説明

多孔膜及びそれを用いたリチウムイオン電池用セパレータ

【課題】セパレータとして用いた場合に、リチウムイオン電池における大出力化、高温保存安定性の向上、及び自己放電容量と容量回復率の維持を可能にする多孔膜及びそれを用いたリチウムイオン電池用セパレータを提供する。
【解決手段】特定のペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含有するポリオレフィン樹脂組成物(G)から形成された多孔膜及びそれを用いたリチウムイオン電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の高温保存安定性を向上させるセパレータに適した多孔膜及びそれを用いたリチウムイオン電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔膜は様々な用途に用いられており、中でも熱可塑性樹脂微多孔膜は医療用、工業用の濾過、分離等に用いられる分離膜や、電池セパレータ、電解コンデンサー用セパレータ等のセパレータ、更に紙おむつ用バッグシート等の衛生材料、ハウスラップや屋根下地材等の建材等に広く使用されている。特に、ポリオレフィン系樹脂微多孔膜は有機溶剤やアルカリ性または酸性の溶液に対する耐性を有するため、これら用途に広く好適に使用されている。
【0003】
またポリオレフィン樹脂多孔膜では、高出力・高容量を発揮できるリチウムイオン電池(以下、LIBと略すことがある)用セパレータとしての需要が大きく伸びている。近年、小型携帯機器の使用電力が大きくなるに従い、LIBの高容量化が強く求められており、高容量化した電池はエネルギー密度が大きくなっている。安全性や電池容量の維持に関しても厳しい条件となっている。
【0004】
特に、充電状態で高温環境におかれたLIBは、自己放電容量が増加し容量回復率が低下する問題が、高容量LIBで顕在化してきている。これは、正極によるセパレータの酸化劣化が主原因であると推定されており、これにより電池性能を長期間高く維持できないことが問題となっている。一般に、ポリオレフィン系樹脂を用いたLIB用セパレータは、可塑剤の抽出や延伸によって多孔化し、必要に応じて熱処理等を行うことによって得られ、樹脂を押出機に投入する際には一定量以上の酸化防止剤や中和剤のような安定剤を加えることが一般的である。かかる安定剤を加えなければ、例えば熱劣化、酸化劣化等でセパレータ樹脂が熱劣化、酸化劣化等により電池内部で樹脂の低融点物が溶出し、電池特性へ悪影響を及ぼす可能性がある。セパレータにおける劣化防止の樹脂安定剤として、フェノール系化合物、及びリン系加工安定剤が通常使用されているが、従来の安定剤は酸化電位がリチウムに対して+4.5V以下であるため、電池特性を著しく低下させることが知られている。そのため、近年、更なる電池特性の向上のため、耐熱劣化性、優れた耐油出性能、更に酸化電位がリチウムに対して+4.5V以上である樹脂安定剤の要求が高まってきており、セパレータの酸化劣化を含めた熱劣化を防止する手法が求められている。
【0005】
また安定剤といえども、安定剤を含有する樹脂よりなるセパレータを用いることは、電池中に不純物を加えているようなものとも言えるので、添加量や安定剤によって電池性能を低下させていることも予想される。よって、最適な安定剤の選定と添加量の調整が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セパレータとして用いた場合に、LIBにおける大出力化、高温保存安定性の向上、及び自己放電容量と容量回復率の維持を可能にする多孔膜及びそれを用いたLIB用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含有するポリオレフィン樹脂組成物(G)から形成された多孔膜及びそれを用いたLIB用セパレータによって前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下によって構成される。
1.下記式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルを100〜15,000ppmw含有するポリオレフィン樹脂組成物(G)から形成された多孔膜。

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、または−CO−R’で表されるアルキルカルボニル基及び/またはアルケニルカルボニル基(R’は炭素数12〜22のアルキル基及び/またはアルケニル基)であり、かつR〜Rの少なくとも1つは水素である。)
【0009】
2.式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、または−CO−R’で表されるアルキルカルボニル基及び/またはアルケニルカルボニル基(R’は炭素数16〜18のアルキル基及び/またはアルケニル基)であり、かつR〜Rの少なくとも1つは水素である前記1項記載の多孔膜。
【0010】
3.式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、R〜Rうち、2つまたは3つが水素であるエステル、またはこれらエステルの混合物である前記1または2項記載の多孔膜。
【0011】
4.脂肪酸がステアリン酸である前記1〜3項のいずれか1項記載の多孔膜。
【0012】
5.ポリオレフィン樹脂組成物(G)を構成するポリオレフィン樹脂が、結晶性ポリプロピレン(A)30〜70重量%と、結晶性ポリプロピレン(A)中に分散したエチレン及びプロピレン以外のα−オレフィンの群から選ばれる少なくとも1種とプロピレンとの共重合体(B)30〜70重量%とからなり、結晶性ポリプロピレン(A)のメルトマスフローレートをMFRPP(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)とし、該共重合体(B)のメルトマスフローレートをMFRRC(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)とした時、メルトマスフローレートの比MFRPP/MFRRCが10を超え1,000以下の範囲のポリオレフィン樹脂(C)である前記1〜4項のいずれか1項記載の多孔膜。
【0013】
6.ポリオレフィン樹脂組成物(G)を構成するポリオレフィン樹脂が、前記6項記載のポリオレフィン樹脂(C)35〜89重量%、メルトマスフローレイトMFR(D)(JIS K 7210に準拠し、温度190℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)が1g/10min以上、30g/10min未満の範囲内である高密度ポリエチレン(D)5〜25重量%、メルトマスフローレートMFR(E)(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)が0.1g/10min以上10g/10min未満の範囲である結晶性ポリプロピレン(E)5〜25重量%、及び結晶性ポリオレフィン・エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンのトリブロックを有するブロック共重合体(CEBC)(F)1〜15重量%の混合物である前記1〜5項のいずれか1項記載の多孔膜。
【0014】
7.多孔膜が、ポリオレフィン樹脂組成物(G)を溶融混練して膜状溶融物とし、該膜状溶融物をドラフト比1〜10の範囲で膜状成形物に成形した後、その膜状成形物を少なくとも一方向に延伸することによって生じる開裂によって形成される連通した細孔を有する前記1〜6項のいずれか1項記載の多孔膜。
【0015】
8.前記1〜7項のいずれか1項記載の多孔膜を用いたリチウムイオン電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔膜をセパレータとして用いたLIBは、大出力化、高温保存安定性の向上、及び自己放電容量と容量回復率の維持が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明の多孔膜は、ペンタエリスリトールと炭素数12〜22の飽和または不飽和の脂肪酸とのエステルを含有するポリオレフィン樹脂組成物から形成される。該エステルは、ペンタエリスリトール由来の水酸基を少なくとも1つを有する。
【0018】
1)ペンタエリスリトール脂肪酸エステル
本発明の多孔膜の製造に用いられるポリオレフィン樹脂組成物(G)は、下記式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含有する。該エステルはポリオレフィン樹脂組成物(G)の熱安定化剤として優れた効果を発揮する。

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、または−CO−R’で表されるアルキルカルボニル基及び/またはアルケニルカルボニル基(R’は炭素数12〜22のアルキル基及び/またはアルケニル基)であり、かつR〜Rの少なくとも1つは水素である。)
【0019】
ポリオレフィン樹脂組成物(G)における上記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含量は、100〜15,000ppmw、好ましくは2500〜10,000ppmwであり、この範囲内であれば多孔膜を電池セパレータとして用いた場合に、高温保存安定性における改善効果が発揮される。
【0020】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、ペンタエリスリトールと炭素数12〜22、好ましくは12〜18の飽和または不飽和の高級脂肪酸とのモノ、ジ、及びトリエステルの1種または2種類以上の混合物が使用できる。混合物の場合は、テトラエステルが混じっていても構わない。脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトイル酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)-リノレン酸、(6,9,12)-リノレン酸、エレオステアリン酸が例示できる。
より好ましい態様としては、脂肪酸としてステアリン酸を用いた、モノエステル、ジエステル、またはこれらの混合物が高温保存安定性の点から好ましい。
【0021】
使用するペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、市販されているものを購入し、そのまま使用することが出来る。具体例としては、理研ビタミン(株)から商品名:リケマールHT−10として市販されているものが挙げられる。
【0022】
2)ポリオレフィン樹脂
本発明において、ポリオレフィン樹脂組成物(G)に使用されるポリオレフィン樹脂は、上記のペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有が可能であれば特に制限はない。
その中で、多孔膜形成のし易さの観点から、結晶性ポリプロピレン(A)とエチレン及びプロピレン以外のα−オレフィンの群から選ばれる少なくとも1種とプロピレンとの共重合体(B)(以下、単に「共重合体B」ということがある)とからなり結晶性ポリプロピレン(A)のマトリックス中に共重合体(B)がドメインとして微分散しているポリオレフィン樹脂(C)が、好適に使用できる。また、結晶性ポリプロピレン(A)のメルトマスフローレイトMFRPPと共重合体(B)のメルトマスフローレイトMFRRCとのメルトマスフローレイト比MFRPP/MFRRC(以下、「MFR比」という)は、特に限定されないが、成形加工性の観点から10を超え1,000以下の範囲が好ましい。また、ポリオレフィン樹脂(C)における、結晶性ポリプロピレン(A)の含量は30〜70重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましく、共重合体(B)の含量は70〜30重量%が好ましく、60〜40重量%がより好ましい。結晶性ポリプロピレン(A)と共重合体(B)の含量が上記の範囲であれば連通した細孔が得られ共重合体(B)の分散性も良い。
【0023】
結晶性ポリプロピレン(A)は、主としてプロピレン重合単位からなる結晶性の重合体であり、好ましくはプロピレン重合単位が全体の90重量%以上であるポリプロピレンである。具体的には、プロピレンの単独重合体であってもよく、また、プロピレン重合単位90重量%以上とエチレン及び/またはα−オレフィン10重量%以下との共重合体であってもよい。結晶性ポリプロピレン(A)が共重合体の場合に使用されるα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等を挙げることができる。このうち、プロピレン単独重合体またはプロピレン重合単位の含量が90重量%以上のプロピレン−エチレン共重合体を用いるのが、製造コストの点から好ましい。
【0024】
また、結晶性ポリプロピレン(A)のメルトマスフローレイトMFRPPは、製膜の安定性から、好ましくは0.1〜50g/10min、より好ましくは30〜40g/10minの範囲内のものが用いられる。
【0025】
共重合体(B)は、プロピレンとエチレン及び/またはプロピレン以外のα−オレフィンとのランダム共重合体である。プロピレン重合単位の含量は、共重合体(B)全体に対し重量基準で30〜80重量%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは35〜75重量%、更に好ましくは40〜70重量%、最も好ましくは60〜70重量%である。プロピレン重合単位の含量が前記の範囲であれば、結晶性ポリプロピレン(A)のマトリックス中に存在する共重合体(B)領域に細孔が形成され易く、低温延伸性が良好で、細孔径も微細なものとなり易い。
【0026】
共重合体(B)に使用されるプロピレン以外のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。このうちα−オレフィンとしてエチレンを用いたプロピレン−エチレン共重合体が、製造コストの点から好ましく用いられる。
【0027】
共重合体(B)のメルトマスフローレイトMFRRCは特に限定されないが0.05〜20g/10minの範囲が成形加工性に優れるため好適である。
【0028】
ポリオレフィン樹脂(C)の製造方法は特に限定されず、上記の条件を満足すれば、いかなる製造方法を用いてもよい。例えば、各々別個に重合して得られた結晶性ポリプロピレン(A)と共重合体(B)にペンタエリスリトール脂肪酸エステルを溶融混練等によって混合することによりポリオレフィン樹脂(C)を製造してもよい。具体的には、チタン担持触媒等のチーグラーナッタ触媒を用いて重合した共重合体(B)や共重合体(B)に該当する市販のエチレン−プロピレンゴムと結晶性ポリプロピレン(A)とペンタエリスリトール脂肪酸エステルを溶融混合する方法が例示できる。
【0029】
また、結晶性ポリプロピレン(A)と共重合体(B)とを多段重合により連続的に重合することによってポリオレフィン樹脂(C)を製造してもよい。例えば、複数の重合器を使用し、1段目で結晶性ポリプロピレン(A)を製造し、引続き2段目で結晶性ポリプロピレン(A)の存在下に共重合体(B)を製造し、ポリオレフィン樹脂(C)を連続的に製造する方法が例示できる。この連続重合法は、上記した溶融混合法に比べて製造コストが低く、また、結晶性ポリプロピレン(A)中に共重合体(B)が均一に分散したポリオレフィン樹脂(C)が安定して得られるため好ましい。
【0030】
本発明において、特に好ましいポリオレフィン樹脂(C)は、上記連続重合法により製造し、前記MFR比を10を超え1,000以下、更に好ましくは500〜800の範囲となるように調整したものである。MFR比をこの範囲とすることにより、結晶性ポリプロピレン(A)中に共重合体(B)が均一にかつ微細に分散するため、ポリオレフィン樹脂(C)の延伸処理を行う際に、結晶性ポリプロピレン(A)中に分散した共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に均一かつ微細な細孔が生じ、その結果、細孔径が小さく空隙率の大きい多孔膜が得られる。
【0031】
尚、本発明において共重合体(B)領域とは、共重合体(B)自体が占める領域、及び共重合体(B)とそれに隣接する物質との境界領域をいう。従って、共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に生じる細孔には、共重合体(B)領域内のラメラ結晶とラメラ結晶間で生じる開裂による細孔、及び結晶性ポリプロピレン(A)等と共重合体(B)領域内のラメラ結晶との境界領域で生じる界面剥離による細孔が含まれる。
【0032】
前記のようなMFR比を有するポリオレフィン樹脂(C)は、具体的には国際公開第97/19135号パンフレット、特開平8−27238号公報等に記載されている方法により製造することができる。
尚、ポリオレフィン樹脂(C)は前記の方法で製造することができる他に、市販品の中から所望の仕様のものを選択して用いてもよい。
【0033】
尚、前記MFR比は、通常は結晶性ポリプロピレン(A)のMFRPP及び共重合体(B)のMFRRCを各々測定することにより求められる。しかし、ポリプロピレン樹脂を多段重合により連続的に製造した場合(最初に結晶性ポリプロピレン(A)を重合し、次いで共重合体(B)を重合する場合)は、共重合体(B)のMFRRCを直接測定できないため、直接測定可能な結晶性ポリプロピレン(A)のMFRPP、得られるポリオレフィン樹脂(C)のメルトフローレートMFRWHOLE(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)及びポリオレフィン樹脂(C)中の共重合体(B)の含有量WRC(重量%)から、下記式によりMFRRCを算出して、MFR比を求めることができる。
log(MFRRC)={log(MFRWHOLE)−(1−WRC/100)log(MFRPP)}/(WRC/100)
【0034】
また、本発明においてポリオレフィン樹脂組成物(G)に使用されるポリオレフィン樹脂はポリオレフィン樹脂が、前記ポリオレフィン樹脂(C)35〜89重量%、メルトマスフローレイトMFR(D)が1g/10min以上、30g/10min未満の範囲内である高密度ポリエチレン(D)5〜25重量%、メルトマスフローレートMFR(E)が0.1g/10min以上10g/10min未満の範囲である結晶性ポリプロピレン(E)5〜25重量%、及び結晶性ポリオレフィン・エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンのトリブロックを有するブロック共重合体(CEBC)(F)1〜15重量%の混合物であると、得られたポリオレフィン樹脂多孔膜は細孔径が小さく空隙率が高く、それを用いた電池セパレータは、誤使用等により電池内部が異常に温度上昇し発火等の事故が生じるのを防止するために、ある程度の温度に達したらセパレータが膜破れすることなく細孔を閉塞して電流をシャットダウンする機能に優れる。
【0035】
3)ポリオレフィン樹脂組成物(G)
本発明のポリオレフィン樹脂多孔膜を形成するための膜状成形物の成形材料であるポリオレフィン樹脂組成物(G)(以下、単に樹脂組成物(G)ということがある)には、前記のペンタエリスリトール脂肪酸エステル及びポリオレフィン樹脂の他に、通常のポリオレフィンに使用される酸化防止剤、中和剤、α晶造核剤、β晶造核剤、ヒンダードアミン系耐候剤、紫外線吸収剤、防曇剤や帯電防止剤等の界面活性剤、無機充填剤、滑剤、アンチブロッキング剤、抗菌剤、防黴剤、顔料等を必要に応じて配合することができる。
【0036】
酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系酸化防止剤、またはトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジフォスフォナイト等のリン系酸化防止剤等が例示できる。
【0037】
中和剤としてはステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸塩類が例示でき、無機充填剤及びブロッキング防止剤としては炭酸カルシウム、シリカ、ハイドロタルサイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が例示でき、滑剤としてはステアリン酸アマイド等の高級脂肪酸アマイド類が例示でき、帯電防止剤としてはグリセリンモノステアレート等の脂肪酸エステル類が例示できる。
【0038】
α晶造核剤としては、タルク、アルミニウムヒドロキシ−ビス(4−t−ブチルベンゾエート)、1・3,2・4−ジベンジリデンソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(2’,4’−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1・3,2・4−ビス(3’,4’−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1・3−p−クロルベンジリデン−2・4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1・3,2・4−ビス(p−クロルベンジリデン)ソルビトール、ナトリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウムジヒドロキシ−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等の公知のα晶造核剤が挙げられる。これらは単独使用でも、2種以上の併用でも良い。
【0039】
これらの添加剤の配合量は、ポリオレフィン樹脂多孔膜の使用目的等により適宜選択することができるが、通常樹脂組成物(G)全量に対し0.001〜5重量%程度とするのが好ましい。
【0040】
また、本発明のポリオレフィン樹脂多孔膜を形成するための樹脂組成物(G)には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とするプロピレン以外の単量体との二元以上のランダム重合体やポリエチレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等の他のオレフィン樹脂の1種以上を併用しても構わない。
【0041】
更に、樹脂組成物(G)の軟化温度を低下させたり柔軟性を向上させるためにシングルサイト触媒や公知のマルチサイト触媒で重合されたエチレン−ジエン弾性共重合体、エチレンープロピレン弾性共重合体、スチレン−ブタジエン弾性共重合体等の弾性共重合体を添加しても構わない。
【0042】
樹脂組成物(G)と上記添加剤を配合する方法は特に限定されず、例えばヘンシェルミキサー(商品名)等の高速撹拌機付混合機及びリボンブレンダー並びにタンブラーミキサー等の通常の配合装置により配合する方法(ドライブレンド)が例示でき、更に通常の単軸押出機または二軸押出機等を用いてペレット化する方法が例示できる。
【0043】
4)ポリオレフィン樹脂多孔膜の形成
本発明のポリオレフィン樹脂微多孔膜は、樹脂組成物(G)を溶融混練し膜状溶融物とし、該膜状溶融物をドラフト比1〜10の範囲で膜状成形物に成形した後、その膜状成形物を100℃以下の温度で少なくとも一方向に延伸することにより形成することができる。その工程は、製膜工程、熱安定化剤の添加工程、延伸工程からなる。
【0044】
(i)製膜工程
樹脂組成物(G)から膜状成形物を得るための製膜工程には、公知の多孔膜の製膜方法を用いればよいが、例えばインフレーションフィルム成形法、Tダイフィルム成形法、カレンダー成形法等の方法で製膜することができる。
【0045】
インフレーションフィルム成形法、Tダイフィルム成形法の場合、前記樹脂組成物(G)は、180℃以上の押出成形温度で製膜することができるが、ダイス内圧力を低減させ後述のドラフト比を低減させる目的と、マトリックスポリマーである結晶性ポリプロピレン(A)の剛性を向上させて結晶性ポリプロピレン(A)中に分散したプロピレン−α−オレフィン共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に均一かつ微細な細孔が生じさせやすくするため、220〜300℃の押出成形温度が好適に用いられる。
【0046】
溶融混練された樹脂組成物(G)は、ダイリップより押し出されるが、この際、ダイリップを通過する樹脂組成物(G)の流れ方向(MD)の線速度VCLと膜状成形物の流れ方向(MD)の線速度Vの比で定義されるドラフト比(VCL/V)が本願発明を達成するための重要な要因である。一般に熱可塑性樹脂フィルムの成形時にはドラフト比は10〜50程度である。本発明においては、樹脂組成物(G)を製膜する際のドラフト比は1〜10であり、これによって得られる膜状成形物は延伸性に優れ、延伸によって微細な連通した細孔が形成され易くなる。
【0047】
カレンダー成形法の場合、カレンダーへの投入以前の樹脂組成物(G)の予備混練には、バンバリーミキサー、予備混練ロールを使用する方法、単軸、2軸、プラネタリー等のイクストルーダーを用いる方法等、公知の方法が用いられるが、前述のマトリックスポリマーである結晶性ポリプロピレン(A)の剛性を向上させて結晶性ポリプロピレン(A)中に分散した共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に均一かつ微細な細孔が生じさせやすくするため、220〜300℃の温度が好適に用いられ、また該温度を保って安定したカレンダーへの予備混練物を投入するには、イクストルーダーが好適に使用される。
【0048】
カレンダー成形法は、ロールの本数として2本〜6本、配列としてL型、逆L型、Z型、およびロール径を代えたもの等既知のカレンダー装置を用いることができるが、特に200μm以下の薄い製膜には厚み精度の面から4本以上のロールが好適に用いられ、カレンダーロールの温度としては160〜220℃が好ましい。
また、最終ロールを剥離したフィルムはテイクオフロールへと巻き取られるが、カレンダー最終ロールの回転表面速度(V0)とテイクオフロールの回転表面速度(V1)の比(V1/V0)がドラフト比として定義され、この場合も上記同様に本発明においては、該樹脂組成物を製膜する際のドラフト比は1〜10であり、より好ましくはドラフト比1〜5であり、これによって得られる膜状成形物は延伸性に優れ、延伸によって微細な連通した細孔が形成され易くなる。
【0049】
また、マトリックスポリマーである結晶性ポリプロピレン(A)の剛性を向上させて結晶性ポリプロピレン(A)中に分散した共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に均一かつ微細な細孔を生じさせやすくするため、ダイリップより押出される膜状成形物の冷却は、徐冷とすることが望ましく、インフレーション成形の場合は空冷式の冷却方式が望ましく、Tダイフィルム成形法の場合はテイクオフロール100〜150℃、冷却ロールの温度70〜120℃の範囲で冷却することが望ましい。
また、カレンダー成形法の場合は、テイクオフロール100〜150℃、冷却ロールの温度70〜120℃の範囲で冷却することが望ましい。100℃未満のテイクオフロール温度、および60℃未満の冷却ロール温度では所期の多孔化が得られ難く、一方冷却ロール温度が130℃を超えると溶融樹脂がロールへ密着しやすく生産性に劣る等の課題がある。
【0050】
製膜工程で得られた膜状成形物の厚さは特に限定されるものではないが、次の延伸工程における延伸及び熱処理条件と多孔膜の用途の要求特性によって決定され、20μm〜2mm、好ましくは50μm〜500μm程度であって、製膜速度は1〜100m/minの範囲が好適に用いられる。これらの厚さの膜状成形物は、インフレーション成形装置を初めとして、前記冷却ロールとエアー吹き出し口を有するエアーナイフ、前記冷却ロールと一対の金属ロール、前記冷却ロールとステンレスベルト等の組み合わせからなるTダイフィルム成形装置やカレンダー成形装置等の各種製膜装置により得られる。
【0051】
更に、本発明においては、公知の無機質充填剤、有機質充填剤等を含有した樹脂組成物を、樹脂組成物(G)と共押出しして膜状成形物としても構わない。この場合、充填剤等を含有した樹脂組成物を構成するポリマーは、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂が相溶性の観点から望ましい。
【0052】
尚、得られた膜状成形物には、次の延伸工程に供する前に、結晶化度を更に向上させるために熱処理を施しても構わない。熱処理は、例えば、加熱空気循環オーブンまたは加熱ロールにより、80〜150℃程度の温度で1〜30min間程度加熱することにより実施される。
【0053】
(ii)樹脂組成物(G)製造工程
ポリオレフィン樹脂にペンタエリスリトール脂肪酸エステルを配合する方法は特に限定されず、例えばヘンシェルミキサー(商品名)等の高速撹拌機付混合機及びリボンブレンダー並びにタンブラーミキサー等の通常の配合装置により配合する方法(ドライブレンド)が例示でき、更に通常の単軸押出機または二軸押出機等を用いてペレット化する方法が例示できる。
【0054】
(iii)延伸工程
前記製膜工程で製膜された膜状成形物は、次いで少なくとも縦(MD)方向もしくは横(TD)方向のいずれか一方向に延伸され、結晶性ポリプロピレン(A)中に微分散した共重合体(B)領域内のラメラ結晶間に連通した細孔が形成される。この点が、本発明の製造方法が、従来技術である単成分延伸法、多成分延伸法及び混合抽出法等と根本的に異なるところである。これにより本発明の製造方法は、混合抽出法のような複雑な抽出及び乾燥工程等の製造工程や、結晶性ポリオレフィン(A)のラメラ結晶間のフィブリル化により細孔を発現させる単成分延伸法に見られる製膜後の熱処理による結晶化工程等を不要とするだけでなく、マトリックスポリマーと充填剤の界面に空隙を生じさせる多成分延伸法の場合の延伸性不良や平均細孔径が大きくなりやすく空隙率が低い等の課題を大幅に改善し、任意の平均細孔径や空隙率を有する多孔膜を優れた生産性を以って提供することを可能にする。
【0055】
延伸の方法は、一方向に延伸する一軸延伸法の他に、一方向に延伸した後、もう一方の方向に延伸する逐次二軸延伸法、縦横方向に同時に延伸する同時二軸延伸法、更に、一軸方向に多段延伸を行ったり、逐次二軸延伸や同時二軸延伸の後に更に延伸を行う方法が挙げられ、何れの方法を用いても良い。尚、膜状成形物は前記製膜工程においてドラフトされるため、たとえ低ドラフト比で製膜された膜状成形物であっても、結晶性ポリプロピレン(A)中に微分散する共重合体(B)は樹脂の流れ方向つまり縦(MD)方向に沿って配向しており、一段目の延伸は横方向への一軸延伸法もしくは縦横方向への同時二軸延伸法により行うことが望ましいが、一段目に縦方向への延伸を行い二段目に横方向へ延伸を行う逐次二軸延伸法でも構わない。
【0056】
この一段目の延伸温度は、共重合体(B)の融点Tmαより低いことが好ましく、10〜100℃の温度範囲が好適に用いられ、延伸倍率は、特に限定はなく必要に応じ行われる二段目の延伸条件や多孔膜の用途の要求特性から決定されるが、通常1.5倍〜7倍の範囲である。
延伸倍率が上記の範囲であれば優れた特性を持つ多孔膜が得られ、延伸切れの多発による生産性低下の恐れもない。また、同時二軸延伸の場合には、面積倍率(=縦延伸倍率×横延伸倍率)は2〜50倍が好ましく、更に好ましくは4〜40倍である。面積倍率がこの範囲であれば優れた特性を持つ多孔膜が得られ、延伸切れの多発による生産性低下の恐れもない。
【0057】
本発明の多孔膜は、必要に応じ二段目の延伸を行うが、二段目の延伸温度は、共重合体(B)の融点Tmαより高い場合には、空隙率がそれほど増加せず、得られる微多孔膜の厚さが低減する傾向がある。更に、該延伸温度がTmαより低い場合には、空隙率が増加するが、厚さがあまり低減しない傾向がある。
【0058】
二段目の延伸倍率は、多孔膜の用途の要求特性により決定されるが、通常1.5倍〜7倍の範囲である。
延伸倍率が上記の範囲であれば、延伸効果が十分で、延伸切れも起こりにくく、生産性も良好となる。
【0059】
上記の延伸工程で細孔が形成され多孔質となった膜状成形物は、次いで熱処理されることが好ましい。この熱処理は、形成された細孔を保持するための熱固定を主なる目的とするものであり、通常、加熱ロール上、加熱ロール間または熱風循環炉を通すことによって行なわれる。
【0060】
この熱処理(熱固定)は、延伸状態を保持したまま多孔質となった膜状成形物を共重合体(B)の融点Tmαより50〜60℃低いことが好ましく、緩和率を0〜50%とすることにより実施される。加熱温度が上記の範囲であれば、形成された細孔が閉塞することもなく、また、熱固定が十分なため、後に細孔が閉鎖することもなく、またポリオレフィン樹脂微多孔膜として使用する際に温度変化により熱収縮を起こしにくい。
【0061】
本発明のポリオレフィン樹脂多孔膜の厚さは、特に限定されるものではないが、生産性の観点から10〜200μm程度が好ましい。
【0062】
透気抵抗度(ガーレー)においては、10〜20,000s/100ml、平均孔径が0.05〜0.2μm、孔径分布指数(最大孔径(μm)/平均孔径(μm))が1.3〜2.0の微多孔膜を得ることができる。微多孔膜の孔径と孔径分布を適度な範囲にすることにより、高いろ過精度が求められる分離膜、電池セパレータ、通気防水材等の建築資材分野、使い捨ておむつ用通気性シート等の衛材分野等に好適に使用可能である。
【0063】
本発明のオレフィン樹脂多孔膜には、必要に応じ、界面活性剤処理、コロナ放電処理、低温プラズマ処理、スルホン化処理、紫外線処理、放射線グラフト処理等の親水化処理を施すことができ、また各種塗膜を形成することができる。
【0064】
上記の方法で得られるポリオレフィン樹脂多孔膜は、従来の多孔膜と同様に、空気清浄化や水処理用の濾過膜または分離膜、電池や電気分解用のセパレータ、建材や衣料等の透湿防水用途等、各種の分野に用いることができる。また熱保存安定性に優れているので、電池用セパレータ、フィルター等として好適に使用できる。
【0065】
5)電池
本発明のポリオレフィン多孔膜は、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池のセパレータとして好ましく用いることができるが、特にリチウム二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。以下リチウム二次電池を例にとって説明する。
【0066】
リチウム二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されており、セパレータは電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、公知の構造であってよい。例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、帯状の正極及び負極が重ねられて巻回された電極構造(巻回型)等の構造とすることができる。
【0067】
正極は、通常集電体とその表面に形成されたリチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む正極活物質層とを有する。例えば、正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム複合酸化物)、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられ、遷移金属としては、V、Mn、Fe、Co、Ni等が挙げられる。正極活物質の中でリチウム複合酸化物の好ましい例としては、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、α−NaFeO2型構造を母体とする層状リチウム複合酸化物等が挙げられる。
【0068】
負極は、金属リチウム、リチウムと他の金属との合金、カーボンやグラファイト等のリチウムイオンを吸着する能力またはインターカレーションにより吸蔵する能力を有する炭素材料、リチウムイオンをドーピングした導電性高分子材料等が知られており、また正極としては例えば(CFxnで示されるフッ化黒鉛、MnO2、V25、CuO、Ag2CrO4、TiO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24等の金属酸化物や硫化物、塩化物が挙げられる。
【0069】
非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の高沸点及び高誘電率の有機溶媒や、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低沸点及び低粘度の有機溶媒が挙げられ、これら溶媒にLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252等の電解質を溶解したものが使用されている。
【0070】
電池を組み立てる際に、セパレータに電解液を含浸させる。これによりセパレータ(微多孔膜)にイオン透過性を付与することができる。通常、含浸処理は微多孔膜を常温で電解液に浸漬して行う。例えば、円筒型電池を組み立てる場合、まず正極シート、ポリオレフィン微多孔膜からなるセパレータ、及び負極シートをこの順に積層し、この積層体を一端より巻き取って巻回型電極素子とする。次にこの電極素子を電池缶に挿入し、上記電解液を含浸させ、さらに安全弁を備えた正極端子を兼ねる電池蓋をガスケットを介してかしめることにより電池を得ることができる。
【0071】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
尚、ポリオレフィン樹脂組成物(G)に用いられたポリオレフィン樹脂(C)は、連続重合法により1段目で結晶性ポリプロピレン(A)を重合し、2段目で共重合体(B)(プロピレン−エチレン共重合体)を重合して製造された。
【0072】
実施例、比較例で得られた多孔膜の測定方法及び評価方法は下記の(a)〜(g)の通りである。
(a)空隙率:延伸後の多孔膜サンプル100×100mmから嵩比重を求め、また、延伸前の多孔化されていないサンプル100×100mmから(株)東洋精機製作所製の自動比重計DENSIMETER,D−Sにて真比重を求め、下記式より空隙率を求めた。
空隙率(%)=(1−嵩比重/真比重)×100
【0073】
(b)平均孔径及び最大細孔径:ASTM F 316に準拠し、PMI社製のPerm−Porometerを用いGalwic(商品名)の試薬を使用してポリオレフィン樹脂多孔膜の孔径を測定し、平均流量細孔径を平均細孔径、バブルポイント細孔径を最大細孔径とした。
【0074】
(c)孔径分布:
孔径分布指数は、Perm−Porometerを用いたポリオレフィン樹脂多孔膜の孔径測定で得られた最大孔径と平均孔径から算出した。孔径分布指数=最大孔径(μm)/平均孔径(μm)
【0075】
(d)メルトマスフローレイト:MFRはJIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定した。(但し、MFR(D)だけはJIS K 7210に準拠し、温度190℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定する。)
【0076】
(e)透気抵抗度(ガーレー):JIS P 8117に準じて、B型ガーレーデンソメーター(テスター産業(株)製)により空気100mlが通過する時間を測定した。
【0077】
(f)2032型コイン電池の組み立て
(f-i)正極
正極にはパイオニクス(株)製電極シート(集電体;アルミ箔15μm、活物質;コバルト酸リチウム)を用いた。この電極シートを直径15.95mmの円形に打ち抜いて正極を得た。
【0078】
(f-ii)負極
負極にはパイオニクス(株)製電極シート(集電体;銅箔10μm、活物質;天然球状グラファイト)を用いた。この電極シートを直径16.15mmの円形に打ち抜いて正極を得た
【0079】
(f-iii)電解液
溶媒にはエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1(容量比)にて混合し、電解質としてLiPFを1mol/Lに濃度調整した電解液(キシダ化学(株)製)を用いた。
【0080】
(f-iv)電池の組み立て
上記の正極、負極、電解液を用いて、正極及び負極をそれぞれ正極ケース及び負極ケースに入るようにし、これらの間に(1)で作製したポリオレフィン多孔膜からなるセパレータを挟んで重ね合わせた。次いで電解液を注入した後、ガスケットで密封して、2032型コイン電池を得た。
【0081】
(g)高温保存試験
得られた2032型コイン電池を用いて、高温保存の放電容量を測定し、90℃、7日間にて高温保存した。次に保存後の放電容量を同様の方法で測定した。保存前後での放電容量から、自己放電率は、(初期値の放電容量−保存後の放電容量)×100/初期の容量により算出した。また容量回復率は、保存後の放電容量×100/初期値の放電容量により算出した。
【0082】
(実施例1)
表1の実施例1に示すポリオレフィン樹脂(C)に、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのモノエステルとジエステルの混合物(商品名:リケマールHT−10、理研ビタミン(株)製)を2500ppmwの濃度となるように添加しヘンシェルミキサー(商品名)で混合後、2軸押出機(口径50mm)を用いて溶融混練してペレット化し、樹脂組成物(G)を得た。
得られた樹脂組成物(G)を押出温度260℃で溶融混練した後に、これをインフレーション法により押出し、ブロアーアップ比は1.0、ダイリップクリアランス(h Aμm)に対し得られる膜状成形物厚さ(h Bμm)の比で定義されるドラフト比(h Aμm/h Bμm)が≒1.4になるように調整しながら空冷式により徐冷固化し、折幅600mm、厚さ100μmの筒状の膜状成形物を得た。
得られた筒状の膜状成形物を開反し三菱重工業(株)製の逐次延伸装置にて機械方向(MD)は、25℃で3.0倍、及び垂直方向(TD)は、120℃、3.0倍で延伸し多孔膜を得た。該多孔膜の特性を表1に、また電池セパレータとしての特性を表2に示した。
【0083】
(実施例2)
表1の実施例2に示す樹脂組成物(G)を用いた以外は、実施例1に準じて多孔膜を得た。該多孔膜の特性を表1に、また電池セパレータとしての特性を表2に示した。
【0084】
(実施例3)
表1の実施例3に示す樹脂組成物(G)を用いた以外は、実施例1に準じて多孔膜を得た。該多孔膜の特性を表1に、また電池セパレータとしての特性を表2に示した。
【0085】
(比較例1)
表1の比較例1に示す樹脂組成物(G)を用いた以外は、実施例1に準じて多孔膜を得た。該多孔膜の特性を表1に、また電池セパレータとしての特性を表2に示した。
【0086】
(比較例2)
表1の比較例2に示す樹脂組成物(G)を用いた以外は、実施例1に準じて多孔膜を得た。該多孔膜の特性を表1に、また電池セパレータとしての特性を表2に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表2に示すようにペンタエリスリトール脂肪酸エステルを2500ppmw添加している実施例1の多孔膜を用いた電池は、添加していない比較例1の多孔膜を用いた電池に比べて、自己放電率の増加と容量回復率の低下が改善されている。一方、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの濃度を20000ppmw添加した比較例2では、自己放電率と容量回復率共に低下傾向であった。すなわち、本発明の多孔膜はペンタエリスリトール脂肪酸エステル(商品名リケマールHT−10)をある所定の濃度で添加することで、高温保存安定性に優れた電池用セパレータとして機能している。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリオレフィン樹脂多孔膜は、電池セパレータとして用いた場合、高温保温特性において優れるリチウムイオン電池を提供することができる。また他の用途として、分離膜、通気防水材等の建築資材分野、使い捨ておむつ用通気性シート等の衛材分野に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルを100〜15,000ppmw含有するポリオレフィン樹脂組成物(G)から形成された多孔膜。

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、または−CO−R’で表されるアルキルカルボニル基及び/またはアルケニルカルボニル基(R’は炭素数12〜22のアルキル基及び/またはアルケニル基)であり、かつR〜Rの少なくとも1つは水素である。)
【請求項2】
式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、または−CO−R’で表されるアルキルカルボニル基及び/またはアルケニルカルボニル基(R’は炭素数16〜18のアルキル基及び/またはアルケニル基)であり、かつR〜Rの少なくとも1つは水素である請求項1記載の多孔膜。
【請求項3】
式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、R〜Rのうち、2つまたは3つが水素であるエステル、またはこれらエステルの混合物である請求項1または2記載の多孔膜。
【請求項4】
脂肪酸がステアリン酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の多孔膜。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂組成物(G)を構成するポリオレフィン樹脂が、結晶性ポリプロピレン(A)30〜70重量%と、結晶性ポリプロピレン(A)中に分散したエチレン及びプロピレン以外のα−オレフィンの群から選ばれる少なくとも1種とプロピレンとの共重合体(B)30〜70重量%とからなり、結晶性ポリプロピレン(A)のメルトマスフローレートをMFRPP(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)とし、該共重合体(B)のメルトマスフローレートをMFRRC(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)とした時、メルトマスフローレートの比MFRPP/MFRRCが10を超え1,000以下の範囲のポリオレフィン樹脂(C)である請求項1〜4のいずれか1項記載の多孔膜。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂組成物(G)を構成するポリオレフィン樹脂が、請求項6記載のポリオレフィン樹脂(C)35〜89重量%、メルトマスフローレイトMFR(D)(JIS K 7210に準拠し、温度190℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)が1g/10min以上、30g/10min未満の範囲内である高密度ポリエチレン(D)5〜25重量%、メルトマスフローレートMFR(E)(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、公称荷重2.16kgの条件にて測定)が0.1g/10min以上10g/10min未満の範囲である結晶性ポリプロピレン(E)5〜25重量%、及び結晶性ポリオレフィン・エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンのトリブロックを有するブロック共重合体(CEBC)(F)1〜15重量%の混合物である請求項1〜5のいずれか1項記載の多孔膜。
【請求項7】
多孔膜が、ポリオレフィン樹脂組成物(G)を溶融混練して膜状溶融物とし、該膜状溶融物をドラフト比1〜10の範囲で膜状成形物に成形した後、その膜状成形物を少なくとも一方向に延伸することによって生じる開裂によって形成される連通した細孔を有する請求項1〜6のいずれか1項記載の多孔膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の多孔膜を用いたリチウムイオン電池用セパレータ。

【公開番号】特開2010−95630(P2010−95630A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267583(P2008−267583)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】