計測機器株式会社)により測定した。測定されたグリセロールの量が40g/Lとなるように、各炭素源を培地に加えた。本培養培地の組成を以下に示す。
【0119】
[本培養培地組成]
炭素源 40g/L
酵母エキス 2g/L
FeSO4・7H2O 10mg/L
MnSO4・4H2O 10mg/L
KH2PO4 1.0g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
(NH4)2SO4 24g/L
ストレプトマイシン硫酸塩 20mg/L
【0120】
培養終了後、培地に残存するグリセロールの濃度を固定化酵素電極法バイオセンサにて、生育度を600nmにおける濁度(OD600)にて、それぞれ測定した。L−リジン量をバイオテックアナライザー(AS210、サクラ精機)にて測定した。各炭素源につきフラスコ2本ずつ培養を行った。その結果の平均値を表4に示す。
【0121】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】配列番号2、4及び6のアミノ酸配列(成熟タンパク質部分)のアラインメントを示す図。「X」は、3種のリパーゼで共通していないことを示す。「-」は、その位置にアミノ酸が存在しないことを示す。四角形で囲んだアミノ酸は、変異点を示す。アスタリスク(*)で示したアミノ酸は、配列番号2に示すCryptococcus sp.S-2のリパーゼに由来する変異型リパーゼの持つ他の変異点を示す。
【図2】60℃、20時間で加熱処理前後における、野生型リパーゼと各変異型リパーゼの残存エステラーゼ活性を示す図。
【図3】加熱処理前の、野生型リパーゼと各変異型リパーゼのエステラーゼ活性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、下記(a)〜(q)から選択される変異を含む、変異型リパーゼ。
(a)32位のグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(b)50位のチロシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(c)95位のアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(d)126位のリジンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(e)131位のシステインが他のアミノ酸残基に置換される変異
(f)133位のバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(g)153位のグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(h)164位のロイシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(i)7位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異(j)42位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(k)83位のXがバリンであって、このバリンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(l)88位のXがグルタミンであって、このグルタミンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(m)154位のXがセリンであって、このセリンが他のアミノ酸残基に置換される変異(n)177位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(o)203位のXがアラニンであって、このアラニンが他のアミノ酸残基に置換される変異
(p)206位のXがリジンであって、このリジンが他のアミノ酸残基に置換される変異(q)209位のXがグリシンであって、このグリシンが他のアミノ酸残基に置換される変異
【請求項2】
前記(a)〜(q)の変異が、それぞれ下記(A)〜(Q)の変異である、請求項1に記載の変異型リパーゼ。
(A)32位のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異
(B)50位のチロシンがアスパラギンに置換される変異
(C)95位のアラニンがアスパラギン酸に置換される変異
(D)126位のリジンがイソロイシンに置換される変異
(E)131位のシステインがセリン、トレオニン、イソロイシン、及びロイシンから選択されるアミノ酸残基に置換される変異
(F)133位のバリンがリジンに置換される変異
(G)153位のグリシンがプロリンに置換される変異
(H)164位のロイシンがグルタミンに置換される変異
(I)7位のアラニンがプロリンに置換される変異
(J)42位のアラニンがグルタミンに置換される変異
(K)83位のバリンがグルタミンに置換される変異
(L)88位のグルタミンがアスパラギンに置換される変異
(M)154位のセリンがイソロイシンに置換される変異
(N)177位のアラニンがプロリンに置換される変異
(O)203位のアラニンがロイシンに置換される変異
(P)206位のリジンがグルタミンに置換される変異
(Q)209位のグリシンがプロリンに置換される変異
【請求項3】
前記(a)〜(q)から選択される変異が、前記(d)、(e)、(f)又は(o)の
変異である、請求項1に記載の変異型リパーゼ。
【請求項4】
前記(d)、(e)、(f)又は(o)の変異が、前記(D)、(E)、(F)又は(O)の変異である、請求項3に記載の変異型リパーゼ。
【請求項5】
前記変異を有しないリパーゼが、下記(I)又は(II)のタンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異型リパーゼ。
(I)配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(II)配列表の配列番号2、4、又は6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、リパーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異型リパーゼをコードするDNA。
【請求項7】
下記(i)又は(ii)の塩基配列を有し、かつ、前記アミノ酸配列における変異に相当する変異を有する請求項6に記載のDNA。
(i)配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列。
(ii)配列表の配列番号1、3、又は5に記載の塩基配列又は該配列から調製され得るプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のDNAを含む形質転換微生物。
【請求項9】
前記形質転換微生物がエシェリヒア・コリである請求項6に記載の微生物。
【請求項10】
請求項8または9に記載の形質転換微生物を培地中で培養し、培地中および/または微生物中に請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異型リパーゼを蓄積させることを特徴とする、変異型リパーゼの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5に記載の変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロールを生成させることを特徴とする、グリセロールの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5に記載の変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロールを生成させ、生成したグリセロールを炭素源として添加した培地で、グリセロール資化能を有し、かつ、目的物質を産生する微生物を培養し、目的物質を培養物中から採取する、目的物質の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5に記載の変異型リパーゼを油脂に作用させて、グリセロール及び脂肪酸を生成させ、生成したグリセロール及び脂肪酸を炭素源として添加した培地で、グリセロール及び脂肪酸の資化能を有し、かつ、目的物質を産生する微生物を培養し、目的物質を培養物中から採取する、目的物質の製造方法。
【請求項14】
前記微生物が、コリネ型細菌、及び腸内細菌科に属する微生物から選択される細菌である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記目的物質がL−アミノ酸である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記L−アミノ酸が、L−リジン、L−スレオニン、及びL−トリプトファンから選択される請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−44869(P2012−44869A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331771(P2008−331771)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【Fターム(参考)】