説明

外傷性急性炎症治療剤

【課題】鎮痛効果に優れ、また血流量抑制効果をもつ外傷性急性炎症の治療に用いうる貼付剤を提供する。
【解決手段】(a)インドメタシン、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上、および(c)ビタミンE類を含むことを特徴とする外傷性急性炎症治療剤。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】
【0002】
本発明は、外傷性急性炎症治療剤に関し、より詳しくは、打撲、腰痛、筋肉痛等の外傷性急性炎症の治療を目的とする外傷性急性炎症治療剤、特に貼付剤に関するものである。
【背景の技術】
【0003】
貼付剤は、整形外科領域で一般に使用される製剤であり、主に腰痛、肩こり、筋肉痛などの炎症性の症状の治療に使用されている。
炎症は、急性炎症と慢性炎症に大別され、急性炎症は初期症状であり、慢性炎症は急性炎症から派生した長期的に持続する炎症症状である。急性炎症の中でも外傷性急性炎症は、外部刺激などにより組織障害が起きているものであり、血管拡張、透過性亢進により、発赤、腫脹などが起きる。典型的には、打撲、筋肉痛、腰痛が例示される。外傷性急性炎症では、外傷による組織障害を抑制することが治療の上で効果的である。その際には、患部の血流を減少させ周囲組織の酸素受容度を下げるなどの手段が必要である。また、その際に生じる痛みについては、鎮痛成分を作用させることにより対処することが、患者のQOLの面で大切である。
【0004】
従来の炎症治療用貼付剤は、密閉状態、すなわち支持体部(基布)と膏体部(薬剤)からなる組成物を患部に貼り付けることにより得られる、物理的な作用により、局所的な血流増加作用のあることが知られており、またビタミンEにも血流増加作用のあることが知られている。これらの炎症治療用貼付剤は、鎮痛効果には優れるものの急性炎症、特に外傷性急性炎症については治療効果を得がたいという問題点があったため、このような症状に対しては液剤やエアゾール剤が汎用されてきた。液剤やエアゾール剤は、一過性の冷却により血流を抑制できるが、有効成分の吸収や持続性が十分でなく、痛みについては満足できるものではなかった。
【0005】
したがって、外傷性急性炎症の治療に用いうる新規な外用剤(経皮吸収剤)、特に貼付剤が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、鎮痛効果に優れ、また血流量抑制効果をもつ外傷性急性炎症の治療に用いうる外傷性急性炎症治療剤、特に貼付剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、有効成分として非ステロイド系抗炎症剤である(a)インドメタシン、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体の1種または2種以上を配合し、さらに(c)ビタミンE類を配合し、含水性の貼付剤に製することにより、貼付剤でありながら血流を抑制でき、さらに有効成分の浸透にも優れたものになることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)(a)インドメタシン、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上、および(c)ビタミンE類を含むことを特徴とする外傷性急性炎症治療剤。
(2)前記外傷性急性炎症治療剤のうち薬剤相当部分の総重量当たり、(a)インドメタシンを0.375〜5.0重量%、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上を0.01〜4.0重量%、(c)ビタミンE類を0.05〜4.0重量%含む、(1)記載の外傷性急性炎症治療剤。
(3)含水性である(1)または(2)記載の外傷性急性炎症治療剤。
(4)貼付剤である(1)−(3)のいずれかに記載の外傷性急性炎症治療剤。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明の治療剤は、有効成分として(a)インドメタシン、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上、および(c)ビタミンE類を含む。
【0010】
インドメタシンは、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)であり、炎症を引き起こすプロスタグランジン(PG)の生合成を抑制する作用をもつ。本成分の配合量は、治療剤(薬剤相当部分)100重量%中に、0.375〜5.0重量%、より好ましくは0.375〜1.0重量%である。
【0011】
グリチルレチン酸は、カンゾウの根から抽出されるグリチルリチン酸から得られ、両成分ともに同様の抗炎症・抗アレルギー作用を示す成分である。グリチルレチン酸・グリチルリチン酸の誘導体には、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルレチン酸ステアリルなどが含まれるが、これに限定されない。グリチルレチン酸・グリチルリチン酸の効能としては、皮膚の炎症緩和、ニキビなど皮脂の分泌抑制、消炎効果に優れることが知られている。治療剤中のグリチルレチン酸・グリチルリチン酸またはその誘導体は、1種または2種以上を組み合わせても良く、その配合量は、薬剤相当部分に対して0.01〜4.0重量部、好ましくは0.025〜2.0重量%である。
【0012】
ビタミンE類は、穀物、緑葉植物、海藻類、野菜、植物油、魚類、肉類など自然界に広く分布しており、ビタミンE同族体として自然界に存在するものには、トコフェロール4種とトコトリエノール4種の合計8種類が知られている。本発明で使用するビタミンE類にはこれら天然の同族体および合成で得られるものを含む。例えば、d−α−トコフェロール、d−β−トコフェロール、d−γ−トコフェロール、d−σ−トコフェロール、d−α−トコトリエノール、d−β−トコトリエノール、d−γ−トコトリエノール、d−σ−トコトリエノール、酢酸d−α−トコフェロール、コハク酸d−α−トコフェロール、dl−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロールカルシウム、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、(リノール酸/オレイン酸)dl−α−トコフェロールなどが知られている。化学名では天然のビタミンEはd体、合成のビタミンEはdl体となる。ビタミンEの生理作用は、抗酸化作用や生体膜安定化作用の他に、血流量増加効果や経皮吸収促進効果が知られている。ビタミンE類は、1種または2種以上を組み合わせても良く、その配合量は、治療剤(薬剤相当部分)100重量%中に、0.05〜4.0重量%、好ましくは0.1〜2.0重量%である。
【0013】
本発明の治療剤については、必要に応じて水及び/又は水溶性高分子を配合することができる。水溶性高分子としては従来公知のものを配合することができ、例えばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその部分中和物、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、寒天、ゼラチン、アルギン酸及びその塩、カラギーナン、ガム類などが挙げられる。水及び/又は水溶性高分子の配合量は治療剤(薬剤相当部分)全体に対し、水0〜98重量%、好ましくは5〜85重量%、水溶性高分子は0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%である。
【0014】
本発明の治療剤は貼付剤として製することができる。その場合、支持体(基布)としては、従来公知のものを使用することができ、例えば天然ゴム;イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンエラストマー等の合成ゴム;スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル;ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の熱可塑性合成樹脂;合成繊維から構成される布帛(不織布、織物、編物);天然繊維から構成される布帛(不織布、織物、編物);金属フォイルなどが挙げられる。
【0015】
貼付剤はパップ剤であってもプラスター剤であってもよい。パップ剤は水溶性高分子を主たる基剤成分とし、水分配合量が多く厚みがある。一方、プラスター剤は脂溶性高分子を主たる基剤成分としており、基剤の塗布量が少なく、薄いという特徴を有する。患部を冷やし、血流を抑制する観点からはパップ剤とすることが好ましい。
【0016】
さらに本発明の外傷性急性炎症治療剤は、貼付剤に限定されない。上記(a)から(c)の3つの成分を含むものであれば、種々の経皮吸収型の製剤に製することも可能である。
【0017】
本願において、「外傷性急性炎症治療剤」とは、外傷性急性炎症およびこれに起因する組織障害等を治療することを目的とする経皮吸収型医薬製剤である。具体的には、打撲、腰痛、筋肉痛、捻挫等の治療を目的とするパップ剤、プラスター剤等の貼付剤;液剤、ローション剤などの液状製剤;スティック剤などの固形塗布剤;クリーム剤、ゲル剤、油性軟膏剤等の軟膏剤等に製された医薬外用製剤である。また、本願において「外傷性急性炎症治療剤のうち薬剤相当部分」とは、各種剤型に製されたもののうち、正味の薬剤部分であり、具体的には、軟膏剤、液状薬剤、ローション剤であれば、容器を除いた内容物のみを指し、貼付剤であれば支持体部(基布)を除いた膏体部のみを指す。
【0018】
これら製剤に製する為に基剤を適当量配合することができる。例えば、以下に限られるものではないが、パラフィン、ワセリン、スクワラン、パラフィン、白ロウ、プラスチベース、ポリエチレングリコール、マクロゴール、ラウロマクロゴール、シリコン油、シリコン、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ヤシ油などの油系基剤;セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール;脂肪酸エステル(ミリスチン酸イソプロピル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、高級脂肪酸塩型乳化剤、高度精製卵黄レシチン、大豆レシチン、精製大豆レシチン、サラシミツロウ、プロピレンカーボネート、卵黄リン脂質、卵黄油、ヤシ油脂肪酸、ラウリル硫酸ナトリウム、その他イオン性、非イオン性界面活性剤などの乳化剤;リン酸、酢酸、塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤、カオリン、酸化チタン、タルク、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、デンプン類などの粉末成分などが挙げられる。
【0019】
また、本発明の治療剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品などに一般的に用いられる各種成分、水性成分、油性成分、保湿成分、賦形剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤、担体、香料、色剤、薬剤等を単独又は2種以上を混合し各種剤型に調製することもできる。また、本発明の外傷性急性炎症性治療剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で、公知の局所麻酔剤、消炎剤、保湿剤、殺菌剤、生薬、生薬エキス等を含んでもよく、例えば、リドカイン、ジブカイン、塩酸ジブカイン、ジフェンヒドラミン、アミノ安息香酸エチル、デシットテシチン等の局所麻酔剤;マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、アラントイン、サリチル酸メチル、サリチル酸、サリチル酸グリコール、フェルビナク、ジクロフェナク、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ピロキシカム等の消炎剤;l−メントール、dl−メントール、カンフル、dl−カンフル、乳酸メンチル、ハッカ油等の清涼化剤;尿素、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;イソプロピルメチルフェノール、第四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)、塩酸クロルヘキシジン、スルファジアジン等の殺菌剤、ボウイ、ショウキョウ、ジオウ、センキュウ、ソウハクヒ、トウキ、ブクリョウ、ヨクイニン、サンシシ、ベラドンナ、セイヨウトチノミ、サンショウ、モクテンリュウ、カンキョウ等の生薬及び/またはそのエキスなどが挙げられる。
【0020】
後述する試験例に記載するように、3つの成分を含む実施例の治療剤は、インドメタシンのみを含む比較例よりも血流量抑制効果を示した。また、実施例の治療剤は、比較例よりもインドメタシンの浸透力に貼付剤が優れていた。さらに、実施例の貼付剤は打撲、筋肉痛、腰痛で特に治療効果が高いことが判明した。
【0021】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0022】
試験例1:患部の血流量抑制効果測定試験
(1)試験方法
(1−1)検体の調製
表1に示す有効成分を含む貼付剤(実施例1−3および比較例1−4)を調製した。インドメタシン、グリチルレチン酸、酢酸トコフェロール及びAを処方のとおり取り、加温溶解する。別にBを処方の通り混合する。更にCの成分のうち精製水を一部とり、ポリビニルアルコールを混合する。以上できたものと水残部を攪拌混合して水系を製する。別にDを処方の通りとり、攪拌してグリセリン系を製する。水系及びグリセリン系を練合し、均一になったものを支持体(不織布)に展延、裁断して製した。
(1−2)血流量測定試験
検体貼付直前の健常者の検体貼付予定部位(上腕内側に定めた4.0cm四方の皮膚)の紅斑度を機械(携帯型メラニン・紅斑測定装置MSC100)で測定した。その後、検体を貼付予定部位に貼付し、24時間後に除去した。除去後3分以内に貼付部位中の3点で紅斑度を機械で測定した。貼付前に対する貼付後の紅斑度を算出した後、被験者8名の平均値をそれぞれ算出し、貼付前に対する貼付後の紅斑度が+10%未満の場合を「○」、+10%以上の場合を「×」とする。
(2)結果
得られた結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から明らかなように、実施例1−3はいずれも血流量抑制効果が観察された。
試験例2:浸透力および治療効果試験
実施例1および比較例1の貼付剤を用いて、以下の試験を行った。
(1)試験方法
(1−1)浸透力試験
ヘアレスマウス皮膚を用いた皮膚透過性試験の結果、貼付6時間後のインドメタシン累積透過量がインドメタシン全量の0.4%以上の場合を「○」、0.4%未満を「×」とする。
(1−2)治療効果試験
各症状のモニター者に1日6時間貼付を3日間行い、症状の改善度を1〜5点の5段階評価(最高5点)をしてもらう。各症状についてモニター者の平均点数が3点未満を「×」、3点以上4点未満を「△」、4点以上を「○」とする。
(2)結果
得られた結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から明らかなように、抗炎症効果の主成分であるインドメタシンの浸透力は実施例1の貼付剤が優れていた。
また、実施例1の貼付剤は打撲、筋肉痛、腰痛で特に治療効果が高かった。
【0027】
以下に処方例を示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)インドメタシン、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上、および(c)ビタミンE類を含むことを特徴とする外傷性急性炎症治療剤。
【請求項2】
前記外傷性急性炎症治療剤のうち薬剤相当部分の総重量当たり、(a)インドメタシンを0.375〜5.0重量%、(b)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はそれらの誘導体から選ばれる1種または2種以上を0.01〜4.0重量%、(c)ビタミンE類を0.05〜4.0重量%含む、請求項1記載の外傷性急性炎症治療剤。
【請求項3】
含水性である請求項1または2記載の外傷性急性炎症治療剤。
【請求項4】
貼付剤である請求項1−3のいずれかに記載の外傷性急性炎症治療剤。

【公開番号】特開2008−94793(P2008−94793A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280750(P2006−280750)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(391031247)東光薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】