説明

多共振アンテナ装置とこのアンテナ装置を備えた電子機器

【課題】小型化と広帯域化の両立を図り、かつ並列共振を抑制して放射効率を高める。
【解決手段】実施形態の多共振アンテナ装置は、モノポール素子により構成される第1のアンテナ素子と、この第1のアンテナ素子に対し電流結合が可能な位置に配置される無給電素子からなる第2のアンテナ素子と、折り返しモノポール素子により構成される第3のアンテナ素子とを備える。第1及び第2のアンテナ素子はそれぞれ素子長が第1及び第2の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定される。第3のアンテナ素子は電気長が上記第1及び第2の共振周波数より高周波数に設定された第3の共振周波数に対応する波長の略1/2に設定される。また、第1、第2及び第3のアンテナ素子は途中で同一方向に折曲形成され、第2のアンテナ素子の先端部が最も突出する。第2のアンテナ素子の先端部と第3のアンテナ素子の折り返し部とは相互に近接配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、多共振型のアンテナ装置とこのアンテナ装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やスマートホン、PDA(Personal Digital Assistant)に代表される携帯端末機器では、小型軽量化の観点から筐体のさらなる軽薄短小化が求められており、それに伴いアンテナ装置についても小型化が望まれている。また、最近では1台の携帯端末機器で異なる周波数帯を使用する複数の無線システムと通信できるようにすることが要求されている。
【0003】
そこで従来では、例えば特許文献1に示すように給電点側を板状に形成したモノポール素子と無給電素子とを組み合わせることで多共振化を図ったアンテナ装置や、特許文献2に示すようにモノポール素子と折り返しモノポール素子とを組み合わせ、さらにこれらのモノポール素子に対し反対向きに無給電素子を設けた多共振アンテナ装置が提案されている。また、特許文献3に例示するように給電点に対し逆台形状をなすアンテナ板を設け、このアンテナ板の短辺及び側辺を放射素子として複数の共振周波数を生成するアンテナ装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−182608号公報
【特許文献2】特許第3775795号公報
【特許文献3】特開2006−33069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来提案されているアンテナ装置には以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に記載されたアンテナ装置は、低背化しようとするとモノポール素子と接地パターンとの間の距離が近づくため給電点におけるアンテナインピーダンスが低下してしまう。また、無給電素子の共振周波数によっては、モノポール素子によって生成される2つの共振周波数間に並列共振が起こり、放射効率の劣化を生じる。
【0006】
特許文献2に記載されたアンテナ装置は、折り返しモノポール素子により最も低い共振周波数を生成させるように構成されている。このため、折り返しモノポール素子の素子長が長くなり、結果としてアンテナ装置が大型化する。また、モノポール素子及び折り返しモノポール素子に対する無給電素子の影響が小さく、連続的な広帯域化を実現することが困難である。
【0007】
特許文献3に記載されたアンテナ装置は、逆台形状をなすアンテナ素子板を設置するために大きな面積が必要となる。このため、アンテナ装置の小型化が困難である。また、アンテナ素子を独立して設ける一般的な多共振アンテナと比較すると共振周波数における放射効率が低い。
【0008】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、小型化と広帯域化の両立を可能とし、さらに並列共振の影響を低減して放射効率を高めることが可能な多共振アンテナ装置とこのアンテナ装置を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の多共振アンテナ装置は、モノポール素子により構成される第1のアンテナ素子と、この第1のアンテナ素子に対し電流結合が可能な位置に配置される無給電素子からなる第2のアンテナ素子と、折り返しモノポール素子により構成される第3のアンテナ素子とを備える。そして、第1のアンテナ素子は、素子長が第1の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定される。第2のアンテナ素子は、素子長が第2の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定される。第3のアンテナ素子は、給電部から折り返し部の他端を経て接地部に至る電気長が上記第1及び第2の共振周波数より高周波数に設定された第3の共振周波数に対応する波長の略1/2に設定される。また、上記第1、第2及び第3のアンテナ素子は途中で同一方向に折曲形成され、かつ当該第2のアンテナ素子の先端部と第3のアンテナ素子の折り返し部とが相互に近接配置され、さらに上記第1のアンテナ素子の先端部は上記第2のアンテナ素子の先端部及び上記第3のアンテナ素子の折り返し部よりも突出するように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るアンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図。
【図2】図1に示したアンテナ装置の具体的構成を示す図。
【図3】図2に示したアンテナ装置のVSWR周波数特性をモノポールアンテナの場合と対比して示す図。
【図4】図2に示したアンテナ装置においてモノポール素子と無給電素子との間の最適間隔を求める際に使用する図。
【図5】図4に示したアンテナ装置の給電点におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を示す図。
【図6】図2に示したアンテナ装置において給電点と無給電素子との間の最適間隔を求める際に使用する図。
【図7】図6に示したアンテナ装置の給電点におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を示す図。
【図8】第2の実施形態に係るアンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図。
【図9】図8に示したアンテナ装置の具体的構成を示す図。
【図10】図9に示したアンテナ装置のVSWR周波数特性をモノポールアンテナの場合と対比して示す図。
【図11】図8に示したアンテナ装置においてモノポール素子と無給電素子との間の最適間隔を求める際に使用する図。
【図12】図11に示したアンテナ装置の給電点におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を示す図。
【図13】図8に示したアンテナ装置において給電点と無給電素子との間の最適間隔を求める際に使用する図。
【図14】図13に示したアンテナ装置の給電点におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を示す図。
【図15】第3の実施形態に係るアンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図。
【図16】図15に示したアンテナ装置の具体的構成を示す図。
【図17】図16に示したアンテナ装置のVSWR周波数特性をモノポールアンテナのVSWR周波数特性と対比して示す図。
【図18】図16に示したアンテナ装置の給電点におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を、スタブがない場合と対比して示す図。
【図19】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例1を示す図。
【図20】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例2を示す図。
【図21】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例3を示す図。
【図22】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例4を示す図。
【図23】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例5を示す図。
【図24】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例6を示す図。
【図25】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例7を示す図。
【図26】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例8を示す図。
【図27】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例9を示す図。
【図28】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例10を示す図。
【図29】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例11を示す図。
【図30】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例12を示す図。
【図31】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例13を示す図。
【図32】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例14を示す図。
【図33】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例15を示す図。
【図34】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例16を示す図。
【図35】他の実施形態に係るアンテナ装置の実施例17を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る多共振アンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図である。この電子機器は、無線インタフェースを備えたノート型のパーソナル・コンピュータやテレビジョン受信機からなり、図示しない筐体内には印刷配線基板1が収容される。なお、電子機器は、ノート型のパーソナル・コンピュータやテレビジョン受信機以外に、携帯電話機やスマートホン、PDA(Personal Digital Assistant)、電子書籍端末等の携帯端末であってもよい。
【0012】
上記印刷配線基板1は、接地パターン部1bと、接地パターンが形成されていない誘電体部1aとを有し、この誘電体部1aには多共振アンテナ装置6Aが設けられる。なお、印刷配線基板1の裏面側には、携帯端末を構成するために必要な複数の回路モジュールが実装される。回路モジュールの中には無線ユニット2が含まれる。無線ユニット2は、通信対象となる無線システムに割り当てられたチャネル周波数を用いて無線信号を送受信する機能を有する。また、上記誘電体部1aには給電端子4及び接地端子5が設けられ、給電端子4には給電パターン2aを介して上記無線ユニット2が接続される。
【0013】
ところで、上記多共振アンテナ装置6Aは次のように構成される。
すなわち、この多共振アンテナ装置6Aは、第1のアンテナ素子としてのモノポール素子61と、第2のアンテナ素子として無給電素子62と、第3のアンテナ素子としての折り返しモノポール素子63とを備えている。
【0014】
モノポール素子61は、一端が上記給電端子4に接続されると共に他端が開放されたL字型をなす導電パターンからなる。このモノポール素子61の素子長は、第1の共振周波数f1に対応する波長の1/4の長さに設定されている。
【0015】
無給電素子62は、一端が接地端子5に接続されると共に他端が開放されたL字型をなす導電パターンからなり、上記モノポール素子61の外側でかつ当該モノポール素子61に対し電流結合が可能な位置に配置される。この無給電素子62の素子長は、上記第1の共振周波数f1より高周波数に設定された第2の共振周波数f2に対応する波長の1/4の長さに設定されている。
【0016】
折り返しモノポール素子63は、全体を二分する位置でヘアピン状に折曲形成された形状を有し、その一端が上記給電端子4に接続されると共に他端が上記接地端子5に接続された導電パターンからなる。この折り返しモノポール素子63の形成位置は、上記モノポール素子61の形成位置と接地パターン1bとの間になるように設定されている。また、折り返しモノポール素子63の素子長は、上記給電端子4から折り返し位置を経て接地端子5に至る電気長が、上記第1及び第2の共振周波数f1,f2より高周波数に設定された第3の共振周波数f3に対応する波長の1/2に設定されている。
すなわち、第1の実施形態に係る多共振アンテナ装置6Aは、第1、第2及び第3の共振周波数f1,f2,f3の関係が、f3>f2>f1となるように構成されている。
【0017】
このような構成であるから、ターゲットとする3つの共振周波数のうち最も高い第3の共振周波数f3が折り返しモノポール素子63により生成される。そして、この折り返しモノポール素子63により生成される第3の共振周波数と、モノポール素子61により生成される最も低い第1の共振周波数f1との間に生じる並列共振の影響が、無給電素子62の作用により抑圧され、これにより第1の共振周波数f1から第3の共振周波数f3にかけて共振周波数の範囲を広帯域化することが可能となる。
【0018】
例えば、いまモノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図2に示すように設定し、この状態で電圧定在波比(VSWR)周波数特性を測定すると、図3の黒四角でプロットした特性が得られた。なお、同図においてダイヤ印でプロットした特性は、モノポール素子のみにより生成される共振周波数を表すVSWR周波数特性を示す。このVSWR周波数特性から明らかなように、第1の実施形態に係る多共振アンテナ装置6Aによれば3.3GHz 〜7.2GHzという広帯域に渡って連続的に良好なVSWR周波数特性が得られる。この結果、例えばWiMAX(登録商標)が使用する代表的な帯域を1個のアンテナ装置6Aでカバーすることが可能となる。
【0019】
上記モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xには、適正範囲がある。例えば、モノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図4に示すように設定し、この状態で上記間隔Xを7mm、10mm、12mmに変化させたときの給電端子4におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を測定すると、図5に示すようになる。
【0020】
この測定結果から明らかなように、モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xを小さくするに従いアンテナインピーダンスは低くなる。そして、間隔X=10mm以下であれば無給電素子62による並列共振の抑圧効果が期待できる。換言すれば、モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xは、第2の共振周波数f2に対応する波長の1/6以下になるように設定するとよい。
【0021】
また、上記無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔Yにも、適正範囲がある。例えば、モノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図6に示すように設定し、この状態で上記間隔Yを12mm、15mm、18mmに変化させたときの給電端子4におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を測定すると、図7に示すようになる。
【0022】
この測定結果から明らかなように、無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔Yを小さくするに従いアンテナインピーダンスは低くなる。そして、間隔Y=18mm以下であれば無給電素子62による並列共振の抑圧効果が期待できる。換言すれば、無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔Yは、第2の共振周波数f2に対応する波長の1/4以下になるように設定するとよい。
【0023】
以上詳述したように第1の実施形態では、モノポール素子61の外側でかつ当該モノポール素子61に対し電流結合が可能な位置(X≦λ/6及びY≦λ/4)に無給電素子62を配置すると共に、上記モノポール素子61と接地パターン1bとの間に折り返しモノポール素子63を配置し、かつこれらのモノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63がそれぞれ生成する第1、第2及び第3の共振周波数f1,f2,f3の関係がf3>f2>f1となるように、上記各素子61、62、63の素子長を設定するようにしている。
【0024】
したがって、第1の共振周波数f1から第3の共振周波数f3に渡り共振周波数の範囲を広帯域化することが可能となる。また、折り返しモノポール素子63により最も高い共振周波数f3を生成するようにしており、かついずれの素子61、62、63も同一方向に折曲形成されている。このため、全体としてアンテナ装置の設置面積を小型化することができる。
【0025】
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態に係る多共振アンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図である。なお、同図において前記図1と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
第2の実施形態に係る多共振アンテナ装置6Bも、第1の実施形態と同様に第1のアンテナ素子としてのモノポール素子61と、第2のアンテナ素子として無給電素子62と、第3のアンテナ素子としての折り返しモノポール素子63とを備えている。
【0026】
モノポール素子61は、一端が上記給電端子4に接続されると共に他端が開放されたL字型をなす導電パターンからなる。無給電素子62は、一端が接地端子5に接続されると共に他端が開放されたL字型をなす導電パターンからなり、上記モノポール素子61の外側でかつ当該モノポール素子61に対し電流結合が可能な位置に配置される。折り返しモノポール素子63は、全体を二分する位置でヘアピン状に折曲形成された形状をなす。そして、その一端が上記給電端子4に接続されると共に他端が上記接地端子5に接続された導電パターンからなり、上記モノポール素子61の形成位置と接地パターン1bとの間に形成される。
【0027】
ところで、折り返しモノポール素子63の素子長は、上記給電端子4から折り返し位置を経て接地端子5に至る電気長が、ターゲットとする3つの共振周波数のうち最も高い第3の共振周波数f3に対応する波長の1/2に設定されている。モノポール素子61の素子長は、上記第3の共振周波数f3より低い第1の共振周波数f1に対応する波長の1/4の長さに設定されている。無給電素子62の素子長は、上記第3及び第1の各共振周波数f3,f1より低い第2の共振周波数f2に対応する波長の1/4の長さに設定されている。
すなわち、第2の実施形態に係る多共振アンテナ装置6Bは、第1、第2及び第3の共振周波数f1,f2,f3の関係が、f3>f1>f2となるように構成されている。
【0028】
このような構成であるから、ターゲットとする3つの共振周波数のうち最も高い第3の共振周波数f3が折り返しモノポール素子63により生成され、さらにモノポール素子61により生成される第1の共振周波数f1より低い帯域に、無給電素子62により第2の共振周波数f2が生成される。
【0029】
例えば、いまモノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図9に示すように設定し、この状態で放射効率の周波数特性とVSWR周波数特性を測定すると、それぞれ図10(a),(b)に示すような特性が得られた。これらの特性から明らかなように、モノポール素子61及び折り返しモノポール素子63によりそれぞれ5.7GHz及び7.4GHzにおいて共振周波数が生成され、かつ無給電素子62により上記モノポール素子61により生成される共振周波数f1より低い4.5GHzにおいて共振周波数が生成される。しかも、モノポール素子61と無給電素子62との間の相対的な位置関係により、第2の共振周波数f2から第1の共振周波数f1にかけて連続的な共振帯域を生成することができる。
【0030】
上記無給電素子62に効果的に共振周波数を生成させるには、上記モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xを適切な範囲に設定する必要がある。例えば、モノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図11に示すように設定し、この状態で上記間隔Xを13mm、19mm、25mmに変化させたときの給電端子4におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を測定すると、図12に示すようになる。
【0031】
この測定結果から明らかなように、モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xを小さくするに従いアンテナインピーダンスは低くなる。そして、間隔X=19mm以下であれば無給電素子62により共振周波数f2が生成される。換言すれば、モノポール素子61と無給電素子62との間の素子の間隔Xは、第2の共振周波数f2に対応する波長の1/4以下になるように設定するとよい。
【0032】
また、上記無給電素子62に効果的に第2の共振周波数f2を生成させるには、上記無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔Yについても、適正な範囲に設定する必要がある。例えば、モノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63の素子長と配置間隔を図13に示すように設定し、この状態で上記間隔Yを15mm、18mm、25mmに変化させたときの給電端子4におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を測定すると、図14に示すようになる。
【0033】
この測定結果から明らかなように、無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔がY=15mmまでならば、無給電素子62による効果が期待できる。換言すれば、無給電素子62の接地点とモノポール素子61の給電点との間の間隔Yは、第2の共振周波数f2に対応する波長の1/4以下になるように設定するとよい。
【0034】
以上詳述したように第2の実施形態では、モノポール素子61の外側でかつ当該モノポール素子61に対し電流結合が可能な位置(X≦λ/4及びY≦λ/4)に無給電素子62を配置すると共に、上記モノポール素子61と接地パターン1bとの間に折り返しモノポール素子63を配置し、かつこれらのモノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63がそれぞれ生成する第1、第2及び第3の共振周波数f1,f2,f3の関係がf3>f1>f2となるように、上記各素子61、62、63の素子長を設定するようにしている。
【0035】
したがって、ターゲットとする3つの共振周波数のうち最も高い第3の共振周波数f3が折り返しモノポール素子63により生成される。さらに、モノポール素子61により生成される第1の共振周波数f1より低い帯域に無給電素子62により第2の共振周波数f2が生成され、この第2の共振周波数f2から第1の共振周波数f1までの帯域を連続的な共振帯域にすることが可能となる。また、折り返しモノポール素子63により最も高い共振周波数f3を生成するようにしており、かついずれの素子61、62、63も同一方向に折曲形成されている。このため、全体としてアンテナ装置の設置面積を小型化することができる。
【0036】
[第3の実施形態]
図15は、第3の実施形態に係る多共振アンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図である。なお、同図において前記図1及び図8と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
第3の実施形態に係る多共振アンテナ装置6Cは、第1のアンテナ素子としてのモノポール素子61と、第2のアンテナ素子として無給電素子62と、第3のアンテナ素子としての折り返しモノポール素子63に加え、スタブ64を備えている。このスタブ64は、折り返しモノポール素子63の折り返し位置から接地端子5に至る復路の任意の位置と、接地端子5との間に接続される。
【0037】
なお、モノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63が生成する第1、第2及び第3の共振周波数f1,f2,f3の関係がf3>f1>f2となるように、各素子61、62、63の素子長が設定されている点は前記第2の実施形態と同じである。
【0038】
このような構成であるから、折り返しモノポール素子63においては、給電端子4から折り返し位置を経て接地端子5に至る経路と、給電端子4から折り返し位置及びスタブ64を経て接地端子5に至る経路にそれぞれ電流が流れ、これらの経路によりそれぞれ共振周波数が生成される。
【0039】
例えば、いまモノポール素子61、無給電素子62、折り返しモノポール素子63及びスタブ64の素子長と配置間隔を図16に示すように設定し、この状態で放射効率の周波数特性とVSWR周波数特性を測定すると、それぞれ図17(a),(b)に示すような特性が得られた。また、同一の条件で、スタブ64を設けたとき設けていないときの給電端子4におけるアンテナインピーダンスの周波数特性を測定すると、図18に示すようになる。
【0040】
これらの特性から明らかなように、モノポール素子61及び折り返しモノポール素子63によりそれぞれ4.5GHz及び6.5GHzにおいて共振周波数が生成される。また、無給電素子62により上記モノポール素子61により生成される共振周波数f1より低い2.5GHzにおいて共振周波数が生成され、さらに上記スタブ64により上記第3の共振周波数f3より高い7.7GHzにおいて共振周波数が生成される。しかも、スタブ64の設置位置を適切に設定することで、第3の共振周波数f3である6.5GHzから上記7.7GHzにかけて連続的な共振帯域を生成することができる。
【0041】
以上詳述したように第3の実施形態によれば、折り返しモノポール素子63の折り返し位置から接地端子5に至る復路の任意の位置と接地端子5との間にスタブ64を接続したことにより、共振周波数を増やして折り返しモノポール素子63による第3の共振周波数帯域を広帯域化することが可能となる。
【0042】
[その他の実施形態]
(実施例1)
他の実施形態の実施例1に係る多共振アンテナ装置は、図19に示すようにモノポール素子61aの先端部をクランク状に折り曲げて設置したものである。このように構成すると、例えば印刷配線基板の空スペースの関係でモノポール素子を直線状に配置できない場合でも配置することが可能となる。
【0043】
(実施例2)
他の実施形態の実施例2に係る多共振アンテナ装置は、図20に示すようにモノポール素子61bの先端部をL字型に折り曲げて設置したものである。このように構成することにより、アンテナ装置の設置スペースを縮小することができる。
【0044】
(実施例3)
他の実施形態の実施例3に係る多共振アンテナ装置は、図21に示すようにモノポール素子61cの先端部をメアンダ形状に折り曲げて設置したものである。このように構成することにより、モノポール素子の素子長が長い場合でも、少ない実装面積にアンテナ装置を配置することが可能となる。
【0045】
(実施例4)
他の実施形態の実施例4に係る多共振アンテナ装置は、図22に示すように折り返しモノポール素子63aの先端部を開放(オープン)したものである。このようにすることで折り返しモノポール素子の設置スペースを縮小することが可能である。
【0046】
(実施例5)
他の実施形態の実施例5に係る多共振アンテナ装置は、図23に示すように折り返しモノポール素子63bの先端部を折り曲げて設置したものである。このように構成することにより、折り返しモノポール素子の素子長が長い場合でも、少ない実装面積にアンテナ装置を配置することが可能となる。
【0047】
(実施例6)
他の実施形態の実施例6に係る多共振アンテナ装置は、図24に示すように折り返しモノポール素子63の給電端子4から折り返し位置までの往路部と、折り返し位置から接地端子までの復路部との間にスタブ65を設けたものである。このように構成することにより、折り返しモノポール素子63の共振周波数の帯域を拡げることが可能となる。
【0048】
(実施例7)
他の実施形態の実施例7に係る多共振アンテナ装置は、図25に示すように無給電素子62aの先端部を折り曲げて設置したものである。このように構成することにより無給電素子の設置スペースを縮小することが可能となる。
【0049】
(実施例8)
他の実施形態の実施例8に係る多共振アンテナ装置は、図26に示すように無給電素子62bの先端部をメアンダ形状に折り曲げて設置したものである。このように構成することにより無給電素子の素子長が長い場合でも、少ない実装面積にアンテナ装置を配置することが可能となる。
【0050】
(実施例9)
他の実施形態の実施例9に係る多共振アンテナ装置は、図27に示すようにモノポール素子61aの先端部をクランク状に折り曲げて設置すると共に、折り返しモノポール素子63に線状パターンからなるスタブ64を設けたものである。
【0051】
(実施例10)
他の実施形態の実施例10に係る多共振アンテナ装置は、図28に示すようにモノポール素子61aの先端部をクランク状に折り曲げて設置すると共に、折り返しモノポール素子63に板状パターンからなるスタブ64aを設けたものである。
【0052】
(実施例11)
他の実施形態の実施例11に係る多共振アンテナ装置は、図29に示すように折り返しモノポール素子63に複数のスタブ64,64cを設けたものである。このように構成することにより、折り返しモノポール素子63の共振周波数の帯域をさらに拡げることが可能となる。
【0053】
(実施例12)
他の実施形態の実施例12に係る多共振アンテナ装置は、図30に示すように折り返しモノポール素子63に所定の幅を有する板状のパターンからなるスタブ64aを設けたものである。このように構成することにより、折り返しモノポール素子63の共振周波数をさらに拡げることが可能となる。
【0054】
(実施例13)
他の実施形態の実施例13に係る多共振アンテナ装置は、図31に示すように折り返しモノポール素子63cを図中のY方向、例えば印刷配線基板1の表面側から裏面側へ折り返して設置したものである。このように構成すると、例えば印刷配線基板1の表面側に空きスペースがない場合でも、折り返しモノポール素子を設置することが可能となる。
【0055】
(実施例14)
他の実施形態の実施例14に係る多共振アンテナ装置は、図32(a),(b)に示すようにモノポール素子61及び無給電素子62を図中のXY面に折り曲げて設置すると共に、折り返しモノポール素子63を図中Z方向に折り返して設置したものである。このように構成することにより、例えばアンテナ装置の各素子61,62,63を筐体の角面等に三次元的に設置することが可能となり、これにより筐体内のデットスペースを利用してアンテナ装置を設置することが可能となる。
【0056】
(実施例15)
他の実施形態の実施例15に係る多共振アンテナ装置は、図33(a),(b)に示すようにモノポール素子61、無給電素子62及び折り返しモノポール素子63を図中のXY面に折り曲げて設置したものである。このように構成することによっても、例えばアンテナ装置の各素子61,62,63を三次元的に設置することが可能となり、これにより筐体内のデットスペースを利用してアンテナ装置を設置することが可能となる。特に、折り返しモノポール素子63dをモノポール素子61側に折り返すことにより、アンテナ装置のY方向の設置スペースをさらに縮小することができる。
【0057】
(実施例16)
図34は、他の実施形態の実施例16に係るアンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図である。このアンテナ装置は、印刷配線基板1の接地パターン1bの一部を延長し、この延長部位1cに無給電素子62の基端部を接地端子5を介して設置するように構成したものである。このように構成すると、無給電素子62の素子長が短い場合でも、モノポール素子61の外側に配置することが可能となる。
【0058】
(実施例17)
図35は、他の実施形態の実施例17に係るアンテナ装置を備えた電子機器の要部構成を示す図である。このアンテナ装置は、図34に示したアンテナ装置をさらに改良したもので、折り返しモノポール素子63eの給電端子4から折り返し位置までの往路部分をクランク状に折曲形成したものである。このように構成すると、折り返しモノポール素子63eにより生成される共振周波数を図34に示した場合に比べ低くすることが可能となる。
【0059】
(実施例18)
また、前記第1の実施形態では無給電素子62をモノポール素子61と同一の方向に折り曲げて設置したが、モノポール素子61の折り曲げ方向とは反対の方向に折り曲げて設置するように構成してもよい。このようにすると、アンテナ装置の幅方向の設置スペースは増えるが、アンテナ装置の高さ方向のスペースを減らす(低背化)ことが可能となる。
その他、モノポール素子、無給電素子及び折り返しモノポール素子の形状や設置位置、サイズ、電子機器の種類や構成等についても、種々変形して実施可能である。
【0060】
以上、いくつかの実施形態、実施例及び変形例を説明したが、これらの実施形態、実施例及び変形例はいずれも例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態、実施例及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態、実施例及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1…印刷配線基板、1a…誘電体部、1b…接地パターン部、1c…接地パターン突出部、2…無線ユニット、3…給電パターン、4…給電端子、5…接地端子、6A,6B,6C,6D,6E…アンテナ装置、61,61a,61b,61c…モノポール素子、62,62a,62b…無給電素子、63,63a,63b,63c,63d,63e…折り返しモノポール素子、64,64a,64b…スタブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が給電部に接続されると共に他端が開放されたモノポール素子により構成され、素子長が第1の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定された第1のアンテナ素子と、
一端が接地部に接続されると共に他端が開放されかつ前記第1のアンテナ素子に対し電流結合が可能な位置に配置される無給電素子からなり、素子長が第2の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定された第2のアンテナ素子と、
一端が前記給電部に接続されると共に他端が前記接地部に接続された折り返しモノポール素子により構成され、前記給電部から折り返し部の他端を経て接地部に至る電気長が前記第1及び第2の共振周波数より高周波数に設定された第3の共振周波数に対応する波長の略1/2に設定された第3のアンテナ素子と
を具備し、
前記第1、第2及び第3のアンテナ素子は途中で同一方向に折曲形成され、かつ当該第2のアンテナ素子の先端部と第3のアンテナ素子の折り返し部とが相互に近接配置され、さらに前記第1のアンテナ素子の先端部は前記第2のアンテナ素子の先端部及び前記第3のアンテナ素子の折り返し部よりも突出するように設定された多共振アンテナ装置。
【請求項2】
前記第2のアンテナ素子は、その素子長が前記第3の共振周波数より低周波数でかつ前記第1の共振周波数より高周波数に設定された第2の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定されてなる請求項1記載の多共振アンテナ装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のアンテナ素子は、それぞれの素子間の配置間隔が前記第2の共振周波数に対応する波長の1/6以下になるように配置されてなる請求項2記載の多共振アンテナ装置。
【請求項4】
前記第2のアンテナ素子は、前記第1のアンテナ素子の給電部から第2のアンテナ素子の接地部までの距離が前記第2の共振周波数に対応する波長の1/4以下になるように配置されてなる請求項2記載の多共振アンテナ装置。
【請求項5】
前記第3のアンテナ素子の折り返し他端から当該第3のアンテナ素子の接地部に至る復路部と接地部との間にスタブを設けてなる請求項1記載の多共振アンテナ装置。
【請求項6】
無線信号を送受信する無線回路と、
前記無線回路に対し給電部及び接地部を介して接続される多共振アンテナ装置と
を具備し、
前記多共振アンテナ装置は、
一端が前記給電部に接続されると共に他端が開放されたモノポール素子により構成され、素子長が第1の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定された第1のアンテナ素子と、
一端が前記接地部に接続されると共に他端が開放端されかつ前記第1のアンテナ素子に対し電流結合が可能な位置に配置される無給電素子からなり、素子長が第2の共振周波数に対応する波長の略1/4の長さに設定された第2のアンテナ素子と、
一端が前記給電部に接続されると共に他端が前記接地部に接続された折り返しモノポール素子により構成され、前記給電部から折り返し部の他端を経て接地部に至る電気長が前記第1及び第2の共振周波数より高周波数に設定された第3の共振周波数に対応する波長の略1/2に設定された第3のアンテナ素子と
を備え、
前記第1、第2及び第3のアンテナ素子は途中で同一方向に折曲形成され、かつ当該第2のアンテナ素子の先端部と第3のアンテナ素子の折り返し部とが相互に近接配置され、さらに前記第1のアンテナ素子の先端部は前記第2のアンテナ素子の先端部及び前記第3のアンテナ素子の折り返し部よりも突出するように設定された電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2013−59108(P2013−59108A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255615(P2012−255615)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2011−19881(P2011−19881)の分割
【原出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】