説明

多孔性部材の湿潤方法、それに用いる湿潤用容器および湿潤用装置

【課題】 迅速且つ簡便に、均一で高い湿潤率を安定して実現できる多孔性部材の湿潤方法を提供する。
【解決手段】 容器内に多孔性部材と湿潤液とを収容し、前記多孔性部材を前記湿潤液に浸漬させた状態で、前記容器内の圧力を減圧する。これによって、簡便且つ容易に多孔性部材の湿潤を行うことができる。この湿潤方法は、例えば、湿潤用容器と圧力変動手段とにより簡便に行うことができる。前記湿潤用容器は、有底筒状の容器本体と蓋体とを有し、前記蓋体が、前記容器本体の開口部に着脱可能な状態で装着され、前記容器本体および前記蓋体の少なくとも一方が、圧力変動手段との連結部を有している。この容器本体内部に湿潤液および多孔性部材を収容し、連結した圧力変動手段で前記内部を減圧することで、前記多孔性部材を湿潤できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性部材の湿潤方法、それに用いる湿潤用容器および湿潤用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腱や神経等の外科手術において、生体組織間の癒着を防ぐため、患部と周辺組織とを物理的に隔離する癒着防止材が使用されている。この癒着防止材としては、生体分解性の多孔性部材が広く汎用されている。前記癒着防止材が生体分解性であれば、所望の期間中、癒着防止効果を発揮し、その後、生体内で分解吸収されるため、例えば、異物として残存することによる危険性や、除去のための再手術の必要性を回避できる。また、前記癒着防止材が多孔性部材であれば、前記癒着防止材で隔離された組織間において、栄養成分等が透過できる。特に、血管が少ない組織においては、栄養成分が周辺組織から供給され難く、組織が壊死することもあるため、このような問題も回避できる(特許文献1)。
【0003】
前記生体分解性の多孔性部材である癒着防止材は、通常、使用前の分解を防ぐため、乾燥状態で流通され、使用時に、生理食塩水や血液等の液体で湿潤させてから、患部に配置される。乾燥状態の多孔性部材は、内部の孔には空気が存在するため、栄養成分等の物質が透過し難いが、前記液体で湿潤させることによって、生体内での使用時に、患部への栄養分の供給が可能になる。また、癒着防止材を腱等に使用する際には、一般に、前記癒着防止材を腱等に巻回して、前記癒着防止材同士を電気メス等で融着することで、固定している。この際、前記癒着防止材を前記液体で湿潤させておけば、通電可能となり、融着を容易に行うことができる。
【0004】
従来、癒着防止材の湿潤は、手術室において、医師や看護士が、手のひらに前記癒着防止材を置き、そこに生理食塩水等を供給し、指の腹で押しながら、脱泡させる方法がとられている。しかしながら、この方法では、全体的に均一且つ十分に湿潤化することができない。また、湿潤処理を行う者の操作技術が相違するため、安定した湿潤率を維持できないという問題もある。また、処理に時間を要するため、癒着防止材が大きくなる程、手間と時間がかかるという問題もある。さらに、物理的な負荷をかけるため、癒着防止材の孔が破壊されるおそれもある。
【0005】
このような問題は、前記癒着防止材に限らず、使用前に湿潤化が必要な多孔性部材、例えば、再生医療の分野における、細胞の足場材料等においても見受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−197693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、迅速且つ簡便な操作により、均一で高い湿潤率を安定して実現でき、孔が破壊されるおそれの無い多孔性部材の湿潤方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の湿潤方法は、多孔性部材の湿潤方法であって、容器内の湿潤液に前記多孔性部材を浸漬させた状態で、前記容器内の圧力を減圧することを特徴とする。
【0009】
本発明の湿潤用容器は、本発明の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用容器であって、有底筒状の容器本体と蓋体とを有し、前記蓋体が、前記容器本体の開口部に装着可能であり、前記容器本体および前記蓋体の少なくとも一方が、圧力変動手段との連結部を有し、前記容器本体内部は、湿潤液および多孔性部材を収容可能であり、前記蓋体を装着した前記容器本体の内部は、前記連結部を介して連結させる圧力変動手段により減圧可能であることを特徴とする。
【0010】
本発明の湿潤用装置は、本発明の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用装置であって、本発明の湿潤用容器と圧力変動手段とを有し、前記圧力変動手段は、前記湿潤用容器と、前記湿潤用容器の前記連結部において着脱可能に連結しており、前記湿潤用容器の内部は、連結された前記圧力変動手段により、減圧可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の湿潤方法によれば、迅速且つ簡便に、前記多孔性部材の均一な湿潤を実現できる。また、減圧により湿潤を行うことから、例えば、減圧の程度等を一定条件に設定すること等によって、操作する者の違いに影響を受けることなく、安定した湿潤率を得ることができる。また、前記多孔性部材に加わる物理的な力が比較的小さいことから、前記多孔性部材の孔が破壊されるおそれも回避できる。したがって、本発明の湿潤方法、それに用いる湿潤用容器および湿潤用装置は、例えば、外科医療の分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態1の湿潤用装置を構成する湿潤用容器および圧力変動手段を示す断面図である。
【図2】図2は、実施形態1の湿潤用装置を用いた多孔性部材の湿潤方法を示す断面図である。
【図3】図3は、実施形態2の湿潤用装置を構成する湿潤用容器を示す断面図である。
【図4】図4は、実施形態2の湿潤用装置を用いた多孔性部材の湿潤方法を示す断面図である。
【図5】図5は、実施例1において、湿潤させた多孔性部材の湿潤率の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例1において、湿潤処理前後の多孔性部材の断面を示すSEM写真である。
【図7】図7は、実施例2において、湿潤させた多孔性部材の湿潤率の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3において、湿潤させた多孔性部材の湿潤率の結果を示すグラフである。
【図9】図9は、参考例における多孔性部材の融着方法を示す模式図である。
【図10】図10は、実施形態3の湿潤用装置を構成する湿潤用容器を示す図面であり、(A)が、蓋部を閉じた状態の湿潤用容器、(B)が、蓋部を開いた状態の湿潤用容器、(C)が、内部に多孔性部材を配置した湿潤用容器の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<湿潤方法>
本発明の湿潤方法は、前述のように、多孔性部材の湿潤方法であって、容器内の湿潤液に前記多孔性部材を浸漬させた状態で、前記容器内の圧力を減圧することを特徴とする。
【0014】
本発明の湿潤方法は、例えば、加熱条件下および超音波条件下の少なくとも一方の条件下で、前記容器内の圧力を減圧することが好ましい。このように前記容器内部を減圧する際、加熱処理または超音波処理を施せば、より一層効率良く、前記多孔性部材から脱気を行うことができるため、湿潤化の効率をさらに向上できる。前記処理条件は特に制限されず、例えば、加熱条件等は、多孔性部材の材質等に応じて設定できる。
【0015】
本発明の湿潤方法は、例えば、前記容器内の圧力を減圧した後、前記湿潤液中の前記多孔性部材の表面から、前記表面に付着した気泡を離脱させることが好ましい。減圧により前記多孔性部材の孔から放出された気泡は、前記多孔性部材の表面に付着する場合がある。前記気泡が前記多孔性部材表面に付着した状態で、前記容器内の圧力を減圧から常圧に戻すと、例えば、前記多孔性部材の孔内に前記気泡が吸引され、湿潤化の効率が低下するおそれがある。そこで、減圧により、前記多孔性部材の孔から気泡を放出させた後、例えば、前記容器をタッピングすること等によって、前記多孔性部材の表面から付着した気泡を離脱させることが好ましい。これにより、例えば、前記容器内部の圧力を常圧に戻す際、前記多孔性部材表面に付着した気泡が、再度、前記多孔性部材の孔内に吸引されることを防止できる。このため、前述のような湿潤化の効率の低下も十分に抑制できる。
【0016】
本発明の湿潤方法は、例えば、前記容器内の圧力を減圧した後、さらに、前記多孔性部材を前記湿潤液中に浸漬した状態で、前記容器内の圧力を常圧に戻すことが好ましい。このように、前記湿潤液に浸漬した状態で前記容器内部の圧力を常圧に戻せば、前記容器内における前記湿潤液上方の空気が、前記多孔性部材表面と接触することにより前記多孔性部材の孔に吸引されるおそれを十分に回避できる。
【0017】
本発明の湿潤方法に供される多孔性部材の種類は、何ら制限されず、使用時に湿潤が必要となる多孔性部材があげられる。前記多孔性部材としては、例えば、生体内での癒着を防止するための癒着防止材、細胞培養等に使用される細胞の足場材料等があげられる。
【0018】
本発明の湿潤方法において、前記湿潤液は、特に制限されず、例えば、前記多孔性部材の用途に応じて、適宜決定できる。前記湿潤液の具体例としては、例えば、生理食塩水、血液、ウシ胎児またはヒトの血清、最小必須培地等を含む液体や、細胞の懸濁液等があげられる。
【0019】
本発明の湿潤方法は、特に制限されないが、後述する本発明の湿潤用容器や本発明の湿潤用装置を用いて行うことができる。
【0020】
<湿潤用容器>
本発明の湿潤用容器は、前述のように、本発明の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用容器であって、有底筒状の容器本体と蓋体とを有し、前記蓋体が、前記容器本体の開口部に着脱可能な状態で装着され、前記容器本体および蓋体の少なくとも一方が、圧力変動手段との連結部を有し、前記容器本体内部は、湿潤液および多孔性部材を収容可能であり、前記蓋体を装着した前記容器本体の内部は、前記連結部を介して連結される圧力変動手段により減圧可能であることを特徴とする。
【0021】
本発明の湿潤用容器は、例えば、前記容器本体に蓋体を装着した状態で、前記圧力変動手段により、内部の圧力を減圧可能であり、減圧処理後、前記容器本体から前記蓋体を取り外すことで、内部の圧力を常圧に戻すことができる。前記容器本体の開口部と前記蓋体との結合形態は、特に制限されず、例えば、螺合、嵌合、咬合等のいずれであってもよいが、例えば、螺合が好ましい。螺合の場合、容器本体の開口部および前記蓋体のいずれか一方が、雄ねじとなるらせん状の凸部を有し、他方が、雌ねじとなるらせん状の凹部を有することが好ましい。このような形態であれば、減圧処理の際には、雄ねじおよび雌ねじのいずれか一方を回転させて、ねじ作用により両者をはめ合せ、常圧に戻す際には、前記いずれか一方をゆっくりと反対回転させることで、徐々に容器本体内部の圧力を常圧に戻すことができる。
【0022】
また、本発明の湿潤用容器において、前記容器本体および前記蓋体の少なくとも一方は、さらに、前記容器本体の内部と外部とを連通する開閉可能な連通口を有してもよい。このような湿潤用容器によれば、前記容器本体に前記蓋体を装着し且つ前記連通口を閉塞することで、前記圧力変動手段による前記容器本体内の減圧が可能であり、また、減圧処理後、前記連通部を開口することで、前記容器本体内の圧力を常圧に戻すことができる。また、前記容器本体に前記蓋体を装着した後、開口した前記連通口から、前記容器本体の内部に外部から湿潤液を導入することも可能である。
【0023】
本発明の湿潤用容器において、前記容器本体は、さらに、前記多孔性部材を固定する固定部を有することが好ましい。このような湿潤用容器によれば、前記固定部によって前記多孔性部材を固定できるため、前記多孔性部材を前記湿潤液に、より確実に浸漬させることができる。
【0024】
本発明の湿潤用容器は、例えば、さらに、前記容器本体内部の圧力を示す圧力計を備えてもよい。このような湿潤用容器によれば、例えば、処理する前記多孔性部材の大きさや、所望の湿潤率に応じて、適した圧力となるように、減圧条件を制御することができる。
【0025】
<湿潤用装置>
本発明の湿潤用装置は、前述のように、本発明の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用装置であって、本発明の湿潤用容器と圧力変動手段とを有し、前記圧力変動手段は、前記湿潤用容器と、前記湿潤用容器の前記連結部において着脱可能に連結しており、前記湿潤用容器の内部は、湿潤液および多孔性部材を収容可能であり、且つ、連結された前記圧力変動手段により、減圧可能であることを特徴とする。
【0026】
本発明において、前記圧力変動手段は、特に制限されないが、例えば、シリンジ、アスピレーターおよび各種ポンプ等があげられる。
【0027】
前記シリンジは、通常、中空で円筒形状の筒状体と、前記筒状体の内部に収納可能であり且つ先端にガスケットが取り付けられたプランジャーとを有する。本発明においては、例えば、前記筒状体の一方の開口部(軸方向に沿って前方の開口部)は、前記湿潤用容器との連結部となり、前記筒状体の他方の開口部(軸方向に沿って後方の開口部)は、先端にガスケットを取り付けた前記プランジャーの挿入口となる。前記圧力変動手段がシリンジの場合、例えば、以下のように使用できる。まず、前記筒状体の後方の開口部から、先端に前記ガスケットを取り付けた前記プランジャーを挿入し、さらに、前記筒状体の前方の開口部を、前記湿潤用容器の前記連結部に連結させる。そして、例えば、前記筒状体内部に収納した前記プランジャーを、前記筒状体の後方に向かって引くことにより、前記シリンジに連結させた前記湿潤用容器の内部を減圧できる。
【0028】
前記圧力変動手段がシリンジの場合、さらに、前記筒状体内部に収納された前記プランジャーを所望の位置で固定するストッパーを有することが好ましい。前述のように、前記プランジャーを前記筒状体の後方開口に向かって引っ張ると、例えば、内部は減圧されるが、減圧の程度によっては、前記プランジャーが自然に元の位置に戻ろうとする場合がある。ストッパーを有するシリンジであれば、例えば、前記プランジャーを引いた後、前記プランジャーを前記ストッパーで固定することで、所望の減圧状態を維持でき、そのまま、タッピング等による前記多孔性部材表面に付着した気泡の解離を行うことができる。また、前記プランジャーが元の位置に戻ろうとして、急激に、容器内部が常圧に戻ることを防止することもできる。
【0029】
本発明の湿潤用装置は、例えば、シリンジ自体であってもよい。この場合、例えば、前記湿潤用容器が、筒状体であり、前記圧力変動手段が、プランジャーと前記プランジャー先端に取り付け可能なガスケットとを有する。例えば、前記圧力変動手段は、前記筒状体の内部に収容可能であり、前記筒状体の一方の開口は、前記ガスケットを取り付けたプランジャーの挿入口であり、前記筒状体の他方の開口は、開閉可能であり、前記湿潤用容器の内部は、前記他方の開口を閉塞した状態で、前記圧力変動手段により減圧可能である。このような湿潤用装置は、例えば、以下のように使用できる。まず、前記他方の開口を閉塞した状態で、前記筒状体の内部に前記多孔性部材と前記湿潤液とを入れ、先端にガスケットを取り付けたプランジャーを、前記他方の開口から前記筒状体に挿入する。そして、前記閉塞した一方の開口を上に向けてから、その閉塞を解除し、前記プランジャーを内部に押し込み、前記筒状体内の空気を放出させる。続いて、再度、前記他方の開口を閉塞してから、前記プランジャーを引き、前記筒状体内の圧力を減圧させる。これによって、前記多孔性部材の湿潤を行うことができる。
【0030】
また、前記湿潤用装置がシリンジの場合、例えば、前記筒状体の開閉可能な前記他方の開口に、一方弁を備えることが好ましい。前記一方弁とは、例えば、液体および気体の通過が一方向のみ可能であり、その逆方向においては、液体および気体の通過ができない弁である。前記湿潤用装置において、前記一方弁は、例えば、前記筒状体の内部から外部への液体および気体の導出は可能であるが、前記筒状体の外部から内部への液体および気体の導入はできないように、取り付けることが好ましい。このような湿潤用装置は、例えば、以下のように使用できる。前記湿潤装置は、例えば、前述のように前記プランジャーを引いて、前記筒状体内の圧力を減圧させた後、一方弁を取り付けた先端を上に向けてから、前記プランジャーを押し戻す。これによって、前記筒状体の先端に集まった気体が、前記一方弁を通じて前記筒状体の内部から外部に放出される。そして、前記筒状体内部が常圧になることで、多孔性部材の孔に湿潤液が導入される。
【0031】
つぎに、本発明の湿潤用容器および湿潤用装置について、図1〜4、および図10の例をあげて説明する。なお、本発明は、これらには制限されない。
【0032】
(実施形態1)
図1の断面図に、本例の湿潤用装置を構成する、湿潤用容器および圧力変動手段であるシリンジを示す。同図において、(A)は、湿潤用容器1であり、(B)は、シリンジ2である。同図(A)に示すように、本例の湿潤用容器1は、容器本体11と蓋体12とを備える。容器本体11は、有底筒状の容器であり、上端が開口し、且つ、下端は、先端に向かって細径となっている。蓋体12は、断面凹状であり、後述するシリンジ2の先端のノズルとの連結部である貫通孔15を有し、且つ、前記容器本体11の上方開口と結合可能である。同図(B)に示すように、本例のシリンジ2は、一般的なシリンジであり、筒状体21とピストン22とを備える。筒状体21は、両端が開口し、上端は、ピストン22の挿入口であり、下端は、ノズル23である。ノズル23は、容器本体11の内部を減圧するための前記湿潤用容器1内部との連通口であり、前記湿潤用容器1との連結部を兼ねる。ピストン22は、筒状体21の内部に収容可能であり、ガスケット22a、プランジャー22bおよび把持部22cを有し、プランジャー22bの一端にガスケット22aが結合され、プランジャー22bの他端に把持部22cが結合されている。
【0033】
湿潤用容器1の大きさは、特に制限されず、処理する多孔性部材の大きさに応じて適宜決定できる。湿潤用容器1の容器本体11の容積は、例えば、20〜100mLの範囲であり、好ましくは30〜50mLである。容器本体11の最大内径(例えば、上部開口内径)は、例えば、19〜35mmの範囲である。蓋体12における貫通孔15の大きさは、例えば、シリンジ2のノズル23の大きさによって、適宜決定される。貫通孔15の大きさは、例えば、円形の貫通孔の場合、直径が、4〜10mmの範囲が好ましい。また、シリンジ2の大きさは、特に制限されず、湿潤用容器1の大きさに応じて、適宜決定できる。シリンジ2の容積は、例えば、20〜100mLの範囲であり、好ましくは30〜50mLである。また、湿潤用容器1としては、例えば、市販の遠沈管等が使用でき、また、シリンジ2も、市販のシリンジ等が使用できる。
【0034】
処理に供する多孔性部材は、特に制限されず、その材質も、特に制限されない。具体例として、前記多孔性部材が、癒着防止材の場合、例えば、一定期間内で生体内に吸収されることが望ましいことから、例えば、生体分解性の重合体が好ましい。具体例としては、例えば、ラクチドとカプロラクトンとからなるラクチド−カプロラクトン共重合体、ラクチドとグリコール酸との共重合体、トリメチレンカーボネートとラクチドとグリコール酸とからなるトリメチレンカーボネート−ラクチド−グリコリド共重合体、グリコール酸とカプロラクトンとの共重合体等があげられる。また、前記多孔性部材が、例えば、細胞の足場材料であって、生体内で使用する場合も、一定期間経過後に生体内に吸収されることが好ましいことから、前述のような生分解性の重合体があげられる。
【0035】
前記多孔性部材の大きさも特に制限されず、例えば、用途に応じて決定できる。前記多孔性部材が、例えば、癒着防止材の場合、その大きさは、適用する患部に応じて異なるが、一般に、神経や腱等に使用する際は、例えば、1〜9cmであり、好ましくは2.25〜4cmである。
【0036】
本例の湿潤用装置10を用いた多孔性部材の湿潤方法について、図2の断面図を用いて説明する。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。
【0037】
まず、湿潤用容器1の容器本体11の内部に多孔性部材14と湿潤液13とを入れ、上端の開口部に蓋体12を装着する。他方、シリンジ2は、筒状体21の上方開口から、プランジャー22bの先端にガスケット22aを取り付けたピストン22を挿入する。シリンジ2の先端のノズル23を、湿潤用容器1の蓋体12の貫通孔15に挿入して、湿潤用容器1とシリンジ2とを連結させる。湿潤用容器1の内部とシリンジ2の内部は連通しており、且つ、密閉状態となっている。そして、シリンジ2のピストン22の把持部22cを持ち、ピストン22を矢印方向に引き上げて、シリンジ2の内部および湿潤用容器1の内部を減圧する。これによって、多孔性部材14の孔中から気体が除去され、多孔性部材14が湿潤液13で湿潤される。なお、湿潤用容器1とシリンジ2とは、同図に示すように、直接連結してもよいし、例えば、チューブ等を介して連結してもよい。
【0038】
また、湿潤用容器1は、さらに、内部に収容した多孔性部材を固定する固定部を有することが好ましい。前記多孔性部材は、多孔性であるため、湿潤液の液面に浮遊するおそれがある。しかしながら、前記固定部により前記多孔性部材を固定すれば、常時、前記多孔性部材を湿潤液中に浸漬できる。このため、湿潤用容器内における湿潤液上方の気体と多孔性部材が接触することによる、湿潤率の低下を十分に防止することができる。
【0039】
本例の湿潤用容器1において、容器本体11の上端開口と蓋体12との結合形態は、前述のように特に制限されないが、例えば、螺合であることが好ましい。具体的には、例えば、容器本体11は、上部の外面にらせん状の雄ねじ(または雌ねじ)が形成され、蓋体12は、側壁の内面にらせん状の雌ねじ(または雄ねじ)が形成されていることが好ましい。このような容器本体11と蓋体12であれば、例えば、ねじ作用により両者を結合してから、減圧処理を行い、その後、徐々にねじ作用による結合を解除していくことにより、湿潤用容器1内の圧力を、徐々に、減圧から常圧に戻していくことが可能である。
【0040】
(実施形態2)
図3の断面図に、本例の湿潤用装置を構成する湿潤用容器を示す。なお、特に示さない限り、同図の湿潤用容器は、前記実施形態1の湿潤用容器と同様であり、同一箇所には同一符号を付している。また、本例の湿潤用装置に使用する圧力変動手段は、前記実施形態1と同様のシリンジ2を例示するが、これには制限されない。
【0041】
同図に示すように、本例の湿潤用容器3は、容器本体11と蓋体32とを備える。容器本体11は、前記実施形態1と同様の有底筒状の容器である。蓋体32は、断面凹状であり、容器本体11の上方開口と結合可能である。また、蓋体32は、シリンジ2の先端との連結部である貫通孔15、および、容器本体11の内部と外部との連通口33を有し、連通口33には、その開閉を制御するコック31が結合している。前記コック31は、蓋体32の連通口33と連結する中空のコネクタ31aと、流路31cを有するコック本体31bとを備える。同図において、コック本体31bの流路31cは、コネクタ31aの流路に対して垂直であるため、容器本体11内部と外部とは、連通していない状態である。これに対して、コック本体31bを90°回転させて、コック本体31bの流路31cとコネクタ31aの流路の方向を揃えることで、容器本体11内部と外部とを連通できる。なお、コック31としては、従来公知のコックが使用できる。
【0042】
本例の湿潤用装置30を用いた多孔性部材の湿潤方法について、図4の断面図を用いて説明する。図4において、図1〜図3と同一部分には、同一符号を付している。
【0043】
まず、湿潤用容器3の容器本体11の内部に多孔性部材14と湿潤液13とを入れ、上端の開口部に蓋体32を装着し、コック31の流路を閉塞する。他方、前記実施形態1と同様にして、ピストン22を挿入したシリンジ2の先端のノズル23を、湿潤用容器3の貫通孔15に挿入して、湿潤用容器3とシリンジ2とを連結させる。そして、シリンジ2のピストン22の把持部22cを持ち、ピストン22を矢印方向に引き上げて、シリンジ2の内部および湿潤用容器3の内部を減圧する。これによって、多孔性部材14の孔中から気体が除去され、前記多孔性部材14は湿潤液で湿潤される。続いて、コック31のコック本体31bを回転させて、コック本体31bの流路31cと、コネクタ31aの流路とを連通させることで、湿潤用容器3の内部と外部とを連通させ、湿潤用容器3内部の圧力を減圧から常圧に戻す。なお、容器本体11とシリンジ2、蓋体32とコック31とは、同図に示すように、直接連結してもよいし、例えば、チューブ等を介して連結してもよい。また、コネクタ31aの流路とコック本体31bの流路31cを介して、外部から湿潤用容器3の内部に湿潤液を導入することもできる。
【0044】
(実施形態3)
図10に、本例の湿潤用装置を構成する湿潤用容器を示す。図10(A)は、蓋部を閉めた状態を示す湿潤用容器の斜視図であり、図10(B)は、湿潤容器の蓋部を開いた状態を示す湿潤用容器の斜視図であり、図10(C)は、湿潤容器に多孔性部材を配置した状態を示す湿潤用容器の斜視図である。なお、特に示さない限り、同図の湿潤用容器は、前記実施形態1および実施形態2の湿潤用容器と同様であり、同一箇所には同一符号を付している。また、本例の湿潤用装置に使用する圧力変動手段は、前記実施形態1と同様のシリンジ2を例示するが、これには制限されない。
【0045】
同図に示すように、本例の湿潤用容器4は、四角形の有底筒状体である容器本体41と、容器本体41の開口部を開閉可能な蓋体42とを備える。湿潤用容器4は、減圧処理の際、同図に示すように、容器本体41の底部が、湿潤用容器4の側面となり、容器本体41の一つの側面が、湿潤用容器4の底部となる。容器本体41は、減圧処理時に湿潤用容器4の底部となる内部面に、把持部45を有する。把持部45は、多孔性部材44を把持できればよく、その構成は、特にされないが、例えば、各種クリップ構造があげられる。また、容器本体41は、減圧処理時に湿潤用容器4の上部となる面に、2つの貫通孔を有し(図示せず)、前記貫通孔には、それぞれ、第1の中空管71および第2の中空管72が連結している。第1の中空管71は、湿潤液等の流体の導入用であり、第2の中空管72は、減圧処理手段と連結する減圧用である。蓋体42は、開閉可能なように、容器本体41と連結している。蓋体42は、例えば、同図に示すように、容器本体41と一体となるよう成形されてもよいし、例えば、容器本体41と別個の部材であり、開閉可能なように、蝶番を介して容器本体41に連結してもよい。蓋体42と容器本体41とは、それぞれ、対向する部位に、対となる係止部材を有し、具体的には、蓋部42は、鉤部43を有し、容器本体41は、凸部47を有する。蓋体42は、容器本体41と対応する表面に、容器本体41の開口部の内部側壁と接触する、枠型凸部48を有する。容器本体41と蓋部42との接触部分は、気密であることが好ましく、枠型凸部48は、例えば、Oリング等のパッキン等があげられる。
【0046】
本例の湿潤用装置4を用いた多孔性部材の湿潤方法について、図10を用いて説明する。
【0047】
まず、湿潤用容器4の蓋体42を開き、容器本体41内部の把持部45に、多孔性部材44を挟み込む。そして、蓋部42を閉め、蓋部42の鉤部43を容器本体41の凸部47に引っ掛けて係止する。この際、蓋部42の表面の枠型凸部48は、容器本体41の開口部内部側壁と接触して、内部の気密性が保たれる。続いて、第2の中空管72を開放した状態で、第1の中空管71から、湿潤用容器4の内部に、湿潤液を導入する。この際、湿潤用容器4に把持された多孔性部材44の全体が湿潤液に浸漬するまで、湿潤液を導入する。前記湿潤液の導入は、例えば、第1の中空管71の先端に、流体導入装置としてシリンジ等を連結して、シリンジ内部の湿潤液を導出することにより行うことができる。そして、第2の中空管72に圧力変動手段(図示せず)を連結し、第1の中空管71を閉じた状態で、湿潤用容器4内部を減圧する。これによって、多孔性部材44の孔中から気体が除去され、多孔性部材44は湿潤液で湿潤される。続いて、減圧を停止させて、第2の中空管72を開放して、湿潤用容器4の内部と外部とを連通させ、湿潤用容器4内部の圧力を減圧から常圧に戻す。湿潤用容器4の圧力は、例えば、第1の中空管71を開放することによって行うこともできる。
【0048】
第1の中空管71および第2の中空管72は、それぞれ、先端に、前述のような一方弁またはポートを有し、これらを介して、流体導入装置および圧力変動手段を連結してもよい。前記一方弁は前述の通りである。前記ポートとしては、例えば、特許第3389983号に開示されたスリット状の弁を有するポートがあげられる。前記ポートは、例えば、流体導入装置または圧力変動手段を連結していない場合、湿潤用容器4内部の気密性を維持できる。また、前記ポートは、例えば、流体導入装置または圧力変動手段を連結している場合、湿潤用容器4の内部と外部との間における液体および気体の導出入は、前記流体導入装置または圧力変動手段により制御できる。このため、例えば、湿潤用容器4内部からの湿潤液の導出や、減圧状態の湿潤用容器4内部への気体の導入による常圧化が、自然に生じることを防止できる。
【0049】
湿潤用容器4は、例えば、その内部の状態が確認可能なように、容器本体41および蓋部42の少なくとも一方が透明部材から形成されていることが好ましい。このように、透明部材から形成されることによって、湿潤用容器4内部における、多孔性部材からの脱気状態を確認できる。この場合、同図に示すように、蓋部42が目盛46を有することが好ましい。これによって、湿潤用容器4内部における空気体積の変動量から、減圧程度を確認できる。このように減圧程度を確認できれば、処理する者が異なる場合であっても、同様の湿潤処理を行うことができる。同図においては、蓋部42に目盛46を示したが、例えば、容器本体41が透明な場合には、容器本体が目盛を有してもよい。
【実施例】
【0050】
多孔性部材の作製
まず、L−ラクチドとε−カプロラクトンとの組成比(モル比)が70:30である、ラクチド−カプロラクトン共重合体P(LA/CL)を準備した。前記共重合体0.8gと1,4−ジオキサン16.8gと水2.4gとを混合した後、室温に放置した。その結果、前記混合液において、ゲル状の共重合体が析出した。ゲル析出後、前記混合液を60℃の恒温槽で加温して、前記混合液に前記ゲルを溶解させた。前記ゲル溶解後の前記混合液を、氷冷しながら、5分間、回転速度1,500回/min−1でスターラーにより攪拌し、前記ゲル状の共重合体を再析出させた。再析出した前記ゲルを含む前記混合液を、49,000m/s、0℃で15分間遠心して脱泡させた。脱泡後、前記混合液から液体層を除去し、得られたゲル層を、多孔性部材の原料とした。
【0051】
他方、円形のステンレス製成形型を準備した。前記成形型の外径は120mm、キャビティの内径は110mm、キャビティの深さは500μmである。前記成形型内部のキャビティに厚み50μmのPTFEシートを配置した後、十分量の前記ゲルを前記キャビティに導入した。そして、前記成形型上部の開放面に、さらに厚み50μmのPTFEシートを配置した。前記上部のシート上に、さらにステンレス板を配置し、前記ゲルが前記キャビティ内部を満たすように、前記ステンレス板の上から軽く加圧し、前記ゲルを変形させた。さらに、前記ステンレス板の上から0.5MPaで2分間加圧し、前記ゲルの膜厚を均一化した。前記ステンレス板を外した後、前記ゲルを充填した前記成形型を、冷却棚の温度を−50℃に設定した真空凍結乾燥機(商品名TF5−85ATANCS、宝製作所製)内に入れ、前記ゲルを急速凍結させた。そして、上部のPTFEシートを剥離した後、前記真空凍結乾燥機内で、減圧下、−50℃から25℃まで12時間かけて温度を上昇させた(昇温速度6.3℃/時間)。さらに、25℃で2時間保持することにより、前記ゲルに含まれる溶媒を除去した。そして、前記凍結乾燥機の内圧が、1Pa以下になっていることを確認し、凍結乾燥を終了した。下部のPTFEシートを剥離した後、槽内の温度を50℃に設定した乾燥機内で1時間乾燥した。このようにして得られた多孔性部材を1.5cm×1.5cmの大きさに切り出し、以下の実施例に供した。
【0052】
湿潤率の算出方法
まず、湿潤処理前の多孔性部材について重量M、膜厚および気孔率を測定した。膜厚は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)により測定した。また、前記多孔性部材の大きさと膜厚とから見かけ上の体積値Vを求め、重量Mと前記ラクチド−カプロラクトン共重合体の密度1.19(g/cm)とにより、真の共重合体の体積Vを求めた。これらの結果を下記式に代入して、気孔率を算出した。
気孔率(%)=[1−(V/V)]×100
そして、前記見かけ上の体積値Vと前記真の共重合体の体積Vとの差により、前記多孔性部材の全気孔体積を求めた。前記重量Mと前記全気孔体積とから、前記多孔性部材の全気孔が生理食塩水で満たされたときの重量、すなわち、前記多孔性部材が100%湿潤したと仮定したときの重量Mmaxを算出した。さらに、湿潤処理後の前記多孔性部材の重量Mを測定した。これらの結果を下記式に代入して、湿潤率を算出した。
湿潤率(%)=[(M−M)/(Mmax−M)]×100
【0053】
(実施例1)
容量50mlのシリンジ(商品名JMSシリンジ、株式会社ジェイ・エム・エス社製)を準備し、前記シリンジの筒状体に前記多孔性部材を入れた後、前記筒状体に、先端にガスケットが取り付けられたプランジャーを挿入した。そして、前記シリンジの先端のノズルから生理食塩水20mlを吸い上げた。続いて、前記シリンジの先端のノズルに一方弁(商品名回転式一方弁、株式会社ジェイ・エム・エス社製)を取り付けてから、約30秒かけて、前記プランジャーを体積10mlぶん引き、前記シリンジ内を減圧(約−90kPa)した。その結果、前記多孔性部材の表面から気泡が発生した。指先で前記シリンジを軽く弾いて、前記気泡を前記シリンジの先端部に集め、前記プランジャーを元の位置に押し戻すことにより、前記一方弁から前記シリンジ内部の空気を外部に排出した。この減圧操作および空気排出操作を1回、2回または3回行った。そして、シリンジから多孔性部材を取り出し、処理後の多孔性部材について湿潤率を算出した(n=3)。また、湿潤処理前後の前記多孔性部材について、断面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名SEMEDX TypeN、日立製作所社製)で観察した(以下、同様)。
【0054】
(比較例1)
手のひらのくぼみに前記多孔性部材を置き、生理食塩水2〜5mlを添加した。そして、10秒あたり約20回の割合で、前記多孔性部材を人差し指の腹で押すことにより、前記多孔性部材内の気泡を抜いて湿潤させた。この脱気処理は、10秒、20秒、60秒または120秒行った。そして、処理後の各多孔性部材について湿潤率を算出した(n=3)。
【0055】
(比較例2)
ビニール袋に前記多孔性部材および生理食塩水50mlを入れた。そして、10秒あたり約20回の割合で、前記袋の外側から前記多孔性部材に棒を押し付けて、前記多孔性部材内の気泡を抜いて湿潤させた。前記袋は、机の上または手のひらにのせて行った。この脱気処理は、10秒または30秒行った。そして、処理後の各多孔性部材の湿潤率を算出した(n=3)。また、前記多孔性部材の断面の形状をSEMで観察した。なお、机の上で処理した多孔性部材を比較例2−1、手のひらの上で処理した多孔性部材を比較例2−2とする。
【0056】
(比較例3)
前記多孔性部材を100%エタノールに5分間浸漬させた後、前記エタノールを最終的に生理食塩水に置換して、前記多孔性部材を湿潤させた。具体的には、前記多孔性部材を前記100%エタノール中に5分間、70%エタノールに5分間、精製水に5分間(×2回)、生理食塩水に5分間(×2回)浸漬させた。そして、湿潤処理後の前記多孔性部材について湿潤率を算出した(n=3)。
【0057】
実施例1、比較例1、比較例2−1、比較例2−2、比較例3の湿潤率の結果を、図5のグラフに示す。図5において、縦軸は、湿潤率(%)を示す。図6に、多孔性部材の断面のSEM写真を示す。図6(A)、(B)は、それぞれ実施例1(3回)、比較例2−1(10秒)の多孔性部材の結果であり、左側は、湿潤処理前の写真(×100、×1000)であり、右側は、湿潤処理後の写真(×100、×1000)である。
【0058】
図5に示すように、比較例1は、処理時間を10秒から60秒にすることで、湿潤率が経時的に約50%から約70%に向上したが、120秒にまで処理時間を延長しても、湿潤率の向上は確認できなかった。これは、指の腹で押すことによっては、部分的なムラが生じ、全体の湿潤が実現できないためと解される。比較例2は、比較例2−1および比較例2−2ともに、処理時間を延長することで湿潤率は向上したが、前述の比較例1よりも低い湿潤率となった。また、図6(B)に示すように、棒を押しつけて湿潤処理した多孔性部材は、処理前と比較して孔のつぶれが確認された。この結果から、比較例2は、脱泡は確認できたものの、孔がつぶれたことにより湿潤率の向上は見られなかったと解される。比較例3は、生理食塩水よりも表面張力の低いエタノールで多孔性部材を処理し、前記多孔性部材の濡れ性を向上させた後、生理食塩水への置換を行った。このため100%近い湿潤率が得られた。しかしながら、エタノールから生理食塩水への置換には、複数回にわたる浸漬液の交換が必要であり、かつ、一枚の多孔性部材の処理に約30分を要するという問題があった。これに対して、実施例1では、約30秒程度の一回の減圧処理で、85%程度の湿潤率を実現できた。また、図6(A)に示すように、湿潤処理後においても、比較例2−1と異なり、孔のつぶれは見られなかった。
【0059】
(実施例2)
湿潤液として生理食塩水に代えてウシ血液を使用した以外は、前記実施例1と同様に、多孔性部材の湿潤処理を行い、湿潤率を算出した(n=2)。この結果を実施例1の結果とあわせて図7のグラフに示す。同図において、縦軸は湿潤率(%)を示し、白いバーは実施例1の結果、黒いバーは実施例2の結果を示す。
【0060】
同図に示すように、血液を用いた実施例2においても、生理食塩水を用いた実施例1と同様に、80〜90%の湿潤率が得られた。この結果より、湿潤液として血液を用いても、減圧処理によって効率良く多孔性部材を湿潤できることが分かった。
【0061】
(実施例3)
多孔性部材の大きさを変化させた以外は、前記実施例1と同様に湿潤処理を行い、湿潤率(%)を算出した。多孔性部材の大きさは3×3cmおよび4×4cmとし、測定回数は、それぞれn=1とした。
【0062】
これらの結果を、1.5×1.5cmの多孔性部材を使用した実施例1の結果とあわせて図8のグラフに示す。同図において、縦軸は湿潤率(%)を示し、白いバーは、1.5×1.5cmの多孔性部材の湿潤率、灰色のバーは、3.0×3.0cmの多孔性部材の湿潤率、黒いバーは、4.0×4.0cmの多孔性部材の湿潤率を示す。
【0063】
1.5×1.5cmの多孔性部材よりも大きい多孔性部材については、面積が4倍、7.1倍となったものの、1回の減圧処理で80%前後の湿潤率が得られ、減圧処理回数を増やすことで、85〜95%程度の湿潤率が実現できた。
【0064】
(実施例4)
減圧時の圧力と湿潤率との関係を確認した。なお、特に記載しない限り、実施例1と実験条件は同様とした。
【0065】
シリンジ内に多孔性部材を入れ、生理食塩水を吸い上げた後、前記シリンジの先端のノズルに圧力計を取り付けた。なお、本実施例では、圧力センサ(製品名AP−10S、キーエンス社製)と表示計(製品名AP−V80、キーエンス社製)を組み合わせた装置を圧力計として使用した。そして、プランジャーを引き、所定の圧力で減圧操作を行った。前記圧力は、−20kPa、−40kPa、−50kPa、−58kPa、−62kPa、−70kPa、−71kPa、−73kPaおよび−85kPaとした。前記シリンジをタッピングして、前記多孔性部材表面から発生した気泡を離脱させた後、前記ブランジャーを戻して、シリンジ内部を常圧に戻した。そして、前記圧力計を前記シリンジから取り外し、前記シリンジ先端から気泡と生理食塩水を一定量排出した。その後、前記シリンジから前記ブランジャーを取り外し、前記シリンジ内部から前記多孔性部材を取り出して、処理後の前記多孔性部材について湿潤率を算出した(n=1)。
【0066】
これらの結果を、下記表1に示す。下記表1に示すように、減圧操作時の圧力と湿潤率とが相関関係を示すことが確認できた。このため、減圧時の圧力によって、所望の湿潤率に調節できることがわかった。
【0067】
【表1】

【0068】
(参考例)
多孔性部材の湿潤率と融着性との関係を確認した。まず、比較例1と同様の方法により1.5cm×1.5cmの多孔性部材の湿潤化を行い、所定の湿潤率(13.7、14.2、17.5、22.8、25.8、29.4、32.2、33.4、40.6、46.5%)に調整した10種類の多孔性部材を準備した。図9に示すように、前記各多孔性部材5を、縦二つ折りにし、折り目以外の三辺について、内側3mmを3mmごとに、電気メス(商品名サージトロン、エルマン・ジャパン社製)で融着させた(同図において6が融着部位)。そして、前記多孔性部材の角の融着部(同図右の丸で囲んだ部分)において、一方の多孔性部材をピンセットで挟み、多孔性部材の剥離を行った。そして、下記評価基準に基づいて融着性を評価した。これらの結果を下記表2に示す。
○:3辺とも完全に貼り付いている(融着可能)
△:貼り付いているが、一部剥がれる箇所が存在する(部分的に融着可能)
×:3辺とも剥がれる(融着不可)
【0069】
【表2】

【0070】
前記表2に示すように、湿潤率29.4%以上の多孔性部材については、全て融着可能であり、湿潤率25.8%以下の多孔性部材については、部分的に融着可能または融着不可であった。この結果から、多孔性部材を融着させる場合、前記多孔性部材の湿潤率が、融着程度の重要なファクターであることが分かった。前述のように、本発明によれば、簡便且つ効率良く多孔性部材の湿潤を行うことができるため、融着程度に影響する多孔性部材の湿潤化に極めて適していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
このように、本発明の多孔性部材の湿潤方法によれば、迅速且つ簡便な操作により、均一で高い湿潤率を安定して実現でき、孔が破壊されるおそれが無い。したがって、本発明の湿潤方法は、特に、前述のような、外科医療や再生医療の分野において極めて有用な技術であるといえる。
【符号の説明】
【0072】
1、3 湿潤用容器
2 シリンジ
5、14 多孔性部材
6 融着部位
10、30 湿潤用装置
11 容器本体
12、32 蓋体
13 湿潤液
15 貫通孔
21 筒状体
22 ピストン
22a ガスケット
22b プランジャー
22c 把持部
23 ノズル
31 コック
31a コネクタ
31b コック本体
31c 流路
33 連通口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性部材の湿潤方法であって、
容器内の湿潤液に前記多孔性部材を浸漬させた状態で、前記容器内の圧力を減圧することを特徴とする湿潤方法。
【請求項2】
前記容器内の圧力を減圧した後、前記湿潤液中の前記多孔性部材の表面から、前記表面に付着した気泡を離脱させる、請求項1記載の湿潤方法。
【請求項3】
前記容器内の圧力を減圧した後、さらに、前記多孔性部材を前記湿潤液中に浸漬させた状態で、前記容器内の圧力を常圧に戻す、請求項1または2記載の湿潤方法。
【請求項4】
加熱条件下および超音波条件下の少なくとも一方の条件下で、前記容器内の圧力を減圧する、請求項1から3のいずれか一項に記載の湿潤方法。
【請求項5】
前記湿潤液が、生理食塩水および血液の少なくとも一方を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の湿潤方法。
【請求項6】
前記多孔性部材が、癒着防止材または細胞の足場材料である、請求項1から5のいずれか一項に記載の湿潤方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用容器であって、
有底筒状の容器本体と蓋体とを有し、
前記蓋体が、前記容器本体の開口部に着脱可能な状態で装着され、
前記容器本体および前記蓋体の少なくとも一方が、圧力変動手段との連結部を有し、
前記容器本体内部は、湿潤液および多孔性部材を収容可能であり、
前記蓋体を装着した前記容器本体の内部は、前記連結部を介して連結される圧力変動手段により減圧可能であることを特徴とする湿潤用容器。
【請求項8】
前記容器本体および前記蓋体の少なくとも一方が、さらに、前記容器本体の内部と外部とを連通する開閉可能な連通口を有し、
前記蓋体を装着した前記容器本体の内部は、前記連通口を閉塞した状態で、前記圧力変動手段により減圧可能である、請求項7記載の湿潤用容器。
【請求項9】
前記容器本体が、さらに、前記多孔性部材を固定する固定部を有する、請求項7または8記載の湿潤用容器。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の多孔性部材の湿潤方法に使用するための湿潤用装置であって、
請求項7から9のいずれか一項に記載の湿潤用容器と圧力変動手段とを有し、
前記圧力変動手段は、前記湿潤用容器と、前記湿潤用容器の前記連結部において着脱可能な状態で連結しており、
前記湿潤用容器の内部は、連結された前記圧力変動手段により、減圧可能であることを特徴とする湿潤用装置。
【請求項11】
前記圧力変動手段が、シリンジである、請求項10記載の湿潤用装置。
【請求項12】
前記湿潤用容器が、筒状体であり、
前記圧力変動手段が、プランジャーとガスケットとを有し、前記プランジャーの先端に前記ガスケットが連結し、
前記圧力変動手段は、前記筒状体の内部に収容可能であり、
前記筒状体の一方の開口は、前記ガスケットを連結した前記プランジャーの挿入口であり、前記筒状体の他方の開口は、開閉可能であり、
前記湿潤用容器の内部は、前記他方の開口を閉塞した状態で、前記圧力変動手段により減圧可能である、請求項10または11記載の湿潤用装置。
【請求項13】
前記湿潤用容器が、さらに、前記他方の開口に一方弁を備える、請求項11記載の湿潤用装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−194303(P2010−194303A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11834(P2010−11834)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】