説明

多孔質フィラーの製造方法、多孔質フィラー、耐熱性多孔質フィラーの製造方法および耐熱性多孔質フィラー

【課題】 全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高い多孔質フィラーを安定して製造する方法および該方法により得られる多孔質フィラーを提供する。
【解決手段】
層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状水溶性高分子バインダーと接触させた後、凍結乾燥処理して、マクロ気孔を有する多孔質フィラーを得ることを特徴とする多孔質フィラーの製造方法および該方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とする多孔質フィラーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィラーの製造方法、多孔質フィラー、耐熱性多孔質フィラーの製造方法および耐熱性多孔質フィラーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、層状粘土鉱物の層間に、有機イオン、無機イオン、ゾル粒子あるいはカップリング剤等を導入することにより、層間に細孔が形成された多孔質フィラーが開発されるに至っている。
【0003】
この多孔質フィラーは、原料である層状粘土鉱物に比べて、比表面積や細孔容積が大きく、また耐熱性や吸着活性が高いものであることから、ペンキ等の顔料の増粘剤、ゴム組成物の改質剤、触媒、吸着剤、イオン交換体等への利用が試みられており、あるいは層間に電子供与性の化合物を導入することによりフォトクロミズム、エレクトロミズム等の特性を備えた機能性材料として工業的利用が試みられている。
【0004】
しかしながら、上記多孔質フィラーとしては、気孔径が2nm以下であるミクロ気孔や気孔径が2nm超50nm以下であるメソ気孔の存在比率が高いものは報告されているが、気孔径が50nm超であるマクロ気孔の存在比率が高いものは報告されていない。
【0005】
一方、近年、摩擦・摩耗調整成分として吸水性の高い層状粘土鉱物を使用することにより、制動時におけるノイズの発生を抑制した摩擦材が開発されている。例えば、特許文献1には、制動力の低下を極力防止しながら制動時の鳴きを有効に防止し得る摩擦材として、繊維質と、マイカ(雲母)、タルク(滑石)等の平面状結晶構造を有する層状粘土鉱物とを含む熱硬化性樹脂からなる摩擦材が開示されている。また、特許文献2には、制動時の鳴き抑制性能が良好で、耐フェード性および耐摩耗性も良好な摩擦材として、繊維成分と、熱硬化性樹脂成分とともに、層状粘土鉱物であるバーミキュライトの樹脂コーティング物を含む摩擦材が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記摩擦材を構成する層状粘土鉱物は、一般に層間への吸水性が高いため、フィラーとして使用した場合、吸水時の膨張により摩擦材に変形およびひび割れが発生する場合があったり、層状物質をフィラーとして用いた複合材料を圧縮成形すると、アスペクト比の高い板状の粒子が成形圧力方向に対して垂直に配向するため、成形圧力方向に対して垂直方向の強度が低下してしまったりする。また、摩擦材を構成する層状粘土鉱物としては、層間にマクロ気孔が高い存在確率で形成されていることが好ましいところ、このような層状粘土鉱物は報告されるに至っていない。
【特許文献1】特許第2867661号公報
【特許文献2】特許第2827140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高い多孔質フィラーを安定して製造する方法および該方法により得られる多孔質フィラーを提供することを第1の目的とするものであり、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高く、疎水性で強度の高い耐熱性多孔質フィラーを安定して製造する方法および該方法により得られる耐熱性多孔質フィラーを提供することを第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を媒体中で製造した場合に、反応直後においてはマクロ気孔の存在比率が高い状態にあるにも拘わらず、乾燥工程においてマクロ気孔が潰れてしまうことによって、得られる多孔質フィラーにおけるマクロ気孔の存在比率が低くなってしまうことを見出した。
【0009】
上記知見に基づいて、本発明者等は、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状の水溶性高分子バインダーと接触させた後、凍結乾燥処理して多孔質フィラーを得ることにより、第1の目的を達成し得ることを見出し、また、上記多孔質フィラーを焼成処理して耐熱性多孔質フィラーを得ることにより、第2の目的を達成し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状水溶性高分子バインダーと接触させた後、凍結乾燥処理して、マクロ気孔を有する多孔質フィラーを得ることを特徴とする多孔質フィラーの製造方法、
(2)前記層状粘土鉱物が、陽イオン交換能を有するものである上記(1)に記載の多孔質フィラーの製造方法、
(3)前記カップリング剤が、式
SiX4−n
(式中、nは0〜3の整数であり、Rは炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるシラン系カップリング剤である上記(1)または(2)に記載の多孔質フィラーの製造方法、
(4)前記ゲル状水溶性高分子バインダーが、ゼラチン、寒天、マンノース、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプン、アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコールからなるものから選ばれる1種以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質フィラーの製造方法、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とする多孔質フィラー、
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により得られた多孔質フィラーを焼成処理して、マクロ気孔を有する耐熱性多孔質フィラーを得ることを特徴とする耐熱性多孔質フィラーの製造方法、および
(7)上記(6)に記載の方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とする耐熱性多孔質フィラー
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高い多孔質フィラーを製造する方法および該方法により得られる多孔質フィラーを提供することができ、また、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高く、疎水性で強度の高い耐熱性多孔質フィラーを製造する方法および該方法により得られる耐熱性多孔質フィラーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、本発明の多孔質フィラーの製造方法について説明する。
本発明の多孔質フィラーの製造方法は、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状水溶性高分子バインダーと接触させた後、凍結乾燥処理して、マクロ気孔を有する多孔質フィラーを得ることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の多孔質フィラーの製造方法において、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物の原料となる層状粘土鉱物としては、陽イオン交換能を有する、天然粘土鉱物および合成粘土鉱物を挙げることができる。上記天然粘土鉱物および合成粘土鉱物としては、カオリナイト、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、緑泥石等を挙げることができ、スメクタイトとしては、モンモリロナイト、サポナイト、パイデライト、ノントロナイト等を挙げることができる。また、雲母をフッ素処理した合成フッ素雲母等を挙げることもでき、この合成フッ素雲母は、品質のバラツキが小さいことから層状粘土鉱物として好適であり、合成フッ素雲母としては、ナトリウム四ケイ酸フッ素雲母(NaMg2.5Si10)を例示することができる。これらの層状粘土鉱物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
また、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、アルミナ系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等を挙げることができ、このようなカップリング剤としては、Si、Al、Tiの無機塩、有機塩あるいはアルキルアルコキシル基等の疎水性アルコキシル基を1つ以上有する有機化合物を挙げることができる。中でも、シラン系カップリング剤を用いることが好ましい。
【0015】
シラン系カップリング剤としては、式
SiX4−n
(式中、nは0〜3の整数であり、Rは、炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは、加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0016】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、nは0〜3の整数であり、1〜3の整数であることが好ましく、1〜2の整数であることがより好ましい。
【0017】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、Rは炭化水素基である。炭化水素基としては、直鎖または分岐鎖を有する飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基を挙げることができ、これら炭化水素基は一価のものでも多価のものでもよい。
【0018】
炭化水素基の炭素数は、脂肪族炭化水素基である場合は、1〜25個、特に1〜3個が好ましく、芳香族炭化水素基である場合は、6〜25個、特に6〜10個が好ましく、脂環式炭化水素である場合は、3〜25個、特に3〜6個が好ましい。
【0019】
また、上記炭化水素基は、官能基を含有していてもよく、官能基としては、ビニル基、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0020】
上記シラン系カップリング剤において、Rが複数ある場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤において、Xは、加水分解性基または水酸基であり、加水分解性基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、ハロゲン原子を挙げることができる。
【0022】
上記シラン系カップリング剤において、Xが複数ある場合、Xは同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
上記RSiX4−nで表されるシラン系カップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2−エチルヘキシルトリメトキシシラン、2−ヘキセニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−β−ナフチルプロピルトリメトキシシラン、p−ビニルベンジルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
上記カップリング剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を製造する方法としては、例えば、酢酸水溶液等により膨潤、分散させた層状粘土鉱物と、エタノール等で希釈したカップリング剤とを、室温または加熱条件下で混合、攪拌して反応させる方法を挙げることができる。
【0025】
層状粘土鉱物とカップリング剤は、質量比で、層状粘土鉱物/カップリング剤が、1/0.5〜1/4となるように使用することが好ましく、1/0.5〜1/2となるように使用することがより好ましい。
【0026】
層状粘土鉱物は、結晶構造が繊維状あるいは平板状であって、その構造は約1000℃程度まで維持されるが、上述したような方法により、層状粘土鉱物とカップリング剤とを反応させる場合には、カップリング剤の疎水基の耐熱性を考慮して、混合、攪拌時の温度を決定する必要があることから、層状粘土鉱物とカップリング剤の反応温度は、室温〜100℃程度が好ましい。また、反応時間は2〜48時間が好ましい。
【0027】
上記反応により、層状粘土鉱物の層間に導入されたカップリング剤中の水酸基または加水分解性基が加水分解することにより生じた水酸基が、脱水縮合することにより、図1に模式的に示すように、カップリング剤2が層状粘土鉱物1の層間で固定されてミクロ気孔およびメソ気孔4が形成され、これらの固定物が立体的に複数結合することにより、層間にマクロ気孔3が形成されるものと考えられる。
【0028】
本発明の多孔質フィラーの製造方法においては、上記層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状水溶性高分子バインダーと接触させる。
【0029】
ゲル状水溶性高分子バインダーとしては、ゼラチン、寒天、マンノース、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプン、アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコールからなるものを挙げることができる。
【0030】
分散液としては、水等を挙げることができる。
【0031】
層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、ゲル状水溶性高分子バインダーと接触させる方法としては、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物含有液と、予め水等で膨潤させたゲル状水溶性高分子バインダーとを混合、攪拌する方法を挙げることができる。
【0032】
ゲル状水溶性高分子バインダーを水で膨潤する場合、ゲル状水溶性高分子バインダーの濃度は5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、ゲル状水溶性高分子バインダーの水膨潤物は、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物およびゲル状の水溶性高分子バインダー水膨潤物の総量に対して、質量比で、25%〜80%使用することが好ましく、50%〜80%使用することがより好ましい。
【0034】
層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物とゲル状水溶性高分子バインダーは、室温下で混合することが好ましい。
【0035】
また、上記混合物には、さらに、発泡剤を加えてもよく、発泡剤としては、重曹、アゾジカルボンアミド、N、N’−ジニトロソペンタメチルテトラミン等を挙げることができる。
【0036】
上記混合物は、その後凍結乾燥処理される。凍結乾燥処理は、予備凍結処理工程を含むことが好ましく、予備凍結処理は、−45〜−20℃で、24時間以上行うことが好ましい。予備凍結工程後、予備凍結物を溶解させることなく凍結乾燥させることが好ましく、凍結乾燥条件は、内部に氷塊が観察されなくなるように、かつ、氷が溶けないように適宜調整すればよく、通常、80Pa以下の減圧雰囲気下、20℃以下で、72〜96時間程度行うことが好ましい。
【0037】
上記凍結乾燥処理により、層状粘土鉱物とカップリング剤との反応時に形成されるマクロ気孔を維持し、マクロ気孔の存在比率の高い多孔質フィラーを製造することが可能になる。
【0038】
上記凍結乾燥物を、その後適宜粉砕、分級処理することにより、所望形状および所望サイズを有する多孔質フィラーを得ることができる。
【0039】
次に、本発明の多孔質フィラーについて説明する。
【0040】
本発明の多孔質フィラーは、本発明の多孔質フィラーの製造方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とするものである。
【0041】
本発明の多孔質フィラーは、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることにより、フィラーとして用いた際に、成形体中にマクロサイズの骨格構造を多数形成することができる。
【0042】
多孔質フィラーが粒子形状である場合、その平均粒径は、40〜150μmであることが好ましく、60〜100μmであることがより好ましく、80〜100μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径を意味し、体積平均粒子径は、例えば、粒度分布測定器等で測定することができる。
【0043】
次に本発明の耐熱性多孔質フィラーの製造方法について説明する。
本発明の耐熱性多孔質フィラーの製造方法は、本発明の多孔質フィラーの製造方法により得られた多孔質フィラーを焼成処理して、マクロ気孔を有する耐熱性多孔質フィラーを得ることを特徴とするものである。
【0044】
焼成処理は、酸素存在雰囲気下、700〜1000℃、好ましくは900〜1000℃で1〜3時間行うことが好ましい。
【0045】
本焼成処理によって、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率を高い状態に保持しつつ、ゲル状水溶性高分子を除去して、耐熱性、疎水性および高強度を付与することが可能になる。
【0046】
上記焼成処理後に粉砕、分級処理することにより、所望形状および所望サイズを有する耐熱性多孔質フィラーを得ることができるが、焼結処理前に凍結乾燥物を粉砕、分級処理している場合には、焼成処理後の粉砕、分級処理を省略することもできる。
【0047】
次に本発明の耐熱性多孔質フィラーについて説明する。
本発明の耐熱性多孔質フィラーは、本発明の耐熱性多孔質フィラーの製造方法により製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とするものである。
【0048】
本発明の耐熱性多孔質フィラーは、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることにより、フィラーとして用いた際に、成形体中にマクロサイズの骨格構造を多数形成することができる。
【0049】
耐熱性多孔質フィラーが粒子形状である場合、その平均粒径は、40〜150μmであることが好ましく、60〜100μmであることがより好ましく、80〜100μmであることがさらに好ましい。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0051】
実施例1(多孔質フィラーの製造例)
(a)層状粘土鉱物である合成フッ素雲母(コープケミカル社製、ME−100)13.3gを蒸留水800mLに膨潤させることにより、1.6質量%の合成フッ素雲母液を得、さらに酢酸23.3gを投入し、攪拌することにより合成フッ素雲母分散液を調製した。なお、上記調製の前後において、液温は80℃に維持した。
(b)カップリング剤であるメチルトリエトキシシラン23.6gをエタノール150mLで希釈し、良く攪拌することにより、メチルトリエトキシシラン分散液を調製した。
(c)上記(a)で得た合成フッ素雲母分散液と上記(b)で得たメチルトリエトキシシラン分散液を混合し、80℃で2時間攪拌・濃縮することにより、合成フッ素雲母とメチルトリエトキシシランとの反応物含有液を得た。
(d)ゲル状水溶性高分子バインダーであるゼラチン20gを蒸留水180mLで膨潤させることによりゼラチン膨潤物を得、このゼラチン膨潤物を、上記(c)で得た合成フッ素雲母とメチルトリエトキシシランとの反応物含有液に対して、固液比が1:9になるように混合し、攪拌した。
(e)上記(d)で得た混合、攪拌物を、−20℃で24時間予備凍結処理した後、凍結乾燥機(EYELA社製凍結乾燥機FD−5N)を用いて、80Paの減圧条件下、20℃で72時間凍結結乾燥処理した。
(f)上記(e)で得た凍結乾燥物を粉砕、分級処理することにより、平均粒径が100μmである粒子状の多孔質フィラー33.3gを得た。
【0052】
実施例2(耐熱性多孔質フィラーの製造例)
実施例1で得られた多孔質フィラー33.3gを、700℃で2時間焼成することにより耐熱性多孔質フィラー13.3gを得た。
実施例2で得られた耐熱性多孔質フィラーは、実施例1で得られた多孔質フィラーと比べて、疎水性および強度が向上していた。
【0053】
比較例1(多孔質フィラーの製造例)
実施例1の(a)〜(c)と同様の処理を行うことにより、合成フッ素雲母とメチルトリエトキシシランとの反応物含有液を得た後、80℃の液温を維持することにより、水分含有率が50%になるまで大気中に水分を蒸発させ、次いで150℃で24時間乾燥処理することにより、従来の多孔質フィラーを得た。
【0054】
(マクロ気孔の存在比率測定)
実施例1〜2および比較例1で得られた多孔質フィラーにおける、全気孔に対するマクロ気孔の存在比率を、TSR5202G(トヨタ規格)に規定されている水銀圧入気孔率測定法に基づいて測定した。
上記測定を5回行ったときの、マクロ気孔の存在比率の平均値を表1に示す。また、上記平均値に対する最大値と最小値の差分をバラツキ範囲として併せて表1に示す。
【0055】
【表1】

表1より、実施例1の多孔質フィラーおよび実施例2の耐熱性多孔質フィラーはマクロ気孔の存在比率が高いものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高い多孔質フィラーを製造する方法および該方法により得られる多孔質フィラーを提供することができ、また、全気孔に占めるマクロ気孔の存在比率が高く、疎水性で強度の高い耐熱性多孔質フィラーを製造する方法および該方法により得られる耐熱性多孔質フィラーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】層状粘土鉱物とカップリング剤の反応物を示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
1 層状粘土鉱物
2 カップリング剤
3 マクロ気孔
4 メソ気孔、ミクロ気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状粘土鉱物とカップリング剤との反応物を、分散液中でゲル状水溶性高分子バインダーと接触させた後、凍結乾燥処理して、マクロ気孔を有する多孔質フィラーを得ることを特徴とする多孔質フィラーの製造方法。
【請求項2】
前記層状粘土鉱物が、陽イオン交換能を有するものである請求項1に記載の多孔質フィラーの製造方法。
【請求項3】
前記カップリング剤が、式
SiX4−n
(式中、nは0〜3の整数であり、Rは炭化水素基であり、官能基を含有していてもよく、Xは加水分解性基または水酸基であり、RおよびXがそれぞれ複数ある場合、RおよびXは同一であっても異なっていてもよい)
で表されるシラン系カップリング剤である請求項1または請求項2に記載の多孔質フィラーの製造方法。
【請求項4】
前記ゲル状水溶性高分子バインダーが、ゼラチン、寒天、マンノース、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、デンプン、アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリエチレングリコールからなるものから選ばれる1種以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多孔質フィラーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とする多孔質フィラー。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の方法により得られた多孔質フィラーを焼成処理して、マクロ気孔を有する耐熱性多孔質フィラーを得ることを特徴とする耐熱性多孔質フィラーの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で製造された、全気孔中のマクロ気孔の存在比率が15〜40%であることを特徴とする耐熱性多孔質フィラー。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−13187(P2009−13187A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173003(P2007−173003)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】