説明

多孔性分離膜の孔径測定法及び完全性試験方法

【課題】親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の孔径を低圧力で測定できる方法及び多孔性分離膜の完全性を低圧で試験する方法の提供。
【解決手段】親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を透過させる工程、表面張力5〜20mN/mの検査液を透過させる工程、2.5MPa以下の圧力で気体を透過させる工程及び透過した気体の流量又は圧力を測定する工程により、多孔性分離膜の孔径及び完全性を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性分離膜の孔径測定法及び完全性試験方法に関するものである。さらに詳しくは、水湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を透過させる工程及び表面張力5〜20mN/mの液体を透過させる工程、2.5MPa以下の圧力で気体を透過させる工程、透過した気体の流量又は圧力測定する工程により、孔径100nm以下の多孔性分離膜の孔を測定する方法及び完全性試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液製剤やバイオ製品を製造する場合、HIVやHBV、HCV等の危険度の高いウイルスを除去する工程は必須である。ウイルス除去方法として、多孔性分離膜フィルターが利用されている。それを使用する際、濾過中に多孔性分離膜フィルターに変化がなかったかを確認するため、濾過前あるいは後に完全性試験(特許文献1や特許文献2)を実施し、ウイルス除去能を測定する必要がある。
【0003】
多孔質のウイルス除去性能を低下させる要因としては、該膜中に存在する細孔のうち、少量の大孔径部が主たるものと考えられる。従って、ウイルス除去性能を正確に評価するには、これらの大孔径の特性を把握する必要がある。従来、大孔径部を評価する完全性試験として、バブルポイント試験、ディフュージョン試験、プレッシャーホールド試験及びフォワードフロー試験などが採用されている。中でも、気体と液体の界面破壊現象を利用したバブルポイント試験やフォワードフロー試験が最も簡便な方法として利用されており、ウイルス除去能と相関がある事が報告されている。
【0004】
バブルポイント試験は、多孔質分離膜を検査液で湿潤させた後、膜の上流から圧力を増加させ、気泡が出始めた時の圧力(バブルポイント)を測定する方法である。気泡は、膜中に存在する最大細孔から最初に発生するので、バブルポイントは、最大細孔の指標になる。膜の細孔を円筒状と仮定すれば、バブルポイントから、下式(1)によって孔径を計算できる。(非特許文献1)
D = 4Kδ×cosθ/P (1)
D:孔径
K:形状補正係数
δ:液体の表面張力
θ:固体に対する液体の接触角
P:気体圧力
フォワードフロー試験は、多孔質分離膜を試験液で湿潤させた後、膜の上流を適切な気体で特定の圧力を加え、その湿潤した膜を通過する気体流量を測定する方法である。式(1)によって計算される孔径以上の大きさの孔より流れ出る気体の流量を測定するので、大孔径部の指標になる。
【0005】
式(1)は、ウイルス除去膜の様な孔径の小さい膜を測定するためには、気体圧力を高くすれば良い事を示している。例えば、水と窒素の界面破壊現象を利用した方法では、50nmの円筒状の孔を検出するためには、6.0MPaで測定できる。しかしながら、多孔質分離膜が4.0MPa以上の圧力に耐えられず、膜が破壊されるため、正確な測定できない。
【0006】
また、式(1)は界面張力の低い溶液を使用する事で、孔径の小さい膜を測定できる事を示している。例えば、パーフルオロカーボンなどを使用して測定を行う事ができれば40MPa以下の圧力で測定することが出来る(特許文献3)。しかしながら、濾過後の多孔質分離膜は水で湿潤しているため、パーフルオロカーボン等の水溶解度の低い溶液を用いると、膜内部で二層分離が起こり、正確に測定する事が出来ない。また、濾過前でも、フィルターが親水性溶媒に湿潤していれば、同様の理由でパーフルオロカーボンを使用した測定は出来ない。
【特許文献1】特開平7−132215号公報
【特許文献2】特開平10−235169号公報
【特許文献3】特開平5−157682号公報
【非特許文献1】Bechold H, Kolloid Z.、55、172(1931)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の孔径を低圧で測定できる方法及び多孔性分離膜の完全性を低圧で試験する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を濾過し、検査液を濾過した後、気体を透過させる事で、多孔性分離膜の孔径を低圧で測定することや完全性試験ができる事を見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の完全性試験方法であって、化学的に不活性な検査液を多孔性分離膜に透過後、気体を加圧により透過させる工程を含み、該加圧力が2.5MPa以下であり、かつ多孔性分離膜の該孔径が100nm以下である方法。
(2)親水性溶媒に湿潤した、孔径100nm以下の多孔性分離膜の完全性試験方法であって(a)〜(d)の工程を含む方法。
(a)親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を透過させる工程。
(b)(a)工程の後、表面張力5〜20mN/mの検査液を透過させる工程。
(c)(b)工程の後、2.5MPa以下の圧力で気体を透過させる工程。
(d)(c)工程の後、透過した気体の流量又は圧力により、多孔性分離膜の完全性を試験する工程。
(3)親水性溶媒が水である事を特徴とする上記(1)又は(2)に記載の完全性試験方法。
(4)検査液が、フッ化化合物である事を特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(5)フッ化化合物がエーテル系炭素フッ化化合物、カルボニル系炭素フッ化化合物、エステル系炭素フッ化化合物、COF系炭素フッ化化合物、OF系炭素フッ化化合物、過酸化系炭素フッ化化合物である事を特徴とする上記(4)に記載の完全性試験方法。
(6)エーテル系炭素フッ化化合物が、ハイドロフルオロエーテルである事を特徴とする上記(5)に記載の完全性試験方法。
(7)ハイドロフルオロエーテルが、COC(HFE−7200)、COCH(HFE−7100)である事を特徴とする上記(6)に記載の完全性試験方法。
(8)気体が空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水素である事を特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(9)多孔性分離膜が、精密濾過膜、限界濾過膜、ウイルス分離膜である事を特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(10)多孔性分離膜が、ポリフッ化ビニリデン膜、ポリスルホン膜である事を特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(11)圧力が2.0MPa以下である事を特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(12)孔径が50nm以下である事を特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(13)両親媒性液体が、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物である事を特徴とする上記(2)〜(12)のいずれかに記載の完全性試験方法。
(14)アルコール化合物がメチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、イソプロパノールである事を特徴とする上記(13)に記載の完全性試験方法。
(15)親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の孔径測定方法であって、化学的に不活性な検査液を多孔性分離膜に透過後、気体を加圧により透過させる工程を含み、該加圧力が2.5MPa以下であり、かつ多孔性分離膜の該孔径が100nm以下である方法。
(15−2)親水性溶媒に湿潤した、孔径100nm以下の多孔性分離膜の孔径測定方法であって(a)〜(d)の工程を含む方法。
(a)親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を透過させる工程。
(b)(a)工程の後、表面張力5〜20mN/mの検査液を透過させる工程。
(c)(b)工程の後、2.5MPa以下の圧力で気体を透過させる工程。
(d)(c)工程の後、透過した気体の流量又は圧力により、多孔性分離膜の孔径を測定する工程。
(15−3)親水性溶媒が水である事を特徴とする上記(15)又は(15−2)に記載の孔径測定方法。
(15−4)検査液が、フッ化化合物である事を特徴とする上記(15)〜(15−3)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−5)フッ化化合物がエーテル系炭素フッ化化合物、カルボニル系炭素フッ化化合物、エステル系炭素フッ化化合物、COF系炭素フッ化化合物、OF系炭素フッ化化合物、過酸化系炭素フッ化化合物である事を特徴とする上記(15−4)に記載の孔径測定方法。
(15−6)エーテル系炭素フッ化化合物が、ハイドロフルオロエーテルである事を特徴とする上記(15−5)に記載の孔径測定方法。
(15−7)ハイドロフルオロエーテルが、COC(HFE−7200)、COCH(HFE−7100)である事を特徴とする上記(15−6)に記載の孔径測定方法。
(15−8)気体が空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水素である事を特徴とする上記(15)〜(15−7)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−9)多孔性分離膜が、精密濾過膜、限界濾過膜、ウイルス分離膜である事を特徴とする上記(15)〜(15−8)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−10)多孔性分離膜が、ポリフッ化ビニリデン膜、ポリスルホン膜である事を特徴とする上記(15)〜(15−9)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−11)圧力が2.0MPa以下である事を特徴とする上記(15)〜(15−10)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−12)孔径が50nm以下である事を特徴とする上記(15)〜(15−11)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−13)両親媒性液体が、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物である事を特徴とする上記(15−2)〜(15−12)のいずれかに記載の孔径測定方法。
(15−14)アルコール化合物がメチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、イソプロパノールである事を特徴とする上記(15−13)に記載の孔径測定方法。
(16)親水性溶媒に湿潤し、かつ、孔径が100nm以下多孔性分離膜の測定に用いられる膜の測定前処理方法において、
該測定が化学的に不活性な検査液を透過後、気体を加圧により透過させ、透過する気体の流量又は加圧力の測定であって、該測定に先立ち表面張力5〜20mN/mの両親媒性液体を該湿潤した多孔性分離膜に透過させる、膜の測定前処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、親水性溶媒湿潤した多孔性分離膜の孔径を低圧で測定できる。また、迅速、簡便、且つ、正確なウイルス除去性能を予測できる完全性試験を行う事ができる。
【発明を実施するために最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係わる多孔性分離膜の孔径測定法及び完全性試験について具体的に説明する。
本発明に係る孔径とは、多孔性分離膜の最大孔径、平均流量孔径、孔径分布に係る孔径の事である。それらは、ASTM F316−86に記載されている方法及び式に準じ、測定する。
【0011】
本発明に係る親水性溶媒としては、水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、糖質含有水溶液、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物、アミン化合物等が挙げられる。好ましくは、水、塩化ナトリウム水溶液、エタノールである。また、両親媒性液体も、親水性溶媒に含まれる。
【0012】
本発明に係る多孔性分離膜としては、例えば、精密濾過膜(ミクロフィルター、MF)、限界濾過膜(UF)、ウイルス分離膜を挙げる事ができる。特に、ウイルス分離膜に適している。
【0013】
本発明に係る多孔性分離膜の素材は、使用する溶液に対して不活性であれば特に限定しないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、フロリナート等が挙げられる。特にポリフッ化ビニリデンやポリスルホンに適している。
【0014】
本発明に係る多孔性分離膜の孔径は、目的とする蛋白が膜を透過でき、不要粒子、例えば、ウイルスが除去できる孔径であれば特に制限しないが、好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは10〜50nmが良い。
【0015】
本発明に係る多孔性分離膜の形状は、濾過に用いる事ができるならば特に制限されないが、例えば、中空糸、平膜等が挙げられ。
【0016】
本発明に係る圧力は、膜の弾性限界圧力以下が望ましく、2.5MPa以下が望ましい。さらに、操作や装置の危険性を考慮した場合、2.0MPa以下が好ましく、もっとも好ましくは1.5MPa以下である。
本発明に係る両親媒性液体は、親水性溶媒と測定に使用する検査液に可溶であれば特に限定しないが、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物、アミン化合物等が挙げられる。
本発明に係るアルコール化合物は、炭素数が1〜5からなるアルコール化合物であれば特に制限はないが、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
本発明に係るケトン化合物は、炭素数が1〜5からなるケトン化合物であれば特に制限はないが、好ましくは、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
本発明に係るエーテル化合物は、炭素数が1〜5からなるエーテル化合物で、好ましくは、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等が挙げられる。
本発明に係るエステル化合物は、炭素数が1〜5からなるエステル化合物であれば特に制限はないが、好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
本発明に係るアミン化合物は、炭素数が1〜5からなるアミン化合物であれば特に制限はないが、好ましくは、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等が挙げられる。
尚、親水性溶媒と両親媒性液体が、同一である場合は、親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に、直接検査液を透過させることができ、両親媒性液体を透過させる工程は省略することができる。
【0017】
本発明に係る検査液は、両親媒性液体に可溶であれば特に制限はないが、好ましくは、フッ化化合物、さらに好ましくは、エーテル系炭素フッ化化合物、カルボニル系炭素フッ化化合物、エステル系炭素フッ化化合物、COF系炭素フッ化化合物、OF系炭素フッ化化合物、過酸化系炭素フッ化化合物等が挙げられる。
本発明に係るエーテル系炭素フッ化化合物は、COC(HFE−7200)、COCH(HFE−7100)、CHFOCHF、CFOCHFCF、CHFCFOCHCFCHF、CFCHFCFCHOCHF、CFCHFCFOCHCFCF、CHFCFOCHCF、CFCHFCFOCH、CFCFCHOCHF、CFOCF=CF2、C2F5OCF=CF、c−CO、c−C、c−CO、c−C等が挙げられ、好ましくは、COC(HFE−7200)、COCH(HFE−7100)が挙げられる。
本発明に係るカルボニル系炭素フッ化化合物は、CFCOCF等が挙げられる。
本発明に係るエステル系炭素フッ化化合物は、CFCOOCHF、CFCOOC25等が挙げられる。
本発明に係るCOF系炭素フッ化化合物は、CFCOF、CF(COF)、CFCOF、COF等が挙げられる。
本発明に係るOF系炭素フッ化化合物は、CFOF等が挙げられる。
本発明に係る過酸化系炭素フッ化化合物は、CFOOCF等が挙げられる。
本発明に係る検査液の表面張力は、5〜20mN/mであり、好ましくは、10〜15mN/mである。
【0018】
本発明に係る気体は、検査液や多孔質除去膜に対して不活性であれば特に制限されないが、好ましくは、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水素等が挙げられ、さらに好ましくは、空気、窒素、ヘリウムが挙げられる。
【0019】
本発明に係る濾過法は、定圧濾過、定速濾過、タンジェンシャル濾過等が挙げられる。
本発明に係る濾過圧力は、多孔性分離膜の構造に影響しない圧力であれば特に制限されないが、好ましくは、0.3MPa以下が適している。
本発明に係る濾過温度は、多孔性分離膜の構造や両親媒性液体、検査液の性質に影響しない温度であれば特に制限されないが、好ましくは、4℃〜35℃、さらに好ましくは、15℃〜25℃が適している。
【0020】
本発明に係る完全性試験方法は、親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に使用されるものであり、濾過前後に関わらず利用できる。濾過後であれば、例えば、多孔性分離膜を用いて蛋白を濾過し、膜内に残留した蛋白を洗浄した後に使用することもできる。完全性試験(フォワードフロー試験)は前述の通り、膜をある検査液に浸し、所定の圧力で気体を流した時に、大孔径部から漏れ出る流量を測定する方法である。大孔径部の割合が大孔径部の割合が多くなると、流量が多くなり、ウイルスが漏れ易くなり、逆に、少ないと流量が少なくなり、ウイルスが漏れ難くなる。流量とウイルスは良好な相関があるため、従って、膜のウイルス除去性能の指標となるというものである。
【0021】
洗浄は、膜に影響せず、且つ、蛋白濾過の時に多孔性分離膜に吸着、捕捉された物質を取り除く事が出来る洗浄方法であれば特に制限されないが、常法としてアルカリや界面活性剤等を含んだタンパク除去剤等の洗浄液(例えば特開平9−141068号公報に記載されているようなものがある)を濾過し、さらに、洗浄液を水で洗浄する方法等が挙げられる。洗浄溶液を濾過する方法は、蛋白を濾過した方向で濾過する洗浄(順洗)や蛋白を濾過した逆方向で濾過する洗浄(逆洗)、膜を洗浄液に接触させる洗浄(浸漬洗浄)のいずれでも良い。
【0022】
本発明に係る多孔性分離膜に吸着、捕捉された物質には、例えば蛋白、脂質、糖質、核酸等が挙げられる。蛋白としては、酵素、抗体、血液凝固因子、インターロイキンやエリトロポエチン等のサイトカイン等が挙げる事ができる。また、脂質としては、長鎖脂肪酸やリン脂質が挙げる事ができる。また、核酸としては、DNAやRNAが挙げる事ができる。特に、グロブリンやアルブミン等の蛋白に対して有効である。
本発明の最大孔径の計算方法は、下式(2)を用いて行った。
【0023】
D = 2.86×δ/P (2)
D:最大孔径
δ:液体の表面張力(mN/m)
P:気体圧力(MPa))
本発明に係るウイルス除去性の計算方法は、下式(3)を用いて行った。
Φ=log(No /Nf ) (3)
Φ:ウイルス除去性
No :濾過前の元液中のウイルス濃度
Nf :濾液中のウイルス濃度)
次に、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
特許国際出願番号PCT/JP03/1332号明細書に記載の以下の方法に従って、平均孔径16.6nmのPVDF多孔性中空糸膜を製造し、膜面積0.1mのフィルターAに成型した。該明細書に記載のフィルターAの製造方法は次の通りである。
【0025】
まず、ポリフッ化ビニリデン樹脂(SOLVAY社製、SOFEF1012、結晶融点173℃)49wt%、フタル酸ジシクロヘキシル(大阪有機化学工業(株)製 工業品)51wt%からなる組成物を、ヘンシェルミキサーを用いて70℃で攪拌混合した後、冷却して粉体状としたものをホッパーより投入し、二軸押出機(東洋精機(株)製 ラボプラストミル MODEL 50C 150)を用いて210℃で溶融混合し均一溶解した。続いて、中空内部に温度が130℃のフタル酸ジブチル(三建化工(株)製)を8ml/分の速度で流しつつ、内直径0.8mm、外直径1.1mmの環状オリフィスからなる紡口より吐出速度17m/分で中空糸状に押し出し、40℃に温調された水浴中で冷却固化させて、60m/分の速度でカセに巻き取った。その後、99%メタノール変性エタノール(今津薬品工業(株)製 工業品)でフタル酸ジシクロヘキシル及びフタル酸ジブチルを抽出除去し、付着したエタノールを水で置換した後、水中に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置(平山製作所(株)製 HV−85)を用いて125℃の熱処理を1時間施した。その後、付着した水をエタノールで置換した後、オーブン中で60℃の温度で乾燥することにより中空糸状の微多孔膜を得た。抽出から乾燥にかけての工程では、収縮を防止するために膜を定長状態に固定して処理を行った。
【0026】
続いて、上記の微多孔膜に対し、グラフト法による親水化処理を行った。反応液は、ヒドロキシプロピルアクリレート(東京化成(株)製 試薬グレード)を8容量%となるように、3−ブタノール(純正科学(株)試薬特級)の25容量%水溶液に溶解させ、40℃に保持した状態で、窒素バブリングを20分間行ったものを用いた。まず、窒素雰囲気下において、該微多孔膜をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、100kGy照射した。照射後の膜は、13.4Pa以下の減圧下に15分間静置した後、上記反応液と該膜を40℃で接触させ、1時間静置した。その後、膜をエタノールで洗浄し、60℃真空乾燥を4時間行い、微多孔膜を得た。得られた膜は水に接触させたときに自発的に細孔内に水が浸透することが確認され、高い性能を示した。
【0027】
乾燥状態のフィルターAに0.098MPaでHFE−7200(δ=13.6mN/m)を500ml透過させ、フィルター内をHFE−7200で満たした。その後、図1の装置にフィルター接続し、ゆっくりと空気圧を上昇させ、透過した空気の流量を測定した。
【0028】
次に、フィルターAに0.196MPaで水50mlを透過させ、水湿潤したフィルターBを作成した。フィルターBのノズルからの水を除去した後、1.96kPaでエタノールを5ml濾過した。次に、0.098MPaの空気で5分間乾燥した後、エタノールを20ml濾過した。次に、フィルターAのノズルからのエタノールを除去した後、0.098MPaの空気で5分間乾燥した。次に、HFE−7200を500ml濾過し、フィルター内をHFE−7200で満たした。その後、図1の装置にフィルター接続し、ゆっくりと空気圧を圧力調整器2により調整しながら上昇させ、透過した空気の圧力を測定した。結果を他の実施例および比較例とともに以下の表1に示す。以上の結果より、水湿潤したフィルターBをエタノール、HFE−7200の順に置換した後、気体を透過させることにより、水湿潤しないフィルターAと同様に、最大孔径を測定できる事が分かった。
【実施例2】
【0029】
平均孔径13.9nmであるフィルターC及びフィルターCを水湿潤したフィルターDを使用した以外、実施例1と同様の方法で測定を行った。
なお、フィルターCは孔径制御のために樹脂の組成濃度を適宜変更した以外は、基本的にはフィルターAと同様の製造方法に従って製造した。
【実施例3】
【0030】
エタノールをイソプロパノールに変更した以外、実施例1と同様の測定を行った。以上の結果より、イソプロパノールを使用しても測定できる事が分かった。
【実施例4】
【0031】
HFE−7200をHFE−7100(δ=13.6mN/m、HFE−7200と同じ)に変更した以外、実施例1と同様の測定を行った。以上の結果より、HFE−7100を使用しても測定できる事が分かった。
【実施例5】
【0032】
空気を窒素に変更した以外、実施例1と同様の測定を行った。以上の結果より、窒素を使用しても測定できる事が分かった。
【比較例1】
【0033】
水湿潤したフィルターBに、両親媒性液体を濾過することなく、0.098MPaでHFE−7200を濾過した。その結果、2.5MPaでも空気が透過せず、最大孔径を測定する事ができなかった。
【比較例2】
【0034】
HFE−7200を、30wt%イソプロパノール溶液(δ=27.8mN/m)に変更した以外、実施例1と同様の測定を行った。その結果、2.5MPaでも空気が透過せず、最大孔径を測定する事ができなかった。
【0035】
【表1】

【実施例6】
【0036】
前述した特許国際出願番号PCT/JP03/1332号明細書の記載方法に従って、平均孔径16.6nmのPVDF多孔性中空糸膜を製造し、膜面積0.1mのフィルターAに成型した。
乾燥状態のフィルターAに0.098MPaでHFE−7200を500ml透過させ、フィルター内をHFE−7200で満たした。その後、図1の装置にフィルター接続した。空気圧を1.2MPaに設定し、透過した空気の流量を流量計4により測定した。
フィルターAに0.196MPaで水50mlを透過させ、水湿潤したフィルターBを作成した。フィルターのノズルからの水を除去した後、1.96kPaでエタノールを5ml濾過した。次に、0.098MPaの空気で5分間乾燥した後、エタノールを20ml濾過した。次に、フィルターAのノズルからのエタノールを除去した後、0.098MPaの空気で5分間乾燥した。次に、HFE−7200を500ml濾過し、フィルター内をHFE−7200で満たした。その後、図1の装置にフィルター接続し、空気圧を1.2MPaに設定し、透過した空気の流量を測定した。結果を実施例7の結果とともに表2に示す。以上の結果より、水湿潤したフィルターBをエタノール、HFE−7200の順に置換した後、気体を透過させることにより、水湿潤しないフィルターAと同様に、大孔径部の変化を確認できる事が分かった。
【実施例7】
【0037】
平均孔径13.9nmであるフィルターC及びフィルターCを水湿潤したフィルターDを使用した以外、実施例6と同様の測定を行った。
【0038】
【表2】

【実施例8】
【0039】
前述した特許国際出願番号PCT/JP03/1332号明細書の記載方法に従って、最大孔径13.9〜18.3nmのPVDF多孔性中空糸膜を製造し、膜面積0.1及び0.001mのフィルターに成型した。水湿潤した各フィルターを実施例6と同様の方法で透過した空気の流量を測定した。次に、各0.001mフィルターを使用し、ウイルスの除去性を測定した。指標ウイルスとしてブタパルボウイルス使用し、5vol%胎児牛血清を含んだD−MEM中に106〜7TCID50/mlとなるよう調製した。この溶液を、0.3MPaで80ml濾過し、ブタパルボウイルス除去性を測定した。ウイルス除去性は濾液中のウイルス濃度を計測し、前記式(3)により求めた。その結果、図2に示す様に、ブタパルボウイルス除去性と透過した空気流量との間に良好な相関関係がある事が分かった。以上の結果より、本発明が、ウイルス除去性の代替指標となり、完全性試験に使用できる事が分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の多孔性分離膜の孔径測定法及び完全性試験方法は、ウイルス分離膜や精密濾過膜、限界濾過膜の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に使用した測定装置図。
【図2】ブタパルボウイルス除去性と空気流量との相関関係図。
【符号の説明】
【0042】
1 ボンベ
2 圧力調整器
3 圧力計
4 流量計
5 フィルター
6 ノズルキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の完全性試験方法であって、化学的に不活性な検査液を多孔性分離膜に透過後、気体を加圧により透過させる工程を含み、該加圧力が2.5MPa以下であり、かつ多孔性分離膜の該孔径が100nm以下である方法。
【請求項2】
親水性溶媒に湿潤した、孔径100nm以下の多孔性分離膜の完全性試験方法であって(a)〜(d)の工程を含む方法。
(a)親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜に両親媒性液体を透過させる工程。
(b)(a)工程の後、表面張力5〜20mN/mの検査液を透過させる工程。
(c)(b)工程の後、2.5MPa以下の圧力で気体を透過させる工程。
(d)(c)工程の後、透過した気体の流量又は圧力により、多孔性分離膜の完全性を試験する工程。
【請求項3】
親水性溶媒が水である事を特徴とする請求項1又は2に記載の完全性試験方法。
【請求項4】
検査液が、フッ化化合物である事を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項5】
フッ化化合物がエーテル系炭素フッ化化合物、カルボニル系炭素フッ化化合物、エステル系炭素フッ化化合物、COF系炭素フッ化化合物、OF系炭素フッ化化合物、過酸化系炭素フッ化化合物である事を特徴とする請求項4に記載の完全性試験方法。
【請求項6】
エーテル系炭素フッ化化合物が、ハイドロフルオロエーテルである事を特徴とする請求項5に記載の完全性試験方法。
【請求項7】
ハイドロフルオロエーテルが、COC(HFE−7200)、COCH(HFE−7100)である事を特徴とする請求項6に記載の完全性試験方法。
【請求項8】
気体が空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水素である事を特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項9】
多孔性分離膜が、精密濾過膜、限界濾過膜、ウイルス分離膜である事を特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項10】
多孔性分離膜が、ポリフッ化ビニリデン膜、ポリスルホン膜である事を特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項11】
圧力が2.0MPa以下である事を特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項12】
孔径が50nm以下である事を特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項13】
両親媒性液体が、アルコール化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、エステル化合物である事を特徴とする請求項2〜12のいずれかに記載の完全性試験方法。
【請求項14】
アルコール化合物がメチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、イソプロパノールである事を特徴とする請求項13に記載の完全性試験方法。
【請求項15】
親水性溶媒に湿潤した多孔性分離膜の孔径測定方法であって、化学的に不活性な検査液を多孔性分離膜に透過後、気体を加圧により透過させる工程を含み、該加圧力が2.5MPa以下であり、かつ多孔性分離膜の該孔径が100nm以下である方法。
【請求項16】
親水性溶媒に湿潤し、かつ、孔径が100nm以下の多孔性分離膜の測定に用いられる膜の測定前処理方法において、
該測定が化学的に不活性な検査液を透過後、気体を加圧により透過させ、透過する気体の流量又は加圧力の測定であって、該測定に先立ち表面張力5〜20mN/mの両親媒性液体を該湿潤した多孔性分離膜に透過させる、膜の測定前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−301415(P2007−301415A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−59285(P2004−59285)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】