説明

多孔質シートの製造方法及び多孔質シート

【課題】優れた表面平滑性及び通気性等の特性を有し、さらにより高い強度を備えた多孔質シートを得ることができ、且つ連続・長尺で製造可能な、多孔質シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質フィルムの製造方法は、(I)超高分子量ポリエチレン粒子、水、界面活性剤及び増粘剤を混合して、前記超高分子量ポリエチレン粒子を前記水に分散させた分散液を準備する工程と、(II)前記分散液をフィルム上に塗布して、前記分散液の塗布層を形成する工程と、(III)前記塗布層を焼成する工程と、(IV)前記フィルムを剥離する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シートの製造方法及びその製造方法により得られる多孔質シートに関する。
【背景技術】
【0002】
板状またはシート状の部品を固定又は搬送するための手法の一つに、これらの部品を吸着固定用シートに吸着固定又は搬送する方法がある。この方法は、例えば、液晶表示装置用のガラス板や半導体ウェハの固定、積層セラミックコンデンサの製造に用いられる誘電シート等の搬送等に利用されている。
【0003】
例えば、誘電シートが積層されることによって形成される積層セラミックコンデンサを製造する場合、該誘電シートを吸引固定して搬送するための吸着固定用シートとして、プラスティック多孔質シートが用いられる。このような多孔質シートとしては、通気性、剛性及びクッション性等を考慮して、平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン(以下、「超高分子量ポリエチレン」を「UHMWPE」と略記する場合がある。)からなる多孔質シートを使用することが提案されている。
【0004】
UHMWPEからなる多孔質シートは、一般に、金型にUHMWPE粒子を充填し、焼結する等して製造される。しかし、この方法はバッチでの生産であり、この方法による多孔質シートの連続化及び長尺化は不可能である(特許文献1参照)。
【0005】
UHMWPEからなる多孔質シートの長尺品の製造方法として、高沸点溶媒にUHMWPE粒子を分散させ、この分散液をフィルム上に塗布して塗布層を形成、焼成し、最後に塗布層に含まれる前記高沸点溶媒を除去する工程を経る方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、基本的にUHMWPEの融点よりもかなり高い沸点を有する溶媒を用いる必要があった。また、この方法では、UHMWPEの焼結中に溶媒が揮発しないため、UHMWPE粒子同士の接触密度が低く、強度が発現しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−353788号公報
【特許文献2】特開2007−229943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の多孔質シートと同程度又はそれ以上の優れた表面平滑性及び通気性等の特性を備え、さらにより高い強度を有する多孔質シートを得ることができ、且つ連続・長尺で製造可能な、多孔質シートの製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような製造方法によって得られる多孔質シートを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記の方法を採用することにより前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の多孔質シートの製造方法は、
(I)超高分子量ポリエチレン粒子、水、界面活性剤及び増粘剤を混合して、前記UHMWPE粒子を前記水に分散させた分散液を準備する工程と、
(II)前記分散液をフィルム上に塗布して、前記分散液の塗布層を形成する工程と、
(III)前記塗布層を焼成する工程と、
(IV)前記フィルムを剥離する工程と、
を含む。
【0010】
また、本発明は、上記本発明の製造方法により得られたものであって、気孔率が20〜60%であり、少なくとも1面の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であり、厚さが10〜1000μmであり、且つ、少なくとも4MPa以上の引張強度を有する、多孔質シートを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、超高分子量ポリエチレン粒子の分散液をフィルム上に塗布して塗布層を形成、焼成することによって多孔質シートを作製するので、多孔質シートの連続・長尺での製造が可能である。さらに、本発明の製造方法では、分散液の溶媒に水を用いているので、超高分子量ポリエチレン粒子の焼結前又は焼結中に溶媒が揮発して粒子同士の接触密度が高くなり、多孔質シートのより高い強度を実現できる。また、分散液に含まれる増粘剤によって、分散液をフィルム上に塗布する際の超高分子量ポリエチレン粒子の流動拡散や溶媒からの分離を抑制できるので、塗布層においても超高分子量ポリエチレン粒子の良好な分散状態を維持できる。これにより、塗布層を焼成する工程での超高分子量ポリエチレン粒子間の結着が向上するので、多孔質シートの強度をさらに高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔質シートの製造方法の実施の形態について、以下に説明する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
【0013】
本実施の形態の多孔質シートの製造方法は、
(I)超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)粒子、水、界面活性剤及び増粘剤を混合して、前記UHMWPE粒子を前記水に分散させた分散液を準備する工程と、
(II)前記分散液をフィルム上に塗布して、前記分散液の塗布層を形成する工程と、
(III)前記塗布層を焼成する工程と、
(IV)前記フィルムを剥離する工程と、
を含んでいる。
【0014】
本実施の形態の製造方法は、工程(II)と工程(III)との間に、前記塗布層から水を除去する工程をさらに含んでいてもよい。水を除去する工程は、具体的には、フィルム上に形成された塗布層をUHMWPEの融点以下の温度に加熱し、塗布層中の水のみを蒸発させる方法等によって実現できる。
【0015】
まず、工程(I)における分散液の準備について説明する。
【0016】
UHMWPE粒子、水、界面活性剤及び増粘剤を混合して分散液を作製する。この分散液において、UHMWPE粒子と水との比率は特に限定はされないが、例えば、体積比で、水100に対してUHMWPE粒子10〜100程度が好ましく、40〜80程度がより好ましい。本実施の形態では、分散液の溶媒に水を用いているので、例えば工程(II)と工程(III)との間に水を除去する工程を設ける場合はその工程中に、そのような工程が別途設けられなかった場合でも例えば焼成工程中に、水が揮発して粒子同士の接触密度が高くなる。これにより、強度が向上した多孔質シートを作製できる。
【0017】
なお、UHMWPEとは、平均分子量50万以上のポリエチレンのことをいう。本実施の形態では、耐摩耗性に優れた多孔質シートを得るために、平均分子量100万以上のポリエチレンを用いることが好ましい。
【0018】
UHMWPE粒子の平均粒子径は、用途に応じて適宜選択することが可能であるが、10〜160μmとすることが好ましく、20〜100μmとすることがより好ましい。平均粒子径を160μm以下とすることにより、表面平滑性に優れた多孔質シートの製造が可能となる。また、平均粒子径を10μm以上とすることにより、多孔質構造の維持・制御が容易になる。なお、UHMWPE粒子の粒子径とは、レーザー回折・散乱法で測定される値であり、平均粒子径は本方法で得られる体積平均粒子径である。
【0019】
界面活性剤は、UHMWPE粒子の分散性を向上させるために添加される。本実施の形態で用いられる界面活性剤は、アニオン系、非イオン系及びカチオン系のいずれも目的に応じて選択することができるが、分子量の比較的小さいもの(分子量100〜4000程度のもの)が好適に用いられる。具体的には、アルキル酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びアルキルアミン塩等を用いることができる。水に対する界面活性剤の配合比率は特には限定されないが、体積比で、水100にして界面活性剤0.1〜30程度が好ましく、1〜10程度がより好ましい。
【0020】
増粘剤は、分散液をフィルム上に塗布する際の粘度調整、多孔質シートの強度発現、さらには分散液の流動性やUHMWP粒子の分離抑制を目的として添加される。本実施の形態で用いられる増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、カラギナン、メチルセルロース及びアルギン酸等の多糖類や、分子量の比較的高い(分子量2000〜10000程度の)界面活性剤等が挙げられる。水に対する増粘剤の配合比率は特には限定されないが、体積比で、水100に対して増粘剤0.1〜30程度が好ましく、1〜10程度がより好ましい。
【0021】
分散液に増粘剤を添加することにより、分散液をフィルム上に塗布する際に分散液が流動して広がってしまう問題を抑制できる。また、UHMWPE粒子から分散媒が分離することを抑制できる。したがって、フィルム上に形成された塗布層においても、UHMWPE粒子の良好な分散性を維持できる。そのため、後の焼成工程(工程(III))でのUHMWPE粒子間の結着度を向上させることができ、高い強度を有する多孔質シートを作製できる。
【0022】
分散液をフィルム上に塗布する際に気泡が発生することを防止する目的で、分散液に消泡剤をさらに添加してもよい。
【0023】
次に、工程(II)における分散液の塗布について説明する。
【0024】
分散液をフィルム上に塗布する。ここで用いられるフィルムは、耐熱性及び平滑性に優れるものが好ましい。本実施の形態ではフィルム上にUHMWPE粒子が塗布されるので、ポリエチレンテレフタレートやポリイミド等のフィルムが好ましい。これらのフィルムは耐熱性を十分に有しており、一般的に表面は極めて平滑であるため、多孔質シートのフィルム接触面の表面粗さRaを0.5μm以下にまで平滑化できる。また、アルミ箔等の金属フィルムを用いることも可能である。また、分散液との親和性を高めるために、フィルム表面に親水化処理を施してもよい。親水化処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ処理、親水性モノマーのグラフト処理等が挙げられる。塗布には、例えばダイス押出、コンマロール塗工、アプリケータ塗工及びドクターブレード塗工等の、粘ちょう物を塗布する一般的な方法を利用できる。
【0025】
塗布層の厚みは、得られる多孔質シートの使用目的や塗布するUHMWPE粒子の大きさにより異なるが、焼結後の厚みで10〜1000μm程度、例えば100〜500μm程度となるように塗布することが好ましい。これは、極端に薄く塗布すると、多孔質シートを形成する厚み方向の粒子の数が極めて少なくなって強度が発現しにくくなり、逆に、厚く塗布しすぎると、分散液が塗布中に流動して広がってしまい、安定的なシート化が困難となる場合があるからである。
【0026】
次の工程(III)では、フィルム上に形成された塗布層を焼成する。この工程により、塗布層中のUHMWPE粒子の焼結を行い、さらに溶媒を除去する。焼成温度としては、例えば130〜220℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。また、焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定すればよく、例えば1分〜1時間である。このようにして焼結を行った後、塗布層を冷却する。冷却の方法としては、室温で放置する、冷却ロールに通過させる等の方法を採用できる。
【0027】
その後、工程(IV)において、焼結された塗布層からフィルムを剥離することによって、多孔質シートが得られる。
【0028】
なお、多孔質シートの使用目的によっては、工程(III)よりも後に、多孔質シートに残存する界面活性剤を除去する工程をさらに含んでもよい。界面活性剤の除去は、他の溶媒で界面活性剤を抽出し、乾燥させることによって行うことができる。ここで用いられる溶媒としては、例えばエタノール及びメタノール等のアルコール類や、イオン交換水等が挙げられる。また、界面活性剤の除去は、超音波等の加振下で行ってもよい。超音波等の振動を印加すう場合、例えば10〜500kHzの超音波加振を1分〜2時間程度行うのが好ましい。また、この時、30〜100℃に加温してもよい。なお、界面活性剤が残存していても何ら問題がない用途に多孔質シートを用いる場合は、このような工程を行う必要はない。
【0029】
以上のような本実施の形態の製造方法によれば、気孔率が20〜60%であり、少なくとも1面(ここでは、製造時にフィルムに接触していた面)の表面粗さRaが0.5μm以下であり、厚さが10〜1000μmであり、且つ少なくとも4MPa以上の引張強度を有する多孔質シートを得ることが可能となる。このような本実施の形態の多孔質シートは、従来の製造方法で作製された多孔質シートと比較して、気孔率や表面粗さを同程度又はそれ以上に維持しつつ、より高い引張強度を有している。したがって、十分な強度を確保するためにシートの厚さを大きくする必要もないため、用途に応じて薄くすることも可能となる。また、上述したように、この多孔質シートは増粘剤が添加された分散液を用いて作製されるので、シートの厚さを大きくすることも可能となる。このように、本実施の形態における多孔質シートは、シート厚の調節幅が広いので、用途の自由度が向上する。
【0030】
なお、上記気孔率、表面粗さRa、厚さ及び引張強度は、後述の実施例で説明した方法と同様の方法にて求められる値のことである。
【0031】
本実施の形態における多孔質シートは、UHMWPEを用いて作製されているので通気性、剛性及びクッション性等に優れており、さらに高い強度を備えている。したがって、本実施の形態の多孔質シートは、板状またはシート状の部品の吸着搬送に用いられる吸着搬送材として好適に用いることができる。また、本実施の形態の多孔質シートは、燃料電池の空気極を外部に通気させ、且つ前記空気極で発生した水を回収するための、燃料電池用水回収膜に適用することも可能である。UHMWPEからなる多孔質シートは、多孔質シートの材料として一般に使用される樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン)の多孔質シートに比べて、膜表面に水蒸気が凝結しやすい、換言すれば、膜表面に結露が発生しやすい。さらに、UHMWPE多孔質シートは、膜表面に結露が発生した状態にあっても一定の通気性を確保しやすい。また、UHMWPE多孔質シートは、他の樹脂材料による多孔質シートと同様、粉塵の透過を防止できる。これらの理由により、本実施の形態の多孔質シートを燃料電池用水回収膜に好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0033】
(実施例1)
UHMWPE粉末(平均分子量200万、平均粒子径30μm)を、水、「TritonX−100(商品名、Roche Applied Science社製)」(界面活性剤)及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(増粘剤)と混合し、UHMWPE粉末を水に分散させた分散液を得た。この時の配合比は、水/UHMWPE/界面活性剤/増粘剤=100/60/5/2(体積比)とした。この分散液を、ポリイミドフィルム(表面粗さRa<0.1)上に、ドクターブレードを用いて厚さ800μmとなるように塗布して、分散液の塗布層を形成した。このフィルム上に形成された塗布層を、180℃にセットされた乾燥機に投入して10分間静置して、焼成した。これを取り出して室温まで自然冷却した後、裏面のポリイミドフィルムを剥がして、UHMWPEのシート状物を得た。その後、超音波洗浄槽中でこのシート状物を蒸留水洗浄し、界面活性剤が十分に抽出された多孔質シートを得た。
【0034】
(実施例2)
水/UHMWPE/界面活性剤/増粘剤=100/80/5/2(体積比)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の多孔質シートを作製した。
【0035】
(比較例1)
水の代わりに高沸点溶媒であるグリセリンを用い、且つ増粘剤を用いず、さらにグリセリン/UHMWPE/界面活性剤=100/60/5(体積比)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の多孔質シートを作製した。
【0036】
(比較例2)
水の代わりに高沸点溶媒であるグリセリンを用い、且つ増粘剤を用いず、さらにグリセリン/UHMWPE/界面活性剤=100/80/5(体積比)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の多孔質シートを得た。
【0037】
(比較例3)
増粘剤を用いず、水/UHMWPE/界面活性剤=100/60/5(体積比)としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の多孔質シートを作製した。
【0038】
多孔質シートを吸着搬送材として用いる場合、制御が求められる多孔質シートの特性は、厚み、気孔率、通気性、強度、表面平滑性等である。そこで以上のようにして作製した各多孔質シートについて、以下の方法で各特性の測定及び評価を行った。なお、各測定結果及び評価結果は、表1に示すとおりである。
【0039】
[厚さ]
100mm×100mmのサイズに切断した多孔質シートのサンプルについて、JISB 7503のダイヤルゲージ(最小目盛0.001mm)を用いて概ね均等に4箇所測定し、その平均値を求めた。
【0040】
[通気性]
100mm×100mmのサイズに切断した多孔質シートのサンプルについて、JIS L 1096に記載のフラジール型通気度試験機にて評価を行った。両面差圧は125Paとした。
【0041】
[気孔率]
100mm×100mmのサイズに切断した多孔質シートのサンプルについて、次式にて算出した。
気孔率(%)=(1−見掛け密度/UHMWPEの真比重)×100
【0042】
[引張強度]
JIS K 6301規定のダンベル1号型で打ち抜いた多孔質シートのサンプルについて、25℃雰囲気中で、万能試験機「テンシロンRTC−1310A」((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、引張速度30mm/minで引っ張って破断した時の引張強度を測定した。
【0043】
[表面平滑性]
触針式表面粗さ計(株式会社東京精密製、「サーフコム550A」)を用い、先端径:R250μm、速度:0.3mm/sec、測定長:8mm、測定回数:n=5の条件にて表面粗さRaを測定し、その平均値を表面平滑性の尺度とした。なお、表面粗さRaの測定は、製造時にフィルムに接触していた面に対して行った。製造時にフィルムに接触していなかった面(露出していた面)の表面粗さRaは、いずれの多孔質シートも1.0〜1.5μmであり、接触面と比較して粗いことを確認した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、実施例1,2で作製したシートは、比較例1,2と同程度の十分な通気性及び表面平滑性を有していた。さらに、実施例1,2で作製したシートは、比較例1〜3で作製したシートに比べて、強度に非常に優れていた。比較例1,2のシートは、焼結時に周囲が高沸点溶媒に囲まれていたため、低い気孔率を発現することが難しく、それに伴ってシートの強度が十分に発現しなかったと考えられる。また、比較例1,2の方法では有機溶媒を用いているので、生産合理性や環境面への配慮という観点からも、本発明の方法に劣ると言える。さらに、比較例3では、増粘剤が含まれていないため、分散液が塗布の際に流動して広がってしまい、0.4mm厚のシート化が困難であった。強度についても、比較例1,2よりも低い値となった。
【0046】
以上より、本発明の製造方法によれば、環境面への負荷を低減しつつ、さらに従来の製造方法によって作製される多孔質シートよりも良好な物性を有する多孔質シートを得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法によって得られる多孔質フィルムは、優れた通気性及び表面平滑性を有し、さらに高い強度を備えているので、吸着搬送に用いられる吸着搬送材として好適に利用できる。さらに、本発明の製造方法によって得られる多孔質フィルムは、燃料電池用水回収膜としても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)超高分子量ポリエチレン粒子、水、界面活性剤及び増粘剤を混合して、前記超高分子量ポリエチレン粒子を前記水に分散させた分散液を準備する工程と、
(II)前記分散液をフィルム上に塗布して、前記分散液の塗布層を形成する工程と、
(III)前記塗布層を焼成する工程と、
(IV)前記フィルムを剥離する工程と、
を含む、多孔質シートの製造方法。
【請求項2】
前記工程(II)と前記工程(III)との間に、前記塗布層から前記水を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項3】
前記工程(III)よりも後に、前記界面活性剤を除去する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項4】
前記超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒径が10〜160μmである、請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項5】
前記分散液において、前記界面活性剤は、体積比で、前記水100に対して0.1〜30の比率で配合されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項6】
前記分散液において、前記増粘剤は、体積比で、前記水100に対して0.1〜30の比率で配合されている、請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の製造方法により得られたものであって、
気孔率が20〜60%であり、少なくとも1面の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であり、厚さが10〜1000μmであり、且つ少なくとも4MPa以上の引張強度を有する、多孔質シート。

【公開番号】特開2010−247446(P2010−247446A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99962(P2009−99962)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】