説明

多孔膜を備える濾材、その製造方法、フィルタパック、ならびにフィルタユニット

【課題】捕集効率が高く、圧力損失が低く、かつ保塵量が大きい、多孔膜を備える濾材を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレンからなり、平均孔径が2.5μm以上かつ空孔率が95%以上である多孔膜と当該多孔膜を支持する支持材を濾材は備える。濾材は、空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの粒子の捕集効率が95%以上であり、次式:PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000で得られるPF値が30以上である。個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で連続通風し、圧力損失が300Paに達したときの、ポリアルファオレイン粒子の保塵量が15g/m2以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔膜を備える濾材、その製造方法、フィルタパック、ならびにフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルタは、所定の粒子径を有する粒子の捕集効率により、ULPA(Ultra Low Penetration Air )フィルタ、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ、および中性能フィルタ等に分類される。これらは、その性能に応じて異なる用途に用いられており、中性能フィルタは、例えば、家庭、オフィス、または病院などの空気清浄に用いられている。
【0003】
中性能フィルタには、ガラス繊維を基材とする濾材が汎用されているが、ガラス繊維を基材とする濾材の場合、中性能フィルタに求められる所定の捕集効率を満たすためには、圧力損失が高くなるという問題がある。
【0004】
低圧力損失の濾材としては、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜が知られているが、一般にポリテトラフルオロエチレン多孔膜では、膜厚を薄くすることで、低い圧力損失を実現しているので、膜強度が低くなるという問題がある。この問題を解決するため、特許文献1では、特別な条件でポリテトラフルオロエチレン多孔膜を製造している。
【0005】
ところで、一般に、濾材には、目詰まりし難いこと、すなわち保塵量が大きいことが求められる。従来のポリテトラフルオロエチレン多孔膜は、特に油滴等が流入した場合、表面が液膜に覆われ、寿命が著しく低下する。このため、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜は、主に、中性能フィルタ等と組み合わせて、半導体工業用クリーンルームの空気清浄などに用いられている。しかし、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜を病院等の中性能フィルタに使用するときは、より大きい保塵量が必要とされ、特に、油滴や水滴などの液滴が流入しても目詰まりし難いことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−260547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、濾材としては、より高い捕集効率とより低い圧力損失を兼ね備えた多孔膜を備えるものが求められている。
【0008】
また、特許文献1に記載の製造方法によって得られる多孔膜は、大きな保塵量を達成してはいない。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、捕集効率が高く、圧力損失が低く、かつ保塵量が大きい、多孔膜を備える濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の項1〜項13等を提供するものである。
[項1]
ポリテトラフルオロエチレンからなり、平均孔径が2.5μm以上であり、かつ、空孔率が95%以上である多孔膜と
当該多孔膜を支持する支持材と
を備えた濾材に対して、
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、
粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が95%以上であり、
前記圧力損失と前記捕集効率とから次式:
PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000に従って計算されるPF値が30以上であり、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で濾材に連続通風し、圧力損失が300Paに達したときの、濾材に保持されているポリアルファオレイン粒子の保塵量が15g/m2以上である
濾材。
[項2]
多孔膜が変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる多孔膜である前記項1に記載の濾材。
[項3]
変性ポリテトラフルオロエチレンがテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である前記項2に記載の濾材。
[項4]
多孔膜と
当該多孔膜を支持する支持材と
を備え、
前記多孔膜は、
ポリテトラフルオロエチレンに対して押出助剤を20.5重量%混合して室温で1時間熟成させることで混合物とした場合においてリダクションレシオ1600における押出速度32000mm/分でのペースト押出圧力が50MPa以上110MPa以下であり、かつ、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布が4.0以上である前記ポリテトラフルオロエチレンより得られ、
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる
濾材。
[項5]
変性ポリテトラフルオロエチレンがテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である前記項4に記載の濾材。
[項6]
平均孔径が2.5μm以上であり、かつ、空孔率が95%以上である前記項4または5に記載の濾材。
[項7]
濾材に対して空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、かつ、濾材に対して粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が95%以上である前記項4〜6のいずれか1項に記載の濾材。
[項8]
濾材に対して空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失と、濾材に対して粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率とから次式:
PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000に従って計算されるPF値が30以上である前記項4〜7のいずれか1項に記載の濾材。
[項9]
個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で濾材に連続通風し、圧力損失が300Paに達したときの、濾材に保持されているポリアルファオレイン粒子の保塵量が15g/m2以上である前記項4〜8のいずれか1項に記載の濾材。
[項10]
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる未焼成フィルムを用意する工程、
前記未焼成フィルムを、第1方向に2倍〜50倍の倍率で延伸し、次いで第1方向に垂直な第2方向に2倍〜80倍の倍率で延伸して孔を生じさせ、多孔膜を得る工程、および
得られた多孔膜の少なくとも一方の面上に、当該多孔膜を支持するように支持材を配置する工程
を含む濾材の製造方法。
[項11]
前記未焼成フィルムが、変性ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーから形成される前記項10に記載の製造方法。
[項12]
所定の形状に成形された前記項1〜9のいずれか1項に記載の濾材または前記項10もしくは11に記載の製造方法により製造される濾材を備えるフィルタパック。
[項13]
前記項12に記載のフィルタパックと、
当該フィルタパックが収納される枠体とを備えるフィルタユニット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い捕集効率と低い圧力損失とを有し、かつ大きな保塵量を有する多孔膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の濾材の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】本発明のフィルタパックの一実施形態を示す斜視図。
【図3】本発明のエアフィルタユニットの一実施形態を示す斜視図。
【図4】本発明のエアフィルタユニットの他の一実施形態を示す一部破断斜視図。
【図5】ポリテトラフルオロエチレンフィルムの長手方向への延伸に用いる装置を示す模式図。
【図6】ポリテトラフルオロエチレンフィルムの幅方向への延伸に用いる装置(左半分)と、ポリテトラフルオロエチレンフィルムに不織布をラミネートする装置(右半分)とを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中、数値範囲を表す記号「〜」は、特に記載の無い限り、当該数値範囲がその両端の数値を含むことを意図して用いられる。すなわち、例えば、「a〜b」は、「a以上b以下」を表す。
【0014】
<濾材>
本発明の濾材は、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜と
当該多孔膜を支持する支持材を備える。
【0015】
支持材は、多孔膜の少なくとも一方の面上に、多孔膜を支持するように配置される。すなわち、支持材は、前記多孔膜の片面上または両面上に配置される。
【0016】
多孔膜および支持材の数は限定されず、本発明の濾材は、例えば、複数の多孔膜と複数の支持材とが交互に積層されたものであってもよい。
【0017】
本発明の濾材は、好ましくは、濾材に対して空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、かつ粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が、好ましくは95%以上である。なお、本発明において、捕集効率とは、目詰まりが生じていない状態で測定した、初期捕集効率をいう。
【0018】
また、本発明の濾材は、上記圧力損失と、上記捕集効率とから、次式:
PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000に従って計算されるPF値が、好ましくは30以上、より好ましくは40以上である。
【0019】
また、本発明の濾材は、保塵量が、好ましくは15g/m2以上、より好ましくは25g/m2以上である。当該保塵量は、個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で濾材に連続通風し、圧力損失が300Paに達したときに、濾材に保持されているポリアルファオレイン粒子の、濾材の単位面積当たりの重量である。
【0020】
これらの濾材性能は、主に、下記で説明するポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の性能に由来する。
【0021】
<多孔膜>
本発明で用いられる多孔膜はポリテトラフルオロエチレンからなる。
【0022】
本発明に用いられるポリテトラフルオロエチレンは、ホモポリテトラフルオロエチレン(狭義のポリテトラフルオロエチレン)、および変性ポリテトラフルオロエチレンを包含する。
【0023】
本明細書中、「ポリテトラフルオロエチレン」、「ホモポリテトラフルオロエチレン」、および「変性ポリテトラフルオロエチレン」を、それぞれ、PTFE、ホモPTFE、および変性PTFEと略称する場合がある。
【0024】
本発明で用いられる多孔膜は、低い圧力損失および大きな保塵量を実現する観点からは、好ましくは、変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる。
【0025】
当該変性ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンと共単量体との共重合体である。
【0026】
当該共単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、トリフルオロクロロエチレン、ビニリデンフルオライド等が挙げられる。
【0027】
なかでも、パーフルオロアルキルビニルエーテルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜5個(好ましくは、炭素原子1〜3個)であるパーフルオロアルキルビニルエーテルがより好ましい。
【0028】
当該共単量体は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0029】
本発明に用いられる変性ポリテトラフルオロエチレンにおける、上記共単量体に由来する構成単位の含有量は、変性ポリテトラフルオロエチレン全体の0.001〜0.30重量%であることが好ましい。本明細書中、当該含有量を変性度と称する場合がある。変性度がこの程度である変性PTFEファインパウダーは、溶融加工が困難であるために非溶融加工性を良好に保持することができ、好ましい。
【0030】
当該変性度の上限は、好ましくは0.30重量%である。
【0031】
当該変性度の下限は、好ましくは0.001重量%である。
【0032】
本発明で用いられる変性ポリテトラフルオロエチレンは、1種であってもよく、共単量体や変性度が異なる2種以上の混合物であってもよい。
【0033】
本発明で用いられる多孔膜のポリテトラフルオロエチレンは、変性ポリテトラフルオロエチレンを、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上含有し、特に好ましくは変性ポリテトラフルオロエチレン100重量%からなる。
【0034】
本発明で用いられる多孔膜は、本発明の効果を失わせない範囲内で、ホモポリテトラフルオロエチレンを含有してもよい。具体的には、本発明で用いられる多孔膜は、ホモポリテトラフルオロエチレンを好ましくは10重量%未満、より好ましく5重量%未満、更に好ましくは2重量%未満含有し、特に好ましくはホモポリテトラフルオロエチレンを含有しない。
【0035】
本発明に用いられるポリテトラフルオロエチレンの分子量分布Mw/Mnは、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは4.5以上である。延伸特性を良好にするためには、分子量分布Mw/Mnの値が4.0以上であることが好ましい。また、分子量分布Mw/Mnは、好ましくは30以下である。
【0036】
本発明に用いられるポリテトラフルオロエチレンに対して押出助剤(炭化水素油(商品名アイソパーG(登録商標)、エクソン社製))を20.5重量%混合して、室温(25±2℃)で1時間熟成させることで混合物とした場合においてリダクションレシオ1600における押出速度32000mm/分でのペースト押出圧力は、好ましくは50MPa以上であるが、これに限定されない。このペースト押出圧力は、より好ましくは70MPa以上である。このペースト押出圧力は、好ましくは110MPa以下である。延伸特性が良好である多孔膜を得るには、このペースト押出圧力が50MPa以上であることが好ましい。また、リダクションレシオ1600(RR1600)におけるペースト押出成型を良好に行うために、このペースト押出圧力が110MPa以下であることが好ましい。
【0037】
本発明で用いられる多孔膜は、好ましくは、平均孔径が2.5μm以上であり、かつ空孔率が95%以上である。この大きな平均孔径と高い空孔率により、本発明で用いられる多孔膜は、高い捕集効率と低い圧力損失とを有し、かつ大きな保塵量を有する濾材を実現する。
【0038】
本明細書中、平均孔径は、ASTM F−316−86の記載に準じて測定されるミーンフローポアサイズ(MFP)である。平均孔径は、コールターポロメーター(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]を用いて測定を行うことができる。
【0039】
本明細書中、空孔率は、次式により求められる数値である。
【0040】
空孔率(%)=[1−[膜の重量(g)/(膜の主面の面積(cm2)×膜厚(cm)×PTFEの密度(g/cm3))]]×100
具体的には、膜厚を測定したPTFE多孔膜を20×20cmに切り出し、重量を測定し、空孔率を求めることができる。
【0041】
本発明で用いられる多孔膜の厚さは、好ましくは、5〜10μmである。
【0042】
本発明の濾材において、このような多孔膜は、単膜で用いてもよく、複数枚を重ねて用いてもよい。この場合、複数枚の多孔膜は、同種のものであっても、異種のものであってもよい。また、本発明の効果を奏する限りにおいて、上記の多孔膜以外の多孔膜と組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<支持材>
支持材は、多孔膜を支持するものであり、好ましくは、多孔膜に接着している。
【0044】
支持材は、通気性を有し、かつ多孔膜を支持できるものであれば特に限定されないが、不織布が好ましい。
【0045】
このような不織布としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維不織布、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維不織布、芯成分がPETで鞘成分がポリエチレン(PE)である芯鞘構造の不織布(PET/PE芯/鞘不織布)、芯成分がPETで鞘成分がPBTである芯鞘構造の不織布(PET/PBT芯/鞘不織布)、芯成分が高融点PETで鞘成分が低融点PETである芯鞘構造の不織布(高融点PET/低融点PET芯/鞘不織布)、PET繊維およびPBT繊維の複合繊維からなる不織布、高融点PET繊維および低融点PET繊維の複合繊維からなる不織布等が挙げられる。
【0046】
支持材は、本発明の効果を妨げないように、高い通気性を有し、低圧力損失であることが好ましい。
【0047】
上述のように、本発明の濾材の性能は、主に、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔膜の性能に由来し、支持材としてプレフィルタ機能を有する支持材を用いなくても十分に大きな保塵量が得られるが、更に保塵量を大きくする目的で、支持材としてメルトブロー不織布などを用いてもよい。
【0048】
支持材の孔径は、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜の孔径より大きいことが好ましい。
【0049】
支持材に用いられる不織布の目付は、通常10〜600g/m2、好ましくは15〜300g/m2、より好ましくは15〜100g/m2である。また、支持材に用いられる不織布の膜厚は、好ましくは0.10〜0.52mmである。
【0050】
<濾材の製造方法>
本発明の濾材は、例えば、
ポリテトラフルオロエチレンからなる未焼成フィルムを用意する工程1、
前記未焼成フィルムを、第1方向に延伸し、次いで第1方向に垂直な第2方向に延伸して孔を生じさせる工程2、および
得られた多孔膜の少なくとも一方の面上に、当該多孔膜を支持するように支持材を配置する工程3
を含む製造方法によって製造することができる。
【0051】
以下、ポリテトラフルオロエチレンが変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる場合について説明するが、これ以外の場合も、この説明に準じて、本発明の濾材を製造することができる。
【0052】
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる未焼成フィルムは、変性ポリテトラフルオロエチレン微粒子から形成される。
【0053】
なかでも好ましくは、変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる未焼成フィルムは、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーから形成される。
【0054】
ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、ポリテトラフルオロエチレン微粒子(一次粒子)が凝集した二次粒子である。
【0055】
なお、未焼成フィルムにかえて、半焼成フィルムを用いることもできる。
【0056】
a)工程1
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる未焼成フィルム(以下、単に未焼成フィルムと称する場合がある)は、例えば、
変性PTFE微粒子、所望により配合されるホモPTFE微粒子と、押出助剤(液状潤滑剤)とを混合する工程1−1、
得られた混合物をフィルム状に成形する工程1−2、および
所望により得られたフィルム状成型物から押出助剤(液状潤滑剤)を除去する工程1−3
を含む製造方法により製造することができる。
【0057】
(1)工程1−1
変性PTFE微粒子における変性PTFEは、好ましくは共重合体である。この場合の「共重合体」とは、テトラフルオロエチレンと変性剤とを、通常の共重合体の重合において用いられる意味で均一に混合して重合させた重合体を意味する。すなわち、当該製造方法で好適に用いられるPTFE微粒子は、例えば、一次粒子中にホモPTFEのコアと、変性PTFEのシェルとを含むような不均一な構造(コアシェル構造)を有する変性PTFE微粒子は、好ましくはないが、シェル部の変性度が低いものは、用いることができる。
【0058】
当該工程において、変性PTFE微粒子とホモPTFE微粒子とは、変性ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーとホモポリテトラフルオロエチレンファインパウダーの混合物の形態であってもよく、変性ポリテトラフルオロエチレン水性分散体とホモポリテトラフルオロエチレン水性分散体との共凝析、およびその後の乾燥等により得られた粉体組成物の形態であってもよい。
【0059】
PTFE微粒子の平均一次粒子径は、好ましくは0.1〜1μmである。
【0060】
PTFE微粒子の平均二次粒子径は、好ましくは300〜700μmである。
【0061】
前記混合物におけるホモPTFE微粉末の量が多いほど、後記する延伸が容易になる。しかし、ホモPTFE微粉末の量が多いほど、最終的に得られる多孔膜の圧力損失は高くなり、保塵量は小さくなる。ホモPTFE微粉末の添加量は、PTFE微粉末全体に対して、好ましくは10重量%未満、より好ましく5重量%未満、更に好ましくは2重量%未満、特に好ましくは0重量%である。なお、当該添加量は、得られる多孔膜におけるホモPTFEの含有量に対応する。
【0062】
押出助剤(液状潤滑剤)としては、PTFE微粉末の表面を濡らすことが可能であり、上記混合物をフィルム状に成形した後に、除去可能な物質である限り、特に限定されず、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油、のアルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
【0063】
液状潤滑剤の使用量は、液状潤滑剤の種類等によって異なるが、通常、PTFE微粉末100重量部に対して、5〜50重量部である。液状潤滑剤の使用量を大きくすることにより、圧力損失を小さくすることができる。
【0064】
(2)工程1−2
前記混合物のフィルム状への成形は、例えば、押出、および圧延等の慣用の方法により行えばよい。
【0065】
好ましくは、前記混合体をペースト押出し、得られた棒状物を、カレンダーロール等を用いて圧延する。
【0066】
得られるフィルム状物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定すればよいが、通常100〜300μmである。
【0067】
(3)工程1−3
押出助剤除去は、例えば、押出助剤が残存している未焼成フィルムを加熱して、押出助剤を蒸発させることにより実施すればよい。
【0068】
このような未焼成フィルムは、市販品にて、入手してもよい。
【0069】
b)工程2
前記未焼成フィルムを、第1方向に延伸し、次いで第1方向に垂直な第2方向に延伸しすることにより、前記未焼成フィルムに孔を生じさせる。
【0070】
(1)第1方向への延伸
第1方向は、好ましくは、未焼成フィルムの長手方向である。
【0071】
第1方向への延伸の延伸倍率は、好ましくは、2〜50倍、より好ましくは3〜30倍、更に好ましくは5〜20倍である。
【0072】
第1方向への延伸の速度は、好ましくは300〜600%/秒である。
【0073】
第1方向への延伸時の温度は、好ましくは、200〜350℃、より好ましくは、220〜270℃である。
【0074】
(2)第2方向への延伸
第2方向は、好ましくは、未焼成フィルムの幅方向である。
【0075】
第2方向への延伸の延伸倍率は、好ましくは、2〜80倍、より好ましくは5〜50倍、更に好ましくは10〜45倍である。
【0076】
第2方向への延伸の速度は、好ましくは300〜600%/秒である。
【0077】
第2方向への延伸時の温度は、好ましくは、200〜350℃、より好ましくは、220〜270℃である。
【0078】
工程2により得られた、多孔膜は、好ましくは、熱固定される。
【0079】
熱固定の温度は、PTFEの融点以上であってもいいし、以下でもよい。好ましくは、250〜350℃である。
【0080】
c)工程3
工程3では、前記支持材が前記多孔膜を支持するように、前記多孔膜と前記支持材とを積層することによって、本発明の濾材を得る。積層方法としては、公知の方法を用いればよい。例えば、前記支持材が熱融着性を有する不織布からなる場合、熱ラミネーションによって本発明の濾材を製造することができる。また、例えば、ポリエステル、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等の粉末、ホットメルト接着剤を用いて前記多孔膜と前記支持材とを接着してもよい。
【0081】
図1に、本発明の濾材の一実施形態を示す。
【0082】
この濾材1は、PTFEからなる多孔膜3と、PTFE多孔膜の両面に熱ラミネートされる通気性支持材5とを備えている。
【0083】
<フィルタパック>
本発明のフィルタパックは、所定の形状に成形された本発明の濾材を備える。所定の形状としては、例えば波型形状が挙げられる。当該波型形状は、好ましくは、セパレータまたはスペーサによって保持することができる。
【0084】
当該セパレータの形状は、通常、波板状である。当該セパレータの材質は特に限定されないが、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0085】
当該スペーサの材質は特に限定されないが、例えば、ポリアミド等のホットメルト樹脂接着剤が挙げられる。
【0086】
本発明のフィルタパックは、プリーツ加工された本発明の濾材と、当該濾材の形状を維持するためのスペーサを備えてもよい。
【0087】
濾材のプリーツ加工は、例えばレシプロ折り機等を用いて実施すればよい。
【0088】
図2に、本発明のフィルタパックの一実施形態を示す。
【0089】
フィルタパック13は、図2に示すように、濾材1と、スペーサ17とから構成される。
【0090】
濾材1は、交互に折り返して波型形状に加工(プリーツ加工)されている。
【0091】
濾材1は、上述のものが用いられ、交互に折り返して波型形状に加工(プリーツ加工)されている。
【0092】
スペーサ17は、プリーツ加工された濾材1の波型形状を保持するためのものであり、ポリアミド等のホットメルト樹脂接着剤からなる。
【0093】
<フィルタユニット>
本発明のフィルタユニットは、本発明のフィルタパックと、当該フィルタパックが収納される枠体とを備える。
【0094】
本発明のフィルタユニットは、例えば、スペーサを用いたミニプリーツ式エアフィルタユニットや、セパレータを用いたセパレータ式エアフィルタユニットが挙げられる。
【0095】
本発明のフィルタユニットは、中性能フィルタユニットとして好適に用いることができ、好ましくはセパレータ式エアフィルタユニットである。
【0096】
当該枠体は、前記フィルタパックを収納および保持できるものであれば特に限定されないが、例えば、4本のアルミニウム製フレームを組み立てることにより得られる。
【0097】
図3に、本発明の一実施形態が採用されたミニプリーツ式エアフィルタユニット11aを示す。
【0098】
このミニプリーツ式エアフィルタユニット11aは、フィルタパック13と、フィルタパック13が収納される枠体15aとを備えている。
【0099】
図4に、本発明の別の一実施形態が採用されたセパレータ式エアフィルタユニット11bを示す。
【0100】
このセパレータ式エアフィルタユニット11bは、フィルタ濾材1が波板状のセパレータ14を介して波状に屈曲され、枠体15b内に収容されている。
【実施例】
【0101】
<実施例1>
特開昭64―1711公報に記載の方法に従って、テトラフルオロエチレンを仕込み、次に、パーフルオロアルキルビニルエーテル(アルキル基の炭素数が3個で、CF2=CF―O−C37)を仕込み、開始剤で反応させて製造した変性PTFEファインパウダー1(パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合変性、変性量0.10重量%、分子量分布Mw/Mn6.8、リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力88MPa)100重量部に、押出助剤(出光興産株式会社製、IPソルベント2028)26重量部を加えて混合し、予備成形体を得た。次に、この予備成形体をペースト押出により円柱状に成形した。そして、この円柱状成形体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形し、PTFEフィルムを得た。このフィルムを200℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を蒸発除去し、平均厚み200μm、平均幅150mmの未焼成フィルムを得た。
【0102】
図5に示す装置を用いて長手方向に延伸倍率10倍で延伸した。未焼成フィルムはロール21にセットし、延伸したフィルムは巻き取りロール22に巻き取った。また、延伸温度は250℃で行った。なお、図5において、23〜25はロール、26,27はヒートロール、28〜32はロールをそれぞれ示す。
【0103】
次に、得られた長手方向延伸フィルムを、連続クリップで挟むことのできる図6の左半分に示す装置(テンター)を用いて幅方向に延伸倍率36倍で延伸し、熱固定を行いPTFE多孔膜を得た。この時の延伸温度は220℃、熱固定温度は300℃、また延伸速度は500%/秒であった。PTFE多孔膜の両面に、下記の不織布A,Bを用いて、図6の右半分に示す装置によって熱融着することにより、濾材を得た。
【0104】
不織布A:ユニチカ株式会社製「エルベスS0403WDO」PET/PE芯/鞘不織布、目付40g/m2
不織布B:ユニチカ株式会社製「エルベスT0403WDO」PET/PE芯/鞘不織布、目付40g/m2
なお、図6において、34は長手方向延伸フィルムの巻出しロール、35は予熱ゾーン、36は延伸ゾーン、37は熱固定ゾーン、39はラミネートロール、41は巻取ロール、43は第1の支持材の巻き出しロール、45は第2の支持材の巻き出しロールをそれぞれ示す。
【0105】
また、この時の熱融着条件は、以下の通りであった。
(熱融着条件)
加熱温度:200℃
ライン速度:15m/分
<実施例2>
変性量の割合の影響を調べるため、実施例2を実施した。
【0106】
特公昭50−38159号公報に記載の方法に従って、テトラフルオロエチレンを仕込み、次に、パーフルオロアルキルビニルエーテル(アルキル基の炭素数が3個で、CF2=CF―O−C37)を仕込み、開始剤で反応させて製造した変性PTFEファインパウダー2“(パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合変性、変性量0.15重量%、分子量分布Mw/Mn5.0、リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力83MPa)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0107】
<実施例3>
ホモPTFE微粉末の添加効果を調べるため、実施例3を実施した。
【0108】
特公昭50−38159号公報に記載の方法に従って、変性PTFEファインパウダー2を95重量%に、ホモPTFEファインパウダー5(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF−106」)を5重量%混合したものを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0109】
ホモPTFE微粉末を少量加えたことにより、延伸が容易になった。
【0110】
<実施例4>
液状潤滑剤の使用量の影響を調べるため、実施例4を実施した。押出助剤の量を24重量部にした以外は、実施例2と同様の操作を行った。
【0111】
<比較例1>
変性PTFEファインパウダーの分子量分布Mw/Mnの影響を調べるため、比較例1を実施した。変性PTFEファインパウダー1に換えて、特開平10−53624号公報に記載の方法に従って、テトラフルオロエチレンを仕込み、次に、パーフルオロアルキルビニルエーテル(アルキル基の炭素数が3個で、CF2=CF―O−C37)を仕込み、開始剤で反応させて製造した変性PTFEファインパウダー3(パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合変性、変性量0.12重量%、分子量分布Mw/Mn3.9、リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力78MPa)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。しかし、得られた未焼成フィルムは、長手方向に延伸できず、多孔膜が得られなかった。これは、分子量分布Mw/Mnが小さいために、延伸特性が低下してしまい、延伸が困難になったものと考えられる。
【0112】
<比較例2>
変性PTFEファインパウダー1に換えて、WO2006/054612号公報に記載の方法に従って、コア部がPTFEからなり、シェル部がテトラフロオロエチレン(TEE)とパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体からなるコアシェル構造を有する変性PTFEファインパウダー4を製造した。変性PTFEファインパウダー4(変性量0.03重量%、リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力34MPa)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。しかし、得られた未焼成フィルムは、長手方向に延伸できず、多孔膜が得られなかった。PTFEの一次粒子の外側のシェル部分の変性量が多いため、一次粒子のつながりが困難であり、延伸が困難になったと考えられる。
【0113】
<比較例3>
ホモPTFEファインパウダー5(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF−106」、リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力は測定不能)100重量部に、押出助剤30重量部を加えて混合し、予備成形体を得た。次に、この予備成形体をペースト押出により円柱状に成形した。そして、この円柱状成形体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形し、PTFEフィルムを得た。このフィルムを200℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を蒸発除去し、平均厚み200μm、平均幅150mmの未焼成フィルムを得た。
【0114】
図5に示す装置を用いて長手方向に延伸倍率48倍で延伸した。未焼成フィルムはロール21にセットし、延伸したフィルムは巻き取りロール22に巻き取った。また、延伸温度は250℃で行った。
【0115】
次に、得られた長手方向延伸フィルムを、連続クリップで挟むことのできる図6の左半分に示す装置(テンター)を用いて幅方向に延伸倍率36倍で延伸し、熱固定を行いPTFE多孔膜を得た。この時の延伸温度は290℃、熱固定温度は345℃、また延伸速度は500%/秒であった。PTFE多孔膜の両面に、下記の不織布A,Bを用いて、図6の右半分に示す装置によって熱融着することにより、濾材を得た。
【0116】
なお、比較例3では、実施例1〜3と比較するため、これらに近い圧力損失になるようにした。これは、押出助剤を増やし、長手方向の延伸倍率を上げ、幅方向の延伸温度を上げることで、実現した。
【0117】
不織布A:ユニチカ株式会社製「エルベスS0403WDO」PET/PE芯/鞘不織布、目付40g/m2
不織布B:ユニチカ株式会社製「エルベスT0403WDO」PET/PE芯/鞘不織布、目付40g/m2
また、この時の熱融着条件は、以下の通りであった。
(熱融着条件)
加熱温度:200℃
ライン速度:15m/分
<参考例1>
参考例1として、中性能ガラスフィルタ Lydall社製 2991を用いた。
【0118】
下記表1に、実施例1〜4及び比較例1〜3の多孔膜の物性と、これらに不織布を熱溶着した濾材の物性を示す。また、参考例1の中性能ガラスフィルタの物性を示す。
【0119】
各物性の測定方法を下記に記載する。
<圧力損失(Pa)>
PTFE多孔膜及び濾材の測定サンプルを、直径100mmのフィルタホルダーにセットし、コンプレッサーで入口側を加圧し、流速計で空気の透過する流量を5.3cm/秒に調整した。そして、この時の圧力損失をマノメータで測定した。
<捕集効率(NaCl 0.3μm粒子)>
アトマイザーで発生させたNaCl 粒子を、静電分級器(TSI社製)で、0.3μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて評価フィルタ前後の粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
【0120】
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=評価試料が捕集したNaCl 0.3μmの粒子数
CI=評価試料に供給されたNaCl 0.3μmの粒子数
<捕集効率(NaCl 0.1μm粒子)>
アトマイザーで発生させたNaCl 粒子を、静電分級器(TSI社製)で、0.1μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて評価フィルタ前後の粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
【0121】
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=評価試料が捕集したNaCl 0.1μmの粒子数
CI=評価試料に供給されたNaCl 0.1μmの粒子数
<PF値(NaCl 0.3μm)>
濾材のPF値(NaCl 0.3μm)は、上記の濾材の圧力損失及び捕集効率(NaCl 0.3μm)を下式に代入することにより求めた。
【0122】
PF値(NaCl 0.3μm)={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000
<PF値(NaCl 0.1μm)>
濾材のPF値(NaCl 0.1μm)は、濾材の圧力損失及び捕集効率(NaCl 0.1μm)を下式に代入することにより求めた。
【0123】
PF値(NaCl 0.1μm)={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000
<平均孔径>
変性PTFE多孔膜の孔径は、ASTM F−316−86の記載に準じて測定されるミーンフローポアサイズ(MFP)を変性PTFE多孔膜の平均孔径とした。実際の測定は、コールターポロメーター(Coulter Porometer)[コールター・エレクトロニクス(Coulter Electronics)社(英国)製]で測定を行った。
<PTFE多孔膜の膜厚>
膜厚計(1D−110MH型、ミツトヨ社製)を使用し、PTFE多孔膜を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚とした。
<PTFE多孔膜の空孔率>
膜厚を測定したPTFE多孔膜を20×20cmに切り出し、重量を測定し、下記式より空孔率を求めた。
【0124】
空孔率(%)={1−[重量(g)/(400×膜厚(cm)×2.2(PTFEの密度)]}×100
<保塵量 ポリアルファオレフィン(PAO)(液体粒子)>
“保塵量 PAO(液体粒子)”は、PAO粒子透過時の圧損上昇試験で評価した。即ち、PAO粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失300Paに達したときに、濾材に保持されているPAO粒子の濾材の単位面積当たりの重量であるの保塵量(g/m2)を、“保塵量 PAO(液体粒子)”とした。
【0125】
尚、PAO粒子は、ラスキンノズルで発生させたPAO粒子(個数中位径0.25μm)を用い、PAO粒子の濃度は、約100万〜600万個/cm3とした。
【0126】
<保塵量 NaCl(固体粒子)>
保塵量 NaCl(固体粒子)については、NaCl粒子透過時の圧損上昇試験で評価した。即ち、NaCl粒子を含んだ空気を有効濾過面積50cm2のサンプル濾材に流速5.3cm/秒で連続通風したときの圧力損失を差圧計(U字管マノメータ)で経時的に測定し、圧力損失450Paに達したときに、濾材に保持されているNaCl粒子の濾材の単位面積当たりの重量であるの保塵量(g/m2)を、“保塵量 NaCl(固体粒子)”とした。尚、NaCl粒子の濃度は、約100万〜300万個/cm3(個数中位径0.05μm)とした。
【0127】
<リダクションレシオ1600(RR1600)のペースト押出圧力>
ASTM D 4895に準拠して測定した。
【0128】
PTFEファインパウダー(上記ファインパウダー1〜5それぞれについて)50gと押出助剤である炭化水素油(商品名アイソパーG(登録商標)、エクソン社製)10.25gとをガラス瓶中で3分間混合し、室温(25±2℃)で1時間熟成させた。次に、シリンダー(内径25.4mm)付きの押出ダイ(絞り角30°で、下端にオリフィス(オリフィス直径:0.65mm、オリフィス長:2mm)を有する)に上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに1.2MPaの負荷を加えて1分間保持させた。その後、直ちに室温においてラム速度20mm/分で上記混合物をオリフィスから押出し、ロッド状物を得た。押出後半において、圧力が平衡状態になる部分の圧力をシリンダー断面積で除した値をペースト押出圧力とした。
【0129】
なお、押出速度は、リダクションレシオにラム速度を乗じて得られる値とし、ここでは、リダクションレシオ1600にラム速度20mm/分を乗じて得られた値(32000mm/分)であった。また、この押出速度は、室温(25±2℃)の状況下で測定した値である。また、この押出速度は、押出助剤(炭化水素油(商品名アイソパーG))を加えた状態での値を示す。なお、この押出助剤は、イソパラフィン液であって、初留点が167℃、乾点が176℃、密度が0.748g/ml、動粘度が1.49mm2/秒であった。
【0130】
<分子量分布Mw/Mn>
分子量分布Mw/Mnは、特開平10−53624号公報に記載の方法に従って測定した。ここで、Mwは重量平均分子量を示し、Mnは数平均分子量を示す。
【0131】
分子量分布Mw/Mn測定装置として、レオメトリクス社製粘弾性測定機RDS−2を使用し、380℃において動的粘弾性を測定した。周波数範囲は0.001〜500rad/秒とし、測定値のサンプリング頻度は対数等間隔で1桁当たり5点とした。測定値はS.Wuの方法(Polymer Engineering & Science, 1988, Vol. 28,538、同1989, Vol.29,273)に従ってデータ処理し、Mn、Mw及びMw/Mnを求めた。
【0132】
尚、その際、時間t=1/ω、G(t)=G'(ω)とした(ω=周波数、G(t)=緩和弾性率、G'(ω)=貯蔵弾性率)。また、2回の連続した測定において、各測定周波数におけるG'(ω)の偏差の平均が5%以下になるまで測定を繰り返し行った。
【0133】
<変性剤含有量>
変性剤含有量は、特開平10−53624号公報に記載の方法に従って測定した。
【0134】
変性剤含有量ポリマー中のフルオロアルキルビニルエーテルの含有量として、赤外吸収バンドの995cm-1の吸収と935cm-1の吸収との比に0.14を乗じて得られる値(重量%)を用いた。
【0135】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜4で製造した濾材は、捕集効率が高く、圧力損失が低く、かつ保塵量が大きかった。
【0136】
実施例3と実施例2とを比較すると、少量のホモPTFE微粉末を加えることによって、上述のように延伸性は向上するが、最終的に得られる濾材の圧力損失は少し大きくなり、保塵量は少し小さくなることが分かる。
【0137】
実施例4と実施例2とを比較すると、液状潤滑剤の使用量を少なくすることにより、圧力損失が大きくなるが、捕集効率が高くなることが分かる。
【0138】
前記の比較例1で述べたように、分子量分布Mw/Mnが小さい変性PTFEファインパウダーを用いた場合、多孔膜が得られなかった。
【0139】
前記の比較例2で述べたように、シェル部分の変性量が多いコアシェル構造を有する変性PTFEファインパウダーを用いた場合、多孔膜が得られなかった。
【0140】
実施例1〜4を、ホモPTFEファインパウダーを用いた比較例3と比較すると、実施例1〜4の濾材は、圧力損失が同様の場合において、保塵量(PAO)が著しく大きいことが分かる。
【0141】
実施例1〜4をガラス繊維を用いた参考例1と比較すると、実施例1〜4の濾材は、PF値が著しく大きく、かつ、捕集効率が同様の場合において、圧力損失が著しく低く、保塵量は同等以上であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の濾材は、例えば、(a)エアコン、換気扇、掃除機等の家庭用機器、(b)オフィスビル、病院、製薬工場、食品工場等の空調設備、(c)半導体産業機器、クリーンルーム、タービン等の産業用機器もしくは設備に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0143】
1 濾材
3 PTFE多孔膜
5 通気性支持材
11a ミニプリーツ式エアフィルタユニット
11b セパレータ式エアフィルタユニット
13 フィルタパック
14 セパレータ
15a 枠体
15b 枠体
17 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンからなり、平均孔径が2.5μm以上であり、かつ、空孔率が95%以上である多孔膜と
当該多孔膜を支持する支持材と
を備えた濾材に対して、
空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、
粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が95%以上であり、
前記圧力損失と前記捕集効率とから次式:
PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000に従って計算されるPF値が30以上であり、
個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で濾材に連続通風し、圧力損失が300Paに達したときの、濾材に保持されているポリアルファオレイン粒子の保塵量が15g/m2以上である
濾材。
【請求項2】
多孔膜が変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる多孔膜である請求項1に記載の濾材。
【請求項3】
変性ポリテトラフルオロエチレンがテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である請求項2に記載の濾材。
【請求項4】
多孔膜と
当該多孔膜を支持する支持材と
を備え、
前記多孔膜は、
ポリテトラフルオロエチレンに対して押出助剤を20.5重量%混合して室温で1時間熟成させることで混合物とした場合においてリダクションレシオ1600における押出速度32000mm/分でのペースト押出圧力が50MPa以上110MPa以下であり、かつ、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布が4.0以上である前記ポリテトラフルオロエチレンより得られ、
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる
濾材。
【請求項5】
変性ポリテトラフルオロエチレンがテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である請求項4に記載の濾材。
【請求項6】
平均孔径が2.5μm以上であり、かつ、空孔率が95%以上である請求項4または5に記載の濾材。
【請求項7】
濾材に対して空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失が100Pa未満であり、かつ、濾材に対して粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率が95%以上である請求項4〜6のいずれか1項に記載の濾材。
【請求項8】
濾材に対して空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの圧力損失と、濾材に対して粒径0.3μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させたときの前記粒子の捕集効率とから次式:
PF={−log[(100−捕集効率(%))/100]/圧力損失(Pa)}×1000に従って計算されるPF値が30以上である請求項4〜7のいずれか1項に記載の濾材。
【請求項9】
個数中位径0.25μmのポリアルファオレイン粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で濾材に連続通風し、圧力損失が300Paに達したときの、濾材に保持されているポリアルファオレイン粒子の保塵量が15g/m2以上である請求項4〜8のいずれか1項に記載の濾材。
【請求項10】
変性ポリテトラフルオロエチレンから主としてなる未焼成フィルムを用意する工程、
前記未焼成フィルムを、第1方向に2倍〜50倍の倍率で延伸し、次いで第1方向に垂直な第2方向に2倍〜80倍の倍率で延伸して孔を生じさせ、多孔膜を得る工程、および
得られた多孔膜の少なくとも一方の面上に、当該多孔膜を支持するように支持材を配置する工程
を含む濾材の製造方法。
【請求項11】
前記未焼成フィルムが、変性ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーから形成される請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
所定の形状に成形された請求項1〜9のいずれか1項に記載の濾材または請求項10もしくは11に記載の製造方法により製造される濾材を備えるフィルタパック。
【請求項13】
請求項12に記載のフィルタパックと、
当該フィルタパックが収納される枠体と
を備えるフィルタユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−20274(P2012−20274A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258004(P2010−258004)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】