説明

多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法

【課題】シリカ被膜に設けた孔に起因する分子選択性を有する多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法は、酸化チタン粒子表面を、極性基を有する化合物で処理した後、シラン系化合物でコーティング処理し、次いで前記極性基を有する化合物を除去して孔を形成することにより多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒を得ることを特徴とする。前記極性基を有する化合物としては、R−X(Rは有機基を示し、官能基Xは、Rに直接単結合により結合している官能基であって、カルボキシル基、水酸基、アミノ基のいずれかである)で表される有機分子が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化、消臭、空気浄化、水質浄化、有害物質や汚れの分解、抗菌、抗カビ等の機能を発現する酸化チタン光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン光触媒(二酸化チタン光触媒)は、光を照射することで強力な酸化還元力を発現し、消臭、空気浄化、水質浄化、有害物質や汚れの分解、抗菌・抗カビ等の機能を発現することから、環境浄化素材として使用されている。また、繊維、塗料、合成樹脂等の有機素材に含有させたり、光酸化反応触媒として用いる等の用途が検討されている。しかし、この光触媒をそのまま有機素材に適用すると、有機素材が分解するという問題があった。
【0003】
また、酸化チタン光触媒がある特定の有機物(有機化合物、有機分子)のみに選択的に作用することができるように、分子選択性を有する酸化チタン光触媒(分子認識能を有する酸化チタン光触媒)も求められてきている。
【0004】
有機素材が分解するという問題に対して、例えば酸化チタン光触媒の表面を多孔質セラミックスからなる被膜で被覆した多孔質セラミック膜被覆酸化チタン光触媒(マスクメロン型酸化チタン光触媒)が提案されているが、孔の大きさが大きく、孔の大きさがまちまちであるため、分子ふるいのような役割をすることはなかった(特許文献1参照)。また、光半導体が多孔性被覆部により被覆されてなる光触媒活性を有する機能材料も提案されているが、添加剤とシラン系化合物との混合物を用いて酸化チタン粒子をコーティングしているため、多数の孔を有するものの、所望の位置に孔を開けることができず、また添加剤として分子の大きい有機高分子等を用いるため、シリカ膜に設けた孔に起因する分子選択性を有することはなかった(特許文献2参照)。
【0005】
有機素材の分解を防止しつつ、分子選択性を有する酸化チタン光触媒として、例えば、表面が多孔質セラミックス被膜で被覆された表面修飾酸化チタン光触媒が提案されている(特許文献3参照)。該酸化チタン光触媒は、光触媒表面が多孔質セラミックス膜で覆われているため、有機素材の分解等を抑制することができる一方、酸化チタン表面の修飾により、反応の選択性の向上がみられた。しかし、この触媒では官能基の種類の違いによる反応の選択性は可能であるものの、分子の大きさの違いによる反応の選択性を向上させることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−286728号公報
【特許文献2】特開平11−197515号公報
【特許文献3】特開2005−254085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、シリカ被膜に設けた孔に起因する分子選択性を有する多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、酸化チタン粒子表面を、極性基を有する化合物で処理した後、シラン系化合物でコーティング処理し、次いで前記極性基を有する化合物を除去して孔(細孔)を形成すると、該孔が分子ふるいのような役割を果たし、非選択性である酸化チタン光触媒に分子認識能を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、酸化チタン粒子表面を、極性基を有する化合物で処理した後、シラン系化合物でコーティング処理し、次いで前記極性基を有する化合物を除去して孔を形成することにより多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒を得る多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法を提供する。
【0010】
前記極性基を有する化合物としては、下記式
R−X
(Rは有機基を示し、官能基Xは、Rに直接単結合により結合している官能基であって、カルボキシル基、水酸基、アミノ基のいずれかである)
で表される有機分子が好ましい。
【0011】
前記シラン系化合物としては、アルコキシシラン化合物、又はハロゲン化シラン化合物が好ましい。
【0012】
前記極性基を有する化合物の除去手段としては、アルカリ水溶液による洗浄が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法により得られる多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、シリカ被膜に設けた孔に起因する分子選択性を有する。該シリカ被膜に設けた孔に起因する分子選択性を有する多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、特定の有機化合物を選択的に効率よく酸化することができ、また、有機化合物の特定の部位のみを効率よく酸化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、酸化チタン粒子表面が多数の孔(貫通孔)を有するシリカ被膜で覆われる構成を有しており、酸化チタン粒子表面を、極性基を有する化合物で処理した後、シラン系化合物でコーティング処理し、次いで前記極性基を有する化合物を除去して孔を形成させることにより作製することができる。
【0015】
酸化チタン(二酸化チタン)粒子は、光が照射されることによって粒子表面に吸着した有機化合物を酸化する機能を有する限り特に限定されず、ルチル型結晶構造を有する二酸化チタン(ルチル型二酸化チタン)、アナターゼ型結晶構造を有する二酸化チタン(アナターゼ型二酸化チタン)、それらの混合物(アナターゼ−ルチル型混合二酸化チタン)等のいずれの二酸化チタン(結晶性二酸化チタン)の粒子であってもよい。
【0016】
酸化チタン粒子は、その形状や平均粒子径などについて特に制限されることはないが、本発明においては、例えば、球状であり、5〜50μm程度の平均粒子径を有し、さらに100〜250m2/g程度の比表面積を有するものを好ましく用いることができる。
【0017】
酸化チタン粒子表面の極性基を有する化合物による処理は、酸化チタン粒子表面への極性基を有する化合物の担持を目的とする処理であり、該処理によって酸化チタン粒子表面に極性基を有する化合物を担持することができる限り特に制限されない。このような処理としては、例えば、表面に極性基を有する化合物と酸化チタン粒子との混合が挙げられる。なお、混合の際に、溶媒(例えば、水や有機溶媒)を用いてもよい。
【0018】
極性基を有する化合物は、分子選択性を有する多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒において、酸化チタン表面に担持された状態でシリカコーティングされることにより、分子ふるい的な役割をするシリカ被膜に設けた孔の形状(空洞)を作り出す分子(「鋳型分子」と称する場合がある)である。
【0019】
このような極性基を有する化合物としては、化合物中に少なくとも一つの極性基を有する化合物である限り、特に制限されないが、R−X(官能基Xは、Rに直接単結合により結合している極性基)で表される有機分子が好ましい。
【0020】
前記R−X(官能基Xは、Rに直接単結合により結合している極性基)で表される有機分子において、Rは有機基を意味する。このような有機基としては、特に制限されず、炭化水素基、複素環式基などが挙げられる。
【0021】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらが結合した基が含まれる。
【0022】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0023】
脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、テルアダマンチル基、クアテルアダマンチル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素基を構成する環としては、例えばベンゼン環、縮合炭素環(例えば、ナフタレン、アズレン、インダセン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレンなどの2〜10個の4〜7員炭素環が縮合した縮合炭素環など)などが挙げられる。
【0025】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基としては、例えばシクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが挙げられる。
【0026】
好ましい炭化水素基としては、例えばC1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、芳香族炭化水素基、C3-5シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基等が挙げられる。
【0027】
前記炭化水素基は、種々の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、オキソ基(=O)、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基などが挙げられる。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0028】
複素環式基(有機基Rとしての複素環式基及び前記炭化水素基の置換基としての複素環式基)を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。
【0029】
また、複素環式基は、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えばメチル基、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基など)の置換基を有していてもよい。
【0030】
極性基を有する化合物中の極性基(前記官能基X)としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、オキシアルキレン基、エステル基、アミド基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。中でも、極性基を有する化合物の酸化チタン粒子表面への固定化をより安定させる観点から、カルボキシル基、水酸基、アミノ基が好ましく、特にカルボキシル基が好ましい。
【0031】
また、極性基を有する化合物の分子量は、特に制限されないが、1000以下が好ましく、好ましくは600以下、さらに好ましくは500以下である。
【0032】
極性基を有する化合物の代表的な例としては、例えば、ベンゼン環を有する化合物(例えば、フェノール、アニリン、安息香酸など);ナフタレン環を有する化合物(例えば、1−ナフタレンカルボン酸、1−ナフトール、1−ナフタレンアミンなど);アダマンタン骨格を有する化合物(アダマンタン化合物)(例えば、1−アダマンタンカルボン酸、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、1−アダマンタンアミン、3−カルボキシ−1,1−ビアダマンタン、3−ヒドロキシ−1,1−ビアダマンタン、3−アミノ−1,1−ビアダマンタンなど)等が挙げられる。
【0033】
多孔性シリカ被膜は、前記酸化チタン粒子を被覆する多孔性の膜であり、シリカ(二酸化ケイ素)により構成されている。シリカは、シラン系化合物を加水分解・縮合重合反応させることにより形成することができる。なお、より緻密な構造を有するシリカ膜を得るために、シラン系化合物を加水分解・縮合重合反応させる際に、必要に応じて、触媒、有機溶媒、酸(例えば酢酸など)を併用してもよい。
【0034】
シラン系化合物としては、加水分解・縮合重合反応してシリカを形成するものである限り特に制限されず、例えば、下記式(1)で表されるハロゲン化シラン化合物やアルコキシシラン化合物が挙げられる。特に、常温下で反応を行うことができる点から、アルコキシ系シラン化合物が好ましい。なお、シラン系化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
【化1】

[式中、A1、A2、A3、A4は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、あるいは炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。A1、A2、A3、A4の少なくとも一つは、ハロゲン原子又はアルコキシ基である。]
【0036】
ハロゲン化シラン化合物の具体的な例としては、テトラブロモシラン、テトラクロロシラン、トリブロモシラン、トリクロロシラン、ジブロモシラン、ジクロロシラン、モノブロモシラン、モノクロロシランなどのハロ系シラン化合物;ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロエチルシラン、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジエチルシラン、クロロメチルシラン、クロロエチル、t−ブチルクロロジメチルシラン、t−ブチルクロロジエチルシランハロアルキル系シラン化合物などが挙げられる。
【0037】
アルコキシシラン化合物の具体的な例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メトキシシラン、エトキシシランなどのアルコキシ系シラン化合物;ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジメトキシエチルシラン、ジエトキシエチルシラン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジエチルシラン、エトキシジエチルシラなどのアルコキシアルキル系シラン化合物が挙げられる。中でも、反応速度の点から、ケイ素原子に4個のアルコキシ基が結合したテトラアルコキシシランが好ましく、特にテトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)が好ましい。
【0038】
シリカ被膜の厚さは、特に制限されないが、シリカ被膜に設けられる孔が分子ふるい的な機能をより発揮しやすくするために、0.3〜8nm程度(好ましくは0.5〜5nm程度)が好ましい。
【0039】
シリカ被膜の厚さは、被膜の形成に用いる組成物中のシラン系化合物の量を調整することにより制御することができる。例えば、酸化チタン粒子として商品名「AMT−600」(比表面積:59m2/g、平均粒子径:0.030μm、テイカ社製):6gを、シラン系化合物であるテトラメトキシシラン:6.12gとテトラメトキシシランの2倍モル量の水とを用いて、テトラメトキシシランの加水分解・縮合重合反応を完了させて酸化チタン粒子表面をシリカコーティングすると、そのシリカ被膜の厚さは、2nm程度である。
【0040】
多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の孔は、酸化チタン粒子表面を極性基を有する化合物で処理した後にシラン系化合物でコーティング処理することにより得られるシリカ被膜から、極性基を有する化合物を除去することにより形成される。なお、シリカ被膜は酸化チタン粒子表面に担持する形態で極性基を有する化合物を包含するため、形成される孔は、シリカ被膜を貫通する孔である。
【0041】
このような孔は、酸化チタン粒子表面に担持する状態でシリカに覆われている極性基を有する化合物(鋳型分子)をシリカ被膜から除去すること[有機分子で鋳型を取ること(分子インプリティング)]により形成されるため、極性基を有する化合物の大きさ及び形状に合った大きさ及び形状の空洞を有することとなる。
【0042】
多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、極性基を有する化合物の大きさ及び形状に合った大きさ及び形状を有する孔を有することにより、分子選択性を発揮する。また、多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、極性基を有する化合物の大きさ及び形状を調整することによって孔の大きさ及び形状を制御することができるため、極性基を有する化合物(鋳型分子)を選択することにより、さまざまな有機化合物に対する分子識別能を備えることができる。
【0043】
特に、極性基を有する化合物として前記R−Xで表される化合物を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、Rの分子構造を含む有機化合物を含む混合基質において、Rの分子構造を含む有機化合物に対して分子選択性を有する。
【0044】
例えば、極性基を有する化合物として1−ナフタレンカルボン酸を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、1−ナフタレンメタノールと9−フルオレニルメタノールの混合基質において、1−ナフタレンメタノールに対して分子選択性を発揮する。また、極性基を有する化合物としてフェノールやアニリン、安息香酸等を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンの混合基質下において、p−キシレンに対して分子選択性を発揮する。
【0045】
酸化チタン粒子表面に担持する形態で極性基を有する化合物(鋳型分子)を包含するシリカ被膜から、極性基を有する化合物を除去する処理は、極性基を有する化合物(鋳型分子)の大きさ及び形状に合った大きさ及び形状の空洞を有することにより分子選択性を発揮する孔を、シリカ被膜に形成することを目的とする処理である。このような極性基を有する化合物を除去する処理は、特に制限されないが、例えば洗浄処理[例えば、極性基を有する化合物(鋳型分子)が酸性基を有する場合におけるアルカリ水溶液(例えば1%アンモニア水など)による洗浄、極性基を有する化合物(鋳型分子)が塩基性基を有する場合における酸水溶液(例えば0.1N塩酸水溶液、1%酢酸水溶液など)による洗浄など]、焼成処理等が挙げられる。
【0046】
なお、高い分子選択性を発揮する孔を得るためには、細孔形成の際に孔がつぶれてしまうことを防止したり、規則正しく制御された貫通孔を形成することが必要である。従って、前記極性基を有する化合物を除去する処理としては、焼結により孔がふさがるおそれのある焼成処理よりは、洗浄処理の方が好ましい。
【0047】
多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、種々の化学反応(例えば、酸化反応、有害物質の分解反応等)や殺菌などの従来の酸化チタン光触媒と同様の分野で利用することができる。また、多孔性シリカ被膜で被覆されているため、そのまま有機素材中に混合したとしても、有機素材が分解するという問題が生じることはない。
【0048】
本発明の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒を用いた有機化合物の酸化方法は、前記多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射により酸化することを特徴としている。
【0049】
被酸化部位を有する有機化合物としては、例えば、ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、メチン炭素原子を有する化合物、不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、非芳香族性環状炭化水素、共役化合物、アミン類、芳香族化合物、直鎖状アルカン、オレフィン類等が挙げられる。
【0050】
ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物としては、第1級若しくは第2級アルコール又は第1級若しくは第2級チオール、酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテル又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するスルフィド、酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタール(ヘミアセタールも含む)又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するチオアセタール(チオヘミアセタールも含む)などが例示できる。
【0051】
前記炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物としては、カルボニル基含有化合物、チオカルボニル基含有化合物、イミン類などが挙げられる。
【0052】
前記メチン炭素原子を有する化合物には、環の構成単位としてメチン基(すなわち、メチン炭素−水素結合)を含む環状化合物、メチン炭素原子を有する鎖状化合物が含まれる。
【0053】
前記不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物としては、芳香族性環の隣接位(いわゆるベンジル位)にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、不飽和結合(例えば、炭素−炭素不飽和結合、炭素−酸素二重結合など)の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物などが挙げられる。
【0054】
前記非芳香族性環状炭化水素には、シクロアルカン類及びシクロアルケン類が含まれる。また、アダマンタン骨格を有する化合物などの橋かけ環式不飽和炭化水素類も含まれる。
【0055】
前記共役化合物には、共役ジエン類、α,β−不飽和ニトリル、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(例えば、エステル、アミド、酸無水物等)などが挙げられる。
【0056】
前記アミン類としては、第1級または第2級アミンなどが挙げられる。
【0057】
前記芳香族炭化水素としては、少なくともベンゼン環を1つ有する芳香族化合物、好ましくは少なくともベンゼン環が複数個(例えば、2〜10個)縮合している縮合多環式芳香族化合物などが挙げられる。
【0058】
前記直鎖状アルカンとしては、炭素数1〜30程度(好ましくは炭素数1〜20程度)の直鎖状アルカンが挙げられる。
【0059】
前記オレフィン類としては、置換基(例えば、ヒドロキシル基、アシルオキシ基等の前記例示の置換基など)を有していてもよいα−オレフィン及び内部オレフィンの何れであってもよく、ジエンなどの炭素−炭素二重結合を複数個有するオレフィン類も含まれる。
【0060】
上記の被酸化部位を有する有機化合物は単独で用いてもよく、同種又は異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0061】
このような酸化方法において、多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の使用量は、基質として用いる有機化合物100重量部に対して、例えば0.5〜10重量部、好ましくは0.7〜8重量部程度、より好ましくは1〜5重量部程度である。
【0062】
照射する光としては、通常、380nm未満の紫外線が使用されるが、酸化チタンの種類によっては、例えば380nm以上、650nm程度までの長波長の可視光線を使用することもできる。
【0063】
また、多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒を用いて基質としての有機化合物を光照射下で酸化する際、分子状酸素、過酸化物等を併用してもよい。
【0064】
分子状酸素としては、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いてもよい。分子状酸素の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.5モル以上、好ましくは1モル以上である。有機化合物に対して過剰モルの分子状酸素を用いることが多い。
【0065】
過酸化物としては、特に限定されず、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド等の何れも使用できる。代表的な過酸化物として、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、トリフェニルメチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどが挙げられる。上記過酸化水素としては、純粋な過酸化水素を用いてもよいが、取扱性の点から、通常、適当な溶媒、例えば水に希釈した形態(例えば、30重量%過酸化水素水)で用いられる。過酸化物の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.1〜5モル程度、好ましくは0.3〜1.5モル程度である。
【0066】
なお、分子状酸素と過酸化物のうち一方のみを用いてもよいが、分子状酸素と過酸化物とを組み合わせることにより、反応速度が大幅に向上する場合がある。
【0067】
酸化反応は、溶媒存在下で行ってもよい。該溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、リグロイン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸等の有機酸;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0068】
反応温度は、反応速度及び反応選択性を考慮して適宜選択できるが、一般には−20℃〜100℃程度である。反応は室温付近で行われることが多い。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行ってもよい。
【0069】
上記反応により、有機化合物から対応する酸化開裂生成物(例えば、アルデヒド化合物)、キノン類、ヒドロペルオキシド、ヒドロキシル基含有化合物、カルボニル化合物、カルボン酸などの酸素原子含有化合物などが生成する。例えば、アルコールからは対応するカルボニル化合物(ケトン、アルデヒド)やカルボン酸等、アルデヒドからは対応するカルボン酸等が生成する。また、アダマンタンからは1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、2−アダマンタノンなどが生成する。これらの生成物の生成割合(選択率)は、反応条件等を適宜選択することにより調整できる。
【0070】
また、極性基を有する化合物として前記R−Xで表される化合物を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、有機基Rの分子構造を含む有機化合物を含む混合基質において、有機基Rの分子構造を含む有機化合物の被酸化部位に対して選択的に酸化する。高い分子選択性を発揮する細孔を有するためである。
【0071】
例えば、極性基を有する化合物として1−ナフタレンカルボン酸を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、1−ナフタレンメタノールと9−フルオレニルメタノールの混合基質において、1−ナフタレンメタノールを選択的に酸化することができる。また、極性基を有する化合物としてフェノールやアニリン、安息香酸等を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンの混合基質下において、p−キシレンを選択的に酸化することができる。
【0072】
また、極性基を有する化合物としてフェノールやアニリン、安息香酸等を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、基質としてデュレンを用いた場合、4つ全てのメチル基を全て酸化してピロメリト酸(ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸)を形成することはなく、特定部位のメチル基のみを酸化することができる。
【0073】
さらに、極性基を有する化合物としてアダマンタン骨格を有する化合物を用いた多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は、例えば基質として各種置換基を有するアダマンタン化合物の混合物を用いた場合、特定のアダマンタン化合物のみを酸化することができ、また、基質として一種の多置換アダマンタン化合物を用いた場合、多置換アダマンタン化合物の特定の部位のみを酸化することができる。
【0074】
反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。また、多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒は濾過により容易に分離でき、分離した触媒は、必要に応じて洗浄等の処理を施した後、リサイクル使用できる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
100mlのエタノールに、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸(1−NC):0.637gを溶解させてから、酸化チタン粒子(比表面積:59m2/g、平均粒子径:0.030μm、商品名「AMT−600」テイカ社製):6gを投入し、1時間撹拌してから、テトラメトキシシラン(TMOS):0.765gを添加して、さらに2時間撹拌した。その後、テトラメトキシシランの2倍モル量の水を加えて、テトラメトキシシランの加水分解・縮合重合反応を完了させて、酸化チタン粒子表面をシリカコーティングした。次に、遠心分離して、上澄みを取り除き、得られた粒末を、エタノール中で攪拌することにより洗浄して、真空乾燥した。その後、鋳型分子を取り除くために、1%アンモニア水中で2時間撹拌を行い、さらにイオン水中で1時間撹拌して洗浄を行った。その後、遠心分離して、真空乾燥することにより、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0077】
(実施例2)
テトラメトキシシラン(TMOS):3.06gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0078】
(実施例3)
テトラメトキシシラン(TMOS):6.12gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0079】
(実施例4)
テトラメトキシシラン(TMOS):12.24gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0080】
(比較例1)
100mlのエタノールに、酸化チタン粒子(比表面積:59m2/g、平均粒子径:0.030μm、商品名「AMT−600」テイカ社製):6gを投入し、1時間撹拌してから、テトラメトキシシラン(TMOS):0.765gを添加して、さらに2時間撹拌した。その後、テトラメトキシシランの2倍モル量の水を加えて、テトラメトキシシランの加水分解・縮合重合反応を完了させて、酸化チタン粒子表面をシリカコーティングした。次に、遠心分離して、上澄みを取り除き、得られた粒末を、エタノール中で攪拌することにより洗浄し、真空乾燥することにより、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0081】
(比較例2)
テトラメトキシシラン(TMOS):3.06gを添加したこと以外は、比較例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0082】
(比較例3)
テトラメトキシシラン(TMOS):6.12gを添加したこと以外は、比較例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0083】
(比較例4)
テトラメトキシシラン(TMOS):12.24gを添加したこと以外は、比較例1と同様にして、シリカコーティング酸化チタン粒子を得た。
【0084】
(参考例1)
酸化チタン粒子として、商品名「AMT−600」(比表面積:59m2/g、平均粒子径:0.030μm、テイカ社製)をそのまま使用した。
【0085】
(評価)
実施例、比較例、及び参考例の酸化チタン粒子に対して、下記の(評価1)〜(評価3)を行うことにより、触媒としての評価を行った。
【0086】
(評価1)
単独基質の条件下で、酸化チタン粒子の基質選択性について評価した。具体的には、1−ナフタレンメタノールに対する活性評価及び9−フルオレニルメタノールに対する活性評価を、それぞれ行った。なお、各基質の濃度の減少量より、触媒の有する活性を評価することができる。
【0087】
(1−ナフタレンメタノールに対する活性評価)
酸化チタン粒子:100mgと1−ナフタレンメタノール:20mMとを、パイレックス(登録商標)試験管に入れ、常圧、空気雰囲気下、25℃にて、攪拌を行いながら、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行った。その後、遠心分離で酸化チタン粒子を除去し、ガスクロマトグラフィーを用いて、1−ナフタレンメタノールの減少量を求め、さらに、下記式(1)から、参考例1の減少量に対する実施例及び比較例の減少量の相対値も求めた。これらの結果を表1の1−ナフタレンメタノールの欄に示した。なお、触媒を添加せずに、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行っても、1−ナフタレンメタノールの減少や新たな生成物の生成はみられなかった。
【0088】
(9−フルオレニルメタノールに対する活性評価)
酸化チタン粒子:100mgと9−フルオレニルメタノール:10mMとを、パイレックス試験管(登録商標)に入れ、常圧、空気雰囲気下、25℃にて、攪拌を行いながら、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行った。その後、遠心分離で酸化チタン粒子を除去し、ガスクロマトグラフィーを用いて、9−フルオレニルメタノールの減少量を求め、さらに、下記式(1)から参考例1の減少量に対する実施例及び比較例の減少量の相対値も求めた。これらの結果を表1の9−フルオレニルメタノールの欄に示した。なお、触媒を添加せずに、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行っても、9−フルオレニルメタノールの減少や新たな生成物の生成はみられなかった。
【0089】
参考例1の基質減少量に対する実施例及び比較例の基質減少量の相対値は、実施例及び比較例の相対値=(実施例及び比較例の基質減少量)/(参考例1の基質減少量)[式(1)]から求めた。
【0090】
【表1】

【0091】
表1より、両基質ともに、参考例1の酸化チタン粒子(シリカコーティングを行っていない酸化チタン粒子)の活性が最もよく、実施例、比較例の順に活性が低下するという共通の傾向が見られた。このため、実施例のシリカコーティング酸化チタン粒子には、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸を除去することにより、シリカ被膜に孔が形成されていることが確認できた。
また、実施例のシリカコーティング酸化チタン粒子は、9−フルオレニルメタノールに比べて、1−ナフタレンメタノールに対してより作用していることも確認できた。このことから、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸に対してより構造の近い1−ナフタレンメタノールに対する選択性を有することが確認できた。
【0092】
(評価2)
混合基質下で、酸化チタン粒子の基質選択性について評価した。
【0093】
酸化チタン粒子:100mgと混合基質(1−ナフタレンメタノール:10mM、9−フルオレルメタノール:10mM)とを、パイレックス(登録商標)試験管に入れ、常圧、空気雰囲気下、25℃にて、攪拌を行いながら、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行い、それぞれの基質濃度の変化を測定した。1−ナフタレンメタノール及び9−フルオレルメタノールの60分後の濃度から、1−ナフタレンメタノール、9−フルオレルメタノールの減少量をそれぞれ求め、さらに、上記式(1)から、1−ナフタレンメタノール及び9−フルオレルメタノールについて、参考例1の減少量に対する実施例及び比較例の減少量の相対値も求めた。これらの結果を表2に示した。なお、触媒を添加せずに、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行っても、基質の減少や新たな生成物の生成はみられなかった。
【0094】
【表2】

【0095】
両基質(1−ナフタレンメタノール、9−フルオレルメタノール)に対して、参考例1(シリカコーティングなし)、実施例1(TMOS添加量:0.765g)、実施例2(TMOS添加量:3.06g)、実施例4(TMOS添加量:12.24g)の順、すなわち添加するシラン系化合物の量を増加させるにつれて、基質の濃度が低下しない傾向がみられた。このため、添加するシラン系化合物の量を増加させるにつれて、触媒活性が低下することが確認できた。
また、実施例1は、参考例1に対して、1−ナフタレンメタノールで相対値0.89、9−フルオレニルメタノールで相対値0.75の活性を示した。このため、TMOSの添加量が0.765gでは、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸により、空洞はできているものの、一部の空洞は、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸の形状及び大きさに合った形状及び大きさを有しない(鋳型分子によるインプリントがみられない)と考えられる。
さらに、実施例3、実施例4とTMOSの添加量を増加させた場合、9−フルオレニルメタノールに対しては対応する比較例とほぼ同様の活性を示す一方で、1−ナフタレンメタノールに対しては、参考例1と比較すると活性は低いものの、ある程度の活性は維持していた。特に、実施例4では、1−ナフタレンメタノールと9−フルオレニルメタノールの相対値が約4.3倍となり大きな反応性の差を示した。よって、混合基質下でも、鋳型分子としての1−ナフタレンカルボン酸に対してより構造の近い1−ナフタレンメタノールに対する選択性を有することが確認できた。
【0096】
(評価3)
混合基質下で、酸化チタン粒子による基質の酸化反応について評価した。
【0097】
酸化チタン粒子:100mgと混合基質(1−ナフタレンメタノール:10mM、9−フルオレルメタノール:10mM)とを、パイレックス(登録商標)試験管に入れ、常圧、空気雰囲気下、25℃にて、攪拌を行いながら、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行った。その後、遠心分離で酸化チタン粒子を除去し、ガスクロマトグラフィーを用いて、1−ナフタレンメタノールの減少量、及び1−ナフタレンカルバルデヒド(1−ナフタレンメタナール)の生成量を求めた。これらの結果は、表3に示した。なお、触媒を添加せずに、水銀ランプを用いて光照射(250mW/cm2、1時間)を行っても、1−ナフタレンメタノールの減少や新たな生成物の生成はみられなかった。
【0098】
【表3】

【0099】
TMOSの添加量が増えるにつれて活性が低下する傾向がみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子表面を、極性基を有する化合物で処理した後、シラン系化合物でコーティング処理し、次いで前記極性基を有する化合物を除去して孔を形成することにより多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒を得る多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項2】
極性基を有する化合物が、下記式
R−X
(Rは有機基を示し、官能基Xは、Rに直接単結合により結合している官能基であって、カルボキシル基、水酸基、アミノ基のいずれかである)
で表される有機分子である請求項1記載の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項3】
シラン系化合物が、アルコキシシラン化合物、又はハロゲン化シラン化合物である請求項1又は2に記載の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法。
【請求項4】
極性基を有する化合物の除去手段が、アルカリ水溶液による洗浄である請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔性シリカ被膜被覆酸化チタン光触媒の製造方法。

【公開番号】特開2012−55893(P2012−55893A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279142(P2011−279142)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2007−127930(P2007−127930)の分割
【原出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】