説明

外気温推定装置

【課題】この発明は、エンジンの暖機状態を考慮して完全冷機状態とはなっていない状態でも高い精度で外気温度を推定できるようにすること、外気温度の推定値の更新すべき条件を最適にして精度を高く保つこと、外気温センサを不要とすることを目的とする。
【解決手段】この発明は、外気温推定装置において、変速機油温検出手段と、異なる時点で検出された冷却水温度どうしの偏差を算出する冷却水温差算出手段と、異なる時点で検出された吸気温度どうしの偏差を算出する吸気温差算出手段と、イグニションスイッチオフ経過時間を含む各種時点間の経過時間を計る計時手段とを設け、冷却水温度と変速機油温度よりエンジンの暖機状態を推測する暖機状態推測ステップと、この推測された暖機状態と冷却水温差と吸気温差およびイグニションスイッチオフ経過時間により外気温度の推定を行う外気温推定ステップとを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は外気温推定装置に係り、特に、ハイブリッド自動車、およびアイドリングストップ車等の制御に用いる外気温度の推定、さらに、車両に搭載されたエンジンの空燃比制御や空調制御に用いる外気温度を推定する外気温推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上を目的として、ハイブリッド自動車やアイドリングストップ車が提案され、実用化されている。このような車両では、所定の停止条件を満足した際に、エンジンが自動停止される。エンジンを自動停止、自動始動する装置では、エンジン自動停止中の暖房性能に支障のないよう、ある一定の外気温度以上でないとエンジンを自動停止しないような制御となっている。外気温度を使用する制御には、エンジンの自動停止始動制御の他にも、空燃比制御や空調制御がある。
外気温度を検出するためには、専用の外気温センサが必要となるが、取付スペースの確保、部品点数の増加によりコストアップの要因となってしまう。そのため、従来の外気温推定装置には、水温センサ、吸気温センサ、車速センサによる、従来より車両に常設されている部品を用い、外気温度を推定するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3627566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の外気温推定装置では、エンジン停止後完全冷機までの十分な時間(5〜6時間程度)がたっていない場合、前回のメモリ値をそのまま使うこととなり、外気温推定の精度が不十分な問題があった。
【0005】
この発明は、外気温度を高い精度で推定すること、とくにエンジンの暖機状態を考慮して完全冷機状態とはなっていない状態でも高い精度で外気温度を推定できるようにすること、また、外気温度の推定値の更新すべき条件を最適にして精度を高く保つこと、その結果、外気温センサを不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段と、前記エンジンの吸気温度を検出する吸気温検出手段とを備え、それら検出された温度に基づいて外気温度を推定する外気温推定装置において、自動変速機の変速機油温度を検出する変速機油温検出手段と、前記冷却水温検出手段によって異なる時点で検出された冷却水温度どうしの偏差を算出する冷却水温差算出手段と、前記吸気温検出手段によって異なる時点で検出された吸気温度どうしの偏差を算出する吸気温差算出手段と、イグニションスイッチオフ経過時間を含む各種時点間の経過時間を計る計時手段とを設け、冷却水温度と変速機油温度よりエンジンの暖機状態を推測する暖機状態推測ステップと、この推測された暖機状態と冷却水温差と吸気温差およびイグニションスイッチオフ経過時間により外気温度の推定を行う外気温推定ステップとを行うことを特徴とする外気温推定装置。
【発明の効果】
【0007】
この発明の外気温推定装置は、エンジンの温度状態に関わらず、外気温度の推定を行うことができる。とくに、この発明の外気温推定装置は、イグニションスイッチオフ時点でのエンジンの暖機状態をゾーンに分けて細かく把握することにより、完全冷機ではない状態からイグニションスイッチオンとなっても、外気温度を推定可能にできる。また、この発明の外気温推定装置は、冷却水温差と吸気温差の複数についてイグニションスイッチオフ経過時間により推定するので、誤った推定値への更新にはなりにくく、精度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】外気温推定装置の外気温推定のフローチャートである。(実施例)
【図2】外気温推定のタイミングチャートである。(実施例)
【図3】冷却水温度と変速機油温度よりエンジンの暖機状態をゾーン分類するマップを示す図である。(実施例)
【図4】(A)は、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差とイグニションスイッチオフ経過時間より外気温度を推定するマップを示す図、(B)は、イグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差とイグニションスイッチオフ経過時間より外気温度を推定するマップを示す図である。(実施例)
【図5】吸気温度から外気温度の推定値を求めるための車速によって設定された補正値のマップを示す図である。(実施例)
【図6】外気温推定装置のシステム構成図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明は、外気温度を高い精度で推定することができ、外気温センサを不要とすることができるものである。
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図6は、この発明の実施例を示すものである。図6において、1は車両に搭載されたエンジン、2はエンジンに連結された自動変速機、3はエンジン制御部、4は変速機制御部である。エンジン1を制御するエンジン制御部3と自動変速機2を制御する変速機制御部4とは、車両通信システム5(CAN:Control Area Network)により接続され、情報を相互通信している。
前記エンジン制御部3は、例えば、自動停止始動制御手段6、燃料噴射制御手段7、空調用コンプレッサ制御手段8などを備え、入力側には、スタータ回路9、イグニションスイッチ回路10、エアフローメータ11、吸気温センサ12、スロットルセンサ13、水温センサ14、車速センサ15などを接続し、出力側には、スタータモータリレー16、燃料噴射弁17、空調用コンプレッサリレー18などを接続している。
エンジン制御部3は、スタータ回路9からスタータ信号を入力し、イグニションスイッチ回路10からイグニションスイッチ状態信号を入力し、エアフローメータ11から吸入空気量を入力し、吸気温センサ12から吸気温度を入力し、スロットルセンサ13からスロットル弁のスロットル開度を入力し、水温センサ14からエンジン1の冷却水温度を入力し、車速センサ15から車両の走行速度である車速を入力する。
エンジン制御部3は、スタータ回路9〜車速センサ15から入力する情報に基づいて、自動停止始動制御手段6によってエンジン1を自動的に停止・始動するようにスタータモータリレー16によりスタータモータの動作を制御し、燃料噴射制御手段7によって混合気の空燃比が目標空燃比になるように燃料噴射弁17の動作を制御し、空調用コンプレッサ制御手段8によって空調用冷媒の圧力が目標値になるように空調用コンプレッサリレー18により空調用コンプレッサの動作を制御する。
また、前記変速機制御部4には、シフトレバーのシフト位置を検出するシフトポジションスイッチ19や変速機油温度を検出する変速機油温センサ20などが接続されている。変速機制御部4は、車両通信システム5によりエンジン制御部3から情報(スロットル開度や車速など)を受信して自動変速機2を制御するとともに、車両通信システム5によりエンジン制御部3にエンジン1及び自動変速機2を制御するための情報(シフトポジションや変速機油温度など)を送信する。
なお、自動変速機2は、有段変速機(AT)だけでなく、無段変速機(CVT)でもよい。変速機油温度は、自動変速機2の内部に設けられた閉循環通路を流れて変速用の装置を駆動し、装置の各部を潤滑するとともに、冷却もする流体の温度である。
このように、エンジン1を搭載した車両は、エンジン1を自動停止、自動始動するアイドリングストップ車であり、また、エンジン1の自動停止始動制御の他にも、燃料噴射制御による空燃比制御や空調用コンプレッサ制御による空調制御を行っている。これら自動停止始動制御、空燃比制御、空調制御においては、外気温度を制御に使用している。この車両には、各種制御に用いる外気温度を検出するための外気温センサを設けていず、外気温度を推定するための外気温推定装置21を設けている。
【0011】
外気温推定装置21は、前記エンジン制御部3に設けられ、エンジン1の冷却水温度を検出する冷却水温検出手段である前記水温センサ14と、エンジン1の吸気温度を検出する吸気温検出手段である前記吸気温センサ12とを備え、それら検出された温度に基づいて外気温推定手段22によって外気温度を推定する。
外気温推定装置21は、自動変速機2の変速機油温度を検出する変速機油温検出手段である前記変速機油温センサ20と、前記水温センサ14によって異なる時点で検出された冷却水温度どうしの偏差を算出する冷却水温差算出手段23と、吸気温センサ12によって異なる時点で検出された吸気温度どうしの偏差を算出する吸気温差算出手段24と、イグニションスイッチオフ経過時間を含む各種時点間の経過時間を計る計時手段25とを設けている。外気温推定装置21は、各センサ12、14、20が検出した値、各手段23〜25が算出した値、後述するマップの値、および外気温推定値を記憶する記憶部26を備えている。
外気温推定装置21は、外気温推定手段22によって、冷却水温度と変速機油温度よりエンジン1の暖機状態を推測する暖機状態推測ステップと、この推測された暖機状態と前記冷却水温差算出手段23が算出した冷却水温差と前記吸気温差算出手段24が算出した吸気温差および前記イグニションスイッチ回路10のイグニションスイッチ状態信号から前記計時手段25が計測したイグニションスイッチオフ経過時間により外気温度の推定を行う外気温推定ステップとの処理を行う。
外気温推定装置21は、冷却水温度と変速機油温度よりエンジン1の暖機状態をゾーン分類するマップと、冷却水温差と吸気温差およびイグニションスイッチオフ経過時間のマップを前記ゾーンそれぞれに対応させて設けている。外気温推定装置21は、外気温推定手段22によって、前記暖機状態推測ステップでは、イグニションスイッチオフ時点に検出された冷却水温度とイグニションスイッチオフ時点に検出された変速機油温度によって暖機状態をゾーン分類して推定し、前記外気温推定ステップでは、推測された暖機状態のゾーンに対応したマップについてイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により外気温度を推定する。
外気温推定装置21は、外気温推定手段22によって、前記外気温推定ステップでは、イグニションスイッチオフ経過時間後に検出された冷却水温度とイグニションスイッチオフ経過時間後に検出された吸気温度との偏差が大きく、かつイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度との偏差が小さい場合、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度により外気温度の推定値を更新する。
外気温推定装置21は、外気温推定手段22によって、前記外気温推定ステップでは、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度の平均値を外気温度の推定値として更新する。
外気温推定装置21は、外気温推定手段22によって、前記外気温推定ステップでは、前記車速センサ15の検出した車速が所定値以上かつ前記エアフローメータ11の検出した吸入空気量あるいは前記スロットルセンサ13の検出したスロットル開度から算出したエンジン負荷率が所定値以上の状態が所定時間以上継続した場合、検出された吸気温度を車速によって補正した値を推定値として更新する。
【0012】
なお、イグニションスイッチ状態とは、エンジン1の駆動状態/停止状態の切り替えを表すものである。イグニションスイッチ状態は、イグニッションキーやスタータスイッチ等の人為的な選択操作によるエンジン1の切替状態、および、自動停止始動制御手段6による自動的なエンジン1の駆動/停止の切替状態を含むものである。
前記イグニションスイッチオフ経過時間とは、エンジン1が停止した状態での経過時間のことである。エンジン1の駆動状態では、エンジン1の温度上昇(暖機)に伴って、雰囲気に放射する熱量が増減し、このイグニションスイッチオフ経過時間中あるいはその直後であっても、検出される温度はその影響を受ける。
前記イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差とは、イグニションスイッチ状態がONからOFFに切り替わった時点(経過時間前)での冷却水温度と、イグニションスイッチ状態がOFFからONに切り替わった時点(経過時間後)での冷却水温度との差のことである。
前記イグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差とは、イグニションスイッ状態がONからOFFに切り替わった時点(経過時間前)での吸気温度と、イグニションスイッチ状態がOFFからONに切り替わった時点(経過時問後)での吸気温度との差のことである。
【0013】
次に作用を説明する。
この外気温推定装置21は、エンジン1を自動停止・自動始動する車両における外気温推定制御において、イグニションスイッチオフ時の自動変速機2の変速機油温度と、エンジン1の冷却水温度より、エンジン1の暖機状態を推測するように構成している。
また、この外気温推定装置21は、イグニションスイッチオフ時のエンジン1の暖機状態、イグニションスイッチオフ時とイグニションスイッチオン時における冷却水温差、吸気温差、およびイグニションスイッチオフ経過時間によって、外気温度を推定するように構成している。さらに、この外気温推定装置21は、冷却水温差から算出した外気温度と吸気温差から算出した外気温度を比較し、信頼性を確認するように構成している。
さらにまた、この外気温推定装置21は、所定値以上の車速、かつ所定値以上のエンジン負荷率が、所定時間以上継続した場合に、エンジン1の吸気温度に基づいて外気温度を車速によって推定するように構成している。
【0014】
外気温推定装置21は、図1に示すように、推定がスタートすると(100)、イグニションスイッチオフ時点(イグニションスイッチオフ経過時間前)での変速機油温度(T1)、冷却水温度(T2)、吸気温度(T3)を読み込み、イグニションスイッチオフ経過時間の測定を開始する(101)。
図3に示すマップより、イグニションスイッチオフ時点での変速機油温度(T1)、冷却水温度(T2)からエンジン1の暖機状態をゾーンに区分けして判定し、同時にイグニションスイッチオフ時点での冷却水温度(T2)、吸気温度(T3)を記憶部26に記憶させ、イグニションスイッチオフ経過時間の測定を続行する(102)。
イグニションスイッチがオンになると、イグニションスイッチオン時点(イグニションスイッチオフ経過時間後)での冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)を読み込み、イグニションスイッチオフ経過時間の測定を終了する(103)。
イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温度(T2)、(T2α)から冷却水温差(△T1)を算出して、図4(A)に示す冷却水温差(△T1)とイグニションスイッチオフ経過時間のマップから外気温度(TEMPA)を推定し、イグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温度(T3)、(T3α)から吸気温差(△T3)を算出して、図4(B)に示す吸気温差(△T3)とイグニションスイッチオフ経過時間のマップから外気温度(TEMPB)を推定する(104)。次いで、イグニションスイッチオンによるエンジン1の始動後経過時間が所定値a以下であるかを判断する(105)。
この判断(105)において、始動後経過時間が所定値a以下でYESの場合は、イグニションスイッチオン時点での冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)の差が所定値b以下であるかを判断する(106)。
この判断(106)において、冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)の差が所定値b以下でYESの場合は、冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)の小さいほうの値を外気温度と推定し、記憶部26のメモリ値X、外気温推定値Yを更新し(107)、車速が所定値e以上かつエンジン負荷率が所定値f以上の状態である時間が所定時間g以上に継続したかを判断する(108)。
この判断(108)がNOの場合は、YESになるまで繰り返される。この判断(108)において、車速が所定値e以上かつエンジン負荷率が所定値f以上の状態が所定時間g以上に継続してYESの場合は、検出された吸気温度を図5に示す車速による補正係数によって補正した値を新たな外気温度の推定値として記憶部26の外気温推定値Yを更新し(109)、リターンする(110)。
【0015】
一方、前記判断(105)において、始動後経過時間が所定値aを越えてNOの場合は、記憶部26の前回のメモリ値X、外気温推定値Yを有効として更新せず(111)、前述の判断(108)へ移行する。
また、前記判断(106)において、冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)の差が所定値bを越えてNOの場合は、イグニションスイッチオフ経過時間が所定時間c以上であるかを判断する(112)。
この判断(112)において、イグニションスイッチオフ経過時間が所定時間c未満でNOの場合は、前述処理(111)へ移行する。この判断(112)において、イグニションスイッチオフ経過時間が所定時間c以上でYESの場合は、冷却水温差(△T1)及びイグニションスイッチオフ経過時間から推定した外気温度(TEMPA)と、吸気温差(△T3)及びイグニションスイッチオフ経過時間から推定した外気温度(TEMPB)との差が所定値d以下であるかを判断する(113)。
この判断(113)において、外気温度(TEMPA)と外気温度(TEMPB)との差が所定値dを越えてNOの場合は、前述処理(111)へ移行する。この判断(113)において、外気温度(TEMPA)と外気温度(TEMPB)との差が所定値d以下でYESの場合は、外気温度(TEMPA)及び外気温度(TEMPB)の平均値[{(TEMPA)+(TEMPB)}/2]を外気温度と推定して、記憶部26のメモリ値X、外気温推定値Yを更新し(114)、前述の判断(108)へ移行する。
【0016】
外気温推定装置21は、図2に示すように、車両の走行終了後のイグニションスイッチオフ時(時点A)に変速機油温度(T1)、冷却水温度(T2)よりエンジンの暖機状態を判定する。変速機油温度と冷却水温度では、走行中の温度上昇が異なり、冷却水温度のほうが比較的早く完暖温度まで到達するが、その時点ではエンジン1が芯まで暖まった状態ではないため、変速機油温度の測定も行い、エンジン1の暖機状態を判定する。エンジン1の暖機状態の判定は、図3に示すように、変速機油温度、冷却水温度の状態から、数パターンにゾーン分けしたマップを用いる。また、イグニションスイッチオフ時の冷却水温度(T2)、吸気温度(T3)を記憶し、イグニションスイッチオフ経過時間も測定する。
外気温推定装置21は、次回のイグニションスイッチオン時(時点B)に冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3α)を測定し、冷却水温度(T2)と冷却水温度(T2α)、吸気温度(T3)と吸気温度(T3α)との差(△T2、△T3)を求め、エンジン1の冷却状況を把握する。同時に、イグニションスイッチオフ経過時間(時点A・時点B間の時間)を計測する。エンジン1は、イグニションスイッチオフ経過時間が長いほど、および外気温度が低いほど、冷却が早いため、図4(A)のイグニションスイッチオフ経過時間と冷却水温差△T2のマップ、および図4(B)のイグニションスイッチオフ経過時間と吸気温差△T3のマップより外気温度TEMPA、およびTEMPBを推定し、条件によってメモリ値X、外気温推定値Yを更新する(T4)。
また、外気温推定装置21は、エンジン1の暖機が進んでいるほど、冷えにくく、冷却特性が変わってくるため、図4(A)、(B)のマップは各ゾーンごとに設定する(図3のようなゾーン分けの場合、2×9=18個のマップが存在する)。イグニションスイッチオン時に、吸気温度と冷却水温度の差が所定値b以下の場合、エンジン1は十分冷却され、冷却水温度=外気温度、かつ吸気温度=外気温度と考えられるため、冷却水温差△T2から推定した外気温度TEMPA、吸気温差△T3から推定した外気温度TEMPBによるメモリ値X,外気温推定値Yの更新は行わない。
外気温推定装置21は、吸気温度と冷却水温度の差が所定値bを越える場合でも、冷却水温度、吸気温度が下がり始める前に再びイグニションスイッチがオンした場合は、図4(A)、(B)のマップによる外気温推定を行うことは不可能である。そのため、イグニションスイッチオフ後の所定時間c経過後でない場合は、冷却水温差△T2から推定した外気温度TEMPA,吸気温差△T3から推定した外気温度TEMPBによるメモリ値X、外気温推定値Yの更新は行わない。
イグニションスイッチオフ後に所定時間c経過した場合は、冷却水温差△T2から推定した外気温度TEMPA、吸気温差△T3から推定した外気温度TEMPBによるメモリ値X,外気温推定値Yの更新を行う。冷却水温差△T2から推定した外気温度TEMPA、吸気温差△T3から推定した外気温度TEMPBの誤差dが大きい場合は、その値の信頼性が低いと判断し、前回のメモリ値X、外気温推定値Yを有効として適用する。
外気温推定装置21は、走行中の外気温度変化に対応するため、車速および吸気温度に基づいて外気温推定値Yを更新する。車速がある所定値e以上であれば、吸気温度は外気温度に近づいていく特性を利用したものである。ただし、瞬間的な速度上昇、およびエンジン負荷が小さい場合ではその特性が現れないため、車速が所定値e以上、エンジン負荷率が所定値f以上の状態が所定時間g以上が継続した場合にのみ適用する(時点Cにて条件が成立し、時点Dで所定時間gが経過すると、外気温推定値をT5に更新)。
【0017】
このように、外気温推定装置21は、冷却水温度(T2)と変速機油温度(T1)よりエンジン1の暖機状態を推測する暖機状態推測ステップと、この推測されたエンジン1の暖機状態と冷却水温差(△T2)と吸気温差(△T3)およびイグニションスイッチオフ経過時間により外気温度の推定を行う外気温推定ステップとの処理を行う。
これにより、外気温推定装置21は、エンジン1の温度状態に関わらず、外気温度の推定を行うことができる。とくに、この外気温推定装置21は、イグニションスイッチオフ時点でのエンジン1の暖機状態をゾーンに分けて細かく把握することにより、完全冷機ではない状態からイグニションスイッチオンとなっても、外気温度を推定可能にできる。また、この外気温推定装置21は、冷却水温差(△T2)と吸気温差(△T3)の複数についてイグニションスイッチオフ経過時間により推定するので、誤った推定値への更新にはなりにくく、推定精度が高い。
外気温推定装置21は、冷却水温度(T2)と変速機油温度(T1)よりエンジン1の暖機状態をゾーン分類するマップと、冷却水温差(△T2)と吸気温差(△T3)およびイグニションスイッチオフ経過時間のマップを前記ゾーンそれぞれに対応させて設けている。外気温推定装置21は、前記暖機状態推測ステップでは、イグニションスイッチオフ時点に検知された冷却水温度(T2)とイグニションスイッチオフ時点に検知された変速機油温度(T1)によって暖機状態をゾーン分類して推定し、前記外気温推定ステップでは、推測された暖機状態のゾーンに対応したマップについてイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差(△T2)とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差(△T3)により外気温度を推定する。
これにより、外気温推定装置21は、エンジン1の温度状態を細かく判断し、高い精度で外気温度の推定につなげることができる。外気温度を推定する際には、冷却水温差(△T2)と吸気温差(△T3)を用いることで、エンジン1の駆動状態のばらつきに対しても、精度の高い外気温度値を推定できる。
外気温推定装置21は、前記外気温推定ステップでは、イグニションスイッチオフ経過時間後に検出された冷却水温度(T2α)とイグニションスイッチオフ経過時間後に検出された吸気温度(T3α)との偏差が所定値bより大きく、かつイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差(△T2)により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差(△T3)により推定された外気温度との偏差が所定値dより小さい場合、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差(△T2)により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差(△T3)により推定された外気温度により外気温度の推定値を更新する。
これにより、外気温推定装置21は、適切なタイミングで外気温度の推定値を更新するので、外気温度の推定値の精度を高く保つことができ、信頼性が高い。
時間前後の冷却水温差(△T2)により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差(△T3)により推定された外気温度の平均値を外気温度の推定値として更新する。
これにより、外気温推定装置21は、更新値が大きくずれることのない値とすることで、誤差の大きな値で更新することがなく、高い精度を確保できる。
外気温推定装置21は、前記外気温推定ステップでは、車速が所定値e以上かつエンジン負荷率が所定値f以上の状態が所定時間g以上継続した場合、検出された吸気温度を車速によって補正した値を推定値として更新する。
これにより、外気温推定装置21は、車両の走行中の環境変化に対応して、外気温度を精度の高く推定できる。この外気温推定装置21は、外気温度の推定値にずれが生じても、その時間を短くできる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明は、外気温度を高い精度で推定することができ、外気温センサを不要とすることができるものであり、外気温度を使用する制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1 エンジン
2 自動変速機
3 エンジン制御部
4 変速機制御部
5 車両通信システム
10 イグニションスイッチ回路
12 吸気温センサ
14 水温センサ
15 車速センサ
20 変速機油温センサ
21 外気温推定装置
22 外気温推定手段
23 冷却水温差算出手段
24 吸気温差算出手段
25 計時手段
26 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温検出手段と、前記エンジンの吸気温度を検出する吸気温検出手段とを備え、それら検出された温度に基づいて外気温度を推定する外気温推定装置において、
自動変速機の変速機油温度を検出する変速機油温検出手段と、
前記冷却水温検出手段によって異なる時点で検出された冷却水温度どうしの偏差を算出する冷却水温差算出手段と、
前記吸気温検出手段によって異なる時点で検出された吸気温度どうしの偏差を算出する吸気温差算出手段と、
イグニションスイッチオフ経過時間を含む各種時点間の経過時間を計る計時手段とを設け、
冷却水温度と変速機油温度よりエンジンの暖機状態を推測する暖機状態推測ステップと、
この推測された暖機状態と冷却水温差と吸気温差およびイグニションスイッチオフ経過時間により外気温度の推定を行う外気温推定ステップとを行うことを特徴とする外気温推定装置。
【請求項2】
冷却水温度と変速機油温度よりエンジンの暖機状態をゾーン分類するマップと、
冷却水温差と吸気温差およびイグニションスイッチオフ経過時間のマップを前記ゾーンそれぞれに対応させて設け、
前記暖機状態推測ステップでは、イグニションスイッチオフ時点に検出された冷却水温度とイグニションスイッチオフ時点に検出された変速機油温度によって暖機状態をゾーン分類して推定し、
前記外気温推定ステップでは、推測された暖機状態のゾーンに対応したマップについてイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により外気温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の外気温推定装置。
【請求項3】
前記外気温推定ステップでは、イグニションスイッチオフ経過時間後に検出された冷却水温度とイグニションスイッチオフ経過時間後に検出された吸気温度との偏差が大きく、かつイグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度との偏差が小さい場合、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度により外気温度の推定値を更新することを特徴とする請求項2に記載の外気温推定装置。
【請求項4】
前記外気温推定ステップでは、イグニションスイッチオフ経過時間前後の冷却水温差により推定された外気温度とイグニションスイッチオフ経過時間前後の吸気温差により推定された外気温度の平均値を外気温度の推定値として更新することを特徴とする請求項3に記載の外気温推定装置。
【請求項5】
前記外気温推定ステップでは、車速が所定値以上かつエンジン負荷率が所定値以上の状態が所定時間以上継続した場合、検出された吸気温度を車速によって補正した値を推定値として更新することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の外気温推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−47372(P2011−47372A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198570(P2009−198570)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】