説明

多孔質反射防止層の堆積方法、及び反射防止層を有するガラス

【課題】太陽エネルギー利用システムのための反射防止ガラスに関して、高い透過率を保証する、屈折率が低い自浄性反射防止層を施す方法、および耐環境性、耐摩耗性、自浄性のコーティングを提供する。
【解決手段】チタン含有前駆物質を使用し、粒子形態の酸化ケイ素からなる粒子、特にナノ粒子をゾル・ゲル溶液に添加する、多孔質反射防止層の堆積方法で、反射防止層2は、ゾル・ゲル法によって生成される二酸化チタンのマトリックス5から成り、酸化ケイ素の粒子6がマトリックス5中に埋め込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質反射防止層の堆積方法、及び反射防止層を有するガラスに関する。より詳細には、本発明は、太陽エネルギー利用システムのための反射防止ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギー利用システムのための反射防止ガラスは既知である。
【0003】
多孔質反射防止層を適用することが知られている。多孔質反射防止層の堆積方法は、例えば特許文献1に記載されている。このような多孔質反射防止層では、コーティング材料と空気との混合が起こるため、コーティングの実効屈折率が低下する。
【0004】
特許文献2は、とりわけソーラーモジュール上の自浄表面を記載している。光触媒活性成分がマトリックス中に埋め込まれている。層の厚みは200nmである。このような範囲で、TiO層は視覚的に認識することができる。20nmから、層は独自の色を呈し(最初に黄色、次に赤色、青色及び緑色)、5nmから、ソーラースペクトルにおける反射を示す。その上、光触媒材料は、層の上面から突出した粒子しか活性ではないため、マトリックス中への組込みにより厳しく制限を受ける。記載されているマトリックス成分は、光触媒反応により分解する有機成分を含有する。このような場合に生じるチョーキングは、言及される散乱層(アルベド面(albedo surfaces))上、例えばソーラーモジュール上ではおそらく認識されないが、透過率を下げる屈折中心(refraction centers)を作り出す。
【0005】
さらに、このような多孔質反射防止層をゾル・ゲル法によって塗布することが知られている。
【0006】
ソーラーガラス、特に太陽電池利用システムのための反射防止層に対する要求が高い。ガラスは、光の全可視スペクトル及び近赤外線において可能な限り高い透過率を有するものとする。したがって、反射防止層は、可能な限り低い屈折率を有するものとする。
【0007】
同時に、反射防止層が数十年にわたって耐環境性であることが望ましい。また、かかる反射防止層の耐摩耗性に関する強い要求も存在している。
【0008】
従来の多孔質反射防止層はどちらかと言えば容易に汚染されて、透過率の低下がもたらされることが判明している。他方、反射防止層を何度もきれいにすれば、ひいては層が損傷を受けることがあり、そのため透過率の低下がもたらされるおそれがある。
【0009】
建築用ガラスとして、酸化チタン含有コーティングを有するガラスが知られている。酸化チタン及び二酸化チタンそれぞれの光触媒効果に起因して、ガラスの自浄効果が生じる。かかるガラスは自浄性ガラスと称される。
【0010】
酸化チタンの高い屈折率及び関連する透過率の低下に起因して、従来方法によって製造される自浄性ガラスは概して、反射酸化チタン層によって性能の低下が起こるため、太陽エネルギー利用システムに適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許出願公開第10,2005,007825号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0017567号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、高い透過率を保証する自浄性反射防止層を施す方法を提供することである。
【0013】
より詳細には、本発明の目的は、屈折率が低い自浄性反射防止層を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、耐環境性、耐摩耗性、自浄性のコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、独立請求項のいずれか一項に記載の、多孔質反射防止層を塗布する各堆積方法によって、且つ屋外用途、詳細には建築用途及び太陽エネルギー利用システムのためのガラスよって解決される。
【0016】
本発明の目的で、ガラスは、実質的に透明なガラス、例えば、ディスク形態で好適なガラスセラミック又は透明なプラスチック、例えば、ソーダ石灰ガラス(BOROFLOAT(登録商標))、ソーラーガラス等、全てのガラスセラミック、好ましくは透明ガラスセラミック(ROBAX(登録商標)、ZERODUR(登録商標)等)、及び透明な光学プラスチック(ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィン系コポリマー、ポリカーボネート等)と定義される。本発明はプレート状基材に限定されないが、好ましくは板ガラスを使用する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態及び変更形態は各従属請求項に記載している。
【0018】
本発明は、多孔質反射防止層の堆積方法に関する。反射防止層はゾル・ゲル法によって堆積される。
【0019】
驚くべきことに、酸化チタンは、多孔質反射防止層の光学特性の如何なる有意な劣化ももたらさないことが見出された。
【0020】
むしろ、本発明の層は、酸化ケイ素粒子及び酸化ケイ素マトリックスに基づくもの等の他の多孔質反射防止層の屈折率に匹敵する屈折率を有し、それゆえ非常に良好な反射防止特性を示し、さらに光触媒活性表面を有する。
【0021】
本発明によれば、チタン含有前駆物質を使用し、粒子、特にナノ粒子(例えば、ナノ粒子形態の酸化ケイ素又は二酸化ケイ素)をゾル・ゲル溶液に添加する。
【0022】
それゆえ、本発明の方法では、チタン含有前駆物質が酸化チタン含有マトリックスの生成を誘起する。加水分解及び縮合によって生成されるマトリックスは、熱処理後に残渣有機物量が10%〜50%である非晶質酸化チタンから主になることが好ましい。残渣有機物は熱処理により除去され、好ましくはアナターゼ改質形態の結晶性又は部分結晶性TiOのマトリックスが生成される。ナノスケールの結晶性又は部分結晶性TiOの結晶サイズは、好ましくは4nm〜35nm、より好ましくは8nm〜25nmの範囲である。マトリックスには、ナノ粒子、特に酸化ケイ素含有ナノ粒子が埋め込まれている。マトリックス生成酸化チタンは好ましくは1%〜25%のミクロ多孔質又はメソ多孔質を有する。
【0023】
本発明に従う合成経路は、マトリックス生成TiOがSiO粒子間及び/又はSiO粒子上にしか生成しないことによって達成される。こうして、光触媒活性TiOの大きな接触可能表面が得られ、同時に、層中におけるTiOの小さな質量分率及び体積分率がそれぞれもたらされる。こうして、TiOの屈折率は高いにもかかわらず、非晶質−結晶性複合層の低い屈折率が達成される。
【0024】
例えば、粒子形態、特に結晶性ナノ粒子形態の二酸化チタンを添加する方法とは異なり、本発明の方法により製造された層の光学特性は、ケイ素含有前駆物質により製造されたコーティングに比べてそれ程変わらないことが見出された。
【0025】
そのため、本発明の方法は、屈折率が1.38未満、好ましくは1.34未満、及び最も好ましくは1.30未満の反射防止層を製造することが可能である。
【0026】
好ましくは、反射防止層は、干渉層システム(interference-layer-systems)とは異なり、その屈折率に起因する反射特性を有し且つ複合材料の反射がいずれの波長でも増大しない単層反射防止層として実現される。反射防止層は、広帯域反射防止層として実現される。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態において、粒子、特にナノ粒子の屈折率は、1.7以下、好ましくは1.6以下、及び最も好ましくは1.55以下である。
【0028】
したがって、本発明による反射防止層を備えるガラスは高い透過率を有する。特に、透過率が450nm〜800nmの波長範囲にわたって少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも95%のガラスを提供することができる。
【0029】
さらに、層全体において比較的少量、特に40wt%未満、好ましくは20wt%未満、及び最も好ましくは15wt%未満の酸化チタンが、適切な自浄効果に対して十分であることも見出されている。
【0030】
特に、粒子と前駆物質との割合が、0.1〜0.9、好ましくは0.7〜0.8であるゾル・ゲル溶液を使用する。ここで、この割合はwt%に基づき算出したものである。
【0031】
特に、本発明は、添加された粒子が、最終反射防止層の少なくとも60wt%、好ましくは少なくとも70wt%、及び最も好ましくは少なくとも80wt%を構成するガラスを提供する。
【0032】
特に、本発明は、本発明の反射防止層の多孔度(開孔率)が20vol%〜40vol%であるガラスを提供する。孔は空気で充填されるため、望ましい屈折率が得られる。
【0033】
1nm〜100nm、好ましくは3nm〜70nm、最も好ましくは6nm〜30nmの範囲のナノ粒子サイズが特に好適であることが分かった。
【0034】
好ましくは、粒子は、ガラス、ガラスセラミック、又はセラミックからなる。このようなナノ粒子を用いて、高い透明性の層を得ることができる。
【0035】
本発明の変更形態において、コーティング溶液は、様々なサイズのナノスケール粒子、好ましくはSiO粒子を含有し得る。特に、少なくとも2つの異なる粒群の粒子を添加することが考えられる。また、総和式Si(OR)、RSi(OR)(R=メチル、エチル、フェニル)のケイ素アルコキシドは、コーティング溶液の成分であり得る。
【0036】
前駆物質は、例えば、ハロゲン化チタン、硝酸チタン、硫酸チタン及び/又はテトラアルキルチタネート(チタンテトラアルコキシド)から成り得る。詳細には、チタンテトラエチレート及びチタンテトラプロピレートが前駆物質として考えられる。
【0037】
本発明の好ましい実施の形態では、加水分解安定性の(hydrolysis-stabilized)チタン含有前駆物質を使用して、非晶質チタン含有TiO前駆物質を、ナノコロイド分散SiO粒子の水性分散体と合わせて溶液中で安定に保持することが可能である。
【0038】
したがって、ゾル合成では初めに、チタン前駆物質を錯体配位子と反応させる。例えば、アセト酢酸エチル、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、3,5−ヘプタンジオン、4,6−ノナンジオン又は3−メチル−2,4−ペンタンジオン(2−メチルアセチルアセトン)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、酢酸、プロピオン酸、エトキシ酢酸、メトキシ酢酸、ポリエーテルカルボン酸(例えばエトキシエトキシ酢酸)、クエン酸、乳酸、メタクリル酸、アクリル酸等のカルボン酸を錯体配位子として使用する。
【0039】
錯体配位子とチタン前駆物質とのモル比はここでは、好ましくは5〜0.1、より好ましくは2〜0.6、最も好ましくは1.2〜0.8である。
【0040】
粒子はその粒度分布に制限されない。最適な粒子分布を得るために、好ましい実施の形態では様々なサイズの粒子の混合物が使用される。特に好ましいものは、より小さい粒子分布がより大きい粒子分布の間隙を満たす混合物である。
【0041】
本発明の好ましい実施の形態によれば、反射防止層はミクロモルファス又はメソモルファス(micro- or mesomorphous)の孔、特に平均直径が1nm〜12nm、好ましくは3nm〜8nmの孔を含む。孔の直径は、例えばHOを吸収用溶媒として用いる、当業者に既知のエリプソメトリ多孔度測定法(the method of the ellipsometric porosimetry)によって測定することができる。この方法を用いて、空気の相対湿度に依存する層の屈折率の変化を求める。孔の直径の測定では、吸着等温線を用い、変形ケルビン方程式(Kelvin-equitation)(これもまた、当業者によっては既知である)により評価を行う。好ましくは、孔はボトルネックのような孔として実現される。さらなる実施の形態によれば、孔はロッド形状の孔としても形成することができる。
【0042】
本発明の好ましい実施の形態において、チタン含有前駆物質は、ハロゲン化チタン、硝酸チタン、硫酸チタン及び/又はテトラアルキルチタネート、特にチタンテトラエチレート及びチタンプロピレートの、加水分解安定性の水溶性非晶質チタン錯体を含む。
【0043】
錯体配位子との反応後に、目的の加水分解を行って、チタン前駆物質のより良好な加水分解安定性を得ることができる。
【0044】
粒子は、非晶質又は結晶性又は部分結晶性形態の無機材料からなることが好ましい。粒子は形状について限定されることなく、例えば、その形状は、球形、プレート状、円柱形、繊維状、角状、立方体、又は任意の他の考えられる形態をとり得る。
【0045】
水とチタン前駆物質とのモル比は、10〜0.1、より好ましくは7〜3、最も好ましくは6〜4である。特定の実施の形態では、酸性条件下で加水分解を行うことができる。このため、例えば、HNO、HCl、HSO等の無機酸、又はエトキシ酢酸、メトキシ酢酸、ポリエーテルカルボン酸(例えば、エトキシエトキシ酢酸)、クエン酸、パラ−トルエンスルホン酸、乳酸、メタクリル酸、アクリル酸等の有機酸を、加水分解用の水に添加する。
【0046】
好ましい実施の形態では、反応混合物の溶媒を、チタン前駆物質と錯体配位子との反応及び続く加水分解後に減圧下で除去する。極性溶媒(HO、エタノール、n−プロパノール)及び無極性溶媒(トルオール)に再溶解可能な加水分解安定性の前駆物質粉末が得られる。
【0047】
溶媒を除去して再溶解可能な酸化チタン前駆物質粉末を得る別の方法は、反応混合物を噴霧乾燥することによる。
【0048】
使用される非晶質水溶性前駆物質粉末は、遷移金属酸化物に対して10mol%未満の量でドーパントを含有し得る。ドーパントは、チタンアルコラートと極性錯体形成/キレート化合物との反応の前後いずれで添加してもよい。好適なドーパントの例は、Fe、Mo、Ru、Os、Re、V、Rh、Nd、Pd、Pt、Sn、W、Sb、Ag及びCoである。これらは、対応する化学量論に従って塩形態で合成剤又は媒体に添加され得る。
【0049】
好ましい実施の形態において、ゾル・ゲル溶液は、浸漬法又はロールコーティングによって塗布される。さらに、例えばスピンコーティング、噴霧、スロットキャスティング(slot-casting)、フラッディング(flooding)及び塗装等の液体コーティングのための他の従来の堆積方法も全て利用可能である。
【0050】
浸漬法は、大きなガラス基材の均一な両面コーティングに特に有用である。
【0051】
浸漬法と比較したロールコーティング法の利点は、コーティングを単一の装置においてインラインで片面又は両面に行うことができ、且つ大きい溜めます(basin)を用意する必要がないことである。また、この場合のコーティングは極めて迅速に行われて、ハイスループットを提供する。
【0052】
本発明の好ましい実施の形態では、反射防止層を、300℃〜1000℃、好ましくは450℃〜700℃、最も好ましくは500℃〜700℃で焼成するか、又は焼結する。これにより、好ましくはゾルからなる有機成分の多くが除去される。
【0053】
得られた層は主に、少なくとも部分的に結晶性の酸化チタンを含むマトリックス中に埋め込まれる粒子、例えば酸化ケイ素粒子を含有している。
【0054】
焼成工程はとりわけ、本発明の別の好ましい実施の形態によるように、事前加圧プロセス中に、又は事前加圧プロセスの直前に焼成することによって実施することができる。
【0055】
よって、反射防止層の焼成は、付加的な処理工程を必要とせず、そのため、既に事前加圧されたガラスのプレストレス(pre-stress)が反射防止層のその後の焼成中に低減するようなこともない。本発明の利点は、ゾル・ゲル法によって堆積された層が、さらなる処理に十分な強度を既に有していることである。
【0056】
この目的のために、第1の工程においてコーティングを、有機成分の大部分が除去されるような高温まで層を加熱しない低温での熱アニーリングにかけることも考えられる。このようにして、事前加圧に好適であり且つ機械的耐性のある反射防止層を有する中間生産物を生成する。
【0057】
粒子は懸濁液形態のゾル・ゲルコーティング溶液に添加することが好ましい。
【0058】
本発明の変更形態において、SiO粒子はStoeber法によって生成される。ここで、粒子は、緻密なものであってもく、ミクロ多孔質又はメソ多孔質であってもよい。粒子のモルフォロジーは球形であっても又は不規則性を有していてもよい。
【0059】
コーティング溶液の特定の実施の形態では、アルミニウムを、アルコキシド、アルミニウム塩、酢酸エチルとのアルコキシドの錯体、又はAlOOHの形態で添加して、層の耐摩耗性を改善することができる。例えば、アセト酢酸エチル、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、3,5−ヘプタンジオン、4,6−ノナンジオン又は3−メチル−2,4−ペンタンジオン(2−メチルアセチルアセトン)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、酢酸、プロピオン酸、エトキシ酢酸、メトキシ酢酸、ポリエーテルカルボン酸(例えばエトキシエトキシ酢酸)、クエン酸、乳酸、メタクリル酸、アクリル酸等のカルボン酸を錯体配位子として使用する。
【0060】
本発明の変更形態において、上記のケイ素及びアルミニウムを含有する酸化物に加えて、チタン含有マトリックスは、他の半金属酸化物又は金属酸化物、例えば、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化セリウム及び亜鉛化合物等から成り得る。
【0061】
本発明の変更形態において、ナノ粒子成分とマトリックス生成チタン前駆物質との混ぜ合わせは、酸性環境下、特に3未満、好ましくは2.5未満、及びより好ましくは1.5未満のpHで行われる。
【0062】
マトリックス生成チタン前駆物質と、SiO粒子等のナノコロイド分散ナノ粒子との混ぜ合わせによって、焼成後に付着性が改善された耐摩耗性層が得られることが見出された。
【0063】
本発明の変更形態では、ガラスの腐食を低減するか又はなくすための耐食層、すなわち、水及びHイオンと基材ガラスのアルカリ金属との直接接触を防止する層が、基材と反射防止層との間に堆積される。
【0064】
よって、初めに、第1の層を基材、特にガラス基材上に塗布し、その後、反射防止層をその上に堆積させる。
【0065】
水は、特に建築用途及び太陽エネルギー利用システムに使用されるソーダ石灰ガラスにおける多孔質反射防止層で溶出を起こす可能性があることが判明した。アルカリ金属イオン、特にナトリウムの溶出は、ガラスのくもり、ガラスマトリックスの分解及び反射防止層の破砕を起こすガラスの腐食をもたらす。
【0066】
本発明者らは、かかるガラスの腐食プロセスが、水を基材ガラスと接触させないか、又はアルカリ金属イオン、特にナトリウムイオンをガラスから反射防止層へと拡散させない中間層によって効果的に防止され得ることを見出した。
【0067】
さらにこのバリア層及びイオン拡散のそれに伴う抑制により、ガラスからTiOへのイオン拡散プロセスによって生じる、光触媒活性に対するマイナスの影響も防止される。耐食層によって、TiOの光触媒効果に基づく自浄層の組合せがソーダ石灰ガラス上で可能となる。
【0068】
耐食層は、例えば、高密度酸化ケイ素層として塗布することができる。
【0069】
耐食層を塗布するためには種々の方法が好適であり、特にこの層は、火炎熱分解によって塗布することができ、又はPVD法若しくはCVD法によって堆積することができる。また、高密度ゾル・ゲル層を使用することが好適であることが分かった。ここで、ガラス基材とおよそ同じ屈折率を有する高密度酸化ケイ素チタン混合層を使用することが特に有益である。例えば、高密度酸化ケイ素チタン混合層は、上部の反射防止層の光学特性に影響を及ぼさない限り厚い方がよいと理解され得る。これは、耐食及びバリアの効果がこの場合に特に顕著なためである。
【0070】
耐食層を施すさらなる方法は、表面積中のアルカリ金属成分及び/又はアルカリ土類金属成分をかなり良好な選択性で除去することが可能なプラズマ処理等によって、基材ガラスを溶出させることである。
【0071】
本発明の意味において耐食効果が良好であるとは、DIN52296アッセイに基づくアルカリ金属又は水の拡散が、少なくとも30%、好ましくは50%、より好ましくは75%低減される場合である。
【0072】
本発明はさらに、特に屋外用途のためのガラス、詳細には太陽エネルギー利用システムのためのガラスに関する。
【0073】
好ましくは、ガラスは本発明による方法によって製造され、ガラス基材と、ゾル・ゲル法によってガラス基材上に堆積される酸化チタン含有多孔質反射防止層とを含む。
【0074】
詳細には、ガラスは、粒子、特にナノ粒子、例えば酸化ケイ素粒子をマトリックス中に埋め込んでいる層を備え、ここで、このマトリックスは、ゾル・ゲルプロセスによって生成される酸化チタンを含み、詳細には、酸化チタンから実質的になる。
【0075】
反射防止層は、1nm〜100nm、好ましくは3nm〜70nm、最も好ましくは6nm〜30nmの範囲のサイズを有する酸化ケイ素粒子を含むことが好ましい。
【0076】
粒子は、少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも70wt%の酸化ケイ素を含むことが好ましい。酸化ケイ素から主になる粒子は低屈折率をもたらす。
【0077】
さらに、酸化ケイ素は、特に、化学薬品による侵食及び環境の影響に対して耐性である。
【0078】
アルカリガラス、詳細にはソーダ石灰ガラスをガラス基材として使用することが好ましい。このようなガラスは、安価で且つ高い透明性を有する。特定の実施の形態では、鉄含量が少ないUV吸収性ソーラーガラスを使用している。
【0079】
本発明のガラスは、ソーラーモジュールのハウジングの一部、すなわちソーラーレシーバーとして、又はフロントパネルとして屋外用途に、且つ建築用ガラスに特に好適である。
【0080】
紫外線の影響下で、本発明の層は自浄効果を示すことが判明した。この自浄効果は、アナターゼ改質形態のTiOの光触媒活性に起因し得る。
【0081】
本発明の特定の実施の形態において、可視波長範囲の光の照明の下でTiOの光触媒活性は検出可能である。
【0082】
好ましい実施の形態では、反射防止層を、太陽電池モジュールの構成部材、特にCIGS系太陽電池モジュールの部材であるガラス管上に塗布する。反射防止層は好ましくは自浄特性を有する。このような太陽電池モジュールは、例えば、内部から外部に向けて以下のように構成され得る。中心部には、屈折率に適応する溶液又は油(浸漬溶液又は浸漬油)、次いで、好ましくはソーダ石灰ガラス又は他のナトリウム含有ガラスからなるガラスの内管が存在する。内管の熱膨張は、ソーラー層系(solar layer system)の吸収体層、この場合CIGS層の熱膨張に適合するものであり、7.5×10−6−1及び11×10−6−1、好ましくは8.5×10−6−1及び10×10−6−1である。
【0083】
ソーラー層系は、内部から外部に向けて、内管/バリア(SiN;任意)/モリブデン/吸収体層(CIGS)/バッファ層(CdS)/窓層(ZnO)のように設計され得る。好ましい例示的な実施の形態において、層構造全体の厚みは3μm〜4μmである。最外層は、高い透過率のために上記の浸漬溶液又は浸漬油によって高分子管、好ましくはアクリル系管と隔てられ、この管は再度、浸漬溶液又は浸漬油によって外管と隔てられている。外管は、ガラスから成り、好ましくは内管と同様の熱膨張係数を有する。十分に高い透過率を有するいずれのガラスも考えられるが、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸ガラス及びボロフロート(borofloat)ガラスが好ましい。ガラス管の外表面には自浄性反射防止層が設けられる。特定の実施の形態には、耐食層が、自浄性反射防止層の下に塗布、詳細には堆積される。
【0084】
別の実施の形態では、自浄性反射防止層が、板状CIGS太陽電池モジュール上に塗布される。
【0085】
好ましい自浄性の反射防止層は、いずれの太陽エネルギー利用システムにおいても塗布することができ、太陽光吸収体層(solar absorber layers)及びソーラーシステムに関して限定されない。
【0086】
特に太陽エネルギー利用システム用の本発明のガラスは好ましくは、板ガラス基材又は管状基材と、ゾル・ゲル法によって堆積される二酸化チタン含有多孔質反射防止層とを備える。しかしながら、本発明は基本的に、コーティングされるガラス基材のどのような形状にも限定されない、すなわち、いずれの形態のガラス基材もコーティングすることができる。
【0087】
本発明による層系を製造するために、例示的な実施の形態では以下の一般合成経路を用いた。
【0088】
50gのHNOを含む110gのエタノール(1mol/l)に、ナノスケールSiO粒子のXgの水性分散体を与えた(成分X及び成分Yは以下の表に規定する)。40gのエタノールに溶解させたYgの加水分解安定性の非晶質酸化チタン前駆物質をこの溶液に添加した。このようにして生成される本発明によるコーティング溶液によって、牽引速度10cm/分〜20cm/分における、相対湿度30%及び焼成温度450℃〜700℃を伴う浸漬コーティング法により、本発明による層を作製することが可能である。
【0089】
加水分解安定性の非晶質酸化チタン前駆物質を以下の合成に従って調製した。
【0090】
前駆物質A:
ここで、例えば1.0molのアセチルアセトンを、約25分間攪拌しながら1.0molのチタン(IV)エチレート溶液に滴下し、大幅な加熱を開始する。レモンイエローの溶液を室温で45分間攪拌し、その後、5molの水で加水分解する。溶媒及び他の揮発性成分を80℃及び40mbarで減圧除去する。続いて、粉末を4時間125℃で乾燥させる。酸化物量が約56wt%の黄色前駆物質微粉末が得られる。
【0091】
前駆物質B:
ここで、例えば1.2molのエトキシ酢酸を、約25分間攪拌しながら1.0molのチタン(IV)プロピレート溶液に滴下し、大幅な加熱を開始する。レモンイエローの溶液を室温で45分間攪拌し、その後、5molの水で加水分解する。溶媒及び他の揮発性成分を80℃及び40mbarで減圧除去する。酸化物量が約50wt%のゲルが得られる。
【0092】
本発明による実施の形態の概略を以下の表に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
自浄効果は以下のように試験した。
【0095】
アッセイは、とりわけ、マニュアルアッセイトとしてDINコンセプト「DIN52980 表面光触媒活性」に基づき行った。
【0096】
64mg、6.4mg及び0.64mgのメチレンブルーを100mlのHOに溶解することによって、メチレンブルーの濃度が異なる3つの溶液(2×10−3mol/l、2×10−4mol/l、2×10−5mol/l)を調製した。測定基材上に液滴を塗布し、Suntest CPS(最大270nm、250W/m〜460W/mのUV露光)における照射下での脱色を評価した。10−4mol/lのメチレンブルーの光触媒活性分解結果を下記表に示す。本発明による試料が、参照基材及びまた市販の光触媒活性の自浄性ガラスに比べて有意な改善を示すことが見出された。
【0097】
【表2】

【0098】
記号表:
0=残留物質は認められない
1=残留物質は極めてわずかしか認められない
2=残留物質はわずかしか認めらない
3=残留物質は依然見える
4=残留物質は依然はっきりと見える
5=変化はなく、全ての残留物質が依然見える
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明によるガラスの例示的な実施形態を示す概略図である。
【図2】反射防止層の概略詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
図1及び図2の図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0101】
図1は、ガラス基材3と、ゾル・ゲル法によって堆積される酸化チタン含有反射防止層2とを備えるガラス1を概略的に例示している。
【0102】
例示的な実施形態において、反射防止層2は、5%〜20%の二酸化チタン量を有し、それゆえ、酸化チタンの光触媒効果のために自浄性である。屈折率は1.34未満である。
【0103】
反射防止層2とガラス基材3との間に、この例示的な実施形態では、火炎熱分解によって堆積される高密度な耐食層4を配置している。これにより、水が多孔質反射防止層2の内側のガラス基材3と接触して、ガラス基材3においてガラスの腐食が起こることが防止される。
【0104】
図2は反射防止層2の詳細図を概略的に示している。反射防止層2は、ゾル・ゲル法によって生成される二酸化チタンのマトリックス5から成り、酸化ケイ素の粒子6がマトリックス5中に埋め込まれている。
【0105】
例えば、反射防止層は以下のように作製することができる。
【0106】
例えば、0.1molのアセチルアセトネートを、攪拌しながら0.1molのチタン(IV)ブチレート溶液に滴下する。その後、0.3molのHOの滴下後に、この溶液を攪拌し(1時間)、10gの1,5−ペンタンジオールを添加する。
【0107】
続いて、平均球径が10nm〜15nmであるSiOナノ粒子をイソプロパノール中に分散させた48gの30wt%アルコール系分散体を攪拌しながらこの溶液に添加する。
【0108】
さらに、平均球径が18nm〜30nmであるSiOナノ粒子をイソプロパノール中に分散させた192gの30wt%アルコール系分散体を攪拌しながら添加する。使用されるSiO粒子は、実質的に球形の幾何学的形状を有する。続いて、この溶液を2400gのエタノールで希釈する。
【0109】
溶液をこのようにして生成して、牽引速度10cm/分〜30cm/分における、相対湿度40%未満及び焼成温度450℃〜700℃を伴う浸漬コーティング法により、機械的耐性の反射防止層を作製することができる。
【0110】
別の実施形態によれば、反射防止層は以下のように作製することができる。
【0111】
例えば、0.1molのアセチルアセトネートを、攪拌しながら0.1molのチタン(IV)ブチレート溶液に滴下する。その後、0.3molのHOの滴下後に、この溶液を攪拌し(1時間)、10gの1.5−ペンタンジオールを添加する。続いて、SiOナノ粒子をイソプロパノール中に分散させた480gの15wt%アルコール系分散体を攪拌しながらこの溶液に添加する。使用される粒子は、平均直径が10nm〜15nmであり且つ長さが30nm〜150nmである細長い繊維状幾何学形状を有する。続いて、この溶液を2160gのエタノールで希釈する。
【0112】
溶液をこのようにして生成して、牽引速度10cm/分〜30cm/分における、相対湿度40%未満及び焼成温度450℃〜700℃を伴う浸漬コーティング法により、本発明による層を作製することができる。
【0113】
本発明は、太陽エネルギー利用システムに特に有用な耐候性の自浄性ガラスを提供する。
【0114】
本発明は、上記の特徴の組合せに限定されることなく、むしろ、当業者によって必要あれば任意の特徴を組み合わせ得ることが理解される。
【符号の説明】
【0115】
1 ガラス
2 反射防止層
3 基材ガラス
4 耐食層
5 酸化チタンマトリックス
6 酸化ケイ素粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル・ゲル法による多孔質反射防止層の堆積方法であって、
チタン含有前駆物質を使用し、及び、粒子、特にナノ粒子をゾル・ゲル溶液に添加することを特徴とする、多孔質反射防止層の堆積方法。
【請求項2】
前記粒子が粒子形態の酸化ケイ素からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゾル・ゲル溶液中の粒子と前駆物質との比率が、0.1〜0.9、好ましくは0.7〜0.8であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子が、1nm〜100nm、好ましくは3nm〜70nm、より好ましくは6nm〜30nmの範囲のサイズを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゾル・ゲル層を300℃〜1000℃、好ましくは450℃〜700℃、より好ましくは500℃〜700℃で焼成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反射防止層を、特に該反射防止層を焼成している間に、事前加圧したガラス基材上に堆積させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子を懸濁液形態で添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
マトリックス中に含まれる酸化チタンが、ナノ結晶性光触媒活性TiOであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
特に水による侵食を防ぐのに適した耐食層を、前記基材と前記反射防止層との間に堆積させることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
特に太陽エネルギー利用システムのための、且つ特に請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって製造されるガラスであって、ガラス基材と、ゾル・ゲル法によって該ガラス基材上に堆積される酸化チタン含有多孔質反射防止層からなる、ガラス。
【請求項11】
前記反射防止層が、ゾル・ゲルプロセスによって少なくとも部分的に生成される酸化チタンと、ナノ粒子、特に酸化ケイ素粒子とからなることを特徴とする、請求項10に記載のガラス。
【請求項12】
前記反射防止層が、30wt%〜95wt%、好ましくは70wt%〜90wt%の粒子を含有することを特徴とする、請求項10又は11に記載のガラス。
【請求項13】
耐食層が、前記ガラス基材と前記反射防止層との間に配置されることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項14】
酸化チタンの量が、40wt%未満、好ましくは20wt%未満、及びより好ましくは15wt%未満であることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項15】
前記反射防止層が、1.38未満、好ましくは1.34未満、及びより好ましくは1.30未満の屈折率を有することを特徴とする、請求項10〜14のいずれか一項に記載のガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−134462(P2010−134462A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−258024(P2009−258024)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】