説明

多光子吸収機能材料、及びこれを用いた光記録媒体、光制限素子、及び光造形システム

【課題】金属微粒子に発生する局在プラズモン増強場を三次元的に利用し、多光子吸収有機材料の多光子吸収効率の向上を図り、それを利用した感度特性に優れる機能性デバイスを提供する。
【解決手段】金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは当該金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、多光子吸収材料中に分散されている構成のバルク型材料よりなる多光子吸収機能材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多光子吸収機能材料、当該多光子吸収機能材料を応用した光記録媒体、光制限素子、及び光造形システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多光子吸収過程の一つである二光子吸収反応を用いると、二光子吸収反応の特徴である励起光強度の二乗に比例した吸収により反応が引き起こされるため、集光光を用いることにより、集光点でのみ反応を起こすことが可能であることが知られている。
すなわち、物質内部の、任意の所望の位置でのみ反応を起こすことが可能であり、更には、集光スポット中心部の光強度の高い部分でのみ光反応を起こすことが可能であるため、回折限界を超える加工記録への期待が高まっている。
【0003】
しかしながら、二光子吸収反応に代表される多光子吸収反応の吸収断面積は極めて小さく、フェムト秒レーザー等のピーク出力の著しく高い、高価かつ大型のパルスレーザー光源での励起を行うことが必須の条件とされている。
このような問題から、多光子吸収反応の優れた特徴を活かしたアプリケーションの普及を図るためには、前記大型のパルスレーザーを必要としない、例えば半導体レーザーにより反応を誘起することが可能な高感度な多光子吸収材料の開発が不可欠である。
【0004】
一方、光学的な原理による1光子吸収過程の増感方法をとして、金属表面に励起される表面プラズモン増強場を用い、微量な物質の光学的な評価測定を行う方法が知られている。
例えば、表面プラズモン顕微鏡を適用する場合、高屈折率媒体上に成膜された金属薄膜上に配置された極薄い膜(表面プラズモン増強場は、表面から約100nm以下の限られた領域にのみ発生する)を試料として用いる技術についての提案がなされている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0005】
また、従来においては、金属微粒子により励起される表面プラズモン増強場を用いた測定方法についての技術提案がなされている。
この技術は、下記特許文献1に開示されている技術と同様に、観察測定領域が金属微粒子の周囲100nm以下の領域に限定され、粒子表面に吸着した試料を観察することにより高感度な観測を行うものである。
また、観察に適用する波長を選択するための技術として、球形コアセル構造による共鳴波長のチューニングについての技術が知られている(例えば、下記特許文献2参照。)。
更には、マイクロキャビティー中に配置された凝集ナノ粒子により、多光子課程を含む高感度観測法についての開示もなされている(例えば、下記特許文献3参照。)。
【0006】
一方、近年においては、上述したような金属微粒子に代わる表面ブラズモン増強場の発生手段として、金ナノロッドを利用する技術についての研究がなされている。
金ナノロッドは、アスペクト比を変えることにより、共鳴波長を変えられるという特性を有しており、540nm程度から近赤外(1100nm程度)までをカバーすることのできる材料である。
この金ナノロッドの製造方法の一例として、界面活性剤を含む溶液中での電気化学的反応によって作製する方法が開示されている(例えば、下記特許文献4参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−156911号公報
【特許文献2】特開2001−513198号公報
【特許文献3】特開2004−530867号公報
【特許文献4】特開2005−68447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術においては、薄膜上の増強効果に関し、試料は金属薄膜上の極薄い膜に限定されており、表面プラズモン増強効果が利用可能な領域は、金属薄膜の形状と光学系の配置に依存することになるので、3次元加工等のアプリケーションに応用することが困難であるという問題を有している。
【0009】
また、上記特許文献2に開示されている技術は、金属微粒子等、粒子の周囲に発生する表面プラズモン増強場を利用しているものであるが、上記特許文献1に開示の技術と比較すると、増強場発生の形状の上での自由度は増している。
しかしながら、この技術は、表面プラズモン増強場を発生する粒子が物体表面との相互作用により物体表面に分布することにより高感度な反応および検出を可能としているものであるので、やはり増強場の発生場所が制約されてしまうという問題を有している。
【0010】
また、上記特許文献3に開示されている技術においては、表面プラズモン増強場の発生手段である凝集ナノ粒子がマイクロキャビティーという微小空間内に配置されており、やはり増強場が限定されるという問題を有している。
【0011】
また、上記特許文献4に開示されている技術に関しては、波長のチューニングが可能な表面ブラズモン増強場発生手段においては励起波長選択の自由度は向上しているが、励起源と反応物質との配置についての課題を有している。
【0012】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、表面プラズモン増強場を用いた多光子吸収反応の増感手段としてバルク材料を用い、その応用範囲の広い多光子吸収機能材料を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明においては、金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは当該金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、多光子吸収材料中に分散されていることを特徴とするバルク型材料よりなる多光子吸収機能材料を提供する。
【0014】
請求項2の発明においては、少なくとも一層以上の膜として形成されたことを特徴とする請求項1の多光子吸収機能材料を提供する。
【0015】
請求項3の発明においては、二層以上の膜として形成された多光子吸収機能材料が、互いに多光子吸収能を有さない中間層によって分離されていることを特徴とする請求項2の多光子吸収機能材料を提供する。
【0016】
請求項4の発明においては、二層以上の膜として形成された多光子吸収機能材料の、各層における多光子吸収感度が、略等しいことを特徴とする請求項2又は3の多光子吸収機能材料を提供する。
【0017】
請求項5の発明においては、二層以上の膜として形成された多光子吸収機能材料の、各層の表面プラズモン増強場を発生させる前記金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子の濃度が層により別個に設定されていることを特徴とする請求項2又は3の多光子吸収機能材料を提供する。
【0018】
請求項6の発明においては、表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、もしくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、金ナノロッドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項の多光子吸収機能材料を提供する。
【0019】
請求項7の発明においては、表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、凝集体ナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項の多光子吸収機能材料を提供する。
【0020】
請求項8の発明においては、請求項1乃至7のいずれか一項の多光子吸収機能材料を用いた、層平面に対して垂直な入射光に対して深さ方向に記録再生可能な三次元記録媒体を提供する。
【0021】
請求項9の発明においては、請求項1乃至7のいずれか一項の多光子吸収機能材料を用いたことを特徴とする光制限素子を提供する。
【0022】
請求項10の発明においては、請求項1乃至7のいずれか一項の多光子吸収機能材料を用いたことを特徴とする光造形システムを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表面プラズモン増強場を発生させる金属微粒子若しくは前記金属で少なくとも一部を被覆された微粒子を多光子吸収材料中に分散させたことによって、照射光強度よりも強い光を照射された場合と同様の効果が得られ、これにより、照射光強度を変えることなく著しい多光子光励起反応の増感効果が材料全体で得られるようになった。
【0024】
また、前記表面プラズモン増強場を発生させる、金属微粒子等をナノメートルオーダーの超微粒子とすることにより、励起光の散乱による損失を低減し、かつ回避が図られた。
【0025】
請求項2、3の発明によれば、膜として形成したことにより、反応部位を2次元平面内に特定することができるようになった。
特にこれを多層構造とした場合には、3次元の周期構造あるいは3次元記録の記録部位の精度と共に表面プラズモン増強場を発生させる微粒子による吸収量の設計が容易になり、効率的な増感が可能となった。
【0026】
請求項4、及び5の発明によれば、前記多層型とした材料においては、各層の二光子吸収感度を、略等しく設定することにより、物質内部の所望の場所で、所望の機能を発現可能となり、光子吸収反応の利点と高感度化が両立した機能材料が得られた。
【0027】
請求項6の発明によれば、金ナノロッドを適用したことにより、アスペクト比の揃った、直径20nm以下の微粒子が再現性良く得られ、幅広い波長の選択性と高い増強度とを併せ持ち、かつ、散乱損失の少ない効率的な増感が可能となった。
アスペクト比の変更で可視光領域から近赤外領域までを容易にカバーすることが可能となることで、幅広い多光子色素の吸収波長に合わせたさらなる効率的な増感が可能となった。
【0028】
請求項7の発明によれば、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子として、凝集体ナノ粒子を採用したことにより、当該凝集体を構成するナノ粒子間隙に発生するプラズモンの更なる増強場を反応促進に利用可能となり、より高感度な機能材料が得られた。
【0029】
また、請求項8乃至10の発明によれば、高感度な多光子吸収反応過程により、高価な大出力パルスレーザーを用いることなく反応が可能となり、多光子吸収の特徴を生かした、深さ方向に多重記録可能な3次元記録媒体(請求項8)、照射強度が高くなるほど吸収量が増えることで光の透過光量を制限する光制限素子(請求項9)、回折限界以下の微細加工物や3次元造形物のコスト低減(請求項10)が実現可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明においては、金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部を被覆された微粒子を、多光子吸収材料中に分散させた構成の、高感度の多光子吸収機能材料を提供するものである。
なお、溶媒中に分散させても、樹脂等に分散された固体形状としても、未硬化の樹脂中に分散された状態でもよく、また、ゲル若しくは部分硬化させて高粘性状態の樹脂等に分散された状態でも用途に応じて態様を選択することができるものとする。
以下、本発明の多光子吸収機能材料に関して具体的に説明する。
【0031】
先ず、二光子吸収材料の応用について説明する。
近年、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。
また、HDTV(HighDefinition Television)を考慮すれば、民生用途においても50GB以上、好ましくは100GB以上の画像情報を安価簡便に記録するための大容量記録媒体の要求が高まっている。
更に、コンピューターバックアップ用途、放送バックアップ用途等、業務用途においては、1TB程度以上の大容量の情報を高速かつ安価に記録できる光記録媒体が求められている。
DVD±R等の従来公知の2次元光記録媒体は、記録再生波長を短波長化したとしてもせいぜい25GB程度であり、今後の大容量化への要望に充分に応えることができないことが懸念されている。
【0032】
上述したような現状下、高密度、高容量記録媒体として、三次元光記録媒体が注目されてきている。
三次元光記録媒体とは、三次元(膜厚)方向に何十、何百層もの記録層が積層された構成を有しているものである。
また、記録層を厚膜として光入射方向に対して何重にも記録再生を行えるようになされていてもよい。
このように、三次元光記録媒体は、従来の二次元記録媒体の何十〜何百倍もの超高密度、超高容量記録を達成できるものである。
【0033】
上記のような三次元光記録媒体は、三次元(膜厚)方向の任意の場所にアクセスして書き込みができるものであるが、その手段として、二光子吸収材料を用いる方法と、ホログラフィ(干渉)を用いる方法とが考えられている。
【0034】
先ず、第一の手段である二光子吸収材料を用いた三次元光記録媒体は、物理原理に基づいて何十〜何百倍にもわたってビット記録が可能なものであり、高密度記録化に優れているものである。
【0035】
二光子吸収材料を用いた3次元光記録媒体に関しては、記録再生に蛍光性物質を用いて蛍光で読み取る方法(レヴィッチ、ユージーン、ポリス他、特表2001−524245号公報、パベル、ユージエン他、特表2000−512061号公報)、フォトクロミック化合物を用いて吸収または蛍光で読み取る方法(コロティーフ、ニコライ・アイ他、特表2001−522119号公報、アルセノフ、ヴラディミール他、特表2001−508221号公報)等が提案されている。
【0036】
しかしながら、従来においては、この三次元光記録媒体に関し、具体的な二光子吸収材料の提示がなされていないか、あるいは単に抽象的に提示されているに過ぎず、二光子吸収化合物の例も二光子吸収効率の極めて小さく実用面において多くの課題があった。
さらに、これら従来の技術において、用いられているフォトクロミック化合物は、可逆材料であるため、非破壊読み出し、記録の長期保存性、再生のS/N比等に実用上の問題点を有しており、光記録媒体として実用性のある方式であるとは言えなかった。
特に非破壊読出しや、記録の長期保存性等の観点からは、不可逆材料を用いて反射率(屈折率または吸収率)または発光強度の変化で再生するのが好ましいが、このような機能を有する二光子吸収材料を具体的に開示している技術についての提案はなされていなかった。
【0037】
また、特開平6−28672号公報、特開平6−118306号公報には、屈折率変調により三次元的に記録する記録装置、及び再生装置、読み出し方法等についての開示がなされているが、二光子吸収三次元光記録材料を用いた方法についての技術は、開示されていない。
【0038】
上述したように、非共鳴二光子吸収により得た励起エネルギーを用いて反応を起こし、その結果レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部で光を照射した際の発光強度を書き換えできない方式で変調することができれば、三次元空間の任意の場所に極めて高い空間分解能で発光強度変調を起こすことができ、究極の高密度記録媒体と考えられる三次元光記録媒体への応用が可能となる。
さらに、非破壊読み出しが可能で、かつ不可逆材料であるため良好な保存性も期待でき実用的である。
【0039】
しかしながら、従来利用されていた二光子吸収化合物は、二光子吸収能が低いため、光源としては非常に高出力のレーザーが必要で、かつ記録時間も長くかかるという欠点があった。
特に三次元光記録媒体に使用するためには、速い転送レートを達成するために、高感度にて発光能の違いによる記録を二光子吸収により行うことができる二光子吸収三次元光記録材料の構築が必須である。そのためには、高効率に二光子を吸収し励起状態を生成することができる二光子吸収化合物と、二光子吸収化合物励起状態を用いて何らかの方法にて二光子吸収光記録材料の発光能の違いを効率的に形成できる記録成分を含む材料が有力であるが、そのような材料は今までほとんど開示されておらず、そのような材料の構築が望まれていた。
【0040】
本発明においては、多光子吸収材料、具体的には二光子吸収材料を含有している多光吸収機能材料を提供するとともに、これを光記録媒体に応用し、この二光子吸収を利用して記録を行った後、光を記録材料に照射してその発光強度の違いを検出する、又は屈折率変化による反射率の変化を検出することにより再生することを特徴とする二光子吸収光記録再生方法、及びそのような記録再生が可能な二光子吸収光記録(材料)媒体を提供する。
【0041】
本発明の多(二)光子吸収機能材料を用いた光記録媒体は、多(二)光子吸収機能材料を、スピンコーター、ロールコーター、又はバーコーター等を用いて、所定の基板(基材)上に直接塗布したり、あるいはフィルムとしてキャストしたりすることによって基本的な構成を形成できるものである。
【0042】
多光子吸収機能材料は、多光子吸収色素等よりなる多光子吸収材料と、表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部を被覆された微粒子の分散体よりなるものとする。
【0043】
上記基板(基材)は、任意の天然、又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シート、又は板形態のものをいずれも適用できる。
具体的な材料としては、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等が挙げられる。
また、最終的に目的とする記録媒体の態様に応じて、予め所定のトラッキング用の案内溝やアドレス情報を形成してもよい。
【0044】
なお、塗布法による場合、使用した溶媒は、乾燥時に蒸発除去するものとする。
溶媒の蒸発除去は、加熱法、減圧法のいずれによって行ってもよい。
【0045】
更に、上述したように塗布法やキャスト法によって形成した多(二)光子吸収光記録材料の上に、酸素遮断や層間クロストーク防止のための所定の保護層(中間層)を形成してもよい。
保護層(中間層)は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、またはセロファンフィルム等のプラスチック製のフィルム、または板を静電的な密着、押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布することによって形成することができる。また、ガラス板を貼り合わせることによって形成することもできる。
また、層間の気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。
【0046】
更に、最終的に目的とする記録媒体の態様に応じて、上記保護層(中間層)にも、予め、所定のトラッキング用の案内溝やアドレス情報を付加してもよい。
【0047】
上述した三次元多層構造の、多光子吸収機能材料を用いた記録媒体の、任意の層に焦点を合わせて記録及び/又は再生を行う。
また、層間を保護層(中間層)で区切っていない構成としても、多(二)光子吸収機能材料の特性から深さ方向の三次元記録を行うことも可能である。
【0048】
次に、本発明の多光子吸収機能材料を用いた三次元記録媒体の具体的な例として、三次元多層光メモリの好ましい実施形態について説明する。
なお、本発明は下記の実施形態により何ら限定されるものではなく、三次元記録(平面及び膜厚方向に記録)が可能な構造であれば、他の構造であってもよい。
【0049】
三次元多層光メモリの記録/再生のシステムの概略構成図を図1(a)に示し、三次元記録媒体の概略断面図を図1(b)に示す。
図1(a)、(b)に示す三次元記録媒体10においては、平らな支持体(基板1)に、多(二)光子吸収化合物を用いた記録層11と、クロストーク防止用の中間層(保護層)12とが交互に50層ずつ積層された構成を有しており、各層はスピンコート法により成膜されているものとする。
【0050】
記録層11の膜厚は、それぞれ0.01〜0.5μmとし、中間層12の膜厚は、それぞれ0.1μm〜5μmが好適である。
上述したような構造によれば、従来公知のCD、DVDと同様のディスクサイズで、テラバイト級の超高密度光記録が実現できる。
【0051】
更に、データの再生方法(透過/或いは反射型)に従い、記録層11を介在させた反対側に、基板1と同様の基板2(保護層)か、高反射率材料からなる反射層が形成されているものとする。
記録ビット3の形成時には、単一ビーム(図中、レーザー光L)を用い、フェムト秒オーダーの超短パルス光を利用する。
また再生時には、データ記録に使用するビームとは異なる波長、或いは低出力の同波長の光を用いてもよい。
記録及び再生は、ビット単位/ページ単位のいずれにおいても実行可能であり、面光源や二次元検出器等を利用する並行記録/再生は、転送レートの高速化に有効である。
なお、本発明に従い同様に形成される三次元多層光メモリの形態としては、カード状、プレート状、テープ状、ドラム状等が考えられる。
【0052】
次に、本発明の多(二)光子吸収機能材料の具体的な適用例として、光制限素子への応用について説明する。
光通信や光情報処理では、情報等の信号を光で搬送するためには変調、スイッチング等の光制御が必要になる。この種の光制御には、電気信号を用いた電気−光制御方法が従来採用されている。しかし電気−光制御方法は、電気回路のようなCR時定数による帯域制限、素子自体の応答速度や電気信号と光信号との間の速度の不釣合いで処理速度が制限されることなどの制約があり、光の利点である広帯域性や高速性を十分に生かすためには、光信号によって光信号を制御する光−光制御技術が非常に重要になってくる。この要求に応えるものとして本発明の二光子吸収機能材料を加工して光学素子を作製する。これは光を照射することで引き起こされる透過率や屈折率、吸収係数などの光学的変化を利用し、電子回路技術を用いずに光の強度や周波数を変調し、これによって、光通信、光交換、光コンピューター、光インターコネクション等における光スイッチなどに応用するものである。
二光子吸収による光学特性変化を利用する本発明の光制限素子は、通常の半導体材料により形成される光制限素子や、一光子励起によるものに比べ、応答速度にはるかに優れた素子を提供することができる。また高感度ゆえに、S/N比の高い信号特性に優れた光制限素子を提供することができる。
【0053】
従来、光制限素子としては、従来においても開示がなされており、具体的には、光照射により屈折率が変化する光屈折率材料にその屈折率が変化する波長の光を照射してフォーカシングを行い、屈折率分布を形成する光導波路に関するものであった。
図2に、本発明の二光子吸収機能材料を、二光子励起し得る波長の制御光により二光子励起させることによって、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチングする光制限素子20の一例の概略図を示す。
この例においては、光制限素子20は、保護層21で本発明に記載の金属微粒子または金ナノロッドを含む二光子吸収材料22を狭持した構成であるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0054】
この光制限素子の動作は、制御光23により光制限素子20を多光子励起させることで、信号光24を光スイッチングする。
制御光23は二光子過程を、信号光24は一光子過程を利用するため波長が異なるので、カラーフィルター25を用い、制御光23と信号光24を分離することが可能である。分離された信号光24を検出器26により検出する。このような構成により、光−光制御技術の高速応答性とS/N比を両立させることができる。
【0055】
次に、多光子吸収機能材料として、二光子吸収材料を適用した二光子光造形用材料への応用について説明する。
二光子吸収材料を適用した二光子光造形法に適用する装置の概略図を図3に示す。
この例においては、近赤外パルスレーザー光源31から光を、透過光量を時間的にコントロールするシャッター33と、NDフィルター34を介し、更には、ミラースキャナー35を通して、レンズ37を用いて光硬化性樹脂39中に集光させレーザスポットを走査し、二光子吸収を誘起することによって焦点近傍のみにおいて樹脂を硬化させて任意の三次元構造を形成する二光子マイクロ光造形方法を行うものである。
【0056】
この例においては、パルスレーザー光をレンズ37で集光して、集光点近傍にフォトンの密度の高い領域を形成する。このときビームの各断面を通過するフォトンの総数は一定なので、焦点面内でビームを二次元的に走査した場合、各断面における光強度の総和は一定である。
しかしながら、二光子吸収の発生確率は、光強度の二乗に比例するため、光強度の大きい集光点近傍にのみ、二光子吸収の発生の高い領域が形成される。
このように、パルスレーザー光をレンズ37によって集光させ二光子吸収を誘起することで、集光点近傍に光吸収を限定し、ピンポイント的に樹脂を硬化させることが可能となる。
集光点は、コンピュータ38によってZステージ36とガルバノミラーを制御して光硬化樹脂液39内を自由に移動させることができるため、光硬化性樹脂液39内において目的とする三次元加工物を自在に形成することができる。
【0057】
上述した二光子光造形法は、以下の特徴を有している。
(a)回折限界をこえる加工分解能:二光子吸収の光強度に対する非線形性によって、光の回折限界を超えた加工分解能を実現できる。
(b)超高速造形:二光子吸収を利用した場合、焦点以外の領域では、光硬化性樹脂が原理的にも硬化しない。このため照射させる光強度を大きくし、ビームのスキャン速度を速くすることができる。このため、造形速度を約10倍向上することができる。
(c)三次元加工:光硬化性樹脂は、二光子吸収を誘起する近赤外光に対して透明である。したがって焦点光を樹脂の内部へ深く集光した場合でも、内部硬化が可能である。従来のSIHでは、ビームを深く集光した場合、光吸収によって集光点の光強度が小さくなり、内部硬化が困難になる問題点が、本発明ではこうした問題点を確実に解決することができる。
(d)高い歩留り:従来法では樹脂の粘性や表面張力によって造形物が破損、変形するという問題があったが、本手法では、樹脂の内部で造形を行うのでこうした問題は解消される。
(e)大量生産への適用:超高速造形を利用することによって、短時間に、連続的に多数個の部品あるいは可動機構の製造が可能である。
【0058】
二光子光造形用の光硬化性樹脂液39は、光を照射することにより二光子重合反応を起こし、液体から固体へと変化するものである。
主成分は、オリゴマーと反応性希釈剤からなる樹脂成分と光重合開始剤(必要に応じ光増感材料を含む)である。
オリゴマーは重合度が2〜20程度の重合体であり、末端に多数の反応基を持つ。
更に、粘度、硬化性等を調整するため、反応性希釈剤が加えられている。
レーザー光を照射すると、重合開始剤または光増感材料が二光子吸収し、重合開始剤から直接または光増感材料を介して反応種が発生し、オリゴマー、反応性希釈剤の反応基に反応し、重合が開始される。
その後、これらの間で連鎖的重合反応を起こし、三次元架橋が形成され、短時間のうちに三次元網目構造を持つ固体樹脂へと変化する。
【0059】
光硬化性樹脂は、光硬化インキ、光接着剤、積層式立体造形等の分野で使用されており、様々な特性を持つ樹脂が開発されている。
特に、積層式立体造形においては、(1)反応性が良好であること、(2)硬化時の堆積収縮が小さいこと、(3)硬化後の機械特性が優れていること、等が重要である。
これらの特性は、本手法においても同様に重要であり、そのため、積層式立体造形用に開発された樹脂で二光子吸収特性を有するものは本手法の二光子光造形用光硬化性樹脂としても使用できる。
具体的には、アクリレート系及びエポキシ系の光硬化性樹脂が挙げられ、特にウレタンアクリレート系の光硬化性樹脂が好適である。
【0060】
光造形に関しては、従来、特開2005−134873号公報に技術開示がなされている。
これは、感光性高分子膜の表面に、パルスレーザー光を、マスクを介さずに干渉露光させるものである。
前記パルスレーザー光としては、前記感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域の光であることが重要とされている。
従って、パルスレーザー光としては、感光性高分子の種類、または、感光性高分子における感光性機能を発揮する基又は部位の種類等に応じて、その波長領域を適宜選択することができる。
特に、光源から発光されるパルスレーザー光の波長が、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域でなくても、パルスレーザー光の照射に際して、多光子吸収過程を利用することにより、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させることが可能となる。
具体的には、光源から発光されるパルスレーザー光を集光して、集光されたパルスレーザー光を照射すると、多光子の吸収(例えば二光子の吸収、三光子の吸収、四光子の吸収、五光子の吸収など)が生じ、これにより光源から発光されるパルスレーザー光の波長が、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域でなくても、感光性高分子膜には、実質的に、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域のパルスレーザー光が照射されたことになる。
このように、干渉露光するパルスレーザー光は、実質的に、感光性高分子膜に感光性機能を発揮させる波長領域となるパルスレーザー光であればよく、照射条件などにより、その波長を適宜選択することができる。
例えば、本発明に係る二光子吸収材料を光増感材料とし、紫外線硬化樹脂等に分散し、感光物固体とし、この感光物固体の二光子吸収能を利用して焦点スポットのみが硬化する特性を利用した超精密三次元造形物を得ることが可能となる。
【0061】
本発明に係る二光子吸収機能材料は、二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料としても用いることができる。
従来の二光子吸収機能材料(二光子吸収重合開始剤または二光子吸収光増感材料)に比較し、二光子吸収感度が高いため、高速造形が可能で、励起光源としても小型で安価なレーザー光源が使用できるため、大量生産可能な実用用途への展開が可能となる。
【0062】
次に、本発明の多(二)光子吸収機能材料について、吸収感度の調整に関して説明する。
本発明の多(二)光子吸収機能材料は、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子と多光子吸収材料の混合材料である。
そのため、実効的な多光子吸収反応の感度の概略は、励起光により励起される多光子吸収反応に消費された光の量に比例すると考えられることから、多光子吸収材料単体の感度条件と表面プラズモン増強場を発生させる微粒子の増感度との積で与えられる。
従って、多光子吸収材料の感度条件の観点から多光子吸収反応の感度を上げるためには、多光子吸収材料単体の多光子吸収感度を上げる、若しくは、多光子吸収材料の分散濃度を上げることが考えられる。
また、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子の増感度の観点からは、微粒子の形状変更により、より大きなプラズモン増強場の増強効果が得られる粒子を選択するか、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子の分散濃度を上げることになる。
【0063】
但し、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子は、一光子吸収することにより表面プラズモン増強場を発生するため、深部の感度を落とさない(励起光の透過率を落とさない)ためには微粒子の深さ方向の濃度分布設計は重要となる。
従って、深さ方向の感度を均一化するためには、深さ毎の励起光の透過光量と、先に述べた実効感度を決定するパラメータのバランスを考慮し、各パラメータの深さ方向の分布を決定する必要がある。多層構造の場合は層毎にパラメータを変えることが可能である。
なお、上記「感度を均一化」するとは、感度が、略等しくなるように構成されていることを意味し、具体的には、光照射パワーの±10%程度の均一化が図れれば良く、好ましくは±5%以内の感度均一化(同一)が図られたことが好適である。
【0064】
次に、表面プラズモン増強場の発生微粒子について説明する。
表面プラズモンは、微粒子近傍に発生する局在プラズモンである。
微粒子近傍に発生する局在プラズモンの特徴は、励起光(伝播光)とのカップリングが容易に起こること(特別な光学配置を必要としない)、および波長より小さな微粒子に認められる現象であるため微粒子による散乱の影響が比較的小さく、散乱損失を避けることが可能であることである。
微粒子によるプラズモン吸収は、非常に強く極微量の粒子を分散させることにより色材として利用可能な程度の吸収による発色が得られる。例えばガラス中に分散された金の微粒子は赤の透明性を有するガラス工芸用着色ガラスとして古くから知られている。即ち、バルク体に分散された表面プラズモン増強場発生粒子の1光子吸収と吸収した光エネルギーの増強と散乱による損失のバランスをとることが可能で、バルク体深部の多光子吸収を励起可能である。
【0065】
表面プラズモン増強場の発生微粒子に、1光子吸収された励起光は、自由電子のプラズモン振動となり、プラズモン振動のモードに固有の分布を持つ局在プラズモン増強場を形成する。
金属微粒子の場合、一般的に最も得やすい形状として球形の微粒子が上げられる。
金の球形微粒子の場合には、520nm程度の光に最も強い吸収を示す。
再現性良く得られる合成法が開発されているロッド状の金微粒子(金ナノロッドと呼ばれている)においては、太さと長さの比が増す(細長くなる)に従い従い、長さ方向の共鳴に起因するより長波長側に現れるの強い吸収が発生し、球形の金微粒子と比較して桁違いに高強度のプラズモン増強場が得られることが確認された。この金ナノロッドを局在プラズモン増強場の発生源として用いることで、より高い多光子吸収の増感が得られた。
【0066】
また、表面プラズモン増強場を発生させる微粒子は、励起光中では独立の局在プラズモン増強場を発生させるが、粒子間が近接すると、増強場に重なりを生じるだけではなく、粒子の間隙部にさらに大きな局在プラズモン増強場が発生する。
このような大きな増強場を発生させる構造の一つとして、(1)微粒子表面に表面プラズモン増強場を発生させる金属で(一部を)被覆したり、あるいは(2)前記金属の微粒子を吸着した構造をもつ粒子が上げられる。本発明の請求項1に述べる『金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは当該金属で少なくとも一部が被覆された微粒子』とは、広義の意味で前記(1)と(2)の両方を含むものとする。
その他、表面プラズモン増強場を発生させる金属微粒子により形成される凝集体を用いる方法もある。
本発明においては、二つの粒子が結びついた略二量体等、小規模の凝集において、散乱による損失の影響が比較的小さく、大きな増強効果の得られ、バルク体での多光子吸収の増感効果を示すことが見出された。
このような小規模の凝集体は、原料溶液の粘性と凝集力のバランスを最適化することで再現可能である。
【実施例】
【0067】
次に、具体的なサンプルを作製し、本発明について説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1〕
トルエン300mlに硝酸銀10gとオレイルアミン(85%)37.1gを加え、1時間撹拌した。次いで、アスコルビン酸15.6gを加えて3時間撹拌した。これにアセトン300mlを加え、デカンテーションにて上澄み液を除き、沈降物に含有されている溶媒を留去することで粒径10〜30nmの球状銀微粒子を得た。
得られた球状銀微粒子1mgをトルエン10mlに再分散し、下記式(1)に示す二光子蛍光色素を7mg加え攪拌した。
【0069】
【化1】

【0070】
色素の溶解後、さらにアクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)1gを加え、攪拌融解した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、厚さ50μmの球状銀微粒子・二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0071】
〔実施例2〕
上記実施例1で得られた球状銀微粒子1mgをトルエン10mlに再分散し、1重量%ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量300)のトルエン溶液0.2gと混合し、球状銀微粒子の小規模凝集を分散液の色の変化により確認した。
更に、上記式(1)に示した二光子蛍光色素を7mg加えて攪拌し、色素の溶解後、アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)1gを加え攪拌融解した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、厚さ50μmの凝集した球状銀微粒子・二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0072】
〔実施例3〕
水30mlに塩化金酸0.37gを加え、ついで、テトラオクチルアンモニウムブロミド2.187gとトルエン80ml混合液を加えて2時間撹拌した。
さらに1−ドデカンチオール0.2gを加えて1時間撹拌した。
次にNaBH40.378gを水20mlに溶解した液を滴下して2時間撹拌した。
この反応物を分液ロートを用いて水で数回洗浄した後、有機層の溶媒を留去することで粒径20〜50nmの球状金微粒子を得た。
得られた球状金微粒子3mgをトルエン10mlに再分散し、上記式(1)に示す二光子蛍光色素を7mg加えて攪拌した。色素の溶解後、さらにアクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)1gを加え攪拌融解した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、厚さ50μmの球状金微粒子・二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0073】
〔実施例4〕
上記実施例3で得られた、球状金微粒子3mgをトルエン10mlに再分散し、1重量%ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量300)のトルエン溶液0.2gと混合後攪拌した。球形金微粒子の小規模凝集を分散液の色の変化により確認した。
更に、上記式(1)に示す二光子蛍光色素を7mg加えて攪拌した。色素の溶解後、アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)1gを加え攪拌融解した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、厚さ50μmの凝集した球状金微粒子・二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0074】
〔実施例5〕
0.18mol/l臭化セチルトリメチルアンモニウム水溶液を70ml、シクロヘキサン0.36ml、アセトン1ml、0.1mol/l硝酸銀水溶液を1.3ml混合して撹拌する。これに0.24mol/l塩化金酸水溶液を0.3ml加えた後、0.1mol/lアスコルビン酸水溶液を0.3ml加えて塩化金酸溶液の色が消失したことを確認した。その後、この液をシャーレに移して低圧水銀灯による波長254nmの紫外線を20分照射することで、吸収波長に約830nmにある金ナノロッド分散液が得られた。この分散液を、遠心分離器を用いて金ナノロッド成分を沈降させた。この上澄み液を除いて、さらに水を加えて遠心分離器にかけるという工程を複数回繰り返して行い、余剰の分散剤臭化セチルトリメチルアンモニウムを除いた。この金ナノロッド分散液1gを1重量%ポリエチレンイミン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに5重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)のDMF溶液2gを混合する。さらに、上記式(1)に示す二光子蛍光色素0.7mgを加え攪拌した。これを減圧することで数mlになるまで濃縮した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化することにより、厚さ50μmの金ナノロッド・二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0075】
〔実施例6〕
上記実施例5で得られた金ナノロッド分散液1gを1重量%ポリエチレンイミン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに10重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)のDMF溶液10gを混合した。さらに、フォトクロミック色素(東京化成B1536)200mgを加え攪拌した。これを減圧することで約10mlになるまで濃縮した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り、複数回に分けて流し込み、溶媒の揮発・固化を繰り返し行うことにより、厚さ500μmの金ナノロッド・フォトクロミック色素分散アクリル樹脂バルク体が得られた。
【0076】
〔実施例7〕
上記実施例5で得られた金ナノロッド分散液1gを1重量%ポリエチレンイミンン(和光純薬製、平均分子量1800)のアセトン溶液0.4gと混合した。これに1重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)のDMF溶液1gを混合した。さらに、フォトクロミック色素(東京化成B1536)2mgを加えて攪拌した。これを減圧することで数mlになるまで濃縮を行った。この混合溶液を、ガラス基板上に膜厚が0.5μmとなるようにスピンコートによって膜を形成した。この膜の励起光波長での1光子の吸収率は約11.4%であった。この上に5重量%のPVA水溶液を膜厚5μmとなるようスピンコートした。その後、前記混合溶液の一部を取り、厚さ0.5μmでのバインダー樹脂中の色素濃度が同一かつ1光子吸収が、下記に示す通りになるように、色素とバインダー樹脂を混合した混合溶液のスピンコート膜(膜厚1μm)と前記混合溶液とPVA水溶液のスピンコート膜(膜厚5μm)を交互にスピンコートし、5層の金ナノロッド・フォトクロミック色素分散アクリル樹脂層とPVA層を交互に積層し、かつ濃度が変調された局在プラズモン増強場を発生させる微粒子と二光子吸収する色素とを含む層と分離層とを交互に積層した積層構造を形成した。
【0077】
<各層の1光子吸収率>
1層目(最表面): 5.0%
2層目 : 5.8%
3層目 : 7.0%
4層目 : 8.7%
5層目(最下層):11.4%
【0078】
〔比較例1〕
トルエン10mlに、上記式(1)に示す二光子蛍光色素を7mg加えて攪拌した。
色素の溶解後、さらにアクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)1gを加え攪拌融解した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り流し込み、溶媒を揮発、固化し、厚さ50μmの二光子蛍光色素分散アクリル樹脂バルク体を得た。
【0079】
〔比較例2〕
10重量%アクリル樹脂ダイヤナールBR-75(三菱レーヨン製)のDMF溶液10gに、フォトクロミック色素(東京化成B1536)200mgを加えて攪拌した。この溶液を、ガラス基板上に枠を作り、複数回に分けて流し込み、溶媒の揮発・固化を繰り返し、厚さ500μmのフォトクロミック色素分散アクリル樹脂バルク体を得た。
【0080】
〔比較例3〕
上記実施例7における、第5層目(最表面)に用いた金ナノロッド・フォトクロミック色素混合溶液を、ガラス基板上に、膜厚が0.5μmとなるようにスピンコートして膜を形成した。
この上に、5重量%PVA水溶液を膜厚5μmとなるようスピンコートし、さらに、前記混合溶液とPVA水溶液を交互にスピンコートし、5層の金ナノロッド・フォトクロミック色素分散アクリル樹脂層とPVA層とを交互に積層し、一様な濃度の局在プラズモン増強場を発生させる微粒子と二光子吸収する色素とを含む層と分離層とを交互に積層した積層構造が作製した。
【0081】
<第一の評価:二光子蛍光強度と増強度の測定>
試料の二光子吸収量を直接測定することは、プラズモン増強場を発生させる微粒子による励起光の吸収と散乱があるため容易ではない。
本評価においては、色素に二光子吸収色素(二光子吸収能を持つ蛍光色素)を用いることにより、二光子吸収により発せられる蛍光光量を、比較例と相対比較することによって二光子吸収の増強度を定義し測定した。
二光子蛍光の測定系を図4に示す。
励起光には、赤外線フェムト秒レーザー、スペクトラフィジックス社製MaiTai(繰り返し周波数80MHz、パルス幅100fs)を用いた。
出力を調整するため、1/2λ板と、グランレーザープリズムよりなるアッテネーターを通し、平均出力200mWに調整し、その後、1/4λ板により円偏光とし、焦点距離100mmの平凸レンズを用いて試料上に集光し、焦点距離40mmのカップリングレンズで蛍光を集め、概略平行光とする。
ダイクロイックミラーで励起光を取り除いた後、焦点距離100mmの平凸レンズで検出用フォトダイオード上に概略集光する。
フォトダイオードの手前には赤外線カットガラスフィルターが設置されている。
【0082】
<評価結果>
上述した〔実施例1〜5〕と〔比較例1〕の各試料について、励起光源の焦点位置での、二光子励起の蛍光を測定した。
実施例1〜5と、比較例1の、それぞれのサンプル試料の二光子蛍光光量とを比較し、これらの相対強度比較結果を下記に示す。
なお、下記においては、相対比較の基準とした〔比較例1〕の記載は省略した。
【0083】
<二光子蛍光相対強度比較結果(相対光量)>
実施例1 :2.2
実施例2 :2.6
実施例3 :2.5
実施例4 :3.2
実施例5 :7.1
【0084】
上記評価結果から明らかなように、本発明の金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子と二光子吸収材料(二光子吸収蛍光色素)とを分散した構成のバルク型材料よりなる多光子吸収機能材料を用いたことにより、従来比較例である、二光子吸収蛍光色素のみを分散したバルク材料よりも、二光子蛍光の大きな増強が可能であることが確かめられた。
更には、凝集体をバルク中に分散させることにより、さらに増強効果が得られることが確かめられた。
【0085】
<第二の評価:バルク型試料および積層型試料の評価>
バルク型試料と積層型試料の評価について説明する。
バルク型試料、及び積層型試料の評価は、二光子吸収反応の特徴である励起光の焦点近傍でのみ反応が起こることを利用した3次元の記録再生を行い、記録の閾値パワーを評価することで行った。
記録パワーの閾値の評価は、記録光源のシャッター311を制御し、露光時間を変えて複数のビットを書き込む。
記録後に、共焦点顕微鏡により記録面を観察し、記録材料であるジアリールエテンのフォトクロミック効果を反射率の変化の有無により評価した。
【0086】
<評価結果>
上記〔実施例6〕の金ナノロッド分散と〔比較例2〕の従来型の色素分散バルク型多光子吸収機能材料との感度比較を行った。
表面からの深さが約50μmと450μmの位置に記録書き込みを行ったときの記録パワーの閾値を相対比較した。
比較の基準は、上記〔比較例2〕の表面からの深さが約50μmの位置での書き込み閾値とした。
【0087】
<記録パワー閾値の相対評価結果>
(表面から50μm)
実施例6 :0.53
比較例2 :1.00
(表面から450μm)
実施例6 :0.68
比較例2 :1.02
【0088】
上記評価結果から、本発明の多光子吸収機能材料である実施例6のサンプルにおいては、表面から深さ50μm、450μmのいずれの位置においても、比較例2よりも閾値パワーは低くなり、即ち、より高感度であることが確かめられた。
更には、1光子による吸収散乱の影響を避けることが可能であることが実証された。
【0089】
<第三の評価>
上記〔実施例7〕の濃度変調を持つ金ナノロッド分散と、上記〔比較例3〕の一様な濃度に金ナノロッドが分散させた色素分散バルク型多光子吸収機能材料との感度比較評価を行った。
最表面の色素含有層と、最も深い5層目の色素含有層に書き込んだときの記録パワーの閾値を相対比較することによって評価を行った。
【0090】
<記録パワー閾値の相対評価結果>
(1層目(最表面))
実施例7:0.99
比較例3:1.00
(5層目(最下層))
実施例7:1.05
比較例3:1.51
【0091】
上記評価結果から、比較例3では、下層の記録層ほど相対的に大きな記録パワーを必要としており、すなわち感度の低下が著しくなっているが、実施例7においては、各層毎に1光子の吸収量を制御した構成となっているので、感度の低下が効果的に抑制されており、最上層と最下層とで大きな感度の差が見られなかった。すなわち、各層ごとの感度ムラを微粒子の濃度を変えることで抑えることが可能であることが明らかとなった。
【0092】
なお、上記各実施例は、本発明の実施形態の具体例であり、その他公知の材料構成を適宜付加することもでき、これは本発明の要旨を何等逸脱するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】(a)三次元多層光メモリの記録/再生のシステム概略図を示す。(b)三次元記録媒体の概略断面図を示す。
【図2】本発明の光制限素子の一例の概略図を示す。
【図3】二光子光造形法に適用する装置の概略図を示す。
【図4】二光子蛍光の測定系を示す。
【符号の説明】
【0094】
1 基板
2 基板(反射層)
3 記録ビット
4 記録用レーザー光源
5 再生用レーザー光源
6 ピンホール
7 検出器
10 三次元記録媒体
11 記録層
12 中間層
20 光制限素子
21 保護層
22 二光子吸収材料
23 制御光
24 信号光
25 カラーフィルター
26 検出器
30 光造形物
31 レーザー光源
33 シャッター
34 NDフィルター
35 ミラースキャナー
36 Zステージ
37 レンズ
38 コンピュータ
39 光硬化性樹脂液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に発生する表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは当該金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、多光子吸収材料中に分散されていることを特徴とするバルク型材料よりなる多光子吸収機能材料。
【請求項2】
少なくとも一層以上の膜として形成されたことを特徴とする請求項1に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項3】
二層以上の膜として形成されている多光子吸収機能材料が、互いに多光子吸収能を有さない中間層によって分離されていることを特徴とする請求項2に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項4】
二層以上の膜として形成されている多光子吸収機能材料の、各層における多光子吸収感度が、略等しいことを特徴とする請求項2又は3に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項5】
二層以上の膜として形成されている多光子吸収機能材料の、各層の表面プラズモン増強場を発生させる前記金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子の濃度が、各層ごとに別個に設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項6】
表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、もしくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、金ナノロッドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項7】
表面プラズモン増強場を発生させる金属の微粒子、若しくは前記金属で少なくとも一部が被覆された微粒子が、凝集体ナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多光子吸収機能材料。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多光子吸収機能材料を用いた、層平面に対して垂直な入射光に対して深さ方向に記録再生可能な三次元記録媒体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多光子吸収機能材料を用いたことを特徴とする光制限素子。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多光子吸収機能材料を用いたことを特徴とする光造形システム。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−130102(P2008−130102A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310110(P2006−310110)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】