説明

外断熱工法および外断熱コンクリート壁

【課題】型枠兼用断熱材として炭酸カルシウム系発泡板を用いる外断熱工法を、より低いコストで、かつより容易に施工できるようにする。
【解決手段】複数枚の型枠兼用断熱パネルが屋外側となるようにして型枠20を形成し、形成した型枠内にコンクリート31を流し込み、流し込んだコンクリートを硬化させて型枠兼用断熱パネルと一体となったコンクリート壁を構築する外断熱工法において、型枠兼用断熱パネルとして、補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板10をそのままで用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠兼用断熱パネルと一体となった外断熱コンクリート壁を構築するための外断熱工法および外断熱コンクリート壁に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の省エネルギー化の一手段として、コンクリート壁の屋外側に断熱板を貼り付けて外断熱コンクリート壁とすることが行われる。断熱板として、断熱性、耐湿性の面から発泡ポリスチレンのような合成樹脂発泡体や炭酸カルシウム系発泡板が用いられる。また、施工を簡略化するために、断熱板の一方の面に合板のような面材や桟木を取り付けた型枠兼用断熱パネルを用いる外断熱工法も採用されている。
【0003】
特許文献1には、型枠兼用断熱板として炭酸カルシウム系発泡板を用いる外断熱工法が記載されており、その外断熱工法では、コンクリート壁を構築する際に、補強リブで補強された炭酸カルシウム系発泡板を屋外側の堰板として型枠を形成し、この型枠内にコンクリートを打設した後に、炭酸カルシウム系発泡板を型バラシすることなくその表面にモルタルまたはモルタルを介したタイルなどの仕上材を固着するようにしている。また、前記補強リブとして硬質木毛セメントからなる補強リブを用いるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3785134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外断熱用の型枠兼用断熱板として炭酸カルシウム系発泡板を用いる場合、従来から、炭酸カルシウム系発泡板を補強リブで補強することは当然のことと解されており、特許文献1に記載の外断熱工法でも、補強リブとして硬質木毛セメントからなる補強リブを用いるようにしている。しかし、炭酸カルシウム系発泡板に補強リブを取り付けるには困難な作業を必要とし、また補強リブを取り付けた分だけ断熱板としての炭酸カルシウム系発泡板は重くなるので、型枠形成時に重機等による機械的補助が必要となる。そのようなことから、従来の外断熱工法は、コストも高く、また必ずしも容易な施工法とはいえない面があった。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、型枠兼用断熱材として炭酸カルシウム系発泡板を用いる外断熱工法を、より低いコストで、かつより容易に施工できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく型枠兼用断熱材として炭酸カルシウム系発泡板を用いる外断熱工法について、多くの実験を反復して行うことにより、炭酸カルシウム系発泡板は面圧に対して高い耐性を有しており、従来補強リブを取り付けて用いていた炭酸カルシウム系発泡板と同じ面積と厚さの炭酸カルシウム系発泡板を、補強リブを取り付けることなく型枠兼用断熱材として用いても、外断熱用の型枠兼用断熱板として十分に実用に耐え得る強度を備えていることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者らが実験をとおして得た上記の知見に基づいてなされたものであり、本発明による外断熱工法は、コンクリート壁を構築するに際し、複数枚の型枠兼用断熱パネルが屋外側となるようにして型枠を形成し、形成した型枠内にコンクリートを流し込み、流し込んだコンクリートを硬化させて型枠兼用断熱パネルと一体となったコンクリート壁を構築する外断熱工法において、前記型枠兼用断熱パネルとして、補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板を用いることを特徴とする。
【0009】
本発明による施工方法では、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板、すなわち市販されている炭酸カルシウム系発泡板をそのままの形で用いることができるので、従来の補強リブの製造や取り付け等、補強リブに係る作業を省略することができ、低コストでの施工が可能となる。また、炭酸カルシウム系発泡板自体は軽量物であり、重機などの機械を用いなくても作業者の手作業で型枠の組み立てを終えることができるので、型枠組み立て作業も容易となる。さらに、硬質木毛セメントのような材料で作られた補強リブを炭酸カルシウム系発泡板とともに用いる場合、補強リブからの塵埃が発生して作業環境の悪化を招く恐れがあるが、本発明による外断熱工法では、その懸念も払拭することができる。
【0010】
本発明による外断熱工法において、型枠兼用断熱パネルとして、型枠内に流し込んだコンクリートが入り込むことのできる凹溝を面内に有する炭酸カルシウム系発泡板を用いることもできる。断面がアリ溝形状をなす凹溝であることは、より好ましい。この態様では、凹溝内に入り込んで硬化したコンクリートによって、コンクリート壁と型枠兼用断熱パネルである炭酸カルシウム系発泡板との接合力をより高いものとすることができ、不用意に炭酸カルシウム系発泡板がコンクリート板から剥離するのを防止することができる。
【0011】
本発明による外断熱工法において、型枠兼用断熱パネルとして木口面に溝加工がされている炭酸カルシウム系発泡板を用いるとともに、前記加工溝にジョイント材を差し込むようにして隣接する炭酸カルシウム系発泡板を屋外側に建て込んでいくことは、より好ましい態様である。この態様では、隣接する炭酸カルシウム系発泡板同士の連結が安定するとともに、型枠内に流し込んだコンクリートののろが型枠兼用断熱パネルの表面側に流出するのを確実に阻止することができる。
【0012】
本発明による外断熱工法において、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板を接着剤により貼り付けて2層構造とした型枠兼用断熱パネルを用いることもできる。
【0013】
本発明で使用する炭酸カルシウム系発泡板は表面に型枠を有しないので、接着剤を用いて2枚の炭酸カルシウム系発泡板を2層構造に積層することがきわめて容易である。さらに、薄手の炭酸カルシウム系発泡板は比較的に安価であり、所要厚さの型枠兼用断熱パネルを薄手の炭酸カルシウム系発泡板の2層構造で得ることにより、型枠兼用断熱パネルの製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明は、また、コンクリート壁の屋外側に補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板が一体に貼り付けられていることを特徴とする外断熱コンクリート壁をも開示する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板を用いるようにしたので、従来から行われている型枠兼用断熱材として炭酸カルシウム系発泡板を用いる外断熱工法を、より低いコストで、かつより容易に施工ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による外断熱工法を説明するための図。
【図2】要部の拡大断面図。
【図3】本発明による外断熱工法で使用する型枠兼用断熱パネルとしての炭酸カルシウム系発泡板の一例を説明するための立面図。
【図4】本発明による外断熱工法で使用する型枠兼用断熱パネルとしての炭酸カルシウム系発泡板の他の例を説明するための側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る型枠兼用断熱パネルを用いた施工方法について、図面を参照しながら説明する。
図1において、10は、型枠兼用断熱パネルとして用いる補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板であり、該炭酸カルシウム系発泡板を屋外側として型枠20が形成される。型枠20において、炭酸カルシウム系発泡板10の反対側(屋内側)には、セパレータ21で所定の距離を確保した状態で、合板等からなる屋内側の堰板(コンパネ)22が立てられる。セパレータ21における炭酸カルシウム系発泡板10の内側に当接する位置には、軸足を備えた断熱パット23が取り付けてあり、該断熱パット23の軸足にはホームタイ24が連結している。セパレータ21の反対側の端部にはホームタイ24が直接連結している。
【0018】
炭酸カルシウム系発泡板10の屋外側、およびコンパネ22の屋内側には、縦締鋼管25および横締鋼管26がそれぞれ取り付けられ、締め金具27をホームタイ24に差し込むことによって、炭酸カルシウム系発泡板10とコンパネ22との間にセパレータ21の長さに規定される横幅であるコンクリート流し込み用空間30を確保した状態で、型枠20とされている。なお、この型枠20は、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板10を用いること以外は、従来知られた外断熱工法のための型枠と同じであってよく、図示のものは一例であって、これに限られない。
【0019】
図2および図3を参照して、本発明による型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板10の一例を説明する。この例において、炭酸カルシウム系発泡板10は、厚さD:32mmあるいはそれ以上、高さH:1800mm、幅W:900mm程度の矩形状のものであり、四周の木口面には、幅3mm、深さ20mm程度のジョイント差込溝11が形成されている。また、裏面には、300mm程度の間隔Sをおいて、水平方向にアリ溝形状の凹溝12が複数本(図示のものでは6本)形成されている。凹溝12は入り口部の幅が20mm、底面幅が30mm、深さが5mm程度のものであってよい。
【0020】
炭酸カルシウム系発泡板10は、密度70kg/m,圧縮強度0.17N/mm,曲げ強度0.51N/mm,曲げ弾性率23.3N/mm程度のものを好適に用いることができる。具体的例として、例えばロックセルボード(フジ化成工業株式会社の商品名)を挙げることができる。
【0021】
複数枚の炭酸カルシウム系発泡板10を用いて型枠兼用断熱パネルが形成されるが、そのときに、隣接する炭酸カルシウム系発泡板10、10は、木口面に形成した双方のジョイント差込溝11、11に入り込むことのできる横幅を持つジョイント(不図示)を、ジョイント差込溝11、11に差し込みながら、配置される。
【0022】
型枠20を形成した後、前記したコンクリート流し込み用空間30内に、定法によりコンクリート31を流し込む。図2の拡大図によく示すように、コンクリート31は炭酸カルシウム系発泡板10の裏面に形成した凹溝12にも入り込み、その状態で全体が硬化する。そのときに、隣接する炭酸カルシウム系発泡板10、10の接合面にはジョイントが介在しており、コンクリートののろが炭酸カルシウム系発泡板10の屋外側に滲み出ることはない。
【0023】
コンクリート31の硬化後、締め金具27をはずし、横締鋼管26および縦締鋼管25を取り外し、コンパネ22を除去することにより、本発明によるコンクリート壁31の屋外側に補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板10が一体に貼り付けられた外断熱コンクリート壁が形成される。前記のように、この外断熱コンクリート壁では、コンクリート31は炭酸カルシウム系発泡板10の裏面に形成した凹溝12にも入り込んで硬化しており、炭酸カルシウム系発泡板10がコンクリート壁31から剥離するのは抑制される。
【0024】
なお、実際の建築物においては、形成された外断熱コンクリート壁の屋外側である炭酸カルシウム系発泡板10の表面には、適宜の表面化粧材が取り付けられる。炭酸カルシウム系発泡板10は屋外側に補強リブのような他の部材を有しないので、表面化粧材の取り付けも任意の位置に任意の手法で行うことができるメリットがある。
【0025】
さらに、本発明による外断熱工法では、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板10、すなわち市販されている炭酸カルシウム系発泡板10をそのまま用いることができるので、低コストでの施工が可能となる。また、炭酸カルシウム系発泡板10自体は軽量物であり、重機などの機械を用いなくても作業者の手作業で型枠20の組み立てを終えることができ、型枠20の組み立て作業も容易となる。
【0026】
なお、本発明による外断熱工法において、施工環境が許す場合には、炭酸カルシウム系発泡板10として、ジョイント差込溝11を有しない炭酸カルシウム系発泡板、あるいは型枠20内に流し込んだコンクリートが入り込む凹溝12を裏面に有しない炭酸カルシウム系発泡板を用いることもできる。
【0027】
さらに、図4に示すような炭酸カルシウム系発泡板10Aを型枠兼用断熱パネルとして用いることもできる。この炭酸カルシウム系発泡板10Aは、例えば厚さd:が16mmの2枚の炭酸カルシウム系発泡板10b,10bを接着剤を用いて接着積層することにより、2層構造からなる厚さD:32mmの炭酸カルシウム系発泡板10Aとされている。薄手の炭酸カルシウム系発泡板は比較的に安価であり、このように2層構造とすることにより、所要厚さの型枠兼用断熱パネルをより低コストで製造することができる。また、炭酸カルシウム系発泡板10bは表面に補強リブのような他の部材を有しないので、接着剤を用いて2層構造とするのも容易である。
【0028】
さらに、図示の例では、各炭酸カルシウム系発泡板10bは木口面にあいじゃくり溝13が加工されており、上下に隣接する炭酸カルシウム系発泡板10b同士はあいじゃくり接合されている。さらに、積層されている2枚の炭酸カルシウム系発泡板10b、20bは互いにそのあいじゃくり接合部をずらすようにして接着接合されている。このようにすることにより、炭酸カルシウム系発泡板10Aの側圧に対する耐性を大きくできるとともに、流し込むコンクリートののろが炭酸カルシウム系発泡板10Aの屋外側に漏れ出すのも阻止することができる。なお、積層型の炭酸カルシウム系発泡板10Aにおいて、3枚以上の炭酸カルシウム系発泡板を接着接合してもよく、また、同じ厚さでなく厚さの異なる炭酸カルシウム系発泡板同士を接着接合してもよい。
【符号の説明】
【0029】
10…型枠兼用断熱パネルとして用いる炭酸カルシウム系発泡板、
11…ジョイント差込溝、
12…凹溝、
20…型枠、
21…セパレータ、
22…コンパネ、
25…縦締鋼管、
26…横締鋼管、
30…コンクリート流し込み用空間、
31…コンクリート、コンクリート壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート壁を構築するに際し、複数枚の型枠兼用断熱パネルが屋外側となるようにして型枠を形成し、形成した型枠内にコンクリートを流し込み、流し込んだコンクリートを硬化させて型枠兼用断熱パネルと一体となったコンクリート壁を構築する外断熱工法において、
前記型枠兼用断熱パネルとして、補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板を用いることを特徴とする外断熱工法。
【請求項2】
請求項1に記載の外断熱工法であって、型枠兼用断熱パネルとして流し込んだコンクリートが入り込むことのできる凹溝を面内に有する炭酸カルシウム系発泡板を用いることを特徴とする外断熱工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の外断熱工法であって、型枠兼用断熱パネルとして木口面に溝加工がされている炭酸カルシウム系発泡板を用いるとともに、前記加工溝にジョイント材を差し込むようにして隣接する炭酸カルシウム系発泡板を屋外側に建て込んでいくことを特徴とする外断熱工法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の外断熱工法であって、型枠兼用断熱パネルとして補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板を接着剤により貼り付けて2層構造とした型枠兼用断熱パネルを用いることを特徴とする外断熱工法。
【請求項5】
コンクリート壁の屋外側に補強リブを持たない炭酸カルシウム系発泡板が一体に貼り付けられていることを特徴とする外断熱コンクリート壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185187(P2010−185187A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28849(P2009−28849)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ホームタイ
【出願人】(509041131)
【出願人】(509041142)
【Fターム(参考)】