説明

多孔性フィルムの製造方法および多孔性フィルム

【課題】
有機溶剤を多量に使用することなく、膜厚の均一性に優れる多孔性フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】
ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、前記水溶性充填剤を水系液体を用いて除去した後、延伸することを特徴とする多孔性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性フィルムの製造方法および多孔性フィルムに関する。また本発明は、積層多孔性フィルムの製造方法および積層多孔性フィルムに関する。さらに本発明は、非水系電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性フィルムはオムツや医療用シート、電池セパレータ等の各種用途に使用されている。中でも電池セパレータとして用いられる多孔性フィルムには、膜厚が薄く、かつ均一であることが求められる。このような多孔性フィルムの製造方法として、ポリエチレン、有機液体および無機微粉末からなる樹脂組成物を用いて押出し成形して得られるフィルムを、有機溶剤に浸漬してフィルム中の有機液体を抽出した後、アルカリ性水溶液に浸漬して無機微粉末を抽出し多孔性フィルムを製造する方法が記載されている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、有機液体を抽出するために有機溶媒を多量に使用する必要があり、環境やコストの面で問題があった。有機溶媒を使用しない電池セパレータ用の多孔性フィルムを得る方法としては、高分子量ポリオレフィン、重量平均分子量が2×104以下の熱可塑性樹脂および微粒子からなるシートを延伸した後、水洗して微粒子を除去することにより電池セパレータ用多孔性フィルムを得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平3-203160号公報
【特許文献2】特開2002−69221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の方法では、ある程度膜厚が均一な多孔性フィルムが得られていたが、特に非水系電池用セパレータの分野では、電池の高容量化の要望に伴い、さらに厚みが薄く、膜厚の均一な多孔性フィルムが求められている。
本発明は、有機溶剤を多量に使用することなく、膜厚の均一性に優れる多孔性フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。また本発明は、有機溶剤を多量に使用することなく、膜厚の均一性に優れる積層多孔性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、膜厚の均一性に優れる多孔性フィルム、積層多孔性フィルムおよび非水系電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、前記水溶性充填剤を水系液体を用いて除去した後、延伸することを特徴とする多孔性フィルムの製造方法および前記の方法により得られる多孔性フィルムである。
また本発明は、多孔性フィルムに耐熱樹脂層が積層されてなる積層多孔性フィルムの製造方法であって、ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、前記水溶性充填剤を水系液体を用いて除去した後、延伸して得られる多孔性フィルムの少なくとも片面に、セラミックス粉末と窒素元素を含む耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層を積層することを特徴とする積層多孔性フィルムの製造方法および前記の方法により得られる積層多孔性フィルムである。さらに本発明は、前記多孔性フィルムまたは積層多孔性フィルムからなる非水系電池用セパレータである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多孔性フィルムの製造方法によれば、有機溶剤を多量に使用することなく、膜厚の均一性に優れる多孔性フィルムを製造することができる。また本発明の積層多孔性フィルムの製造方法によれば、膜厚の均一性に優れる積層多孔性フィルムを製造することができる。また本発明の多孔性フィルム、積層多孔性フィルムおよび非水系電池用セパレータは、いずれも膜厚の均一性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートを用いる。ポリオレフィン系樹脂組成物中の水溶性充填剤含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し好ましくは150〜350重量部である。ポリオレフィン系樹脂組成物中の水溶性充填剤の量が100重量部未満の場合には、該ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから水溶性充填剤を短時間で除去することが困難となる傾向があり、一方400重量部を越える場合には、シートや該シートを用いて得られる多孔性フィルムの強度が弱くなり、取り扱いが困難になる傾向がある。
【0008】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの厚みは、通常5〜200μmであり、好ましくは5〜100μmである。このような厚みのシートは、水溶性充填剤を短時間で効率よく除去することができ、かつ延伸工程において取り扱いが容易である。
【0009】
本発明で用いる水溶性充填剤の平均粒子径は、通常0.02〜10μmである。特に本発明によって電池セパレータを製造する場合には、平均粒子径が0.04〜0.5μである水溶性充填剤を用いることが、得られる多孔性フィルムのイオン透過性の観点から好ましい。
【0010】
本発明で用いる水溶性充填剤は、酸性、中性、アルカリ性のいずれかの水系液体に可溶であれば有機系充填剤であっても無機系充填剤であってもよく、これらを2種類以上混合して使用することもできる。有機系水溶性充填剤としては、ポリマー分子中に、−OH基、−COOH基、−CONH2基などを持つ水系液体に可溶な線状高分子を用いることができ、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテルなどが挙げられる。
【0011】
酸性の水系液体に可溶な無機系充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。アルカリ性の水系液体に可溶な無機系充填剤としては、珪酸、酸化亜鉛等が挙げられる。中性の水系液体に可溶な水溶性充填剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。安価であること、種々の粒子径、特に微細な粒子径のものが容易に入手でき、かつ、シートから水系液体によって除去する際の除去速度が速いことから、本発明では炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0012】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどの各オレフィンの単独重合体やこれらモノマー同士、あるいはこれらモノマーと非オレフィン系モノマーとの共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のプロピレン系樹脂、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体が挙げられる。本発明の多孔性フィルムを非水系電池セパレータとして用いる場合には、シャットダウン温度を120〜150℃程度とすることができることから、エチレン系樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は、分子鎖長が2850nm以上のポリオレフィン(以下、超高分子鎖長ポリオレフィンと称する)を含有することが好ましい。このような超高分子鎖長ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂を用いることにより、得られる多孔性フィルムは強度に優れるものとなり、特に電池用セパレータとして用いた場合には内部抵抗のより低い電池とすることができる。ポリオレフィン系樹脂中に含まれる超高分子鎖長ポリオレフィンは、該ポリオレフィン系樹脂中10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂組成物は、重量平均分子量が700〜6000のオレフィン系ワックスを含むことが好ましい。なおオレフィン系ワックスとは、通常25℃で固体状のものである。ワックスを含むポリオレフィン系樹脂組成物は、延伸性が向上し、かつ得られる多孔性フィルムは強度に優れるものとなる。ポリオレフィン系樹脂組成物中のオレフィン系ワックスの含有量は、該樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、5〜100重量部であることが好ましく、10〜70重量部であることがさらに好ましい。
【0015】
オレフィン系ワックスの例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂ワックス、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のプロピレン系樹脂ワックス、ポリ(4 −メチルペンテン−1)、ポリ(ブテン−1)およびエチレン−酢酸ビニル共重合体のワックスなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂やオレフィン系ワックスの分子鎖長、重量平均分子鎖長、分子量及び重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定することができる。また、特定のポリオレフィン系樹脂中の超高分子鎖長ポリオレフィンの含有量(重量%)は、GPC測定により得られる分子量分布曲線の積分により求めることができる。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂の分子鎖長は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の分子鎖長であり、より具体的には以下の手順で求められるパラメータである。GPC測定の移動相としては、測定する未知試料も分子量既知の標準ポリスチレンも溶解することができる溶媒を使用する。まず、分子量が異なる複数種の標準ポリスチレンのGPC測定を行い、各標準ポリスチレンの保持時間を求める。ポリスチレンのQファクターを用いて各標準ポリスチレンの分子鎖長を求め、これにより、各標準ポリスチレンの分子鎖長とそれに対応する保持時間を知る。なお、標準ポリスチレンの分子量、分子鎖長およびQファクターは下記の関係にある。
分子量=分子鎖長×Qファクター
次に未知試料のGPC測定を行い、保持時間−溶出成分量曲線を得る。標準ポリスチレンのGPC測定において、保持時間Tであった標準ポリスチレンの分子鎖長をLとするとき、未知試料のGPC測定において保持時間Tであった成分の「ポリスチレン換算の分子鎖長」をLとする。この関係を用いて、当該未知試料の前記保持時間−溶出成分量曲線から、当該未知試料のポリスチレン換算の分子鎖長分布(ポリスチレン換算の分子鎖長と溶出成分量との関係)が求められる。
【0018】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂中の分子鎖長が2850nm以上のポリオレフィン量は、上記の方法で求めた分子鎖長−溶出成分量曲線を全範囲について積分した値に対する、分子鎖長2850nm以上に該当する範囲について積分した値の割合として求めることができる。
【0019】
本発明におけるポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂や水溶性充填剤等のポリオレフィン系樹脂組成物を構成する材料を混合装置、例えばロール、バンバリーミキサー、一軸押出機、二軸押出機などを用いて混合し、ポリオレフィン系樹脂組成物を得る。材料を混合する際に、必要に応じて酸化防止剤や非イオン性界面活性剤等の添加剤を添加してもよい。
【0020】
本発明で用いるポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの製造方法は特に限定されるものではなく、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ押出加工、スカイフ法等のシート成形方法により製造することができる。より膜厚精度の高いシートが得られることから、下記の方法により製造することが好ましい。特にポリオレフィン系樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂が、超高分子鎖長ポリオレフィンを含む場合には、下記の方法によりシートを製造することが好ましい。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの好ましい製造方法とは、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有されるポリオレフィン系樹脂の融点より高い表面温度に調整された一対の回転成形工具を用いて、ポリオレフィン系樹脂組成物を圧延成形する方法である。回転成形工具の表面温度は、(融点+5)℃以上であることが好ましい。また表面温度の上限は、(融点+20)℃以下であることが好ましく、(融点+15)℃以下であることがさらに好ましい。一対の回転成形工具としては、ロールやベルトが挙げられる。両回転成形工具の周速度は必ずしも厳密に同一周速度である必要はなく、それらの差異が±5%以内程度であればよい。なお、ポリオレフィン樹脂の融点は、DSC(示差走査熱量測定)におけるピーク温度により求めることができ、複数のピークがある場合は、最も融解熱量ΔH(J/g)が大きいピーク温度を融点とする。このような方法により得られるフィルムを用いて多孔性フィルムを製造することにより、強度やイオン透過、通気性などに優れる多孔性フィルムを得ることができる。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂組成物を一対の回転成形工具により圧延成形する際には、押出機よりストランド状に吐出したポリオレフィン系樹脂組成物を直接一対の回転成形工具間に導入してもよく、一旦ペレット化したポリオレフィン系樹脂組成物を用いてもよい。
【0023】
本発明では、ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、該シートに含まれる水溶性充填剤を水系液体を用いて除去する。水溶性充填剤を除去する方法としては、水系液体をシートにシャワー状に浴びせる方法、水系液体を入れた槽にシートを浸漬する方法等が挙げられる。水系液体により水溶性充填剤を除去する方法は回分式でも連続式でもよいが、生産性の観点から連続式が好ましく、例えば、複数のロールを中に配置した槽に水系液体を入れ、回転する前記ロールによりシートを搬送し水系液体中を通過させる方法が挙げられる。水系液体により水溶性充填剤が除去されたシートは、さらに水で洗浄することが好ましい。洗浄の程度としては、この多孔性フィルムの用途にもよるが、通常は溶解した塩等が析出してこない程度まで洗浄を行えばよい。水溶性充填剤を除去したシートは、通常該シートの物性が変化しない時間と温度の範囲内で乾燥される。水溶性充填剤が除去されたシートには、水溶性充填剤が100〜20000ppm程度残存していることが好ましい。水溶性充填剤が少量残存したシートは、後述する方法で延伸して多孔性フィルムとし、電池用セパレータとして用いた場合に、該多孔性フィルムの構成するポリオレフィン系樹脂が溶融しても電極間の短絡を防ぐ効果が期待される。また水溶性充填剤が少量残存したシートを延伸して得られる多孔性フィルムは、水溶性充填剤を完全に除去した場合よりも透過性に優れる。この理由は明らかではないが、微量の充填剤がフィルム中に残存することによりフィルムが膜厚方向に押し潰され難くなっているためではないかと考えられる。
【0024】
水系液体は、シート中の水溶性充填剤を除去可能な液体であればよく、例えば酸性の水系液体としては塩酸水溶液、硫酸水溶液が挙げられ、アルカリ性の水系液体としては水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等が挙げられ、中性の水系液体としてはイオン交換水、蒸留水等が挙げられる。水系液体には有機溶剤が含有されていてもよいが、有機溶剤の含有量が多くなると廃液処理にコストがかかるので、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
除去速度を早くするため水系溶液には、界面活性剤や、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N−メチルピロリドン等の水溶性の有機溶剤を少量添加することが好ましいが、環境の点から有機溶剤を添加せず界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては公知の非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤などがあげられるが、好ましくは非イオン系界面活性剤がよい。非イオン系界面活性剤は、水系液体が強アルカリ性(pH11以上)や強酸性(pH3以下)の場合でも加水分解されにくいという利点がある。非イオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド等が挙げられる。水系液体に添加する非イオン系界面活性剤量は、水溶性充填剤除去速度の上昇効果と、水溶性充填剤除去後にフィルムから界面活性剤を除去する際の効率とのバランスから、0.05〜10重量%とすることが好ましい。
【0026】
本発明で用いられる非イオン系界面活性剤の親水性親油性バランス(HLB)は、3〜18の範囲が好ましく、5〜15の範囲がより好ましい。HLBとは、親水性と疎水性の強さのバランスを示す値である。HLBが小さすぎると、水に対する溶解性が悪くなる傾向があり、逆にHLBが大き過ぎると水への溶解性は十分であるものの疎水性が低いためにシートへの浸透に時間がかかる傾向がある。
【0027】
HLBは、以下に示すグリフィンの式により算出することができる。
HLB=((界面活性剤中の親水基部分の分子量)/(界面活性剤全体の分子量))×(100/5)
前記のグリフィン式でHLBを算出できない界面活性剤のHLBについては、HLBが未知の該界面活性剤で油を乳化させ、別にHLBが既知の複数の界面活性剤(HLBの値が異なるものを使用)で同じ油を乳化させて比較する試験を行うことにより決定する。油の乳化状態をHLB未知の界面活性剤と同一としたHLB既知の界面活性剤のHLBを、HLB未知の界面活性剤のHLBとする。
【0028】
前記のような水系液体を用いてポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートより水溶性充填剤を除去したシートを、テンター、ロール、オートグラフ等により延伸することにより、多孔性フィルムを製造することができる。得られる多孔性フィルムの通気性の観点から延伸倍率は2〜12倍であることが好ましく、4〜10倍であることがより好ましい。延伸温度は通常、ポリオレフィン系樹脂の軟化点以上融点以下の温度、好ましくは(融点−50)℃〜融点の範囲で行う。このような範囲の温度で延伸を行うことにより、通気性やイオン透過性に優れる多孔性フィルムを得ることができる。例えば使用するポリオレフィン樹脂組成物がポリエチレンを主体とするポリオレフィン系樹脂から構成されている場合、延伸温度は80〜130℃であることが好ましく、90〜115℃であることがさらに好ましい。また延伸後はヒートセットを行うことが好ましい。ヒートセット温度はポリオレフィン系樹脂の融点未満の温度で行うことが好ましい。
【0029】
前記したような方法で得られる本発明の多孔性フィルムは、膜厚の均一性に優れるものであり、非水系電池用セパレータに好適である。
【0030】
本発明では、前記したような方法で得られる多孔性フィルムの少なくとも片面に、セラミックス粉末と窒素元素を含む耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層を積層し、積層多孔性フィルムとすることができる。耐熱樹脂層は多孔性フィルムの片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。このような積層多孔性フィルムは、膜厚の均一性や、耐熱性、強度、通気性(イオン透過性)に優れるため、非水電解液電池用セパレータ、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして好適に使用することができる。
【0031】
前記耐熱樹脂とは主鎖に窒素原子を含む重合体であり、特に芳香族環を含むものが耐熱性の観点から好ましい。例えば、芳香族ポリアミド(以下、「アラミド」ということがある)、芳香族ポリイミド(以下、「ポリイミド」ということがある)、芳香族ポリアミドイミドなどがあげられる。アラミドとしては、例えばメタ配向芳香族ポリアミド(以下、「メタアラミド」ということがある。)とパラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある)があげられ、膜厚が均一で通気性に優れる多孔性の耐熱樹脂層を形成しやすいことからパラアラミドが好ましい。
【0032】
パラアラミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4、4’−ビフェニレン、1、5−ナフタレン、2、6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド、ポリ(4、4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4、4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2、6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2、6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0033】
本発明では、パラアラミドを極性有機溶媒に溶かして塗工液として用いる。極性有機溶媒としては、例えば極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒であり、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレア等があげられるが、これらに限定されるものではない。
塗工性の観点からパラアラミドは、固有粘度1.0dl/g〜2.8dl/gのパラアラミドであることが好ましく、さらには固有粘度1.7dl/g〜2.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が1.0dl/g未満では、形成される耐熱樹脂層の強度が不十分となることがある。固有粘度が2.8dl/gを越えると安定なパラアラミド含有塗工液を得ることが困難であることがある。ここでいう固有粘度は、一度析出させたパラアラミドを溶解し、パラアラミド硫酸溶液にして測定された値であり、いわゆる分子量の指標となる値である。塗工性の観点から、塗工液中のパラアラミド濃度は0.5〜10重量%であることが好ましい。
【0034】
得られるパラアラミドの溶媒への溶解性を改善する目的で、パラアラミド重合時にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を添加することが好ましい。具体例としては、塩化リチウムまたは塩化カルシウムがあげられるが、これらに限定されるものではない。上記塩化物の重合系への添加量は、縮合重合で生成するアミド基1.0モル当たり0.5〜6.0モルの範囲が好ましく、1.0〜4.0モルの範囲がさらに好ましい。塩化物が0.5モル未満では、生成するパラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、6.0モルを越えると実質的に塩化物の溶媒への溶解量を越えるので好ましくない場合がある。一般には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が2重量%未満では、パラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、10重量%を越えてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒等の極性有機溶媒に溶解しない場合がある。
【0035】
本発明に用いられるポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3、3’、4、4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3、3’、4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2’−ビス(3、4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3、3’、4、4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などがあげられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3、3’−メチレンヂアニリン、3、3’−ジアミノベンソフェノン、3、3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1、5’―ナフタレンジアミンなどがあげられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明においては、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3、3’、4、4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドがあげられる。ポリイミドを溶解させる極性有機溶媒としては、アラミドを溶解させる溶媒として例示したもののほか、ジメチルスルホキサイド、クレゾール、およびo−クロロフェノール等が好適に使用できる。
【0036】
本発明において耐熱樹脂層を形成するために用いる塗工液は、セラミックス粉末を含有することが必要である。任意の耐熱樹脂濃度の溶液にセラミックス粉末が添加された塗工液を用いて耐熱樹脂層を形成することにより、膜厚が均一で、かつ微細な多孔質である耐熱樹脂層を形成することができる。またセラミックス粉末の添加量によって、透気度を制御することができる。本発明におけるセラミックス粉末は、積層多孔性フィルムの強度や耐熱樹脂層表面の平滑性の点より、一次粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。該一次粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡により得た写真を、粒子径計測器で解析する方法により測定される。セラミックス粉末の含有量は、積層多孔性フィルム中1重量%以上95重量%以下であることが好ましく、5重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。積層多孔性フィルム中のセラミックス粉末含有量が少なすぎると、得られる多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、イオン透過性が十分でない場合があり、多すぎるとフィルムが脆くなり、取り扱いが難しくなる場合がある。使用するセラミックス粉末の形状は、特に限定はなく、球状でもランダムな形状でも使用できる。
【0037】
本発明におけるセラミックス粉末としては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等からなるセラミックス粉末があげられ、例えばアルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは酸化ジルコニウム等の粉末が好ましく用いられる。上記セラミックス粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合したり、粒径の異なる同種あるいは異種のセラミックス粉末を任意に混合して用いることもできる。
【0038】
耐熱樹脂層の水銀圧入法で測定した平均孔径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。平均孔径が3μmを超える場合には、積層多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、正極や負極の主成分である炭素粉やその小片が脱落したときに、短絡しやすいなどの問題が生じる可能性がある。該耐熱樹脂層の空隙率は、30〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは40〜70体積%である。空隙率が30体積%未満では、積層多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合、電解液の保持量が少なくなる場合があり、80体積%を超えると該耐熱樹脂層の強度が不十分となる場合がある。該耐熱樹脂層の厚みは、1〜15μmが好ましく、さらに好ましくは1〜10μmである。該厚みが1μm未満では、耐熱性についての効果が不十分である場合があり、15μmを超えると、積層多孔性フィルムを非水系電池用セパレータとして用いた場合には、厚みが厚すぎ、高電気容量化が達成しにくい場合がある。
【0039】
多孔性フィルムに耐熱樹脂層を積層する方法としては、耐熱樹脂層を別に製造して後に多孔性フィルムと積層する方法、多孔性フィルムの少なくとも片面に、セラミックス粉末と耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層を形成する方法等が挙げられるが、生産性の面から後者の手法が好ましい。多孔性フィルムの少なくとも片面に、セラミックス粉末と耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層を形成する方法としては、具体的に以下のような工程を含む方法が挙げられる。
(a)耐熱樹脂100重量部を含む極性有機溶媒溶液に、該耐熱樹脂100重量部に対しセラミックス粉末を1〜1500重量部分散したスラリー状塗工液を調製する。
(b)該塗工液を多孔性フィルムの少なくとも片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)加湿、溶媒除去あるいは耐熱樹脂を溶解しない溶媒への浸漬等の手段で、前記塗工膜から耐熱樹脂を析出させた後、必要に応じて乾燥する。
塗工液は、特開2001−316006号公報に記載の塗工装置および特開2001−23602号公報に記載の方法により連続的に塗工することが好ましい。
【0040】
本発明の方法により得られる積層多孔性フィルムは、膜厚の均一性に優れるだけでなく耐熱性、強度、通気性(イオン透過性)にも優れるため、非水系電池用セパレータ、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0041】
(1)ガーレー値
フィルムのガーレー値(秒/100cc)は、JIS P8117に準じて、B型デンソメーター(東洋精機製)にて測定した。測定はフィルム1m2あたり10箇所について行った。
【0042】
(2)膜厚
JISK7130に準拠してミツトヨ製VL-50Aにて測定を行った。測定はフィルム1m2あたり10箇所について行った。
【0043】
(3)GPCによる分子鎖長および分子量の測定
測定装置としてウォーターズ社製ゲルクロマトグラフAlliance GPC2000型を使用した。その他の条件を以下に示す。
カラム :東ソー社製TSKgel GMHHR−H(S)HT 30cm×2、TSKgel GMH6 −HTL 30cm×2
移動相 :o−ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流 速 :1.0mL/分
カラム温度:140℃
注入量 :500μL
試料30mgをo−ジクロロベンゼン20mLに145℃で完全に溶解した後、その溶液を孔径が0.45μmの焼結フィルターでろ過し、そのろ液を供給液とした。なお、較正曲線は、分子量既知の16種の標準ポリスチレンを用いて作製した。
【0044】
(4)水溶性充填剤の平均粒子径
走査電子顕微鏡SEM(日立製 S−4200)により30000倍で観測し、粒子100個について直径を測定し、その平均を平均粒子径(μm)とした。
(5)突刺強度
多孔性フィルムを12mmΦのワッシャで固定し、ピンを200mm/minで突き刺したときの最大応力(gf)を該フィルムの突刺強度とした。ピンは、ピン径1mmΦ、先端0.5Rのものを使用した。
(6)パラアラミドの固有粘度
重合液を水中へ滴下し、ミキサーで粉砕、ろ過を行いパラアラミド重合体を得た。次に98%硫酸100mlに300℃で一時間真空乾燥したパラアラミド重合体0.5gを溶解させ、パラアラミド硫酸溶液および98%硫酸について、それぞれ毛細管粘度計により30℃にて流動時間を測定し、求められた流動時間の比から次式により固有粘度を求めた。
固有粘度=ln(T/T0)/C 〔単位:dl/g〕
ここでTおよびT0は、それぞれパラアラミド硫酸溶液および硫酸の流動時間であり、Cは、パラアラミド硫酸溶液中のパラアラミド濃度(g/dl)を示す。
【0045】
(7)ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの作製
シート(1)の作製
ポリエチレン粉末100重量部(ハイゼックスミリオン340M、三井化学(株)製、重量平均分子鎖長17000nm、重量平均分子量300万、融点136℃)に対し、オレフィン系ワックス粉末43重量部(ハイワックス110P、三井化学(株)製、重量平均分子量1000、融点110℃)と炭酸カルシウム(白石カルシウム製Vigot10、SEMで求めた平均粒子径0.15μm)150重量部をヘンシェルミキサーで混合し、その後2軸混練機にて混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得た。該ポリオレフィン系樹脂組成物を、表面温度が151℃であり、同周速度で回転する一対のロールで圧延し、膜厚約70μmのシート(1)を作製した。このシート(1)の厚み精度は、±2μm以内であり、又、ポリオレフィン樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の重量を100%としたとき、該ポリオレフィン系樹脂に含まれる分子鎖長2850nm以上のポリオレフィンは30%であった。
シート(2)の作製
ポリオレフィン系樹脂組成物の材料として、ポリエチレン粉末100重量部に対して、オレフィン系ワックス粉末40重量部、炭酸カルシウム330重量部を用いた以外はシート(1)と同様にして、膜厚約65μmのシート(2)を作製した。このシート(1)の厚み精度は、±2μm以内であり、又、ポリオレフィン樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の重量を100%としたとき、該ポリオレフィン系樹脂に含まれる分子鎖長2850nm以上のポリオレフィンは25%であった。
【0046】
[実施例1]
図1に示す装置を用いてシート(1)中の炭酸カルシウムを除去した。シート(1)をロールにより搬送し塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)の入ったaの浴槽に15分間浸漬して炭酸カルシウムを除去し、続いて該シートを水酸化ナトリウム水溶液(0.1〜2mol/L)の入ったbの浴槽に2分間浸漬し、中和した。さらに該シートをcの浴槽で5分間水洗浄し、最後に50℃に加熱したロールに接触させて乾燥して巻き取った。その後、該シートをテンターにて5倍に延伸した(延伸温度103℃)。得られた多孔性フィルムの物性を表1に示した。
【0047】
[実施例2]
延伸倍率を9倍とした以外は実施例1と同様にして多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの物性を表1に示した。
[実施例3]
シート(2)を用い、延伸倍率を8倍とした以外は実施例1と同様にして多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの物性を表1に示した。
【0048】
[実施例4]
パラアラミド(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド))の合成
撹拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。フラスコを十分乾燥し,N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加し、100℃に昇温して完全に溶解させた。室温に戻して、パラフェニレンジアミン、68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド、124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も撹拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成した。1500メッシュのステンレス金網でろ過した。得られた溶液は、パラアラミド濃度6%の液晶相で、光学的異方性を示した。パラアラミド溶液の一部をサンプリングし、水で再沈して得られたパラアラミドの固有粘度は、2.01dl/gであった。
塗工液の調製
先に重合したパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、243gのNMPを添加し、最終的に、パラアラミド濃度が1.75重量%の等方相の溶液に調製して60分間攪拌した。上記のパラアラミド濃度が1.75重量%の溶液にアルミナC(日本アエロジル社製品)を6g(対パラアラミド100重量部)、アドバンスドアルミナAA-03(住友化学社製品)を6g(対パラアラミド100重量部)混合し、240分間攪拌した。アルミナ微細粒子を十分分散させた塗工ドープを1000メッシュの金網でろ過した。その後、酸化カルシウム0.73gを添加して240分攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡しスラリー状の塗工液を得た。
積層多孔性フィルムの作製(連続法)
実施例3で作製した多孔性フィルムの巻き物(幅300mm、長さ300m)を巻き出し機に取り付け、張力2kg/300mm、ライン速度4m/分で引き出しながら塗工液を塗布し、連続的に積層多孔性フィルムを作製した。
まず、引き出した多孔性フィルムの下面にNMPをマイクログラビアコーターで塗布し、上面に調製した塗工液をバーコーターで100μm厚みに塗布した。長さ1.5mの恒温恒湿槽内(温度50℃、相対湿度70%)を通し、塗布した塗工液よりパラアラミドを析出させた。続いて、ライン長4mの水洗装置(イオン交換水を入れ、イオン交換水を10リットル/分で供給、排出する槽内にガイドロールをセットしたもの)を通してNMP、塩化カルシウムを除去した。その後、ヤンキードライヤーで熱風を送りつつ、熱ロール(直径1m、表面温度70℃、メタアラミド布のキャンバスで覆う)を通して水分を乾燥除去して多孔性フィルムの片面に耐熱樹脂層が積層されてなる積層多孔性フィルムを得た。該積層多孔性フィルムの厚みは16μm、透気度は270秒/100ccであった。その他の物性を表1に示した。
【0049】
[実施例5]
フィルム中の残存充填剤量を限りなく少なくするため、実施例1において図1の装置による充填剤除去工程を3回繰り返して行った以外は同様に行い多孔性フィルムを得た。この多孔性フィルムの物性を表1に示した。
[実施例6]
実施例1に記載の方法により得られたポリオレフィン系樹脂組成物を、平板のプレス機(180℃)にて圧延し、平均膜厚70μmのポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートを作製した。ついで、該シートを用いて実施例1と同様の方法で多孔性フィルムを得た。この多孔性フィルムの物性を表1に示した。
【0050】
[比較例1]
シート(1)をテンターにて延伸温度105℃で5倍に延伸した延伸シートを、塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)に浸漬して炭酸カルシウムを除去した後、水洗浄し、50℃に加熱したロールに接触させて乾燥し、多孔性フィルムを得た。この多孔性フィルムの物性を表1に示した。
[比較例2]
シート(1)をテンターにて延伸温度105℃で9倍に延伸した延伸シートを、塩酸水溶液(塩酸2〜4mol/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)に浸漬して炭酸カルシウムを除去した後、水洗浄し、50℃に加熱したロールに接触させて乾燥し、多孔性フィルムを得た。この多孔性フィルムの物性を表1に示した。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例において、ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから水溶性充填剤を除去する際に用いた装置の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
a:酸水溶液槽
b:アルカリ水溶液槽
c:水槽
d:ガイドロール
e:乾燥ドラム(加熱ドラム)
f:巻取機
g:ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、前記水溶性充填剤を水系液体を用いて除去した後、延伸することを特徴とする多孔性フィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂が、分子鎖長が2850nm以上のポリオレフィンを10重量%以上含むポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の多孔性フィルムの製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂組成物が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、重量平均分子量が700〜6000のオレフィン系ワックスを5〜100重量部含むポリオレフィン系樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の多孔性フィルムの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートとして、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有されるポリオレフィン系樹脂の融点より高い表面温度に調節された一対の回転成形工具を用いて、ポリオレフィン系樹脂組成物を圧延成形することにより得られるポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートを用いることを特徴とする請求項2または3に記載の多孔性フィルムの製造方法。
【請求項5】
水溶性充填剤が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の多孔性フィルムの製造方法。
【請求項6】
多孔性フィルムに耐熱樹脂層が積層されてなる積層多孔性フィルムの製造方法であって、ポリオレフィン系樹脂100重量部と、該ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し水溶性充填剤を100〜400重量部含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートから、前記水溶性充填剤を水系液体を用いて除去した後、延伸して得られる多孔性フィルムの少なくとも片面に、セラミックス粉末と窒素元素を含む耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱樹脂層を積層することを特徴とする積層多孔性フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載の製造方法で得られることを特徴とする多孔性フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法で得られることを特徴とする積層多孔性フィルム。
【請求項9】
非水系電池用セパレータであることを特徴とする請求項7に記載の多孔性フィルム。
【請求項10】
非水系電池用セパレータであることを特徴とする請求項8に記載の積層多孔性フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−273987(P2006−273987A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94041(P2005−94041)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】