説明

変速装置

【課題】AT方式、AMT方式或いはDCT方式等、クラッチ操作が自動制御される変速装置において、運転者がクラッチをマニュアル操作して駆動力を調整でき、ドライバビリティの向上を図ること。
【解決手段】第1クラッチ74及び第2クラッチ75を有するDCT方式の変速機160において、クラッチレバー200の操作量に基づいて、クラッチ74,75のクラッチトルク容量を調整する動作指令値を決定してクラッチアクチュエータ77,78へ出力することにより、クラッチトルク容量を操作する。クラッチレバー200では、クラッチレバー200の操作量に対する操作反力の増加割合は、少なくとも2段階に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動系には各種の変速方式が採用されており、その一つとしては、運転者がクラッチレバーとチェンジペダル(シフトペダル)を用いて変速ギアを切り替えるマニュアルトランスミッション(Manual transmission:以下、「MT」という)方式がある。
【0003】
また、自動車の速度やエンジンの回転数等に応じて、自動的にシフトアクチュエータが駆動され、変速ギアの切り替えが行われるオートマチックトランスミッション(Automatic Transmission:「AT」)方式が用いられる場合もある。
【0004】
このAT方式では、トルクコンバータと遊星歯車(プラネタリギヤ)を組み合わせ油圧制御によって自動的に変速を行うトルクコンバータ式ATが最も多くの車両に搭載されている。トルクコンバータ式ATでは、コンピュータ制御によってアクセルの踏み加減や車両速度等の様々な要素に基づいて変速のタイミングが詳細に設定されている。
【0005】
また、AT方式では、クラッチの操作のみを自動化し、クラッチ及びギアボックス自体はMT方式と同様の構造を有する手動選択の多段変速機を組み合わせたオートメーテッドマニュアルトランスミッション(Automated Manual Transmission:以下「AMT」という)方式がある。
【0006】
AMT方式は、セミオートマトランスミッション方式とも呼ばれ、クラッチ操作のみ自動で運転者がスロットル及び変速ギアの選択をMT方式そのままの操作で行う。つまり、運転者の指示によりシフトアクチュエータを駆動させ、変速ギアを切り替える。
【0007】
現在、乗用車に搭載されるAMTは、バイワイヤ(電子制御)によってスロットル開度やクラッチとギアボックスのアクチュエータを制御して、ギアの選択も自動的に行っている。さらに、自動車に搭載される変速装置として、2系統の動力伝達路を有するクラッチを持つオートマチックトランスミッションであるデュアルクラッチトランスミッション(Dual Clutch Automated Manual Transmission:DCT)が知られている。
【0008】
また、例えば、特許文献1のように、方式の異なる変速方式を選択できる車種も存在する。特許文献1では、変速方式をセミオートマチックトランスミッション方式とフルオートマチックトランスミッション方式から選択可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4150481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AT方式、AMT方式或いはDCT方式では、MT方式と比較して、一般的にクラッチ操作を自動にして運転者のクラッチ操作を廃止することによって運転操作の簡易化が図られている。
【0011】
近年、AT方式或いはAMT方式の変速装置の変速時において、1)クラッチを柔らかく繋ぐことで駆動力を復帰させたり、2)渋滞などにおいてギアを切り換えることなく駆動力を調整したり、3)急発進させたりしたいという要望がある。
【0012】
すなわち、1)変速時における駆動力の復帰度合いの調整、2)ギア段の切り替えを伴わない駆動力の調整、及び3)発進時の駆動力の調整等を行うため、運転者がクラッチの断続あるいは半クラッチを加減操作したいという要望がある。
【0013】
特に、自動二輪車では、旋回する際に変速装置を介して出力する駆動力を加減調整する必要がある。具体的には、小回りする際に、クラッチを切ることによって車両を寝かすことができ、この動作を用いて好適な旋回を行いたいという要望がある。また、発進時においてウイリーする場合に、駆動力を調整して前輪を下げるためにクラッチ操作を行いたい要求があった。
【0014】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、AT方式、AMT方式或いはDCT方式等、クラッチの操作が自動制御される変速装置において、運転者がクラッチをマニュアル操作して駆動力を調整でき、ドライバビリティの向上を図ることができる変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の変速装置は、多段変速機のクラッチを断続するクラッチアクチュエータと、前記多段変速機のシフト段の切り替えを行うシフトアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータ及び前記シフトアクチュエータを制御する制御手段と、クラッチレバーと、前記クラッチレバーの操作量を電気信号に変換して前記制御手段に出力するレバー操作量検出手段と、を備え、前記制御手段は、前記クラッチレバーの操作量に基づいて前記クラッチのクラッチトルク容量を調整する動作指令値を決定して前記クラッチアクチュエータへ出力することにより、前記クラッチトルク容量を操作することが可能であり、前記クラッチレバーにおいて、前記クラッチレバーの操作量に対する操作反力の増加割合は、少なくとも2段階に変化する構成を採る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、AT方式或いはAMT方式等、クラッチ操作が自動制御される変速装置において、運転者がクラッチをマニュアル操作して駆動力を調整でき、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える自動二輪車の側面図
【図2】本発明の一実施の形態に係る変速装置の要部構成を示す模式図
【図3】クラッチレバーの説明に供するハンドルにおける左側ハンドルバーの斜視図
【図4】レバーシリンダの構成を示す図
【図5】クラッチレバーの手応えと握り量との関係を示す図
【図6】本発明の一実施の形態に係る変速装置の制御部を説明するためのブロック図
【図7】クラッチレバーの握り角と補正後のレバー握り角とを示すゲインマップ
【図8】クラッチレバーにおける補正後握り角を用いて制御されるクラッチのレリーズ力を示す図
【図9】クラッチレバー操作反映部における処理の説明に供する模式図
【図10】ギア比を換算した後における第1クラッチ及び第2クラッチにおけるトルク容量の合計の操作を説明するための図
【図11】制御部におけるモード遷移の処理の説明に供する図
【図12】本実施の形態に係る変速装置の各運転モードを示す図
【図13】クラッチレバーの操作レンジの学習を説明するための図
【図14】クラッチレバー操作範囲の学習を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本実施の形態の変速装置が搭載される車両としては、自動車、鞍乗り型車両等のどのような車両でもよいが、ここでは、自動二輪車として説明する。また、本実施の形態において前,後,左,右とは、上記自動二輪車のシートに着座した状態で見た場合の前,後,左,右を意味する。
【0020】
本実施の形態の変速装置は、奇数段と偶数段の変速ギア段の動力伝達をそれぞれ交互に行うことで、切れ目ない変速を実現する複数の摩擦伝動式のクラッチを備え、1基のエンジンとともに駆動ユニットとして自動二輪車に搭載されている。まず、変速装置を有する駆動ユニットが搭載された自動二輪車の概要について説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える自動二輪車の側面図である。なお、図1に示す自動二輪車は、変速装置のクラッチを覆うクラッチカバーを外しており、クラッチカバーを外すことによって変速機構70(図2参照)の第2クラッチ75が露出している。
【0022】
図1に示す自動二輪車10は、前端側にヘッドパイプ12が設けられ、後方に延びつつ下方に傾斜するとともに、エンジン20、変速機構70、モータ等を含む駆動ユニットが内部に配置されたメインフレーム14を備える。ヘッドパイプ12には、上部にハンドル15が取り付けられたフロントフォーク16が回動可能に設けられ、このフロントフォーク16の下端で回転自在に取り付けられた前輪17を支持している。
【0023】
このハンドル15には、操作量が電気信号に変換されて制御部に出力されることによってクラッチを制御するバイワイヤ式のクラッチレバー200が取り付けられている。
【0024】
図1に示すメインフレーム14内に配置されたエンジン20は、シリンダヘッドの下方にクランクシャフト60(図2参照)を車両の前後方向に直交する方向(左右方向)に略水平に延在させて車両の略中央部分に設けられている。エンジン20の後方側には、クランクシャフト60(図2参照)に接続され、クランクシャフト60を介して動力が入力される変速機160が設けられている。
【0025】
また、メインフレーム14において下方に傾斜する後端辺部から、リアアーム18が後方に延在して接合されている。リアアーム18は、後輪19および図示しないドリブンスプロケットを回転可能に保持している。後輪19は、ドライブスプロケット76(図2参照)との間に巻回されたドライブチェーン13を介してドリブンスプロケットから動力が伝達される。なお、自動二輪車10では、駆動ユニットの上方にシート11及び燃料タンク11aが配置され、シート11及び燃料タンク11aと駆動ユニットとの間には、自動二輪車10の各部の動作を制御する制御部300が配設されている。この制御部300を介してツインクラッチ式の変速装置100では、1基のエンジンに対して、それぞれ奇数段と偶数段の変速ギア段(変速ギア機構)の動力伝達を行う動作が制御される。
【0026】
図2は、本発明の一実施の形態に係る変速装置の要部構成を示す模式図である。また、図2では、エンジン本体は図示省略している。
【0027】
本実施の形態の変速装置は、DCT(Dual Clutch Automated Manual Transmission:デュアルクラッチ自動マニュアル変速機)の変速機160であり、複数のクラッチ(第1クラッチ74及び第2クラッチ75)を交互に切り替えることによって、奇数段或いは偶数段の変速ギアへの駆動力の伝達を可能とする。本実施の形態の変速装置は、DCTにおいてクラッチレバーを用いて運転者のクラッチ操作を可能とする。なお、AMT式又はDCT式の一方の変速機を有した変速装置であって、バイワイヤ式のクラッチレバー200によって、変速機160のクラッチ(第1クラッチ74、第2クラッチ75のクラッチ容量を調節できるものとしてもよい。
【0028】
まず、クラッチレバー200によって容量が調整されるクラッチ74、75を備えるDCTとしての変速機160について説明する。
【0029】
図2に示すように変速機160は、変速機構70と、 シフト機構140とを有する。
【0030】
変速機構70は、エンジンのクランクシャフト60に接続され、クランクシャフト60から伝達されるトルクを可変して後輪19(図1参照)側に伝達する。また、 シフト機構140は、変速機160における可変動作を行う。なお、クランクシャフト60は、自動二輪車において、車両の前後方向と直交する方向に、且つ、略水平(横方向)に配置されている。
【0031】
クランクシャフト60は、複数のクランクウェブ61を有し、これら複数のクランクウェブ61のうち、クランクシャフト60の一端部および他端部に配置されるクランクウェブ61a、61bは、それぞれの外周にはギア溝が形成された外歯歯車である。
【0032】
クランクウェブ61aは、第1クラッチ74における第1のプライマリドリブンギア(「第1入力ギア」ともいう)40と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の一端部のクランクウェブ61aから第1入力ギア40に伝達される動力は、第1クラッチ74を介して、クランクシャフト60の一端部側から変速機160の第1メインシャフト71に伝達される。
【0033】
また、クランクウェブ61bは、第2クラッチ75における第2のプライマリドリブンギア(「第2入力ギア」といもいう)50と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の他端部のクランクウェブ61bから第2入力ギア50に伝達される動力は、クランクシャフト60の他端部側から第2メインシャフト72に伝達される。
【0034】
第1メインシャフト(第1主軸部)71、第2メインシャフト(第2主軸部)72及びドライブシャフト(出力軸)73は、クランクシャフト60と平行に配置される。
【0035】
第1メインシャフト71と、第2メインシャフト72とは、同一軸線上に並べて配置されている。第1メインシャフト71は、第1クラッチ74に連結されており、第2メインシャフト72は、第2クラッチ75に連結されている。
【0036】
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、第1メインシャフト71と第2メインシャフト72とを車両の両側方から挟むように、且つ、車両の前後方向と直交する方向(ここでは左右方向)に離間して配置されている。
【0037】
第1クラッチ74は、多板式構造の摩擦クラッチであり、締結状態において、クランクシャフト60を介したエンジンからの回転動力を第1メインシャフト71に伝達し、他方、解放状態においてエンジンから第1メインシャフト71への回転動力を遮断する。
【0038】
第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77の駆動によって締結状態と開放状態とに動作する。すなわち、第1クラッチアクチュエータ77の駆動によって、第1クラッチ74の伝達トルク容量(以下、「トルク容量」という)が変化する。
【0039】
ここでは、第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77の第1プルロッド77aに連結されており、この第1プルロッド77aの進退動によって締結状態及び開放状態となる。第1クラッチ74では、第1プルロッド77aが第1クラッチ74から離間する方向に引かれると、図示しない複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに離間する。これにより、第1クラッチ74は開放状態となって、第1入力ギア40から第1メインシャフト71へのトルクの伝達が切断、つまり、第1メインシャフト71への動力伝達が遮断されることになる。一方、第1プルロッド77aが第1クラッチ74側に移動すると、複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに密着していく。これにより、第1クラッチ74は締結状態となって、第1メインシャフト71へトルクが伝達される、つまり、奇数ギア(1速ギア81、3速ギア83および5速ギア85)群を有する奇数ギア段の動力伝達が行われる。このように第1クラッチ74では、第1プルロッド77aの引き度合いに応じて、トルク容量が変化して第1メインシャフト71への伝達トルクが調整される。
【0040】
このように第1クラッチアクチュエータ77は、制御部300からの制御指令に基づいて、第1クラッチ74において、第1メインシャフト71に作用する係合力、つまり、第1クラッチ74から第1メインシャフト71への伝達トルクを調整する。これにより、エンジンから第1メインシャフト71への動力の伝達或いは遮断が行われて、車両は発進したり停止したりする。
【0041】
ここでは、第1クラッチアクチュエータ77は、油圧によって第1クラッチ74の伝達トルクを調整する。
【0042】
第1メインシャフト71に伝達されたトルクは、奇数段のギア(各ギア81、83、85、711、712、731)において所望のギア対(第1メインシャフト71上のギア711、85、712と、これらギアに対応するドライブシャフト73上のギア81、731、83の対)を介してドライブシャフト73から出力される。
【0043】
また、第2クラッチ75は、第1クラッチ74と同様に構成された多板式の摩擦クラッチである。第2クラッチ75は、締結状態において、クランクシャフト60を介したエンジンからの回転動力を第2メインシャフト72に伝達し、他方、解放状態においてエンジンから第2メインシャフト72への回転動力を遮断する。
【0044】
第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78の駆動よって締結状態と解放状態とに動作する。すなわち、第2クラッチアクチュエータ78の駆動によって、第2クラッチ75のトルク容量が変化する。
【0045】
ここでは、第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78の第2プルロッド78aに連結されており、この第2プルロッド78aの進退動によって締結状態及び開放状態となる。第2クラッチ75では、第2プルロッド78aが第2クラッチ75から離間する方向に引かれると、図示しない複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに離間する。これにより、第2クラッチ75は開放状態となって、第2入力ギア50から第2メインシャフト72へのトルクの伝達が切断、つまり、第2メインシャフト72への動力伝達が遮断されることになる。一方、第2プルロッド78aが第2クラッチ75側に移動すると、複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートが互いに密着していく。これにより第2クラッチ75は締結状態となって、第2メインシャフト72へトルクが伝達される、つまり、偶数ギア(2速ギア82、4速ギア84および6速ギア86)群を有する偶数ギア段の動力伝達が行われる。このように第2クラッチ75では、第2プルロッド78aの引き度合いに応じて、トルク容量が変化して第2メインシャフト72への伝達トルクが調整される。
【0046】
第2クラッチアクチュエータ78は、制御部300からの制御指令に基づいて、第2クラッチ75において第2メインシャフト72に作用する係合力、つまり、第2クラッチ75から第2メインシャフト72への伝達トルクを調整する。これにより、エンジンから第2メインシャフト72への動力の伝達或いは遮断が行われて、車両は発進したり停止したりする。
【0047】
なお、第2クラッチアクチュエータ78は、第1クラッチアクチュエータ77と同様に構成され、第1クラッチアクチュエータ77が第1クラッチ74を駆動する動作と同様の動作で、第2クラッチ75を駆動する。
【0048】
さらに、第1クラッチアクチュエータ77及び第2クラッチアクチュエータ78は、走行中に、第1クラッチ74および第2クラッチ75を動作させることによって、変速機内部のトルク伝達経路を切り替えて変速動作を行う。
【0049】
なお、これら第1クラッチアクチュエータ77及び第2クラッチアクチュエータ78は、ここでは、油圧式のものとしたが、クラッチに作用する係合力を調整する構成であれば、電気式等、どのように構成されてよい。
【0050】
第2メインシャフト72に伝達されたトルクは、偶数段のギア(各ギア82、84、86、721、722、732)において所望のギア対(第2メインシャフト72上のギア721、86、722と、これらギアに対応するドライブシャフト73上のギア82、732、84の対)を介してドライブシャフト73から出力される。
【0051】
このように第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72に伝達される動力は、適宜選択された変速段を構成する各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732を介して、車両後方に配置されたドライブシャフト73に伝達される。
【0052】
なお、ドライブシャフト73の一端部(左側端部)にはスプロケット76が固定されている。このスプロケット76に巻回されたドライブチェーン13(図1参照)は、後輪19の回転軸に設けられたスプロケット76に巻回されており、スプロケット76が、ドライブシャフト73の回転に伴って回転することによって、ドライブチェーン13(図1参照)を介して、駆動輪である後輪19に変速機160からの駆動力が伝達される。言い換えれば、エンジンで発生したトルクは、第1クラッチ74または第2クラッチ75、各変速段に対応した所定ギア列を経由して、ドライブシャフト73から出力されて、後輪(駆動輪)を回転させる。
【0053】
第1メインシャフト71において、奇数段のギア(各ギア81、83、85、711、712、731)を介してドライブシャフト73に出力する駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72において、偶数段のギア(各ギア82、84、86、721、722、732)を介してドライブシャフト73に出力する駆動力の伝達部位とは、略同径の外径である。また、第1メインシャフト71の駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72の駆動力の伝達部位とは、同心円上で重なることなく配置されている。この変速機構70では、互いに同径の外径を有する第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72が同一軸線上に左右に並べて配設され、それぞれ独立で回動する。
【0054】
第1メインシャフト71上には、奇数段を構成する変速ギア711、85、712が配設されている。具体的には、第1メインシャフト71上に、第1クラッチ74が接続される基端側から順に、固定ギア(1速対応ギア)711、5速ギア85およびスプラインギア(3速対応ギア)712が配設されている。
【0055】
固定ギア711は、第1メインシャフト71に一体的に形成され、第1メインシャフト71とともに回転する。固定ギア711は、ドライブシャフト73の1速ギア(被動側ギア)81に歯合しており、ここでは、1速対応ギアとも称する。
【0056】
5速ギア85は、第1メインシャフト71上において、1速対応の固定ギア711と、3速対応のスプラインギア712との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第1メインシャフト71の軸周りに回転自在に取り付けられている。
【0057】
5速ギア85は、ドライブシャフト73のスプラインギア(被動側ギアとしての5速対応ギア)731に歯合している。
【0058】
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上に、当該第1メインシャフト71の先端側、つまり、第1クラッチ74から離間する側の端部側に、第1メインシャフト71の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0059】
具体的には、スプラインギア712は、第1メインシャフト71における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第1メインシャフト71に対して回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の3速ギア(被動側ギア)83に歯合している。このスプラインギア712は、シフトフォーク142に連結され、シフトフォーク142の移動によって第1メインシャフト71上を軸方向に移動する。なお、スプラインギア712は、ここでは、3速対応ギアとも称する。
【0060】
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上を5速ギア85側に移動して5速ギア85と係合し、第1メインシャフト71上における5速ギア85の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア712が5速ギア85に係合することにより、5速ギア85を第1メインシャフト71に固定し、第1メインシャフト71の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
【0061】
一方、第2メインシャフト72上には、偶数段を構成する変速ギア721、86、722が配置されている。具体的には、第2メインシャフト72上に、第2クラッチ75が接続される基端部側から順に、固定ギア(2速対応ギア)721、6速ギア86およびスプラインギア(4速対応ギア)722が配設されている。
【0062】
固定ギア721は、第2メインシャフト72に一体的に形成され、第2メインシャフト72とともに回転する。固定ギア721は、ドライブシャフト73の2速ギア(被動側ギア)82に歯合しており、ここでは、2速対応ギアとも称する。
【0063】
6速ギア86は、第2メインシャフト72上において、2速対応の固定ギア721と、4速対応ギアであるスプラインギア722との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第2メインシャフト72の軸周りに回転自在に取り付けられている。この6速ギア86は、ドライブシャフト73のスプラインギア732(被動側ギアとしての6速対応ギア)に歯合している。
【0064】
スプラインギア(「4速対応ギア」ともいう)722は、第2メインシャフト72上に、当該第2メインシャフト72の先端側、つまり、第2クラッチ75から離間する側の端部側に、第2メインシャフト72の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0065】
具体的には、スプラインギア722は、第2メインシャフト72における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第2メインシャフト72に対する回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の4速ギア(被動側ギア)84に歯合している。このスプラインギア722は、シフトフォーク143に連結され、シフトフォーク143の移動によって第2メインシャフト72上を軸方向に移動する。
【0066】
スプラインギア722は、第2メインシャフト72上を6速ギア86側に移動して6速ギア86と係合し、第2メインシャフト72上における6速ギア86の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア722が6速ギア86に係合することにより、6速ギア86を第2メインシャフト72に固定し、第2メインシャフト72の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
【0067】
一方、ドライブシャフト73には、第1クラッチ74側から順に1速ギア81、スプラインギア(5速対応ギア)731、3速ギア83、4速ギア84、スプラインギア(6速対応ギア)732、2速ギア82およびスプロケット76が配置されている。
【0068】
ドライブシャフト73において、1速ギア81、3速ギア83、4速ギア84および2速ギア82は、ドライブシャフト73の軸方向における移動が禁止された状態でドライブシャフト73を中心に回転自在に設けられている。
【0069】
スプラインギア(「5速対応ギア」ともいう)731は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア731は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア731は、シフト機構140のシフトフォーク141に連結され、シフトフォーク141の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
【0070】
スプラインギア(「6速対応ギア」ともいう)732は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア(6速対応ギア)732は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア732は、シフト機構140のシフトフォーク144に連結され、シフトフォーク144の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
【0071】
なお、スプロケット76は、ドライブシャフト73において、第2クラッチ75側に位置する端部に固定されている。
【0072】
これらスプラインギア712、722、731、732は、変速ギアとしてそれぞれ機能するとともにドグセレクタとして機能している。具体的には、スプラインギア712、722、731、732と、軸方向で隣り合う各変速ギアとの互いの対向面同士には、互いに嵌合する凹凸部が形成され、凹凸部が嵌合することによって両ギアは一体的に回動する。
【0073】
このように、スプラインギア712、722、731、732は、連結されたシフトフォーク141〜144の駆動によって軸方向に移動されることによって、軸方向で隣り合う各変速ギア(1速ギア81〜6速ギア86)のそれぞれにドグ機構により連結される。
【0074】
なお、変速機構70において各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732に対して行われるギアシフトは、シフト機構140におけるシフトカム14の回転によって可動するシフトフォーク141〜144によって行われる。
【0075】
シフト機構140は、シフトフォーク141〜144と、シフトカム14と、シフトカム14を回転駆動させるシフトカム駆動装置146と、モータ145と、モータ145とカム駆動装置146とを連結して、モータ145の駆動力をシフトカム駆動装置146に伝達する伝達機構41とを有する。
【0076】
シフトフォーク141〜144は、各スプラインギア731、712、722,732とシフトカム14との間に架設されており、互いに、第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73、シフトカム14の軸方向で離間して配置されている。これらシフトフォーク141〜144は互いに平行するように並べられ、それぞれがシフトカム14の回転軸の軸方向に移動自在に配置されている。
【0077】
シフトフォーク141〜144は、基端側のピン部を、シフトカム14の外周に形成された4本のカム溝14a〜14dにおけるそれぞれの溝内に、移動自在に配置させている。すなわち、シフトフォーク141〜144は、シフトカム14を原節とした従節をなしており、シフトカム14のカム溝14a〜14dの形状によって第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73の軸方向にスライド移動する。このスライド移動によって、先端部に連結される各スプラインギア731、712、722,732は、各々の内径に挿通されている各軸上を軸方向にそれぞれ移動する。
【0078】
シフトカム14は、円筒状をなし、回転軸が第1メインシャフト71、第2メインシャフト72及びドライブシャフト73と平行になるように配置されている。
【0079】
シフトカム14は、伝動機構41を介してシフトカム駆動装置146に伝達されるモータ145の駆動力によって回転駆動する。シフトカム14は、回転によって、カム溝14a〜14dの形状に応じてシフトフォーク141〜144のうち少なくとも一つを、シフトカム14の回転軸の軸方向に可動させる移動させる。
【0080】
このようなカム溝14a〜14dを有するシフトカム14の回転に追従して可動するシフトフォーク141〜144によって、その移動したシフトフォークに連結されるスプラインギアが移動して、変速機160(変速機構70)のギアシフトが行われる。言い換えれば、モータ145は、シフト機構140のシフトカム14を回転させることによってギアシフトを行う。
【0081】
変速機160では、エンジンの駆動力は、第1及び第2クラッチ74、75の動作とこれらに対応するシフト機構140の動作とによって、第1及び第2メインシャフト71、72をそれぞれ有する独立の2系統の一方を介してドライブシャフト73に伝達される。このドライブシャフト73の回転とともにドリブンスプロケット76が回転し、チェーンを介して後輪を回転する。
【0082】
この変速機160における第1クラッチ74、第2クラッチ75及びシフト機構140は、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145を介して制御部300によって制御される。制御部300は、入力される信号に基づいて、所定のタイミングで、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145の動作を制御する。これら第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145の動作によって、第1クラッチ74、第2クラッチ75と各変速ギア段とが動作されて変速段の切り替え動作が行われる。
【0083】
制御部300は、モード切替用スイッチ110、シフトスイッチ120、クラッチレバー200のレバー操作量を検出するレバー操作量検出部130及びセンサ群150から入力される信号に基づいて変速機160、エンジン20(図1参照)等の車両の各部を制御する。
【0084】
特に、制御部300は、モード切替用スイッチ110の操作によって選択されるモードに応じて変速機160を制御する。制御部300は、シフトスイッチ120の操作によって変速機160における変速動作を制御する。
【0085】
制御部300は、クラッチレバー200の操作に応じてクラッチ(ここでは第1クラッチ74及び第2クラッチ75)における伝達トルク(クラッチのトルク容量)を制御する。なお、これら制御部300の変速機160の制御についての詳細は後述する。
【0086】
また、制御部300は、センサ群150のうち、スロットル入力ポテンショメータから、スロットル開度信号が入力される。これにより、制御部300は、エンジン20(図1参照)のスロットルバルブを制御して、エンジンシリンダ内への混合気の供給を制御する。
【0087】
モード切替用スイッチ110は、変速装置における操作モードを選択するスイッチである。ここでは、モード切替用スイッチ110は、「3ペダルモード」と「2ペダルモード」とを切り換えることによって選択し、選択されたモード信号を制御部300に出力する。
【0088】
「3ペダルモード」は、アクセルペダル(アクセルグリップ)、ブレーキペダル、クラッチペダル(クラッチレバー)の3つのペダルによって変速装置を操作するモードである。また、「2ペダルモード」は「3ペダルモード」においてクラッチペダル(クラッチレバー)が無く、アクセルペダル(アクセルグリップ)及びブレーキペダルで変速装置を操作するモードである。なお、本実施の形態の変速装置では、「2ペダルモード」時において運転者がシフト操作を行えるAMTモード及び運転者がN→1速へのシフト操作を行えるATモードをイメージした変速制御を行うことができる。また、本実施の形態では、「3ペダルモード」時において、MTモード及び、変速時のクラッチ操作のみ自動で行うセミMTモードをイメージした変速制御を行うことができる(図11参照)。
【0089】
シフトスイッチ120は、ここではハンドル15において左側のハンドルバーに設けられている。シフトスイッチ120は、シフトアップボタンおよびシフトダウンボタンを有する。シフトアップボタンが運転者に押下されることによって、制御部300を介して変速機160はシフトアップ動作を実行し、シフトダウンボタンが運転者に押下されることによって、制御部300を介して変速機160はシフトダウン動作を実行する。
【0090】
また、シフトスイッチ120は、「2ペダルモード」中に、押下されることによって、変速制御を、変速時にシフト操作(変速段の切替)を行えるAMTモードにし、押下されなければATモードにする機能を有する。
【0091】
クラッチレバー200は、図1に示すように、ハンドル15の左側ハンドルバーに配置され、運転者が左手用のグリップとともに握持自在となっている。
【0092】
クラッチレバー200は、バイワイヤ式のクラッチレバー200である。クラッチレバー200では、レバー操作量検出部130によって運転者に握られるレバーの操作量(図3に示すレバー本体220の常態時と操作時との間の角度θ)を検出する。レバー操作量検出部130は、検出したレバー操作量を電気信号に変換して制御部300に出力する。
【0093】
図3は、クラッチレバー200の説明に供するハンドルにおける左側ハンドルバーの斜視図である。
【0094】
図3に示すように、クラッチレバー200は、ハンドル15の左側ハンドルバー15aにおいてグリップ15bに対向配置され、運転者に握られるレバー本体220を有する。レバー本体220の基端部221は、左側ハンドルバー15aの基部に、軸部223を介して回動自在に取り付けられている。
【0095】
レバー本体220が回動する、つまり、レバー本体220の先端部がグリップ15b側に接近するように移動することによって、レバーシリンダ230内に挿入されたワイヤ232の他端部232b(図4参照)を牽引する。
【0096】
図4は、レバーシリンダの構成を示す図であり、図4(a)は、レバーシリンダの右端面視図、図4(b)は同レバーシリンダの断面図である。
【0097】
図4に示すように、ワイヤ232は、一端側が閉塞された有蓋円筒状のレバーシリンダ230内に挿通され、一端部232aで、レバーシリンダ230の底部側に配置される第1リテーナ233に固定され、他端部232bでレバー本体220に固定されている。
【0098】
第1リテーナ233は、第2リテーナ234内に、第1コイルバネ235を介して挿入され、挿入方向に第1コイルバネ235の付勢力に抗して移動自在である。第1リテーナ233の挿入方向側への移動は、フランジ部233aにより規制される。
【0099】
第2リテーナ234は、第2コイルバネ236内に挿入され、フランジ部234aで第2コイルバネ236の一端側で掛止している。第2コイルバネ236は、第2リテーナ234を外挿する長さよりも長く、その他端部は、レバーシリンダ230内に軸方向に移動自在に配置されたフリーピストン237に当接している。
【0100】
フリーピストン237は、レバーシリンダ230内で、第3コイルバネ(圧縮コイルバネ)238によってレバーシリンダ230の開口方向、つまり、第2コイルバネ236側に付勢された状態で配置されている。第3コイルバネ238は、レバーシリンダ230内において、第2コイルバネ236が収縮して所定の付勢力以上の付勢力を得た際に収縮するようにプリロードされた状態で配置されている。フリーピストン237は、レバーシリンダ230内からプリロードされた第3コイルバネ238の付勢力により飛び出さないように、サークリップ239によって規制されている。
【0101】
このように構成されたクラッチレバー200では、レバー本体220の基端部で、レバーシリンダ230の底面の軸心から導出される他端部232bが係合されている。
【0102】
レバー本体220が運転者に握持されて、グリップ15b側に握られることによって基端部側を中心に回動すると、常態時であるBの位置にある他端部232bは、A方向に引っ張られる。
【0103】
これにより、一端部232aは第1リテーナ233をA方向に引っぱり、第1リテーナ233を第1コイルバネ235の付勢力に抗してA方向に移動させる。
【0104】
A方向、つまり第2リテーナ234への挿入方向に移動する第1リテーナ233では、フランジ部233aが、第2リテーナ234のフランジ部234aを押圧し、第2リテーナ234自体を第2コイルバネ236の付勢力に抗してA方向に移動させる。
【0105】
第2リテーナ234のA方向の移動によってフリーピストン237もA方向への荷重がかかるが、フリーピストン237はプリロードされた第3コイルバネ238によってA方向とは逆方向に付勢されている。このため、第2リテーナ234の移動によって圧縮した第2コイルバネ236が所定の付勢力を得るまでは、第3コイルバネ238は、第2コイルバネ236と拮抗する。これにより、フリーピストン237自体は、第2コイルバネ236によるA方向への付勢力が第3コイルバネ238のA方向とは逆方向の付勢力より大きくなるまでA方向に移動しない。
【0106】
そして、第2コイルバネ236によるA方向への付勢力が第3コイルバネ238のA方向とは逆方向の付勢力より大きくなると、フリーピストン237は、A方向へ移動する。
【0107】
図5は、クラッチレバーの手応えと握り量との関係を示す図である。
【0108】
図5に示すように、握り始めて第1リテーナ233が第1コイルバネ234を収縮する部分Dよりも、第2コイルバネ236を収縮させる部分Eの方が傾きを大きくしている。つまり、第1コイルバネ234の付勢力よりも第2コイルバネ236の付勢力を大きくしており、この第2コイルバネ236を収縮させる部分を、クラッチの容量を変化させる部分として設定する。
【0109】
このようにクラッチレバー200では、レバー本体220の操作量に対する操作反力(手応え)の増加割合が少なくとも2段階に変化するように構成されている。これにより機械式のクラッチレバーの操作と同様の手応えを演出する、所謂、機械式のクラッチレバーの操作と同様の力覚呈示を行える。
【0110】
例えば、レバー操作量検出部130によって、レバー本体220において常態時から操作された際の開度を検出して制御部300に出力する。制御部300は、特に、第2コイルバネ236を収縮させる際のレバー本体220の開度が、クラッチのトルク容量と対応するように制御する。
【0111】
これにより、運転者に対して、MTで用いられるクラッチレバーと同様に、第1コイルバネ234を収縮させる部分、つまり、握り始めてから所定位置までは遊び部分として感覚を付与できる。よって、運転者は軽く握った後、レバー本体220を握る際に急に負荷が掛かり始める位置を認識することができ、これにより、急に負荷の掛かる範囲をクラッチのトルク容量を調整する範囲として認識できる。
【0112】
図6は、本発明の一実施の形態に係る変速装置の制御部を説明するためのブロック図である。
【0113】
図6に示す変速装置100において、制御部300は、TCU(Transmission Control Unit、「変速制御部」とも称する)の機能とECU(Engine Control Unit、「エンジン制御部」とも称する)の機能とを有する。
【0114】
制御部300は、モード切替用スイッチ110、レバー操作量検出部130、センサ群150(151〜155等)、シフトスイッチ120から入力される情報を用いて、車両の動作状態を監視すると共に動作状態を制御する。
【0115】
制御部300は、モード切替用スイッチ110により選択されるモードにおいてクラッチトルク容量指令値とギア段指令値を生成して出力し、変速機160を制御する。
【0116】
この制御部300は、シフトスイッチ120の操作によって、クラッチのトルク容量を調節する第1及び第2クラッチアクチュエータ77、78と、シフト(ギア段)を切り替えるシフト機構140を協調的に動作させて、一連の変速段切り替え動作を自動的に行う。所謂、AMTとして変速機160を制御する機能を有する。
【0117】
また、制御部300は、運転者がシフトスイッチ120によるシフト段切り替えの指示を常時は行わない場合、シフト段の選択と、選択したシフト段を切り換える一連の動作(クラッチ動作)を全て自動的に行う。所謂、ATとして変速機160を制御する機能を有する。
【0118】
具体的には、制御部300は、入力される情報に基づいて変速機160を制御する動作指令値を生成する変速指令値生成部320と、変速機160に最終的な動作指令値を出力する動作司令部330とを有する。
【0119】
変速指令値生成部320は、自動変速に関するクラッチトルク容量指令値を生成するクラッチトルク容量指令値生成部322と、変速ギア段を指示するギア段指令部324とを有する。
【0120】
自動変速を行う場合、変速指令値生成部320では、クラッチトルク容量指令値及びギア段指令値は、センサ群150から入力される情報と、クラッチ切断、変速ギア切替及びクラッチ接続の一連の動作を内部に格納した所定のプログラムやマップの情報とを用いて生成される。
【0121】
また、変速指令値生成部320では、シフトスイッチ120が操作される場合には、シフトスイッチ120からシフト先の変速ギア段の指示情報が入力され、この入力されたギア段の指示を優先させて、且つ、センサ群150から入力される情報と、クラッチ切断、変速ギア切替及びクラッチ接続の一連の動作を内部に格納した所定のプログラムやマップの情報とを用いてクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値を生成する。
【0122】
さらに、変速指令値生成部320には、モード切替用スイッチ110によって切り換えられる変速操作のモードが入力される。変速指令値生成部320は、入力されるモードに応じて、且つ、センサ群150から入力される情報と、クラッチ切断、変速ギア切替及びクラッチ接続の一連の動作を内部に格納した所定のプログラムやマップの情報とを用いて、変速時、及び、発進時と停止時のクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値を生成する。
【0123】
即ち変速指令値生成部320では、モード切替用スイッチ110によって切り換えられる変速操作のモードに応じて、ギア段指令値を運転者によるシフトスイッチ120の操作に基づき生成するか、変速指令値生成部320の内部に格納した所定のプログラムやマップの情報を用いて生成するかを切り替えて、ギア段指令部324から動作指令部330へ出力する。
【0124】
また、変速指令値生成部320では、モード切替用スイッチ110によって切り換えられる変速操作のモードに応じて、変速時、及び、発進時と停止時のクラッチ操作のクラッチトルク容量指令値を、クラッチトルク容量指令値生成部322から動作指令部330へ出力する。
【0125】
なお、制御部300(変速指令値生成部320及び動作司令部330)は、センサ群150から入力される情報によって車両の駆動状態を検出する。センサ群150から入力される情報としては、エンジン回転数、第1メインシャフト回転数、第2メインシャフト回転数、ドライブシャフト回転数、シフトカム位相、第1クラッチ位置、第2クラッチ位置及びアクセル開度などである。
【0126】
変速指令値生成部320は、予め設定された変速段毎のギア比に対応する第1メインシャフト71のトルク、第2メインシャフト72のトルク、ドライブシャフト73のトルク及びエンジン回転数を用いて、クラッチトルク容量指令値及びギア段を出力する。変速指令値生成部320は、第1メインシャフト回転数、第2メインシャフト回転数、ドライブシャフト回転数をそれぞれ微分することによって第1メインシャフト71、第2メインシャフト72及びドライブシャフト73のトルクを算出する。なお、ドライブシャフト回転数は、車速に相当する。シフトカム位相は、シフト機構140のモータ145の動作によって回転するシフトカム14の回転角度を示す。このシフトカム14の回転角度によって、変速指令値生成部320は、シフトカム14の回転によって設定される所定の変速段(1速から6速、N)を取得できる。
【0127】
また、第1クラッチ位置及び第2クラッチ位置は、第1クラッチアクチュエータ77による第1クラッチ74の係合状態及び第2クラッチアクチュエータ78による第2クラッチ75の係合状態を示すものである。これら第1クラッチ位置及び第2クラッチ位置は、センサ群150のうちのクラッチ位置センサにより検出される。具体的には、第1クラッチ位置とは、第1プルロッド77a(図2参照)により調整される第1クラッチ74における複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートとの離間量、つまり、第1クラッチ74の係合状態を示す。第2クラッチ位置は、第2プルロッド78a(図2参照)により調整される第2クラッチ75における複数のクラッチプレートと複数のフリクションプレートとの離間量、つまり、第2クラッチ75の係合状態を示す。これらクラッチ位置の変化によってクラッチを介して出力されるトルク量が変化する。
【0128】
生成されたクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値は動作司令部330に出力される。なお、生成されたクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値が、そのまま最終動作値として出力されれば、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びシフト機構140を介してクラッチ操作及びシフト操作は自動で行われる。
【0129】
動作司令部330は、入力される情報に基づいてクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値を第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びモータ145に出力して第1クラッチ74、第2クラッチ75及びシフト機構140の駆動を制御する。
【0130】
動作司令部330には、クラッチレバー200が操作される際には、クラッチレバー200のレバー操作量が入力される。
【0131】
動作司令部330は、クラッチレバー200からの入力が無ければ、変速指令値生成部320で生成されたクラッチトルク容量指令値及びギア段を最終指令値として、クラッチ動作指令部334、シフト動作司令部336から出力する。出力されるクラッチトルク容量指令値及びギア段指令値の少なくとも一方が、変速指令値生成部320で生成されている場合、他方と協調してクラッチ切断、変速ギア切替及びクラッチ接続の一連の動作を行わせる値となっている。
【0132】
動作司令部330では、クラッチレバー操作反映部332は、クラッチレバー200のレバー操作量が入力された際に、このレバー操作量を、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78を実際に駆動させるクラッチトルク容量値に反映させる。
【0133】
ここでは、クラッチレバー操作反映部332は、クラッチトルク容量指令値生成部322からクラッチ動作指令部334に入力されるクラッチトルク容量指令値をカットオフする。すなわち、クラッチトルク容量指令値生成部322が生成したクラッチトルク容量指令値に代わって、レバー操作量を反映してカットオフしたクラッチトルク容量指令値が、クラッチ動作指令部334に入力される。そして、レバー操作量を反映したクラッチトルク容量指令値、つまり、クラッチレバー200の操作量に対応したクラッチトルク容量指令値が、クラッチ動作指令部334を介して第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78に出力される。
【0134】
クラッチレバー200の操作量に対応するクラッチトルク容量指令値(動作指令値)は、図7に示すゲインマップを用いて変換して、図8に示す関係を満たす値として決定される。図7は、クラッチレバー200の握り角と補正後のレバー握り角とを示すゲインマップである。図8はクラッチレバー200における補正後握り角(操作量)を用いて制御されるクラッチのレリーズ力(係合状態)を示す。図8では、クラッチレバー200の補正後握り角と、クラッチレバーのレリーズ力との関係G2は、メカニカルのクラッチレバーの握り角とクラッチレリーズ力との非線形な関係G1となるように近似している。なお、図8においてクラッチレリーズ力が60〜80%の範囲内でクラッチを繋ぐように設定される。
【0135】
図9は、クラッチレバー操作反映部332における処理の説明に供する模式図であり、クラッチレバー200の操作量と、クラッチトルク容量指令値生成部322によって自動で生成されるクラッチトルク容量指令値(図9では「自動生成指令値」で示す)との関係を示す図である。なお、図9は、便宜上、第1クラッチ74及び第2クラッチ75の一方を駆動するために第1及び第2クラッチアクチュエータ77、78の一つ(単に「クラッチアクチュエータ」ともいう)に最終クラッチトルク容量指令値(最終動作指令値)を出力する場合を示している。また、ここでのレバー操作量と自動生成指令値との関係は一例として線形の関係として示している。また、図9におけるクラッチレバー操作量は、レバー本体220を完全に離して解放した状態を開度100%、完全に握られた状態を開度0%とする。
【0136】
図9に示すように、動作司令部330のクラッチレバー操作反映部332には、クラッチトルク容量指令値生成部322により生成されるクラッチトルク容量指令値(自動で生成された指令値)が常時入力されている。クラッチレバー200の操作が無い場合は、自動生成指令値が最終動作指令値としてクラッチアクチュエータに出力される。クラッチレバー200が操作されるとレバー操作量検出部130からクラッチレバー200の操作量が入力される。入力されるクラッチレバー200の操作量情報の度合い(握り度合い)によって、指令値制限ライン(レバー操作量に対応して可変な、クラッチ容量指令値の最大値を示すライン)はY軸上を上下する。この指令値制限ラインが自動生成指令値よりも低い場合、この指令値制限値が自動生成指令値の最大値となって、最終クラッチ動作指令値(最終動作指令値)として出力される。つまり、レバー操作量によってクラッチトルク容量を調整するためのクラッチトルク容量指令値の最大値である自動生成指令値の最大値を制限する。ここでは、クラッチトルク動作指令部334は、最大値が制限されたクラッチトルク容量指令値を最終動作指令値としてクラッチアクチュエータに出力する。なお、指令値制限ラインと交差するクラッチトルク容量指令値、つまり、レバー操作量により算出されるクラッチトルク容量指令値を、最終動作指令値として出力してもよい。
【0137】
このように最終動作指令値を出力する処理は、クラッチレバー操作反映部332において第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78の双方に対して行う。
【0138】
なお、クラッチレバー操作反映部332は、クラッチレバー200の操作に基づいて、第1クラッチ74及び第2クラッチ75におけるギア比を換算した後のトルク容量の合計或いは略合計を最終動作指令値として決定して出力している。
【0139】
また、クラッチレバー操作反映部332は、クラッチレバー200の操作に基づいて、第1クラッチ74及び第2クラッチ75における、ギア比を換算した後のトルク容量の合計の最大値を最終動作指令値として決定し出力してもよい。
【0140】
図10は、ギア比を換算した後における第1クラッチ74及び第2クラッチ75のトルク容量の合計の操作を説明するための図である。図10は、クラッチレバーのレバー操作量と、クラッチトルク容量指令値生成部322によって自動で生成されるクラッチトルク容量指令値(図10では「自動生成指令値」で示す)と、クラッチトルク容量の合計値との関係を示す図である。レバー操作量と自動生成指令値との関係は一例として線形の関係として示している。また、図10におけるクラッチレバー操作量は、レバー本体220を完全に離して解放した状態を開度100%、完全に握られた状態を開度0%とする。
【0141】
図10に示す自動生成指令値は、ギア比の比率によって変更する傾きaにより仕切られた領域で図示される第1クラッチ74のクラッチ容量と第2クラッチ75のクラッチ容量の合計値に対応する。
【0142】
図10に示すように、動作司令部330のクラッチレバー操作反映部332には、クラッチトルク容量指令値生成部322により生成される第1クラッチ74及び第2クラッチ75の合計トルク容量である自動生成指令値)が常時入力されている。自動生成指令値は、ギア比を換算した後、つまり、クランクシャフト60上或いはドライブシャフト73上に換算した際の第1クラッチ74及び第2クラッチ75のトルク容量の合計である。
【0143】
これらはセンサ群150から入力される情報に基づいて算出される。クラッチレバー操作反映部332では、クラッチレバー200の操作が無い場合は、自動生成指令値が最終動作指令値としてクラッチアクチュエータに出力される。
【0144】
クラッチレバー200が操作されるとレバー操作量検出部130からクラッチレバー200の操作量が入力される。入力されるクラッチレバー200の操作量情報の度合い(握り度合い)によって、指令値制限ライン(レバー操作量に対応して可変な、クラッチ容量指令値の最大値を示すライン)はY軸上を上下する。この指令値制限ラインが、自動生成指令値よりも低い場合、自動生成指令値の最大値となって、最終動作指令値として出力される。つまり、レバー操作量によってクラッチトルク容量を調整するクラッチトルク容量指令値の最大値を示す自動生成指令値の最大値を制限する。ここでは、クラッチトルク動作指令部334は、最大値(トルク容量の合計値の最大値)が制限された自動生成指令値を最終動作指令値としてクラッチアクチュエータに出力する。これにより、第1クラッチ74及び第2クラッチ75のトルク容量の合計の最大値を制限して、第1クラッチ74及び第2クラッチ75を制御する。これにより運転者にマニュアル操作、つまりMTで行う操作をさせることができる。
【0145】
以上より、例えば、変速指令値生成部320にモード切替用スイッチ110から「2ペダルモード」が入力されると、発進と停止時におけるクラッチ操作に用いられるクラッチトルク容量指令値は、変速指令値生成部320のクラッチトルク容量指令値生成部322に於いて生成され、動作指令部330へ出力される。
【0146】
また、変速指令値生成部320にモード切替用スイッチ110から「3ペダルモード」が入力されると、クラッチトルク容量指令値生成部322に於いて生成される指令値は「最大に繋ぐ」指令値のまま動作指令部330へ出力され、クラッチレバー200の操作によってクラッチレバー操作反映部332に於いてカットオフされる。カットオフ後の指令値として、レバーの操作量に対応する指令値がクラッチ動作指令部334に入力される。クラッチ動作指令部334は、入力されるレバーの操作量に対応する指令値を、発進と停止時におけるクラッチ操作に用いられるクラッチトルク容量指令値の最終動作指令値として出力する。
【0147】
なお、シフトスイッチ120から入力される信号は、変速指令値生成部320では割り込み処理によって実行させている。このため、「2ペダルモード」、「3ペダルモード」の各モード中のいつ、どのようなタイミングであっても、シフトスイッチ120の操作によって、動作司令部330では、シフトスイッチ120によるギア段の指示に応じて、シフト機構140を介して変速動作を行うことができる。なお、変速指令値生成部320は、クラッチ切断、ギア段の掛け替え、クラッチ接続の順に行われる一連の変速動作中では、シフトスイッチ120の割り込み処理を受け付けない。
【0148】
このように、運転者がシフトスイッチ120のシフトアップボタンまたはシフトダウンボタンを押下することによって、そのことを示す信号(以下、シフト信号と称する)がシフトスイッチ120から制御部300へ出力される。制御部300は、入力されるシフト信号に基づいて、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78ならびにモータ145を制御する。この制御によって、第1および第2クラッチ74,75のいずれか一方、またはクラッチ74、75の両方が適宜切断されるとともにシフトカム14が回転し、変速機160(詳細には、変速機構70)はギアシフトを行う。
【0149】
本実施の形態では、シフトアップボタンが運転者に押下されることによって、変速機160ではシフトアップ動作が実行され、シフトダウンボタンが運転者に押下されることによって、変速機160ではシフトダウン動作が実行される。
【0150】
図11は、制御部におけるモード遷移の処理の説明に供する図である。なお、図11では、要部となる処理にステップ番号を付けて説明し、その他の処理についてのステップ番号は省略している。なお、制御部300は、図11の処理を電源投入から切れるまでくり返し行う。
【0151】
ステップS1では、変速指令値生成部320は、モード切替用スイッチ110によって選択されたモードが「2ペダルモード」であるか「3ペダルモード」であるかを判定する。「2ペダルモード」であれば、ステップS2に移行する。
【0152】
ステップS2では、変速指令値生成部320は、運転状態が発進あるいは停止の場面か、変速の場面かを判定する。判定が発進あるいは停止の場面であれば自動発進あるいは自動停止の指令値を生成するステップS4へ移行し、発進あるいは停止の場面でなければ、シフトスイッチ120からシフト信号の入力があるか否かを判定する、ステップS3へ移行する。
【0153】
ステップS4では、変速指令値生成部320は、発進時及び停止時において第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78に出力するクラッチトルク容量指令値として、クラッチトルク容量指令値生成部322からのクラッチトルク容量指令値を出力する。すなわち、動作司令部330は、クラッチレバー200の操作が無ければ、クラッチトルク容量指令値生成部322からのクラッチトルク容量指令値をカットオフせずに第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78に出力するモード(「ATモード」)によって制御する。
【0154】
ステップS3では、2ペダルモードにおいて、シフトスイッチ120の操作があるか、つまり、シフトスイッチ120からシフト信号の入力があるか否かを判定する。ステップS3において、シフト信号の入力がなければ、ステップS5へ移行してATモードによる変速制御を続け、シフト信号の入力があれば、ステップS8に移行してAMTモードにより変速制御する。
【0155】
ステップS5では、変速指令値生成部320は、変速時において第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78に出力するクラッチトルク容量指令値として、クラッチトルク容量指令値生成部322からのクラッチトルク容量指令値を出力する。すなわち、動作司令部330は、クラッチレバー200の操作が無ければ、クラッチトルク容量指令値生成部322からのクラッチトルク容量指令値をカットオフせずに第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78に出力するモード(「ATモード」)によって制御する。なお、このときギア段指令部324から出力されるギア段指令値は、シフトスイッチ120からの割り込みがなければ、変速指令値生成部320の内部で生成されギア段指令部324から出力されるギア段へのギアシフトであり、クラッチトルク容量指令部322から出力されるクラッチトルク容量指令値と協調する。
【0156】
ステップS8では、制御部300は、シフトスイッチ120のシフト信号により指示されるギア段にギア段を切り換える所謂AMTモードによる変速を行う。つまり、ステップS8では、変速指令値生成部320のギア段指令部326は、変速指令値生成部320の内部で生成されるギア段に替えて、シフトスイッチ120から入力されるギア段をギア段指令値として出力し、シフト動作司令部336を介してモータ145に出力して、シフト機構140を駆動する。
【0157】
一方、ステップS1において、変速指令値生成部320が、モード切替用スイッチ110により選択されたモードが「3ペダルモード」であると判定すると、ステップS6に移行する。
【0158】
ステップS6では、変速指令値生成部320は、運転状態が発進あるいは停止の場面か、変速の場面かを判定する。判定が発進あるいは停止の場面であれば手動発進あるいは手動停止の指令値を生成するステップS7へ移行し、発進あるいは停止の場面でなければ、シフトスイッチ120からシフト信号の入力に基づく変速の指令値を生成するステップS8へ移行する。
【0159】
ステップS7では、制御部300はATモードにおいて、自動で発進と停止時のクラッチ操作を行うために生成していたクラッチトルク容量指令値に替えて、クラッチレバー200からの情報に応じて行うためのクラッチトルク容量指令値を生成する。
【0160】
つまり、ステップS7では、制御部300は、MTモード及びセミMTモードにおいて発進と停止時に運転者がクラッチレバー200を操作してクラッチのトルク容量を調整するモードで制御する。
【0161】
さらにステップS10において、制御部300は、クラッチレバー200が使用されたか否かを判定し、使用されていなければ、「セミMTモード」のまま変速機160を制御し、使用されていれば「MTモード」として変速機160を制御する。
【0162】
具体的には、ステップS10では、制御部300の動作司令部330は、クラッチトルク容量指令値生成部322から走行状態に応じて出力されるクラッチトルク容量指令値を、クラッチレバー200のレバー操作量検出部130から入力されるレバー操作量に応じて、クラッチレバー操作反映部332に於いて制限(カットオフ)する。そして、制限(カットオフ)されたクラッチトルク容量指令値(クラッチレバー200の操作を反映したクラッチトルク容量指令値)をクラッチ動作指令部334に出力する。クラッチ動作指令部334は、レバー操作反映部332から入力されるクラッチレバー200の操作を反映したクラッチトルク容量指令値を最終クラッチトルク容量指令値として第1クラッチアクチュエータ77及び第2クラッチアクチュエータ78に出力する。これにより、第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、運転者のクラッチレバー200の操作によって、クラッチトルク容量が調整される。よって、クラッチ動作指令部334はドライブシャフト73から出力される駆動力を調整できる。
【0163】
なお、「MTモード」、「セミMTモード」、「AMTモード」に於いては、運転者が誤ってシフトスイッチを操作したときに特定のギア段へシフトチェンジされるのを防止するために、クラッチレバーが閾値以上に操作されていることを条件とすることが出来る。
【0164】
具体的には、ステップS9でクラッチレバーの操作量が閾値を超えているか否かを判定し、超えていれば、特定のギア段へのシフトチェンジをインタロック(禁止)せず、超えていなければ特定のギア段へのシフトチェンジをインタロック(禁止)する。
【0165】
なお、変速指令値生成部320では、ギア段指令部324は、シフトスイッチ120により入力されるシフト信号を、内部で生成するシフト段指令より優先させることで、シフト動作司令部336へギア段指令値として出力させている。このため、クラッチレバーの操作量が閾値を超えていることを条件とする特定のギア段へのシフトチェンジを除いて、「2ペダルモード」及び「3ペダルモード」、あるいはATモード、AMTモード、セミMTモード、MTモードのいずれのモード中でもシフトスイッチ120による変速動作は可能である。
【0166】
また、制御部300は、ステップS1に於けるモード切替用スイッチ110によって選択されたモードが「2ペダルモード」であるか「3ペダルモード」であるかの判定結果と、ステップS3に於けるシフトスイッチ120からシフト信号の入力があるか否かの判定結果と、ステップS10の下流にあってステップS11に相当するクラッチレバー200の操作の有無を判定するステップS12の判定結果と、に応じて、「MTモード」、「セミMTモード」、「AMTモード」、「ATモード」の各モードの遷移を判定し、計器板にモードを表示することによって運転者に現在の運転状態を知らせる。
【0167】
図12は、本実施の形態に係る変速装置の各運転モードを示す図である。なお、図12中、「●」は、「運転者の操作」を意味し、「●/時間」は、所定時間内で運転者が操作できることを意味している。また、「◎」、「○」、「△」は、各項目の対応度を意味する。
【0168】
図12に示すように、「2ペダルモード」(ATモード、AMTモード)及び「3ペダルモード」(セミMTモード、MTモード)では、以下のように遷移する。
【0169】
「2ペダルモード」
<基本状態>
・発進については、「2ペダルモード」中に運転者によってシフトスイッチ120のシフトボタンが押されて「N→1速(図中「N→1」でしめす)」が指示されると、変速装置は、クラッチを切ってギア段をN→1速へ切り替えて待機する。アクセルが開かれると、つまり、制御部300が検出するアクセル開度に基づいて、変速装置は、クラッチを繋ぐ操作を行って発進する。
【0170】
・変速については、運転者によるクラッチレバー200とシフトボタンの操作は不要で、制御部300は、自動的にシフト段を選択し、変速する。
【0171】
・停止については、変速装置は、車速が低下すると自動的にシフトダウンを行い、停車以前に1速ギア段への変速を完了する。車速が低下すると、変速装置は、自動的にクラッチを切るように操作して停車させる。ギア段は1速の状態を維持する。この状態において、運転者の操作によってシフトボタンで「1→N」が指示されると、変速装置は、ギア段を「1→N」に切り替えた後、クラッチを繋ぐ。
【0172】
<基本状態への割り込み操作>
・2ペダルモード(いわゆるATモード)状態において、シフトボタンが押され(AMTモード)、有る条件を満たすと2ペダルへ戻る。
【0173】
・2ペダルモードにおいて、運転者がクラッチレバーを握ると、シフト段は変わらずクラッチが切られ、クラッチレバーを戻すと、シフト段は変わらずクラッチが繋がる。これにより、元の2ペダルモード(ATモード)へ戻る。
【0174】
・2ペダルモード(ATモード)中において運転者がクラッチレバー200を握ると、シフト段は変わらずクラッチが切れる。次いで、運転者によりシフトボタンが押されると、クラッチは切れたままシフト段が変わる。この後、運転者がクラッチレバー200を戻すことによって、変わった後のシフト段にクラッチが繋がる。この状態において、或る条件を満たすと2ペダルへ戻る。
【0175】
「3ペダルモード」
<基本状態>
・発進については、N(ニュートラル)の状態から運転者がクラッチレバー200とシフトボタンでN→1速を操作し、クラッチレバー200を戻すことによってクラッチを繋いで発進する。
【0176】
・変速については、運転者が、シフトボタンのUPまたはDownを押して変速先シフト段を指示すると、変速装置は、クラッチ操作とシフト段の切り替えを自動で処理する。
【0177】
・停止については、運転者がクラッチレバー200を握ることによって、クラッチが切断され、停車する。
【0178】
<基本状態への割り込み操作>
・3ペダルモード(変速時のクラッチ操作を自動で処理するモード:セミMTモード)において、運転者がクラッチレバー200を握ると、シフト段は変わらずクラッチが切断される。この後、クラッチレバーを戻すことで、シフト段は変わらずクラッチが繋がり、元の3ペダルモードへ戻る。
【0179】
・3ペダルモードにおいて、運転者がクラッチレバー200を握ると、シフト段は変わらずクラッチが切れる。この後、シフトボタンを押すことによって、クラッチは切れたままシフト段が変わる。次いで、クラッチレバー200を戻すと、変わった後のシフト段にクラッチが繋がって、元の3ペダルモードに戻る。
【0180】
図12に示すように、「3ペダルモード」(MTモード、セミMTモード)では、発進する条件として、シフト操作及びアクセル操作に加えてクラッチ操作が加わる。よって、「3ペダルモード」では、発進する際に、運転者はシフトボタン操作、アクセル操作、クラッチレバー200操作の3つの操作が必要となる。これにより、AMTモード、ATモード、CVTモードと比較して、誤発進排除性の向上を図ることができる。
【0181】
加えて、バイワイヤ式クラッチレバー200によって第1クラッチ74及び第2クラッチ75の係合状態(クラッチトルク容量)を操作できることによって、発進時に加速する際の自由度の向上を図ることができる。
【0182】
変速装置100では、制御部300では、クラッチレバー200の操作量に閾値を設定して、ギア段によっては、クラッチレバー200を握ることなく変速できないように、「3ペダルモード」中において、シフト切替動作をインタロックする。
【0183】
ここでは、「3ペダルモード」において、Nから1速にギア段を上げるとき、1速からNにギア段を下げるとき、2速から1速にギア段を下げるとき、それぞれクラッチレバー200の所定の握りを必要とする。所定の握りは、レバー操作量であるレバーの開度に対応するクラッチトルク容量指令値が規定値以上で判断する。
【0184】
これにより、制御部300は、「3ペダルモード」において、発進時にクラッチを握り忘れたまま、Nから1速にギアが入って走行することを防止する。
【0185】
また、走行中に意識外で1速からNになることを防止でき、さらに、走行中に2速からギア比が離れている1速に意識外でシフトダウンすることを防止する。
【0186】
制御部300(詳細にはクラッチレバー操作反映部332)は、電源投入後、クラッチレバー200の操作量に、出力されるクラッチトルク容量指令値を対応させるため、レバー操作量検出部130から入力される信号レンジを学習する。
【0187】
すなわち、クラッチレバー操作反映部332は、レバーの開閉動作に伴って、レバー操作量検出部130からレバー操作量として出力される信号レンジを用いて、クラッチレバー200の操作範囲の学習、つまり、レバーの握り位置、開放位置を学習し、最終クラッチトルク容量指令値に反映させる。
【0188】
なお、「3ペダルモード」において、制御部300に、レバー操作量検出部130からの信号の入力がなく、クラッチレバー操作反映部332を介して制御部300がレバー操作量検出部130の故障と判定した場合、「2ペダルモード」に移行する。これによりレバーフェイル時に機能を低下させることなく走行を継続できる。なお、制御部300におけるレバー操作量検出部130の故障の判定は、レバー操作量検出部(所謂ポテンショメータ)130との電気的な接続状態から判定する。
【0189】
図13は、制御部によるクラッチレバーの操作レンジの学習を説明するための図である。
【0190】
図13では、横軸を、クラッチレバー200の開閉範囲に対応させる最終クラッチトルク容量指令値0V〜5Vを示している。
【0191】
学習開始位置は、学習レバー稼動範囲の中心位置(学習開始点)であり、この位置を挟んで予め上限stepと下限stepとが設定される。クラッチレバー操作反映部332は、中心位置から学習を開始し、クラッチレバー200が握られることによって学習上限操作範囲において予め設定された上限stepを越えた地点から学習を始め、レバーが実レバー稼動範囲の上限に至ると、学習を終了する。握られたレバーを開放することによって、同様に下限を学習できる。このように特定のstep単位でレバー稼動範囲を学習しているため、1回のクラッチレバー200の握りによって完全握り位置を学習できる。なお、図13に示す学習上限余裕、学習下限余裕領域は、学習進み具合によって0%に戻らない開度、或いは100%に到達しない開度、になることを防ぐものである。
【0192】
変速装置を備える車両では、走り始める際に、Nから1速に上げるために、確実に1回はクラッチレバー200を握る。その1回のクラッチレバー200の握りによって操作レンジを学習でき、次に運転者がクラッチレバー200を用いてクラッチ操作を行う際に好適な位置でクラッチアクチュエータを動作させることができる。
【0193】
図14は、クラッチレバー操作範囲の学習を説明するためのフローチャートである。なお、クラッチレバー200の稼動範囲を学習する際において現在レバー位置より+を下限学習側、−を上限学習側とする。
【0194】
図14に示すように、まず、電源が投入されることによって制御部300(クラッチレバー操作反映部332)は、上限step及び下限stepを設定して、下記条件を満たすことによって学習値をstep分進めていく。つまり、クラッチレバー200の位置が学習上下限以内である(ステップS31)、クラッチレバー200のレバー位置の前回比が規定値以内である(ステップS32)、学習余裕込みレバー位置(現在レバー位置±学習余裕)が現在の学習値よりstep値以上進んでいる(ステップS33)、これら(ステップS31からステップS33)の条件が規定時間継続したか(ステップS35)を満たして学習値をstep分進めていく。
【0195】
本実施の形態では、DCTであっても、クラッチレバー200を操作することによって、変速時における駆動力の復帰の仕方を調整できる。例えば、子供、老人が同乗している場合、変速時においてクラッチを再び繋ぐ際に、ゆっくりとトルク容量を増加させて、出力される駆動力を徐々に増加させることができる。これにより同乗者に快適な乗車感を付与できる。また、ギア段の切り換えを伴うことなく駆動力を調整できる。例えば、変速装置を搭載した車両が、渋滞中或いは歩行者と併走する場合において、ギア段の切り換えを行わずに半クラッチ状態で走行することができる。
【0196】
更に、発進時の駆動力を調整できる。例えば、アクセルを踏むことによってエンジンの回転数を先に上げておいた後でクラッチを繋ぐことで急発進できる。
【0197】
また、ウイリーした場合に運転者はとっさにクラッチを切ることができ、ウイリー走行の持続を防止できる。
【0198】
なお、本実施の形態では、運転者の操作によるギア段の切り換えを、シフトスイッチ120で行う構成としたが、運転者がギア段の切替操作を行うことができれば、これに限らず、シフトペダル、シフトレバー、シフトパドルなどによって行うようにしてもよい。また、モード切替スイッチ110も同様に、運転者がモードを切り換える操作を行えるものであれば、どのように構成されてもよく、モード切替用レバー、モード切替用ペダル、モード切替用パドル、モード切替用ボタンなどでもよい。
【0199】
また、本実施の形態では、変速装置100は、複数のクラッチをバイワイヤ式クラッチレバー200によって操作するようにしたが、これに限らずシングルクラッチであってもよい。
【0200】
なお、上記本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、種々の改変をなすことができ、そして本発明が該改変させたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明に係る変速装置は、AT方式或いはAMT方式等、クラッチ操作が自動制御される変速装置において、運転者がクラッチをマニュアル操作して駆動力を調整でき、ドライバビリティの向上を図ることができる効果を有し、クラッチ操作が自動制御される変速装置として有用である。
【符号の説明】
【0202】
10 自動二輪車
70 変速機構
74 第1クラッチ
75 第2クラッチ
77 第1クラッチアクチュエータ
78 第2クラッチアクチュエータ
100 変速装置
110 モード切替用スイッチ
120 シフトスイッチ
130 レバー操作量検出部
140 シフト機構
150 センサ群
160 変速機
200 クラッチレバー
235 第1コイルバネ
236 第2コイルバネ
238 第3コイルバネ
300 制御部
320 変速指令値生成部
322 クラッチトルク容量指令値生成部
324 ギア段指令部
332 クラッチレバー操作反映部
334 クラッチ動作指令部
336 シフト動作指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段変速機のクラッチを断続するクラッチアクチュエータと、
前記多段変速機のシフト段の切り替えを行うシフトアクチュエータと、
前記クラッチアクチュエータ及び前記シフトアクチュエータを制御する制御手段と、
クラッチレバーと、
前記クラッチレバーの操作量を電気信号に変換して前記制御手段に出力するレバー操作量検出手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記クラッチレバーの操作量に基づいて前記クラッチのクラッチトルク容量を調整する動作指令値を決定して前記クラッチアクチュエータへ出力することにより、前記クラッチトルク容量を操作することが可能であり、
前記クラッチレバーにおいて、前記クラッチレバーの操作量に対する操作反力の増加割合は、少なくとも2段階に変化する、
変速装置。
【請求項2】
前記クラッチレバーが操作された際、前記クラッチレバーの所定位置までの操作反力は、該所定位置を越えた以降の操作反力に比べ前記クラッチレバーの操作量に対する増加割合が少なく設定されている、
請求項1記載の変速装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記クラッチレバーの操作量が前記所定位置を越えた範囲において、前記クラッチアクチュエータへ動作指令を出力する、
請求項2記載の変速装置。
【請求項4】
前記操作反力は、付勢力の異なる複数のコイルバネの付勢力が作用することによって生じる、
請求項3記載の変速装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記クラッチレバーの操作量に基づく前記クラッチトルク容量の操作を常時有効にさせる、
請求項3記載の変速装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記レバー操作量検出手段により検出される、前記クラッチレバーの操作範囲を示す信号レンジを学習する、
請求項3記載の変速装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−57404(P2013−57404A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256327(P2012−256327)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2009−266840(P2009−266840)の分割
【原出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】