説明

外分泌腺の機能障害改善剤及び機能障害改善用飲食物

【課題】外分泌腺の機能に関与する諸症状の治療、改善又は予防に有効であって、経口形態で提供しうる製剤及び飲食物を提供する。
【解決手段】アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する、外分泌腺の機能障害改善剤及び飲食物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外分泌腺の機能障害による体液の減少に伴う諸症状、例えば、ドライアイ、ドライマウス等を治療、改善又は予防するための外分泌腺の機能障害改善剤及び機能障害改善用飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、乾燥眼又は眼乾燥症ともいわれ、涙液の量的及び/又は質的な異常により、眼球の表面、すなわち角結膜に障害が起こる疾患である。近年のOA化に伴うVDT作業(ビデオ画面端末作業)の急増や、冷暖房等による室内環境の乾燥が原因とされるドライアイが増加している。また、シェーグレン症候群のような自己免疫異常、乾性角結膜炎、スティーブン−ジェンソン症候群、眼瞼縁炎症等の疾患によるドライアイもある。ドライアイ患者は、潜在患者を含め、我が国では800万人以上いるといわれ、ドライアイの増加は社会問題にもなっている。
【0003】
また、近年、ドライマウスと呼ばれる口腔乾燥症の患者も増えている。ドライマウスの患者は、唾液量の減少により、咀嚼、嚥下が困難になったり、発音が難しいという症状の他、虫歯になったりしやすいという症状を起こすことがある。ドライマウスは、高血圧、シェーグレン症候群、糖尿病、唾液腺炎等のほか、薬物の副作用でも生じる。
【0004】
これらドライアイ、ドライマウス等を引き起こす外分泌腺の機能障害について、その原因が病的異常にある場合は、まずは原因疾患の治療や環境改善を行う必要があるが、例えば、ドライアイの対策として点眼剤が一般的によく知られている。
【0005】
アスタキサンチンは、カロテノイド色素の一種であり、毛様体疲労、視神経の疲労等による水晶体の厚さ調節機能不全を改善すること(特許文献1参照)、網膜損傷又は網膜疾患の治療に用いる方法(特許文献2参照)が報告されている。また、アスタキサンチン及び/又はその食用に許容されるエステルを添加してなる、白内障を予防する作用又はその進行を抑制する作用を有する飲食物が白内障の発症又は進行を抑制し、白内障による視力障害とともに併発する単眼複眼、眼精疲労、ハレーションをも抑制し得ること(特許文献3参照)、暗所での視覚性能改善作用(特許文献4参照)等も報告されている。しかしながら、アスタキサンチン又はそのエステルが、外分泌腺の機能障害改善に作用することは知られていない。
【特許文献1】特許第3778509号公報
【特許文献2】米国特許第5527533号明細書
【特許文献3】特開平10−276721号公報
【特許文献4】特表2005−516049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ドライアイ対策として、従来より点眼剤が用いられているが、点眼剤の使用は手間がかかり嫌う人が多く、また点眼剤に含まれている防腐剤の人体への悪影響も指摘されている。また、外分泌腺からの体液の分泌減少に対して、体液の代替として点眼剤や水分の経口摂取が採り入れられることがあるが、これは対症療法に過ぎない。したがって、本発明は、外分泌腺の機能に関与する諸症状の治療、改善又は予防に有効であって、経口形態で提供しうる製剤及び飲食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、外分泌腺の機能に関与する諸症状に有効であって、かつ安全性に優れた化合物を鋭意探索した結果、アスタキサンチン及びそのエステルが、外分泌腺の分泌能の障害を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する、外分泌腺の機能障害改善剤、
(2)前記外分泌腺が涙腺及び/又は唾液腺である、前記(1)に記載の外分泌腺の機能障害改善剤、
(3)アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する、外分泌腺の機能障害改善用飲食物、
(4)前記外分泌腺が涙腺及び/又は唾液腺である、前記(3)に記載の外分泌腺の機能障害改善用飲食物、
(5)機能性食品である、前記(4)に記載の外分泌腺の機能障害改善用飲食物、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する外分泌腺の機能障害改善剤及び機能障害改善用飲食物は、外分泌腺の分泌能の低下を改善する優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する外分泌腺の機能障害改善剤である。本発明において有効成分として用いるアスタキサンチン及びそのエステルは、天然物由来のものであっても、化学合成品であってもよく、これらを単独もしくは適宜混合して用いることができる。
【0011】
天然物由来のものとしては、甲殻類の甲殻及び卵[Kuhnら、Angew. Chem., 51, 465 (1938)又はBer., 71, 1879 (1938)]、臓器[Kuhnら、Ber., 72, 1879 (1939)]、福寿草や金鳳花の花弁[Seyboldら、Nature, 184, 1714 (1959)]、種々の魚介類の皮(Matsuno、Carotenoids Chemistry and Biology, Plenum Press, 59 頁, 1989) 、卵[Mikiら、Comp.Biochem. Physiol., 71B, 7 (1982)]、ナンキョクオキアミ[Yamaguchiら、Bull. Japan. Soc. Sci. Fish., 49, 1411 (1983)、緑藻ヘマトコッカス[Renstroem ら、Phytochemistry, 20, 2561 (1981)]、赤色酵母ファフィア[Andrewesら、Phytochemistry, 15, 1003 (1976)]、海洋性細菌Agrobacterium aurantiacum [Yokoyamaら、Biosci, Biotech. Biochem., 58, 1842 (1994)]由来のものが知られている。天然物由来のものを用いる場合は、これらからの抽出物又は粗抽出エキスを用いることができる。例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌等を適当な培地で培養し、その培養物から抽出したもの、あるいはナンキョクオキアミ等から抽出したもの等を挙げることができる。これらの抽出物は、有機溶媒、好ましくはエタノールやアセトンを用いて抽出された抽出エキスの状態であっても良く、またこの抽出エキスを必要に応じて適宜精製したものであってもよい。
【0012】
また、アスタキサンチンは、その化学構造が決定され[Andrewesら、Acta Chem. Scand., B28, 730(1974)]、有機合成法も確立しているところから[Widmerら、Helv.Chem. Acta, 64, 2405 (1981)およびMayerら、Helv. Chem. Acta, 64, 2405 (1981)]、化学合成品としても入手容易である。
【0013】
参考のため、以下に赤色酵母ファフィア(Phaffia rhodozyma)を適当な培地で培養し、その培養物から抽出エキスを得る方法、及びアスタキサンチン及び/又はそのエステルを精製する方法を例示する。
【0014】
赤色酵母ファフィア(Phaffia rhodozyma)を用いて、アスタキサンチン及びそのエステルを製造する際に使用される培地は、液体及び固体のいずれでもよいが、通常は液体培地による振とう培養または通気撹袢培養が有効である。培地は赤色酵母が生育して菌体内にアスタキサンチン及び/又はそのエステルを蓄積するものであればよい。すなわち、炭素源としては、例えばグルコース、ラクトースなどの糖類、グリセリン、デンプン、有機酸類などが、また窒素源としては、例えばペプトン、カザミノ酸などのタンパク質加水分解物、肉エキス、酵母エキス、大豆粕、アミノ酸類、アンモニウム塩、硝酸塩その他の各種窒素化合物が用いられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、塩化ナトリウムを添加しても良く、また、菌体の生育促進のため各種ビタミン類、ミネラル類、核酸関連化合物などの添加も可能である。
【0015】
培養にあたっては、直接本培養を行わず、予め小規模な前培養を行って得られる培養物を本培養用培地に接種するのが望ましい。培養時の温度、期間、液性などはアスタキサンチン及び/又はそのエステルの蓄積量が最大になるように適宜選択、調節されるのが好ましいが、多くの場合、好気条件下で約15℃〜約30℃、3〜7日の培養でよく、また培地の液性はpH4.0〜9.5に保つのがよい。
【0016】
かかる培養により、菌体内にアスタキサンチン及び/又はそのエステルが生産、蓄積される。したがって液体培地を用いた場合、培養物を一旦濾過あるいは遠心分離して菌体を回収後、数度水で洗浄する。この様にして得られた菌体を物理的手法を用いて破砕した後乾燥する。乾燥菌体より目的化合物の分離、精製はアスタキサンチン及び/又はそのエステルの化学的特性に基づいて種々の手法が選択可能である。すなわち、各種の高極性有機溶媒による抽出や溶解が選択されるが、好ましくはエタノール又はアセトンを用いた菌体抽出である。溶媒量は通常乾燥菌体に対して3〜5倍量が好ましく、室温にて数時間の攪拌による抽出を2〜3回繰り返せば充分である。次いでこの抽出液を合一し、40℃以下で減圧濃縮するとアスタキサンチン及び/又はそのエステルを含む油状の粗抽出エキスが得られる。本抽出エキスに含有されるアスタキサンチン及び/又はそのエステルは用いる溶媒等の諸条件によって変動するが、通常1〜10%程度である。
【0017】
さらにこの粗抽出エキスからヘキサンなどの低極性有機溶媒を用いた不純物の除去、ゲル濾過、各種イオン交換体を用いたイオン交換クロマトグラフィー、シリカゲル、シアノプロピル、アルミナなどを担体とする吸着クロマトグラフィーなどを有効に用いて精製を行い、これらの手段の組み合わせによりアスタキサンチン及び/又はそのエステルは単離される。ただし、これら以外の方法でもアスタキサンチン及び/又はそのエステルの特性を有効に利用できるものであれば適宜利用可能である。
【0018】
また、アスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有するオキアミ抽出物を得る方法として、特開昭60−4558号公報には、オキアミの生体またはそれらの乾燥体を、アセトン、n−ヘキサン、酢酸エチル等の有機溶剤で浸漬し、色素を溶出した溶剤抽出液について、そのpHを中性にした後、リパーゼあるいはアルカリを添加して脂肪酸その他の夾雑物を分解し、これを超臨界ガス抽出あるいは分子蒸留し、または希アルカリを用いて洗浄することを特徴とする黄色〜赤橙色素アスタキサンチンの製造方法が開示されている。また、特開昭61−281159号公報には、オキアミの乾燥体から、アセトン、n−ヘキサン等の有機溶剤で抽出された粗色素液について、色素以外の不飽和脂質を触媒で選択的に水素添加した後、リパーゼを添加して脂質を加水分解し、遊離した脂肪酸を尿素付加及び/又は分子蒸留で除去し、必要であればさらにカラムクロマトグラフィーにより濃縮、精製することを特徴とする橙色色素アスタキサンチンの製造方法が開示されている。さらに、山下栄次:食品と開発 vol.27 No.3 (通巻409号) p38〜40 (1992)には、オキアミの有機溶剤抽出物または超臨界抽出物について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行うことによって、アスタキサンチンジエステル、モノエステル及び遊離のアスタキサンチンを分離できること、特開平5−155736号公報には、HPLCを行うことによってトリグリセリドや極性脂質などを除去でき、色素濃度を飛躍的に上げることができ、また海産物特有の臭いの元となる物質も除去されること、そしてカラムに充填する固定相となる吸着剤は例えばシリカゲル、ケイ酸、活性アルミナなどがあり、移動相となる低極性溶剤としては例えばn−ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテルなどがあり、極性溶剤としては例えばアセトン、酢酸エチル、メタノールなどがあり、色素の精製には、まずn−ヘキサンでトリグリセリドなどの低極性脂質を溶出させ、次にn−ヘキサン中のアセトンの含有を増す(アセトン含量は約0.1〜20%アセトン/n−ヘキサンの範囲)ことにより色素を溶出回収することが記載されている。本発明においては、いずれの方法により抽出したアスタキサンチン及びそのエステルをも用いることができる。
【0019】
本発明に用いるアスタキサンチンのエステルは、食用あるいは医薬用として許容される任意の脂肪酸とのエステルであり、例えばパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、あるいはオレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸のエステルが挙げられ、これらがアスタキサンチンに1つ結合したモノエステル及び2つ結合したジエステルのいずれも本発明に使用することができる。
【0020】
アスタキサンチン及びそのエステルは突然変異原性が観察されず、安全性が高い化合物であることが知られている。
【0021】
本発明に係る外分泌腺の機能障害改善剤とは、外分泌腺の機能低下を含む機能障害を治療、改善又は予防する作用を有する物質、または組成物をいい、外分泌腺の機能障害に伴う諸症状の治療、改善又は予防に寄与する。本発明に係る外分泌腺の機能障害改善剤は、外分泌腺からの体液の分泌促進、外分泌腺の賦活化に作用しうる。本発明の外分泌腺の機能障害改善剤が対象とする外分泌腺としては、涙腺、唾液腺、耳下腺、顎下腺、舌下腺、口腔内小唾液腺(口唇腺、舌腺、口蓋腺、頬腺)、マイボーム腺、膵臓β細胞が挙げられる。
【0022】
上記外分泌腺の機能障害に伴う症状の一つであるドライアイとして、涙液減少症、眼乾燥症、乏涙症等のドライアイ、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブン−ジェンソン症候群、眼瞼縁炎症、眼類天疱瘡、眼瞼縁炎、アレルギー性結膜炎に伴うドライアイが挙げられる。本発明に係る外分泌腺の機能障害改善剤は、ドライアイ以外にも、いわゆる疲れ目やかゆみ眼といわれる症状を、涙液分泌増加によって緩和させる目的や術後の眼を保護する目的などにも広く使用可能である。
【0023】
さらに、上記外分泌腺の機能障害に伴う症状の一つであるドライマウスとして、シェーグレン症候群、高血圧症、糖尿病、放射線治療の弊害、腎疾患、高齢者の唾液腺萎縮、唾液腺炎、唾液腺関連の中枢・神経系統の障害による口内乾燥症、薬物の副作用や、女性の閉経期における唾液の一時的な口内乾燥症を挙げることができる。
【0024】
ドライアイ、ドライマウス等の症状について、多くの場合、その発症メカニズムは特定されておらず、また特定することが困難である。本発明の外分泌腺の機能障害改善剤は、ドライアイ、ドライマウス等の症状に対して、その発症メカニズムにかかわらず有効に作用しうる。
【0025】
本発明に係る外分泌腺の機能障害改善剤は、医薬品または食品の形態で提供しうる。天然物由来のアスタキサンチンを含有する場合、上記の粗抽出エキスあるいは精製品のいずれを使用することもできる。これらを使用する場合、アスタキサンチンおよびそのエステルの性状は油状であるところから、常法にしたがって有効成分を浮剤化あるいはシナジストとなるような化合物を加えて浮剤化して用いることができる。
【0026】
本発明において医薬品または食品を製造するに際して、アスタキサンチンあるいは粗抽出エキスはエタノールに溶解し、そのまま水で希釈して使用することも可能であるが、必要に応じて乳液状製剤を調製しこれを使用することができる。乳液状製剤の調製にあたっては、水相部に没食子酸、L-アスコルビン酸(あるいはそのエステル又は塩)、ガム質(例えばローカストビーンガム、アラビアガム又はゼラチン等)、さらにビタミンP(例えばヘスペリジン、ルチン、ケルセチン、カテキン、チアニジン等のフラボノイド類、ポリフェノール類又はその混合物)等を、また油相部にはアスタキサンチンあるいはそのエステル、粗抽出エキス、又はその混合物を添加し、さらにグリセロール、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン又は油脂、例えばナタネ油、大豆油、コーン油等通常の液状油を加えて乳化することによって容易に調製できる。乳化に際しては、高速撹袢機、ホモジナイザー等を用いて混合乳化が可能である。
【0027】
本発明の外分泌腺の機能障害改善剤を医薬品として用いる場合、かかる医薬品は経口投与が都合良く行われる剤形のものが好ましい。本発明に係る医薬品の剤形としては、例えばカプセル剤、錠剤、散剤又は顆粒剤等の固形製剤、内服用剤又はシロップ剤等の液体製剤が挙げられる。
【0028】
本発明に係る医薬品においては、製剤の剤形に応じて主薬としてのアスタキサンチン及び/又はそのエステルに、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、安定化剤、溶解剤などの薬学的に許容される任意の添加剤を添加することができる。より具体的には、本発明に係る医薬品が固形製剤の場合には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、本発明にかかる医薬品が液体製剤の場合には、例えば、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの添加剤を製剤中に含有させることができる。また、液体製剤の場合、本発明に係る医薬品は有効成分であるアスタキサンチン及び/又はそのエステルを用時溶解させる形態の製剤であってもよい。
【0029】
本発明に係る医薬品中に含まれるアスタキサンチン及び/又はそのエステル(有効成分)の割合は特に制限されないが、通常、製剤100重量部中に、0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部の割合で含まれるように調製する。なお、本発明に係る医薬品は、製薬学的に許容される方法に従って容易に製造することができる。
【0030】
また、本発明に係る医薬品の投与量は、投与経路、剤形、患者の症状の程度、年齢、体重によって異なるが、例えば、1カプセル剤当たり約5〜200mg程度の有効成分を含有する製剤を調製し、患者に合わせて、該カプセル剤を1日当たり、1〜10カプセル程度、好ましくは1〜6カプセル程度を数回に分けて投与することができる。
【0031】
本発明の外分泌腺の機能障害改善剤を飲食品として用いる場合には、その形態は限定されない。アスタキサンチン及び/又はそのエステルを含有する本発明に係る飲食品としては、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、キャンデー、チョコレート、チューインガム、和菓子などの菓子類;パン、麺類、ごはん、豆腐もしくはその加工品、;清酒、薬用酒などの発酵食品;みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングなどの調味料;ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品;かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品;果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、ゼリー状飲料、アルコール飲料、茶、コーヒー、ココアなどの飲料等の形態が挙げられる。
【0032】
本発明の飲食物は、アスタキサンチン及び/又はそのエステル、もしくはこれらを含有する天然物から得られたものを、一般食品の原料とともに配合し、通常の方法により加工製造することができる。その配合濃度は剤形、飲食品の形態性状により異なるり特に限定されるものではないが、一般には0.001〜10重量%が好ましい。
【0033】
本発明の飲食物を栄養補助食品あるいは機能性食品として用いる場合、その形態は、上記医薬品と同様の形態でもよいが、例えば蛋白質(蛋白質源としてはアミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン等の蛋白質が最も広く使用されるが、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物等の他、アミノ酸単体の混合物も使用される)、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等が配合された自然流動食、半消化態栄養食および成分栄養食や、ドリンク剤、カプセル剤等の加工形態であってもよい。スポーツドリンクあるいは栄養ドリンクとして提供する場合は、栄養バランスを整え、かつ摂取時の風味を一層よくするため、易消化性の含水炭素、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類等の栄養的添加物や甘味料、香辛料、香料、色素等を配合することもできる。
【0034】
本発明の栄養補助食品あるいは機能性食品の形態は、これらに限定されるものではなく、上記の一般の飲食品の形態であってもよいが、できれば単位服用形態にあることが望ましい。
【0035】
本発明に係る飲食品は、ドライアイ、ドライマウス等の外分泌腺の機能障害に伴う諸症状を認識したときに摂取してもよい。また、外分泌腺の機能障害に伴う諸症状を予防、改善又は軽減するために常用してもよい。
【0036】
本発明に係る飲食品の摂取量は、摂取する人の症状の程度、年齢、体重等によって異なるが、例えば、成人に対する1回の摂取量を、本発明に係るアスタキサンチン及び/又はそのエステルの有効成分の総量として約1〜1000mg程度、好ましくは約5〜500mg程度とすることができる。これを1日数回程度摂取するのが良好である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
マウス頭頸部に放射線照射することにより涙液及び唾液分泌能が低下することが既に報告されている。以下において、この外分泌腺障害モデルマウスを用いて、アスタキサンチンの外分泌腺機能障害改善効果をin vivoで検討した。
【0039】
実験動物及び飼育条件
実験動物はC57BL/6マウスをコントロール食群及びアスタキサンチン食群それぞれ5匹ずつ用いた。2週間の予備飼育後、15Gyの放射線を頭頸部に照射し、さらに4週間飼育した。放射線照射前後の飼育条件は、調製した飼料及び水を自由摂取とし、室温23±1度、RH50±5%、12時間の明暗サイクルとした。
【0040】
被験飼料
「コントロール食」用として標準飼料(オリエンタル酵母社製AIN−93G)を用い、「アスタキサンチン食」用として上記の標準飼料に0.2重量%のアスタキサンチン5%含有オイル(富士化学工業社製アスタリールオイル50F)を配合させたものを用いた。飼料は自由摂取で1匹あたり5g/日与えた。したがって、「アスタキサンチン食」投与群には、アスタキサンチンの投与量は0.5mg/匹/日(22.7mg/kg/日)のアスタキサンチンを投与したことになる。
【0041】
外分泌腺の機能障害改善作用の観察
各群のマウスについて、唾液量と涙液量を測定した。唾液量について、放射線照射直前と、照射1、2、4週間後に測定した結果を図1に示し、涙液量について、放射線照射直前と、照射1、2週間後に測定した結果を図2に示す。唾液分泌量は、麻酔(xylazine+ketamine)下、pilocarpine を腹腔内投与(1mg/kg)し投与直後から15分間、1分ごとにキャピラリー(10μL)にて唾液を回収することにより測定し、体重(g)当りの15分間のtotal量(μL)で表示した。涙液分泌量は、麻酔(xylazine+ketamine)下、pilocarpine を腹腔内投与(5mg/kg)し、投与直後から15分間、1分ごとに左眼の目頭に綿糸(ゾーンクイック)を差し入れ、涙液が浸透した長さを測定することにより測定し、体重(g)当りの15分間のtotalの長さ(mm)で表示した。
【0042】
図1に見られるとおり、唾液の分泌量について、アスタキサンチン食群のマウスは、コントロール食群のマウスに比べ、放射線照射による低下が抑制された。さらに、t検定の結果、照射1週間後及び4週間後において、アスタキサンチン食群のマウスは、コントロール食群のマウスに比べ、放射線照射による低下が有意に抑制されていることが確認された。また、図2に見られるとおり、涙液の分泌量について、アスタキサンチン食群のマウスは、コントロール食群のマウスに比べ、放射線照射による低下が抑制された。
【0043】
(製剤例1:錠剤)
下記成分を下記組成比で均一に混合し、1粒180mgの錠剤とした。
【0044】
アスタキサンチン 5重量%
乳糖 75重量%
重質酸化マグネシウム 20重量%
合計 100重量%
(製剤例2:ソフトカプセル剤)
ソフトカプセル剤の下記成分からなる殻材の中にヘマトコッカス抽出オイル(アスタキサンチンを10重量%含有)を常法により充填し、1粒内容量100mgのソフトカプセル剤を得た。
【0045】
ゼラチン 70重量%
グリセリン 23重量%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.5重量%
水 残部
合計 100重量%
(製剤例3:カプセル剤)
製剤例2のソフトカプセル剤の殻材の中にヘマトコッカス抽出オイル50mg(アスタキサンチンを5重量%含有)と中鎖脂肪酸(アクターM-1)150mgを常法により充填し、1粒内容量200mgのソフトカプセル剤を得た。
【0046】
(製剤例4:ドリンク剤)
下記成分を下記重量配合し、常法に従って、水を加えてドリンク剤を調製した。
【0047】
アスタキサンチン 5g
液糖 4kg
DL−酒石酸ナトリウム 1g
クエン酸 50g
ビタミンC 50g
ビタミンE 150g
シクロデキストリン 25g
塩化カリウム 5g
硫酸マグネシウム 2g
(製剤例5:滋養強壮強精剤)
下記成分を下記重量配合し、常法に従って、水を加えて液剤を調製した。
【0048】
アスタキサンチンエチルエステル5g
液糖 4kg
DL−酒石酸ナトリウム 1g
クエン酸 50g
ビタミンB1 10g
ビタミンB2 10g
ビタミンB6 10g
ビタミンB12 10g
ビタミンC 50g
ビタミンE 150g
葉酸 5g
ニコチン酸 10g
シクロデキストリン 25g
塩化カリウム 5g
硫酸マグネシウム 2g
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の外分泌腺の機能障害改善剤は、外分泌腺の機能障害を治療、改善又は予防する作用を有するので、ドライアイ、ドライマウスをはじめとする外分泌腺の機能に関与する諸症状の治療、改善又は予防に有用である。また、本発明に用いられるアスタキサンチン及びそのエステルは、元来天然に存在する物質であり食経験もあることから、低毒性で安全性も高いことが容易に考えられ、飲食物及び医薬品の素材としての意義も大きく、したがって本発明は、新たな飲食品、機能性食品及び医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】放射線を照射して腺組織に障害を与えた場合における、唾液分泌量を示す。
【図2】放射線を照射して腺組織に障害を与えた場合における、涙液分泌量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する、外分泌腺の機能障害改善剤。
【請求項2】
前記外分泌腺が涙腺及び/又は唾液腺である、請求項1に記載の外分泌腺の機能障害改善剤。
【請求項3】
アスタキサンチン及び/又はそのエステルを有効成分として含有する、外分泌腺の機能障害改善用飲食物。
【請求項4】
前記外分泌腺が涙腺及び/又は唾液腺である、請求項3に記載の外分泌腺の機能障害改善用飲食物。
【請求項5】
機能性食品である、請求項4に記載の外分泌腺の機能障害改善用飲食物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127303(P2008−127303A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312183(P2006−312183)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(505055985)学校法人 総持学園 鶴見大学 (2)
【Fターム(参考)】