説明

外科手術用組成物

【課題】細胞に成長成分および発育成分を提供し得る組織足場として使用され得る生体適合性ポリマーを提供すること。
【解決手段】本開示は、多成分ヒドロゲルを使用する細胞カプセル化の方法に関する。これらのヒドロゲルは、求核性官能基を有する天然成分、および求電子性成分を含み得る。ある実施形態において、これらの成分のうちの少なくとも一方が分岐を有し得、この分岐に、薬物、抗体、および酵素などが組み込まれ、これらは、このヒドロゲルの他の成分のうちの少なくとも1つと反応し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2010年9月23日に出願された米国特許出願番号12/888,456の一部継続出願(CIP)であり、米国特許出願番号12/888,456は、2009年10月2日に出願された米国仮出願番号61/247,998の利益および優先権を主張する。これらの全内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(背景)
本開示は、ヒドロゲルに関する。特定すると、本開示は、生物活性剤を含有し得る多成分ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0003】
求電子性官能基および求核性官能基を有する生体適合性架橋ポリマーは、ヒドロゲルの形成における使用について、公知である。これらのヒドロゲルは、種々の外科手術用途において使用され得る。ヒドロゲルは、例えば、創傷の封止剤として、外科手術用移植物を組織に接着するための膠として、薬物送達デバイスとして、コーティングとして、およびこれらの組み合わせなどで利用され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞に成長成分および発育成分を提供し得る組織足場として使用され得る生体適合性ポリマーが、依然として望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1A)
所望の濃度で第一の緩衝塩溶液中に懸濁している細胞を含有する、第一の溶液、および
所望の濃度で第二の緩衝塩溶液中に溶解しているマルチアームポリエチレングリコールを含有する、第二の溶液、
を含有する、細胞カプセル化のための組成物であって、
該第一の溶液と該第二の溶液とが約1:1の比で混合されて、第三の溶液を作製しており、
該第三の溶液が、コラーゲン、血清、ゼラチン、ヒアルロン酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される天然成分と共射出されることを特徴とする、細胞カプセル化のための組成物。
(項目2A)
前記天然成分がコラーゲンを含有する溶液を含む、上記項目に記載の組成物。
(項目3A)
前記天然成分がゼラチンを含有する溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目4A)
前記組成物がヒドロゲルである、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目5A)
前記第一の溶液の前記所望の濃度が、前記ヒドロゲル中の前記細胞の所望の最終濃度の約4倍である、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目6A)
前記第二の溶液の前記所望の濃度が、前記ヒドロゲル中の前記マルチアームポリエチレングリコールの所望の最終濃度の約4倍である、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目7A)
前記細胞が、内皮または上皮;層;外膜;血球(赤血球または白血球);静脈または動脈起源;大食細胞/単球、T細胞、キラー細胞、巨細胞、および好中球/多形核細胞などが挙げられる、組織または血液ベースの炎症/免疫細胞;リンパ由来細胞;骨由来細胞(骨芽細胞、破骨細胞、前骨芽細胞);骨髄吸引液または骨髄由来細胞;幹細胞/前駆細胞/成体幹細胞;心臓/心筋層;血管/動脈;臍帯/胎児組織/器官/細胞;腎臓/腎細胞;脂肪;肝臓;膵臓;膀胱;尿管;骨膜;筋膜;肺;食道、小腸/大腸、結腸、直腸、および胃などの胃腸管細胞;ニューロンおよびグリア細胞(例えば、(中枢神経系および/もしくは末梢神経系)ニューロン、神経膠星状細胞、シュヴァン細胞、希突起神経膠芽細胞、小神経膠細胞、嗅覚鞘性細胞、脊髄神経節細胞、神経幹細胞および神経前駆細胞、脳、索、または神経由来、および視神経/網膜)が挙げられる神経細胞;角膜、網膜、虹彩、視神経、毛様体筋、および斜視の種々の層が挙げられる眼;腹壁、骨盤底、軟骨、半月板、靭帯、腱、関節包、筋肉、皮膚および真皮細胞が挙げられる結合組織/軟組織、毛包ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される組織に由来する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目8A)
前記第一の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目9A)
前記第二の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目10A)
前記天然成分が求核性官能基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目11A)
前記天然成分が内因性組織を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目12A)
前記マルチアームポリエチレングリコールが、8アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目13A)
前記マルチアームポリエチレングリコールが、4アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目14A)
前記マルチアームポリエチレングリコールが、6アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目15A)
前記天然成分がホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目16A)
前記天然成分が、約0.075M〜約0.235Mのホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目17A)
幹細胞、DNA、RNA、酵素、増殖因子、成長因子、ペプチド、ポリペプチド、抗体、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の生物活性剤をさらに含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の組成物。
(項目1B)
細胞を所望の濃度で第一の緩衝塩溶液中に懸濁させることを包含する、第一の溶液を作製する工程、
マルチアームポリエチレングリコールを所望の濃度で第二の緩衝塩溶液中に溶解することを包含する、第二の溶液を作製する工程、
該第一の溶液と該第二の溶液とを約1:1の比で混合して、第三の溶液を作製する工程、ならびに
該第三の溶液を、コラーゲン、血清、ゼラチン、ヒアルロン酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される天然成分と共射出する工程、
を包含する、細胞カプセル化の方法。
(項目2B)
上記天然成分がコラーゲンを含有する溶液を含む、上記項目に記載の方法。
(項目3B)
上記天然成分がゼラチンを含有する溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目4B)
得られたヒドロゲルを回収する工程をさらに包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目5B)
上記第一の溶液の上記所望の濃度が、上記ヒドロゲル中の上記細胞の所望の最終濃度の約4倍である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目6B)
上記第二の溶液の上記所望の濃度が、上記ヒドロゲル中の上記マルチアームポリエチレングリコールの所望の最終濃度の約4倍である、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目7B)
上記細胞が、内皮または上皮;層;外膜;血球(赤血球または白血球);静脈または動脈起源;大食細胞/単球、T細胞、キラー細胞、巨細胞、および好中球/多形核細胞などが挙げられる、組織または血液ベースの炎症/免疫細胞;リンパ由来細胞;骨由来細胞(骨芽細胞、破骨細胞、前骨芽細胞);骨髄吸引液または骨髄由来細胞;幹細胞/前駆細胞/成体幹細胞;心臓/心筋層;血管/動脈;臍帯/胎児組織/器官/細胞;腎臓/腎細胞;脂肪;肝臓;膵臓;膀胱;尿管;骨膜;筋膜;肺;食道、小腸/大腸、結腸、直腸、および胃などの胃腸管細胞;ニューロンおよびグリア細胞(例えば、(中枢神経系および/もしくは末梢神経系)ニューロン、神経膠星状細胞、シュヴァン細胞、希突起神経膠芽細胞、小神経膠細胞、嗅覚鞘性細胞(olfactory ensheathing cell)、脊髄神経節細胞、神経幹細胞および神経前駆細胞、脳、索、または神経由来、および視神経/網膜)が挙げられる神経細胞;角膜、網膜、虹彩、視神経、毛様体筋、および斜視の種々の層が挙げられる眼;腹壁、骨盤底、軟骨、半月板、靭帯、腱、関節包、筋肉、皮膚および真皮細胞が挙げられる結合組織/軟組織、毛包ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される組織に由来する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目8B)
上記第一の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目9B)
上記第二の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目10B)
上記天然成分が求核性官能基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目11B)
上記天然成分が内因性組織を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目12B)
上記マルチアームポリエチレングリコールが、8アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目13B)
上記マルチアームポリエチレングリコールが、4アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目14B)
上記マルチアームポリエチレングリコールが、6アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目15B)
上記天然成分がホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目16B)
上記天然成分が、約0.075M〜約0.235Mのホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目17B)
幹細胞、DNA、RNA、酵素、増殖因子、成長因子、ペプチド、ポリペプチド、抗体、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の生物活性剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
【0006】
(摘要)
本開示は、多成分ヒドロゲルを使用する細胞カプセル化の方法に関する。これらのヒドロゲルは、求核性官能基を有する天然成分、および求電子性成分を含み得る。ある実施形態において、これらの成分のうちの少なくとも一方が分岐を有し得、この分岐に、薬物、抗体、および酵素などが組み込まれ、これらは、このヒドロゲルの他の成分のうちの少なくとも1つと反応し得る。
【0007】
(要旨)
本開示は、細胞カプセル化の方法を包含し、この方法は、細胞を所望の濃度で第一の緩衝塩溶液中に懸濁させることを包含する第一の溶液を作製する工程、マルチアームポリエチレングリコールを所望の濃度で第二の緩衝塩溶液中に溶解することを包含する、第二の溶液を作製する工程、この第一の溶液とこの第二の溶液とを約1:1の比で混合して第三の溶液を作製する工程、ならびにこの第三の溶液を、コラーゲン、血清、ゼラチン、ヒアルロン酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される天然成分と共射出する工程を包含する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、細胞に成長成分および発育成分を提供し得る組織足場として使用され得る生体適合性ポリマーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、求電子性前駆体(本明細書中で時々、求電子性架橋剤と称される)および求核性成分を含有する、ヒドロゲルを提供する。ある実施形態において、この求核性成分は、求電子性架橋剤により架橋されてヒドロゲルを形成し得る、天然成分である。ある実施形態において、このヒドロゲルは、生分解性であり得る。用語「生分解性」とは、本明細書中で使用される場合、生体吸収性材料と生体再吸収性材料との両方を包含するように定義される。生分解性とは、材料が、身体条件下で分解するかまたは構造一体性を失うこと(例えば、酵素分解、加水分解)、あるいは身体内の生理学的条件下で(物理的にかもしくは化学的に)分解し、その結果、その分解生成物が身体によって排出可能または吸収可能になることを意味する。
【0010】
このヒドロゲルはインサイチュで形成され得、そして薬物送達デバイスまたは組織足場、およびこれらの組み合わせなどとして利用され得る。ある実施形態において、このヒドロゲルは、移植の部位で、生物学的因子/分子および/または細胞を送達および/または放出し得る。従って、本開示のヒドロゲルが組織足場として利用される場合、このヒドロゲルは、周囲組織に必要とされる栄養および生物活性剤を提供することにより、自然な組織の再成長を補助し得る。いくつかの実施形態において、以下でさらに議論されるように、このヒドロゲル自体が天然成分(例えば、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、およびこれらの組み合わせなど)を含有し得、従って、この天然成分は、このヒドロゲルが分解するにつれて、移植の部位で放出され得る。用語「天然成分」とは、本明細書中で使用される場合、天然に見出され得るか、または天然に見出される組成物/成分から誘導され得る、ポリマー、組成物、材料、およびこれらの組み合わせなどを包含する。天然成分はまた、天然に見出されるが人によって(例えば、天然/合成/生物学的組換え材料を作製するための方法、ならびに天然に見出される配列と同じ配列を有するタンパク質を生成し得る方法、および/または天然材料と同じ構造および/成分を有する材料を生成し得る方法を使用して)合成され得る組成物(例えば、Sigma Aldrichから市販されている合成ヒアルロン酸)を包含し得る。
【0011】
組織の表面または内部でヒドロゲルを形成するための成分は、例えば、インサイチュ形成材料を含有する。このインサイチュ形成材料は、「インサイチュで」形成する単一の前駆体または複数の前駆体を含有し得、「インサイチュで」形成するとは、形成が生存している動物またはヒトの身体の組織で起こることを意味する。一般に、これは、適用の際に活性化されて、ある実施形態においてはヒドロゲルを作製し得る、前駆体を有することにより達成され得る。活性化は、種々の方法(例えば、pH、イオン強度、温度などの環境変化が挙げられるが、これらに限定されない)により得る。他の実施形態において、ヒドロゲルを形成するための成分は、身体の外側で接触させられ得、次いで、(予め形成された)組織足場などの移植物として、患者に導入され得る。
【0012】
上記のように、インサイチュ形成材料は、1つ以上の前駆体から作製され得る。この前駆体は、例えば、モノマーまたはマクロマーであり得る。1つの型の前駆体は、求電子剤または求核剤である官能基を有し得る。求電子剤は、求核剤と反応して共有結合を形成する。共有結合による架橋または結合は、異なるポリマーを互いに共有結合させるように働く、これらの異なるポリマー上の官能基の反応により形成される化学基をいう。特定の実施形態において、第一の前駆体上の第一のセットの求電子性官能基は、第二の前駆体上の第二のセットの求核性官能基と反応し得る。これらの前駆体が、(例えば、pHまたは溶媒に関して)反応を可能にする環境において混合される場合、これらの官能基は、互いに反応して共有結合を形成する。これらの前駆体は、これらの前駆体のうちの少なくともいくつかが、1つより多くの他の前駆体と反応し得る場合に、架橋される。例えば、第一の型の官能基を2つ有する前駆体は、この第一の型の官能基と反応し得る第二の型の官能基を少なくとも3つ有する架橋前駆体と反応し得る。
# ある実施形態において、ヒドロゲルは、単一の前駆体または複数の前駆体から形成され得る。例えば、このヒドロゲルが複数の前駆体(例えば、2つの前駆体)から形成される場合、これらの前駆体は、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と称され得る。用語「第一のヒドロゲル前駆体」および「第二のヒドロゲル前駆体」はそれぞれ、反応に参加して架橋分子(例えば、ヒドロゲル)の網目構造を形成し得る、ポリマー、官能性ポリマー、高分子、低分子、または架橋剤を意味する。
【0013】
用語「官能基」とは、本明細書中で使用される場合、互いに反応して結合を形成し得る、求電子性基または求核性基をいう。求電子性官能基としては、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、ハロゲン化アリール、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル(例えば、スクシンイミジルスクシネートおよび/またはスクシンイミジルプロピオネート)、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。ある実施形態において、求電子性官能基は、スクシンイミジルエステルである。
【0014】
求電子性ヒドロゲル前駆体は、生物学的に不活性の水溶性コア、および非水溶性のコアを有し得る。このコアが水溶性であるポリマー領域である場合、使用され得る適切なポリマーとしては、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、コポリエチレンオキシドのブロックコポリマーまたはランダムコポリマー)、およびポリビニルアルコール(「PVA」));ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);ポリ(サッカリド)(例えば、デキストラン、キトサン、アルギネート、カルボキシメチルセルロース、酸化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース);ヒアルロン酸;ならびにタンパク質(例えば、アルブミン、コラーゲン、カゼイン、およびゼラチン)が挙げられる。ある実施形態において、上記ポリマーの組み合わせが利用され得る。
【0015】
ポリエーテル、より特定すると、ポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)すなわちポリエチレングリコールが、いくつかの実施形態において利用され得る。分子の性質としてコアが小さい場合、種々の親水性官能基のうちの任意のものが、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、ヒドロキシル、アミン、スルホネートおよびカルボキシレートなどの官能基(これらは、水溶性である)が、前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、スベリン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶性であるが、そのスクシンイミド環にスルホネート基を付加させることによって、スベリン酸のNHSエステルは、アミン基に対する反応性に影響を与えることなく、水溶性にされ得る。
【0016】
第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、多官能性であり得る。このことは、その前駆体が2つ以上の求電子性官能基または求核性官能基を含み得、その結果、例えば、第一のヒドロゲル前駆体上の求核性官能基が第二のヒドロゲル前駆体上の求電子性官能基と反応し得、共有結合を形成し得ることを意味する。第一のヒドロゲル前駆体または第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、2つより多くの官能基を含み、その結果、求電子−求核反応の結果として、これらの前駆体が化合して架橋ポリマー生成物を形成する。
【0017】
これらの求電子性官能基を有する高分子は、マルチアームであり得る。例えば、この高分子は、コアから延びる4つ、6つ、8つ、またはより多くのアームを有する、マルチアームPEGであり得る。このコアは、アームを形成する高分子と同じであっても異なっていてもよい。例えば、このコアはPEGであり得、そしてこれらの複数のアームもまたPEGであり得る。ある実施形態において、このコアは、天然ポリマーであり得る。
【0018】
求電子性架橋剤の分子量(MW)は、約2,000〜約100,000;ある実施形態においては約10,000〜約40,000であり得る。マルチアーム前駆体は、アームの数に依存して変化する分子量を有し得る。例えば、1000MWのPEGを有するアームは、合計少なくとも1000MWになるために充分なCHCHO基を有する。個々のアームを合わせた分子量は、約250〜約5,000;ある実施形態においては約1,000〜約3,000;ある実施形態においては約1,250〜約2,500であり得る。ある実施形態において、この求電子性架橋剤は、例えば、4つ、6つまたは8つのアーム、および約5,000〜約25,000の分子量を有する、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEGであり得る。適切な前駆体の他の例は、米国特許第6,152,943号;同第6,165,201号;同第6,179,862号;同第6,514,534号;同第6,566,406号;同第6,605,294号;同第6,673,093号;同第6,703,047号;同第6,818,018号;同第7,009,034号;および同第7,347,850号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0019】
この求電子性前駆体は、別の成分(ある実施形態においては、天然成分)の求核剤と結合し得る求電子性官能基を提供する、架橋剤であり得る。この天然成分は、この求電子性架橋剤が適用される患者に対して内因性であり得るか、または外因的に適用され得る。
【0020】
ある実施形態において、これらの前駆体のうちの1つは、求核性基を有する天然成分であり得る。存在し得る求核性基としては、例えば、−NH、−SH、−OH、−PH、および−CO−NH−NHが挙げられる。
【0021】
この天然成分は、例えば、コラーゲン、ゼラチン、血液(血清が挙げられ、全血清であっても血清抽出物であってもよい)、ヒアルロン酸、タンパク質、アルブミン、他の血清タンパク質、血清濃縮物、血小板に富む血漿(prp)、およびこれらの組み合わせなどであり得る。利用され得るかまたは別の天然成分に添加され得るさらなる適切な天然成分(本明細書中で時々、生物活性剤と称される)としては、例えば、幹細胞、DNA、RNA、酵素、増殖因子、成長因子、ペプチド、ポリペプチド、抗体、他の窒素性天然分子、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。他の天然成分としては、上記のものの誘導体(例えば、修飾されたヒアルロン酸、デキストラン、他の多糖類、ポリマーおよび/またはポリペプチドであり、天然に誘導され得るか、合成され得るか、または生物学的に誘導され得る、アミノ化多糖類が挙げられる)が挙げられ得る。例えば、ある実施形態において、ヒアルロン酸は、求核性にされるように修飾され得る。
【0022】
ある実施形態において、上記天然成分の任意のものは、当業者の知識の範囲内である方法を利用して、合成により調製され得る(例えば、合成ヒアルロン酸)。同様に、ある実施形態において、この天然成分は、天然または合成の、長鎖アミノ化ポリマーであり得る。この天然成分はまた、求核性ポリマーを作製するように修飾(すなわち、アミノ化)され得る。
【0023】
この天然成分は、この天然成分がインサイチュで接触される組織に、細胞の基本成分または細胞栄養を提供し得る。例えば、血清は、タンパク質、グルコース、凝固因子、鉱物イオン、およびホルモンを含有し、これらは、組織の形成または再生において有用であり得る。
【0024】
ある実施形態において、この天然成分は、全血清を含有する。ある実施形態において、この天然成分は、このヒドロゲルが形成される(または形成されるべき)身体にとって自己由来である(すなわち、コラーゲン、血清、および血液など)。この様式で、ヒドロゲルが使用されるべきヒトまたは動物は、ヒドロゲルの形成において使用するための天然成分を提供し得る。このような実施形態において、得られるヒドロゲルは、合成求電子性前駆体および自己由来/内因性の求核性前駆体を含む、半自己由来である。
【0025】
ある実施形態において、多官能性求核性ポリマー(例えば、複数のアミン基を有する天然成分)が、第一のヒドロゲル前駆体として使用され得、そして多官能請求電子性ポリマー(例えば、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEG)が、第二のヒドロゲル前駆体として使用され得る。ある実施形態において、これらの前駆体は、溶液中にあり得、この溶液が合わせられて、ヒドロゲルの形成を可能にし得る。インサイチュ形成材料系の一部として利用される任意の溶液は、危険な溶媒も毒性の溶媒も含有するべきではない。ある実施形態において、これらの前駆体は、水などの溶媒に実質的に可溶性であり得、生理学的に適合性の溶液(例えば、緩衝化等張生理食塩水)中での適用を可能にする。
【0026】
ある実施形態において、ヒドロゲルは、天然成分としてのコラーゲンとゼラチンとの組み合わせから、多官能性PEGを架橋剤として利用して形成され得る。ある実施形態において、コラーゲンまたはゼラチンは、適切な溶媒を利用して、溶液に入れられ得る。このような緩衝剤は、約8〜約12、ある実施形態においては約8.2〜約9のpHを有し得る。このような緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤などが挙げられるが、これに限定されない。
【0027】
第二の溶液中で、求電子性架橋剤(ある実施形態においては、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子性基で官能基化されたマルチアームPEG)は、緩衝液(例えば、ハンクス平衡塩類溶液、ダルベッコ改変イーグル培地、リン酸緩衝化生理食塩水、水、リン酸緩衝液、およびこれらの組み合わせなど)中で調製され得る。この求電子性架橋剤(ある実施形態においては、N−ヒドロキシスクシンイミド基で官能基化されたマルチアームPEG)は、上記緩衝剤を含有する溶液中に、約0.02グラム/ml〜約0.5グラム/ml、ある実施形態においては約0.05グラム/ml〜約0.3グラム/mlの濃度で存在し得る。
【0028】
これらの2つの成分は、インサイチュに導入され得、ここで、マルチアームPEGの求電子性基が、コラーゲンおよび/またはゼラチンのアミン求核性成分と架橋する。天然成分対求電子性成分(すなわち、コラーゲン:PEG)の比は、約0.1:1〜約100:1、ある実施形態においては約1:1〜約10:1であり得る。
【0029】
天然成分(例えば、コラーゲン、ゼラチン、および/またはヒアルロン酸)は、合わせて、このヒドロゲルの少なくとも約1.5重量%、ある実施形態においてはこのヒドロゲルの約1.5重量%〜約20重量%、他の実施形態においてはこのヒドロゲルの約2重量%〜約10重量%の濃度で存在し得る。特定の実施形態において、コラーゲンは、このヒドロゲルの約0.5重量%〜約7重量%、さらなる実施形態においてはこのヒドロゲルの約1重量%〜約4重量%で存在し得る。別の実施形態において、ゼラチンは、このヒドロゲルの約1重量%〜約20重量%、さらなる実施形態においてはこのヒドロゲルの約2重量%〜約10重量%で存在し得る。なお別の実施形態において、天然成分として合わせられたヒアルロン酸およびコラーゲンは、このヒドロゲルの約0.5重量%〜約8重量%、さらなる実施形態においてはこのヒドロゲルの約1重量%〜約5重量%で存在し得る。ヒアルロン酸は、「構造的」成分としては存在しないかもしれず、むしろ生物活性剤として存在し得ることもまた想定される。例えば、ヒアルロン酸は、溶液/ゲルの0.001重量%程度の低い濃度で溶液/ゲル中に存在し得、そして生物学的活性を有する。
【0030】
求電子性架橋剤は、このヒドロゲルの約0.5重量%〜約20重量%、ある実施形態においてはこのヒドロゲルの約1.5重量%〜約15重量%の量で存在し得る。
【0031】
インサイチュ形成材料は、共有結合、イオン結合、または疎水性結合のいずれかによって形成され得る。物理的(非共有結合性)架橋は、錯化、水素結合、脱溶媒、ファンデルワールス相互作用、イオン結合、およびこれらの組み合わせなどから得られ得、そしてインサイチュで合わせられるまで物理的に離されている2つの前駆体を混合することによって、または生理学的環境(温度、pH、イオン強度、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる)によくある条件の結果として、開始され得る。化学的(共有結合性)架橋は、多数の機構(フリーラジカル重合、縮合重合、アニオン重合またはカチオン重合、段階成長重合、求電子剤/求核剤反応、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる)によって達成され得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、インサイチュ形成材料系は、前駆体が混合される場合に自発的に架橋する、生体適合性多前駆体系を含み得るが、この場合、これらの2つ以上の前駆体は、堆積プロセス中にわたって個々に安定である。他の実施形態において、インサイチュ形成材料は、内因性の材料および/または組織と架橋する、単一の前駆体を含み得る。
【0033】
得られる生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤および天然成分の全体の分子量、ならびに1つの分子あたりで利用可能な官能基の数によって、制御され得る。架橋剤のうちの低い方の分子量(例えば、600ダルトン(Da))は、高い方の分子量(例えば、10,000Da)と比較して、かなり高い架橋密度を与える。弾性ゲルは、3000Daより高い分子量を有する高分子量の天然成分を用いて得られ得る。
【0034】
架橋密度はまた、架橋剤溶液および天然成分溶液の全体の固形分により制御され得る。固形分が増加すると、加水分解による不活性化の前に求電子性基が求核性基と化合する可能性が増加する。架橋密度を制御するためのなお別の方法は、求核性基と求電子性基との化学量論を調節することによる。1:1の比は、最高の架橋密度をもたらし得るが、反応性官能基の他の比(例えば、求電子剤:求核剤)が、所望の処方物に合うことが想定される。
【0035】
求核性官能基を含有する天然成分と、求電子性官能性前駆体とは、反応してヒドロゲルを形成する。この反応は、インサイチュで起こり得るか、または内部もしくは表面への将来の移植のために身体の外側で起こり得る。ある実施形態において、本開示のヒドロゲルは、表面(例えば、患者の組織上)への適用後に迅速に架橋してインサイチュ形成材料を形成する前駆体を化合させることによって、生成され得る。
【0036】
このように生成されたヒドロゲルは、生体吸収性であり得、その結果、このヒドロゲルは、身体から回収される必要がない。吸収性材料は、生物学的組織により吸収され、そして所定の期間の終了時にインビボで消滅する。この所定の期間は、その材料の化学的性質に依存して、例えば、1日から数ヶ月まで変動し得る。吸収性材料としては、天然生分解性ポリマーおよび合成生分解性ポリマー、ならびに生体腐食性ポリマーが挙げられる。
【0037】
ある実施形態において、官能基の間に存在する生分解性結合を有する1つ以上の前駆体が、ヒドロゲルを生分解性または吸収性にするために含まれ得る。いくつかの実施形態において、これらの結合は、例えば、エステルであり得、これらの結合は、生理学的溶液中で加水分解により分解され得る。このような結合の使用は、タンパク質分解作用によって分解され得るタンパク質結合とは対照的である。生分解性結合はまた、必要に応じて、前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアの一部を形成し得る。あるいは、またはさらに、前駆体の官能基は、これらの官能基間の反応生成物が生分解性結合をもたらすように選択され得る。各アプローチについて、生分解性結合は、得られる生分解性の生体適合性架橋ポリマーが所望の期間で分解するかまたは吸収されるように、選択され得る。一般に、ヒドロゲルを生理学的条件下で非毒性または低毒性の生成物に分解する、生分解性結合が選択され得る。
【0038】
本開示のゲルは、天然成分の一部であれ、合成求電子性架橋剤に組み込まれるのであれ、生分解性領域の加水分解または酵素分解に起因して、分解し得る。合成ペプチド配列を含むゲルの分解は、特定の酵素およびその濃度に依存する。いくつかの場合において、特定の酵素は、分解プロセスを加速するために、架橋反応中に添加され得る。いずれの分解性酵素も存在しない場合、架橋したポリマーは、生分解性セグメントの加水分解のみによって分解し得る。ポリグリコレートが生分解性セグメントとして使用される実施形態において、架橋したポリマーは、その網目構造の架橋密度に依存して、約1日〜約30日で分解し得る。同様に、ポリカプロラクトンベースの架橋網目構造が使用される実施形態において、分解は、約1ヶ月〜約8ヶ月の期間にわたって起こり得る。分解時間は、一般に、使用される分解性セグメントの型に従って、以下の順序で変わる:ポリグリコレート<ポリラクテート<ポリトリメチレンカーボネート<ポリカプロラクトン。従って、適切な分解性セグメントを使用して、所望の分解プロフィール(数日〜数ヶ月)を有するヒドロゲルを構築することが可能である。
【0039】
利用される場合、求電子性架橋剤を形成するために利用される、生分解性ブロック(例えば、オリゴヒドロキシ酸ブロック)により得られる疎水性、またはPLURONICTMポリマーもしくはTETRONICTMポリマーのPPOブロックの疎水性は、低分子薬物分子を溶解する助けになり得る。生分解性ブロックまたは疎水性ブロックの組み込みにより影響を受ける他の特性としては、水吸収、機械的特性および感熱性が挙げられる。
【0040】
インサイチュ形成材料系の特性は、意図される用途に従って選択され得る。例えば、このインサイチュ形成材料が生殖器官(例えば、ファローピウス管)を一時的に閉塞させるために使用されるべきである場合、このインサイチュ形成材料系は、充分な膨潤を起こし、生分解性であることが望ましくあり得る。あるいは、このインサイチュ形成材料は、血栓特性を有し得るか、またはその前駆体が血液もしくは他の体液と反応して、凝塊を形成し得る。ある実施形態において、これらの前駆体は、血液または体液(これらは、内因性であっても外因的に与えられてもよい)と反応し、これによって組織足場を形成する。
【0041】
他の用途は、インサイチュ形成材料系の異なる特徴を必要とし得る。一般に、これらの材料は、生体適合性を示すこと、および毒性を欠くことに基づいて、選択されるべきである。
【0042】
インサイチュ形成材料の特定の特性は、有用であり得る。これらの特性としては、種々の組織への接着、外科医がインサイチュ形成材料を正確かつ簡便に配置することを可能にするのに望ましい硬化時間、生体適合性のための高い含水量(これは、ヒドロゲルに関連し得る)、封止剤において使用するための機械的強度、および/または配置後の破壊に抵抗するための靭性が挙げられる。従って、容易に滅菌され、そして天然材料の使用に関与する疾患感染の危険性を回避する、合成材料が使用され得る。実際に、合成前駆体を使用して作製される、特定のインサイチュ重合性ヒドロゲルは、当業者の知識の範囲内であり、例えば、FOCALSEAL(登録商標)(Genzyme,Inc.)、COSEAL(登録商標)(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(登録商標)(Confluent Surgical,Inc)などの市販の製品において使用されている。他の公知のヒドロゲルとしては、例えば、米国特許第6,656,200号;同第5,874,500号;同第5,543,441号;同第5,514,379号;同第5,410,016号;同第5,162,430号;同第5,324,775号;同第5,752,974号;および同第5,550,187号に開示されるものが挙げられる。
【0043】
上記のように、ある実施形態において、分岐マルチアームPEG(本明細書中で時々、PEGスターと称される)が、本開示のヒドロゲルを形成するために含まれ得る。PEGスターは、そのアームが生体機能性基(biofunctional group)(例えば、アミノ酸、ペプチド、抗体、酵素、薬物、これらの組み合わせ)、または他の部分(例えば、生物活性剤)を、そのコア、そのアーム、またはそのアームの端部に含むように、官能基化され得る。これらの生体機能性基はまた、PEGの骨格に組み込まれ得るか、またはPEG骨格内に含まれる反応性基に付着され得る。この結合は、共有結合性であっても非共有結合性であってもよく(静電結合、チオールにより媒介される結合、ペプチドにより媒介される結合が挙げられる)、または公知の反応性化学(例えば、ビオチンとアビジン)を使用してもよい。
【0044】
PEGスターに組み込まれるアミノ酸は、天然物であっても合成物であってもよく、そして単独で使用されても、ペプチドの一部として使用されてもよい。配列は、細胞接着、細胞分化、およびこれらの組み合わせなどのために利用され得、そして他の生物学的分子(例えば、増殖因子、成長因子、薬物、サイトカイン、DNA、抗体、酵素、およびこれらの組み合わせなど)を結合するために有用であり得る。このようなアミノ酸は、このPEGスターの酵素分解の際に放出され得る。
【0045】
これらのPEGスターはまた、上記のような官能基を含んで、これらのPEGスターのヒドロゲルへの組み込みを可能にし得る。このPEGスターは、求電子性架橋剤として利用され得るか、またはある実施形態においては、上記求電子性架橋剤に加えた別の成分として利用され得る。ある実施形態において、これらのPEGスターは、求核性基に結合する求電子性基を含み得る。上記のように、これらの求核性基は、本開示のヒドロゲルを形成するために利用される天然成分の一部であり得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、生体機能性基が、分解性結合(PEGカルボン酸または活性化PEGカルボン酸と、生体機能性基のアルコール基との反応によって形成されるエステル結合が挙げられる)によって、PEGスターに含まれ得る。この場合、これらのエステル基は、生理学的条件下で加水分解して、生体機能性基を放出し得る。
【0047】
ある実施形態において、インサイチュ形成材料はまた、開始剤を含み得る。開始剤は、インサイチュ形成材料の形成のための重合反応を開始させ得る任意の前駆体または基であり得る。
【0048】
(インサイチュ重合)
前駆体は、使用前に溶解されて溶液を形成し得、この溶液が、患者に送達され得る。本明細書中で使用される場合、溶液は、均質であっても、不均質であっても、相分離していても、その他であってもよい。他の実施形態において、前駆体は、エマルジョンであり得る。本開示に従って使用するために適切な溶液としては、管腔または空隙内で移植物を形成するために使用され得る溶液が挙げられる。2つの溶液が使用される場合、各溶液が、接触の際に形成するインサイチュ形成材料の前駆体を1つずつ含み得る。これらの溶液は、別々に保存され得、そして組織に送達される際に混合され得る。
【0049】
上記のような求電子性架橋剤は、天然成分と反応して、架橋したポリマー網目構造を生成し得る。一般に、架橋剤の水溶液が天然成分と混合されて、架橋したヒドロゲルを生成し得る。架橋したポリマーヒドロゲルを形成するための反応条件は、官能基の性質に依存する。ある実施形態において、反応は、約5〜約12のpHで緩衝された水溶液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液、ダルベッコ改変イーグル培地、水、リン酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、エタノールまたはイソプロパノールなどの有機溶媒が添加されて、反応速度を改善し得るか、または所定の処方物の粘度を調節し得る。
【0050】
求電子性架橋剤が合成された(例えば、ポリアルキレンオキシドベースの)ものである場合、モル当量の反応物質を使用することが望ましくあり得る。いくつかの場合において、モル過剰の求電子性架橋剤が、官能基の加水分解に起因する反応などの副反応を補償するために、添加され得る。
【0051】
求電子性架橋剤および天然成分を選択する際に、前駆体のうちの少なくとも1つは、1分子あたり2つより多い官能基、および得られる生体適合性架橋ポリマーが生分解性であることが望ましい場合、少なくとも1つの分解性領域を有し得る。
【0052】
前駆体架橋反応をインサイチュで起こすために適切にされた処方物が調製され得る。一般に、これは、組織への適用の時点で活性化されて架橋したヒドロゲルを形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。活性化は、前駆体を組織に適用する前に行われても、適用中に行われても、適用後に行われてもよく、ただし、この前駆体は、架橋および付随するゲル化が進みすぎる前にその組織の形状に一致させられる。活性化は、例えば、互いに反応する官能基を有する前駆体を混合することを包含する。従って、インサイチュ重合は、不溶性材料が患者の表面、内部、または表面と内部との両方に配置される位置で、化学部分を活性化させて共有結合を形成させ、不溶性材料(例えば、ヒドロゲル)を作製することを包含する。インサイチュ重合性ポリマーは、患者内でポリマーを形成するように反応し得る前駆体から調製され得る。従って、求電子性官能基を有する前駆体が、求核性官能基を有する前駆体の存在下で混合され得るか、または他の様式で活性化され得る。
【0053】
組織をコーティングすることに関して、本開示を操作の特定の理論に限定しないが、組織表面との接触後に迅速に架橋する反応性前駆体種は、コーティングされる組織に機械的に相互に噛み合う三次元構造体を形成し得ると考えられる。この相互の噛み合いは、組織のコーティングされる領域の接着性、密接な接触、および連続的な被覆に寄与する。他の実施形態において、求電子性前駆体が使用される場合、このような前駆体は、組織内の遊離アミンと反応し得、これによって、ヒドロゲルを組織に付着させるための手段として働き得る。
【0054】
ゲル化をもたらす架橋反応は、ある実施形態においては約1秒〜約5分、ある実施形態においては約3秒〜約1分以内の時間で起こり得る。当業者は、全ての範囲、およびこれらの明示的に記載される範囲内である値が想定されることを、即座に理解する。例えば、ある実施形態において、本開示によるヒドロゲルのインサイチュゲル化時間は、約20秒未満、ある実施形態においては約10秒未満、そしてなお他の実施形態においては約5秒未満である。
【0055】
(投与)
上記のように、求電子性架橋剤は単独で導入され得、これによって、内因性天然成分を架橋させる。あるいは、天然成分(例えば、血漿)が患者から取り出され得るかまたは他の供給源から得られ得、次いで、求電子性架橋剤と一緒に導入されて、本開示のヒドロゲルを形成し得る。前駆体は、使用前に溶液に入れられ得、この溶液が患者に送達され得る。単一の前駆体(すなわち、求電子性架橋剤の送達のために注射器を使用し得るか、または1つより多くの前駆体溶液を適用するために二重注射器もしくは類似のデバイス(例えば、米国特許第4,874,368号;同第4,631,055号;同第4,735,616号;同第4,359,049号;同第4,978,336号;同第5,116,315号;同第4,902,281号;同第4,932,942号;同第6,179,862号;同第6,673,093号;および同第6,152,943号に記載されるもの)を使用し得る。
【0056】
他の実施形態において、これらの前駆体は、合わせられてフィルムまたは発泡体を作製し得、次いで、このフィルムまたは発泡体が、患者に移植され得る。フィルムおよび発泡体を作製するための方法は、当業者の知識の範囲内であり、噴霧、フィルムキャスティング、凍結乾燥技術などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
(用途)
上記のように、本開示のヒドロゲルは、組織の接着剤または封止剤として利用され得る。このヒドロゲルはまた、組織の欠損部を補正するために使用され得る。本明細書中で使用される場合、「組織欠損部」は、正常な健常な状態からの組織の何らかの破壊を包含し得る。この破壊は、内的要因(例えば、変性疾患)または外的要因(例えば、損傷)に起因し得る。組織の正常な構造体からの任意の逸脱が、「組織欠損部」であり得る。いくつかの実施形態において、組織欠損部を補正するために利用される場合、本開示のヒドロゲルは、組織足場と称され得る。
【0058】
これらのヒドロゲル組成物は、軟骨修復、腱修復、靭帯修復、変形性関節症の処置、骨充填材、軟組織欠損部を修復するため、軟組織と硬組織との界面の充填剤として、および/または一般的な器官もしくは組織の修復のために利用され得る。一般的な器官もしくは組織の修復としては、例えば、胃腸、胸、心臓、神経、または他の器官の修復が挙げられ得る。
【0059】
軟骨修復のために利用される実施形態において、本開示のヒドロゲルを使用する方法は、軟骨欠損部を識別する工程、および次いで、この軟骨欠損部をきれいにする工程を包含し得る。一旦、この欠損部がきれいにされると、本開示のヒドロゲル組成物がこの欠損部に導入され得る。上記のように、ある実施形態において、少なくとも1つのヒドロゲル前駆体がこの欠損部に導入され得る。ある実施形態において、前駆体のうちの1つ(時々、第一のヒドロゲル前駆体と称される)は、求核性基を有する天然成分であり得る。上記のように、この天然成分は、内因性に適用されても、外因的に適用されてもよい。求電子性官能基を有する第二の前駆体もまた、上に記載されたかまたは当業者の知識の範囲内である任意の方法または装置を利用して、この欠損部に適用され得る。次いで、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体は、反応してヒドロゲルを形成し得、このヒドロゲルは、その軟骨欠損部の部位において、組織足場として働き得る。
【0060】
このヒドロゲルは、多孔性であっても滑らかであってもよい。特定の実施形態において、このヒドロゲルは、多孔性であり得る。用語「多孔性」とは、本明細書中で使用される場合、このヒドロゲルが画定された開口部および/または空間を有し得、これらの開口部および/または空間が、表面特性としてかまたはバルク材料特性として存在し、このヒドロゲルに部分的にかまたは完全に貫入することを意味する。細孔は、当業者の知識の範囲内である方法(焼結、塩、糖またはデンプン結晶の浸出などのプロセスが挙げられるが、これらに限定されない)を使用して作製され得る。多孔性材料は、連続気泡構造を有し得る。連続気泡構造において、これらの細孔は互いに連結して、相互接続された網目構造を形成する。逆に、ヒドロゲルは、不連続気泡であり得、不連続気泡において、これらの細孔は相互接続されない。
【0061】
このヒドロゲルは、さらなる生物活性剤でコーティングされ得るか、またはさらなる生物活性剤を含有し得る。用語「生物活性剤」は、本明細書中で使用される場合、その最も広い意味で使用され、そして臨床用途を有する任意の物質または物質の混合物を包含する。従って、生物活性剤は、それ自体で薬理学的活性を有しても有さなくてもよい(例えば、色素)。
【0062】
あるいは、生物活性剤は、治療効果もしくは予防効果を提供する任意の剤であり得るか、組織成長、細胞増殖、および/もしくは細胞分化に影響を与えるかまたは関与する化合物であり得るか、接着防止化合物であり得るか、生物学的作用(例えば、免疫応答)を引き起こし得る化合物であり得るか、あるいは1つ以上の生物学的プロセスにおいて他の任意の役割を果たし得る。この生物活性剤は、物質の任意の適切な形態(例えば、フィルム、粉末、液体、およびゲルなど)で、ヒドロゲルに付けられ得ることが想定される。
【0063】
上記のように、マルチアームPEGまたはPEGスターを含む実施形態において、生物活性剤は、PEGのコア、PEGのアーム、またはこれらの組み合わせに組み込まれ得る。ある実施形態において、生物活性剤は、PEG鎖内の反応性基に付着し得る。生物活性剤は、共有結合で結合しても非共有結合(すなわち、静電結合、チオール媒介結合もしくはペプチド媒介結合、またはビオチン−アビジン化学の使用など)で結合してもよい。
【0064】
本開示により利用され得る生物活性剤のクラスの例としては、例えば、接着防止剤、抗菌薬、鎮痛薬、解熱薬、麻酔薬、鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、心臓血管剤、診断剤、交感神経様作用薬、コリン様作用薬、抗ムスカリン薬、鎮痙薬、ホルモン、増殖因子、成長因子、筋弛緩薬、アドレナリン作用性ニューロン遮断薬、抗腫瘍薬、免疫原性剤、免疫抑制薬、胃腸薬、利尿薬、ステロイド、脂質、リポ多糖類、多糖類、血小板活性化薬、凝固因子、および酵素が挙げられる。生物活性剤の組み合わせが使用され得ることもまた意図される。
【0065】
接着防止薬剤は、ヒドロゲルと、標的組織に対向する周囲組織との間で接着が形成されることを防止するために利用され得る。さらに、接着防止薬剤は、コーティングされた移植可能な医療デバイスと、任意の包装材料との間で接着が形成されることを防止するために使用され得る。これらの薬剤のいくつかの例としては、親水性ポリマー(例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコールおよびこれらの組み合わせ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
生物活性薬剤として含有され得る適切な抗菌剤としては、例えば、トリクロサン(triclosan)(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルとしてもまた公知)、クロルヘキシジンおよびその塩(酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、および硫酸クロルヘキシジンが挙げられる)、銀およびその塩(酢酸銀、安息香酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、乳酸銀、ラウリン酸銀、硝酸銀、酸化銀、パルミチン酸銀、銀タンパク、および銀スルファジアジンが挙げられる)、ポリミキシン、テトラサイクリン、アミノグリコシド(例えば、トブラマイシンおよびゲンタマイシン)、リファンピシン、バシトラシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、ミコナゾール、キノロン(例えば、オキソリン酸、ノルフロキサシン、ナリジクス酸、ペフロキサシン(pefloxacin)、エノキサシンおよびシプロフロキサシン)、ペニシリン(例えば、オキサシリンおよびピプラシル(pipracil))、ノンオキシノール9、フシジン酸、セファロスポリン、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、抗菌タンパク質およびペプチド(例えば、ウシラクトフェリンおよびラクトフェリシン(lactoferricin)B)が、生物活性薬剤として含有され得る。
【0067】
生物活性剤として含有され得る他の生物活性剤としては、局所麻酔薬;非ステロイド性抗受精剤;副交感神経様作用剤;精神療法剤;トランキライザ;うっ血除去薬;鎮静催眠薬;ステロイド;スルホンアミド;交感神経様作用剤;ワクチン;ビタミン;抗マラリア薬;抗片頭痛薬;抗パーキンソン剤(例えば、L−ドパ);鎮痙薬;抗コリン作用性剤(例えば、オキシブチニン);鎮咳薬;気管支拡張薬;心臓血管剤(例えば、冠状血管拡張薬およびニトログリセリン);アルカロイド;鎮痛薬;麻酔薬(例えば、コデイン、ジヒドロコデイノン、メペリジン、モルヒネなど);非麻酔薬(例えば、サリチレート、アスピリン、アセトアミノフェン、d−プロポキシフェンなど);オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ナルトレキソンおよびナロキソン);抗癌剤;鎮痙薬;制吐薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症剤(例えば、ホルモン剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、非ホルモン剤、アロプリノール、インドメタシン、フェニルブタゾンなど);プロスタグランジンおよび細胞傷害性剤;化学療法剤;エストロゲン;抗菌剤;抗生物質;抗真菌剤;抗ウイルス剤;抗凝固薬;鎮痙薬;抗うつ薬;抗ヒスタミン薬;ならびに免疫学的剤が挙げられる。
【0068】
ヒドロゲルに含有され得る適切な生物活性剤の他の例としては、例えば、ウイルスおよび細胞(幹細胞が挙げられる)、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質、ならびにそのアナログ、ムテイン、および活性フラグメント、免疫グロブリン、抗体、サイトカイン(例えば、リンホカイン、モノカイン、ケモカイン)、血液凝固因子、造血因子、インターロイキン(IL−2、IL−3、IL−4、IL−6)、インターフェロン(β−IFN、α−IFNおよびγ−IFN)、エリスロポイエチン、ヌクレアーゼ、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM−CSF、MCSF)、インスリン、抗腫瘍剤および癌抑制因子、血液タンパク質(例えば、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、合成トロンビン、合成フィブリン、合成フィブリノゲン)、性腺刺激ホルモン(例えば、FSH、LH、CGなど)、ホルモンおよびホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン)、ワクチン(例えば、腫瘍性抗原、細菌性抗原およびウイルス性抗原);ソマトスタチン;抗原;血液凝固因子;増殖因子または成長因子(例えば、神経発育因子、インスリン様成長因子);骨形成タンパク質;TGF−β;タンパク質インヒビター;タンパク質アンタゴニスト;タンパク質アゴニスト;核酸(例えば、アンチセンス分子、DNA、RNA、RNAi);オリゴヌクレオチド;ポリヌクレオチド;ならびにリボザイムが挙げられる。
【0069】
前駆体および/またはこれらの前駆体から形成されるヒドロゲルは、外科手術手順中の可視性を改善するために、可視化剤を含有し得る。可視化剤は、移植可能な医療デバイスにおける使用に適した種々の非毒性の有色物質(例えば、色素)から選択され得る。適切な色素は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、ヒドロゲルがインサイチュで形成される際にこのヒドロゲルの厚さを可視化するための色素(例えば、米国特許第7,009,034号に記載されるもの)が挙げられる。いくつかの実施形態において、適切な色素としては、例えば、FD&C Blue #1、FD&C Blue #2、FD&C Blue #3、FD&C Blue #6、D&C Green #6、メチレンブルー、インドシアニングリーン、他の有色色素、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。さらなる可視化剤(例えば、蛍光性化合物(例えば、フルオレセインまたはエオシン)、X線造影剤(例えば、ヨウ素化化合物)、超音波造影剤、およびMRI造影剤(例えば、ガドリニウム含有化合物))が使用され得ることが想定される。
【0070】
可視化剤は、架橋剤溶液または天然成分溶液のいずれに存在してもよい。有色物質は、得られるヒドロゲルに組み込まれても組み込まれなくてもよい。しかし、ある実施形態において、可視化剤は、架橋剤または天然成分と反応し得る官能基を有さない。
【0071】
可視化剤は少量で使用され得、ある実施形態においては、1重量/体積%未満、そして他の実施形態においては、0.01重量/体積%未満、そしてなお他の実施形態においては、0.001重量/体積%未満の濃度である。
【0072】
ある実施形態において、生物活性剤は、ヒドロゲルによりカプセル化され得る。例えば、このヒドロゲルは、生物活性剤の周囲にポリマー微小球を形成し得る。
【0073】
このヒドロゲルが組織足場として利用される場合、創傷治癒および/または組織成長を促進する生物活性剤(コロニー刺激因子、血液タンパク質、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、ホルモンおよびホルモンアナログ、血液凝固因子、増殖因子、成長因子、骨形成タンパク質、TGF−β、IGF、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる)を含有することが望ましくあり得る。
【0074】
このヒドロゲルがインサイチュで加水分解するにつれて、生物活性成分および添加される任意の生物活性剤が放出される。これは、天然成分および生物活性剤から周囲組織へと栄養を提供し得、これによって、組織の成長および/または再生を促進し得る。
【0075】
他の実施形態において、細胞カプセル化の方法が開示される。この方法は、第一の溶液を作製する工程を包含し、例えば、細胞溶液が第二の溶液(例えば、マルチアームポリエチレングリコール(PEG)溶液)と約1:1の比で合わせられ得る(本明細書中以下で、第三の溶液)。この第三の溶液は、天然成分と一緒に組織内に共射出され得る。ある実施形態において、この天然成分は、コラーゲン、血清、ゼラチン、ヒアルロン酸およびこれらの組み合わせを含有する溶液を含み得る。用語溶液とは、本明細書中で使用される場合、懸濁液、エマルジョン、およびスラリーなどを包含する。
【0076】
なお他の実施形態において、細胞カプセル化の方法は、予め形成された鋳型内に、第三の溶液および天然成分を共射出する工程を包含する。この鋳型は、特定の組織構造体(例えば、器官または移植片)を模倣または再現するように、予め形成され得る。これらの鋳型はまた、組織の空間または空隙を充填するために使用され得る移植物またはヒドロゲルを与えるような形状にされ得る。
【0077】
代替の実施形態において、第三の溶液は、天然成分を含む足場または組織内に射出され得る。
【0078】
適切なマルチアームPEGとしては、本明細書中に開示されるもの(例えば、4アームPEG、6アームPEG、および8アームPEG)が挙げられる。さらに、これらのマルチアームPEGは、求電子性官能基を含むことが理解されるべきである。適切な求電子性官能基としては、上に記載されたものが挙げられる。
【0079】
さらに、天然成分溶液の緩衝剤濃度は、マルチアームPEGのMW、およびマルチアームPEGのアームまたは分岐の数の関数として、変動し得る。ホウ酸ナトリウム緩衝剤は、約0.075M〜約0.235Mの範囲である。
【0080】
適切な細胞としては、組織層、組織、器官、器官系(実質および/または中空の循環性/体液ベースなど)(内皮または上皮;層;外膜;血球(赤血球または白血球);静脈または動脈起源;組織または血液ベースの炎症/免疫細胞(大食細胞/単球、T細胞、キラー細胞、巨細胞、および好中球/多形核細胞などが挙げられる);リンパ由来細胞;骨由来細胞(骨芽細胞、破骨細胞、前骨芽細胞);骨髄吸引液または骨髄由来細胞;幹細胞/前駆細胞/成体幹細胞;心臓/心筋層;血管/動脈;臍帯/胎児組織/器官/細胞;腎臓/腎細胞;脂肪;肝臓;膵臓;膀胱;尿管;骨膜;筋膜;肺;胃腸管細胞(例えば、食道、小腸/大腸、結腸、直腸、および胃);神経細胞(ニューロンおよびグリア細胞(例えば、(中枢神経系および/もしくは末梢神経系)ニューロン、神経膠星状細胞、シュヴァン細胞、希突起神経膠芽細胞、小神経膠細胞、嗅覚鞘性細胞、脊髄神経節細胞、神経幹細胞および神経前駆細胞)、脳、索、または神経由来、および視神経/網膜が挙げられる);角膜、網膜、虹彩、視神経、毛様体筋、および斜視の種々の層が挙げられる眼;結合組織/軟組織(腹壁、骨盤底、軟骨、半月板、靭帯、腱、関節包、筋肉、皮膚および真皮細胞が挙げられる)、毛包ならびにこれらの組み合わせのうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない)に由来する細胞が挙げられる。
【0081】
上記細胞は、上記のもののうちの1つ以上に由来する全集団であっても、上記のもののうちの1つ以上に由来する選択された集団であってもよい。選択された集団は、種々の選別手順または選択手順(表面マーカー、接着方法、密度による方法、遺伝学的な方法、サイズによる方法、プロテオミクスによる方法、または細胞集団を区別するために使用される他の任意の方法が挙げられる)によって得られ得る。
【0082】
以下の実施例は、本開示の実施形態を説明するために与えられる。これらの実施例は、説明的であることのみを意図され、そして本開示の範囲を限定することを意図されない。また、他に記載されない限り、部および百分率は重量に基づく。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
ヒドロゲルを、以下のように調製する。コラーゲンを、ホウ酸緩衝液(pH8.75)に、超音波処理機を使用して約37℃で、約5分間にわたって溶解して、約3重量%〜約6重量%の最終濃度を得る。次いで、このコラーゲン溶液を遠心分離して、気体/泡を除去する。これとは別に、マルチアームPEGをハンクス緩衝液(中性pH)に溶解して、約4重量%〜約40重量%の最終濃度を得る。次いで、これらの2つの溶液を、1:1の比で同時にインサイチュで噴霧して、約1.5重量%〜約3重量%のコラーゲン、および約2.5重量%〜約20重量%のPEGの最終ゲル濃度を得る。
【0084】
(実施例2)
10:1の比のコラーゲン:PEGで、約0.5重量%〜約4重量%のマルチアームPEGおよび約3重量%〜約6重量%のコラーゲンの最終ゲル濃度を得ることを除いては、実施例1に記載されたように、ヒドロゲルを調製する。
【0085】
(実施例3)
ヒドロゲルを、以下のように調製する。ゼラチンを約5重量%〜約15重量%の濃度で、約8.25のpHのホウ酸緩衝液に溶解する。これとは別に、マルチアームPEGを約5重量%〜約20重量%の濃度でハンクス緩衝液に溶解する。溶液をインサイチュで1:1の比で同時に噴霧して、約2.5重量%〜約7.5重量%のゼラチン、および約2.5重量%〜約10重量%のマルチアームPEGの最終ゲル濃度を得る。
【0086】
(実施例4)
ヒドロゲルを、以下のように調製する。ヒアルロン酸を、中性pHのハンクス緩衝液に、約2重量%までで溶解する。次に、マルチアームPEGをこのヒアルロン酸溶液に、約5重量%〜約20重量%の濃度で添加する。別の容器で、コラーゲンをホウ酸緩衝液(pH8.75)に、約3重量%〜約6重量%の最終溶液濃度で溶解する。次いで、これらの2つの溶液を、インサイチュで1:1の比で噴霧する。最終ゲル濃度は、約1重量%のヒアルロン酸、約1.5重量%〜約3重量%のコラーゲン、および約2.5重量%〜約10重量%のマルチアームPEGである。
【0087】
実施例1、3および4のゲルの成分を、以下の表1に要約する。
【0088】
【表1】

4a10kSS: 4アームPEG;分子量(Mw) 10 kDa; SS (スクシンイミジルスクシネート)リンカー
4a20kSG: 4アームPEG; Mw 20 kDa; SG (スクシンイミジルグルタレート)リンカー
8a15kSG: 8アームPEG; Mw 15 kDa; SGリンカー
*注:濃度は、1:1で混合する前の各成分についてのものである。
【0089】
(実施例5)
第一の細胞溶液を作製した。細胞をトリプシン処理し、トリプシンを中和し、そして計数した。次いで、細胞を遠心分離により沈降させ、そしてハンクス緩衝塩溶液に再懸濁させて、4×10細胞/mLの濃度の第一の細胞溶液を作製した。
【0090】
マルチアームPEG(200mg/mL)をハンクス緩衝塩溶液に溶解することにより、第二の溶液を作製した。
【0091】
この第一の溶液とこの第二の溶液とを約1:1の比で混合して、第三の溶液を作製した。
【0092】
これとは別に、ゼラチンを、0.235Mのホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.25)中に10重量%で可溶化した。得られたゼラチン溶液をボルテックスし、超音波処理し、そして遠心分離により沈降させて、気泡を除去した。
【0093】
この第三の溶液とゲル化溶液とを二重バレル注射器に入れ、そして共射出した(この第三の溶液およびこのゼラチンは、この二重バレル注射器の別々のバレルに配置される)。
【0094】
上に列挙された実施例はインサイチュで形成されるが、これらの材料は、エキソビボで形成され得、その後、インサイチュで移植物として利用されてもよいことが留意されるべきである。
【0095】
上記説明は、多くの特定のものを含むが、これらの特定のものは、本開示の範囲に対する限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の好ましい実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、本開示の範囲および趣旨内である他の多くの可能なバリエーションを予測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の濃度で第一の緩衝塩溶液中に懸濁している細胞を含有する、第一の溶液、および
所望の濃度で第二の緩衝塩溶液中に溶解しているマルチアームポリエチレングリコールを含有する、第二の溶液、
を含有する、細胞カプセル化のための組成物であって、
該第一の溶液と該第二の溶液とが約1:1の比で混合されて、第三の溶液を作製しており、
該第三の溶液が、コラーゲン、血清、ゼラチン、ヒアルロン酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される天然成分と共射出されることを特徴とする、細胞カプセル化のための組成物。
【請求項2】
前記天然成分がコラーゲンを含有する溶液を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記天然成分がゼラチンを含有する溶液を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物がヒドロゲルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記第一の溶液の前記所望の濃度が、前記ヒドロゲル中の前記細胞の所望の最終濃度の約4倍である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記第二の溶液の前記所望の濃度が、前記ヒドロゲル中の前記マルチアームポリエチレングリコールの所望の最終濃度の約4倍である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記細胞が、内皮または上皮;層;外膜;血球(赤血球または白血球);静脈または動脈起源;大食細胞/単球、T細胞、キラー細胞、巨細胞、および好中球/多形核細胞などが挙げられる、組織または血液ベースの炎症/免疫細胞;リンパ由来細胞;骨由来細胞(骨芽細胞、破骨細胞、前骨芽細胞);骨髄吸引液または骨髄由来細胞;幹細胞/前駆細胞/成体幹細胞;心臓/心筋層;血管/動脈;臍帯/胎児組織/器官/細胞;腎臓/腎細胞;脂肪;肝臓;膵臓;膀胱;尿管;骨膜;筋膜;肺;食道、小腸/大腸、結腸、直腸、および胃などの胃腸管細胞;ニューロンおよびグリア細胞(例えば、(中枢神経系および/もしくは末梢神経系)ニューロン、神経膠星状細胞、シュヴァン細胞、希突起神経膠芽細胞、小神経膠細胞、嗅覚鞘性細胞、脊髄神経節細胞、神経幹細胞および神経前駆細胞、脳、索、または神経由来、および視神経/網膜)が挙げられる神経細胞;角膜、網膜、虹彩、視神経、毛様体筋、および斜視の種々の層が挙げられる眼;腹壁、骨盤底、軟骨、半月板、靭帯、腱、関節包、筋肉、皮膚および真皮細胞が挙げられる結合組織/軟組織、毛包ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される組織に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記第一の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記第二の緩衝塩溶液がハンクス平衡塩類溶液を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記天然成分が求核性官能基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記天然成分が内因性組織を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記マルチアームポリエチレングリコールが、8アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記マルチアームポリエチレングリコールが、4アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記マルチアームポリエチレングリコールが、6アームN−ヒドロキシスクシンイミド基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記天然成分がホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記天然成分が、約0.075M〜約0.235Mのホウ酸ナトリウム緩衝溶液を構成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
幹細胞、DNA、RNA、酵素、増殖因子、成長因子、ペプチド、ポリペプチド、抗体、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の生物活性剤をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−81252(P2012−81252A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172311(P2011−172311)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】