説明

多原色表示装置に対する色変換方式

【課題】多原色カラー表示装置において、線形計画法を利用して多原色値を一元的に決定することができる色変換方式を提供する。
【解決手段】色の三刺激値X,Y,Zとi色(i=1,2,・・・i,・・n)の多原色の三刺激値から得られるX,Y,Z成分(X1 ,X2 ,・・Xi , ・・Xn ,Y1 ,Y2 ,・・Yi , ・・Yn ,Z1 ,Z2 ,・・Zi , ・・Zn )との間で、
【数9】




ただし、0≦Si ≦1の係数
の線形関係が存在するとき、i原色(i=1,2,・・・i・・・n)の発光セルの消費電力Pi について
i =cii
が満足される条件下で線形計画の目的関数z
z=c11 +c22 +・・・+cii +・・・+cnn
を最小化するとともに、〔S1 ,S2 ・・・Si ・・・Sn 〕値を決定することにより、色再現性の向上と消費電力の最小化を同時に達成できるように構成した多原色表示装置の色変換方式を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置において色再現を改善する、線形計画法を用いた色変換方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高忠実色再現について幾つかの文献がみられる。すなわち、山口雅浩、羽石秀昭、大山永昭著による「スペクトルに基づく高色再現映像システム−ナチュラルビジョン」と題する第1の非特許文献(映像情報メディア学会技術報告、26巻、58号、7〜12頁、2002年)、および「ヒューマンパーセプションに基づく高詳細カラーマネージメントシステムの開発−その美術館、博物館収蔵品の記録再現への応用」と題する第2の非特許文献(平成8,9年度IPA独創的情報技術育成事業成果報告)によれば、電子商取引,デジタルアーカイブ,遠隔医療などの分野での高忠実色再現の重要性が指摘されている。
【非特許文献1】山口雅浩、羽石秀昭、大山永昭著 「スペクトルに基づく高色再現映像システム−ナチュラルビジョン」映像情報メディア学会技術報告、26巻、58号、7〜12頁、2002年
【非特許文献2】「ヒューマンパーセプションに基づく高詳細カラーマネージメントシステムの開発−その美術館、博物館収蔵品の記録再現への応用」平成8,9年度IPA独創的情報技術育成事業成果報告
【0003】
一方、色再現の精度を劣化させる原因の一つとして、表示装置の色域の狭さがある。図1は、均等色度図(UCS)における、HDTVの色域(領域Aで示す。)ならびに人間の可視領域(領域Bで示す。)を表している。図1に示す三角形の内部が、HDTVで表示可能な色の範囲であり、可視領域に対し表示域が充分でないことは明らかである。UCSの色度u’v’はxy色度よりも色度図上での距離と人間の感覚が均等であり、CIEXYZ表色系からUCS色度(u’,v’)への変換は式(1)で行なうことができる。
【0004】
u’=(4X)/(X+15Y+3Z)
v’=(9Y)/(X+15Y+3Z) (1)
【0005】
現在、HDTVよりも色域が広い表示装置の研究が行なわれてきている。ここでいう広色域表示装置とは、色度図上での再現範囲が広いだけでなく、最高輝度を低下させずに広色域の色を再現可能とする表示装置のことである。既存の装置のように三原色で広色域表示装置の開発を行なうためには、高彩度かつ高輝度な原色が必要である。一般に発光デバイスは彩度が高くなるにつれ発光効率は下がる。このため、三原色を使った広色域表示装置は効率の悪いものになる。これは次の2つの条件を満たす原色を用いることで解決できる。すなわち、高彩度だがそれほど高輝度でない原色、および、高輝度だがそれほど高彩度でない原色が必要となる。しかし、この場合、4つ以上の原色が必要になる。
【0006】
図1の6原色カラー表示装置は多原色による広色域ディスプレイの一つであるオリンパス社製の6原色リア投射型表示装置の色域である。原色を4つ以上用いることで、三原色の場合より効率のよい広色域表示装置が実現可能になる。しかし、原色が増えることで新たな問題も発生する。色変換の自由度もその一つである。既存の三原色表示装置では色の三刺激値XYZと三原色RGBは3対3の関係であるため変換に自由度は存在せず、ユニークに相互変換可能である。しかし、原色の数が増えると三刺激値と原色が3対4以上の関係になるため、三刺激値から各原色の信号値の変換に自由度が発生し一意に変換を行なうことができない。これは、あるXYZを表示するための原色の組み合わせが複数存在するということを示している。このため、発光効率が悪い原色の組み合わせも存在してしまう。
【0007】
多原色表示装置を多色の発光体により実現しようとするものは、下平美文による「多原色ディスプレイ」として出願予定の表示装置は、通常のRGBよりなる色度図上の三角形によって囲まれた範囲外に発光色を有する1種類以上の原色の発光セルを備え、これをマトリクス配列して構成したセルアレイを使って構成したものである。この多原色表示装置ではセルアレイが信号処理部と一体化して構成され、広い色域範囲のカラー画像信号を実効的に高エネルギー効率で表示できるようにしてある。
【0008】
このように表示装置は加法混色により色再現を行っている。n原色表示装置において、出力される色の三刺激値X,Y,Zと、各原色の三刺激値
【数4】



には以下の式(2)に記載する関係がある。例えば、非特許文献3を参照できる。
【非特許文献3】「International Color Consortium :“ICC Profile Specification Version 3.2 "」1995(「国際カラーコンソーシアム,“ICCプロファイル仕様、第3.2版”」1995年)
【0009】
【数5】



(2)
【0010】
一方、ある原色nの三刺激値とそれに対応する入力信号値には以下の式(3)に記載の関係を仮定する。
【0011】
【数6】



(3)
【0012】
ただし、Xn ,Yn ,Zn は、最高輝度を出力した際の原色nの三刺激値であり、Sn は原色nに対する入力信号値である。Sn は0≦Sn ≦1の値を取るため、原色nの最高輝度を1で正規化した値と考えることができる。以降Sn を原色nの相対輝度と呼ぶことにする。(2)および(3)式をまとめ行列を用いて表すと、各原色の相対輝度値から三刺激値XYZの変換は次の式(4)で与えられる。
【0013】
【数7】



(4)
【0014】
さらに、式(4)よりXYZから各原色の相対輝度への変換は次の式(5)となる。
【0015】
【数8】



(5)
【0016】
ここで、式(5)において原色数が3の時、係数行列は正方行列となるため、逆行列が一意に決まり、問題なく変換を行うことができる。しかし原色数が4以上になると、係数が3*n(n>3)の行列になるため一意に逆行列を求めることができない。
【0017】
この問題に対処するための幾つかの研究が行われ、第4〜第6の非特許文献として発表されている。
【0018】
第4の非特許文献は寺地剛志,大澤健郎,山口雅浩,大山永昭著による「6原色ディスプレイを用いた等色実験」と題する論文(カラーフォーラムJAPAN 2001,97〜100頁 2001年)である。
この文献では、色再現にCIE−XYZ等色関数を用いず、観測者ごとに等色関数を使い分ける方法や、マルチスペクトルカメラで推定された分光放射輝度の形状を再現する方法を提案している。等色関数の次元数を表示装置の次元数に合わせることや、自由度がない分光放射輝度を再現することで一意に色変換を行うことができる。しかし、個人ごとに等色関数を測定したり、マルチスペクトルカメラを用いるのは現実的な方法ではない。
【非特許文献4】寺地剛志,大澤健郎,山口雅浩,大山永昭著「6原色ディスプレイを用いた等色実験」カラーフォーラムJAPAN 2001,97〜100頁 2001年
【0019】
第5の非特許文献はTakeyuki AJITO,Kenro OHSAWA,Takashi OBI,Masahiro YAMAGUCHI
and Nagaaki OHYAMA 著による「Color Conversion Method for Multiprimary Display
Using Matrix Switching 」と題する論文(Optical Review,Vol.8,No.3,pp.191-197(2001))(アジトタケユキ,オオサワケンロウ,オビタカシ,ヤマグチマサヒロ,オオヤマナガアキ著による「マトリックススイッテを使った多原色表示装置の色変換法」オプティカルレビュー誌,8巻,3号 191〜197頁(2001年))である。
この文献では、原色によって作られる色域を領域分割し優先順位をつけることで一意に色変換を行う方法を提案している。この方法は高速な変換を行うことができるという利点を持っているが、領域ごとの優先順位のみで自由度を解消しており、自由度の他の有効な利用法を考慮することができない。
【非特許文献5】Takeyuki AJITO,Kenro OHSAWA,Takashi OBI,Masahiro YAMAGUCHIand Nagaaki OHYAMA 著「Color Conversion Method for Multiprimary Display UsingMatrix Switching 」Optical Review,Vol.8,No.3,pp.191-197(2001)(アジトタケユキ,オオサワケンロウ,オビタカシ,ヤマグチマサヒロ,オオヤマナガアキ著「マトリックススイッテを使った多原色表示装置の色変換法」オプティカルレビュー誌,8巻,3号 191〜197頁(2001年))
【0020】
第6の非特許文献は、Hideto Motomura 著による 「Color conversion for a multi- primary display using linear interpolation on equi-luminance plane method (LIQUID)」と題する論文(Journal of the SID,11/2,pp.371-387(2003))(モトムラヒデオ著による「等輝度面上の線形内挿法を使った多原色表示装置の色変換」 SIDジャーナル誌,11巻,2号 371〜387頁(2003年))である。
この文献では、等輝度な3点による、線形補間法を用いることで、自由度がない変換を行うことができる。しかし、第5の非特許文献と同様に、自由度のほかの有効な利用法を考慮することができない。
【非特許文献6】Hideto Motomura 著「Color conversion for a multi-primarydisplay using linear interpolation on equi-luminance plane method(LIQUID)」Journal of the SID,11/2,pp.371-387(2003) (モトムラヒデオ著「等輝度面上の線形内挿法を使った多原色表示装置の色変換」 SIDジャーナル誌,11巻,2号 371〜387頁(2003年))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
解決しようとする問題点は、多原色カラー表示装置において色再現性を向上するための4原色以上の多原色の色変換において、線形計画法を利用して発光セルの消費電力を最小化することにより多原色の値を一次元的に決定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
課題を解決するため、本発明では多原色表示装置の多原色色変換において、多原色のマトリクス値を決定する際に消費電力を最小化するための線形計画法を適用し、色変換における多原色値の決定の自由度について、目的関数を消費電力とした線形計画問題に置き換えることにより解決し、色再現性の向上と消費電力の最小化とを同時に達成できる多原色カラー表示装置の色変換方式を提供する。
【発明の効果】
【0023】
線形計画法を用いることで、4原色以上の多原色表示装置における多原色の色変換には自由度が存在する。このため、色変換における自由度の問題を、目的関数を消費電力とした線形計画問題に置き換えることで、消費電力最小の組み合わせを探すことができた。これによって多原色表示装置において、消費電力を増加させずに色再現性を向上できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
線形計画問題は制約条件下で目的関数zを最大、あるいは最小にする最適化問題であり、制約条件や目的関数が線形式として表される。この問題については、坂和正敏著「線形システムの最適化<一目的から多目的へ>」,森北出版(1984)が参考文献となる。線形という条件の下で問題を代数的に扱うことができるため、非線形最適化問題に比べ単純に最適解を得ることができる。線形計画問題の標準形を次の式(6)に示す。
【0025】
min. z=c11 +c22 +・・・+cnn
subj.a111 +a122 +・・・+a1nn ±d1 =b1
211 +a222 +・・・+a2nn ±d2 =b2
・・・・・・
m11 +am22 +・・・+amnn ±dm =bm (6)
0≦xj , di (j=1,2,・・・,n)
ji,cj :constant
(j=1,2,・・・,n:i=1,2,・・・,m)
【0026】
一方、線形計画法には次の2つの基本定理が与えられている。すなわち、第1は、
「実行可能な解が存在するならば、必ず実行可能な基底解が存在する」第2は、
「最適解が存在するならば、実行可能な基底解の中にも最適解が存在する」というものである。
【0027】
この定理を用いることで有限回の組み合わせ探索により最適解を得ることができる。しかし、変数の数が増えると組み合わせの数が多くなり処理に時間がかかる。そこで用いるのがシンプレックス法である。シンプレックス法は相対費用係数を用い最適性を判断することで線形計画法の基本定理を効率よく利用し最適解を得ることができる。シンプレックス法のアルゴリズムを図2に示す。
【0028】
次に、色変換における線形計画法について記述する。線形計画法を色変換に用いるには各原色の相対輝度値からXYZへの変換式ならびに相対輝度値のとりうる範囲を制約条件とし、何らかの目的関数を設定すればよい。色変換の問題を線形計画法の標準形に直したものを次の式(7)に示す。
【0029】
min. z=c11 +c22 +・・・+cnn
subj.X11 +X22 +・・・+Xnn =X
11 +Y22 +・・・+Ynn =Y (7)
11 +Z22 +・・・+Znn =Z
0≦Sj ≦1 (j=1,2,・・・,n)
【0030】
式(6)と式(7)を比較すると、通常の線形計画問題と比べて2つの違いが存在する。1つは変数の取りうる範囲である。通常の線形計画問題は変数の取りうる範囲は
0≦xn であるが、色変換を行う上で、相対輝度の範囲は0≦Sn ≦1となっており、このままではシンプレックス法を適用することができない。これは、Sn ≦1に対し不足変数を導入し、Sn +α=1として制約条件に組み込んで解くか、上限法を用いることで対処可能である。この問題の参考書には、G.B. Dantzig著 「Upper bounds,secondary
constraints and block triangularity in linear programming」 Econometrica,23,
pp.174-183 (1955) (ジー.ビー.ダンツィッヒ著「線形プログラミングにおける上限、第2の制限、およびブロック三角形」エコノメトリカ,23巻,174〜183頁 1955年)がある。
【0031】
もう1つ、色変換の問題に不足/余裕変数(dj )が存在しないという違いがある。通常の線形計画法では不足/余裕変数を非基底変数(=0)とすることで、初期実行可能基底解を求め、それを用いてシンプレックス法を進めていく。色変換で用いる線形計画法では、不足/余裕変数がないうえに、変数に上限値が与えられているため、0と1,2種類の非基底変数の様々な組み合わせを探さなければならず、初期実行可能基底解を探すことが困難になる。このためには、2段階シンプレックス法を用いる必要がある。2段階シンプレックス法は、第一段階で初期実行可能基底解を見つけるかあるいは存在しないという情報を得る。第二段階で初期実行可能基底解から最適解を見つけるか、あるいは解が有界ではない(どこまでも小さい解がある)という情報を得る。
【0032】
次に、消費電力を考慮した色変換について記述する。上述により制約条件が決まったため、あとは目的関数さえ与えれば色変換を行うことができる。多原色の色変換には自由度が存在するため、自発光型の表示装置では、消費電力を大きくする原色の組み合わせも存在する。線型計画法を用いて消費電力を最小にする原色の値を求めるには、原色nの相対輝度Sn と消費電力Pn を次の式(8)のような線形式で表さなければならない。また、式(8)を満たす多原色表示装置の消費電力は式(9)となる。
【0033】
n =cn ×Sn (8)
【0034】
1 +P2 +・・・+Pn =c11 +c22 +・・・+cnn (9)
【0035】
上述の式(9)は式(7)の目的関数zと一致する。実際に消費電力が式(9)のような線形式となる階調制御の一方法として時間階調制御がある。また、その他の制御方法も非線形ではあるが、消費電力が高くなるにつれ、輝度も高くなるという特徴を持っている。線形計画法において目的関数の精度がそれほど正確でなくとも得られる基底解は制約条件を満たしている。このため、たとえ相対輝度と消費電力の関係を式(8)として近似しても、それほど問題はない。
【実施例】
【0036】
以上のことを確認するために、具体的な色変換方式の一実施例を構成し、LEDを用いて色変換の精度および、消費電力の改善の程度を調べた。用いたLEDは輝度や色度を考慮し選んだ5つの原色と白色の計6種類である。まず、LEDの電流に対する輝度の関係を測定した。測定装置の概要を図3に、LEDの電流と輝度の関係を図4に示す。線形近似を行ってもそれほど問題がないことが分かる。さらに、LEDの時間経過や加法混色に対する信頼性を調べるために、測定で得られた値を組み合わせて混色を行ったところ、理論値と実測値の色差は0.86となった。これは2級色差(並べて比較した場合、色差が認められる)内であり、実験で用いても問題のない程度である。
【0037】
次に、図4を用いて最高輝度を出すためのLEDの電流と三刺激値を決定した。実験に用いるLEDの三刺激値および電流を次の表1に示す。また、この時の色度を図5に示す。
【0038】
【表1】



【0039】
輝度特性が線形である時間階調制御を想定したシミュレーション実験を行った。時間階調制御はLEDのON/OFFの時間比( duty 比)によって、輝度を変化させる方法である。ONの時間だけ電流が流れるため、 duty 比と輝度の関係はほぼ線形となる。表1より目的関数zの値は次の式(10)で与えられる。
【0040】
z=294.0S1 +323.0S2 +322.8S3 +331.0S4
304.5S5 (+302.4S6 ) (10)
【0041】
この目的関数zにより消費電力を最小にする組み合わせを求めることができる。LEDによって作られる色再現範囲内の色をランダムに100種類選び、シミュレーションにより消費電力量を求めた。さらに、比較のため、目的関数の係数をすべて負とした場合も計算した。これにより消費電力を最大にする組み合わせを得ることができる。白を用いた場合(6原色)と、用いない場合(5原色)の2種類で計算を行った。100種類の色に対してシミュレーションを行った結果、電力量最大として解いた場合の単位時間の電力量は、平均で447.62mW(5原色),472.36mW(6原色)となり、電力量最小として解いた場合、平均で359.03mW(5原色),309.91mW(6原色)となった。発光効率の良い白を入れることで、電力量が低くなることが確認できた。
【0042】
上述の結果は、用いる原色によっては、原色を増やしても全体の消費エネルギーを抑えることが可能だということを示している。さらに、どの程度消費電力が改善されたかを調べるために100種類の結果に対し、電力最大の組み合わせの電力量と、電力最小の組み合わせの電力量の比を取ったところ、平均で5原色の場合が0.802,6原色の場合が0.656,標準偏差は5原色が0.085,6原色が0.151となった。実際の分布は図6の通りである。線形計画法により、効率の良い原色の組み合わせを得られることがわかった。
【0043】
次に、画像データを用い、線形計画法を確認する。
ここまで、多原色表示装置における、消費電力を考慮した色変換方法の理論およびシミュレーションによる確認実験を行った。しかし、画像データに対し多原色の色変換を行った場合、次の2つの問題点が考えられる。すなわち、第1の問題は、「原色の割合が変わることにより疑似輪郭が発生する。」、第2の問題は、「階調再現誤差により不自然な色再現となる。」という点である。
【0044】
この問題が本発明の手法で発生するか否かを確認するために、6原色リア投射型表示装置を対象にXYZ画像の色変換を行った。6原色リア投射型表示装置はプロジェクタを用いているため、ランプの消費電力は一定であり、明るさとフィルタの分光透過率によって各原色の三刺激値が決まる。従って、消費電力の検討はできないが、色再現の確認を行うことは可能である。撮影に用いた装置はXYZ三刺激値を出力可能なオリンパス社の16バンドマルチスペクトルカメラである。実際に用いた目的関数zは次の式(11)のように係数をすべて1とした。
【0045】
z=S1 +S2 +S3 +S4 +S5 +S6 (11)
【0046】
図7に各原色の相対輝度を0から255の白黒画像として表したものを示す。左上から右下にかけて、短波長側の原色から長波長側の原色になっており、色度は図1の通りである。画像内の色票はそれぞれ図8のような配色になっており、各原色が色票の色に応じた階調になっているのが分かる。
【0047】
線形計画法は、制約条件によって作られる空間や目的関数が線形であるため、端点が最適解になるという特徴があり、原色によって黒い部分が多い画像となっている。混色してディスプレイに表示させた画像を図9に示す。光源の当たり方により輝度むらがあるため、疑似輪郭が発生しやすい背景部分も、問題なく変換が可能であることが確認できた。また、この画像データに対して、理論的な量子化誤差の影響を計算したところ平均で色差0.26であることが確認できた。0.26は、識別色差(同一物体の測色再現精度)内であり、色再現として問題のないレベルである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
輝度特性が線形になる時間階調制御で実際のLEDの特性を測定し、本発明による手法で消費電力最小の組み合わせを求めた。得られた結果と、目的関数の符号を入れ替えて消費電力が最大となる結果と比較したところ、5原色を用いた場合で約20%,さらに発光効率の良い白を加えた場合で35%、消費電力が改善できていることが確認できた。この結果はHDTVやその他の高精度表示装置に使用される多原色表示装置が、線形計画法に基づいた設計手法によって設計、製作されれば、表示装置の消費電力が減ぜられることを示している。従って、大面積、高精細の表示装置に本発明の手法が利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】一様な尺度を持った色度図上の各色範囲領域を示す図である。
【図2】シンプレックス法のアルゴリズム流れ図である。
【図3】LEDの発光色測定装置を示す図である。
【図4】LEDの発光輝度特性を示す図である。
【図5】一様な尺度を色度図上のLED発光色の色度を示す図である。
【図6】最大消費電力に対する最小消費電力の比の頻度分布を示す図である。
【図7】6原色の入力値を表す8ビットのグレースケール画像である。
【図8】カラーチャートである。
【図9】6原色カラー表示装置上に再現された画像である。
【符号の説明】
【0050】
1 安定化DC電源
2 回路
3 輝度測定器
4 LED
5 ガラス板
6 完全反射形光拡散装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色の三刺激値X,Y,Zとn色(n=1,2,・・・n)の多原色の三刺激値
【数1】



の間に存在するマトリクス関係式
【数2】



において、i=1,2,・・・nに対する
【数3】



ただし、0≦Si ≦1
の関係が仮定されるとき、
線形計画法の目的関数z
z=c11 +c22 +・・・+cnn
がi=1,2,・・・nに対応するi原色の発光セルの消費電力Pi (i=1,2,・・・n)について、
i =cii
を満足する条件の下でci 値を決定するための第1の決定手段と、
前記第1の手段によって得られたci 値の下で前記消費電力Pi (i=1,2,・・・n)の和を最小化する条件を満足させながら前記色の三刺激値のマトリクス関係式を決定するための第2の決定手段と、
を具備して構成した多原色表示装置に対する色変換方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2005−227408(P2005−227408A)
【公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−34312(P2004−34312)
【出願日】平成16年2月10日(2004.2.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】