説明

多価金属イオンおよび分散ポリマーを含む水性組成物

【課題】皮革手入れ剤およびフロアポリッシュにおける成分として有用な高いレベルの多価金属カチオンを含有する水性ポリマー分散体を提供する。
【解決手段】(a)少なくとも1種類の水性ポリマー分散体であって、該ポリマーが1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含むモノマー混合物から形成される水性ポリマー分散体、(b)少なくとも1種類の膨潤剤、および(c)少なくとも1種類の多価金属イオン、を含有する組成物であって、該組成物が該分散体(a)と、該膨潤剤(b)の幾らかまたはすべてとの予備混合物を形成する工程を含む方法によって形成され、ここで、該予備混合物中の、該予備混合物中の多価金属イオンの当量の、カルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
様々な有用な組成物が水中に分散された少なくとも1種類のポリマーおよび少なくとも1種類の多価金属カチオンを含む。かかる組成物の幾つかにおいて、ポリマーは酸官能性を有する。かかる組成物は様々な目的に、例えば、皮革手入れ剤およびフロアポリッシュにおける成分として有用である。幾つかの場合には、組成物がより高いレベルの多価金属カチオンを含有すれば、かかる組成物の有用性が改善されるものの、以前は、かかる組成物の多くの公知例が、比較的低レベルの多価カチオンを含有していた。高レベルの多価カチオンはかかる組成物の特性を改善するものと考えられる。例えば、フロアポリッシュをはじめとするコーティング剤は、より高レベルの多価金属カチオンが用いられる場合、より耐久性を増すものと考えられる。かかる組成物において多価金属カチオンのレベルを高める方法の1つが米国特許第5,149,745号に開示されており、これは酸官能性ポリマーを遷移金属化合物とそのポリマーのガラス転移温度(Tg)を上回る温度で反応させることを教示する。代替法によって製造することができる、比較的高いレベルの多価金属カチオンを含む組成物を提供することが望ましい。
【特許文献1】米国特許第5,149,745号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明の第1の態様において、
(a)少なくとも1種類の水性ポリマー分散体であって、該ポリマーがモノマー混合物から形成され、該モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして5〜50重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含有する水性ポリマー分散体、
(b)前記モノマー混合物100重量部を基準にして1〜10重量部の少なくとも1種類の膨潤剤、および
(c)少なくとも1種類の多価金属イオン、
を含有する組成物であって、該組成物中の多価金属イオンの当量の、該組成物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.4以上であり、ならびに該組成物が該分散体(a)と該膨潤剤(b)の幾らかまたはすべてとの予備混合物を形成する工程を含む方法によって形成され、該予備混合物中の多価金属イオンの当量の、該予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である、組成物が提供される。
【0003】
本発明の第2の態様において、組成物の形成方法であって、
(a)少なくとも1種類の水性ポリマー分散体をモノマー混合物の重合を含む方法によって形成する工程であって、該モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして5〜50重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含有する工程、
(b)前記分散体(a)を、前記モノマー混合物100重量部を基準にして、1〜10重量部の少なくとも1種類の膨潤剤と混合することによって予備混合物を形成する工程であって、該予備混合物中の多価金属イオンの当量の、該予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である工程、および
(c)前記予備混合物(b)を少なくとも1種類の多価金属イオンと混合することによって後続混合物を形成する工程であって、該後続混合物中の多価金属イオンの当量の、該後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.4以上である工程、
を含む方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本明細書において用いられる場合、「(メタ)アクリレート」および「(メタ)アクリル」は、それぞれ、「アクリレートまたはメタクリレート」および「アクリル、または、メタクリル」を意味する。
【0005】
本明細書において用いられる場合、物質は、その物質の全重量を基準にして、その物質が少なくとも25重量%の水を含む場合に「水性」である。
【0006】
本明細書において用いられる場合、「分散体」は、ときには他の成分の中に、連続媒体中に懸濁されている個別の粒子を含有する。連続媒体がその連続媒体の重量を基準にして少なくとも50重量%の水を含む場合、その分散体は「水性分散体」と呼ばれ、その連続媒体は「水性媒体」と呼ばれる。分散体中に懸濁されている個別粒子の少なくとも幾らかが1種類以上のポリマーを含む場合、その分散体は、本明細書において、「ポリマー分散体」と呼ばれる。したがって、「水性ポリマー分散体」は、少なくとも50%水である連続媒体中に懸濁された幾らかのポリマー含有粒子を含む。
【0007】
水性ポリマー分散体の試料中のポリマー粒子の群は様々なサイズを有する。幾つかの場合において、ポリマー粒子は球形またはほぼ球形である。かかる場合において、それらのサイズはそれらの直径によって有用に特徴付けることができ、および、ポリマー粒子の群は粒子の平均直径によって有用に特徴付けることができる。粒子の平均直径を測定する有益な方法の1つは光散乱である。幾つかの態様において、粒子の平均直径は80nm以上であり、または100nm以上であり、または125nm以上である。それとは独立に、幾つかの態様において、粒子の平均直径は1,000nm以下であり、または500nm以下であり、または250nm以下である。幾つかの態様において、粒子の平均直径は150nm未満である。
【0008】
本発明の水性ポリマー分散体のポリマーはモノマーの重合によって形成される。ポリマーの形成に用いられるすべてのモノマーの凝集体は、本明細書において「モノマー混合物」として理解される。モノマー混合物中のモノマーは任意のタイプであってもよく、任意の方法または機構によって重合されてもよい。
【0009】
本発明の実施において、モノマー混合物は、そのモノマー混合物の重量を基準にして、5重量%以上の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む。幾つかの態様において、モノマー混合物は、そのモノマー混合物の重量を基準にして、7重量%以上、または9重量%以上の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む。本発明の実施において、モノマー混合物は、そのモノマー混合物の重量を基準にして、50重量%以下の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む。本発明の幾つかの態様において、モノマー混合物は、そのモノマー混合物の重量を基準にして、20重量%以下の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む。幾つかの態様において、モノマー混合物は、そのモノマー混合物の重量を基準にして、15重量%以下、または12重量%以下の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む。
【0010】
カルボン酸官能性モノマーは、少なくとも1つのカルボン酸基を含む、重合が可能な化合物である。そのカルボン酸基は中性カルボン酸基の形態、カルボキシレートイオンの形態、またはそれらの任意の混合物もしくは組合せであり得る。幾つかの態様において、複数のカルボン酸官能基を有するカルボン酸官能性モノマーが用いられ、カルボン酸官能基は、重合のプロセスの過程で除去されることも変更されることもない。重合の後にカルボン酸官能基に変換される他の官能基を有するモノマーも本発明における使用が意図される。
【0011】
本発明のモノマー混合物は、本明細書において「非カルボキシルモノマー」として理解される、カルボン酸官能性モノマー以外のモノマーを含む。非カルボキシルモノマーまたは複数の非カルボキシルモノマーは、用いられるカルボン酸官能性モノマーとコポリマーを形成することができる、任意のタイプであってもよい。コポリマーは、本明細書において用いられる場合、一緒に反応してポリマーを形成する、2種類以上の異なるモノマーから製造されるポリマーを指す。コポリマーは任意の構造を有していてよく、例えば、異なるモノマーをランダムに、特定パターン(例えば、交互)で、ブロック状に、分岐状に、星状に、またはそれらの任意の組合せで配置することができる。
【0012】
幾つかの態様において、モノマー混合物中のモノマーの幾らか、またはすべてがビニルモノマー(すなわち、各々少なくとも1つのビニル基を含むモノマー)である。
【0013】
幾つかの好適なカルボン酸官能性ビニルモノマーとしては、例えば、少なくとも1つのカルボン酸官能基を有するビニル化合物、例えば、アルファ、ベータモノエチレン性不飽和酸が挙げられる;不飽和脂肪族ジカルボン酸の部分エステルおよびかかる酸のアルキル半エステル;ならびにそれらの混合物が挙げられる。幾つかの好適なアルファ、ベータモノエチレン性不飽和酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、クロトン酸、シトラコン酸、アクリルオキシプロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸、およびそれらの混合物が挙げられる。MAAが好適なアルファ、ベータモノエチレン性不飽和酸であることが知られる。幾つかの好適な不飽和脂肪族ジカルボン酸のアルキル半エステルは、例えば、イタコン酸、フマル酸およびマレイン酸のアルキル半エステルである。かかるアルキル半エステルの幾つかの好適なアルキル基としては、例えば、1ないし6個の炭素原子を有するアルキル基が挙げられる。かかるアルキル半エステルの幾つかの例は、メチル酸イタコネート、ブチル酸イタコネート、エチル酸イタコネート、ブチル酸フマレート、メチル酸マレエート、およびそれらの混合物である。
【0014】
幾つかの好適な非カルボキシルビニルモノマーは、例えば、ビニル芳香族モノマー、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、極性もしくは分極性である非イオノゲン性ビニルモノマー、ヒドロキシビニル部分とカルボン酸とのエステル、他の非カルボキシルエチレン性不飽和化合物、およびそれらの混合物である。
【0015】
幾つかの好適なビニル芳香族モノマーは、例えば、アルファ、ベータモノエチレン性不飽和芳香族モノマーである。幾つかの好適なアルファ、ベータモノエチレン性不飽和芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン(Sty)、ビニルトルエン、2−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−クロロスチレン、o−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、アリルフェニルエーテル、アリルトリルエーテル、アルファ−メチルスチレン、およびそれらの混合物が挙げられる。スチレンが好適なビニル芳香族モノマーであることが知られる。幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のビニル芳香族モノマーを、そのモノマー混合物の重量を基準にして、15重量%以上、または25重量%以上の量で含む。それとは独立に、幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のビニル芳香族モノマーを、そのモノマー混合物の重量を基準にして、55重量%以下、または45重量%以下の量で含む。
【0016】
幾つかの好適な(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、例えば、アルキル基が20個以下の炭素原子、または12個以下の炭素原子、または8個以下の炭素原子を有するものが挙げられる。好適な(メタ)アクリル酸のアルキルエステルにおけるアルキル基は直鎖、分岐鎖、環状、またはそれらの任意の組合せもしくは混合物であり得る。好適な(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの幾つかの例は、メチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート(BA)、ブチルメタクリレート(BMA)、イソ−ブチルメタクリレート(IBMA)、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、シクロプロピルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、およびそれらの混合物である。幾つかの態様において、モノマー混合物はBA、MMA、またはそれらの混合物を含む。
【0017】
幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のアルキルアクリレートを、モノマー混合物の重量を基準にして、10重量%以上、または20重量%以上の量で含む。幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のアルキルアクリレートを、モノマー混合物の重量を基準にして、60重量%以下、または50重量%以下の量で含む。
【0018】
幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のアルキルメタクリレートを、モノマー混合物の重量を基準にして、4重量%以上、または8重量%以上の量で含む。幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類のアルキルメタクリレートを、モノマー混合物の重量を基準にして、45重量%以下、または35重量%以下の量で含む。
【0019】
幾つかの態様において、モノマー混合物は少なくとも1種類の、極性または分極性である非イオノゲン性ビニルモノマーを含む。かかるモノマーの幾つかの例は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シス−およびトランス−クロトノニトリル、アルファ−シアノスチレン、アルファ−クロロアクリロニトリル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソブチル−およびブチル−ビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ビニルアセテート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ブタンジオールアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ならびにそれらの混合物である。
【0020】
極性または分極性である非イオノゲン性ビニルモノマーの幾つかのさらなる例は硫黄を含むものである。極性または分極性である硫黄含有非イオノゲン性ビニルモノマーのうちにあるものは、ビニルチオール、例えば、2−メルカプトプロピルメタクリレート、2−スルホエチルメタクリレート、メチルビニルチオールエーテル、およびプロピルビニルチオールエーテルである。幾つかの態様において、モノマー混合物は1種類以上の、極性または分極性である硫黄含有非イオノゲン性ビニルモノマーを含む。他の態様において、モノマー混合物は極性または分極性である硫黄含有非イオノゲン性ビニルモノマーを含まない。
【0021】
極性または分極性である非イオノゲン性ビニルモノマーの幾つかのさらなる例は、少なくとも1つのアセトアセテートまたはアセトアセタミド基を含むエチレン性不飽和モノマーである。本発明の幾つかの態様において、モノマー混合物は、少なくとも1つのアセトアセテートまたはアセトアセタミド基を含有する、モノマーを1種類以上含む。本発明の他の態様において、モノマー混合物は、少なくとも1つのアセトアセテートまたはアセトアセタミド基を含有するモノマーが除かれる。
【0022】
幾つかの態様において、モノマー混合物は、ヒドロキシビニル部分とカルボン酸とのエステルを少なくとも1種類含む。幾つかの態様において、かかるエステルのカルボン酸部分は芳香族および脂肪族カルボン酸から選択される。好適な脂肪族カルボン酸には、例えば、1〜18個の炭素原子を有するものが含まれる。かかる脂肪族カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、n−吉草酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ガンマ−クロロ酪酸、4−クロロ安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、o−トルイル酸、2,4,5−トリメトキシ安息香酸、シクロブタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−メトキシフェニル)シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−トリル)−1−シクロペンタンカルボン酸、ヘキサン酸、ミリスチン酸、およびp−トルイル酸が挙げられる。かかるエステルのヒドロキシビニル部分は、例えば、ヒドロキシビニル化合物、例えば、ヒドロキシエチレン、3−ヒドロキシ−ペント−1−エン、3,4−ジヒドロキシブト−1−エン、および3−ヒドロキシ−ペント−1−エンから選択することができる。
【0023】
本明細書において、化合物が特定のヒドロキシ部分および特定の酸のエステルとして記述される場合、かかる記述がエステルの構造を指すものであって、必ずしもそのエステルを製造する実際の方法を指す必要はないことは理解されるべきである。
【0024】
幾つかの態様において、モノマー混合物は、少なくとも1つの硫黄含有酸官能基を有するモノマーを1種類以上含む。硫黄含有酸官能基にはスルフェートおよびスルホネート基が含まれる。幾つかの態様において、モノマー混合物はスルフェート基またはスルホネート基を有するモノマーを含まない。幾つかの態様において、モノマー混合物は任意の硫黄含有酸官能基を有するモノマーを含まない。幾つかの態様において、モノマー混合物は硫黄を含有するモノマーを含まない。
【0025】
本発明の水性ポリマー分散体は多様な方法のいずれによっても製造することができる。幾つかの態様において、ポリマーを任意の重合法によって形成した後、水中に分散させることができる。幾つかの態様において、ポリマーを水性媒体中に懸濁された粒子として、例えば、懸濁重合、エマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合、またはそれらの組合せによって形成する。
【0026】
幾つかの態様において、ポリマーはエマルジョン重合によって形成する。エマルジョン重合の実施は D. C. Blackley, Emulsion Polymerization (Wiley, 1975) において詳細に考察されている。例えば、モノマーをアニオン性または非イオン性分散剤で乳化することができる。全モノマーの重量を基準にしてそれらの約0.5%〜10%が用いられる。フリーラジカル型の重合開始剤、例えば、過硫酸アンモニウムまたはカリウムを単独で、または促進剤、例えば、メタビスルフェートカリウムまたはチオ硫酸ナトリウムと共に用いることができる。一般に触媒と呼ばれる、この開始剤および促進剤(もし、用いられる場合)は、各々コポリマー化しようとするモノマーの重量を基準にして、0.5%ないし2%の割合で都合よく用いることができる。重合温度は、従来通り、例えば、室温ないし90℃、またはそれを上回るものであり得る。
【0027】
本発明において有用な重合プロセスに好適な乳化剤の例には、例えば、アルキル、アリール、アルキル置換アリールおよびアリール置換アルキルスルホネート、スルフェートおよびポリエーテルスルフェートのアルカリ金属およびアンモニウム塩、例えば、ナトリウムビニルスルホネート、およびナトリウムメタリルスルホネート、対応するホスフェートおよびホスホネート、例えば、ホスホエチルメタクリレート、ならびにアルコキシル化脂肪酸、エステル、アルコール、アミン、アミドおよびアルキルフェノールが含まれる。
【0028】
例えばメルカプタン、ポリメルカプタンおよびポリハロゲン化合物を含む鎖転移剤が、ポリマー分子量を制御するため、重合混合物において時折用いられる。
【0029】
少なくとも1種類の本発明のポリマーがエマルジョン重合によって製造される態様のうちで、様々なタイプのエマルジョン重合のうちのいずれをも用いることができる。例えば、幾つかの態様において、「一段階」エマルジョン重合が用いられ、ここでは、時折乳化形態にある、モノマー混合物が重合反応の過程ですべて一度に反応容器に添加されるか、または反応容器に徐々に添加される。あるいは、幾つかの態様において、「多段階」エマルジョン重合が用いられ、ここでは、モノマー混合物が異なる組成の2つ以上の部分として提供される。各々の部分が重合した後、生じるポリマーのすべてまたは一部を容器内に保持するか、または容器に入れ、モノマー混合物の次の部分をその容器に加えて重合する。
【0030】
上述のように、「モノマー混合物」は、本明細書において、モノマー混合物が用いられる物理形態に関わらず、本発明のポリマーの製造に用いられるすべてのモノマーの凝集体を意味することが意図される。例えば、幾つかの態様において、モノマー混合物は単一の容器内の単一の物理的混合物として提供される。幾つかの態様において、モノマー混合物は2つ以上の異なる容器内のモノマーの2つ以上の混合物(これは互いに同じであってもよく、または互いに異なるものであってもよい)として提供される。
【0031】
水性ポリマー分散体をその最低造膜温度(minimum film formation temperature)MFT(ときには「MFFT」とも呼ばれる)によって特徴付けることはしばしば有用である。MFTは、例えば、ASTM法D2354−98によって測定することができる。水性ポリマー分散体が乾燥される場合、ポリマーを乾燥させてフィルムを形成するのに必要な最低温度がMFTである。本発明の実施において、膨潤剤の添加、金属カチオンの添加、および補助剤の添加がない状態で水性ポリマー分散体を特徴付けることが有用である。一般に、本発明の水性ポリマー分散体は任意のMFTを有することができる。本発明の実施者は、意図する用途に適するMFTを有する水性ポリマー分散体を容易に選択することができる。幾つかの態様において、水性ポリマー分散体は40℃以上、または60℃以上のMFTを有する。
【0032】
本発明の実施は少なくとも1種類の多価金属カチオンの使用を含み、この多価金属カチオンは、本明細書においては+2以上の電荷を有する金属カチオンを意味する。好適な多価金属カチオンとしては、例えば、アルカリ土類金属の多価カチオンおよび遷移金属の多価カチオンが挙げられる。多価カチオンが本発明における使用に適する好適な金属のうちにあるものは、例えば、マグネシウム、ヒ素、水銀、コバルト、鉄、銅、鉛、カドミウム、ニッケル、クロム、アルミニウム、タングステン、スズ、亜鉛、ジルコニウム、およびそれらの混合物である。幾つかの態様において、亜鉛、銅、マグネシウムおよびそれらの混合物のうちの1つ以上が用いられる。幾つかの態様においては、亜鉛が用いられる。幾つかの態様においては、マグネシウムが用いられる。
【0033】
幾つかの態様において、少なくとも1種類の多価金属イオンが錯体の形態で用いられる。幾つかの好適な錯体には、例えば、炭酸塩、重炭酸塩、およびグリシン酸塩が含まれる。幾つかの態様において、かかる錯体を、それを水性ポリマー分散体に添加する前に可溶化することが有用である。かかる錯体を可溶化する方法の1つは錯体を希アンモニア水に添加することである。その結果は元の錯体の名称に「アンモニア」を挿入することによって命名される。例えば、グリシン酸カドミウムをアンモニア水に添加することによって可溶化する場合、その結果は「グリシン酸アンモニアカドミウム」と命名される。同様に可溶化される錯体はグリシン酸アンモニア亜鉛および重炭酸アンモニア亜鉛である。
【0034】
幾つかの態様において、多価金属カチオンは、組成物へのその添加に先立って、不溶性金属化合物の形態にある。「不溶性」は、本明細書において用いられる場合、100gの水に化合物4.2g未満の水中での溶解度を有する化合物を意味する。好適な不溶性金属化合物には、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、およびそれらの混合物が含まれる。好適な不溶性金属化合物の1つは酸化亜鉛である。
【0035】
本発明の組成物における多価金属カチオンの量は当量数によって特徴付けられる。存在する多価金属カチオンの各々のタイプについて、その多価金属カチオンの当量数が、そのカチオンの原子価を掛けた、存在するカチオンのモル数である。1モルの二価金属カチオンは2当量をもたらし、1モルの三価金属カチオンは3当量をもたらし、以下同様である。
【0036】
本発明の組成物において、組成物中に存在する多価金属カチオンの当量の、カルボキシル基(カルボキシレート基および中性カルボキシル基の両者を含む)の当量に対する比は0.4以上である。幾つかの態様において、その比は0.6以上、または0.7以上、または0.8以上である。それとは独立に、幾つかの態様において、その比は1.2以下、または1.0以下、または0.9以下である。
【0037】
本発明の実施は少なくとも1種類の膨潤剤の使用を含む。本明細書において用いられる場合「膨潤剤」は、ポリマーと、そのポリマーの可撓性を高める方法で相互作用する化合物である。幾つかの態様において、膨潤剤は有機化合物である。あるいは、幾つかの態様において、膨潤剤は非ポリマー性化合物である。幾つかの態様において、膨潤剤は非ポリマー性有機化合物である。
【0038】
本発明は任意の多価金属カチオンを用いても実施することができるが、対象化合物が特定の水性ポリマー分散体の膨潤剤として好適かどうかを試験する方法の1つは、本明細書の以下の実施例において記述されるように、その水性ポリマー分散体および対象化合物を用いて亜鉛取り込み試験を実施することである。亜鉛沈殿の検出可能な減少を生じる対象化合物が適切な膨潤剤である。
【0039】
対象化合物が特定の水性ポリマー分散体の膨潤剤として好適かどうかを試験する代わりの方法は、対象化合物の存在の有り無しでその水性ポリマー分散体の(上で定義される)MFTを測定することである。すなわち、水性ポリマー分散体自体のMFTを測定する。その上、対象化合物を水性ポリマー分散体と混合し、その混合物のMFTを測定する。混合物のMFTが水性ポリマー分散体自体のMFTより低い場合、対象化合物は本発明の膨潤剤として好適である。
【0040】
有機化合物である好適な膨潤剤のうちで、多様なものが意図される。幾つかの好適な膨潤剤としては、例えば、溶媒、界面活性剤、分散剤、可塑剤、または造膜助剤が挙げられる。幾つかの好適な膨潤剤は高度に揮発性であり、例えば、多くの溶媒である。幾つかの好適な膨潤剤は中程度に揮発性であり、例えば、造膜助剤である。幾つかの好適な膨潤剤は僅かながら揮発性、または不揮発性であり、例えば、多くの可塑剤、界面活性剤、および分散剤である。幾つかの態様において、膨潤剤は1種類以上の可塑剤、1種類以上の造膜助剤、またはそれらの混合物を含む。
【0041】
本発明において好適な膨潤剤には、例えば、アルコール、エーテル化合物、カルボキシレートエステル、ホスフェートエステル、アミド、およびそれらの混合物が含まれる。
膨潤剤として好適な幾つかのアルコールには、例えば、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族アルコールが含まれる。幾つかの好適なアルコールとしては、例えば、イソプロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、および松根油が挙げられる。
【0042】
膨潤剤として好適な幾つかのエーテル化合物としては、例えば、モノアルキレングリコールおよび多アルキレングリコールのアルキルおよび芳香族エーテルであり、ここで、「多−」は「ジ−」もしくは「トリ−」またはそれを上回るものを意味し、アルキレングリコールは2もしくは3個またはそれを上回る炭素原子を有するグリコールを意味し、および、アルキルエーテルの場合、アルキル基は1、2個、またはそれを上回る炭素原子を有する。幾つかの好適な多アルキレングリコールのアルキルエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
膨潤剤として好適なさらなるエーテル化合物としては、例えば、少なくとも1つのエーテル結合および少なくとも1つのヒドロキシル基を含む化合物であるエーテルアルコールが挙げられる。幾つかの好適なエーテルアルコールとしては、例えば、2−ブトキシエタノールおよびブチルカルビトールが挙げられる。
【0044】
膨潤剤として好適な化合物の別の群は、少なくとも1つのエステル結合を含む化合物であるカルボキシレートエステルである。カルボキシレートエステルは、本明細書において、ヒドロキシル化合物およびカルボン酸「のエステル」として記述される。かかる記述は、そのエステルがそのヒドロキシル化合物とそのカルボン酸との反応によって製造されようとされまいと、そのエステルの構造を指すものであることが理解される。本明細書において用いられる「モノ−ヒドロキシル」化合物は単一のヒドロキシル基を有する化合物である。本明細書において用いられる「ポリオール」は2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物である。本明細書において用いられる「モノカルボン酸」は1つのカルボン酸基を有する化合物である。本明細書において用いられる「多カルボン酸」は2つ以上のカルボン酸基を有する化合物である。
【0045】
膨潤剤として好適な幾つかのカルボキシレートエステルとしては、例えば、モノ−ヒドロキシル化合物とモノカルボン酸のエステルである。好適なモノカルボン酸には、例えば、芳香族モノカルボン酸(例えば、安息香酸)および脂肪族モノカルボン酸が含まれる。好適な脂肪族モノカルボン酸には、例えば、4〜8個の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸が含まれる。好適なモノ−ヒドロキシル化合物には、例えば、モノ−ヒドロキシルアルキル化合物、例えば、3〜13個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキル基を有するものが含まれる。
【0046】
膨潤剤として好適な幾つかのさらなるカルボキシレートエステルとしては、例えば、モノ−ヒドロキシル化合物と多カルボン酸のモノ−およびジ−エステルが挙げられる。好適な多カルボン酸には、例えば、芳香族多カルボン酸(例えば、フタル酸およびトリメリット酸)および脂肪族多カルボン酸が含まれる。幾つかの好適な脂肪族多カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、およびピメリン酸が挙げられる。好適なモノ−ヒドロキシル化合物には、例えば、モノ−ヒドロキシルアルキル化合物、例えば、3ないし13個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキル基を備えるものが含まれる。
【0047】
上述のグリコールとモノカルボン酸のアルキルおよび芳香族モノ−およびジ−エステルもまた好適である。
【0048】
膨潤剤として好適なさらなるカルボキシレートエステルとしては、例えば、アルキルポリオールとモノカルボン酸のモノ−、ジ−およびより高次のエステルが挙げられる。好適なアルキルポリオールは、4個以上、または6個以上、または8個以上の炭素原子を有するものである。好適なモノカルボン酸は、例えば、3または4個の炭素原子を有するアルキルカルボン酸である。好適なエステルの幾つかの例は以下のものである。すなわちTexanol(商標)(Eastman Chemical製)、イソオクタンジオールのモノ−およびジ−アルキルエステル、ならびにブタンジオールのモノ−およびジ−アルキルエステルである。
【0049】
膨潤剤として適する幾つかのホスフェートエステルとしては、例えば、トリアルキルホスフェート(例えば、トリ−2−エチルヘキシルホスフェートが挙げられる)、トリアリールホスフェート(例えば、トリクレシルホスフェートが挙げられる)、および混合アルキル/アリールホスフェート(例えば、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートが挙げられる)が挙げられる。
【0050】
好適なアミド膨潤剤の1つとしては、例えば、カプロラクタムが挙げられる。
【0051】
好適な膨潤剤の混合物もまた好適である。
【0052】
本発明の実施において用いられる膨潤剤の量はモノマー混合物の重量と比較した膨潤剤の重量によって特徴付けることができる。100重量部のモノマー混合物に対して、膨潤剤の量は1重量部以上、または2重量部以上、または3重量部以上、または4重量部以上である。これとは独立して、100重量部のモノマー混合物に対して、膨潤剤の量は10重量部以下、または7重量部以下、または5重量部以下である。
【0053】
本発明の実施において、少なくとも1種類の膨潤剤の幾らかまたはすべてを水性ポリマー分散体と混合し、その結果物を本明細書において「予備混合物」と呼ぶ。この予備混合物は、100重量部のモノマー混合物を基準にして、少なくとも1重量部の少なくとも1種類の膨潤剤を含む。予備混合物は多価金属カチオンは含まないか、または比較的少量の多価金属カチオンを含む。予備混合物中の多価金属カチオンの当量の、予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は0.25以下である。幾つかの態様において、予備混合物中の多価金属カチオンの当量の、予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は0.1以下、または0.05以下、または0.01以下である。
【0054】
予備混合物は、任意の条件の下で、任意の技術によって形成することができる。幾つかの態様において、予備混合物は高温(35℃を上回る)で形成することができる。他の態様において、予備混合物は35℃以下、または30℃以下で形成することができる。
【0055】
本発明の実施において、予備混合物の形成に続いて、その予備混合物を少なくとも1種類の多価金属カチオンと混合して後続混合物をを形成する。後続混合物中の多価金属カチオンの当量の、後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は0.4以上である。幾つかの態様において、後続混合物中の多価金属カチオンの当量の、後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は0.5以上、または0.6以上、または0.7以上、または0.8以上である。後続混合物中の多価金属カチオンの当量の、後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は1.2以下である。幾つかの態様において、後続混合物中の多価金属カチオンの当量の、後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比は1.0以下、または0.9以下である。
【0056】
後続混合物は、任意の条件の下で、任意の技術によって形成することができる。幾つかの態様において、後続混合物は高温(35℃を上回る)で形成することができる。他の態様において、後続混合物は35℃以下、または30℃以下で形成することができる。それとは独立に、幾つかの態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のMFTを下回る温度で形成される。それとは独立に、幾つかの態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のMFTにほぼ等しい温度で形成される。
【0057】
幾つかの態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のポリマーのTgを上回る温度で形成される。本明細書において「ポリマーのTg」は、モノマー混合物中のモノマーのみに基づき、そのポリマーと混合されている他の成分には基づかない、Fox式(T.G. Fox, Bulletin of the American Physical Society, series II, volume 1, 1956, p.123)によって算出されるTgを意味する。他の態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のポリマーのTgに等しいか、またはそれを下回る温度で形成され、これには、例えば、後続混合物の処方温度が水性ポリマー分散体のポリマーのTgよりも4℃以上の差、または10℃以上の差で低い態様が含まれる。
【0058】
幾つかの態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のpHが7以下である間に形成される。この条件は、例えば、多価金属カチオンの幾らかまたはすべてが不溶性金属化合物の形態にある場合に、有用であるものと考えられる。他の態様において、後続混合物は水性ポリマー分散体のpHが7を上回る間に形成される。
【0059】
膨潤剤のすべてまたは一部および多価金属カチオンのすべてまたは一部が水性ポリマー分散体に同時に添加される態様もまた考慮される。これらの成分は任意の濃度または供給速度で添加することができる。かかる方法は、同時添加の過程の幾つかの点で、混合物中の多価金属イオンの当量の、混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である時点で1〜10重量部(水性ポリマー分散体を形成するのに用いられるモノマー混合物100重量部を基準にして)の膨潤剤が混合物中に存在する場合、および、混合物中で膨潤剤および多価金属カチオンの添加が終了した後、混合物中の多価金属イオンの当量の、混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.4以上である場合、本発明の態様であるものと考えられる。
【0060】
幾つかの態様において、後続混合物の処方の後、さらなる膨潤剤を組成物に添加することはない。他の態様において、少なくとも1種類の膨潤剤(例えば、1種類以上の可塑剤、1種類以上の造膜助剤、または各々の1種類以上)の幾らかの部分を後続混合物の処方の後に組成物に添加する。
【0061】
幾つかの態様において、本発明の組成物はアルカリ金属の1種類以上の塩基性塩も含む。アルカリ金属の塩基性塩には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびそれらの混合物が含まれる。1種類以上のアルカリ金属の塩基性塩が用いられる幾つかの態様において、組成物中の、多価金属カチオンのアルカリ金属に対するモル比は0.1〜10である。幾つかの態様において、少量のアルカリ金属が組成物中に存在する。かかる態様において、組成物中の、アルカリ金属の、多価金属カチオンに対するモル比は0.02以下、または0.01以下、または0.005以下である。幾つかの態様において、アルカリ金属の塩基性塩は用いられない。
【0062】
幾つかの態様において、本発明の組成物は、上述のものに加えて、本明細書において「補助剤」として知られる成分を含む。補助剤には、存在する場合、例えば、ワックス(例えば、ワックスエマルジョンが挙げられる)、界面活性剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、レベリング剤、共溶媒、増粘剤(例えば、アルカリ膨潤性樹脂およびアルカリ可溶性樹脂が挙げられる)、およびそれらの混合物が含まれる。補助剤は、存在する場合、本発明の組成物の形成における任意の時点で添加することができる。例えば、幾つかの補助剤は水性ポリマー分散体の形成プロセスの一部として添加することができ、組成物中に残存する。例えば、幾つかの補助剤は、組成物の特性を改善するため、1種類以上の成分に、または1種類以上の混合物に添加することができる。これらの補助剤のうちの幾つかは以下の場所のいずれか1つまたはそのいずれかの組合せにおいて存在することができる。すなわち、水性ポリマー分散体の懸濁粒子の内部、水性ポリマー分散体の懸濁粒子の表面上、または連続媒体中である。
【0063】
幾つかの態様において、1種類以上の両性界面活性剤が組成物中に含まれる。他の態様において、両性界面活性剤は用いられない。
【0064】
幾つかの態様において、水性ポリマー分散体の形成後、1種類以上の界面活性剤を組成物に添加する。かかる界面活性剤は、本明細書において「共界面活性剤」と呼ばれる。共界面活性剤は、存在するならば、水性ポリマー分散体の製造において用いられ得る任意の界面活性剤に加えて存在する。1種類以上の共界面活性剤を本発明の組成物に、例えば、以下の時点の1つまたは任意の組合せをも含む、その組成物の形成プロセスにおける任意の時点で添加することができる。水性ポリマー分散体を膨潤剤と混合する前に、共界面活性剤を水性ポリマー分散体と混合することができる。水性ポリマー分散体を膨潤材と混合する前に、共界面活性剤を膨潤材と混合することができる。多価金属カチオン錯体を予備混合物と混合する前に、共界面活性剤を多価金属カチオン錯体と混合することができる。
【0065】
好適な共界面活性剤は任意のタイプの界面活性剤であってよい。共界面活性剤は、好ましくは、水性ポリマー分散体の凝集あるいはその反対に分解することを回避するため、水性ポリマー分散体と適合するように選択される。共界面活性剤はカチオン性でも、アニオン性でも、非イオン性でも、またはそれらの混合物でもよい。幾つかの態様において、共界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。共界面活性剤として好適な非イオン性界面活性剤のうちにあるものは、例えば、アルコキシレート、スルフェート、スルホネート、ホスフェートエステル、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ならびにそれらの混合物である。好適なアルコキシレートのうちにあるものは、例えば、下記構造
【0066】
R−O−(−CHCHO−)−H
【0067】
(式中、Rは脂肪族基、芳香族基、脂肪族−置換芳香族基、および芳香族−置換脂肪族基、またはそれらの混合物であり、ならびにxは5〜200である)を有するエトキシレートである。幾つかの態様において、Rは構造R−R−を有するアルキル−置換ベンゼンであり、式中、Rは直鎖アルキル基であり、Rは芳香族環である。好適な共界面活性剤の1つはオクチルフェノールエトキシレートである。幾つかの態様において、Rは、末端炭素または別の炭素のいずれかで酸素原子に結合する、アルキル基である。好適な共界面活性剤の混合物は好適である。
【0068】
共界面活性剤が用いられる態様のうちで、共界面活性剤の量は、共界面活性剤の固形分重量の、膨潤剤の固形分重量に対する比によって特徴付けることができる。幾つかの態様において、この比は0.05以上、または0.1以上、または0.2以上、または0.4以上である。それとは独立に、幾つかの態様において、この比は10以下、または5以下、または2以下、または1以下である。
【0069】
本発明はいかなる特定の機構または理論にも限定されるものではないが、多価金属カチオンおよびカルボン酸官能基が、幾つかの態様において、ポリマーを架橋する効果をもたらす方法で相互作用することができるものと考えられる。この架橋の効果は、例えば、1種類以上の望ましい特性、例えば、硬度、耐久性、他の有用な特性、またはそれらの組合せを組成物の乾燥層に付与することができる。
【0070】
本発明の組成物は様々な目的に有用である。幾つかの態様において、組成物の1つ以上の層が基体に塗布して乾燥されまたは、乾燥させておく。幾つかの態様において、かかる組成物の層は大部分または完全に基体の表面上に存在し、その組成物はコーティングと考えられる。幾つかの態様において、任意に1種類以上の補助剤とさらに混合される、後続混合物は、コーティングとしての使用を目的とし、コーティング物質として理解される。
【0071】
例えば、本発明の組成物の1つ以上の層を、例えば、皮革、屋根、および床を含む多様な基体のいずれかに適用することができる。
【0072】
幾つかの態様において、本発明の組成物を含むコーティング物質を床のコーティングに用いることができる。かかるコーティング物質は本明細書において「フロアポリッシュ」として知られる。幾つかのフロアポリッシュは1種類以上の補助剤を含む。フロアポリッシュにおける通常の補助剤としては、例えば、ワックスエマルジョン、アルカリ可溶性樹脂、湿潤剤、乳化剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、およびそれらの混合物が含まれる。幾つかの態様において、フロアポリッシュは100nm以上、または130nm以上の平均粒径を有する水性ポリマー分散体を含む。それとは独立に、幾つかの態様において、フロアポリッシュは300nm以下、または200nm以下、または150nm以下の平均粒径を有する水性ポリマー分散体を含む。それとは独立に、幾つかの態様において、フロアポリッシュは75nm以上、または100nm以上の平均粒径を有する水性ポリマー分散体を含む。それとは独立に、幾つかの態様において、フロアポリッシュはエマルジョン重合によって製造される水性ポリマー分散体を含む。
【0073】
フロアポリッシュの一部またはすべてとして用いられる本発明の態様(「フロアポリッシュ態様」)として、例えば、ポリマーのTgが35℃以上、または40℃以上である態様が含まれる。それとは独立に、幾つかのフロアポリッシュ態様において、ポリマーのTgは70℃以下、または65℃以下である。それとは独立に、幾つかのフロアポリッシュ態様において、フロアポリッシュ処方物(ポリマー、膨潤剤、用いられる場合には、補助剤等を含む、すべての成分を含有する)のTgは25℃を上回る。
【0074】
本明細書および請求の範囲の目的上、本明細書において列挙される範囲および比の限定を組合せることができることは理解されるべきである。例えば、60〜120および80〜110の範囲が特定のパラメータについて列挙される場合、60〜110および80〜120の範囲も意図されるものと理解される。別の例について、特定のパラメータについての1、2、および3の最小値が列挙され、かつ、4および5の最大値がそのパラメータについて列挙される場合、以下の範囲がすべて意図されることも理解される。すなわち、1〜4、1〜5、2〜4、2〜5、3〜4、および3〜5である。
【実施例】
【0075】
実施例1:ラテックスポリマーの調製
乳化されたモノマー混合物を、脱イオン水2100g中のナトリウムドデシルベンゼンスルホネートの23%(重量基準)溶液117.5gの攪拌溶液に以下のモノマーを順番に徐々に添加することによって調製した。1980gのブチルアクリレート(BA)、2970gのメチルメタクリレート(MMA)、3150gのスチレン(Sty)、および900gのメタクリル酸(MAA)。
【0076】
温度計、凝縮器、および攪拌機を備えた反応容器において、4250gの脱イオン水および156.5gのナトリウムドデシルベンゼンスルホネート溶液(水中に23重量%)および30gの硫酸ナトリウムの溶液を窒素下で87℃に加熱した。モノマー混合物のうちの225gの部分をすべて一度に反応容器に添加し、温度を80℃〜82℃の間に調整した。脱イオン水90g中に39gの過硫酸アンモニウムの溶液を作製した後、すべて一度に反応容器に添加した。2℃〜3℃の発熱が停止した後、残りのモノマー混合物を同時供給溶液(7.5gの過硫酸アンモニウム、50gの重炭酸アンモニウム、および340gの脱イオン水)と共に反応混合物に徐々に供給した。添加速度は温度が80℃〜84℃に維持されるように選択した。添加が完了した後、容器および供給ラインをリンスし、反応容器に入れ、反応容器の内容物を40℃に冷却した。
【0077】
実施例2:水性ポリマー分散体
以下のモノマー混合物を調製した。
【0078】
【表1】

【0079】
比較例2Cおよび3C;ならびに実施例4−6:亜鉛取り込み試験
368.82gの酸化亜鉛、423.15gの重炭酸アンモニウム、423.15gの水酸化アンモニウム溶液(水中に28重量%)、および1125gの脱イオン水を混合することによって亜鉛錯体を形成した。
【0080】
実施例1の方法を用いて、実施例2に記述されるモノマー混合物からラテックスポリマーを作製した。
【0081】
様々な混合物を形成した。ポリマーおよび膨潤剤を下記表に示されるように変化させた。共界面活性剤は非イオン性界面活性剤であった。用いたラテックスポリマーの各々は下記表におけるその「モノマー混合物」によって特徴付られる。
【0082】
各々のラテックスポリマーを40℃で攪拌し、共界面活性剤(用いる場合)および膨潤剤(用いる場合)を20分にわたって徐々に添加し、ならびに、次に、その混合物をさらに10分間攪拌した。40℃で攪拌しながら、亜鉛錯体を30分にわたって徐々に添加し、生じる混合物を40℃で10分間攪拌した。添加される亜鉛錯体の量は、各々の例について下記表に示される亜鉛量が得られるように算出した。その混合物を室温(約20℃)に冷却し、325メッシュふるいを通して濾過した。次に、各々の混合物を室温(約20℃)で一晩静置した。その後、各々の混合物を検査し、なんらかの沈殿が形成されているかどうかを観察した。沈殿が亜鉛化合物であったものと考えられる。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例7:フロアポリッシュ
以下の成分を下記処方に示される順番で混合することによってフロアポリッシュを作製した。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例8:フロアポリッシュの試験
以下の試験方法を用いた。
【0087】
コーティング適用および試験:試験の目的でフロアポリッシュを基体に適用する(ベースコートまたはトップコート)ための方法は、「Annual Book of ASTM Standards,」 Section 15, Volume 15.04, Test Procedure ASTM D 1436 (2000) に記載されている。試験方法B(ハンドアプリケータでのエマルジョンフロアポリッシュの適用)を用いた。
【0088】
光沢および再コーティング光沢:ポリッシュ組成物の光沢性能を決定するための方法は、「Annual Book of ASTM Standards,」 Section 15, Volume 15.04, Test Procedure ASTM D 1455 に記載されている。A Gardner Byk Micro−Tri−Gloss メーター、カタログ番号4520を、60°および20°光沢の記録に用いた。
【0089】
再コーティング性:水ベースのエマルジョンフロアポリッシュの再コーティング性を決定するための方法は、「Annual Book of ASTM Standards,」 Section 15, Volume 15.04, Test Procedure ASTM D 3153 に記載されている。
【0090】
フィルム形成:0.4mlのコーティング組成物を用いるドローダウンを、(ASTM D 1436において指定されるように)0.008インチ(0.02cm)のクリアランスを有する2インチ(5.08cm)幅ブレードアプリケーターにより、ビニル組成物タイル上に4インチ(10.16cm)の長さに適用した。ポリッシュを適用した直後に、そのタイルを10℃の冷蔵庫内の水平表面上に置いた。乾燥したフィルムを以下のように評価した。
優秀 − ひび割れなし
非常に良好 − 僅かな縁のひび割れ
良好 − 明瞭な縁のひび割れ
中程度 − 非常に僅かな中央のひび割れを伴う明瞭な縁のひび割れ
不良 − 完全な縁および中央のひび割れ
【0091】
耐ブラックヒールマーク性および耐スカッフ性:耐ブラックヒールマーク性および耐スカッフ性を決定するための方法は Chemical Specialty Manufacturers Association Bulletin No. 9−73 に記載されており、推奨される2”(5.08cm)ゴムキューブの代わりに商業的に入手可能なゴム靴底を用いたことを除いてそれを利用した。ブラックヒールマークはコーティング上またはその内部へのゴムの実際の堆積であり、それに対してスカッフマークはコーティングの物理的置換から生じるもので光沢が減少した領域として現れる。スカッフおよびブラックヒールマークはヒールが基体に衝突する点で独立に、または同時に生じ得る、すなわち、ブラックヒールマークを除去すると、スカッフが存在することがある。
【0092】
耐汚染性:耐汚染性を決定するための方法は、「Annual Book of ASTM Standards,」 Section 15 Volume 15.04, Test Procedure ASTM D3206 (2002) に記載されている。この試験法は試験タイル上のフロアポリッシュの耐汚染性の決定を網羅する。歩行者の作用をシミュレートするのにカーペットでカバーされたローラーを用いる。合成土壌をローラーと共に用いる。
【0093】
実施例7のフロアポリッシュを試験した。商業的に入手可能なフロアポリッシュであり、アクリル、メタクリル、および/またはスチレンモノマーの重合単位を含み、ならびにカルボン酸官能基を有するポリマーを含有するものと考えられ、亜鉛イオンを含有するものと考えられ、本発明の組成物とは異なる組成物であるものと考えられ、ならびに本発明の方法とは異なる方法によって製造されるものと考えられる、比較フロアポリッシュも試験した。
【0094】
これらのフロアポリッシュを上述の方法によって基体に塗布し、それらの試験の結果は以下の通りであった。
【0095】
【表4】

【0096】
上記表における評価用語は、望ましさが高まる順に、以下の通りであった。P=不良、P−F=不良−中程度、F=中程度、F−G=中程度−良好、G=良好、G−VG=良好−非常に良好、VG=非常に良好、VG−EXC=非常に良好−優秀、E=優秀。
【0097】
実施例7のフロアポリッシュはすべての試験において少なくとも比較フロアポリッシュと同程度に良好であり、実施例7のフロアポリッシュは耐スカッフ性、耐ブラックマーク性、および耐汚染性において比較フロアポリッシュよりも良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種類の水性ポリマー分散体であって、該ポリマーがモノマー混合物から形成され、該モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして5〜50重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含有する水性ポリマー分散体、
(b)前記モノマー混合物100重量部を基準にして1〜10重量部の少なくとも1種類の膨潤剤、および
(c)少なくとも1種類の多価金属イオン、
を含有する組成物であって、
該組成物中の多価金属イオンの当量の、該組成物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.4以上であり、ならびに
該組成物が該分散体(a)と、該膨潤剤(b)の幾らかまたはすべてとの予備混合物を形成する工程を含む方法によって形成され、ここで、該予備混合物中の多価金属イオンの当量の、該予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である
組成物。
【請求項2】
前記予備混合物が1種類以上の非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして7〜15重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の多価金属イオンの当量の、該組成物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.6以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物中の多価金属イオンの当量の、該組成物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.7以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記予備混合物が少なくとも1種類のアルカリ金属水酸化物をさらに含み、前記モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして5〜15重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含み、および前記組成物中の前記多価金属イオンの当量の、前記組成物中の前記カルボン酸官能基の当量に対する比が0.7以上である請求請5記載の組成物。
【請求項7】
前記膨潤剤が可塑剤、造膜助剤、界面活性剤、および溶媒からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記膨潤剤が可塑剤および造膜助剤からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
コーティングされた基体を形成するための方法であって、
(a)該基体に、請求項1の組成物を含むコーティング物質の、少なくとも1つの層を適用する工程、および
(b)該層を乾燥する、または乾燥させる工程、
を含む方法。
【請求項10】
組成物の形成方法であって、
(a)モノマー混合物の重合を含む方法によって、少なくとも1種類の水性ポリマー分散体を形成する工程であって、該モノマー混合物が該モノマー混合物の重量を基準にして5〜50重量%の1種類以上のカルボン酸官能性モノマーを含有する工程、
(b)前記分散体(a)を、前記モノマー混合物100重量部を基準にして、1〜10重量部の少なくとも1種類の膨潤剤と混合することによって、予備混合物を形成する工程であって、該予備混合物中の多価金属イオンの当量の、該予備混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.25以下である工程、および
(c)前記予備混合物(b)を少なくとも1種類の多価金属イオンと混合することによって後続混合物を形成する工程であって、該後続混合物中の多価金属イオンの当量の、該後続混合物中のカルボン酸官能基の当量に対する比が0.4以上である工程、
を含む方法。

【公開番号】特開2006−37089(P2006−37089A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−183205(P2005−183205)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】